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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】照射による自己組織化ペプチドの滅菌
(51)【国際特許分類】
   A61K 41/17 20200101AFI20230822BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230822BHJP
   A61L 2/08 20060101ALN20230822BHJP
   A61L 2/00 20060101ALN20230822BHJP
   A61L 27/22 20060101ALN20230822BHJP
   A61M 5/00 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
A61K41/17
A61K38/00 ZNA
A61K38/10
A61P7/04
A61P17/02
A61P9/10
A61L2/08
A61L2/00
A61L27/22
A61M5/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022559333
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-22
(86)【国際出願番号】 US2021024954
(87)【国際公開番号】W WO2021202577
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】63/002,882
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505043041
【氏名又は名称】株式会社スリー・ディー・マトリックス
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】リウー, マリカ ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ギル, ユン ソク
(72)【発明者】
【氏名】アレクシ, エルトン
(72)【発明者】
【氏名】山本 直毅
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-517299(JP,A)
【文献】特表2017-515793(JP,A)
【文献】特表2018-532410(JP,A)
【文献】特表2017-505298(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0018463(US,A1)
【文献】特表2010-530846(JP,A)
【文献】特表2006-516411(JP,A)
【文献】国際公開第2018/187617(WO,A1)
【文献】Micromachines,2020年03月06日,11,273, page1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 41/17
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己組織化ペプチド(SAP)溶液を滅菌する方法であって、
(a)自己組織化ペプチドの溶液を含む1つまたは複数の容器を照射機内に配置する工程であって、前記自己組織化ペプチドが、RADA16(配列番号1)、またはIEIK13(配列番号3)であり、かつ、前記自己組織化ペプチドが、ほぼ中性のpHで生体組織に適用したときにヒドロゲルを形成することが可能である、前記1つまたは複数の容器を前記照射機内に配置する工程、および
(b)記ペプチドの実質的な分解なしに、事前に決定された無菌性保証水準(SAL)まで前記自己組織化ペプチド溶液が滅菌されるように、所定の線量でガンマ線、X線および/または電子線照射に前記1つまたは複数の容器を曝露する工程であって、その所望の生物学的または物理的特性が実質的に同じレベルで維持されるかまたは改善されながら、照射後の前記溶液中の完全長ペプチドの分解生成物の濃度が、0.1%~5%の範囲である、前記1つまたは複数の容器を曝露する工程
を含み;
前記所望の生物学的または物理的特性が、止血性、抗接着、再出血の予防、抗狭窄、組織閉鎖、粘膜亢進、創傷治癒、貯蔵弾性率、粘度、および組織空隙充填特性からなる群より選択され
前記自己組織化ペプチドがRADA16(配列番号1)である場合に、前記所定の線量が10~25kGyであり、
前記自己組織化ペプチドがIEIK13(配列番号3)である場合に、前記所定の線量が10~40kGyである、方法。
【請求項2】
前記自己組織化ペプチドが約1.3w/vのIEIK13(配列番号3)である場合に、前記所定の線量が15~40kGyである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液が、電子線により照射される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ペプチド溶液が、RADA16(配列番号1)を約2.5%w/v含有し、前記所定の線量が、15~24kGyである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記照射後の分解された全ペプチドの量が、前記照射前の前記自己組織化ペプチドの量の20重量%を超えない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記自己組織化ペプチド溶液の照射前生物汚染度が、生成物単位当たり9CFUまたはそれよりも少ない、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
照射線量が、少なくとも10-6の無菌性保証水準(SAL)を実現する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
照射前および後の前記溶液のpHが、約1.8~3.5の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記1つまたは複数の容器が、プラスチックシリンジ(複数可)である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒドロゲルの貯蔵弾性率が、照射後に少なくとも10%増大している、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
c)前記溶液を剪断して、その貯蔵弾性率を低減させるかまたは回復させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記自己組織化ペプチド溶液が、836/1670、1100、および1513m/zで主要Mピークを有する照射後質量分析(MS)プロファイルを示す、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2020年3月31日に出願された米国仮出願第63/002,882号に対する優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、ある特定の医療用ゲル、より詳細には、いわゆる自己組織化ペプチドを含有するゲルの、滅菌に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
自己組織化ペプチド(「SAP」と省略されることもある)は、水性環境におかれたときおよび周囲条件の化学的または物理的変化が生じたとき、高度に組織化されたナノ構造に自発的に組織化するペプチドのタイプである。1つのその他の周知の構造は、天然コラーゲンにより形成されたナノ繊維バイオポリマー構造である。本発明に関係のあるクラスのSAPは、ベータシートを形成することが可能な、交互になった親水性および疎水性のアミノ酸残基からなる。それらは、中性水中で、十分に秩序だったナノ構造に自律的に組織化し、一方でそれらは、高剪断力がそれらに加えられたときに個々の分子に一時的に分解し得る。SAPは、pHおよび/または質量オスモル濃度などのその環境に応じてヒドロゲル(SAPゲルとしても公知である)を形成することができ;例えば、中性pH付近の体内におかれたときにヒドロゲルを形成することが可能である。SAPゲルは、様々な医療適用、例えば創傷治癒の改善、恒常性の誘発;特に外科手術の文脈での内部組織における癒着の低減;一時的な組織-空隙マトリクス充填剤としてそのような空隙への天然組織の内殖の促進のために、使用されることがこれまで記載されてきた。特定のSAPは、米国特許第5,670,483号;第5,955,343号;第9,724,448号;第10,596,225号、および国際特許出願公開WO2014/136081;およびそれらの外国での等価物に記載されている。
【0004】
滅菌は、自己組織化ペプチド溶液を含むほとんどのバイオマテリアルの製造プロセスにおいて、非常に重要なステップである。PuraStat(登録商標)(RADA16=Ac-RADARADARADARADA-NH=配列番号1;約2.5%)は、滅菌のため習慣的に濾過され(例えば、国際特許出願公開番号WO2014/008400参照);しかしながら、より高い濃度でのPuraStat(登録商標)の粘度は、その濾過の主な障害であり、管材中での損失に加えて実質的なペプチド損失をもたらす。この滅菌のための方法では、平均孔径が0.22μmの滅菌フィルターである多孔質フィルターにSAPの溶液を強制的に通す(米国特許出願第2015/019735号)。別の方法として、一部の熱的に安定な自己組織化ペプチド溶液を、約121℃で約25分間のオートクレーブ処理によって滅菌することができる(米国特許出願第10/369,237号)。
【0005】
さらに、追加のエチレンオキシド滅菌ステップが、PuraStat(登録商標)製品の外側部分に関して必要とされる。さらにオートクレーブ処理は、その完全な熱分解により、溶液中のRADA16などのいくつかのSAPに使用できないことが発見された(米国特許出願公開第2017/0202986号)。このように、別の新しい滅菌法が、特にRADA16およびその他のSAPに関して損失を低減させるのに必要とされている。
【0006】
ちなみに、RADA16を含む自己組織化ペプチドのガンマ照射滅菌が先の刊行物(米国特許出願公開第2016/0317607号;段落[0052])に記載されているが;具体的な条件についても、RADA16を含む自己組織化ペプチドの構造および特性に対する照射の実際の効果についても、これまで記載されてこなかった。事実、ペプチド構造は、ガンマ線、X線および電子線などの照射によって発生した反応性ラジカル種によって変化する可能性がある。そのような構造変化は、アミノ酸組成、反応性残基の位置、およびおそらくは各高分子により獲得されたコンフォメーションを含む複数の要因によって、支配される可能性がある(Vieira R et al, Biol. Pharm. Bull. 2013, 36(4) 664-675)。例えば、その文献におけるペプチドの種々の配列とは無関係に、全ての試験された9種のペプチドは、15kGyまでのガンマ線照射により進行性の分解を示した。15kGyよりもさらに高い照射線量が滅菌プロセスに必要とされ得ることを考慮すれば、数多くのペプチドは、実質的な分解なしにガンマ線照射によって滅菌することができない。芳香族アミノ酸(即ち、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、ヒスチジン(H)、およびプロリン(P))ならびに硫黄含有アミノ酸(即ち、システイン(C))の側鎖は、反応性ラジカル種による攻撃に対して特に脆弱であることが周知である(Annu. Rev. Biochem., 62, 797-821 (1993)およびVieira R et al, Biol. Pharm. Bull. 2013, 36(4) 664-675)。背景技術によれば、下記のSAP:RADA16(Ac-RADARADARADARADA-NH(配列番号1))、KLD12(Ac-KLDLKLDLKLDL-NH(配列番号2))、およびIEIK13(Ac-IEIKIEIKIEIKI-NH(配列番号3))は、芳香族アミノ酸または硫黄含有アミノ酸を含まない。
【0007】
一方、照射滅菌は、自己組織化ペプチドの二次構造およびその繊維構造に影響を及ぼす可能性もある。記載されているように、RADA16、KLD12およびIEIK13はベータシートコンフォメーションを有し、これらの分子は自己組織化して、秩序だったナノ繊維構造を形成する。照射滅菌プロセスは、潜在的に、二次構造およびペプチドのナノ繊維構造を変化させる可能性があり、次いでそのレオロジー特性の望ましくない変化をもたらす可能性がある。
【0008】
したがって、自己組織化ペプチドと共に有利に作用する新しい滅菌法の必要性が存在する。以上に述べた理由のため、照射による滅菌はこれまで回避されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第5,670,483号明細書
【文献】米国特許第5,955,343号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】Vieira R et al, Biol. Pharm. Bull. 2013, 36(4) 664-675
【文献】Annu. Rev. Biochem., 62, 797-821 (1993)
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1。28kGyでのガンマ照射の前(図1A)および後(図1B)の、PuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)およびIEIK13 1.3%の外見。
【0012】
図2-1】図2。40kGyでガンマ照射する前(A)およびガンマ照射した後(B)、ならびに121℃で20分間オートクレーブした後(C)の、PuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の質量スペクトル。
図2-2】同上。
【0013】
図3図3。(A)25kGyでX線照射した後および(B)40kGyでX線照射した後の、PuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の質量スペクトル。
【0014】
図4図4。(A)25kGyで電子線照射した後および(B)40kGyで電子線照射した後の、PuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の質量スペクトル。
【0015】
図5-1】図5。(A)照射前;(B)40kGyでガンマ照射した後;(C)25kGyでX線照射した後;(D)40kGyでX線照射した後;(E)25kGyで電子線照射した後;および(E)40kGyで電子線照射した後の、IEIK13 1.3%の質量スペクトル。
図5-2】同上。
図5-3】同上。
【0016】
図6-1】図6。(A)照射前;(B)23kGyでガンマ照射した後;(C)25kGyでX線照射した後、(D)40kGyでX線照射した後、(E)25kGyで電子線照射した後、および(F)40kGyで電子線照射した後の、QLEL12 0.15%の質量スペクトル。
図6-2】同上。
図6-3】同上。
図6-4】同上。
【0017】
図7図7。40mmコーン・プレートを用いた歪み0.1%での、ガンマ照射したPuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の周波数試験(N=3、バーはSDを表す)。
【0018】
図8図8。40mmコーン・プレートを用いた歪み0.1%での、ゲル化後にガンマ照射したPuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の周波数試験。試料は、DMEMで20分間処理した(N=3、バーはSDを表す)。
【0019】
図9図9。40mmコーン・プレートを用いた周波数1Hzおよび歪み0.1%での、ガンマ照射したPuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)のチキソトロピー試験。初期貯蔵弾性率(G’)を、1000秒-1で1回目の剪断前に1分間測定した。1分間にわたる1回目の剪断の後、G’回復を1時間にわたり記録したところ、PuraStat(登録商標)のチキソトロピー挙動を示した。この試験を二連で行った。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の概要
本開示では、自己組織化ペプチド溶液に対する、照射による滅菌の効果を、特に下記のペプチド:PuraStat(登録商標)(Ac-RADARADARADARADA-NH、RADA16(配列番号1)、IEIK13(Ac-IEIKIEIKIEIKI-NH(配列番号3))、およびQLEL12(Ac-QLELQLELQLEL-NH(配列番号4))を用いて評価した。ガンマ照射滅菌は、予想された顕著な分解なしに、ある特定の自己組織化ペプチド溶液およびヒドロゲルのレオロジー特性を高め、一方、ある特定のその他のペプチドは、予測される著しい分解および粘度の降下をガンマ照射後に示し(即ち、RADA16およびIEIK13とは異なり)、一方、例えば別の自己組織化ペプチド、QLEL12(Ac-QLELQLELQLEL-NH(配列番号4)は、照射後に著しく分解されたことを、予期せず見出した。本発明はさらに、同じ結果を、少なくともそれぞれのペプチドに関して、特にX線および電子線を含むその他の類似の照射滅菌法で期待できるという、予言的知見に基づく。このように、一部の実施形態では、自己組織化ペプチド溶液を滅菌する方法は:
a) ほぼ中性のpHで生体組織に適用したときにヒドロゲルを形成することが可能な自己組織化ペプチドの溶液を含む1つまたは複数の容器を照射機内に配置すること;および
b) その所望の生物学的および/またはレオロジー特性(複数可)が同じレベルで維持されるかまたは改善されながら、ペプチドの実質的な分解なしにペプチド溶液が滅菌されるように、所定の線量でガンマ線、X線および/または電子線照射に容器を曝露すること
を含む。
【0022】
一部の実施形態では、ペプチドは、RADA16、KLD12、およびIEIK13からなる群より選択される。関連する実施形態では、そのようなペプチドは、これらのペプチドの生物学的特性の実質的な劣化および/または実質的な負の変化なしに、15~50kGy、好ましくは15~40kGyの線量、より好ましくは所望の無菌性保証水準(SAL)をもたらす最小線量に、曝露される。一部の実施形態ではペプチド溶液は、ガンマ線、X線、または電子線によって照射される。一部の実施形態では、照射後の溶液中の総ペプチドの全体的な分解は、照射前のペプチドの量の20%を超えず、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を超えない。一部の実施形態では、所望の生物学的または物理的特性(複数可)は:止血性(hemostatic)、抗接着、再出血の予防、抗狭窄、組織閉塞、貯蔵弾性率(例えば、一部の実施形態では、照射後にゲル化溶液の貯蔵弾性率が少なくとも10%、少なくとも15%、または少なくとも20%増大する)、および粘度からなる群より選択され、組織空隙充填特性は、照射後に、許容されるまたは改善されたパラメーターの範囲内で維持される。一部の実施形態では、照射線量は、少なくとも10-5、好ましくは10-6、またはそれよりも低い無菌性保証水準(SAL)を実現する。他の実施形態では、以下に実施例で記載する生物汚染度試験を使用して、照射前のペプチド溶液の許容される汚染レベルは、1000、500、100、15、10、9、5、2、1.5、1CFU、またはそれよりも低い。一部の実施形態では、照射後の溶液中のインタクトな(「主要」または「完全長」)ペプチドの分解生成物の濃度は、0.1%~5%の範囲である。一部の実施形態では、照射後のペプチド溶液のpHは、約1.8~3.5の範囲である。一部の実施形態では、溶液の容器が、アダプターノズルを持つまたは持たないプラスチックシリンジである。そのような実施形態では、パッケージのプラスチックおよびゴムの部分もそれらの所望の物理的特性を維持することが確実になるように注意を払う。プラスチックシリンジのある程度の黄変が予測される可能性がありそれが普通であるが、ゴム引きされたあらゆる材料は、そのeプラスチック特性を許容されるレベルで保存すべきである。
【0023】
一部の実施形態では、ゲル化溶液は、その貯蔵弾性率が低減されるかまたは回復されるように、さらに剪断(sheering)に供される。
【0024】
したがって本発明は、自己組織化ペプチドに関する滅菌法を提供する。本発明の方法によれば、一部の実施形態では、例えば外科手術中または出血を伴う外傷後に、生体組織に溶液をさらに適用する。
【0025】
本発明の詳細な説明
上述のように、本開示では、自己組織化ペプチド溶液に対する照射による滅菌の効果を、特に下記のペプチド:PuraStat(登録商標)(Ac-RADARADARADARADA-NH(配列番号1);RADA16)、IEIK13(Ac-IEIKIEIKIEIKI-NH(配列番号3))、およびQLEL12(Ac-QLELQLELQLEL-NH(配列番号4))を用いて評価した。一部の実施形態では、自己組織化ペプチド溶液を滅菌する方法は:
a) ほぼ中性のpHで生体組織に(例えば、in situで)適用させたときにヒドロゲルを形成することが可能な自己組織化ペプチドの溶液を含む1つまたは複数の容器を照射機内に配置すること;および
b) その所望の生物学的および/または物理的特性(複数可)が実質的に同じレベルで維持されるかまたは改善されながら、ペプチドの実質的な分解なしに、事前に決定された無菌性保証水準(SAL)までペプチド溶液が滅菌されるように、所定の線量でガンマ線、X線および/または電子線照射に容器を曝露すること
を含む。
【0026】
ガンマ照射滅菌は、いかなる顕著な分解も引き起こすことなく、ある特定の自己組織化ペプチド溶液およびヒドロゲルのレオロジー特性を高め、一方、ある特定のその他のペプチドは、著しい分解および粘度の降下をガンマ照射後に示し、即ち、RADA16およびIEIK13とは異なり、別の自己組織化ペプチドQLEL12(Ac-QLELQLELQLEL-NH(配列番号4))は、照射後に著しく分解したことを、予期せず見出した。本発明はさらに、同じ結果を、少なくともそれぞれのペプチドに関して、特にX線および電子線を含むその他の類似の照射滅菌法で期待できるという、予言的知見に基づく。好ましい実施形態では、本発明の組成物および方法は、所望の生物学的特性(複数可)、例えば、止血性、抗接着、再出血の予防、抗狭窄、組織閉塞、貯蔵弾性率、粘度、および組織空隙充填特性などを維持するかまたは改善する。例えば、一部の実施形態では、貯蔵弾性率は、少なくとも5%、10%、15%、20%、またはそれよりも多く増大する。そのような増大が、ある特定の適用で望ましくない場合、ゲルは、当技術分野で公知の方法による希釈または剪断によってさらに菲薄化され、それを溶液にするか、または他の方法でその貯蔵弾性率を低減させることができる。ある特定の実施形態では、照射されたSAPの溶液は、透明であり粘稠なままである。
【0027】
一部の実施形態では、SAPは、式I~IV:
((Xaaneu-Xaa(Xaaneu-Xaa (I)
((Xaaneu-Xaa(Xaaneu-Xaa (II)
((Xaa-Xaaneu(Xaa-Xaaneu (III)
((Xaa-Xaaneu(Xaa-Xaaneu (IV)
の1つまたは複数に準拠するアミノ酸残基の配列を含み、
Xaaneuは、中性の電荷を有するアミノ酸残基を表し;Xaaは、正電荷を有するアミノ酸残基を表し;Xaaは、負電荷を有するアミノ酸残基を表し;xおよびyは、独立して、1、2、3、または4の値を有する整数であり;およびnは、1~5の値を有する整数である。
【0028】
一部の実施形態では、SAPは、細胞外マトリクスと相互作用するアミノ酸配列をさらに含み、このアミノ酸配列は、SAPを細胞外マトリクスに係留する。
【0029】
一部の実施形態では、SAP中のアミノ酸残基は、天然に存在するまたは天然に存在しないアミノ酸残基であり得る。天然に存在するアミノ酸は、標準遺伝子コードによりコード化されたアミノ酸残基、ならびに非標準アミノ酸(例えば、L-立体配置の代わりにD-立体配置を有するアミノ酸)、ならびに標準アミノ酸の修飾により形成することができるようなアミノ酸(例えば、ピロリシンまたはセレノシステイン)を含むことができる。適切な天然に存在しないアミノ酸には、限定するものではないが、D-アロイソロイシン(2R,3S)-2-アミノ-3-メチルペンタン酸、L-シクロペンチルグリシン(S)-2-アミノ-2-シクロペンチル酢酸が含まれる。
【0030】
他の実施形態では、自己組織化し得る別のクラスの材料は、ペプチド模倣体である。本明細書で使用されるペプチド模倣体は、ペプチド構造を模倣する分子を指す。ペプチド模倣体は、その親構造、ポリペプチドに類似した一般的な特徴、例えば両親媒性を有する。そのようなペプチド模倣材料の例は、Moore et al., Chem. Rev. 101(12), 3893-4012 (2001)に記載されている。ペプチド模倣材料は、4つのカテゴリー:α-ペプチド、β-ペプチド、γ-ペプチド、およびδ-ペプチドに分類することができる。これらのペプチドのコポリマーも使用することができる。α-ペプチドのペプチド模倣体の例には、限定するものではないが、N,N’-連結オリゴ尿素、オリゴピロリノン、オキサゾリジン-2-オン、アザチド、およびアザペプチドが含まれる。β-ペプチドの例には、限定するものではないが、β-ペプチドフォルダマー、α-アミノキシ酸(aminoxy acid)、硫黄含有β-ペプチド類似体、およびヒドラジノペプチドが含まれる。γ-ペプチドの例には、限定するものではないが、γ-ペプチドフォルダマー、オリゴ尿素、オリゴカルバメート、およびホスホジエステルが含まれる。δ-ペプチドの例には、限定するものではないが、アルケン系δ-アミノ酸およびカルボペプトイド(carbopeptoid)、例えばピラノース系カルボペプトイドおよびフラノース系カルボペプトイドが含まれる。
【0031】
ある特定の実施形態では、SAPは、Arch Therapeutics,Inc.により作製された、AC5(登録商標)、AC5-V(登録商標)、AC5-G(商標)、またはAC1としても公知のTK45である(www.archtherapeutics.com参照)。
【0032】
一部の実施形態では、SAP溶液は、「貯蔵および/または薬物送達システム」、例えば本明細書に記載されるペプチド組成物に適した貯蔵および/または送達システムなど、例えばバイアル、瓶、ビーカー、バッグ、シリンジ、アンプル、カートリッジ、リザーバ、またはLYO-JECTS(登録商標)に含有される。貯蔵および/または送達システムは、上記のものの中で1つになっている必要はなく、別個のものでもよい。特定の実施形態では、SAPは、約10ml、約7.5ml、約5、約2.5、約1、または約0.5mlのSAP溶液を含有するプラスチックシリンジで提供される。ある特定の実施形態では、プラスチック(例えば、プラスチックシリンジ)は、照射後に黄色がかった色合いを獲得していてもよく、これは通常のことであり、内部に含有されるSAP溶液の生物医学特性に影響を及ぼさない。
【0033】
一部の実施形態では、そのような貯蔵および送達システムは、「ノズル」をさらに含有していてもよく、これは、しばしば狭い端部および広い端部を備え、本明細書に記載される送達デバイス上に固定するよう適合された、一般に細い円筒状の物体を指す。一部の実施形態では、「ノズル」および「カニューレ」という用語は同義で使用される。ノズルは、2つの接続点または端部、即ち送達システム(例えば、シリンジ)に接続する第1の接続点または端部と、医薬組成物の送達が投与される点としてまたは二次デバイス(例えば、カテーテル)に接続される点として働き得る第2の接続点で構成される。
【0034】
このように本発明は、自己組織化ペプチドの滅菌溶液を作製する方法を提供する。本発明は、生体組織に例えばin situで、例えば外科手術中もしくは出血を伴う外傷後に適用するそのような滅菌溶液の使用、またはそのように滅菌された溶液の、その他の疾患もしくは状態の処置もしくは予防;例えば、国際特許出願WO2014/133027に記載されるようにまたは米国特許出願公開第2011/02101541号に記載されるように、組織損傷の閉鎖部位に関して;または米国特許出願公開第2016/0287744号に記載されるように、血管塞栓術に関して;または米国特許出願第16/085,803号に記載されるように、脳脊髄液漏出の閉鎖に関して、または国際特許公開出願番号WO2013/133414に記載されるように、粘膜促進剤(mucosa elevating agent)として;または国際特許公開出願番号WO2014/141160に記載されるように、胆汁漏出閉鎖に関して;または米国特許出願第16/885,753号に記載されるように、組織の抗接着に関して;または米国特許出願第16/085,804号に記載されるように、膵フィステル閉鎖に関して;または米国特許出願第15/124,639号に記載されるように、気管支閉塞に関して;または国際特許出願公開番号WO2015/138,478に記載されるように、肺大気胞虚脱の処置に関して;または国際特許出願公開番号WO2015/019,738に記載されるように、肺漏出の処置に関して;または国際特許出願公開番号WO2015/196020に記載されるように、歯科的骨空隙(dental bone void)の充填に関して;または米国特許出願公開第2017/0128622号に記載されるように、骨空隙の充填に関して;または米国特許出願第16/312,878号に記載されるように、内視鏡的切除後の食道構造の予防に関して、および前述の刊行物のいずれかの外国での等価物、および当技術分野で公知のその他の方法における使用も提供する。したがって、一部の実施形態では、本発明は、前述の疾患または状態を処置するかまたは予防するための、自己組織化ペプチドの滅菌溶液の使用であって、滅菌溶液が本発明の方法によって得られる、使用を提供する。ある特定のそのような実施形態では、自己組織化ペプチド溶液は、実質的に、図2~6の対応する照射後プロファイルで示される通りのおよび/または実施例に記載される通りの照射後質量分析(MS)プロファイルを示す。例えばPuraStat(登録商標)の場合、追加の主なMピークは、836/1670、1100、および1513m/zで観察される。
【0035】
平均生物汚染度<1,000CFUは、滅菌前のPuraStat(登録商標)の典型的な無菌性である。この場合、10-6の無菌性保証水準SALを実現するために、照射線量の範囲は、25kGy~40kGyの間であるべきである。ガンマおよびX線法により、総ペプチドの最大約20%が滅菌プロセス中に分解し得る。電子線法では、総ペプチドの最大約10%が滅菌プロセス中に分解し得る。PuraStat(登録商標)レオロジーは、ガンマ線、X線による滅菌後に増大し、このことは、その止血有効性を正にまたは負に変化させる可能性がある。しかしながらPuraStat(登録商標)レオロジーは、電子線滅菌後に変化しない。
【0036】
ある特定の実施形態では、以下の実施例で記載される生物汚染度試験を使用して、照射前のペプチド溶液の汚染の許容可能レベルは、生成物単位当たり<1000、<500、<100、<15、<10、<9、<5、<2、<1.5、<1CFU、またはそれより低くてもよい。滅菌前の好ましい生物汚染度は<9CFUである。このように、9CFUより下では、照射線量の範囲は、15kGy~24kGyの間で選択することができる。照射線量範囲の下端は、照射前生成物の生物汚染度により決定されてもよいが、その範囲の上端は、照射機の構成および選択に基づいて選択され、所望の無菌性保証水準(SAL)を実現するのに必要な最小の値に設定される。
【0037】
ガンマおよびX線法により、ペプチドの最大10%が滅菌プロセス中に分解し得る。電子線法では、ペプチドは、滅菌プロセス中に著しく分解しないと考えられる。この場合であっても、PuraStat(登録商標)レオロジーは、ガンマ線およびX線滅菌後に増大し、その止血有効性を正にまたは負にいくらか変化させ得る。このようにPuraStat(登録商標)レオロジーは、電子線滅菌後に変化せず、したがって、レオロジー特性およびその止血特性の変化がないまたは最小限に抑えられることが望まれる場合、好ましいと考えられる。したがって電子線照射は、PuraStat(登録商標)に関して特に好ましいと考えられる。
【0038】
一部の実施形態では、照射後の溶液中の、分解した完全長ペプチド(「主要ペプチド」)の濃度は、0.1%~5%、0.1%~4%、0.1%~3%、0.1%~2.5%、0.1%~2%の範囲であり、または0.1%、もしくは1.5%、もしくはそれよりも低い。一部の実施形態では、RADA16、KLD12、またはIEIK13の場合、溶液は、その照射前生物汚染度に依存し得るが、例えば、15~50kGy、25kGy+/-15kGy、40kGy~10kGy、35kGy~10kGy、30kGy~10kGy、15kGy~24KGy、25kGy~10kGy、20kGy~10kGy、10kGy~15kGy、および12kGy~14kGyなどの総線量で照射される。12~14kGy程度の線量がガンマ照射に最適であるように見えるが、ペプチド溶液は、X線または電子線と同様の線量で照射されてもよい。
【0039】
一部の実施形態では、「貯蔵および/または薬物送達システム」、例えばブリスターパックに含有されるプラスチックシリンジは、少なくとも、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000単位またはそれよりも多くのバッチで一度に照射される。一般に、照射バッチにおける任意の試料の全曝露は、本明細書に記載されるように、好ましくは100kGy、より好ましくは60kGy、最も好ましくは50kGyを超えない、またはそれよりも少ない。
【0040】
一部の実施形態では、照射後の主要ペプチドの分解(「完全長ペプチドの分解」とも呼ばれる)は、照射前のペプチドの量の20%を超えず、好ましくは、18%、16%、14%、12%、10%、8%、5%、3%、または1%を超えない。一部の実施形態では、総線量は、溶液の必要な無菌性を達成するのに十分な時間をかけて達成される。例えば、40kGyの線量は、放射線強度6.3kGy/時にて約6時間21分で送達することができる。その他の組合せは、実施例1に見出すことができる。一部の実施形態では、一定線量を数時間にわたり、例えば約10、約9、約8、約7、約6、約5、約4、約3、または約2時間送達した。
【0041】
一部の実施形態では、試料にガンマ線を、例えば約23、約25、約28もしくは約40kGyの線量、または上記にて示されるその他の線量で、例えばGammacell 220(登録商標)High Dose Rate Co-60 Irradiator、VPTrad(www.vptrad.com;MDS Nordion、Ottawa、Canada)などの機器により照射する。
【0042】
他の実施形態では、試料にX線を、約25kGy~約40kGyの線量または上記にて示される線量で、Mevex加速器(設定:10MeV、20kWで)により照射する。
【0043】
一般に、X線周波数範囲は3×1016~3×1019Hzであり、一方、ガンマ線周波数の周波数範囲は3×1019またはそれよりも高い。
【0044】
他の実施形態では、試料に、電子線を約25~約40kGyで、Mevex加速器(設定:10MeV、20kW)により照射する(mevex.com/linacs/10mev-system-e-beam-sterilization-for-medical-devices/参照)。
【0045】
一部の実施形態では、所望の生物学的および物理的性質(複数可)は、止血性、抗接着、再出血の予防、抗狭窄、組織閉塞、貯蔵弾性率、粘度、および組織空隙充填特性、粘膜亢進(mucosa elevation)、および創傷治癒からなる群より選択される。
好ましい実施形態では、照射線量は、少なくとも10-5、10-6、またはそれよりも低い無菌性保証水準(SAL)を達成する。
【0046】
本発明は、本明細書に記載される方法によって作製された自己組織化ペプチドの滅菌溶液も提供する。例えば外科手術中または出血を伴う外傷後に、実質的に中性のpHの部位にそのような生体組織に溶液を適用することを含むことにより、ゲル化がもたらされる。一部の実施形態では、そのような部位は内部にあり、一方、他の実施形態では、部位は、表面縫合、切り傷または擦過などの外部とすることができる。
【0047】
本発明のその他の態様は、実施例および添付の特許請求の範囲を含めた本明細書の記載に基づき、当業者に明らかである。
【実施例
【0048】
(実施例1:照射条件)
試料に、ガンマ線を23、25、28、および40kGyで、VPTrad Gammacell 220(登録商標)High Dose Rate Co-60 Irradiatorにより照射した。一部の実施形態では、40kGy照射のための試行線量率(run dose rate)および持続時間は、それぞれ6.30kGy/時および6時間20分58秒であった。他の実施形態では、28kGy照射のための試行線量率および持続時間は、それぞれ4.40kGy/時および6時間22分31秒であった。他の実施形態では、25kGy照射のための試行線量率および持続時間は、それぞれ6.58kGy/時および3時間47分42秒であった。他の実施形態では、23kGy照射のための試行線量率および持続時間は、それぞれ6.58kGy/時および3時間29分29秒であった。
【0049】
他の実施形態では、試料に、25kGyおよび40kGyのX線を、Mevex加速器(10MeV、20kW)で照射した。
【0050】
他の実施形態では、試料に、25および40kGyの電子線を、Mevex加速器(10MeV、20kW)で照射した。
【0051】
(実施例2:HPLC条件)
HPLC試験を、照射試験後の主要ペプチド含量を評価するために行った。Agilent HPLC 1100(Agilent Technologies)を、この研究に使用した。カラム温度を25℃に保持した。
【0052】
RADA16試料では、溶媒Aは0.1%TFAを含む水であり、溶媒Bは0.1%TFAを含む80%アセトニトリルであった。溶媒Bの勾配を、20分で10%~40%に、さらに5分間40%に、25℃で制御した。Agilent Zorbax 300SB-C18カラム(4.6mm×250mm、5μm、300Å)を、この試験で使用した。PuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)(40mg)を、10μLのDHOと混合し、混合物をボルテックスした。混合物をさらに、500μLのギ酸と混合し、ボルテックスした。次いでこの混合物をDHO(4,450μL)と混合し、ボルテックスした。20μLの試料を、Agilentオートサンプラーを使用して注入した。
【0053】
IEIK13試料では、溶媒Aは0.1%TFAを含む水であり、溶媒Bは0.1%TFAを含む90%アセトニトリルであった。溶媒Bの勾配を、8分で20%から43%に、8~9.5分の間で43%から70%に、および9.5~30分の間で70%から95%に、さらに5分間95%に、25℃で制御した。Agilent PLRP-Sカラム(4.6mm×250mm、8μm、300Å)を、この試験で使用した。IEIK13の1.3%溶液を、0.1%TFAを含む水で0.075%に希釈し、混合物をボルテックスした。35μLの試料を、Agilentオートサンプラーを使用して注入した。
【0054】
QLEL12試料では、溶媒Aは水であり、溶媒Bは80%アセトニトリルであった。溶媒Bの勾配は、15分で20%から80%に、さらに7分間80%に、25℃で制御した。Agilent PLRP-Sカラム(4.6mm×250mm、8μm、300Å)をこの試験に使用した。0.15%w/vのQLEL12溶液をDHOで0.01%に希釈し、ボルテックスした。50μLの試料を、Agilentオートサンプラーを使用して注入した。
【0055】
(実施例3:質量分析条件)
質量分析試験を、照射滅菌後のペプチドの分解を調査するために実施した。Agilent LC/MSDイオントラップ質量分析計を、この試験に使用した。試料溶液を、HPLC試料について説明したのと同様にして調製した。各試料を、シリンジポンプで9μL/分で注入した。質量スペクトルを1分間記録した。
【0056】
(実施例4:照射された自己組織化ペプチドのレオロジー特性)
試料のレオロジー特性を、40mmコーンおよびプレートを持つレオメーター(DHR1、TA Instruments)を使用して評価した。ペプチド溶液(700μL)をレオメーターのプレートに配置し、過剰な溶液を金属のへらにより静かに除去した。測定を、37℃で2分間の緩和時間後に行った。
【0057】
周波数試験を、0.1Hzから10Hzまで、0.1%の歪みで行った。ゲル化後の周波数試験は、3mLのDMEMをコーンおよびプレートの周りに静かに添加した後、同じ条件下で20分間行なった。
【0058】
チキソトロピー試験を、下記の方法で実施した。剪断速度1000秒-1を1分間適用して、全てのレオロジー特性をリセットし、次いで1Hzの周波数を0.1%の歪みで60分間適用して、チキソトロピー挙動を記録した。この手順を繰り返し、次いでチキソトロピー特性を分析した。
【0059】
(実施例5:外見およびpH)
ガンマ照射後のPuraStat(登録商標)の外見およびpHを、図1および表1(N=3)に示す。
表1. ガンマ照射後のPuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の外見およびpH。
【表1】
ガンマ照射後のPuraStat(登録商標)の外見およびpHは、ごく僅かしか変化しなかった。PuraStat(登録商標)対照のpHは、2.2であった。23、25、28、および40kGyでのガンマ照射後のPuraStat(登録商標)のpHは、2.3であった。
【0060】
ガンマ照射後のIEIK13 1.3%の外見およびpHも、図1および表2に示す。
表2. ガンマ照射後のIEIK13 1.3%、KLD12 1.3%、およびQLEL12 0.15%の外見およびPH。(N=3)
【表2-1】
【表2-2】
【0061】
ガンマ照射後のIEIK13(1.3%)の外見およびpHは、変化しなかった。IEIK13対照のpHは、3.0であった。28kGyおよび40kGyでのガンマ照射後のIEIK13(1.3%)のpHは、3.0であった。
【0062】
ガンマ照射後のKLD12(1.3%)およびQLEL12(0.15%)の外見およびpHも、表2に示した。ガンマ照射後のKLD12(1.3%)の外見およびpHは、変化しなかった。KLD12対照のpHは、2.2であった。40kGyでガンマ照射後のKLD12(1.3%)のpHは、2.2であった。
【0063】
しかしながら、ガンマ照射後のQLEL12の外見およびpHは、有意に変化した。QLEL12対照のpHは、7.0であった。23、25、および40kGyでのガンマ照射後のQLEL12のpHは、それぞれ6.7、6.5、および5.9であり、試料は、ガンマ照射後に水様になっていた。
【0064】
X線および電子線照射後のPuraStat(登録商標)の外見およびpHも、表3に示す(N=3)。
表3. X線および電子線照射試験後のPuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の外見およびpH。(N=3)
【表3】
【0065】
X線または電子線照射後のPuraStat(登録商標)の外見およびpHは、ごく僅かしか変化しないまたは変化しないままであった。PuraStat(登録商標)対照のpHは2.2であった。25kGyおよび40kGyでのX線照射後のPuraStat(登録商標)のpHは、2.3であった。25kGyおよび40kGyでの電子線照射後のPuraStat(登録商標)のpHは、2.2であった。
【0066】
X線または電子線照射後のIEIK13 1.3%の外見およびpHも、表4に示す。
表4. X線または電子線照射後のIEIK13 1.3%の外見およびpH (N=3)。
【表4】
【0067】
X線または電子線照射後のIEIK13 1.3%の外見およびpHは、変化しなかった。IEIK13 1.3%対照のpHは3.0であった。28kGyおよび40kGyでのX線または電子線照射後のIEIK13 1.3%のpHは、3.0であった。
【0068】
X線または電子線照射後のKLD12 1.3%の外見およびpHも、表5に示す。
表5. X線または電子線照射後のKLD12 1.3%の外見およびpH (N=3)。
【表5】
【0069】
X線または電子線照射後のKLD12 1.3%の外見およびpHは、変化しなかった。KLD12 1.3%対照のpHは2.2であった。25kGyおよび40kGyでX線または電子線照射後のKLD12 1.3%のpHは、2.2であった。
【0070】
X線または電子線照射後のQLEL12 0.15%の外見およびpHも、表6に示す。
表6. X線および電子線照射後のQLEL12 0.15%の外見およびpH (N=3)。
【表6-1】
【表6-2】
【0071】
ガンマ、X線、または電子線照射後のQLEL12の外見は、有意に変化した。QLEL12対照のpHは、7.0であった。25および40kGyでガンマ照射後のQLEL12のpHはそれぞれ6.5および5.9であり、25および40kGyでのX線照射後のpHはそれぞれ6.3および6.5であり、25および40kGyで電子線照射後のpHはそれぞれ6.6および6.5であった。QLEL12溶液は、ガンマ、X線または電子線照射後に水様になった。
【0072】
まとめると、RADA16、IEIK13、およびKLD12は、25~40kGy付近でのガンマ、X線、および電子線照射後に変化しないままであったが、QLEL12はそうではなかった。したがって、QLEL12とは異なって、RADA16、IEIK13、およびKLD12は、ガンマ、X線、および電子線照射技法を使用して滅菌することができる。
【0073】
(実施例:HPLCおよび質量分析による特徴付け)
RADA16、IEIK13、およびQLEL12に関するHPLC試験を、ガンマ、X線、および電子線照射の前および後に行い、それらの主要ペプチド含量に関する結果を表7~10に列挙した。
表7. ガンマ照射の前および後のPuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の主要ペプチド含量に関するHPLC試験(N=3、平均値±SD)。
【表7】

*:PuraStat(登録商標)対照のデータよりも有意に低い場合を示す(p<0.05である場合、両側Student t検定)。
表8. X線および電子線照射の前および後のPuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の主要ペプチド含量に関するHPLC試験(N=3、平均値±SD)。
【表8】

*:PuraStat(商標登録)対照のデータよりも有意に低い場合を示す(p<0.05である場合、両側Student t検定)。
表9. ガンマ、X線、および電子線照射の前および後のIEIK13 1.3%の主要ペプチド含量に関するHPLC試験(N=3、平均値±SD)。
【表9-1】

【表9-2】

表10. ガンマ、X線、および電子線照射の前および後のQLEL12 0.15%の主要ペプチド含量に関するHPLC試験(N=3、平均値±SD)。
【表10】

*:QLEL12対照のデータよりも有意に低い場合を示す(p<0.05である場合、両側Student t検定)。
【0074】
RADA16対照の主要ペプチド含量は78.3%であった。23、25、28、および40kGyでのガンマ照射後のRADA16の主要ペプチド含量は、それぞれ75.5、74.6、68.5、および69.7%であった。25および40kGyでのX線照射後のRADA16の主要ペプチド含量は、それぞれ73.8および71.9%であった。25および40kGyでの電子線照射後のRADA16の主要ペプチド含量は、それぞれ76.0および70.0%であった。
【0075】
IEIK13対照の主要ペプチド含量は、99.6%であった。40kGyでのガンマ照射後のIEIK13の主要ペプチド含量は、99.8%であった。25および40kGyでのX線照射後のIEIK13の主要ペプチド含量は、それぞれ99.8および99.9%であった。25および40kGyでの電子線照射後のIEIK13の主要ペプチド含量は、それぞれ99.6および99.8%であった。
【0076】
QLEL12対照の主要ペプチド含量は、90.5%であった。しかしながらQLEL12は、照射滅菌後にその主要ペプチド含量に有意な減少を示した。40kGyでのガンマ照射後のQLEL12の主要ペプチド含量は、40.7%であった。25および40kGyでのX線照射後のQLEL12の主要ペプチド含量は、それぞれ57.0および47.3%であった。25および40kGyでの電子線照射後のQLEL12の主要ペプチド含量は、それぞれ51.9および55.6%であった。これらの結果は、QLEL12と比較して、ガンマ、X線、および電子線照射後にRADA16およびIEIK13が比較的変化しないままであったことを実証する。
【0077】
RADA16の測定された分子量は1712であり、これはその計算された分子量に一致する(図2)。質量分析は、ガンマ、X線、および電子線照射後に、RADA16が分解されなかったことを実証した(図2~4)。しかしながらRADA16は、オートクレーブ処理中に完全に分解した。
【0078】
照射は、オートクレーブとは異なる低温滅菌技法である。両方の滅菌技法は、高エネルギー(即ち、放射線および熱)を、滅菌中にRADA16などの自己組織化ペプチドに提供するが、照射滅菌は、RADA16分子の実質的な分解を誘発しなかった。
【0079】
しかしながら、全てのガンマ、X線、および電子線で照射されたPuraStat(登録商標)の質量スペクトルは、照射前には観察されないいくつかのピークを示し、一方、それらの中で顕著な相違は観察されなかった。質量スペクトルの概要を表11に列挙する。
表11. 照射滅菌プロセス後のPuraStat(登録商標)の質量分析データ。
【表11-1】
【表11-2】
*:約4年間、2~8℃で貯蔵された。
:全てのPuraStat(登録商標)試料に40kGyで照射した(ガンマ線、X線、および電子線で)
【0080】
対照PuraStat(登録商標)は、572、857、および1713にMピークを示し、これらは主要ペプチドAc-(RADA)-NH(配列番号1)に割り当てられる。対照PuraStat(登録商標)は、502、665/1329、916、1143、および1229にその他のMピークも示し、これらはそれぞれARADA-NH(配列番号5)、ARADARADARADA-NH(配列番号6)、ARADARADA-NH(配列番号8)、ARADARADARA(配列番号10)、Ac-RADARADARAD(配列番号11)と推定される。
【0081】
表12は、PuraStat(登録商標)が2~8℃で約4年間貯蔵されたときの、Ac-(RADA)-NH(配列番号1)の分解のパターンを示す。そのパターンから、本発明者らは、分解が主に~RADとA~の間の点で生じることを見出した。
【0082】
一方、照射されたPuraStat(登録商標)は、836/1670、1100、および1513に追加のMピークを示し、これらはそれぞれ(RADA)-NH(配列番号7)、ADARADARADA-NH(配列番号9)、およびADARADARADARADA-NH(配列番号12)と推定される。
【0083】
表13は、PuraStat(登録商標)が照射により滅菌されたときの、Ac-(RADA)-NH(配列番号1)の分解の追加のパターンを示す。特に、836および1670でのピークは、主要な追加のピークの1つであり、これはRADARADARADARADA-NH(配列番号7)を表す。これは、照射がPuraStat(登録商標)の追加の分解を、アセチル基(Ac)とRAD~との間の点で引き起こす可能性があることを意味する。1100および1513でのピークも、主要な追加のピークの1つであり、これはADARADARADA-NH(配列番号9)、およびADARADARADARADA-NH(配列番号12)を表す。これは照射が、PuraStat(登録商標)の追加の分解を、~RとAD~との間の点で引き起こす可能性があることを意味する。
表12. Ac-(RADA)-NH (配列番号1)の分解のパターン(PuraStat(登録商標)は、2~8℃で約4年間貯蔵した)
【表12-1】
【表12-2】
表13. PuraStat(登録商標)が照射により滅菌されたときのAc-(RADA)-NHの分解の追加のパターン
【表13】
【0084】
また、IEIK13の分子量は1622で測定され、これはその計算された分子量に一致する(図5)。質量スペクトル分析は、IEIK13が、ガンマ、X線、および電子線照射後にわずかに分解しただけであったことを実証した。
【0085】
さらに、QLEL12のモル質量は1506で測定され、これはその計算されたモル質量に一致する(図6)。しかしながら質量スペクトル分析は、ガンマ、X線、および電子線照射後に、QLEL12が著しく分解したことを実証した。
【0086】
(実施例7:レオロジー特性)
ISO 11137(ヘルスケア製品の滅菌-放射線)に基づき、放射線滅菌方法は、10-6の無菌性保証水準SALを実現するための滅菌線量として、25kGyまたは15kGy照射で使用することができる。
【0087】
ゲル化の前および後それぞれの、ガンマ照射滅菌したPuraStat(登録商標)に関して、レオロジーの結果を図7および8に示す。決定されたレオロジーの結果を表14~15に列挙する。
表14. 40mmコーン・プレートを用いた歪み0.1%での、ガンマ照射によるPuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の周波数試験からの結果
【表14】
*:対照と比較してp<0.05である場合を示す(両側Student t検定)。
:その他と比較してp<0.05である場合を示す(両側Student t検定)。
【0088】
23kGy、25kGy、および40kGyでガンマ照射されたPuraStat(登録商標)は、PuraStat(登録商標)対照よりも高い貯蔵弾性率を示した(図7および表14)。40kGyでガンマ照射されたPuraStat(登録商標)は、23および25kGyでガンマ照射されたPuraStat(登録商標)よりも有意に高い貯蔵弾性率を示した。また、25kGyでガンマ照射されたPuraStat(登録商標)は、23kGyでガンマ照射されたPuraStat(登録商標)よりも僅かに高い貯蔵弾性率を示した。このことは、ガンマ照射がPuraStat(登録商標)のレオロジー特性に正の影響を及ぼしたことを示す。23kGy(471.1±37.2Pa)、25kGy(501.0±40.6Pa)、および40kGy(592.4±36.2Pa)でガンマ照射されたPuraStat(登録商標)は、PuraStat(登録商標)対照(322.9±21.0Pa)と比較して、それぞれそれらの貯蔵弾性率の46%、55%、および83%増大を示した。
表15. ゲル化後の、ガンマ照射によるPuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の周波数試験からの結果。試料を、40mmコーン・プレートを用いた0.1%の歪みで20分間、DMEMで処理した。
【表15】
*:対照と比較してp<0.05である場合を示す(両側Student t検定)。
:その他と比較してp<0.05である場合を示す(両側Student t検定)。
【0089】
さらに、模擬体液(即ち、DMEM緩衝液)により誘発されたゲル化後20分間23kGy(8711±135Pa)、25kGy(9143±1959Pa)、および40kGy(12330±2148Pa)でガンマ照射されたPuraStat(登録商標)は、PuraStat(登録商標)対照(4972±451Pa)と比較して、それぞれ75%、84%、および148%の、それらの貯蔵弾性率の増大を示した(図8および表11)。

【0090】
ゲル化の前および後それぞれの、X線照射滅菌したPuraStat(登録商標)に関して、レオロジーの結果を表16および17に示す。
表16. 40mmコーン・プレートを用いた0.1%の歪みでの、X線照射によるPuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)の周波数試験からの結果
【表16】
*:対照と比較してp<0.05である場合を示す(両側Student t検定)。
:その他と比較してp<0.05である場合を示す(両側Student t検定)。
【0091】
25kGyおよび40kGyでX線照射されたPuraStat(登録商標)も、PuraStat(登録商標)対照よりも高い貯蔵弾性率を示した。40kGyでX線照射されたPuraStat(登録商標)は、25kGyでX線照射されたPuraStat(登録商標)よりも有意に高い貯蔵弾性率を示した。このことは、X線照射がPuraStat(登録商標)のレオロジー特性に正の影響を及ぼしたことを示す。25kGy(449.8±21.2)および40kGy(607.2±27.0Pa)で照射されたPuraStat(登録商標)は、それぞれ、PuraStat(登録商標)対照(322.9±21.0Pa)と比較して、それらの貯蔵弾性率の39%および88%増大を示した(表17)。
表17. ゲル化後のX線照射によるPuraStat(登録商標) (RADA16 2.5%)の周波数試験からの結果。試料を、40mmコーン・プレートを用いた0.1%の歪みで20分間、DMEMで処理した。
【表17】
*:対照と比較してp<0.05である場合を示す(両側Student t検定)。
【0092】
さらに、模擬体液(即ち、DMEM緩衝液)により20分間、ゲル化を誘発した後、25kGy(8497±1812Pa)および40kGy(11246±1383Pa)でX線照射したPuraStat(登録商標)は、それぞれ、PuraStat(登録商標)対照(4972±451Pa)と比較して、その貯蔵弾性率の71%および126%増大を示した(表17)。
【0093】
ゲル化の前および後それぞれの、電子線照射滅菌したPuraStat(登録商標)に関して、レオロジーの結果を表18および19に示す。
表18. 40mmコーン・プレートを用いた0.1%の歪みでの、電子線照射によるPuraStat(登録商標) (RADA16 2.5%)の周波数試験からの結果。
【表18】
【0094】
しかしながら、25kGyおよび40kGyで電子線照射したPuraStat(登録商標)は、PuraStat(登録商標)対照と比較して貯蔵弾性率の有意な変化を示さなかった。このことは、電子線照射滅菌が、PuraStat(登録商標)のレオロジー特性に大きな影響を及ぼさないことを示す。しかしながら、p値は統計的有意性を示さなかった(即ち、p>0.05)が、25kGy(342.7±16.7Pa)および40kGy(353.2±16.8Pa)で電子線照射されたPuraStat(登録商標)は、それぞれ、PuraStat(登録商標)対照(322.9±21.0Pa)と比較して、それらの貯蔵弾性率の6%および9%増大を示した(表18)。
表19. ゲル化後の、電子線照射によるPuraStat(登録商標) (RADA16 2.5%)の周波数試験からの結果。試料を、40mmコーン・プレートを用いた0.1%の歪みで20分間、DMEMで処理した。
【表19】


【0095】
模擬体液(即ち、DMEM緩衝液)により20分間、ゲル化を誘発した後、25kGyおよび40kGyで電子線照射したPuraStat(登録商標)は、PuraStat(登録商標)対照と比較して、その貯蔵弾性率に有意差を示さなかった(即ち、p値は0.05よりも高かった)(表19)。
【0096】
PuraStat(登録商標)は、高剪断速度でのずり減粘特性およびチキソトロピー挙動を実証し、高剪断が停止したときに、ゆっくりとしたレオロジー特性の回復を示唆している(図9)。PuraStat(登録商標)のこれらの特性から、PuraStat(登録商標)の剛性を、患者への適用中のより容易な取扱いのために低下させることができ、次いで剛性は、適用後に初期値までゆっくりと回復することができる。PuraStat(登録商標)のこれら固有のチキソトロピー特性は、23および25kGyでのガンマ照射後であっても変化せず、一方、照射されたPuraStat(登録商標)は、PuraStat(登録商標)対照よりも高い貯蔵弾性率を示した。
【0097】
ペプチドの分子構造は、HPLCおよび質量分析の結果を考慮すると実質的に変化しなかったので、ペプチドの組織化されたナノ繊維構造は、そのレオロジー特性を増大させる因子であった可能性がある。自己組織化ペプチド溶液のレオロジー特性は、自己組織化ペプチド構造がより組織化されたときに増大し得る。拘束されない理論によれば、照射からの高エネルギーは、より組織化されたナノ繊維構造を有するようにペプチド分子を僅かに移動させ、その結果、改善されたレオロジー特性が得られる。
【0098】
増大したレオロジー特性は、繰り返される高剪断によって少なくとも部分的に逆転され、元のレベル近くまで戻った。それらを2回、1000秒-1で1分間、徹底的に剪断した後、23kGyおよび25kGyで照射されたPuraStat(登録商標)試料は、それぞれ、484.5Paから410.9Paまで、および514.3Paから426.5Paまで、それらの貯蔵弾性率が徐々に低下したことを示し、一方、PuraStat(登録商標)対照は、その貯蔵弾性率の有意な変化を示さなかった(図9)。照射されたPuraStat(登録商標)のレオロジー特性は、より多くの剪断でPuraStat(登録商標)対照により近くなると予測することができた。したがってガンマ照射は、自己組織化ナノ繊維の構造を強化して、ペプチド分子構造の分解または架橋の検出可能な変化なしにそれらのレオロジー特性を増大させる。
【0099】
(実施例8:生物汚染度試験)
A. 試料の収集。照射時に、50個の試料を下記の通り収集した:パッケージ内部の、生物汚染度試験用の10個の試料(パッケージ操作の開始時に4個、中間および終わりに各3個を収集);シリンジ内の充填液体の、生物汚染度試験用の10個の試料(パッケージ操作の開始時に4個、中間および終わりに各3個を収集);予備の試料、例えば30個の試料を、追加の試験が必要となり得る場合に収集してもよい。
【0100】
B. 滅菌検証用の生菌カウント試験。クリーンベンチで、試料を無菌状態で調製し、使用されることになる全ての機器および溶媒を滅菌した。
【0101】
ブリスター包装製品の場合、1つの密封パッケージで合計100mLの試料溶液を作製する下記の手順を2回繰り返した。シリンジを使用して、50mLの滅菌試験用の濯ぎ流体(USP流体D)をパッケージの内部に注入した。試料を徹底的に振盪させ、静置して、泡を低減させた。次いでパッケージの外側開口部を、内容物を加熱することなくその開口部を炎の中に軽く通すことによって滅菌した。次いでシリンジまたは別の適切な方法を使用して、全ての注入された溶液をパッケージから抽出し、次いでこれを耐熱ボトルに収集した。Bacillus subtilis(NBRC3134)などの標準株から精製された約100CPUの胞子を含有する密封ブリスターパッケージを用い、回復率および回復率に基づく補正係数を、上記と同じ手法で調製された試料からの生菌カウントおよび添加された細菌カウントから、予め計算した。補正係数は、1/回復率(%)×100として計算した。この補正係数は、試料調製手順を変更したときに再度計算した。
【0102】
内容物の流体を試験するために、1mLの内容物溶液を9mLのソイビーン・カゼインダイジェスト培地寒天培地(SCD寒天培地)と混合し、ゲルを微細に分散させて、10mLの試料溶液を作製した。
【0103】
ブリスターパッケージ製品では、培地当たり100mLの試料溶液を使用し、試験は、日本薬局方微生物限度試験の膜フィルター法を使用して実行した。
【0104】
内容物流体を試験するために、培養培地当たり1mLの試料溶液が添加され、および日本薬局方微生物限度試験の寒天プレート希釈法を使用して、試験を実行する。この試験を10回繰り返して、10mLの試料溶液に相当する10個の培養培地プレートを得た。

【0105】
培養物を30℃~35℃で3~5日間(またはそれよりも長く)、SCD寒天培地上で維持した。原則として、培養期間中、操作日毎および最終測定日に、少なくとも1回、培養物を観察した。
【0106】
培養の終了後、SCD寒天培地のコロニーの実測値を、下記の計算により変換した:
(1)ブリスターパッケージ製品の場合
ブリスターパッケージ内の生菌カウント=試料液体100mL中の生菌カウント×補正係数
(2)内容物流体の場合
内容物流体1mL中の生菌カウント=試料溶液と同等な10mL(10個の培地プレート)中の全生菌カウント
注釈:内容物流体に関する試験法の中で、計算に使用されるSIP(アリコート)の値は1/5=0.2と決定し、これは、1mLの内容物流体と同等な試験法により5mLの生成物で試験をするときは全量ではない。SIP(試料項目部分(Sample Item Portion))は、アリコート(試験に使用されるヘルスケア製品の、規定された部分)に等しい。
【0107】
(実施例9:ガンマ照射によるPuraStat(登録商標)滅菌の実験設計)
照射条件-- PuraStat(登録商標)試料(ロット番号17C09A30)に、Gammacell 220(登録商標)High Dose Rate Co-60 Irradiator(MDS Nordion、Ottawa、Canada)で、ガンマ線を25、28、および40kGyで照射した。40kGy照射に関する試行線量率および持続時間は、それぞれ6.30kGy/時および6時間20分58秒であった。28kGy照射のための試行線量率および持続時間は、それぞれ4.40kGy/時および6時間22分31秒であった。25kGy照射のための試行線量率および持続時間は、それぞれ6.58kGy/時および3時間47分42秒であった。
【0108】
方法および試験結果: PuraStat(登録商標)の外見を、各試験後に観察した。PuraStat(登録商標)のpHは、Accumet AB15 pHメーター(Fisher Scientific)を使用して試験した。HPLC試験を行って、照射試験後の主要ペプチド含量を評価した。Agilent HPLC 1100(Agilent Technologies)をこの研究で使用した。カラム温度を25℃に保持した。
【0109】
溶媒Aは、0.1%TFAを含む水であり、溶媒Bは、0.1%TFAを含む80%アセトニトリルであった。溶媒Bの勾配を、20分で10%から40%に、さらに5分間40%に、25℃で制御した。Agilent Zorbax 300SB-C18カラム(4.6mm×250mm、5μm、300Å)を、この試験で使用した。PuraStat(登録商標)(RADA16 2.5%)(40mg)を、10μLのDHOおよび500μLのギ酸と混合し、ボルテックスした。さらに混合物をDHO(4,450μL)と混合し、ボルテックスした。20μLの試料を、Agilentオートサンプラーを使用して注入した。
【0110】
質量分析試験を実施して、照射滅菌後のペプチドの分解を調査した。Agilent LC/MSDイオントラップ質量分析計を、この研究で使用した。試料溶液を、HPLC試料に関して上述のように調製した。各試料を、シリンジポンプで9μL/分で注入した。質量スペクトルを1分間記録した。PuraStat(登録商標)(Ac-(RADA)-NH)(配列番号1)の分子量は1712であり、これは対照および照射されたPuraStat(登録商標)試料の全てのスペクトルにおいて、m/3=572、m/2=857、およびm=1713の主な3つのピークから計算されたその分子量に一致する。
Ac-RADARADARADARADA-NH(配列番号1)に割り当てられたピークは、
M/z=572=(Mw+3)/3、したがって計算されたMw=1713
M/z=857=(Mw+2)/2、したがって計算されたMw=1712
M/z=1713=Mw+1、したがって計算されたMw=1712
である。

【0111】
ガンマ滅菌の前および後のPuraStat(登録商標)試料のレオロジー特性を、37℃で、レオメーター(Discovery HR 1、TA Instruments)を使用して評価した。流動試験を、20mmのプレート-プレートジオメトリーおよび800μmの間隙距離で、0.001 1/秒~3,000 1/秒の剪断速度範囲で、37℃で実施した。試料溶液(350μL)をレオメータープレート上に配置し、過剰な溶液を静かに除去し;測定を、37℃で、2分の緩和時間後に行った。粘度(h)を、非常に低い剪断速度(0.001 1/秒)から高剪断速度(3000 1/秒)まで記録した。
【0112】
L929ニュートラルレッド取込み試験を行って、照射されたPuraStat(登録商標)の細胞毒性を調査した。これらの試験は、Bedford MA、USAにあるToxikonにより行われた。研究は、ISO 10993-5, 2009, Biological Evaluation of Medical Devices - Part 5: Tests for in Vitro CytotoxicityおよびISO 10993-12, 2012, Biological Evaluation of Medical Devices - Part 12: Sample Preparation and Reference Materialsに基づき行った。試験物品の抽出物に応答した、哺乳動物細胞単層、L929マウス線維芽細胞の生物学的反応性を、決定した。試験物品の抽出物は、血清を追加補充した最小必須培地(MEM)で、mL当たり試験物品0.2gの比で得られた。抽出は、24±2時間にわたり、37±1℃で行った。陽性対照(天然ゴム)および陰性対照(陰性対照プラスチック)物品および未処理の対照(ブランク)を調製して、試験システムの適正な機能を検証した。試験物品および対照物品の抽出物を使用して、細胞培養の維持培地を置き換えた。試験物品の抽出物を、100%(ニート)濃度で試験した。全ての培養物を、少なくとも6つの複製で、24~26時間インキュベートした。37±1℃で、5±1%の二酸化炭素(CO)を含有する加湿雰囲気であった。抽出物に曝露された後の細胞の生存率は、それらが生体染色色素(vital dye)ニュートラルレッドを取り込む能力を介して測定した。この色素は、生存細胞に能動的に組み込まれるように細胞に添加した。生存細胞の数は、抽出後の540nmでの光度測定により決定された色強度に相関する。
【0113】
陰性対照物品および陽性対照物品の抽出物に曝露された細胞の生存率は、アッセイの有効性を確認するために、それぞれ未処理の対照よりも70%よりも大きくまたは等しくかつ70%未満である必要がある。試験物品は、生存率%が未処理の対照の70%よりも大きくまたは等しい場合、試験の要件を満たす。
【0114】
本発明者らは、最高線量(即ち、40kGy)で照射されたPuraStat(登録商標)試料が全ての照射された試料を代表することを考慮して、それらのみ試験した。なぜなら、もしそうならば、より低い線量で照射されたものよりも、さらに大きな影響を細胞毒性に及ぼすはずであるためである。
表20. 照射滅菌試験をまとめた表
【表20】
【0115】
照射前のペプチドの量。25kGyまでの照射後、PuraStat(登録商標)の分解は、照射前のペプチドの量の5%を超えなかった。
【0116】
対照PuraStat(登録商標)の分解のパターンから、本発明者らは、分解が主に~RADとA~との間の点で生じることを見出した。PuraStat(登録商用)が照射により滅菌されたときのAc-(RADA)-NH(配列番号1)の分解の追加のパターンから、本発明者らは、照射が、~RとAD~との間の点で追加の分解を引き起こし得ることを見出した。
【0117】
全体として、ガンマ照射によるPuraStat(登録商標)のレオロジー特性は、PuraStat(登録商標)対照と同等であった。全ての照射されたPuraStat(登録商標)およびPuraStat(登録商標)対照試料は、試験の要件を満たし、細胞毒性の可能性がないと見なされた。
表21. 2つの製品形態に関するHPLCおよびLC-MS分析
【表21】
下記の表21は、ガンマ照射の前(対照)および後の主要ペプチド含量を評価するために行われたHPLC試験の結果を示す。
【0118】
Agilent HPLC 1100(Agilent Technologies)を、この研究で使用した。カラム温度を25℃に保持した。Agilent Zorbax 300SB-C18カラム(4.6mm×250mm、5mm、300Å)をこの試験で使用した。溶媒Aは、0.1%TFAを含む水であり、溶媒Bは0.1%TFAを含む80%アセトニトリルであった。溶媒Bの勾配を、20分で10%から40%に、さらに5分にわたり40%に、25℃で制御した。PuraStat(登録商標)(40mg)を、10μLのDH2Oおよび500μLのギ酸と混合し、ボルテックスした。さらに混合物をDHO(4,450μL)と混合し、ボルテックスした。20mLの試料を、Agilentオートサンプラーを使用して注入した。結果を、下記の表23に示す。
表23.
【表23】
【0119】
【0120】
全体として、PuraStat(登録商標)の主要ペプチド含量は、ガンマ照射法により減少し、減少の程度は、より高い線量でより有意であった。最大40kGyの照射後、PuraStat(登録商標)の分解は、照射前のペプチドの量の15%を超えていなかった。最大25kGyの照射後、PuraStat(登録商標)の分解は、照射前のペプチドの量の5%を超えていなかった。
【0121】
対照PuraStat(登録商標)の分解のパターンから、本発明者らは、分解が主に~RADとA~との間の点で生じることを見出した。PuraStat(登録商標)が照射で滅菌されたとき、Ac-(RADA)-NHの分解の追加のパターンから、本発明者らは、照射が、~RとAD~との間の点で追加の分解を引き起こし得ることを見出した。
【0122】
全体として、ガンマ照射によるPuraStat(登録商標)のレオロジー特性は、PuraStat(登録商標)対照に等しかった。全ての照射されたPuraStat(登録商標)およびPuraStat(登録商標)対照は、試験の要件を満たし、細胞毒性の可能性がないと見なされた。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
自己組織化ペプチド(SAP)溶液を滅菌する方法であって、
a)ほぼ中性のpHで生体組織に適用したときにヒドロゲルを形成することが可能な自己組織化ペプチドの溶液を含む1つまたは複数の容器を照射機内に配置すること、および
(b)その所望の生物学的または物理的特性(複数可)が実質的に同じレベルで維持されるかまたは改善されながら、前記ペプチドの実質的な分解なしに、事前に決定された無菌性保証水準(SAL)まで前記ペプチド溶液が滅菌されるように、所定の線量でガンマ線、X線および/または電子線照射に前記容器を曝露すること
を含む、方法。
(項目2)
前記ペプチドが、RADA16、KLD12、およびIEIK13からなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記線量が、15~50kGyである、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記溶液が、X線または電子線により照射される、項目1から3に記載の方法。
(項目5)
前記ペプチド溶液が、RADA16を約2.5%含有し、前記線量が、15~24kGyである、項目2から4に記載の方法。
(項目6)
前記照射後の分解された全(「総」)ペプチドの量が、前記照射前の前記ペプチドの量の20%を超えない、項目1から5に記載の方法。
(項目7)
前記所望の生物学的および物理的性質(複数可)が、止血性、抗接着、再出血の予防、抗狭窄、組織閉鎖、粘膜亢進、創傷治癒、貯蔵弾性率、粘度、および組織空隙充填特性からなる群より選択される、項目1から6に記載の方法。
(項目8)
前記自己組織化ペプチド溶液の照射前生物汚染度が、生成物単位当たり9CFUまたはそれよりも少ない、項目7に記載の方法。
(項目9)
照射線量が、少なくとも10 -6 の無菌性保証水準(SAL)を実現する、項目1から8に記載の方法。
(項目10)
照射後の前記溶液中の完全長ペプチド(「主要ペプチド」)の分解生成物の濃度が、0.1%~5%の範囲である、項目1から9に記載の方法。
(項目11)
照射前および後の前記溶液のpHが、約1.8~3.5の範囲である、項目1から10に記載の方法。
(項目12)
前記溶液の容器が、プラスチックシリンジである、項目1から11に記載の方法。
(項目13)
ゲル化溶液の貯蔵弾性率が、照射後に少なくとも10%増大している、項目1から12に記載の方法。
(項目14)
前記溶液を剪断して、その貯蔵弾性率を低減させるかまたは回復させることをさらに含む、項目1から13に記載の方法。
(項目15)
項目1から14のいずれか一項に記載の方法によって作製された自己組織化ペプチドの滅菌溶液。
(項目16)
前記溶液を生体組織に適用することを含む、項目15に記載の滅菌溶液を使用する方法。
(項目17)
前記滅菌溶液を、外科手術中または出血を伴う外傷後に適用する、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記滅菌溶液を、ヒト対象の内部部位に適用する、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記自己組織化ペプチド溶液が、実質的に、図2~6の対応する照射後プロファイルで示される通りのおよび/または実施例に記載される通りの照射後質量分析(MS)プロファイル(例えば、PuraStat(登録商標)の場合、追加の主要M ピークは836/1670、1100、および1513m/zで観察される)を示す、項目1に記載の方法。
(項目20)
疾患または状態を処置または予防するための、自己組織化ペプチドの滅菌溶液の使用であって、前記滅菌溶液が、項目1から19のいずれか一項に記載の方法によって得られる、使用。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図7
図8
図9
【配列表】
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