(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】マイクロニードルシートを使用する美容方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/70 20060101AFI20230822BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230822BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230822BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20230822BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230822BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20230822BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
A61K9/70
A61K47/32
A61K47/36
A61M37/00 510
A61M37/00 530
A61K8/73
A61Q19/08
A61P17/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018124351
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】391023932
【氏名又は名称】ロレアル
【氏名又は名称原語表記】L’OREAL
【住所又は居所原語表記】14 Rue Royale,75008 PARIS,France
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ゴーラヴ・アガルワル
(72)【発明者】
【氏名】ユエンユエン・ソン
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-075165(JP,A)
【文献】日本衣服学会誌,2012年,Vol.56, No.1,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-33/44
A61K47/00-47/69
A61M37/00
D01F8/00-8/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む基材シート
及び
前記基材シート上の複数のマイクロニードル
を備えたマイクロニードルシートであって、
少なくとも2種の無極性ポリマーを含む繊維本体
、及び、少なくとも1種の親水性ポリマーを含むコーティングを備える少なくとも1種の複合繊維を含む不織布を更に備えており、
前記不織布が水を含む、マイクロニードルシート。
【請求項2】
前記マイクロニードルが、50~1000ミクロンの高さを有する、請求項1に記載のマイクロニードルシート。
【請求項3】
前記マイクロニードルが、円錐体の形状にある、請求項1又は2に記載のマイクロニードルシート。
【請求項4】
前記マイクロニードルの円錐体の底面が、50~350ミクロンの直径を有する、請求項3に記載のマイクロニードルシート。
【請求項5】
前記マイクロニードルの(円錐体の高さ)/(円錐体の底面の直径)の比が、1以上である、請求項3又は4に記載のマイクロニードルシート。
【請求項6】
前記水溶性又は水分散性ポリマーが、ヒアルロン酸
、多糖、デキストリン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリ(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸)、ポリビニルピロリドン、ポリ(メチル/ビニルエーテル/マレイン酸)(PMVE/MA)及びそのエステル、ポリ(メチル/ビニルエーテル/無水マレイン酸)(PMVE/MAH)、並びにこれらの混合物から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載のマイクロニードルシート。
【請求項7】
前記水溶性又は水分散性ポリマーが、10,000~200,000ダルトンの分子量を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のマイクロニードルシート。
【請求項8】
前記複合繊維が、少なくとも2種のポリオレフィンポリマーを含む繊維本体を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のマイクロニードルシート。
【請求項9】
前記
2種のポリオレフィンポリマーが、
ポリプロピレン及びポリエチレンである、請求項8に記載のマイクロニードルシート。
【請求項10】
前記
親水性ポリマーが、
親水性アクリルポリマーである、請求項
1から9
のいずれか一項に記載のマイクロニードルシート。
【請求項11】
前記不織布が、熱接着法により調製される不織布である、請求項1から10のいずれか一項に記載のマイクロニードルシート。
【請求項12】
前記マイクロニードルの少なくとも1つが、少なくとも1種の美容有効成分を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のマイクロニードルシート。
【請求項13】
少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む基材シート
及び
前記基材シート上の複数のマイクロニードル
を備えたマイクロニードルシート、
並びに、
少なくとも2種の無極性ポリマーを含む繊維本体
、及び、少なくとも1種の親水性ポリマーを含むコーティングを備える少なくとも1種の複合繊維を含む不織布
を備えたキット。
【請求項14】
少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む基材シート
及び
前記基材シート上の複数のマイクロニードル
を備えたマイクロニードルシートの前記基材シートを溶解させるための方法であって、
前記方法が、
前記基材シートの上に、少なくとも2種の無極性ポリマーを含む繊維本体
、及び、少なくとも1種の親水性ポリマーを含むコーティングを備える少なくとも1種の複合繊維を含んでおり、水を含む不織布を適用する工程
を含む、(治療のための方法を除く)方法。
【請求項15】
少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む基材シート
及び
前記基材シート上の複数のマイクロニードル
を備えたマイクロニードルシートの前記基材シートを溶解させるための、少なくとも2種の無極性ポリマーを含む繊維本体
、及び、少なくとも1種の親水性ポリマーを含むコーティングを備える少なくとも1種の複合繊維を含む不織布の使用であって、
前記不織布が水を含む、(治療のための使用を除く)使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚及び唇等のケラチン物質の美容トリートメントのために使用されうる複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルシートに関する。
【背景技術】
【0002】
角質層(SC)は、低分子量材料を含む外因性物質に対する主な障壁を構成する。一般に、皮膚に浸透する外因性物質は、角質層の、高度に組織された細胞間脂質二重層を通って拡散しなければならない。親油性であるこの細胞間の微細経路は、外因性物質が、送達ビヒクルとSCとの間の濃度勾配に従う受動拡散によりSC障壁を通過する主要な経路である。いくつかの外因性物質は、皮膚内へ貫通することが難しい。
【0003】
外因性物質を皮膚内のより深くに供給するために、従来の針を使用する注射を実施することが可能である。しかしながら、こうした注射は、痛みを引き起こし、且つ医師等の専門家によって実施される必要がある。そのため、従来の針を使用する注射は、美容目的では一般的でない。
【0004】
角質層(SC)障壁を破るために複数のマイクロニードルを有する微細構造装置を使用するという着想は、1970年代に初めて提案された。マイクロニードルアレイの製造が、当技術分野において、例えばWO2008/139786、WO2009/040548、WO2015/147040及びWO2016/076442で記載されてきた。マイクロニードルは、注射の従来の針の使用により引き起こされる痛みなしにSCを潜在的に貫通するという利点、及び自己投与することができるという利点を有する。
【0005】
一般に、マイクロニードルは、基材シート上に整列してマイクロニードルシートを形成する。マイクロニードルシートは、マイクロニードルがケラチン物質内でケラチン物質の内部の水分又は水によって溶解されうる又は崩壊されうるように、皮膚等のケラチン物質上にしばらくの間適用される。
【0006】
しかしながら、マイクロニードルが溶解した後又は崩壊した後であってさえ、基材シートは残り、且つ不快な触感をもたらすことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2008/139786
【文献】WO2009/040548
【文献】WO2015/147040
【文献】WO2016/076442
【文献】米国特許第6,219,574号
【文献】カナダ特許出願第2,226,718号
【文献】米国特許第6,652,478号
【非特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、マイクロニードルが基材シート上にあるマイクロニードルシートを使用する美容方法であって、基材シートが迅速に溶解することができる又は崩壊することができる、美容方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、皮膚又は唇等のケラチン物質のための美容方法であって、
基材シート及び基材シート上の複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルシートをケラチン物質の上に適用する工程であり、前記基材シートが少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む、工程と、
前記マイクロニードルシートの上に、少なくとも1種の複合繊維を含む多孔質シートを適用する工程であり、前記多孔質シートが水を含む、工程と
を含む、美容方法によって達成することができる。
【0011】
マイクロニードルは、50~1000ミクロン、好ましくは100~750ミクロン、より好ましくは150~500ミクロンの高さを有してよい。
【0012】
マイクロニードルは、円錐体の形状にあってよい。
【0013】
マイクロニードルの円錐体の底面は、50~350ミクロン、好ましくは100~300ミクロン、より好ましくは150~250ミクロンの直径を有してよい。
【0014】
マイクロニードルの(円錐体の高さ)/(円錐体の底面の直径)の比は、1以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上であってよい。
【0015】
水溶性又は水分散性ポリマーは、ヒアルロン酸、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、デキストリン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリ(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸)、ポリビニルピロリドン、ポリ(メチル/ビニルエーテル/マレイン酸)(PMVE/MA)及びそのエステル、ポリ(メチル/ビニルエーテル/無水マレイン酸)(PMVE/MAH)、並びにこれらの混合物から選択することができる。
【0016】
水溶性又は水分散性ポリマーは、10,000~200,000ダルトン、好ましくは30,000~150,000ダルトン、より好ましくは50,000~100,000ダルトンの分子量を有してよい。
【0017】
複合繊維は、少なくとも2種のポリマー、好ましくは2種の無極性ポリマー、より好ましくは2種のポリオレフィンポリマーを含む繊維ボディを含んでいてよい。
【0018】
複合繊維は、少なくとも1つのコーティングを有してよい。
【0019】
コーティングは、少なくとも1種のポリマー、好ましくは1種の親水性ポリマー、より好ましくは少なくとも1種の親水性アクリルポリマーを含んでよい。
【0020】
多孔質シートは、織布又は不織布、好ましくは不織布、より好ましくは熱接着法により調製される不織布であってよい。
【0021】
マイクロニードルの少なくとも1つは、少なくとも1種の美容有効成分を含んでよい。
【0022】
本発明はまた、
基材シート及び基材シート上の複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルシートであって、基材シートが少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含むマイクロニードルシートと、
少なくとも1種の複合繊維を含み、好ましくは水を更に含み、より好ましくは容器中に水と共に包装されている、多孔質シートと
を備えたキットにも関する。
【0023】
本発明はまた、基材シート及び基材シート上の複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルシートの基材シートを溶解させるための方法であって、
基材シートが、少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む基材シートを含み、
前記方法が、前記基材シートの上に、少なくとも1種の複合繊維を含んで水を含む多孔質シートを適用する工程
を含む、方法にも関する。
【0024】
本発明はまた、基材シート及び前記基材シート上の複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルシートの基材シートを溶解させるための、少なくとも1種の複合繊維を含む多孔質シートの使用であって、
前記多孔質シートが水を含み、
前記基材シートが、少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む、使用にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
鋭意検討の結果、発明者らは、基材シート上にマイクロニードルがあるマイクロニードルシートであって、基材シートが迅速に溶解することができる又は崩壊することができるマイクロニードルシートを使用する美容方法を提供することが、可能であることを発見した。
【0026】
そのため、本発明の一態様は、皮膚又は唇等のケラチン物質のための美容方法であって、
基材シート及び基材シート上の複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルシートをケラチン物質の上に適用する工程であり、前記基材シートが少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む、工程と、
前記マイクロニードルシートの上に、少なくとも1種の複合繊維を含む多孔質シートを適用する工程であり、前記多孔質シートが水を含む、工程と
を含む、美容方法である。
【0027】
本発明によれば、基材シートは、迅速に溶解することができる又は崩壊することができる。換言すれば、基材シートは、短期間で溶解することができる又は崩壊することができる。そのため、不快な触感を提供しうる基材シートは容易に消失することができ、且つケラチン物質上に長期間にわたり残留しない。
【0028】
したがって、本発明による美容方法は、比較的短期間実施することができる。
【0029】
マイクロニードルが痛みを一切引き起こさないため、本発明による美容方法は、痛みなしで、美容トリートメントを提供することができる。
【0030】
本発明は、美容トリートメント又は非治療的トリートメントのために好都合である。
【0031】
以下に、本発明による美容方法、キット等を、詳細に説明する。
【0032】
[美容方法]
皮膚又は唇等のケラチン物質のための本発明による美容方法は、
基材シート及び基材シート上の複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルシートをケラチン物質の上に適用する工程であり、前記基材シートが少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む、工程と、
前記マイクロニードルシートの上に少なくとも1種の複合繊維を含む多孔質シートを適用する工程であり、前記多孔質シートが水を含む、工程と
を含む。
【0033】
本発明による美容方法は、皮膚又は唇、好ましくは皮膚、より好ましくは顔の皮膚等の、ケラチン物質の美容トリートメント用であることが意図されてよい。
【0034】
本発明による美容方法は、例えば皺の出現を低減させることによって、又は存在する場合には任意の美容有効成分をケラチン物質に供給することによって、ケラチン物質の審美的外観を改善するために使用されうる。
【0035】
皮膚内の、表皮等のマトリックスの量の低減は、皮膚の厚さの減少及び皮膚弾性の劣化をもたらして皺の形成を引き起こす傾向がある。マイクロニードルは、皮膚内のマトリックスの量を増加させて皮膚弾性の増強を引き起こすことができ、このことが皮膚上の皺の低減をもたらす。
【0036】
マイクロニードルが、特にその遠位端部分において、膨潤性である場合、それは、皮膚内で膨潤して、例えば皮膚内の水分の、その吸収に伴ってマイクロニードルの体積を更に増加させることができる。皺部位の皮膚表面下におけるこのような体積膨張は、皺を皮膚内部から効果的に押して、皺をより浅く、より幅広くすることができる。このようにして、皺は、低減されうる又は目立たなくなりうる。
【0037】
そのため、本発明による美容方法が、マイクロニードルシートをケラチン物質の上に押し付けて、マイクロニードルシートのマイクロニードルを皮膚等のケラチン物質内へ確実に挿入させる工程を含むことが好ましい。
【0038】
特定の一実施形態では、本発明による美容方法は、半永久的又は永久的な美容トリートメントを皮膚等のケラチン物質に適用するために、使用することができる。
【0039】
以下に、本発明による美容方法のために使用されるマイクロニードルシート及び多孔質シートを、詳細に説明する。
【0040】
{マイクロニードルシート}
本発明による方法のために使用されるマイクロニードルシートは、基材シート及び基材シート上の複数のマイクロニードルを備えており、基材シートは少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む。
【0041】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートは、美容装置、好ましくはケラチン物質用の美容装置、より好ましくは皮膚、特に顔の皮膚並びに唇用の美容装置であってよい。
【0042】
(マイクロニードル)
本発明のために使用されるマイクロニードルシートは、複数のマイクロニードルを備える。
【0043】
マイクロニードルは、基材シートの表面上に存在する。マイクロニードルは、基材シートの表面の50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上の上に存在してよい。
【0044】
マイクロニードルが基材シートの表面の一方の上に存在することが好ましい。
【0045】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードルが、皮膚、特に顔の皮膚の並びに唇の、角質層内へ貫通する又は角質層内へ入るように設計されることが好ましい。
【0046】
マイクロニードルは、角質層を穿刺するのに好適な任意のサイズ及び形状でありうる。マイクロニードルが角質層を突き通して横断するように設計されることが好ましい場合がある。マイクロニードルは、角質層中に開口部を創製することが可能でありうる。
【0047】
必要な場合、マイクロニードルの高さは、皮膚の表皮及び/又は真皮内への、好ましくは真皮上層内への、より好ましくは真皮下層内への貫通を可能にするように変更されてよい。
【0048】
マイクロニードルの形状は、その形状が「針」である限り制限されない。本発明のマイクロニードルが、円錐状、棒状及び/又は柱状が含まれるがこれらに限定されない任意の合理的な形状をとりうることが、当業者には明らかとなる。このように、マイクロニードルは、先端部が底面と同一の直径を有していてもよく、又は直径が底面から先端部の方向に先細りしていてもよい。
【0049】
例えば、マイクロニードルの形状は、三角錐、四角錐又は五角錐の形態であってもよい。或いは、マイクロニードルは、好ましくは、円柱を対角線で切断して形成されうる先端部を有する円柱の形態であってもよい。
【0050】
このように、利用されている微細突出部又は微細突起の種類として「マイクロニードル」が参照されている。多くの事例において、同じ発明原理が、皮膚を貫通するための他の微細突出部又は微細突起の使用に当てはまることが、当業者には理解されるであろう。他の微細突出部又は微細突起には、例えば、米国特許第6,219,574号及びカナダ特許出願第2,226,718号に記載されているマイクロブレード、並びに米国特許第6,652,478号に記載されているエッジ付き(edged)マイクロニードルが含まれうる。
【0051】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードルの高さ又は長さは、50~1000ミクロン、好ましくは100~750ミクロン、より好ましくは150~500ミクロンであってよい。
【0052】
本発明の一実施形態によれば、マイクロニードルは、円錐体の形態である。
【0053】
円錐体は、先端部及び底面等の遠位端を含んでよい。底面の形状は、円形又は楕円形であってよい。
【0054】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードルの円錐体の高さ又は長さは、50~1000ミクロン、好ましくは100~750ミクロン、より好ましくは150~500ミクロンであってよい。
【0055】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードルの円錐体の底面は、50~350ミクロン、好ましくは100~300ミクロン、より好ましくは150~250ミクロンの直径又は幅を有してよい。本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードルの円錐体の底面が楕円形又は長円形の形状にある場合、楕円形の主軸の長さ又は幅は、50~350ミクロン、好ましくは100~300ミクロン、より好ましくは150~250ミクロンであってよい。
【0056】
マイクロニードルは、少なくとも約3:1、少なくとも約2:1、又は少なくとも約1:1のアスペクト比(底面の長さ/幅)を有してよい。マイクロニードルの(円錐体の高さ)/(円錐体の底面の直径)の比は、1以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上であってよい。
【0057】
好ましくは、マイクロニードルは、50.0N/cm2未満、例えば20.0N/cm2未満、例えば10N/cm2未満の挿入圧力がマイクロニードルの長さに沿ってマイクロニードルにかけられるとき、その力で破砕しない。
【0058】
本発明のために使用されるマイクロニードルシート、特にマイクロニードルシートのマイクロニードルが、50N/mm以上、好ましくは55N/mm以上、より好ましくは60N/mm以上のヤング率を有することもまた好ましい。
【0059】
マイクロニードルが、200ミクロン以下、好ましくは180ミクロン以下、より好ましくは160ミクロン以下の深さまで、皮膚又は唇等のケラチン物質内へ貫通することができることが好ましい場合がある。
【0060】
マイクロニードルは、溶解性であっても非溶解性であってもよい。マイクロニードルが溶解性であることが好ましい。
【0061】
「溶解性マイクロニードル」は、マイクロニードルが、例えば自然の湿潤因子又は外部水分によって、皮膚又は唇等のケラチン物質の内部で破壊されうる又は崩壊されうることを意味する。
【0062】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードルは、少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含んでよい。ここで、用語「水溶性」及び「水分散性」は、水と接触したときに、それぞれ可溶性である及び分散性であることを意味する。単一の水溶性又は水分散性ポリマーが使用されてよい。2種以上の水溶性又は水分散性ポリマーを組み合わせて使用することができる。
【0063】
水溶性又は水分散性ポリマーが、皮膚又は唇内で可溶性又は分散性であることが好ましい。そのため、本発明の一実施形態では、水溶性又は水分散性ポリマーは、皮膚又は唇等のケラチン物質内へ挿入された後に、溶解されうる又は分散されうる。ポリマーの可溶性又は分散性に起因して、本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードルは、マイクロニードル中に作用剤が存在する場合、作用剤を効果的に放出することができる。マイクロニードルシートの適用と組み合わされる任意選択の外部の水は、マイクロニードルの溶解又は分散を促進するのに使用されうる。
【0064】
水溶性又は水分散性ポリマーが、皮膚又は唇等のケラチン物質の表面層内で溶解性であることが好ましい。
【0065】
水溶性又は水分散性ポリマーは、ヒアルロン酸(特に低分子量ヒアルロン酸)、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖(その誘導体、例えばヒドロキシメチルセルロースを含む)、デキストリン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリ(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸)、ポリビニルピロリドン、ポリ(メチル/ビニルエーテル/マレイン酸)(PMVE/MA)及びそのエステル、ポリ(メチル/ビニルエーテル/無水マレイン酸)(PMVE/MAH)、並びにこれらの混合物から選択することができる。
【0066】
水溶性又は水分散性ポリマーは、10,000~200,000ダルトン、好ましくは30,000~150,000ダルトン、より好ましくは50,000~100,000ダルトンの分子量を有してよい。
【0067】
低分子量ヒアルロン酸は、100kDa以下、好ましくは70kDa以下、より好ましくは50kDa以下の分子量を有してよい。
【0068】
ポリビニルピロリドンは、1kDaから300kDaの間、好ましくは5kDaから200kDaの間、より好ましくは7kDaから100kDaの間の分子量を有してよい。
【0069】
ポリ(メチル/ビニルエーテル/マレイン酸)(PMVE/MA)及びそのエステル、並びにポリ(メチル/ビニルエーテル/無水マレイン酸)(PMVE/MAH)は、Gantrez型ポリマーとして知られている。
【0070】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードル中の水溶性又は水分散性ポリマーの量(固体ベース)は、マイクロニードルの総質量に対して、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であってよい。本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードル中の水溶性又は水分散性ポリマーの量(固体ベース)は、マイクロニードルの総質量に対して、100質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下であってよい。そのため、本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードル中の水溶性又は水分散性ポリマーの量(固体ベース)は、マイクロニードルの総質量に対して、50質量%~100質量%、好ましくは60質量%~90質量%、より好ましくは70質量%~80質量%であってよい。
【0071】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードルが、膨潤性である、より好ましくは水膨潤性である、更により好ましくは皮膚又は唇等のケラチン物質内で膨潤性である、少なくとも1種の材料を含むことが可能である場合がある。上記の材料は、膨潤性である、より好ましくは水膨潤性である、更により好ましくはケラチン物質内で膨潤性であるポリマーであってよい。ここで、用語「水膨潤性」は、水と接触したときに膨潤性であることを意味する。上記の膨潤性材料又はポリマーは、それが、生理食塩水又はリン酸緩衝生理食塩水中での1時間のインビトロインキュベーションにおいて少なくとも10倍超に、好ましくは1時間のインキュベーションにおいて少なくとも20倍に、より好ましくは1時間のインキュベーションにおいて少なくとも30倍に、更により好ましくは1時間のインキュベーションにおいて少なくとも40倍に、最も好ましくは1時間のインキュベーションにおいて約45~55倍に膨潤することができるように、高い膨潤性を有しうる。
【0072】
マイクロニードルの少なくとも遠位端部分が、ケラチン物質内への挿入時に、より好ましくはケラチン物質内への挿入後の1時間未満以内に、更により好ましくは24時間以内に、少なくとも2倍に膨潤することが好ましい場合がある。
【0073】
上記の膨潤性材料、好ましくは上記の膨潤性ポリマーは、それが、生理食塩水又はリン酸緩衝生理食塩水中でのインビトロインキュベーションの後にゲルを形成することができるように、高い粘弾性を有しうる。ゲルは、レオメータを用いる動的周波数掃引試験において、低周波数(0.01Hz)であってさえ、高弾性係数G'、高粘性係数G''、1未満のタンジェント(δ)(タンジェント(δ)=G''/G')及び高稠度G*(G*2=G'2+G''2)を呈する。
【0074】
一実施形態では、上記の膨潤性材料、好ましくは膨潤性ポリマーは、水溶性ではなく、又は水分散性ではない。
【0075】
別の実施形態では、上記の膨潤性材料、好ましくは膨潤性ポリマーは、ヒドロゲル形成性ポリマーであってよい。
【0076】
上記の膨潤性ポリマーは、高分子量ヒアルロン酸、架橋ヒアルロン酸、架橋ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール架橋ポリ乳酸又はポリグルコール酸又はポリ-乳酸-co-グリコール酸又はポリジオキサノン、ポリ(スチレン)-ブロック-ポリ(アクリル酸)、ポリエチレングリコール架橋PMVE/MA、架橋ポリビニルピロリドン、デンプングリコール酸ナトリウム;セルロース;天然及び合成ガム;アルギネート;ポリアクリル酸ナトリウムPEG架橋ポリ(メチル/ビニルエーテル/マレイン酸)(PMVE/MA)及びそのエステル、PEG架橋ポリ(メチル/ビニルエーテル/無水マレイン酸)(PMVE/MAH)及びそのエスエル、並びにこれらの混合物から選択することができる。
【0077】
高分子量ヒアルロン酸は、500kDa超、好ましくは1000kDa超、より好ましくは2100kDa超の分子量を有してよく、且つ好ましくは10000kDa未満の分子量を有してよい。
【0078】
別段の指定がない限り、本明細書における分子量は、数平均分子量を意味する。
【0079】
ポリ(メチル/ビニルエーテル/マレイン酸)(PMVE/MA)及びそのエステル、並びにポリ(メチル/ビニルエーテル/無水マレイン酸)(PMVE/MAH)は、Gantrez型ポリマーとして知られている。
【0080】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードル中の膨潤性材料の量(固体ベース)は、マイクロニードルの総質量に対して、1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であってよい。本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードル中の膨潤性材料の量(固体ベース)は、マイクロニードルの総質量に対して、30質量%以下、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下であってよい。そのため、本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードル中の膨潤性材料の量(固体ベース)は、マイクロニードルの総質量に対して、1質量%~30質量%、好ましくは5質量%~25質量%、より好ましくは10質量%~20質量%であってよい。
【0081】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードルが少なくとも1種の膨潤性材料、好ましくは少なくとも1種の膨潤性ポリマーを含む場合、マイクロニードルは、それがケラチン物質、好ましくは皮膚、より好ましくは顔の皮膚の審美的外観を、皺の出現を低減させることによって改善することができるように、膨潤性でありうる。
【0082】
換言すれば、マイクロニードルが膨潤性である場合、それは、皮膚内で膨潤して、例えば皮膚内の水分の、その吸収に伴ってマイクロニードルの体積を更に増加させることができる。皺部位の皮膚表面下におけるこのような体積膨張は、皺を皮膚内部から効果的に押して、皺をより浅く、より幅広くすることができる。このようにして、皺は、低減されうる又は目立たなくなりうる。
【0083】
基材シート上の個々のマイクロニードルのそれぞれの間の尖端分離距離は、マイクロニードルによる皮膚又は唇への貫通を確保し、同時に高い経皮輸送速度を提供するのに十分短い分離距離を有するよう変更することができる。
【0084】
一実施形態では、マイクロニードルの間の尖端分離距離の範囲は、10~1000μm、例えば30~800μm、又は50~600μmの範囲とすることができる。このことは、可能な限り多くのマイクロニードルによる角質層の効率的な貫通と、マイクロニードルが膨潤性である場合にはマイクロニードルの可能な膨潤に必要な余地との間に達成されるべき妥協点を可能としうる。
【0085】
一実施形態では、マイクロニードルの密度は、100~2000マイクロニードル/cm2、好ましくは200~1000マイクロニードル/cm2、更により好ましくは200~500マイクロニードル/cm2であってよい。
【0086】
(美容有効成分)
一実施形態によれば、本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードルの少なくとも1つは、少なくとも1種の美容有効成分を含んでよい。単一の美容有効成分が使用されてよい。2種以上の美容有効成分を組み合わせて使用することができる。
【0087】
美容有効成分の種類は限定されない。例えば、抗老化剤が、美容有効成分として使用されてよい。
【0088】
抗老化剤の例として、抗酸化剤、保湿剤、フリーラジカル捕捉剤、角質溶解剤、ビタミン、抗エラスターゼ剤及び抗コラゲナーゼ剤、プロチド、脂肪酸誘導体、ステロイド、微量元素、漂白剤、藻及びプランクトンの抽出物、酵素及び補酵素、フラボノイド及びセラミド、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0089】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードル中の美容有効成分の量は限定されず、マイクロニードルの総質量に対して、0.01質量%~10質量%、好ましくは0.05質量%~5質量%、より好ましくは0.1質量%~1質量%であってよい。
【0090】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートのマイクロニードル中の美容有効成分の量が、マイクロニードルの総質量に対して0.01質量%未満であることもまた可能である。一実施形態では、本発明によるマイクロニードルシートのマイクロニードルは、美容有効成分を全く含まなくてよい。
【0091】
(基材シート)
本発明によるマイクロニードルシートは、その上にマイクロニードルが存在する又は置かれる基材シートを備える。
【0092】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートの基材シートは、水中で溶解性である又は水中で崩壊性である。
【0093】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートの基材シートは、上で説明した少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む。換言すれば、マイクロニードルシートのマイクロニードル中に含まれうる水溶性又は水分散性ポリマーについての上記の説明は、基材シート中に含まれる水溶性又は水分散性ポリマーに当てはめることができる。
【0094】
例えば、本発明のために使用されるマイクロニードルシートの基材シート中の水溶性又は水分散性ポリマーの量(固体ベース)は、基材シートの総質量に対して、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であってよい。本発明のために使用されるマイクロニードルシートの基材シート中の水溶性又は水分散性ポリマーの量(固体ベース)は、基材シートの総質量に対して、100質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下であってよい。そのため、本発明のために使用されるマイクロニードルシートの基材シート中の水溶性又は水分散性ポリマーの量(固体ベース)は、基材シートの総質量に対して、50質量%~100質量%、好ましくは60質量%~90質量%、より好ましくは70質量%~80質量%であってよい。
【0095】
基材シートとマイクロニードルとは、別々であっても統合されていてもよい。
【0096】
例えば、基材シートとマイクロニードルとは、少なくとも1種の共通の水溶性又は水分散性ポリマーを含みうる。そのため、一実施形態では、基材シートとマイクロニードルとは、少なくとも1種の共通の水溶性又は水分散性ポリマーを含む単一の要素でありうる。好ましくは、単一の要素は、同じ水溶性又は水分散性ポリマーを使用して調製されうる。
【0097】
他方、基材シートは、マイクロニードルと異なっていても別個であってもよい。例えば、基材シートとマイクロニードルとは、異なる材料から作製されてよい。この事例において、基材シートは、例えば、マスク、ワイプ、パッチ、及び一般に全ての種類の多孔質基材シートから選ばれてよい。好ましくは、これらの基材シートは長円構造を有し、即ち、それらが画定される平面の寸法より小さい厚さを有する。
【0098】
基材シートは、パッチ、ディスク、マスク、タオル、グローブ、プレカットロールの形態、又は美容上の使用に好適な任意の他の形態にするように切断されてもよい。
【0099】
(調製)
本発明のために使用されるマイクロニードルシートをどのように調製するかについて、制限はない。本発明のために使用されるマイクロニードルシートを、成型、3Dプリンティング及びDroplet-born Air Blowing等の従来の技術に基づいて調製することが可能である。
【0100】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートは、例えば、上で説明した少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含んだ組成物を成形する工程を含む方法によって、調製することができる。
【0101】
一実施形態では、本発明のために使用されるマイクロニードルシートは、
(a)マイクロニードルのネガに対応するキャビティを有する型を用意する工程と、
(b)上で説明した少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む組成物をキャビティ内に充填する工程と、
(c)組成物を、例えば、室温で(任意選択で加熱して)、数時間等の期間にわたり乾燥させることによって固化してマイクロニードルを形成する工程と、
(d)マイクロニードルシートを型から外す工程と
を含む方法によって調製することができる。
【0102】
型は、ポリアミド及びシリコーン等の有機材料、並びにアルミニウム及び鉄等の無機材料から作製されうる。
【0103】
少なくとも1種の蒸発性液体成分が、必要な場合、組成物の流動性を強化するために、上記の組成物中に含まれてよい。蒸発性液体成分の例は限定されないが、好ましくは水、及びエタノール等のアルコールであってよい。
【0104】
蒸発性液体成分の量は、組成物の総質量に対して、10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であってよい。蒸発性液体成分の量は、組成物の総質量に対して、98質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下であってよい。そのため、蒸発性液体成分の量は、組成物の総質量に対して、10質量%~98質量%、好ましくは20質量%~95質量%、より好ましくは30質量%~90質量%であってよい。
【0105】
好ましくは流動することが可能である、より好ましくは液体の形態にある、上記の組成物中の水溶性又は水分散性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、2質量%~90質量%、好ましくは5質量%~50質量%、より好ましくは5質量%~30質量%であってよい。
【0106】
必要な場合、上記の組成物は、上で説明した膨潤性ポリマー等の少なくとも1種の追加のポリマー、及び/又は上で説明した少なくとも1種の美容有効成分を含んでよい。
【0107】
本発明のために使用されるマイクロニードルシートの形状は限定されず、それは、マイクロニードルシートを適用する標的に応じて、唇の形状、又は目の下への適用に好適な形状等の任意の形状であってよい。
【0108】
{多孔質シート}
本発明による美容方法のために使用される多孔質シートは、少なくとも1種の複合繊維を含む。
【0109】
複合繊維は、少なくとも2種のポリマー材料から作製されるボディを含む。ボディは、コア及びシースを含みうる。一実施形態では、コアは、少なくとも1種のポリマー材料を含み、シースは、少なくとも1種のポリマー材料を含む。
【0110】
好ましい一実施形態では、複合繊維は、二成分繊維である。そのため、ボディが、そのそれぞれがコアとシースとを形成している2種のポリマーを含むことが好ましい。一実施形態では、繊維の横断面におけるボディのポリマーは、隣り合ったシース/コアとして配置される。一実施形態では、繊維の横断面におけるボディのポリマーは、中心を共有する又は中心を異にするシース/コアとして配置される。
【0111】
好ましい一実施形態では、ボディは、融点(溶融温度)がより高いコアと、融点(溶融温度)がより低いシースとを含む。
【0112】
本発明が意味する範囲において、融点は、ISO 1 1357-3に記載の熱分析(DSC)により観察される最高吸熱ピークの温度に相当する。融点は、示差走査熱量計(DSC)、例えばTA Instruments社により名称「MDSC 2920」で販売されている熱量計を用いて測定することができる。
【0113】
一実施形態では、ボディのコアの融点は、150℃超である。一実施形態では、ボディのコアの融点は、230℃超である。一実施形態では、ボディのコアの融点は、150℃~300℃の範囲である。一実施形態では、ボディのコアの融点は、230℃~300℃の範囲である。
【0114】
一実施形態では、ボディのシースの融点は、230℃未満である。一実施形態では、ボディのシースの融点は、150℃未満である。一実施形態では、ボディのシースの融点は、100℃~230℃の範囲である。一実施形態では、ボディのシースの融点は、100℃~150℃の範囲である。
【0115】
好ましい特定の一実施形態では、前記複合繊維は、第1のポリマーにより形成されたコアと、第2のポリマーにより形成されたシースとを含むボディを含み、前記第1のポリマーは、第2のポリマーよりも高い融点を有する。
【0116】
前記ボディのためにポリマーの1種として使用されうるポリマーの非限定的な例は、ポリエステル、例えばポリ乳酸、ポリエステルの誘導体、ポリアミド、例えばナイロン6及びナイロン66、ポリオレフィン、例えばポリプロピレン及びポリエチレン、ポリスチレン、並びにこれらの任意の混合物からなる群から選択される。
【0117】
一実施形態では、前記ボディのためにポリマーの1種として使用されうるポリマーの非限定的な例は、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエステル及びポリエーテルスルホン(PES)、並びにこれらの任意の混合物からなる群から選択される。
【0118】
一実施形態では、ボディのコアは、ポリプロピレン(PP)の中から選択され、ボディのシースは、ポリエチレン(PE)の中から選択され、前記ポリプロピレンは、前記ポリエチレンよりも高い融点を有する。
【0119】
2種の繊維の組合せのいくつかの一般の例を以下に示す:
- ポリエステルのコア(融点250℃)とコポリエステルのシース(融点110℃~220℃)、
- ポリエステルのコア(融点250℃)とポリエチレンのシース(融点130℃)、
- ポリプロピレンのコア(融点175℃)とポリエチレンのシース(融点130℃)。
【0120】
好ましい一実施形態では、複合繊維は、少なくとも2種のポリマー、より好ましくは2種の無極性ポリマー、更により好ましくはポリエチレン及びポリプロピレン等の2種のポリオレフィンポリマーを含む繊維ボディを含んでいてよい。
【0121】
好ましい一実施形態では、複合繊維は、少なくとも1つのコーティングを有する。
【0122】
一実施形態では、コーティングは、少なくとも1種のポリマーを含む。好ましくは、コーティング中のポリマーは、親水性ポリマー、より好ましくは少なくとも1種の親水性アクリルポリマーを含む。親水性ポリマーは、好ましくは、任意の市販の親水性ポリマーからなる群から選択することができる。こうしたポリマーの非限定的な例は、アクリル酸、メタクリル酸、グルタミン酸、β-カルボキシエチルアクリレート、マレイン酸、マレイン酸のモノエステル等から選択することができる。より好ましくは、前記親水性ポリマーは、アクリル又はアクリレートポリマーである。
【0123】
カルボキシル基を含有するアクリル又はアクリレートポリマーは、市販されている。特定の一実施形態では、前記親水性ポリマーは、ポリ(アクリル酸)である。例えば、ポリ(アクリル酸)は、他の源の中でも、Polycryl AG社、Bohler、Postfach, CH-6221 Rickenbach、Switzerlandから(商品名: Polycryl); Stockhausen社、2401 Doyle Street、Greensboro、N.C.、27406-2911;及びBFGoodrich社、Four Coliseum Centre、2730 West Tyvola Rd.、Charlotte、N.C. 28217-4578から(商品名: Carbopol)得ることができる。
【0124】
複合繊維のためのポリマー(ボディ用又はコーティング用のいずれか)は、単一のモノマーに基づいて、又は2種以上のモノマーに基づいて作製されたポリマーを指す。したがって、ポリマーという用語は、本発明の意味において幅広く、且つ、他の指定がない限り、ホモポリマー及びコポリマーを含む。コポリマーは、それが本発明に好適であること以外は限定なしに、ランダムコポリマー又は交互コポリマーを指す。
【0125】
複合繊維のためのポリマーは、直鎖状であっても分枝状であってもよい。
【0126】
特定の一実施形態では、複合繊維は、ボディ中にPPコアとPEシース、及びコーティング中にポリ(アクリル酸)を含んでよい。
【0127】
特定の一実施形態では、複合繊維は、PPコアとPEシースとからなるボディ、及びポリ(アクリル酸)からなるコーティングからなるボディからなることができる。
【0128】
複合繊維が、もつれていることが好ましい。多孔質シートは、繊維シート、好ましくは織布又は不織布、より好ましくは不織布でありうる。
【0129】
不織布等の多孔質シートは、不織布繊維の間に形成された孔を有しうる。一実施形態では、多孔質シートは、0.1~100dtex、好ましくは0.3~10dtex、より好ましくは0.5~8dtexの範囲の直鎖状質量密度を有する複合繊維を含んでよい。
【0130】
多孔質シートの1つの技術的な利点は、多孔質シートが軽量であることである。
【0131】
多孔質シートのサイズ及び形状は、例えば適用する標的に依存する。例えば、多孔質シートは、0.25cm2~500cm2、好ましくは200cm2~450cm2の範囲の表面積を有してよい。固体基材は、典型的には、5g/m2~400g/m2、好ましくは5g/m2~80g/m2の密度(坪量)を有する。特定の一実施形態では、多孔質シートは、5~40 g/m2、好ましくは10~30 g/m2、より好ましくは15~25 g/m2の密度(坪量)を有する。グラム/平方メートル又はg/m2はまた、gsmとして知られる。
【0132】
多孔質シートは、熱接着法によって調製することができる。
【0133】
不織布等の多孔質シートは、
(i)少なくとも2種のポリマー材料を押し出す工程と、
(ii)前記少なくとも2種のポリマー、好ましくは2種の無極性ポリマー、より好ましくは2種のポリオレフィンポリマーを含む複数の複合繊維を形成する工程と、
(iii)前記複合繊維を、少なくとも1種のポリマー、好ましくは1種の親水性ポリマー、より好ましくは少なくとも1種の親水性アクリルポリマーによりコーティングする工程と、
(iv)前記複数の複合繊維を接着法により接着する工程と
を含む方法によって調製することができる。
【0134】
一実施形態では、前記接着法(iv)は、前記複数の複合繊維のカーディング接着及び熱接着を含む。
【0135】
一実施形態では、前記方法は、(i)少なくとも2種のポリマーを同じスピナレット中で押し出す工程と、(ii)前記少なくとも2種のポリマー、繊維ボディのコアを形成する1種のポリマーと繊維ボディのシースを形成する別のポリマーを含む複数の複合繊維を形成する工程とを含む。
【0136】
一実施形態では、方法は、前記少なくとも2種のポリマーを含む前記複数の複合繊維を、繊維の不織布ウェブを通る温風を通ってカーディングする工程を含む。これは、温風法又は熱接着法と称される。
【0137】
好ましい一実施形態では、多孔質シートを作製する温風法のための温度は、繊維ボディのシースのみが溶融して、繊維ボディのコアが溶融しない形態のまま残るように、選択される。したがって、前記熱接着は、繊維ボディのスリースを溶融するための温度にて有利には実施されるが、繊維ボディのコアを溶融する温度ではない。
【0138】
一実施形態では、前記接着法(iv)は、100℃~230℃の範囲の温度にて実施される。
【0139】
有利には、この温風法は、コンソールされた材料をもたらし、且つ多孔質シートに、とりわけ美容上の用途で、局所適用のために特に必要とされるふわふわした柔らかい感触を供与する。繊維ボディ、好ましくはそのコアの非溶融のために、調製されたシートは、開放構造のまま残り、これは、有利にはふわふわした柔らかい感触をシートに供与する。
【0140】
本発明による美容方法のために使用される多孔質シートは、水を含む。水の量は、限定されない。しかしながら、水の量が、多孔質シートの水保持力の50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上であることが好ましい。多孔質シートが水で飽和されていることが最も好ましい。
【0141】
一実施形態では、多孔質シートは、フェイスマスクの形態にあってよい。好ましい一実施形態では、多孔質シートは、上で説明した少なくとも1種の美容有効成分を含んでよい。
【0142】
別の実施形態では、多孔質シートは、ワイプであってよい。
【0143】
一実施形態では、多孔質シートは、丸くした形状、例えば円形又は楕円形の形状を有してよい。別の実施形態では、多孔質シートは、多角形の形状を有してよい。
【0144】
一実施形態では、多孔質シートは、ユーザの鼻を受けるよう意図された少なくとも1つの中央の貫通開口部と、ユーザの両目の前に配置するための少なくとも2つの上部の貫通開口部とを画定することが可能なフェイスマスクの形態にあってよい。
【0145】
有利には、多孔質シートは、ユーザの両目に対面して配置されるよう意図された少なくとも2つの貫通開口部と、ユーザの口に対面して配置されるよう意図された別の貫通開口部とを備えてよい。特定の一実施形態では、フェイスマスクはまた、鼻挿入貫通開口部の範囲を定めるための、ユーザの鼻によって押し退けられることを意図されたフラッパーの範囲を定めるスリットも備えてよい。一変形形態では、スリットは、フラッパーなしに、貫通開口部の範囲を定める。特定の一実施形態では、多孔質シートは、触ると、体表面又は顔表面の立体構造に適合するように変形可能である。
【0146】
[キット、方法及び使用]
本発明はまた、
基材シート及び基材シート上の複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルシートであって、基材シートが少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含むマイクロニードルシートと、
少なくとも1種の複合繊維を含み、好ましくは水を更に含み、より好ましくは容器中に水と共に包装されている、多孔質シートと
を備えたキットにも関する。
【0147】
本発明によるキット中の多孔質シートは、乾燥していてよい。この事例において、多孔質シートは、使用する前に濡らされる。
【0148】
本発明によるキット中の多孔質シートが水を含むことが好ましい。換言すれば、本発明によるキット中の多孔質シートが濡れていることが好ましい。
【0149】
本発明によるキット中の多孔質シートが、水を含む容器中に包装されていることが、より好ましい。
【0150】
容器は、水だけでなく、上で説明した少なくとも1種の美容有効成分もまた含んでよい。
【0151】
容器は、好ましくは、任意の材料、好ましくはプラスチック又は金属フィルムから作製されたバッグ又はサッシェであってよい。アルミニウムホイル、特に積層アルミニウムホイルが、バッグ又はサッシェのための材料としてより好ましい。
【0152】
そのため、多孔質シートは、容器中に収容される前に折られてよい。
【0153】
キットは、好ましくは、本発明による美容方法を実施するために使用されうる。
【0154】
本発明はまた、基材シート及び基材シート上の複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルシートの基材シートを溶解させるための方法であって、基材シートが、少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含み、前記方法が、
前記基材シートの上に、少なくとも1種の複合繊維を含んで水を含む多孔質シートを適用する工程
を含む、方法にも関する。
【0155】
本発明は、基材シート及び基材シート上の複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルシートの基材シートを溶解させるための、少なくとも1種の複合繊維を含む多孔質シートの使用であって、前記多孔質シートが水を含み、前記基材シートが、少なくとも1種の水溶性又は水分散性ポリマーを含む、使用に関する。
【0156】
本発明による上記の方法及び使用によれば、マイクロニードルシートの基材シートは、迅速に溶解することができる又は崩壊することができる。換言すれば、マイクロニードルシートの基材シートは、短期間で溶解することができる又は崩壊することができる。そのため、不快な触感を授けうる、マイクロニードルシートの基材シートは、マイクロニードルシートが使用されるときに容易に消失することができ、且つケラチン物質上に長期間にわたり残留しない。
【0157】
したがって、本発明による上記の方法又は使用は、マイクロニードルシートを使用する美容トリートメント方法又は非治療的トリートメント方法のために必要な時間を、低減させることができる。
【0158】
本発明による美容方法のためのマイクロニードルシート及び多孔質シートについての上記の説明はまた、本発明によるキット、方法及び使用における説明にも当てはめることができる。
【実施例】
【0159】
本発明を、実施例によって、より詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例が本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。以下の実施例は、本発明の分野における非限定的な例示として提示する。
【0160】
[マイクロニードルパッチ]
マイクロニードルシートを、平均分子量が70,000ダルトンのヒアルロン酸ナトリウムを使用して調製した。マイクロニードルシートは、基材シート上に、複数のマイクロニードルを密度324ニードル/cm2で有していた。各マイクロニードルは、長さ又は高さが200μmで底面の直径が200μmの円錐体の形状を有していた。マイクロニードルのピッチは60μmとした。
【0161】
マイクロニードルシートを、標準的な型鋳造方法により調製した。ヒアルロン酸ナトリウムを水中に溶解させ、そのようにして得たヒアルロン酸ナトリウムの水性溶液を、マイクロニードルの形状に対応している型のキャビティ内に注入した。室温で乾燥させて水を除去した後、キャビティ内のマイクロニードルを、基材シート上に複数のマイクロニードルを有するマイクロニードルシートとして型から外した。
【0162】
マイクロニードルシートを、それが、目の下に適用されるパッチの形状を有するように切断した。
【0163】
[繊維パッチ]
実施例1で使用する不織布繊維シートを、ポリプロピレン(PP)から構成されるコアと、ポリエチレン(PE)からなるシースとを有する二成分繊維を使用して調製した。二成分繊維を、アクリルポリマーで処理し、次いで、熱接着法を用いて、20g/m2の坪量を有する不織布繊維シートへと変換した。熱接着法の温度を125℃とし、その結果、二成分繊維のシース部は溶融したが二成分繊維のコア部は依然として溶融せずに残り、繊維基材をもたらした。
【0164】
比較例1で使用する不織布繊維シートを、50%のセルロース繊維と50%のビスコースレーヨン繊維とを使用して調製した。不織布繊維シートの坪量は50g/m2とした。
【0165】
比較例2で使用する不織布繊維シートを、PET繊維を使用して調製した。不織布繊維シートの坪量は50g/m2とした。
【0166】
上記の3種の不織布繊維シートの特徴を表1に示す。
【0167】
【0168】
表1に示す3種の不織布繊維シートのそれぞれを、それが目の下に適用されるパッチの形状になるように切断し、各不織布繊維シートパッチを、表2に示す成分を含んだ液体配合物2gを含むサッシェの中に24時間包装した。
【0169】
【0170】
次に、不織布繊維シートのそれぞれをサッシェから取り出し、サッシェの中に残留している液体配合物の質量を測定した。このようにして、不織布繊維シートのそれぞれに吸収させた液体配合物の量を求めた。結果を表3に示す。
【0171】
【0172】
表3は、実施例1の不織布繊維シートパッチが、比較例1及び2の不織布繊維シートパッチよりも大きい液体吸収力を有していたことを示している。そのため、実施例1の不織布繊維シートパッチは、比較例1及び2の不織布繊維シートパッチよりも多量の液体配合物を供与することができた。実施例1の繊維パッチの坪量が比較例1及び2の繊維パッチの坪量よりも小さかったという事実の観点において、これは驚くべきことであり、このことは、実施例1の繊維パッチが比較例1及び2の繊維パッチよりも少量の吸収性材料を有していたらしいことを意味していた。
【0173】
[評価]
(実施例1)
上記のようにこうして調製したマイクロニードルパッチを、Beaulax社により提供されている人工皮膚試料[Bio-Skin(登録商標)]上に適用した。次いで、実施例1のために、マイクロニードルパッチを繊維パッチで被覆した。
【0174】
15分後、繊維パッチを取り外し、マイクロニードルパッチの残渣を、直ちに及び45分後(繊維パッチの適用1時間後)に目視観察した。
【0175】
(比較例1)
上記のようにこうして調製したマイクロニードルパッチを、Beaulax社により提供されている人工皮膚試料[Bio-Skin(登録商標)]上に適用した。次いで、比較例1のために、マイクロニードルパッチを繊維パッチで被覆した。
【0176】
15分後、繊維パッチを取り外し、マイクロニードルパッチの残渣を、直ちに及び45分後(繊維パッチの適用1時間後)に目視観察した。
【0177】
(比較例2)
上記のようにこうして調製したマイクロニードルパッチを、Beaulax社により提供されている人工皮膚試料[Bio-Skin(登録商標)]上に適用した。次いで、比較例2のために、マイクロニードルパッチを繊維パッチで被覆した。
【0178】
15分後、繊維パッチを取り外し、マイクロニードルパッチの残渣を、直ちに及び45分後(繊維パッチの適用1時間後)に目視観察した。
【0179】
(結果)
実施例1における人工皮膚試料上のマイクロニードルパッチの残渣の量は、繊維パッチを適用した15分後と1時間後との両方のタイミングで、比較例1又は比較例2におけるその量よりも少なかった。
【0180】
このことは、二成分繊維から構成されている不織布繊維パッチが、マイクロニードルパッチの基材シートを、従来の不織布繊維パッチが行うよりも速く又は短い期間で溶解させることができた又は崩壊させることができたことを意味していた。このことは、二成分繊維から構成されている不織布繊維パッチによる、より多量の液体配合物の送達に起因しうる。