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特許7334937マイクロ分光素子、分光スペクトル取得方法、及び顕微分光装置
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  • 特許-マイクロ分光素子、分光スペクトル取得方法、及び顕微分光装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】マイクロ分光素子、分光スペクトル取得方法、及び顕微分光装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/45 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
G01J3/45
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019123783
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2021009107
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-06-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28~31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「魚のバイオリフレクターで創るバイオ・光デバイス融合技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】浅田 裕法
(72)【発明者】
【氏名】宗山 悦博
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆幸
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-189541(JP,A)
【文献】特開2017-068149(JP,A)
【文献】国際公開第94/12352(WO,A1)
【文献】SOGAME, T. et al.,Micro Optical-Interference-Plate Featuring Highly Efficient Diamagnetic Rotation of Biogenic Crystals,IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,2018年11月,VOL. 54, NO. 11,2501504, pp.1-pp.4,Digital Object Identifier 10.1109/TMAG.2018.2833207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 3/52
G02B 5/20 - G02B 5/28
G02B 6/35
G02B 26/00 - G02B 26/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡面基板の上部に、水系溶液中に分散した2以上のグアニン結晶を備えたマイクロ分光素子であって、前記グアニン結晶の平坦面が前記鏡面基板に対し略平行となるように配向されたことを特徴とする、前記マイクロ分光素子。
【請求項2】
磁場配向により、グアニン結晶の平坦面が鏡面基板に対し略平行となるように配向されたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ分光素子。
【請求項3】
以下のステップ(a)~(c)を順次備えたことを特徴とする、試料の分光スペクトルの測定方法。
(a)試料を、請求項1又は2のいずれかに記載のマイクロ分光素子の上部に載置するステップ;
(b)前記試料に、前記マイクロ分光素子の鏡面基板に対して垂直方向から白色光を照射し、前記白色光と同軸における画像を撮像するステップ;
(c)前記画像において、グアニン結晶上の干渉縞をフーリエ変換することで、前記試料の分光スペクトルを測定するステップ;
【請求項4】
ステップ(c)において、画像中の2以上のグアニン結晶の干渉縞を個別にフーリエ変換することで、試料の分光スペクトルの多点同時測定を行うことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
白色光源と、
同軸照射顕微鏡と、
請求項1又は2のいずれかに記載のマイクロ分光素子と、
顕微画像を取得するための撮像手段と
を備え、試料が前記マイクロ分光素子の上部に載置されることを特徴とする顕微分光装置。
【請求項6】
撮像手段が、CCDカメラ又はCMOSカメラであることを特徴とする請求項5に記載の顕微分光装置。
【請求項7】
同軸照射顕微鏡が、テレセントリック光学系を構成することを特徴とする請求項5又は6に記載の顕微分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グアニン結晶を用いたマイクロ分光素子、該マイクロ分光素子を使用した分光スペクトル取得方法、及び該マイクロ分光素子を使用した顕微分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分光スペクトルとは、電磁波(光)をプリズムや回折格子といった分光器を通すことにより得られる、電磁波の波長ごとの強度の分布をいい、分光スペクトルを測定する装置を分光装置(スペクトロメータ)と呼ぶ。対象物(試料)と光が相互作用した後の分光スペクトルは、対象物の性質を調べる上で極めて重要な知見を与える。
【0003】
一般に分光装置は、光源-対象物(試料)-分光器-データ処理系で構成され、実験や産業用途に使用される装置であり、一般に小さくても卓上サイズである。近年小型化が進み、ポータブルな分光装置が出現しているが、それでも手の平に載る大きさ程度である。分光器の大きさは使われるプリズムや回折格子の大きさで制限されるため、現状cm~mmオーダーより小さくすることはできない。
【0004】
一方、微小試料の分光スペクトルを測定するための顕微分光装置として、顕微鏡と分光器とを組み合わせた装置が知られているが、試料の分析領域が小さいほど光量が少なくなるため、高感度な分光器が必要となる。顕微分光装置に対する感度向上の試みとして、例えば特許文献1は、顕微分光装置における熱ドリフト等によるデフォーカスを解決するための高速なリアルタイムオートフォーカス方法を開示しており、特許文献2は、色収差による焦点位置の誤差を解決する方法を開示しており、特許文献3は、被測定物に対する焦点合わせをより容易に行う方法を開示している。しかしながら、いずれも従来の回折格子を分光器として使用するため、分光器の感度により測定限界が規定される。
【0005】
近年、魚のウロコ等から得られるグアニン結晶の、光反射特性や透過性についての研究がなされている。例えば非特許文献1には、2枚のグアニン結晶表面に干渉縞が確認されたことが記載されており、非特許文献2には、グアニン結晶表面に観察される干渉縞より、基板の形状観察が行うことができることが記載されている。また、グアニン結晶は反磁性であるが磁場に応答して姿勢制御が可能であることが報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/133176号公報
【文献】特開平11-230829号公報
【文献】特開2008-286583号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Light Reflection Control in Biogenic Micro-Mirror by Diamagnetic Orientation. Masakazu Iwasaka Yuri Mizukawa, Langmuir, 29 (13), pp.4328-4334 (2013).
【文献】Micro optical-interference-plate featuring highly efficient diamagnetic rotation of biogenic crystals. T.Sogame E.Muneyama M.Inoue T.Kimura K.Kishimoto T.Koyanagi H.Asada M.Iwasaka, IEEE Transaction on Magnetics, 54, pp.2501504/1-4 (2018).
【文献】Biaxial Alignment Control of Guanine Crystals by Diamagnetic Orientation, Masakazu Iwasaka, Yuito Miyashita, Yuri Mizukawa, Kentaro Suzuki, Taro Toyota, Tadashi Sugawara, Applied Physics Express, 6, pp 037002/1-4 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、従来の分光器と比較して小型の分光素子を開発することにより、小型で簡便な、多点同時測定が可能な顕微分光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、水中に分散されたグアニン結晶と鏡面基板からなる素子、並びに観測系(テレセントリクス系同軸照射顕微鏡、光源)で構成される装置において、水中に磁場を印加することでグアニン結晶を、該グアニン結晶の平坦面が鏡面基板と略平行になるように磁場配向させ、異なる波長の光を照射してグアニン結晶上の干渉縞を撮像し、フーリエ変換を行うことで、当該波長にピークを持つスペクトルが得られることを見いだした。また、該素子の上方に試料を載置し、白色光源を用いてグアニン結晶上の干渉縞を撮像し、フーリエ変換を行うことで、該試料の分光スペクトルを得られることを見いだした。本発明は、これらの知見により完成したものである。
【0010】
すなわち本発明は以下に関する。
(1)鏡面基板の上部に、水系溶液中に分散したグアニン結晶を備えたマイクロ分光素子であって、前記グアニン結晶の平坦面が前記鏡面基板に対し略平行となるように配向されたことを特徴とする、前記マイクロ分光素子。
(2)鏡面基板が、Si基板であることを特徴とする上記(1)に記載のマイクロ分光素子。
(3)グアニン結晶が、魚類由来の天然グアニン結晶であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のマイクロ分光素子。
(4)グアニン結晶が、人工グアニン結晶であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかに記載のマイクロ分光素子。
(5)磁場配向により、グアニン結晶の平坦面が鏡面基板に対し略平行となるように配向されたことを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかに記載のマイクロ分光素子。
(6)以下のステップ(a)~(c)を順次備えたことを特徴とする、試料の分光スペクトルの測定方法。
(a)試料を、上記(1)~(5)のいずれかに記載のマイクロ分光素子の上部に載置するステップ;
(b)前記試料に、前記マイクロ分光素子の鏡面基板に対して垂直方向から光を照射し、前記光と同軸における画像を撮像するステップ;
(c)前記画像において、グアニン結晶上の干渉縞をフーリエ変換することで、前記試料の分光スペクトルを測定するステップ;
(7)ステップ(c)において、画像中の2以上のグアニン結晶の干渉縞を個別にフーリエ変換することで、試料の分光スペクトルの多点同時測定を行うことを特徴とする上記(6)に記載の方法。
(8)光源と、
同軸照射顕微鏡と、
上記(1)~(5)のいずれかに記載のマイクロ分光素子と、
顕微画像を取得するための撮像手段と
を備え、試料が前記マイクロ分光素子の上部に載置されることを特徴とする顕微分光装置。
(9)光源が、白色光源であることを特徴とする上記(8)に記載の顕微分光装置。
(10)同軸照射顕微鏡が、テレセントリック光学系を構成することを特徴とする上記(8)又は(9)に記載の顕微分光装置。
(11)撮像手段が、CCDカメラ又はCMOSカメラであることを特徴とする上記(8)~(10)のいずれかに記載の顕微分光装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の分光器に依らないマイクロ分光素子、並びに該マイクロ分光素子を備えた顕微分光装置を提供することができるため、顕微分光装置の高感度化且つ小型化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】代表的なグアニン結晶の外形を示す図である。
図2】本発明の顕微分光装置の一実施形態を示す図である。
図3】実施例1の、グアニン結晶の磁場による姿勢制御の様子を示す図である。
図4】実施例2の、グアニン結晶上の干渉縞をフーリエ変換して取得した水の分光スペクトル(上)及び従来のスペクトロメータにより取得した水の分光スペクトル(下)の比較を示す図である。
図5】実施例3の、グアニン結晶上の干渉縞をフーリエ変換して取得したフェノールフタレイン液の分光スペクトル(上)及び従来のスペクトロメータにより取得したフェノールフタレイン液の分光スペクトル(下)の比較を示す図である。
図6】実施例4の、グアニン結晶上の干渉縞をフーリエ変換して取得したつゆ草表皮の分光スペクトル(上)及び従来のスペクトロメータにより取得したつゆ草表皮の分光スペクトル(下)の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第一の態様は、鏡面基板の上部に、水系溶液中に分散したグアニン結晶を備えたマイクロ分光素子であって、前記グアニン結晶の平坦面が前記鏡面基板に対し略平行となるように配向されたことを特徴とする、前記マイクロ分光素子(以下、「本発明のマイクロ分光素子」という)である。
【0014】
本発明において回折スクリーンとして用いられるグアニン結晶とは、以下の性質を有するものである。
[1]形状:平板であること。代表的なグアニン結晶の外形を図1に示す。
[2]機械的性質:硬い材料で、高弾性率であること。水中で平坦性を保つこと。
グアニン結晶の硬さは1.2、弾性率は50で、エポキシ樹脂(硬さは0.2、弾性率5)に比べ高い値である。そのため、水中で対流やブラウン運動の影響を受けるものの、結晶の曲がりやひねりは認められず、水中での平坦性は保たれている。
[3]光学的性質:透明で高屈折率であること。光反射・光透過性が高いこと。
グアニン結晶の屈折率は約1.8であり、水の1.33より高屈折率である。
[4]化学的性質:水に不溶であること。グアニン結晶は水に不溶で、長期安定である。
[5]磁気的性質:グアニン結晶では磁気により姿勢制御が可能となり、干渉縞を安定に出現させることができ、干渉縞の状況を制御できる。
【0015】
本発明のグアニン結晶は、例えば金魚、太刀魚等の魚類に由来する天然グアニン結晶でも、人工グアニン結晶でもよい。人工グアニン結晶の製造方法としては、例えば特願2019-097478号記載の方法を用いることができる。また、グアニン結晶に代えて、上記[1]~[4]、好ましくは[1]~[5]の性質を備える材料を用いることもできる。上記[1]~[4]の性質を備える材料としては、例えばTiO、ZrO、ダイヤモンド等の高屈折率無機材料や、酸化マグネシウム、石英ガラスや、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エポキシ樹脂(EPON(登録商標)SU-8など)等の有機フィルムを挙げることができる。また、[1]~[5]の性質を備える材料は、磁場による姿勢制御が可能であるため、材料の平坦面を略平行に固定するための追加の構造を設けなくても、磁場を用いて材料の平坦面を鏡面基板に対し略平行に配向させることができる。[1]~[5]の性質を備える材料としては、例えばTiO、ZrO、ポリイミド、PET等を挙げることができる。
【0016】
本発明において、水系溶液とは、上記グアニン結晶が溶解せずに分散される溶液であればよいが、グアニン結晶との屈折率の差が0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上、さらにより好ましくは0.45以上であり、屈折率の差の上限は特に制限されないが、例えば1以下である溶液を好適に使用することができ、そのような水系溶液としては、無機塩を含んでいてもよい水、好ましくは水を例示することができる。
【0017】
本発明における鏡面基板としては、グアニン結晶と鏡面基板間でのくさび干渉による干渉縞を観察することができる、平坦で高い光反射する材料であればよいが、水に安定(曇らない)であり、磁性のない材料であることが望ましい。鏡面基板の素材の例としては、Si板、Al板、Ti板、Pt板等を挙げることができる。
【0018】
本発明のマイクロ分光素子において、グアニン結晶の平坦面が鏡面基板に対し略平行となるように配向される。ここで、略平行とは、鏡面基板に対して垂直方向から光を照射し、前記光と同軸における画像を撮像したときに、グアニン結晶上に生じる干渉縞を観察できればよい。グアニン結晶から適切な光干渉を得るには、鏡面基板から浮かせた状態で、わずかに傾いた角度であることが重要であり、グアニン結晶の平坦面の、鏡面基板に対する傾きは、例えば0°超~15°、0°超~10°、0°超~5°を挙げることができる。また、鏡面基板とグアニン結晶との距離は、両者が最も近接した箇所で100μm以下、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下、20μm以下、15μm以下、10μm以下、5μm以下を例示することができる。
【0019】
グアニン結晶の平坦面を鏡面基板に対して略平行とする方法としては、グアニン結晶の両端を構造体により固定する方法や、磁場により姿勢制御する方法を例示することができ、磁場を印加する場合には、例えば、グアニン結晶の102面が平坦面となるグアニン結晶を用い、平坦面が鏡面基板に対し略平行となるように水中に磁場を印加することができる。ここで、磁場の付与には、公知の永久磁石(ネオジム磁石など)、電磁石等を用いることができる。具体的な方法としては、鏡面基板に対して200mT程度の垂直磁場を印加した状態から磁石を遠ざけると、適切な大きさの磁場になったところで略平行となり、光干渉縞が発生する方法を挙げることができる。その際、垂直磁場のみならず水平磁場と両方用いると、制御性が向上するため望ましい。また、傾き角の制御を容易にするため、鏡面基板上に図3に例示されるようなトレンチ構造を設けてもよい。
【0020】
本発明において、分光スペクトルの分解能は、干渉縞の周期数が大きいほど向上する。干渉縞の周期を制御する要素としては、基板からの傾きが挙げられる。結晶の長さは一定であるため、傾きが大きくなると周期が短くなり数(周期数)が増えるため分光スペクトルの分解能が向上する一方で、1周期が短いため空間的な分解能が低下する。傾きが小さくなると周期が長くなり、数が減るため分光スペクトルの分解能が低下する。そのため、撮像装置の分解能に依存するが、金魚由来のグアニン結晶を用いる場合には、干渉縞の周期の間隔が2~3μmとなるよう傾きを制御することが好ましい(一般的な金魚由来のグアニン結晶の場合、周期数は約10~7周期、傾きは約5°~3°)。したがって、長いグアニン結晶を利用した方が有利であり、金魚由来のグアニン結晶より長い結晶としては、太刀魚から採取したグアニン結晶を例示することができる。
【0021】
本発明の第二の態様は、以下のステップ(a)~(c)を順次備えたことを特徴とする、試料の分光スペクトルの測定方法(以下、「本発明の測定方法」という)である。
(a)試料を、本発明のマイクロ分光素子の上部に載置するステップ;
(b)前記試料に、前記マイクロ分光素子の鏡面基板に対して垂直方向から光を照射し、前記光と同軸における画像を撮像するステップ;
(c)前記画像において、グアニン結晶上の干渉縞をフーリエ変換することで、前記試料の分光スペクトルを測定するステップ;
ここで、上記画像としては、顕微画像が好ましい。また、ステップ(c)において、画像中の2以上のグアニン結晶の干渉縞を個別にフーリエ変換することで、試料の分光スペクトルの多点同時測定を行うこともでき、その場合のマイクロ分光素子としては、2以上のグアニン結晶を配置したものであることが望ましい。
【0022】
本発明の第三の態様は、光源と、同軸照射顕微鏡と、本発明のマイクロ分光素子と、顕微画像を取得するための撮像手段とを備え、試料が前記マイクロ分光素子の上部に載置されることを特徴とする顕微分光装置(以下、「本発明の顕微分光装置」という)である。
【0023】
本発明の測定方法や、本発明の顕微分光装置により行われる分光スペクトルの測定における具体的な方法としては、試料の上方から、マイクロ分光素子の鏡面基板に対して垂直方向から光を照射し、前記光と同軸における画像或いは顕微画像を撮像し、前記画像或いは顕微画像からグアニン結晶上の干渉縞のRGBデータを取得してRGBごとにフーリエ変換を行いマージすることで前記試料の分光スペクトルを測定する方法を挙げることができる。ここで、フーリエ変換に先立って、窓関数、例えばガウス2σ、ハミング、ハニング、ブラックマン・ハリスを適用してもよく、波形に対して対称化の処理を行ってもよい。また、2以上のグアニン結晶を配置したマイクロ分光素子を用いて画像或いは顕微画像を取得し、前記画像或いは顕微画像中の2以上のグアニン結晶の干渉縞を個別にフーリエ変換することで、試料の分光スペクトルの多点同時測定を行うこともできる。
【0024】
本発明の測定方法や、本発明の顕微分光装置で用いられる光としては、白色光が好ましく、グアニン結晶の表面に生じる干渉縞を高倍率で観察するため、輝度が高く、平行性(可干渉性)が高い必要があり、このような光を提供できる光源の例としては、LED白色ランプ、高輝度LED白色ランプ、白熱電球、ハロゲンランプ等を挙げることができ、光ファイバーやピンホール等で平行性、指向性を高めてもよい。
【0025】
本発明の測定方法や、本発明の顕微分光装置において、画像或いは顕微画像は、RGBデータの取得ができるカラー画像であればよく、撮像手段としては、好ましくはCMOSカメラやCCDカメラを挙げることができる。また、本発明の顕微分光装置における同軸照射顕微鏡としては、光源からの光をカメラ軸に対して同軸上に落射することができる顕微鏡であれば特に制限されず、好ましくはテレセントリック光学系を構成する同軸照射顕微鏡を挙げることができる。本発明の顕微分光装置の一実施形態を、図2に示す。
【0026】
本発明によれば、グアニン結晶(大きさ~5μm×~20μm、厚み0.1μm)の平面(102面)が一つの回折スクリーンとなり、それを顕微鏡観察することで事実上グアニン結晶と同じサイズのミクロンオーダー領域の分光スペクトル測定が可能になるため、局所微小部に対する分光法への扉を開くことができる。また、従来の分光スペクトル測定では、測定対象1点の平均情報しか得られないのに対し、本発明によれば、視野下にある複数のグアニン結晶の情報を個別に処理することにより、複数の点の分光スペクトル測定を同時に行う、分光スペクトルの多点同時測定を実現することができる。
【0027】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
1.顕微分光装置の製造
Siからなる鏡面基板(鏡面研磨された6インチのP型(100)Siウェハーを2cm角に切断して使用)上に、1cm四方の囲いができるように高さ0.3mmの突起を設けて水を満たし、金魚由来のグアニン結晶(試験用金魚(小赤)の鱗より採取されたもの。共同研究者より提供を受けた)を分散させてカバーガラスで封入した。その後、鏡面基板の下方より磁石のN極を垂直に近づけてから徐々に遠ざけることで垂直方向の磁場を形成し、グアニン結晶の平坦面が鏡面基板と略平行になるよう姿勢制御することで、マイクロ分光素子を製造した。図3に、グアニン結晶の磁場による姿勢制御の様子を示す。図3より、グアニン結晶の平坦面が略平行になると、グアニン結晶上に干渉縞が明瞭に観察されることがわかる。
【0029】
その後、該マイクロ分光素子を、CMOSカメラ(型番:STC-MCS500U3V、センティック社製)を備えた同軸照射顕微鏡(12倍ズームレンズシステム、Navitar社製)のステージ上に載置し、図2の構成を有する顕微分光装置を製造した。
【実施例2】
【0030】
2.従来のスペクトロメータとの比較
実施例1で製造した顕微分光装置及び白色LED光源を用い、試料を水としてグアニン結晶上の干渉縞を撮像し、画像処理ソフトImageJ(NIHより提供)を使用してRGBデータを取得した。その後、EXCEL(マイクロソフト社製)のFFT(ファーストフーリエ変換)関数を用いて各チャンネルごとにフーリエ変換した。得られたスペクトルをマージし、従来のグレーティングタイプ顕微分光器(2048素子Si-CCDマルチチャンネル分光器(型番:FLAME-S-XR1-RS)、オーシャンフォトニクス株式会社製)を用いて取得した分光スペクトルと比較した。
【0031】
分光スペクトルの結果を図4に示す。従来のグレーティングタイプ顕微分光器と同等の分光スペクトルを得ることができた。
【実施例3】
【0032】
3.フェノールフタレイン液の分光スペクトルの測定
実施例1で製造した顕微分光装置及び白色LED光源を用い、試料をフェノールフタレイン若しくは水としてグアニン結晶上の干渉縞を撮像し、画像処理ソフトImageJ(NIHより提供)を使用してRGBデータを取得した。その後、EXCEL(マイクロソフト社製)のFFT(ファーストフーリエ変換)関数を用いて各チャンネルごとにフーリエ変換した。得られたスペクトルをマージし、フェノールフタレインと水との差スペクトルを取得した。得られた分光スペクトルを、従来のグレーティングタイプ顕微分光器(2048素子Si-CCDマルチチャンネル分光器(型番:FLAME-S-XR1-RS)、オーシャンフォトニクス株式会社製)を用いて取得した分光スペクトルと比較した。
【0033】
結果を図5に示す。従来のグレーティングタイプ顕微分光器を用いて取得した分光スペクトル、フェノールフタレイン液の標準スペクトルでは約550nmにピークが見られるのに対し、本発明の顕微分光装置を用いて取得した分光スペクトルでも、約550nmにピークが見られた。
【実施例4】
【0034】
4.つゆ草表皮の分光スペクトルの測定
実施例1で製造した顕微分光装置及び白色LED光源を用い、試料をつゆ草表皮若しくは水としてグアニン結晶上の干渉縞を撮像し、画像処理ソフトImageJ(NIHより提供)を使用してRGBデータを取得した。その後、EXCEL(マイクロソフト社製)のFFT(ファーストフーリエ変換)関数を用いて各チャンネルごとにフーリエ変換した。得られたスペクトルをマージし、つゆ草表皮と水との差スペクトルを取得した。得られた分光スペクトルを、従来のグレーティングタイプ顕微分光器(2048素子Si-CCDマルチチャンネル分光器(型番:FLAME-S-XR1-RS)、オーシャンフォトニクス株式会社製)を用いて取得した分光スペクトルと比較した。
【0035】
結果を図6に示す。従来のグレーティングタイプ顕微分光器を用いて取得した分光スペクトルでは約450nm、約520nmにピークを有する分光スペクトルが得られたのに対し、本発明の顕微分光装置では、約450nmに一つピークを有する分光スペクトルが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、従来の分光器に依らないマイクロ分光素子を提供するものである。本発明の用途としては、顕微鏡に一つのオプション機能として、マイクロ分光を提供できるので、可搬型の簡易分光器として使用できる。また、干渉縞の動画観測ができれば、分光スペクトルの経時的変化を追うこともできる。分析化学的には、物質濃度とスペクトル強度の関係が求められれば、物質の定量分析が可能であり、定量装置としても使用できる。さらに、応用分野としては、製造現場の品質管理、細胞や生態組織の局所分析、微量の反応生成物・不純物の定量等が考えられる。さらに、視野下での多点同時測定を行うことができる。以上のとおり、本発明の産業上の利用可能性は極めて高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6