IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TeraWatt Technology株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-リチウム2次電池 図1
  • 特許-リチウム2次電池 図2
  • 特許-リチウム2次電池 図3
  • 特許-リチウム2次電池 図4
  • 特許-リチウム2次電池 図5
  • 特許-リチウム2次電池 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】リチウム2次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20230822BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230822BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230822BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20230822BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20230822BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20230822BHJP
   H01M 50/454 20210101ALI20230822BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20230822BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230822BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230822BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M50/46
H01M50/44
H01M50/449
H01M50/454
H01M50/491
H01M10/0562
H01M4/66 A
H01M4/38 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022543837
(86)(22)【出願日】2020-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2020031096
(87)【国際公開番号】W WO2022038670
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】522369728
【氏名又は名称】TeraWatt Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 雅継
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
(72)【発明者】
【氏名】井本 浩
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-145299(JP,A)
【文献】特表2015-519686(JP,A)
【文献】特開2019-133940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M50/40-50/497
H01M 4/00- 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極活物質を有しない負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されているセパレータと、
前記負極の前記セパレータに対向する表面に形成されている金属層、並びに、前記セパレータの前記負極に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層からなる群より選択される少なくとも1種と、
電解液と、
を備え、
前記正極が、正極活物質と、前記正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物と、を含む、
リチウム2次電池。
【請求項2】
正極と、
負極活物質を有しない負極と、
前記正極と前記負極との間に配置され、電解液を含む固体電解質と、
前記負極の前記固体電解質に対向する表面に形成されている金属層、並びに、前記固体電解質の前記負極に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層からなる群より選択される少なくとも1種と、
を備え、
前記正極が、正極活物質と、前記正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物と、を含む、
リチウム2次電池。
【請求項12】
エネルギー密度が350Wh/kg以上である、請求項1~11のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム2次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーを電気エネルギーに変換する技術が注目されている。これに伴い、安全性が高く、かつ多くの電気エネルギーを蓄えることができる蓄電デバイスとして、様々な2次電池が開発されている。
【0003】
その中でも、正極及び負極の間を金属イオンが移動することで充放電を行う2次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を示すことが知られており、典型的には、リチウムイオン2次電池が知られている。典型的なリチウムイオン2次電池としては、正極及び負極にリチウムを保持することのできる活物質を導入し、正極活物質及び負極活物質の間でのリチウムイオンの授受によって充放電をおこなうものが挙げられる。また、負極に活物質を用いない2次電池として、負極表面上にリチウム金属を析出させることでリチウムを保持するリチウム金属2次電池が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、室温で少なくとも1Cのレートでの放電時に、1000Wh/Lを越える体積エネルギー密度及び/又は350Wh/kgを越える質量エネルギー密度を有する、高エネルギー密度、高出力リチウム金属アノード2次電池が開示されている。特許文献1は、そのようなリチウム金属アノード2次電池を実現するため、極薄リチウム金属アノードを用いることを開示している。
【0005】
また、特許文献2には、正極、負極、これらの間に介在された分離膜及び電解質を含むリチウム2次電池において、前記負極は、負極集電体上に金属粒子が形成され、充電によって前記正極から移動され、負極内の負極集電体上にリチウム金属を形成する、リチウム2次電池が開示されている。特許文献2は、そのようなリチウム2次電池は、リチウム金属の反応性による問題と、組み立ての過程で発生する問題点を解決し、性能及び寿命が向上されたリチウム二次電池を提供することができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-517722号公報
【文献】特表2019-537226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献に記載のものを始めとする従来の電池を詳細に検討したところ、エネルギー密度及びサイクル特性の少なくともいずれかが十分でないことがわかった。
【0008】
例えば、正極活物質及び負極活物質の間での金属イオンの授受によって充放電をおこなう典型的な2次電池は、エネルギー密度が十分でない。また、上記特許文献に記載されているような、負極表面上にリチウム金属を析出させることでリチウムを保持する従来のリチウム金属2次電池は、充放電を繰り返すことにより負極表面上にデンドライト状のリチウム金属が形成されやすく、短絡及び容量低下が生じやすい。その結果、サイクル特性が十分でない。
【0009】
また、リチウム金属2次電池において、リチウム金属析出時の離散的な成長を抑制するために、電池に大きな物理的圧力をかけて負極とセパレータとの界面を高圧に保つ方法も開発されている。しかしながら、そのような高圧の印加には大きな機械的機構が必要であるため、電池全体としては、重量及び体積が大きくなり、エネルギー密度が低下する。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるリチウム2次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、正極と、負極活物質を有しない負極と、正極と負極との間に配置されているセパレータと、負極のセパレータに対向する表面に形成されている金属層、並びに、セパレータの負極に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層からなる群より選択される少なくとも1種と、を備え、正極が、正極活物質と、正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物(以下、該リチウム含有化合物を「犠牲正極剤」ともいう。)と、を含む。
【0012】
そのようなリチウム2次電池は、負極活物質を有しない負極を備えることにより、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われるため、エネルギー密度が高い。また、本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、金属層、及び緩衝機能層の少なくとも一方を備えている。リチウム2次電池が負極表面に金属層を有する場合、金属層の電気伝導性に起因して、負極表面に生じる電場が一層均一なものとなり、リチウム金属が、負極表面上に均一に析出しやすくなる(すなわち、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制される。)。リチウム2次電池がセパレータ表面に緩衝機能層を有する場合、負極の表面上だけでなく、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層の内部でもリチウム金属が析出することができるため、リチウム金属析出反応の反応場の表面積が増加し、リチウム金属析出反応の反応速度が緩やかに制御される。その結果、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制される。
【0013】
更に、本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、金属層又は緩衝機能層だけでなく、上記のような犠牲正極剤を正極に有する。上記のような犠牲正極剤は、リチウム2次電池の初期充電時に酸化反応を生じる(すなわち、リチウムイオンを放出する。)一方で、その後の放電時には還元反応を実質的に生じず(すなわち、放電前のリチウム含有化合物が形成されない。)、当該リチウム含有化合物に由来するリチウム元素は、負極表面上又は緩衝機能層表面上にリチウム金属として残留する。したがって、犠牲正極剤を有するリチウム2次電池は、放電の際に、負極表面上又は緩衝機能層表面上に析出しているリチウム金属が全て溶解することなく、放電完了後においても一部のリチウム金属が負極表面上又は緩衝機能層表面上に残留する。したがって、犠牲正極剤に加えて、金属層又は緩衝機能層を有する本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、放電完了後も負極上にリチウム金属が一部残留し、かつ、当該残留するリチウム金属は負極表面上又は緩衝機能層表面上に均一に残留すると考えられる。その結果、当該残留リチウム金属は、その後の充電時において、更なるリチウム金属が負極表面上又は緩衝機能層表面上に析出する際の足場となるため、当該充電時においてリチウム金属は負極表面上又は緩衝機能層表面上に一層均一に析出しやすくなる。したがって、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制されるため、当該リチウム2次電池はサイクル特性に優れたものとなる。
【0014】
上記セパレータに代えて、固体電解質を用いてもよい。そのような態様によれば、リチウム2次電池を固体電池とすることができるため、一層安全性の高いリチウム2次電池とすることができる。
【0015】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、好ましくは、金属層、及び、緩衝機能層の両方を備えている。そのような態様によれば、上述した金属層、及び緩衝機能層の効果のいずれもが奏されるため、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが一層抑制され、リチウム2次電池はサイクル特性に一層優れたものとなる。
【0016】
上記リチウム含有化合物の不可逆容量の割合は、リチウム2次電池のセル容量に対して、好ましくは、1%以上30%以下である。そのような態様によれば、放電完了後に負極表面上又は緩衝機能層表面上に残留する残留リチウムが一層適切な量となるため、リチウム2次電池のサイクル特性及びエネルギー密度が一層向上する。
【0017】
緩衝機能層の空孔率は、好ましくは、50%以上である。そのような態様によれば、上述した緩衝機能層の効果が一層有効かつ確実に奏されるため、リチウム2次電池のサイクル特性及びエネルギー密度が一層向上する。
【0018】
緩衝機能層は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導層と、該イオン伝導層を被覆する電気伝導層とを備えるものであってもよい。
【0019】
金属層の平均厚さは、好ましくは、5nm以上5000nm以下である。そのような態様によれば、負極表面に生じる電場が一層均一なものとなり、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが一層抑制される。
【0020】
金属層は、Si、Sn、Zn、Bi、Ag、In、Pb、Sb、及びAlからなる群より選択される少なくとも1種を含む。そのような態様によれば、金属層のリチウムとの親和性が一層向上するため、負極上に析出したリチウム金属が剥がれ落ちることが一層抑制される。
【0021】
上記リチウム2次電池は、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウムが溶解することによって充放電が行われるリチウム2次電池である。そのような態様によれば、エネルギー密度が一層高くなる。
【0022】
負極は、好ましくは、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極である。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。また、そのような負極は安定であるため、2次電池のサイクル特性は一層向上する。
【0023】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、初期充電の前に、上記負極の表面にリチウム箔が形成されていない。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。
【0024】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、エネルギー密度が350Wh/kg以上である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるリチウム2次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図2】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の使用の概略断面図である。
図3】第2の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図4】第2の本実施形態に係るリチウム2次電池における緩衝機能層の概略断面図であり、(A)は緩衝機能層の一実施形態であるファイバ状の緩衝機能層を示し、(B)はファイバ状の緩衝機能層にリチウム金属が析出する析出態様を示し、(C)はファイバ状の緩衝機能層を構成する部材の一実施形態を示す。
図5】第3の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図6】第4の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0028】
[第1の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図1は、第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。図1に示すように、第1の本実施形態のリチウム2次電池100は、正極110と、負極活物質を有しない負極140と、正極110と負極140との間に配置されているセパレータ120と、負極140のセパレータ120に対向する表面に形成されている金属層130と、を備える。正極110は、セパレータ120に対向する面とは反対側の面に正極集電体150を有する。
【0029】
(負極)
負極140は、負極活物質を有しないものである。負極活物質を有する負極を備えるリチウム2次電池は、その負極活物質の存在に起因して、エネルギー密度を高めることが困難である。一方、本実施形態のリチウム2次電池100は負極活物質を有しない負極140を備えるため、そのような問題が生じない。すなわち、本実施形態のリチウム2次電池100は、リチウム金属が負極140の表面に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われるため、エネルギー密度が高い。
【0030】
本実施形態において、「リチウム金属が負極の表面に析出する」とは、負極の表面、負極の表面に形成された金属層の表面、並びに、負極及び/又は金属層の表面に形成された後述する固体電解質界面(SEI)層の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することを意味する。本実施形態のリチウム2次電池において、リチウム金属は、主として、金属層の表面、又は金属層の表面に形成されたSEI層の表面に析出すると考えられるが、析出する箇所はこれらに限られない。したがって、リチウム2次電池100において、リチウム金属は、例えば、負極140の表面(負極140と金属層130との界面)に析出してもよく、金属層130の表面(金属層130とセパレータ120との界面)に析出してもよい。
【0031】
本明細書において、「負極活物質」とは、電池において電荷キャリアとなるリチウムイオン又はリチウム金属(以下、「キャリア金属」ともいう。)を負極140に保持するための物質を意味し、キャリア金属のホスト物質と換言してもよい。そのような保持の機構としては、特に限定されないが、例えば、インターカレーション、合金化、及び金属クラスターの吸蔵等が挙げられる。
【0032】
そのような負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、炭素系物質、金属酸化物、及び金属又は合金等が挙げられる。上記炭素系物質としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、グラファイト、ハードカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン系化合物、酸化スズ系化合物、及び酸化コバルト系化合物等が挙げられる。上記金属又は合金としては、キャリア金属と合金化可能なものであれば特に限定されないが、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、ガリウム、及びこれらを含む合金が挙げられる。
【0033】
負極140としては、負極活物質を有さず、集電体として用いることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。なお、負極140にSUSを用いる場合、SUSの種類としては従来公知の種々のものを用いることができる。上記のような負極材料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。なお、本明細書中、「Liと反応しない金属」とは、リチウム2次電池の動作条件においてリチウムイオン又はリチウム金属と反応して合金化することがない金属を意味する。
【0034】
負極140は、好ましくはリチウムを含有しない電極である。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、リチウム2次電池100は、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。同様の観点及び負極140の安定性向上の観点から、その中でも、負極140は、より好ましくは、Cu、Ni、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものである。同様の観点から、負極140は、更に好ましくは、Cu、Ni、又はこれらからなる合金からなるものであり、特に好ましくはCu、又はNiからなるものである。
【0035】
本明細書において、「負極が負極活物質を有しない」とは、負極における負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であることを意味する。負極における負極活物質の含有量は、負極全体に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。なお、リチウム2次電池100が負極活物質を有しない負極を備えるということは、リチウム2次電池100が、一般的に用いられる意味でのアノードフリー2次電池、ゼロアノード2次電池、又はアノードレス2次電池であることを意味する。
【0036】
なお、典型的なリチウムイオン2次電池において、負極が有する負極活物質の容量は、正極の容量と同程度となるように設定される。一方、リチウム2次電池100は、負極140の表面に金属層130が形成され、当該金属層は、リチウムと反応し得る金属を含み得るものの、その容量は正極と比較して十分小さいため、リチウム2次電池100は、「負極活物質を有しない負極を備える」ということができる。
【0037】
負極140及び金属層130の容量の合計は、正極110の容量に対して十分小さく、例えば、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下であってもよい。なお、正極110、負極140、及び金属層130の各容量は、従来公知の方法により測定することができる。
【0038】
負極140の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における負極140の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0039】
(正極)
正極110は、正極活物質を含むため、リチウム2次電池100は、安定性に優れ、高い出力電圧を有するものとなる。本明細書において、「正極活物質」とは、リチウムイオンを正極110に保持するための物質を意味し、リチウムイオンのホスト物質と換言してもよい。そのような正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物及び金属リン酸塩が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト系化合物、酸化マンガン系化合物、及び酸化ニッケル系化合物等が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸鉄系化合物、及びリン酸コバルト系化合物が挙げられる。典型的な正極活物質としては、LiCoO、LiNiCoMnO(x+y+z=1)、LiNiMnO(x+y=1)、LiNiO、LiMn、LiFePO、LiCoPO、LiFeOF、LiNiOF、及びTiSが挙げられる。上記のような正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0040】
正極110は、正極活物質に加えて、該正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物(すなわち、犠牲正極剤)を含む。そのような正極110を備えるリチウム2次電池100を初期充電すると、正極活物質及び犠牲正極剤はリチウムイオンを放出すると共に酸化反応を生じ、外部回路を通じて負極140に電子を放出する。その結果、正極活物質及び犠牲正極剤に由来するリチウムイオンは、負極の表面に析出する。また、そのようなリチウム2次電池100を初期充電完了後に放電する(すなわち、初期放電する)と、負極表面に析出したリチウム金属が電解溶出し、外部回路を通じて負極140から正極110に電子が移動する。それに伴い、正極活物質は、リチウムイオンを受け取ると共に還元反応を生じる一方で、犠牲正極剤は、正極活物質の放電電位の範囲内では還元反応を実質的に生じず、酸化反応を生じる前の状態に戻ることが実質的に不可能である。なお、「初期充電」とは、電池を組み立てた後の第1回目の充電ステップを意味する。
したがって、リチウム2次電池100を初期充電の後に放電させると、正極活物質に由来するリチウム金属が負極上から電解溶出するのに対し、犠牲正極剤に由来するリチウム金属は、そのほとんどが負極上に残留することとなり、電池の放電完了後においても、負極上に一部のリチウム金属が残留することとなる。当該残留リチウム金属は、初期放電に続く充電ステップにおいて、更なるリチウム金属が負極上に析出する際の足場となるため、初期放電後の充電ステップにおいてリチウム金属が負極上に均一に析出しやすくなる。その結果、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制されるため、リチウム2次電池100はサイクル特性に優れたものとなる。
【0041】
正極110における犠牲正極剤は、正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物である。本明細書において、「正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じる」とは、正極活物質の充放電電位範囲において、酸化反応を生じてリチウムイオン及び電子を放出すること(酸化反応により分解され、リチウムイオンを放出することも含む。)が可能であることを意味する。また、「正極活物質の充放電電位範囲において還元反応を実質的に生じない」とは、正極活物質の充放電電位範囲において、当業者にとって通常の反応条件では、還元反応を生じてリチウムイオン及び電子を受け取ること、又は還元反応を介して生成することが不可能、又は実質的に不可能であることを意味する。「当業者にとって通常の反応条件」とは、例えば、リチウム2次電池を放電する際の条件を意味する。また、「犠牲正極剤が、還元反応を生じてリチウムイオン及び電子を受け取ること、又は還元反応を介して生成することが実質的に不可能である」とは、電池の充電により酸化された犠牲正極剤のうち、容量比で、80%以上(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上、又は100%)の犠牲正極剤が、還元反応を生じてリチウムイオン及び電子を受け取ること、又は還元反応を介して生成することができないことを意味する。したがって、犠牲正極剤における、初期充電の容量に対する初期放電の容量は、20%以下(例えば、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、1%以下、又は0%)である。
【0042】
本明細書において、「正極活物質の充放電電位範囲」とは、正極110に含まれる正極活物質の酸化反応及び還元反応が行われ得る電位範囲を意味する。具体的な値は、正極110に含まれる正極活物質の種類に依存するが、典型的には、Li/Li基準電極に対して、2.5V以上、2.7V以上、3.0V以上、3.2V以上、又は3.5V以上であり、かつ、4.5V以下、4.4V以下、4.3V以下、4.2V以下、4.1V以下、又は4.0V以下である。正極活物質の充放電電位範囲の代表的な範囲は、3.0V以上4.2V以下(vs.Li/Li基準電極)であり、その上限及び下限は、上述した数値に、独立に置き換えることができる。なお、Li/Li基準電極に対する正極活物質の充放電電位範囲は、リチウム2次電池100の動作電圧範囲を参照してもよく、例えば、リチウム2次電池100の動作電圧が3.0V以上4.2V以下である場合、Li/Li基準電極に対する正極活物質の充放電電位範囲を3.0V以上4.2V以下と見積もることができる。すなわち、犠牲正極剤は、「リチウム2次電池の動作電圧範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じないリチウム含有化合物」と換言してもよい。
【0043】
犠牲正極剤の例としては、特に限定されず、例えば、Liのようなリチウム酸化物;LiNのようなリチウム窒化物;LiS-P、LiS-LiCl、LiS-LiBr、及びLiS-LiIのようなリチウム硫化物系固溶体;LiFeOのような鉄系リチウム酸化物等が挙げられる。上記のような犠牲正極剤は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。また、上記のような犠牲正極剤は、市販のものを用いてもよく、従来公知の方法により製造してもよい。
【0044】
正極110は、正極活物質及び犠牲正極剤以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、公知の導電助剤、バインダー、固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質が挙げられる。
【0045】
正極110における導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノファイバー(CF)、及びアセチレンブラック等が挙げられる。また、バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂、及びポリイミド樹脂等が挙げられる。上記のような導電助剤、及びバインダーは、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。固体ポリマー電解質には、後述する固体電解質として例示するものと同様のものを用いることができる。
【0046】
正極110における、正極活物質及び犠牲正極剤の含有量の合計は、正極110全体に対して、例えば、50質量%以上100質量%以下であってもよい。正極活物質及び犠牲正極剤の含有量の合計は、正極110全体に対して、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上であり、更により好ましくは90質量%以上である。正極活物質及び犠牲正極剤の含有量の合計は、正極110全体に対して、好ましくは100質量%以下であり、より好ましくは99質量%以下であり、更に好ましくは98質量%以下である。
【0047】
犠牲正極剤の含有量は、リチウム2次電池100のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合により規定されることが好ましい。ここで、「リチウム2次電池のセル容量」とは、正極110に含まれる正極活物質及び犠牲正極剤の充電容量の総量を算出することにより得られる値を意味する。具体的には、リチウム2次電池100のセル容量は、各正極活物質及び各犠牲正極剤のそれぞれについて、正極活物質又は犠牲正極剤を正極、リチウム金属箔を負極としたセルを、リチウム2次電池100の駆動電圧(例えば、3.0V以上4.2V以下)において充放電することにより求められる充電容量密度(mAh/g)と正極110に含まれる質量(g)との積を計算し、正極110に含まれる全ての正極活物質及び犠牲正極剤についての上記積の和を求めることで得られる。また、「犠牲正極剤の不可逆容量」とは、各犠牲正極剤のそれぞれについて、犠牲正極剤を正極、リチウム金属箔を負極としたセルを、リチウム2次電池100の駆動電圧(例えば、3.0V以上4.2V以下)において充放電することにより、充電容量密度A1と、放電容量密度A2との差(A1-A2)である不可逆容量密度A(mAh/g)を求め、不可逆容量密度と正極110に含まれる質量(g)との積を計算し、正極110に含まれる全ての犠牲正極剤についての上記積の和を求めることで得られる。
【0048】
リチウム2次電池100のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合Xは、各正極活物質及び各犠牲正極剤の充電容量密度A1(mAh/g)と正極110における含有量x(質量%)との積の和に対する、各犠牲正極剤の不可逆容量密度A(mAh/g)と正極110における含有量x(質量%)との積の和の比として、下記式(1)に従って求めてもよい。
【0049】
【数1】
【0050】
各正極活物質及び各犠牲正極剤の充電容量密度(mAh/g)、並びに各犠牲正極剤の不可逆容量密度(mAh/g)が公知である場合は、当該公知の値を用いてもよい。各正極活物質及び各犠牲正極剤についての、充電容量密度、放電容量密度、及び正極110における含有量は従来公知の方法により測定することができ、充電容量密度、及び放電容量密度は、実施例に記載の方法により測定すればよい。正極110における含有量は、例えばX線回折測定(XRD)により測定することができる。
【0051】
犠牲正極剤の含有量は、リチウム2次電池100のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合が0.3%以上50%以下になるように調整されることが好ましく、0.5%以上40%以下になるように調整されることがより好ましく、1%以上35%以下になるように調整されることが更に好ましく、1%以上30%以下になるように調整されることが更により好ましい。リチウム2次電池100のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合を調整することにより、リチウム2次電池100において、初期充電により析出するリチウム金属の総量に対する、初期放電の後に残留するリチウム金属の割合を制御することができると推察されるため、上記不可逆容量の割合が上記の範囲内にあると、残留リチウム金属の量が適切なものとなり、リチウム2次電池100のサイクル特性及びエネルギー密度が一層優れたものとなると考えられる。
【0052】
導電助剤の含有量は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよく、1質量%20質量%以下あってもよく1.5質量%10質量%以下あってもよい。バインダーの含有量は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよく、1質量%20質量%以下あってもよく1.5質量%10質量%以下あってもよい。固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質の含有量の合計は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよく、1質量%20質量%以下あってもよく1.5質量%10質量%以下あってもよい。
【0053】
(正極集電体)
正極110の片側には、正極集電体150が形成されている。正極集電体150は、電池においてリチウムイオンと反応しない導電体であれば特に限定されない。そのような正極集電体としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0054】
正極集電体150の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における正極集電体150の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0055】
(金属層)
リチウム2次電池100は、負極140のセパレータ120に対向する表面に形成されている金属層130を備えるものである。
従来のリチウム2次電池では、負極の表面に析出するリチウム金属が面方向に均一に成長することが困難であり、その結果、負極表面に析出するリチウム金属はデンドライト状に成長しやすく、電池のサイクル特性は劣ることとなってしまう。本発明者らは、鋭意研究の結果、従来のリチウム2次電池の正極に、本明細書において開示されるような犠牲正極剤を添加したとしても、初期放電後に残留するリチウム金属が負極表面に均一に析出することは困難であり、その結果、犠牲正極剤の効果が十分に得られず、サイクル特性がほとんど向上しないことを見出した。また、本発明者らは、負極140の表面に金属層130を形成する場合、金属層を形成していない場合に比べて、サイクル特性の向上という犠牲正極剤の効果が顕著に奏されることを見出した。その要因は、以下のように推察されるが、要因はこれに限られない。
【0056】
リチウム2次電池100が負極140の表面に金属層130を備えると、負極表面の導電性が一層向上し、かつ、平坦性が一層向上すると考えられ、それにより、負極表面に生じる電場は、面方向に一層均一なものとなり、金属リチウムの析出反応の反応性が負極表面において、場所によらず一層均一なものとなると考えられる。その結果、正極110に犠牲正極剤を含むリチウム2次電池100は、初期放電後、負極表面において、面方向に均一に成長したリチウム金属が残留し、当該面方向に均一に成長した残留リチウム金属がその後の充電においてリチウム金属析出の足場となるため、リチウム金属がデンドライト状に成長することが抑制され、サイクル特性が一層向上すると考えられる。なお、リチウム金属は、負極140と金属層130との界面に析出してもよく、金属層130とセパレータ120との界面に析出してもよい。
【0057】
本明細書において、「リチウム金属がデンドライト状に成長することが抑制される」とは、リチウム2次電池の充放電又はその繰り返しにより、負極の表面に形成されるリチウム金属がデンドライト状になることを抑制することを意味する。換言すれば、リチウム2次電池の充放電又はその繰り返しにより負極の表面に形成されるリチウム金属が、非デンドライト状に成長することを誘導することを意味する。ここで、「非デンドライト状」とは、特に限定されないが、典型的にはプレート状、谷状、又は丘状である。
【0058】
金属層130は、金属からなる層であれば特に限定されないが、好ましくは、Si、Sn、Zn、Bi、Ag、In、Pb、Sb、及びAlからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含むものである。そのような態様によれば、金属層130の表面がリチウム金属との親和性に一層優れるようになり、負極表面に析出したリチウム金属が剥がれ落ちることを一層抑制することができる。一般的に、リチウム金属が負極表面に析出し、及び、その析出したリチウムが電解溶出することによって充放電が行われるリチウム2次電池では、析出したリチウム金属が剥がれ落ちることにより、リチウム2次電池の容量が低下することが知られている。すなわち、析出したリチウム金属の剥離がリチウム2次電池のサイクル特性を低下させることが知られている。したがって、金属層130が上記の金属を含むと、負極表面に析出したリチウム金属が剥がれ落ちることを一層抑制することができ、リチウム2次電池のサイクル特性は一層優れたものとなる。
【0059】
金属層130の平均厚さは、特に限定されないが、好ましくは5nm以上であり、より好ましくは10nm以上であり、更に好ましくは15nm以上である。金属層の厚さが上記の範囲内にあることにより、上述した金属層の効果が有効かつ確実に奏されるようになる傾向にある。また、金属層130の平均厚さは、好ましくは5000nm以下であり、より好ましくは3000nm以下であり、更に好ましくは1000nm以下であり、更により好ましくは500nm以下であり、更に一層好ましくは300nm以下であり、特に好ましくは200nm以下である。金属層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池内部の電気抵抗が一層低下し、また、電池における金属層の占有体積が減少するため、リチウム2次電池100は、一層高いエネルギー密度及び一層優れたサイクル特性を有する傾向にある。
【0060】
金属層130の厚さは、公知の測定方法により測定することができる。例えば、リチウム2次電池100を厚さ方向に切断し、露出した切断面における金属層130をSEM又はTEMにより観察することにより測定することができる。金属層130の平均厚さは、3回以上、好ましくは10回以上の測定値の相加平均を算出することにより求められる。
【0061】
(セパレータ)
セパレータ120は、正極110と負極140とを隔離することにより電池が短絡することを防ぎつつ、正極110と負極140との間の電荷キャリアとなるリチウムイオンのイオン伝導性を確保するための部材であり、電子導電性を有さず、リチウムイオンと反応しない材料により構成される。また、セパレータ120は当該電解液を保持する役割も担う。セパレータ120は、上記役割を担う限りにおいて限定はないが、例えば、多孔質のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、又はこれらの積層構造により構成される。
【0062】
セパレータ120は、セパレータ被覆層により被覆されていてもよい。セパレータ被覆層は、セパレータ120の両面を被覆していてもよく、片面のみを被覆していてもよい。セパレータ被覆層は、イオン伝導性を有し、リチウムイオンと反応しない部材であれば特に限定されないが、セパレータ120と、セパレータ120に隣接する層とを強固に接着させることができるものであると好ましい。そのようなセパレータ被覆層としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びアラミドのようなバインダーを含むものが挙げられる。セパレータ被覆層は、上記バインダーにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸リチウム等の無機粒子を添加させてもよい。
【0063】
セパレータ120の平均厚さは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは18μm以下であり、更に好ましくは15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100におけるセパレータ120の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。また、セパレータ120の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極110と負極140とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0064】
(電解液)
リチウム2次電池100は、電解液を有していてもよい。電解液は、セパレータ120に浸潤させてもよく、リチウム2次電池100と共に電解液を封入したものを完成品としてもよい。電解液は、電解質及び溶媒を含有し、イオン伝導性を有する溶液であり、リチウムイオンの導電経路として作用する。このため、電解液を有するリチウム2次電池100は、内部抵抗が一層低下し、エネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層向上する。
【0065】
電解質は、塩であれば特に限定されないが、例えば、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。電解質としては、好ましくはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiB(O、LiB(O)F、LiB(OCOCF、LiNO、及びLiSO等が挙げられる。リチウム2次電池100のエネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層優れる観点から、リチウム塩は、LiN(SOF)が好ましい。なお、上記のリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0066】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フロロエチレンカーボネート、ジフロロエチレンカーボネート、トリフロロメチルプロピレンカーボネート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ノナフロロブチルメチルエーテル、ノナフロロブチルエチルーテル、テトラフロロエチルテトラフロロプロピルエーテル、リン酸トリメチル、及びリン酸トリエチルが挙げられる。
【0067】
(リチウム2次電池の使用)
図2に本実施形態のリチウム2次電池の1つの使用態様を示す。リチウム2次電池200は、正極集電体150及び負極140に、リチウム2次電池200を外部回路に接続するための正極端子220及び負極端子210がそれぞれ接合されている。リチウム2次電池200は、負極端子210を外部回路の一端に、正極端子220を外部回路のもう一端に接続することにより充放電される。
【0068】
リチウム2次電池200は、初期充電により、金属層130とセパレータ120との界面に固体電解質界面層(SEI層)が形成されていてもよい。あるいは、SEI層は形成されていなくてもよく、負極140と金属層130との界面に形成されていてもよい。形成されるSEI層としては、特に限定されないが、例えば、リチウムを含む無機化合物、及びリチウムを含む有機化合物等を含んでいてもよい。SEI層の典型的な平均厚さとしては、1nm以上10μm以下である。
【0069】
正極端子220及び負極端子210の間に、負極端子210から外部回路を通り正極端子220へと電流が流れるような電圧を印加することでリチウム2次電池200が充電される。リチウム2次電池200を充電することにより、負極表面にリチウム金属の析出が生じる。なお、当該リチウム金属の析出は、負極140と金属層130との界面、及び金属層130とセパレータ120との界面の少なくとも1箇所に生じる。
【0070】
充電後のリチウム2次電池200について、正極端子220及び負極端子210を接続するとリチウム2次電池200が放電される。これにより、負極表面に生じたリチウム金属の析出が電解溶出する。
【0071】
(リチウム2次電池の製造方法)
図1に示すようなリチウム2次電池100の製造方法としては、上述の構成を備えるリチウム2次電池を製造することができる方法であれば特に限定されないが、例えば以下のような方法が挙げられる。
【0072】
正極110は例えば以下のようにして、正極集電体150上に形成する。上述した正極活物質、犠牲正極剤、公知の導電助剤、及び公知のバインダーを混合し、正極混合物を得る。その配合比は、正極活物質、犠牲正極剤、導電助剤、及びバインダーの含有量が上述した範囲内となるように適宜調整すればよい。また、正極活物質の充電容量密度及び犠牲正極剤の不可逆容量密度をあらかじめ測定しておくことで、正極活物質、及び犠牲正極剤の質量混合比を調整することのみによって、リチウム2次電池100のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合を制御することができる。得られた正極混合物を、所定の厚さ(例えば、5μm以上1mm以下)を有する正極集電体としての金属箔(例えば、Al箔)の片面に塗布し、プレス成型する。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定のサイズに打ち抜き、正極110を得る。
【0073】
次に、上述した構成を有するセパレータ120を準備する。セパレータ120は従来公知の方法で製造してもよく、市販のものを用いてもよい。
【0074】
次に、上述した負極材料、例えば1μm以上1mm以下の金属箔(例えば、電解Cu箔)を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさに打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させることにより負極140を得る。
【0075】
次に、負極140の片面に金属層130を形成する。金属層の形成方法としては、例えば無電解めっき法、電解めっき法、蒸着法、スパッタ法、レーザー成膜加工(PLD)法、及び金属ナノ粒子コーティング法等があげられる。
【0076】
無電解めっき法としては、例えば、金属イオン、及び還元剤を含むめっき液を用いる方法が挙げられる。具体的には、めっき液中に負極140を浸漬する方法や、負極140にめっき液をスピンコーティングにより塗布する方法等が挙げられる。めっき液への浸漬時間、並びに、金属イオン及び還元剤の濃度を適宜調整することにより、所望の厚さを有する金属層を得ることができる。
【0077】
電解めっき法としては、例えば、金属イオンを含む電解めっき液中、負極140を作用極として電解めっきする方法が挙げられる。電解条件、及び電解時間を適宜調整することにより、所望の厚さを有する金属層を得ることができる。
【0078】
蒸着法としては、例えば、負極140上に金属を蒸着させることにより金属層を得る方法が挙げられる。蒸着時間、及び蒸着条件を適宜調整することにより、所望の厚さを有する金属層を得ることができる。
【0079】
これらの中でも、生産性向上の観点から、実施例に記載の方法により金属層を形成することが好ましい。
【0080】
以上のようにして得られる正極110、セパレータ120、及び金属層130が形成された負極140を、この順に、金属層130がセパレータ120と対向するように積層することで積層体を得る。得られた積層体を、電解液と共に密閉容器に封入することでリチウム2次電池100を得ることができる。密閉容器としては、特に限定されないが、例えば、ラミネートフィルムが挙げられる。
【0081】
[第2の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図3は、第2の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。図3に示すように、第2の本実施形態のリチウム2次電池300は、正極110と、負極活物質を有しない負極140と、正極110と負極140との間に配置されているセパレータ120と、セパレータ120の負極140に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層310と、を備える。正極110は、セパレータ120に対向する面とは反対側の面に正極集電体150を有する。
【0082】
正極集電体150、正極110、セパレータ120、及び負極140の構成及びその好ましい態様は後述する点を除き第1の本実施形態のリチウム2次電池100と同様であり、これらの構成について、リチウム2次電池300は、リチウム2次電池100と同様の効果を奏するものである。また、リチウム2次電池300は、リチウム2次電池100と同様に、上述したような電解液を含んでいてもよい。
【0083】
(緩衝機能層)
図3に示すように、緩衝機能層310は、セパレータ120の負極140に対向する表面に形成され、緩衝機能層は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有するものである。本実施形態において、緩衝機能層310は、セパレータ120及び負極140の間にあるため、リチウム2次電池300を充電すると、緩衝機能層310の表面、及び/又は内部において、負極140からの電子と、セパレータ120及び/又は電解液からのリチウムイオンとが供給される。ここで、緩衝機能層310は、ファイバ状又は多孔質状であるため、イオン伝導性及び電気伝導性を有する固体部分と、該固体部分の隙間により構成される空孔部分を有する。したがって、緩衝機能層310では、上述のようにして供給される電子及びリチウムイオンが、緩衝機能層の内部である、上記固体部分の表面において反応し、上記空孔部分にリチウム金属が析出する。なお、本明細書においいて、緩衝機能層における「固体部分」とは、ゲルのような半固体を含むものとする。
【0084】
従来のリチウム2次電池では、リチウム金属が析出する場が負極表面に限られているため、リチウム金属の成長方向が負極表面からセパレータ方向に限られ、リチウム金属がデンドライト状に成長する傾向にある。一方、本実施形態のリチウム2次電池300のように緩衝機能層を備えるリチウム2次電池では、負極表面だけでなく、緩衝機能層の固体部分の表面においてもリチウム金属が析出することができるため、リチウム金属析出反応の反応場の表面積が増加する。その結果、リチウム2次電池300では、リチウム金属析出反応の反応速度が緩やかに制御されるため、リチウム金属の異方的な成長、すなわち、デンドライト状に成長したリチウム金属の形成が抑制されると推察される。本発明者らは、鋭意研究の結果、正極に犠牲正極剤を含むリチウム2次電池において、上述のような緩衝機能層を導入すると、上述の犠牲正極剤の効果が顕著に奏されることを見出した。これは、初期充電の際、上述の機序により緩衝機能層の固体部分の表面及び負極表面に、面方向に均一なリチウム金属が析出し、初期放電後においても、面方向に均一に成長したリチウム金属が残留するため、当該面方向に均一に成長した残留リチウム金属がその後の充電においてリチウム金属析出の足場となり、リチウム金属がデンドライト状に成長することが抑制されるからであると推察される。ただし、要因は上記に限られない。
【0085】
なお、本実施形態において、「リチウム金属が負極上に析出する」とは、特に断りがない限りにおいて、負極の表面、緩衝機能層の固体部分の表面、並びに、負極及び/又は緩衝機能層の固体部分の表面に形成されたSEI層の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することを意味する。したがって、リチウム2次電池300において、リチウム金属は、例えば、負極140の表面(負極140と緩衝機能層310との界面)に析出してもよく、緩衝機能層310の内部(緩衝機能層の固体部分の表面)に析出してもよい。
【0086】
また、本実施形態のリチウム2次電池300において、リチウム金属は負極の表面に析出するだけでなく、緩衝機能層310の空孔部分を埋めるように、緩衝機能層の固体部分の表面にも析出する。したがって、緩衝機能層310は、リチウム2次電池300において、充放電に伴う電池の体積膨張を緩和する緩衝層としても機能する。すなわち、緩衝機能層を有しない従来のリチウム2次電池は、充電により負極表面にリチウム金属が析出するため、充電前の電池に比べて、充電後の電池は、セル体積が膨張する。一方、本実施形態のリチウム2次電池300は、負極表面だけでなく、緩衝機能層310の空孔部分にもリチウム金属が析出するため、充電による電池のセル体積の膨張を抑制することができる。したがって、本実施形態のリチウム2次電池は、小型電子端末等用電池等の許容可能な体積膨張率が低い電池用途として特に有用である。
【0087】
緩衝機能層310としては、ファイバ状又は多孔質状であり、イオン伝導性及び電気伝導性を有するものであれば特に限定されない。緩衝機能層の非限定的な例示としては、例えば、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導層の表面の全部又は一部に、電気伝導層を被覆したもの;ファイバ状又は多孔質状の電気伝導層の表面の全部又は一部に、イオン伝導層を被覆したもの;並びに、ファイバ状のイオン伝導層と、ファイバ状の電気伝導層とを交絡させたもの等が挙げられる。
【0088】
イオン伝導層としては、イオンを伝導することができるものである限り限定されないが、例えば、無機又は有機塩を含む固体電解質又は疑似固体電解質(以下、「ゲル電解質」ともいう。)等が挙げられる。
【0089】
固体電解質及びゲル電解質としては、一般的にリチウム2次電池に用いられるものであれば特に限定されず、公知の材料を適宜選択することができる。固体電解質又はゲル電解質を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)のような主鎖及び/又は側鎖にエチレンオキサイドユニットを有する樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリアセタール、ポリスルホン、及びポリテトラフロロエチレン等が挙げられる。上記のような樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0090】
固体電解質又はゲル電解質に含まれる塩としては、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、例えば、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiB(O、LiB(C、LiB(O)F、LiB(OCOCF、LiNO、及びLiSO等が挙げられる。上記のような塩、又はリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0091】
固体電解質又はゲル電解質における樹脂とリチウム塩との含有量比は、樹脂の有する酸素原子と、リチウム塩の有するリチウム原子の比([Li]/[O])によって定めてもよい。固体電解質又はゲル電解質において、樹脂とリチウム塩との含有量比は、上記比([Li]/[O])が、例えば、0.02以上0.20以下、0.03以上0.15以下、又は0.04以上0.12以下になるように調整してもよい。
【0092】
固体電解質又はゲル電解質は、樹脂及び塩以外に、リチウム2次電池300が含み得る電解液を含んでいてもよい。
【0093】
電気伝導層としては、電子を伝導することができるものである限り限定されないが、例えば、金属膜が挙げられる。電気伝導層に含まれ得る金属の非限定的な例示としては、例えば、SUS、Si、Sn、Sb、Al、Ni、Cu、Sn、Bi、Ag、Au、Pt、Pb、Zn、In、Bi-Sn、及びIn-Sn等が挙げられる。電気伝導層に含まれる金属としては、リチウム金属との親和性を高める観点から、Si、Sn、Zn、Bi、Ag、In、Pb、Sb、及びAlが好ましい。
【0094】
緩衝機能層310の一実施形態として、ファイバ状の緩衝機能層が挙げられる。図4(A)にファイバ状の緩衝機能層の概略断面図を示す。図4(A)に示す緩衝機能層310は、イオン伝導性及び電気伝導性を有するファイバである、イオン電気伝導ファイバ410からなる。すなわち、本実施形態において、「緩衝機能層がファイバ状である」とは、緩衝機能層がファイバを含むか、あるいは、ファイバにより構成されていることで、固体部分と、該固体部分の隙間により構成される空孔部分を有することを意味する。
【0095】
図4(A)に示す緩衝機能層310を有するリチウム2次電池を充電すると、緩衝機能層の固体部分の表面、すなわち、イオン電気伝導ファイバ410の表面に、リチウム金属が析出する。したがって、そのような態様によれば、図4(B)にその概略断面図を示すように、緩衝機能層の固体部分であるイオン電気伝導ファイバ410の表面に、緩衝機能層の空孔部分を埋めるように、リチウム金属420が析出する。
【0096】
イオン電気伝導ファイバ410の一実施形態を、図4(C)に概略断面図として示す。図4(C)に示すように、一実施形態において、イオン電気伝導ファイバ410は、ファイバ状のイオン伝導層430と、イオン伝導層430の表面を被覆する電気伝導層440とを備える。イオン伝導層430は、例えばイオン伝導層として上述したような構成を備え、電気伝導層440は、例えば電気伝導層として上述したような構成を備えていてもよい。
【0097】
ファイバ状のイオン伝導層430のファイバ平均直径は、好ましくは30nm以上5000nm以下であり、より好ましくは50nm以上2000nm以下であり、更に好ましくは70nm以上1000nm以下であり、更により好ましくは80nm以上500nm以下である。イオン伝導層のファイバ平均直径が上記の範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層適切な範囲となるため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0098】
電気伝導層440の平均厚さは、好ましくは1nm以上300nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下であり、更に好ましくは10nm以上150nm以下である。電気伝導層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、イオン電気伝導ファイバ410の電気伝導性を一層適切に保つことができるため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0099】
別の実施形態において、図3に示すリチウム2次電池300の緩衝機能層310は、多孔質状であってもよい。多孔質状の緩衝機能層は、例えば、多孔質状、特に連通孔を有するイオン伝導層と、イオン伝導層の表面を被覆する電気伝導層とを備えるものであってもよい。
【0100】
緩衝機能層は、ファイバ状又は多孔質状であるため、空孔を有する。緩衝機能層の空孔率は、特に限定されないが、体積%で、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。緩衝機能層の空孔率が上記の範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層上昇するため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。また、そのような態様によれば、セル体積膨張を抑制する効果が一層有効かつ確実に奏される傾向にある。緩衝機能層の空孔率は、特に限定されないが、体積%で、99%以下であってもよく、95%以下であってもよく、90%以下であってもよい。
【0101】
緩衝機能層の平均厚さは、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、更に、好ましくは30μm以下である。緩衝機能層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池300における緩衝機能層310の占める体積が減少するため、電池のエネルギー密度が一層向上する。また、緩衝機能層の平均厚さは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは4μm以上であり、更に、好ましくは7μm以上である。緩衝機能層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層上昇するため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。また、そのような態様によれば、セル体積膨張を抑制する効果が一層有効かつ確実に奏される傾向にある。
【0102】
ファイバ状のイオン伝導層のファイバ直径、電気伝導層の厚さ、緩衝機能層の空孔率、及び緩衝機能層の厚さは、公知の測定方法により測定することができる。例えば、緩衝機能層の厚さは、緩衝機能層の表面を集束イオンビーム(FIB)でエッチングして、その断面を露出させ、露出した切断面における緩衝機能層の厚さをSEM又はTEMにより観察することにより測定することができる。
【0103】
ファイバ状のイオン伝導層のファイバ直径、電気伝導層の厚さ、及び緩衝機能層の空孔率は、透過型電子顕微鏡で緩衝機能層の表面を観察することにより測定することができる。なお、緩衝機能層の空孔率は、画像解析ソフトを用いて、緩衝機能層の表面の観察画像を2値解析し、画像の総面積に対して緩衝機能層が占める割合を求めることで算出すればよい。
【0104】
上記の各測定値は3回以上、好ましくは10回以上測定した測定値の平均を求めることにより算出される。
【0105】
なお、緩衝機能層がリチウムと反応し得る金属を含む場合、負極140及び緩衝機能層310の容量の合計は、正極110の容量に対して十分小さく、例えば、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下であってもよい。なお、正極110、負極140、及び緩衝機能層310の各容量は、従来公知の方法により測定することができる。
【0106】
また、図3において、負極140の表面に、SEI層が形成されていてもよく、図4において、イオン電気伝導ファイバ410の表面に、SEI層が形成されていてもよい。
【0107】
(2次電池の製造方法)
図3に示すようなリチウム2次電池300は、金属層130を形成することに代えて、緩衝機能層310を形成すること以外は、図1に示す第1の本実施形態に係るリチウム2次電池100の上述した製造方法と同様にして、製造することができる。
【0108】
緩衝機能層310の製造方法は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する層を得られる限り特に限定されないが、例えば以下のようにすればよい。
【0109】
図4(C)に示すような、ファイバ状のイオン伝導層430と、イオン伝導層430の表面を被覆する電気伝導層440とを備えるイオン電気伝導ファイバ410を有するファイバ状の緩衝機能層は以下のように製造することができる。
まず、上述した樹脂(例えば、PVDF)を適当な有機溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)に溶解させた溶液を、事前に準備したセパレータ120の表面にドクターブレードを用いて塗布する。次いで、樹脂溶液を塗付したセパレータ120を、水浴に浸漬した後、室温で十分乾燥させることで、セパレータ120上にファイバ状のイオン伝導層を形成する(なお、イオン伝導層は例えば電池の組立時に電解液が注液されることでイオン伝導機能を発揮するようにしてもよい)。続いて、ファイバ状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下で適当な金属(例えば、Ni)を蒸着させることにより、ファイバ状の緩衝機能層を得ることができる。
【0110】
また、多孔質状のイオン伝導層と、イオン伝導層の表面を被覆する電気伝導層とを備える多孔質状の緩衝機能層は以下のように製造することができる。
まず、上述した樹脂(例えば、PVDF)を適当な溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)に溶解させた溶液を用いて、従来公知の方法により(例えば、溶媒との相分離を用いる方法、及び発泡剤を用いる方法等。)、連通孔を有する多孔質状のイオン伝導層をセパレータ120の表面に形成する(なお、イオン伝導層は例えば電池の組立時に電解液が注液されることでイオン伝導機能を発揮するようにしてもよい)。続いて、多孔質状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下で適当な金属(例えば、Ni)を蒸着させることにより、多孔質状の緩衝機能層を得ることができる。
【0111】
リチウム2次電池の組み立ては、第1の本実施形態に係るリチウム2次電池100における製造方法を参照すればよい。すなわち、正極110、緩衝機能層310が形成されたセパレータ120、及び負極140を、この順に、緩衝機能層310が負極140と対向するように積層することで積層体を得ることができる。得られた積層体を、電解液と共に密閉容器に封入することでリチウム2次電池300を得ることができる。
【0112】
[第3の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図5は、第3の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。図5に示すように、第3の本実施形態のリチウム2次電池500は、正極110と、負極活物質を有しない負極140と、正極110と負極140との間に配置されているセパレータ120と、負極140のセパレータ120に対向する表面に形成されている金属層130と、セパレータ120の負極140に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層310と、を備える。正極110は、セパレータ120に対向する面とは反対側の面に正極集電体150を有する。
【0113】
正極集電体150、正極110、セパレータ120、金属層130、緩衝機能層310、及び負極140の構成及びその好ましい態様は、第1の本実施形態のリチウム2次電池100、及び第2の本実施形態のリチウム2次電池300と同様であり、これらの構成について、リチウム2次電池500は、リチウム2次電池100、及びリチウム2次電池300と同様の効果を奏するものである。また、リチウム2次電池500は、リチウム2次電池100と同様に、上述したような電解液を含んでいてもよい。
【0114】
なお、金属層130、及び緩衝機能層310の両方を備えるリチウム2次電池500は、金属層130、及び緩衝機能層310のいずれかのみを備えるリチウム2次電池100、及びリチウム2次電池300に比べて、リチウム金属がデンドライト状に成長することが一層抑制され、サイクル特性が一層向上する。
【0115】
[第4の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図6は、第4の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。図6に示すように、第4の本実施形態のリチウム2次電池600は、正極110と、負極活物質を有しない負極140と、正極110と負極140との間に配置されている固体電解質610と、負極140の固体電解質610に対向する表面に形成されている金属層130と、固体電解質610の負極140に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層310と、を備える。正極110は、固体電解質610に対向する面とは反対側の面に正極集電体150を有する。
【0116】
正極集電体150、正極110、金属層130、緩衝機能層310、及び負極140の構成及びその好ましい態様は、第1の本実施形態のリチウム2次電池100、第2の本実施形態のリチウム2次電池300、及び第3の本実施形態のリチウム2次電池500と同様であり、これらの構成について、リチウム2次電池600は、リチウム2次電池100、リチウム2次電池300、及びリチウム2次電池500と同様の効果を奏するものである。
【0117】
(固体電解質)
一般に、液体電解質を備える電池は、液体の揺らぎに起因して、電解質から負極表面に対してかかる物理的圧力が場所によって異なる傾向にある。一方、リチウム2次電池600は、固体電解質610を備えるため、固体電解質610から負極140の表面にかかる圧力が一層均一なものとなり、負極140の表面に析出するリチウム金属の形状を一層均一化することができる。すなわち、このような態様によれば、負極140の表面に析出するキャリア金属が、デンドライト状に成長することが一層抑制されるため、リチウム2次電池600のサイクル特性は一層優れたものとなる。
【0118】
固体電解質610としては、一般的にリチウム固体2次電池に用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム2次電池600の用途によって、公知の材料を適宜選択することができる。固体電解質610は、好ましくはイオン伝導性を有し、電気伝導性を有さないものである。固体電解質610が、イオン伝導性を有し、電気伝導性を有さないことにより、リチウム2次電池600の内部抵抗が一層低下すると共に、リチウム2次電池600の内部で短絡することを一層抑制することができる。その結果、リチウム2次電池600のエネルギー密度、容量、及びサイクル特性は一層優れたものとなる。
【0119】
固体電解質610としては、特に限定されないが、例えば、樹脂及びリチウム塩を含むものが挙げられる。そのような樹脂としては、特に限定されないが、例えば、緩衝機能層310のイオン伝導層が含み得る樹脂として例示した樹脂が挙げられる。また、リチウム塩としては、特に限定されないが、例えば、緩衝機能層310のイオン伝導層が含み得るリチウム塩として例示した樹脂が挙げられる。上記のような樹脂及びリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0120】
固体電解質610において、樹脂とリチウム塩との含有量比は、上記比([Li]/[O])が、好ましくは0.02以上0.20以下、より好ましくは0.03以上0.15以下、更に好ましくは0.04以上0.12以下になるように調整される。
【0121】
固体電解質610は、上記樹脂及びリチウム塩以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、溶媒及びリチウム塩以外の塩が挙げられる。リチウム塩以外の塩としては、特に限定されないが、例えば、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。
【0122】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、上記リチウム2次電池100が含み得る電解液において例示したものが挙げられる。
【0123】
固体電解質610の平均厚さは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは18μm以下であり、更に、好ましくは15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池600における固体電解質610の占める体積が減少するため、リチウム2次電池600のエネルギー密度が一層向上する。また、固体電解質610の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に、好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極110と負極140とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0124】
固体電解質610は、ゲル電解質を含むものとする。ゲル電解質としては、特に限定されないが、例えば、高分子と、有機溶媒と、リチウム塩とを含むものが挙げられる。ゲル電解質における高分子としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン及び/又はポリエチレンオキシドの共重合体、ポリビニリデンフロライド、並びにポリビニリデンフロライド及びヘキサフロロプロピレンの共重合体等が挙げられる。
【0125】
(2次電池の製造方法)
リチウム2次電池600は、セパレータに代えて固体電解質を用いること以外は、上述した第3の本実施形態に係るリチウム2次電池100の製造方法と同様にして、製造することができる。
【0126】
固体電解質610の製造方法としては、上述した固体電解質610を得られる方法であれば特に限定されないが、例えば、以下のようにすればよい。固体電解質に従来用いられる樹脂、及びリチウム塩(例えば、固体電解質610が含み得る樹脂として上述した樹脂及びリチウム塩。)を有機溶媒(例えば、N-メチルピロリドン、アセトニトリル)に溶解する。得られた溶液を所定の厚みになるように成形用基板にキャストすることで、固体電解質610を得る。ここで、樹脂及びリチウム塩の配合比は、上記したように、樹脂の有する酸素原子と、リチウム塩の有するリチウム原子との比([Li]/[O])によって定めてもよい。上記比([Li]/[O])は、例えば0.02以上0.20以下である。成形用基板としては、特に限定されないが、例えばPETフィルムやガラス基板を用いてもよい。
【0127】
[変形例]
上記本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその本実施形態のみに限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。
【0128】
例えば、第4の本実施形態のリチウム2次電池600において、金属層130及び緩衝機能層310のいずれか一方は省略されてもよい。
【0129】
また、例えば、第1の本実施形態のリチウム2次電池100において、負極140の両面に金属層130が形成されていてもよい。この場合、リチウム2次電池は、以下の順番:正極/セパレータ/金属層/負極/金属層/セパレータ/正極;で各構成が積層される。そのような態様によれば、リチウム2次電池の容量を一層向上させることができる。なお、第2の本実施形態のリチウム2次電池300、第3の本実施形態のリチウム2次電池500、及び第4の本実施形態のリチウム2次電池600についても、同様の積層構造とすることができる。
【0130】
本実施形態のリチウム2次電池は、リチウム固体2次電池であってもよい。そのような態様によれば、電解液を用いなくてもよいため、電解液漏洩の問題が生じず、電池の安全性が一層向上する。
【0131】
本実施形態のリチウム2次電池は、初期充電の前に、セパレータ又は固体電解質と、負極との間にリチウム箔が形成されていても、されていなくてもよい。本実施形態のリチウム2次電池は、初期充電の前に、セパレータ又は固体電解質と、負極との間にリチウム箔が形成されていない場合、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるリチウム2次電池となる。
【0132】
本実施形態のリチウム2次電池は、負極及び/又は正極の表面において、当該負極又は正極に接触するように配置される集電体を有していてもよく、有していなくてもよい。そのような集電体としては、特に限定されないが、例えば、負極材料に用いることのできるものが挙げられる。なお、リチウム2次電池が正極集電体、及び負極集電体を有しない場合、それぞれ、正極、及び負極自身が集電体として働く。
【0133】
本実施形態のリチウム2次電池は、正極及び/又は負極に、外部回路へと接続するための端子を取り付けてもよい。例えば10μm以上1mm以下の金属端子(例えば、Al、Ni等)を、正極集電体及び負極の片方又は両方にそれぞれ接合してもよい。接合方法としては、従来公知の方法を用いればよく、例えば超音波溶接を用いてもよい。
【0134】
なお、本明細書において、「エネルギー密度が高い」又は「高エネルギー密度である」とは、電池の総体積又は総質量当たりの容量が高いことを意味するが、好ましくは800Wh/L以上又は350Wh/kg以上であり、より好ましくは900Wh/L以上又は400Wh/kg以上であり、更に好ましくは1000Wh/L以上又は450Wh/kg以上である。
【0135】
また、本明細書において、「サイクル特性に優れる」とは、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクルの前後において、電池の容量の減少率が低いことを意味する。すなわち、初期充放電の後の1回目の放電容量と、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクル後の容量とを比較した際に、充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していないことを意味する。ここで、「通常の使用において想定され得る回数」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、30回、50回、70回、100回、300回、又は500回である。また、「充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していない」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対して、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であることを意味する。
【実施例
【0136】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0137】
[リチウム2次電池の作製]
リチウム2次電池の製造に関する各工程は以下のように実施した。
【0138】
(負極の準備)
10μmの電解Cu箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさに打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させて、負極を得た。
【0139】
(セパレータの準備)
セパレータとして、12μmのポリエチレン微多孔膜の両面に2μmのポリビニリデンフロライド(PVDF)がコーティングされた所定の大きさのセパレータを準備した。
【0140】
(正極の作製)
正極活物質及び犠牲正極剤の混合物を96質量部、導電助剤としてカーボンブラックを2質量部、及びバインダーとしてポリビニリデンフロライド(PVDF)を2質量部混合したものを、正極集電体としての12μmのAl箔の片面に塗布し、プレス成型した。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定の大きさに打ち抜き、正極を得た。
正極活物質として、LiNi0.85Co0.12Al0.03を用い、犠牲正極剤として、表1に記載のものを用いた。用いた各犠牲正極剤の不可逆容量を表1に示す。
【0141】
表1に記載の犠牲正極剤のうち、Li、及びLiNは市販のものを用いた。また、LiSを含むものは、特開2019-145299に記載の方法により製造した。すなわち、LiSと、P、LiCl、LiBr、又はLiIとを80:20のモル比となるように乳鉢混合し、アルゴン雰囲気下において、遊星ボールミル装置を用いて固相反応させることで、硫化リチウム系の固溶体を得た。次いで、得られた硫化リチウム系の固溶体と、活性炭とを、90:10の質量比で、ボールミルにより混合することで犠牲正極剤を得た。また、LiFeOは、Chem. Mater. 2010, 22, 1263-1270 1263に記載の方法により製造した。すなわち、LiOH・HO、及びFeを粉砕、混合したものを、窒素雰囲気下、800℃の条件にて、72時間の焼成することで、犠牲正極剤を得た。
【0142】
正極活物質及び犠牲正極剤の混合比は、以下のようにして測定した正極活物質及び犠牲正極剤の充電容量密度(mAh/g)、並びに犠牲正極剤の不可逆容量密度A(mAh/g)を用いて、電池のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合が表1に「添加率(セル容量比%)」として記載の各値になるように調整した。なお、正極活物質及び犠牲正極剤の総量は、リチウム2次電池のセル容量が60mAhになるように調整した。正極全体に対する犠牲正極剤の含有量を「添加量(質量%)」として表1に記載する。
【0143】
正極活物質又は犠牲正極剤と、PVDFと、導電助剤と、N-メチルピロリドン(NMP)とを混合し、スラリーを作製して、アルミ箔上に塗布、乾燥、プレスした。対極をリチウム金属とするテストセルを作製し、0.2mAh/cmの電流で電圧が4.2Vになるまで充電した後、電圧が3.0Vになるまで放電することで、充電容量密度(mAh/g)、及び/又は、不可逆容量密度A(mAh/g)を求めた。
【0144】
(金属層の形成)
得られた負極を脱脂し、純水で洗浄した後、Snイオンを含むめっき浴に浸漬した。負極を水平に静置したまま負極表面を電解めっきすることにより、負極の表面にスズをめっきした。負極をめっき浴から取り出し、エタノールで洗浄、純水で洗浄した。以上のようにして、負極の片面に金属層を形成した。電解時間は、金属層が100nmとなるように調整した。
【0145】
(緩衝機能層の形成)
PVDF樹脂をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させた樹脂溶液をセパレータ上にドクターブレードで塗布した。次いで、樹脂溶液を塗付したセパレータを、水浴に浸漬した後、室温で十分乾燥させることで、セパレータ上にファイバ状のイオン伝導層を形成した(なお、イオン伝導層は、電池の組立時に後述する電解液(4M LiN(SOF)(LFSI)のジメトキシエタン(DME)溶液)が注液されることでイオン伝導機能を発揮する)。
セパレータ上に形成されたファイバ状のイオン伝導層のファイバ平均直径を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して測定したところ、100nmであった.
【0146】
続いて、ファイバ状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下でNiを蒸着させた。エネルギー分散型X線分析装置(EDX)付SEMを用いて、Ni蒸着後のイオン伝導層を観察したところ、Niはファイバ状のイオン伝導層を覆うように分布していることが確認され、ファイバ状のイオン伝導層の表面が電気伝導層に覆われているファイバ状の緩衝機能層が得られたことが確認された。
また、緩衝機能層の断面をFIBで作製してSEMで観察したところ、緩衝機能層の平均厚さは10μmであった。透過型電子顕微鏡で緩衝機能層を観察したところ、電気伝導層であるNi薄膜の平均厚さ、及び緩衝機能層の空孔率は、それぞれ、20nm、及び90%であった。
【0147】
(電池の組み立て)
電解液として、4M LiN(SOF)(LFSI)のジメトキシエタン(DME)溶液を準備した。
次いで、正極、セパレータ、及び負極を、この順に、積層することで積層体を得た。なお、セパレータに緩衝機能層が形成されている場合は、緩衝機能層が負極と対向するようにして、負極に金属層が形成されている場合は、金属層がセパレータと対向するようにして積層を実施した。更に、正極及び負極に、それぞれ100μmのAl端子及び100μmのNi端子を超音波溶接で接合した後、ラミネートの外装体に挿入した。次いで、上記の電解液を上記の外装体に注入した。外装体を封止することにより、リチウム2次電池を得た。
【0148】
[実施例1~10]
表1に記載の犠牲正極剤を用いて、正極、緩衝機能層が形成されたセパレータ、金属層が形成された負極を備えるリチウム2次電池を作製した。なお、正極活物質及び犠牲正極剤の混合比は、電池のセル容量に対する犠牲正極剤の不可逆容量の割合が表1に「添加率(セル容量比%)」として記載されている各値になるように調整し、具体的には、正極全体に対する犠牲正極剤の含有量が表1に「添加量(質量%)」として記載されている各値になるように調整した。
【0149】
[実施例11]
緩衝機能層が形成されたセパレータに代えて、緩衝機能層が形成されていないセパレータを用いたこと以外は、実施例2と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0150】
[実施例12]
金属層が形成された負極に代えて、金属層が形成されていない負極を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0151】
[比較例1]
緩衝機能層が形成されたセパレータに代えて、緩衝機能層が形成されていないセパレータを用い、金属層が形成された負極に代えて、金属層が形成されていない負極を用い、かつ、犠牲剤を用いなかったこと以外は、実施例2と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0152】
[比較例2]
緩衝機能層が形成されたセパレータに代えて、緩衝機能層を形成しなかったセパレータを用い、金属層が形成された負極に代えて、金属層を形成しなかった負極を用いたこと以外は実施例2と同様にして、リチウム2次電池を得た。
【0153】
[エネルギー密度及びサイクル特性の評価]
以下のようにして、各実施例及び比較例で作製したリチウム2次電池のエネルギー密度及びサイクル特性を評価した。
【0154】
作製したリチウム2次電池を、0.2mAh/cmで、電圧が4.2Vになるまで充電した(初期充電)後、0.2mAh/cmで、電圧が3.0Vになるまで放電した(初期放電)。次いで、1.0mAh/cmで、電圧が4.2Vになるまで充電した後、1.0mAh/cmで、電圧が3.0Vになるまで放電する充放電サイクルを、温度25℃の環境で更に99サイクル繰り返した。いずれの実施例及び比較例についても、初期充電から求められた容量(初期容量)は、60mAhであった。初期充放電サイクルを1サイクル目と数えたときの、充放電サイクルの2サイクル目における放電から求められる放電容量に対する、充放電サイクルの100サイクル目における放電から求められる放電容量の比を、容量維持率(%)として計算し、サイクル特性の指標として用いた。容量維持率が高いほど、サイクル特性に優れることを意味する。各例における容量維持率を表1に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
表1中、「-」は、犠牲正極剤、金属層、及び/又は緩衝機能層を有しないことを意味し、「〇」は、金属層、及び/又は緩衝機能層を有することを意味する。
【0157】
表1から、金属層及び緩衝機能層の少なくとも一方を備え、かつ、犠牲正極剤を添加した実施例1~12は、そうでない比較例2及び2と比較して、容量維持率が高く、サイクル特性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明のリチウム2次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるため、様々な用途に用いられる蓄電デバイスとして、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0159】
100,200,300,500,600…リチウム2次電池、110…正極、120…セパレータ、130…金属層、140…負極、150…正極集電体、210…負極端子、220…正極端子、310…緩衝機能層、410…イオン電気伝導ファイバ、420…リチウム金属、430…イオン伝導層、440…電気伝導層、610…固体電解質。
図1
図2
図3
図4
図5
図6