(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】酸窒化物蛍光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20230822BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C09K11/64
(21)【出願番号】P 2019151102
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 勝
(72)【発明者】
【氏名】奥園 達也
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-057070(JP,A)
【文献】大陽日酸特殊ガスウェブカタログ,2023年02月22日,http://tn-specialtygases.jp/catalog/pure/index.html
【文献】高圧ガス工業株式会社,特殊ガス,2017年,http://koatxugas.co.jp/catalogue/gas/specialty_gas.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として窒素原子を含有する母体結晶と、前記母体結晶中に固溶されたユーロピウムとを含む酸窒化物蛍光体の製造方法であって、
窒化物及びユーロピウムの化合物を含む原料混合物を加熱して前駆体を得る第一の工程と、
酸素分圧が10
-9
atm
以下である
窒素又はアルゴン雰囲気下において、前記第一の工程よりも低い温度で前記前駆体を加熱して酸窒化物蛍光体を得る第二の工程と、を有する、酸窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記第二の工程における前記前駆体の加熱温度が1100~1700℃である、請求項
1に記載の酸窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記母体結晶がβ型サイアロンである、請求項1
又は2に記載の酸窒化物蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸窒化物蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸窒化物蛍光体は、温度上昇に伴う輝度の低下が小さく、耐久性に優れた蛍光体として知られている。酸窒化物蛍光体の中でも、ユーロピウムを賦活したβ型サイアロンは、紫外光、可視光線等の波長の光で励起することが可能であることから注目されている。
【0003】
β型サイアロン蛍光体は、例えば、窒化ケイ素粉末、窒化アルミニウム粉末、及び酸化ユーロピウム粉末を含む原料混合物を窒素雰囲気下で加熱することで得られる(例えば、特許文献1)。β型サイアロン蛍光体の実用化検討の中で、輝度を向上させる検討もなされている。例えば、特許文献2には、β型サイアロン蛍光体の原料混合物を窒素雰囲気下で1820℃~2200℃の温度で焼成して焼成物を得る焼成工程と、前記焼成物を還元性雰囲気下で1100℃以上の温度でアニールするアニール工程を備えるβ型サイアロン蛍光体の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-002278号公報
【文献】国際公開第2010/143590号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、優れた内部量子効率を発揮し得る酸窒化物蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、構成元素として窒素原子を含有する母体結晶と、上記母体結晶中に固溶されたユーロピウムとを含む酸窒化物蛍光体の製造方法であって、窒化物及びユーロピウムの化合物を含む原料混合物を加熱して前駆体を得る第一の工程と、酸素分圧が10-6atm未満である不活性ガス雰囲気下において、上記第一の工程よりも低い温度で上記前駆体を加熱して酸窒化物蛍光体を得る第二の工程と、を有する、酸窒化物蛍光体の製造方法を提供する。
【0007】
上記酸窒化物蛍光体の製造方法によれば、原料混合物の加熱によって調製した前駆体を酸素分圧が10-6atm未満である不活性ガス雰囲気下で、第一の工程よりも低い温度で加熱する第二の工程を有することによって、優れた内部量子効率を発揮し得る酸窒化物蛍光体を製造することができる。上述のような効果が得られる理由は定かではないが、第二の工程において第一の工程よりも低い温度で前駆体を加熱することによって第一の工程において生じた結晶欠陥等を低減させることができ、さらに前駆体を加熱処理する雰囲気を、酸素分圧が10-6atm未満である不活性ガス雰囲気に維持することによって効果的に結晶欠陥濃度を低減させ、内部量子効率を向上させることができるためと、本発明者らは推測する。
【0008】
上記不活性ガスが、窒素、アルゴン、及びヘリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでよい。
【0009】
上記第二の工程における上記前駆体の加熱温度が、1100~1700℃であってよい。
【0010】
上記母体結晶がβ型サイアロンであってよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、優れた内部量子効率を発揮し得る酸窒化物蛍光体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0013】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0014】
酸窒化物蛍光体の製造方法の一実施形態は、構成元素として窒素原子を含有する母体結晶と、上記母体結晶中に固溶されたユーロピウムとを含む酸窒化物蛍光体の製造方法であって、窒化物及びユーロピウムの化合物を含む原料混合物を加熱して前駆体を得る第一の工程と、酸素分圧が10-6atm未満である不活性ガス雰囲気下において、上記第一の工程よりも低い温度で上記前駆体を加熱して酸窒化物蛍光体を得る第二の工程と、を有する。
【0015】
原料混合物は、窒化物及びユーロピウムの化合物を含む。原料混合物は、複数種の窒化物、及び複数のユーロピウムの化合物を含んでもよい。ただし、本明細書における「窒化物」の用語には、窒化ユーロピウムは含まれないものとする。
【0016】
窒化物は、例えば、窒化ケイ素(Si3N4)、及び窒化アルミニウム(AlN)等が挙げられる。窒化ケイ素としては、α分率の高いものを用いることが好ましい。窒化ケイ素のα分率は、例えば、80質量%以上、90質量%以上又は95質量%以上であってよい。窒化ケイ素のα分率が上記範囲内であると、一次粒子成長を促進することができる。窒化ケイ素としては、酸素含有量の小さなものを用いることが好ましい。窒化ケイ素の酸素含有量は、例えば、3.0質量%以下、1.3質量%以下であってよい。窒化ケイ素の酸素含有量が上記範囲内であると、母体結晶における欠陥の発生を抑制できる。
【0017】
ユーロピウムの化合物は、例えば、ユーロピウムの酸化物(酸化ユーロピウム)、ユーロピウムの窒化物(窒化ユーロピウム)及びユーロピウムのハロゲン化物等が挙げられる。ユーロピウムのハロゲン化物は、例えば、フッ化ユーロピウム、塩化ユーロピウム、臭化ユーロピウム、及びヨウ化ユーロピウム等が挙げられる。ユーロピウムの化合物は、好ましくは酸化ユーロピウムを含む。ユーロピウムの化物におけるユーロピウムの価数は、2価又は3価であってよく、好ましくは2価である。
【0018】
原料混合物は、窒化物及びユーロピウムの化合物に加えて、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、及び酸化アルミニウム(Al2O3)等が挙げられる。
【0019】
原料混合物は、窒化物、ユーロピウムの化合物及びその他の成分を秤量し、混合することによって調製できる。混合には、乾式混合法又は湿式混合法を用いてもよい。乾式混合法は、例えば、V型混合機等を用いて各成分を混合する方法であってよい。湿式混合法は、例えば、水等の溶媒又は分散媒を加えて溶液又はスラリーを調製し各成分を混合して、その後、溶媒又は分散媒を除去する方法であってよい。
【0020】
原料混合物に含まれる成分及び各成分の割合は、調製する酸窒化物蛍光体(特に、母体結晶)の組成が所望の組成となるように調整することができる。原料混合物が、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、及び酸化ユーロピウムを含む場合、例えば、以下のように調製してもよい。すなわち、窒化ケイ素の含有量は、原料混合物の全量を基準として、例えば、80質量%以上又は90質量%以上であってよい。
【0021】
上記母体結晶は、例えば、サイアロン、(Ca,Sr)SiAlN3、(Ba,Sr)2Si5N8及びSr(LiAl3N4)等であってよい。サイアロンは、α型サイアロンであってよく、β型サイアロンであってよい。β型サイアロンは、Si6-ZAlZOZN8-Zの組成式で表される組成を有してもよい。上記組成式中、zは、0.0<z≦4.2であってよく、又は0.0<z≦0.5であってよい。β型サイアロンの組成は、原料混合物の成分及び組成比を変更することで、調整することができる。
【0022】
第一の工程における原料混合物の加熱温度は、例えば、1700℃超であってよい。第一の工程における加熱温度は、結晶構造の形成を促進させる観点から、例えば、1800~2500℃であってよく、1800~2400℃であってよく、1900~2100℃であってよい。また、第一の工程における加熱時間は、例えば、5~20時間であってよい。第一の工程における加熱時間は、母体結晶の一次粒子成長を促進する観点から、例えば、10~20時間であってよい。
【0023】
第一の工程における原料混合物の加熱は、例えば、窒素雰囲気下で行ってもよい。第一の工程における原料混合物の加熱はまた、加圧下で行ってもよい。この際の圧力は、例えば、0.1~200MPa、0.1~100MPa、0.1~50MPa、0.1~15MPa、又は0.1~5MPaであってよい。
【0024】
第一の工程における原料混合物の加熱によって酸窒化物蛍光体の前駆体が得られる。本明細書において上記前駆体は、母体結晶を含み、その一部に発光中心となる元素が固溶したもの(固溶体)であり、それ自体、蛍光を発し得るものである。第一の工程は、複数回繰り返し行ってもよい。第一の工程で得られる前駆体は凝集によって塊状となることがあるため、解砕等によって粒度を調整する工程を有していてもよい。
【0025】
第二の工程において、上述の前駆体を酸素分圧が10-6atm未満である不活性ガス雰囲気下において加熱する。上記不活性ガスは、窒素、アルゴン、及びヘリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでよく、好ましくはアルゴンを含む。
【0026】
上記不活性ガスの酸素分圧は、10-6atm未満であってよく、10-9atm以下、10-27atm以下、又は10-30atm以下であってよい。不活性ガス中の酸素分圧を上記範囲内とすることによって、酸窒化物蛍光体の二価のユーロピウムの変換効率を向上させ、内部量子効率ことができる。酸素分圧は、標準状態の不活性ガス中における残留酸素の分圧を意味し、酸素分圧センサーによって測定される値で示す。なお、一般に高純度ガスと呼ばれる、ガスボンベから供給される窒素、アルゴン、及びヘリウムガスにおける酸素分圧は、10-6atm以上である。
【0027】
不活性ガスの酸素分圧は、例えば、固体電解質を備える気体分離膜又は酸素を選択的に吸着する基体吸着膜を利用したガス交換等によって低減することもできる。固体電解質を備える気体分離膜を用いる場合、固体電解質を備える気体分離膜で構成されるチューブを用意し、当該チューブの壁の厚み方向に電圧をかけることで、チューブ内を流れる不活性ガス中に含まれる酸素を選択的にチューブ外へと排出することで、不活性ガスの酸素分圧を低下させることができる。不活性ガスの酸素分圧を低減する手段としては、例えば、ゲッター式ガス精製装置等を使用してもよい。
【0028】
第二の工程における上述の前駆体の加熱は加圧下で行ってもよい。この際の圧力は、第一の工程と同じであってもよく、異なってもよい。第二の工程における上述の前駆体を加熱する際の圧力は、例えば、0.01~100MPa、0.01~50MPa、0.01~10MPa、0.01~5MPa、又は0.01~1MPaであってよい。
【0029】
第二の工程における上記前駆体の加熱温度は、例えば、1100~1700℃であってよい。第二の工程における前駆体の加熱温度は、例えば、1100~1600℃、1200~1600℃、又は1300~1600℃であってよい。第二の工程における前駆体の加熱温度を上記範囲内とすることで、得られる酸窒化物蛍光体内の結晶欠陥密度を減少させることができ、内部量子効率をより向上させることができる。第二の工程における前駆体の加熱温度を上記範囲内とすることで、固溶体間で更なる焼結が進行して二次粒子を形成し粗大化が生じることを抑制することができる。
【0030】
上述の酸窒化物蛍光体の製造方法は、第一の工程及び第二の工程に加えて、その他の工程を有していてもよい。その他の工程としては、例えば、第二の工程において得られる酸窒化物蛍光体を酸及びアルカリの少なくともいずれか一方で処理する工程等を有してもよい。
【0031】
酸窒化物蛍光体の製造方法が、第二の工程において得られる酸窒化物蛍光体を酸及びアルカリの少なくともいずれか一方で処理する工程(酸処理工程又はアルカリ処理工程)を有する場合、例えば、酸窒化物蛍光体内における結晶欠陥密度の減少、β型サイアロンの熱分解等によって生成した固溶体表面に存在するケイ素の除去、及び前駆体の調製時に副生した窒化アルミニウム(AlN)の疑似多形であるAINポリタイポイド等の除去ができる。酸としては、例えば、フッ化水素酸及び硝酸等が挙げられる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0032】
第二の工程において特定の条件で前駆体を加熱することによって、酸窒化物蛍光体に固溶しているユーロピウムに占める二価のユーロピウムの割合を高め発光強度を向上させることができる。第二の工程を酸素低減処理が施された不活性ガス雰囲気下で実施することによって、前駆体の酸化等を抑制することができる。そのため、内部量子効率に優れる酸窒化物蛍光体を製造し得る。
【0033】
上述の酸窒化物蛍光体の製造方法によって、酸窒化物蛍光体が得られる。
【0034】
酸窒化物蛍光体の内部量子効率は、例えば、75.5%超とすることができ、76.0%以上、77.0%以上、78.0%以上、又は80.0%以上とすることができる。本明細書における内部量子効率は、波長が455nmの近紫外光を用いて酸窒化物蛍光体を励起した場合に得られる量子効率を意味し、本明細書の実施例に記載の方法で測定して得られる値を意味する。
【0035】
酸窒化物蛍光体のメディアン径D50は、例えば、50μm以下であってよく、30μm以下であってよく、16μm以下であってもよい。酸窒化物蛍光体のメディアン径D50は、例えば、1μm以上であってよく、又は5μm以上であってよい。酸窒化物蛍光体のメディアン径を上記範囲内であると、酸窒化物蛍光体の色度のばらつきを小さなものとすることができる。
【実施例】
【0036】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0037】
以下の実施例及び比較例では、下記の原材料を用いた。
高純度窒化ケイ素粉末(宇部興産株式会社製、商品名:UBE窒化ケイ素 SN-E10、酸素含有量:1.0質量%、α分率:95質量%以上)
窒化アルミニウム粉末(株式会社トクヤマ製、商品名:窒化アルミニウム粉末 Eグレード、酸素含有量0.8質量%)
酸化アルミニウム粉末(大明化学工業株式会社製、商品名:低温焼結性アルミナ TM-DAR)
酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業株式会社製、商品名:酸化ユーロピウム 微粉 RUPタイプ)
【0038】
(実施例1)
[酸窒化物蛍光体の調製]
容器に、窒化ケイ素が95.43質量%、窒化アルミニウムが3.04質量%、酸化アルミニウムが0.74質量%、及び酸化ユーロピウム粉末が0.79質量%となるように各原材料を測り取り、V型混合機(筒井理化学機械株式会社製)によって混合し、混合物を得た。得られた混合物を目開き250μmの篩を全通させ凝集物を取り除くことで、原料混合物を得た。篩を通らない凝集物は粉砕し、篩を通るように粒径を調整した。上記各原材料の配合量は、β型サイアロンの一般式:Si6-ZAlZOZN8-Zにおいて、Alの含有量に対するSiの含有量の比(Si/Al)から算出するzの値が0.25となるように調整した。
【0039】
蓋付き円筒型窒化ホウ素容器(デンカ株式会社製、窒化ホウ素(商品名:デンカ ボロンナイトライド N-1)を主成分とする成型品、内径:10cm、高さ:10cm)に、上述のとおり調製した原料混合物を200g測り取った。その後、この容器を、カーボンヒーターを備える電気炉中に配置し、窒素ガス雰囲気下(圧力:0.9MPa)で2000℃まで昇温し、2000℃の加熱温度で、12時間加熱を行った。加熱後、上記容器内で、緩く凝集した塊状となった試料を乳鉢に採り解砕した。解砕後、目開きが250μmの篩に通して粉末状の試料を得た。なお、上記加熱処理中、窒素ガス雰囲気における窒素濃度を98体積%以上となるように維持した。
【0040】
次に、上述のようにして得た試料を円筒型窒化ホウ素容器に充填し、この容器を、金属ヒーターを備える電気炉内に配置した。酸素分圧低減装置(キャノンマシナリー株式会社、極低酸素分圧制御装置)を介して酸素分圧を3.2×10-27atmに低減したアルゴンを上記電気炉内に供給し、アルゴンガス雰囲気下(圧力:0.02MPa)において1550℃まで昇温し、1550℃の加熱温度で、8時間加熱を行った。当該加熱の間、酸素分圧は略一定であることを確認した。加熱後、上記容器内で粒子が緩く凝集した塊状物を乳鉢で解砕し、250μmの篩に通すことによって粉体を得た。
【0041】
さらに、得られた粉体を、フッ化水素酸(濃度:50質量%)及び硝酸(濃度:70質量%)の混酸(フッ化水素酸と硝酸とを体積比で1:1となるように混合したもの)に添加し、75℃の温度下で撹拌させながら30分間酸処理を行った。酸処理後、撹拌を終了し粉体を沈殿させて、上澄み及び酸処理で精製した微粉を除去した。その後、蒸留水を更に加え再度撹拌した。撹拌を終了し粉体を沈殿させ上澄み及び微粉を除去した。かかる操作を水溶液のpHが8以下で、上澄み液が透明になるまで繰り返し、得られた沈殿物をろ過、乾燥することで、酸窒化物蛍光体を得た。
【0042】
(実施例2)
アルゴンガス雰囲気下での加熱温度を1550℃から1450℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして酸窒化物蛍光体を得た。
【0043】
(実施例3)
アルゴンガス雰囲気下での加熱温度を1550℃から1650℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして酸窒化物蛍光体を得た。
【0044】
(実施例4)
アルゴンガス雰囲気の酸素分圧を10-15atmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして酸窒化物蛍光体を得た。
【0045】
(実施例5)
アルゴンガス雰囲気の酸素分圧を10-20atmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして酸窒化物蛍光体を得た。
【0046】
(比較例1)
実施例1と同様にして原材料を窒素ガス雰囲気下で加熱することで得られた試料を解砕し、目開きが250μmの篩に通して粉末状の試料を得た。次に、上述のようにして得た試料を円筒型窒化ホウ素容器に充填し、この容器を、金属ヒーターを備える電気炉内に配置した。高純度アルゴンガスボンベから供給されるアルゴン(酸素含有量を10-6atm)をそのまま上記電気炉内に供給し、アルゴンガス雰囲気下(圧力:0.02MPa)において1550℃まで昇温し、1550℃の加熱温度で、8時間加熱を行った。加熱後、上記容器内で粒子が緩く凝集した塊状物を乳鉢で解砕し、250μmの篩に通すことによって粉体を得た。得られた粉体を実施例1と同様に酸処理等することで、酸窒化物蛍光体を得た。
【0047】
<酸窒化物蛍光体の評価:酸窒化物蛍光体の内部量子効率の測定>
実施例1~3及び比較例1で得られた酸窒化物蛍光体について、後述するとおり、内部量子効率の測定を行った。
【0048】
量子効率測定装置(大塚電子株式会社製、商品名:MCPD-7000)を用いて量子効率の測定を行った。結果を表1に示す。表1に示す結果は、波長が455nmの近紫外光を用いて蛍光体を励起した場合の光の吸収率、内部量子効率である。
【0049】
具体的な測定方法は以下のとおりである。まず、積分球(φ60mm)の側面開口部(φ10mm)に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製、商品名:スペクトラロン)をセットした。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、分光器によって反射光のスペクトルを測定した。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
【0050】
次に、凹型のセルに表面が平滑になるように蛍光体を充填したものを積分球の開口部にセットし、波長455nmの上記単色光を照射し、励起の反射光及び蛍光のスペクトルを上記分光器によって測定した。得られたスペクトルデータから励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465~800nmの範囲で算出した。
【0051】
得られた三種類のフォトン数Qex、Qref、及びQemから、内部量子効率(=Qem/(Qex-Qref)×100)を算出した。
【0052】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示によれば、優れた内部量子効率を発揮し得る酸窒化物蛍光体、及び酸窒化物蛍光体の製造方法を提供することができる。