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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】転倒ます形雨量計
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/14 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
G01W1/14 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022543821
(86)(22)【出願日】2020-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2020030970
(87)【国際公開番号】W WO2022038654
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000110206
【氏名又は名称】株式会社TOK
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 敦
(72)【発明者】
【氏名】宇塚 和夫
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-025557(JP,A)
【文献】特開2004-264110(JP,A)
【文献】国際公開第2019/216184(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項6】
前記ろ水器は、前記受水器から受ける雨水の落下方向に対して傾斜して設けられ、前記受水器から受ける雨水の流下方向を変えて雨水を受け流す樋状をした第1のろ水器と、前記第1のろ水器から受ける雨水の落下方向に対して傾斜して設けられ、前記第1のろ水器から流れ出る雨水の流下方向を前記転倒ますの方向へ変えて前記第1のろ水器から流れ出る雨水を前記転倒ますに滴下させる、前記第1のろ水器の流出端周囲を受水端が覆い流出端に開口が形成された底の抜けた容器状部を有する第2のろ水器とから構成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の転倒ます形雨量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転倒ますから放水された雨水を受けて雨量計外部へ排水する一対の排水器を備える転倒ます形雨量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の転倒ます形雨量計としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
この転倒ます形雨量計の受水器で受水された雨水は、雨量計ろ水器に採集されることで、その運動エネルギーが弱まって転倒ますに安定して流される。また、これと共に、採集された雨水に含まれる砂等の塵が漏斗に沈殿されて、上澄みがパイプの吸水口からパイプ内を通って転倒ますへ導かれる。転倒ますは左右に2個のますを有し、導かれた雨水をいずれか一方のますで受水する。そして、受水した雨水が一定量に達する毎に、支持体に支持される支点軸を中心に転倒して、他方のますで受水する。転倒ますの両側下側の基台には、一対の排水器が設けられている。各ますに受水された雨水は、漏斗に沈殿されなかった砂等の塵と共に各排水器を通過して、雨量計の外部へ排水される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-249774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の転倒ます形雨量計では、一対の排水器の底部が基台にネジ等の締結具で固定されている。したがって、排水器に滞留してしまう砂等の滞留物を排水器から取り除く際に、排水器を基台から取り外すのに当たり、排水器の上方に転倒ますが位置しているため、雨量計の周囲を覆う胴体を基台から取り外した後、先に転倒ますを分解して支持体から取り外す必要がある。その後、排水器を基台に固定する締結具をドライバ等の工具を使って緩め、排水器を基台から分離させてから、排水器内に滞留した砂等の滞留物を排水器から取り除くことになる。このため、上記従来の転倒ます形雨量計は、その保守点検に工数を要し、簡易に保守点検を行えないため、運用に手間がかかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
落下する雨水を受水する受水器と、受水器で受水された雨水の流勢を抑えて滴下するろ水器と、ろ水器から滴下する雨水を一対のますに交互に溜めて一定量溜まる毎に転倒して両側の放水端から交互に放水する転倒ますと、各放水端の下方に位置する基台に設けられ、転倒ますから放水された雨水を受けて雨量計外部へ排水する一対の排水器と、基台の外周を囲んで基台に取り付けられて雨量計の周囲を覆う胴体とを備える転倒ます形雨量計において、
各排水器が、互いに離反して基台から離れる向きにスライド自在にかつ着脱自在に基台に設けられ、基台への取り付け時に基台の中心側と反対側の側部が基台の外周に並び、
胴体が、基台への取り付け時に各排水器の前記側部を基台の外周と共に囲むことを特徴とする。
【0007】
本構成によれば、一対の排水器は、基台の中心側と反対側の側部が基台の外周と共に胴体に囲まれることで、互いに離反して基台から離れる向きへのスライドが阻止され、基台に固定される。また、一対の排水器は、基台の外周を囲む胴体が基台から取り外されると、互いに離反して基台から離れる向きにスライド自在になり、基台から容易に分離する状態になる。したがって、排水器に滞留した砂等の滞留物を排水器から取り除く際には、基台の外周を囲む胴体を基台から取り外すことで、一対の排水器が、互いに離反して基台から離れる向きにスライド自在になって、一対の排水器を基台から容易に取り外すことができる。このため、従来の転倒ます形雨量計のように、胴体を基台から取り外した後、先に転倒ますを分解して支持体から取り外し、その後、排水器を基台に固定する締結具を工具を使って緩める作業をすることなく、単に、互いに離反して基台から離れる向きに一対の排水器をスライドさせるだけで、一対の排水器を基台から容易に取り外して、排水器に滞留した砂等の滞留物を排水器から取り除くことができるようになる。この結果、転倒ます形雨量計の保守点検にかかる工数が低減されて、簡易に保守点検を行えるようになり、転倒ます形雨量計の運用に従来のような手間がかからなくなる。
【0008】
また、本発明は、各排水器の周囲の基台の表面に基台の外周に向かって低くなる傾斜面が設けられていることを特徴とする。
【0009】
転倒ますから放水されて排水器に受水される雨水は、排水器から跳ねて基台の表面に飛び散ることがある。本構成によれば、跳ねた雨水は、基台の表面に溜まることなく、基台の傾斜面に沿って基台の外周に導かれる。基台の外周に導かれる雨水は、基台の外周とそれを覆う胴体の内周面との間の隙間を通って、雨量計の外部へ排出される。また、基台の傾斜面下方に排水口が形成されている場合には、その排水口を通ることによっても、基台の外周に導かれる雨水は雨量計の外部へ排出される。このため、基台の表面に跳ねた雨水が基台の表面に溜り、粉塵などを吸着して基台の表面に粉塵などが固着・堆積する不具合が防止される。
【0010】
また、本発明は、各排水器が、基台の傾斜面に連続する傾斜面を底板の表面に有することを特徴とする。
【0011】
本構成によれば、排水器から基台の表面に跳ねた雨水は、基台の傾斜面に連続する各排水器の底板の傾斜面によって排水器の排水口へも導かれ、排水器からも雨量計の外部へ排出される。このため、排水器から基台の表面に跳ねた雨水の雨量計外部への排出効率が向上する。
【0012】
また、本発明は、各排水器が、転倒ますから放水された雨水を雨量計外部へ排水すると共に雨量計内部への虫の侵入を阻止する孔または濾紙が底板に形成されていることを特徴とする。
【0013】
本構成によれば、各排水器の底板に形成された孔または濾紙により、蜘蛛などの虫が雨量計内部に侵入することが防止される。各排水器の底板が各排水器の本体と一体に成型される場合には、金網などの別部品を用いることなく、安価に、蜘蛛などの虫が雨量計内部に侵入することが防止される。
【0014】
また、本発明は、底板が各排水器に交換自在に設けられていることを特徴とする。
【0015】
本構成によれば、雨量計を設置する場所の環境に応じて、適切な形状の孔または濾紙を備えた底板に交換することで、雨量計を設置する場所の環境に応じて効果的に雨量計内部へ虫等が侵入するのを防止することができる。
【0016】
また、本発明は、ろ水器が、受水器から受ける雨水の落下方向に対して傾斜して設けられ、受水器から受ける雨水の流下方向を変えて雨水を受け流す樋状をした第1のろ水器と、第1のろ水器から受ける雨水の落下方向に対して傾斜して設けられ、第1のろ水器から流れ出る雨水の流下方向を転倒ますの方向へ変えて第1のろ水器から流れ出る雨水を転倒ますに滴下させる、第1のろ水器の流出端周囲を受水端が覆い流出端に開口が形成された底の抜けた容器状部を有する第2のろ水器とから構成されることを特徴とする。
【0017】
本構成によれば、受水器からろ水器に受水される雨水は、最初に、樋状の形状をした第1のろ水器に受けられて、その流下方向が第1のろ水器の傾斜によって変えられることで、流勢が抑えられて第2のろ水器へ注がれる。第1のろ水器の流出端周囲は、第2のろ水器の底の抜けた容器状部の受水端に覆われているため、第1のろ水器の流出端から第2のろ水器に注がれる雨水は、ろ水器の外に飛び出すことなく、第2のろ水器内に取り込まれる。第2のろ水器内に取り込まれた雨水は、第2のろ水器につけられた傾斜により、流勢がさらに抑えられて、第2のろ水器の容器状部の底部に形成された開口から転倒ますへ導かれる。
【0018】
したがって、局地的大雨や集中豪雨等で雨量の値が大きくなり、受水器からろ水器に受水される雨水が大量になっても、受水器からろ水器に受水される雨水は、第1のろ水器および第2のろ水器を通る間にその流勢が抑えられ、第2のろ水器の容器状部に囲まれて周りに飛び散ることなく、第2のろ水器の流出端に導かれる。このため、局地的大雨や集中豪雨等で雨量の値が大きくなっても、受水器からろ水器に受水される雨水は、確実に転倒ますに注がれ、転倒ますによって持続して正確に雨量が計量されるようになる。
【0019】
また、受水器からろ水器に受水される雨水に砂等の塵が含まれていても、その塵は、従来のようにろ水器に沈殿されず、第1のろ水器および第2のろ水器を雨水と共に流れる。このため、従来のろ水器のように、漏斗に沈殿する塵を定期的に除去する保守作業は不要となる。しかも、互いに離反して基台から離れる向きに一対の排水器を単にスライドさせるだけで、一対の排水器を基台から容易に取り外して、排水器に滞留した砂等の滞留物を排水器から取り除くことができる。この結果、転倒ます形雨量計の運用をさらに容易に行えるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、保守点検にかかる工数が低減されて簡易に保守点検を行え、運用に従来のような手間がかからない転倒ます形雨量計を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態による転倒ます形雨量計の縦断面図である。
図2図1に示す転倒ます形雨量計の縦断面の斜視図である。
図3図1に示す転倒ます形雨量計の計量部の斜視図である。
図4】(a)は、図1に示す転倒ます形雨量計を構成するろ水器の斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
図5】(a)は、図4に示すろ水器を構成する第1のろ水器の斜視図、(b)は平面図である。
図6】(a)は、図4に示すろ水器を構成する補助導水路の上方からの斜視図、(b)は正面図、(c)は下方からの斜視図である。
図7】(a)は、図4に示すろ水器から補助導水路を取り外した際のろ水器の正面図、(b)は側面図、(c)は第2のろ水器のA-A線破断矢視断面図である。
図8図3に示す計量部下方の基台から排水器を引き出した状態の斜視図である。
図9】(a)は、図1に示す転倒ます形雨量計を構成する排水器の第1の変形例の平面図、(b)は第2の変形例の平面図である。
図10】(a)は、図1に示す転倒ます形雨量計を構成する排水器の第3の変形例の平面図、(b)は第4の変形例の平面図である。
図11図1に示す転倒ます形雨量計を構成する排水器の第5の変形例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明による転倒ます形雨量計を実施するための形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態による転倒ます形雨量計1を、その中心線Cを通る平面で破断した縦断面図、図2は、その縦断面を斜め上方から見下ろした斜視図である。
【0024】
転倒ます形雨量計1は、胴体2に覆われて構成され、落下する雨水を受水する受水器3と、受水器で受水された雨水を計量する計量部5とを備える。受水器3は円錐形状をした漏斗4から構成される。図3は、転倒ます形雨量計1から胴体2および受水器3を取り外して計量部5を見たときの斜視図である。
【0025】
計量部5は、ろ水器6、転倒ます7、基板8、軸9、おもり10、一対のストッパ11および一対の排水器12等が、樹脂等から形成される円盤状をした基台13上に配置されて、構成される。胴体2は、その下端部の内周面が基台13の外周を囲んで、基台13にボルト14によって取り付けられ、雨量計1の周囲を覆う。ろ水器6は基板8に取り付けられ、基板8は基台13に立設されている。ろ水器6は、漏斗4で受水した雨水を受け、受けた雨水を転倒ます7へ滴下する。転倒ます7は、一対のます7a,7bが軸9を中心に対称に設けられて構成されている。一対のます7a,7bには、ろ水器6から滴下する雨水が所定量交互に溜められる。いずれか一方のます7a,7bに一定量の雨水が溜まる毎に、転倒ます7は軸9を中心に転倒して揺動する。
【0026】
軸9は転倒ます7の側面を貫通して設けられている。転倒ます7の軸9にある揺動中心は、転倒ます7の底面より上方に設けられており、転倒ます7の揺動はおもり10によって付勢される。おもり10は、略コの字形状をしており、転倒ます7の揺動中心よりも上方の転倒ます7の側方にピン15によって固定されている。また、各ます7a,7bの下方には一対のストッパ11,11が設けられている。転倒ます7の揺動は、この一対のストッパ11,11で各ます7a,7bの下面が受けられて、停止する。なお、おもり10の形状は、略コの字形状に限らず、T字形状や四角形状等にしても構わない。
【0027】
転倒ます7が揺動すると、各ます7a,7bに溜まった雨水は、転倒ます7の両側の放水端から一対の排水器12,12へ放水される。一対の排水器12,12は樹脂等から形成され、各放水端の下方に位置する基台13に設けられて、転倒ます7から放水された雨水を受けて雨量計1の外部へ排水する。転倒ます7の揺動する回数は、リードスイッチ16の発するパルス数によってカウントされ、雨量が計測される。本実施形態では、受水器3の口径が200mmであり、転倒ます形雨量計1は0.5mmの雨量を計量する毎に1つのパルス信号を発する。
【0028】
上記のように構成される計量部5におけるろ水器6は、図4(a)に斜視図、図4(b)に正面図、図4(c)に側面図が示される。ろ水器6は、第1のろ水器6a、第2のろ水器6b、第1導水線6c、第2導水線6dおよび補助導水路6eから構成され、受水器3で受水された雨水の流勢を抑えて転倒ます7へ滴下する。
【0029】
第1のろ水器6aは、図5(a)に斜視図、図5(b)に平面図が示され、円筒管を中心軸方向に半分にカットした樋状をしており、樹脂等から形成される。本実施形態では、第1のろ水器6aは、樋状部の幅Wが流出端6a1の側において幅w(W>w)に狭められて樋状部の幅が絞られている。樋状部先端部の断面形状は、幅Wを有する樋状部基部の断面形状に比べて、断面積が小さくなっている。第1のろ水器6aは、雨水の流下する樋状部の谷筋に沿い、流出端6a1から先端が突出する第1導水線6cを第1導水路として、樋状部内に有する。第1導水線6cは、直径φが2mm程度のステンレス鋼等の線材によってピン状に構成され、樋状部の谷底に雨水の流下する筋に沿って線状に形成された溝6a2に嵌められる。第1導水線6cは、この溝6a2に沿ってスライドすることで、雨水の流下する筋に沿う方向における位置調節が自在になっており、第1のろ水器6aに接着等によって取り付けられる。
【0030】
第1のろ水器6aは、図4(c)に示すように、第1導水線6cが、受水器3から受ける雨水の落下方向に対して略70°、言い換えれば転倒ます形雨量計1の設置面に対して略20°傾斜して設けられ、受水器3から受ける雨水の流下方向を第1導水線6cに沿って変えて、雨水を受け流す。
【0031】
第2のろ水器6bは、図4に示すように、基板8から延出する樋状をしたホルダー部6b2と、ホルダー部6b2の先端に設けられた容器状部6b3と、容器状部6b3の外壁に形成されたアダプタ部6b4とから構成され、樹脂等から形成される。ホルダー部6b2はその樋状部に第1のろ水器6aを収納し、第1のろ水器6aの先端部の流出端6a1をホルダー部6b2から容器状部6b3へ突出させる。容器状部6b3は、底の抜けた容器状をしており、上方に楕円状に開口した受水端6b31が第1のろ水器6aの流出端6a1の周囲を覆う。また、
容器状部6b3は、その底部の流出端6b32に開口が形成されている。この開口は、受水端
6b31の開口よりも小さな楕円状に形成されている。また、この開口の面積は、第1のろ
水器6aにおける幅Wの樋状部基部の断面積の2倍程度に設定されている。
【0032】
容器状部6b3は、転倒ます7へ向かって傾斜する外壁にアダプタ部6b4が突出して一体に形成されている。このアダプタ部6b4には、図6に示される樹脂等で形成された補助導水路6eが図4に示すように嵌められる。ろ水器6は、補助導水路6eが取り外された状態の正面図が図7(a)、側面図が図7(b)に示される。また、図7(a)に示す状態のろ水器6から第1のろ水器6aを取り外した第2のろ水器6bのA-A線破断矢視断面図が図7(c)に示される。アダプタ部6b4は断面が略三日月状に容器状部6b3の外壁に突出しており、容器状部6b3の流出端6b32側に近づくに連れ、容器状部6b3の底部に向
かって細まるすぼみを覆うように両側部が突出して湾曲している。アダプタ部6b4の背側には、アダプタ部6b4の長手方向に沿って溝6b41が形成されている。なお、アダプタ部
6b4は第2のろ水器6bと別体に設け、別部品として構成してもよい。
【0033】
図6(a)は補助導水路6eを斜め上方から見下ろした斜視図、図6(b)は補助導水路6eの正面図、図6(c)は補助導水路6eを斜め下方から見上げた斜視図である。補助導水路6eも、アダプタ部6b4と同様に断面が略三日月状をしており、容器状部6b3の受水端6b31側に取り付けられる基部6e1の厚みが厚く、流出端6b32側に取り付けられる先端部6e2の厚みが薄くなっている。また、基部6e1の湾曲内側中央には、凸条部6e3が補助導水路6eの長手方向に沿って延在している。補助導水路6eは、凸条部6e3がアダプタ部6b4の溝6b41に嵌められて圧入されることで、または接着されることで、アダプ
タ部6b4の背側に図4に示すように固定される。
【0034】
容器状部6b3の転倒ます7へ向かって傾斜する内壁には、図7(c)に示すように、第1導水線6cの先端から垂れる雨水の流下する筋に沿って溝6b33が形成されている。こ
の溝6b33には、第2導水線6dの一方の端部が接着剤によって接着されて取り付けられ
る。第2導水線6dの他方の端部は、先端が容器状部6b3の流出端6b32から突出し、補
助導水路6eがアダプタ部6b4に取り付けられたとき、図4(c)に示すように、補助導水路6eの先端部6e2から浮く。つまり、補助導水路6eと第2導水線6dの先端側との間に距離が設けられ、空間が形成される。第2導水線6dの先端は、転倒ます7の上方まで突出する。すなわち、第2のろ水器6bは、第1導水線6cの先端から垂れる雨水の流下する筋に沿い、転倒ます7へ向かって傾斜する容器状部6b3の内壁に第2導水線6dを第2導水路として有する。第2導水線6dも、直径φが2mm程度のステンレス鋼等の線材によってピン状に構成される。第2導水線6dは、容器状部6b3の内壁に形成された溝6b33に沿ってスライドすることで、雨水の流下する筋に沿う方向における位置調節が自
在になっている。
【0035】
第2のろ水器6bは、第1のろ水器6aから受ける雨水の落下方向、つまり、受水器3から受ける雨水の落下方向に対して、図4(c)に示すように第2導水線6dが略35°傾斜して設けられる。そして、第1のろ水器6aから流れ出る雨水の流下方向を第2導水線6dに沿わせて転倒ます7の方向へ変えて、第1のろ水器6aから流れ出る雨水を転倒ます7に滴下させる。また、第2のろ水器6bは、容器状部6b3の流出端6b32から突出
する第2導水線6dの下方に第2導水線6dに並んで補助導水路6eが設けられ、補助導水路6eにより第2導水線6dから零れ落ちる雨水を転倒ます7に導く。
【0036】
本実施形態では、第1導水線6cおよび第2導水線6dの表面には、親水性処理が施される。この親水性処理は、ポーラスCrメッキや、超親水性塗料の焼付け塗装が第1導水線6cおよび第2導水線6dの各表面に対して行われて、各表面に被膜が形成されることなどで、行われる。また、第1導水線6cおよび第2導水線6dの先端は、本実施形態では半球状をしている。しかし、各先端を斜めにカットするなどして尖らせるようにしてもよい。
【0037】
また、本実施形態では、各排水器12,12は、図8に示すように、互いに離反して基台13から離れる水平な向きDにスライド自在に、かつ、着脱自在に、基台13に設けられる。すなわち、各排水器12,12の両側面には、それぞれスライド溝12a,12aが向きDに延びる直線状に形成されている。また、基台13における各排水器12,12が収納される各箇所には、切欠き13a,13aが形成されている。各切欠き13a,13aの対向する両内側面には、スライド溝12a,12aに嵌まる凸条部13b,13bが向きDに延びる直線状に形成されている。したがって、各排水器12,12は、そのスライド溝12a,12aが基台13の凸条部13b,13bに案内されて向きDにスライドすると共に、基台13に自在に着脱される。各排水器12,12が基台13に装着されたときには、スライド溝12a,12aと凸条部13b,13bとの嵌合により、中心線Cに沿った方向つまり垂直方向における各排水器12,12の動きが固定される。また、各排水器12,12の周囲の基台13の表面には、基台13の中心点を頂点とし、基台13の外周13cに向かって低くなる傾斜面13dが設けられている。
【0038】
各排水器12,12は、基台13の中心側を除く三方が側壁12b,12c,12dに囲まれた、底板12eを有する角筒状に樹脂等によって形成されている。基台13の中心側と反対側の側部に形成される側壁12cは、各排水器12,12の基台13への取り付け時に、図3に示すように、基台13の円筒状をした外周13cに並ぶ。胴体2は、基台13への取り付け時に、その下端部の内周が各排水器12,12の側壁12cを基台13の外周13cと共に囲み、その下端部の外周からボルト14によって基台13に固定される。なお、胴体2が板厚の薄い金属板等から形成される場合、胴体2の下端部の内周にバンドが溶接されて、胴体2の機械的強度が補強される。この場合、バンドで補強された胴体2の下端部の内周が基台13の外周13cを囲むことになる。
【0039】
また、各排水器12,12は、底板12eの表面に、基台13の傾斜面13dに連続する傾斜面12e1を有する(図1図2参照)。そして、この傾斜面12e1の下端に、雨量計1の中心線Cに垂直な水平面12e2を有する。すなわち、各排水器12,12の底板12eの表面には傾斜面12e1と水平面12e2とが形成されている。本実施形態では、この底板12eに複数の小さな丸孔12e3が貫通して形成されている。図9(a)はこれらの丸孔12e3を示す排水器12の平面図である。これらの丸孔12e3は、転倒ます7から放水された雨水を雨量計1の外部へ排水すると共に、雨量計1の内部へ虫等の侵入を阻止する大きさに形成されている。
【0040】
このような本実施形態の転倒ます形雨量計1によれば、一対の排水器12,12は、基台13の中心側と反対側の側壁12cが基台13の外周13cと共に胴体2に囲まれることで、互いに離反して基台13から離れる水平な向きDへのスライドが阻止され、基台13に固定される。また、一対の排水器12,12は、基台13の外周13cを囲む胴体2が基台13から取り外されると、互いに離反して基台13から離れる向きDにスライド自在になり、基台13から容易に分離する状態になる。したがって、排水器12に滞留した砂等の滞留物を排水器12から取り除く際には、基台13の外周13cを囲む胴体2を基台13から取り外すことで、一対の排水器12,12が、互いに離反して基台13から離れる向きDにスライド自在になって、一対の排水器12,12を基台13から容易に取り外すことができる。このため、従来の転倒ます形雨量計のように、胴体を基台から取り外した後、先に転倒ますを分解して支持体から取り外し、その後、排水器を基台に固定する締結具を工具を使って緩める作業をすることなく、単に、互いに離反して基台13から離れる向きDに一対の排水器12,12をスライドさせるだけで、一対の排水器12,12を基台13から容易に取り外して、排水器12,12に滞留した砂等の滞留物を排水器12,12から取り除くことができるようになる。この結果、転倒ます形雨量計1の保守点検にかかる工数が低減されて、簡易に保守点検を行えるようになり、転倒ます形雨量計1の運用に従来のような手間がかからなくなる。
【0041】
また、転倒ます7から放水されて排水器12,12に受水される雨水は、排水器12,12から跳ねて基台13の表面に飛び散ることがある。本実施形態の転倒ます形雨量計1によれば、跳ねた雨水は、基台13の表面に溜まることなく、基台13の傾斜面13dに沿って基台13の外周13cに導かれる。基台13の外周13cに導かれる雨水は、基台13の外周13cとそれを覆う胴体2の下端部の内周面との間の隙間を通って、雨量計1の外部へ排出される。また、本実施形態では、基台13の傾斜面13dの下方に排水口17が形成されているので、その排水口17を通ることによっても、基台13の外周13cに導かれる雨水はその途中で排水口17を介して雨量計1の外部へ排出される。このため、基台13の表面に跳ねた雨水が基台13の表面に溜り、粉塵などを吸着して基台13の表面に粉塵などが固着・堆積する不具合が防止される。なお、排水口17の開口部には図示しない金網が設けられている。
【0042】
また、本実施形態の転倒ます形雨量計1によれば、排水器12,12から基台13の表面に跳ねた雨水は、基台13の傾斜面13dに連続する各排水器12,12の底板12eの傾斜面12e1によって排水器12,12の排水口である丸孔12e3へも導かれ、排水器12,12からも雨量計1の外部へ排出される。このため、排水器12,12から基台13の表面に跳ねた雨水の雨量計1の外部への排出効率が向上する。
【0043】
また、本実施形態の転倒ます形雨量計1によれば、各排水器12,12の底板12eに形成された丸孔12e3により、蜘蛛などの虫等が雨量計1の内部に侵入することが防止される。また、本実施形態では、各排水器12,12の底板12eが各排水器12,12の本体と一体に成型されているので、金網などの別部品を用いることなく、安価に、蜘蛛などの虫が雨量計1の内部に侵入することが防止される。
【0044】
また、本実施形態の転倒ます形雨量計1によれば、受水器3からろ水器6に受水される雨水は、最初に、樋状の形状をした第1のろ水器6aに受けられて、その流下方向が第1のろ水器6aの傾斜によって変えられることで、流勢が抑えられて第2のろ水器6bへ注がれる。第1のろ水器6aの流出端6a1の周囲は、第2のろ水器6bの容器状部6b3の受水端6b31に覆われているため、第1のろ水器6aの流出端6a1から第2のろ水器6bに
注がれる雨水は、ろ水器6の外に飛び出すことなく、第2のろ水器6b内に取り込まれる。第2のろ水器6b内に取り込まれた雨水は、第2のろ水器6bにつけられた傾斜により、流勢がさらに抑えられて、第2のろ水器6bの容器状部6b3の底部に形成された流出端6b32の開口から転倒ます7へ導かれる。
【0045】
したがって、局地的大雨や集中豪雨等で雨量の値が大きくなり、受水器3からろ水器6に受水される雨水が大量になっても、受水器3からろ水器6に受水される雨水は、第1のろ水器6aおよび第2のろ水器6bを通る間にその流勢が抑えられ、第2のろ水器6bの容器状部6b3に囲まれて周りに飛び散ることなく、第2のろ水器6bの流出端6b32に導
かれる。このため、局地的大雨や集中豪雨等で雨量の値が大きくなっても、受水器3からろ水器6に受水される雨水は、確実に転倒ます7に注がれ、転倒ます7によって持続して正確に雨量が計量されるようになる。
【0046】
また、受水器3からろ水器6に受水される雨水に砂等の塵が含まれていても、その塵は、従来のようにろ水器6に沈殿されず、第1のろ水器6aおよび第2のろ水器6bを雨水と共に流れる。このため、従来のろ水器のように、漏斗に沈殿する塵を定期的に除去する保守作業は不要となる。しかも、互いに離反して基台13から離れる向きに一対の排水器12,12を単にスライドさせるだけで、一対の排水器12,12を基台13から容易に取り外して、排水器12,12に滞留した砂等の滞留物を排水器12,12から取り除くことができる。この結果、転倒ます形雨量計1の運用をさらに容易に行えるようになる。
なお、上記実施形態では、排水器12の底板12eに図9(a)に示す小さな丸孔1
2e3を複数個形成した場合について説明したが、図9(b)に示す排水器12の平面図のように、大きめの大径孔12e4を1個だけ底板12eに貫通して形成するようにしてもよい。雨量計1の設置される環境が小さな虫よりも大きな虫が出る環境である場合には、または虫等の生物がいない環境である場合には、このような大径孔12e4であっても有効となる。
【0047】
また、図10(a)に示す排水器12の平面図のように、角孔12e5を複数個底板12eに貫通して形成するようにしたり、図10(b)に示す排水器12の平面図のように、スリット孔12e6を複数列底板12eに貫通して形成するようにしてもよい。また、図示していないが、スリット孔12e6が直交した格子状のスリット孔12e6を底板12eに貫通して形成するようにしてもよい。このような大径孔12e4、角孔12e5およびスリット孔12e6を底板12eに形成した場合においても、上記実施形態と同様な作用効果が奏され、別部品を用いることなく、安価に、虫が雨量計1の内部に侵入することが防止される。
【0048】
また、図11に示す排水器12の平面図のように、底板12eに矩形状に形成された開口を濾紙18で塞ぐように構成してもよい。この場合にも、排水器12は、転倒ます7から放水された雨水を濾紙18を介して雨量計1の外部へ排水すると共に、虫等が雨量計1の内部に侵入することを防止する。しかし、排水器12とは別体の別部品である濾紙18を用いるため、製造コストは別部品を用いない上記の各場合に比較して抑制されない。
【0049】
また、上記実施形態および図9(b)、図10図11に示す各変形例では、各底板12eが排水器12の本体と一体に形成される場合について説明したが、各底板12eが各排水器12,12に交換自在に設けられるように構成してもよい。雨量計1を設置する場所の環境によっては、生息する虫等の生物の有無や、種類が変わってくる。しかし、本構成によれば、雨量計1を設置する場所の環境に応じて、適切な形状の孔12e3~12e6または濾紙18を備えた底板12eに交換することで、雨量計1を設置する場所の環境に応じて効果的に雨量計1の内部へ虫等が侵入するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…転倒ます形雨量計、2…胴体、3…受水器、4…漏斗、5…計量部、6…ろ水器、6a…第1のろ水器、6a1…流出端、6a2…溝、6b…第2のろ水器、6b2…ホルダー部、6b3…容器状部、6b31…受水端、6b32…流出端、6b33…溝、6b4…アダプタ部、6b41…溝、6c…第1導水線(第1導水路)、6d…第2導水線(第2導水路)、6e…補助導水路、6e1…基部、6e2…先端部、6e3…凸条部、7…転倒ます、7a,7b…ます、8…基板、9…軸、10…おもり、11…ストッパ、12…排水器、12a…スライド溝、12b,12c,12d…側壁、12e…底板、12e1…傾斜面、12e2…水平面、12e3…丸孔、12e4…大径孔、12e5…角孔、12e6…スリット孔、13…基台、13a…切り欠き、13b…凸条部、13c…外周、13d…傾斜面、14…ボルト、15…ピン、16…リードスイッチ、17…排水口、18…濾紙
図1
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図11