(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の飲用感向上方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/06 20060101AFI20230822BHJP
C12C 5/02 20060101ALI20230822BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230822BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C12G3/06
C12C5/02
A23L2/52
A23L2/00 A
(21)【出願番号】P 2019117089
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大沢 千晶
(72)【発明者】
【氏名】谷川 篤史
(72)【発明者】
【氏名】大畠 麻由
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05308638(US,A)
【文献】国際公開第2014/147887(WO,A1)
【文献】HENDRIKS.H,ミント系ハーブとその天然精油の医薬的作用,FRAGRANCE JOURNAL,1999年,pp.67-74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G、C12C、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸メンチルの含有量が0.010~30.0ppbであ
って、
メントールの含有量が3.0~70.0ppb、及び、メントンの含有量が2.0~50.0ppb、の少なくとも一方を満たすビールテイスト飲料。
【請求項2】
酢酸メンチルの含有量を0.010~30.0ppbとする
とともに、
メントールの含有量を3.0~70.0ppb、及び、メントンの含有量を2.0~50.0ppb、の少なくとも一方を満たすようにする工程を含むビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
ビールテイスト飲料の広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とを増強させる飲用感向上方法であって、
前記ビールテイスト飲料の酢酸メンチルの含有量を0.010~30.0ppbとする
とともに、メントールの含有量を3.0~70.0ppb、及び、メントンの含有量を2.0~50.0ppb、の少なくとも一方を満たすようにする、ビールテイスト飲料の飲用感向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の飲用感向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、消費者の多様な嗜好に応えるべく、多くの種類のビールテイスト飲料やその製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、0.3~5ppmのクワシンおよび/または0.5~5ppmのキニーネを含んでなる、ビールテイスト飲料が開示されている。
そして、特許文献1では、このビールテイスト飲料は、ビールらしい苦味を有すると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、ビールテイスト飲料の香味の好ましい特徴の一つとして、ビール特有の苦味を挙げることができる。
この苦味の他にも、消費者がビールテイスト飲料に要求する特徴として、爽快な感覚が挙げられる。
【0006】
まず、ビールテイスト飲料の爽快な感覚について、本発明者らは「炭酸感」に着目した。
一般的な発泡性を呈する飲料を飲んだ場合、ガス圧に応じたシュワシュワとした炭酸感を得ることができる。しかしながら、この炭酸感は、口腔内において飲料が直接的に接する部分に限定したものであった。
また、通常、ビールテイスト飲料は爽快な感覚を消費者に与えるが、この爽快な感覚はビールテイスト飲料を嚥下すると即座に霧散してしまうものであった。
【0007】
本発明者らは、ビールテイスト飲料について、炭酸感を口腔内に広がらせるとともに、爽快感に余韻を残すことができれば、ビールテイスト飲料の飲用感(飲用した際の感覚)を向上させることができるのではないかと考えた。
【0008】
そこで、本発明は、広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とが増強しているビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、および、ビールテイスト飲料の飲用感向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
[1]酢酸メンチルの含有量が0.010~30.0ppbであって、メントールの含有量が3.0~70.0ppb、及び、メントンの含有量が2.0~50.0ppb、の少なくとも一方を満たすビールテイスト飲料。
[2]酢酸メンチルの含有量を0.010~30.0ppbとするとともに、メントールの含有量を3.0~70.0ppb、及び、メントンの含有量を2.0~50.0ppb、の少なくとも一方を満たすようにする工程を含むビールテイスト飲料の製造方法。
[3]ビールテイスト飲料の広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とを増強させる飲用感向上方法であって、前記ビールテイスト飲料の酢酸メンチルの含有量を0.010~30.0ppbとするとともに、メントールの含有量を3.0~70.0ppb、及び、メントンの含有量を2.0~50.0ppb、の少なくとも一方を満たすようにする、ビールテイスト飲料の飲用感向上方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るビールテイスト飲料によると、広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とが増強している。
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法によると、広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とが増強したビールテイスト飲料を製造することができる。
本発明に係るビールテイスト飲料の飲用感向上方法によると、ビールテイスト飲料の広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とを増強させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の飲用感向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0012】
[ビールテイスト飲料]
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酢酸メンチルの含有量が所定範囲内である飲料である。また、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、メントール、メントンを其々、所定量含有していてもよい。
ここで、ビールテイスト飲料とは、ビール様(風)飲料とも呼ばれ、ビール様の香味を奏する飲料、言い換えると、ビール様の香味を奏するように調製された飲料である。そして、ビールテイスト飲料としては、例えば、酒税法(平成三十年六月二十日公布(平成三十年法律第五十九号)改正)で定義される「発泡性酒類」(ビール、発泡酒、その他の発泡性酒類)に分類されるものが挙げられる。なお、前記したその他の発泡性酒類としては、「その他の醸造酒(発泡性)(1)」(第三のビール)や「リキュール(発泡性)(1)」(新ジャンルビール)がある。また、ビールテイスト飲料としては、ビール様の香味を奏していればよく、酒税法で定義される発泡性酒類には属さない飲料および清涼飲料水(例えばノンアルコールビールテイスト飲料など)も挙げることができる。
【0013】
(酢酸メンチル)
酢酸メンチル(menthyl acetate)は、分子式C12H22O2で表される酢酸とメントールとのエステルである。
この酢酸メンチルは、ビールテイスト飲料に所定量含有させることによって、広がりのある炭酸感を増強させることができるとともに、余韻のある爽快感を増強させることができる。
また、酢酸メンチルは、ビールテイスト飲料について、ピーリー(果皮様:例えばグレープフルーツの果皮様)な苦味を増強させることもできる。
なお、「広がりのある炭酸感が増強する」とは、口腔内での炭酸感の広がりの程度が増強する、つまり、炭酸感が広がりを持つように感じる様子を示しており、「余韻のある爽快感が増強する」とは、後に残る爽快感の余韻の程度が増強する、つまり、爽快感の余韻が長くなるように感じる様子を示している。
【0014】
酢酸メンチルの含有量は、0.010ppb(μg/L)以上が好ましく、0.050ppb以上、0.060ppb以上、0.10ppb以上0.30ppb以上、0.40ppb以上、0.50ppb以上、0.60ppb以上がより好ましい。酢酸メンチルの含有量が所定値以上であることによって、炭酸感に広がりを持たせることができるとともに、爽快感を持続的なものとすることができ、また、ピーリーな苦味を増強させることができる。
酢酸メンチルの含有量は、30.0ppb以下が好ましく、20.0ppb以下、13.0ppb以下、10.0ppb以下、7.0ppb以下、5.0ppb以下、3.0ppb以下、1.0ppb以下がより好ましい。酢酸メンチルの含有量が所定値以下であることによって、本発明の効果(広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とピーリーな苦味の増強)をしっかりと発揮させることができる。
【0015】
(メントール)
メントール(menthol)は、分子式C10H20Oで表されるモノテルペンアルコールの一つである。
このメントールは、前記した酢酸メンチルを含有させたビールテイスト飲料に所定量含有させることによって、酢酸メンチルが奏する効果を増強させることができる。つまり、メントールは、酢酸メンチルを含有するビールテイスト飲料について、広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とをより増強させることができる。
また、メントールは、ビールテイスト飲料について、ピーリーな苦味をより増強させることもできる。
【0016】
メントールの含有量は、3.0ppb(μg/L)以上が好ましく、3.5ppb以上、4.0ppb以上、6.0ppb以上、8.0ppb以上、10.0ppb以上がより好ましい。メントールの含有量が所定値以上であることによって、広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とをより増強させることができるとともに、ピーリーな苦味をより増強させることができる。
メントールの含有量は、70.0ppb以下が好ましく、60.0ppb以下、50.0ppb以下、45.0ppb以下、30.0ppb以下、22.0ppb以下、15.0ppb以下、12.0ppb以下がより好ましい。メントールの含有量が所定値以下であることによって、本発明の効果(広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とピーリーな苦味の増強)をしっかりと発揮させることができる。
【0017】
(メントン)
メントン(menthone)は、分子式C10H18Oで表されるモノテルペンケトンの一つである。
このメントンは、前記した酢酸メンチルとメントールとを含有させたビールテイスト飲料に所定量含有させることによって、酢酸メンチルとメントールとが奏する効果を増強させることができる。つまり、メントンは、酢酸メンチルとメントールとを含有するビールテイスト飲料について、広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とを更に増強させることができる。
また、メントンは、ビールテイスト飲料について、ピーリーな苦味を更に増強させることもできる。
【0018】
メントンの含有量は、2.0ppb(μg/L)以上が好ましく、3.0ppb以上、6.0ppb以上、8.0ppb以上、10.0ppb以上、13.0ppb以上、15.0ppb以上がより好ましい。メントンの含有量が所定値以上であることによって、広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とを更に増強させることができるとともに、ピーリーな苦味を更に増強させることができる。
メントンの含有量は、50.0ppb以下が好ましく、40.0ppb以下、31.0ppb以下、20.0ppb以下、18.0ppb以下、15.5ppb以下がより好ましい。メントンの含有量が所定値以下であることによって、本発明の効果(広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とピーリーな苦味の増強)をしっかりと発揮させることができる。
【0019】
なお、ビールテイスト飲料の酢酸メンチル、メントール、メントンの含有量は、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)で測定することができる。
また、ビールテイスト飲料の酢酸メンチル、メントール、メントンの含有量は、発酵前工程で副原料として添加するスペアミント等の量によって制御してもよいし、各工程(例えば発酵後工程)における各成分の添加によって制御してもよい。
【0020】
(アルコール度数)
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、特に限定されないものの、例えば、1%(v/v%)以上、3%以上、4%以上であり、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、6%以下である。
【0021】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、麦由来原料を発酵させて得られた飲料の値であってもよいが、当該飲料に対して、適宜、蒸留アルコールを添加して調製してもよいし、発酵を経ない場合(調合の場合)は、蒸留アルコールの添加のみで調製してもよい。
蒸留アルコールとしては、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられる。蒸留アルコールは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書において「スピリッツ」とは、蒸留酒であるスピリッツを指し、酒税法上のスピリッツとは異なる場合もある。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。そして、ビールテイスト飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定することができる。
【0022】
(発泡性)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性の飲料である。
本発明における広がりのある炭酸感の増強という効果は、ビールテイスト飲料が僅かでも炭酸感(発泡性)を有すれば、この炭酸感を広がりのあるものとすることができる。よって、本実施形態に係るビールテイスト飲料の発泡性は特に限定されないものの、20℃におけるガス圧は、2.0kg/cm2以上が好ましく、2.2kg/cm2以上、2.3kg/cm2以上、2.4kg/cm2以上がより好ましい。また、20℃におけるガス圧は、5.0kg/cm2以下が好ましく、4.0kg/cm2以下、3.0kg/cm2以下がより好ましい。
【0023】
(その他)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を添加することもできる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
そして、前記した各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0024】
(容器詰めビールテイスト飲料)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器にビールテイスト飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0025】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酢酸メンチルの含有量が所定範囲内であることから、広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とが増強している。
【0026】
[ビールテイスト飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法について説明する。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、酢酸メンチルの含有量を所定範囲内とする工程を含み、さらに、メントールの含有量、メントンの含有量を其々所定範囲内とする工程を含んでもよい。そして、詳細には、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、発酵前工程と、発酵工程と、発酵後工程と、を含む。
【0027】
(発酵前工程)
発酵前工程では、麦芽、麦、糖類、酵素、各種添加剤、副原料等を適宜混合して原料を糖化し、糖化液を得る。そして、糖化液を適宜ろ過して得られた麦汁に、適宜、ホップの添加、煮沸、冷却等を行って発酵前液を調製する。
【0028】
発酵前工程において調製される発酵前液は、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源となる麦由来原料(麦芽や麦)を含む溶液であれば特に限られない。窒素源及び炭素源は、酵母が資化可能なものであれば特に限られない。酵母が資化可能な窒素源とは、例えば、麦由来原料に含まれるアミノ酸及びペプチドのうちの少なくとも一つである。酵母が資化可能な炭素源とは、例えば、前記した糖類や麦由来原料に含まれる糖類である。
【0029】
発酵前工程で使用する麦芽は、麦を発芽させ焙燥した後に根を除いたものであり、また、発酵前工程で使用する麦とは、発芽させていない状態の麦である。そして、麦とは、大麦、小麦、ライ麦、燕麦等であるが、大麦が好ましい。
なお、麦芽比率(ビールテイスト飲料の製造に用いられる原料のうち水及びホップ以外のものの全重量に占める麦芽の重量の比率)は、特に限定されないものの、例えば、下限は1%以上、10%以上、30%以上、50%以上であり、上限は100%以下である。
【0030】
発酵前工程で使用する副原料は、ミントをはじめ、酒税法施行規則(平成三十年三月三十一日公布(平成三十年財務省令第十九号)改正)の第4条第2項各号に掲げられている物品、さらには、果実(果実を乾燥させ、若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含む)等が挙げられる。具体的には、副原料としては、ミント以外にも、コリアンダー又はその種、こしょう、シナモン、クローブ、さんしょうその他の香辛料又はその原料、アニス、スターアニス、フェンネル、キャラウェイ等が挙げられる。
なお、ミントとしては、例えば、スペアミント、イングリッシュミント、ケンタッキーカーネルミント、ペパーミント、キャンデーミント、スイスリコラミント、カーリーミント、ロココミント、クールミント、ペニーロイヤルミント、アップルミント、パイナップルミント、ボウルズミント、レモンミント、オーデコロンミント、ラベンダーミント、グレープフルーツミント、オレンジミント等が挙げられるが、前記した各成分の含有量を所定値以上とするために、スペアミントが好ましい。
【0031】
発酵前工程で使用するホップは、特に限定されず、例えば、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスが挙げられるとともに、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0032】
(発酵工程)
発酵工程は、発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行う工程である。本実施形態においては、例えば、予め温度が所定の範囲内(例えば、0~40℃の範囲)に調製された発酵前液に酵母を添加して発酵液を調製し、発酵を行う。
【0033】
発酵工程においては、さらに熟成を行うこととしてもよい。熟成は、上述のような発酵後の発酵液をさらに所定の温度で所定の時間だけ維持することにより行う。この熟成により、発酵液中の不溶物を沈殿させて濁りを取り除き、また、香味を向上させることができる。
【0034】
こうして発酵工程においては、酵母により生成されたエタノール及び各種成分を含有する発酵後液を得ることができる。発酵後液に含まれるエタノールの濃度(アルコール度数)は、例えば、1~20%とすることができる。
【0035】
(発酵後工程)
発酵後工程は、発酵後液に所定の処理を施して最終的にビールテイスト飲料を得る工程である。発酵後工程としては、例えば、発酵工程により得られた発酵後液のろ過(いわゆる一次ろ過)が挙げられる。この一次ろ過により、発酵後液から不溶性の固形分や酵母を除去することができる。また、発酵後工程においては、さらに発酵後液の精密ろ過(いわゆる二次ろ過)を行ってもよい。二次ろ過により、発酵後液から雑菌や、残存する酵母を除去することができる。なお、精密ろ過に代えて、発酵後液を加熱することにより殺菌することとしてもよい。発酵後工程における一次ろ過、二次ろ過、加熱は、ビールテイスト飲料を製造する際に使用される一般的な設備で行うことができる。
なお、発酵後工程には、前記した容器に充填する工程も含まれる。
【0036】
発酵後工程によって得られたビールテイスト飲料の酢酸メンチル、メントール、メントンの含有量等が前記した所定範囲内となるように製造されていればよい。例えば、発酵前工程で添加する副原料(スペアミント)の添加量によって、各成分の含有量が所定範囲内となるように調製してもよいし、発酵後工程において、酢酸メンチル、メントール、メントンを添加してもよい。
【0037】
なお、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発酵工程を経ないで製造することもできる。つまり、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、非発酵飲料として製造されてもよい。
この場合、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、混合タンクに、水、酢酸メンチル、メントール、メントン、添加剤、麦芽エキス、蒸留アルコールなどの原料を適宜投入する調合工程(混合工程)と、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を行う後処理工程と、を含むこととなる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、酢酸メンチルの含有量を所定範囲内とする工程を含むことから、広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とが増強したビールテイスト飲料を製造することができる。
【0039】
[ビールテイスト飲料の飲用感向上方法]
次に、本実施形態に係るビールテイスト飲料の飲用感向上方法を説明する。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の飲用感向上方法は、ビールテイスト飲料の広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とを増強させる方法であって、ビールテイスト飲料の酢酸メンチルの含有量を所定範囲内とする方法、好ましくは、さらにメントールとメントンとの含有量を其々所定範囲内とする方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「ビールテイスト飲料」において説明した値と同じである。
【0040】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料の酢酸メンチルの含有量を所定範囲内とすることから、ビールテイスト飲料の広がりのある炭酸感と余韻のある爽快感とを増強させることができる。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0042】
[サンプルの準備]
市販のビールに対して、酢酸メンチル、メントール、メントンを添加して各成分の含有量を表に示す値とし、ビールテイスト飲料(サンプル)を準備した。
使用した市販のビールは、酢酸メンチル、メントール、メントンは含有せず、アルコール度数が5v/v%であり、20℃におけるガス圧は2.3kg/cm2であった。なお、サンプルを準備する際に添加した酢酸メンチル、メントール、メントンは極微量であるため、サンプルのアルコール度数やガス圧は、使用した市販のビールと略同じ値と判断することができる。
【0043】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、選抜された識別能力のあるパネル4名が下記評価基準に則って「広がりのある炭酸感」、「余韻のある爽快感」、「ピーリーな苦味」について、1~5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、各評価は、サンプルA-1(1点)を基準として判断した。
【0044】
(広がりのある炭酸感:評価基準)
広がりのある炭酸感の評価については、「炭酸感が口腔内において広がる」場合を5点、「炭酸感が口腔内において全く広がらない(サンプルA-1と同じ程度である)」場合を1点として5段階で評価した。そして、広がりのある炭酸感の評価については、点数が高いほど、好ましい。
【0045】
(余韻のある爽快感:評価基準)
余韻のある爽快感の評価については、「爽快な感覚が後に残り、爽快感に余韻がある」場合を5点、「爽快な感覚が後に残らず、爽快感に余韻が全くない(サンプルA-1と同じ程度である)」場合を1点として5段階で評価した。そして、余韻のある爽快感の評価については、点数が高いほど、好ましい。
【0046】
(ピーリーな苦味:評価基準)
ピーリーな苦味の評価については、「ピーリーな苦味が非常に強い」場合を5点、「ピーリーな苦味が非常に弱い(サンプルA-1と同じ程度である)」場合を1点として5段階で評価した。そして、ピーリーな苦味については、点数が高いほど、好ましい。
なお、ピーリーな苦味とは、グレープフルーツの果皮様の好ましい苦味である。
【0047】
表1に、各サンプルの各評価結果を示す。そして、表における「酢酸メンチル」、「メントール」、「メントン」は、最終製品中の含有量である。なお、表1の各サンプルは、メントールおよびメントンを含んでおらず、表2の各サンプルは、メントンを含んでいない。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
(結果の検討)
表1の結果は、酢酸メンチルの含有量を調製したサンプルの結果である。
表1の結果から、酢酸メンチルの含有量が所定範囲内となっている場合に、広がりのある炭酸感の点数が高くなる(1.75点以上)とともに、余韻のある爽快感の点数も高くなる(2.00点以上)ことが確認できた。そして、サンプルA-3~A-6(特に、サンプルA-4、A-5)について、好ましい結果が得られた。
また、表1の結果から、酢酸メンチルの含有量が多くなると、ピーリーな苦味の点数も高くなることが確認できた。
【0052】
表2の結果は、メントールの含有量を調製したサンプルの結果である。
表2の結果から、酢酸メンチルを含有するとともに、メントールの含有量が所定範囲内となっている場合に、広がりのある炭酸感の点数がより高くなる(3.25点以上)とともに、余韻のある爽快感の点数もより高くなる(3.25点以上)ことが確認できた。そして、サンプルB-3~B-6(特に、サンプルB-4、B-5)について、好ましい結果が得られた。
また、表2の結果から、メントールの含有量が多くなると、ピーリーな苦味の点数もより高くなることが確認できた。
【0053】
表3の結果は、メントンの含有量を調製したサンプルの結果である。
表3の結果から、酢酸メンチルとメントールを含有するとともに、メントンの含有量が所定範囲内となっている場合に、広がりのある炭酸感の点数が更に高くなる(3.25点以上)とともに、余韻のある爽快感の点数も更に高くなる(3.25点以上)ことが確認できた。そして、サンプルC-3~C-6(特に、サンプルC-3~C-5)について、好ましい結果が得られた。
また、表3の結果から、メントンの含有量が多くなると、ピーリーな苦味の点数も更に高くなることが確認できたが、メントンの含有量が多すぎると、ピーリーな苦味の点数が低下することも確認できた。