IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

特許7334949組成物、硬化物、固体高分子形燃料電池、イオン交換膜、電気化学セル、水電解方法、及び、水処理方法
<>
  • 特許-組成物、硬化物、固体高分子形燃料電池、イオン交換膜、電気化学セル、水電解方法、及び、水処理方法 図1
  • 特許-組成物、硬化物、固体高分子形燃料電池、イオン交換膜、電気化学セル、水電解方法、及び、水処理方法 図2
  • 特許-組成物、硬化物、固体高分子形燃料電池、イオン交換膜、電気化学セル、水電解方法、及び、水処理方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】組成物、硬化物、固体高分子形燃料電池、イオン交換膜、電気化学セル、水電解方法、及び、水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/10 20060101AFI20230822BHJP
   C08L 27/22 20060101ALI20230822BHJP
   C08K 7/26 20060101ALI20230822BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230822BHJP
   H01M 8/1032 20160101ALI20230822BHJP
   H01M 8/1027 20160101ALI20230822BHJP
   C02F 1/461 20230101ALI20230822BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C08L71/10
C08L27/22
C08K7/26
H01M8/10 101
H01M8/1032
H01M8/1027
C02F1/461 Z
C02F1/461 101
C25B13/08 301
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019176539
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021054888
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】金 済徳
(72)【発明者】
【氏名】モハマド ノル ノル アズリーン
(72)【発明者】
【氏名】田村 堅志
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-272439(JP,A)
【文献】特開2015-018800(JP,A)
【文献】特開2016-155109(JP,A)
【文献】大塚 英幸,無機ナノ構造体を基盤とする共役ポリマーの階層構造制御,科学研究費補助金研究成果報告書,日本,2009年05月21日,p.1-5
【文献】黒田義之、黒田一幸,イモゴライト-ポリスチレンスルホン酸複合体の合成と熱処理,粘土科学討論会講演要旨集,2008年,Vol.52 ,Page.108-109
【文献】YANG Huixian, CHEN Yong, SU Zhaohui,Microtubes via Assembly of Imogolite with Polyelectrolyte,Chemistry of Materials,2007年06月26日,Vol.19 No.13,Page.3087-3089
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00-101/16
C08L 27/00-27/24
C08K 3/00-13/08
H01M 8/08-8/24
H01M 4/86-4/98
B01J 39/00-49/90
C02F 1/46-1/48
C25B 13/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する基を有する高分子化合物と、イモゴライトの中空管状体とを含有する組成物であって、
前記高分子化合物の含有量を100質量部としたとき、前記中空管状体が0.1~5質量部であり、
前記高分子化合物が下記式4で表される繰り返し単位を有する、組成物。
【化1】

式4中、X 41 ~X 44 はそれぞれ独立にスルホン酸基含有基を表し、q1~q4はそれぞれ独立に0~4の整数を表し、q1~q4の和(q1+q2+q3+q4)は1以上である。
【請求項2】
式4で表される繰り返し単位が、下記式からなる群より選択される少なくとも1種で表される単位である、請求項1に記載の組成物。
【化2】
【請求項3】
式4で表される繰り返し単位が、下記式からなる群より選択される少なくとも1種で表される単位である、請求項1に記載の組成物。
【化3】
【請求項4】
スルホン酸基を有する基を有する高分子化合物と、イモゴライトの中空管状体と、を含有する組成物であって、
前記高分子化合物の含有量を100質量部としたとき、前記中空管状体が0.01~0.08質量部であり、
前記高分子化合物が式NF1で表される繰り返し単位を有する、組成物。
【化4】
(式NF1中、X1は前記スルホン酸基を有する基を表す。)
【請求項5】
前記X1で表される基が、下記式NF2で表される基である、請求項に記載の組成物。
【化5】

(式NF2中、L7は、酸素原子を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、又は、分岐鎖状の炭化水素基であって、その水素原子の少なくとも1つがハロゲン原子で置換された2価の基を表し、*は結合位置を表す。)
【請求項6】
前記式NF2で表される基が、下記式NF3-1~式NF3-4からなる群より選択される少なくとも1種の基である、請求項に記載の組成物。
【化6】
(式NF3-1~式NF3-4中、*は結合位置を表す。)
【請求項7】
固体高分子電解質の製造用である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項9】
請求項に記載の硬化物を有する電解質層と、前記電解質層を両側から挟む一対の触媒層と、前記触媒層の前記電解質層とは反対側の面にそれぞれ配置されたガス拡散層とを有する積層体を有する固体高分子形燃料電池。
【請求項10】
請求項に記載の硬化物を有するイオン交換膜。
【請求項11】
請求項10に記載のイオン交換膜と、前記イオン交換膜により互いに隔離された一対の電極とを有する電気化学セル。
【請求項12】
請求項11に記載の電気化学セルに原料水を供給することと、前記一対の電極間に電流を流して、前記原料水を電気分解することと、を有する水電解方法。
【請求項13】
請求項11に記載の電気化学セルに汚染物質を含む原水を供給することと、前記一対の電極間に電流を流して、前記汚染物質を分解することと、を有する水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、硬化物、固体高分子形燃料電池、イオン交換膜、電気化学セル、水電解方法、及び、水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導性高分子として、スルホン酸基を有する高分子化合物が知られている。特許文献1には、「複数の繰り返しユニットを有するスルホン化ポリフェニル化合物からなるプロトン伝導性高分子電解質であって、1つの繰り返し単位に平均2個、又は、更に多くのスルホン基が導入されたプロトン伝導性高分子電解質」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2017-029967号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたプロトン伝導性高分子電解質は優れたプロトン伝導性を有していたが、本発明者らは、高温低湿下におけるプロトン伝導性に更なる改善の余地があることを知見した。
【0005】
そこで、本発明は高温低湿下において優れたプロトン伝導性を有する硬化物を形成可能な組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は硬化物、固体高分子形燃料電池、イオン交換膜、電気化学セル、水電解方法、及び、水処理方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0007】
[1] スルホン酸基を有する基を有する高分子化合物と、イモゴライト、及び、ハロイサイトからなる群より選択される少なくとも1種の中空管状体とを含有する組成物。
[2] 上記高分子化合物が、繰り返し単位1つあたり、上記スルホン酸基を有する基を0個を超えて、6個以下有する、[1]に記載の組成物。
[3] 上記高分子化合物が後述する式1で表される部分構造を含む、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] 上記高分子化合物が、後述する式2で表される繰り返し単位を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 後述する式2で表される繰り返し単位が後述する式3で表される繰り返し単位である、[4]に記載の組成物。
[6] 上記高分子化合物が後述する式NF1で表される繰り返し単位を有する[1]又は[2]に記載の組成物。
[7] 後述する式NF1中におけるXで表される基が、後述する下記式NF2で表される基である、[6]に記載の組成物。
[8] 後述する式NF2で表される基が、後述する式(NF3-1)~式(NF3-4)からなる群より選択される少なくとも1種の基である、[7]に記載の組成物。
[9] 固体高分子電解質の製造用である、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の組成物を硬化して得られる硬化物。
[11] [10]に記載の硬化物を有する電解質層と、上記電解質層を両側から挟む一対の触媒層と、上記触媒層の上記電解質層とは反対側の面にそれぞれ配置されたガス拡散層とを有する積層体を有する固体高分子形燃料電池。
[12] [10]に記載の硬化物を有するイオン交換膜。
[13] [12]に記載のイオン交換膜と、上記イオン交換膜により互いに隔離された一対の電極とを有する電気化学セル。
[14] [13]に記載した電気化学セルに原料水を供給することと、上記一対の電極間に電流を流して、上記原料水を電気分解することと、を有する水電解方法。
[15] [13]に記載した電気化学セルに汚染物質を含む原水を供給することと、上記一対の電極間に電流を流して、上記汚染物質を分解することと、を有する水処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば高温低湿下において優れたプロトン伝導性を有する硬化物を形成可能な(以下、「本発明の効果を有する」ともいう。)組成物を提供できる。また、本発明は、硬化物、固体高分子形燃料電池、イオン交換膜、電気化学セル、水電解方法、及び、水処理方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池の分解斜視図である。
図2】固体高分子形燃料電池が有する積層体の断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る電気化学セルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[組成物]
本発明の実施形態に係る組成物(以下、「本組成物」ともいう。)はスルホン酸基を有する基を有する高分子化合物(以下、「特定高分子」ともいう。)と、イモゴライト、及び、ハロイサイトからなる群より選択される少なくとも1種の中空管状体(以下「特定中空管状体」ともいう。)とを含有する組成物である。
【0012】
本組成物を硬化して得られた硬化物が、高温低湿下(後述する実施例に示すとおり、具体的には120℃、及び、40%RHの環境下)における優れたプロトン伝導性を有する機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。なお、以下の機序は推測であり、以下の機序以外の機序により課題が解決される場合であっても本発明の範囲に含まれるものとする。
【0013】
本組成物は、特定中空管状体を含有する。イモゴライト、及び、ハロイサイトは、いずれも中空管状構造を有し、管の外側表面、及び/又は、管の内側表面にヒドロキシ基を有しており、水分子を吸着し、「吸着水」を形成しやすいものと考えられる。この吸着水は熱的に安定で、組成物を高温下に暴露しても蒸散しにくいという特徴がある。そのため、本組成物を硬化して得られた硬化物は優れた保湿性を有しており、結果として高温低湿下においても水分の保持率がより高くなりやすく、結果として優れたプロトン伝導性が発揮されたものと推測される。
【0014】
更に、特定中空管状体(特にイモゴライト)は酸性下ではカチオン性となることが知られている。従って、特定中空管状体は、スルホン酸基を有する特定高分子と強い相互作用を有すると考えられ、これにより特定中空管状体は特定高分子中においてより均一に分散しやすく、かつ、スルホン酸基の周辺により局在化しやすいやめ、スルホン酸基の周辺においてより水が保持されやすく、結果として、本組成物を硬化して得られた硬化物は、高温低湿下においても優れたプロトン伝導性が得られたものと推測される。
【0015】
なお、一般的な層状ケイ酸塩も層間に吸着水を有しているものの、特定中空管状体と比較すると、そのような層状ケイ酸塩の吸着水はより放出されやすいものと推測される。すなわち、高温低湿下において、所望のプロトン伝導性が得られないものと推測される。
以下では、本組成物について詳述する。
【0016】
〔スルホン酸基を有する基を有する高分子化合物〕
本組成物は、スルホン酸基を有する基(以下「スルホン酸基含有基」ともいう。)を有する高分子化合物(特定高分子)を含有する。
組成物中における特定高分子の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、一般に組成物中の全固形分を100質量%としたとき、70~99.999質量%が好ましい。
なお、組成物は、特定高分子の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が2種以上の特定高分子を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0017】
特定高分子が有するスルホン酸基含有基の個数としては特に制限されないが、(全繰り返し単位を対象として)繰り返し単位1つあたり、一般に、0個を超えて10個以下が好ましく、0個を超えて6個以下がより好ましい。
特定高分子が有するスルホン酸基含有基が0個を超えて1未満の形態とは、特定高分子が、スルホン酸基含有基を有する繰り返し単位と、スルホン酸基含有基を有さない繰り返し単位と、を有する共重合体である形態が挙げられる。
【0018】
なお、特定高分子が繰り返し単位1つあたり0個を超えて、1個以下のスルホン酸基含有基を有している場合、特定高分子はより優れた耐水性を有し、後述するような架橋反応を用いなくても、より優れた耐水性を有する硬化物(乾固物)が得られやすい。
一方で、特定高分子が繰り返し単位1つあたり1個を超えて6個以下のスルホン酸基含有基を有している場合、硬化物はより優れた機械特性(引張強度等)を有する。
【0019】
なお、本明細書において、特定高分子が有するスルホン酸基含有基の個数は、滴定法によって求められる繰り返し単位1つあたりのスルホン酸基含有基の個数の算術平均値を意味する。
すなわち、対象の特定高分子につき、所定の濃度のNaOH水溶液を用いて滴定を行い、pHが7になるまで中和したときのNaOH水溶液の量([A]ml)と、そのNaOH水溶液の濃度([B]g/ml)に基づき、計算式:イオン交換容量(IEC)(meq/g)=[A]×[B]/試料質量(g)によってイオン交換容量を求め、これを理論値と比較することで1つの繰り返し単位あたりのスルホン基の平均数(小数となる場合もある)を算出することができる。
【0020】
<スルホン酸基含有基を有する繰り返し単位>
特定高分子がスルホン酸基含有基を有する形態としては特に制限されず、スルホン酸基含有基を有する繰り返し単位(以下、「単位A」ともいう。)を有していてもよいし、分子鎖の一部(例えば末端等)にスルホン酸基含有基を有する形態であってもよいが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、特定高分子は、単位Aを有することが好ましい。
【0021】
単位Aにおけるスルホン酸基含有基の個数としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、特定高分子の繰り返し単位1つあたり、1個以上が好ましく、2個以上がより好ましく、10個以下が好ましく、8個以下がより好ましく、6個以下が更に好ましく、4個以下が特に好ましい。
【0022】
なお、単位Aあたりのスルホン酸基含有基が2個以上であると、得られる硬化物はより優れたプロトン伝導性を有し、6個以下であると、得られる組成物は、より優れた力学特性を有し、4個以下であると更に優れた力学特性を有する。
また、一方で、単位Aが有するスルホン酸基含有基が1個であると、得られる硬化物(特に、乾固物)はより優れた耐水性を有する。
【0023】
<スルホン酸基含有基>
スルホン酸基含有基は、スルホン酸基を有する基であり、その構造としては特に制限されないが、下記式S1で表される基が好ましい。
【0024】
【化1】
【0025】
なお、上記式S1中、LS1は単結合、又は、m+n+1価の基であり、m及びnはそれぞれ独立して0以上の整数であり、LS1が単結合の時、mは0でnは1であり、LS1がm+n+1価の基であるとき、nは1以上の整数、mは0以上の整数を表し、*は結合位置を表す。
式S1中、Rは水素原子、又は、1価の置換基を表し、水素原子が好ましい。
また、より優れた本発明の効果が得られる点で、mが0で、かつ、nが1であることが好ましい。
【0026】
S1のm+n+1価の基としては特に制限されないが、2価の基としては、例えば、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-SO-、-NR2-(R2は水素原子又は1価の有機基を表す)、ヘテロ原子を有していてもよい直鎖状、分岐鎖状、又は、環状の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0027】
なかでも、炭素数1~10個のアルキレン基、炭素数3~10個のシクロアルキレン基、又は、炭素数2~10個のアルケニレン基が好ましく、炭素数1~10個のアルキレン基が好ましく、炭素数1~8個のアルキレン基がより好ましい。
また、上記のアルキレン基の有する水素原子の少なくとも1つ以上がハロゲン原子(特にフッ素原子が好ましい)で置換された基であってもよい。
【0028】
S1の3価以上の基としては特に制限されないが、例えば、以下の式(1a)~(1d)で表される基が挙げられる。
【0029】
【化2】
【0030】
式(1a)中、Lは3価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、3個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
としては、窒素原子、3価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、窒素原子、グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、及び、シクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0031】
式(1b)中、Lは4価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、4個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、4価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及びジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0032】
式(1c)中、Lは5価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、5個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、5価の炭化水素基(炭素数2~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及びシクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0033】
式(1d)中、Lは6価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、6個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、6価の炭化水素基(炭素数2~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0034】
式(1a)~一般式(1d)中、T~Tで表される2価の基の具体例及び好適形態は、すでに説明したLS1の2価の基と同様であってよい。
【0035】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られる点で、スルホン酸基含有基としては、式S2で表される基が好ましい。
【0036】
【化3】
【0037】
式S2中、LS2は単結合、又は、2価の基を表し、LS2の2価の基は、LS1の2価の基として示した形態が挙げられ、好適形態も上記と同様である。
特定高分子が式S2で表されるスルホン酸基含有基を有すると、得られる硬化物は、より優れた本発明の効果を有する。
【0038】
なお、スルホン酸基含有基は、塩を形成していてもよく、対イオンとしては特に制限されないが、Na等が挙げられる。
【0039】
<特定高分子の好適形態>
特定高分子としては特に制限されないが、特定高分子が下記式1で表される部分構造を有することが好ましく、特定高分子が下記の部分構造を有する繰り返し単位を有することがより好ましい。
【0040】
【化4】
【0041】
式1中、Lは単結合、又は、2価の基を表し、Arはアリーレン基又はヘテロアリーレン基であって、水素原子の少なくとも1つがスルホン酸基含有基で置換された基を表し、*は結合位置を表す。
【0042】
の2価の基としては特に制限されないが、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-SO-、-NR2-(R2は水素原子又は1価の有機基を表す)、ヘテロ原子を有していてもよい直鎖、分岐鎖、又は、環状の炭化水素基、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
炭化水素基としては、特に制限されないが、炭素数1~20個のアルキレン基、炭素数3~20個のシクロアルキレン基、炭素数2~20個のアルケニレン基、及び、スルホン酸基含有基を有さないヘテロ原子を有していてもよいアリーレン基等が挙げられる。
【0043】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られる点で、Lとしては、単結合、-C(O)-、-O-、-SO-、ヘテロ原子を有していてもよいアリーレン基(炭素数1~20個が好ましい)、アルキレン基(炭素数1~10個が好ましい)、及び、これらの組合せが好ましく、単結合、-C(O)-、-O-、-SO-、フェニレン基、下記の式AR1で表される基、及び、これらの組合せがより好ましく、単結合、-O-、-SO-、フェニレン基、及び、これらの組合せが更に好ましい。なお、式AR1中*は結合位置を表す。
【0044】
【化5】
【0045】
(単位Aの好適形態:特定単位)
より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、特定高分子は単位Aとして、以下の式2で表される繰り返し単位(以下、「特定単位」ともいう。)を有することが好ましい。
【0046】
【化6】
【0047】
式2中、LA2、及び、Lはそれぞれ独立に単結合、又は、2価の基を表し、Arはアリーレン基又はヘテロアリーレン基であって、水素原子の少なくとも1つがスルホン酸基を有する基で置換された基を表し、pは1以上の整数を表す。
【0048】
式2中のLA2の2価の基、及び、Arのは式1中におけるLの2価の基、及び、Arの形態と同様であり、好適形態もすでに説明したとおりである。また、式中pは1以上の整数であり、特に制限されないが、6以下が好ましく、4以下がより好ましい。
なお、式中、複数あるLA2、及び、Arはそれぞれ同一でも異なってもよい。
また、式2中Lは、単結合、又は、2価の基を表し、Lの2価の基は、すでに説明した式1中のLの形態と同様であり、好適形態もすでに説明したとおりである。
【0049】
より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、特定単位は以下の式3で表される単位がより好ましい。
【0050】
【化7】
【0051】
式3中、LA3、及び、LB2はそれぞれ独立に単結合、又は、2価の基であり、その形態、及び、好適形態は、式2中のLA2、及び、Lとしてすでに説明したとおりである。また、式3中、rは1~6の整数を表し、1~4の整数が好ましい。
また、式3中、Xはすでに説明したスルホン酸基含有基であり、その形態、及び、好適形態はすでに説明したとおりである。また、式3中、tは1~4の整数を表し、1~3が好ましく、2~3がより好ましい。また、式3中複数あるLA3、及び、Xは同一でも異なっていてもよい。
【0052】
特定単位としては、下記式4で表される単位が更に好ましい。
【0053】
【化8】
【0054】
式4中、X41~X44はそれぞれ独立にスルホン酸基含有基を表し、その形態、及び、好適形態はすでに説明したとおりである。また、式4中、q1~q4はそれぞれ独立に0~4の整数を表し、q1~q4の和(q1+q2+q3+q4)は1以上である。
式4で表される特定単位としては、特に制限されないが、例えば、以下の式で表される単位が挙げられる。
【0055】
【化9】
【0056】
式4で表される特定単位としては、以下の式で表される単位がより好ましい。
【化10】
【0057】
特定単位の他の具体例としては、特に制限されないが、以下の式で表される単位が挙げられる。
【0058】
【化11】
【0059】
(他の単位A)
特定高分子が有する上記以外の単位Aとしては、例えば、以下の式NF1で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0060】
【化12】
【0061】
式NF1中、Xはすでに説明したスルホン酸基含有基を表し、特に制限されないが、例えば以下の式NF2で表される基が好ましい。
【0062】
【化13】
【0063】
式NF2中、Lは、酸素原子を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であって、その水素原子の少なくとも1つ(好ましくはすべて)がハロゲン原子(好ましくはフッ素原子)で置換された基を表す。
特に制限されないが、Xの具体例としては、以下の式NF3-1~式NF3-4で表される基が挙げあれる。なお、下記式中*は結合位置を表す。
【0064】
【化14】
【0065】
特定高分子は、単位A(スルホン酸基含有基を有する単位)の1種を単独で有してもよく、2種以上を有していてもよい。2種以上の単位Aを有する場合(共重合体である場合)、それらの配列としては特に制限されず、ランダム、ブロック、及び、交互のいずれであってもよい。
【0066】
特定高分子中における単位Aの含有量としては特に制限されないが、単位Aは特定高分子の全繰り返し単位中、1~100モル%が好ましく、60~100モル%がより好ましい。特定高分子が、2種以上の単位Aを含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0067】
(スルホン酸基含有基を有しない繰り返し単位)
特定高分子はスルホン酸基含有基を有しない繰り返し単位(以下「単位B」ともいう。)を有していてもよい。単位Bとしては特に制限されないが、すでに説明した式2~式4で表される繰り返し単位において、スルホン酸基含有基を水素原子で置き換えた繰り返し単位、及び、フルオロオレフィンに基づく繰り返し単位等が挙げられる。
【0068】
フルオロオレフィンは、炭化水素系オレフィンの水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された化合物であり、CH=CF、CF=CF、CF=CFCF、及び、CHF=CHCF等が挙げられ、CF=CFが好ましい。
【0069】
特定高分子が単位Aと単位Bとを有する場合、それらの配列としては特に制限されず、ランダム、ブロック、及び、交互のいずれであってもよい。
【0070】
特定高分子中における単位Bの含有量としては特に制限されないが、特定高分子の全繰り返し単位中、0~99モル%が好ましく、0~40モル%がより好ましい。特定高分子が、2種以上の単位Bを含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0071】
特定高分子の分子量としては特に制限されないが、一般に20000~500000が好ましく、50000~300000がより好ましい。
【0072】
特定高分子の製造方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。特定高分子の製造方法としては、例えば、国際公開2016/072350号の0007~0029段落に記載されており、上記は本明細書に組み込まれる。
より具体的には、特定高分子は、芳香族時ハロゲン化合物と、芳香族ジヒドロキシ化合物とを用いて、非プロトン性極性溶媒中、炭酸カリウムの存在下で脱塩重縮合する方法が挙げられ、一例を以下のスキーム1に示した。
【0073】
【化15】
【0074】
上記スキーム1中、ビス(4-フルオロフェニル)スルホンのスルホン化、及び、再結晶は、例えば以下の方法で行うことができる。まず、ビス(4-フルオロフェニル)スルホンと30質量%発煙硫酸との混合物を加熱し(例えば120℃で12時間)、加熱後の混合物を食塩水に中に注いで生成物を沈殿させ、上記沈殿をろ過してから水に再度溶解し、NaOH水溶液により中和する。次に、食塩を添加して粗生成物の沈殿を得て、粗生成物を水-エタノール混合液で再結晶化すればよい。このようにしてスルホンジフェニルスルホン(上記スキーム中「SFPS」と記載した。)が得られる。
【0075】
次に、上記SFPSと4,4′-ビフェノール(上記スキーム中「BP」と記載した。)とを脱塩重縮合させることにより、2S-PPSU(1個の繰り返し単位につき、2つのスルホン酸基(上記スキーム1中では対イオンNaと塩を形成している)が導入された「2スルホン化ポリフェニルスルホン」)が得られる。なお、式中nは2以上の整数を表す。
【0076】
脱塩重縮合の方法としては、例えばSFPS、BP、KCO、DMSO(ジメチルスルホキシド)、及び、トルエンを混合し、この混合物を窒素ガス雰囲気下で加熱する方法(例えば、140℃で24時間)が使用できる。なお、重合後、硫酸中で重合物を沈殿させ、これをろ過して粗生成物を得た後、得られた粗生成物を水に再溶解し、透析し、脱水して乾燥させてもよい。さらに得られた重合体を硫酸で洗浄して、スルホン酸基を活性化(-SONaを-SOHに)させてもよい。
【0077】
特定高分子の製造方法としては、例えば、以下スキーム2に記載の方法も使用できる。
【化16】
【0078】
2S-PPSU、及び、濃硫酸を混合し、この混合物を60℃で2日間加熱し、加熱後の混合物を氷水中に注ぎ込み、透析し、脱水して真空オーブン中で80℃で2日間乾燥させることで、上記スキームに記載したとおり4S-PPSU(1個の繰り返し単位につき、4つのスルホン酸基が導入された「4スルホン化ポリフェニルスルホン」)が得られる。なお、スキーム2中n1、n2は2以上の整数を表す。
【0079】
また、同様に、PPSU(ポリフェニルスルホン)、及び、30wt%発煙硫酸を混合し、この混合物を50℃程度で3日間以上加熱してスルホン化することで、D6S-PPSU(1個の繰り返し単位につき、6つのスルホン酸基が導入された「6スルホン化ポリフェニルスルホン」)が得られる。この反応をスキーム3に示した。なお、スキーム3中、n1、n2は2以上の整数を表す。
【化17】
【0080】
特定高分子は、スルホン酸基を有するため、特定高分子が有する電子密度の高い炭素原子に結合した活性水素原子との間で脱水反応を起こさせることで、架橋構造を形成できる。電子密度の高い炭素原子としては特に制限されないが、芳香族環に結合した水素が挙げられる。
特に、特定高分子が式1で表される部分構造を有する場合、特定高分子の分子内、及び/又は、分子間において、架橋構造を容易に形成できる点で優れている。
このような特定高分子の架橋反応の例を以下のスキーム4に示す。なお、スキーム4中、nは2以上の整数を表す。
【0081】
【化18】
【0082】
上記架橋反応は、典型的には必要に応じて脱水剤の存在下で特定高分子を加熱することで進行できる。
脱水剤を用いる場合、公知の脱水剤を使用でき、特に制限されないが、五酸化リン、及び、ポリリン酸等が挙げられ、これらを溶媒に溶解して液状の脱水剤として使用してもよい。溶媒としては、メタンスルホン酸、及び、トリフルオロメタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸;クロロベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸;等が挙げられる。
架橋反応の条件としては特に制限されないが、例えば、特開2007-70563号公報に記載の条件を適用可能である。
【0083】
〔中空管状体〕
本組成物は、イモゴライト、及び、ハロイサイトからなる群より選択される少なくとも1種の中空管状体(特定中空管状体)を含有する。より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、特定中空管状体としてはイモゴライトが好ましい。
【0084】
本組成物における特定中空管状体の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、一般に組成物中における特定高分子の含有量を100質量部としたとき、0.0001~10質量部が好ましい。
【0085】
なかでも、特定高分子が特定単位を有する場合、特定中空管状体の含有量としては特に制限されないが、組成物中における特定高分子の含有量を100質量部としたとき0.1~5質量部がより好ましく、0.6~1.8質量部が更に好ましい。特定中空管状体の含有量が0.6~1.8質量部であると、得られる硬化物は高温低湿下におけるより優れたプロトン伝導性、より優れた機械特性(引張強度、及び、破断伸び)、より優れた吸水率、より優れたイオン交換容量を有する。
【0086】
また、特定高分子が式NF1で表される単位を有する場合、特定中空管状体の含有量としては特に制限されないが、組成物中における特定高分子の含有量を100質量部としたとき0.01~5質量部が好ましく、0.01~0.08質量部がより好ましく、0.01~0.04質量部が更に好ましい。特定中空管状体の含有量が0.01~0.08質量部であると、得られる硬化物は高温低湿下におけるより優れたプロトン伝導性を有し、0.01~0.04質量部であると、得られる硬化物は低温低湿下における更に優れたプロトン伝導性を有する。
【0087】
なお、本組成物は、特定中空管状体の1種を単独で含有してもよく、2種を含有していてもよい。本組成物が、2種の特定中空管状体を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0088】
(イモゴライト)
イモゴライトとは、火山灰、及び、軽石等の降下火山噴出物を母材とする土壌に現れる天然の粘土成分の一種で、ナノサイズの中空管状アルミノシリケート(アルミニウムケイ酸塩)である。
イモゴライトは、AlSiO(OH)の一般式を有し、多数の≡Si-O-Al≡結合で構成されている。形状としては中空管状であり、一般に、外径1.5~3.0nm、内径0.5~1.5nm、長さ10nm~10μmのナノチューブ状構造である。
【0089】
なお、イモゴライトは、公知の方法で合成したものでもよいし、天然に産出するものを精製したものでもよい。合成方法としては、例えば、Farmer V. V. et al., J. Chem. Soc. Chem. Commun. 13, 462-763 (1977)、Wada S. et al., J. Soil Sci. 30, 347-355 (3) (1979)、米国特許第4152404号等に記載されている方法が挙げられる。
【0090】
(ハロイサイト)
ハロイサイトは天然に産出するケイ酸塩鉱物であり、カオリナイトと同様の組成を有するが、層間に追加の水分子を含み、カオリナイトで一般に観察される板状形態と比較して中空管状形態を有する。
その完全に水和した形態は、AlSi(OH)-2HOにより表され、1:1のアルミニウム対ケイ素比を有する。
【0091】
ハロイサイトの外面は、一般にケイ酸塩SiO 層を含み、内面はアルミナAl 層を含む。ハロイサイトの内径は、例えば、30~250nmが好ましく、長さは200~400nmが好ましい。
【0092】
ハロイサイトは、天然のもの、合成のものいずれも使用可能である。合成ハロイサイトは、長石をソックスレー抽出器などで溶脱することにより得られる。(W.E,Parham,Clays Clay Miner,.17,13(1969))。
【0093】
〔その他の成分〕
組成物は特定高分子、及び、特定中空管状体を含有していれば本発明の効果を奏する範囲内において他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、溶媒、及び、架橋剤等が挙げられる。
【0094】
(溶媒)
組成物が含有する溶媒としては特に制限されないが、水、有機溶媒、及び、これらの混合物等が挙げられる。なかでも、より簡便に組成物が得られる点で、有機溶媒としては親水性有機溶媒が好ましい。
親水性有機溶媒としては特に制限されないが、例えば、水溶性アルコール系、水溶性ケトン系、水溶性エステル系、水溶性エーテル系(例えば、グリコールジエーテル)、スルホン系、スルホキシド系、及び、ニトリル系等が挙げられ、スルホキシド系が好ましい。
【0095】
水溶性アルコール系としては、例えば、グリコール等のアルカンジオール(例えば、アルキレングリコールを含む)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のアルコキシアルコール(例えば、グリコールモノエーテルを含む)、メタノール等の飽和脂肪族一価アルコール、アリルアルコール等の不飽和非芳香族一価アルコール、及び、テトラヒドロフルフリルアルコール等の環構造を含む低分子量のアルコールが挙げられる。
【0096】
水溶性ケトン系としては、例えば、アセトン、プロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、2-ブタノン、5-ヘキサンジオン、1,4-シクロヘキサンジオン、3-ヒドロキシアセトフェノン、1,3-シクロヘキサンジオン、及びシクロヘキサノンが挙げられる。
水溶性エステル系としては、酢酸エチル、エチレングリコールモノアセタート、ジエチレングリコールモノアセタート等のグリコールモノエステル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセタート、及びエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート等のグリコールモノエーテルモノエステルが挙げられる。
【0097】
スルホン系としては、例えば、スルホラン、3-メチルスルホラン、及び、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。
スルホキシド系としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
ニトリル系溶剤としては、アセトニトリル等が挙げられる。
【0098】
組成物における溶媒の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、一般に、組成物の全固形分が1~30質量%に調整されることが好ましい。
なお、組成物は、溶媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の溶媒を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0099】
(架橋剤)
組成物が含有する架橋剤としては特に制限されない。架橋剤としては、特定高分子が有するスルホン酸基含有基のスルホン酸基と反応しうる反応性置換基を2つ以上有しているものが好ましく、例えば、ヒドロキシ基を2つ以上有する化合物が好ましく、より具体的には、多価アルコール等が好ましい。
【0100】
組成物が架橋剤を含有する場合、組成物中における架橋剤の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、一般に組成物中における特定高分子の含有量を100質量部としたとき、0.001~20質量部が好ましい。なお、組成物は、架橋剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の架橋剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
架橋反応の方法としては特に制限されないが、国際公開2017/029967号等に記載の方法が使用できる。
【0101】
〔組成物の製造方法〕
組成物の製造方法としては特に制限されず、上記の各成分を混合して製造することができる。
【0102】
〔用途〕
上記組成物は、高温低湿下においても優れたプロトン伝導性を有する硬化物を形成できる。そのため、硬化物を固体電解質として固体高分子形燃料電池(PEFC)等に使用することができる。すなわち、上記組成物は、固体高分子電解質の製造用として優れている。
また、上記硬化物はイオン(カチオン)交換膜としても使用することができ、上記硬化物を含むイオン交換膜としては、例えば、透水性支持体と、上記支持体上に配置された層状の硬化物とを有するカチオン交換膜等が挙げられる。上記カチオン交換膜は、例えばアニオン交換膜と併用して、電気化学測定装置、電気分解装置、及び、排水処理装置等に使用することができる。
【0103】
[硬化物]
本発明の実施形態に係る硬化物(以下「本硬化物」ともいう。)は、すでに説明した組成物を硬化して得られた硬化物である。なお、本明細書において、硬化物とは、組成物中の特定高分子を分子間、及び/又は、分子内で架橋反応させて得られたもの(架橋物)、並びに、組成物が溶媒を含有する場合、上記溶媒を揮発させて固形分を乾固させたもの(乾固物)であってもよく、より優れた機械特性を有する点で、架橋物が好ましい。
【0104】
硬化物の製造方法としては特に制限されず、公知の方法で製造することができる。組成物にエネルギーを付与することにより、乾固物である本硬化物が得られ、又は、特定高分子の架橋反応が進行し、架橋物である本硬化物が得られる。
【0105】
エネルギー付与の方法としては特に制限されないが、より容易に硬化物が得られる点で、組成物を加熱する方法が好ましい。
加熱の温度としては特に制限されないが、一般に100~250℃が好ましく、120~200℃がより好ましい。
【0106】
硬化物を製造する方法としては特に制限されないが、より容易に硬化物を製造できる点で、以下の各工程を有することが好ましい。
・特定高分子と第1溶媒とを混合し、特定高分子分散液を調製し、特定中空管状体と第2溶媒とを混合し、特定中空管状体分散液をそれぞれ調製する工程(分散工程)
・上記特定高分子分散液と特定中空管状体分散液とを混合し、組成物を調製する工程(組成物調製工程)
・基材上に組成物を塗布し、組成物層を形成する工程(組成物層形成工程)
・組成物層を加熱して、硬化物を得る工程(硬化工程)
以下では各工程について詳述する。
【0107】
(分散工程)
分散工程は、特定高分子と第1溶媒(第1液)、及び、特定中空管状体と第2溶媒(第2液)とをそれぞれ混合し、特定高分子分散液、及び、特定中空管状体分散液を調製する工程である。特定高分子、及び、第1溶媒、並びに、特定中空管状体、及び、第2溶媒をそれぞれ混合する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、特定高分子(又は特定中空管状体)の粉末を溶媒に添加し、撹拌する方法が挙げられる。このとき、予め加熱乾燥させた特定高分子(又は特定中空管状体)を使用してもよい。使用する原料、及び、量比等はすでに説明したとおりである。
【0108】
なお、第1溶媒と第2溶媒とは同一でも異なってもよく、それぞれの形態は組成物が含有しうる溶媒としてすでに説明したとおりである。第1溶媒と第2溶媒とが異なる溶媒である場合、互いに混和可能であることが好ましい。
なお、組成物が架橋剤を含有する場合、第1液、及び/又は、第2液に必要量の架橋剤を分散させればよい。
【0109】
(組成物調製工程)
組成物調製工程は第1液と第2液とを混合し、組成物を調製する工程である。混合方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。
【0110】
(組成物層形成工程)
組成物層形成工程は基材上に組成物を塗布し、組成物層を形成する工程である。基材としては特に制限されず、ガラス、シリコンウェハ、及び、樹脂基材等が挙げられる。
基材上への組成物の塗布方法としては特に制限されず、スピンコート、スリット塗布、インクジェット法、スプレー塗布、回転塗布、流延塗布、ロール塗布、及び、スクリーン印刷法等の各種の塗布方法が挙げられる。
なお、組成物層形成工程は、得られた組成物層を加熱し、溶媒を除去するための工程を更に有していてもよい。この際、加熱温度としては特に制限されないが、例えば、室温~120℃が好ましい。
【0111】
(硬化工程)
硬化工程は、組成物層を加熱して、硬化物を得る工程である。組成物層を加熱する方法としては特に制限されないが、基材と組成物層とを有する積層体を所定の温度に制御されたオーブンに載置する方法等が挙げられる。
加熱温度としては特に制限されないが、一般に100~250℃が好ましい。加熱時間としては特に制限されないが、一般には1分~48時間が好ましい。加熱時の雰囲気は空気下、又は、真空状態であってもよいし、ガス(例えば窒素ガス、及び、酸素ガス等)雰囲気であってもよい。
【0112】
硬化物の製造方法としては、上記工程以外の工程を有していてもよい。上記以外の工程としては、例えば、硬化物を洗浄する洗浄工程、及び、洗浄後の硬化物を乾燥させるための乾燥工程等が挙げられる。
【0113】
(洗浄工程)
洗浄工程は硬化物を洗浄し、未反応の特定高分子等を除去するための工程である。洗浄方法としては特に制限されないが、洗浄液に硬化物を浸漬し、除去対象物を洗浄液に溶出させる方法が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られる点で、アルカリ洗浄液と、酸洗浄液とを順次用いて洗浄することが好ましい。
【0114】
アルカリ洗浄液としては特に制限されないが、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、及び、水酸化カルシウム水溶液等のアルカリ金属の水酸化物の水溶液等が挙げられる。
【0115】
酸洗浄液としては特に制限されないが、硫酸等が挙げられる。硫酸で洗浄することにより、塩を形成した状態のスルホン酸基を解離させることができるため、より優れたプロトン伝導性を有する硬化物が得られやすい。以下では、酸洗浄を含む洗浄工程を活性化処理という場合がある。
【0116】
なお、酸洗浄液とアルカリ洗浄液以外にも、水を用いて洗浄することも好ましい。例えば、アルカリ洗浄、水洗浄、酸洗浄、水洗浄の順に順次洗浄液を変更して洗浄する形態が好ましい。
【0117】
洗浄の際の洗浄液の温度としては特に制限されないが、一般に、10~150℃が好ましく、30℃~100℃がより好ましい。
【0118】
(乾燥工程)
乾燥工程は、洗浄後の硬化物を乾燥させて乾燥済み硬化物を得る工程である。乾燥方法としては特に制限されないが、硬化物を加熱して、又は、加熱せずに、保持する方法が挙げられる。加熱する場合、温度としては特に制限されないが、一般に、30~80℃が好ましい。
【0119】
〔用途〕
上記硬化物は、高温低湿下においても優れたプロトン伝導性を有する。更に、硬化物が架橋物である場合、架橋構造によって、より優れた力学特性も有する。
本硬化物は上記の様な特性を有するため、固体電解質として固体高分子形燃料電池(PEFC)等に使用することができる。
【0120】
[固体高分子形燃料電池]
本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池は、すでに説明した硬化物を有する電解質層と、上記電解質層を両側から挟む一対の触媒層と、上記触媒層の上記硬化物とは反対側の面にそれぞれ配置されたガス拡散層とを有する積層体を有する固体高分子形燃料電池(以下、「本固体高分子形燃料電池」ともいう。)である。
【0121】
図1は本固体高分子形燃料電池の分解斜視図であり、図2は、上記固体高分子形燃料電池が有する積層体の断面図である。
図1に示すように固体高分子形燃料電池10は積層体11と、積層体11を両側から挟むガス拡散層12及び13と、それぞれのガス拡散層において、固体高分子形燃料電池10とは反対側の面に配置されたセパレータ14及び15とを備えている。また、図2に示すように、積層体11は、硬化物を有する電解質層21と、電解質層を両側から挟む触媒層22、及び、23とを有している。
【0122】
ここで、セパレータ14及び15はそれぞれ導電性を有し、ガスの透過性が低い材料からなる。このような材料としては、特に制限されないが、例えば、耐食処理が施された金属板、及び、焼成カーボン等のカーボン系材料等が挙げられる。
【0123】
セパレータ14は、ガス拡散層12に面して配置され、ガス拡散層12と面する側に櫛形構造からなる流路16を備えており、反応ガスが流通できるよう構成されている。また、同様の流路17がセパレータ15にも設けられている。
また、セパレータ14の流路16の反対側の面には、冷却水流路18が形成され、セパレータ15の流路17の反対側にも、冷却水流路19が形成されている。
【0124】
燃料ガスは、まずセパレータ14の流路16を通り、酸化剤ガスは、まずセパレータ15の流路17を通る。
燃料ガス(例えば、水素、及び、メタン等)は、セパレータ14の流路16を通るうちに、ガス拡散層12を介して、積層体11に供給される。一方、酸化剤ガス(酸素、及び、空気等)は、セパレータ15の流路17を通るうちに、ガス拡散層13を介して、積層体11に供給される。
ガス拡散層12及び13はともに、導電性が高く、かつガスの拡散性が高い材料から成る。この材料としては、特に制限されないが、多孔質材料が好ましい。
ガス拡散層12及び13の厚みは、特に制限されないが、一般にそれぞれ50~1000μmが好ましい。
【0125】
積層体11は、電解質層21と、電解質層21の一方の面に配置された触媒層22と、他方の面に配置された触媒層23とを有している。
【0126】
積層体11は層状に形成された電解質層21を有する。電解質層21が有する硬化物の形態はすでに説明したとおりであり、好適形態も同様であるので、説明を省略する。
電解質層21の厚みは、特に限定されないが、一般に、1~500μmが好ましい。厚みが1μm以上であると、作製及び取り扱いがより容易である点で好ましい。一方、厚みが500μm以下であると、膜抵抗がより小さい点で好ましい。
【0127】
触媒層22及び23は、それぞれ触媒粒子と電解質とを含む。平面から見たときの形状は特に問わないが、略矩形状であると形成が容易である。
【0128】
触媒粒子としては特に制限されないが、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、及び、オスミウム等の白金族元素が使用できる。また、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、及び、アルミニウム等の金属、並びに、これらの合金、酸化物、及び、複酸化物等も使用できる。
触媒層22及び23に用いる電解質は、イオン伝導性を有するものであればよい。
上記固体高分子形燃料電池によれば、硬化物が優れたプロトン伝導性を有するため、結果としてより効率的に電流生成が可能となる。
【0129】
[イオン交換膜]
本発明の実施形態に係るイオン交換膜は、すでに説明した硬化物を有するイオン交換膜である。
上記硬化物は、カチオン交換膜として使用できるため、イオン交換膜としては、上記硬化物のみから形成されていてもよいが、より優れた耐久性を有する点で、基材と、基材上に形成された上記硬化物を含有する層(硬化物層)とを有する積層体であることが好ましい。
【0130】
基材としては特に制限されないが、透水性を有する基材が好ましい。透水性のある基材としては、典型的には多孔質部材が挙げられ、多孔質部材としては、例えば、化学的に安定な無機酸化物を含有する連続的な無機酸化物多孔質膜が挙げられる。無機酸化物としては、特に制限されないが、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、及び、酸化ニッケル等が挙げられる。また、多孔質部材としては、ハロゲン化ポリマーを有する多孔質ポリマー等を用いることもできる。
【0131】
また、積層体であるイオン交換膜は、基材において、上記硬化物層が配置された面とは反対側の面に更にアニオン交換膜を有していてもよい。アニオン交換膜としては特に制限されず、公知のアニオン交換膜を用いることができる。
本硬化物は優れたイオン伝導性を有するため、上記イオン交換膜は優れたイオン伝導性を有する。
【0132】
[電気化学セル]
本発明の実施形態に係る電気化学セルは、上記イオン交換膜と、上記イオン交換膜により互いに隔離された一対の電極とを有する電気化学セルである。図3には本発明の実施形態に係る電気化学セルの模式図を示した。
電気化学セル30は、一対の電極(電極31、及び、電極32)を有し、これらの電極が、イオン交換膜33により互いに隔離されている。また、電極31、32、イオン交換膜33は、容器34内において、電解液35と接するように配置されている。なお、電極31、及び、32はそれぞれ図示しないポテンシオ/ガルバノスタットと電気的に接続されており、電流、及び、電位のそれぞれを制御、及び、測定できるよう構成されている。
【0133】
また、電気化学セル30は一対の電極を有しているが、電気化学セルとしては上記に制限されず、更に他の電極を有していてもよい。その場合、他の電極を参照電極とすると、電極31、及び、電極32の電極電位をより正確に制御、及び、測定できる点で好ましい。
上記電気化学セルは、本発明の実施形態に係るイオン交換膜を有するため、より効率的に電気化学反応を実施することができる。
【0134】
[水電解方法]
本発明の実施形態に係る水電解方法は、上記電気化学セルに原料水を供給する工程と、上記一対の電極間に電流を流して、上記原料水を電気分解する工程とを有する水電解方法である。上記方法によれば、原料水を電気分解して水素と酸素を製造することができる。
上記水電解方法は、すでに説明した優れたイオン伝導性を有するイオン交換膜を有する電気化学セルを用いるため、より効率的に水を電解することができる。上記水電解方法は上記電気化学セルを用いること以外の電解条件(原料水、及び、電流密度等)としては公知の方法を適用可能である。公知の方法としては、例えば、特開昭57-131376号公報等に記載されている。
【0135】
[水処理方法]
本発明の実施形態に係る水処理方法は、上記電気化学セルに汚染物質を含む原水を供給する工程と、上記一対の電極間に電流を流して、上記汚染物質を分解する工程とを有する水処理方法。
本発明の実施形態に係る水処理方法により処理される汚染物質としては、電気分解により酸化分解される物質(以下、「特定物質」ともいう。)が挙げられる。特定物質は、有機物であってもよく、無機物であってもよい。
【0136】
特定物質としては特に制限されないが、例えば、アルカン、アルケン、及び、アルキン等の脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素;アルコール;アルデヒド;ケトン;アミン;酢酸等のカルボン酸;エステル、アミド、及び、酸無水物等のカルボン酸誘導体;ハロゲン化炭化水素;フェノール類;スルホキサイド、メルカプトン、チオール、及び、ポリスルホン等の含硫黄有機化合物等;が挙げられる。
【0137】
特定物質の他の例としては、高分子化合物が挙げられる。
また、特定物質のなかでも、無機化合物としては、例えば、アンモニア;硝酸イオン、亜硝酸イオン;シアン化ナトリウム等のシアン類;尿素等の窒素化合物;硫化水素等の硫黄化合物等が挙げられる。原水には、その他のイオン類、例えば無機又は有機酸イオンが含まれていてもよい。
【0138】
原水は、懸濁液、乳化液、及び、水溶液のいずれでもよい。すなわち、特定物質は溶解していてもよく、分散していてもよい。
電気分解の条件としては特に制限されず、公知の温度、圧力、及び、電流密度等とすればよい。
【実施例
【0139】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0140】
[実施例1]
特定高分子としてナフィオン(登録商標)と、特定中空管状体としてイモゴライトとを含有する組成物の硬化物(組成物から溶媒を蒸発させて得られた乾固物)を以下のとおり調製した。
【0141】
まず、イモゴライト(imogolite、一般式AlSiO(OH))は、M.Suzuki,H.Sato,C.Ikeda,R.Nakanishi,K.Inukai,M.Maeda,The Clay Science Society of Japan,46(4)(2007)194-199.の195ページ「2.実験方法」に記載した方法により合成し、0.1質量%イモゴライト(Imogolite)水分散液として準備した。
【0142】
また、ナフィオンは、富士フイルムワコーケミカル社製「5%ナフィオン(TM)分散溶液DE520 CSタイプ」を準備した。上記は、ナフィオンの5質量%分散液であり、溶媒として、1-プロパノール、水、及び、エタノール等を含有している。なお、ナフィオン(エタンスルホン酸,2-[1-[ジフルオロ[(トリフルオロエテニル)オキシ]メチル]-1,2,2,2-テトラフルオロエトキシ]-1,1,2,2-テトラフルオロ-,ポリマー)はテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位と、スルホン酸基を有するパーフルオロ側鎖を有する単位とを有するプロトン伝導性高分子であり、一般に、以下の式で表される繰り返し単位を有する共重合体である。
【0143】
【化19】
【0144】
バイアル瓶に5%ナフィオン分散液の7gとイソプロパノールの1gを加えて混合し、混合液を得た。次に、上記混合液(固形分)中におけるナフィオンの含有量を100質量部としたとき、イモゴライトの含有量が0.02質量部となるよう上記のイモゴライト分散液を加えて攪拌し、組成物1を得た。
【0145】
次に、乾燥時の膜の厚みが0.046mmとなるように、シャーレに組成物1を入れ、組成物1の塗膜(組成物層)を形成した。次に、上記塗膜をを60℃で24時間乾燥させ、130℃で12時間熱処理を行い、実施例1の硬化物(乾固物)を得た。
【0146】
[実施例2]
ナフィオンの含有量を100質量部としたとき、イモゴライトの含有量を0.05質量部となるよう調整したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の硬化物(乾固物)を得た。
【0147】
[実施例3]
特定高分子としてSPPSU(スルホン化ポリフェニルスルホン)と、特定中空管状体としてイモゴライトとを含有する組成物の硬化物(架橋物)を以下のとおり調製した。
【0148】
まず、SPPSU(スルホン化ポリフェニルスルホン)を以下のとおり合成した。まず、PPSU(ポリフェニルスルホン)ビーズ35gと2L硫酸を混合し、60℃で2日間保持してスルホン化した。その後、スルホン化したPPSUを冷却して析出させ、透析膜を用いてpH7まで洗い、水を除去することでSPPSUを得た。得られたSPPSU中のスルホン酸基の含有量を滴定法により求めたところ、全繰り返し単位中におけるスルホン酸基の量は2個であった。
【0149】
バイアル瓶に、上記で合成したSPPSUの0.5gと10mlのDMSO(ジメチルスルホキシド)とを加え、混合液を得た。次に、上記混合液中におけるSPPSUの含有量を100質量部としたときのイモゴライトの含有量が0.5質量部となるよう上記のイモゴライト分散液を加えて攪拌し、組成物3を得た。
【0150】
その後、組成物3を80℃で撹拌しながら水を蒸発させた後、シャーレに入れて、110℃で24時間、120℃で24時間、150℃で24時間、180℃で24時間熱処理を行い、組成物3を硬化させ、膜(硬化物)を得た。
【0151】
次に、上記硬化物を沸騰水に2時間浸漬し、その後、80℃の1M HSOに2時間浸漬し、その後、沸騰水に2時間浸漬して活性化処理を行い、実施例3の硬化物(架橋物)を得た。
【0152】
[実施例4~5]
SPPSUの含有量を100質量部としたときのイモゴライトの含有量がそれぞれ1.0質量部、及び、2.0質量部となるよう調整したこと以外は実施例3と同様にして、実施例4、及び、実施例5の硬化物を得た。
【0153】
[比較例1]
5%ナフィオン分散液の7gを70φシャーレに入れて60℃で24時間乾燥させ、その後、130℃で12時間熱処理して、比較例1の硬化物(乾固物)を得た。
【0154】
[比較例2]
イモゴライト分散液を加えなかったこと以外は、実施例3と同様にして、比較例2の硬化物(架橋物)を得た。
【0155】
各硬化物について、使用した特定高分子の種類、使用した特定中空管状体の種類、特定中空管状体の含有量、及び、得られた硬化物(膜)の厚みを表1にまとめて記載した。なお、表1中「なし」と記載しているのは、特定中空管状体を用いなかったことを示している。
【0156】
【表1】
【0157】
[硬化物の評価]
実施例1~5、及び、比較例1~2の硬化物について、イオン交換容量、吸水率(water-uptake)、機械特性、及び、プロトン伝導度をそれぞれ以下の方法により測定した。結果をまとめて表2、及び、表3に示した。
【0158】
〔イオン交換容量(IEC:Ion exchange capacity)〕
イオン交換容量(meq./g)は、滴定法で評価した。すなわち、硬化物を80℃で乾燥後、2M NaClに浸し、その後、0.01M NaOHで適定した。IECは以下の式から算出した。
【0159】
(式)IEC (meq./g) = M/Wdry
(MはNaOHのモル濃度であり、VはpH7に適定した量(ml)であり、Wdryは乾燥した硬化物(膜)の質量(g)である。)
【0160】
〔吸水率(water-uptake)〕
吸水率(質量%)は、以下の方法により測定した。まず、硬化物を80℃に調整されたオーブン内に24時間保持し、乾燥させた。乾燥後の硬化物の質量はW(g)とした。次に、乾燥後の硬化物を、沸騰水に1時間浸漬した。次に、浸漬後の硬化物を沸騰水から取り除き、表面の水分を除去した後、秤量し、W(g)とした。硬化物の吸水率は下記の式によって計算した。
【0161】
(式)吸水率(Water Uptake、質量%)=(W-W)/W×100
【0162】
〔機械特性〕
硬化物の機械特性は引張強度(MPa)、及び、破断伸び(%)を引張試験機(Shimadzu、EZ-S)を用いて測定した。サンプルサイズはスーパーダンベルカッター(型式:SDMP-1000特、JIS K6251-7号規格に準拠)を用いて作製した。
【0163】
〔プロトン伝導度〕
硬化物のプロトン伝導度は、PSM1735アナライザ(Newtons4th)を備えた膜抵抗測定システムMTS740(Scribner Associates)を用いた4探針法により測定した。測定は、湿度を40、60、80、100、120℃で0~90%RHで実施した。また、インピーダンス測定は、印加電圧10mV(peak to peak)、周波数1Hz~1MHzで実施した。この値が大きいほうが、硬化物がより優れたプロトン伝導性を有することを表す。
【0164】
【表2】
【0165】
【表3】
【0166】
表2、及び、表3中、「IEC」とあるのは「イオン交換容量」を示し、「WU」とあるのは、「吸水率」を示し、「Stress」とあるのは引張強度を表し、「Strain」とあるのは破断伸びを表し、「Conductivity」とあるのは「プロトン伝導度」をあらわす。
【0167】
表2、に示した結果から、実施例1及び実施例2の硬化物は、比較例1の硬化物と比較して高温低湿下(120℃/40%RH)においても優れたプロトン伝導性を有していた。
また、表3に示した結果から、実施例3~5の硬化物は、比較例2の硬化物と比較して高温低湿下においても優れたプロトン伝導性を有していた。
【0168】
また、架橋物である実施例3の硬化物は、乾固物である実施例1の硬化物と比較してより優れた引張強度を有していた。
また、1分子中のスルホン酸基が2以上の高分子化合物の硬化物である実施例3の硬化物は、1分子中のスルホン酸基が1である高分子化合物の硬化物(乾固物)である実施例1の硬化物と比較して、より優れたイオン交換当量を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本組成物を用いて得られる硬化物は、優れたプロトン伝導性を有することに加えて、特に高温低湿下において優れたプロトン伝導性を有するため、自動車等に用いられる固体高分子形燃料電池に用いることができる。本組成物を用いて得られた硬化物を有する固体高分子形燃料電池は、高温低湿下においても優れた性能を発揮する。
また、本硬化物は優れたプロトン伝導性を有するため、イオン交換膜、電気化学セル、水電解方法、及び、水処理方法にも適用できる。いずれの場合も、本硬化物が有する高温低湿下における優れたプロトン伝導性のために、厳しい環境下においても所望の性能を発揮することができる。
【符号の説明】
【0170】
10 :固体高分子形燃料電池
11 :積層体
12、13 :ガス拡散層
14、15 :セパレータ
16、17 :流路
18、19 :冷却水流路
21 :電解質層
22、23 :触媒層
30 :電気化学セル
31、32 :電極
33 :イオン交換膜
34 :容器
35 :電解液
図1
図2
図3