(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材、基材の防汚方法および防汚塗膜付き基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20230822BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20230822BHJP
C09D 151/06 20060101ALI20230822BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20230822BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230822BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230822BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20230822BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D133/14
C09D151/06
C09D5/16
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/65
B05D7/24 302P
(21)【出願番号】P 2018238442
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石本 慎
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-224189(JP,A)
【文献】特開2017-133319(JP,A)
【文献】特開2002-060786(JP,A)
【文献】特開2001-129067(JP,A)
【文献】特開2014-034634(JP,A)
【文献】特開2000-160067(JP,A)
【文献】特開2017-113690(JP,A)
【文献】特開2018-141103(JP,A)
【文献】特開平09-157551(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209029(WO,A1)
【文献】特開2007-246482(JP,A)
【文献】特開平05-230161(JP,A)
【文献】特開平11-293183(JP,A)
【文献】特開2000-136222(JP,A)
【文献】国際公開第2011/129426(WO,A1)
【文献】特開2000-119355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/00
B05D 7/24
C09D 5/16
C09D 7/61
C09D 7/63
C09D 7/65
C09D 133/14
C09D 151/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系重合体(A)(ただし、下記重合体(B)を除く。)、
ビニル系重合体を主鎖とし、該主鎖に結合した側鎖として、下記式(I)で表される構造単位(I)と、下記式(II)で表される構造単位(II)とを有する重合体(B)、および、防汚剤(C)を含有し、
前記(メタ)アクリル系重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の含有量が10~70質量部である防汚塗料組成物
であって、
前記防汚塗料組成物が、漁具、船舶、橋梁、港湾設備、海上ブイ、海中パイプライン、浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備、浮体式洋上天然ガス液化設備、石油掘削リグ、石油備蓄基地、メガフロート、洋上風力発電設備および潮力発電設備からなる群より選ばれる用途に用いられる、防汚塗料組成物。
【化1】
(式(I)中、R
1はエチレン基またはプロピレン基を示し、R
2は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基を示し、nは1~30の整数を示し、*は主鎖に結合した部分を示す。)
【化2】
(式(II)中、R
3はエチレン基またはプロピレン基を示し、R
4は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基を示し、R
5は独立に、炭素数1~10の炭化水素基を示し、mは1~150の整数を示し、*は主鎖に結合した部分を示す。)
【請求項2】
前記式(I)中のnが1~5の整数である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記重合体(B)が、前記構造単位(I)を2~60質量%、前記構造単位(II)を40~98質量%(但し、構造単位(I)および(II)の合計は100質量%である。)含む、請求項1または2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記防汚剤(C)が、亜酸化銅、ロダン銅、銅ピリチオン、ジンクピリチオン、2,4,6-トリクロロフェニルマレイミド、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピル-1,3,5-トリアジン、テトラエチルチウラムジスルフィド、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル、(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール、ジフェニルメチルボラン・4-イソプロピルピリジン、トリフェニルボラン・n-オクタデシルアミン、トリフェニルボラン・3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルジチオカーバメート、および、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
さらに、ポリオレフィン、ポリスルフィド、流動パラフィン、ワックス、および、ワセリンから選ばれる少なくとも1種の可塑性化合物(D)を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
【請求項7】
請求項
6に記載の防汚塗膜で被覆された防汚塗膜付き基材。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布するかまたは含浸させ、次いで乾燥または硬化させる工程を含む、基材の防汚方法。
【請求項9】
基材に、請求項1~
5のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物を塗布するかまたは含浸させる工程と、
前記基材に塗布または含浸された防汚塗料組成物を乾燥または硬化させる工程と
を含む、防汚塗膜付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材、基材の防汚方法および防汚塗膜付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、漁具(例:ロープ、漁網、浮き子、ブイ)、海水の給排水管等の水中構造物などは、水中に長期間曝されることにより、その表面に、カキ、イガイ、フジツボ等の動物類、ノリ(海苔)等の植物類、バクテリア類などの各種水棲生物が付着、繁殖し、その外観が損ねられ、その機能が害されることがある。
【0003】
特に船底にこのような水棲生物が付着、繁殖すると、船底の表面粗度が増加し、船速の低下、燃費の拡大などを招くことがある。このような水棲生物を船底から取り除くには、多大な労力、作業時間が必要となる。また、養殖網や定置網等の漁網に水棲生物が付着、繁殖すると網目の閉塞による漁網内の生物の酸欠致死等、重大な問題が生じることがある。さらに、火力、原子力発電所等の海水の給排水管に水棲生物が付着、繁殖すると冷却水の給配水循環に支障をきたすことがある。
【0004】
このような不具合に対して、防汚剤を含有する防汚塗料(防汚塗料組成物)を基材に塗布して水棲生物の付着を防止することが一般的に行われている。
この防汚塗料の樹脂成分(バインダー成分)としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ロジン系樹脂が用いられている。また、防汚成分としてシリコーンオイルを含有する防汚塗料が広く用いられている。しかしながら、このような樹脂およびシリコーンオイルを含む従来の防汚塗料から形成される塗膜は、防汚成分の放出速度が速く、これらの放出が終わると防汚性は低下し、長期間にわたり防汚性を発揮することは困難であった。そこで、初期からの防汚成分の放出を適度に保ち、長期的に塗膜に防汚性を発揮させる樹脂として、オルガノポリシロキサン基と親水性基を有するポリマーが検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ポリオキシアルキレンセグメントおよびポリジオルガノシロキサンセグメントを含むセグメント化ポリマーとエチレン性不飽和モノマー重合体とを含む防汚塗料組成物が記載され、このセグメント化ポリマーは水中浸漬後に塗膜表面に配向し親水性膜を形成するため、汚損の進行を減速化させることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、ビニル系共重合体を主鎖とし、該主鎖に結合した側鎖としてオルガノポリシロキサン単位とオルガノポリオキシアルキレン単位とを有するグラフト共重合体、および、防汚性を有する有機化合物を含有する水中防汚剤(組成物)が記載され、この水中防汚剤が高い防汚効果を有する上、その防汚効果の持続性に優れることが記載されている。
【0007】
特許文献3には、側鎖あるいは末端に4級アンモニウム塩の基を有するオルガノポリシロキサンと、側鎖あるいは末端にポリオキシアルキレン基を有するオルガノポリシロキサンを含有する水中防汚剤(組成物)が記載され、この水中防汚剤を使用することにより防汚効果の向上と効果の長期持続性を発揮することが記載されている。
【0008】
特許文献4には、幹ポリマーがビニル系共重合体、該幹ポリマーにグラフトされた枝ポリマーがポリオキシアルキレンからなるグラフトポリマーおよびオルガノポリシロキサンからなるグラフトポリマーを含むグラフト共重合体と、分子末端にアルコキシ基を有するシリコーンとを含有する防汚塗料組成物が記載され、この防汚塗料組成物によれば、水棲生物の通年の付着防止に有効な防汚塗膜を形成できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平8-104831号公報
【文献】特開平9-157551号公報
【文献】特開平10-330687号公報
【文献】特開平11-293183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されたセグメント化ポリマーは、エチレン性不飽和モノマー重合体との相溶性が低く、水中に浸漬してから比較的早い段階で水中に溶出し、長期にわたり防汚性を発揮することは困難であることがわかった。
【0011】
また、漁具等は、巻き取られたり、折り畳んだ状態などで保管等されることがあるため、このような漁具等には、柔軟性が求められる。
しかしながら、特許文献2および4に記載のグラフト共重合体、ならびに、特許文献3に記載のポリオキシアルキレン基を有するオルガノポリシロキサンは、いずれもこれらの文献に記載の組成物の樹脂分の主成分として用いられており、これらの組成物から得られる塗膜には柔軟性が無いことがわかった。
【0012】
漁具等、例えば漁網は、水中からの引き上げの際に機械を用いて引き上げることが多い。この引き上げの際に、該漁網が機械に対し滑りやすいと、この引き上げ作業を容易に行うことができず、該漁網の使用時の作業性が低下する。一方、漁具等が滑りやすければ滑りやすいほど、一般に水棲生物等の付着が起こりにくくなり、防汚性が向上する。
つまり、漁具等の使用時の作業性を考慮すると、その漁具等には滑りにくさが求められ、防汚性を考慮すると、その漁具等には滑りやすさが求められるが、これらの相反する要求を共に満足できる組成物は従来知られていなかった。
【0013】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、長期防汚性、柔軟性および適度な滑りやすさ(以下「適度なスリップ性」ともいう。)をバランスよく有する防汚塗膜を形成できる防汚塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成例は、以下の通りである。
【0015】
[1] (メタ)アクリル系重合体(A)(ただし、下記重合体(B)を除く。)、および、
ビニル系重合体を主鎖とし、該主鎖に結合した側鎖として、下記式(I)で表される構造単位(I)と、下記式(II)で表される構造単位(II)とを有する重合体(B)
を含有し、
前記(メタ)アクリル系重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の含有量が10~70質量部である防汚塗料組成物。
【0016】
【化1】
(式(I)中、R
1はエチレン基またはプロピレン基を示し、R
2は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基を示し、nは1~30の整数を示し、*は主鎖に結合した部分を示す。)
【0017】
【化2】
(式(II)中、R
3はエチレン基またはプロピレン基を示し、R
4は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基を示し、R
5は独立に、炭素数1~10の炭化水素基を示し、mは1~150の整数を示し、*は主鎖に結合した部分を示す。)
【0018】
[2] 前記式(I)中のnが1~5の整数である、[1]に記載の防汚塗料組成物。
【0019】
[3] 前記重合体(B)が、前記構造単位(I)を2~60質量%、前記構造単位(II)を40~98質量%(但し、構造単位(I)および(II)の合計は100質量%である。)含む、[1]または[2]に記載の防汚塗料組成物。
【0020】
[4] さらに防汚剤(C)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【0021】
[5] 前記防汚剤(C)が、亜酸化銅、ロダン銅、銅ピリチオン、ジンクピリチオン、2,4,6-トリクロロフェニルマレイミド、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピル-1,3,5-トリアジン、テトラエチルチウラムジスルフィド、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル、(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール、ジフェニルメチルボラン・4-イソプロピルピリジン、トリフェニルボラン・n-オクタデシルアミン、トリフェニルボラン・3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルジチオカーバメート、および、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[4]に記載の防汚塗料組成物。
【0022】
[6] さらに、ポリオレフィン、ポリスルフィド、流動パラフィン、ワックス、および、ワセリンから選ばれる少なくとも1種の可塑性化合物(D)を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【0023】
[7] 漁具用である、[1]~[6]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
[9] [8]に記載の防汚塗膜で被覆された防汚塗膜付き基材。
【0024】
[10] [1]~[7]のいずれかに記載の防汚塗料組成物を基材に塗布するかまたは含浸させ、次いで乾燥または硬化させる工程を含む、基材の防汚方法。
[11] 基材に、[1]~[7]のいずれかに記載の防汚塗料組成物を塗布するかまたは含浸させる工程と、
前記基材に塗布または含浸された防汚塗料組成物を乾燥または硬化させる工程と
を含む、防汚塗膜付き基材の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る防汚塗料組成物によれば、長期にわたって防汚効果を発揮するとともに、柔軟性に優れ、かつ、適度なスリップ性を有する防汚塗膜を形成することができる。このような防汚塗料組成物は、漁具(例:ロープ、漁網、浮き子、ブイ)、船舶、水中構造物等の表面への水棲生物の付着による汚染の防止に好適に使用される。特に、該組成物から得られる防汚塗膜を有する漁具は、使用時の作業性に優れながらも、長期防汚性にも優れ、柔軟であるという、従来達成できなかった効果をバランスよく有する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
≪防汚塗料組成物≫
本発明に係る防汚塗料組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、(メタ)アクリル系重合体(A)(ただし、下記重合体(B)を除く。)、および、ビニル系重合体を主鎖とし、該主鎖に結合した側鎖として、下記式(I)で表される構造単位(I)と、下記式(II)で表される構造単位(II)とを有する重合体(B)を含有し、
前記(メタ)アクリル系重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の含有量が10~70質量部である。
【0027】
なお、「(メタ)アクリル((meth)acryl)」は、アクリル(acryl)およびメタクリル(methacryl)を、「(メタ)アクリロイル((meth)acryloyl)」は、アクリロイル(acryloyl)およびメタクリロイル(methacryloyl)を総称する語句である。
また、本発明において「不揮発分」とは、本組成物または各成分から溶剤を除いた場合の量である。たとえば、本組成物または各成分を、105℃で3時間放置して溶剤を揮散させた時の残分の量を「不揮発分量」とすることができる。
【0028】
<(メタ)アクリル系重合体(A)>
(メタ)アクリル系重合体(A)は、下記重合体(B)以外の(メタ)アクリル系重合体であれば特に限定されない。
前記重合体(A)としては、(メタ)アクリル酸系エステルの単独重合体または共重合体が挙げられ、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、少なくとも2種以上の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、(メタ)アクリル酸エステルと該エステルと共重合し得る不飽和単量体との共重合体などが挙げられる。
本組成物に用いる重合体(A)は、1種でも、2種以上でもよい。
前記重合体(A)は、本組成物の樹脂成分(バインダー成分、塗膜形成成分ともいう。)として用いられる。
【0029】
(メタ)アクリル酸系エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらは1種単独で用いてもよく、または2種類以上を用いてもよい。
【0030】
(メタ)アクリル酸系エステルと共重合し得る不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸などのモノカルボン酸類;イタコン酸、マレイン酸、コハク酸等のジカルボン酸類、これらのハーフエステル(モノエステル)、これらのジエステル、これらの酸無水物;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン類;および酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、または2種類以上を用いてもよい。
【0031】
前記重合体(A)の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~300,000(30万)であり、塗工性能に優れる組成物が得られ、塗膜物性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、より好ましくは5,000~200,000(20万)である。
該Mwは、後述する実施例の欄に記載の条件または該条件と同等の条件で測定される。
【0032】
また、前記重合体(A)としては、前記不飽和単量体から誘導される構造単位を含み、前記Mwが1,000~20,000(2万)である低分子量アクリル樹脂や、長鎖(炭素数8~20)アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルから誘導される構造単位を含み、前記Mwが2,000~200,000であるアクリル樹脂を使用してもよい。
【0033】
前記重合体(A)をキシレンに、濃度が50%となるように溶解させた溶液の25℃における粘度(E型粘度計、東機産業(株)製、「TV-25」により測定)は、好ましくは10~20,000mPa・sである。
また、前記重合体(A)の示差走査熱量計(DSC)で測定したTg(ガラス転移点)は、好ましくは-20~30℃である。
重合体(A)が前記粘度またはTgを有すると、柔軟性および造膜性に優れる塗膜を容易に得ることができる。
【0034】
前記重合体(A)の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは20~80質量%である。
重合体(A)の含有量がこの範囲にあることで、造膜性および基材への付着性により優れる塗膜を得ることができる。
【0035】
<重合体(B)>
重合体(B)は、ビニル系重合体を主鎖とし、該主鎖に結合した側鎖として、下記式(I)で表される構造単位(I)と、下記式(II)で表される構造単位(II)とを有する。
従来の防汚塗料組成物では、該組成物から得られる塗膜の防汚性を向上させようとすると、該塗膜は滑りやすく、該塗膜を有する基材の使用時における作業性が低下していた。一方で、本組成物では、前記重合体(B)を添加剤として用いることで、長期に亘って防汚効果を発揮するとともに、柔軟性に優れ、かつ、適度なスリップ性を有する防汚塗膜を形成することができる。
本組成物に用いる重合体(B)は、1種でも、2種以上でもよい。
【0036】
〈構造単位(I)〉
前記構造単位(I)は下記式(I)で表される。
重合体(B)は前記構造単位(I)を有するため、前記効果、特に防汚性に優れる塗膜を得ることができ、前記構造単位(I)を有さない重合体を用いると、防汚性に優れる塗膜を得ることができない。
前記重合体(B)は、2種以上の構造単位(I)を有していてもよい。
【0037】
【0038】
前記R1はエチレン基またはプロピレン基を示し、好ましくはエチレン基である。
前記R2は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基を示し、防汚性により優れる塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
前記nは1~30の整数を示し、防汚性により優れる塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは1~15の整数であり、より好ましくは1~10の整数であり、特に好ましくは1~5の整数である。
前記*は主鎖に結合した部分を示す。
【0039】
なお、式(I)中のnが2以上の場合、複数のR1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。この規定は、下記式(II)のmが2以上の場合のR5等についても同様である。
【0040】
前記構造単位(I)を有する重合体(B)は、該重合体(B)の原料として下記式(i)で表される単量体(i)を用いることで得ることが好ましいが、予めビニル重合体を形成した後、その側鎖に、前記単量体(i)などの前記構造単位(I)を有する単量体を用いて、前記構造単位(I)を導入してもよい。
【0041】
【化4】
(式(i)中のR
1、R
2およびnはそれぞれ、式(I)中のR
1、R
2およびnと同義であり、R
Aは水素原子またはメチル基を示す。)
【0042】
前記単量体(i)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、好ましくは2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートであり、更に好ましくは2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートである。
【0043】
前記単量体(i)としては、市販品を用いてもよい。該市販品としては、例えば、新中村化学工業(株)製のNKエステルAM-90G(メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート)、NKエステルAM-130G(メトキシポリエチレングリコール#550アクリレート)、日油(株)製のブレンマーAP-400(ポリプロピレングリコールモノアクリレート)、大阪有機化学工業(株)製のビスコート#MTG(メトキシポリエチレングリコールアクリレート)が挙げられる。
【0044】
前記構造単位(I)は、下記式(III)で表される構造単位であることが好ましく、前記単量体(i)は、下記式(iii)で表される化合物であることが好ましい。
【0045】
【化5】
(式(III)中、R
2は水素原子またはメチル基を示し、nは式(I)中のnと同義であり、*は主鎖に結合した部分を示す。)
【0046】
【化6】
(式(iii)中のR
2およびnはそれぞれ、式(III)中のR
2およびnと同義であり、R
Bは水素原子またはメチル基を示す。)
【0047】
〈構造単位(II)〉
前記構造単位(II)は、下記式(II)で表される。
重合体(B)は前記構造単位(II)を有するため、前記効果、特に防汚性に優れ、適度なスリップ性を有する塗膜を得ることができる。
前記重合体(B)は、2種以上の構造単位(II)を有していてもよい。
【0048】
【0049】
前記R3はエチレン基またはプロピレン基を示し、好ましくはプロピレン基である。
前記R4は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基を示し、防汚性により優れる塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは水素原子または炭素数1~5の炭化水素基である。
前記R5は独立に、炭素数1~10の炭化水素基を示し、重合体(B)の合成容易性の点や防汚性により優れる塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは炭素数1~6の炭化水素基であり、より好ましくはメチル基またはフェニル基である。
前記mは1~150の整数を示し、重合体(B)の合成容易性の点や防汚性により優れる塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは1~100の整数であり、より好ましくは1~70の整数である。
前記*は主鎖に結合した部分を示す。
【0050】
前記構造単位(II)を有する重合体(B)は、該重合体(B)の原料として下記式(ii)で表される単量体(ii)を用いることで得ることが好ましいが、予めビニル重合体を形成した後、その側鎖に、前記単量体(ii)などの前記構造単位(II)を有する単量体を用いて、前記構造単位(II)を導入してもよい。
【0051】
【化8】
(式(ii)中のR
3、R
4、R
5およびmはそれぞれ、式(II)中のR
3、R
4、R
5およびmと同義であり、R
Cは水素原子またはメチル基を示す。)
【0052】
前記単量体(ii)としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、JNC(株)製のサイラプレーンFM-0711(メタクリル基含有ジメチルポリシロキサン、数平均分子量1,000)、サイラプレーンFM-0721(メタクリル基含有ジメチルポリシロキサン、数平均分子量5,000)が挙げられる。
【0053】
〈その他の構造単位〉
前記重合体(B)は、構造単位(I)および構造単位(II)以外のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有していてもよい。
【0054】
前記エチレン性不飽和単量体の具体例としては、前記重合体(A)の欄で例示した(メタ)アクリル酸系エステル類;(メタ)アクリル酸などのモノカルボン酸類;イタコン酸、マレイン酸、コハク酸等のジカルボン酸類、これらのハーフエステル(モノエステル)、これらのジエステル、これらの酸無水物;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;が挙げられる。
【0055】
〈主鎖(ビニル系重合体)〉
前記重合体(B)の主鎖は、ビニル系重合体であり、このような主鎖は、例えば、前記単量体(i)、前記単量体(ii)、前記エチレン性不飽和単量体などのビニル基を有する単量体を用いて形成すればよい。例えば、前記単量体(i)と前記単量体(ii)とを共重合すれば、ビニル系重合体を主鎖とする重合体(B)が得られる。
【0056】
前記重合体(B)は、例えば、前記単量体(i)、前記単量体(ii)および必要により前記エチレン性不飽和単量体を用いて、これらを従来公知の方法で共重合することで得ることができ、ビニル系重合体を主鎖とし、該主鎖に結合した側鎖として、前記単量体(i)に由来する構造単位と、前記単量体(ii)に由来する構造単位とを有するグラフト共重合体であることが好ましい。
【0057】
前記重合体(B)における前記構造単位(I)の含有割合は、好ましくは2~60質量%、より好ましくは20~50質量%であり、前記重合体(B)における前記構造単位(II)の含有割合は、好ましくは40~98質量%、より好ましくは50~80質量%である。但し、構造単位(I)および(II)の合計は100質量%である。
構造単位(I)と(II)との含有割合が前記範囲にあると、長期防汚性、柔軟性および適度なスリップ性をよりバランスよく有する防汚塗膜を容易に得ることができる。
構造単位(I)と(II)の含有量は、これらの構造単位を含む原料の使用量から算出でき、例えば、単量体(i)と単量体(ii)とを共重合することで重合体(B)を合成する場合、これら単量体が全て重合体(B)になるとすると、単量体(i)の使用量を構造単位(I)の含有量、単量体(ii)の使用量を構造単位(II)の含有量とみなすことができる。
【0058】
前記重合体(B)が構造単位(I)および構造単位(II)以外のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する場合、該エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位の含有量は前記重合体(B)100質量%に対し、20質量%以下であることが好ましい。
【0059】
前記重合体(B)のMwは、塗工性能に優れる組成物が得られ、塗膜物性、特に防汚性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは1,000~50,000、より好ましくは3,000~40,000、特に好ましくは3,000~35,000である。
該Mwは、後述する実施例の欄に記載の条件または該条件と同等の条件で測定される。
【0060】
前記重合体(B)をキシレンに濃度が70%となるように溶解させた溶液の25℃における粘度は、塗工性能に優れる組成物が得られ、塗膜物性、特に防汚性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは10~200mPa・sである。
【0061】
本組成物中の前記重合体(A)100質量部に対する前記重合体(B)の含有比率は、10~70質量部であり、長期防汚性、柔軟性および適度なスリップ性をよりバランスよく有する防汚塗膜を容易に形成できる等の点から、好ましくは10~60質量部である。
重合体(B)の含有比率が10質量部未満であると、防汚性が著しく低下する。一方、重合体(B)の含有比率が70質量部を超えると、得られる塗膜は非常に滑りやすくなり、該塗膜が設けられた基材(特に漁網)を水中に浸漬する作業または浸漬した基材を引き揚げる作業等が困難になる。
【0062】
<任意成分>
本組成物は、前述した成分の他に、防汚剤(C)、可塑性化合物(D)、タレ止め・沈降防止剤(搖変剤)、顔料、溶剤、その他の塗膜形成成分等の、従来の防汚塗料組成物に用いられている各種成分を含有していてもよい。
これらの成分はそれぞれ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
なお、本組成物は、シリコーンオイルを含んでいてもよいが、本組成物は、前記重合体(B)を含有するため、シリコーンオイルを含まなくてもよい。
【0063】
〈防汚剤(C)〉
前記防汚剤(C)としては、例えば、亜酸化銅、ロダン銅、銅ピリチオン、ジンクピリチオン、2,4,6-トリクロロフェニルマレイミド、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピル-1,3,5-トリアジン、テトラエチルチウラムジスルフィド、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル、(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(別名:メデトミジン)、ジフェニルメチルボラン・4-イソプロピルピリジン、トリフェニルボラン・n-オクタデシルアミン、トリフェニルボラン・3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルジチオカーバメート、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートが挙げられる。
これらの中でも、より長期防汚性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、亜酸化銅、ロダン銅、銅ピリチオン、ジフェニルメチルボラン・4-イソプロピルピリジン、トリフェニルボラン・n-オクタデシルアミン、トリフェニルボラン・3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを用いることが好ましく、亜酸化銅、ロダン銅、銅ピリチオンが特に好ましい。
【0064】
本組成物が防汚剤(C)を含む場合、長期防汚性により優れ、耐水性や機械的特性を維持できる塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物中の該防汚剤(C)の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.1~80質量%、より好ましくは0.5~70質量%、さらに好ましくは1~50質量%である。
【0065】
〈可塑性化合物(D)〉
前記可塑性化合物(D)としては、例えば、ポリオレフィン、ポリスルフィド、流動パラフィン、ワックス、ワセリンが挙げられる。
可塑性化合物(D)を用いることにより、得られる塗膜の防汚性をより向上させるとともに、さらに防汚剤(C)の溶出量を調整し、より長期に亘る防汚効果を発揮することができる。
【0066】
前記ポリオレフィンとしては、例えば、ポリブテン、エチレン・α-オレフィン共重合体が挙げられる。ポリブテンとしては、防汚性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、数平均分子量が280~1,500のポリブテンが好ましい。このようなポリブテンの市販品としては、例えば、JXTGエネルギー(株)製の、LV-5、LV-10、LV-25、LV-50、LV-100、HV-100、HV-300等が挙げられる。
【0067】
前記ポリスルフィドとしては、例えば、下記式(IV)で表されるジアルキルポリスルフィドが挙げられる。
R6-(S)p-R7・・・(IV)
【0068】
式(IV)中のR6およびR7は、炭素数1~20のアルキル基を示し、互いに同一でも異なっていてもよい。防汚性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、pは2~10の整数であることが好ましい。
【0069】
このようなポリスルフィドとしては、例えば、ジエチルペルペンタスルフィド、ジ-tert-ブチルジスルフィド、ジ-tert-ブチルテトラスルフィド、ジ-tert-ペンチルテトラスルフィド、ジオクチルポリスルフィド、ジ-tert-オクチルペンタスルフィド、ジ-tert-ノニルペンタスルフィド、ジ-tert-ドデシルペンタスルフィド、ジノナデシルテトラスルフィドが挙げられる。
【0070】
前記流動パラフィンとしては、例えば、原油を蒸留してガソリン分、灯油分、軽油分等を除き、スピンドル油からエンジン油までの留分を採り、精製して得られたものが挙げられ、主としてアルキルナフテン類からなる液状炭化水素油が好ましく、JIS K 9003の規定に適合するものがより好ましい。
【0071】
前記ワックスとしては、例えば、石油系ワックス、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックスが挙げられる。前記石油系ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムワックスが挙げられ、これらの中では特にパラフィンワックスが好ましい。
【0072】
前記ワセリンとしては、例えば、白色ワセリン、黄色ワセリンが挙げられる。
【0073】
前記可塑性化合物(D)としては、防汚性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、ポリブテン、ポリスルフィドが好ましい。
【0074】
本組成物が可塑性化合物(D)を含む場合、柔軟性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物中の可塑性化合物(D)の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.5~40質量%、さらに好ましくは2~30質量%である。
【0075】
〈タレ止め・沈降防止剤(搖変剤)〉
本組成物は、塗装時の厚塗り性、タレ止め性の向上や、必要により用いられる溶剤不溶分(顔料等)の沈降防止のため、各種タレ止め・沈降防止剤(搖変剤)を含有していてもよい。
【0076】
タレ止め・沈降防止剤としては、例えば、Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩などの有機粘土系塩類、酸化ポリエチレンワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油系ワックス、ポリアマイド系ワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックスが挙げられ、好ましくは、ポリアマイドワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックス、有機粘度系塩類が挙げられる。このようなタレ止め・沈降防止剤の市販品としては、例えば、楠本化成(株)製の「ディスパロン305」、「ディスパロン4200-20」、「ディスパロンA630-20X」が挙げられる。
【0077】
本組成物中のタレ止め・沈降防止剤の含有量は、本組成物100質量%に対し、例えば0~10質量%である。
【0078】
〈顔料〉
前記顔料としては、前記防汚剤(C)以外の従来公知の有機系、無機系の各種着色または体質顔料を用いることができる。
有機系顔料としては、例えば、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、紺青が挙げられる。
無機系顔料としては、例えば、カーボンブラック、チタン白、ベンガラ、バライト粉、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、亜鉛華(ZnO、酸化亜鉛)、鉛白、鉛丹、亜鉛末が挙げられる。
【0079】
本組成物中の顔料の含有量は、本組成物100質量%に対し、例えば0~45質量%である。
【0080】
〈溶剤〉
本組成物は、前記各種成分は、溶剤に溶解または分散していることが好ましい。ここで使用される溶剤としては、例えば、脂肪族系、芳香族系、ケトン系、エステル系、エーテル系など、通常の防汚塗料に配合されるような各種溶剤が用いられる。
前記芳香族系溶剤としては、例えばキシレン、トルエンが挙げられ、ケトン系溶剤としては、例えば、メチルイソブチルケトンが挙げられ、エステル系溶剤としては、例えば、酢酸ブチルが挙げられ、エーテル系溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMAC)が挙げられる。
本組成物に用いる、溶剤の添加量は特に限定されないが、前記各種成分を溶解または分散できる量であることが好ましい。
【0081】
〈その他の塗膜形成成分〉
本組成物は、前記重合体(A)および(B)以外のその他の塗膜形成成分を含有していてもよい。該その他の塗膜形成成分としては、例えば、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリブテン樹脂、シリコーンゴム、ウレタン樹脂(ゴム)、ポリアミド樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ゴム(樹脂)、塩素化オレフィン樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、クマロン樹脂、シリル系樹脂、石油樹脂、ケトン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、ポリビニルアルキルエーテル樹脂、ロジン(例:ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン)等の水溶性樹脂が挙げられる。
【0082】
本組成物が前記その他の塗膜形成成分を含む場合、本組成物中の該その他の塗膜形成成分の含有量は、本組成物100質量%に対し、例えば20質量%以下である。
【0083】
[防汚塗料組成物の製造]
本組成物は、前記各種成分を混合すればよく、この混合の際には、例えば、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、三本ロール、ボールミル、アトライターなど、従来から公知の分散用機械を用いることができる。
前記各種成分は、所定の量となるように、一度にまたは分割して混合すればよく、この際には、任意の順序で加えればよい。
また、例えば、溶液重合により得られる重合体(A)や(B)を用いる場合、該重合後の混合溶液をそのまま本組成物の調製に用いることもできる。
【0084】
[防汚塗料組成物の用途]
本組成物は、漁具(例:ロープ、漁網、浮き子、ブイ)、船舶、水中構造物等に好適に使用され、特に漁具、さらには漁網の網染めに好適に使用される。
本組成物によれば、長期にわたって防汚効果を発揮するとともに、柔軟性に優れ、かつ、適度なスリップ性を有し、防汚剤(C)を含有する場合には、防汚剤成分が長期間に亘って徐放可能であり、厚塗りしても適度な可撓性を有し、耐クラック性に優れる防汚塗膜で被覆された漁具などを得ることができる。
このような本組成物によれば、アオサ、フジツボ、アオノリ、セルプラ、カキ、フサコケムシ等の水棲生物の付着を長期間継続的に防止できるなど防汚性に優れる防汚塗膜を容易に得ることができる。
【0085】
本組成物は、2成分型以上の組成物であってもよいが、塗装作業性に優れる等の点から、1成分型の組成物であることが好ましい。
【0086】
≪防汚塗膜、防汚塗膜付き基材、基材の防汚方法および防汚塗膜付き基材の製造方法≫
本発明に係る防汚塗膜(以下「本防汚塗膜」ともいう。)は、前述した本組成物より形成され、本発明に係る防汚塗膜付き基材は、基材が、本防汚塗膜で被覆されていることを特徴とする。
また、本発明に係る基材の防汚方法は、前記本組成物を基材に塗布するかまたは含浸させ、次いで乾燥または硬化させる工程を含み、本発明に係る防汚塗膜付き基材の製造方法は、基材に、前記本組成物を塗布するかまたは含浸させる工程と、前記基材に塗布または含浸された本組成物を乾燥または硬化させる工程とを含む。
【0087】
本防汚塗膜は、前述した本組成物より形成され、具体的には、本組成物の乾燥物または硬化物であり、本組成物を乾燥または硬化することで製造できる。この乾燥または硬化の際には、基材、特に漁具、船舶または水中構造物に本組成物を塗装して乾燥または硬化することが好ましい。
【0088】
前記基材の材質としては、特に制限されないが、漁具、船舶、水中構造物を構成する材質が挙げられ、具体的には、例えば、漁網の材質としては、ポリエチレン、ナイロン、麻、金属、ポリエステルなどが挙げられ、船舶、水中構造物の材質としては、鉄鋼(鉄、鋼、合金鉄、炭素鋼、合金鋼など)、非鉄金属(亜鉛、アルミニウム、ステンレスなど)などが挙げられる。
【0089】
前記基材としては、例えば、ロープ、漁網、浮き子、ブイなどの漁具;船舶外板などの船舶;橋梁、港湾設備、海上ブイ、海中パイプライン、FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)、FLNG(浮体式洋上天然ガス液化設備)、石油掘削リグ、石油備蓄基地、メガフロート、洋上風力発電設備、潮力発電設備等における水中構造物が挙げられる。
これらの中でも、本組成物から得られる防汚塗膜の効果がより発揮される等の点から、漁具が好ましく、ロープ、漁網がより好ましく、特に漁網が好ましい。前記のような材質の漁網に対し、本組成物は特に良好に含浸付着するため好ましい。
【0090】
本組成物を基材に塗装する方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を制限なく使用できる。例えば、エアレススプレー、エアースプレー、刷毛塗り、ローラー塗り等の塗布方法や、基材を本組成物に浸漬する方法が挙げられる。
前記基材が漁具、特に漁網である場合、漁網を本組成物に浸漬する方法(漁網の網染め)が好ましい。漁網の網染めは、一般的な手法を用いて行うことができ、例えば、本組成物の中に漁網を浸漬して漁網の繊維内あるいは繊維間に本組成物を浸透含浸させた後、漁網を引き上げ乾燥する方法が挙げられる。なお、敷延または広げて吊るした漁網の表裏面に、静電塗装、エアガンを用いた塗装、エアレススプレー塗装等の方法で本組成物を散布してもよい。
【0091】
本組成物を基材に塗装する際は、常法に従って、1回または複数回塗装してもよい。複数回塗装する際には、異なる方法で塗装してもよく、例えば、基材を本組成物に浸漬し乾燥させた後、再度浸漬させるなど、複数回の塗装を同様の方法で行ってもよい。
【0092】
本組成物と基材との良好な付着性を確保するため、本組成物を基材に塗装する前に、錆、油脂、水分、塵埃、スライム、塩分などの基材表面付着物を清掃、除去することが好ましい。
また、特に基材として金属製基材を採用する場合には、基材に予め防食塗膜などを形成しておくことが好ましい。
必要に応じて、塗装方法に合わせて本組成物の粘度を調整してもよい。
【0093】
塗装された本組成物を乾燥または硬化させる方法としては特に制限されず、乾燥または硬化時間を短縮させるために5~60程度に加熱して乾燥または硬化させることもできるが、通常は、常温、大気下で1~14日程度放置することで乾燥または硬化させる。
【0094】
前記基材が漁網である場合、本組成物の塗装量は、乾燥または硬化した後の漁網の質量増加が、漁網1kg当たり、通常50~300g程度となる量である。
前記基材が、船舶や水中構造物である場合の形成する防汚塗膜の膜厚は特に制限されず、使用用途または目的に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは20~300・高ナある。
【実施例】
【0095】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0096】
<重合体(B)の重量平均分子量(Mw)>
重合体(B)の重量平均分子量(Mw)を下記条件でGPC法を用いて測定した。
・装置:「HLC-8120GPC」(東ソー(株)製)
・カラム:「TSKgel SuperH2000」および「TSKgel SuperH4000」を連結(いずれも、東ソー(株)製、6mm(内径)×15cm(長さ))
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:0.500ml/min
・検出器:RI
・カラム恒温槽温度:40℃
・標準物質:ポリスチレン
・サンプル調製法:各製造例で調製された樹脂溶液に少量の塩化カルシウムを加えて脱水した後、メンブレンフィルターで濾過して得られた濾物をGPC測定サンプルとした。
【0097】
<重合体溶液の粘度>
重合体溶液の25℃における粘度は、E型粘度計(東機産業(株)製「TV-25」)を用いて測定した。
【0098】
[製造例1](共重合体S-1溶液の製造)
反応は常圧、窒素雰囲気下で行なった。攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、キシレンを42.86g仕込み、攪拌しながら内温が100℃になるまで加熱した。反応容器内のキシレンの温度を100℃で保持しながら、20.0gのNKエステルAM-90Gおよび4.0gの2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)からなる混合物24.0gと、サイラプレーンFM-0711 80.0gとを4時間かけて反応容器内に滴下した。その後、同温度を保ちながら2時間攪拌し、共重合体S-1溶液(不揮発分:70%、粘度:37mPa・s、Mw:9,500)を得た。
【0099】
[製造例2~12](共重合体S-2~S-9溶液および共重合体N-1~N-3溶液の製造)
表1に示した成分を各割合で配合し、重合開始剤の量を適宜調整しながら、製造例1と同様に反応を行い、共重合体S-2~S-9溶液および共重合体N-1~N-3溶液(それぞれ不揮発分:70%)を得た。
なお、表1中の各成分の欄の数値は、質量部を示す。
【0100】
表1中の各成分は以下の通りである。
・NKエステルAM-90G(CH2=CH-CO-(OCH2-CH2)9-OCH3で表される化合物、新中村化学工業(株)製)
・NKエステルAM-130G(CH2=CH-CO-(OCH2-CH2)13-OCH3で表される化合物、新中村化学工業(株)製)
・ビスコート#MTG(CH2=CH-CO-(OCH2-CH2)3-OCH3で表される化合物、大阪有機化学工業(株)製)
・サイラプレーンFM-0711(メタクリル基含有ジメチルポリシロキサン、Mn:1,000、JNC(株)製)
・サイラプレーンFM-0721(メタクリル基含有ジメチルポリシロキサン、Mn:5,000、JNC(株)製)
【0101】
【0102】
<防汚塗料組成物の調製>
[実施例1]
ACP-470を20質量部、亜酸化銅を15質量部、酸化ポリエチレンワックスを2質量部、ポリブテンを5質量部、共重合体S-1溶液を3質量部、キシレンを55質量部混合して、防汚塗料組成物を調製した。
【0103】
[実施例2~20、比較例1~9]
表2および3に記載の成分を各割合で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、防汚塗料組成物を調製した。
なお、表2および3中の各成分の欄の数値は、質量部を示す。
【0104】
表2および3中の各成分は以下の通りである。
・ACP-470:アクリル樹脂(大竹明新化学(株)製、固形分50%)
・TOC-3204F:ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート
・OPA:トリフェニルボラン・3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(固形分30%)
・TPB-C18:トリフェニルボラン・n-オクタデシルアミン(固形分20%)
・TETD:テトラエチルチウラムジスルフィド
・ポリブテン:ポリブテンLV-100(JXTGエネルギー(株)製)
・ポリスルフィド:DAF-1(DIC(株)製)
・酸化ポリエチレンワックス:ディスパロン4200-20(楠本化成(株)製、固形分20%)
・KF-6016:ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製)
【0105】
<防汚性の評価>
ポリエチレン製無結節網(7節、400デニール、50本、縦15cm×横10cm)を各防汚塗料組成物に2分程度浸漬し、該組成物から取り出した後、室内で7日間風乾することで塗膜付き漁網を得た。該塗膜付き漁網を80cm×40cmのステンレス枠に固定し、広島湾内に設置された筏の下(水面下約1mの場所)に配置した。12ヶ月間の生物の付着状況を目視観察し、水棲生物の付着面積(%)を測定した。結果を表2および3に示す。
【0106】
<柔軟性の評価>
ポリエチレン製無結節網(7節、400デニール、50本、縦15cm×横10cm)を各防汚塗料組成物に2分程度浸漬し、該組成物から取り出した後、室内で7日間風乾することで塗膜付き漁網を得た。該塗膜付き漁網に対し、折り畳んだ後広げる、または、捩るなどの行為を行い評価した。結果は、5名の当業者の感覚を総合的に評価し、下記評価基準に基づいて評価した。結果を表2に示す。
【0107】
(評価基準)
○:柔らかい
△:やや硬い
×:硬い
【0108】
<スリップ性の評価(その1)>
ポリエチレン製ロープ(150本、3本撚り、太さ4mm、長さ30cm)を各防汚塗料組成物に2分程度浸漬し、該組成物から取り出した後、室内で7日間風乾した。乾燥後のロープの上端をダブルクリップ(幅25mm、プラス(株)製)で挟み、結び目をつくった下端に重りを吊り下げ、該クリップからロープが滑り落ちるまでの耐荷重を測定した。結果は、下記評価基準に基づいて評価した。結果を表2および3に示す。
なお、下記評価基準のAまたはBの場合は、例えば、前記乾燥後のロープを機械等を用いて引き上げる時に滑りにくく、この引き上げ作業を容易に行うことができる。
【0109】
(評価基準)
A:耐荷重1.5kg以上
B:耐荷重1.0kg以上、1.5kg未満
C:耐荷重0.5kg以上、1.0kg未満
D:耐荷重0.5kg未満
【0110】
<スリップ性の評価(その2)>
ポリエチレン製無結節網(7節、400デニール、50本、縦15cm×横10cm)を各防汚塗料組成物に2分程度浸漬し、該組成物から取り出した後、室内で7日間風乾することで塗膜付き漁網を得た。該塗膜付き漁網の表面を指触にて確認した。なお、比較例2に記載の防汚塗料組成物を用いて得られた塗膜付き漁網のスリップ性を基準として、下記評価基準に基づき評価した。なお、この評価は、5名の当業者の感覚を総合的に評価しものである。結果を表2および3に示す。なお、比較例1および5~9で得られた塗膜付き漁網は、過度に滑りにくかった。
【0111】
(評価基準)
G:比較例2に記載の防汚塗料組成物から得られる塗膜と比べてやや滑りにくく実用上問題なし
E:比較例2に記載の防汚塗料組成物から得られる塗膜と同程度の滑りやすさ
P:比較例2に記載の防汚塗料組成物から得られる塗膜と比べて過度に滑りにくい、または、過度に滑りやすいことから実用上問題あり
【0112】
【0113】