(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物及び熱伝導性部材
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230822BHJP
C08L 51/02 20060101ALI20230822BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20230822BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20230822BHJP
C08F 251/02 20060101ALI20230822BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L51/02
C08K3/01
C08K7/02
C08F251/02
C08L1/02
(21)【出願番号】P 2019227166
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000190895
【氏名又は名称】新中村化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 聡一
(72)【発明者】
【氏名】西本 琢朗
(72)【発明者】
【氏名】明石 量磁郎
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110093012(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/01
C08F 251/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス材料中に、
セルロースナノファイバーと、セルロース誘導体にビニル系ポリマーがグラフトされた構造を備えるセルロース繊維分散用複合体と、放熱性無機粒子とを含有する、熱伝導性組成物。
【請求項2】
前記セルロース繊維分散用複合体は、セルロースの水酸基の一部に重合性不飽和基及び/又はチオール基が導入された反応性セルロース誘導体に対し、前記重合性不飽和基及び/又はチオール基を基点としてビニル系ポリマーがグラフトされた構造を備えるものである、
請求項1記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記放熱性無機粒子が、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、
請求項1から2までのいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記マトリックス材料として樹脂前駆体を含む、
請求項1から3までのいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記マトリックス材料として樹脂を含む、
請求項1から4までのいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれかに記載の熱伝導性組成物からなる、熱伝導性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーと放熱性無機粒子を含む熱伝導性組成物と、これを用いた熱伝導性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、電子部品の小型化、高密度化により発熱密度の増加が顕著となっており、各構成部材に使用される部品には熱伝導性の付与が求められている。
【0003】
熱伝導性の付与を具現化するには、金属・金属酸化物・金属窒化物・合金といった、熱伝導性の高い放熱性無機粒子を用いることが多い。一般的に複雑な形状をした電気部品の部材を作製するには、上述した材料を何らかのマトリックス材料に混合した複合材として用いることが、費用対効果の面から望ましい。しかし、マトリックス材料に用いられることが多い合成樹脂の熱伝導率は放熱性無機粒子の1/100程度以下であり、多量の放熱性無機粒子を混合する必要がある。一方、多量の放熱性無機粒子の添加は、成形性の劣化を招き、クラックやボイドの発生等、実用性を損なってしまうことがある。
【0004】
成形性の劣化を防ぐため、粒径の異なるフィラーを組み合わせて流動性を向上させる提案もなされている(例えば、特許文献1など参照)。しかしながら、硬化時のフィラー沈降による成型物のクラック発生を抑止するために詳細な粒径制御を実施する必要があるという問題点がある。
【0005】
また、マトリックス材料としてセルロースナノファイバーを用いた放熱材も提案されている(例えば、特許文献2など参照)。
【0006】
ここで、セルロースについて説明すると、セルロースは再生可能資源として紙や機能性材料として様々な用途に利用されている。また、セルロース繊維として、セルロースをナノレベルに解繊したいわゆるナノセルロースが新しい機能をもった材料として注目されている。
ナノセルロースには化学酸化処理による10nm以下の繊維径をもったセルロースナノファイバー(CNF)(TEMPO酸化CNFやリン酸化CNFと呼ばれ、シングルナノファイバーとも呼ばれる)、機械的・物理的な解繊による化学処理に比べて繊維径が大きなCNFや、ミクロフィブリル、パルプを強酸等で処理して結晶性の高い部分を取り出したセルロースナノクリスタル(CNC)、さらには微生物によって産生されたバクテリアセルロースなどが知られている。ナノセルロースは、カーボンファイバーやアラミド繊維に近い強度を持ち、鋼鉄の1/5の重量で、かつ5倍以上の強度である。
【0007】
特許文献2の技術は、セルロースナノファイバーが高い熱伝導率を有することに着目して、所定の化学修飾をしたセルロースナノファイバーをマトリックス材料として、熱伝導性無機粒子と複合化することにより、高い熱伝導率を有する放熱材を提案するものである。
【0008】
特許文献2の技術では、セルロースナノファイバーをマトリックス材料とするので、材料が固定的であり、幅広い分野への応用が困難である。
これに対し、本発明は、後述する通り、セルロース繊維をマトリックス材料とするのではなく、マトリックス材料にセルロース繊維を分散させるものである。
【0009】
そこで、次に、マトリックス材料へのセルロース繊維の分散に関する従来技術についてみると、まず、マトリックス材料にセルロース繊維を分散させた複合材料としては、フィルム材料、ガスバリア材料、粘度調整剤、潤滑剤、植物育成剤、熱硬化樹脂、UVや電子線などの放射線硬化樹脂、汎用樹脂との複合材料やゴムとの複合材料などとして広くその応用が期待されている。
そして、マトリックス材料へのセルロース繊維の分散、複合化には様々なアプローチがなされている。例えば、パルプと樹脂、さらには必要に応じて膨潤剤とを混合し、混練機を使って解繊する方法や、直径が10nm未満のシングルナノサイズのCNF分散溶液を樹脂に混合して同様に混練機を使って解繊する方法などである。
【0010】
ただし、これらの方法では、シングルナノレベルでの分散が困難で、狙った物性を得ることが難しいことが現状である。
その理由の一つは、セルロース繊維の多くはその表面に親水性官能基を持っているために水への親和性や分散性には優れるが、一般的に疎水性の高い樹脂への分散性は著しく悪いためである。特に、TEMPO酸化法やリン酸処理法で作製されたCNFはシングルナノレベルの繊維径であって有用であるが、表面にはカルボン酸塩基やリン酸塩基を持っているために疎水性樹脂への馴染みが極めて悪い。
【0011】
このようなセルロース繊維の分散性を改良するために、様々な技術検討がなされている。
その一つは、セルロース繊維の表面に存在する水酸基等を利用して化学反応によって疎水性官能基を導入する方法である。例えば、カプロラクトンのグラフト化(例えば、特許文献3など参照)や無水酢酸の付加反応によるアセチル化(例えば、特許文献4など参照)が知られている。
しかしながら、カプロラクトンのグラフトや無水酢酸等の付加反応によって疎水化する方法では、化学反応を伴うためにコストが著しく高くなること、また化学修飾によって導入された基の疎水性が十分ではなく分散できる樹脂が限られるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2005-281467号公報
【文献】特開2016-79202号公報
【文献】特開2011-68707号公報
【文献】特開2017-165946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、放熱性無機粒子を沈降させることなく成型することができ、高い熱伝導性の付与が可能な熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を備える。
すなわち、本発明に係る熱伝導性組成物は、マトリックス材料中に、セルロースナノファイバーと、セルロース誘導体にビニル系ポリマーがグラフトされた構造を備えるセルロース繊維分散用複合体と、放熱性無機粒子とを含有する。
また、本発明に係る熱伝導性部材は、上記本発明に係る熱伝導性組成物からなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セルロース繊維分散用複合体を用いることにより、セルロースナノファイバーを樹脂に十分に分散させることができ、セルロースナノファイバーの分散によって放熱性無機粒子の沈降を防ぐことも可能となるため、放熱性無機粒子を沈降させることなく成型することができ、放熱性無機粒子のみをマトリックス材料に混合分散するよりも高い熱伝導率を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性部材の好ましい実施形態について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0017】
〔セルロース繊維分散用複合体〕
本発明で用いるセルロース繊維分散用複合体(以下、単に「複合体」ということがある)は、セルロース誘導体にビニル系ポリマーがグラフトされた構造を備える。
【0018】
<セルロース誘導体>
セルロース誘導体は、セルロースの水酸基の一部が置換されたものである。ただし、本発明において、後述のビニル系ポリマーがグラフトされたものについては、「複合体」と称して、「セルロース誘導体」とは用語上区別する。
【0019】
セルロース誘導体としては、従来公知のセルロース誘導体を用いることができ、具体的には、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、トリアセチルセルロース、ニトロセルロース、カチオン化セルロースなどが挙げられる。
なかでも有機溶剤への溶解度の高さやビニル系ポリマーのグラフトし易さ、入手性の観点からエチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、トリアセチルセルロース、カチオン化セルロースが好ましい。
【0020】
これらの従来公知のセルロース誘導体には、通常、未修飾の水酸基が存在する。この水酸基を利用して、重合性不飽和基やチオール(メルカプト)基を導入することができる。このようにして重合性不飽和基やチオール基を導入することで、これらの官能基を基点として、後述するビニル系ポリマーのグラフトを容易に行うことができる。
【0021】
上記重合性不飽和基やチオール基の導入は、例えば、上述した従来公知のセルロース誘導体に対して、昭和電工製カレンズMOIやAOIなどのイソシアネート系(メタ)アクリレート化合物を付加反応させる、無水(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸などの無水物を付加反応させる、カルボジイミドなどの縮合剤を利用して(メタ)アクリル酸等を付加反応させる、(メタ)アクリル酸クロライド、チオール基をもった有機酸を反応させる等により、実施可能である。重合性不飽和二重結合又はチオール基をもった有機酸を例示すれば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、4-エテニル安息香酸、3-メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」の表記は、メタアクリル酸とアクリル酸の双方を含む表記である。「(メタ)アクリレート」などの表記も同様である。
【0022】
重合性不飽和基やチオール基の導入においては、公知技術同様に、各種の溶媒や触媒(有機金属材料、アミン等)を利用することができる。
また、導入される重合性不飽和基やチオール基の数は、セルロース誘導体1分子当たり平均で20以下であることが望ましい。20を超える数の導入ではグラフト重合時にゲル化する恐れがある。
上記の反応溶媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ピリジンなどの非プロトン性溶媒を、単独あるいは混合して使用することができる。
【0023】
本発明において、セルロース誘導体は、カチオン基を有していてもよい。
セルロース誘導体がカチオン基を有することで、特に、TEMPO酸化法やリン酸処理法で作製されたCNFの分散性に優れた複合体となる。これらのCNFは、その表面にカルボン酸塩基やリン酸塩基を持っているが、これらCNF表面の官能基と、セルロース誘導体のカチオン基との親和性により、CNFの分散が促進されるためである。
【0024】
カチオン基を有するセルロース誘導体としては、従来公知のカチオン化セルロースを用いても良いが、以下のようにして、カチオン基を有しないセルロース誘導体にカチオン基を導入することもできる。
すなわち、例えば、アミノ基を導入する方法として、塩化チオニル/アンモニアを反応させる方法、エポキシ基を導入した後にアンモニアや多価アミノ化合物を反応させる方法が知られている。さらには、アミノ基とカルボキシル基の双方を分子内にもった化合物を上記した縮合剤等を用いて反応させて導入する方法が実施できる。
上記の反応溶媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ピリジンなどの非プロトン性溶媒を、単独あるいは混合して使用することができる。
カチオン基は、セルロース誘導体1分子あたりに平均で1~30個の範囲が望ましい。
【0025】
<ビニル系ポリマー>
セルロース誘導体へのビニル系ポリマーのグラフトは、例えば、上述のようにして重合性不飽和基やチオール基が導入されたセルロース誘導体の存在下で、ビニル系モノマーをラジカル重合することにより行うことができる。重合性不飽和基やチオール基を基点としてビニル系ポリマーであるグラフト鎖が形成される。
【0026】
上記において、ビニル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル基炭素数1~20の(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、繰り返しユニット数が1~30のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、繰り返しユニット数が1~30のメトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、2-(メタ)アクロイロキシエチルアシッドホスフェート、スチレン、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、無水マレイン酸、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニルピロリドン、シリコーン系(メタ)アクリレート(JNC製、商品名サイラプレーン「FM-0711」、「FM-0721」、「FM-0725」等、信越化学社製:「X-22-174DX」、「X-22-2426」、「X-22-2475」等))、フッ素置換基含有(メタ)アクリレート(ダイキン社製の種々のフッ素置換アルキル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。
【0027】
また、ゲル化によって溶剤へ不溶化しない程度の量で、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレートやジビニルベンゼン等を利用することも可能である。また、これらの各モノマーは単独もしくは複数種を組み合わせて使用することができる。
【0028】
上記したビニル系モノマーの組み合わせによって生成するビニル系ポリマーの性質が変化し、特に有機溶剤や樹脂へのセルロースナノファイバーの分散性能が変わる。一般論として分散させる対象となる樹脂前駆体や樹脂との親和性の指標としてSolubility Parameter(SP)値が挙げられる。グラフトされたビニル系ポリマーと前記分散対象とのSP値を近い値とするような設計が望ましいものとなる。特に実験値や計算値上のSP値の差が1.0((cal/cm3)1/2)以内であることが望ましい。
また、ビニル系モノマーとして、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノマーやポリアルキレンオキサイド系のモノマー成分、特に、繰り返しユニット数が1~30のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、繰り返しユニット数が1~30のメトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートを使用すると、セルロースナノファイバー中に酸塩基等が存在した場合にも有効な相互作用の効果が期待できるため、共重合する一成分として使用することが望ましい。
【0029】
さらには分散対象の材料(特に樹脂)との相互作用を持ったビニル系モノマーを選択することも望ましい。相互作用とはアルキル基等の疎水性相互作用、水酸基、アミン、カルボキシル基、アミド基等の水素結合、芳香族環によるπ-πなどの共役系スタックなどが挙げられ、このような官能基をもったものを使用することで実現できる。
さらにはまた、生成したビニル系ポリマー中に反応性基を導入し、分散対象の樹脂等との結合を形成させることも可能である。その一つの方法は、前記したグリシジル(メタ)アクリレートや3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基をもったビニル系モノマーを共重合することである。他の方法としては、生成したビニル系ポリマー中の官能基、例えば水酸基やカルボキシル基等を利用して重合可能な(メタ)アクリレート基、ビニル基、アリル基等を化学反応で導入することである。このような反応性基の導入にはイソシアネート基含有(メタ)アクリレートであるカレンズMO-IやAO-I等(昭和電工製)、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどを使用した付加反応で実現できる。
【0030】
前記した重合性不飽和基またはチオール基を導入したセルロース誘導体とビニル系モノマーの重合にあたって、各々は重量比で1:99~97:3の範囲内で配合されることが好ましい。この範囲外であるとセルロースナノファイバーの分散剤としての効果が低くなる恐れがある。
なお、上記した重合において、ビニル系モノマーから形成されるビニル系ポリマーがすべてセルロース誘導体にグラフト(化学結合)される必要はない。ビニル系モノマーの単独重合によって生成するポリマーが含まれていてもよい。
【0031】
セルロース誘導体にグラフトして形成するビニル系ポリマーの分子量は、重量平均分子量で1000~50万の範囲から選択されることが好ましい。前記重量平均分子量が1000未満であると分散剤としての効果が低下する恐れがあり、また、前記重量平均分子量が50万を超えると粘度が高くなりすぎる傾向がある。
なお、セルロース誘導体、このセルロース誘導体にグラフトされるビニル系ポリマー、及びそれらの複合体の各重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値である。
【0032】
さらに形成されるセルロース誘導体とビニル系ポリマーとの複合体(セルロース繊維分散用複合体)の分子量は、重量平均分子量で5000~80万の範囲が好ましい。この重量平均分子量は、セルロース誘導体へ結合されたビニル系ポリマーと、結合体や結合されていないビニル系ポリマー(単独重合体)を含むものとする。
なお、GPC法によって測定される上記複合体の分子量は、セルロース誘導体固有の溶液特性が原因と思われるが、単純にセルロース誘導体とビニル系ポリマーとの総和とはならない場合がある。詳細は不明であるがセルロース誘導体にビニル系ポリマーが結合することによって、高分子鎖の広がり等やセルロース誘導体間の相互作用が変化する可能性がある。したがって、あくまでもGPC法での測定分子量となる。
【0033】
重合に使用可能な有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチルラクテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジヒドロターピネオールアセテート、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテートなどの1種か混合物が好適である。
【0034】
重合開始剤としては、例えば、過酸化物系やアゾ系の各種タイプのラジカル重合開始剤を使用することができる。また、重合時の濃度、開始剤濃度等は公知の技術の範囲内で実施可能である。
【0035】
セルロース誘導体にビニル系モノマーを重合した後、必要に応じて貧溶媒による沈殿精製を実施することも従前のポリマー精製と同様に可能である。未反応モノマー、副生成物やビニル系ポリマーの単独重合体等を除去することができる。
【0036】
〔熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性部材〕
次に、本発明の熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性部材について説明をする。
本発明の熱伝導性組成物(以下、単に「組成物」という場合がある。)は、上で詳述した複合体と、セルロースナノファイバーと放熱性無機粒子を含むものである。
以下、マトリックス材料として樹脂前駆体を含む第1の構成と、マトリックス材料として樹脂を含む第2の構成を、本発明に係る熱伝導性組成物の好適例として例示する。
【0037】
<第1の構成:樹脂前駆体分散組成物とその製造方法>
本発明の組成物の第1の構成は、前記複合体と、セルロースナノファイバーと、放熱性無機粒子と、樹脂前駆体を含む組成物である。
【0038】
セルロースナノファイバーと前記複合体を所定濃度で混合し、さらに有機溶剤と樹脂前駆体を加えて、均一な分散溶液とすることができる。
水媒体中にセルロースナノファイバーが分散した形態はCNFやCNCの市販品として入手可能であるが、例えば、これを原料として用いて水と有機溶剤を樹脂前駆体へと置換することによって、セルロースナノファイバーが樹脂前駆体に分散した組成物を製造することができ、さらに放熱性無機粒子を混合分散することで樹脂前駆体分散組成物となる。
【0039】
市販品やサンプルとして入手可能なセルロースナノファイバーとしては、王子ホールディングス製のスラリー状CNF(リン酸化処理品、名称:アウロ・ヴィスコ)、パウダー状CNF、日本製紙製のTEMPO酸化法CNF、中越パルプ製のNanoforest-S、大王製紙製の水分散CNF(名称:ELLEX-S)、第一工業製薬製のTEMPO酸化法による水分散型CNF(名称:レオクリスタ)などの繊維径が4nmから500nmのものが挙げられる。
【0040】
ここで、樹脂前駆体とは、重合反応等によって高分子材料を形成するものであり、(メタ)アクリレート系化合物、ビニル系化合物、アリル系化合物、酸無水物、アミン系化合物、イソシアネート系化合物、エポキシ化合物や反応性シリコーン化合物等が使用可能である。これらの中でも、特に、反応性と汎用性の高さから、(メタ)アクリレート系化合物、ビニル化合物やエポキシ化合物や反応性シリコーン化合物が好ましく使用される。
【0041】
(メタ)アクリレート系化合物としては、単官能(メタ)アクリレート化合物として炭素数1~30のアルキル系、メトキシエチレンオキサイド系、ビスフェノールA骨格系、芳香族系の(メタ)アクリレート化合物などが、二官能(メタ)アクリレート化合物としてエチレングリコール系、プロピレングリコール系、ビスフェノールA骨格系、フルオレン骨格系、トリシクロデカン骨格系等のジ(メタ)アクリレート化合物などが、それ以上の多官能(メタ)アクリレート化合物としてグリセリン骨格系(メタ)アクリレート化合物、(モノ-、ジ-、トリ-)トリメチロールプロパン骨格系、イソシアヌレート骨格系多官能(メタ)アクリレート化合物、(モノ-、ジ-、トリ-)ペンタエリスリトール骨格系多官能(メタ)アクリレート化合物などの多官能(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。
【0042】
ビニル化合物としては、ジビニルベンゼン、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0043】
エポキシ化合物としては、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系、ビスフェノールS、ノボラックフェノール系、レゾールフェノール系、ナフタレン系、ビフェニル系、およびこれらの水添化合物、イソシアヌレート系、ポリブタジエン系などの骨格をもったグリシジルエーテル系、グリシジルアミド系、グリシジルエステル系、脂環式エポキシ系などの多官能エポキシ化合物や反応性希釈剤である単官能等のエポキシ化合物が挙げられる。
【0044】
反応性シリコーン化合物としては、例えば信越化学工業製の種々のRTVシリコーンゴムやLIM(Liquid Injection Molding)用シリコーンが使用可能である。これに限定されず2液系等の縮合系、付加系、UV硬化系の種々のRTVシリコーンゴムやLIM用シリコーン材料を使用することができる。
【0045】
放熱性無機粒子としては、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化ホウ素、窒化ケイ素、シリカ(酸化ケイ素)、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、窒化アルミニウム等が挙げられる。また、黒鉛、金、銀、ニッケル、銅等の導電性を有する放熱性無機粒子であってもよい。放熱性無機粒子は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、黒鉛、窒化ホウ素、アルミナ、窒化アルミニウム及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0046】
放熱性無機粒子の平均粒子径を測定する方法としてはレーザー回折散乱法、遠心沈降法、コールター法や画像解析法等がある。本発明においては、平均粒子径として特に限定するわけではないが、レーザー回折散乱法で測定した値として例えば、0.1~1000μmが好ましく、0.5~500μmがより好ましい。
以下、放熱性無機粒子の平均粒子径の値について記載するときは、レーザー回折散乱法で測定した値を記載している。
【0047】
上記した中でも、熱伝導率とコストの観点から、アルミナ(酸化アルミニウム)及び窒化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0048】
アルミナ(酸化アルミニウム)は、化学的にも安定で、絶縁性にも優れており好ましい。特に、球状の酸化アルミニウムを用いることで高充填した際の粘度上昇を和らげることができる。酸化アルミニウム粒子の市販品としては、DAW-05(電気化学工業(株)製、平均粒子径5μm)、DAW-07(電気化学工業(株)製、平均粒子径8μm)、DAW-45(電気化学工業(株)製、平均粒子径45μm)等が挙げられる。
【0049】
窒化アルミニウムは高い絶縁性能を保有し、熱伝導率が酸化アルミニウムの約10倍と高い。配合することで非常に高い熱伝導率を得ることが可能である。窒化アルミニウム粒子の市販品としてはTFZ-A02P(東洋アルミニウム(株)製、平均粒子径1.5μm)、TFZ-A10P(東洋アルミニウム(株)製、平均粒子径10μm)、TFZ-A15P(東洋アルミニウム(株)製、平均粒子径15μm)が挙げられる。
【0050】
樹脂前駆体への分散の方法の一例としては、水分散系セルロースナノファイバー、前記複合体および前記有機溶剤と樹脂前駆体を混合し、その後、水と有機溶剤を加熱や減圧によって留去した後に放熱性無機粒子を混合する方法が例示できる。
【0051】
セルロースナノファイバーと複合体との配合は各重量比で1:0.01~1:10の範囲が好ましい。特に好ましい範囲は1:0.05~1:2の範囲である。この範囲を超えると分散性や特性が悪化する可能性がある。
また、樹脂前駆体は(セルロースナノファイバー+複合体)の重量に対して、5倍重量~200倍重量の範囲となることが好ましく、放熱性無機粒子は樹脂前駆体の重量に対して0.5倍重量~20倍重量の範囲となることが好ましい。この範囲を超えると熱伝導性付与の効果が不十分となる恐れや、高粘度により分散性が低下する恐れがある。
また、(メタ)アクリレート系化合物を用いる場合は、保存安定性を向上させる目的でハイドロキノン類などの重合禁止剤を添加することも従来技術同様に実施可能である。
【0052】
第1の構成の組成物を用いることにより、種々の熱伝導性部材を得ることができる。すなわち、第1の構成の組成物は、例えば、UV硬化材料、熱硬化材料、接着剤、配合材、各種部品の原料等として広く応用することができる。
【0053】
<第2の構成:樹脂分散組成物とその製造方法>
本発明の組成物の第2の構成は、前記複合体と、セルロースナノファイバー、樹脂と放熱性無機粒子を含む組成物である。
【0054】
樹脂としては、各種アクリル系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、各種ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、ポリ(スチレン-ブタジエン)、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、各種ポリエステル、各種ポリウレタン、各種ナイロン樹脂(ポリアミド)、ポリアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール、エチルセルロースやセルロースアセテートブチレートや酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、フェノール樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。
【0055】
第2の構成に係る組成物を製造する方法としては、複数の方法が例示できる。
例えば、前記した複合体とセルロースナノファイバー(及び必要に応じて水や有機溶剤)を混合し、これに前記した樹脂と放熱性無機粒子を混合した上、必要に応じて加熱しながらニーダーや連続式二軸混練機等を用いて機械的に混練する方法が挙げられる。
また、その他の方法として、前記複合体とセルロースナノファイバーと有機溶剤からなる分散液を減圧下で脱水した後、前記した樹脂のなかで有機溶剤への溶解性のあるものを選択の上、それを溶解させた溶液に放熱性無機粒子を混合分散し、セルロースナノファイバーと放熱性無機粒子が均一に分散した溶液を調製後に有機溶剤を除去する方法も挙げられる。
これらの方法は使用する樹脂の種類によって使い分けることが好ましい。
【0056】
セルロースナノファイバーと複合体との配合は、第1の構成と同様に、各重量比で1:0.01~1:10の範囲が好ましい。この範囲を超えると分散性や特性が悪化する可能性がある。
また、樹脂は(セルロースナノファイバー+複合体)の重量に対して、5倍重量~100倍重量の範囲となることが好ましく、放熱性無機粒子は樹脂の重量に対して0.5倍重量~20倍重量の範囲となることが好ましい。
【0057】
セルロースナノファイバーや放熱性無機粒子については、第1の構成についての説明と同様である。
【0058】
第2の構成の組成物を用いることにより、種々の熱伝導性部材を得ることができる。すなわち、第2の構成の組成物は、例えば、加熱成型や機械加工等によって形成された構造体として各種の部品等に応用することができる。さらに、塗布や溶融成型によって形成されたフィルム形状などとして応用することもできる。
【0059】
熱伝導性部材としては、本発明の熱伝導性組成物のみを成型、フィルム化、繊維化したもの、さらには樹脂フィルムや金属(板、フィルム)の上に塗布して積層した構成、炭素繊維、ガラス繊維、高分子繊維と複合化した構成など、各種のものが実現可能である。また熱伝導性部材には保護層、接着層や離型層を設けていても良い。
本熱伝導性部材は、放熱部材や放熱と電磁波シールド機能を併せ持った部材、放熱と高周波ノイズ抑制効果を併せ持った部材などとして使用可能な有用なものである。
【0060】
<本発明の組成物における任意成分>
上記した本発明の組成物には、前記した複合体、セルロースナノファイバー、放熱性無機粒子、樹脂前駆体や樹脂の他にも様々な材料を配合しても構わない。
これらを例示すれば、有機溶剤、界面活性剤、可塑剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、UV吸収剤や酸化防止剤などの安定剤、カーボンブラック、色素、ポリマー粒子、金属粒子、エポキシ硬化剤、硬化促進触媒、重合開始剤などである。これらの材料は、組成物の全体重量に対して、例えば、0.001重量%~90重量%の範囲内で配合することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明に係る熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性部材について、実施例及び比較例を示す。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
〔反応性セルロース誘導体の合成〕
<合成例A>
エチルセルロース(ダウケミカル社製の「エトセルSTD-4」、数平均分子量:1.37万)100重量部、酢酸エチル400重量部を反応容器に加えて混合し、エチルセルロースを酢酸エチルに均一溶解させた溶液を調製した。
上記溶液に、縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミド2.82重量部、反応促進剤としてジメチルアミノピリジン0.05重量部、及びメタクリル酸1.92重量部を添加、混合した。引き続き、40℃で24時間撹拌して反応を実施し、エチルセルロースにメタクリレート基を導入した。
反応の進行状態は酸価測定によって確認でき、上記40℃での24時間の撹拌によって反応は完了していた。得られたサンプルを採取し、乾燥させて、1H-NMR分析を実施した結果、仕込んだメタクリル酸と同モル量のメタクリレート基がエチルセルロースに導入されていることがわかった。また、導入されたメタクリレート基は、エチルセルロース鎖1本あたり平均で3個であった。
【0063】
<合成例B>
エチルセルロース(ダウケミカル社製の「エトセルSTD-4」、数平均分子量:1.37万)100重量部、酢酸エチル400重量部を反応容器に加えて混合し、エチルセルロースを酢酸エチルに均一溶解させた溶液を調製した。
上記溶液に、縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミド4.59重量部、反応促進剤としてジメチルアミノピリジン0.09重量部、及びメタクリル酸3.13重量部を添加、混合した。引き続き、40℃で24時間撹拌して反応を実施し、エチルセルロースにメタクリレート基を導入した。
反応の進行状態は酸価測定によって確認でき、上記40℃での24時間の撹拌によって反応は完了していた。得られたサンプルを採取し、乾燥させて、1H-NMR分析を実施した結果、仕込んだメタクリル酸と同モル量のメタクリレート基がエチルセルロースに導入されていることがわかった。また、導入されたメタクリレート基は、エチルセルロース鎖1本あたり平均で5個であった。
【0064】
〔複合体の合成〕
<合成例1>
合成例Aで得られたセルロース誘導体15重量部、酢酸エチル170重量部(セルロース誘導体とビニル系モノマーの合計量に対して、反応後のポリマー成分が15~30重量%となるように濃度を酢酸エチルにて調整)を反応容器へ加え混合し、セルロース誘導体を溶解した。そこへブチルメタクリレート15重量部、重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)0.6重量部を加え、反応容器内を窒素ガスで十分にした後、80℃で8時間重合反応を実施した。
【0065】
<合成例2~6>
用いたセルロース誘導体、ビニル系モノマー組成、セルロース誘導体とビニル系モノマーの比率を表1に示す条件とした以外は合成例1と同様な条件で複合体の合成を行った。
【0066】
【0067】
表1に記載のビニル系モノマーの詳細は、それぞれ、以下のとおりである。
BMA:ブチルメタクリレート
LMA:ラウリルメタクリレート
FM-0711:シリコーン系メタクリレート(JNC製、商品名サイラプレーン(登録商標)「FM-0711」)
GMA:グリシジルメタクリレート
【0068】
また、表1には、得られた複合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)も示したが、これらの値は、以下の条件で測定したものである。
GPC装置:東ソー社製「HLC-8320GPC」、
カラム:TSKgel GMHXL、
測定温度(設定温度):40℃、
移動相:テトラヒドロフラン
【0069】
<比較合成例1>
比較評価のためにセルロース誘導体を含まない単独のビニル系ポリマーを合成した。
具体的には、ブチルメタクリレート30重量部、酢酸エチル70重量部、重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)0.6重量部を加え、反応容器内を窒素ガスで十分にした後、80℃で8時間重合反応を実施した。重量平均分子量が20万のポリブチルメタクリレートを得た。
【0070】
〔樹脂前駆体分散組成物の実施例〕
<実施例1A>
ガラス製フラスコ容器にTEMPO酸化法CNF(CNF固形分量2重量%水分散液:第一工業製薬製)を50重量部(CNF固形分1重量部)、合成例4で得られた複合体(セルロース誘導体-ビニル系ポリマー複合体)を固形分として1重量部(酢酸エチル溶液として添加)、YD-8125(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)を50重量部投入し、高速攪拌機を用いて30分間撹拌・混合を行った。その後、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で脱水を行い、YD-8125に対して2重量%の濃度にてCNFを分散した液体を得た。その後、放熱性無機粒子としてトーヤルナイト(登録商標)TFZ-A15P(窒化アルミニウム、東洋アルミニウム(株)製、平均粒子径15μm)を121重量部投入しロール分散機にて混合分散を実施して樹脂前駆体分散組成物を作製した。
【0071】
【0072】
なお、表2に記載の各原料の詳細は以下のとおりである。
CNF1:第一工業製薬製のセルロースナノファイバー(レオクリスタ/2重量%水分散液)
CNF2:中越パルプ製のNanoforest-S(10重量%水分散液)
YD-8125:ビスフェノールAタイプ2官能エポキシ(日鉄ケミカル&マテリアル製)
KE-1935-A:LIM用シリコーンゴム(信越化学工業製)
なお、複合体は、有効成分10重量%酢酸エチル溶液として用いた。
【0073】
<実施例2A~7A>
実施例1Aと同様の操作で複合体を種々に変更して、CNFを種々樹脂前駆体に分散した組成物を作製した。なお、実施例7AにおいてはCNFとして非TEMPO酸化の中越パルプ製のNanoforest-Sを使用した。
【0074】
<比較例1A~2A>
CNFを含まない状態で樹脂前駆体に放熱性無機粒子を混合分散した。
<比較例3A>
比較合成例1で作製したセルロース誘導体を含まないビニル系ポリマーのみを使用し、水分散CNF中のCNF量に対してポリマー固形分が100重量%となる量を添加し、実施例1Aと同様の方法でYD-8125への分散を実施した。
【0075】
比較例1A~3Aを作製した後、密閉したガラス瓶に入れて40℃恒温槽にて7日間放置したところ、表面に樹脂が染み出しており、底部分にはフィラーによるハードケーキが形成されていたが、実施例1A~7Aに対して同様の処理を行っても変化は無く、フィラーの沈降が抑えられていた。
【0076】
〔樹脂前駆体分散組成物の硬化体作製〕
樹脂前駆体にYD-8125を使用した場合は硬化触媒として1-ベンジル-2-メチルイミダゾールを組成物100重量部に対して2重量部配合し、100℃×2時間+150℃×5時間加熱して硬化した。
一方、樹脂前駆体にKE-1935-Aを使用した場合は硬化剤としてKE-1935-Bを組成物100重量部に対して17重量部配合し、120℃×1時間+150℃×1時間加熱して硬化した。
【0077】
〔樹脂前駆体分散組成物の硬化体評価〕
(株)アイフェイズ製 ai-Phase Mobile M3 type1を用いて熱伝導率を測定した。
結果を表2に記載するが、CNFと複合体を配合することにより非配合品と比較して熱伝導率の向上が見られた。
【0078】
〔樹脂分散組成物の実施例〕
<実施例1B>
ガラス製容器にTEMPO酸化法CNF(CNF固形分量2重量%水分散液:第一工業製薬製)を50重量部(CNF固形分1重量部)、合成例2で得られた複合体(セルロース誘導体-ビニル系ポリマー複合体)を固形分として1重量部(酢酸エチル溶液として添加)、EP65(EPDMゴム)の10%トルエン溶液を500重量部投入し、高速攪拌機を用いて30分間撹拌・混合を行った。その後、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で脱水と溶剤置換を行い、EP65に対して2重量%の濃度にてCNFを分散したトルエン溶液を得た。その後、放熱性無機粒子としてトーヤルナイトTFZ-A15P(窒化アルミニウム)を208重量部投入し混合分散を実施した。その後、離型処理ポリエチレンテレフタレートフィルム上にワイヤバーでコーティング、乾燥させて、厚み約100μmの熱伝導性フィルムを作製した。樹脂前駆体分散組成物の場合と同様に熱伝導率を測定した。CNFを配合したフィルムでは11W/m・Kであったが、配合していないフィルムでは9W/m・Kであり、向上が見られた。
【0079】
<実施例2B>
ガラス製容器にTEMPO酸化法CNF(CNF固形分量2重量%水分散液:第一工業製薬製)を50重量部(CNF固形分1重量部)、合成例2で得られた複合体(セルロース誘導体-ビニル系ポリマー複合体)を固形分として1重量部(酢酸エチル溶液として添加)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂(自社製造の重量平均分子量Mw=55万)50重量部、トルエン450重量部投入し、高速攪拌機を用いて30分間撹拌・混合を行った。その後、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で脱水と溶剤置換を行った後、放熱性無機粒子としてトーヤルナイトTFZ-A15P(窒化アルミニウム)を208重量部投入し混合分散を実施した。その後、離型処理ポリエチレンテレフタレートフィルム上にワイヤバーでコーティング、乾燥させて、厚み約100μmの熱伝導性フィルムを作製した。樹脂前駆体分散組成物の場合と同様に熱伝導率を測定した。CNFを配合したフィルムでは10W/m・Kであったが、配合していないフィルムでは8.5W/m・Kであり、向上が見られた。
【0080】
実施例1B,2Bで作製した無機粒子分散液を23℃恒温室で7日間保存したが、フィラーの沈降は確認できなかった。CNFを配合していない分散液について同様に23℃恒温室で7日間保存した場合にはフィラーの沈降が見られたため、CNFの分散によって、フィラーの沈降が抑制できていることが分かった。
【0081】
〔熱伝導性部材への適応例〕
実施例1Bで作製した熱伝導性フィルムに粘着層として日東電工製のPET基材両面テープNo.5605を用いて電解銅箔と積層することで電磁波シールド機能を併せ持った部材を作製することが出来る。また、同様に実施例2Bで作製した熱伝導性フィルムの上にUV硬化型のハードコート剤を5μmの厚みでコーティングすることにより表面に保護層を有する熱伝導性フィルムとすることが可能である。