(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】免疫細胞で発現される膜結合抗サイトカイン非シグナル伝達バインダーによるヒトサイトカインの中和
(51)【国際特許分類】
C12N 15/85 20060101AFI20230822BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230822BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230822BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230822BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230822BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230822BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230822BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230822BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230822BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230822BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230822BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20230822BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
C12N15/85 Z ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/11 Z
A61K35/17
A61P37/02
A61P29/00
A61P35/00
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P37/06
A61K39/395 U
C07K19/00
(21)【出願番号】P 2020553588
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 IB2019052636
(87)【国際公開番号】W WO2019193476
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-01-25
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】タン,ホン ジー エイドリアン
(72)【発明者】
【氏名】カンパナ,ダリオ
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/126213(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/172981(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/85
C12N 15/62
C12N 15/13
C12N 15/12
C12N 15/11
A61K 35/17
A61P 37/02
A61P 29/00
A61P 35/00
A61P 19/02
A61P 37/06
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)キメラ抗原受容体(CAR);及び
b)膜結合抗IL6(mb-aIL6
)をコードする核酸を含むベクターであって、前記mb-aIL
6が:
i)CD8αシグナルペプチドドメイン;
ii)
配列番号4に対して少なくとも90%の配列同一性を有する抗IL-6可変軽鎖ドメイン
;
iii)配列番号8に対して少なくとも90%の配列同一性を有する抗IL-6可変重鎖ドメイン
;
iv)前記可変軽鎖ドメインと前記可変重鎖ドメインを連結するリンカードメイ
ン;並びに
v)ヒンジ及び膜貫通ドメイン
を含む、ベクター。
【請求項2】
前記抗IL-6可変軽鎖ドメイン及び前記抗IL-6可変重鎖ドメインの1
以上が、ヒト抗IL6可変軽鎖及び可変重鎖ドメインである、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記リンカードメインが(G4S)
xであり、式中、xが1~100の整数である、請求項1
又は2に記載のベクター。
【請求項4】
前記リンカードメインが(G4S)
3である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項5】
前記ヒンジ及び膜貫通ドメインがCD8αヒンジ及び膜貫通ドメインである、請求項1~4のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項6】
ヒンジ及び膜貫通ドメインが、配列番号10を含む、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
CD8αシグナルペプチドドメインが、配列番号2を含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項8】
前記キメラ抗原受容体が、抗CD19-41BB-CD3ζキメラ抗原受容体(CAR)である、請求項
1に記載のベクター。
【請求項9】
前記mb-aIL6が、P2A配列によって前記抗CD19-41BB-CD3ζに結合されている、請求項
8に記載のベクター。
【請求項10】
a)キメラ抗原受容体
;及び
b)膜結合抗IL6(mb-aIL6)をコードする核酸を含むベクターであって、前記
mb-aIL6が:
i)
配列番号4に対して少なくとも90%の配列同一性を有する抗IL-6可変軽鎖ドメイン
;
ii)配列番号8に対して少なくとも90%の配列同一性を有する抗IL-6可変重鎖ドメイン
;
iii)前記可変軽鎖ドメインと前記可変重鎖ドメインを連結する第1のリンカードメイ
ン;
iv)前記
抗IL-6可変重鎖ドメインのN末端にある第2のリンカードメイン;
v)前記第2のリンカードメインのN末端にあるヒンジ及び膜貫通ドメイン;
並びに
vi)前記ヒンジ及び膜貫通ドメインのN末端にある細胞内シグナル伝達ドメイン
を含む、ベクター。
【請求項11】
前記細胞内シグナル伝達ドメインが41BBドメインである、請求項
10に記載のベクター。
【請求項12】
前記細胞内シグナル伝達ドメインのN末端にある共刺激ドメインをさらに含む、請求項
10に記載のベクター。
【請求項13】
前記共刺激ドメインがCD3ζドメインである、請求項
12に記載のベクター。
【請求項14】
哺乳動物のIL-6濃度を低下させる方法
に使用するための医薬組成物であって:
前記医薬組成物は、請求項1~9のいずれか一項に記載のベクターを含み、
前記方法は、請求項1~9のいずれか一項に記載のベクターを用いて、キメラ抗原受容体及び膜結合抗IL6(mb-aIL6
)をT細胞で発現させること、
並びに前記T細胞をIL-6を含む液体に接触させるこ
とを含む、
医薬組成物。
【請求項15】
前記哺乳動物がヒトである、請求項
14に記載の
医薬組成物。
【請求項16】
前記方法は、前記T細胞を培養して、前記
キメラ抗原受容体及びmb-aIL6を発現する新たなT細胞を作製することをさらに含む、請求項
14又は
15に記載の
医薬組成物。
【請求項17】
前記方法は、サイトカイン放出症候群(CRS)のリスクを低減することをさらに含
む、請求項
14又は
15に記載の
医薬組成物。
【請求項18】
前記哺乳動物が、自己免疫疾患、炎症性疾患、又はリンパ増殖性障害に罹患しており、
前記方法において、前記哺乳動物のIL-6濃度を低下させることにより前記自己免疫疾患、前記炎症性疾患、又は前記リンパ増殖性障害それぞれを
治療する、請求項
14又は
15に記載の
医薬組成物。
【請求項19】
前記哺乳動物が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、移植片対宿主病、又はキャッスルマン病に罹患しており、
前記方法において、IL-6濃度を低下させることにより関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、移植片対宿主病、又はキャッスルマン病それぞれを
治療する、請求項
18に記載の
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年4月2日に出願された米国仮特許出願第62/651,311号の利益を主張する。上記の出願の全教示が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
ASCIIテキストファイル内の資料の参照による組み込み
本出願は、同時に提出された以下のASCIIテキストファイルに含まれる配列表を参照により組み込む:
a)ファイル名:44591149001SequenceListing.txt;2019年3月29日作成、サイズ33KB。
【背景技術】
【0003】
インターロイキン-6(IL-6)は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、及び移植片対宿主病(GvHD)を含む複数の自己免疫疾患及び炎症性疾患の病因に関与する炎症誘発性サイトカインである。
【0004】
IL-6はまた、キメラ抗原受容体(CAR)でリダイレクトされるT細胞の注入の最も一般的な副作用の1つであるサイトカイン放出症候群(CRS)の発症にも関与している。CRSは、重症であり、場合によっては致命的であり得る。IL-6は、CRSの発症に重要であり、抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)は、現在その効果を抑制するために使用されている。
【0005】
自己免疫疾患及びCRSの重症度及び発生率を低下させるための方法が望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書には、核酸、ベクター、及びトランスジェニック宿主細胞、並びにそれらを作製及び使用する方法が記載されている。核酸は、宿主細胞において核酸を発現させるために使用できるベクターに組み込むことができる。トランスジェニック宿主細胞は、IL-6などのサイトカインの濃度を低下させる方法において、宿主哺乳動物(例えば、ヒト)に導入(例えば、注入、移植(implant)、移植(engraft)、注射)することができる。核酸は、IL-6などのサイトカインの濃度を低下させる方法において宿主哺乳動物(例えば、ヒト)で発現させることができる。
【0007】
いくつかの実施形態では、ベクターは、膜結合抗サイトカイン単鎖可変断片(scFv)をコードする核酸を含む。膜結合抗サイトカインは、抗サイトカイン単鎖可変断片(抗サイトカインscFv)、及び抗サイトカインscFvに結合されたヒンジ及び膜貫通ドメインを含み得る。抗サイトカインscFvは、抗サイトカイン可変軽鎖ドメイン、抗サイトカイン可変重鎖ドメイン、及び可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを連結するリンカードメインを含み得る。抗サイトカイン構築物は、IL-6(例えば、抗IL-6)、(TNF)-α(例えば、抗TNF-α)、IL-1β(例えば、抗IL-1β)、IL-12(例えば、抗IL-12)、IL-17(例えば、抗IL-17)、及びIL-18(例えば、抗IL-18)、及びIFNγ(例えば、抗IFNγ)などの多種多様なサイトカインに特異的であり得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、核酸は、膜結合抗IL6(mb-aIL6)単鎖可変断片(scFv)をコードする。mb-aIL6は、抗IL6単鎖可変断片(抗IL6 scFv)を含み得る。抗IL6 scFvは、抗IL-6可変軽鎖ドメイン、抗IL-6可変重鎖ドメイン、及び可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを連結するリンカードメインを含み得る。ヒンジ及び膜貫通ドメインは、抗IL6 scFvに結合することができる。いくつかの実施形態では、ベクターの核酸は、抗CD19-41BB-CD3ζなどのキメラ抗原受容体(CAR)をさらにコードし得る。
【0009】
本明細書に記載のベクターを使用して、トランスジェニックT細胞などのトランスジェニック細胞を作製することができる。特にトランスジェニックT細胞を使用して、IL-6依存性細胞の増殖を抑制する、IL-6濃度を低下させる、又はその両方を行うことができる。いくつかの実施形態では、トランスジェニックT細胞を使用して、(例えば、癌で)処置されている哺乳動物などの哺乳動物(例えば、ヒト)におけるサイトカイン放出症候群(CRS)のリスク又は重症度を軽減することができる。いくつかの実施形態では、哺乳動物は、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞で処置されている(例えば、癌で処置されている)。一例は、抗CD19 CARを発現するT細胞で癌の処置を受けている患者である。
【0010】
また、トランスジェニックT細胞を使用して、サイトカインが自己免疫疾患、炎症性疾患、又はリンパ増殖性障害などの病因に関与している疾患又は障害に罹患している哺乳動物を処置することができる。自己免疫疾患の例には、関節リウマチ及び全身性エリテマトーデスが含まれる。炎症性疾患の例には、移植片対宿主病及び血球貪食性リンパ組織球症が含まれる。リンパ増殖性障害の一例はキャッスルマン病である。
【0011】
前述は、同様の参照文字が様々な図面を通して同じ部分を指す添付の図面に例示されているように、例示的な実施形態の以下のより具体的な説明から明らかになるであろう。図面は、必ずしも縮尺通りではなく、代わりに実施形態の例示に重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A-1D】
図1A~
図1Dは、mb-aIL6の設計及び発現に関する。
図1Aは、mb-aIL6構築物の概略図である。
図1Bは、MSCV-mb-aIL6-IRES-GFPプラスミドの概略図である。
図1Cは、GFPのみ(「Mock」)又はGFPとmb-aIL6のいずれかで形質導入されたJurkat細胞のフローサイトメトリー分析である。ドットプロットは、GFP蛍光と、ビオチン標識ヤギ抗ヒトF(ab’)2抗体及びストレプトアビジン-APC(Jackson ImmunoResearch Laboratories)で染色した後のmb-aIL6発現を例示している。
図1Dは、mock又はmb-aIL6-形質導入Jurkat細胞に結合しているIL-6のフローサイトメトリー分析である。ドットプロットは、GFP蛍光と、IL-6ビオチン(Abcam)及びストレプトアビジン-APCで染色した後のIL-6の結合を例示している。大豆トリプシン阻害剤(STI)-ビオチンを対照として使用した。
【
図2A-2E】
図2A~
図2Eは、mb-aIL6構築物の機能に関する。
図2Aは、IL-6のレベルを示すチャートである。GFPのみ(「Mock」)又はGFPとmb-aIL6のいずれかで形質導入されたJurkat細胞(2×10
6/mL)を、1ng/mLのヒトIL-6を含む組織培養培地で2時間培養した。培養の最後に、IL-6のレベルをELISAで測定した。
図2Bは、IL-6中和が細胞用量依存性であることを示すグラフである。異なる細胞濃度(0.25~2×10
6/mL)で試験し、培養の2時間後の上清中のIL-6のレベルをELISAによって測定した。
図2Cは、IL-6中和が時間依存性であることを示すグラフである。
図2Aに関して説明したように培養物を準備し、示された培養時間の後に上清中のIL-6のレベルを測定した。細胞を10分間、30分間、60分間、及び120分間インキュベートした。破線の曲線は、近似指数関数的減衰曲線を表す。
図2Dは、mb-aIL6 Jurkat細胞が低IL-6濃度でも有効性を維持したことを示すチャートである。
図2Aに関して説明したように培養物を準備したが、組織培養培地中のIL-6の初期濃度は0.025~0.2ng/mLであり、Jurkat細胞は0.5×10
6/mLである。
図2Eは、Jurkat-mb-aIL6細胞の増殖を可能にすることによってIL-6中和が促進されることを示すグラフである。
図2Aに関連して説明したように培養物を準備したが、初期細胞濃度は、0.2×10
6細胞/mLであり;上清中のIL-6を、2~72時間後にELISAによって測定した。
【
図3A-3B】
図3A及び
図3Bは、mb-aIL6を発現する細胞がIL-6依存性シグナル伝達及び細胞増殖を抑止することを示す。
図3Aは、IL-6によって引き起こされるU937細胞におけるStat3リン酸化が、mb-aIL6 Jurkat細胞への曝露によって妨げられることを示すチャートである。形質導入されていない(「WT」)又はGFPとmb-aIL6で形質導入されたJurkat細胞(2×10
6/mL)を、1ng/mLのヒトIL-6を含む組織培養培地で2時間培養した。次いで、上清を、37℃で15分間、U937細胞に加えた。IL-6を含む又は含まない組織培養培地(「T細胞なし」)を対照として使用した。バーは、抗PhosphoStat3抗体(BD Biosciences anti-Stat3 pY705)で染色した後、フローサイトメトリーで測定したStat3リン酸化の平均(±SD)を示す。
***P<0.001。
図3Bは、DS-1細胞のIL-6依存性増殖が、mb-aIL6 Jurkat細胞への曝露によって抑制されることを示すグラフである。mCherryで形質導入されたDS-1及びmock-形質導入又はmb-IL6形質導入Jurkat細胞をIL-6(0.5ng/mL)と1:1の比率で共培養した。DS-1の増殖は、IncuCyte live Imaging System(Essen)を用いて定量した;結果を、3回の測定における赤色較正単位(RCU:red calibrated unit)×μm
2/ウェルの平均(±SD)として表す。120時間の測定では
**P<0.01。
【
図4A-4D】
図4A~
図4Dは、末梢血T細胞でのmb-aIL6構築物の発現及び機能を示す。
図4Aは、GFPのみ(「Mock」)又はGFPとmb-aIL6のいずれかで形質導入された末梢血T細胞のフローサイトメトリー分析である。ドットプロットは、GFP蛍光と、ビオチン標識ヤギ抗ヒトF(ab’)2抗体及びストレプトアビジンAPCで染色した後のmb-aIL6発現を例示している。
図4Bは、mock又はmb-aIL6形質導入末梢血T細胞に結合しているIL-6のフローサイトメトリー分析である。ドットプロットは、GFP蛍光、及びIL-6ビオチンとストレプトアビジン-APCで染色した後のIL-6の結合を示している。
図4Cは、抗CD3 APC、抗CD56 PE、抗CD4 V450、及び抗CD8 PerCP(BD Biosciences)で標識された、mock又はmb-aIL6形質導入末梢血T細胞の細胞マーカープロファイルである。
図4Dは、DS-1細胞のIL-6依存性増殖が、mb-aIL6 Tリンパ球への曝露によって抑制されることを示すグラフである。mCherryで形質導入されたDS-1及びmock形質導入又はmb-aIL6形質導入T細胞を、IL-6(0.5ng/mL)と1:1の比率で共培養した。DS-1の増殖を、IncuCyte live Imaging System(Essen)を用いて定量した;結果を、3連測定における赤色較正単位(RCU)×μm
2/ウェルの平均(±SD)として表す。120時間の測定では
**P<0.01。
【
図5A-5C】
図5A~
図5Cは、mb-aIL6及び抗CD19 CARをコードするバイシストロニック構築物の設計、発現、及びIL-6中和能力を示す。
図5Aは、両方の受容体(「DUAL」)を含むMSCVプラスミドの概略図である。
図5Bは、GFPのみ(Mock)、GFPと抗CD19-41BB-CD3ζ CAR、mb-aIL6のいずれか、又は両方で形質導入された末梢血T細胞のフローサイトメトリー分析である。ドットプロットは、ビオチン標識ヤギ抗ヒトF(ab’)2抗体及びストレプトアビジン-APCで染色した後のmb-aIL6発現、及びCD19-myc、続いてR-フィコエリトリン(PE)-標識抗myc(Cell Signaling Technology)で染色した後の抗CD19 CAR発現を例示する。
図5Cは、mb-aIL6 Tリンパ球によるIL-6の中和がCAR共発現による影響を受けないことを示すグラフである。
図5Bに関連して説明したように形質導入されたTリンパ球を、1ng/mLのIL-6を含む組織培養培地で培養した。2時間後、ELISAによって上清中のIL-6を測定した。
【
図6A-6D】
図6A~
図6Dは、mb-aIL6の発現が抗CD19 CAR機能に影響を及ぼさないことを示す。
図6Aは、1:1のE:T比で6時間、CD19+全細胞株OP-1と共培養したT細胞におけるIFN-γの産生を示すプロットである。IFNγの発現を、PE標識抗ヒトIFNγ抗体(BD Biosciences)で染色した後にフローサイトメトリーによって測定した。記号は、3人のドナーからのT細胞で得られた3回の実験の結果を表す。
図6Bは、1:1のE:T比で4時間、OP-1と共培養したT細胞におけるCD107aの発現を示すプロットである。CD107aの発現を、PE標識抗ヒトCD107a抗体(BD Biosciences)で染色した後にフローサイトメトリーによって測定した。
図6Cは、1:1のE:T比での4時間後のOP-1に対するT細胞の細胞毒性を示すプロットである。
図6Dは、120IU/mLのIL-2を用いて、1:1のE:T比で21日間、照射OP-1を用いて又は用いずに共培養したT細胞の増殖を示す2つのチャートである。照射OP-1細胞を、0日目、7日目、及び14日目に加えた。記号は3回の測定の平均(±SD)を表す。
【
図7A-7B】
図7A及び
図7Bは、CRSのin vitroモデルにおけるmb-aIL6及び抗CD19 CARを発現するT細胞の機能を示す。
図7Aは、THP-1細胞を含めて又は含まずにmCherry形質導入OP-1細胞と共培養したT細胞の細胞毒性を示す2つのグラフである(T細胞:OP-1:THP-1の比率が1:5:1)。OP-1細胞数を、IncuCyte Live Imaging System(Essen)を用いて定量した;結果を、3回の測定における赤色較正単位(RCU)×μm
2/ウェルの平均(±SD)として表す。
図7Bは、ELISAによって測定された、培養の40時間後の
図7Aに示されている培養物の上清におけるIL-6のレベルを示すチャートである。
【
図8A-8C】
図8A~
図8Cは、他のIL-6中和受容体の概略図である。
図8Aは、分泌aIL6用の核酸構築物及び分泌aIL6を発現する細胞の概略図である。
図8Bは、抗IL6 CARを形成する、41BBドメイン及びCD3ζドメインに連結された抗IL-6 scFv用の核酸構築物の概略図である。
図8Cは、抗IL6 scFvが、シグナル伝達能力が失われたIL-6受容体によって置換されている核酸構築物の概略図である。
【
図9A-9B】
図9A及び
図9Bは、T細胞におけるmb-aIL6の発現がin vivoでIL-6を中和することを示す。NOD.Cg-Prkdc
scid IL2rg
tm1Wjl/SzJ(NOD/scid IL2RGnull)マウス(Jackson Laboratory,Bar Harbor,ME)に、0日目に1×10
6のDS-1細胞を、2日目にGFPのみ(Mock)又はGFPプラスmb-aIL6のいずれかで形質導入された1×10
7の末梢血T細胞を腹腔内注射した。腫瘍の生着及び増殖を、Xenogen IVIS-200システム(Caliper Life Sciences)を用いて測定した。すべてのマウスに、0日目から開始して2日ごとに1000IUのヒトIL-6及び20000IUのヒトIL-2を腹腔内投与した。
図9Aは、マウスの腹側及び背側の画像である。
図9Bは、ルシフェラーゼを発現するDS-1が移植されたマウスにおける発光の変化を示すチャートである。各記号は、1つの生物発光測定に対応し;線は、1匹のマウスにおけるすべての測定値をつないでいる。
【
図10A-10F】
図10A~
図10Fは、mb-aIL6の発現がin vivoで抗CD19 CAR機能に影響を及ぼさないことを示す。NOD.Cg-Prkdc
scid IL2rg
tm1Wjl/SzJ(NOD/scid IL2RGnull)マウス(Jackson Laboratory,Bar Harbor,ME)に、0日目に0.5×10
6のNalm-6細胞を、3日目に、抗CD19-41BB-CD3ζ(CAR)又はCARとmb-aIL6(CAR+mb-aIL6)のいずれかで形質導入された2×10
7の末梢血T細胞を静脈注射した。腫瘍の生着及び増殖を、Xenogen IVIS-200システム(Caliper Life Sciences)を用いて測定した。すべてのマウスに、0日目から開始して2日ごとに20000IUのヒトIL-2を腹腔内投与した。シグナル閾値が10
10光子/秒に達したときにマウスを安楽死させた。
図10Aは、マウスの腹側及び背側の画像である。3日目の画像は、エンジニアリングされたT細胞の注入前の腫瘍の存在を示すために高い感度で処理した。
図10Bは、ルシフェラーゼを発現するNalm-6が移植されたマウスにおける発光の変化を示すチャートである。
図10Cは、マウスの腹側と背側の画像である。3日目の画像は、エンジニアリングされたT細胞の注入前の腫瘍の存在を示すために高い感度で処理した。
図10Dは、53日目のCAR T細胞数を示すチャートである。マウスの血液を頬部を刺して得、CAR T細胞をフローサイトメトリーを用いて定量した。
図10Eは、マウスの生存曲線を示すチャートである。T細胞を注入しなかったマウスの曲線及びCAR-T細胞又はCAR-T+mb-aIL6を注入したマウスの曲線をログランク検定で計算した(どちらの比較でもP<0.01)。
図10Fは、ルシフェラーゼを発現するNalm-6が移植されたマウスにおける発光の変化を示すチャートである。各記号は、1つの生物発光測定に対応し;線は、1匹のマウスにおけるすべての測定値をつないでいる。
【
図11A-11B】
図11A及び
図11Bは、mb-aTNFαの設計に関する。
図11Aは、mb-aTNFα構築物の概略図である。
図11Bは、MSCV-mb-aTNFα-IRES-GFPプラスミドの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態の例の説明は次の通りである。
【0014】
インターロイキン-6及びサイトカイン放出症候群
インターロイキン-6(IL-6)は、移植片対宿主病(GvHD)、関節リウマチ、及び全身性エリテマトーデスを含む複数の自己免疫疾患、炎症性疾患、及びリンパ増殖性障害の病因に関与する炎症誘発性サイトカインである。IL-6はまた、キメラ抗原受容体(CAR)でリダイレクトされるT細胞の注入の最も一般的な副作用の1つであるサイトカイン放出症候群(CRS)の発症にも関与している。CRSは、重症であり、場合によっては致命的であり得る7-10。IL-6は、CRSの発症に重要であり、抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)は、現在その効果を抑制するために使用されている7-10。
【0015】
本明細書に記載のベクターは、改変T細胞を作製するために使用することができ、この改変T細胞は、自己免疫疾患及びCRSの処置に使用することができる。本明細書に記載のプロセスは、IL-6を中和し、それによりCRSのリスク及び/又は重症度を低下させることができるトランスジェニックT細胞を作製するために使用することができる。本明細書に記載の特定の例は、IL-6をパラダイムとして使用するが、このアプローチは、自己免疫疾患及びCRSの病因に関与する他のサイトカインの中和にも適用可能である。
【0016】
核酸
本明細書で使用される「核酸」という用語は、複数のヌクレオチドモノマー(例えば、リボヌクレオチドモノマー又はデオキシリボヌクレオチドモノマー)を含むポリマーを指す。「核酸」には、例えば、DNA(例えば、ゲノムDNA及びcDNA)、RNA、及びDNA-RNAハイブリッド分子が含まれる。核酸分子は、天然、組換え、又は合成であり得る。加えて、核酸分子は、一本鎖、二本鎖、又は三本鎖であり得る。特定の実施形態では、核酸分子を修飾することができる。二本鎖ポリマーの場合、「核酸」は、分子の一方又は両方の鎖を指し得る。
【0017】
「ヌクレオチド」及び「ヌクレオチドモノマー」という用語は、天然に存在するリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドモノマー、並びに天然に存在しないその誘導体及び類似体を指す。従って、ヌクレオチドは、例えば、天然に存在する塩基を含むヌクレオチド(例えば、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、イノシン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシン、又はデオキシシチジン)及び当技術分野で公知の修飾塩基を含むヌクレオチドを含み得る。
【0018】
本明細書で使用される「配列同一性」という用語は、最大レベルの同一性を達成するために配列がアラインメントされたときに、2つのヌクレオチド配列又は2つのアミノ酸配列が同じ位置に同じ残基を有する程度を指し、パーセンテージで表される。配列のアラインメント及び比較では、典型的には、1つの配列が参照配列として指定され、それに対して試験配列が比較される。参照配列と試験配列との間の配列同一性は、参照配列と試験配列が最大レベルの同一性を達成するためにアラインメントされたときに、参照配列と試験配列が同じヌクレオチド又はアミノ酸を共有する、参照配列の全長における位置のパーセンテージとして表される。一例として、最大レベルの同一性を達成するためにアラインメントされたときに、試験配列が参照配列の全長にわたって70%の同じ位置で同じヌクレオチド又はアミノ酸残基を有する場合、2つの配列は70%の配列同一性を有すると見なされる。
【0019】
最大レベルの同一性を達成するための比較のための配列のアラインメントは、適切なアラインメント方法又はアルゴリズムを使用して当業者が容易に行うことができる。場合によっては、アラインメントは、最大レベルの同一性を提供するために導入されたギャップを含み得る。例として、Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman & Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の相動性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の同様の方法での検索、これらのアルゴリズムのコンピューターによる実施(GAP,BESTFIT,FASTA,and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,Wis.)、及び目視検査(一般に、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biologyを参照)が挙げられる。
【0020】
配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列及び参照配列がコンピューターに入力され、必要に応じて後続の座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメーターに基づいて、参照配列に対する試験配列(複数可)のパーセント配列同一性を計算する。パーセント配列同一性を決定するために一般的に使用されるツールは、米国の国立衛生研究所の全米バイオテクノロジー情報センター、国立医学図書館から入手できるProtein Basic Local Alignment Search Tool(BLASTP)である(Altschul et al.,J Mol Biol.215(3):403-10(1990))。
【0021】
様々な実施形態では、2つのヌクレオチド配列又は2つのアミノ酸配列は、少なくとも、例えば、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の配列同一性を有し得る。本明細書に記載の1つ又は複数の配列に対するパーセント配列同一性を確認する場合、本明細書に記載の配列は参照配列である。
【0022】
いくつかの実施形態では、可変軽鎖ドメインは、配列番号4に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の配列同一性を有する。いくつかの実施形態では、可変重鎖ドメインは、配列番号8に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の配列同一性を有する。
【0023】
ベクター
「ベクター」、「ベクター構築物」、及び「発現ベクター」という用語は、宿主を形質転換して導入された配列の発現(例えば、転写及び翻訳)を促進するように、DNA又はRNA配列(例えば外来遺伝子)を宿主細胞に導入することができるビヒクルを意味する。ベクターは、典型的には、遺伝性物質のDNAを含み、その中にタンパク質をコードする外来DNAが制限酵素技術によって挿入される。一般的なタイプのベクターは、「プラスミド」であり、これは一般に、追加の(外来)DNAを容易に受け入れることができる二本鎖DNAの自己完結型分子(self-contained molecule)であり、且つ適切な宿主細胞に容易に導入することができる。プラスミド及び真菌ベクターを含む多数のベクターが、様々な真核生物宿主及び原核生物宿主における複製及び/又は発現について記載されている。
【0024】
「発現する」及び「発現」という用語は、遺伝子又はDNA配列中の情報の出現を可能にすること又は引き起こすこと、例えば、対応する遺伝子又はDNA配列の転写及び翻訳に関与する細胞機能を活性化することによってタンパク質を産生させることを意味する。DNA配列は、細胞内で又は細胞によって発現されて、タンパク質などの「発現産物」を形成する。発現産物自体、例えば、得られるタンパク質は、細胞によって「発現される」とも言える。ポリヌクレオチド又はポリペプチドは、例えば、外来若しくは天然プロモーターの制御下で外来宿主細胞において、又は外来プロモーターの制御下で天然宿主細胞において発現又は産生される場合、組換え的に発現される。
【0025】
遺伝子送達ベクターは一般に、プロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子(例えば、酵素をコードする核酸)、及びベクターが導入される宿主細胞における導入遺伝子の発現に必要な他の核酸要素を含む。遺伝子発現及び送達構築物に適したプロモーターは、当技術分野で公知である。組換えプラスミドはまた、細胞における酵素の発現のための誘導性又は調節可能なプロモーターを含み得る。
【0026】
様々な遺伝子送達ビヒクルが当技術分野で公知であり、これには、ウイルス及び非ウイルス(例えば、裸のDNA、プラスミド)ベクターの両方が含まれる。遺伝子送達に適したウイルスベクターは当業者に公知である。そのようなウイルスベクターには、例えば、ヘルペスウイルスに由来するベクター、バキュロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)、及びマウス幹細胞ウイルス(MSCV)が含まれる。ウイルスベクターは、複製又は非複製であり得る。このようなベクターは、本明細書に開示若しくは引用された、又は当業者に公知の方法を使用して、多くの適切な宿主細胞に導入することができる。
【0027】
遺伝子送達のための非ウイルスベクターには、とりわけ、裸のDNA、プラスミド、トランスポゾン、及びmRNAが含まれる。非限定的な例としては、pKKプラスミド(Clonetech)、pUCプラスミド、pETプラスミド(Novagen,Inc.,Madison,Wis.)、pRSET又はpREPプラスミド(Invitrogen,San Diego,Calif.)、pMALプラスミド(New England Biolabs,Beverly,Mass.)が挙げられる。このようなベクターは、本明細書に開示若しくは引用された、又は当業者に公知の方法を使用して、多くの適切な宿主細胞に導入することができる。
【0028】
特定の実施形態では、ベクターは、内部リボソーム進入部位(IRES)を含む。いくつかの実施形態では、ベクターは、アンピシリン耐性遺伝子(Amp)などの選択マーカーを含む。いくつかの実施形態では、核酸は、緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光タンパク質をコードする。いくつかの実施形態では、核酸は、EcoRIとXhoIとの間のpMSCV-IRES-GFPへのサブクローニングに適している。いくつかの実施形態では、ベクターは、所望の遺伝子の挿入のための多重クローニング部位(MCS)を含む。
【0029】
遺伝子コードは、ほとんどのアミノ酸が複数のコドン(「同義語(synonym又はsynonymous)」コドンと呼ばれる)によって表されるという点で縮重しているが、特定の生物によるコドンの使用はランダムではなく、特定のコドントリプレットに偏っていることが当技術分野で理解されている。従って、いくつかの実施形態では、ベクターは、特定のタイプの宿主細胞における発現のために(例えば、コドン最適化を通じて)最適化されたヌクレオチド配列を含む。コドン最適化とは、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが、同じアミノ酸(複数可)をコードするが、核酸が発現される宿主細胞でより一般的に使用/認識されるコドンでそのポリヌクレオチドの特定のコドンを置換するために修飾されるプロセスを指す。いくつかの態様では、本明細書に記載のポリヌクレオチドは、T細胞での発現に最適化されたコドンである。
【0030】
膜結合抗サイトカイン構築物
一例が
図1Aのmb-aIL6構築物である膜結合抗サイトカイン構築物を本明細書に記載されるように作製することができる。抗サイトカイン構築物は、IL-6、(TNF)-α、IL-1β、IL-12、IL-17、IL-18、及びIFNγなどの様々なサイトカインに特異的であり得る。
【0031】
図1Aは、ヒンジ及び膜貫通ドメインに結合された抗IL6単鎖可変断片(抗IL6 scFv)である特定の構築物を例示する。抗IL6 scFvは、抗IL-6可変軽鎖ドメイン、抗IL-6可変重鎖ドメイン、及び可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを連結するリンカードメインを含む。可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインの相対位置は逆にすることができるが、これらは両方とも、CD8αヒンジ及び膜貫通ドメインとして
図1Aに例示されている膜貫通ドメインのN’末端である。構築物はまた、CD8αシグナルペプチドなどのN末端シグナルペプチド(
図1Aには示されていない)を含み得る。
図1Bは、MSCV mb-aIL6-IRES-GFPプラスミドの概略図である。
【0032】
様々なリンカードメインが適している。いくつかの実施形態では、リンカードメインは(G4S)xであり得、式中、xは1~100の整数である。いくつかの実施形態では、リンカードメインは(G4S)3であり得る。他の実施形態では、リンカードメインは1つ又は複数のグリシン残基であり得る。他の実施形態では、リンカードメインは(EAAAK)3であり得る。
【0033】
様々なヒンジ及び膜貫通ドメインが適切である。いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、CD8αヒンジドメインであり得る。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、CD8α膜貫通ドメインであり得る。いくつかの実施形態では、ヒンジ及び膜貫通ドメインは、CD8αヒンジ及び膜貫通ドメインであり得る。いくつかの実施形態では、ヒンジは、複数のグリシン残基及びセリン残基であり得る。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、CD4、CD8β、CD16、CD28、CD32、CD34、CD64、CD137、FcεRIγ、OX40、CD3ζ、CD3ε、CD3γ、CD3δ、TCRα、VEGFR2、FAS、又はFGFR2Bからの膜貫通ドメインであり得る。
【0034】
図1Aの実施形態は抗IL6構築物であるが、同様のアプローチを適用して、腫瘍壊死因子(TNF)-α、IL-1β、IL-12、IL-17、IL-18、IFNγなどの他のサイトカインの構築物を作製し、且つ/又はそれらの受容体をブロックすることができる。例えば、
図1Aの概略図に基づいて、抗IL6 scFv部分を、(TNF)-α(
図11)、IL-1β、IL-12、IL-17、IL-18、又はIFNγなどの異なるサイトカインに特異的に結合する異なるscFvで置換することができる。本明細書の教示のすべては、サイトカインを中和する膜結合タンパク質の発現のための構築物に等しく適用可能である。
【0035】
複数の中和受容体を同じ細胞で又は異なる細胞サブセット内で発現させて、広範囲で持続的な抗炎症効果を与えることができる。
【0036】
トランスジェニック宿主細胞を作製する方法
本明細書には、トランスジェニックT細胞などのトランスジェニック宿主細胞を作製する方法が記載されている。トランスジェニック宿主細胞は、例えば、本明細書に記載のベクターの実施形態の1つ又は複数を宿主細胞に導入することによって作製することができる。
【0037】
一実施形態では、この方法は、膜結合抗IL6(mb-aIL6)単鎖可変断片(scFv)をコードする核酸を含むベクターを宿主細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、ベクターの核酸は、抗CD19-41BB-CD3ζなどのキメラ抗原受容体(CAR)をさらにコードし得る。いくつかの実施形態では、バイシストロニックベクターなどの核酸は、mb-aIL6及びCARを発現する。いくつかの実施形態では、2つの別個のベクターを使用して、mb-aIL6及びCARを発現するトランスジェニックT細胞などのトランスジェニック細胞を作製することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数の核酸が宿主細胞のゲノムに組み込まれる。いくつかの実施形態では、宿主ゲノムに組み込まれるべき核酸は、例えば、相同組換え、CRISPRベースのシステム(例えば、CRISPR/Cas9;CRISPR/Cpf1)及びTALENシステムを含む当技術分野で公知の様々な適切な方法のいずれかを使用して宿主細胞に導入することができる。
【0039】
値及び範囲
特に断りのない限り、又は文脈及び同業者の理解から明白でない限り、範囲として表される値は、文脈が明確に特段に示さない限り、様々な実施形態で述べられる範囲内の任意の特定の値又は部分範囲をとり得る。数値についての「約」は、一般に、特に明記しない限り、又は文脈から明白でない限り、値の±8%、いくつかの実施形態では±6%、いくつかの実施形態では±4%、いくつかの実施形態では±2%、いくつかの実施形態では±1%、いくつかの実施形態では±0.5%の範囲に含まれる値の範囲を指す。
【0040】
実施形態の例:ベクター
一実施形態は、膜結合抗IL6(mb-aIL6)単鎖可変断片(scFv)をコードする核酸を含むベクターである。mb-aIL6 scFvは、a)抗IL-6可変軽鎖ドメイン、抗IL-6可変重鎖ドメイン、及び可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを連結するリンカードメインを含む抗IL6単鎖可変断片(抗IL6 scFv);並びにb)抗IL6 scFvに結合されたヒンジ及び膜貫通ドメインを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、抗IL-6可変軽鎖ドメイン及び抗IL-6可変重鎖ドメインの1つ又は複数は、ヒト抗IL6可変軽鎖及び可変重鎖ドメインである。いくつかの実施形態では、可変軽鎖ドメインは、配列番号4に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。いくつかの実施形態では、可変重鎖ドメインは、配列番号8に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。
【0042】
いくつかの実施形態では、リンカードメインは(G4S)xであり、式中、xは1~100の整数である。いくつかの実施形態では、リンカードメインは(G4S)3である。いくつかの実施形態では、リンカードメインは1つ又は複数のグリシン残基である。いくつかの実施形態では、リンカードメインは(EAAAK)3である。
【0043】
いくつかの実施形態では、ヒンジ及び膜貫通ドメインは、CD8αヒンジ及び膜貫通ドメインである。いくつかの実施形態では、ヒンジは、複数のグリシン残基及びセリン残基を含む。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、CD4、CD8β、CD16、CD28、CD32、CD34、CD64、CD137、FcεRIγ、OX40、CD3ζ、CD3ε、CD3γ、CD3δ、TCRα、VEGFR2、FAS、又はFGFR2Bからの膜貫通ドメインである。
【0044】
いくつかの実施形態では、核酸は、抗CD19-41BB-CD3ζキメラ抗原受容体(CAR)などのキメラ抗原受容体(CAR)をさらにコードする。いくつかの実施形態では、mb-aIL6は、P2A配列によって抗CD19-41BB-CD3ζに結合される。
【0045】
実施形態の例:ベクター
別の実施形態は、抗IL6(aIL6)単鎖可変断片(scFv)をコードする核酸を含むベクターである。aIL6 scFvは:(a)抗IL-6可変軽鎖ドメイン、抗IL-6可変重鎖ドメイン、及び可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを連結するリンカードメインを含む抗IL6単鎖可変断片(抗IL6 scFv)を含む。
【0046】
実施形態の例:ベクター
別の実施形態は、抗IL6キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を含むベクターである。抗IL6 CARは:a)抗IL-6可変軽鎖ドメイン、抗IL-6可変重鎖ドメイン、及び可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを連結する第1のリンカードメインを含む抗IL6単鎖可変断片(抗IL6 scFv);b)抗IL6 scFvのN末端にある第2のリンカードメイン;c)第2のリンカードメインのN末端にあるヒンジ及び膜貫通ドメイン;並びにd)ヒンジ及び膜貫通ドメインのN末端にある細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは41BBドメインである。
【0048】
いくつかの実施形態では、ベクターは、細胞内シグナル伝達ドメインのN末端にある共刺激ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態では、共刺激ドメインはCD3ζドメインである。
【0049】
実施形態の例:ベクター
別の実施形態は、膜結合IL-6受容体をコードする核酸を含むベクターである。膜結合IL-6受容体は:a)細胞外ドメイン;b)細胞外ドメインのN末端にあるリンカードメイン;c)IL-6受容体αドメイン;及びd)膜貫通ドメインを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、細胞外ドメインはgp130細胞外ドメインである。
【0051】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインはCD8α膜貫通ドメインである。
【0052】
実施形態の例:哺乳動物T細胞
別の実施形態は、本明細書に記載の任意の実施形態による、膜結合抗IL6(mb-aIL6)単鎖可変断片(scFv)をコードする導入遺伝子を含む哺乳動物T細胞である。
【0053】
いくつかの実施形態では、mb-aIL6 scFvは:a)抗IL-6可変軽鎖ドメイン、抗IL-6可変重鎖ドメイン、及び可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを連結するリンカードメインを含む抗IL6単鎖可変断片(抗IL6 scFv);並びにb)抗IL6 scFvに結合されたヒンジ及び膜貫通ドメインを含み得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、哺乳動物T細胞はヒトT細胞である。いくつかの実施形態では、哺乳動物T細胞は、ヒト末梢血Tリンパ球である。
【0055】
実施形態の例:哺乳動物におけるIL-6依存性細胞の増殖を抑制する方法
別の実施形態は、哺乳動物におけるIL-6依存性細胞の増殖を抑制する方法である。この方法は、膜結合抗IL6(mb-aIL6)単鎖可変断片(scFv)をT細胞で発現させることを含む。mb-aIL6 scFvは、本明細書に記載の任意の実施形態に従うことができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、mb-aIL6 scFvは:a)抗IL-6可変軽鎖ドメイン、抗IL-6可変重鎖ドメイン、及び可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを連結するリンカードメインを含む抗IL6単鎖可変断片(抗IL6 scFv);並びにb)抗IL6 scFvに結合されたヒンジ及び膜貫通ドメインを含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0058】
実施形態の例:哺乳動物のIL-6濃度を低下させる方法
別の実施形態は、哺乳動物におけるIL-6濃度を低下させる方法である。この方法は:膜結合抗IL6(mb-aIL6)単鎖可変断片(scFv)をT細胞で発現させること、及びIL-6を含む液体にT細胞を接触させることを含む。mb-aIL6 scFvは、本明細書に記載の任意の実施形態に従うことができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、mb-aIL6は:a)抗IL-6可変軽鎖ドメイン、抗IL-6可変重鎖ドメイン、及び可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを連結するリンカードメインを含む抗IL6単鎖可変断片(抗IL6 scFv);並びにb)抗IL6 scFvに結合されたヒンジ及び膜貫通ドメインを含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0061】
いくつかの実施形態では、この方法は、T細胞を培養して、mb-aIL6を発現する新たなT細胞を作製することをさらに含む。
【0062】
いくつかの実施形態では、この方法は、サイトカイン放出症候群(CRS)のリスクを低減することをさらに含み、哺乳動物のT細胞はキメラ抗原受容体を発現する。
【0063】
いくつかの実施形態では、キメラ抗原受容体は、抗CD19-41BB-CD3ζ CARである。
【0064】
いくつかの実施形態では、キメラ抗原受容体は、抗CD22ドメイン、抗CD20ドメイン、抗CD123ドメイン、B細胞成熟抗原(BCMA)ドメイン、抗メソセリンドメイン、抗CD7ドメイン、抗CD2ドメイン、抗CD5ドメイン、抗CD3ドメイン、抗ルイスYドメイン、抗EpCamドメイン、抗Her2ドメイン、又は抗前立腺特異的膜抗原(PSMA)を含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、CARは、4-1BBドメイン、CD3ζドメイン、CD28ドメイン、誘導性T細胞共刺激(ICOS)ドメイン、DNAX活性化タンパク質10(DAP10)ドメイン、又はDNAX活性化タンパク質12(DAP12)ドメインをさらに含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、哺乳動物は自己免疫疾患に罹患しており、哺乳動物のIL-6濃度を低下させることにより自己免疫疾患を処置する。
【0067】
いくつかの実施形態では、哺乳動物は関節リウマチに罹患しており、IL-6濃度を低下させることにより関節リウマチを処置する。
【0068】
いくつかの実施形態では、哺乳動物は全身性エリテマトーデスに罹患しており、IL-6濃度を低下させることにより全身性エリテマトーデスを処置する。
【0069】
いくつかの実施形態では、哺乳動物は炎症性疾患に罹患しており、哺乳動物のIL-6濃度を低下させることにより炎症性疾患を処置する。
【0070】
いくつかの実施形態では、哺乳動物は、移植片対宿主病に罹患しており、IL-6濃度を低下させることにより移植片対宿主病を処置する。
【0071】
いくつかの実施形態では、哺乳動物はリンパ増殖性障害に罹患しており、IL-6濃度を低下させることによりリンパ増殖性障害を処置する。
【0072】
いくつかの実施形態では、哺乳動物はキャッスルマン病に罹患しており、IL-6濃度を低下させることによりキャッスルマン病を処置する。
【0073】
実施形態の例:ベクター
別の実施形態では、ベクターは、膜結合抗サイトカイン単鎖可変断片(scFv)をコードする核酸を含む。膜結合抗サイトカインscFvは、本明細書に記載の任意の実施形態に従うことができる。
【0074】
いくつかの実施形態では、膜結合抗サイトカインは:a)抗サイトカイン可変軽鎖ドメイン、抗サイトカイン可変重鎖ドメイン、及び可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを連結するリンカードメインを含む抗サイトカイン単鎖可変断片(抗サイトカインscFv);並びにb)抗サイトカインscFvに結合されたヒンジ及び膜貫通ドメインを含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、抗サイトカインは、抗(TNF)-α、抗IL-1β、抗IL-12、抗IL-17、抗IL-18、又は抗IFNγである。
【実施例】
【0076】
材料及び方法
細胞
ヒト細胞株Nalm-6(B細胞急性リンパ芽球性白血病、ALL)、Jurkat(T細胞ALL)、THP-1及びU937(急性単球性白血病)、DS-1(B細胞リンパ腫)、及びHEK293T(胚性腎線維芽細胞)をAmerican Type Culture Collection(Manassas,VA)から購入した。B-ALL細胞株OP-1を本発明者らの研究室で開発した11。Nalm-6、OP-1、THP-1、U937、及びJurkat細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)(HyClone GE Healthcare,Logan,UT)及び1%ペニシリン/ストレプトアビジン(P/S)(PAN-Biotech,Aidenbach,Germany)を添加したRPMI-1640(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)で維持した。DS-1細胞は、10%FBS、1%P/S、及び1ng/mLのインターロイキン-6(IL-6)(ThermoFisher Scientific)を添加したRPMI-1640で維持した。HEK-293Tは、10%FBS及び1%P/Sを添加したDMEM(HyClone Laboratories)で維持した。
【0077】
DS-1及びNalm-6を、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むマウス幹細胞ウイルス(MSCV)-内部リボソーム進入部位(IRES)-緑色蛍光タンパク質(GFP)レトロウイルスベクター(St.Jude Children’s Research Hospital Vector Development and Production Shared Resource,Memphis,TNから入手)で形質導入し、MoFloセルソーター(Beckman Coulter,Brea,CA)を用いてGFP発現で選択した。DS-1及びOP-1を、mCherryを含むMSCV-IRES-GFPレトロウイルスベクターで形質導入し、MoFloセルソーターを用いてmCherry発現で選択した。
【0078】
THP-1の分化を誘導するために、2×106のTHP-1細胞を、10%FBS、1%P/S、及び20ng/mlのホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)を添加した10mLのRPMI-1640で72時間培養した。続いて、分化したTHP-1細胞を1%EDTA(Merck,Kenilworth,NJ)を使用して回収した。
【0079】
末梢血単核細胞を、National University Hospital Blood Donation Centreによって提供された、廃棄され、非特定化された血小板献血の副産物からの密度勾配によって単離した。単核細胞を、10%FBS、1%P/S、120IU/mlのインターロイキン-2(IL-2)(Novartis,Basel,Switzerland)を添加したRPMI-1640においてDynabeads Human T-Activator CD3/CD28(ThermoFisher)と共に3日間培養した。4日目に、抗CD3/CD28ビーズを除去し、細胞を新鮮な抗CD3/CD28ビーズで再刺激した。続いて、増殖したT細胞を、10%FBS、1%P/S、及び120IU/mlのIL-2を添加したRPMI-1640で培養した。
【0080】
プラスミド及びレトロウイルス形質導入
mb-aIL6における抗IL6 scFvの重鎖及び軽鎖ドメインは、ヒト抗IL6モノクローナル抗体AME-19aの公表された配列に由来し、15個のアミノ酸[(G4S)3]リンカーに結合して単鎖可変断片(scFv)を形成し;構築物をGenscript (Nanjing,China)によって合成した。scFvを、CD8αヒンジ及び膜貫通ドメイン(「mb-aIL6」)に連結した。抗CD19-41BB-CD3ζ構築物は本発明者らの研究室で以前に開発した12。mb-aIL6と抗CD19-41BB-CD3ζを連結するために使用したP2A配列は以前に報告された13。すべての構築物を、EcoRIとXhoIの間のpMSCV-IRES-GFPにサブクローニングした。
【0081】
レトロウイルス上清の調製及び形質導入を既に記載されたように行った14。簡単に説明すると、T細胞を、37℃で、RetroNectin (Takara,Kusatsu,Japan)の存在下でレトロウイルス上清と共にインキュベートした。レトロウイルス上清は、次の3日間、その後12時間ごとに新しく採取した上清と交換した。続いて、形質導入されたT細胞を採取し、10%FBS、1%P/S、及び200IU/mLのIL-2を添加したRPMI-1640で培養した。
【0082】
形質導入細胞の表面染色
mb-aIL6及び抗CD19-41BB-CD3ζの表面発現をフローサイトメトリーによって検出した。mb-aIL6の場合、ビオチン標識ヤギ抗ヒトF(ab)’2(Jackson ImmunoResearch,West Grove,PA)を使用し、続いてアロフィコシアニン(APC)標識ストレプトアビジン(BD Biosciences,San Jose,CA)で二次染色した。細胞はまた、ビオチンに結合したヒトIL-6(Abcam,Cambridge,UK)で標識し、続いてストレプトアビジン-APCで標識した;ビオチンに結合した大豆トリプシン阻害剤(R&D,Minneapolis,MN)を陰性対照として使用した。myc-tagに連結されたヒトCD19の細胞外ドメインを含む、本発明者らの研究室で生成された可溶性融合タンパク質であるCD19-mycを使用して、抗CD19-41BB-CD3ζを特異的に検出した。T細胞をCD19-mycと共に30分間インキュベートし、続いてR-フィコエリトリン(PE)標識抗myc(Cell Signaling Technology,Danvers,MA)と共にインキュベートした。細胞の免疫表現型検査では、T細胞を、抗CD3 APC、抗CD56 PE、抗CD4 V450、及び抗CD8 PerCP(BD Biosciences)で標識した。細胞染色を、Accuri C6又はFortessaフローサイトメーター(BD Biosciences)を用いて分析した。
【0083】
IL-6枯渇アッセイ
IL-6枯渇を測定するために、2×106個のT細胞を、1ngのIL-6を含む1mLのRPMI-1640で2時間培養した。別の実験では、0.5~2×106個のT細胞を、10IUのIL-6を含む1mLのRPMI-1640で2時間培養した。さらに別の実験では、2×106個のT細胞を、1ngのIL-6を含む1mLのRPMI-1640で、20分~2時間の異なる時間間隔で培養した。さらなる実験では、0.5×106個の細胞を、25~200pg/mLの組換えヒトIL-6を含む1mLのRPMIで、37℃で2時間培養した。別のさらなる実験では、0.2×106個のT細胞を、1ngのIL-6を含む1mLのRPMI-1640で2~72時間培養した。培養の最後に、上清を回収し、0.22μmフィルターで濾過し、1:10に希釈した。IL-6のレベルを、ヒトIL-6 Platinum ELISAキット(ThermoFisher)を用いるELISAによって測定した。計算された標準曲線からの補間を使用して、各試料のIL-6の濃度を決定した。
【0084】
Stat3リン酸化の測定のために、2×106個の細胞を、10IUのIL-6を含む1mLのRPMI-1640に2時間播種した。上清を回収し、0.2×106個のU937細胞と共に37℃で、15分間インキュベートした。Lysefix緩衝液(BD Bioscience)を添加し、試料を37℃で10分間さらに維持した。次いで、細胞を洗浄し、Perm III緩衝液に入れて氷上に30分間置いた。3回の洗浄後、PE標識抗Stat3(pY705)抗体(BD Biosciences)を添加した。1時間後、細胞を洗浄し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0085】
IL-6依存性細胞株DS-1の増殖に対するmb-aIL6によるIL-6枯渇の影響を決定するために、1.5×104個のT細胞を、10%FBS、1%P/S、及び0.5ng/mlのIL-6を添加したRPMI-1640において、1:1の比率でmCherryを形質導入したDS-1細胞と共にインキュベートした。増殖したT細胞では、120IU/mlのIL-2を添加した。DS-1細胞は、実験開始の72時間前に飢餓状態にした。IL-2及びIL-6を、培養中2日ごとに添加した。IncuCyte Live Cell Analysis System(Essen Biosciences,Ann Arbor,MI)を使用して、4時間ごとに各ウェルの4倍画像をキャプチャした。細胞数を蛍光を用いて測定し、ウェル内のDS-1 mCherryの量の指標として、赤色物体の全積分強度(total red object integrated intensity)を使用した。他の実験では、T細胞、OP-1、及び分化したTHP-1を1:5:1の比率で用いて同様の培養を行った。アッセイの開始の1時間前に分化したTHP-1を播種した。各ウェルの4倍画像を、IncuCyteシステムを使用して上記のようにキャプチャした。40時間後、各ウェルから上清を回収し、1:5に希釈し、上記のようにELISAによってIL-6を測定した。
【0086】
インターフェロン-γ(IFNγ)の産生、CD107αの発現、細胞毒性、及び増殖アッセイ
IFNγの産生について試験するために、1×105個のT細胞を、1:1の比率でOP-1細胞と共に培養した。1時間後、GolgiPlug(BD Biosciences)を細胞に添加し、これをさらに5時間培養した。本発明者らの研究室で開発された透過化試薬である8Eによる細胞膜透過化後、細胞をPE標識抗ヒトIFNγ抗体(BD Biosciences)で標識し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0087】
細胞毒性顆粒のエキソサイトーシスを測定するために、上記のように細胞を培養した。培養の初めに、PE標識抗ヒトCD107a抗体(BD Biosciences)を添加した。1時間後、GolgiStop(BD Biosciences)を添加し、培養をさらに3時間続けた後、フローサイトメトリーによって分析した。
【0088】
細胞毒性を試験するために、OP-1細胞をカルセイン-AM Red(Invitrogen,Carlsbad,CA)で標識し、96ウェル丸底プレートにプレーティングした。T細胞(1×105個)を1:1のE:T比で添加し、4時間共培養した。前述のように、生存可能な標的細胞(カルセイン-AM陽性)をフローサイトメトリーによってカウントした14。
【0089】
細胞増殖を測定するために、1×105個のT細胞を、10%FBS、1%P/S、及び120IU/mlのIL-2を添加したRPMI-1640において、1:1のE:T比で照射OP-1と共培養した。IL-2を、各ウェルに2日ごとに添加した。7日目、14日目、及び21日目に、T細胞をフローサイトメトリーによってカウントした。細胞をカウントした後、新鮮な照射OP-1細胞を添加して、1:1のE:T比で再構成した。
【0090】
異種移植実験
ルシフェラーゼを発現するDS-1細胞を、NOD.Cg-Prkdcscid IL2rgtm1Wjl/SzJ (NOD/scid IL2RGnull)マウス(Jackson Laboratory)に腹腔内注射した(i.p.;1×106個の細胞/マウス)。DS-1接種の2日後、マウスに、GFPのみで形質導入した1×107個のT細胞、MSCV-mb-aIL6で形質導入した1×107個のT細胞、又はT細胞の代わりに10%FBSを含むRPMI 1640のいずれかを腹腔内注射した。すべてのマウスに、20000IUのIL-2及び1000IUのIL-6を2日ごとに腹腔内投与した。腫瘍細胞量を、水性d-ルシフェリンカリウム塩(Perkin Elmer,Waltham,MA)を(マウス当たり2mg)腹腔内注射した後、Xenogen IVIS-200システム(Caliper Life Sciences,Waltham,MA)を用いて週2回測定した。発光を、Living Image 3.0ソフトウェアを用いて測定した。
【0091】
ルシフェラーゼを発現するNalm-6細胞を、NOD/scid IL2RGnullマウスに静脈内注射した(i.v.;
図10A~
図10Bでは0.5×10
6個の細胞/マウス、
図10C~
図10Fでは、1×10
6個の細胞/マウス)。3日後に、マウスに、抗CD19-41BB-CD3ζ CARで形質導入した2×10
7個のT細胞、CAR及びmb-aIL6を含む構築物(「DUAL」)で形質導入した2×10
7個のT細胞、又はT細胞の代わりに10%FBSを含むRPMI 1640のいずれかを静脈注射した。すべてのマウスに、20000IUのIL-2を2日ごとに腹腔内投与した。腫瘍細胞量を、水性d-ルシフェリンカリウム塩(Perkin Elmer,Waltham,MA)を(マウス当たり2mg)腹腔内注射した後、Xenogen IVIS-200システム(Caliper Life Sciences,Waltham,MA)を用いて週2回測定した。発光を、Living Image 3.0ソフトウェアを用いて測定した。
【0092】
結果
mb-aIL6の設計、発現、及び特異性
膜結合抗IL-6構築物を作製するために、単鎖可変断片(scFv)を、ヒト抗IL-6抗体AME-19aの可変軽鎖及び重鎖の配列から合成し、これをCD8αのヒンジ及び膜貫通ドメインに連結した(
図1A)。この構築物を、IRES及びGFPを含むMSCVレトロウイルスベクターに導入した(
図1B)。このレトロウイルスベクターを使用して、JurkatT細胞を形質導入した。MSCV-mb-aIL6で形質導入された細胞ではGFP発現が高かった:細胞の98%がGFP陽性であった。形質導入されたJurkat細胞の表面におけるmb-aIL6を検出するために、細胞を、ビオチン標識ヤギ抗ヒトF(ab)’抗体で標識し、続いてストレプトアビジン-APCで標識した。
図1Cに示されているように、mb-aIL6は、本質的にすべてのGFP発現Jurkat細胞で検出されたが、GFPのみを含むベクターで形質導入された細胞(「Mock」)はmb-aIL6陰性であった。
【0093】
細胞表面で発現されたmb-aIL6がヒトIL-6に結合できるか否かを決定するために、形質導入されたJurkat細胞を、ビオチン標識ヒトIL-6に10分間曝露し;次いで、細胞をストレプトアビジン-APCで標識した。
図1Dに示されているように、mb-aIL6-Jurkat細胞は、GFPのレベル、従って受容体の発現に比例するレベルでIL-6に結合した:99%の細胞がIL-6に結合したが、ビオチン化対照タンパク質(大豆トリプシン阻害剤)で標識された細胞は未染色のままであった。
【0094】
mb-aIL6細胞によるIL-6の中和
mb-aIL6のIL-6への結合は、Jurkat細胞が組換えヒトIL-6(1ng/mL)を含む培地で2時間培養される実験により裏付けられ;培養物をELISAによって上清で測定された後に残留IL-6を回収した。2時間の培養後、mb-aIL6 Jurkat細胞の上清中のIL-6の濃度が0.163ng/mLであったのに対し、mock-形質導入Jurkat細胞の上清では0.941ng/mLであった(
図2A)。
【0095】
IL-6を中和するために必要なmb-aIL6 Jurkat細胞の数を決定するために、0.25×10
6個の細胞/mLから2×10
6個の細胞/mLまで増加する濃度の細胞を使用した。上清からのIL-6の除去は、細胞用量依存性であった(
図2B)。並行実験で、mb-aIL6細胞によるIL-6除去の動態を測定した。
図2Cに示されているように、IL-6中和は、時間依存性であり、ほぼ90%が30分後に中和され、120分後には検出できなくなった。特に、この曲線は、一次指数関数的減衰曲線(R
2=0.9957)の曲線に適合し、IL-6の半減期が7.443分であり、Kが0.09313であることを示している。
【0096】
mb-aIL6発現Jurkat細胞が低濃度のIL-6も中和できるか否かを試験するために、0.025~0.2ng/mLの範囲のIL-6の濃度を使用してIL-6枯渇アッセイを設定した。
図2Dに示されているように、mb-aIL6発現Jurkat細胞は、ほとんどのIL-6も同様に中和することができる。以前の実験と一致して、mock-形質導入細胞と比較して、mb-aIL6発現Jurkat細胞により、様々な濃度にわたってIL-6のレベルが3.8分の1~5.4分の1に減少した。
【0097】
本発明者らは、細胞増殖が、長期の細胞培養においてIL-6を中和し続けることになる新たなmb-aIL6細胞を生成するであろうと仮定した。この概念を試験するために、以前に決定された培養条件(
図2B)を使用したが、これは2時間でIL-6を中和するには不十分であり、72時間培養を続けた。24時間で、IL-6のほとんどが上清から除去されていた(
図2E)。
【0098】
mb-aIL6 T細胞によるIL-6中和の機能的結果
U937は、IL-6によって刺激することができる単球細胞株である
15、1
6。IL-6受容体に結合すると、IL-6がSTAT3リン酸化を引き起こす
17。mb-aIL6-又はmock-形質導入Jurkat細胞に2時間曝露した後のIL-6を含む上清の、U937においてStat3リン酸化を引き起こす能力を試験した。1ng/mLのIL-6を含む上清への暴露の15分後に、Stat3リン酸化が容易に検出された(P<0.001;n=3;
図3A)。IL-6上清をmock-形質導入Jurkat細胞を含む培養物から収集した場合、同様のレベルのリン酸化が観察された(P=非有意)。対照的に、培養物がmb-aIL6 Jurkat細胞を含んでいた場合、Stat3リン酸化のレベルは、IL-6又はmock-形質導入Jurkat細胞のIL-6を含む上清に曝露されたU937細胞で測定されたレベルよりも著しく低く(いずれの比較でも、P<0.001)、刺激されていない細胞のレベルと同様であった(P=非有意)。
【0099】
DS-1は、その増殖がIL-6を必要とするBリンパ腫細胞株である
18。本発明者らは、mb-aIL6を発現するJurkat細胞との共培養がDS-1の増殖に影響を与えることになるか否かを決定した。この目的のために、5日間にわたるmCherry形質導入DS-1細胞の連続した生細胞イメージングの記録を使用した。
図3Bに示されているように、IL-6を含む培地で培養されたDS-1は、mock-形質導入Jurkatの存在下で急速に増殖したが、mb-aIL6形質導入Jurkat細胞が培養物中に存在した場合、増殖は著しく減少した。これらの条件下で、DS-1の増殖速度は、mock-又はmb-aIL6形質導入Jurkat細胞が存在したか否かにかかわらず、IL-6が存在しない培養物で観察された増殖速度と同様であった。まとめると、これらの結果は、mb-aIL6を発現する細胞がIL-6の影響を中和する能力を裏付けている。
【0100】
ヒト末梢血Tリンパ球におけるmb-aIL6の発現
次の一連の実験で、mb-aIL-6が末梢血Tリンパ球の表面で発現され得るか否かを決定した。この目的のために、末梢血単核細胞を、抗CD3/CD28ビーズで刺激し、次いでMSCV-mb-aIL6レトロウイルスベクターで形質導入した。GFPのみを含むベクターで形質導入された細胞(「Mock」)を対照として使用した。
図4A及び
図4Bに示されているように、mb-aIL6は、形質導入されたGFP+Tリンパ球の表面で高度に発現し、IL-6に効果的に結合した。mb-IL6を発現するT細胞の免疫表現型は、mock-形質導入T細胞の免疫表現型と本質的に同一のままであった(
図4C)。
【0101】
mb-IL6を発現するT細胞がIL-6依存性細胞株DS-1の増殖を抑制できるか否かを試験した。
図4Dは、DS-1の増殖が著しく抑制されたことを示し、Tリンパ球で発現されたmb-aIL6が、受容体を発現しているJurkat細胞と同様にIL-6を中和できることを示している。
【0102】
膜結合抗IL-6と抗CD19-41BB-CD3z CARをTリンパ球で同時発現させることができる
CAR T細胞がCARに加えてmb-aIL6を発現するなら、これは、活性化Tリンパ球及び微小環境におけるマクロファージによって分泌されるIL-6を中和することにより、CRSの発生を防止することになる。
【0103】
この概念を試験するための第1のステップとして、mb-aIL6とCARを同時に効果的に発現できるか否かを決定した。このために、mb-aIL6及び抗CD19-41BB-CD3ζ CARをコードする遺伝子を含むバイシストロニックMSCVベクター(
図5A)を開発した
12。抗CD19 CARを特異的に検出するために、ヒトCD19分子の細胞外ドメインをmycタグに連結し、細胞を抗myc抗体で染色した。
図5Bは、mb-aIL6及び抗CD19 CARの両方が、末梢血T細胞において高レベルで発現され得ることを示す。単独で発現されたmb-aIL6と同様に、CARと共に発現されたmb-aIL6はIL-6を効果的に中和した(
図5C)。
【0104】
mb-aIL6の発現はCAR T細胞機能に影響を与えない
mb-aIL6の発現及びIL-6の中和がCARによって活性化されたT細胞機能に影響を与えるか否かを決定した。mb-aIL6又は抗CD19 CARのいずれかを発現する3つのドナーからのTリンパ球と両方の受容体を発現するT細胞を使用して、CD19+標的細胞OP-1との共培養後のIFNγの産生を試験した。CARを発現する細胞におけるIFNγの産生は、mb-aIL6が発現したか否かにかかわらず高かったが、mb-aIL6のみを発現するT細胞は、mock-形質導入細胞と同様のレベルのIFNγを分泌した(
図6A)。
【0105】
CD19+標的細胞の存在下で、CAR発現細胞は、抗CD107a抗体での染色によって証明されているように、細胞毒性顆粒を放出した。CD107a+細胞のパーセンテージは、mb-aIL6発現にかかわらず類似していたが、mb-aIL6のみを発現する細胞は、CD107a陰性のままであった(
図6B)。この結果に一致して、CARによって駆動されるCD19+標的に対するパーセント細胞毒性は、mb-aIL6の存在によっても不変のままである(
図6C)。
【0106】
第2世代及びそれ以降の世代のCARの重要な機能的特性は、共刺激を提供し、長期のT細胞増殖を維持する能力である
19。
図6Dに示されているように、抗CD19 CAR-T細胞は、CD19+標的細胞の存在下で4週間増殖し、その増殖速度は、mb-aIL6の有無にかかわらず細胞で類似していた。対照的に、mb-aIL6のみで形質導入された細胞及びmock-形質導入された細胞は増殖せず、CARの発現にかかわらず、標的細胞の非存在下では増殖は起きなかった。まとめると、これらの結果は、mb-aIL6の発現がIFNγのCAR駆動T細胞分泌、特定の細胞毒性、又は細胞増殖に影響を与えないことを示している。
【0107】
mb-aIL6及びCARを発現するT細胞は、IL-6を中和すると同時に標的細胞を殺すことができる
CAR活性化によって引き起こされるCRSの際、マクロファージによって分泌されるIL-6はその重症度に寄与する7-10。
【0108】
CAR-T細胞とマクロファージとの間の相互作用を模倣するために、CAR-T細胞を、TNF-α及びIFNγの存在下でIL-6を分泌する単球細胞株THP-1と共培養した
20;後者のサイトカインは、IL-6と一緒に、活性化時にTリンパ球によって分泌される9、
21。従って、mb-aIL6及び/又は抗CD19 CAR、THP-1、及びCD19+白血病細胞OP-1で形質導入されたTリンパ球を40時間共培養した(
図7A)。OP-1細胞の死滅及び上清中のIL-6のレベルをモニタリングした。
図7Bに示されているように、CAR T細胞は、mb-aIL6発現又はTHP-1の存在にかかわらず、OP-1を効果的に殺す。驚くべきことに、IL-6のレベルは、CAR-T細胞及びTHP-1細胞の両方を含む培養物中でかなり上昇したが、CAR-T細胞がmb-aIL6も発現している場合は、これらは本質的に検出できなかった。
【0109】
異種移植実験
mb-aIL6発現Tリンパ球がin vivoでIL-6を中和する能力を決定するために、ルシフェラーゼ標識DS-1細胞を移植したNOD/scid IL2RGnullマウスを用いた実験を行った。腫瘍の成長をライブイメージングによって測定し、GFPのみで形質導入されたT細胞が投与されたマウスと、mb-aIL6で形質導入されたT細胞が投与されたマウスを比較した。mb-aIL6形質導入T細胞が投与された3匹のマウスのうち2匹では、腫瘍組織量が減少したが、mock-形質導入T細胞が投与されたマウスの腫瘍組織量は、安定したままであったか、又は増加した(
図9A及び
図9B)。
【0110】
mb-aIL6の発現が抗CD19 CAR T細胞の抗腫瘍能力に影響を与えるか否かを試験した。実験は、ルシフェラーゼ標識Nalm-6細胞を移植したNOD/scid IL2RGnullマウスを用いて行った。腫瘍の成長をライブイメージングで測定し、CARのみで形質導入されたT細胞が投与されたマウスと、CAR及びmb-aIL6を含むバイシストロニック構築物で形質導入されたT細胞が投与されたマウスを比較した。CAR T細胞は、mb-aIL6が発現されたか否かにかかわらず、抗白血病活性を与えた(
図10A~
図10F)。まとめると、これらの結果は、mb-aIL6がin vivoでIL-6を中和することができ、CAR機能に有意な影響を与えないことを示唆している。
【0111】
考察
この研究の結果は、Tリンパ球によって運ばれるmb-aIL6がIL-6の強力な中和剤であることを示している。重要なことに、mb-aIL6は、CARの効力に影響を与えることなく、CARと組み合わせてTリンパ球で発現させることができる。このため、mb-aIL6を発現するCAR-T細胞は、抗腫瘍能力を維持しながら、重度のCRSを引き起こすリスクが小さいはずである。
【0112】
本発明者らは、mb-aIL6に機能的に関連するが、独特の特徴を有する他の受容体を設計した(
図8A~
図8C)。
図8Aは、mb-aIL6(sec-aIL6)のCD8α膜貫通ドメインが存在しない可溶性形態の受容体の核酸構築物の概略図であり、このmb-aIL6は、形質導入された細胞によって継続的に分泌され、炎症性微小環境領域により効果的に拡散する可能性がある。
図8Bは、mb-aIL6が、典型的にはCAR(aIL6-CAR)に組み込まれた刺激ドメイン及び共刺激ドメインに連結されている核酸構築物の概略図である。このような受容体を有する細胞は、aIL6-CARのライゲーション時に増殖し、IL-6中和を拡大するはずである。
図8Cは、scFv抗IL6が、シグナル伝達能力が失われたIL-6受容体によって置換されている核酸構築物の概略図である。これは、IL-6受容体αに融合したgp130の細胞外ドメイン及びCD8αのヒンジと膜貫通ドメインによって構成されている。この形態の潜在的な利点は、scFv含有受容体よりも免疫原性が低い可能性があることである。
【0113】
この研究はIL-6に焦点を当てたが、同様のアプローチを適用して、腫瘍壊死因子(TNF)-α(
図11A及び
図11B)、IL-1β、IL-12、IL-17、IL-18、IFNγなどの他の炎症誘発性サイトカインを中和し、且つ/又はそれらの受容体をブロックすることができる。例えば、
図11Aの概略図に基づいて、抗IL6 scFv部分は、(TNF)-α(
図11)、IL-1β、IL-12、IL-17、IL-18、又はIFNγなどの異なるサイトカインに特異的に結合する異なるscFvで置換することができる。複数の中和受容体を同じ細胞又は異なる細胞サブセットで発現させて、広範囲で持続的な抗炎症効果を与えることができる。
【0114】
配列
mb-aIL6の配列
CD8αシグナルペプチドのヌクレオチド配列(配列番号1):
【化1】
【0115】
CD8αシグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号2):MALPVTALLLPLALLLHAARP
【0116】
抗IL6の可変軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号3):
【化2】
【0117】
抗IL-6の可変軽鎖のアミノ酸配列(配列番号4):
【化3】
【0118】
GSGリンカーのヌクレオチド配列(配列番号5):GGCGGCGGCGGCTCTGGAGGAGGAGGAAGCGGAGGAGGAGGATCC
【0119】
GSGリンカーのアミノ酸配列(配列番号6):GGGGSGGGGSGGGGS
【0120】
抗IL-6の可変重鎖のヌクレオチド配列(配列番号7):
【化4】
【0121】
抗IL-6の可変重鎖のアミノ酸配列(配列番号8):
【化5】
【0122】
CD8αヒンジ及び膜貫通ドメインのヌクレオチド配列(配列番号9):
【化6】
【0123】
CD8αヒンジ及び膜貫通ドメインのアミノ酸配列(配列番号10):
【化7】
【0124】
sec-aIL6
sec-aIL6のヌクレオチド配列(配列番号11):
【化8】
【0125】
sec-aIL6のアミノ酸配列(配列番号12):
【化9】
【0126】
aIL6BBzの配列
CD8αシグナルペプチドのヌクレオチド配列(配列番号13):
【化10】
【0127】
CD8αシグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号14):MALPVTALLLPLALLLHAARP
【0128】
aIL6 scFvのヌクレオチド配列(配列番号15):
【化11】
【0129】
aIL6 scFvのアミノ酸配列(配列番号16):
【化12】
【0130】
CD8αヒンジ及び膜貫通ドメインのヌクレオチド配列(配列番号17):
【化13】
【0131】
CD8αヒンジ及び膜貫通ドメインのアミノ酸配列(配列番号18):
【化14】
【0132】
41BBドメインのヌクレオチド配列(配列番号19):
【化15】
【0133】
41BBドメインのアミノ酸配列(配列番号20):KRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCEL
【0134】
CD3ζドメインのヌクレオチド配列(配列番号21):
【化16】
【0135】
CD3ζドメインのアミノ酸配列(配列番号22):
【化17】
【0136】
mb-gp130-IL6Rの配列
gp130ドメインのヌクレオチド配列(配列番号23):
【化18】
【0137】
gp130ドメインのアミノ酸配列(配列番号24):
【化19】
【0138】
GSGリンカーのヌクレオチド配列(配列番号25):GGAGGAGGAGGAAGCGGAGGAGGAGGCTCCGGCGGCGGCGGCTCT
【0139】
GSGリンカーのアミノ酸配列(配列番号26):GGGGSGGGGSGGGGS
【0140】
IL-6Rドメインのヌクレオチド配列(配列番号27):
【化20】
【0141】
IL-6Rドメインのアミノ酸配列(配列番号28):
【化21】
【0142】
CD8αヒンジ及び膜貫通ドメインのヌクレオチド配列(配列番号29):
【化22】
【0143】
CD8αヒンジ及び膜貫通ドメインのアミノ酸配列(配列番号30):
【化23】
【0144】
mb-aTNFα配列
CD8αシグナルペプチドのヌクレオチド配列(配列番号31):
【化24】
【0145】
CD8αシグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号32):MALPVTALLLPLALLLHAARP
【0146】
抗TNFαの可変軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号33):
【化25】
【0147】
抗TNFαの可変軽鎖のアミノ酸配列(配列番号34):
【化26】
【0148】
GSGリンカーのヌクレオチド配列(配列番号35):GGAGGAGGAGGATCCGGAGGAGGAGGATCTGGCGGCGGCGGCAGC
【0149】
GSGリンカーのアミノ酸配列(配列番号36):GGGGSGGGGSGGGGS
【0150】
抗TNFαの可変重鎖のヌクレオチド配列(配列番号37):
【化27】
【0151】
抗TNFαの可変重鎖のアミノ酸配列(配列番号38):
【化28】
【0152】
CD8αヒンジ及び膜貫通ドメインのヌクレオチド配列(配列番号39):
【化29】
【0153】
CD8αヒンジ及び膜貫通ドメインのアミノ酸配列(配列番号40):
【化30】
【0154】
参考文献
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21.Slifka MK,Whitton JL.Activated and memory CD8+ T cells can be distinguished by their cytokine profiles and phenotypic markers.J Immunol.2000;164(1):208-216.
【0155】
参照による組み込み;等価物
本明細書で引用されるすべての特許、公開出願、及び参考文献の教示は、それらの全体が参照により組み込まれる。
【0156】
実施形態の例が具体的に示され説明されてきたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に含まれる実施形態の範囲から逸脱することなく、この実施形態の例に形態及び詳細の様々な変更を加えることができることを理解されよう。
本発明の態様として以下のものが挙げられる。
項1
膜結合抗IL6(mb-aIL6)単鎖可変断片(scFv)をコードする核酸を含むベクターであって、前記mb-aIL6 scFvが:
a)抗IL-6可変軽鎖ドメイン、抗IL-6可変重鎖ドメイン、及び前記可変軽鎖ドメインと前記可変重鎖ドメインを連結するリンカードメインを含む抗IL6単鎖可変断片(抗IL6 scFv);並びに
b)前記抗IL6 scFvに結合されたヒンジ及び膜貫通ドメインを含む、ベクター。
項2
前記抗IL-6可変軽鎖ドメイン及び前記抗IL-6可変重鎖ドメインの1つ又は複数が、ヒト抗IL6可変軽鎖及び可変重鎖ドメインである、項1に記載のベクター。
項3
前記可変軽鎖ドメインが、配列番号4に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、項2に記載のベクター。
項4
前記可変重鎖ドメインが、配列番号8に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、項2に記載のベクター。
項5
前記リンカードメインが(G4S)
x
であり、式中、xが1~100の整数である、項1~4のいずれか一項に記載のベクター。
項6
前記リンカードメインが(G4S)
3
である、項1~4のいずれか一項に記載のベクター。
項7
前記ヒンジ及び膜貫通ドメインがCD8αヒンジ及び膜貫通ドメインである、項1~4のいずれか一項に記載のベクター。
項8
前記核酸が、キメラ抗原受容体(CAR)をさらにコードする、項1~4のいずれか一項に記載のベクター。
項9
前記キメラ抗原受容体が、抗CD19-41BB-CD3ζキメラ抗原受容体(CAR)である、項8のいずれか一項に記載のベクター。
項10
前記mb-aIL6が、P2A配列によって前記抗CD19-41BB-CD3ζに結合されている、項9のいずれか一項に記載のベクター。
項11
抗IL6キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を含むベクターであって、前記抗IL6 CARが:
a)抗IL-6可変軽鎖ドメイン、抗IL-6可変重鎖ドメイン、及び前記可変軽鎖ドメインと前記可変重鎖ドメインを連結する第1のリンカードメインを含む抗IL6単鎖可変断片(抗IL6 scFv);
b)前記抗IL6 scFvのN末端にある第2のリンカードメイン;
c)前記第2のリンカードメインのN末端にあるヒンジ及び膜貫通ドメイン;並びに
d)前記ヒンジ及び膜貫通ドメインのN末端にある細胞内シグナル伝達ドメインを含む、ベクター。
項12
前記細胞内シグナル伝達ドメインが41BBドメインである、項11に記載のベクター。
項13
前記細胞内シグナル伝達ドメインのN末端にある共刺激ドメインをさらに含む、項11に記載のベクター。
項14
前記共刺激ドメインがCD3ζドメインである、項13に記載のベクター。
項15
哺乳動物のIL-6濃度を低下させる方法であって:
膜結合抗IL6(mb-aIL6)単鎖可変断片(scFv)をT細胞で発現させること、及び前記T細胞をIL-6を含む液体に接触させることを含み、前記mb-aIL6が:
a)抗IL-6可変軽鎖ドメイン、抗IL-6可変重鎖ドメイン、及び前記可変軽鎖ドメインと前記可変重鎖ドメインを連結するリンカードメインを含む抗IL6単鎖可変断片(抗IL6 scFv);並びに
b)前記抗IL6 scFvに結合されたヒンジ及び膜貫通ドメインを含む、方法。
項16
前記哺乳動物がヒトである、項15に記載の方法。
項17
前記T細胞を培養して、前記mb-aIL6を発現する新たなT細胞を作製することをさらに含む、項15又は16に記載の方法。
項18
サイトカイン放出症候群(CRS)のリスクを低減することをさらに含み、前記哺乳動物のT細胞がキメラ抗原受容体を発現する、項15又は16に記載の方法。
項19
前記哺乳動物が、自己免疫疾患、炎症性疾患、又はリンパ増殖性障害に罹患しており、前記哺乳動物のIL-6濃度を低下させることにより前記自己免疫疾患、前記炎症性疾患、又は前記リンパ増殖性障害それぞれを処置する、項15又は16に記載の方法。
項20
前記哺乳動物が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、移植片対宿主病、又はキャッスルマン病に罹患しており、IL-6濃度を低下させることにより関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、移植片対宿主病、又はキャッスルマン病それぞれを処置する、項19に記載の方法。
【配列表】