(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20230822BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B23K11/11 520
B23K11/24 335
(21)【出願番号】P 2019091141
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】天方 康裕
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-185564(JP,A)
【文献】特開2014-188585(JP,A)
【文献】特開平10-094882(JP,A)
【文献】特開平07-064615(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0045597(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11
B23K 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータにより駆動される可動電極チップと該可動電極チップに対向する固定電極チップとの間で被溶接ワークを加圧して溶接を行う溶接システムにおいて、
前記可動電極チップと前記固定電極チップとの間で前記被溶接ワークを加圧するための、前記可動電極チップに関する一定の基準速度指令値及び少なくとも一つの検出用加圧力指令値を作成する指令値作成部と、
前記基準速度指令値に基づいて前記サーボモータを駆動させたときの前記サーボモータの電流値から、前記可動電極チップと前記固定電極チップが当接した時点の前記サーボモータの回転位置を基準位置として計算する基準位置計算部と、
前記基準位置計算部によって計算された前記サーボモータの回転位置と、前記少なくとも一つの検出用加圧力指令値に基づいて前記サーボモータを駆動させたときの前記サーボモータの回転位置との間の回転偏差を、変位量偏差として算出する変位量偏差算出部と、を備え
、
前記一定の基準速度指令値は、前記可動電極チップを前記対向電極チップに対して一定速度で移動させる際の一定速度の指令値である、溶接システム。
【請求項2】
前記溶接システムは、前記被溶接ワークに対する加圧力を正常に発揮できるように調整された状態における前記変位量偏差と、前記加圧力を再調整する必要がある状態における前記変位量偏差との偏差を状態判定用偏差として算出する状態判定用偏差算出部と、
前記状態判定用偏差と所定値とを比較し、比較結果に基づいて、当該溶接システムに異常があるか否かを判定する異常判定部
と、を更に備える、請求項1に記載の溶接システム。
【請求項3】
前記基準位置計算部は、前記検出用加圧力指令値に基づいて前記サーボモータを駆動させたときの外乱トルクが閾値を超えた時点の前記回転位置を、前記基準位置とする、請求項1又は請求項2に記載の溶接システム。
【請求項4】
前記基準位置計算部は、前記検出用加圧力指令値に基づいて前記サーボモータを駆動させたときの外乱トルクが閾値を超えるような変化が始まった極小点の時点の前記回転位置を、前記基準位置とする、請求項1又は請求項2に記載の溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
可動電極チップと該可動電極チップに対向する固定電極チップとの間で被溶接ワークを加圧して溶接を行うスポット溶接システムにおいて、スポット溶接ガンのアームに変形又は亀裂が生じた場合に、スポット溶接ガンのアーム全体の剛性が低下する。従って、スポット溶接ガンのアームの弾性変位量が大きくなる。このため、加圧力を変更しない場合であっても、被溶接ワークが押込まれて溶接品質が低下する可能性がある。また、亀裂が発生したアームを使用し続ける場合には、亀裂が進行してアームが最終的に破損することもある。それゆえ、操作者はスポット溶接ガンの状態を定期的に目視で確認する必要がある。しかしながら、操作者がスポット溶接ガンのそれぞれを目視で確認するのは時間を必要とする上に、微少な塑性変形や微少な亀裂を経験の浅い操作者が発見するのは難しい。
【0003】
さらに、スポット溶接ガンのアーム全体の剛性が低下していない場合であっても、スポット溶接ガンの機構部、例えばボールねじ、軸受などが摩耗したり、機構部の潤滑油が劣化することがある。そのような場合には、機構部の摩擦抵抗が変化する。
【0004】
このような場合に、サーボモータに供給されるトルク指令により発生する実際の加圧力を圧力センサにより検出し、実際の圧力とトルク指令との間の関係を再度校正する必要がある。しかしながら、圧力センサにより加圧力を測定するときには、スポット溶接システムを停止させる必要がある。このため、被溶接ワークを溶接しているときには、このような校正作業を行うことはできない。
【0005】
このような理由から、スポット溶接システムを停止させて圧力センサにより加圧力を実際に測定する間隔が長くなる傾向がある。従って、加圧力に偏差が生じていることを認識しないまま、スポット溶接システムを稼働させ、結果的に溶接品質を低下させる可能性がある。また、圧力センサは比較的高価であるので、多数の圧力センサを準備するのが困難である。
【0006】
このため、サーボモータを備えたスポット溶接ガンにおいては、これらの問題を解決するために様々な手法が提案されているが、従来の手法では、実際には劣化しているにもかかわらず、スポット溶接ガンが劣化していないと判断する可能性や、当接時における電極チップ先端位置を予め測定しておいたとしても、電極チップ先端位置がズレるという問題があった。
【0007】
そこで、スポット溶接ガンのアームに変形又は亀裂が生じたり、機構部の摩耗により摩擦が変化したりした場合に、スポット溶接ガンの異常を容易に推定するため、基準加圧力と検出用加圧力で加圧を行い、その差分から異常を判断したり、加圧力偏差を算出したりする技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に係る技術においては、差分算出のために、特定のトルク(基準加圧力)で加圧を行った時の押し込み位置を算出用の基準位置として利用しているものの、同じトルクで加圧しても静止摩擦力の分だけ基準位置がずれるケースがある。そのため、検出された加圧力偏差に誤差が生じることがある。
【0010】
したがって、静止摩擦力の影響を受けにくく、結果的に加圧力の推定精度が高くなるような溶接システムを提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様は、サーボモータにより駆動される可動電極チップと該可動電極チップに対向する固定電極チップとの間で被溶接ワークを加圧して溶接を行う溶接システムにおいて、前記可動電極チップと前記固定電極チップとの間で前記被溶接ワークを加圧するための、前記可動電極チップに関する一定の基準速度指令値及び少なくとも一つの検出用加圧力指令値を作成する指令値作成部と、前記基準速度指令値に基づいて前記サーボモータを駆動させたときの前記サーボモータの電流値から、前記可動電極チップと前記固定電極チップが当接した時点の前記サーボモータの回転位置を基準位置として計算する基準位置計算部と、前記基準位置計算部によって計算された前記サーボモータの回転位置と、前記少なくとも一つの検出用加圧力指令値に基づいて前記サーボモータを駆動させたときの前記サーボモータの回転位置との間の回転偏差を、変位量偏差として算出する変位量偏差算出部と、前記被溶接ワークに対する加圧力を正常に発揮できるように調整された状態における前記変位量偏差と、前記加圧力を再調整する必要がある状態における前記変位量偏差との偏差を状態判定用偏差として算出する状態判定用偏差算出部と、を備える、溶接システムである。
【発明の効果】
【0012】
一態様によれば、静止摩擦力の影響を受けにくく、結果的に加圧力の推定精度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態のスポット溶接システムの構成を示す図である。
【
図2】一実施形態のロボット制御装置の構成を示す図である。
【
図3A】一実施形態における基準位置の判定方法を示す図である。
【
図3B】一実施形態における基準位置の判定方法を示す図である。
【
図4】一実施形態のスポット溶接システムの動作を示すフローチャートである。
【
図5】一実施形態における変位量偏差の算出手法を示すフローチャートである。
【
図6】一実施形態における加圧力指令値と回転位置との関係を示す図である。
【
図7】一実施形態における状態判定用偏差と亀裂の進行度合の関係を示す図である。
【
図8】一実施形態のスポット溶接システムの動作を示すフローチャートである。
【
図9】一実施形態における加圧力指令値と基準変位量偏差との関係を示す図である。
【
図10】一実施形態の変形例に係るスポット溶接システムの構成を示す図である。
【
図11】一実施形態の他の変形例に係るスポット溶接システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して本発明に係るロボットシステムの実施形態の一例としてスポット溶接システムについて説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0015】
(スポット溶接システム:ロボットシステム)
図1は、本実施形態に係るスポット溶接システムの構成を示す図である。
図1に示すスポット溶接システム1は、ロボット10を用いて、スポット溶接ガン20とワークWとを相対移動させてスポット溶接ガン20をワークWに接触させ、ワークWにスポット溶接を施す。スポット溶接システム1は、ロボット10と、スポット溶接ガン20と、ロボット10の動作を制御するロボット制御装置30と、スポット溶接ガン20の動作を制御する溶接ガン制御装置40とを備える。
【0016】
ロボット10は、例えば6軸垂直多関節型のロボットであり、基台(ベース)11と、下アーム12と、上アーム13と、アーム先端部14とを有する。基台11は、床上に設置されている。下アーム12の一端側は、基台11上に、第1軸(垂直軸)J1まわりに回転可能に、かつ、第2軸(水平軸)J2まわりに回転可能に連結されている。下アーム12の他端側には、上アーム13の一端側が、第3軸(水平軸)J3まわりに回転可能に連結されている。上アーム13の他端側には、アーム先端部14が、第3軸J3に垂直な第4軸J4まわりに回転可能に、かつ、第4軸J4に垂直な第5軸J5まわりに回転可能に連結されている。アーム先端部14には、スポット溶接ガン20が、第5軸J5に垂直な第6軸J6まわりに回転可能に取り付けられている。
なお、ロボット10は、6軸垂直多関節型に限定されず、スポット溶接ガン20とワークWとを相対移動させることができれば、4軸垂直多関節型ロボット等、他のタイプの多関節型ロボットであってもよい。
【0017】
ロボット10は、第1軸J1~第6軸J6の複数の駆動軸をそれぞれ駆動する複数のサーボモータ15を内蔵する(便宜上一つのみ図示)。サーボモータ15はロボット制御装置30からの制御信号により駆動される。サーボモータ15の駆動により、スポット溶接ガン20の位置及び姿勢が変更される。
【0018】
以下では、ロボット10の第1軸J1~第6軸J6をロボット軸ということもあり、これらのロボット軸を駆動するサーボモータ15をロボット軸用モータということもある。
また、垂直軸又は水平軸である第1軸J1、第2軸J2及び第3軸J3を基本軸ということもあり、第4軸J4、第5軸J5及び第6軸J6を手首軸ということもある。垂直軸又は水平軸である基本軸J1~J3は、主に、ロボット10のアーム先端部14の位置決めに寄与する。一方、手首軸J4~J6は、主に、ロボット10のアーム先端部14の姿勢決めに寄与する。
【0019】
スポット溶接ガン20は、いわゆるC型スポット溶接ガンである。スポット溶接ガン20は、アーム先端部14に連結されたC字状のガンアーム23と、ワーク挟持用のサーボモータ24とを有する。ガンアーム23は、L字状のフレーム23aの端部から突設された棒状の対向電極22と、対向電極22に対向して突設された棒状の可動電極21とを有する。可動電極21と対向電極22は同軸上に配置されている。対向電極22はフレーム23aに固定されているのに対し、可動電極21は対向電極22と同軸上をフレーム23aに対し相対移動可能である。
【0020】
スポット溶接ガン20においては、可動電極21のチップが、対向電極22のチップを押し込み、対向電極22のチップが取り付けられた金属製のアームを弾性変形させることにより、要求される加圧力を電極チップ間に発生させ、被溶接ワークであるワークWを加圧して溶接を行う。
【0021】
サーボモータ24は溶接ガン制御装置40からの制御信号により駆動され、サーボモータ24の駆動により、可動電極21は対向電極22に接近及び対向電極22から離間する。可動電極21と対向電極22の間には、ワークWが板厚方向で挟持され、ワークWのスポット溶接が行われる。ワークWは、図示しないワーク支持装置により支持されている。
【0022】
以下では、スポット溶接ガン20の可動電極21と対向電極22との相対移動の軸をガン軸ということもあり、このガン軸を駆動するサーボモータ24をガン軸用モータということもある。
【0023】
ロボット軸用の各サーボモータ15にはエンコーダ15aが設けられ、エンコーダ15aによりサーボモータ15の軸回りの回転角度が検出される。検出された回転角度はロボット制御装置30にフィードバックされ、ロボット制御装置30でのフィードバック制御により、アーム先端部14のスポット溶接ガン20の位置及び姿勢が制御される。これによりフレーム23aに一体化された対向電極22を、ワークWの板厚方向の挟持位置に位置決めできると共に、エンコーダ15aからの信号により対向電極22の位置及び姿勢を検出できる。
【0024】
また、ガン軸用のサーボモータ24にはエンコーダ24aが設けられ、エンコーダ24aによりサーボモータ24の軸回りの回転角度が検出される。検出された回転角度は溶接ガン制御装置40にフィードバックされ、溶接ガン制御装置40でのフィードバック制御により、対向電極22に対して可動電極21を位置決めできる。電極21,22間の開放量はサーボモータ24の回転角度に応じて変化するが、本実施形態では可動電極21を対向電極22に接触させたとき、すなわち開放量が0のときのサーボモータ24の回転角度を予め基準値として設定している。これによりエンコーダ24aからの信号によって、基準値からの回転角度を検出でき、電極21,22間の開放量を検出できる。
【0025】
ロボット制御装置30及び溶接ガン制御装置40は、それぞれCPU,ROM,RAM,その他の周辺回路等を有する演算処理装置を含んで構成される。ロボット制御装置30と溶接ガン制御装置40とは接続されており、互いに信号の送受信(通信)を行う。
【0026】
ロボット制御装置30は、ロボット10及びスポット溶接ガン20の動作プログラム(作業プログラム)及び教示データ等を格納している。教示データには、ワークWを多数の溶接箇所でスポット溶接するときのロボット10及びスポット溶接ガン20の位置及び姿勢である溶接打点データが含まれる。この教示データに基づき、自動運転のための作業プログラムが作成されている。
【0027】
自動運転時には、ロボット制御装置30は、作業プログラムに従いロボット10を動作させ、ワークWに対するスポット溶接ガン20の位置と姿勢を制御して、電極21,22間にワークWを配置する。また、溶接ガン制御装置40は、作業プログラムに従い可動電極21を動作させ、ワークWに負荷される電極21,22による加圧力を制御すると共に、作業プログラムに従い電極21,22に供給する電流を制御し、予め定められた溶接打点位置でスポット溶接を実行する。
【0028】
自動運転前には、ロボット制御装置30は、スポット溶接ガン20を閉じる動作を行う際に、電極21,22とワークWとの接触位置を検知する。この接触位置に基づいて、ロボット制御装置30は、作業プログラムにおける目標位置(打点位置)を補正する。
以下、ロボット制御装置30について詳細に説明する。
【0029】
(実施形態に係るロボット制御装置)
図2は、実施形態に係るロボット制御装置の構成を示す図である。
図2に示すロボット制御装置30は、
図1に示すスポット溶接システム1におけるロボット制御装置30に適用される。
【0030】
ロボット制御装置30は、制御部31と記憶部32とを備える。
制御部31は、ロボット制御装置30の全体を制御する部分であり、各種プログラムを、ROM、RAM、フラッシュメモリ又はハードディスク(HDD)等の記憶領域から適宜読み出して実行することにより、本実施形態における各種機能を実現している。制御部31は、CPUであってもよい。制御部31は、基準速度指令値作成部311、基準速度指令値出力部312、検出用加圧力指令値作成部313、トルク指令値出力部314、基準位置計算部315、変位量偏差算出部316、状態判定用偏差算出部317、及び異常判定部318を備える。
また、制御部31は、それ以外にも、ロボット制御装置30の全体を制御するための機能ブロック、通信を行うための機能ブロックといった一般的な機能ブロックを備える。ただし、これらの一般的な機能ブロックについては当業者によく知られているので図示及び説明を省略する。
【0031】
基準速度指令値作成部311は、可動電極21のチップと対向電極22のチップとの間で被溶接ワークを加圧する、スポット溶接ガン20に関する基準速度指令値を作成する。より詳細には、可動電極21のチップを対向電極22のチップに対して一定速度で移動させる際に、基準速度としての一定速度の指令値を作成する。
なお、以下では、可動電極21のチップを、「可動電極チップ」と呼称し、対向電極22のチップを「固定電極チップ」と呼称することがある。
【0032】
基準速度指令値出力部312は、基準速度指令値作成部311によって作成された基準速度指令値を、ガン軸用のサーボモータ24に出力する。
【0033】
検出用加圧力指令値作成部313は、少なくとも一つの検出用加圧力指令値を作成する。後述のように、スポット溶接システム1においては、基準位置としてのサーボモータ24の回転位置と、少なくとも一つの検出用加圧力指令値に基づいてサーボモータ24を駆動させたときのサーボモータ24の回転位置との間の偏差を変位量偏差として算出するが、検出用加圧力指令値作成部313は、この変位量偏差の算出に用いられる検出用加圧力指令値を作成する。
【0034】
なお、以下では、基準速度指令値作成部311と検出用加圧力指令値作成部313とをまとめて「指令値作成部」と呼称することがある。
【0035】
トルク指令値出力部314は、検出用加圧力指令値作成部313によって作成された検出用加圧力指令値を、後述のトルク-加圧力換算テーブル321によってトルク指令値に変換し、変換したトルク指令値をサーボモータ24に出力する。
【0036】
基準位置計算部315は、基準速度指令値に基づいてサーボモータ24を駆動させたときの、サーボモータ24の電流値から可動電極21のチップと対向電極22のチップが当接した時点のサーボモータ24の回転位置を基準位置として計算する。具体的には、可動電極21のチップを、一定の基準速度で固定電極である対向電極22のチップに当接させた際、基準位置計算部315は、サーボモータ24の電流値によって示される外乱トルクの立ち上がりから基準位置を判定する。
【0037】
図3A及び
図3Bは、基準位置の判定方法を示す。
図3Aに示すように、時間の経過に伴い外乱トルクは上昇するが、基準位置計算部315は、外乱トルクが閾値を超えた時点でのサーボモータ24の回転位置を基準位置としてもよい。あるいは、
図3Bに示すように、ある閾値を設定し、外乱トルクがそれを超えるような変化が始まった極小点における、サーボモータ24の回転位置を基準位置としてもよい。
【0038】
変位量偏差算出部316は、基準位置計算部315によって計算されたサーボモータ24の回転位置と、少なくとも一つの検出用加圧力指令値に基づいてサーボモータ24を駆動させたときのサーボモータ24の回転位置との間の回転偏差を、変位量偏差として算出する。
【0039】
状態判定用偏差算出部317は、ワークWに対する加圧力を正常に発揮できるように調整された状態における変位量偏差と、ワークWに対する加圧力を再調整する必要がある状態における変位量偏差との偏差を状態判定用偏差として算出する。
【0040】
異常判定部318は、状態判定用偏差算出部317によって算出された状態判定用偏差と所定値とを比較し、当該比較結果に基づいて、スポット溶接システム1に異常があるか否かを判定する。とりわけ異常判定部318は、状態判定用偏差が所定値よりも大きい場合に、スポット溶接システム1に異常があると判定してもよい。
【0041】
警告出力部319は、異常判定部318によって、スポット溶接システム1に異常があると判定された場合に警告を出力する。例えば、警告出力部319は、ロボット制御装置30の内部又は外部に備わる表示装置に警告を表示してもよい。更に、警告出力部319は、当該警告を音声によって出力してもよい。
【0042】
記憶部32は、例えばEEPROM等の書き換え可能なメモリである。記憶部32は、上述したように、ロボット10及びスポット溶接ガン20の動作プログラム(作業プログラム)及び教示データ等を記憶する。教示データには、ワークWを多数の溶接箇所でスポット溶接するときのロボット10及びスポット溶接ガン20の位置及び姿勢である溶接打点データが含まれる。教示データは、例えば、教示操作盤(図示せず)等を用いて教示者により入力される。この教示データに基づき、自動運転のための作業プログラムが作成される。
【0043】
また、記憶部32は、検出用加圧力指令値作成部313によって作成された検出用加圧力指令値をトルク指令値に変換するためのトルク-加圧力換算テーブル321を記憶する。
【0044】
(スポット溶接システムの動作)
図4は、スポット溶接システム1の動作を示すフローチャートである。
【0045】
ステップS11において、スポット溶接ガン20のトルク-加圧力換算テーブルを作成する。具体的には、複数のトルク指令T1、T2、…に基づいて可動電極21のチップと対向電極22のチップとの間で加圧動作を行う。そして、そのときの実際の圧力を圧力センサ(不図示)で測定する。これら測定結果に基づいて、トルクと加圧力との間の関係を表すトルク-加圧力換算テーブルを作成する。なお、トルク-加圧力換算テーブルが予め作成されている場合には、ステップS11を省略してもよい。
【0046】
ステップS12において、初期設定プログラムを実行する。初期設定プログラムは、スポット溶接ガン20がその加圧力を正常に発揮できるように調整された状態において実行されるものとする。
【0047】
ステップS13において、変位量偏差算出部316が変位量偏差を算出する。
図5は変位量偏差を求めるためのフローチャートである。以下、
図5を参照して、変位量偏差の算出手法を説明する。
【0048】
ステップS51において、可動電極21のチップを一定速度で動作させる。
【0049】
ステップS52において、外乱トルクが閾値を超えた場合(S52:YES)には、処理はステップS53に移行する。外乱トルクが閾値以下の場合(S52:NO)には、処理はステップS52に移行する。
【0050】
ステップS53において、エンコーダ24aによりサーボモータ24の回転位置x0を測定する。この回転位置x0は変位量として記憶部32に記憶される。
【0051】
ステップS54において、検出用加圧力指令値、例えば検出用加圧力指令値f1に基づいて、可動電極21のチップと対向電極22のチップとの間でワークWを加圧する。
【0052】
ステップS55において、サーボモータ24に流れるモータ電流が検出用加圧力指令値f1に到達した場合(S55:YES)には、処理はステップS56に移行する。サーボモータ24に流れるモータ電流が検出用加圧力指令値f1に到達しない場合(S55:NO)には、処理はステップS55に移行する。
【0053】
ステップS56において、エンコーダ24aによりサーボモータ24の回転位置x1を測定する。この回転位置x1は変位量として記憶部32に記憶される。
【0054】
ステップS57において、他の検出用加圧力指令値f2、f3でも同様な処理を行う必要がある場合(S57:YES)には、処理はステップS54に移行する。他の検出用加圧力指令値で同様な処理を行わない場合(S57:NO)には、処理はステップS58に移行する。
【0055】
ステップS58において、変位量偏差算出部316が変位量偏差を算出する。具体的には、変位量偏差算出部316が、基準位置計算部315によって計算されたサーボモータ24の回転位置と、少なくとも一つの検出用加圧力指令値に基づいてサーボモータ24を駆動させたときのサーボモータ24の回転位置との間の回転偏差を、変位量偏差として算出する。
【0056】
図6は加圧力指令値と回転位置との関係を示す図である。
図6の横軸は加圧力指令値を表しており、縦軸は回転位置を表している。
図6から分かるように、加圧力指令値が大きいほど、回転位置も大きくなるのが分かる。
【0057】
変位量偏差算出部316は、基準加圧力指令値f0に対応する回転位置x0と、各検出用加圧力指令値f1、f2、f3に対応する回転位置x1、x2、x3との間の偏差をそれぞれ算出する。つまり、
図6から分かるように、変位量偏差算出部316は弾性変位量偏差d1(=x1-x0)、d2(=x2-x0)、d3(=x3-x0)を算出する。
【0058】
なお、
図5においては、一つの加圧力指令値、例えば基準加圧力指令値f0について複数回にわたって加圧動作を行い、複数の回転位置x0の平均値を正式な回転位置x0として採用してもよい。そのような場合には、変位量の分散を小さくすることができる。
【0059】
また、ステップS55においては、モータ電流が加圧力指令値に到達したときに、サーボモータ24の回転位置を測定するようにしている。しかしながら、サーボモータ24の回転位置を所定時間毎に順次測定し、回転位置が変化しなくなったときに加圧力指令値に対応する加圧力が得られたと判断し、そのときの回転位置を採用してもよい。
【0060】
再び
図4を参照すると、ステップS13において、これら弾性変位量偏差d1、d2、d3をそれぞれ基準変位量偏差b1、b2、b3として記憶部32に記憶する。
【0061】
ステップS14において、スポット溶接システム1を通常の動作プログラムに基づいて動作させ、ワークWを溶接する。
【0062】
そして、スポット溶接ガン20の加圧力を再調整する必要がある状態になると、処理はステップS15に移行する。
ステップS15において、診断用プログラムを実行する。診断用プログラムは、初期設定プログラムと実質的に同様であってもよい。これにより、変位量偏差算出部316は、変位量偏差を前述のように再度算出する。
【0063】
ステップS16において、ステップS15で算出された弾性変位量偏差d1’、d2’、d3’を現在変位量偏差n1、n2、n3として記憶部32に記憶する。
【0064】
ステップS17において、状態判定用偏差算出部317は、現在変位量偏差n1、n2、n3から基準変位量偏差b1、b2、b3をそれぞれ減算して、状態判定用偏差v1(=n1-b1)、v2(=n2-b2)、v3(=n3-b3)を新たに求める。更に、状態判定用偏差v1・・・が第一所定値よりも大きい場合には、処理はステップS18に移行する。状態判定用偏差v1・・・が第一所定値以下の場合には、処理はステップS19に移行する。
【0065】
ここで、
図7は状態判定用偏差vとガンアーム23の亀裂の進行度合いとの関係を示す図である。
図7において横軸は状態判定用偏差v1…を表すと共に、縦軸はガンアーム23に形成された亀裂の進行度合いを表している。
図7に示されるように、状態判定用偏差vが大きいほど、ガンアーム23の亀裂は進行している。従って、
図4のステップS17において状態判定用偏差v1…が第一所定値よりも大きい場合には、異常判定部318がスポット溶接ガン20に異常があると判断する。
【0066】
ステップS18において、警告出力部319が警告を出力する。このような場合には、操作者はスポット溶接システム1を停止させ、スポット溶接ガン20の部品、例えばガンアーム23を交換する等の処置を行ったり、スポット溶接システム1を停止させたりすることも可能である。従って、溶接不良が発生するのを事前に防止できる。
【0067】
ステップS19において、状態判定用偏差v1、v2、v3を時間と一緒に記憶部32に記憶する。また、操作者は、記憶された状態判定用偏差v1…及び過去の状態判定用偏差v1’…を表示装置(不図示)に順番に又は一度に表示させる。このため、状態判定用偏差v1…及び過去の状態判定用偏差v1’…の間の差が後述する第二所定値を早期に越えることが予測される場合には、操作者はスポット溶接ガン20の部品、例えばガンアーム23を早期に交換する。これにより、スポット溶接システム1における溶接品質が低下するのを事前に防ぐと共に、スポット溶接システム1が突然に停止するのを回避することができる。
【0068】
ステップS20において、これら状態判定用偏差v1、v2、v3と、記憶部32に記憶された過去の状態判定用偏差v1’、v2’、v3’とを比較し、状態判定用偏差v1、v2、v3と過去の状態判定用偏差v1’、v2’、v3’との間の差が第二所定値よりも大きい場合(S20:YES)には、処理はステップS21に移行する。状態判定用偏差v1、v2、v3と過去の状態判定用偏差v1’、v2’、v3’との間の差が第二所定値以下の場合(S20:NO)には、後述するスポット溶接システム1の追加の動作に移行する。
【0069】
ステップS21において、警告出力部319が警告を出力する。
【0070】
図8は、本実施形態に係るスポット溶接システム1の追加の動作を説明するフローチャートである。
図8に示される追加の動作は、
図4に示されるフローチャートに続いて実行するようにしてもよい。
【0071】
ステップS22において、スポット溶接ガン20のバネ定数を算出する。バネ定数は、基準変位量偏差を算出する際に用いた複数の加圧力指令値と複数の回転位置との間の関係から公知の手法で求めることができる。言い換えれば、バネ定数は
図6に示される直線の傾きに相当する。
【0072】
ステップS23において、ステップS22で求めたバネ定数KにステップS17で求めた状態判定用偏差v1、v2、v3をそれぞれ乗算して、加圧力偏差A1(=K×v1)、A2(=K×v2)、A3(=K×v3)を算出する。本発明では、機構部の摩耗で摩擦が変化した際に、それに伴って生じる加圧力偏差を自動で精度よく算出することができる。
【0073】
また、この場合には、圧力センサを用いて加圧力を測定する作業を省略し、加圧力の再調整に必要な作業工数を軽減できる。また、本実施形態では、加圧時のスポット溶接ガン20のサーボモータ24の回転位置をエンコーダ24aから測定して加圧力偏差を検出するので、加圧力測定のために必要な機器、例えば圧力センサを追加する必要が無く、設備コストの増加を抑えることも可能である。
【0074】
図9は加圧力指令値と回転位置との関係を示す図である。
図9において、横軸は加圧力指令値を表すと共に、縦軸は基準変位量偏差を表している。更に、
図9には、上記の状態判定用偏差v1、v2が示されている。
図9から分かるように、これら状態判定用偏差v1、v2に対応する加圧力偏差A1、A2を線形補間で求めるようにしてもよい。
図9には示さない加圧力偏差A3も同様である。この場合には、バネ定数Kを算出することなしに、加圧力偏差A1…を算出することができる。
【0075】
再び
図8を参照すると、ステップS24において、加圧力偏差A1…のそれぞれが第三所定値よりも大きい場合(S24:YES)には、処理はステップS26に移行する。それ以外の場合(S24:NO)には、処理はステップS25に移行する。
【0076】
ステップS25において、加圧力を補正する。すなわち、サーボモータ24へのトルク指令値を補正するか、又はサーボモータ24の回転位置指令値を補正し、それにより、加圧力偏差A1…がゼロになるようにする。これにより、所望の加圧力を達成して溶接品質を改善することができる。
【0077】
ステップS26において、加圧力偏差A1…と第四所定値とを比較する。第四所定値は第三所定値よりも大きい値である。加圧力偏差A1が第四所定値よりも大きい場合には、処理はステップS27に移行する。それ以外の場合(S26:NO)には、処理はステップS28に移行する。
【0078】
ステップS27において、警告出力部319が警告を出力する。あるいは、周辺機器(不図示)を通じて、スポット溶接システム1を停止させてもよい。
【0079】
ステップS28において、加圧力偏差A1…をロボット制御装置30の内部又は外部に備わる表示装置(不図示)に表示する。これにより、操作者は、表示装置を通じて、加圧力偏差の値を確認することができる。そして、加圧力偏差が大きい場合には、操作者自身がスポット溶接システム1を停止させ、加圧力の再調整を行えばよい。
【0080】
ステップS29において、加圧力偏差A1…を記憶部32に時系列で記憶させる。
【0081】
ステップS30において、過去に記憶された複数の加圧力偏差を表示装置に一緒に表示する。これにより、操作者は、急激に加圧力偏差が変化していること等を把握することができる。また、加圧力偏差の変化量が所定値よりも大きい場合には表示装置に警告を出力してもよい。また、操作者は、早期に加圧力偏差が第四所定値を超えることが予想される場合は、早期に加圧力の再調整を行ってもよい。この場合には、溶接品質の低下を未然に防ぐことが可能である。
その後、処理はステップS14に移行してもよい。
【0082】
(第1実施形態が奏する効果)
以上説明したように、第1実施形態のロボット制御装置30及びスポット溶接システム1によれば、可動電極チップを一定速度となるようサーボモータ24を制御し、固定電極チップに当接させた際の外乱トルクの立ち上がりを解析し、基準位置を取得する。
基準位置の測定を、可動電極チップを一定速度で動作させたときのサーボモータ24のモータ電流から計算するため、静止摩擦力の影響を受けにくく、基準位置の測定が高精度に行え、結果的に加圧力の推定精度が高くなる。延いては、スポット溶接ガン20の異常を容易に推定することができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限るものではない。また、本実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0084】
例えば、上述した実施形態では、C型スポット溶接ガン20を備えるスポット溶接システム1を例示した。しかし、本発明の特徴はこれに限定されず、種々のスポット溶接ガンを備えるスポット溶接システムに適用可能である。例えば、
図10に示すように、開閉可能な一対のガンアーム26a,26bと、各ガンアーム26a,26bの先端部に取り付けられた可動電極21及び対向電極22とを有する、いわゆるX型のスポット溶接ガンを備えるスポット溶接システムにも適用可能である。
【0085】
また、上述した実施形態では、ワークWを固定設置し、スポット溶接ガン20をロボット10のアーム先端部14に取り付けることにより、ワークWに対してスポット溶接ガン20を相対移動させた。しかし、スポット溶接ガン20を固定設置し、ワークWをロボット10のアーム先端部14に保持することにより、ワークWに対してスポット溶接ガン20を相対移動させてもよい。例えば、
図11に示すように、所定位置に設置されたガンスタンド25によりスポット溶接ガン20を支持すると共に、ロボット10のアーム先端部でロボットハンド19を介してワークWを保持することにより、ロボット10の駆動によりスポット溶接ガン20に対しワークWを相対移動させて、電極21,22間にワークWを配置してもよい。
【0086】
また、上述した実施形態では、スポット溶接システムを例示したが、これに限定されない。本実施形態の特徴は、可動電極チップと該可動電極チップに対向する固定電極チップとの間で被溶接ワークを加圧して溶接を行う溶接システム、例えばシーム溶接により溶接を行う溶接システムや、リベット打ちを行う制御システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 スポット溶接システム(ロボットシステム)
10 ロボット
11 基台
12 下アーム
13 上アーム
14 アーム先端部
15 サーボモータ(駆動部)
15a エンコーダ
20 スポット溶接ガン(処理ツール)
21 可動電極
22 対向電極
23 ガンアーム
23a フレーム
24 サーボモータ
24a エンコーダ
30 ロボット制御装置
31 制御部
32 記憶部
311 基準速度指令値作成部
312 基準速度指令値出力部
313 検出用加圧力指令値作成部
314 トルク指令値出力部
315 基準位置計算部
316 変位量偏差算出部
317 状態判定用偏差算出部
318 異常判定部
319 警告出力部
321 トルク-加圧力換算テーブル
J1 第1軸(駆動軸、基本軸)
J2 第2軸(駆動軸、基本軸)
J3 第3軸(駆動軸、基本軸)
J4 第4軸(駆動軸、手首軸)
J5 第5軸(駆動軸、手首軸)
J6 第6軸(駆動軸、手首軸)
W ワーク(処理対象物)