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特許7335079人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法、増毛方法及びかつら
<図1>
  • 特許-人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法、増毛方法及びかつら 図1
  • 特許-人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法、増毛方法及びかつら 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法、増毛方法及びかつら
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
A41G3/00 A
A41G3/00 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019031406
(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公開番号】P2020133075
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000126218
【氏名又は名称】株式会社アートネイチャー
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】矢内 大輔
【審査官】新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-346306(JP,A)
【文献】特開2008-002040(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0114248(KR,A)
【文献】特開平10-053910(JP,A)
【文献】実開昭55-087320(JP,U)
【文献】特開2002-129432(JP,A)
【文献】特開平1-114803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の頭部から生えている自毛の根元、又はかつらを構成する人工若しくは天然の繊維の根元に結着される人工毛髪であって、
人工の単繊維からなり、前記単繊維の一端を含む第1領域と、前記単繊維の他端を含む第2領域と、前記第1及び第2領域の間に位置する第3領域とを含み、
前記第3領域は、前記第1及び第2領域の間に位置する所定領域をブラスト加工することによって形成され、前記第3領域における前記単繊維の断面積が、前記第1及び第2領域における前記単繊維の断面積よりも小さいことを特徴とする人工毛髪。
【請求項2】
前記第1及び第2領域における前記単繊維の直径が0.05mm超~0.15mm以下の範囲内であり、前記第3領域における前記単繊維の短径が、前記第1及び第2領域における前記単繊維の直径よりも小さい請求項1に記載の人工毛髪。
【請求項3】
前記第3領域における前記単繊維の短径が、前記第1及び第2領域における前記単繊維の直径よりも0.01mm~0.05mm小さい請求項2に記載の人工毛髪。
【請求項4】
前記第3領域の長さを20~50mmの範囲内とした請求項1~3のいずれか1項に記載の人工毛髪。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の人工毛髪の複数の束が整列した状態で保持される人工毛髪束セットであって、
前記人工毛髪の1束は、前記単繊維の長手方向に沿って揃えられた2本以上の前記人工毛髪で構成され、複数本の前記人工毛髪は、互いの前記第1領域、前記第2領域がそれぞれ個別に束ねられるとともに、互いの前記第3領域が、前記第1領域の束と前記第2領域の束とを相反する方向に引くと結び目を作ることが可能な未結着の1つの輪を形成し、
一方向に延びる粘着剤に前記第3領域が接着され、前記人工毛髪の複数の束が前記粘着剤に沿って整列した状態で保持されることを特徴とする人工毛髪束セット。
【請求項6】
複数本の人工の単繊維を、間隔をおいて略平行に並べ、各単繊維の一端側及び他端側を固定し、各単繊維の一端と他端との間に位置する所定領域をブラスト加工することにより、前記所定領域における前記単繊維の断面積を、前記所定領域以外における前記単繊維の断面積よりも小さくすることを特徴とする人工毛髪の製造方法。
【請求項7】
前記所定領域における前記単繊維の外周面のうちの一側をブラスト加工することにより、前記所定領域における前記単繊維の断面積を、前記所定領域以外における前記単繊維の断面積よりも小さくする請求項6に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項8】
前記所定領域における前記単繊維の外周面のうちの一側及び他側をブラスト加工することにより、前記所定領域における前記単繊維の断面積を、前記所定領域以外における前記単繊維の断面積よりも小さくする請求項6に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項9】
前記ブラスト加工が、研磨材としての粒子を混合した液体を噴射させることにより、各単繊維の前記所定領域を研磨する請求項6~8のいずれか1項に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項に記載の人工毛髪を用いた増毛方法であって、
人間の頭部から生えている1本の自毛に、1本以上の前記人工毛髪の前記第3領域における前記単繊維を結着させることを特徴とする増毛方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1項に記載の人工毛髪を用いたかつらであって、
前記かつらを構成する人工又は天然の繊維に、1本以上の前記人工毛髪の前記第3領域における前記単繊維を結着させることを特徴とするかつら。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結び目が小さくなって目立たない人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法、及び結び目が小さくなって目立たない人工毛髪を用いた増毛方法、かつらに関する。
【背景技術】
【0002】
薄毛の一般的な対策として増毛とかつらが知られている。増毛は、頭部から生えている自毛に、人工毛髪や人毛を結着する施術である。例えば、特許文献1の図4に開示されているように、1本の自毛の根元に毛髪をV字形に結着して、毛量を3本に増やす。一方、かつらは、かつらベースの網目をなす繊維に人工毛髪等を結着した構成となっている。かつらベースに人工毛髪等を結着する具体的な方法は、例えば、特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-001035号公報
【文献】特開2018-159168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の人工毛髪や人毛は、自毛やかつらベースに結着させたときの結び目が大きくて目立つという問題がある。特に、結び目を解け難くするために結び方を複雑にするほど、結び目は大きく目立ち易くになる。
【0005】
さらに、増毛は、自毛の根元に人工毛髪等を結着するが、自毛の成長に伴って人工毛髪等の結び目が根元から上に移動する。一般に、人間の頭髪は、1ヶ月で約1cm伸びると言われている。このため、自毛の根元に結着した人工毛髪等の結び目は、1ヶ月で約1cmも自毛の根元から上に移動する。自毛の根元から上に移動した人工毛髪等の結び目は、見た目に違和感があるだけでなく、櫛やブラシの歯に引っ掛かり易くなる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、結び目が小さくなって目立たない人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法、及び結び目が小さくなって目立たない人工毛髪を用いた増毛方法、かつらを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するために、本発明の人工毛髪は、人工の単繊維からなり、前記単繊維の一端を含む第1領域と、前記単繊維の他端を含む第2領域と、前記第1及び第2領域の間に位置する第3領域とを含み、前記第3領域における前記単繊維の断面積が、前記第1及び第2領域における前記単繊維の断面積よりも小さいことを特徴とする。
【0008】
(2)好ましくは、上記(1)の人工毛髪において、前記第1及び第2領域における前記単繊維の直径が0.05mm超~0.15mm以下の範囲内であり、前記第3領域における前記単繊維の短径が、前記第1及び第2領域における前記単繊維の直径よりも小さい。
【0009】
(3)好ましくは、上記(2)の人工毛髪において、前記第3領域における前記単繊維の短径が、前記第1及び第2領域における前記単繊維の直径よりも0.01mm~0.05mm小さい。
【0010】
(4)好ましくは、上記(1)~(3)のいずれかの人工毛髪において、前記第3領域の長さを20~50mmの範囲内とする。
【0011】
(5)上記目的を達成するために、本発明の人工毛髪束セットは、上記(1)~(4)のいずれかの人工毛髪の複数の束が整列した状態で保持される人工毛髪束セットであって、前記人工毛髪の1束は、前記単繊維の長手方向に沿って揃えられた2本以上の前記人工毛髪で構成され、複数本の前記人工毛髪は、互いの前記第1領域、前記第2領域がそれぞれ個別に束ねられるとともに、互いの前記第3領域が、前記第1領域の束と前記第2領域の束とを相反する方向に引くと結び目を作ることが可能な未結着の1つの輪を形成し、一方向に延びる粘着剤に前記第3領域が接着され、前記人工毛髪の複数の束が前記粘着剤に沿って整列した状態で保持される。
【0012】
(6)上記目的を達成するために、本発明の人工毛髪の製造方法は、複数本の人工の単繊維を、間隔をおいて略平行に並べ、各単繊維の一端側及び他端側を固定し、各単繊維の一端と他端との間に位置する所定領域を研磨することにより、前記所定領域における前記単繊維の断面積を、前記所定領域以外における前記単繊維の断面積よりも小さくする。
【0013】
(7)好ましくは、上記(6)の人工毛髪の製造方法において、前記所定領域における前記単繊維の外周面のうちの一側を研磨することにより、前記所定領域における前記単繊維の断面積を、前記所定領域以外における前記単繊維の断面積よりも小さくする。
【0014】
(8)好ましくは、上記(6)の人工毛髪の製造方法において、前記所定領域における前記単繊維の外周面のうちの一側及び他側を研磨することにより、前記所定領域における前記単繊維の断面積を、前記所定領域以外における前記単繊維の断面積よりも小さくする。
【0015】
(9)好ましくは、上記(6)~(8)のいずれかの人工毛髪の製造方法において、研磨材としての粒子を混合した液体を噴射させることにより、各単繊維の前記所定領域を研磨する。
【0016】
(10)上記目的を達成するために、本発明の増毛方法は、上記(1)~(4)のいずれかに記載の人工毛髪を用いた増毛方法であって、人間の頭部から生えている1本の自毛に、1本以上の前記人工毛髪の前記第3領域における前記単繊維を結着させる。
【0017】
(11)上記目的を達成するために、本発明のかつらは、上記(1)~(4)のいずれかに記載の人工毛髪を用いたかつらであって、前記かつらを構成する人工又は天然の繊維に、1本以上の前記人工毛髪の前記第3領域における前記単繊維を結着させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法、増毛方法及びかつらは、人工毛髪の第3領域における単繊維の断面積が、第1及び第2領域における単繊維の断面積よりも小さい。断面積の小さい第3領域の単繊維を結着させることにより、結び目が小さくなって目立たなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(a)は、本発明の実施形態に係る人工毛髪を示す外観図である。図1(b)は、図1(a)の人工毛髪のA部の拡大図及び断面図である。図1(c)は、図1(a)の人工毛髪の第1実施形態を示すB部の拡大図及び断面図である。図1(d)は、図1(a)の人工毛髪の第1実施形態を示すC部の拡大図及び断面図である。図1(e)は、図1(a)の人工毛髪の第2実施形態を示すB部の拡大図及び断面図である。図1(f)は、図1(a)の人工毛髪の第2実施形態を示すC部の拡大図及び断面図である。
図2図2(a)は、本発明の実施形態に係る人工毛髪の製造方法に用いる加工用基板を示す平面図である。図2(b)は、図2(a)の加工用基板の分解側面図である。
図3図3(a)~(c)は、第1実施形態に係る人工毛髪の製造方法の各工程を示す斜視図である。
図4図4(a)~(d)は、第2実施形態に係る人工毛髪の製造方法の各工程を示す斜視図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る人工毛髪束を示す外観図である。
図6図6(a)は、本発明の実施形態に係る1つの人工毛髪束セットを示す外観図である。図6(b)は、4つの人工毛髪束セットを示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<人工毛髪>
まず、本発明の実施形態に係る人工毛髪の構成について、図1(a)~(f)を参照しつつ説明する。
【0021】
図1(a)において、本実施形態の人工毛髪1は、人工の単繊維からなる。人工毛髪1を構成する単繊維として、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル又は塩化ビニル系の合成繊維が用いられる。人工毛髪1を構成する単繊維の太さは、例えば、0.05mm超~0.15mm以下のものが用いられる。また、人工毛髪1を構成する単繊維の強度の指標として、例えば、単繊維が直線状態のときの引っ張り強度で約0.80N以上、かつらベースに結着した状態の引っ張り強度で約0.60N以上のものが好ましい。
【0022】
本実施形態の人工毛髪1は、略一定の直径を有する単繊維の中央部分を加工して、未加工の他の部分よりも断面積を小さくした構成に特徴がある。したがって、図1(a)に示すように、人工毛髪1の全体は、未加工の第1及び第2領域11、12と、加工した第3領域(中央部分)13とに区別することができる。
【0023】
人工毛髪1の第1領域11は、図1(a)の左側に位置し、単繊維の一端を含む。第2領域12は、図1(a)の右側に位置し、単繊維の他端を含む。第3領域13は、第1及び第2領域11、12の間に位置し、第1及び第2領域11、12の両方に連続する。
【0024】
図1(a)中の鎖線の円で囲ったA部は、第1及び第2領域11、12の未加工の単繊維の部分を示す。B部は、第1領域11の未加工の単繊維と第3領域13の加工した単繊維とが連続する部分を示す。C部は、第3領域13の加工した単繊維の部分を示す。
【0025】
ここで、第3領域13の単繊維を加工する方法は2通りある。第1に、第3領域13の単繊維の外周面のうちの一側だけを加工して断面積を小さくする。第2に、第3領域13の単繊維の外周面のうちの一側及び他側を加工して断面積を小さくする。第1又は第2の加工方法のいずれを採用するかにより、第3領域13の単繊維の断面形状が異なる。
【0026】
図1(b)は、人工毛髪1のA部を示す拡大図及び断面図である。図1(b)に示すように、第1及び第2領域11、12の未加工の単繊維は、略一定の直径D1を有する。上述したように、未加工の単繊維の直径D1は、例えば、0.05mm超~0.15mm以下である。
【0027】
図1(c)、(d)は、上述した第1の加工方法によって、第3領域13の単繊維を加工した場合の人工毛髪1のB部、C部の拡大図及び断面図を示す。
【0028】
図1(c)に示すように、人工毛髪1のB部においては、第1領域11から第3領域13にわたって単繊維の外周面のうちの一側だけの断面積が徐々に減少する。そして、図1(d)に示すように、人工毛髪1のC部、すなわち、第3領域13においては、単繊維の断面形状が、略円形でなくなり、短径D2が一定の略半円形となる。
【0029】
一方、図1(e)、(f)は、上述した第2の加工方法によって、第3領域13の単繊維を加工した場合の人工毛髪1のB部、C部の拡大図及び断面図を示す。
【0030】
図1(e)に示すように、人工毛髪1のB部においては、第1領域11から第3領域13にわたって単繊維の外周面のうちの一側及び他側の断面積が徐々に減少する。そして、図1(f)に示すように、人工毛髪1のC部、すなわち、第3領域13においては、単繊維の断面形状が、略円形でなくなり、短径D3が一定の略長円形となる。
【0031】
図1(c)~(f)において、人工毛髪1の第3領域13における単繊維の短径D2、D3は、第1及び第2領域11、12における単繊維の直径D1よりも0.01mm~0.05mm小さいことが好ましい。また、第3領域13の単繊維の断面積を小さく加工した人工毛髪1は、直線状態のときの引っ張り強度が約0.80N以上、かつらベースに植設した状態の引っ張り強度が約0.60N以上であることが好ましい。
【0032】
<人工毛髪の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係る人工毛髪の製造方法について、図2図4を参照しつつ説明する。
【0033】
人工毛髪1の第3領域13における単繊維の断面積を減少させる加工方法は、特に限定されるものではない。例えば、薬品による化学反応や物理的な研磨によって、人工毛髪1の第3領域13における単繊維の断面積を減少させることが可能である。本発明者が鋭意検討した結果、乾式又は湿式のブラスト加工が好適であり、特に、湿式のブラスト加工(ウェットブラスト)が最適であることを見出した。
【0034】
図2(a)、(b)は、人工毛髪1の第3領域13における単繊維をブラスト加工するために用いる加工用基板100を示す。加工用基板100を用いたウェットブラストにより、第3領域13の単繊維の断面積を精度よく減少させることができ、一定の品質の人工毛髪1を効率よく大量生産することが可能となる。
【0035】
図2(a)、(b)に示すように、加工用基板100は、人工毛髪1の原材料となる多数本の単繊維を平行に並べて配置することが可能な面積を有する。加工用基板100の中央には、人工毛髪1の第3領域13に対応する矩形の開口部101が設けられる。この開口部101を中心にして、加工用基板100の一端側及び他端側には、それぞれ両面テープ111が貼り付けられる。各両面テープ111には、人工毛髪1の原材料となる単繊維の一端側及び他端側が固定される。具体的に、単繊維の一端側及び他端側は、上下2枚の両面テープ111の間に保持される。さらに、上の両面テープ111の表面には、カバープレート112が貼り付けられる。カバープレート112は、単繊維の一端側及び他端側を押さえ付けて安定した固定状態を維持するとともに、上の両面テープ111の表面を覆って、加工用基板100の取り扱いを容易にする。
【0036】
加工用基板100には、例えば、150~200本の単繊維が配置される。寸法の具体例として、単繊維の長さL1は、600~700mm程度であり、隣り合う単繊維どうしの間隔L2は、0.5mm程度とする。開口部101の短手方向の長さL3は、20~50mm程度とし、この長さL3の範囲が、人工毛髪1の第3領域13となる。両面テープ111及びカバープレート112の短手方向の長さL4は、15mm程度とする。
【0037】
次に、上述した加工用基板100を用いた人工毛髪1のウェットブラストについて、図3及び図4を参照しつつ説明する。図3(a)~(c)は、第3領域13の単繊維の外周面のうちの一側だけをウェットブラストする場合の各工程を示す。一方、図4(a)~(d)は、第3領域13の単繊維の外周面のうちの一側及び他側をウェットブラストする場合の各工程を示す。
【0038】
まず、図3(a)に示すように、人工毛髪1の原材料となる150~200本の単繊維を加工用基板100上に配置する。例えば、本実施形態では、200本の単繊維を人工毛髪1に加工することとした。加工用基板100への200本の単繊維の配置は、人の手作業によって行われ、60分程度の時間を要した。
【0039】
次に、図3(b)に示すように、加工用基板100をウェットブラスト加工装置の処理テーブル上に載置し、加工用基板100の開口部101をブラストガン200に位置合わせする。その後、ブラストガン200から水と研磨材との混合液を圧縮エアーによって噴射させ、200本の単繊維の開口部101に対応する部分を湿式研磨する。これにより、第3領域13における単繊維の外周面のうちの一側の断面積が減少する(図1(c)、(d)を参照)。図3(b)に示す1回のウェットブラストには、2分30秒程度の時間を要した。
【0040】
最後に、加工用基板100をウェットブラスト加工装置から取り出し、加工用基板100に配置された状態のまま、200本の単繊維をシャワーヘッド300の水で洗浄し、乾燥させる。これにより、第3領域13における単繊維の外周面のうちの一側だけの断面積を減少させた200本の人工毛髪1が完成する。図3(c)に示す洗浄及び乾燥には、2分程度の時間を要した。
【0041】
一方、第3領域13における単繊維の外周面のうちの一側及び他側の断面積を減少させた人工毛髪1を製造する場合は、図4(b)、(c)に示すように、ウェットブラストを2回実施する。図4(b)に示すように、加工用基板100の表面側から1回目のウェットブラストを実施する。その後、加工用基板100を反転させて、加工用基板100の裏面側から2回目のウェットブラストを実施する。これにより、第3領域13における単繊維の外周面のうちの一側及び他側の断面積が減少する(図1(e)、(f)を参照)。
【0042】
最後に、加工用基板100をウェットブラスト加工装置から取り出し、加工用基板100に配置された状態のまま、200本の単繊維をシャワーヘッド300の水で洗浄し、乾燥させる。これにより、第3領域13における単繊維の外周面のうちの一側及び他側の断面積を減少させた200本の人工毛髪1が完成する。
【0043】
<人工毛髪束セット>
上述した図3(a)~(c)又は図4(a)~(d)の工程を経て製造された人工毛髪1は、図5に示すような人工毛髪束2に加工される。人工毛髪束2は、増毛方法の施術、すなわち、頭部から生えている自毛に、本実施形態の人工毛髪1を結着するのに好適な構成となっている。
【0044】
図5において、人工毛髪束2は、単繊維の長手方向に沿って揃えられた2本以上の人工毛髪1で構成される。例えば、本実施形態では、4本の人工毛髪1によって1つの人工毛髪束2を構成することとした。4本の人工毛髪1の互いの第1領域11、第2領域12は、それぞれマスキングテープ21、22によって個別に束ねられる。また、4本の人工毛髪1の互いの第3領域13は、1つの輪13aを形成する。第3領域13の輪13aは、第1領域11の束と第2領域12の束とを相反する方向に引くと結び目を作ることが可能な未結着の状態となっている。
【0045】
複数の人工毛髪束2は、図6(a)に示す人工毛髪束セット3を構成する。例えば、本実施形態の1つの人工毛髪束セット3には、20束の人工毛髪束2が含まれる。図6(a)に示すように、20束の人工毛髪束2は、一方向に延びる粘着テープ31に第3領域13の部分が接着され、粘着テープ31の長手方向に沿って5束ずつ4グループに整列した状態で保持される。粘着テープ31の接着剤は、人工毛髪束2を剥離可能に接着する。人工毛髪束2の第3領域13に形成された輪13aの一部は、粘着テープ31の上辺からはみ出しており、人工毛髪束2を粘着テープ31から剥離する際に、指で摘むための持ち手となる。
【0046】
複数の人工毛髪束セット3は、例えば、図6(b)に示すような形態で増毛方法を提供するサロン等に出荷される。人工毛髪束セット3を構成する粘着テープ31の接着面の反対面は、剥離加工が施されている。この構成により、一の人工毛髪束セット3の粘着テープ31の接着面を、他の人工毛髪束セット3の粘着テープ31の剥離面に接着して、複数の人工毛髪束セット3を一纏めにすることが可能である。
【0047】
<増毛方法>
顧客に増毛方法を施術する場合は、図6(b)に示す一番上の人工毛髪束セット3から順に人工毛髪束2を剥離する。施術者は、粘着テープ31の上辺からはみ出した輪13aの一部を指で摘んで、人工毛髪束2を1つずつ粘着テープ31の接着面から剥離することができる。次に、施術者は、図5に示す人工毛髪束2の輪13aを、顧客の頭部から生えている一本の自毛に通し、人工毛髪束2の輪13aを自毛の根元に位置させる。その後、施術者は、図5に示すマスキングテープ21、22を持ち手にして、人工毛髪束2の第1領域11の束と第2領域12の束とを相反する方向に引く。すると、第3領域13の輪13aが結び目を作り、人工毛髪束2が自毛の根元にV字形に結着される。これにより、1本の自毛が9本(このうちの8本は、4本の人工毛髪1の第1及び第2領域11、12である)に増毛される。
【0048】
<作用効果>
本実施形態の人工毛髪1は、図1(d)、(f)に示すように、結び目が形成される第3領域13における単繊維の断面積が減少されている。これにより、人工毛髪1の結び目を小さく目立たなくすることが可能である。特に、自毛の根元に結着した人工毛髪1の結び目は、1ヶ月で約1cmも自毛の根元から上に移動するが、断面積が減少された単繊維の結び目は、小さくて目立たず、櫛やブラシの歯に引っ掛かり難い。
【0049】
また、本実施形態の人工毛髪1の製造方法は、第3領域13における単繊維の断面積を図3(b)及び図4(b)、(c)に示すウェットブラストの湿式研磨によって減少させている。ウェットブラストは、乾式のブラスト加工と比較して、微細な研磨粒子を使用することができ、加工時の圧力を低く抑えることが可能である。この結果、極めて細い単繊維の外周面に微細な研磨加工を施すことができ、第3領域13における単繊維の断面積を精度よく減少させることが可能である。
【0050】
さらに、図5に示す人工毛髪束2、及び図6に示す人工毛髪束セット3を構成した場合は、第3領域13の輪13aを1本の自毛に通して、第1及び第2領域11、12を相反する方向に引くだけで、人工毛髪束2を自毛の根元に結着させることができる。これにより、多数本の人工毛髪1を顧客の自毛に効率よく結着させることができ、増毛方法の施術が極めて容易になる。
【0051】
なお、本発明の人工毛髪は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の人工毛髪の用途は、増毛方法に限定されるものではなく、かつらを構成する毛髪に用いてもよい。この場合、断面積が減少された第3領域の単繊維を、かつらベースや人工皮膚の網目をなす繊維、網目をなさないテグスに結着することで、人工毛髪の結び目を小さく目立たなくすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 人工毛髪
2 人工毛髪束
3 人工毛髪束セット
11 第1領域
12 第2領域
13 第3領域
13a 輪
21、22 マスキングテープ
31 粘着テープ
100 加工用基板
101 開口部
111 両面テープ
112 カバープレート
200 ブラストガン
300 シャワーヘッド
D1 直径
D2、D3 短径
L1 人工毛髪の長さ
L2 人工毛髪どおしの間隔
L3 開口幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6