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特許7334994デンドリマー-生体接着性ポリマーヒドロゲルナノ接着剤およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】デンドリマー-生体接着性ポリマーヒドロゲルナノ接着剤およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/04 20060101AFI20230822BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61L 24/06 20060101ALI20230822BHJP
   A61L 24/08 20060101ALI20230822BHJP
   A61L 24/10 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230822BHJP
   A61K 47/56 20170101ALI20230822BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20230822BHJP
   A61L 26/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 49/04 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 49/12 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 51/06 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 27/14 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
A61L24/04 200
A61L24/00 210
A61L24/06
A61L24/08
A61L24/00 300
A61L24/10
A61L24/00 240
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/10
A61K47/56 ZNA
A61K9/06
A61K31/573
A61L26/00
A61K31/56
A61K45/00
A61K49/00
A61K49/04
A61K49/12
A61K51/06 200
A61P17/02
A61P27/14
A61P27/02
【請求項の数】 45
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021137883
(22)【出願日】2021-08-26
(62)【分割の表示】P 2018541170の分割
【原出願日】2017-02-08
(65)【公開番号】P2021181495
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】62/292,741
(32)【優先日】2016-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】398076227
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(72)【発明者】
【氏名】カナン ランガラマヌジャム
(72)【発明者】
【氏名】ウォルター スターク
(72)【発明者】
【氏名】シバ プラモス カムバームパティ
(72)【発明者】
【氏名】ウリ ソイバーマン
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル イウ
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥル-エラ アバド アル-トワーキ
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516627(JP,A)
【文献】特表2004-523624(JP,A)
【文献】Progress in Polymer Science,2014年,Vol.39,p.1973-1986
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-A61L33/18
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ接着剤を形成する方法において使用するための、デンドリマーおよびポリマーを含む組み合わせ物であって、該デンドリマーが、1つまたはこれより多くの末端ヒドロキシル基、および1種またはこれより多くの光架橋可能な基を含み、該ポリマーが、1種またはこれより多くの光架橋可能な基を含み、該方法が、
該組み合わせ物を組織に投与する工程と、
該組織を1種またはこれより多くの外部刺激へ曝露する工程と、
を含み、該デンドリマーおよび該ポリマーが、該1種もしくはこれより多くの外部刺激への曝露に際して、それらのそれぞれの光架橋可能な基を介して、該組織内で互いに架橋され、それによって該ナノ接着剤を形成し、
該1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、チオール基、ビニル基、マレイミド基、カルボキシレート基、メタクリレート基、アクリレート基、アルケン基、およびアルキン基からなる群から選択される、組み合わせ物。
【請求項2】
1種もしくはこれより多くの治療剤、予防剤、または診断剤が、該デンドリマーと結合体化されているか、またはこれと複合体化されている、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項3】
前記デンドリマーが、抗炎症性薬物、抗感染剤、抗緑内障薬剤、眼圧(IOP)を低下させる薬剤、抗血管新生薬剤、および増殖因子からなる群より選択される薬剤を含む、請求項2に記載の組み合わせ物。
【請求項4】
前記デンドリマーが、常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子、放射性核種、x線画像化剤、および造影剤からなる群より選択される診断剤を含む、請求項2に記載の組み合わせ物。
【請求項5】
前記デンドリマーが、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、および非ステロイド系抗炎症性薬物(NSAIDS)からなる群より選択される治療剤を含む、請求項2に記載の組み合わせ物。
【請求項6】
前記デンドリマーは、世代2~10ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項7】
前記PAMAMデンドリマーが、世代2、世代3、世代4、世代5、または世代6PAMAMデンドリマーである、請求項6に記載の組み合わせ物。
【請求項8】
前記ポリマーが、ヒアルロン酸、キトサン、アルギネート、アガロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、セルロース、ポリアルキレンオキシド、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、プルラン、およびこれらの誘導体からなる群より選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項9】
前記ポリマーが、ヒアルロン酸またはその誘導体を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項10】
前記デンドリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、メタクリレート基を含み、前記ポリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、メタクリレート基を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項11】
前記デンドリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、メタクリレート基またはアクリレート基を含み、前記ポリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、チオール基を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項12】
前記デンドリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、アルケン官能基またはアルキン官能基を含み、前記ポリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、チオール基を含み、請求項1~11のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項13】
前記方法が、前記組織に光開始剤を投与することをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項14】
前記光開始剤が、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンである、請求項13に記載の組み合わせ物。
【請求項15】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、70:30~90:10の間(両端を含む)のデンドリマー:ポリマー比で存在する、請求項1~14のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項16】
前記曝露する工程が、前記組織をアルゴンレーザー、コバルトブルー、または可視光照射へ曝露することを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項17】
前記曝露する工程が、前記組織を紫外線照射へ曝露することを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項18】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、注射によって投与されることを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項19】
前記組織が眼の組織を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項20】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、結膜下、腔内、脈絡膜上、局所、硝子体内または網膜下投与によって、眼の表面または区画に投与されることを特徴とする、請求項19に記載の組み合わせ物。
【請求項21】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、角膜に投与されることを特徴とする、請求項19に記載の組み合わせ物。
【請求項22】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、角膜創傷、アルカリもしくは酸熱傷、ドライアイ、角膜炎症、角膜感染、虹彩炎、またはぶどう膜炎の処置のために投与されることを特徴とする、請求項21に記載の組み合わせ物。
【請求項23】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、創傷を閉じるために有効な量で前記組織における創傷に投与されることを特徴とする、請求項1~22のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項24】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、硬膜、肺の膜、腹膜、胃腸、内皮、または熱傷した組織を閉じるために投与されることを特徴とする、請求項1~23のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項25】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、バリアを形成するために組織表面に投与されることを特徴とする、請求項1~24のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項26】
ナノ接着剤を形成する方法において使用するための、請求項1~25のいずれか一項に記載の組み合わせ物のデンドリマーの投与単位およびポリマーの投与単位を含むキットであって、該投与単位が、乾燥構成成分のための容器および液体構成成分のための容器を含み、該構成成分が、一緒に混合された場合に前記ナノ接着剤を形成し、該方法が、
該デンドリマーおよび該ポリマーを組織に投与する工程と、
該組織を1種またはこれより多くの外部刺激へ曝露する工程と、
を含み、該デンドリマーおよび該ポリマーが、該1種もしくはこれより多くの外部刺激への曝露に際して、それらのそれぞれの光架橋可能な基を介して、該組織内で互いに架橋され、それによって該ナノ接着剤を形成する、キット。
【請求項27】
前記投与単位は、点滴注入器瓶、または混合チップもしくはアプリケーター付きのデュアルバレルシリンジである、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
ナノ接着剤を形成する方法において使用するための、デンドリマーを含む組成物であって、該デンドリマーが、1つまたはこれより多くの末端ヒドロキシル基、および1種またはこれより多くの光架橋可能な基を含み、該方法が、
該組成物を1種またはこれより多くの光架橋可能な基を含むポリマーと組み合わせて組織に投与する工程と、
該組織を1種もしくはこれより多くの外部刺激へ曝露する工程と、
を含み、該デンドリマーおよび該ポリマーが、該1種もしくはこれより多くの外部刺激への曝露に際して、それらのそれぞれの光架橋可能な基を介して、該組織内で互いに架橋され、それによって該ナノ接着剤を形成し、
該1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、チオール基、ビニル基、マレイミド基、カルボキシレート基、メタクリレート基、アクリレート基、アルケン基、およびアルキン基からなる群から選択される、組成物。
【請求項29】
ナノ接着剤を形成する方法において使用するための、ポリマーを含む組成物であって、該ポリマーが、1種またはこれより多くの光架橋可能な基を含み、該方法が、
該組成物を1つまたはこれより多くの末端ヒドロキシル基、および1種またはこれより多くの光架橋可能な基を含むデンドリマーと組み合わせて組織に投与する工程と、
該組織を1種もしくはこれより多くの外部刺激へ曝露する工程と、
を含み、該デンドリマーおよび該ポリマーが、該1種もしくはこれより多くの外部刺激への曝露に際して、それらのそれぞれの光架橋可能な基を介して、該組織内で互いに架橋され、それによって該ナノ接着剤を形成し、
該1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、チオール基、ビニル基、マレイミド基、カルボキシレート基、メタクリレート基、アクリレート基、アルケン基、およびアルキン基からなる群から選択される、組成物。
【請求項30】
1種もしくはこれより多くの治療剤、予防剤、または診断剤が、該デンドリマーと結合体化されているか、またはこれと複合体化されている、請求項28または29に記載の組成物。
【請求項31】
前記デンドリマーは、世代2~10ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーである、請求項28~30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記ポリマーが、ヒアルロン酸、キトサン、アルギネート、アガロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、セルロース、ポリアルキレンオキシド、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、プルラン、およびこれらの誘導体からなる群より選択される、請求項28~31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
前記デンドリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、メタクリレート基を含み、前記ポリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、メタクリレート基を含む、請求項28~32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記デンドリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、メタクリレート基またはアクリレート基を含み、前記ポリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、チオール基を含む、請求項28~33のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
前記デンドリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、アルケン官能基またはアルキン官能基を含み、前記ポリマーにおける前記1種またはこれより多くの光架橋可能な基が、チオール基を含み、請求項28~34のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
前記曝露する工程が、前記組織をアルゴンレーザー、コバルトブルー、可視光照射、または紫外線照射へ曝露することを含む、請求項28~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、注射によって投与されることを特徴とする、請求項28~36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
前記組織が眼の組織を含む、請求項28~37のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、結膜下、腔内、脈絡膜上、局所、硝子体内または網膜下によって、眼の表面または区画に投与されることを特徴とする、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、角膜に投与されることを特徴とする、請求項38に記載の組成物。
【請求項41】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、創傷を閉じるために有効な量で前記組織における創傷に投与されることを特徴とする、請求項28~40のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項42】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、硬膜、肺の膜、腹膜、胃腸、内皮、または熱傷した組織を閉じるために投与されることを特徴とする、請求項28~41のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項43】
前記デンドリマーおよび前記ポリマーが、バリアを形成するために組織表面に投与されることを特徴とする、請求項28~42のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項44】
ナノ接着剤を形成する方法において使用するための、請求項28~43のいずれか一項に記載の組成物のデンドリマーの投与単位およびポリマーの投与単位を含むキットであって、該投与単位が、乾燥構成成分のための容器および液体構成成分のための容器を含み、該構成成分が、一緒に混合された場合に前記ナノ接着剤を形成し、該方法が、
該デンドリマーおよび該ポリマーを組織に投与する工程と、
該組織を1種またはこれより多くの外部刺激へ曝露する工程と、
を含み、該デンドリマーおよび該ポリマーが、該1種もしくはこれより多くの外部刺激への曝露に際して、それらのそれぞれの光架橋可能な基を介して、該組織内で互いに架橋され、それによって該ナノ接着剤を形成する、キット。
【請求項45】
前記投与単位は、点滴注入器瓶、または混合チップもしくはアプリケーター付きのデュアルバレルシリンジである、請求項44に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する参照
この出願は、2016年2月8日に出願された米国仮特許出願第62/292,741号(これは、あたかも本明細書にその全体が示されているかのように全ての目的のために、参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
電子的に提出された材料の参照による援用
この出願は、EFS-Webを介してASCII形式で提出され、その全体が参考として本明細書に援用される配列表を含む。このASCIIコピーは、2017年2月8日に作成され、P13910-02_ST25.txtという名称であり、2,544バイトのサイズである。
【0003】
本発明は、ヒドロゲル接着剤の分野に、およびより詳細には、創傷修復および障害の処置に関する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
外傷または手術による傷害の後の創傷の修復は、臨床的にかなり重大である。これらの創傷はしばしば、縫合糸で閉じられる。しかし、縫合糸は、多くの欠点(侵襲性の手順、不均一な治癒、緩んでくるおよび/または切れてしまう傾向、ならびにしばしば当業者が外す必要性が挙げられる)を有する。さらに、縫合は、炎症を引き起こし得、感染のリスクを増大させ得、そして角膜創傷の場合には、新生血管形成をもたらし得、乱視を誘導し得る。比較において、無縫合手術は、縫合糸を伴う手術と比較して、感染の割合がより低い(Stonecipher Kら, Arch Ophthalmol., 109(11):1562-1563 (1991))。以前の研究では、ヒドロゲル接着剤が探求されたが、それらは生体適合性の欠如、引っ張り強さの欠如、および制限された適用部位に起因して、嫌われている(Grinstaff MWら, Biomaterials, 28(35):5205-5214 (2007); Grinstaff MWら, Chemistry-A European Journal, 8(13):2838-2846 (2002))。
【0005】
炎症、感染、および他の合併症の予防およびこれらとの戦いは、組織の治癒を促進する。これは、1種またはこれより多くの活性薬剤の送達のためのシステムが使用され得る場合に、さらによい。眼の障害の処置において、局所的な抗生物質およびステロイドは、それぞれ、感染のリスクおよび角膜瘢痕化を低減する。しかし、その薬物はしばしば、涙液分泌を介して除去され、従って、患者の不遵守、角膜の変色、眼圧上昇、ならびに角膜刺激および毒性をもたらし得る反復投与が必要とされる(Gibson JMら,US Ophthalmic Review, 8(1):2-7 (2015); Mahajan HSら,Carbohydrate Polymers, 122:243-247 (2015))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Stonecipher Kら、Arch Ophthalmol.(1991)109(11):1562~1563
【文献】Grinstaff MWら、Biomaterials,(2007)28(35):5205~5214
【文献】Grinstaff MWら、Chemistry-A European Journal,(2002)8(13):2838~2846
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、ナノ接着剤またはその前駆物質製剤を提供して、組織を効果的に閉じ(例えば、良好な適用範囲、生体適合性、機械的強度、および分解性)、創傷修復を促進することである。
【0008】
本発明の別の目的は、医師による外部刺激の適用に際して、または組織への導入に際して、ゲル化し、組織を閉じるように誘発され得るヒドロゲルまたはその前駆物質を使用して組織を閉じるための方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、眼の組織を閉じるための、およびより好ましくは持続した様式で活性薬剤を局所に同時に送達するための組成物および方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、持続した様式で、結膜下に投与され得る注射可能なゲル製剤を使用して、薬物(例えば、コルチコステロイド(抗炎症性薬物)および抗菌薬物)を送達することによって、角膜炎症および感染を処置することにおける方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の要旨
組織を閉じる、ならびに必要に応じて治療剤、予防剤、および/または診断剤を送達するためのヒドロゲルまたはヒドロゲル前駆物質組成物が開発され、「ナノ接着剤(nanoglue)」として本明細書で言及される。上記ナノ接着剤は、1種またはこれより多くのデンドリマー分子(またはその誘導体)および1種またはこれより多くの生体接着性ポリマー(またはその誘導体)で形成され、ここで上記デンドリマー分子および上記生体接着性ポリマーは、1もしくはこれより多くの外部刺激または組織内の1もしくはこれより多くの生理学的条件の適用に際して架橋される。好ましい実施形態において、上記デンドリマーおよび上記生体接着性ポリマーは、光架橋可能な基(例えば、チオール基とビニル基;チオール基とマレイミド基;チオール基とアルケン基;チオール基とアルキン基;アミン基とアルデヒド基;アミン基とカルボキシレート基;メタクリレート基;およびアクリレート基)を含むように化学的に改変される。官能基を有するこれらのデンドリマーおよび生体接着性ポリマーは、外部刺激(例えば、紫外線照射、コバルトブルーライト、アルゴンレーザーまたは可視光)への曝露後に組織部位においてインサイチュでナノ接着剤を形成するために硬化される。必要に応じて、上記治療剤、予防剤、または診断剤は、デンドリマー分子に結合体化されるかまたはこれと複合体化され、持続しかつ制御された様式において投与された部位において放出される。
【0012】
ある種の実施形態において、1種またはこれより多くのデンドリマー分子は、必要に応じて、1またはこれより多くの官能基(例えば、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、アルコキシシリル、チオール、ピリジル、ビニル、メタクリロイル、アルケン、アルキルおよび/または環式不飽和炭化水素)で末端化した世代2~10ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーである。
【0013】
ある種の実施形態において、上記1種またはこれより多くの生体接着性ポリマーは、ヒアルロン酸、キトサン、アルギネート、アガロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、セルロース、ポリアルキレンオキシド、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、またはこれらの誘導体である。
【0014】
デンドリマーナノ接着剤が開発され、これは、閉じ、そして治療剤、予防剤および/または診断剤の制御され持続した局所放出を提供する。上記ナノ接着剤は、組織を保持するために望ましい機械的特性を有する。それはまた、創傷治癒を加速し、抗菌薬物および抗炎症性薬物を送達する薬剤を送達して、感染および瘢痕組織形成を防止するために、使用され得る。上記製剤は、外科医にとって扱いやすい。それは、適用の間に粘性の液体であり、レーザー照射に際して迅速に重合し、外科医が作業する、より長い時間枠を提供する。上記ナノ接着剤の強度は、レーザー適用の継続時間によって、または上記ナノ接着剤の個々の構成成分のパーセンテージを変化させることによって調節され得る。
【0015】
他の物質は、可撓性、強度を増大させるため、または薬物送達特性を制御するために、製剤へと組みこまれ得る。一例は、強度および可撓性を増大させるヒアルロン酸である。治療剤、予防剤および/または診断剤は、治療剤(例えば、ステロイドおよび抗菌薬物(抗生薬物))の徐放を可能にするために、デンドリマーに直接組みこまれ得るか、結合され得るか、または粒子へと製剤化され得る。これは、点眼剤使用を低減するために使用され得、それによって、副作用を低減し得る。
【0016】
上記製剤は、多様式適用を有し、そして薬物利用可能性を増大させるために、ならびに種々の角膜および前眼部の疾患(例えば、角膜炎症、角膜新生血管形成、角膜移植片拒絶、ならびにおそらく虹彩炎および前部ぶどう膜炎)のための薬物徐放を補助するために、異なる位置または目的の投与のために、例えば、結膜下投与のためのより緩いゲルとして、改変され得る。個々の構成要素のパーセンテージは、適切な希釈で改変されて、種々の後眼部の疾患(例えば、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性(AMD)に続発する脈絡膜新生血管形成(CNV)および他の網膜病理)のための薬物の徐放のために硝子体内に注射され得る透明な可撓性の薬物デポーゲルを形成する。改変された製剤中の主要構成成分としてヒアルロン酸を使用することは、硝子体ゲルと十分に一体化し、薬物を有するデンドリマーを上記ゲルから放出させ、硝子体内注射の有意に低減した頻度を生じる増強されかつ長期の効能のために、標的化された網膜細胞に薬物を送達する。
【0017】
上記製剤は、眼の表面の刺激および毒性をしばしば引き起こす頻繁な点眼剤を要する状態の処置のために利点を提供し、眼圧(IOP)および患者の不快感に関してより良好な安全プロフィールを有し得る。結膜下のゲルは、点眼剤と比較して、低減した副作用を有する。光架橋可能なデンドリマー-ヒアルロン酸ベースのナノ接着剤は、感染および炎症の防止のために、ならびに角膜創傷治癒を加速するために、角膜切開を閉じ、そして抗生物質/ステロイドを同時に放出することにおいて有用である。インサイチュで適用でき、そしてデンドリマーの使用を通じて高い架橋密度を提供するように調整された様式で光硬化されるという利点に加えて;ゲル中にヒアルロン酸を含めることは、創傷治癒を促進し、角膜間質へと一体化する;それと同時に、抗生物質/ステロイドを同時に放出して、持続した様式で感染/炎症に対処する。上記製剤はまた、透明であり、これは、眼の適用において明らかに有益である。
【0018】
好ましい実施形態において、上記ナノ接着剤は、角膜組織を閉じるために投与され、そして/または種々の角膜および前眼部の障害(例えば、角膜炎症、角膜新生血管形成、および角膜移植手順に伴う合併症)、虹彩炎、およびぶどう膜炎を処置するために投与され得る。上記ナノ接着剤は、縫合糸で処置されたものまたは非処置と比較して、角膜切開の治癒を改善する。それはまた、創傷を受けた眼の区画の高い眼圧に耐え、漏出を回避し、角膜に強く接着し、そして縫合糸と比較してより低減した角膜浮腫または線維症を生じる。角膜の治癒は、縫合糸での処置と比較して、より迅速であり、より少ない瘢痕化、炎症、および新生血管形成を有する。
【0019】
ある種の実施形態において、上記治療剤は、抗炎症性、抗感染、または抗血管新生の小分子または生体高分子である。
【0020】
上記ナノ接着剤の利益は、炎症に向かう標的化された生体分布である。なぜならデンドリマーは、創傷部位においてマクロファージとともに共局在し得、マクロファージ媒介性の疾患または障害の処置のための標的化された送達を提供するからである。
【0021】
上記ナノ接着剤はまた、硬膜、肺の膜、腹膜、胃腸、内皮、および熱傷の閉鎖を含む、傷害の他のタイプを閉じるために有用である。上記ナノ接着剤は、他の適用を有する。例えば、上記ナノ接着剤は、子宮内および生殖路感染のためのアモキシシリンの徐放のために使用され得る。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
デンドリマー、および
生体接着性ポリマー、
を含むナノ接着剤であって、
ここで前記デンドリマー分子および前記生体接着性ポリマーは、1種もしくはこれより多くの外部刺激または組織内の1種もしくはこれより多くの生理学的条件への曝露に際して、互いに架橋可能である、ナノ接着剤。
(項目2)
前記組成物は、治療剤、予防剤、または診断剤をさらに含む、項目1に記載のナノ接着剤。
(項目3)
前記治療剤、前記予防剤、または前記診断剤は、デンドリマーに結合体化されるかまたはデンドリマーと複合体化される、項目2に記載のナノ接着剤。
(項目4)
抗炎症性薬物、抗感染剤、抗緑内障薬剤、眼圧(IOP)を低下させる薬剤、抗血管新生薬剤、増殖因子、および増殖因子からなる群より選択される薬剤を含む、項目2に記載のナノ接着剤。
(項目5)
常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子、放射性核種、x線画像化剤、および造影剤からなる群より選択される診断剤を含む、項目2に記載のナノ接着剤。
(項目6)
デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、ならびに他のステロイドおよび非ステロイド系抗炎症性薬物(NSAIDS)からなる群より選択される治療剤を含む、項目3に記載のナノ接着剤。
(項目7)
前記デンドリマーは、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、アルコキシシリル、チオール、ピリジル、ビニル、メタクリロイル、および環式不飽和炭化水素からなる群より選択される1またはこれより多くの官能基で必要に応じて末端化した世代2~6ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーである、項目1に記載のナノ接着剤。
(項目8)
1またはこれより多くのヒドロキシル基で末端化した世代4、世代5または世代6PAMAMデンドリマーを含む、項目1に記載のナノ接着剤。
(項目9)
ヒアルロン酸、キトサン、アルギネート、アガロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース, セルロース、ポリアルキレンオキシド、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、プルラン、およびこれらの誘導体からなる群より選択される生体接着性ポリマーを含む、項目1に記載のナノ接着剤。
(項目10)
ヒアルロン酸またはその誘導体を含む、項目1に記載のナノ接着剤。
(項目11)
前記デンドリマーまたは前記生体接着性ポリマーは、光照射、pH変化、塩濃度変化、および温度変化からなる群より選択される刺激によって架橋可能である、項目1に記載のナノ接着剤。
(項目12)
前記デンドリマーまたは前記生体接着性ポリマーは、紫外線照射によって架橋可能である、項目11に記載のナノ接着剤。
(項目13)
組織を閉じるかまたは必要性のある個体に治療剤、予防剤、もしくは診断剤を送達するための方法であって、前記方法は、
前記必要性のある個体の組織に、項目1~13のいずれかに記載のナノ接着剤を投与する工程、ならびに
デンドリマーおよび/または生体接着性ポリマーを架橋する工程、
を包含する、方法。
(項目14)
前記ナノ接着剤は、注射によって投与される、項目14に記載の方法。
(項目15)
前記ナノ接着剤は、眼の表面または区画(結膜下、腔内、脈絡膜上、局所、硝子体内および網膜下)、または隣接する組織に投与される、項目13に記載の方法。
(項目16)
前記ナノ接着剤は、創傷を閉じるために有効な量で前記創傷に投与される、項目12に記載の方法。
(項目17)
前記ナノ接着剤は、硬膜、肺の膜、腹膜、胃腸、内皮、または熱傷した組織を閉じるために投与される、項目12に記載の方法。
(項目18)
前記ナノ接着剤は、バリアを形成するために組織表面に投与される、項目12に記載の方法。
(項目19)
前記ナノ接着剤は、眼/角膜の炎症の持続処置のためにゲルとして結膜下に投与される、項目12に記載の方法。
(項目20)
アルカリ/酸熱傷、ドライアイ、角膜炎症、角膜感染、虹彩炎、またはぶどう膜炎の処置のための、項目19に記載の方法。
(項目21)
項目1~11のいずれかに記載のナノ接着剤の投与単位を含む、キット。
(項目22)
前記投与単位は、一緒に混合して前記ナノ接着剤を形成する、乾燥構成成分のための容器および液体構成成分のための容器を含む、項目21に記載のキット。
(項目23)
前記投与単位は、点滴注入器瓶(dropper bottle)、または混合チップもしくはアプリケーター付きのデュアルバレルシリンジである、項目21に記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1-1】図1A~1Gは、異なる構成成分の模式図および透明な、可撓性の、および粘着性の接着剤としてデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲルの形成の模式図である。図1Aは、メタクリレートの1種またはこれより多くの光架橋可能な基と結合体化し、D-MA結合体を形成したデンドリマーの模式図である。図1Bは、1種またはこれより多くのメタクリレートと結合体化し、HA-MA結合体を形成するヒアルロン酸のセグメントの模式図である。図1Cは、抗炎症性薬物(ステロイド)であるデキサメタゾンとさらに結合体化し、MA-D-Dex結合体を形成したD-MAの模式図である。図1Dは、抗菌薬物であるモキシフロキサシンとさらに結合体化して、MA-D-Mox結合体を形成したD-MAの模式図である。図1Eは、薬物結合体化した、光活性化されたデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲルの形成の模式図である。図1Fは、ナノ接着剤のデンドリマーおよびヒアルロン酸構成成分の種々の比(HA:D)(10:90)、(30:70)、(50:50)、(70:30)および(90:10)の膨潤および分解速度を示す。図1Gは、上記ナノ接着剤の製剤2の模式図である。
図1-2】図1A~1Gは、異なる構成成分の模式図および透明な、可撓性の、および粘着性の接着剤としてデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲルの形成の模式図である。図1Aは、メタクリレートの1種またはこれより多くの光架橋可能な基と結合体化し、D-MA結合体を形成したデンドリマーの模式図である。図1Bは、1種またはこれより多くのメタクリレートと結合体化し、HA-MA結合体を形成するヒアルロン酸のセグメントの模式図である。図1Cは、抗炎症性薬物(ステロイド)であるデキサメタゾンとさらに結合体化し、MA-D-Dex結合体を形成したD-MAの模式図である。図1Dは、抗菌薬物であるモキシフロキサシンとさらに結合体化して、MA-D-Mox結合体を形成したD-MAの模式図である。図1Eは、薬物結合体化した、光活性化されたデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲルの形成の模式図である。図1Fは、ナノ接着剤のデンドリマーおよびヒアルロン酸構成成分の種々の比(HA:D)(10:90)、(30:70)、(50:50)、(70:30)および(90:10)の膨潤および分解速度を示す。図1Gは、上記ナノ接着剤の製剤2の模式図である。
図1-3】図1A~1Gは、異なる構成成分の模式図および透明な、可撓性の、および粘着性の接着剤としてデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲルの形成の模式図である。図1Aは、メタクリレートの1種またはこれより多くの光架橋可能な基と結合体化し、D-MA結合体を形成したデンドリマーの模式図である。図1Bは、1種またはこれより多くのメタクリレートと結合体化し、HA-MA結合体を形成するヒアルロン酸のセグメントの模式図である。図1Cは、抗炎症性薬物(ステロイド)であるデキサメタゾンとさらに結合体化し、MA-D-Dex結合体を形成したD-MAの模式図である。図1Dは、抗菌薬物であるモキシフロキサシンとさらに結合体化して、MA-D-Mox結合体を形成したD-MAの模式図である。図1Eは、薬物結合体化した、光活性化されたデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲルの形成の模式図である。図1Fは、ナノ接着剤のデンドリマーおよびヒアルロン酸構成成分の種々の比(HA:D)(10:90)、(30:70)、(50:50)、(70:30)および(90:10)の膨潤および分解速度を示す。図1Gは、上記ナノ接着剤の製剤2の模式図である。
【0023】
図2図2は、新鮮なウサギの眼におけるナノ接着剤の破裂圧および機械的特性のエキソビボ評価を示す:3mmの直線状の切開を、中心の角膜に作り、大きく開いた創傷を生じさせ、その切開を、ナノ接着剤溶液を適用することによって閉じ、30秒間レーザーを使用して光硬化させる。ナノ接着剤の光重合は、透明なゲル形成によって示され、そのシーラントは、高い眼圧に耐え、縫合糸と比較して、流体の漏出を回避する。挿入表:新しく摘出したウサギ眼球におけるエキソビボ眼圧(IOP)測定:IOP測定値を、デジタルマノメーター(digimanomanometer)を装備した特注で作製した生理食塩水注入システムを使用して測定した。ナノ接着剤で閉じた切開は高いIOPに耐え、縫合糸と比較して漏出を回避する。これは、縫合糸と比較して角膜へのそのより強い接着を示唆する。
【0024】
図3図3は、ラット裂傷角膜の光透過型トモグラフィー(optical transmission tomography)(OCT)画像化を示す:OCTを使用して、角膜裂傷を閉じることおよび創傷治癒におけるナノ接着剤の効能を評価する。左パネルは、良好な角膜組織構造を有する正常角膜のOCT画像である。中央パネルは、10-0縫合糸で縫合した裂傷を有し、線維症および角膜裂開を生じた角膜(黄色の矢印)である。これは、7日目での不適切な創傷治癒を示す。右パネルは、最小限の線維症およびより良好な創傷治癒を伴う、ナノ接着剤で閉じた角膜裂傷(白い矢印)である。
【0025】
図4図4は、ラット角膜裂傷モデルにおいて角膜切開を閉じその創傷治癒を補助することにおけるナノ接着剤の効能の臨床的観察を示す:3mmの直線状の角膜裂傷を、ケラトームナイフを使用してラット角膜に作り、ナノ接着剤製剤を使用して閉じ、透明なバリアの形成を生じる(白い矢印)。動物を、ナノ接着剤後の14日目までに創傷治癒に関して臨床的に評価したところ、ナノ接着剤を有するラット全ては、増強された角膜治癒を生じた一方、縫合した角膜では、パネルの左隅にある白い矢印で示した角膜新生血管形成および炎症を生じた。
【0026】
図5図5A~G レオロジーおよびSEMを使用する、注射可能なゲルの特徴づけ。5A)注射可能なゲル形成のダイナミック時間掃引フォトレオロジー。ゲル化点は、貯蔵弾性率(G’)が損失弾性率(G”)を上回る場合に(矢印)、概算される。破線(---)は、UV光を点けたときを図示する。5B)注射可能なゲルの粘弾性挙動(G’>>G”)を示すそれらの周波数掃引測定。5C)類似の動的粘性を示すD-Dexありおよびなしの注射可能なゲルの粘性 対 周波数プロット。5D)ずり減粘特性(shear thinning property)を示すD-Dexありおよびなしの注射可能なゲルの粘性 対 剪断速度プロット。5F)表面形状を示すD-Dexありおよびなしの脱水した注射可能なゲルのSEM画像。5G)多孔性構造を有する内部形状を示すFITC染色ゲル切片の共焦点画像。
【0027】
図6図6は、Irgacure(登録商標) 2959(I-2959)の存在下で、チオール化ヒアルロン酸(HA-SH)、デンドリマー-ペンテン酸結合体(D-Ene)、およびデンドリマー-デキサメタゾン結合体(D-Dex)で形成された光活性化デンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲルの模式図である。ここでD-Dexは、ゲル製剤中に物理的に捕捉される。
【0028】
図7図7A~7Eは、調製された結合体の特徴を示す。7A)239nmでモニターしたD-Dex(32.8分)、Dex(22.4分)およびDex-リンカー(27.6分)のHPLCクロマトグラム。7B)疑似涙液中のD-Dex結合体からの薬物放出プロフィール。7C)それぞれ、pH7.4および5における注射可能なゲルの膨潤および分解プロフィール。7D)それぞれ、pH7.4および5での注射可能なゲル製剤からのD-Dexおよび遊離Dexの放出プロフィール。7E)挿入図-ゲルの膨潤挙動を示す重量変化測定。
【0029】
図8図8A~B 結膜下に注射したデンドリマーの生体分布。ゲル製剤中の蛍光標識したデンドリマー(D-Cy5)を結膜下に注射し、注射の7日後に生体分布を評価した。角膜間質(青色、レクチン)、マクロファージ(緑色、Iba-1)、デンドリマー(赤色、Cy5)。8A)通常の組織構造を有する正常角膜の中心断面;非常に少ない角膜Iba-1染色細胞(マクロファージ)が存在する;デンドリマーは、マクロファージ中に共局在しない。8B)アルカリ熱傷した中心角膜には、Iba-1陽性細胞(マクロファージ)が浸潤した。Cy5シグナル(デンドリマー)は、Iba-1染色細胞中に共局在する。これは、炎症に向かうデンドリマーの固有の標的化能力を示す。スケールバーは100μm。
【0030】
図9図9 中心角膜厚(CCT)の評価のための角膜の前眼部光干渉断層撮影(OCT)画像化。上パネル:D-Dexゲル処置した眼の中心角膜のOCT画像は、そのベースラインと比較した場合にPOD 7および14において正常に近い角膜構造を示す。これらの画像は、炎症が鎮まったことを示唆する。中央パネル:遊離Dexゲルで処置した中心角膜のOCT画像は、進行中の炎症を示唆する、薄い不規則な上皮層および間質浮腫を示す。下パネル:プラセボゲルで処置した中心角膜のOCT画像は、遊離Dex処置した眼と類似の特徴を有する。
【0031】
図10-1】図10A~10Dは、各角膜のアルカリ熱傷後の3群のラット:(i)デンドリマー-デキサメタゾン結合体および最小限の量の遊離デキサメタゾンを有するデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲル(D-Dex)での結膜下処置、(ii)遊離デキサメタゾンを有するデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲル(遊離Dex)での結膜下処置、および(iii)処置なし(非処置陽性コントロール)の中での眼のパラメーターを示すグラフである。図10Aは、経時的(術後日数、POD)に中心角膜厚(CCT,μm)を示す線グラフである。図10Bは、経時的(POD)に眼圧(IOP、mm/Hg)を示す線グラフである。図10Cは、経時的(POD)に新生血管形成(NV)(mm)の概算面積を示す線グラフである。図10Dは、経時的(POD)に角膜混濁スコア(メジアン;範囲)を示す棒グラフである。
図10-2】図10A~10Dは、各角膜のアルカリ熱傷後の3群のラット:(i)デンドリマー-デキサメタゾン結合体および最小限の量の遊離デキサメタゾンを有するデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲル(D-Dex)での結膜下処置、(ii)遊離デキサメタゾンを有するデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲル(遊離Dex)での結膜下処置、および(iii)処置なし(非処置陽性コントロール)の中での眼のパラメーターを示すグラフである。図10Aは、経時的(術後日数、POD)に中心角膜厚(CCT,μm)を示す線グラフである。図10Bは、経時的(POD)に眼圧(IOP、mm/Hg)を示す線グラフである。図10Cは、経時的(POD)に新生血管形成(NV)(mm)の概算面積を示す線グラフである。図10Dは、経時的(POD)に角膜混濁スコア(メジアン;範囲)を示す棒グラフである。
【0032】
図11図11は、角膜断面の共焦点顕微鏡画像を示す。左パネル:最小限の量のIba-1染色細胞浸潤物(マクロファージ)が、術後7日目および14日目に観察される。中央パネルおよび右パネル:D-Dexゲル群とは異なり、遊離Dexゲル群およびプラセボゲル群の両方が、術後7日目および14日目に持続性のIBA-1染色された細胞浸潤物(マクロファージ)を有する。スケールバーは100μm。
【0033】
図12図12は、POD 7および14において、RT-PCRを使用して角膜組織におけるサイトカインmRNA発現レベルを測定することによって、結膜下処置後の角膜炎症の評価を示す棒グラフを示す。(TNF-α)-腫瘍壊死因子-α、(IL-1β)-インターロイキン-1β、(IL-6)-インターロイキン-6、(MCP-1)-単球走化性タンパク質-1、(VEGF)-血管内皮増殖因子。結果は、健康なコントロールに対して正規化され、平均±SEMとして表される(n=10)。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明の詳細な説明
I.定義
用語「治療剤(therapeutic agent)」とは、疾患または障害の1またはこれより多くの症状を防止または処置するために投与され得る薬剤をいう。これらは、核酸、核酸アナログ、小分子、ペプチド模倣物、タンパク質、ペプチド、炭水化物もしくは糖、脂質、または界面活性剤、あるいはこれらの組み合わせであり得る。
【0035】
用語「診断剤(diagnostic agent)」とは、本明細書で使用される場合、一般に、病理学的プロセスの局在を明らかにし、特定し、定義するために投与され得る薬剤をいう。
【0036】
用語「予防剤(prophylactic agent)」とは、本明細書で使用される場合、一般に、疾患を防止するか、または妊娠のようなある種の状態を防止するために投与され得る薬剤をいう。
【0037】
語句「薬学的に受容可能な」とは、妥当な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題も合併症もなしに、ヒトおよび動物の組織と接触した状態で使用されるのに適しており、合理的な利益/リスク比にふさわしい組成物、ポリマーおよび他の物質、ならびに/または投与形態に言及する。語句「薬学的に受容可能なキャリア」とは、任意の主題の組成物を、1つの器官または身体の一部から、別の器官または身体の一部へと運ぶかまたは輸送することに関与する薬学的に受容可能な物質、組成物またはビヒクル(例えば、液体もしくは固体充填剤、希釈剤、溶媒または被包物質)をいう。各キャリアは、主題の組成物の他の成分と適合性でありかつ患者に対して有害でないという意味で「受容可能」でなければならない。
【0038】
語句「治療上有効な量」とは、任意の医療処置に適用可能な合理的な利益/リスク比において、ある所望の効果を生じる治療剤の量をいう。その有効量は、処置されている疾患もしくは状態、投与されている特定の標的化構築物、被験体のサイズ、またはその疾患もしくは状態の重症度のような因子に依存して変動し得る。当業者は、過度の実験を必要とすることなく、特定の化合物の有効量を経験的に決定し得る。予防剤とは、障害、疾患または状態を防止し得る薬剤をいう。例としては、感染を防止するワクチンおよび妊娠を防止する経口避妊薬が挙げられる。
【0039】
用語「処置すること」とは、疾患、障害または状態の1またはこれより多くの症状を防止または軽減することをいう。疾患または状態を処置することとしては、その根底にある病態生理に影響を及ぼさないとしてもその特定の疾患または状態の少なくとも1つの症状を好転させる(ameliorate)こと(例えば、鎮痛剤が疼痛の原因を処置しないとしても、このような薬剤の投与によって被験体の疼痛を処置すること)が挙げられる。
【0040】
用語「生体適合性」とは、本明細書で使用される場合、一般に、任意の代謝産物またはその分解生成物とともに、レシピエントに対して概して非毒性であり、レシピエントに対して何ら顕著な有害効果を引き起こさない物質に言及する。概して、生体適合性物質は、患者に投与される場合に、顕著な炎症応答も免疫応答も誘起しない物質である。
【0041】
用語「生分解性」とは、本明細書で使用される場合、一般に、生理学的条件下で、被験体によって代謝され得るか、排除され得るか、または排出され得るより小さな単位または化学的種へと分解または侵食される物質をいう。分解時間は、組成および形態の関数である。分解時間は、数時間から数年までであり得る。
【0042】
用語「閉じる(seal)」とは、本明細書で使用される場合、担体(substrate)(例えば、組織)における粗い表面、腔、もしくは間隙を実質的に覆うか、またはその組織表面の頂部を被覆し、そして必要に応じてその接触表面において共有結合もしくは非共有結合を形成することを意味する。「閉じる」とは、ある種のガス、液体、溶質、高分子、または細菌の移動または輸送を防止するというバリア効果にも言及し得る。
【0043】
用語「デンドリマー(dendrimer)」とは、本明細書で使用される場合、開始コア(interior core)、この開始コアに規則的に付着した反復ユニットの内部層(または「世代(generation)」)、および最も外側の世代に付着した末端基の外部表面を有する分子構造が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
用語「生体接着性ポリマー(bioadhesive polymer)」とは、本明細書で使用される場合、生物学的担体に接着し得る天然ポリマーまたは合成ポリマーをいう。組織へのポリマーの接着は、(i)物理的または機械的結合、(ii)一次的なまたは共有結合的化学結合、および/または(iii)二次的な化学結合(すなわち、イオン性)によって達成され得る。
【0045】
用語「架橋」とは、本明細書で使用される場合、物質の分子量の増大を生じる、求核基を含む前駆物質分子と求電子性基を含む前駆物質分子との間の共有結合の形成を意味する。「架橋」は、非共有結合(例えば、イオン結合)の形成または共有結合と非共有結合との組み合わせをもいい得る。
【0046】
用語「光架橋(photocrosslink)」とは、本明細書で使用される場合、放射エネルギーの適用によってビニルまたは他の不飽和結合を壊して、架橋を形成させることを意味する。
【0047】
用語「外部刺激」とは、本明細書で使用される場合、内因性ではない特定の機能的反応を引き起こす(例えば、物理的、化学的、生物学的、機械的、および照射刺激)。
【0048】
「ポリマーネットワーク(polymeric network)」とは、本明細書で使用される場合、モノマー、オリゴマー、またはポリマーのうちの実質的に全てが、それらの利用可能な官能基を介して分子間共有結合によって結合されて、高分子を形成するプロセスの生成物をいう。
【0049】
「生理学的」とは、本明細書で使用される場合、生きている脊椎動物の中で見出される状態に言及する。特に、生理学的条件とは、ヒトの身体における状態(例えば、温度、pH、水性媒体など)に言及する。「生理学的温度」とは、本明細書で使用される場合、35℃~42℃の間の温度範囲、好ましくはおよそ37℃をいう。
【0050】
「架橋密度(crosslink density)」とは、本明細書で使用される場合、それぞれの分子の2つの架橋の間の平均分子量(M)をいう。
【0051】
「膨潤」とは、本明細書で使用される場合、生体物質による水の取り込みに起因する容積および質量の増大に言及する。用語「水取り込み(water-uptake)」および「膨潤」は、同義的に使用される。
【0052】
「ゲル化点」または「ゲル化」とは、本明細書で使用される場合、粘性率(viscous modulus)および複素弾性率が互いに交差し、粘性が増大する点をいう。従って、ゲル化点は、液体がゲルの半固体特徴をとり始める段階である。
【0053】
「インサイチュ形成(in situ formation)」とは、本明細書で一般に使用される場合、注射前および注射時に実質的に架橋されないが、生理学的条件においてまたは身体中の注射部位における外部刺激による誘発に際して、互いと共有結合、非共有結合、または組み合わせを形成する前駆物質分子の混合物の能力に言及する。
【0054】
「平衡状態(equilibrium state)」とは、本明細書で使用される場合、水の中での接触条件下で貯蔵される場合にヒドロゲルが質量の増大も喪失も受けない状態に言及する。
【0055】
「官能化する(functionalize)」とは、本明細書で使用される場合、官能基または部分の付着を生じる様式で改変することを意味する。例えば、分子は、分子を強い求核試薬または強い求電子試薬にする分子の導入によって官能化され得る。例えば、ヒアルロン酸のような分子は、チオール、アミン、アクリレート、またはキノンになるように官能化され得る。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「活性薬剤(active agent)」または「生物学的に活性な薬剤(biologically active agent)」とは、所望の薬理学的および/または生理学的効果を誘導する化学的または生物学的化合物をいうために、本明細書で交換可能に使用され得、これは、予防的、治療的または診断的であり得る。この用語はまた、活性薬剤の薬学的に受容可能な、薬理学的に活性な誘導体(塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性な代謝産物、およびアナログが挙げられるが、これらに限定されない)を包含する。
【0057】
II.ナノ接着剤
ナノ接着剤は、湿った組織に接着し、制御された配置を可能にし、迅速な硬化が創傷を閉じることを可能にする。ナノ接着剤は、治療剤、予防剤および/または診断剤の送達のために使用され得、それによって、根底にある障害を処置し、創傷治癒を加速するために有用であり得る。
【0058】
A.ヒドロゲルシーラントまたはその前駆物質
2種の主要な構成成分が含まれる:強度および可撓性を提供し創傷を受けた組織と一体化し創傷治癒を加速するように生体適合性である生体接着性ポリマー、ならびに生体接着性ポリマーと繋がれて、高密度の架橋点を、それによって所望の機械的強度を提供するデンドリマー。
【0059】
好ましい実施形態において、前駆物質構成成分は、ビニルまたは他の不飽和基および求核基で改変され、独立して、ヒドロゲルの光架橋および形成をインサイチュで可能にする。
【0060】
i.デンドリマー
好ましい実施形態において、デンドリマーは、非毒性であり、低濃度において高い架橋密度および活性薬剤との潜在的結合体化のために複数の光架橋可能な基での改変を可能にする多くの表面基を有する。
【0061】
使用に適したデンドリマーとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリプロピルアミン(POPAM)、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリエステル、イプチセン(iptycene)、脂肪族ポリ(エーテル)、および/または芳香族ポリエーテルデンドリマー。デンドリマー複合体の各デンドリマーは、他のデンドリマーと同じかまたは類似かまたは異なる化学的性質であってもよい(例えば、第1のデンドリマーは、PAMAMデンドリマーを含む一方で、第2のデンドリマーは、POPAMデンドリマーであり得る)。いくつかの実施形態において、第1または第2のデンドリマーは、スルフヒドリルまたはチオピリジン末端基を有する少なくとも2つの分枝を有するポリエチレングリコールを含むマルチアームPEGのようなさらなる薬剤をさらに含み得る。スクシンイミジルまたはマレイミド末端のような他の末端基を有する他のPEGポリマーが、使用され得る。分子量10kDa~80kDaのPEGポリマーが使用され得る。複合体は、1種またはこれより多くのデンドリマーから形成され得る。
【0062】
デンドリマーの例としては、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)、ポリエステル、ポリリジン、およびポリプロピレンイミン(PPI)が挙げられるが、これらに限定されない。PAMAMデンドリマーは、異なるコアと、アミドアミン基本要素とを含み得、任意の世代のカルボキシル、アミンおよびヒドロキシル末端を有し得る(世代1 PAMAMデンドリマー、世代2 PAMAMデンドリマー、世代3 PAMAMデンドリマー、世代4 PAMAMデンドリマー、世代5 PAMAMデンドリマー、世代6 PAMAMデンドリマー、世代7 PAMAMデンドリマー、世代8 PAMAMデンドリマー、世代9 PAMAMデンドリマー、または世代10 PAMAMデンドリマーが挙げられるが、これらに限定されない)。その好ましい実施形態において、デンドリマーは、製剤中で可溶性であり、世代(「G」)4、5または6 デンドリマーである。
【0063】
本明細書で使用される場合、用語「PAMAMデンドリマー」は、ポリ(アミドアミン)デンドリマーを意味し、これは、異なるコアとアミドアミン基本要素とを含み得る。それらを作製するための方法は、当業者に公知であり、一般に、中心の開始コアの周りに樹状β-アラニンユニットの同心円状のシェル(世代)を生じる2工程反復反応シーケンスを含む。このPAMAMコア-シェル構造は、付加されたシェル(世代)の関数として直径が線形的に増大し、表面基は、樹状-分枝の数学に従って、各世代において指数関数的に増幅する。それらは、5種の異なるコアタイプおよび10種の官能表面基を有する世代G0~10において利用可能である。デンドリマー-分枝状ポリマーは、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリグリセロール、ポリエステル、ポリエーテル、ポリリジン、またはポリエチレングリコール(PEG)、ポリペプチドのデンドリマーからなり得る。上記デンドリマーは、それらの官能表面基に付着したヒドロキシル基を有し得る。
【0064】
いくつかの実施形態において、デンドリマーは、ナノ粒子形態にあり、国際特許公開番号WO2009/046446、PCT/US2015/028386、PCT/US2015/045112、PCT/US2015/045104、および米国特許第8,889,101号に詳細に記載される。
【0065】
ii.生体接着性ポリマー
生体接着性ポリマーとしては、生物学的組織に接着する天然または合成のポリマーが挙げられる。本明細書で使用される場合、生体接着性ポリマーは、組織基質との共有結合、非共有結合的相互作用(例えば、水素結合)および/または物理的な絡み合いを介して接着する。
【0066】
いくつかの具体的実施形態において、生体接着性ポリマーとは、呼吸器系、鼻系、頸膣系、胃腸系、直腸系、視覚系および聴覚系における組織中での接着のために粘膜接着性ポリマーに言及する。
【0067】
1.ヒアルロン酸(HA)
HAは、発生、創傷治癒、および炎症において重要な役割を果たす細胞外マトリクスの天然に存在する免疫中性の(immunoneutral)グリコサミノグリカンである。その粘弾性特性および眼の表面に長い間留まることから、いくつかの組織修復実施(角膜内皮を保護する眼科的使用が挙げられる)における使用に合わせられてきた。HAはまた、膜貫通細胞表面接着分子であるCD44のリガンドであると同定されている(Zhu SNら,Br J Ophthalmol., 81(1):80-4 (1997))。
【0068】
好ましい実施形態において、デンドリマー分子によって架橋されたHAは、組織修復のためのヒドロゲルシーラントを形成する。HAは、広い範囲の分子量を有する;そしていくつかの実施形態において、15~20kDaのHAが選択される。架橋するために、HAは、3種の官能基のうちの1種またはこれより多くにおいて先ず化学的に改変される:グルクロン酸カルボン酸、一級および二級ヒドロキシル基、ならびにN-アセチル基(脱アミド後)。最も顕著なことには、カルボキシレートは、カルボジイミド媒介反応、エステル化、およびアミド化によって改変されてきた;ヒドロキシルは、エーテル化、ジビニルスルホン架橋、エステル化、およびビス-エポキシド架橋によって改変されてきた。HAの化学改変に関する詳細な総説は、Materials of Biological Origin - Materials Analysis and Implant Uses, Comprehensive Biomaterials, Elsevier (2010)のKuo JW, Prestwich GDにおいて見られ得る。
【0069】
2.他の生体接着性ポリマー
組みこまれ得る生体接着性ポリマーは、合成および天然のポリマーを含む。好ましい生体接着性ポリマーは、露出したカルボン酸基を有する。これらは、天然のポリマー(例えば、アルギネートおよびセルロース)および合成改変セルロース(アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、およびニトロセルロースが挙げられる)(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースおよびメチルセルロース)を含む。使用され得る合成ポリマーとしては、ポリエステル(例えば、ポリラクチド-co-グリコリド、ポリラクチド、およびポリグリコリドのようなポリ(ヒドロキシエステル))、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリヒドロキシアルカノエート(例えば、ポリ3ヒドロキシブチレート、ポリ4ヒドロキシブチレートおよびこれらのコポリマー)、および非生分解性ポリマー(例えば、アクリレートおよびメタクリレート、これらのコポリマーおよび誘導体)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアミド、およびポリカーボネートが挙げられる。作製されるブレンドおよびコポリマーとしては、ポリアルキレン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタンおよびこれらのコポリマーが挙げられる。全てのポリマーは、市販されている。
【0070】
iii.刺激応答性ゲル化を可能にする改変
デンドリマーおよび生体接着性ポリマーは、刺激応答性ゲル化を可能にする架橋部分で改変される。好ましい実施形態において、デンドリマーおよび生体接着性ポリマーは、光架橋可能な基(例えば、チオール基とビニル基;チオール基とマレイミド基;アミン基とアルデヒド基;アミン基とカルボキシレート基;メタクリレート基;およびアクリレート基)を含むように化学改変される。
【0071】
いくつかの実施形態において、1種またはこれより多くのメタクリレートまたはアクリレート基は、デンドリマーおよび生体接着性ポリマーの両方に対して、または一方の種に対して改変される一方で、他方の種は、チオール基で改変される。これらの改変は、光架橋して前駆物質材料を硬化させ、ナノ接着剤を形成することを可能にする。
【0072】
別の実施形態において、デンドリマーおよび生体接着性ポリマーは、クリック可能な、チオール-eneまたはチオール-yne反応を可能にするように改変され、ここで一方の種は、チオール基で末端化するように官能化されるのに対して、他方の種は、アルケンまたはアルキン官能基で改変される。例えば、アルケンは、ノルボルネンであり得る。ときおり、これらのチオール-eneまたはチオール-yne反応は、光照射によって促進される。
【0073】
さらに他の実施形態において、架橋は、チオール-マレイミド、アミン-アルデヒドまたはアミンカルボキシレート反応で達成され、デンドリマーおよび生体接着性ポリマーは、関連する基で改変される。
【0074】
光架橋反応において、光開始剤が含められ得る。光開始剤は、光の吸収下で、光反応を受け、不飽和構成要素の架橋を開始し得る反応性種を生じる化合物である。例示的な光開始剤としては、IRGACURE(登録商標)化合物が挙げられる。
【0075】
いくつかの実施形態において、光架橋されたヒドロゲルは、眼の処置に適した透明で、可撓性のゲルである。
【0076】
B.治療剤、予防剤および診断剤
上記ナノ接着剤は、被包されるか、ヒドロゲルの構成成分に結合体化されるか、またはヒドロゲル前駆物質中に分散される徐放性ナノ粒子/微粒子製剤へと被包/結合体化される、1種またはこれより多くの治療剤、予防剤、または診断剤を含み得る。いくつかの実施形態において、上記薬剤は、無水コハク酸との反応を介してスクシネート基で改変され得、それらのヒドロキシル基においてデンドリマーおよび/または生体接着性ポリマーに後に結合体化されて、組織中のその薬剤のエステル結合および加水分解媒介性徐放を可能にする。
【0077】
代表的治療剤としては、抗炎症性薬物(免疫抑制剤および抗アレルギー剤が挙げられる)、および抗感染剤が挙げられるが、これらに限定されない。抗炎症性薬物のいくつかの例としては、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ロテプレドノール(loteprendol)、フルオロメトロンのようなステロイドが挙げられる。免疫調節薬(例えば:シクロスポリン、タクロリムスおよびラパマイシン)。非ステロイド系抗炎症性薬物としては、ケトロラク、ネパフェナク、およびジクロフェナクが挙げられる。抗感染剤としては、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗寄生生物剤、および抗真菌剤が挙げられる。例示的な抗生物質としては、モキシフロキサシン、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、レボフロキサシン、セファゾリン、バンコマイシン、チゲサイクリン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、セフタジジム、オフロキサシン、ガチフロキサシン;抗真菌剤:アンホテリシン、ボリコナゾール、ナタマイシンが挙げられる。
【0078】
活性薬剤は、眼圧(IOP)を低下させる抗緑内障薬剤、抗血管新生薬剤、増殖因子、およびこれらの組み合わせを含み得る。抗緑内障薬剤の例としては、プロスタグランジンアナログ(例えば、トラボプロストおよびラタノプロスト)、プロスタミド(例えば、ビマトプロスト);β-アドレナリン作動性レセプターアンタゴニスト(例えば、チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール、およびカルテオロール)、α2アドレナリン作動性レセプターアゴニスト(例えば、ブリモニジンおよびアプラクロニジン)、炭酸脱水酵素インヒビター(例えば、ブリンゾラミド、アセタゾラミド(acetazolamine)、およびドルゾラミド)、縮瞳薬(すなわち、副交感神経作動薬)(例えば、ピロカルピンおよびエコチオパート))、セロトニン作動薬(seretonergic)、ムスカリン作動薬、ドパミン作動性アゴニスト、およびアドレナリン作動性アゴニストが挙げられる。
【0079】
代表的な抗血管新生薬剤としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:血管内皮増殖因子(VEGF)に対する抗体(例えば、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))およびrhuFAb V2(ラニビズマブ、LUCENTIS(登録商標))、ならびに他の抗VEGF化合物(アフリベルセプト(EYLEA(登録商標));MACUGEN(登録商標)(ペガプタニブナトリウム(pegaptanim sodium)、抗VEGFアプタマーまたはEYE001)(Eyetech Pharmaceuticals)が挙げられる);色素上皮由来因子(PEDF);COX-2インヒビター(例えば、セレコキシブ(CELEBREX(登録商標))およびロフェコキシブ(VIOXX(登録商標)));インターフェロンアルファ;インターロイキン-12(IL-12);サリドマイド(THALOMID(登録商標))およびこれらの誘導体(例えば、レナリドミド(REVLIMID(登録商標));スクアラミン;エンドスタチン;アンギオスタチン;リボザイムインヒビター(例えば、ANGIOZYME(登録商標)(Sirna Therapeutics));多機能性抗血管新生薬剤(例えば、NEOVASTAT(登録商標)(AE-941)(Aeterna Laboratories, Quebec City, Canada));レセプターチロシンキナーゼ(RTK)インヒビター(例えば、スニチニブ(SUTENT(登録商標)));チロシンキナーゼインヒビター(例えば、ソラフェニブ(Nexavar(登録商標))およびエルロチニブ(Tarceva(登録商標)));上皮増殖因子レセプターに対する抗体(例えば、パニツムマブ(VECTIBIX(登録商標))およびセツキシマブ(ERBITUX(登録商標)))、ならびに当該分野で公知の他の抗血管新生薬剤。
【0080】
いくつかの場合には、上記活性薬剤は、眼を画像化するかまたは別の方法で評価する診断剤である。診断剤の例としては、常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子、および放射性核種、x線画像化剤、および造影剤が挙げられる。
【0081】
上記活性薬剤は、その中性の形態で、または薬学的に受容可能な塩の形態で存在し得る。いくつかの場合には、活性薬剤の塩を含む製剤を調製することは、その塩の有利な物理的特性(例えば、増強された安定性または望ましい溶解度もしくは溶解プロフィール)のうちの1またはこれより多くに起因して、望ましいことであり得る。
【0082】
一般に、薬学的に受容可能な塩は、活性薬剤の遊離酸または遊離塩基形態と水もしくは有機溶媒中の、またはその2種の混合物中の化学量論的量の適切な塩基または酸との反応によって調製され得る;一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。薬学的に受容可能な塩としては、無機酸、有機酸、アルカリ金属塩、およびアルカリ土類金属塩から得られる活性薬剤の塩、ならびに薬物と適切な有機リガンドとの反応によって形成される塩(例えば、四級アンモニウム塩)が挙げられる。適切な塩のリストは、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第20版,Lippincott Williams & Wilkins,Baltimore,MD,2000,p. 704に見出される。薬学的に受容可能な塩の形態でときおり投与される眼用薬物の例としては、チモロールマレイン酸塩、ブリモニジン酒石酸塩、およびジクロフェナクナトリウムが挙げられる。
【0083】
ある種の実施形態において、上記ナノ接着剤は、1種またはこれより多くの局所麻酔薬を含む。代表的な局所麻酔薬としては、テトラカイン、リドカイン、アメソカイン、プロパラカイン、リグノカイン、およびブピバカインが挙げられる。いくつかの場合には、1種またはこれより多くのさらなる薬剤(例えば、ヒアルロニダーゼ酵素)はまた、その局所麻酔薬の分散を加速および改善するために、ナノ接着剤に添加される。
【0084】
C.製剤
上記ナノ接着剤は、1種もしくはこれより多くの薬学的に受容可能なキャリアの中に、1種もしくはこれより多くの薬学的に受容可能な賦形剤とともに液体として、または液剤中で投与され得る。代表的賦形剤としては、溶媒、希釈剤、pH改変剤、保存剤、抗酸化剤、懸濁剤、湿潤剤、粘性改変剤、張度剤(tonicity agent)、安定化剤、およびこれらの組み合わせが挙げられる。適切な薬学的に受容可能な賦形剤は、好ましくは、一般に安全と認められる(GRAS)物質から選択され、望ましくない生物学的副作用も不要な相互作用も引き起こすことなく、個体に投与され得る。
【0085】
薬学的組成物は、処置されるべき眼の区画(例えば、硝子体、網膜下腔、脈絡膜下腔、上強膜、結膜、結膜下、強膜、前房、ならびに角膜およびその中の区画(例えば、上皮下、間質内、内皮)、または角膜表面)への投与のためであり得、各投与経路に適した単位投与形態で製剤化され得る。
【0086】
他の使用のための薬学的組成物は、子宮内および生殖路感染のための抗生物質の徐放のために製剤化されたナノ接着剤を含む。上記ナノ接着剤はまた、硬膜、肺の膜、腹膜、胃腸、内皮、および熱傷の閉鎖を含む、傷害の他のタイプの閉鎖のために製剤化され得る。
【0087】
ナノ接着剤の利益は、炎症に向かう標的化生体分布である。なぜならデンドリマーは、創傷部位においてマクロファージと共局在し、マクロファージ媒介性の疾患または障害の処置のための標的化された送達を提供し得るからである。
【0088】
D.キット
いくつかの実施形態において、上記組成物は、キットの中で提供される。製剤は、安全かつ有効であると考えられ、望ましくない生物学的副作用も不要な相互作用も引き起こすことなく、個体に投与され得る物質から構成される薬学的に受容可能な「キャリア」を使用して調製される。代表的には、上記ナノ接着剤は、単一用量単位にあるか、または第2の構成成分の中で乾燥構成成分を再湿潤化する(rehydrate)ために、液体を含む第1の構成成分を伴うキットの中にある。これらは、投与のための構成成分(例えば、点滴注入器または他のアプリケーターデバイス(例えば、デュアルバレルシリンジのような))を含み得る。
【0089】
III.組成物を作製するための方法
デンドリマーを作製するための方法は、当業者に公知であり、一般に、中心の開始コアの周りに樹状β-アラニンユニットの同心円状のシェル(世代)を生成する2工程反復反応シーケンスを含む。このPAMAMコア-シェル構造は、付加されるシェル(世代)の関数として直径が線形的に増大する。その間に、表面基は、樹状-分枝の数学に従って各世代において指数関数的に増幅する。それらは、5種の異なるコアタイプおよび10の官能表面基を有する世代G0~10において利用可能である。上記デンドリマー-分枝ポリマーは、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリエステル、ポリエーテル、ポリリジン、またはポリエチレングリコール(PEG)、ポリペプチドのデンドリマーからなり得る。あるいは、種々の末端基を有するデンドリマーは、Dendritechのような販売者から購入され得る。
【0090】
刺激誘発性ゲル化を可能にするデンドリマーおよび/または生体接着性ポリマーへの改変は、種々の官能基とともに公知である。ヒアルロン酸のチオール化は、文献中に記載される。Kafedjiiski Kら,Int J Pharm, 343(1-2):48-58 (2007)は、L-システインエチルエステルをヒアルロン酸のカルボキシル(-COOH)基に、水性溶媒中のEDC-NHSカップリング反応を使用して結合体化することによるチオール化ヒアルロン酸の合成を報告した。得られた生成物を酸化に供して、ジスルフィド結合(-S-S-)架橋を形成した。これは、HAが薬物送達のためにゲルを形成することを可能にする。代替として、チオ-eneクリック反応を可能にするために、ヒアルロン酸上に遊離チオールが生成され得る。このアプローチにおいて、水性媒体中での反応はジスルフィド形成を生じ得るので、この改変反応のための不活性条件が好ましい。これは、置換度に対するより良好な制御を提供し、インサイチュでのジスルフィド形成を回避する。この改変の詳細な手順は、実施例の節において説明される。
【0091】
活性薬剤はまた、共有結合および制御された放出を可能にするように改変され得る。あるいは、活性薬剤は、前駆物質構成成分のうちの一方または両方と混合され得、形成されるヒドロゲル中で分散される。
【0092】
光架橋するにあたって、照射の強度、曝露時間、光開始剤の量、および/またはヒドロゲル前駆物質構成成分の濃度は、前駆物質溶液がどの程度迅速に硬化されるかを制御するように、そして形成されるヒドロゲルの機械的特性を調整するように、調節され得る。好ましい実施形態において、低強度のUV照射は、前駆物質構成成分のゲル化を、1分以内に、好ましくは30秒で可能にし、これは、網膜細胞に損傷を与えない。
【0093】
IV.組成物を使用するための方法
上記ナノ接着剤は、組織創傷または手術による切開のための、小分子、微粒子/ナノ粒子、DNA/siRNAなどの注射可能な送達のための、疾患または傷害の処置のためのシーラントとして、および薬剤を粘膜表面へと持続されかつ増強された透過性の送達のための点滴注入製剤として、使用され得る。一実施形態において、上記ヒドロゲル前駆物質溶液は、組織部位へと投与され、刺激誘発性ゲル化は、インサイチュで起こる。あるいは、形成され、注射可能なヒドロゲルは、組織部位へと注射され、デポーを形成する。ナノ接着剤を適用するための異なる方法は、ナノ接着剤中の化学基の動態、組織部位、および医師の必要性に基づく。
【0094】
A.眼の適用
角膜創傷
眼の角膜は、はっきりとした視野に必要な光線を屈折するおよび焦点を合わせるにあたって重要な役割を果たす。角膜は、間質コラーゲン原線維の規則正しい配置および血管がなく透明性を生じるという特有の特徴を有する。
【0095】
角膜創傷は、手術手順(例えば、移植、白内障の除去および眼内レンズ移植のための切開、レーザー角膜内切削形成)、感染(例えば、潰瘍)、および外傷による傷害(例えば、裂傷、穿孔)から生じる。
【0096】
好ましい実施形態において、UV照射に際して架橋する、ヒアルロン酸およびデンドリマーから形成されるヒドロゲルは、角膜創傷のためのシーラントとして適用され、ここで前駆物質は、角膜創傷に適用され、調整された様式でインサイチュで光硬化される。
【0097】
B.他の創傷または手術による切開
他の実施形態において、上記ナノ接着剤は、羊膜破裂(intra-amniotic
rupture)または手術による切開を閉じる、開胸手術および最小侵襲胸部手術の両方における空気の漏れを閉じる、血管再構築部位における血管系を閉じる、胃腸手術手順における吻合部漏出を閉じるおよび低減する、ならびに心血管手術における創傷を閉じるにあたって、使用される。
【0098】
現在利用可能な接着剤またはシーラント(すなわち、フィブリン、シアノアクリレート、ゼラチン/トロンビン製品、PEGポリマー、およびアルブミン/グルタルアルデヒド製品)と比較すると、上記ナノ接着剤は、生体適合性、低毒性、透明性、多方面の改変および薬物結合体化のための支持、ならびにゲル化動態の調節性(tunability)に関して有利である。
【0099】
C.処置される障害
組織を閉じることに加えて、上記ナノ接着剤は、活性薬剤の局所送達のために使用され得る。眼の疾患または障害の処置において、局所的な抗生物質およびステロイドは、感染のリスクおよび角膜瘢痕化を低減する。しかし、その薬物はしばしば、涙液分泌を介して除去されてしまい、これはしばしば、反復投与、眼圧上昇、角膜刺激および毒性、ならびに潜在的に角膜の変色をもたらす(Gibson JMら, US Ophthalmic Review, 8.1:2-7 (2015); Mahajan SH, Carbohydr Polym, May 20; 122:243-7 (2015))。
【0100】
上記ナノ接着剤は、種々の後眼部疾患(例えば、糖尿病網膜症、脈絡膜新生血管形成(CNV)、および加齢黄斑変性(AMD))を処置するために薬物の徐放のために、硝子体内に注射され得る透明な可撓性の注射可能なゲルを形成する。処置され得る眼の障害のさらなる例としては、以下が挙げられる:アメーバ性角膜炎、真菌性角膜炎、細菌性角膜炎、ウイルス性角膜炎、オンコセルカ角膜炎(onchorcercal keratitis)、細菌性角結膜炎、ウイルス性角結膜炎、角膜ジストロフィー疾患(corneal dystrophic disease)、フックス内皮ジストロフィー、シェーグレン症候群、スティーブンジョンソン症候群、自己免疫ドライアイ疾患、環境的ドライアイ疾患、角膜新生血管形成疾患、角膜移植後拒絶の予防および処置、自己免疫ぶどう膜炎、感染性ぶどう膜炎、前部ぶどう膜炎、後部ぶどう膜炎(トキソプラズマ症を含む)、汎ぶどう膜炎、硝子体または網膜の炎症性疾患、眼内炎の予防および処置、黄斑浮腫、黄斑変性、加齢黄斑変性、増殖性糖尿病網膜症および非増殖性糖尿病網膜症、高血圧性網膜症、網膜の自己免疫疾患、原発性および転移性の眼内黒色腫、他の眼内転移腫瘍、開放隅角緑内障、閉塞隅角緑内障、色素性緑内障ならびにこれらの組み合わせ。
【0101】
上記デンドリマー-生体接着性ポリマーナノ接着剤は、一定の期間にわたって治療剤の徐放を提供し得る。例えば、投与後に、上記治療剤は、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも1年、またはこれより長く放出されうる。
【0102】
ヒドロゲルまたはヒドロゲル前駆物質の投与、それに続く光照射媒介性硬化は、他の薬物送達システムが投与される場合より経時的により少ない、炎症またはIOPの増大を引き起こす。縫合糸を使用する炎症またはIOPの増大に対する、炎症またはIOPの低減は、投与の約3日後、投与後14日間または14日超まで観察されうる。炎症またはIOPは、従来からまたは以前に利用可能であった薬物送達システムの投与でも、経時的に低減する。しかし、本明細書で開示される方法および組成物を使用する場合の炎症またはIOPの低減または回避は、持続性でありかつより顕著である。炎症またはIOPの低減または回避は、投与後少なくとも約3日間、少なくとも約14日間、少なくとも約20日間、または少なくとも約30日間、継続し得る。
【0103】
本発明は、以下の非限定的実施例を参照することによってさらに理解される。
【実施例
【0104】
実施例1.共有結合されたデンドリマー-薬物結合体を有する光架橋したデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲルの調製
【0105】
材料および方法
メタクリレートでのデンドリマーの改変(D-MA)(製剤1)
PAMAM G2およびG4ヒドロキシルデンドリマーの表面を、メタクリレート基で改変し、それによって、光架橋を可能にする(構成成分1)。光架橋可能なデンドリマー(G2、G3、G4およびG6)を、以前に確立された実験手順を適合および最適化することによって合成した。簡潔には、メタクリル酸を、PyBOP/DIEAカップリング反応を使用してデンドリマーの表面基に共有結合により結合体化し、その得られた生成物を、水を使用して精製および透析した。生成物(D-MA)の形成を、H NMRおよびHPLCを使用して確認した(図1A)。
【0106】
光架橋可能なデンドリマー-薬物結合体(構成成分2)の合成
架橋可能な基を有する合成したデンドリマーデキサメタゾン結合体(MA-D-Dex)(G2~G6)を作製した。これらは、創傷治癒を増強し得、角膜瘢痕化および新生血管形成を防止し得る。その薬物は、トリアムシノロンアセトニド、ブデソニド、フルオシノロンアセトニド、シクロスポリン、ラパマイシンなど(プレドニゾロン、デキサメタゾン、ロテプレドノール(loteprendol)、フルオロメトロン、ケトロラク、ネパフェナク、ジクロフェナク、シクロスポリン、タクロリムス)に限定されない(図1C)。
【0107】
光架橋可能なデンドリマー抗生物質構成成分(構成成分3)の合成
デンドリマーモキシフロキサシン結合体を、光架橋可能な基とともに合成した(MA-D-Mox)。これは、抗菌バリアを提供し得、角膜炎症、眼内炎および角膜混濁をしばしば生じる感染のいかなる機会をも回避する。上記抗生物質は、抗菌性-シプロフロキサシン、エリスロマイシン、レボフロキサシン、セファゾリン、抗ウイルス性-バンコマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、セフタジジム、オフロキサシン、ガチフロキサシン、アンホテリシン、ボリコナゾール、ナタマイシン、および抗真菌剤(図1D、1E)に限定されない。本発明者らはまた、デンドリマー-セファゾリン(D-Cef)およびデンドリマー-トブラマイシン(D-Tob)を合成した。
【0108】
メタクリレートでのヒアルロン酸の改変(HA-MA)(構成成分4)
ヒアルロン酸-メタクリレート(HA-MA)を、2工程手順を使用して合成した。第1の工程は、市販のヒアルロン酸ナトリウム(Na-HA)をTBA塩(HA-TBA)へと変換する工程であり、第2の工程は、ヒアルロン酸上のヒドロキシル基をメタクリル酸で、PyBOP/DIEAカップリング反応を使用して共有結合的に改変する工程を包含する(図1B)。
【0109】
光架橋可能なヒアルロン酸を、デンドリマーとのより良好な架橋を可能にし、かつナノ接着剤の機械的特性を損なうことなく可撓性を提供する高度のメタクリル化(methacrylation)とともに合成した。そのポリマーは、コラーゲン、コンドロイチン硫酸、プルラン、キトサン、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール(直鎖状および星型PEG)、ポリ-L-リジン、PLGA、PGA、ポリカプロラクトンなどに限定されない(図1C)。
【0110】
適切な比(D:HA)の選択:本発明者らは、デンドリマーおよびヒアルロン酸構成成分の異なる比(HA:D)(10:90)、(30:70)、(50:50)、(70:30)および(90:10)を使用して、上記接着剤の膨潤、強度および安定性を最適化した。安定性および膨潤の研究を、疑似涙液(pH7.0)の中で行った。本発明者らは、本発明者らがHA含有量を増大させる場合、膨潤特性は増大し、安定性は低減し、それによって、より迅速な速度で組成物が分解することを見出した。(10:90)および(30:70)のポリマー比を有するナノ接着剤製剤は、有意な膨潤を示さず、20日間の期間にわたって安定であった。安定性研究から、適切な組成は(30:70)であった。なぜならナノ接着剤は、可撓性かつ安定であるからである(図1F)。
【0111】
ナノ接着剤の光架橋形成
D-MA、HA-SH、およびD(-MA)-DexまたはD(-MA)-Moxを予め混合した。アルゴングリーンレーザー(325nm)を20~30秒間適用した。
結果
【0112】
図1A~1Fは、ナノ接着剤を形成する手順を示す。その形成されたヒドロゲルは、透明で、可撓性であり、かつ粘着性であった。
【0113】
実施例2.エキソビボで創傷を受けたウサギ眼球において縫合糸と比較したナノ接着剤の光学的特性および機械的特性
【0114】
材料および方法
種々のタイプの角膜切開を、新たに摘出した成熟ウサギ眼球上に作った。本発明者らは、異なる創傷構造を使用し、生理食塩水注入を備えた特注で設計したマノメーターシステムを使用して、破裂圧を測定した。予め混合した製剤を用いる上記ナノ接着剤製剤を、異なる創傷構造を有する角膜切開に適用し、アルゴングリーンレーザー(325nm)(メタクリレート系、製剤1に関しては)またはコバルトブルーライト(チオール-eneクリック化学、製剤2に関しては)を20~30秒間適用し、縫合糸と比較して、より高い眼圧に耐えうる、迅速に光架橋された透明な眼の絆創膏が生じた。簡潔には、3mmの直線状の切開を中心角膜に作り、大きく開いた創傷を生じさせた。トンネル状の切開を作った。3mm穿頭中心切開を作った。生理食塩水注入での破裂圧を、マノメーターシステムを使用して測定した。ナノ接着剤の形成のための構成成分(40% D-MAおよび60% HA-MA)を予め混合し、角膜切開に適用した。アルゴングリーンレーザー(325nm)を20~30秒間適用した。
【0115】
結果
ナノ接着剤の形成のための構成成分は迅速に硬化し、創傷の形状に合う透明なゲルを生じ、流体の漏出を回避した。ナノ接着剤は、特に縫合糸と比較して、角膜に強く接着したと考えられる。図2は、試験装置および切開の写真を示し、ナノ接着剤が縫合糸と比較して高い眼圧に耐えたことを示す挿入表1を含む。
【0116】
実施例3.インビボで創傷を受けたラット角膜において縫合糸と比較したナノ接着剤の光学的特性および機械的特性
【0117】
材料および方法
インビボ評価で、ラットに麻酔をかけ、瞳孔をトロピカミドおよび10% フェニレフリンで拡大させた。2.75mm ケラトームを使用して、全層中心角膜切開を作った。最初に、ブレードを後方に向け、貫通後、水晶体および水晶体嚢の損傷を回避する角度に向けた。次いで、切開を、縫合(10-0プロリーンまたはナイロン)または上述のナノ接着剤での接着のいずれかを行った。縫合/接着の後、その角膜切開を、フルオレセインおよびコバルトブルーライトで閉じられていることを確認した。
【0118】
追跡を、手術の24時間後、72時間後、7日後および2週間後に行った。ラット角膜を、光干渉断層撮影(OCT)を使用して7日目に画像化した。その動物を、14日目まで創傷治癒に関して臨床的に評価した。
【0119】
結果
縫合/ナノ接着剤での接着後に、角膜切開を、標準的技術を使用して、フルオレセインおよびコバルトブルーライトで閉じられていることを確認した。ナノ接着剤および縫合糸処置の両方の群において、前房は24時間以内に形成された。
【0120】
ナノ接着剤で閉じた角膜は、炎症、新生血管形成および角膜の不規則性を生じた縫合糸と比較すると、迅速な治癒および有望な結果を示した。切開の周りの角膜肥厚化は小さかった。縫合した角膜および接着した角膜の両方が、ある程度の線維症を示した。これは、OCTスキャンにおいて反射亢進として観察されうる(図3)。
【0121】
炎症および新生血管形成は、7日目において縫合した角膜においてより専ら観察された。7日目に、単一の10-0縫合糸で縫合した角膜裂傷は、線維症および角膜浮腫を有した。このことは、不適切な創傷治癒を示すと考えられた。ナノ接着剤で閉じた角膜裂傷は、いくらかの線維症を有したが、角膜浮腫は少なかった;ナノ接着剤は、優れた創傷並置(wound apposition)を有した。
【0122】
ナノ接着剤処置群において、そのゲルは、10日目までに創傷を閉じ、その創傷は、感染の徴候も毒性および炎症もなく、完全に治癒した。
【0123】
14日目に、ナノ接着剤で処置したラットはまた、最小限の瘢痕化しか伴わない創傷の完全な消散を有したのに対して、縫合した角膜は、角膜新生血管形成、炎症および角膜不規則性を発生させた(図4)。
【0124】
さらに、縫合した眼および接着した眼は、コントロールの眼に類似して、形成された前房を有する正常な前眼部構造を示す。眼房は、接着剤および縫合糸の両方の場合において、24時間以内に形成された。炎症および新生血管形成は、POD7において縫合した角膜において示された。接着剤処置の切開の場合では、接着剤は、10日目までに創傷を閉じるようであり、感染の徴候も毒性および炎症もなく、創傷が完全に治癒する(図4)。
【0125】
実施例4.角膜炎症および感染を処置するための結膜下注射用の捕捉されたデンドリマー-薬物結合体との光架橋されたデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲルの調製
【0126】
材料および方法
材料
ヒドロキシル官能化およびアミン官能化エチレンジアミンコア世代4PAMAMデンドリマー(G4-OH;診断グレード;64末端基)を、Dendritech Inc.(Midland, MI, USA)から購入した。デキサメタゾン(Dex)、無水コハク酸(SA)、N,N’-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)、トリフルオロ酢酸(TFA)、無水ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)および4-ペンテン酸(Kosher)を、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO, USA)から購入した。ヒアルロン酸チオール(hyaluronate thiol)、MW 10k(10% 置換度)を、creative PEGWorks(Chapel Hill, NC, USA)の特注合成サービスを使用して購入した。(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)を、Bachem Americas Inc.(Torrance, CA, USA)から購入した。Cy5-モノ-NHSエステルを、Amersham Biosciences-GE Healthcare(Pittsburgh, PA, USA)から購入した。ACSグレードDMF、ジクロロメタン(DCM)、ジエチルエーテル、ヘキサン、酢酸エチル、HPLCグレード水、アセトニトリル、およびメタノールを、Fisher Scientificから得、透析、精製およびカラムクロマトグラフィーのために受け取ったとおりに使用した。透析膜(MWカットオフ1000および2000Da)を、Spectrum Laboratories Inc.(Rancho Dominguez, CA, USA)から得た。
【0127】
スクシネートでのDexの改変
Dex(500mg, 1.28mmol)を、50mL 丸底フラスコ(RBF)中、窒素雰囲気および氷浴下で、10mLのDMF/DMA(8:2)中に溶解した。これに、5mLのDMF/DMA(8:2)および0.25mLのTEA中に溶解した無水コハク酸(192mg, 1.91mmol)を添加し、その反応混合物を、0℃において3時間、次いで、室温において48時間、撹拌した。デキサメタゾンは、3個のヒドロキシル基を有し、その最も反応性のヒドロキシル基は、21位にある。Dexの11位および17位における-OH基へのリンカーの結合体化を回避するために、デキサメタゾンと比較して、1.2モル当量以下の無水コハク酸を、反応において使用した。
【化1】
【0128】
反応の完了を、酢酸エチル/メタノール(90:10)を移動相として使用してシリカゲルGF254プレート(Whatman, Piscataway, NJ)で行う薄層クロマトグラフィー(TLC)によってモニターした。その反応溶媒を、減圧下でエバポレートし、その粗製生成物を、酢酸エチル:メタノール(99.5:0.5)を溶離液として使用してシリカゲルを通過させることによってカラムクロマトグラフィーで精製して、Dex-21-スクシネート(535mg, >90% 収率)を得た。その得られた精製した生成物を、溶媒としてのDMSO-dおよび内部標準として使用されるテトラメチルシラン(TMS)を用いて、H NMR分光法を使用することによって特徴づけた。
【0129】
デンドリマー-Dex結合体の合成
Dex-21-スクシネート(Dex-リンカー, 255mg, 0.541mmol)を、50mL 丸底フラスコ中、0℃において窒素下で無水DMF(5mL)に溶解し、これに、DMF(5mL)およびDIEA(300μL)中に溶解したPyBOP(703.9mg, 1.35mmol)を添加し、その反応混合物を、氷浴の中で1時間撹拌させた。無水DMF(10mL)中に溶解したPAMAM G4-OH(505mg, 0.036mmol)を、上記の反応混合物に滴下して加え、48時間、窒素下で撹拌した。溶媒の混合物を、25℃において真空下でエバポレートした。その粗製生成物をDMF(20mL)中に再溶解し、DMF中で48時間の透析(膜MWカットオフ=2kDa)に供し、ここでその溶媒を、少なくとも6回交換した。その得られた溶液を、減圧下で室温においてエバポレートし、その得られた粘着性の粘性溶液を、冷エーテルを2回使用して沈殿させて、微量のDMFを除去した。その得られた生成物を、メタノール中に再溶解し、減圧下で共エバポレートし、高真空処理に一晩供して、オフホワイトの半固体デンドリマー-トリアムシノロン結合体(D-Dex, 630mg)を生成した。その得られた半固体生成物を、氷冷DI水中に溶解し、DI水に対して(膜MWCO=1kDa)4℃において5時間、その水を1時間ごとに交換することによって透析して、微量のDMFおよびメタノールを除去した。その得られた水層を凍結乾燥して、D-Dexのふわふわとした白色の粉末(600mg)を得た。
【化2】
【0130】
上記D-Dex結合体を、薬物負荷に関してはH NMR、および純度に関しては逆相HPLCによって、特徴づけた。
【0131】
-ene-または-nor-基でのデンドリマーの改変
本発明者らはまた、光クリックチオール-ene化学を使用して、可撓性および注射可能なゲルまたは角膜接着剤を形成し得るヒドロゲル製剤を開発した。D-ENEまたはD-Norを、PAMAMデンドリマーの表面ヒドロキシル基(-OH)と4-ペンテン酸またはノルボルネン酸(norborene acid)のカルボキシレート部分との間の1工程カップリング反応を使用して合成した。プロトンNMRを使用して、本発明者らは、およそ28~29分子の4-ペンテン酸が1個のデンドリマー分子に結合体化したと概算した。その結合体は、容易に水、PBS緩衝液および生理食塩水に溶解した。
【0132】
4-ペンテン酸(ENE, 60.0mg, 0.58mmol)を、50mL RBF中、窒素雰囲気下で0℃において3mLの無水DMF中に溶解し、これに、DMF(5mL)およびDIEA(300μL)中に溶解したPyBOP(560mg, 0.88mmol)を添加し、その反応混合物を1時間、氷浴中で撹拌させた。G4-OH(550mg, 0.04mmol)を、10mLの無水DMS中に溶解し、上記の反応混合物に滴下して加え、48時間、窒素下で撹拌した。溶媒の混合物を、25℃において真空下でエバポレートした。その粗製生成物をDMF(20mL)中に再溶解し、DMF中での透析(膜MWカットオフ=1kDa)に24時間供し、ここでその溶媒を少なくとも4回交換した。その得られた溶液を、減圧下で室温においてエバポレートし、その得られた粘着性の粘性溶液を、冷エーテルを2回使用して沈殿させて、微量のDMFを除去した。その得られた生成物を、氷冷DI水中に溶解し、DI水に対して(膜MWCO=1kDa)4℃において6時間、水を1時間ごとに交換することによって透析して、微量のDMFを除去した。その得られた水層を凍結乾燥して、D-ENEのふわふわとしたガラス様の白色粉末(590mg)を得た。
【化3】
【0133】
上記D-Dex結合体を、薬物負荷に関してH NMRおよび純度に関して逆相HPLCによって特徴づけた。
【0134】
遊離チオール基でのヒアルロン酸の改変
HAのナトリウム塩(NaHA)を、先ず、テトラブチルアンモニウム塩(HA-TBA)に変換して、効率的なチオール化反応のためにDMSO/DMF(20:80)中に溶解できるようにした。HA-TBAを作製するために、NaHAを超純水(UPH-DI HO)中に2%(w/w)で溶解し、DOWEX 50Wプロトン交換樹脂(Sigma, MO, USA)を、5時間激しく撹拌しながら添加する(3g樹脂/1g NaHA)ことによってイオン交換を行った。その樹脂を、WHATMAN濾紙を使用して濾過し、その濾液を、pH7.4へとTBA-OHで滴定した。その得られた溶液を-80℃において凍結乾燥して、オフホワイトの可撓性のある固体を得、さらにその固体をDI-HO中に溶解し、水での透析(膜MWCO=2kDa)に供して、過剰なTBA-OHを除去した。その得られた水層を、再度凍結乾燥に供し、-20℃において使用するまで貯蔵した。H NMR分析を使用して、イオン交換を確認した。
【0135】
HA-TBA(615mg, 0.027mmol)を、100mL RBF中、窒素雰囲気下で、10mLの無水DMSO中に50℃において溶解し、これに、20mLの無水DMF中に溶解したDCC(640mg, 3.01mmol)およびDMAP(137.5mg, 1.12mmol)を添加した。触媒量のヒドロキノンをその反応混合物に添加して、ジスルフィドの結合を回避した。3-メルカプトプロピオン酸(300mg, 2.81mmol)を、10mlの無水DMF中に溶解し、RBFに滴下して加え、その反応物を、48時間、窒素雰囲気下で室温において撹拌した。その反応混合物を、50mL 遠心分離チューブ中で遠心分離して、形成されたDCUを除去し、溶媒層を、2KD MWCO透析チューブの中で36時間、真空下でDMFに対して透析して、反応していない化合物および可溶性DCUを除去した。その得られた溶液を減圧下でエバポレートして、粘着性の半固体TBA-HA-SHを得た。これを、NaCl溶液(触媒量のTECEPを有する100mLのHOあたり0.5g NaCl)中に溶解し、20分間撹拌し、その溶液を冷アセトンで3回、次いで、冷エタノールで5回沈殿させて、TECEPおよび過剰な塩を除去した。その得られた白色固体をDI HO中に溶解し、液体窒素中で直ちに凍結させ、-80℃で凍結乾燥して、HA-SHの白色粉末(370mg)を得た。
【化4】
【0136】
遊離チオール基でのヒアルロン酸の代替の改変
チオール化ヒアルロン酸を、光クリックヒドロゲルのためのチオール構成成分として高置換度で合成した。HA-SHを、3工程プロセスを使用して合成した。第1の工程において、市販のヒアルロン酸(HA)のナトリウム塩を、DMF/DMSO可溶性のテトラブチルアンモニウム(TBA)塩(HA-TBA)へとイオン交換法を使用して変換した。第2の工程において、3-(トリチルチオ)プロピオン酸を、Steglichエステル化反応を使用してヒアルロン酸のヒドロキシル(-OH)基に結合体化した。本発明者らは、トリチル保護したチオプロピオン酸を使用して、チオエステルおよびジスルフィド結合形成を回避した。第3の工程において、本発明者らは、DMF/DCM(1:5)混合物中の5% TFAを使用してEt3SiHの存在下でそのトリチル基を選択的に脱保護して、TBA-HA-SH中間体を得た。次いで、TBA+基を、NaCl溶液を使用して完全に交換し、その反応混合物を冷アセトンおよびエタノールで洗浄して、過剰なTBA、DTTおよびNaClを除去し、遊離-SH末端基を有するヒアルロン酸を得た。
【化5】
【0137】
製剤2の調製
化学的に架橋したナノ接着剤製剤を、HA-SHおよびD-EneまたはD-Norを、(50:50)の比において0.005% 光開始剤(Irgacure)とともにデュアルバレルシリンジを使用して混合することによって形成した。これを、角膜切開に適用し得る。硬化するために、コバルトブルーライトまたは閃光が照射され、ナノ接着剤光架橋を30秒以内で生じる(図1G)。
【0138】
結合体のHPLC特徴づけ
デンドリマー結合体の純度を、1525バイナリーポンプ、2998フォトダイオードアレイ(PDA)検出器、2475マルチ波長蛍光検出器、およびEmpowerソフトウェアとインターフェースで接続された717オートサンプラー(4℃で維持)を装備したHPLC(Waters Corporation, Milford, MA)によって分析した。HPLCクロマトグラムを、PDA検出器を使用して、205nm(G4-OH)および239nm(Dex結合体化デンドリマー)においてモニターした。水/アセトニトリル(0.1% w/w TFA)を新たに調製し、濾過し、脱気し、移動相として使用した。TSKゲルガードカラム付きのTSKゲルODS-80 Ts(250×4.6mm,内径5μm)を、研究のために使用した(Tosoh Bioscience LLC, Japan)。勾配フローを、90:10(HO/ACN)の初期条件、20分まで70:30(HO/ACN)の比へと徐々に変化、次いで、比が30分で50:50(HO/ACN)であるように、アセトニトリルのパーセンテージを50%へと徐々に増大、次いで、再び比が40分で70:30(HO/ACN)であるように、アセトニトリルを30パーセントへと低減、で使用した。その勾配を、全ての結合体に関して流量1mL/分で、50分で初期条件90:10 (HO/ACN)へと戻した。
【0139】
シリンジ中でデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲルを光架橋する
注射可能なデンドリマー-ヒアルロン酸ゲルを、デンドリマー構成成分(D-ENE)およびヒアルロン酸構成成分(HA-SH)をそれぞれ1:2の比において使用することによって、チオール-ene光重合を介して調製した。簡潔には、個々の構成成分の2%溶液を、PBS中に調製し、混合するまで氷上に貯蔵した。D-Dexおよび遊離Dex溶液を、10μLの溶液が、D-Dexまたは遊離Dexの形態において1.6mgのDexを含むように、D-Dexおよび遊離DexをPBS中に溶解することによって調製した。各注射のために、20μLのHA-SH溶液、10μLのD-ENE溶液、10μLのD-Dexまたは遊離Dex溶液、および5μLの光開始剤(Irgacure 2959 (Ciba, Basel, Switzerland)、DMSO中の5mg/mL)を、0.5mL エッペンドルフチューブ中で混合した。濁った混合物溶液を、0.5cc インスリンシリンジの中に充填し、UV光下に5分間置いた。この製剤において、D-Dexまたは遊離Dexは、注射可能なゲル中に物理的に捕捉される。
【0140】
結果
世代4ヒドロキシル末端化PAMAMデンドリマー(G4-OH)を、組織中での非特異的保持および相互作用を可能にする、その低毒性プロフィールおよび中性に近い表面電荷に起因して使用した。コハク酸スペーサーを、デンドリマーと結合体化薬物との間で使用した。なぜならエステル結合は、より良好な薬物放出を可能にしたからである(Kambhampati SPら, Eur J Pharm Biopharm, Sep;95(Pt B):239-49 (2015))。
【0141】
改変または結合体化後の構造を、以下の反応に関してH NMRスペクトルで確認した:
(i)Dex-リンカーは、リンカーの-CHプロトンに対応する1.34ppm、1.36ppmおよび1.87ppmにおけるピーク、ならびにカルボン酸に対応する12.22ppmにおけるピークによって特徴づけられ、Dex-リンカーの形成が確認された;
(ii)デンドリマー-Dex(D-Dex)は、Dexのメチルプロトン(-CH)を表す0.80ppm、0.88ppmおよび1.49ppmにおける3つのピーク、デンドリマーの改変メチレンプロトン(-CH)に対応する4.02ppmにおける新しいピーク、ならびにDexの芳香族プロトンに対応する5.0ppm~7.4ppmの間のピークによって特徴づけられた;NMRからのプロトン積分に基づいて、およそ7~8分子のDexが、1個のデンドリマー分子に結合体化された。その結合体は、水、PBS緩衝液、および生理食塩水中に容易に溶解した;
(iii)デンドリマー-ene(D-Ene)は、4-ペンテン酸のHC=および=CHCアルケンプロトンに対応する4.97ppm、5.05ppm、5.80ppmあたりの新しい多重線ピーク、ならびにデンドリマーの改変メチレンプロトン(-CH)に対応する4.02ppmにおける新しいピークによって特徴づけられた。プロトン積分に基づいて、およそ15分子の4-ペンテン酸が、1個のデンドリマー分子に結合体化された。その結合体は、水、PBS緩衝液、および生理食塩水中に容易に溶解した;そして(iv)HA-TBA塩は、TBAのメチル(-CH)プロトンに対応する0.85~0.87ppmの間の新しい多重線ピークおよびTBAのメチレン(-CH)プロトンに対応する1.23~1.59ppmの2個の新しいピークによって特徴づけられた。チオール化HAは、TBAの特徴的なピークがないことによって特徴づけられた。
【0142】
逆相HPLCによって、Dex-リンカーおよびデンドリマー-Dex(D-Dex)結合体の純度を検証した。疎水性遊離Dexは、22.4分で溶離したのに対して、Dex-リンカーは、27.6分で溶離した(37.1分でトレースなし)。類似のHPLC条件において、32.8分での広いピークが、D-Dex結合体に関して観察された(240nmにおいてモニター)。これは、出発デンドリマーのもの(保持時間15分)とは異なっていた。遊離DexまたはDex-リンカーに関連する「特徴的な」ピークが観察されなかったので、結合体は十分に純粋であった。D-Dex結合体の広いピークは、高負荷の結果であり得(デンドリマー1つあたり約8分子)、いくらかの非極性特徴を生じる。
【0143】
図6は、デンドリマー-dex結合体を捕捉するデンドリマー-ヒアルロン酸ゲルの形成の模式図を示す。D-Eneを、直線状のチオール化ヒアルロン酸(HA-SH)を繋ぐために使用した。ピストンを押し込むと、ゼリー状の溶液は、針の先端から放出され、注射可能かつ透明なゲルの形成が検証された。
【0144】
実施例5:注射可能なヒドロゲルのレオロジー特性および形態.
【0145】
ゲルの形成および架橋動態を、時間掃引測定を使用して評価した。UV照射(約60秒まで)の前に、および照射後40秒まで、その溶液は、低い粘性を有した(図5A)。このことは、容易に注射可能な溶液を示唆する。60秒でのUV照射の後、貯蔵弾性率(G’)は増大し、損失弾性率(G”)は安定し、約160秒(すなわち、UV処理の100秒後)で、この期間にわたって充填したポリマー溶液内でチオール-eneクリックを介するゲル化を示唆する交差する点(G’>G”)が存在した(図3A)。これは、ゲル化がUV曝露のわずか約1分以内で起こり、そのゲルの貯蔵弾性率が約1kPaに達したことを示唆する。ゲル化時間は、プレポリマー溶液中のD-Dexの組み込みに影響されなかった。ゲル化後の周波数掃引(0.01~10Hz、LVER内)測定を湿潤化環境下で37℃において行って、G’、G”および複素粘性(complex viscosity)
【化6】

を評価した(図5Bおよび5C)。全ての注射可能なゲル(D-Dexありまたはなし)に関して、G”は、G’より常に低く(G’>>G”)、周波数とは無関係であった(安定な粘弾性の架橋ネットワークを示唆する)(図5B)。D-Dexの組み込みは、注射可能なゲルのレオロジー特性を有意に変化させなかった(D-Dexなしでは、G’- 148.4±0.5Pa、G”- 5.2±0.1Pa、D-Dexありでは、G’- 216.5±0.9Pa、G”- 8.2±0.08Pa)。複素粘性
【化7】

の大きさは、周波数が増大するにつれて低減した。これは、注射可能なゲルがずり減粘であったことを示す(図5Cおよび5D)。ずり減粘は、Healon(注射可能なHAゲル)において観察されるように、ゲルシステムの中のHAの結果であり得た。D-Dexを組み込んだゲルにおける粘性に僅かな増大(~22.5%)があり、これは、小さなD-Dex誘導充填剤効果(filler effect)を示唆した。
【0146】
SEM画像化を使用して、D-Dexありおよびなしの注射可能なゲルの表面形状を評価した。HMDS脱水ゲルは、両方の条件(D-Dexありおよびなし)において線条を有する一様に密な構造を示した(図5F)。興味深いことに、乾燥した形態では、D-Dexは、沈殿物として注射可能なゲルの中に組み込まれるようである(図5F)。ゲルサンプルの脱水は、湿潤化した状態から顕著な容積低減(約45%低減)を示した。水の除去が、D-Dexを組み込んだゲルにおいて密な構造の形成およびD-Dex沈殿を引き起こす可能性は高い。FITC標識ヒドロゲルの断面を、共焦点顕微鏡下で画像化して、架橋した形状および孔の密度を調べた。その断面は、未処理のヒドロゲルおよびD-Dexを組み込んだゲルの両方において60nm~100μmの範囲に及ぶサイズを有する孔を形成する同様の架橋した構造を示した(図5G)。
【0147】
実施例6.デンドリマー-Dex(D-Dex)結合体およびデンドリマー-ヒアルロン酸ヒドロゲルからのDexのインビトロ放出
【0148】
材料および方法
D-Dex結合体を調製し、実施例4に記載されるように特徴づけた。コハク酸スペーサーを、デンドリマーと結合体化薬物との間で使用し、そのエステル結合は、D-Dex結合体からの薬物の放出を可能にした。
【0149】
D-Dex結合体からのDexの放出は、放出されたDexの沈殿を低減させるために、安定化剤および界面活性剤として疑似硝子体液[0.03% ヒアルロン酸ナトリウム(Lifecore biomedical, MN, USA)および0.1% TritonX(Sigma, MO, USA)を有するハンクス平衡化塩類溶液]中で特徴づけた。3mg/mLの濃度を、振盪機を備えた水浴の中で37℃において維持した。適切な時点で、200μLの溶液を、インキュベーション混合物から引抜き、液体窒素中で凍結し、凍結乾燥した。この凍結乾燥した粉末に、400μLの50:50(DCM:EtOAc)を添加し、10分間超音波処理し、10,000rpmにいて5分間、4℃において遠心分離した。その上清を集め、その溶媒を窒素フラッシュによってエバポレートし、200μLの50:50 HO:ACNで再構成し、HPLC分析に供した。D-Dexから放出されたDexのパーセントを、検量線図(calibration graph)を使用して定量した。
【0150】
注射可能なゲルの膨潤および分解を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS 1×, pH7.4)およびクエン酸緩衝液(pH5)のような生理学的に関連する流体中で評価した。安定性研究のために、既知量のD-Dexまたは遊離Dexを有するゲルペレットを、2mL エッペンドルフチューブのキャップの中の円形の隙間を使用して作製した(直径=8.0mmおよび厚さ4mm)。予め秤量したペレット(各群につきn=3)を、1mLの緩衝液を含む12ウェルプレートの中に入れ、37℃でインキュベートした。別個の時点で、そのペレットを、スパチュラを使用して注意深く持ち上げ、過剰な水分を、キムワイプを使用して吸い取り、秤量した。膨潤比を、式(W/W)×100(ここでWは、現在時点での膨潤重量であり、Wは、ゲルの最初の重量である)を使用して計算した。分解速度を、式((Wis-Wcd)/Wis)×100(ここでWisは、最初の膨潤重量であり、Wcdは、硬化し低減した重量である)を使用して計算した。
【0151】
注射可能なゲルからのD-Dexおよび遊離Dexの放出を、5mLのSAH溶液を含む8mL シンチレーションバイアル中でゲルペレットをインキュベートすることによって分析した。特定の時点で、100μLのサンプルを引抜き、HPLCを使用して分析した。D-Dexから放出された遊離Dexのパーセントを、検量線図を使用して定量した。
【0152】
結果
結果を、図7A~7Eに示す。図7Aは、239nmでモニターしたD-Dex(32.8分)、Dex(22.4分)およびDex-リンカー(27.6分)のHPLCクロマトグラムである。
【0153】
図7Bは、疑似涙液中でのD-Dex結合体からの薬物放出のグラフである。図7Cは、pH7.4および5それぞれにおける注射可能なゲル製剤からのD-Dexおよび遊離Dex放出のグラフである。より早い時点での放出プロフィールは、バースト放出を示す。
【0154】
図7Dは、pH7.4および5それぞれにおける注射可能なゲルの膨潤および分解プロフィールのグラフである。図7Eおよび7Fは、ゲルの膨潤特性を示す重量変化のグラフである。
【0155】
実施例7.デンドリマー-ヒアルロン酸架橋ゲル中に捕捉されたデンドリマー分子のラット角膜におけるインビボ生体分布
材料および方法
蛍光標識でのデンドリマー分子のタグ付け
蛍光標識したG4-OHデンドリマーを合成し、Lesniak WGら, Mol Pharm., 10(12):4560-4571 (2013)に記載されるように特徴づけた。簡潔には、世代4ヒドロキシル末端化PAMAMデンドリマー(D)を、反応性アミン表面末端基で改変し、これを、N-ヒドロキシスクシンイミドモノエステルCy5色素とさらに反応させて、D-Cy5結合体を生成した。
【0156】
角膜のアルカリ熱傷モデル
動物が関わる全ての手順は、Ophthalmic and Vision ResearchおよびJohns Hopkins Universityにおける動物の使用についてのAssociation for Research in Vision and Ophthalmology StatementによるIACUC研究ガイドラインに従った。合計57匹のLewisラット(7~8週齢)を、Harlan Laboratories Inc.(Frederick, MD)から得た。全ての動物の体重は、150~200gの間であり、それらを一定温度(20±1℃)および湿度(50±5%)において飼育した。それらに標準的なラット飼料を給餌し、水に自由にアクセスできるようにした。全ての手順および試験を、ケタミン0.9%(Bio-niche Pharma, Lake Forest, IL, USA)/キシラジン0.1%(Phoenix Pharmaceuticals, St. Joseph, MO, USA)の筋肉内注射での全身麻酔および局所的プロパラカイン0.5%(Sandoz, Holzkirchen, Germany)の下で行った。角膜のアルカリ熱傷を、0.5N NaOHを角膜に適用することによって生成した。簡潔には、サンプルディスクSS-033 0.5cm(直径)(WESCOR, Logan, Utah, USA)を、四分円に切断した。その四分円を、0.5N NaOHの中に10秒間浸漬し、次いで、中心角膜に15秒間置いた。その熱傷領域および結膜嚢を、点眼ボトルを使用して30mLのBSS溶液で直ぐに灌注した。
【0157】
ラットの眼への投与
D-Cy5を、PBS中に溶解し(10μL中、250μg D-Cy5)、実施例4に記載されるように40μlの注射可能なゲルシステムへと組み込み、0.5mL 30Gインスリンシリンジの中に充填し、続いて、ゲルが形成されるまでUV光に3分間曝露した。そのD-Cy5ゲルを、結膜下に注射し、ブレブを形成した。D-Cy5を注射して7日後に、そのラットを、ペントバルビタールナトリウム(Lundbeck, Deerfield, IL, USA)の致死用量を使用して安楽死させ、眼を集めた。
【0158】
免疫組織化学分析
眼を摘出し、氷冷PBS中で5分間洗浄した。眼球を、5% スクロース溶液中の4% PFAの中で5時間固定し、次いで、スクロース勾配での処理に供した。その眼球を、1:2比において、それぞれ、イソペンタン中のドライアイスを使用して、20% スクロース/至適切断温度(optimum cutting temperature)(OCT)中で凍結した。低温ブロックを、クリオスタット(microm, Walldorf, Germany)を使用して20μm切片を切断するまで、-80℃で貯蔵した。各低温ブロックからの4個の切片を、画像分析のために使用した。その切片を、マクロファージ細胞マーカーであるウサギ抗イオン化カルシウム結合アダプター1分子(rabbit anti-ionized calcium binding adapter 1 molecule)(Iba-1; Wako Chemicals, Richmond, VA, USA)中でインキュベートした;次いで、間質および血管に対するヤギ抗ウサギCy3二次抗体(Life Technologies, Grand Island, NY, USA)およびイソレクチンGS-IB4 AF488(Thermo Fisher, MA)を適用した。切片の角膜および虹彩部分を、共焦点顕微鏡(モデル710ユニット; Carl Zeiss, Inc., Thornwood, NY, USA)を使用して分析した。励起および発光波長、ならびにレーザー設定は、全ての組織に関して同一であった。切片のZスタックを取得し、切片全体の深さを通して画像を与えるために折りたたんだ。
【0159】
結果
Iba-1を、角膜マクロファージのマーカーとして使用した。正常な眼では、Iba-1+細胞は、中心角膜領域では最小限の量でしか見出されなかった(図8A)。中心角膜に対するアルカリ熱傷後に、マクロファージ浸潤(Iba-1+)の増大が、角膜間質および上皮層において注目された(図8B)。熱傷による傷害はまた、アルカリ熱傷後角膜炎(角膜の炎症)と臨床的に一致する所見である、角膜厚の顕著な増大を生じた。結膜下の注射可能なゲルから放出されたデンドリマーの標的化と1週間の保持とを示すために、本発明者らは、蛍光標識デンドリマー(D-Cy5)を使用した。組織の自家蛍光を回避するために、本発明者らは、本発明者らの研究室において以前に確立された手順(S.P. Kambhampatiら, Intracellular delivery of dendrimer triamcinolone acetonide conjugates into microglial and human retinal pigment epithelial cells, European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 95 (2015) 239-249、W.G. Lesniakら, Biodistribution of fluorescently labeled PAMAM dendrimerw in neonatal rabbits: effect of neuroinflammation, Molecular pharmaceutics 10(12) (2013) 4560-4571)を使用して、デンドリマーに共有結合された近IR画像化剤(Cy5)を使用した。D-Cy5ゲルを結膜下注射して7日後に、画像化研究によって、病理依存性生体分布が示された:ゲルから放出されたD-Cy5は、アルカリ熱傷群において中心角膜に浸潤性マクロファージに共局在および保持されることが見出された(図8B)。それに対して正常な眼では、D-Cy5シグナルは誘発されなかった(図8A)。このことは、デンドリマー生体分布が炎症したおよび病的な組織/細胞に制限されることを示唆する。さらに、アルカリ熱傷は、虹彩においてマクロファージの活性化および浸潤を引き起こし、D-Cy5はまた、炎症した組織のみにおいて虹彩の血管の近傍のマクロファージに共局在することが見出された(データは示さず)。病理依存性生体分布は、デンドリマー特性(サイズおよび表面電荷)、病的な組織におけるバリアの破壊および活性化マクロファージの変化した特性のような要因の組み合わせの結果であり得る(Nance, E.ら, Nanoscale effects in dendrimer-mediated targeting of neuroinflammation, Biomaterials 101 (2016) 96-107)。
【0160】
実施例8:ラットにおける角膜のアルカリ熱傷後にデンドリマー-デキサメタゾン(D-Dex)を送達するデンドリマー-ヒアルロン酸ゲルでのインビボ結膜下処置
【0161】
材料および方法
角膜のアルカリ熱傷を、実施例7に記載されるように、ラットに対して行った。
【0162】
ゲル処置の投与
アルカリ熱傷後に、その動物を、処置に関して以下の3群のうちの1つに無作為化した:(i)最小量の遊離デキサメタゾンを有する注射可能なデンドリマー-ヒアルロン酸光架橋ゲル中に捕捉されたデンドリマー-デキサメタゾン結合体(D-Dex群、n=10)、(ii)注射可能なデンドリマー-ヒアルロン酸光架橋ゲル中の遊離デキサメタゾン(遊離Dex群、n=10)、および(iii)薬物なしの、注射可能なデンドリマー-ヒアルロン酸光架橋ゲルのみ(n=10)。D-Dexおよび遊離Dex群の両方を、D-Dexおよび遊離Dex製剤の両方に存在する等価なDex主成分(1.6mgのDex/眼)で処置した。D-Dex結合体が、その投与後の最初の数日間で十分なデキサメタゾンを放出しなかったことを考慮して、用量あたりの遊離デキサメタゾンの総用量の5% ボーラス(すなわち、デンドリマーゲルに結合体化された1.6mg デキサメタゾンおよび0.16mgの遊離デキサメタゾンのさらなる用量)で増強する決定を行った。遊離デキサメタゾン群は、合計1.6mgの遊離デキサメタゾンを受容した。デンドリマー群における遊離薬物のわずかな追加用量(0.16mg)が、注射後の最初の数時間を超えて治療効果を有した可能性は低い。薬物の全ての形態が、注射可能なゲル製剤へと組み込まれた(それは、実施例4のものと同じゲル製剤である)。ゲル構成成分を予め混合し、シリンジの中に充填し、架橋して、UV曝露を使用してゲルを形成する。注射時に、その構成成分は、ゲルの形態にあり、結膜下に30ゲージの0.5cc インスリンシリンジを使用して注射する。投与される総容積は、40μLを超えなかった。
【0163】
臨床および分子レベルの評価
動物を、ベースラインで、および以下の曝露後時点で評価した:24時間、72時間、および7日間。動物の部分セットをまた、14日間追跡した。
【0164】
中心角膜厚(CCT)および間質構造分析を、前房光干渉断層撮影(OCT)(Bioptigen Envisu R-class OCT, Bioptigen, NC, USA)を使用して行った。
【0165】
眼圧(IOP)の変化を、手持ち式眼圧計(Icare LAB tonometer, Icare, Finland)を使用して測定した。ラットのための設定Rを選択し、IOPの3回の個々の測定を、精度のために各眼に行った。
【0166】
角膜混濁を、Larkin DFら, Clin Exp Immunol., 107:381-391 (1997)によって以前に報告されたように、透明度をグレード付けすることによってスコア付けした。新生血管形成(NV)の概算面積を、新生血管の放射状の貫入およびそれらの程度を概算することによって、ならびにNVの最大面積が2.52πmm(=19.63mm)以下であるように、平均角膜直径2.5mmと仮定することによって、評価した。
【0167】
免疫組織化学分析のために、角膜(各群に対してn=3)を、冷PBS中で洗浄し、実施例7、免疫組織化学分析に記載されるように処理した。染色した切片を、共焦点顕微鏡下で画像化した。中心角膜における角膜マクロファージを、手動で計数した。
【0168】
サイトカイン発現分析のために、角膜(各群に対してn=10)を、液体窒素中で急速凍結し、予め冷却した(液体窒素中)磁器乳鉢および乳棒を使用して、組織粉末へと注意深くホモジナイズした。全RNAを、製造業者の説明書に従って、TRIzol試薬(Life Technologies, Grand Island, NY)で精製した。3μgの全RNAを、製造業者の説明書に従って、High-capacity cDNA Reverse Transcription System(Life Technologies)を使用してcDNAへと逆転写した。qRT-PCRを、fast
SYBR Green Master Mix(Life Technologies)とともに、StepOnePlus Real-Time PCR System(Life Technologies)によって行った。ラットGAPDHを使用して、標的遺伝子の発現レベルを正規化し、比較サイクル閾値Ct法(2^-(ΔΔCt))によって計算した。
【0169】
結果
中心角膜厚(CCT): 群間でCCTにおいてベースラインの差異はなかった(D-Dex 対 遊離Dex: p=0.4; D-Dex 対 陽性コントロール: p=0.67; 遊離Dex 対 陽性コントロール: p=0.69)。CCTは、予測されるとおり、POD 1および3において全群で増大した(図9図10Aおよび表3を参照のこと)。POD 7までに、全群において角膜厚において改善する傾向があったが、それはD-dex群においてより顕著であった。POD14における平均角膜厚は、D-dex群において最も薄かった。D-dex群と遊離Dex群との間の角膜厚の比較から、CCTは、POD3(p=0.04)およびPOD7(p=0.009)においてD-dex群がより薄いことが示された(図9図10Aおよび表3を参照のこと)。D-dex群および陽性コントロールの比較に関しては、CCTは、POD3(p=0.01)、POD7(p=0.001)、およびPOD14(p=0.01)において、D-dex群がより薄かった。ステロイドでの処置は、眼内および角膜の炎症の緩和と、結果的に角膜厚の低減をもたらす。ここで示されるように、D-Dex群は、アルカリ熱傷後に角膜浮腫の消散に関して、最も好ましい転帰を有した。
【0170】
眼圧: 図10Bおよび表3に示されるように、上記3群のうちのいずれか2群の間でIOPにおいてベースラインの差異はなかった(d-dex 対 遊離Dex p=0.25; d-dex 対 非処置: p=0.3;および遊離Dex 対 非処置: p=0.89)。統計的有意差は、POD3において先ず注目された:d-dex群における平均IOPは、10±0.2mmHgであったのに対して遊離Dex群では、平均IOPは、12.14±0.63であった(p=0.02);非処置群における平均IOPは、11.91±1.28であった(d-dex群との比較に関してp=0.04)。POD7までに、これらの差異は、平均IOP 11.33±0.62mmHgを有するd-dex群でより明らかになったのに対して、遊離Dex群は、平均IOP 14.45±0.5mmHg(p=0.001)を有した。POD14では、d-dex群は、そのベースラインIOPに類似して平均IOP 10.9±0.66mmHgを有したのに対して、遊離Dex群は、平均IOP 19.38±1.8mmHg(p<0.001)を有した(図10Bおよび表3を参照のこと)。注意すべきは、ステロイド処置群のうちのいずれも、IOPの臨床的に有意な上昇を有しなかったが、D-Dex群は、IOPのより緩やかな増大を伴いかつ明らかなIOPスパイクがなく、より好ましい転帰を有した。これは、この特定のデンドリマー-デキサメタゾン製剤のゆっくりとしたステロイド放出プロフィールの結果であり得る。IOPスパイクまたはIOPの持続性の上昇を回避することは、臨床上の実施において顕著な利点である。
【0171】
新生血管形成の概算面積: 新生血管は、POD3以降に全群において出現した。図10C図4、および表3に示されるように、新血管が占有する面積は、遊離Dex群における平均面積:3.32±0.34(p=0.009)と比較して、POD7において平均面積 2.5±0.32mmで、d-dex群では比較的安定したままであった。新生血管形成は、炎症カスケードにおけるより後期の続発症である。早期のステージでの炎症の阻害は、D-Dexが最良の転帰を有して、ここで認められる差異を説明できた。
【0172】
角膜混濁スコア: メジアン混濁スコアは、全研究群に関してベースラインで全てゼロであった。角膜は、POD1程度に、すぐにそれらの透明性を失ったが、図10D図4および表3に示されるように、陽性コントロール群は二度と回復しなかった(POD14では、コントロール群は、平均混濁スコア 2.5を有した(範囲:1~4))。POD14では、非処置群は、平均混濁スコア 2.5(範囲:1~4)を有した。統計的有意差は、POD3程度の早期において、群間で観察された。d-dex群のメジアン混濁スコアは、2.5であった(範囲:0~4)。それに対して、遊離Dex群に関しては、それは3.5であった(範囲:1~3、p<0.001)。この差異は、POD7(p=0.006)およびPOD14(p=0.008)において統計的に有意のままであった。アルカリ熱傷の一群における角膜混濁は、角膜炎症および浮腫の結果である。D-Dex群は、臨床的に評価した角膜混濁に関して最良の転帰を有した(図10D図4、および表3を参照のこと)。これは、角膜炎症の処置におけるD-Dex結合体の増強された効能の別の尺度である。
【0173】
免疫組織化学および共焦点顕微鏡法: 免疫組織化学および共焦点顕微鏡法を使用する高解像度画像化を、中心角膜に存在するマクロファージの数を定量的に評価するために、POD 7および14で使用した。この尺度は、種々の処置が組織炎症を低減する能力のさらなる間接的概算を提供した。先に生体分布の節で説明したように、アルカリ熱傷は、角膜の構造的損傷およびマクロファージ浸潤を引き起こす。
【0174】
陽性コントロール群(プラセボゲルで処置)は、いかなるステロイド処置も与えられなかったアルカリ熱傷に曝された角膜において認められるものに類似して、POD7において中心角膜でマクロファージの蓄積を示した。持続するIba-1陽性浸潤物(マクロファージ)が、これらの陽性コントロールにおいてPOD 14で観察された。本発明者らはまた、ラットモデルにおいて天然の治癒プロセスの結果であり得る中心角膜構造におけるいくらかの改善を観察した(図11、右パネル)。遊離Dexゲル群はまた、POD7での中心角膜のIba-1陽性細胞浸潤物(マクロファージ)を示したが、それは、POD14までに部分的に消散した。これは、結膜下ゲルから放出された遊離Dexの治療活性の結果であり得る(図11、中央パネル)。マクロファージ枯渇に関する最良の結果は、D-Dex群において認められた。ここで浸潤細胞の最低数がPOD7において同定された。POD14までに、その浸潤物はほぼ完全に消散した(図11、左パネル)。
【0175】
RT-PCRを使用する炎症性サイトカイン生成の評価: 図12A~12Eは、種々の処置後の炎症性サイトカインの発現を示す。炎症の好転に関して処置への応答をさらに特徴づけるために、炎症性サイトカインを、POD7およびPOD14において評価した。アルカリ熱傷が急性相および慢性相の両方において炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8およびVEGF)の上昇を生じることは、広く報告されている。POD7において、IL-6 mRNAレベルは、陽性コントロールと比較した場合に、D-Dex群において有意に低かった(平均±SEM 0.7±0.13 対 9.8±3.53、p<0.001)(図5);これは、陽性コントロールと比較した、遊離Dex群におけるIL-6レベルの比較にも当てはまった(3.0±0.3 対 9.8±3.53、p<0.001)。MCP-1 mRNAレベルは、陽性コントロールと比較して、D-Dex群においてPOD7で有意に低かった(0.7±0.13 対 4.0±1.24、p<0.001);しかし、これは、陽性コントロールとの、遊離Dex群の比較には当てはまらなかった(p=0.259)(図12)。POD14では、D-Dex群および遊離Dex群の両方が、MCP-1のmRNAレベルによって示されるように、陽性コントロールとの比較において、処置から利益を受けた:陽性コントロール群における98.7±15.42に対して、それぞれ、12.5±5.49および15.4±3.22(両方の比較に関してp<0.001)。注意すべきは、POD14において、VEGFのmRNAレベルは、陽性コントロールと比較した場合に、D-Dex群においてのみ有意に低かった(6.3±1.02 対 27.2±5.66、p<0.001;遊離Dexと陽性コントロールとの間の比較に関してはp=0.004)(図12)。VEGFのmRNAにおけるこの差異は、なぜD-Dex群が他の群と比較して、POD14において少ない角膜新生血管形成を有したかを説明し得る。全体的に、サイトカイン分析の結果は、D-Dex群が角膜炎症の消散に関して最良の転帰を有したことを示唆するという本発明の臨床結果と一致する。この抗炎症活性は、角膜移植手術における移植失敗の機会を低減することにおいて非常に有益である。
【0176】
結論: 角膜炎症は、正常な角膜ホメオスタシスを破壊することによって、それらの進んだステージへ進行する多くの疾患において極めて重要な役割を果たすように関わる重要な病的事象である。局所ステロイドは、白血球/マクロファージ動員を低減することにおいて有益であるが、頻繁に投与される必要があり、このことは、角膜毒性および角膜融解を生じ得る(M.D. Wagoner, Chemical injuries of the eye: current concepts in pathophysiology and therapy, Survey of ophthalmology 41(4) (1997) 275-313; S. Denら, Efficacy of early systemic betamethasone or cyclosporin A after corneal alkali injury via inflammatory cytokine reduction, Acta Ophthalmologica Scandinavica 82(2) (2004) 195-199; P.C. Donshikら, Effect of topical corticosteroids on ulceration in alkali-burned corneas, Archives of Ophthalmology 96(11) (1978) 2117-2120)。本発明において示されるように、炎症の原因となるまさにその細胞を標的化し、持続した様式でステロイドを送達することを目的とした治療は、手術時に投与され得、実行可能な選択肢である。本発明において、本発明者らは、角膜炎症のモデルとして軽度のラットアルカリ熱傷による傷害を使用した。PAMAM G4ヒドロキシルデンドリマーが活性化角膜マクロファージの中に局在する本質的な標的化能力は、角膜炎症を緩和するために、デキサメタゾンの持続する標的化された眼内送達を開発するために利用される。約20%のペイロードを有するD-Dex結合体は、水性溶液中で高度に可溶性であった。その結合体は、インビトロでLPS活性化マクロファージにおいて改善された抗炎症活性(遊離デキサメタゾンのものより1/10の低濃度で約1.6倍)を示した。
【0177】
D-Dexのバイオアベイラビリティーを延ばしかつ持続するために、本発明者らは、デンドリマーおよびヒアルロン酸、架橋されるチオール-eneクリック光化学に基づいて、注射可能なゲルシステムを開発した。そのゲル製剤は、粘弾性特性を有し、容易に注射可能であり、D-Dexの徐放を提供する。結膜下投与後にその注射可能なゲルから放出されるデンドリマーは、アルカリ熱傷を有する中心角膜において活性化マクロファージを標的化しかつ共局在する。D-Dexを組み込んだゲルの1回の結膜下注射は、2週間の期間にわたる長期の効能をもたらす。D-Dexゲル処置は、中心角膜厚の低下、眼圧の上昇の徴候を伴わない角膜の清澄性の改善のようなより良好な転帰を示した。角膜炎症を軽減するD-Dexゲル処置の薬力学的効果は、中心角膜へのマクロファージ浸潤の有意な低減によって示され、遊離薬物と比較して、炎症促進性サイトカイン生成を抑制した。
【0178】
本明細書で開示される本発明の組成物および方法は、デンドリマーが角膜の炎症障害において有効な処置ビヒクルであるという概念を裏付ける。本発明の組成物および方法はまた、デンドリマー-ゲル製剤の投与経路、結膜下において特有である。この経路は、臨床的にアクセス可能であり、手術室のような高価な資源を要せず、潜在的な空間が、比較的大きな容積の薬物の投与を可能にし得る。薬物レザバの送達は、反復局所点眼の必要性から患者を解放し、コンプライアンスおよび転帰を改善し得る。後眼部へのデポー薬物が近年開発されたにも関わらず、今日まで、角膜への長期持続性薬物送達を提供するために特別に設計された市販の薬物は存在しない。本発明において示されるシステムは、前眼部に薬物を送達するために特別に設計され、角膜炎症を処置するにあたって有効であることが示された。
【0179】
表のリスト:
【表1】

【表2】

【表3】
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
【配列表】
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