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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】カルバート構造物、及び、その構築方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/08 20060101AFI20230822BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20230822BHJP
   E04B 2/86 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
E21D11/08
E21D11/10 Z
E04B2/86 601T
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019166543
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021042610
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000230010
【氏名又は名称】ジオスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中谷 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】小山 直人
(72)【発明者】
【氏名】谷口 哲憲
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-139867(JP,A)
【文献】特開平07-097898(JP,A)
【文献】特開平11-071996(JP,A)
【文献】特開平07-011897(JP,A)
【文献】特開2000-104495(JP,A)
【文献】特開2014-034799(JP,A)
【文献】特開2014-231736(JP,A)
【文献】特開2018-115554(JP,A)
【文献】特開平08-232337(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02221451(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/08
E21D 11/10
E04B 2/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリートからなるカルバート構造物であって、
前記カルバート構造物の側面を構成する側壁と、
前記カルバート構造物の天井面を構成する頂版と、を備え、
前記頂版は下部構造としてのプレキャスト頂版部材と、上部構造としての現場打ち頂版部材からなり、
前記プレキャスト頂版部材は、前記カルバート構造物の幅方向に平行に配置された複数の下部主鉄筋と、
当該下部主鉄筋に直交し、前記カルバート構造物の長手方向に平行に配置された複数の下部配力筋と、
前記カルバート構造物の幅方向に平行に配置され、当該プレキャスト頂版部材の厚み方向に山部と谷部が交互に連続して上下する波型形状を有する複数の波型鉄筋と、を有し、
前記下部主鉄筋及び前記下部配力筋は前記プレキャスト頂版部材の内部に設けられ、
前記波型鉄筋は、その高さ方向下側の一部が前記プレキャスト頂版部材のプレキャストコンクリート部に埋設され、その高さ方向上側の一部が前記プレキャスト頂版部材のプレキャストコンクリート部から前記現場打ち頂版部材内に突出して構成されることを特徴とする、カルバート構造物。
【請求項2】
前記プレキャスト頂版部材は、その幅方向両端部において下方に増厚した増厚部を有し、
前記増厚部は前記カルバート構造物の隅角部を構成し、
前記波型鉄筋の波高さは、前記増厚部において当該増厚部の内部を網羅するような波高さに増幅されることを特徴とする、請求項1に記載のカルバート構造物。
【請求項3】
前記現場打ち頂版部材の内部には、前記カルバート構造物の幅方向に平行に配置された複数の上部主鉄筋と、
当該上部主鉄筋に直交し、前記カルバート構造物の長手方向に平行に配置された複数の上部配力筋と、が設けられ、
前記上部主鉄筋及び前記上部配力筋は、前記波型鉄筋の上端部に対応する位置に設けられることを特徴とする、請求項1又は2に記載のカルバート構造物。
【請求項4】
前記上部主鉄筋は、前記頂版の幅方向両端において屈曲する部位を含む屈曲部分と、前記頂版の幅方向略中央に位置する直線部分から構成され、
前記側壁の上部に突出した鉄筋の一部と、前記屈曲部分と、が鉄筋受容穴を介して連結していることを特徴とする、請求項3に記載のカルバート構造物。
【請求項5】
前記プレキャスト頂版部材は、その幅方向両端部において下方に増厚した増厚部を有し、
前記側壁の上部に突出した鉄筋は、側壁の外面側に沿った第1の鉄筋と、側壁の内面側に沿った第2の鉄筋からなり、
前記第1の鉄筋は前記増厚部の内部において鉄筋受容穴を介して前記屈曲部分と連結し、
前記第2の鉄筋は前記増厚部の内部の貫通穴を貫通し、その上端は前記現場打ち頂版部材に埋設されることを特徴とする、請求項4に記載のカルバート構造物。
【請求項6】
前記鉄筋受容穴は、その内部に経時性硬化材料を注入し、硬化させることで、鉄筋同士を連結させるスリーブ式鉄筋継手構造であることを特徴とする、請求項4又は5に記載のカルバート構造物。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載のカルバート構造物の構築方法であって、
前記側壁の上部に突出した鉄筋は、側壁の外面側に沿った第1の鉄筋と、側壁の内面側に沿った第2の鉄筋からなり、
複数の鉄筋を上部に突出させた側壁を地盤に構築する側壁構築工程と、
前記側壁から突出した複数の鉄筋を、前記鉄筋受容穴に受容させた状態で当該側壁の上部に前記プレキャスト頂版部材を設置するプレキャスト頂版部材設置工程と、
前記上部主鉄筋、前記上部配力筋、前記第2の鉄筋の上端、及び、前記波型鉄筋における前記プレキャストコンクリート部から突出した部分をコンクリート中に埋設させるように現場打ちコンクリートを施工する現場打ち頂版構築工程と、を有することを特徴とする、カルバート構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート部材を用いたカルバート構造物、及び、その構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、幹線道路の新設は平野部から山岳部に移行してきており、急峻な山岳部を通過する道路の新設が増加している。山岳部での道路建設では、トンネルや橋梁の比率増加に伴い、高盛土が多くなり、これを横断するカルバート構造物(単にカルバートとも呼称される)の施工が増加する。カルバート構造物には、断面がほぼ長方形枠型のボックスカルバートや、断面馬蹄型(断面アーチ型)のアーチカルバート等が知られており、これらの構造物は例えば鉄筋コンクリートによって構成される。一般的には、カルバート構造物の構築と並行して、あるいは構築後に、盛土を施工することでトンネル等の構造物が構成される。
【0003】
カルバート構造物の構築技術としては、鉄筋をコンクリートに埋設する技術が一般的に知られており、例えば特許文献1には、コンクリート中に主鉄筋及び波状の鉄筋を埋設し、鉄筋コンクリート壁を構築する技術が開示されている。また、例えば特許文献2には、鉄筋コンクリート構造部材のうち、面状部材の耐力を向上させるための補強部材における配筋技術が開示されている。
【0004】
また、カルバート構造物を構築する際には、工場などで予め製作された部材を現場に搬入し、既設部材に組み付けるといったいわゆるプレキャストコンクリート部材(単にプレキャスト部材とも呼称される)が用いられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実用新案出願公告昭54-6984号
【文献】特開2013-221355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2に記載されているような、鉄筋コンクリート構造では、コンクリート中の鉄筋は現場打ちでの作業によって配筋されるため、作業が煩雑化しやすい。特に、カルバート構造物の隅角部では、複雑な配筋構造が採られるため、現場での作業の効率化が求められる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、プレキャストコンクリート部材を用いることで施工時の作業効率を向上させることができ、且つ、部材の運搬性を確保し、構築されたカルバート構造物の耐力も担保することが可能なカルバート構造物、及び、その構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、鉄筋コンクリートからなるカルバート構造物であって、前記カルバート構造物の側面を構成する側壁と、前記カルバート構造物の天井面を構成する頂版と、を備え、前記頂版は下部構造としてのプレキャスト頂版部材と、上部構造としての現場打ち頂版部材からなり、前記プレキャスト頂版部材は、前記カルバート構造物の幅方向に平行に配置された複数の下部主鉄筋と、当該下部主鉄筋に直交し、前記カルバート構造物の長手方向に平行に配置された複数の下部配力筋と、前記カルバート構造物の幅方向に平行に配置され、当該プレキャスト頂版部材の厚み方向に山部と谷部が交互に連続して上下する波型形状を有する複数の波型鉄筋と、を有し、前記下部主鉄筋及び前記下部配力筋は前記プレキャスト頂版部材の内部に設けられ、前記波型鉄筋は、その高さ方向下側の一部が前記プレキャスト頂版部材のプレキャストコンクリート部に埋設され、その高さ方向上側の一部が前記プレキャスト頂版部材のプレキャストコンクリート部から前記現場打ち頂版部材内に突出して構成されることを特徴とする、カルバート構造物が提供される。
【0009】
前記プレキャスト頂版部材は、その幅方向両端部において下方に増厚した増厚部を有し、前記増厚部は前記カルバート構造物の隅角部を構成し、前記波型鉄筋の波高さは、前記増厚部において当該増厚部の内部を網羅するような波高さに増幅されても良い。
【0010】
前記現場打ち頂版部材の内部には、前記カルバート構造物の幅方向に平行に配置された複数の上部主鉄筋と、当該上部主鉄筋に直交し、前記カルバート構造物の長手方向に平行に配置された複数の上部配力筋と、が設けられ、前記上部主鉄筋及び前記上部配力筋は、前記波型鉄筋の上端部に対応する位置に設けられても良い。
【0011】
前記上部主鉄筋は、前記頂版の幅方向両端において屈曲する部位を含む屈曲部分と、前記頂版の幅方向略中央に位置する直線部分から構成され、前記側壁の上部に突出した鉄筋の一部と、前記屈曲部分と、が鉄筋受容穴を介して連結しても良い。
【0012】
前記プレキャスト頂版部材は、その幅方向両端部において下方に増厚した増厚部を有し、前記側壁の上部に突出した鉄筋は、側壁の外面側に沿った第1の鉄筋と、側壁の内面側に沿った第2の鉄筋からなり、前記第1の鉄筋は前記増厚部の内部において鉄筋受容穴を介して前記屈曲部分と連結し、前記第2の鉄筋は前記増厚部の内部の貫通穴を貫通し、その上端は前記現場打ち頂版部材に埋設されても良い。
【0013】
前記鉄筋受容穴は、その内部に経時性硬化材料を注入し、硬化させることで、鉄筋同士を連結させるスリーブ式鉄筋継手構造であっても良い。
【0014】
また、別の観点からの本発明によれば、上記記載のカルバート構造物の構築方法であって、前記側壁の上部に突出した鉄筋は、側壁の外面側に沿った第1の鉄筋と、側壁の内面側に沿った第2の鉄筋からなり、複数の鉄筋を上部に突出させた側壁を地盤に構築する側壁構築工程と、前記側壁から突出した複数の鉄筋を、前記鉄筋受容穴に受容させた状態で当該側壁の上部に前記プレキャスト頂版部材を設置するプレキャスト頂版部材設置工程と、前記上部主鉄筋、前記上部配力筋、前記第2の鉄筋の上端、及び、前記波型鉄筋における前記プレキャストコンクリート部から突出した部分をコンクリート中に埋設させるように現場打ちコンクリートを施工する現場打ち頂版構築工程と、を有することを特徴とする、カルバート構造物の構築方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プレキャストコンクリート部材を用いることで施工時の作業効率を向上させることができ、且つ、部材の運搬性を確保し、構築されたカルバート構造物の耐力も担保することができる。また、構築されたカルバート構造物の隅角部を補強する鉄筋としての役割に加え、せん断補強筋としての役割を果たすような波型鉄筋を設けることで、構造物全体の耐力向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係るカルバート構造物の概略説明図である。
図2】カルバート構造物の構築方法に関する概略説明図である。
図3】カルバート構造物の構築方法に関する概略説明図である。
図4】カルバート構造物の構築方法に関する概略説明図である。
図5】カルバート構造物の構築方法に関する概略説明図である。
図6】カルバート構造物の構築方法に関する概略説明図である。
図7】増厚部を拡大した概略説明図(略側面図)である。
図8】増厚部を拡大した概略説明図(略上面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。また、本明細書においては、カルバート構造物1の構造やその頂版(後述するプレキャスト頂版部材20を含む)に注視して図示し、当該カルバート構造物1が設置される地盤等については、説明や図示の簡略化のために省略する場合がある。また、説明のために部材内部の鉄筋構造等を図示している場合がある。
【0018】
(本発明の実施の形態に係るカルバート構造物の構成)
図1は本発明の実施の形態に係るカルバート構造物1の概略説明図である。図1に示したカルバート構造物1は、図示しない幹線道路や鉄道用に設けられるトンネル等の坑口に設置される矩形カルバート状の中空構造物であり、その内部には、例えば自動車や鉄道車両等が通過するための経路(図示せず)が敷設される。以下では、カルバート構造物1の内部空間が延伸する方向を長手方向とし、カルバート構造物1の敷設面に平行且つ上記長手方向に直交する方向を幅方向とし、カルバート構造物1が敷設された状態の鉛直方向を高さ方向として説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係るカルバート構造物1は、地盤に対し鉛直方向に構築される側壁5(5a、5b)と、天井面である頂版10からなる。また、頂版10は、2層構造となっており、下部構造としてのプレキャスト頂版部材20と、上部構造としての現場打ち頂版部材21からなる。なお、頂版10の詳細な構成については図面を参照して後述する。
【0020】
また、プレキャスト頂版部材20は、幅方向両端部において下方に増厚した形状となっており、その増厚部25(25a、25b)はカルバート構造物1の上部隅角部を構成している。なお、増厚部25の形状は任意に設計できるが、例えば図示のように、カルバート構造物1の内部空間の矩形断面を斜めに切り欠くような形状(いわゆる勾配ハンチ形状)に設計されても良い。ここで、増厚部25の厚みは、カルバート構造物1の隅角部の強化や応力集中の防止を目的に、例えば頂板10の厚みの40~50%程度とすることが好ましい。
【0021】
(カルバート構造物の構築方法)
ここで、本実施の形態に係るカルバート構造物1の構築方法について説明する。図2~6はカルバート構造物1の構築方法に関する概略説明図であり、図2~6の順で構築過程を示している。なお、図2~6に示した鉄筋の構成は一例であり、これらの配置や本数等は任意に設計可能である。
【0022】
図2に示すように、先ず、例えば現場打ちコンクリートにより、左右の側壁5(5a、5b)が構築される。この時、側壁5には鉄筋30が設けられ、側壁5の上端には複数の鉄筋30が上部に突出した状態で設けられる(側壁構築工程)。鉄筋30は、例えば側壁5の外面側に沿った第1の鉄筋30aと、側壁5の内面側に沿った第2の鉄筋30bからなり、それぞれが所定の長さだけ側壁5の上部に突出している。
【0023】
次いで、図3に示すように、プレキャスト頂版部材20が、側壁5の上部に設置される(プレキャスト頂版部材設置工程)。ここで、プレキャスト頂版部材20の増厚部25には、所定の位置に貫通穴もしくはスリーブ継手用穴といった鉄筋受容穴35が設けられており、側壁5の上部に突出した鉄筋30が、これら鉄筋受容穴35を貫通するようにプレキャスト頂版部材20の設置が行われる。
【0024】
なお、上記鉄筋受容穴35においては、所定の鉄筋が全て受容された段階でモルタルやコンクリート等の経時性硬化材料を注入し、硬化させることで側壁5とプレキャスト頂版部材20との連結が実施される。一例としては、鉄筋受容穴35としてスリーブ式鉄筋継手構造を用いても良い。
【0025】
図3に示すように、プレキャスト頂版部材20には、その内部においてカルバート構造物1の幅方向に平行に配置された複数の下部主鉄筋40と、当該下部主鉄筋40に直交する方向(即ち、カルバート構造物1の長手方向)に配置された複数の下部配力筋42が設けられている。プレキャスト頂版部材20には、その厚み方向(カルバート構造物1の高さ方向)に上下する波型形状を有する波型鉄筋50が設けられている。波型鉄筋50はカルバート構造物1の幅方向において一本の連続した鉄筋によって構成され、そのように構成された1本の波型鉄筋50がカルバート構造物1の長手方向に複数配列するように設けられる。また、この波型鉄筋50の高さ方向上部側は、プレキャストコンクリート等からなるプレキャスト頂版部材20の本体部20a(プレキャストコンクリート部)から上方に向けて突出するように設けられ、波型鉄筋50の高さ方向下部側は本体部20a内に埋設される。
【0026】
波型鉄筋50の本体部20aからの突出量は任意に設計可能であるが、図1のように、プレキャスト頂版部材20の上部に現場打ち頂版部材21を設ける構造を採っていることから、プレキャスト頂版部材20と現場打ち頂版部材21との間のずれ止め等の作用効果を享受するためには、波型鉄筋50の突出量は鉄筋径の5倍以上とすることが好ましい。一方で、鉄筋量の増加はプレキャスト頂版部材20の重量増大につながり、施工時の作業効率や運搬性の低下が懸念される。また、波型鉄筋50の突出量の上限は、当該波型鉄筋50が現場打ちコンクリート(後述する現場打ち頂版部材21)に埋設される際に、腐食の影響を受けない、鉄筋かぶりを確保できる高さまでとするのが好ましい。
【0027】
そして、図4及び図5に示すように、波型鉄筋50の上端部(山頂部)において、カルバート構造物1の幅方向に平行に配置された複数の上部主鉄筋60が設けられる。更に、波型鉄筋50の上端部において、上部主鉄筋60に直交する方向(即ち、カルバート構造物1の長手方向)に複数の上部配力筋62が設けられる(上部鉄筋配設工程)。ここで、図5に示すように、上部主鉄筋60は、幅方向両端において屈曲する部位を含む屈曲部分60aと、幅方向の略中央に位置する直線部分60bから構成される。例えば、屈曲部分60aの一方の端部は第1の鉄筋30aと接続し、他方の端部は直線部分60bに接続している。この時の接続には、例えばスリーブ式鉄筋継手構造が用いられる。
【0028】
そして、図6に示すように、上部主鉄筋60や上部配力筋62、波型鉄筋50の本体部20aからの突出部分、及び第2の鉄筋30bの上端をコンクリート内に埋設させるように現場打ちコンクリートの施工を行い、現場打ち頂版部材21が構築される(現場打ち頂版構築工程)。以上のように、側壁5、プレキャスト頂版部材20、現場打ち頂版部材21が内部の鉄筋同士が連結した状態でもって一体化され、本実施の形態に係るカルバート構造物1が構築される。
【0029】
(プレキャスト頂版部材における鉄筋の構成)
図2図6を参照して上述したように本実施の形態に係るカルバート構造物1は構築され、その構築に際しては、特に、プレキャスト頂版部材20の増厚部25の内部に種々の鉄筋が配筋される。それらの鉄筋構成により側壁5とプレキャスト頂版部材20の連結、あるいは、プレキャスト頂版部材20と現場打ち頂版部材21との連結が効果的に実現され、カルバート構造物1の耐力向上が図られる。ここでは、増厚部25における鉄筋の構成について説明する。
【0030】
図7及び図8は本実施の形態に係るカルバート構造物1におけるプレキャスト頂版部材20の増厚部25やその近傍を拡大した概略説明図であり、図7は略側面図、図8は略上面図である。図7、8に示すように、プレキャスト頂版部材20には、複数の下部主鉄筋40、複数の下部配力筋42と、上方に向けて突出する波型鉄筋50が設けられている。また、図示のように、増厚部25の内部には鉄筋受容穴35としての貫通穴もしくはスリーブ継手用穴が設けられ、側壁5に設けられた鉄筋30と上部主鉄筋60が当該鉄筋受容穴35を介して連結している。
【0031】
波型鉄筋50の上部側は現場打ち頂版部材21に埋設しており、併せて、複数の上部主鉄筋60と複数の上部配力筋62が設けられ、上述したように、上部主鉄筋60と鉄筋30(第1の鉄筋30a)が鉄筋受容穴35を介して連結している。一方、増厚部25においては、波型鉄筋50の下部側は増厚部25内にまで延びるような波形状となっており、プレキャスト頂版部材20に設けられる波型鉄筋50の波高さは、部材中の位置(本体部20aと増厚部25)によって異なる構成となっている。波型鉄筋50の波高さは任意に設計され、増厚部25内においてはその内部を網羅するような波高さに増幅される。即ち、波型鉄筋50はプレキャスト頂版部材20上方に突出していることに加え、プレキャスト頂版部材20の内部全体を網羅するように配筋されている。
【0032】
また、上部主鉄筋60と上部配力筋62は、波型鉄筋50の上端部に対応する位置に配置されても良く、上部配力筋62は、波型鉄筋50の上端部(山頂部)と交差するように設けられ、図示のように、上部配力筋62が複数の波型鉄筋50の上端部内側近傍を連通するように設けられても良い。
【0033】
また、カルバート構造物1には、プレキャスト頂版部材20と現場打ち頂版部材21の内部に亘って斜め鉄筋70が設けられる。図示のように、斜め鉄筋70は主に増厚部25と現場打ち頂版部材21の内部に亘って配置され、その一方の端部は上部配力筋62に固定され、他方の端部は増厚部25中に配筋された補助鉄筋72に固定される。斜め鉄筋70は、基本的に増厚部25の内面側(カルバート構造内面側)に沿って設けられ、その端部は増厚部25の形状等に併せて当該増厚部25の内部に収まるように折り曲げられても良い。
【0034】
(作用効果)
以上、図1図8を参照して説明したように構成されるカルバート構造物1によれば、プレキャスト頂版部材20を本体部20aと増厚部25からなる構成としている。また、その内部に設けられる鉄筋のうち、波型鉄筋50の高さ方向上部側は、プレキャストコンクリート等からなる本体部20aから上方に向けて突出する構成となっている。この波型鉄筋50がカルバート構造物1の隅角部補強鉄筋としての役割を果たすと共に、プレキャスト頂版部材20と現場打ち頂版部材21との間(継ぎ目位置)のずれ止めの役割も果たす。これにより、構築されたカルバート構造物1の構造上の安全性や耐力が十分に担保される。加えて、波型鉄筋50は一本の鉄筋を波形状に造形したものを用いており、従来のせん断補強筋といった長さの短い鉄筋に比べ、コンクリートへの定着力が高く、カルバート構造物1の耐力の向上が図られる。
【0035】
また、カルバート構造物1の構築にあたり、側壁5と現場打ち頂版部材21は現場打ち部材とするのに対し、プレキャスト頂版部材20は工場などで予め製作されたいわゆるプレキャストコンクリート部材としている。これにより、カルバート構造物1が鉄筋コンクリートからなる場合に、当該カルバート構造物1を全てプレキャスト部材で構築するのではなく、現場打ち工法で最も手間の発生する部分にプレキャスト部材を用いることで、材料費の低減と工期短縮が実現される。このようないわゆるハーフプレキャスト構造を採用し、最も配筋構造が煩雑であり現場打ち工法が困難であるような部材についてはプレキャスト部材とし、その他の部材を現場打ち部材とすることで、施工時の作業効率の向上と、部材の運搬性を両立させることが可能となる。
【0036】
特に、カルバート構造物1の隅角部(本実施の形態における増厚部25に相当)には、地震時等への対策として隅角部補強用の鉄筋が煩雑に配筋されていることが知られており、現場打ち工法での施工が困難な場合がある。そこで、本実施の形態に係るプレキャスト頂版部材20としてこのような煩雑な鉄筋の配筋構造を有する部材を予め工場などで製作し、現場に運搬するといった方法を採ることで大幅な材料費の低減と工期短縮が図られる。
【0037】
また、本実施の形態では、プレキャスト頂版部材20において、斜め鉄筋70を増厚部25内部に収めるような構成を採っている。これにより、プレキャスト頂版部材20の増厚部(いわゆるハンチ部)25における配筋構造を事前に工場で製作しやすいような構成とすることができる。
【0038】
また、本実施の形態に係るプレキャスト頂版部材20では、増厚部25内に貫通穴もしくはスリーブ継手用穴といった鉄筋受容穴35を設けている。そして、所定の鉄筋を鉄筋受容穴35に受容させた状態でモルタルやコンクリート等の経時性硬化材料を注入し、硬化させて連結を行っている。このような連結手段を用いて側壁5、プレキャスト頂版部材20、現場打ち頂版部材21といった各部材を強固に連結させることで、効率的に安全性の高いカルバート構造物1を構築させることができる。
【0039】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0040】
例えば、上記実施の形態では、側壁5を現場打ち工法により構築すると説明したが、側壁5についてもプレキャスト部材としても良い。また、複数の上部主鉄筋60や複数の上部配力筋62について、現場での施工時に配筋すると説明したが、これらの上部主鉄筋60や上部配力筋62についても、プレキャスト頂版部材20の一部として予め工場で製作しても良い。特に、カルバート構造物1が小型である場合には、部材の運搬性等を考慮した上で、可能な範囲をプレキャスト部材とすることが好ましい。
【0041】
また、上記実施の形態において、図示、説明した鉄筋構造は一例であり、各種鉄筋(下部主鉄筋、下部配力筋、波型鉄筋、上部主鉄筋、上部配力筋、斜め鉄筋、補助鉄筋など)の具体的な本数や配置構成等は任意に設計可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、プレキャストコンクリート部材を用いたボックスカルバート頂版部材、カルバート構造物、及び、その施工方法に適用できる。
【符号の説明】
【0043】
1…カルバート構造物
5…側壁
10…頂版
20…プレキャスト頂版部材
21…現場打ち頂版部材
25…増厚部
30…(側壁の)鉄筋
35…鉄筋受容穴
40…下部主鉄筋
42…下部配力筋
50…波型鉄筋
60…上部主鉄筋
62…上部配力筋
70…斜め鉄筋
72…補助鉄筋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8