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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】リチウム2次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20230822BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230822BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230822BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20230822BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20230822BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20230822BHJP
   H01M 50/454 20210101ALI20230822BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20230822BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M50/46
H01M50/44
H01M50/449
H01M50/454
H01M50/491
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022543276
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2021016226
(87)【国際公開番号】W WO2022038835
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/031096
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522369728
【氏名又は名称】TeraWatt Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 雅継
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
(72)【発明者】
【氏名】井本 浩
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-145299(JP,A)
【文献】特表2015-519686(JP,A)
【文献】特開2013-175412(JP,A)
【文献】特開2014-143133(JP,A)
【文献】特開2018-185906(JP,A)
【文献】特開2019-145401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M50/40-50/497
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極活物質を有しない負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されているセパレータと、
前記セパレータの前記負極に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性を有する緩衝機能層と、を備え、
前記正極が、正極活物質と、前記正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物と、を含み、
レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布において、
前記リチウム含有化合物の累積度50%に対応する粒子径D50(S)が1.0μm以上20μm以下であり、
前記リチウム含有化合物の累積度95%に対応する粒子径D95(S)が1.0μm以上30μm以下である、
リチウム2次電池。
【請求項2】
正極と、
負極活物質を有しない負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されているセパレータと、
前記セパレータの前記負極に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性を有する緩衝機能層と、を備え、
前記正極が、正極活物質と、前記正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物と、を含み、
レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布において、累積度50%に対応する粒子径をD50とした場合、
前記正極活物質のD50(A)が5.0μm以上20μm以下であり、
前記リチウム含有化合物のD50(S)に対する前記正極活物質のD50(A)の粒径比であるD50(A)/D50(S)が、2.0以上10.0以下である、
リチウム2次電池。
【請求項3】
前記リチウム含有化合物のD50(S)が1.0μm以上10μm以下である、請求項2に記載のリチウム2次電池。
【請求項4】
前記正極の電極密度が3.0g/cc以上である、請求項2又は3に記載のリチウム2次電池。
【請求項5】
前記リチウム含有化合物を、前記正極の総質量に対して1.0質量%以上15質量%以下で含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項6】
前記リチウム2次電池のセル容量に対する前記リチウム含有化合物の不可逆容量の割合が、1.0%以上30%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項7】
前記緩衝機能層の空孔率が、50%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項8】
前記緩衝機能層は、電気伝導性を更に有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項9】
前記リチウム含有化合物が、Feを含む化合物である、請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム2次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーを電気エネルギーに変換する技術が注目されている。これに伴い、安全性が高く、かつ多くの電気エネルギーを蓄えることができる蓄電デバイスとして、様々な2次電池が開発されている。
【0003】
その中でも、正極及び負極の間を金属イオンが移動することで充放電を行う2次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を示すことが知られており、典型的には、リチウムイオン2次電池が知られている。典型的なリチウムイオン2次電池としては、正極及び負極にリチウムを保持することのできる活物質を導入し、正極活物質及び負極活物質の間でのリチウムイオンの授受によって充放電をおこなうものが挙げられる。また、負極に活物質を用いない2次電池として、負極表面上にリチウム金属を析出させることでリチウムを保持するリチウム金属2次電池が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、室温で少なくとも1Cのレートでの放電時に、1000Wh/Lを越える体積エネルギー密度及び/又は350Wh/kgを越える質量エネルギー密度を有する、高エネルギー密度、高出力リチウム金属アノード2次電池が開示されている。特許文献1は、そのようなリチウム金属アノード2次電池を実現するため、極薄リチウム金属アノードを用いることを開示している。
【0005】
また、特許文献2には、正極、負極、これらの間に介在された分離膜及び電解質を含むリチウム2次電池において、前記負極は、負極集電体上に金属粒子が形成され、充電によって前記正極から移動され、負極内の負極集電体上にリチウム金属を形成する、リチウム2次電池が開示されている。特許文献2は、そのようなリチウム2次電池は、リチウム金属の反応性による問題と、組み立ての過程で発生する問題点を解決し、性能及び寿命が向上されたリチウム二次電池を提供することができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-517722号公報
【文献】特表2019-537226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献に記載のものを始めとする従来の電池を詳細に検討したところ、エネルギー密度、サイクル特性、及びレート特性の少なくともいずれかが十分でないことがわかった。
【0008】
例えば、正極活物質及び負極活物質の間での金属イオンの授受によって充放電をおこなう典型的な2次電池は、エネルギー密度が十分でない。また、上記特許文献に記載されているような、負極表面上にリチウム金属を析出させることでリチウムを保持する従来のリチウム金属2次電池は、充放電を繰り返すことにより負極表面上にデンドライト状のリチウム金属が形成されやすく、短絡及び容量低下が生じやすい。その結果、サイクル特性が十分でない。また、上記のようなリチウム金属2次電池は充放電を繰り返すことで、内部抵抗が増加する傾向にあるため、レート特性も低下する。
【0009】
更に、リチウム金属2次電池において、リチウム金属析出時の離散的な成長を抑制するために、電池に大きな物理的圧力をかけて負極とセパレータとの界面を高圧に保つ方法も開発されている。しかしながら、そのような高圧の印加には大きな機械的機構が必要であるため、電池全体としては、重量及び体積が大きくなり、エネルギー密度が低下する。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度が高く、サイクル特性又はレート特性に優れるリチウム2次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、正極と、負極活物質を有しない負極と、正極と負極との間に配置されているセパレータと、セパレータの負極に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性を有する緩衝機能層と、を備え、正極が、正極活物質と、正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物と、を含み、レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布において、リチウム含有化合物の累積度50%に対応する粒子径D50(S)が1.0μm以上20μm以下であり、リチウム含有化合物の累積度95%に対応する粒子径D95(S)が1.0μm以上30μm以下である。
【0012】
そのようなリチウム2次電池は、負極活物質を有しない負極を備えることにより、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われるため、エネルギー密度が高い。
また、本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池の緩衝機能層は、リチウム2次電池において、充放電に伴う電池の体積膨張を緩和、抑制する緩衝層として機能すると推測される。
【0013】
更に、上記のリチウム2次電池は、上記のようなリチウム含有化合物を犠牲正極剤として正極に有する。上記のような犠牲正極剤は、リチウム2次電池の初期充電時に酸化反応を生じる(すなわち、リチウムイオンを放出する。)一方で、その後の放電時には還元反応を実質的に生じず(すなわち、放電前のリチウム含有化合物が形成されない。)、当該リチウム含有化合物に由来するリチウム元素は、負極表面上にリチウム金属として残留する。また、当該犠牲正極剤は、レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布において、累積度50%に対応する粒子径D50(S)が1.0μm以上20μm以下であり、累積度95%に対応する粒子径D95(S)が1.0μm以上30μm以下である。このような粒子径を有する犠牲正極剤は、その界面抵抗を低く維持したまま、負極表面上に析出するリチウム金属をより均一化することができる。
したがって、上記のリチウム2次電池は、放電の際に、負極表面上に均一に析出しているリチウム金属が全て溶解することなく、放電完了後においても一部のリチウム金属が負極表面上に残留すると考えられる。当該残留リチウム金属は、その後の充電時において、更なるリチウム金属が負極表面上に析出する際の足場となるため、当該充電時においてリチウム金属は負極表面上に一層均一に析出しやすくなる。したがって、上記のリチウム2次電池は、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制され、サイクル特性に優れたものとなる。
【0014】
本発明の別の一実施形態に係るリチウム2次電池は、正極と、負極活物質を有しない負極と、正極と負極との間に配置されているセパレータと、セパレータの負極に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性を有する緩衝機能層と、を備え、正極が、正極活物質と、正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物と、を含み、レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布において、累積度50%に対応する粒子径をD50とした場合、正極活物質のD50(A)が5.0μm以上20μm以下であり、リチウム含有化合物のD50(S)に対する正極活物質のD50(A)の粒径比であるD50(A)/D50(S)が、2.0以上10.0以下である。
【0015】
そのようなリチウム2次電池は、負極活物質を有しない負極、緩衝機能層、及び犠牲正極剤としてのリチウム含有化合物を備えるため、上述と同様の理由から、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れる。
【0016】
ここで、犠牲正極剤として用いられるリチウム含有化合物は、正極活物質に比べその電気伝導度が低いため、正極に犠牲正極剤を添加すると、正極全体における内部抵抗が高くなる傾向にある。一方、上記のリチウム2次電池は、レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布において、正極活物質のD50(A)が5.0μm以上20μm以下であり、リチウム含有化合物のD50(S)に対する正極活物質のD50(A)の粒径比D50(A)/D50(S)が、2.0以上10.0以下であるため、正極活物質同士の接触が犠牲正極剤により阻害されることが抑制され、その結果正極内の電気伝導性が高い。したがって、上記のリチウム2次電池は、正極内の内部抵抗が十分小さく、レート特性に優れるものである。
【0017】
上記の、正極活物質のD50(A)が5.0μm以上20μm以下であり、粒径比D50(A)/D50(S)が2.0以上10.0以下であるリチウム2次電池において、リチウム含有化合物のD50(S)は、好ましくは、1.0μm以上10μm以下である。そのような態様によれば、負極表面上に析出するリチウム金属がより均一化し、負極上にデンドライト状のリチウム金属が析出することを抑制できるため、サイクル特性に一層優れたものとなる。
【0018】
上記の、正極活物質のD50(A)が5.0μm以上20μm以下であり、粒径比D50(A)/D50(S)が2.0以上10.0以下であるリチウム2次電池において、正極の電極密度は、好ましくは、3.0g/cc以上である。そのような態様によれば、リチウム2次電池の容量を一層高くすることができる。
【0019】
上記のリチウム2次電池は、上記犠牲正極剤を、好ましくは、上記正極の総質量に対して、1.0質量%以上15質量%以下で含む。そのような態様によれば、上述した犠牲正極剤の効果が一層有効かつ確実に奏されるため、リチウム2次電池のサイクル特性が一層優れたものとなる。
【0020】
上記リチウム含有化合物の不可逆容量の割合は、リチウム2次電池のセル容量に対して、好ましくは、1.0%以上30%以下である。そのような態様によれば、放電完了後に負極表面上に残留する残留リチウムが一層適切な量となるため、リチウム2次電池のサイクル特性及びエネルギー密度が一層向上する。
【0021】
緩衝機能層の空孔率は、好ましくは、50%以上である。そのような態様によれば、上述した緩衝機能層の効果が一層有効かつ確実に奏されるため、リチウム2次電池のサイクル特性及びエネルギー密度が一層向上する。
【0022】
緩衝機能層は、好ましくは、電気伝導性を更に有するものである。リチウム2次電池がセパレータ表面に、電気伝導性を更に有する緩衝機能層を有する場合、負極の表面上だけでなく、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層の内部でもリチウム金属が析出することができるため、リチウム金属析出反応の反応場の表面積が増加し、リチウム金属析出反応の反応速度が緩やかに制御される。その結果、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが一層抑制され、電池のサイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0023】
上記犠牲正極剤は、好ましくは、Feを含む化合物である。そのような態様によれば、上述した犠牲正極剤の効果が一層有効かつ確実に奏されるため、リチウム2次電池のサイクル特性が一層優れたものとなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、エネルギー密度が高く、サイクル特性又はレート特性に優れるリチウム2次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図2】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の使用の概略断面図である。
図3】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池における緩衝機能層の概略断面図であり、(A)は緩衝機能層の一実施形態であるファイバ状の緩衝機能層を示し、(B)はファイバ状の緩衝機能層にリチウム金属が析出する析出態様を示す。
図4】第1及び第2の本実施形態に係るリチウム2次電池における緩衝機能層の概略断面図であり、ファイバ状の緩衝機能層を構成する部材の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0027】
[第1の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図1は、第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。図1に示すように、第1の本実施形態のリチウム2次電池100は、正極110と、負極活物質を有しない負極140と、正極110と負極140との間に配置されているセパレータ120と、負極140のセパレータ120に対向する表面に形成されている緩衝機能層130と、を備える。正極110は、セパレータ120に対向する面とは反対側の面に正極集電体150を有する。
【0028】
(負極)
負極140は、負極活物質を有しないものである。本明細書において、「負極活物質」とは、負極において電極反応、すなわち酸化反応及び還元反応を生じる物質である。具体的には、本実施形態の負極活物質としては、リチウム金属、及びリチウム元素(リチウムイオン又はリチウム金属)のホスト物質が挙げられる。リチウム元素のホスト物質とは、リチウムイオン又はリチウム金属を負極に保持するために設けられる物質を意味する。そのような保持の機構としては、特に限定されないが、例えば、インターカレーション、合金化、及び金属クラスターの吸蔵等が挙げられ、典型的には、インターカレーションである。
【0029】
本実施形態のリチウム2次電池は、電池の初期充電前に負極が負極活物質を有しないため、負極上にリチウム金属が析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われる。したがって、本実施形態のリチウム2次電池は、負極活物質を有するリチウム2次電池と比較して、負極活物質が占める体積及び負極活物質の質量が削減され、電池全体の体積及び質量が小さくなるため、エネルギー密度が原理的に高い。
【0030】
本実施形態のリチウム2次電池100は、電池の初期充電前に負極140が負極活物質を有せず、電池の充電により負極上にリチウム金属が析出し、電池の放電によりその析出したリチウム金属が電解溶出する。したがって、本実施形態のリチウム2次電池において、負極は負極集電体として働く。
【0031】
本実施形態のリチウム2次電池100をリチウムイオン電池(LIB)及びリチウム金属電池(LMB)と比較すると、以下の点で異なるものである。
リチウムイオン電池(LIB)において、負極はリチウム元素(リチウムイオン又はリチウム金属)のホスト物質を有し、電池の充電によりかかる物質にリチウム元素が充填され、ホスト物質がリチウム元素を放出することにより電池の放電が行われる。LIBは、負極がリチウム元素のホスト物質を有する点で、本実施形態のリチウム2次電池100とは異なる。
リチウム金属電池(LMB)は、その表面にリチウム金属を有する電極か、あるいはリチウム金属単体を負極として用いて製造される。すなわち、LMBは、電池を組み立てた直後、すなわち電池の初期充電前に、負極が負極活物質であるリチウム金属を有する点で、本実施形態のリチウム2次電池100とは異なる。LMBは、その製造に、可燃性及び反応性が高いリチウム金属を含む電極を用いるが、本実施形態のリチウム2次電池100は、リチウム金属を有しない負極を用いるため、より安全性及び生産性に優れるものである。
【0032】
本明細書において、負極が「負極活物質を有しない」とは、負極140が負極活物質を有しないか、実質的に有しないことを意味する。負極140が負極活物質を実質的に有しないとは、負極140における負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であることを意味する。負極における負極活物質の含有量は、負極140全体に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。負極140が負極活物質を有せず、又は、負極140における負極活物質の含有量が上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池100のエネルギー密度が高いものとなる。
【0033】
本明細書において、電池が「初期充電前である」とは、電池が組み立てられてから第1回目の充電をするまでの状態を意味する。また、電池が「放電終了時である」とは、電池の電圧が1.0V以上3.8V以下、好ましくは1.0V以上3.0V以下である状態を意味する。
【0034】
本明細書において、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池」とは、電池の初期充電前に、負極140が負極活物質を有しないことを意味する。したがって、「負極活物質を有しない負極」との句は、「電池の初期充電前に負極活物質を有しない負極」、「電池の充電状態に依らずリチウム金属以外の負極活物質を有せず、かつ、初期充電前においてリチウム金属を有しない負極」、又は「初期充電前においてリチウム金属を有しない負極集電体」等と換言してもよい。また、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池」は、アノードフリーリチウム電池、ゼロアノードリチウム電池、又はアノードレスリチウム電池と換言してもよい。
【0035】
本実施形態の負極140は、電池の充電状態によらず、リチウム金属以外の負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
また、本実施形態の負極140は、初期充電前において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0036】
本実施形態のリチウム2次電池100は、電池の電圧が1.0V以上3.5V以下である場合において、リチウム金属の含有量が、負極140全体に対して10質量%以下であってもよく(好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよい。);電池の電圧が1.0V以上3.0V以下である場合において、リチウム金属の含有量が、負極140全体に対して10質量%以下であってもよく(好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよい。);又は、電池の電圧が1.0V以上2.5V以下である場合において、リチウム金属の含有量が、負極140全体に対して10質量%以下であってもよい(好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよい。)。
【0037】
また、本実施形態のリチウム2次電池100において、電池の電圧が4.2Vの状態において負極上に析出しているリチウム金属の質量M4.2に対する、電池の電圧が3.0Vの状態において負極上に析出しているリチウム金属の質量M3.0の比M3.0/M4.2は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは38%以下であり、更に好ましくは35%以下である。比M3.0/M4.2は、1.0%以上であってもよく、2.0%以上であってもよく、3.0%以上であってもよく、4.0%以上であってもよい。
【0038】
本実施形態の負極活物質の例としては、リチウム金属及びリチウム金属を含む合金、炭素系物質、金属酸化物、並びにリチウムと合金化する金属及び該金属を含む合金等が挙げられる。上記炭素系物質としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、グラファイト、ハードカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン系化合物、酸化スズ系化合物、及び酸化コバルト系化合物等が挙げられる。上記リチウムと合金化する金属としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、及びガリウムが挙げられる。
【0039】
本実施形態の負極140としては、負極活物質を有せず、集電体として用いることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが挙げられ、好ましくは、Cu、Ni、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。このような負極を用いると、電池のエネルギー密度、及び生産性が一層優れたものとなる傾向にある。なお、負極にSUSを用いる場合、SUSの種類としては従来公知の種々のものを用いることができる。上記のような負極材料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。なお、本明細書中、「Liと反応しない金属」とは、リチウム2次電池の動作条件においてリチウムイオン又はリチウム金属と反応して合金化することがない金属を意味する。
【0040】
負極140の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における負極140の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0041】
(正極)
正極110は、正極活物質を含むため、リチウム2次電池100は、安定性に優れ、高い出力電圧を有するものとなる。
本明細書において、「正極活物質」とは、正極において電極反応、すなわち酸化反応及び還元反応を生じる物質である。具体的には、本実施形態の正極活物質としてはリチウム元素(典型的には、リチウムイオン)のホスト物質が挙げられる。そのような正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物及び金属リン酸塩が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト系化合物、酸化マンガン系化合物、及び酸化ニッケル系化合物等が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸鉄系化合物、及びリン酸コバルト系化合物が挙げられる。典型的な正極活物質としては、LiCoO、LiNiCoMnO(x+y+z=1)、LiNiMnO(x+y=1)、LiNiO、LiMn、LiFePO、LiCoPO、LiFeOF、LiNiOF、及びTiSが挙げられる。上記のような正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0042】
正極110は、正極活物質に加えて、該正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物(すなわち、犠牲正極剤)を含む。そのような正極110を備えるリチウム2次電池100を初期充電すると、正極活物質及び犠牲正極剤はリチウムイオンを放出すると共に酸化反応を生じ、外部回路を通じて負極140に電子を放出する。その結果、正極活物質及び犠牲正極剤に由来するリチウムイオンは、負極の表面に析出する。また、そのようなリチウム2次電池100を初期充電完了後に放電する(すなわち、初期放電する)と、負極表面に析出したリチウム金属が電解溶出し、外部回路を通じて負極140から正極110に電子が移動する。それに伴い、正極活物質は、リチウムイオンを受け取ると共に還元反応を生じる一方で、犠牲正極剤は、正極活物質の放電電位の範囲内では還元反応を実質的に生じず、酸化反応を生じる前の状態に戻ることが実質的に不可能である。すなわち、正極110は、初期充電前に犠牲正極剤を有すると換言してもよい。なお、「初期充電」とは、電池を組み立てた後の第1回目の充電ステップを意味する。
したがって、リチウム2次電池100を初期充電の後に放電させると、正極活物質に由来するリチウム金属が負極上から電解溶出するのに対し、犠牲正極剤に由来するリチウム金属は、そのほとんどが負極上に残留することとなり、電池の放電完了後においても、負極上に一部のリチウム金属が残留することとなる。当該残留リチウム金属は、初期放電に続く充電ステップにおいて、更なるリチウム金属が負極上に析出する際の足場となるため、初期放電後の充電ステップにおいてリチウム金属が負極上に均一に析出しやすくなる。その結果、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制されるため、リチウム2次電池100はサイクル特性に優れたものとなる。
【0043】
正極110における犠牲正極剤は、正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物である。本明細書において、「正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じる」とは、正極活物質の充放電電位範囲において、酸化反応を生じてリチウムイオン及び電子を放出すること(酸化反応により分解され、リチウムイオンを放出することも含む。)が可能であることを意味する。また、「正極活物質の充放電電位範囲において還元反応を実質的に生じない」とは、正極活物質の充放電電位範囲において、当業者にとって通常の反応条件では、還元反応を生じてリチウムイオン及び電子を受け取ること、又は還元反応を介して生成することが不可能、又は実質的に不可能であることを意味する。「当業者にとって通常の反応条件」とは、例えば、リチウム2次電池を放電する際の条件を意味する。また、「犠牲正極剤が、還元反応を生じてリチウムイオン及び電子を受け取ること、又は還元反応を介して生成することが実質的に不可能である」とは、電池の充電により酸化された犠牲正極剤のうち、容量比で、80%以上(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上、又は100%)の犠牲正極剤が、還元反応を生じてリチウムイオン及び電子を受け取ること、又は還元反応を介して生成することができないことを意味する。したがって、犠牲正極剤における、初期充電の容量に対する初期放電の容量は、20%以下(例えば、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、1%以下、又は0%)である。
【0044】
本明細書において、「正極活物質の充放電電位範囲」とは、正極110に含まれる正極活物質の酸化反応及び還元反応が行われ得る電位範囲を意味する。具体的な値は、正極110に含まれる正極活物質の種類に依存するが、典型的には、Li/Li基準電極に対して、2.5V以上、2.7V以上、3.0V以上、3.2V以上、又は3.5V以上であり、かつ、4.5V以下、4.4V以下、4.3V以下、4.2V以下、4.1V以下、又は4.0V以下である。正極活物質の充放電電位範囲の代表的な範囲は、3.0V以上4.2V以下(vs.Li/Li基準電極)であり、その上限及び下限は、上述した任意の数値に、独立に置き換えることができる。なお、Li/Li基準電極に対する正極活物質の充放電電位範囲は、リチウム2次電池100の動作電圧範囲を参照してもよく、例えば、リチウム2次電池100の動作電圧が3.0V以上4.2V以下である場合、Li/Li基準電極に対する正極活物質の充放電電位範囲を3.0V以上4.2V以下と見積もることができる。すなわち、犠牲正極剤は、「リチウム2次電池の動作電圧範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物」と換言してもよい。
【0045】
犠牲正極剤の例としては、特に限定されず、例えば、Liのようなリチウム酸化物;LiNのようなリチウム窒化物;LiS-P、LiS-LiCl、LiS-LiBr、及びLiS-LiIのようなリチウム硫化物系固溶体;Li1+x(Ti1-yFe1-x(0<x≦0.25、0.4<y≦0.9)、Li2-xTi1-zFe3-y(0≦x<2、0≦y≦1、0.05≦z≦0.95)、LiFeOのような鉄系リチウム酸化物等が挙げられる。犠牲正極剤としての効果を一層有効かつ確実に奏する観点から、好ましくは、Feを含むリチウム含有化合物が用いられ、より好ましくは鉄系リチウム酸化物が用いられ、より更に好ましくはLiFeOが用いられる。上記のような犠牲正極剤は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。また、上記のような犠牲正極剤は、市販のものを用いてもよく、従来公知の方法により製造してもよい。
【0046】
本発明者らは、鋭意研究の結果、従来の負極活物質を有するリチウムイオン電池や負極にリチウム金属を用いるリチウム金属電池とは異なり、負極活物質を有しない負極を用いるリチウム2次電池の正極に、本明細書において開示されるような犠牲正極剤を添加したとしても、それによる十分な効果が得られない場合があることを見出した。更に、本発明者らは、正極110に含まれる犠牲正極剤が、レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布において、累積度50%に対応する粒子径D50(S)が1.0μm以上20μm以下であり、かつ、累積度95%に対応する粒子径D95(S)が1.0μm以上30μm以下である場合に、サイクル特性の向上という犠牲正極剤の効果が顕著に奏されることを見出した。その要因は、以下のように推察されるが、要因はこれに限られない。
【0047】
犠牲正極剤の粒子は、レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布において累積度50%に対応する粒子径D50(以下、「粒子径D50(S)」ともいう。)が1.0μm未満であると、犠牲正極剤とその他の正極を構成する成分との界面抵抗が上昇することで、電気抵抗が大きくなり、正極の導電性を低下させてしまう。したがって、犠牲正極剤としての機能を十分に発揮することができず、サイクル特性が改善されにくくなると考えられる。
また、犠牲正極剤の粒子径D50(S)が20μmを超えると、正極内に犠牲正極剤が局在化し、局在化した犠牲正極剤と対向する負極部分に集中して犠牲正極剤に由来するリチウム金属が析出することとなる。その結果、負極上のリチウム金属は不均一に析出し、すなわちリチウム金属がデンドライト状に成長し、リチウム2次電池のサイクル特性に悪影響を及ぼしてしまうと考えられる。
本実施形態では、正極110に含まれる犠牲正極剤において、粒子径D50(S)は1.0μm以上20μm以下であるため、上記のような問題が生じず、犠牲正極剤の効果が有効かつ確実に奏される。更に、正極110に含まれる犠牲正極剤は、レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布において、累積度95%に対応する粒子径D95(S)(以下、「粒子径D95(S)」ともいう。)が1.0μm以上30μm以下であるため、犠牲正極剤の粒子径の分布がより均一なものとなり、リチウム金属がデンドライト状に成長することが抑制される。その結果、上記の犠牲正極剤の効果が十分に発揮されると考えられる。
【0048】
正極110に含まれる犠牲正極剤は、粒子径D50(S)が1.0μm以上20μm以下である。正極110に含まれる犠牲正極剤の粒子径D50(S)は、好ましくは2.0μm以上であり、より好ましくは3.0μm以上であり、更に好ましくは5.0μm以上であり、更により好ましくは8.0μm以上である。また、正極110に含まれる犠牲正極剤の粒子径D50(S)は、好ましくは18μm以下であり、より好ましくは15μm以下であり、更に好ましくは14μm以下であり、更により好ましくは12μm以下である。
【0049】
更に、正極110に含まれる犠牲正極剤は、粒子径D95(S)が1.0μm以上30μm以下である。正極110に含まれる犠牲正極剤の粒子径D95(S)は、好ましくは3.0μm以上であり、より好ましくは5.0μm以上であり、更に好ましくは8.0μm以上であり、更により好ましくは10.0μm以上である。また、正極110に含まれる犠牲正極剤の粒子径D95(S)は、好ましくは29μm以下であり、より好ましくは28μm以下であり、更に好ましくは27μm以下であり、更により好ましくは26μm以下である。
【0050】
上記レーザ回折・散乱法による粒度分布は、公知の方法で測定することができる。例えば、マイクロトラック・ベル社製のMT3000EX等の粒度分布測定機器を用いて測定してもよい。なお、粒度分布において、累積度X%に対応する粒子径Dとは、測定された粒度分布において、粒径がD以下である粒子の割合が粒子全体のX%であることを意味する。
【0051】
正極110は、正極活物質及び犠牲正極剤以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、公知の導電助剤、バインダー、及び固体電解質(ポリマー電解質、ゲル電解質、及び無機固体電解質等が挙げられ、典型的にはポリマー電解質又はゲル電解質である。)が挙げられる。固体電解質としては、例えば後述するポリマー電解質又はゲル電解質を用いればよい。
【0052】
正極110における導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノファイバー(CF)、及びアセチレンブラック等が挙げられる。また、バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂、及びポリイミド樹脂等が挙げられる。上記のような導電助剤、及びバインダーは、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。ゲル電解質には、後述するものを用いることができる。
【0053】
正極110における、正極活物質及び犠牲正極剤の含有量の合計は、正極110の総質量に対して、例えば、50質量%以上100質量%以下であってもよい。正極活物質及び犠牲正極剤の含有量の合計は、正極110の総質量に対して、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上であり、更により好ましくは90質量%以上である。正極活物質及び犠牲正極剤の含有量の合計は、正極110の総質量に対して、好ましくは100質量%以下であり、より好ましくは99質量%以下であり、更に好ましくは98質量%以下である。
【0054】
犠牲正極剤の含有量は、正極110の総質量に対して、1.0質量%以上15質量%以下としてもよい。犠牲正極剤の含有量は、正極110の総質量に対して、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは2.0質量%以上であり、更に好ましくは3.0質量%以上である。また、犠牲正極剤の含有量は、正極110の総質量に対して、好ましくは12質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下であり、8.0質量%以下であってもよい。特に上記の含有量は、犠牲正極剤がFeを含む化合物の場合に有効であり、犠牲正極剤がLiFeOを含む化合物の場合に特に有効である。
【0055】
また、犠牲正極剤の含有量は、リチウム2次電池100のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合により規定されることが好ましい。ここで、「リチウム2次電池のセル容量」とは、正極110に含まれる正極活物質及び犠牲正極剤の充電容量の総量を算出することにより得られる値を意味する。具体的には、リチウム2次電池100のセル容量は、各正極活物質及び各犠牲正極剤のそれぞれについて、正極活物質又は犠牲正極剤を正極、リチウム金属箔を負極としたセルを、リチウム2次電池100の駆動電圧(例えば、3.0V以上4.2V以下)において充放電することにより求められる充電容量密度(mAh/g)と正極110に含まれる正極活物質又は犠牲正極剤の質量(g)との積を計算し、正極110に含まれる全ての正極活物質及び犠牲正極剤についての上記積の和を求めることで得られる。また、「犠牲正極剤の不可逆容量」とは、各犠牲正極剤のそれぞれについて、犠牲正極剤を正極、リチウム金属箔を負極としたセルを、リチウム2次電池100の駆動電圧(例えば、3.0V以上4.2V以下)において充放電することにより、充電容量密度A1と、放電容量密度A2との差(A1-A2)である不可逆容量密度A(mAh/g)を求め、不可逆容量密度と正極110に含まれる質量(g)との積を計算し、正極110に含まれる全ての犠牲正極剤についての上記積の和を求めることで得られる。
【0056】
リチウム2次電池100のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合Xは、各正極活物質及び各犠牲正極剤の充電容量密度A1(mAh/g)と正極110における含有量x(質量%)との積の和に対する、各犠牲正極剤の不可逆容量密度A(mAh/g)と正極110における含有量x(質量%)との積の和の比として、下記式(1)に従って求めてもよい。
【0057】
【数1】
【0058】
各正極活物質及び各犠牲正極剤の理論充電容量密度(mAh/g)、並びに各犠牲正極剤の理論不可逆容量密度(mAh/g)が公知である場合は、当該公知の値を用いてもよい。各正極活物質及び各犠牲正極剤についての、充電容量密度、放電容量密度、及び正極110における含有量は従来公知の方法により測定することができ、充電容量密度、及び放電容量密度は、実施例に記載の方法により測定すればよい。正極110における正極活物質及び犠牲正極剤の含有量は、例えばX線回折測定(XRD)により測定することができる。
【0059】
犠牲正極剤の含有量は、リチウム2次電池100のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合が1.0%以上40%以下になるように調整されることが好ましく、2.0%以上38%以下になるように調整されることがより好ましく、3.0%以上35%以下になるように調整されることが更に好ましい。リチウム2次電池100のセル容量の対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合は、4.0%以上33%以下であってもよく、8.0%以上20%以下であってもよい。リチウム2次電池100のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合を調整することにより、リチウム2次電池100において、初期充電により析出するリチウム金属の総量に対する、初期放電の後に残留するリチウム金属の割合を制御することができると推察されるため、上記不可逆容量の割合が上記の範囲内にあると、残留リチウム金属の量が適切なものとなり、リチウム2次電池100のサイクル特性及びエネルギー密度が一層優れたものとなると考えられる。
【0060】
導電助剤の含有量は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよく、1質量%20質量%以下あってもよく1.5質量%10質量%以下あってもよい。バインダーの含有量は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよく、1質量%20質量%以下あってもよく1.5質量%10質量%以下あってもよい。固体電解質の含有量の合計は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよく、1質量%20質量%以下あってもよく1.5質量%10質量%以下あってもよい。
【0061】
(正極集電体)
正極110の片側には、正極集電体150が形成されている。正極集電体150は、電池においてリチウムイオンと反応しない導電体であれば特に限定されない。そのような正極集電体としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0062】
正極集電体150の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における正極集電体150の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0063】
(緩衝機能層)
図1に示すように、緩衝機能層130は、セパレータ120の負極140に対向する表面に形成され、緩衝機能層は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性を有するものである。ここで、緩衝機能層130は、ファイバ状又は多孔質状であるため、イオン伝導性を有する固体部分と、該固体部分の隙間により構成される空孔部分(「間隙部分」と同意。以下、本明細書中において同じである。)を有する。なお、本明細書において、緩衝機能層における「固体部分」とは、ゲル状の部分を含むこととする。
【0064】
従来のリチウム2次電池では、リチウム金属が析出する場が負極表面に限られているため、リチウム金属の析出により、電池の膨れを生ずる傾向にある。本実施形態のリチウム2次電池100の緩衝機能層130は、イオン伝導性を有するものであり、緩衝層としてそのような体積膨張を防止する機能を果たしながら、リチウムイオンを伝導する電解質としての役割も果たす。すなわち、緩衝機能層130は、内部抵抗の上昇を抑制しつつ、上記の緩衝層としての機能を奏するものである。
【0065】
なお、第1の本実施形態において、「リチウム金属が負極上に析出する」とは、特に断りがない限りにおいて、負極の表面、緩衝機能層の空孔部分、及び負極表面に形成された後述する固体電解質界面層(SEI層)の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することを意味する。したがって、リチウム2次電池100において、リチウム金属は、例えば、負極140の表面(負極と緩衝機能層との界面)に析出してもよく、緩衝機能層130の内部(緩衝機能層の空孔部分)に析出してもよい。
【0066】
緩衝機能層130としては、ファイバ状又は多孔質状であり、イオン伝導性を有するものであれば特に限定されない。
【0067】
緩衝機能層を構成する部材としては、イオンを伝導することができるものである限り限定されないが、例えば、無機又は有機塩を含むポリマー電解質又はゲル電解質等が挙げられ、好ましくはゲル電解質である。緩衝機能層を構成する部材は、高分子及びリチウム塩を含むものであると好ましい。緩衝機能層を構成する部材の好ましい態様として、ポリマー電解質及びゲル電解質が挙げられる。ポリマー電解質及びゲル電解質は、いずれも高分子を含む電解質であり、電解液又は溶媒を含むことによりゲル状となったものを特にゲル電解質という。
【0068】
ポリマー電解質及びゲル電解質を構成する材料としては、一般的にリチウム2次電池に用いられるものであれば特に限定されず、公知の材料を適宜選択することができる。ポリマー電解質又はゲル電解質を構成する高分子(樹脂)としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)のような主鎖及び/又は側鎖にエチレンオキサイドユニットを有する樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリアセタール、ポリスルホン、及びポリテトラフロロエチレン等が挙げられる。上記のような樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0069】
ポリマー電解質又はゲル電解質に含まれる塩としては、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、例えば、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiB(O、LiB(C、LiB(O)F、LiB(OCOCF、LiNO、及びLiSO等が挙げられる。上記のような塩、又はリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0070】
ポリマー電解質又はゲル電解質における樹脂とリチウム塩との含有量比は、樹脂の有する酸素原子と、リチウム塩の有するリチウム原子の比([Li]/[O])によって定めてもよい。ポリマー電解質又はゲル電解質において、樹脂とリチウム塩との含有量比は、上記比([Li]/[O])が、例えば、0.02以上0.20以下、0.03以上0.15以下、又は0.04以上0.12以下になるように調整してもよい。
【0071】
ポリマー電解質又はゲル電解質は、樹脂及び塩以外に、リチウム2次電池100が含み得る溶媒を含んでいてもよい。具体的な溶媒については、後述する電解液中に含まれ得る溶媒を用いることができる。
【0072】
緩衝機能層130の一実施形態として、ファイバ状の緩衝機能層が挙げられる。図3(A)にファイバ状の緩衝機能層の概略断面図を示す。図3(A)に示す緩衝機能層130は、イオン伝導性を有するファイバである、イオン伝導ファイバ310からなる。すなわち、本実施形態において、「緩衝機能層がファイバ状である」とは、緩衝機能層がファイバを含むか、あるいは、ファイバにより構成されていることで、固体部分と、該固体部分の隙間により構成される空孔部分を有することを意味する。また、リチウム2次電池100が充電されることにより、図3(B)に示すように、緩衝機能層130の空孔部分にリチウム金属320が析出すると推測される。ただし、リチウム金属の析出態様はこれに限られない。
【0073】
イオン伝導ファイバ310の一実施形態を、図4(C)に概略断面図として示す。図4(C)に示すように、一実施形態において、イオン伝導ファイバ310は、ファイバ状のイオン伝導層400から構成される。イオン伝導層400は、例えば緩衝機能層を構成する部材として上述したような構成を備えるものである。
【0074】
ファイバ状のイオン伝導層400のファイバ平均直径は、好ましくは30nm以上5000nm以下であり、より好ましくは50nm以上2000nm以下であり、更に好ましくは70nm以上1000nm以下であり、更により好ましくは80nm以上500nm以下である。イオン伝導層のファイバ平均直径が上記の範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層適切な範囲となるため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0075】
別の実施形態において、図3に示すリチウム2次電池100の緩衝機能層130は、多孔質状であってもよい。多孔質状の緩衝機能層は、例えば、多孔質状、特に連通孔を有するイオン伝導層を備えるものであってもよい。
【0076】
緩衝機能層は、ファイバ状又は多孔質状であるため、空孔を有する。緩衝機能層の空孔率は、特に限定されないが、体積%で、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、あるいは80%以上である。緩衝機能層の空孔率が上記の範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層上昇するため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。また、そのような態様によれば、セル体積膨張を抑制する効果が一層有効かつ確実に奏される傾向にある。緩衝機能層の空孔率は、特に限定されないが、体積%で、99%以下であってもよく、95%以下であってもよい。
【0077】
緩衝機能層の平均厚さは、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、更に、好ましくは30μm以下である。緩衝機能層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池100における緩衝機能層130の占める体積が減少するため、電池のエネルギー密度が一層向上する。また、緩衝機能層の平均厚さは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは4μm以上であり、更に、好ましくは7μm以上である。緩衝機能層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層上昇するため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。また、そのような態様によれば、セル体積膨張を抑制する効果が一層有効かつ確実に奏される傾向にある。
【0078】
ファイバ状のイオン伝導層のファイバ直径、緩衝機能層の空孔率、及び緩衝機能層の厚さは、公知の測定方法により測定することができる。例えば、緩衝機能層の厚さは、緩衝機能層の表面を集束イオンビーム(FIB)でエッチングして、その断面を露出させ、露出した切断面における緩衝機能層の厚さをSEM又はTEMにより観察することにより測定することができる。
【0079】
ファイバ状のイオン伝導層のファイバ直径、及び緩衝機能層の空孔率は、透過型電子顕微鏡で緩衝機能層の表面を観察することにより測定することができる。なお、緩衝機能層の空孔率は、画像解析ソフトを用いて、緩衝機能層の表面の観察画像を2値解析し、画像の総面積に対して緩衝機能層が占める割合を求めることで算出すればよい。
【0080】
上記の各測定値は3回以上、好ましくは10回以上測定した測定値の平均を求めることにより算出される。
【0081】
なお、緩衝機能層がリチウムと反応し得る金属を含む場合、負極140及び緩衝機能層130の容量の合計は、正極110の容量に対して十分小さく、例えば、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下であってもよい。なお、正極110、負極140、及び緩衝機能層130の各容量は、従来公知の方法により測定することができる。
【0082】
(セパレータ)
セパレータ120は、正極110と負極140とを隔離することにより電池が短絡することを防ぎつつ、正極110と負極140との間の電荷キャリアとなるリチウムイオンのイオン伝導性を確保するための部材である。すなわち、セパレータ120は、正極110と負極140を隔離する機能、及びリチウムイオンのイオン伝導性を確保する機能を有する。このようなセパレータとして、上記の2つの機能を有する1種の部材を単独で用いてもよいし、上記の1つの機能を有する部材を2種以上組み合わせて用いてもよい。セパレータとしては、上述した機能を担うものであれば特に限定されないが、例えば、絶縁性を有する多孔質の部材、ポリマー電解質、及びゲル電解質が挙げられる。
【0083】
セパレータが絶縁性を有する多孔質の部材を含む場合、かかる部材の細孔にイオン伝導性を有する物質が充填されることにより、かかる部材はイオン伝導性を発揮する。充填される物質としては、後述する電解液、ポリマー電解質、及びゲル電解質が挙げられる。
セパレータ120は、絶縁性を有する多孔質の部材、ポリマー電解質、又はゲル電解質を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ただし、セパレータ120として絶縁性を有する多孔質の部材を単独で用いる場合、リチウム2次電池100は電解液を更に備える必要がある。
【0084】
上記の絶縁性を有する多孔質の部材を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば絶縁性高分子材料が挙げられ、具体的には、ポリエチレン(PE)、及びポリプロピレン(PP)が挙げられる。すなわち、セパレータ120は、多孔質のポリエチレン(PE)膜、多孔質のポリプロピレン(PP)膜、又はこれらの積層構造であってよい。
セパレータ120におけるポリマー電解質、又はゲル電解質としては、緩衝機能層のイオン伝導層の項において上述したものを用いることができ、ポリマー電解質、及びゲル電解質が含み得る高分子、塩、その他の成分についても同様である。
【0085】
セパレータ120は、セパレータ被覆層により被覆されていてもよい。セパレータ被覆層は、セパレータ120の両面を被覆していてもよく、片面のみを被覆していてもよい。セパレータ被覆層は、リチウムイオンと反応しない部材であれば特に限定されないが、セパレータ120と、セパレータ120に隣接する層とを強固に接着させることができるものであると好ましい。そのようなセパレータ被覆層としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びアラミドのようなバインダーを含むものが挙げられる。セパレータ被覆層は、上記バインダーにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸リチウム等の無機粒子を添加させてもよい。
【0086】
セパレータ120の平均厚さは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは18μm以下であり、更に好ましくは15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100におけるセパレータ120の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。また、セパレータ120の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極110と負極140とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0087】
(電解液)
リチウム2次電池100は、電解液を有していると好ましい。電解液は、セパレータ120に浸潤させてもよく、リチウム2次電池100と共に電解液を封入したものを完成品としてもよい。電解液は、電解質及び溶媒を含有し、イオン伝導性を有する溶液であり、リチウムイオンの導電経路として作用する。このため、電解液を有するリチウム2次電池100は、内部抵抗が一層低下し、エネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層向上する。
【0088】
電解質は、塩であれば特に限定されないが、例えば、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。電解質としては、好ましくはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiB(O、LiB(O)F、LiB(OCOCF、LiNO、及びLiSO等が挙げられる。リチウム2次電池100のエネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層優れる観点から、リチウム塩は、LiN(SOF)が好ましい。なお、上記のリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0089】
溶媒としては、例えばフッ素化溶媒及び非フッ素溶媒が挙げられる。フッ素化溶媒としては、特に限定されないが、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル等が挙げられる。
【0090】
上述の非フッ素溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジメトキシエタン、ジメトキシプロパン、ジメトキシブタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、及び12-クラウン-4等が挙げられる。
【0091】
上記フッ素化溶媒と非フッ素溶媒は1種を単独で、又は、2種以上を任意の割合で自由に組み合わせて用いることができる。フッ素化溶媒と非フッ素溶媒の含有量の割合としては、特に限定されないが、例えば、溶媒全体に対するフッ素化溶媒の割合は、0~100体積%であってもよく、溶媒全体に対する非フッ素溶媒の割合は、0~100体積%であってもよい。
【0092】
(リチウム2次電池の使用)
図2に本実施形態のリチウム2次電池の1つの使用態様を示す。リチウム2次電池200は、正極集電体150及び負極140に、リチウム2次電池200を外部回路に接続するための正極端子220及び負極端子210がそれぞれ接合されている。リチウム2次電池200は、負極端子210を外部回路の一端に、正極端子220を外部回路のもう一端に接続することにより充放電される。
【0093】
リチウム2次電池200は、初期充電により、緩衝機能層130とセパレータ120との界面に固体電解質界面層(SEI層)が形成されていてもよい。あるいは、SEI層は形成されていなくてもよく、負極140と緩衝機能層130との界面に形成されていてもよい。形成されるSEI層としては、特に限定されないが、例えば、リチウムを含む無機化合物、及びリチウムを含む有機化合物等を含んでいてもよい。SEI層の典型的な平均厚さとしては、1nm以上10μm以下である。
【0094】
正極端子220及び負極端子210の間に、負極端子210から外部回路を通り正極端子220へと電流が流れるような電圧を印加することでリチウム2次電池200が充電される。リチウム2次電池200を充電することにより、負極表面にリチウム金属の析出が生じる。なお、当該リチウム金属の析出は、負極140と緩衝機能層130との界面、緩衝機能層130の内部、及び緩衝機能層130とセパレータ120との界面の少なくとも1箇所に生じる。
【0095】
充電後のリチウム2次電池200について、正極端子220及び負極端子210を接続するとリチウム2次電池200が放電される。これにより、負極表面に生じたリチウム金属の析出が電解溶出する。
【0096】
(リチウム2次電池の製造方法)
図1に示すようなリチウム2次電池100の製造方法としては、上述の構成を備えるリチウム2次電池を製造することができる方法であれば特に限定されないが、例えば以下のような方法が挙げられる。
【0097】
正極110は例えば以下のようにして、正極集電体150上に形成する。上述した正極活物質、及び犠牲正極剤に加えて、任意選択的に、公知の導電助剤、固体電解質、及び公知のバインダーを混合し、正極混合物を得る。その配合比は、正極活物質、犠牲正極剤、導電助剤、固体電解質、及びバインダーの含有量が上述した範囲内となるように適宜調整すればよい。また、正極活物質の充電容量密度及び犠牲正極剤の不可逆容量密度をあらかじめ測定しておくことで、正極活物質、及び犠牲正極剤の質量混合比を調整することのみによって、リチウム2次電池100のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合を制御することができる。得られた正極混合物を、所定の厚さ(例えば、5μm以上1mm以下)を有する正極集電体としての金属箔(例えば、Al箔)の片面に塗布し、プレス成型する。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定のサイズに打ち抜き、正極110を得る。
【0098】
なお、犠牲正極剤の粒子径は、公知の方法で制御することができる。そのような方法としては、例えば、ブレードミル、ジェットミル又はボールミル等の粉砕機を用いた方法が挙げられる。粉砕機による粉砕時間を長時間とすることにより粒子径D50(S)及び粒子径D95(S)をより小さくすることができる。容易に粒子径の制御ができる観点から、粉砕機としてジェットミルを用いることが好ましい。
【0099】
次に、上述した構成を有するセパレータ120を準備する。セパレータ120は従来公知の方法で製造してもよく、市販のものを用いてもよい。
【0100】
次に、上述した負極材料、例えば1μm以上1mm以下の金属箔(例えば、電解Cu箔)を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさに打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させることにより負極140を得る。
【0101】
次に、上述した緩衝機能層130の製造方法は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性を有する層を得られる限り特に限定されないが、例えば以下のようにすればよい。
【0102】
図4(C)に示すような、ファイバ状のイオン伝導層400から構成されるイオン伝導ファイバ310を有するファイバ状の緩衝機能層は以下のように製造することができる。
まず、上述した樹脂(例えば、PVDF)を適当な有機溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)に溶解させた溶液を、事前に準備したセパレータ120の表面にバーコーター又はドクターブレードを用いて塗布する。次いで、樹脂溶液を塗付したセパレータ120を、水浴に浸漬した後、室温で十分乾燥させることで、セパレータ120上にファイバ状のイオン伝導層を形成し(なお、イオン伝導層は例えば電池の組立時に電解液が注液されることでイオン伝導機能を発揮するようにしてもよい。)、これによりファイバ状の緩衝機能層を得ることができる。
【0103】
また、多孔質状のイオン伝導層を備える多孔質状の緩衝機能層は以下のように製造することができる。
上述した樹脂(例えば、PVDF)を適当な溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)に溶解させた溶液を用いて、従来公知の方法により(例えば、溶媒との相分離を用いる方法、及び発泡剤を用いる方法等。)、連通孔を有する多孔質状のイオン伝導層をセパレータ120の表面に形成し(なお、イオン伝導層は例えば電池の組立時に電解液が注液されることでイオン伝導機能を発揮するようにしてもよい)、これにより多孔質状の緩衝機能層を得ることができる。
【0104】
以上のようにして得られる正極110、緩衝機能層130が形成されたセパレータ120、及び負極140を、この順に、緩衝機能層130が負極140と対向するように積層することで積層体を得る。得られた積層体を、電解液と共に密閉容器に封入することでリチウム2次電池100を得ることができる。密閉容器としては、特に限定されないが、例えば、ラミネートフィルムが挙げられる。
【0105】
[第2の本実施形態]
(リチウム2次電池)
第2の本実施形態のリチウム2次電池は、第1の本実施形態のリチウム2次電池100と同様、正極と、負極活物質を有しない負極と、正極と負極との間に配置されているセパレータと、負極のセパレータに対向する表面に形成されている緩衝機能層と、を備える。正極は、セパレータに対向する面とは反対側の面に正極集電体を有する。
【0106】
正極集電体、正極、セパレータ、及び負極の構成及びその好ましい態様は後述する点を除き、第1の本実施形態のリチウム2次電池100と同様であり、これらの構成について、第2の本実施形態のリチウム2次電池は、第1の本実施形態のリチウム2次電池と同様の効果を奏するか更なる性能を発揮するものである。また、第2の本実施形態のリチウム2次電池は、リチウム2次電池100と同様に、上述したような電解液を含んでいてもよい。
【0107】
(緩衝機能層)
第2の本実施形態のリチウム2次電池における緩衝機能層は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有するものである。すなわち、本実施形態において、緩衝機能層は、第1の本実施形態の緩衝機能層130が電気伝導性を更に有するものである。
第2の本実施形態のリチウム2次電池は、そのような緩衝機能層を備えるため、第1の本実施形態のリチウム2次電池に比べてサイクル特性に一層優れる。
【0108】
すなわち、本実施形態の緩衝機能層は、イオン伝導性及び電気伝導性の両方を有するため、リチウム2次電池を充電すると、緩衝機能層の表面、及び/又は内部において、負極からの電子と、セパレータ及び/又は電解液からのリチウムイオンとが供給される。また、本実施形態における緩衝機能層は、ファイバ状又は多孔質状であるため、イオン伝導性及び電気伝導性を有する固体部分と、該固体部分の隙間により構成される空孔部分を有する。よって、本実施形態における緩衝機能層では、緩衝機能層の内部である上記固体部分の表面において、上述のようにして供給される電子及びリチウムイオンが反応し、空孔部分(固体部分の表面)にリチウム金属が析出する。なお、上述と同様、緩衝機能層における「固体部分」とは、ゲル状の部分を含むこととする。
【0109】
従来のリチウム2次電池では、リチウム金属が析出する場が負極表面に限られているため、リチウム金属の成長方向が負極表面からセパレータ方向に限られ、リチウム金属がデンドライト状に成長する傾向にある。一方、第2の本実施形態の緩衝機能層を備えるリチウム2次電池では、上述のとおり、負極表面だけでなく、緩衝機能層の固体部分の表面においてもリチウム金属が析出することができ、リチウム金属析出反応の反応場の表面積が増加する。その結果、第2の本実施形態におけるリチウム2次電池では、リチウム金属析出反応の反応速度が緩やかに制御されるため、リチウム金属の異方的な成長、すなわち、デンドライト状に成長したリチウム金属の形成が一層確実に抑制されると推察される。本発明者らは、正極に犠牲正極剤を含むリチウム2次電池において、イオン伝導性及び電気伝導性の両方を有する緩衝機能層を導入すると、犠牲正極剤の効果が一層顕著に奏されることを見出した。これは、初期充電の際、固体部分の表面及び負極表面に面方向に均一なリチウム金属が析出するため、その後の充電においてリチウム金属析出の足場となり、リチウム金属がデンドライト状に成長することが抑制されるからであると推察される。ただし、要因は上記に限られない。
【0110】
なお、第2の本実施形態において、「リチウム金属が負極上に析出する」とは、特に断りがない限りにおいて、負極の表面、緩衝機能層の固体部分の表面、並びに、負極及び/又は緩衝機能層の固体部分の表面に形成されたSEI層の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することを意味する。したがって、第2の本実施形態のリチウム2次電池において、リチウム金属は、例えば、負極の表面(負極と緩衝機能層との界面)に析出してもよく、緩衝機能層の内部(緩衝機能層の固体部分の表面)に析出してもよい。
【0111】
このような緩衝機能層の非限定的な例示としては、例えば、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導層の表面の全部又は一部に、電気伝導層を被覆したもの;ファイバ状又は多孔質状の電気伝導層の表面の全部又は一部に、イオン伝導層を被覆したもの;並びに、ファイバ状のイオン伝導層と、ファイバ状の電気伝導層とを交絡させたもの等が挙げられる。イオン伝導層としては、第1の本実施形態の緩衝機能層130が有し得るイオン伝導層400と同様のものを用いることができる。
【0112】
電気伝導層としては、電子を伝導することができるものであればよく、例えば、金属膜が挙げられる。電気伝導層に含まれ得る金属の非限定的な例示としては、例えば、SUS、Si、Sn、Sb、Al、Ni、Cu、Sn、Bi、Ag、Au、Pt、Pb、Zn、In、Bi-Sn、及びIn-Sn等が挙げられる。電気伝導層に含まれる金属としては、リチウム金属との親和性を高める観点から、Si、Sn、Zn、Bi、Ag、In、Pb、Sb、及びAlが好ましい。上記のような金属は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。
【0113】
第2の本実施形態における緩衝機能層の一実施形態として、第1の本実施形態の緩衝機能層の一実施形態として図3を用いて記述した態様と同様のファイバ状の緩衝機能層が挙げられる。例えば、図3(B)と同様に、緩衝機能層の空孔部分にリチウム金属が析出していてもよい。また、かかるファイバ状の緩衝機能層は、例えばイオン伝導性及び電気伝導性を有するファイバである、イオン電気伝導ファイバ410から構成されていてもよい。
そのようなイオン電気伝導ファイバ410の一実施形態を、図4(D)に概略断面図として示す。図4(D)に示すように、一実施形態において、イオン電気伝導ファイバ410は、ファイバ状のイオン伝導層400と、イオン伝導層400の表面を被覆する電気伝導層420とを備える。イオン伝導層400は、例えばイオン伝導層として上述したような構成を備え、電気伝導層420は、例えば電気伝導層として上述したような構成を備えていてもよい。
【0114】
電気伝導層420の平均厚さは、好ましくは1nm以上300nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下であり、更に好ましくは10nm以上150nm以下である。電気伝導層420の平均厚さは、10nm以上100nm以下であってもよい。電気伝導層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、イオン電気伝導ファイバの電気伝導性を一層適切に保つことができるため、電池のサイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0115】
緩衝機能層の平均厚さ、及び空孔率は、第1の本実施形態の緩衝機能層130と同様であってよい。
【0116】
第2の本実施形態における電気伝導層の厚さは、公知の測定方法等により測定することができる。例えば、透過型電子顕微鏡で電気伝導層の表面を観察することにより測定することができ、また、電気伝導層の表面を集束イオンビーム(FIB)でエッチングして、その断面を露出させ、露出した切断面における緩衝機能層の厚さをSEM又はTEMにより観察することにより測定することができる。各測定値は3回以上、好ましくは10回以上測定した測定値の平均を求めることにより算出される。
【0117】
なお、緩衝機能層がリチウムと反応し得る金属を含む場合、負極及び緩衝機能層の容量の合計は、正極の容量に対して十分小さく、例えば、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下であってもよい。
【0118】
(リチウム2次電池の製造方法)
第2の本実施形態のリチウム2次電池の製造方法において、緩衝機能層以外の構成の製造及び各構成の組み立ては第1の本実施形態のリチウム2次電池の製造方法と同様に実施することができる。
上述した電気伝導層を備える緩衝機能層の製造方法は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する層を得られる限り特に限定されないが、例えば以下のようにすればよい。
【0119】
図4(D)に示すような、ファイバ状のイオン伝導層400と、イオン伝導層400の表面を被覆する電気伝導層420とを備えるイオン電気伝導ファイバ410を有するファイバ状の緩衝機能層は以下のように製造することができる。
まず、上述したとおり、樹脂溶液を塗付したセパレータを、水浴に浸漬した後、室温で十分乾燥させることで、セパレータ上にファイバ状のイオン伝導層を形成させることができる(なお、イオン伝導層は例えば電池の組立時に電解液が注液されることでイオン伝導機能を発揮するようにしてもよい。)。続いて、ファイバ状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下で適当な金属(例えば、Ni)を蒸着させることにより、ファイバ状の緩衝機能層を得ることができる。
【0120】
また、多孔質状のイオン伝導層と、イオン伝導層の表面を被覆する電気伝導層とを備える多孔質状の緩衝機能層は以下のように製造することができる。
まず、上述したように、従来公知の方法により、連通孔を有する多孔質状のイオン伝導層をセパレータの表面に形成する(なお、イオン伝導層は例えば電池の組立時に電解液が注液されることでイオン伝導機能を発揮するようにしてもよい)。続いて、多孔質状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下で適当な金属(例えば、Ni)を蒸着させることにより、多孔質状の緩衝機能層を得ることができる。
【0121】
[第3の本実施形態]
(リチウム2次電池)
第3の本実施形態のリチウム2次電池は、リチウム2次電池100と同様、正極と、負極活物質を有しない負極と、正極と負極との間に配置されているセパレータと、負極のセパレータに対向する表面に形成されている緩衝機能層と、を備える。正極は、セパレータに対向する面とは反対側の面に正極集電体を有する。
【0122】
正極集電体、正極、セパレータ、緩衝機能層、及び負極の構成及びその好ましい態様は後述する点を除き、第1の本実施形態のリチウム2次電池100と同様であり、これらの構成について、第3の本実施形態のリチウム2次電池は、リチウム2次電池100と同様の効果を奏するか更なる性能を発揮するものである。また、第3の本実施形態のリチウム2次電池は、リチウム2次電池100と同様に、上述したような電解液を含んでいてもよい。
【0123】
第3の本実施形態のリチウム2次電池における正極は、上述のリチウム2次電池100と同様、正極活物質に加えて、該正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物(犠牲正極剤)を含む。ここで、正極活物質、犠牲正極剤、及びその他正極が含み得る成分の定義、例示、及び好ましい態様は第1の本実施形態と同様である。
【0124】
本発明者らは、鋭意研究の結果、レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布において、累積度50%に対応する粒子径をD50とした場合、正極活物質のD50(A)が5.0μm以上20μm以下であり、かつ、リチウム含有化合物のD50(S)に対する正極活物質のD50(A)の粒径比であるD50(A)/D50(S)が、2.0以上10.0以下であるとき、レート特性が特に優れることを見出した。その要因は、以下のように推察されるが、要因はこれに限られない。
【0125】
第3の本実施形態のリチウム2次電池は、正極活物質のD50(A)が5.0μm以上20μm以下であり、かつ、粒径比D50(A)/D50(S)が2.0以上10.0以下の範囲内に入るように精密にコントロールされているため、正極活物質同士の接触面積が十分高く保たれると共に、正極の充填密度が高くなる。すなわち、第3の本実施形態のリチウム2次電池における正極は、正極内部の内部抵抗が十分小さくなる程度に互いに十分に接触した正極活物質と、その正極活物質の隙間を埋めるように存在する犠牲正極剤とを含むと考えられ、そのような正極は、エネルギー密度が高く、かつ、内部抵抗が小さくなるため、その結果、第3の本実施形態のリチウム2次電池は、エネルギー密度が高く、かつ、優れたレート特性を有すると考えられる。
なお、本明細書において、「レート特性」とは、大電流にて充放電ができる性能を意味し、レート性能は、電池の内部抵抗が低い場合に優れることが知られている。より具体的には、高速(例えば3C)で放電をしたときの放電容量が、低速(例えば0.1C)で放電をしたときの放電容量に比べて、十分高く維持されていることを意味する。本明細書において、「レート特性が優れている」とは、例えば、3Cで放電をしたときの放電容量が、0.1Cで放電をしたときの放電容量に比べて、60%以上、65%以上、又は70%以上であることを意味する。
【0126】
第3の本実施形態のリチウム2次電池において、正極に含まれる正極活物質は、粒子径D50(A)が5.0μm以上20μm以下である。本実施形態の正極に含まれる正極活物質の粒子径D50(A)は、好ましくは6.0μm以上であり、より好ましくは7.0μm以上であり、更に好ましくは8.0μm以上であり、更により好ましくは9.0μm以上である。また、本実施形態の正極に含まれる正極活物質の粒子径D50(A)は、好ましくは19μm以下であり、より好ましくは18μm以下であり、更に好ましくは17μm以下であり、更により好ましくは15μm以下である。
【0127】
更に、第3の本実施形態のリチウム2次電池において、犠牲正極剤のD50(S)に対する正極活物質のD50(A)の粒径比であるD50(A)/D50(S)は2.0以上10.0以下である。該粒径比D50(A)/D50(S)は、好ましくは2.5以上であり、より好ましくは3.0以上であり、更に好ましくは3.5以上であり、更により好ましくは4.0以上である。また、該粒径比D50(A)/D50(S)は、好ましくは9.5以下であり、より好ましくは9.0以下であり、更に好ましくは8.5以下であり、更により好ましくは8.0以下である。
【0128】
第3の本実施形態のリチウム2次電池において、正極に含まれる犠牲正極剤は、例えば粒子径D50(S)が0.5μm以上10μm以下である。本実施形態の正極に含まれる犠牲正極剤の粒子径D50(S)は、1.0μm以上、1.5μm以上、又は2.0μm以上であってもよい。また、本実施形態の正極に含まれる犠牲正極剤の粒子径D50(S)は、9.0μm以下、8.0μm以下、7.0μm以下、又は6.0μm以下であってもよい。本実施形態において、犠牲正極剤の粒子径D50(S)を上記範囲内とすることにより、電池のサイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0129】
第3の本実施形態のリチウム2次電池において、正極の電極密度は、例えば3.0g/cc以上である。本実施形態において、正極の電極密度は、3.2g/cc以上、3.3g/cc以上、3.4g/cc以上、又は3.5g/cc以上であってもよい。本実施形態において、正極の電極密度を上記範囲内とすることにより、正極の充填密度が高くなるため、電池のエネルギー密度が一層向上する傾向にある。
【0130】
本実施形態において、「電極密度」とは、電極の単位体積に含まれる質量を表す。よって、その単位としては、g/cc、g/cm、g/mL等が使用される。電極密度は、電極を構成する材料の密度、配置等に依存する。そのため、本実施形態の正極において、正極活物質と犠牲正極剤の粒径により変化し得る。本実施形態において、粒径比D50(A)/D50(S)が大きくなると、正極の電極密度が高くなる傾向にある。また、犠牲正極剤と正極活物質の含有量の体積比を調整することにより制御可能である。なお、電極密度が大きくなると、リチウム2次電池の体積当たりの容量が増加するため、リチウム2次電池のエネルギー密度が更に大きくなる傾向にある。
【0131】
本実施形態において、正極活物質、犠牲正極剤、及びその他正極が含み得る成分の正極における含有量は、第1の本実施形態と同様である。正極活物質のD50(A)が5.0μm以上20μm以下であり、かつ、リチウム含有化合物のD50(S)に対する正極活物質のD50(A)の粒径比であるD50(A)/D50(S)が、2.0以上10.0以下であるとき、犠牲正極剤及び正極活物質の含有量が上述の範囲内にあると、正極の充填密度が一層向上するため好ましい。
【0132】
(リチウム2次電池の製造方法)
第3の本実施形態のリチウム2次電池は、第1の本実施形態のリチウム2次電池の製造方法と同様に実施することができる。なお、正極活物質及び犠牲正極剤の粒子径の制御についても第1の本実施形態のリチウム2次電池の製造方法と同様であり、粉砕機を用いて実施することができる。
【0133】
[変形例]
上記本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその本実施形態のみに限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。
【0134】
例えば、第3の本実施形態のリチウム2次電池は、第1の本実施形態の緩衝機能層を備えているが、緩衝機能層として、第2の本実施形態の緩衝機能層を用いてもよい。そのような態様によれば、第3の本実施形態のリチウム2次電池における優れたレート特性と、第2の本実施形態のリチウム2次電池における一層優れたサイクル特性を有する電池を提供することができる。
【0135】
本実施形態のリチウム2次電池は、負極表面において、当該負極に接触するように配置される集電体を有していてもよく、有していなくてもよい。そのような集電体としては、特に限定されないが、例えば、負極材料に用いることのできるものが挙げられる。また、本実施形態のリチウム2次電池は、正極集電体を有していなくてもよい。なお、リチウム2次電池が正極集電体、及び負極集電体を有しない場合、それぞれ、正極、及び負極自身が集電体として働く。
【0136】
本実施形態のリチウム2次電池は、正極集電体及び/又は負極に、外部回路へと接続するための端子を取り付けてもよい。例えば10μm以上1mm以下の金属端子(例えば、Al、Ni等)を、正極集電体及び負極の片方又は両方にそれぞれ接合してもよい。接合方法としては、従来公知の方法を用いればよく、例えば超音波溶接を用いてもよい。
【0137】
なお、本明細書において、「エネルギー密度が高い」又は「高エネルギー密度である」とは、電池の総体積又は総質量当たりの容量が高いことを意味するが、好ましくは700Wh/L以上又は300Wh/kg以上であり、より好ましくは800Wh/L以上又は350Wh/kg以上であり、更に好ましくは900Wh/L以上又は400Wh/kg以上である。
【0138】
また、本明細書において、「サイクル特性に優れる」とは、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクルの前後において、電池の容量の減少率が低いことを意味する。すなわち、初期充放電の後の1回目の放電容量と、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクル後の容量とを比較した際に、充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していないことを意味する。ここで、「通常の使用において想定され得る回数」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、30回、50回、70回、100回、300回、又は500回である。また、「充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していない」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対して、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であることを意味する。
【0139】
本明細書において、好ましい範囲等として記載した数値範囲は、記載した上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる数値範囲に置き換えてもよい。例えば、あるパラメータが、好ましくは50以上、より好ましくは60以上であり、好ましくは100以下、より好ましくは90以下である場合、当該パラメータは、50以上100以下、50以上90以下、60以上100以下、又は60以上90以下のいずれであってもよい。
【0140】
なお、本明細書中、イオン伝導層及び電気伝導層は、層状のものに限られず、ファイバ状、塊状、又は多孔質状であってもよい。したがって、イオン伝導層、電気伝導層との語は、それぞれイオン伝導相、電気伝導相と換言してもよい。
【実施例
【0141】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0142】
[リチウム2次電池の作製]
リチウム2次電池の製造に関する各工程は以下のように実施した。
【0143】
(負極の準備)
10μmの電解Cu箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさに打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させて、負極を得た。
【0144】
(セパレータの準備)
セパレータとして、12μmのポリエチレン微多孔膜の両面に2μmのポリビニリデンフロライド(PVDF)がコーティングされた所定の大きさのセパレータを準備した。
【0145】
(正極の作製)
正極活物質及び犠牲正極剤の混合物を96質量部、導電助剤としてカーボンブラックを2質量部、及びバインダーとしてポリビニリデンフロライド(PVDF)を2質量部混合したものを、正極集電体としての12μmのAl箔の片面に塗布し、プレス成型した。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定の大きさに打ち抜き、正極を得た。
正極活物質としては、LiNi0.85Co0.12Al0.03を用いた。後述の試験例1については、犠牲正極剤として表1に記載のものを用いた。後述の試験例2においては、犠牲正極剤としてLiFeOを用いた。試験例1及び2で用いた各犠牲正極剤の不可逆容量、粒子径D50(S)、粒子径D95(S)、含有量、及び正極活物質の粒子径D50(A)とD50(S)との比を、表1及び表3に示す。なお、各例において、D50粒子径、及びD95粒子径は、マイクロトラック・ベル社製のMT3000EXにより測定した。
【0146】
なお、試験例1において、Li 2 2 、及びLi3Nは市販のものを用いた。また、試験例1及び2において、Li5FeO4は、Chem.Mater.2010,22,1263-1270に記載の方法により製造した。すなわち、LiOH・H2O、及びFe23を粉砕、混合したものを、窒素雰囲気下、800℃の条件にて、72時間の焼成することで、犠牲正極剤を得た。なお、準備した正極活物質及び犠牲正極剤の粒子径は、ジェットミルを用いて粉砕することで調整した。
【0147】
正極活物質及び犠牲正極剤の混合比は、以下のようにして測定した正極活物質及び犠牲正極剤の充電容量密度(mAh/g)、並びに犠牲正極剤の不可逆容量密度A(mAh/g)を用いて、電池のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合が所定の値となるように調整した。試験例1において、正極活物質及び犠牲正極剤の混合比は、電池のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合が表1に「添加率(セル容量比%)」として記載の各値になるように調整した。試験例1の正極全体に対する犠牲正極剤の含有量を「添加量(質量%)」として表1に記載する。また、試験例2において、正極活物質及び犠牲正極剤の混合比は、電池のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量が10%になるように調整した。試験例2の正極全体に対する犠牲正極剤の含有量は、3.3質量%であった。
なお、試験例1及び2において、正極活物質及び犠牲正極剤の総量は、リチウム2次電池のセル容量が60mAhになるように調整した。
【0148】
(正極材料の容量測定)
正極活物質又は犠牲正極剤と、PVDFと、導電助剤と、N-メチルピロリドン(NMP)とを混合し、スラリーを作製して、アルミ箔上に塗布、乾燥、プレスした。対極をリチウム金属とするテストセルを作製し、0.2mAh/cmの電流で電圧が4.2Vになるまで充電した後、電圧が3.0Vになるまで放電することで、充電容量密度(mAh/g)、及び/又は、不可逆容量密度A(mAh/g)を求めた。
【0149】
(緩衝機能層の形成)
PVDF樹脂をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させた樹脂溶液をセパレータ上にバーコーターを用いて塗布した。次いで、樹脂溶液を塗付したセパレータを、水浴に浸漬した後、室温で十分乾燥させることで、セパレータ上にファイバ状のイオン伝導層を形成した(なお、イオン伝導層は、電池の組立時に後述する電解液(4M LiN(SOF)(LFSI)のジメトキシエタン(DME)溶液)が注液されることでイオン伝導機能を発揮する。)。
セパレータ上に形成されたファイバ状のイオン伝導層のファイバ平均直径を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して測定したところ、100nmであった。
【0150】
続いて、ファイバ状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下でNiを蒸着させた。エネルギー分散型X線分析装置(EDX)付SEMを用いて、Ni蒸着後のイオン伝導層を観察したところ、Niはファイバ状のイオン伝導層を覆うように分布していることが確認され、ファイバ状のイオン伝導層の表面が電気伝導層に覆われているファイバ状の緩衝機能層が得られたことが確認された。
また、緩衝機能層の断面をFIBで作製してSEMで観察したところ、緩衝機能層の平均厚さは10μmであった。透過型電子顕微鏡で緩衝機能層を観察したところ、電気伝導層であるNi薄膜の平均厚さ、及び緩衝機能層の空孔率は、それぞれ、20nm、及び90%であった。
【0151】
(電池の組み立て)
電解液として、4M LiN(SOF)(LFSI)のジメトキシエタン(DME)溶液を準備した。
次いで、正極、緩衝機能層が形成されたセパレータ、及び負極を、この順に、積層することで積層体を得た。なお、緩衝機能層が負極と対向するようにして積層を実施した。更に、正極集電体及び負極に、それぞれ100μmのAl端子及び100μmのNi端子を超音波溶接で接合した後、ラミネートの外装体に挿入した。次いで、上記の電解液を上記の外装体に注入した。外装体を封止することにより、リチウム2次電池を得た。
【0152】
[試験例1]
(実施例1~9)
表1に記載の犠牲正極剤を用いて、上記の方法によりリチウム2次電池を作製した。なお、正極活物質及び犠牲正極剤の混合比は、電池のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合が表1に「添加率(セル容量比%)」として記載されている各値になるように調整し、具体的には、正極全体に対する犠牲正極剤の含有量が表1に「添加量(質量%)」として記載されている各値になるように調整した。
【0153】
(比較例1)
犠牲正極剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0154】
(比較例2)
50(S)が0.5μmである犠牲正極剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウム2次電池を得た。
【0155】
(比較例3~5)
50(S)及びD95(S)が表1に記載の値である犠牲正極剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウム2次電池を得た。
【0156】
(比較例6)
50(S)及びD95(S)が表1に記載の値であるLiの犠牲正極剤を用いたこと以外は実施例8と同様にして、リチウム2次電池を得た。
【0157】
[エネルギー密度及びサイクル特性の評価]
以下のようにして、各実施例及び比較例で作製したリチウム2次電池のエネルギー密度及びサイクル特性を評価した。
【0158】
作製したリチウム2次電池を、0.2mAh/cmで、電圧が4.2Vになるまで充電した(初期充電)後、0.2mAh/cmで、電圧が3.0Vになるまで放電した(初期放電)。次いで、1.0mAh/cmで、電圧が4.2Vになるまで充電した後、1.0mAh/cmで、電圧が3.0Vになるまで放電する充放電サイクルを、温度25℃の環境で更に99サイクル繰り返した。いずれの実施例及び比較例についても、初期充電から求められた容量(初期容量)は、60mAhであった。初期充放電サイクルを1サイクル目と数えたときの、充放電サイクルの2サイクル目における放電から求められる放電容量に対する、充放電サイクルの100サイクル目における放電から求められる放電容量の比を、容量維持率(%)として計算し、サイクル特性の指標として用いた。容量維持率が高いほど、サイクル特性に優れることを意味する。各例における容量維持率を表1に示す。
【0159】
【表1】
【0160】
表1中、容量維持率において、「不安定」とは、充放電容量の測定中にその値が乱高下し安定して充放電容量を測定することが不可能であった状態を表す。
【0161】
表1から、粒子径D50(S)が1.0μm以上20μm以下であり、かつ、粒子径D95(S)が1.0μm以上30μm以下である犠牲正極剤を添加した実施例1~9は、そうでない比較例1~6と比較して、安定に動作し、容量維持率が高く、サイクル特性に優れることが分かる。
【0162】
[参考試験例1]
参考例として、10μmの電解Cu箔に負極活物質として10質量%のSiを含むグラファイトを担持したものを負極として用いてリチウムイオン電池を作製した。セパレータ、正極、緩衝機能層、及び電解液は試験例1と同様にした。なお、犠牲正極剤の添加量及び粒径は、表2に示す各値になるように調整した。
参考例1として作製したリチウムイオン電池について、試験例1と同様にサイクル特性を測定した。結果を表2に示す。
【0163】
【表2】
【0164】
表2の参考例1と表1の比較例4とを対比すると、同様の正極を用いたとしても、負極活物質を有する負極を備えるリチウムイオン電池では安定して充放電サイクルを行えているのに対し、負極活物質を有しない負極を備える本実施形態のリチウム2次電池では安定して充放電サイクルを行えていないことがわかる。すなわち、本実施形態のリチウム2次電池では、従来の負極活物質を有する負極を備えるリチウムイオン電池とは異なる正極設計が必要であることが示唆された。
【0165】
[試験例2]
(実施例10~16)
表3に記載の特徴を有する正極活物質及び犠牲正極剤を含む正極を用いたこと以外は試験例1の実施例と同様にして、リチウム2次電池を作製した。また、試験例2において、正極活物質及び犠牲正極剤の混合比は、電池のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合が10%になるように調整した。試験例2の正極全体に対する犠牲正極剤の含有量は、3.3質量%であった。
【0166】
(比較例7)
犠牲正極剤を用いなかった以外は、実施例10と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0167】
(比較例8~9)
粒子径D50(S)が表3に記載の各値である犠牲正極剤を用いたこと以外は実施例10と同様にして、リチウム2次電池を得た。
【0168】
(比較例10~11)
粒子径D50(A)及び粒子径D50(S)が表3に記載の各値である正極活物質及び犠牲正極剤を用いたこと以外は実施例12と同様にして、リチウム2次電池を得た。
【0169】
[レート特性の評価]
以下のようにして、各実施例及び比較例で作製したリチウム2次電池のレート特性を評価した。
作製したリチウム2次電池を、3.0mAで4.2VまでCC充電した後、各々の過程で、順に、0.05C、0.1C、0.5C、1.0C、2.0C、又は3.0Cの放電レートでCC放電を行った。なお、この時、下限電圧は3.0Vに設定した。また、各放電と放電の間は、3.0mAで再度4.2VまでCC充電し、充電完了後に次の放電レートでCC放電を実施した。以上のようにして得られた、放電レート0.1Cにおける放電容量の値に対する、放電レート3.0Cにおける放電容量の比を、レート特性(%)として計算し、レート特性の指標として用いた。放電電流を大きくすると、内部抵抗による電圧降下が大きくなり、放電容量が低下する傾向にあるため、レート特性の値が高いほど、レート特性に優れるリチウム2次電池となる。
【0170】
【表3】
【0171】
表3から、正極活物質の粒子径D50(A)が5.0μm以上20μm以下であり、かつ、粒径比D50(A)/D50(S)が2.0以上10.0以下である実施例10~16は、そうでない比較例7~11と比較して、レート特性(%)が高く、レート特性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明のリチウム2次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性又はレート特性に優れるため、様々な用途に用いられる蓄電デバイスとして、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0173】
100、200…リチウム2次電池、110…正極、120…セパレータ、130…緩衝機能層、140…負極、150…正極集電体、210…負極端子、220…正極端子、310…イオン伝導ファイバ、320…リチウム金属、400…イオン伝導層、410…イオン電気伝導ファイバ、420…電気伝導層。
図1
図2
図3
図4