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特許7335098対象物の評価方法、及び対象物の評価装置
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  • 特許-対象物の評価方法、及び対象物の評価装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】対象物の評価方法、及び対象物の評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019113117
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020204577
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 恵子
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 智穂
(72)【発明者】
【氏名】カワバタ ダンカン キース ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 愛
(72)【発明者】
【氏名】新井 智大
(72)【発明者】
【氏名】入戸野 宏
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-084038(JP,A)
【文献】国際公開第2008/152799(WO,A1)
【文献】特表2010-537738(JP,A)
【文献】特開2000-354588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/46
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に、特定の化粧製品複数日以上にわたり使用させる使用ステップと、
前記使用ステップの後、前記特定の化粧製品の画像提示している時の前記被験者の定常状態視覚誘発電位を測定する測定ステップと、
前記定常状態視覚誘発電位に基づき、前記特定の化粧製品の使用感を評価する評価ステップとを含む、化粧製品の評価方法。
【請求項2】
前記特定の化粧製品の画像は、前記特定の化粧製品物自体の画像、又は前記特定の化粧製品が収容されている若しくは収容されていることが認識可能な収容体の画像である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定ステップが、空の収容体の画像を提示している時の前記被験者の第1定常状態視覚誘発電位を測定し、前記収容体に前記特定の化粧製品が収容された状態の画像を提示している時の前記被験者の第2定常状態視覚誘発電位を測定して、前記第1定常状態視覚誘発電位と第2定常状態視覚誘発電位との差分を取得することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記評価ステップは、前記測定された定常状態視覚誘発電位を、予め求めておいた定常状態視覚誘発電位と使用感の評価値との関係に照らすことによって、前記使用感を推定することを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
被験者に予め複数日以上にわたり使用させた特定の化粧製品の画像提示している時の前記被験者の定常状態視覚誘発電位を測定する測定手段と
前記定常状態視覚誘発電位に基づき、前記特定の化粧製品の使用感を評価する評価手段とを含む、化粧製品の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の評価方法、及び対象物の評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物の使用感を評価する方法として、被験者に対象物を使用させ、被験者の身体的な反応を測定し、その測定値を評価指標とするものがある。例えば、特許文献1には、化粧料の塗布前後に測定された被験者の脳波データから求められた脳波感性スペクトルに基づき、化粧料の塗布が被験者の心理状態に及ぼす影響を求めることで、化粧料の評価を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-354588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、使用者が特定の対象物(特定の製品)を購入する時、使用者は、対象物を見て、その対象物を過去に使用した時の使用感の体験の記憶を意識的に又は無意識に呼び起こし、その使用感の体験の記憶に基づき購入の判断を行っている。よって、対象物を使用した際に使用者にその体験が記憶され、その対象物を再び見た時に呼び起こされる対象物の使用感は、対象物の開発やマーケティングの方向性を決める上で重要な因子となり得る。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法のように、単に対象物の使用中又は使用直後に(化粧料であれば、化粧料の塗布中又は塗布直後に)被験者の身体の反応を測定するだけでは、被験者に記憶されている使用感、又は記憶されている使用感の体験を十分に評価することはできない。
【0006】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様は、対象物の評価において、被験者に記憶された使用感を十分に評価できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による対象物の評価方法は、被験者に、特定の化粧製品複数日以上にわたり使用させる使用ステップと、前記使用ステップの後、前記特定の化粧製品の画像提示している時の前記被験者の定常状態視覚誘発電位を測定する測定ステップと、前記定常状態視覚誘発電位に基づき、前記特定の化粧製品の使用感を評価する評価ステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一形態によれば、被験者に記憶された使用感を十分に評価できる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一形態による方法のフロー図である。
図2】本発明の一形態による装置の概略図である。
図3】実施例の実験手続の概略を示す図である。
図4】実施例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<対象物の評価方法の概要>
図1に、本発明の一形態は対象物の評価方法のフロー図を示す。図1に示すように、被験者に対象物を使用させる使用ステップ(S10)と、対象物に関する視覚情報を付与している時の被験者の定常状態視覚誘発電位を測定する測定ステップ(S20)と、定常状態視覚誘発電位に基づき、対象物の使用感を評価する評価ステップ(S30)とを含むものである。
【0011】
本形態により評価される「対象物」は特に限定されないが、本形態による方法は、特に使用体験が重要な日用品等を好適に評価することができる。「対象物」は、身体に塗布して使用するもの、例えば、化粧製品、化粧製品以外のパーソナルケア製品等であってよい。化粧製品の具体例としては、ファンデーション、口紅、チーク、アイシャドー、アイブロー、アイライナー、マスカラ等のメーキャップ化粧品、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、美容液等の基礎化粧品、日焼け止め製品、シェービング用品、フレグランス等が挙げられる。パーソナルケア製品の具体例としては、石鹸、ハンドソープ、ボディーソープ、ハンドクリーム、デオドラント等のボディ製品、シャンプー等のヘアケア製品、歯磨剤等の口腔ケア製品、ネイルケア製品等が挙げられる。また、「対象物」は、上記以外の日用品、例えば、生理用品、吸水パッド等の吸収性物品、ティッシュペーパー、ウェットティッシュ、トイレットペーパー等の紙製品、化粧道具(スポンジ、ブラシ類)、ヘアブラシ、歯ブラシ、爪切り等のボディケア用道具、美容器具等であってよい。さらに、食料品、飲料品、嗜好品等であってもよいし、文房具、日用雑貨、家具、寝具、食器、台所用品、衣料品等であってもよい。
【0012】
また、本明細書において、「使用感」とは、対象物の使用体験によって被験者が感じる感覚、又は対象物の使用体験によって被験者が受ける印象であってよい。例えば、良い若しくは悪い、快若しくは不快、効果感(対象物の目的とする効果について効果がある若しくはない)、期待効果感(効果がありそう若しくはなさそう)の1以上であってよい。効果感又は期待効果感は、塗布された肌に対する効果として対象物に期待されるものを具体的に表した感覚であってよい。例えば、対象物が乳液であれば、通常乳液に期待される効果、ふっくら、しっとり、やわらか、なめらか等であってよい。また、「使用感」は、対象物が身体に接触させて使用するものであれば、その使用触感であってよく、対象物が身体に塗布して使用するものであれば、塗布触感であってよい。塗布触感とは、対象物を塗布した際に、塗布された身体部位の表面及び/又は塗布に用いた身体部位の表面で被験者が感じる触感といえる。上記使用触感は、サラサラ感、みずみずしさ、さっぱり感、なじみのよさ、のび、べたつき、油っぽさ等であってよい。
【0013】
一般に、実際に使用者が特定の対象物を購入する時、その対象物を使用した体験がある場合には、少なくとも無意識にその対象物の使用感の記憶を呼び出している。より具体的に言えば、ある対象物種を使用する使用者が、その対象物種に属する異なる複数の対象物の中から特定の対象物(特定の製品)を選択する時、過去に対象物を使用した体験がある場合には、使用者は、対象物を見て(対象物に関する視覚的情報を得て対象物を認識して)、その対象物を使用した時の使用感の体験の記憶(記憶された使用感の体験)を呼び出し、その使用感の記憶を異なる複数の対象物間で比較し、購入の判断を行っている。よって、このような被験者に記憶された対象物の使用感、別言すれば、過去に体験した使用感を評価することは、製品開発やマーケティングの戦略構築において重要な検討事項となり得る。しかし、被験者が対象物を使用している時にリアルタイムで感じる使用感には対象物以外にも注意が向いている可能性もあり、それだけを評価するだけでは、製品の一般的な選択時又は購入時の心理状態までは推定できない可能性があり、対象物の評価としては十分でない場合がある。
【0014】
これに対し、本形態は、被験者に対象物を使用させた後、対象物を使用している時ではなく、使用させた対象物に関する視覚情報を付与している時に被験者の脳波を測定する。これにより、被験者に記憶された使用感、より具体的には記憶された使用感の体験を良好に評価することができる。そして、測定する脳波データを、被験者に対象物に関する視覚情報を与えて定常状態視覚誘発電位(steady-state visual evoked potential:ssVEP)とすることで、特に被験者の直観的な、無意識下での反応を良好に反映したデータを得ることができる。
【0015】
また、一般的に、被験者が対象物を使用してポジティブな良い体験をした場合には、対象物の価値が上がり、対象物に対して、被験者は興味・関心や注意を向けられるようになる。本形態では、測定データとして定常状態視覚誘発電位を利用することで、被験者のポジティブな良い体験で生じた、無意識下の対象物への興味・関心や注意の反応を測定するため、被験者が対象物に対して感じたポジティブな使用感を良好に評価することができる。
【0016】
なお、本明細書において「対象物種」とは、個々の製品を指すのではなく、同様の機能を有し且つ同様の用途で用いられる対象物のカテゴリー、例えば、ファンデーション、口紅、化粧水、乳液といったものを指す。
【0017】
<対象物の評価装置の概要>
図2に、上記の対象物の評価方法を実施することができる対象物の評価装置100の概略図を示す。評価装置100は、データ処理装置10、ヘッドセット20、及びディスプレイ30を含む。ヘッドセット20は、被験者Sの頭皮に装着することができる電極を備えている。また、データ処理装置10は、入力手段11、出力手段12、記憶手段13、データ取得手段14、解析手段15、評価手段16、及び制御手段17を備えた機能構成とすることができる。測定ステップ(S20)における視覚情報の付与は、ディスプレイ30を通して行うことができ、定常状態視覚誘発電位の測定は、ヘッドセット20の電極と、データ処理装置10内のデータ取得手段14とによって行うことができる。
【0018】
入力手段11は、視覚情報の付与、脳波(定常状態視覚誘発電位)の測定、及び評価等の指示をユーザ等から受け付けることができる。入力手段11は、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力インターフェースとすることができる。入力手段11は、上述の入力を、例えば音声等によって可能にするマイク等の音声入力デバイスであってもよい。
【0019】
出力手段12は、入力手段11により入力された内容や、入力内容に基づいて実行された内容等の出力を行うことができる。例えば、出力手段12は、解析手段15の処理結果を出力(表示)することができる。出力手段12は、例えば、ディスプレイやスピーカであってよく、プリンタ等の印刷デバイスを有していてもよい。
【0020】
記憶手段13は、データ取得手段14によって取得されたデータ、解析手段15によって解析された結果、及び評価手段16による評価結果等のデータを記憶することができる。また、記憶手段13に記憶される情報は、例えばインターネットやLAN(Local Area Network)等に代表される通信ネットワークを介して外部装置から取得したものであってもよい。
【0021】
データ取得手段14は、ヘッドセット20の電極から脳波(定常状態視覚誘発電位)データを取得することができる。また、データ取得手段14は、入力手段11から入力されたデータ、例えば、被験者Sに対して対象物についての主観評価を行う場合、主観評価のデータも取得することができる。データ取得手段14によって取得されたデータは、記憶手段13に記憶される。
【0022】
解析手段15は、データ取得手段14にて取得されたデータを解析することができる。解析手段15では、脳波信号のデータをフーリエ変換等により変換してパワースペクトル密度を求め、さらに、対象物の評価又はデータベースの構築に必要なデータ(ssVEP値)を抽出することができる。また、解析手段15は、データからのノイズ除去等を行うこともできる。
【0023】
評価手段16は、データ取得手段14により取得され、解析手段15によって解析され得られたデータに基づき、対象物の使用感、より具体的には被験者に記憶されている対象物の使用感を評価することができる。
【0024】
制御手段17は、評価装置100の上述の各手段の制御を行うことができる。
【0025】
上述の各手段10~17は、コンピュータによって実行させるプログラムとして生成することができ、これを汎用のパーソナルコンピュータ、サーバ等にインストールすることにより、評価装置100を実現することができる。本形態では、上記プログラムをデータ処理装置10にインストールすることにより評価装置100を実現することができる。
【0026】
<使用ステップ(S10)>
本形態による対象物の評価方法では、まず被験者に対象物を使用させる使用ステップ(S10)を行う。この使用ステップ(S10)において被験者に対象物を使用させる形態は、対象物が一般に使用される形態又はそれ近い形態とする。例えば、評価したい対象物が、通常、被験者が対象物を手にとって顔に塗布することによって使用される場合、本使用ステップ(S10)において、対象物を被験者の手に取らせて、顔に塗布させる。また、使用頻度、使用のタイミング、使用条件等も、その被験対象物について一般的なものとすることが好ましい。
【0027】
さらに、使用ステップ(S10)における対象物の使用は、1回であっても複数回であってよい。しかし、複数回の使用によって、被験者が使用感をより明確に且つ/又はより強く感じることができるので、使用感の体験が記憶に定着しやすくなるので好ましい。また、この複数回の使用は、連用であること、すなわち被験者に対象物を繰り返して使用させることが好ましい。その場合、対象物の一般的な使用頻度と同じ使用頻度又はほぼ同じ頻度で、対象物を続けて使用させることが好ましい。すなわち、最初に特定の対象物を使用し、その後、その対象物の一般的な使用頻度に基づく時間間隔を置いて、特定の対象物を再度使用することができ、場合によってはそれを繰り返していくことができる。例えば、一般的な使用頻度が約1回/日である対象物の場合には、毎日、できるだけ24時間の時間間隔を置いて使用することが好ましい。
【0028】
また、使用頻度に関わらず、対象物は、複数日以上の期間にわたって使用させることが好ましい。対象物によっては、被験者が受ける印象が薄かったり、使用感を感じにくかったりするものがある場合がある。或いは、被験者によって、使用感を感じにくく、その体験を記憶に定着させにくい者もいる。そのような場合であっても、対象物を複数日以上の期間にわたり使用することで、すなわち、使用と次の使用との間で使用者が睡眠をとることによって、使用感の記憶をより明確に又は強く定着させることができ、次の測定ステップ(S20)においてより安定的なデータを取得することができる。対象物が日用品(一般的に毎日又はほぼ毎日使用される物)の場合には、本使用ステップ(S10)において、被験者に対象物を3~7日にわたり連用させることが好ましい。
【0029】
<測定ステップ(S20)>
測定ステップ(S20)においては、上述の使用ステップ(S10)で使用させた対象物に関する視覚情報を付与して脳波を測定する。ここで、対象物に関する視覚情報は、被験者が使用ステップ(S10)で使用した所定の対象物であることを被験者が認識できるものであれば、特に限定されない。よって、上記視覚情報の付与は、対象物の画像、すなわち写真又は絵、或いは動画の提示であってよい。その場合、写真、絵、又は動画は、白黒であってもカラーであってもよい。或いは、対象物の実物を被験者に提示してもよい。
【0030】
上記視覚情報は、対象物自体が露出した状態を映した情報であってもよいし、収容体(容器等)に収容された状態の情報であってもよい。但し、収容体の視覚情報の影響を取り除くために、例えば対象物が容器に収容された状態を映した視覚情報と、その容器を空にした状態を映した視覚情報とを与え、それぞれ脳波データを測定し、その差分を取ることによって、対象物自体に起因する脳波データを取得することができる。
【0031】
本測定ステップ(S20)では、脳波のデータとして、被験者の定常状態視覚誘発電位(steady-state visual evoked potential:ssVEP)を測定する。定常状態視覚誘発電位の測定は、非侵襲であり、また被験者に事前のトレーニングがほとんど必要としないという点で好ましい。そして、定常状態視覚誘発電位を発生させるためのフリッカー刺激は、対象物に関する視覚情報とすることができる。すなわち、測定ステップ(S20)において、上述の対象物についての画像等を周期的に繰り返して被験者に提示し、その提示の間に視覚誘発電位を測定する。その場合、画像を提示する周波数は特に限定されないが、3~30Hzであってよく、12~18Hzとすると好ましい。
【0032】
定常状態視覚誘発電位の測定は、誘発電位測定装置の電極を後頭部の視覚野、例えば、国際10-20法に基づくO1及びO2に配置して行うことができる。
【0033】
測定ステップ(S20)は、使用ステップ(S10)の後に行う。すなわち、測定ステップ(S20)は、対象物を使用して、その使用時から時間が経過した後に対象物に関する視覚情報を得た時の身体的な反応を測定するのであり、被験者が実際に対象物を使用している時の被験者の身体的な反応を測定するものではない。そのため、本形態によれば、使用者の使用体験の記憶から引き出された使用感を評価することができる。
【0034】
<評価ステップ(S30)>
評価ステップ(S30)では、測定ステップ(S20)で測定された定常状態視覚誘発電位に基づき、対象物の使用感を評価する。例えば、同じ対象物種に属する2種以上の対象物についてそれぞれ定常状態視覚誘発電位のデータ(ssVEP値)を取得し、両者を比較することができる。一被験者又は所定の被験者群内での比較するのであれば(同じ被験者又は被験者群に対して測定を行い、測定データを比較するのであれば)、その被験者個人又は被験者群の被験者に記憶されている、上記2種以上の対象物間での使用感の違いを推定することができる。これにより、その被験者又は被験者群の対象物への好意的な興味や嗜好性の傾向が分かり、被験者又は被験者群が製品を使用したり、購入したりする際の対象物への好意的興味やその特徴、選択の傾向を知ることができる。
【0035】
また、特定の被験者に対し、特定の対象物について取得されたssVEP値を、予め求めておいたssVEP値と使用感の評価値との関係に照らすことによって、対象物の記憶された使用感を推定することができる。上記関係は、予め複数の被験者に対し、少なくともその特定の対象物についてssVEP値を測定した上、各被験者に使用感に関する主観評価をさせる。そして、ssVEP値と使用感の評価値との関係をデータベース化して評価装置に保存しておくことができる。関係は、式として保存しておいてもよい。特定の対象物の評価の際には、特定の対象物について取得されたssVEP値をデータベースと照合することで、記憶されて呼び起こされる特定の対象物の使用感の評価値がどの程度になるか推定することができる。これにより、一旦その対象物を使用した使用者の好意的な興味度や注目度、開発した対象物の再使用や再購入されやすさを推定することができ、対象物の設計やマーケティング戦略に役立てることができる。
【実施例
【0036】
(実験手続き)
評価対象物として、2種の異なる乳液M及びMを準備した。また、被験者は乳液M及びMの使用体験のない、正常な視力(矯正後の視力であってもよい)を持つ38名(20代)とした。まず、被験者を19名ずつの2つの群に分け、一方の群を、乳液Mを使用させる被験者群S、他方の群を、乳液Mを使用させる被験者群Sとした。
【0037】
図3に、本実施例の手続を示す。まず、乳液を使用せずに、データを取得した(データ取得I)。データ取得においては、画像を提示して定常状態視覚誘発電位(ssVEP)を測定し、その後、アンケートによる主観評価を行った。
【0038】
ssVEPは、刺激画像をディスプレイに15Hzで提示し、誘発電位測定装置(BIOSEMI社(アムステルダム、オランダ)製)を用いて国際10-20法によるO1、O2の位置(左右の後頭部)にて測定した。提示した刺激画像として、評価対象物である乳液が容器に収容された画像P、及び容器のみの画像(容器が空になっている状態の画像)Pを用い、図3に示すように、各画像を提示している時のssVEPをそれぞれ測定した。
【0039】
主観評価は、使用前は、乳液を容器から出した状態で提示し、被験者が見た目から感じる乳液の「全体的に良い」という全体的な印象や使用感触、効果感、肌状態への印象、気持ちの問いに答えるものであった。使用後は、同じ主観評価項目を用いて、使用後に感じる印象等として答えてもらった。各評価項目について非常にそう思う(5)、そう思う(4)、どちらともいえない(3)、そう思わない(2)、全くそう思わない(1)の5段階で回答してもらった。
【0040】
最初のデータ取得(データ取得I)の後、各被験者に乳液を使用させた。具体的には、各被験者自らが乳液を手に取り、顔に塗布した。続いて、データ取得Iと同様にして、ssVEPを測定し、主観評価を行った(データ取得II)。
【0041】
さらに、各被験者に、乳液を3日間(2~4日目)自宅で、朝晩各1回ずつ連用させた。その翌日の5日目に、再度データ取得を行った(データ取得III)。
【0042】
各データ取得手続にて取得したssVEPデータは、空容器の画像提示時の被験者の反応を基準にできるよう、画像P提示時のデータから画像P提示時のデータを差し引いた。そして、得られた差分データの、画像提示後1秒から2秒までのデータを求め、被験者群S、S内でそれぞれ平均した。
【0043】
(ssVEP値の変化)
図4に、データ取得I~IIIにおけるssVEP値(空容器画像P提示時を基準とした値)を、被験者群S、Sそれぞれについて示す。図4に示すように、いずれの被験者群S、Sにおいても、使用前(データ取得I)、初回使用後(データ取得II)、及び3日間連用後(データ取得III)で見て、ssVEP値が変化していた。
【0044】
より具体的には、使用前(データ取得I)で得たssVEP値は、被験者群S、Sでほぼ同じであったにも関わらず、1回目の使用後(データ取得II)では、両者に差が生じ、連用後(データ取得III)ではさらにその差が大きくなっていた。例えば、使用前(データ取得I)におけるssVEP値は被験者群S、Sで差がなかったが、連用後(データ取得III)での被験者群S、SのssVEP値は、多重比較(Bonferroni)検定による比較で有意差(p<0.05)が確認できた。また、被験者群Sにおいては、1回目の使用後(データ取得II)で下降したssVEP値は連用後(データ取得III)にさらに下降する一方、被験者群Sにおいては、1回目の使用後(データ取得II)で上昇したssVEP値は連用後(データ取得III)にさらに上昇した。このように、被験者群S、Sいずれについても、連用によってssVEP値の変化の傾向が強まることが分かった。
【0045】
さらに、被験者群Sについて、使用前(データ取得I)のssVEP値と、連用後(データ取得III)のssVEP値とを、多重比較(Bonferroni)検定によって比較したところ、両者に傾向差(p<0.1)があることも確認できた。
【0046】
(ssVEP値と主観評価)
連用後(データ取得III)で測定されたssVEP値の全被験者の平均と、主観評価項目のうち「全体的に良い」との評価値とで相関を求めたところ、有意な相関が見られた(r=0.37、p<0.05)。よって、このような相関関係をデータベースとして保存しておけば、例えば新規な対象物を被験者に使用させた後に、その対象物のフリッカー画像を提示しながら被験者のssVEP値を測定して、ssVEP値をデータベースと照合することで、被験者に記憶された使用感を推定することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 データ処理装置
20 ヘッドセット
30 ディスプレイ
100 評価装置
S 被験者
図1
図2
図3
図4