(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】レンズアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/02 20060101AFI20230822BHJP
H01Q 15/08 20060101ALI20230822BHJP
H01Q 19/06 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
H01Q13/02
H01Q15/08
H01Q19/06
(21)【出願番号】P 2021082395
(22)【出願日】2021-05-14
【審査請求日】2022-09-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2021年1月28日開催「ISAP2020」にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-536929(JP,A)
【文献】特開2006-166399(JP,A)
【文献】特開昭61-033674(JP,A)
【文献】特開平01-282906(JP,A)
【文献】特開2009-060397(JP,A)
【文献】特開平08-307102(JP,A)
【文献】米国特許第03430249(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0313296(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/02
H01Q 15/08
H01Q 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延び、導体で形成された第1の筒型の形状の第1の導波路を有し、前記第1の導波路内を高周波信号が伝送する導波管部と、
前記導波管部の前記高周波信号が出力する出力端に接続され、前記第1方向に延び、導体で形成され、前記第1方向に行く程に開口面積が大きくなる第2の筒型の形状の第2の導波路を有するホーンアンテナ部と、
前記ホーンアンテナ部の前記高周波信号が出力する出力端における開口部を覆い、前記第1方向と垂直な第1面を有し、誘電体で形成されたレンズベース部と、
前記第1面から前記第1方向に延び、前記第1方向から見て略円筒型の形状をし、誘電体で形成された複数のコルゲート部と、
を備えるレンズアンテナ。
【請求項2】
複数の前記コルゲート部のそれぞれの前記第1方向の長さは異なる、
請求項1に記載のレンズアンテナ。
【請求項3】
複数の前記コルゲート部は、第1のコルゲート部と、前記第1のコルゲート部の外側に設けられた第2のコルゲート部と、前記第2のコルゲート部の外側に設けられた第3のコルゲート部と、を有する、
請求項1又は2に記載のレンズアンテナ。
【請求項4】
前記第1のコルゲート部の前記第1方向の長さは、前記第2のコルゲート部の前記第1方向の長さよりも短く、
前記第2のコルゲート部の前記第1方向の長さは、前記第3のコルゲート部の前記第1方向の長さよりも短い、
請求項3に記載のレンズアンテナ。
【請求項5】
複数の前記コルゲート部のうちの所定のコルゲ-ト部の高さは、前記高周波信号の周波数帯域のうちの所定の周波数において、第1の伝搬路と第2の伝搬路との位相差が所定の範囲内となるように決定され、
前記第1の伝搬路は、前記導波管部に入力してから前記ホーンアンテナ部を通過し、前記所定のコルゲート部を通過するまでであり、
前記第2の伝搬路は、前記導波管部に入力してから前記ホーンアンテナ部を通過し、前記所定のコルゲート部と前記所定のコルゲート部よりも1つ内側のコルゲート部との間の前記第1面を通過するまでである、
請求項1から4のいずれか1つに記載のレンズアンテナ。
【請求項6】
前記導波管部は、円型又は角型の形状をしており、
前記ホーンアンテナ部は、円錐型又は角錐型の形状をしている、
請求項1から5のいずれか1つに記載のレンズアンテナ。
【請求項7】
前記ホーンアンテナ部の内部にクワッドリッジ部をさらに有し、
前記クワッドリッジ部は、
前記第1方向を含む第1の平面を有する板状の第1のリッジ部と、
前記第1方向を含む第2の平面を有し、前記第1のリッジ部と交差する板状の第2のリッジ部と、を有する、
請求項1から6のいずれか1つに記載のレンズアンテナ。
【請求項8】
前記レンズベース部と前記ホーンアンテナ部との間に複数の別のコルゲート部をさらに備え、
複数の前記別のコルゲート部のそれぞれは、
前記レンズベース部の前記第1面とは逆側の第2面から前記第1方向とは逆方向に延び、前記逆方向から見て前記略円筒型の形状をし、誘電体で形成される、
請求項1から7のいずれか1つに記載のレンズアンテナ。
【請求項9】
第1方向に延び、導体で形成された第1の筒型の形状の第1の導波路を有し、前記第1の導波路内を高周波信号が伝送する導波管部と、
前記導波管部の前記高周波信号が出力する出力端に接続され、前記第1方向に延び、導体で形成され、前記第1方向に行く程に開口面積が大きくなる第2の筒型の形状の第2の導波路を有するホーンアンテナ部と、
前記ホーンアンテナ部の前記高周波信号が出力する出力端における開口部を覆い、前記第1方向と垂直な第1面と前記第1面とは逆側の第2面とを有し、誘電体で形成されたレンズベース部と、
前記第2面から前記第1方向とは逆方向に延び、前記逆方向から見て略円筒型の形状をし、誘電体で形成された複数の別のコルゲート部と、
を備えるレンズアンテナ。
【請求項10】
レンズアンテナと、
前記レンズアンテナから出力された高周波信号を反射するパラボラ反射鏡と、
を備え、
前記レンズアンテナは、
第1方向に延び、導体で形成された第1の筒型の形状の第1の導波路を有し、前記第1の導波路内を高周波信号が伝送する導波管部と、
前記導波管部の前記高周波信号が出力する出力端に接続され、前記第1方向に延び、導体で形成され、前記第1方向に行く程に開口面積が大きくなる第2の筒型の形状の第2の導波路を有するホーンアンテナ部と、
前記ホーンアンテナ部の前記高周波信号が出力する出力端における開口部を覆い、前記第1方向と垂直な第1面を有し、誘電体で形成されたレンズベース部と、
前記第1面から前記第1方向に延び、前記第1方向から見て略円筒型の形状をし、誘電体で形成された複数のコルゲート部と、を有し、
前記パラボラ反射鏡は、
前記第1方向と交差する曲面であって、前記レンズベース部と複数の前記コルゲート部とから出力された前記高周波信号を反射する前記曲面を有する、
パラボラアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広い周波数帯域で使用する単一指向性のレンズアンテナに関し、特に、周波数変化に対する指向性特性の変動を低減することが可能なレンズアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
広い周波数帯域で使用可能な単一指向性のアンテナとして、クワッドリッジホーンアンテナやダブルリッジホーンアンテナが広く知られている。例えば、非特許文献1の
図1には、垂直偏波と水平偏波で使用可能なクワッドリッジホーンアンテナが記載されている。クワッドリッジホーンアンテナは、広帯域で単一指向性の指向性特性(放射指向性)を有するが、周波数が高くなると、ビームが鋭く細くなるという特性を有する。非特許文献1の
図12及び
図13では、周波数が高くなるほど、マイナス3dBビーム幅の値が小さく、ビームが細くなることが記載されている。具体的には、非特許文献1の
図13(a)では、周波数が6GHz(ギガヘルツ)のときの、マイナス3dBビーム幅が約100度であり、周波数が9GHzのときの、マイナス3dBビーム幅が約70度であることが記載されている。すなわち、1GHz当たり約10度で、マイナス3dBビーム幅が小さくなっていく。なお、指向性特性を放射パターン特性と称することもある。
【0003】
ダブルリッジホーンアンテナは、クワッドリッジホーンアンテナの垂直面および水平面のいずれか一方の偏波用のリッジを削除した単一偏波用のホーンアンテナである。ダブルリッジホーンアンテナは、例えば、非特許文献2のFig. 3に記載されている。これらのダブルリッジホーンアンテナ及びクワッドリッジホーンアンテナは、広帯域であるが、周波数が高くなると、そのビーム幅が小さくなるという特性を有する。なお、非特許文献2のFig. 2にも、クワッドリッジホーンアンテナが記載されている。
【0004】
一般的に、単一指向性のアンテナにおいては、周波数が高くなるほど、そのビーム幅は小さくなることが知られている。周波数が高くなるほど、ビーム幅が小さくなる理由を以下に示す。
【0005】
ある物理的な開口面積を有するアンテナに対し、そのアンテナの利得は、波長に相当した値となる。例えば、長さ(N×λ1)の開口直径を有するアンテナを考える。ただし、Nは自然数であり、λ1は波長である。ここで、周波数が2倍になると、波長は半分になるので、λ1から0.5λ1になる。よって、この場合、アンテナの開口直径は、(0.5λ1)を単位とするので2倍となる。そして、開口直径が大きくなると、アンテナの利得は増加すると共にビーム幅は小さくなる。
【0006】
特許文献1には、凸レンズと円錐ホーンを組み合わせたレンズアンテナが記載されている。特許文献1に記載されたレンズアンテナは、アンテナの整合特性を改善する効果があるが、周波数が高くなると、ビーム幅は小さくなる。
【0007】
特許文献2の0037段落並びに
図1及び
図7には、ホーンの構造としての放射器が記載され、0039段落には、レンズアンテナが記載され、0059段落並びに
図8には、位相補償型フレネルレンズが記載されている。
【0008】
非特許文献1、非特許文献2、特許文献1、及び特許文献2のいずれにも、周波数変化に対する指向性特性の変動を低減することが可能なレンズアンテナは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】電子情報通信学会論文誌(B) 2014年3月 Vol. J97-B No. 3 pp324-332
【文献】IEEEの論文 “Performance Evaluation of Quad-Ridged Horn Antenna in Variation of Its Ridge Profile”(TENCON 2019 - 2019 IEEE Region 10 Conference)
【文献】特開平9-321533号公報
【文献】特開2002-237717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり、非特許文献1、非特許文献2、特許文献1、及び特許文献2のいずれにも、周波数変化に対する指向性特性の変動を低減することが可能なレンズアンテナに関する記載は無く、このようなアンテナが所望されていた。
【0011】
本開示の目的は、上述した課題を解決するレンズアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係るレンズアンテナは、
第1方向に延び、導体で形成された第1の筒型の形状の第1の導波路を有し、前記第1の導波路内を高周波信号が伝送する導波管部と、
前記導波管部の前記高周波信号が出力する出力端に接続され、前記第1方向に延び、導体で形成され、前記第1方向に行く程に開口面積が大きくなる第2の筒型の形状の第2の導波路を有するホーンアンテナ部と、
前記ホーンアンテナ部の前記高周波信号が出力する出力端における開口部を覆い、前記第1方向と垂直な第1面を有し、誘電体で形成されたレンズベース部と、
前記第1面から前記第1方向に延び、前記第1方向から見て略円筒型の形状をし、誘電体で形成された複数のコルゲート部と、
を備える。
【0013】
本開示に係るレンズアンテナは、
第1方向に延び、導体で形成された第1の筒型の形状の第1の導波路を有し、前記第1の導波路内を高周波信号が伝送する導波管部と、
前記導波管部の前記高周波信号が出力する出力端に接続され、前記第1方向に延び、導体で形成され、前記第1方向に行く程に開口面積が大きくなる第2の筒型の形状の第2の導波路を有するホーンアンテナ部と、
前記ホーンアンテナ部の前記高周波信号が出力する出力端における開口部を覆い、前記第1方向と垂直な第1面と前記第1面とは逆側の第2面とを有し、誘電体で形成されたレンズベース部と、
前記第2面から前記第1方向とは逆方向に延び、前記逆方向から見て略円筒型の形状をし、誘電体で形成された複数の別のコルゲート部と、
を備える。
【0014】
本開示に係るパラボラアンテナは、
レンズアンテナと、
前記レンズアンテナから出力された高周波信号を反射するパラボラ反射鏡と、
を備え、
前記レンズアンテナは、
第1方向に延び、導体で形成された第1の筒型の形状の第1の導波路を有し、前記第1の導波路内を高周波信号が伝送する導波管部と、
前記導波管部の前記高周波信号が出力する出力端に接続され、前記第1方向に延び、導体で形成され、前記第1方向に行く程に開口面積が大きくなる第2の筒型の形状の第2の導波路を有するホーンアンテナ部と、
前記ホーンアンテナ部の前記高周波信号が出力する出力端における開口部を覆い、前記第1方向と垂直な第1面を有し、誘電体で形成されたレンズベース部と、
前記第1面から前記第1方向に延び、前記第1方向から見て略円筒型の形状をし、誘電体で形成された複数のコルゲート部と、を有し、
前記パラボラ反射鏡は、
前記第1方向と交差する曲面であって、前記レンズベース部と複数の前記コルゲート部とから出力された前記高周波信号を反射する前記曲面を有する。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、周波数変化に対する指向性特性の変動を低減することが可能なレンズアンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態1に係るレンズアンテナを例示する斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係るレンズアンテナのレンズ部を例示する断面図である。
【
図3】実施の形態1に係るレンズアンテナの原理を説明するための模式図である。
【
図4】実施の形態2に係るレンズアンテナを例示する斜視図である。
【
図5】実施の形態3に係るレンズアンテナを例示する斜視図である。
【
図6】実施の形態4に係るレンズアンテナを例示する斜視図である。
【
図7】実施の形態5に係るレンズアンテナを例示する断面図である。
【
図8】実施の形態6に係るレンズアンテナを例示する断面図である。
【
図9】実施の形態7に係るパラボラアンテナを例示する断面図である。
【
図10】実施の形態7の比較例に係るパラボラアンテナを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面において、同一又は対応する要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明を省略する。
【0018】
[実施の形態1]
<構成>
図1は、実施の形態1に係るレンズアンテナを例示する斜視図である。
図1では、レンズアンテナ11のホーン部11aとレンズ部11bとを分離して示す。実際に使用する際には、ホーン部11aとレンズ部11bとは接続していることが望ましい。すなわち、ホーン部11aとレンズ部11bとの境界は、高周波信号(電波)が漏れないように密着していることが望ましい。
図2は、実施の形態1に係るレンズアンテナのレンズ部を例示する断面図である。
図2は、
図1に示す線分A1-A2によるレンズ部の断面図である。
【0019】
図1に示すように、実施の形態1に係るレンズアンテナ11は、誘電体より成るレンズ部11bと導体より成るホーン部11aにより構成される。ホーン部11aは、導波管部111とホーンアンテナ部112とを含む。レンズ部11bは、レンズベース部113とコルゲート部114とを含む。
【0020】
尚、ホーンアンテナ部112は、
図1に示すような円錐型の形状であってもよく、これを円錐ホーンアンテナと称する。また、導波管部111は、
図1に示すような円型の形状であってもよい。また、レンズ部を電波レンズと称することもある。
【0021】
導波管部111は、第1方向X1に延び、導体で形成された第1の筒型の形状の第1の導波路を有する。導波管部111の第1の導波路内を高周波信号が伝送する。導波管部111は、直径が一定の第1の導波路を有する円形導波管であってもよい。
【0022】
ホーンアンテナ部112は、導波管部111の高周波信号が出力する出力端111pに接続され、第1方向X1に延びる。ホーンアンテナ部112は、導体で形成され、第1方向X1に行く程に開口面積が大きくなる第2の筒型の形状の第2の導波路を有する。
【0023】
図1及び
図2に示すように、レンズベース部113は、ホーンアンテナ部112の高周波信号が出力する出力端112pにおける開口部112mを覆い、第1方向X1と垂直な第1面113s1を有し、誘電体で形成される。レンズベース部113は、第1方向X1から見て、円形、楕円形、及び多角形のうちのいずれかの形状をしていてもよい。
【0024】
コルゲート部114は、第1面113s1から第1方向X1に延びるように設けられ、第1方向X1から見て略円筒型、又は、円環状の形状をし、誘電体で形成され、複数の円環状のひだであるコルゲート部を有する。複数のコルゲート部は、例えば、第1のコルゲート部114aと第2のコルゲート部114bと第3のコルゲート部114cとで構成され、それらは、第1方向X1から見て、同心円上に設けられた略円筒型の形状をしている。
【0025】
複数のコルゲート部のそれぞれの第1方向X1の長さは異なる。コルゲート部114は、第1のコルゲート部114aと、第1のコルゲート部114aの外側に設けられた第2のコルゲート部114bと、第2のコルゲート部114bの外側に設けられた第3のコルゲート部114cと、を有する。
【0026】
コルゲート部114は、内側に行く程、高さが短くなる。すなわち、第1のコルゲート部114aの第1方向X1の長さは、第2のコルゲート部114bの第1方向X1の長さよりも短い。また、第2のコルゲート部114bの第1方向X1の長さは、第3のコルゲート部114cの第1方向X1の長さよりも短い。なお、第1のコルゲート部114aの第1方向X1の長さを高さHaと称し、第2のコルゲート部114bの第1方向X1の長さを高さHbと称し、第3のコルゲート部114cの第1方向X1の長さを高さHcと称する。
【0027】
導波管部111に給電された高周波信号は、ホーンアンテナ部112の出力端112pの開口部112mから放射され、レンズ部11bを通過して空間(空中)に放射される。
【0028】
<動作>
図3は、実施の形態1に係るレンズアンテナの動作原理を説明するための模式図である。
図3に示すように、実施の形態1に係るレンズアンテナ11の導波管部111に入力した高周波信号Hfは、ホーンアンテナ部112の入力部(導波管部111の出力端111p)で、伝搬路L11と伝搬路L21に拡散され、高周波信号Hf1と高周波信号Hf2として、レンズベース部113に入射する。高周波信号Hf1は、伝搬路L12と伝搬路L13を通過する。高周波信号Hf2は、伝搬路L22と伝搬路L23を通過する。高周波信号Hf1と高周波信号Hf2とは、レンズ部11bの開口部で合成される。
【0029】
高周波信号Hfの伝搬の過程において、伝搬路L11~L12~L13と、伝搬路L21~L22~L23と、の伝搬の長さが同じ場合、高周波信号Hf1と高周波信号Hf2とは同位相で合成される。これにより、レンズアンテナ11の放射指向性は、尖鋭ビームが形成され、ビーム幅も細くなる。
【0030】
一方、伝搬路L11~L12~L13と、伝搬路L21~L22~L23と、の伝搬の長さが異なり、逆位相となる場合を考える。この場合、高周波信号Hf1と高周波信号Hf2とは、逆位相で合成されるので打ち消し合う。これにより、レンズアンテナ11の放射指向性は、ぼんやりとしたブロードなビームが形成され、ビーム幅は広くなる。
【0031】
ここで、使用する周波数帯域の中間の周波数の高周波信号Hfが導波管部111に入射され、高周波信号Hf1と高周波信号Hf2とが第2のコルゲート部114bの付近を通過する場合を考える。この場合、伝搬路L11~L12~L13を通過する高周波信号Hf1と伝搬路L21~L22~L23を通過する高周波信号Hf2との位相差が逆位相になるように、第2のコルゲート部114bの高さHbを設計すれば、第2のコルゲート部114bの付近から放射される高周波信号(電波)は非常に広い(ブロード)指向性となる。
【0032】
また、伝搬路L11~L12~L13を通過する高周波信号Hf1と伝搬路L21~L22~L23を通過する高周波信号Hf2との位相差が逆位相になるためには、伝搬路L11~L12~L13の長さと伝搬路L21~L22~L23の長さとの位相差が、概ね180度となる必要がある。
【0033】
伝搬路L11~L12~L13と伝搬路L21~L22~L23との位相差は、以下の2つの原因により発生する。
第1の原因:伝搬路L11と伝搬路L21の長さの差。
第2の原因:伝搬路L13が誘電体を通過し、伝搬路L23が誘電体を通過しないことによる差。
【0034】
ここで、第2の原因は、第1の原因よりも影響が大きく支配的である。よって、第2の原因だけを考慮することにする。そこで、誘電体を通過するかしないかの原因による位相差を位相差δとした場合、位相差δは概ね以下のように計算される。
【0035】
δ[度]={(Hb/λ-Hb/(λ/√εr)}×360 (式1)
ただし、λは高周波信号の波長であり、εrは誘電体の実効誘電率である。
【0036】
式1に基づいて、位相差δが概ね180度となるように、高さHbを求めれば、波長λに対応する周波数において、第2のコルゲート部114bの付近から放射される高周波信号(電波)は非常に広い(ブロード)指向性になる。
【0037】
一方、伝搬路L21より内側、すなわち、第1のコルゲート部114aの付近を通過する高周波信号は、第1のコルゲート部114aの高さHaが高さHbよりも低いので、位相差δはさらに小さくなり、同相に近くなる。
【0038】
ホーンアンテナ部112は、一種の開口面アンテナであるため、ホーンアンテナ部112に入射した高周波信号Hfは、ホーンアンテナ部112の出力端112pで、アンテナの開口面の大きさに応じたビームが形成される。すなわち、使用する周波数帯域のうちの低域の周波数では波長が長いため、ホーンアンテナ部112の出力端112pでは比較的広い(ブロード)指向性になり、高周波信号Hfは、第1のコルゲート部114a~第3のコルゲート部114cの全面に行き渡る形となる。
【0039】
一方、使用する周波数帯域のうちの高域の周波数では波長が短いため、ホーンアンテナ部112の出力端112pでは比較的細い(シャープ)指向性になるため、高周波信号Hfは、第1のコルゲート部114aよりも内側に集中する形となる。
【0040】
また、使用する周波数帯域のうちの中間の周波数では波長が低域の周波数の場合よりも短いため、ホーンアンテナ部112の出力端112pでは低域の周波数の場合よりもビームが絞られる。このため、高周波信号Hfは、第2のコルゲート部114bよりも内側に集中する形となる。
【0041】
以上説明したような伝搬路の特徴を考慮すると、コルゲート部の高さは以下のように決定することが望ましい。
・第1のコルゲート部114aの高さHaは、使用する周波数帯域のうちの低域の周波数で、位相差δが180度となるような高さに決定する。
・第2のコルゲート部114bの高さHbは、使用する周波数帯域のうちの中域の周波数で、位相差δが180度となるような高さに決定する。
・第3のコルゲート部114cの高さHcは、使用する周波数帯域のうちの高域の周波数で、位相差δが180度となるような高さに決定する。
【0042】
これにより、低域の周波数~高域の周波数に渡ってビーム幅は広い(ブロード)指向性になる。すなわち、周波数変化に対するビーム幅の変化は小さくなる。そして、周波数が高くなった場合でもビーム幅が小さくなる割合(度合)を低減することができる。
【0043】
その結果、周波数変化に対する指向性特性の変動を低減することが可能なレンズアンテナを提供することができる。
【0044】
なお、コルゲート部114の数が1個でも、コルゲート部の高さを中域の周波数で位相差δが180度となるような高さに決定することで、コルゲート部が無い場合と比べて、周波数変化に対する指向性特性の変動を低減することができる。
【0045】
ここで、コルゲート部の高さの特徴を以下に示す。
複数のコルゲート部114のうちの所定のコルゲート部の高さは、高周波信号Hfの周波数帯域のうちの所定の周波数において、第1の伝搬路と第2の伝搬路との位相差δが所定の範囲内となるように決定される。所定の範囲内とは、例えば、約180度程度、すなわち、180±10度としてもよい。
【0046】
第1の伝搬路は、導波管部111に入力してからホーンアンテナ部112を通過し、所定のコルゲート部を通過するまでの伝搬路である。
【0047】
第2の伝搬路は、導波管部111に入力してからホーンアンテナ部112を通過し、所定のコルゲート部と所定のコルゲート部よりも1つ内側のコルゲート部との間の第1面113s1を通過するまでの伝搬路である。
【0048】
なお、実施の形態1においては、コルゲート部114の数として3個を例に挙げて説明したが、これには限定されない。コルゲート部114の数は3個以外の数でもよい。また、コルゲート部の数は、より多い方がビーム幅の変動の緩和の効果が大きいので、製造コスト等の許容範囲内でなるべく多くすることが望ましい。
【0049】
また、高さHcは、低域よりも中域に近い周波数で、高さHbは、中域よりも高域に近い周波数で位相差δを180度となるようにすることで、より広い帯域でビーム幅の変動を低減することができる。よって、そのように高さHcと高さHbを決定することが望ましい。
【0050】
また、ホーンアンテナ部112として、円錐ホーンアンテナの代わりに、ダイポールアンテナ、ループアンテナ、スロットアンテナ、パッチアンテナ、ヘリカルアンテナ、スパイラルアンテナ、及び対数周期アンテナ等のうちのいずれかのアンテナ(素子)を用いてもよい。
【0051】
[実施の形態2]
図4は、実施の形態2に係るレンズアンテナを例示する斜視図である。
図4に示すように、実施の形態2に係るレンズアンテナ21は、実施の形態1に係るレンズアンテナ11と比べて、円錐型のホーン部11aの代わりに、角錐型のホーン部21aを用いる点が異なる。すなわち、ホーン部21aの導波管部211は角型の形状をしており、ホーン部21aのホーンアンテナ部212は角錐型の形状をしている。
【0052】
角錐型のホーン部21aは、導体で形成された内部及び外部が角錐型のホーンアンテナ部212と、方形(角型)の導波管部211と、が接合された構成である。
【0053】
角錐型のホーン部21aの方形の導波管部211に給電された高周波信号Hfは、ホーンアンテナ部212の出力端212pの開口部212mから放射され、レンズ部11bを通過して空間(空中)に放射される。この際、コルゲート部の高さを適切に決定することにより、レンズ部11bが実施の形態1で説明したように動作させ、周波数が高い場合でも、ビーム幅が小さくならないようにすることができる。その結果、周波数変化に対する指向性特性の変動を低減することが可能なレンズアンテナを提供することができる。
【0054】
[実施の形態3]
図5は、実施の形態3に係るレンズアンテナを例示する斜視図である。
【0055】
図5に示すように、実施の形態3に係るレンズアンテナ31は、実施の形態1に係るレンズアンテナ11と比べて、ホーンアンテナ部112の内部(第2の導波路)にクワッドリッジ部312をさらに有する点が異なる。クワッドリッジ部312は、第1のリッジ部312aと第2のリッジ部312bとを有する。
【0056】
レンズアンテナ31は、誘電体で形成されたレンズ部11bと、外形が円又は楕円の導体で形成されたホーン部31aと、により構成される。ホーン部31aは、内部にクワッドリッジ部312を有するホーンアンテナ部112と、円形の導波管部111とが接合された構成である。
【0057】
第1のリッジ部312aは、第1方向X1を含む第1の平面を有する板状の形状をしている。第2のリッジ部312bは、第1方向X1を含む第2の平面を有し、第1のリッジ部312aと交差する板状の形状をしている。
【0058】
円形の導波管部111に給電された高周波信号Hfは、ホーンアンテナ部112の出力端112pの開口部112mから放射され、レンズ部11bを通過して空間(空中)に放射される。レンズ部11bから放射される高周波信号Hfのビーム幅は、コルゲート部の高さを適切に決定することにより、周波数が高い場合でもビーム幅が小さくならないようにすることができる。その結果、周波数変化に対する指向性特性の変動を低減することが可能なレンズアンテナを提供することができる。
【0059】
なお、クワッドリッジの代わりにダブルリッジを使用してもよい。クワッドリッジを使用したホーンアンテナをクワッドリッジホーンアンテナと称し、ダブルリッジを使用したホーンアンテナをダブルリッジホーンアンテナと称する。
【0060】
[実施の形態4]
図6は、実施の形態4に係るレンズアンテナを例示する斜視図である。
【0061】
図6に示すように、実施の形態4に係るレンズアンテナ41は、実施の形態3に係るレンズアンテナ31と比べて、角錐型のホーンアンテナ部212と方形の導波管部211を使用する点が異なる。
【0062】
レンズアンテナ41は、誘電体で形成されたレンズ部11bと、外形が角錐型の導体で形成されたホーン部41aと、により構成される。ホーン部41aは、内部にクワッドリッジ部312を有するホーンアンテナ部212と、方形の導波管部211とが接合された構成である。
【0063】
方形の導波管部211に給電された高周波信号Hfは、ホーンアンテナ部212の出力端212pの開口部212mから放射され、レンズ部11bを通過して空間(空中)に放射される。レンズ部11bから放射される高周波信号Hfのビーム幅は、コルゲート部の高さを適切に決定することにより、周波数が高い場合でもビーム幅が小さくならないようにすることができる。その結果、周波数変化に対する指向性特性の変動を低減することが可能なレンズアンテナを提供することができる。
【0064】
なお、クワッドリッジの代わりにダブルリッジを使用してもよい。
【0065】
[実施の形態5]
図7は、実施の形態5に係るレンズアンテナを例示する断面図である。
【0066】
図7に示すように、実施の形態5に係るレンズアンテナ51は、実施の形態1に係るレンズアンテナ11と比べて、レンズ部11bの向きが逆向きである点が異なる。すなわち、複数の別のコルゲート部115が、レンズベース部113の第2面113s2に設けられている。レンズアンテナ51の動作原理はレンズアンテナ11と同じであるので、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0067】
ここで、レンズアンテナ51の構成を以下に示す。
レンズアンテナ51は、ホーン部11aとレンズ部51bとを備える。ホーン部11aは、導波管部111とホーンアンテナ部112とを有する。レンズ部51bは、レンズベース部113と複数の別のコルゲート部115とを有する。実施の形態1に係るコルゲート部114と区別するため、実施の形態5に係るコルゲート部を、別のコルゲート部115と称する。
【0068】
導波管部111は、第1方向X1に延び、導体で形成された第1の筒型の形状の第1の導波路を有し、第1の導波路内を高周波信号Hfが伝送する。
【0069】
ホーンアンテナ部112は、導波管部111の高周波信号Hfが出力する出力端111pに接続され、第1方向X1に延び、導体で形成され、第1方向X1に行く程に開口面積が大きくなる第2の筒型の形状の第2の導波路を有する。
【0070】
レンズベース部113は、ホーンアンテナ部112の高周波信号Hfが出力する出力端112pにおける開口部112mを覆い、第1方向X1と垂直な第1面113s1と第1面113s1とは逆側の第2面113s2とを有し、誘電体で形成されている。
【0071】
複数の別のコルゲート部115は、第2面113s2から第1方向X1とは逆方向に延び、逆方向から見て略円筒型の形状をし、誘電体で形成されている。複数の別のコルゲート部115は、第1のコルゲート部115aと第2のコルゲート部115bと第3のコルゲート部115cとを有する。
【0072】
[実施の形態6]
図8は、実施の形態6に係るレンズアンテナを例示する断面図である。
【0073】
図8に示すように、実施の形態6に係るレンズアンテナ61は、実施の形態1に係るレンズアンテナ11と比べて、コルゲート部がレンズベース部113の両側に設けられている点が異なる。レンズアンテナ61の動作原理はレンズアンテナ11と同じであるので、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0074】
レンズアンテナ61の構成を以下に示す。
レンズアンテナ61は、ホーン部11aとレンズ部61bとを備える。ホーン部11aは、導波管部111とホーンアンテナ部112とを有する。レンズ部61bは、レンズベース部113と複数のコルゲート部114と複数の別のコルゲート部115とを有する。
【0075】
レンズアンテナ61は、レンズアンテナ11と比べて、レンズベース部113とホーンアンテナ部112との間に複数の別のコルゲート部115をさらに備える点が異なる。すなわち、レンズベース部113の両面に、誘電体で形成された複数の環状のコルゲート(ひだ)部を備える。
【0076】
複数の別のコルゲート部115のそれぞれは、レンズベース部113の第1面113s1とは逆側の第2面113s2から第1方向X1とは逆方向に延び、該逆方向から見て略円筒型の形状をし、誘電体で形成されている。複数の別のコルゲート部115は、第1のコルゲート部115aと第2のコルゲート部115bと第3のコルゲート部115cとを有する。
【0077】
[実施の形態7]
図9は、実施の形態7に係るパラボラアンテナを例示する断面図である。
図10は、実施の形態7の比較例に係るパラボラアンテナを例示する断面図である。
【0078】
図9に示すように、実施の形態7に係るパラボラアンテナ71は、実施の形態1に係るレンズアンテナ11とパラボラ反射鏡12とを備える。パラボラ反射鏡12は、レンズアンテナ11から出力(放射)された高周波信号Hfを反射する。
【0079】
レンズアンテナ11は、例えば、クワッドリッジホーンアンテナやダブルリッジホーンアンテナである。レンズアンテナ11の構成の詳細は、実施の形態1で説明したので、ここでは説明を省略する。
【0080】
パラボラ反射鏡12は、第1方向X1と交差する曲面であって、レンズベース部113と複数のコルゲート部114とから出力された高周波信号Hfを反射する曲面12s1を有する。
【0081】
パラボラアンテナ71は、一次放射器として使用されるレンズアンテナ11と、パラボラ反射鏡12と、を組み合わせることにより、広い周波数帯域で、高能率であり高利得のアンテナを実現する。
【0082】
パラボラアンテナ71の一次放射器(レンズアンテナ11)からパラボラ反射鏡12に照射する高周波信号Hf(電波)は、
図9に示す指向性のように、一様に照射することが望ましい。
図10に示す指向性のように、照射する高周波信号Hfのビーム幅が小さい場合、パラボラ反射鏡12の一部に高周波信号Hfが集中し、パラボラ反射鏡12の能率が低下し、パラボラ反射鏡12の大きさに相応する利得を得ることが難しい。
【0083】
従って、一次放射器(レンズアンテナ11)として、広い周波数帯域でビーム幅の変化が小さく、すなわち、周波数が高くなった場合でもビーム幅が小さくならないアンテナの必要になる。
【0084】
パラボラアンテナ71は、一次放射器にレンズアンテナ11を用いることにより、周波数が高くなった場合でもビーム幅が小さくなる割合(度合)を低減することができる。その結果、周波数変化に対する指向性特性の変動を低減することが可能なレンズアンテナを提供することができる。このようにして、レンズアンテナをパラボラアンテナの一次放射器として用いることにより、高能率、高利得のパラボラアンテナを実現することができる。
【0085】
また、大口径のパラボラアンテナを設置するには、広い敷地が必要となる。このため、レンズアンテナを用いたパラボラアンテナを使用することにより、複数の周波数帯域を集約して機能を共有できるので、広い設置場所が必要では無くなりコストを低減することができる。
【0086】
なお、いくつかの特定の実施の形態の詳細が上記の議論に含まれているが、これらは本開示の範囲に対する制限としてではなく、特定の実施の形態に特有の特徴の説明として解釈されるべきである。別個の実施の形態の文脈で説明される特定の特徴は、単一の実施の形態に組み合わせて実装されてもよい。逆に、単一の実施の形態の文脈で説明される様々な特徴は、複数の実施の形態で別々にまたは任意の適切な組み合わせで実装されてもよい。
【0087】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0088】
尚、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0089】
11、21、31、41、51、61…レンズアンテナ
71…パラボラアンテナ
11a、21a、31a、41a…ホーン部
11b、51b…レンズ部
12…パラボラ反射鏡
12s1…曲面
111、211…導波管部
111p、112p、212p…出力端
112m、212m…開口部
112、212…ホーンアンテナ部
312…クワッドリッジ部
312a…第1のリッジ部
312b…第2のリッジ部
113…レンズベース部
113s1…第1面
113s2…第2面
114…コルゲート部
114a…第1のコルゲート部
114b…第2のコルゲート部
114c…第3のコルゲート部
115…別のコルゲート部
115a…第1のコルゲート部
115b…第2のコルゲート部
115c…第3のコルゲート部
L11、L12、L13、L21、L22、L23…伝搬路
Hf、Hf1、Hf2…高周波信号
Ha、Hb、Hc…高さ
δ…位相差
λ…波長
εr…実効誘電率
X1…第1方向