(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】抗がん剤
(51)【国際特許分類】
C07D 491/18 20060101AFI20230822BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230822BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230822BHJP
A61K 31/4995 20060101ALI20230822BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20230822BHJP
C12P 1/02 20060101ALI20230822BHJP
C12P 17/08 20060101ALI20230822BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20230822BHJP
【FI】
C07D491/18 CSP
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/4995
C12N1/14 A
C12P1/02 Z
C12P17/08
C12N5/09
(21)【出願番号】P 2019044662
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2022-03-02
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-02908
(73)【特許権者】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛司
(72)【発明者】
【氏名】菊地 崇
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/086114(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/081568(WO,A1)
【文献】国際公開第02/060890(WO,A1)
【文献】化学と教育,1995年,43巻11号,p. 691-694
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61P
A61K
C12N
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1
Aa):
【化1】
で表される化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物。
【請求項2】
請求項
1に記載の化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物を含有する、医薬。
【請求項3】
請求項
1に記載の化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物を含有する、細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
前記細胞ががん細胞である、請求項
3に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
前記細胞が白血病細胞である、請求項
3又は
4に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項6】
請求項
1に記載の化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物を含有する、抗がん剤。
【請求項7】
請求項
1に記載の化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物を含有する、白血病治療剤。
【請求項8】
ハロスフェリア科OUPS-135D-4株(特許微生物寄託センター受領番号:NITE AP-02908)である、真菌。
【請求項9】
請求項
8に記載の真菌の培養物を回収する工程を含む
、式(1
Aa):
【化2】
で表される化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん剤、その有効成分、該有効成分の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの化学療法の研究開発には、古くから多くの研究者が挑戦し、数多くの抗がん性物質が見出されてきたが、未だ決定的な抗がん剤の開発がなされていない。天然には人知を超えた特異な化学構造をもつ化合物が存在し、それらには思いがけない新しい生理活性が期待できることから、天然化合物は古くから薬用資源として注目されてきた。1970年代から植物に加え海洋の動植物が注目されるようになり、今日まで数多くの生理活性物質が発見されてきた。なかでも抗がん物質の探索対象とした研究がアメリカを中心として活発に行われ、bryostatin 1、dorastatin 10等、抗がん剤として有望な化合物が数種得られている(非特許文献1~6)。
【0003】
しかし、この種の研究では抽出材料の大量収集が困難で莫大な費用がかかる上、同種の動植物でも採集場所や時期により成分が異なることがある難点がある。一方、テトロドトキシン等これまで発見されてきた海洋生物由来の生理活性物質の一部が、体内の細菌により生産されることが報告された。この事実は他の海洋菌類も、海洋動植物から得られるような生理活性物質を代謝する可能性を示唆している。
【0004】
このような背景から、本発明者等は菌類の代謝産物は培養により持続的に補充可能であることに早期から着目し、海洋動植物本体ではなく、それらから分離した菌類を生理活性物質の探索対象として研究を行ってきた(非特許文献7~12)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】1) a) Yotsu, M.; Yamazaki, T.; Meguro, Y.; Endo, A.; Murata, M.; Naoki, H.; Yasumoto, T. Toxicon, 1987, 225.
【文献】b) Yasumoto, T.; Yasumura, D.; Yotsu, M.; Michishita, T.; Endo, A.; Kotaki, Y. Agric. Biol. Chem., 1986, 793.
【文献】c) T. Noguchi, T.; Jeon, J. K.; Arakawa, O.; Sugita, H.; Deguchi, Y.; Shida, Y.; Hashimoto, K. J. Biochem.(Tokyo), 1986, 31.
【文献】2) Kodama, M; Ogata T.; Sato, S. Agric. Biol. Chem., 1988, 1075.
【文献】3) Moore, R. E.; Helfrich, P.; Patterson, G. M. L. Oceanus, 1989, 54.
【文献】4) Kosuge, T.; Tsuji, K.; Hirai, K.; Fukuyama, T. Chem. Pharm. Bull., 1985, 3059.
【文献】5) Yamada, T.; Imai, E.; Nakatsuji, K.; Numata, A.; Tanaka, R. Tetrahedron Lett. 2007, 6294.
【文献】Yamada, T.; Kitada, H.; Kajimoto, T.; Numata, A.; Tanaka, R. J. Org. Chem. 2010, 7512, 4146.
【文献】7) Yamada, T.; Kikuchi, T.; Tanaka, R.; Numata, A. Tetrahedron Lett. 2012, 2842.
【文献】8) Nakanishi, K.; Doi, M.; Usami, Y.; Amagata, T.; Minoura, K.; Tanaka, R.; Numata, A.; Yamada, T. Tetrahedron 2013, 4617.
【文献】9) Yamada, T.; Mizutani, Y.; Umebayashi, Y.; Inno, N.; Kawashima, M.; Kikuchi, T.; Tanaka, R. Tetrahedton Lett. 2014, 66.
【文献】10) Yamada, T.; Kikuchi, T.; Tanaka, R. Tetrahedton Lett. 2015, 1299.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、細胞増殖抑制作用、抗がん作用を有する化合物を提供することを課題とする。さらには、細胞増殖抑制作用、抗がん作用を有し、且つ天然原料から調製することができる化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究を進めた結果、マクロライド環を有する一般式(1)で表される化合物が、細胞増殖抑制作用、抗がん作用を有することを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
【0008】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1.一般式(1):
【0010】
【0011】
[式中:R1は水素原子又は-OR11(R11は水素原子又は水酸基の保護基を示す。)を示す。R2は水素原子又はアルキル基を示す。R3は水素原子又はアルキル基を示す。R4は水素原子又はアルキル基を示す。R5は水素原子又は鎖状炭化水素基を示す。]
で表される化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物。
【0012】
項2.前記R1が-OR11であり、前記R2及びR3が共に水素原子であり、前記R4がアルキル基であり、且つ前記R5が分岐鎖状炭化水素基である、項1に記載の化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物。
【0013】
項3.前記一般式(1)で表される化合物が、式(1a):
【0014】
【0015】
で表される化合物である、項1又は2に記載の化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物。
【0016】
項4.項1~3のいずれかに記載の化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物を含有する、医薬。
【0017】
項5.項1~3のいずれかに記載の化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物を含有する、細胞増殖抑制剤。
【0018】
項6.前記細胞ががん細胞である、項5に記載の細胞増殖抑制剤。
【0019】
項7.前記細胞が白血病細胞である、項5又は6に記載の細胞増殖抑制剤。
【0020】
項8.項1~3のいずれかに記載の化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物を含有する、抗がん剤。
【0021】
項9.項1~3のいずれかに記載の化合物、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物を含有する、白血病治療剤。
【0022】
項10.一般式(1):
【0023】
【0024】
[式中:R1は水素原子又は-OR11(R11は水素原子又は水酸基の保護基を示す。)を示す。R2は水素原子又はアルキル基を示す。R3は水素原子又はアルキル基を示す。R4は水素原子又はアルキル基を示す。R5は水素原子又は鎖状炭化水素基を示す。]
で表される化合物の生産能を有する、ハロスフェリア科(Halosphaeriaceae)に属する真菌。
【0025】
項11.ハロスフェリア科OUPS-135D-4株(特許微生物寄託センター受領番号:NITE AP-02908)である、真菌。
【0026】
項12.項10又は11に記載の真菌の培養物を回収する工程を含む、一般式(1):
【0027】
【0028】
[式中:R1は水素原子又は-OR11(R11は水素原子又は水酸基の保護基を示す。)を示す。R2は水素原子又はアルキル基を示す。R3は水素原子又はアルキル基を示す。R4は水素原子又はアルキル基を示す。R5は水素原子又は鎖状炭化水素基を示す。]
で表される化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、細胞増殖抑制作用、抗がん作用を有する化合物を提供することができる。この化合物は、特定の海洋菌類を原料として調製可能であり、該海洋菌類を定法に従って培養することにより容易に大量調製することができる。また、本発明によれば、該化合物を利用した細胞増殖抑制剤、抗がん剤等を提供することもできる。さらに、本発明によれば、該化合物の製造に適した真菌、及び該真菌を用いた該化合物の製造方法も提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】化合物Aの
1H NMRスペクトル (600 MHz, CDCl
3) を示す。
【
図2】化合物Aの
13C NMRスペクトル (150 MHz, CDCl
3) を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0032】
1.化合物
本発明は、その一態様において、一般式(1):
【0033】
【0034】
で表される化合物(本明細書において、「本発明の化合物」と示すこともある。)、その塩、又は該化合物若しくはその塩の溶媒和物(本明細書において、これらをまとめて「本発明の有効成分」と示すこともある。)に関する。以下、これらについて説明する。
【0035】
R1は水素原子又は-OR11(R11は水素原子又は水酸基の保護基を示す。)を示す。R1としては-OR11が好ましい。また、R11としては水素原子が好ましい。
【0036】
R1で表される水酸基の保護基としては、特に制限されない。該保護基としては、例えばアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、t-ブチル基等の炭素数1~8のアルキル基等)、アリールアルキル基(例えば、ベンジル基等)、p-アルコキシアリールアルキル基(例えば、p-メトキシベンジル基等)、アルコキシアルキル基(例えば、メトキシメチル基)、2-テトラヒドロピラニル基、アシル基(例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等)、シリル系保護基(例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基等)等が挙げられる。
【0037】
一般式(1)中、実線と点線との二重線は、R1が-OR11である場合は単結合を示し、R1が水素原子である場合は二重結合を示す。
【0038】
R2は水素原子又はアルキル基を示す。R2としては水素原子が好ましい。
【0039】
R2で表されるアルキル基としては、特に制限されない。該アルキル基としては、例えば直鎖状又は分岐鎖状の、例えば炭素数1~8、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0040】
R3は水素原子又はアルキル基を示す。R3としては水素原子が好ましい。
【0041】
R3で表されるアルキル基としては、特に制限されない。該アルキル基としては、例えば直鎖状又は分岐鎖状の、例えば炭素数1~8、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0042】
R4は水素原子又はアルキル基を示す。R4としてはアルキル基が好ましい。
【0043】
R4で表されるアルキル基としては、特に制限されない。該アルキル基としては、例えば直鎖状又は分岐鎖状の、例えば炭素数1~8、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0044】
R5は水素原子又は鎖状炭化水素基を示す。R5としては鎖状炭化水素基が好ましく、分岐鎖状炭化水素基がより好ましい。
【0045】
鎖状炭化水素基としては、特に制限されないが、例えばアルキル基、アルケニル基等が挙げられる。
【0046】
R5で表されるアルキル基としては、特に制限されない。該アルキル基としては、例えば直鎖状又は分岐鎖状の(好ましくは分岐鎖状の)、例えば炭素数1~8、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0047】
R5で表されるアルケニル基としては、特に制限されない。該アルケニル基としては、例えば直鎖状又は分岐鎖状の(好ましくは分岐鎖状の)、例えば炭素数1~8、好ましくは3~7、より好ましくは4~6のアルケニル基が挙げられる。このようなアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等等が挙げられる。
【0048】
一般式(1)で表される化合物には、立体異性体及び光学異性体が含まれる。一般式(1)で表される化合物の好ましい態様としては、一般式(1A):
【0049】
【0050】
[式中:R1、R11、R2、R3、R4、及びR5は前記に同じである。]
で表される化合物が挙げられる。
【0051】
一般式(1)で表される化合物としては、好ましくは、R1が-OR11であり、R2及びR3が共に水素原子であり、R4がアルキル基であり、且つR5が分岐鎖状炭化水素基である化合物が挙げられ、より好ましくは式(1a):
【0052】
【0053】
で表される化合物が挙げられ、さらに好ましくは式(1Aa):
【0054】
【0055】
で表される化合物が挙げられる。
【0056】
一般式(1)で表される化合物の塩は、薬学的に許容される塩である限り、特に制限されるものではない。該塩としては、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、塩基性塩の例としては、ナトリウム塩、及びカリウム塩等のアルカリ金属塩; 並びにカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩; アンモニアとの塩; モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、モノ(ヒドロキシアルキル)アミン、ジ(ヒドロキシアルキル)アミン、トリ(ヒドロキシアルキル)アミン等の有機アミンとの塩等が挙げられる。
【0057】
一般式(1)で表される化合物又はその塩の溶媒和物としては、一般式(1)で表される化合物又はその塩と、溶媒との溶媒和物である限り特に限定されない。溶媒としては、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0058】
2.製造方法
本発明の化合物、その塩、及び該化合物若しくはその塩の溶媒和物は、公知の方法に従って又は準じて化学合成することができる。或いは、本発明の化合物の生産能を有するハロスフェリア科(Halosphaeriaceae)に属する真菌の培養物を回収する工程を含む方法によっても製造することができる。特に、後者の方法は、原料である真菌を培養によって大量調製できるので、効率性の観点から好ましい。以下にこの製造方法について説明する。
【0059】
ハロスフェリア科に属する真菌の具体例としては、特に制限されないが、好ましくはハロスフェリア科OUPS-135D-4株(特許微生物寄託センター受領番号:NITE AP-02908)である。
【0060】
培養物は、ハロスフェリア科に属する真菌を培養する工程によって得られた培養培地(培地が液体である場合は培養液)そのもの(菌体を含む)、該培養培地から菌体除去工程を経て得られた培地成分(培地が液体である場合は培養上清)、又は菌体成分である。本発明の化合物は培養培地において菌体外に存在することが分かっているので、精製の簡便性の観点から、培養培地から菌体除去工程を経て得られた培地成分が好ましい。
【0061】
限定的な解釈を望むものではないが、本発明の化合物は、真菌が内在するラクトン環構造と、培地中のアミノ酸同士(例えばメチオニンとチロシン)が縮合してなる構造とが真菌内で連結されて、さらに適当な修飾反応(例えば、イソプレン単位等の炭化水素の連結等)を経て、生成されると考えられる。このため、真菌の種類を変える、培地中のアミノ酸組成を変える(例えばメチオニン誘導体、チロシン誘導体等の添加)等の手法により、本発明の化合物の種々のバリエーションを得ることも可能である。
【0062】
培養は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。
【0063】
培地は、特に制限されず、ハロスフェリア科に属する真菌の培地として、公知の培地をそのまま、或いは適宜改変したものを採用することができる。液体培地としては、例えば0.5~2.0%(好ましくは0.8~1.2%)グルコース、0.5~2.0%(好ましくは0.8~1.2%)麦芽エキス、0.02~0.1%(好ましくは0.04~0.06%)ペプトン/海水の組成を有する培地が挙げられる。培地のpHは、例えば7.0~9.0、好ましくは7.2~8.0である。固形培地としては、例えばポテトデキストロース寒天培地が挙げられる。
【0064】
培地は、通常、熱により(例えばオートクレーブ)滅菌されたものを使用する。
【0065】
培養温度は、ハロスフェリア科に属する真菌を培養できる温度である限り特に制限されず、例えば15~45℃、好ましくは20~30℃である。
【0066】
培養時間は、本発明の化合物の産生が可能である限り特に制限されず、例えば8時間~8週間、好ましくは2日間~6週間、より好ましくは1週間~5週間である。
【0067】
斯かる培養により得られた培養培地から菌体を除去する方法は、特に制限されず、例えば公知の真菌菌体除去方法を採用することができる。具体例としては、ろ過、遠心分離等が挙げられる。
【0068】
培養により得られた培養培地そのもの、培地成分、及び菌体成分には、本発明の化合物が含まれているので、これらを回収することによって本発明の化合物を得ることができる。必要に応じて、これらを精製することが望ましい。
【0069】
精製は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。精製方法としては、例えば有機溶媒(例えば酢酸エチル等)抽出、クロマトグラフィー(例えばシリカゲルクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等)等が挙げられる。精製は、細胞増殖阻害活性を指標として(例えば、後述の実施例3の方法に従って又は準じて)行うことが望ましい。
【0070】
シリカゲルクロマトグラフィーにおいて、本発明の化合物は、ヘキサンやジクロロメタン等の極性が比較的低い溶媒では溶出されず、少量の比較的極性が高い溶媒(例えばメタノール等)を添加した溶媒で溶出することが分かっている。溶出溶媒としては、ジクロロメタンに少量のメタノールを添加した溶媒が好ましい。溶出溶媒にメタノールを添加する場合、その濃度は、例えば0.1~10v/v%、好ましくは0.3~5v/v%、さらに好ましくは1~3v/v%である。
【0071】
逆相クロマトグラフィーにおける移動相としては、例えばアセトニトリルやメタノール等の有機溶媒、又はこれらの有機溶媒と水の混合溶媒が挙げられる。該有機溶媒としては、本発明の化合物の分離能の観点から、好ましくはメタノールが挙げられる。該有機溶媒と水の混合溶媒における該有機溶媒の濃度は、例えば40~90v/v%、好ましくは60~80v/v%である。菌体を除いた培地成分を出発材料として精製し、酢酸エチル抽出及びシリカゲルクロマトグラフィー精製を経てから逆相クロマトグラフィーを行う場合、検出されるピーク中に、通常、1つの強いピークが見られるが、このピーク中に本発明の化合物がより多く含まれている。
【0072】
本発明の化合物は、上記で得られた化合物を出発材料として、公知の合成反応やそれに準じた合成反応に供することによって得ることもできる。
【0073】
3.用途
本発明の有効成分は、細胞増殖抑制作用(細胞増殖阻害作用)、抗がん作用を有する。このため、本発明の有効成分は、医薬、試薬、化粧品、食品添加剤、食品組成物(健康食品、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)を包含する)等、多様な分野において利用することができる。より具体的には、本発明の有効成分は、細胞増殖抑制剤、抗がん剤、がん治療剤等に利用することができる。すなわち、本発明は、その一態様において、本発明の有効成分を含有する、医薬、試薬、化粧品、食品添加剤、食品組成物細胞増殖抑制剤、抗がん剤、がん治療剤(本明細書において、これらをまとめて「本発明の剤」と示すこともある。)等に関する。
【0074】
細胞増殖抑制剤は、in vitro、in vivoのどちらでも用いることができる。その対象細胞としては、がん細胞が好ましく挙げられる。細胞の由来組織としては、特に制限されず、例えば上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織等が挙げられる。これらの中でも、造血細胞、白血病細胞等が好ましい。
【0075】
抗がん剤の対象となるがんとしては、特に制限されず、例えば肺がん、胃がん、肝臓がん、食道がん、すい臓がん、大腸がん、胆道がん、腎がん、膀胱がん、子宮がん、卵巣がん、乳がん、前立腺がん、精巣がん、皮膚がん、白血病、骨腫瘍、骨肉種、軟部腫瘍、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、咽頭がん、頭頸部のがん、小児がん等が挙げられる。これらの中でも、白血病が好ましい。
【0076】
本発明の剤の対象生物は、特に限定されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類が挙げられる。
【0077】
本発明の剤は、使用用途(in vitro又はin vivo)や適用(例えば、投与、摂取、接種など)形態において、適切な剤形を取ることができる。
【0078】
本発明の剤の形態としては、用途が医薬である場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口製剤形態や、注射用製剤(例えば、点滴注射剤(例えば点滴静注用製剤等)、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等の非経口製剤形態を採ることができる。
【0079】
本発明の剤の形態としては、用途が食品添加剤、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などが挙げられる。
【0080】
本発明の剤の形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳などの飲料、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、乳製品(例えば、粉末状、液状、ゲル状、固形状等)、パン、菓子(例えば、クッキー等)などが挙げられる。
【0081】
本発明の剤は、本発明の有効成分に加えて、任意の添加剤を含むことができる。添加剤としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、及びキレート剤等が挙げられる。
【0082】
本発明の剤中の、本発明の有効成分の含有量としては、その使用態様等に応じて適宜調節することができる。該含有量は、例えば0.0001~100質量%、好ましくは0.001~50質量%であることができる。
【0083】
本発明の剤の投与経路としては、例えば局所投与、経腸投与、非経口投与等が挙げられる。より具体的な投与経路としては、皮膚上投与、注腸投与、経口投与、経静脈投与、筋肉内投与、皮下投与、骨内投与、経粘膜投与、腹腔内投与等が挙げられる。
【0084】
本発明の剤の適用形態及び有効な適用量は、適用対象、投与経路、剤形、対象の状態、及び医師の判断などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば、体重60kgの成人に対して、1回当たり、1μg~1000mgを投与することができる。なお、投与回数としては、例えば1日あたり1~3回が挙げられる。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0086】
実施例1:真菌の単離
7月大阪府泉南郡岬町沿岸において採取した海藻ウミトラノオの表面から真菌を単離し、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)に、2019年3月5日付けで寄託した(ハロスフェリア科OUPS-135D-4株、特許微生物寄託センター受領番号:NITE AP-02908)。
【0087】
実施例2:化合物Aの精製
実施例1で単離された真菌を、80Lの液体培地(組成:1.0% D-グルコース、1.0% 麦芽エキス、0.05% ペプトン/海水 pH7.5)に播種し、4週間27℃で培養した。
【0088】
培養後、吸引ろ過により菌体を除去し、得られた培養ろ液をカラム[充填剤:DIAION(三菱化学株式会社製)、カラムサイズ:φ80 mm x 1200 mm]にアプライ後、メタノールを流して溶出した画分をエバポレーターで減圧濃縮し、得られた濃縮物を酢酸エチル/水で溶媒分配した。この酢酸エチル可溶部をエバポレーターで減圧濃縮し、粗精製物F1 (3.0 g)を得た。
【0089】
F1について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー[充填剤:silica gel 60 230~400 mesh (ナカライテスク社製)、カラムサイズ:φ20 mm x 500 mm]にアプライし、ジクロロメタン500 mL→1v/v% メタノール/ジクロロメタン 1500 mL→2v/v% メタノール/ジクロロメタン 1000 mL→ 5v/v% メタノール/ジクロロメタン 1000 mL→10v/v% メタノール/ジクロロメタン 1000 mL→20v/v% メタノール/ジクロロメタン 500 mL→メタノール300 mLの順で展開溶媒を流した。2v/v% メタノール/ジクロロメタンで溶出された画分を濃縮して、F2(121.2 mg)を得た。
【0090】
F2をメタノールに溶解し、逆相の高速液体クロマトグラフィー[カラム:COSMOSILC18-MS-II(ナカライテスク社製、カラムサイズ:φ20 mm x 250 mm、溶出溶媒:70v/v% メタノール/水]を用いて精製し、保持時間90分のピークの画分を回収し、濃縮して化合物Aを得た(淡黄色油状、3.2 mg)。
【0091】
化合物Aを物理化学分析した結果は以下のとおりである:
旋光度[α]
D
25 105.7
HREIMS: 615.2380 Δ+0.4 mmu [M+H]
+
IR ν
max (liquid) cm
-1 : 3393, 2930, 2862, 1752, 1706, 1657, 1612
UV λ
max nm (log ε): 196.5 (4.6), 225.5 (4.1)
1H NMRスペクトル (600 MHz, CDCl
3) :
図1に示す。
13C NMRスペクトル (150 MHz, CDCl
3):
図2に示す。
【0092】
この物理化学データより、化合物Aは、以下の式(1Aa):
【0093】
【0094】
で表される化合物であると決定された。
【0095】
実施例3:細胞増殖阻害活性試験
被検細胞(マウスリンパ性白血病細胞(P388))を培地中に懸濁した(1×104 cells/mL)。次に、被検化合物(実施例2で得られた化合物A、又は5-フルオロウラシル)をジメチルスルホキシドで溶解し、培地で希釈した(被検化合物の培地中終濃度:100μM、10μM、及び1μM)。調製した被検化合物溶液と細胞懸濁液を96ウェルマイクロプレートに100μLずつ播種した(200μL/ウェル)。5%CO2雰囲気下37℃で3日間培養した。培養後、チアゾイルブルーテトラゾリウム/リン酸緩衝液(6mg/mL、25μL)を加え細胞を染色してから、20%ドデシル硫酸ナトリウム(50μL)によりホルマゾンを溶解し、マイクロプレートリーダーで吸光度を測定した。濃度ごとに細胞の増殖率を計算し、50%細胞増殖阻害濃度を求めた。結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
表1のとおり、化合物Aは、既存の抗がん剤有効成分である5-フルオロウラシルに匹敵する強い細胞増殖阻害活性を示した。
【0098】
また、ヒト急性前骨髄性白血病細胞(HL-60)を用いて同様に試験したところ、化合物Aはさらに高い細胞増殖阻害活性(IC50 (μM)=2.2)を示した。