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  • 特許-粉じんばく露レベル計測装置 図1
  • 特許-粉じんばく露レベル計測装置 図2
  • 特許-粉じんばく露レベル計測装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】粉じんばく露レベル計測装置
(51)【国際特許分類】
   A62B 27/00 20060101AFI20230822BHJP
   A62B 18/02 20060101ALI20230822BHJP
   G01N 15/08 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
A62B27/00
A62B18/02 B
G01N15/08 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019195907
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021069408
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000145507
【氏名又は名称】株式会社重松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】北原 拓
(72)【発明者】
【氏名】茂木 佐登史
(72)【発明者】
【氏名】野口 真
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-085218(JP,A)
【文献】特表2019-507332(JP,A)
【文献】特開平09-152397(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0202196(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 7/00-33/00
G01N 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防じんマスクと、
作業者に装着された防じんマスク内の空気を吸引して採取するマスク内空気吸引部と、
採取された防じんマスク内の空気が導入されるマスク内空気用粉じんセンサと、
を含み、
前記マスク内空気用粉じんセンサは、閾値以上の粒子サイズの粉じん粒子を検出するサイズ選択型センサであり、
前記マスク内空気用粉じんセンサにより計測されたマスク内空気の粉じんレベルを、該マスク内空気について粒子サイズに依らず粉じん粒子を計測する全サイズ検出型センサにより計測されると見積もられる粉じんレベルに換算する換算を行う解析部、
を更に含む、作業環境における作業者の粉じんばく露レベルを計測する計測装置。
【請求項2】
前記防じんマスク外の作業環境の空気を吸引して採取するマスク外空気吸引部と、
採取された防じんマスク外の作業環境の空気が導入されるマスク外空気用粉じんセンサと、
を更に含む、請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記マスク内空気用粉じんセンサにより計測されたマスク内空気の粉じんレベルを記録するマスク内空気用記録部、および
前記マスク外空気用粉じんセンサにより計測されたマスク外の作業環境の空気の粉じんレベルを記録するマスク外空気用記録部、
を更に有する、請求項2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記マスク外空気用粉じんセンサは、閾値以上の粒子サイズの粉じん粒子を検出するサイズ選択型センサであり、
前記解析部は、
前記マスク外空気用粉じんセンサにより計測されたマスク外空気の粉じんレベルを、該マスク外空気について粒子サイズに依らず粉じん粒子を計測する全サイズ検出型センサにより計測されると見積もられる粉じんレベルに換算する換算を更に行い、かつ
前記解析部は、前記換算後のマスク内空気の粉じんレベルおよび前記換算後のマスク外の作業環境の空気の粉じんレベルから、下記式1:
【数1】

により漏れ率を算出する、請求項3に記載の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉じんばく露レベル計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粉じんが存在する作業現場では、作業者は、多量の粉じんを吸入することを防ぐために防じんマスク(例えば特許文献1参照)を着用することが通常義務付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-194092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、粉じんの健康への影響について各種研究が行われ、粉じんが人体に様々な悪影響を及ぼすことが報告されている。そのため、作業者を粉じんから保護することへのニーズは益々高まっている。
【0005】
以上に鑑み、本発明は、作業者を粉じんから効果的に保護することを可能にするための新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
防じんマスク(以下、単に「マスク」とも記載する。)と、
作業者に装着された防じんマスク内の空気を吸引して採取するマスク内空気吸引部と、
採取された防じんマスク内の空気が導入されるマスク内空気用粉じんセンサと、
を含む、作業環境における作業者の粉じんばく露レベルを計測する計測装置、
に関する。
【0007】
上記計測装置によれば、作業環境において作業中の作業者に装着された防じんマスク内の空気をサンプリングし、この空気の粉じんレベルを粉じんセンサによって計測することができる。これにより、作業環境において作業中の作業者の粉じんばく露レベルをリアルタイムで計測することができる。例えば、作業者が防じんマスクを装着して作業環境で作業していたとしても、作業中に防じんマスクがずれて防じんマスクと作業者の顔面との隙間から粉じんがマスク内に流入してしまうと、作業者の粉じんばく露レベルは高くなってしまう。これに対し、作業中の作業者の粉じんばく露レベルをリアルタイムで計測することができれば、この計測結果に基づき、例えば作業監督者が、作業中に作業者の防じんマスクの装着状態が適切はなかった期間があったことを把握し、その後の作業者への指導に活かすことができる。その結果、作業者は、指導後に適切な状態で防じんマスクを装着し続けて作業を行うことができる。上記計測装置によれば、例えばこのようにして、作業者を粉じんから効果的に保護することが可能となる。
【0008】
一態様では、上記計測装置は、上記防じんマスク外の作業環境の空気を吸引して採取するマスク外空気吸引部と、採取された防じんマスク外の作業環境の空気が導入されるマスク外空気用粉じんセンサと、を更に含むことができる。
【0009】
一態様では、上記計測装置は、上記マスク内空気用粉じんセンサにより計測されたマスク内空気の粉じんレベルを記録するマスク内空気用記録部および上記マスク外空気用粉じんセンサにより計測されたマスク外の作業環境の空気の粉じんレベルを記録するマスク外空気用記録部を更に有することができる。
【0010】
一態様では、上記計測装置は、上記マスク内空気の粉じんレベルおよび上記マスク外の作業環境の空気の粉じんレベルから、下記式1:
【数1】
により漏れ率を算出する解析部を更に有することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の計測装置を用いることにより、作業中の作業者を粉じんから効果的に保護することを可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の計測装置の一例を装着した作業者の正面図である。
図2】本発明の計測装置の一例を装着した作業者の背面図である。
図3図2に示されたマスク内空気用吸引計測ユニットの内部構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の計測装置は、作業環境における作業者の粉じんばく露レベルを計測する計測装置であって、防じんマスクと、作業者に装着された防じんマスク内の空気を吸引して採取するマスク内空気吸引部と、採取された防じんマスク内の空気が導入されるマスク内空気用粉じんセンサと、を含む。
【0014】
以下に、図面を参照して本発明の計測装置について更に詳細に説明する。ただし、図面に示す態様は例示であって、本発明は、例示された態様に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の計測装置の一例を装着した作業者の正面図であり、図2は当該作業者の背面図である。図中、作業者1は、防じんマスク2を装着している。防じんマスク2は、吸気部21を有する。吸気部21は、内部に粉じんフィルタ(不図示)を備え、作業者1が呼吸することにより防じんマスク2内に作業環境の空気が吸引される際、粉じんフィルタにより吸引される空気中の粉じんの少なくとも一部を除去することができる。また、防じんマスク2は、排気部(不図示)を有し、作業者1の呼気を含む空気を、排気部を介して防じんマスク内から外部に排出することができる。防じんマスク2については、後述するように通気管11が接続される点以外、粉じんフィルタの取り替えが可能な取り替え式防じんマスクに関する公知技術を適用できる。
【0016】
作業者1は、ベスト5を着用している。図2に示すように、ベスト5の背中側には、マスク内空気用吸引計測ユニット3およびマスク外空気用吸引計測ユニット4が、ポケット51、52にそれぞれ入れられている。ただし、上記の通り、本発明の計測装置は、図面に例示された態様に限定されるものではなく、マスク内空気の粉じんレベルのみを計測する装置であってもよく、マスク外の作業環境の空気の粉じんレベルを計測する構成を有することは必須ではない。
【0017】
図3は、マスク内空気用吸引計測ユニット3の内部構造を示す概略図である。マスク内空気用吸引計測ユニット3は、マスク内空気用粉じんセンサ31と、マスク内空気吸引部32と、マスク内空気用記録部33と、を有する。図示を省略するが、マスク外空気用吸引計測ユニット4も同様の構成を有し、マスク外空気用粉じんセンサ、マスク外空気吸引部およびマスク外空気用記録部を備えている。
【0018】
通気管11の一方の端部はマスク内空気用吸引計測ユニット3に接続され、他方の端部は防じんマスク2に接続されている。かかる構成を有することにより、作業環境において作業中の作業者1に装着された防じんマスク2内の空気を、マスク内空気吸引部32によって吸引し、マスク内空気用粉じんセンサ31に導入することができる。防じんマスク2の通気管接続部22は、逆止弁(不図示)を備えている。これにより、空気の逆流を防ぐことができるため、作業者に装着された防じんマスク2内の空気を高回収率で採取してマスク内空気用粉じんセンサ31に導入することができる。
【0019】
通気管12の一方の端部はマスク外空気用吸引計測ユニット4に接続されている。通気管12の他方の端部には通気口13が設けられ、マスク外空気用吸引計測ユニット4のマスク外空気吸引部によって吸引することにより、作業者1が作業中の作業環境の空気(防じんマスク外の空気)を通気口13および通気管12を介してマスク外空気用粉じんセンサに導入することができる。
【0020】
通気管11および12としては、例えばゴム製チューブ等の可撓性チューブを用いることができる。かかるチューブは、例えば市販品として入手可能である。通気口13は、複数の微細な通気孔が設けられた構成でもよく、単なる開口であってもよい。
【0021】
マスク内空気用粉じんセンサ31としては、サンプリングされた空気の粉じんレベルを計測可能な公知の粉じんセンサを使用することができる。例えば、マスク内空気用粉じんセンサとしては、市販の光散乱式粒子検出センサを使用することができる。また、マスク内空気吸引部32としては、マイクロブロア等の公知のエアポンプを使用することができる。以上の点は、マスク外空気用粉じんセンサおよびマスク外空気吸引部についても同様である。計測結果として得られる粉じんレベルとしては、粉じん質量、粉じん濃度(即ち単位体積あたりの粉じんの質量)等を挙げることができる。
【0022】
図3に示されているように、マスク内空気用吸引計測ユニット3は、マスク内空気用記録部33を有する。マスク内空気用記録部33としては、例えばSDカード等の公知の記録媒体を用いることができる。マスク内空気用記録部33は、有線または無線の通信回線を介してマスク内空気用粉じんセンサ31により計測された計測結果を受信し記録することができる。この点は、マスク外空気用記録部およびマスク外空気用粉じんセンサについても同様である。尚、図2に示す態様では、マスク内空気用吸引計測ユニット3とマスク外空気用吸引計測ユニット4とは別個のユニットである。ただし、本発明は当該態様に限定されず、マスク内空気用粉じんセンサ、マスク内空気吸引部、マスク外空気用粉じんセンサおよびマスク外空気吸引部は、単一ユニット内に格納されていてもよい。この場合、マスク内空気用記録部とマスク外空気用記録部とは、別個の記録部(例えば、2つの別個の記録媒体)であってもよく、単一記録部(例えば1つの記録媒体)であってもよい。以下において、マスク内空気用記録部およびマスク外空気用記録部を、単に「記録部」とも記載する。
【0023】
例えば、マスク内空気用記録部33に記録される計測結果としては、マスク内空気用粉じんセンサ31によって計測されたマスク内空気の粉じん質量、粉じん濃度等を挙げることができる。マスク外空気用記録部に記録される計測結果としては、マスク外空気用粉じんセンサによって計測されたマスク外の作業環境の空気の粉じん質量、粉じん濃度等を挙げることができる。
【0024】
マスク外の作業環境の空気の粉じん濃度に対するマスク内空気の粉じん濃度の比率が高いほど、作業中の作業者に装着されたマスク内に、作業環境からより多くの粉じんが流入しているということができる。この流入レベルの指標としては、例えば、下記式1:
【数2】
により算出される漏れ率を用いることができる。一態様では、上記計測装置は、解析部を有することができ、解析部は、マスク内空気用記録部に記録されたマスク内空気の粉じん濃度およびマスク外空気用記録部に記録されたマスク外の作業環境の空気の粉じん濃度から、上記漏れ率を算出することができる。一態様では、解析部は、作業者が計測装置を装着して作業をしている間に上記漏れ率を算出すること(いわゆるリアルタイム算出)ができる。また、他の一態様では、解析部は、作業環境における作業者の作業終了後に記録部に記録されたデータを記録部から読み出し、上記漏れ率を算出してもよい。後者の態様では、解析部は、作業中に解析部が計測装置の一部として計測装置に接続されていることは必須ではなく、作業者の作業終了後に解析部を計測装置に接続させてもよい。解析部としては、パーソナルコンピュータ、モバイルコンピュータ、携帯端末等の計算機能を有する公知のデバイスを使用することができる。
【0025】
また、他の一態様では、マスク内空気用粉じんセンサにより計測されたマスク内空気の粉じんレベルを用いて、以下のように作業者の作業中の粉じんばく露レベルを評価することもできる。
公知の粉じんセンサは、粒子サイズに依らず粉じん粒子を計測するタイプのセンサ(以下、「全サイズ検出型センサ」と記載する。)と、閾値以上の粒子サイズの粉じん粒子を検出するタイプのセンサ(以下、「サイズ選択型センサ」と記載する。)と、に大別できる。サイズ選択型センサは、閾値以上の粒子サイズの粉じん粒子を選択的に検出するため、サイズ選択型センサにより計測される粉じんレベルは、計測対象空気中に実際に存在する各種粒子サイズの粉じんレベルと完全には一致しない場合があり得る。このような場合を想定し、予備実験を行い、同じ計測対象空気について、サイズ選択型センサおよび全サイズ検出型センサによりそれぞれ粉じんレベルを計測し、これら計測結果をプロットしたグラフを作成し、最小二乗法等の公知のフィッティング処理により近似直線を作成し、この近似直線の式(一次関数の式)として、サイズ選択型センサにより計測される粉じんレベルを、同空気について全サイズ検出型センサにより計測されると見積もられる粉じんレベルに換算するための換算式を求めることができる。一態様では、マスク内空気用粉じんセンサとしてサイズ選択型センサを使用し、このセンサにより求められたマスク内空気の粉じんレベル(例えば粉じん質量、粉じん濃度等)を上記換算式により換算した換算後の粉じんレベルを指標として、作業中の作業者の粉じんばく露レベルを評価することができる。解析部は、当該換算を行う解析部であることもできる。また、他の一態様では、式1により漏れ率を算出するためのマスク内の空気の粉じん濃度およびマスク外の作業環境の空気の粉じん濃度として、上記換算式による換算後の粉じん濃度を用いることもできる。
【0026】
以上の各種空気吸引部、各種粉じんセンサおよび各種記録部は、連続的または断続的に動作を継続することができる。これにより、作業中の作業者の粉じんばく露レベルを経時的に計測することができ、また経時的に記録することができる。
【0027】
以上説明した本発明の計測装置によれば、作業環境において作業中の作業者に装着された防じんマスク内の空気をサンプリングし、この空気の粉じんレベルを粉じんセンサによって計測することができる。これにより、例えば先に詳述したように、作業者を粉じんから効果的に保護することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、粉じん存在下で作業する作業者の保護のために有用である。
図1
図2
図3