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特許7335149流体バランサ、及び、当該流体バランサを用いるドラム式洗濯機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】流体バランサ、及び、当該流体バランサを用いるドラム式洗濯機
(51)【国際特許分類】
   D06F 37/04 20060101AFI20230822BHJP
   D06F 39/12 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
D06F37/04
D06F39/12 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019218569
(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公開番号】P2021087531
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】井村 真
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 真理
(72)【発明者】
【氏名】金内 優
(72)【発明者】
【氏名】根本 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 龍之介
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-092072(JP,U)
【文献】特開2017-164331(JP,A)
【文献】特開2006-075605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B04B 1/00-15/12
D06F 21/00-25/00
D06F 37/00-37/42
D06F 39/12-39/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円管を備え、
前記中空円管の内部には、第1液体と、前記第1液体よりも比重が小さくかつ粘性が高い第2液体と、さらに1乃至複数種類の別の液体が封入されており、
各液体は、互いに分離して溶け合わない組み合わせになっており、かつ、比重が小さい液体ほど、粘性が高くなっている
ことを特徴とする流体バランサ。
【請求項2】
請求項に記載の流体バランサにおいて、
前記中空円管の内部には、さらに粒子が封入されており、
前記粒子の比重は、前記第2液体又は前記別の液体の比重に近似した値になっている
ことを特徴とする流体バランサ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の流体バランサにおいて、
前記中空円管の内部には、前記第1液体としての塩水と、前記第2液体としてのオイルと、が封入されている
ことを特徴とする流体バランサ。
【請求項4】
請求項に記載の流体バランサにおいて、
前記中空円管の内部には、さらに粒子が封入されており、
前記粒子の比重は、前記第2液体としてのオイルの比重に近似した値になっている
ことを特徴とする流体バランサ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の流体バランサにおいて、
前記中空円管は、複数層に形成されている
ことを特徴とする流体バランサ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の流体バランサにおいて、
前記中空円管は、内部の周方向に、液体を掻き揚げるための複数のバッフル板を有する
ことを特徴とする流体バランサ。
【請求項7】
布類を収納するドラムと当該ドラムを内包する外槽とを有する洗濯槽と、
前記洗濯槽を支持する支持機構と、
前記ドラムを回転させるモータと、を備え、
前記ドラムの前面の開口部には、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の流体バランサが取り付けられている
ことを特徴とするドラム式洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体バランサ、及び、当該流体バランサを用いるドラム式洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりドラム式洗濯機が広く普及している。ドラム式洗濯機は、布類を収納するドラムとドラムを内包する外槽とを有する洗濯槽を筐体の内部に備えた構造になっている。また、ドラム式洗濯機は、筐体の内部の下部に配置された複数のコイルばねと複数のダンパーとで洗濯槽を支持する構造になっている(例えば、特許文献1)。また、ドラム式洗濯機の多くは、筐体の内部の上部に配置された吊りばねで洗濯槽を吊り下げる構造になっている。なお、コイルばねは、洗濯槽の姿勢を維持するために設けられている。また、ダンパーは、洗濯槽の振動を減衰するために設けられている。布類を収納するドラムは、洗濯槽の中で回転自在に配置され、洗濯槽の背面に配置された駆動モータにより回転する。
【0003】
ドラム式洗濯機は、近年の毛布や掛け布団等の大物布類を洗濯したいというニーズの高まりを受けて、大容量化が進んでいる。その大容量化に伴って、ドラム式洗濯機は、脱水運転時に、ドラムに収納された布類の片寄りに起因してドラムに加振力が発生し、その加振力によってドラム(つまり、ドラムを有する洗濯槽)に振動が発生し易くなってきている。
【0004】
その脱水運転時の振動を低減するために、ドラム式洗濯機は、ドラムの前面の開口部に流体バランサ(バランスリングということもある)を取り付けている。流体バランサは、複数の中空円管が同心円状に配置され、各中空円管の内部に満杯にならない程度に液体が封入された構造になっている。液体としては、比重や粘性の観点から、塩水がよく用いられる。流体バランサは、ドラムが回転すると、ドラムと一緒に回転する。例えば脱水運転のようにドラムが高速に回転する場合において、ドラムに収納された布類に片寄りがあると、布類の片寄りに起因してドラムが振動する。ドラムが振動する場合に、流体バランサの内部の液体は、布類の片寄りとは反対側、つまりドラムの振動変位の方向に片寄るように移動する。その液体の片寄りは、布類の片寄りに起因してドラムに発生する加振力を打ち消すように作用する。これにより、流体バランサは、ドラム(つまり、ドラムを有する洗濯槽)の振動を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-169418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の流体バランサは、ドラム(ドラムを有する洗濯槽)の振動をある程度のレベルまで低減することができる。しかしながら、近年、振動の低減効果をさらに向上させることが要望されつつある。従来の流体バランサは、さらなる低減効果の向上を実現するためには、物理的な機構の大規模な変更を要するため、コストを増大させてしまう、という課題があった。
【0007】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、比較的安価な構成で振動を効率よく低減する流体バランサ、及び、当該流体バランサを用いるドラム式洗濯機を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、流体バランサであって、中空円管を備え、前記中空円管の内部には、第1液体と、前記第1液体よりも比重が小さくかつ粘性が高い第2液体と、さらに1乃至複数種類の別の液体が封入されており、前記第1液体と前記第2液体とは、互いに分離して溶け合わない組み合わせになっており、各液体は、互いに分離して溶け合わない組み合わせになっており、かつ、比重が小さい液体ほど、粘性が高くなっている構成とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較的安価な構成で振動を効率よく低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係る流体バランサを搭載したドラム式洗濯機の右側面の断面図である。
図2】実施形態1に係る流体バランサを搭載したドラム式洗濯機の斜視図である。
図3】実施形態1に係る流体バランサを搭載したドラム式洗濯機の制御装置を中心とした電気的構成のブロック図である。
図4】正面側から見た実施形態1に係る流体バランサの回転停止中の状態を示す内視図である。
図5】実施形態1に係る流体バランサの部分断面図である。
図6A】実施形態1に係る流体バランサに封入された液体の組み合わせ例を示す説明図(1)である。
図6B】実施形態1に係る流体バランサに封入された液体の別の組み合わせ例を示す説明図(2)である。
図7】正面側から見た実施形態1に係る流体バランサの回転中の状態を示す内視図である。
図8】実施形態1に係る流体バランサの回転中の液体の状態を示す説明図である。
図9A】実施形態1に係る流体バランサを搭載したドラム式洗濯機の左右方向の振動の時刻歴を示す波形図である。
図9B】実施形態1に係る流体バランサを搭載したドラム式洗濯機の上下方向の振動の時刻歴を示す波形図である。
図9C】実施形態1に係る流体バランサを搭載したドラム式洗濯機の前後方向の振動の時刻歴を示す波形図である。
図10】正面側から見た実施形態2に係る流体バランサの回転停止中の状態を示す内視図である。
図11】正面側から見た実施形態2に係る流体バランサの回転中の状態を示す内視図である。
図12】実施形態2に係る流体バランサの回転中の液体の状態を示す説明図である。
図13】正面側から見た比較例の流体バランサの回転停止中の状態を示す内視図である。
図14】正面側から見た比較例の流体バランサの回転中の状態を示す内視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と称する)について詳細に説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示しているに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0012】
[実施形態1]
従来の流体バランサには、前記した課題に加え、以下の課題があり、本実施形態1に係る流体バランサ40は、以下の課題を解決することも意図した構成になっている。なお、以下の課題の詳細については、後述する。
【0013】
(1)ドラム式洗濯機は、ドラムの回転速度が後記する「共振回転速度」を超過した直後に、洗濯槽に後記する「うなり振動」が発生する。従来の流体バランサは、うなり振動の低減を実現するために、仮に、内部に封入する液体として粘性の高い液体を選んだ構成にしたとする。この場合に、ドラム式洗濯機は、ドラムの後記する「最低回転速度」を下げることができなくなる。そのため、ドラム式洗濯機は、ドラムの回転に伴って比較的大きな振動を発生させてしまう。したがって、この場合に、従来の流体バランサは、ドラムの回転に伴って比較的大きな振動を発生させてしまう、という課題があった。
【0014】
(2)従来の流体バランサは、うなり振動の低減を実現するために、仮に、液体の流路を狭めた構成にしたとする。この場合にも、ドラム式洗濯機は、ドラムの後記する「最低回転速度」を下げることができなくなる。そのため、ドラム式洗濯機は、ドラムの回転に伴って比較的大きな振動を発生させてしまう。したがって、この場合も、従来の流体バランサは、ドラムの回転に伴って比較的大きな振動を発生させてしまう、という課題があった。
【0015】
(3)従来の流体バランサは、比較的少量から多量までの様々な布量の洗濯に対応して、うなり振動を低減することが困難であった。そして、従来の流体バランサは、うなり振動の低減を実現するために、仮に、運転中にバッフル板の位置を変更する構成にしたとする。この場合に、製造コストを高騰させてしまう、という課題があった。
【0016】
<ドラム式洗濯機の構成>
以下、図1乃至図3を参照して、本実施形態1に係る流体バランサ40を搭載したドラム式洗濯機100の構成について説明する。図1は、本実施形態1に係る流体バランサ40を搭載したドラム式洗濯機100の右側面の断面図である。図2は、ドラム式洗濯機100の斜視図である。図3は、ドラム式洗濯機100の制御装置5を中心とした電気的構成のブロック図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態1に係る流体バランサ40を搭載したドラム式洗濯機100は、ベース1の上部に、鋼板と樹脂成形品とを組み合わせて外殻を構成した筐体2が設置されている。筐体2は、前面パネルと、背面パネルと、左右の側面パネルと、上面パネルとで構成されている。筐体2の前面には、洗濯する布類を出し入れするドア3が設けられている。筐体2の上部の前面には、操作パネル4(図2参照)が設けられている。操作パネル4(図2参照)には、電源のオン又はオフ、運転のスタート又は一時停止、コース選択等を指示する操作ボタンや、時間や運転条件を表示する表示部が設けられている。
【0018】
洗濯槽30は、外槽10と、外槽10に内包されたドラム20と、を有している。外槽10は、略円筒の形状を呈している。外槽10は、中央部に開口部10aが設けられた槽カバー10bと、槽カバー10bで前面部分が封止された水槽10cと、を有している。槽カバー10bは、円形の形状を呈しており、水槽10cは、有底の略円筒の形状を呈している。槽カバー10bと水槽10cとは、分割面10dで分解できる。外槽10の前面の開口部10aは、円筒状のゴムベローズ11を介して筐体2の前面の開口部に連なるように形成されている。外槽10は、筐体2の前面に設けられたドア3を閉めることで水封できる。ドラム20は、外槽10の内部に回転自在に配置されている。
【0019】
外槽10の上部には、外槽10の姿勢を保持するための前吊りばね13と後吊りばね14とが取り付けられている。外槽10の下部には、外槽10を下から支えながら、布類の片寄りに起因してドラム20に発生する加振力を多方向に分散するための複数のダンパー33が設けられている。本実施形態では、ドラム式洗濯機100の前面側と背面側とに、前面ダンパー33aと背面ダンパー33bとが設けられているものとして説明する。各ダンパー33には、コイルばね34が具備されていて、外槽10の姿勢を保持する機能を有している。前面ダンパー33aは、左右一対の構成になっており、外槽10とベース1とに取り付けられている。ベース1の下面には、ゴムブッシュ35が設けられている。
【0020】
ダンパー33とコイルばね34とは、洗濯槽30を支持する支持機構を構成している。また、洗濯槽30と洗濯槽30を支持する複数のダンパー33及びコイルばね34とは、「ドラム式洗濯機100の振動系」を構成している。この「ドラム式洗濯機100の振動系」には、共振を発生させるドラム20の回転速度(以下、「共振回転速度」と称する)が存在する。
【0021】
外槽10の分割面10dは、ドラム20の回転軸方向(シャフト31の軸方向)において、前後方向の中心位置よりも前側に設けられている。外槽10は、複数のダンパー33が水槽10cに取り付けられた状態で、槽カバー10bを取り外すことができるように、構成されている。ドラム20を内包する外槽10の下部の前面には、外槽10(ドラム20)の上下方向、左右方向、及び前後方向の振動を検知する加速度センサ10eが取り付けられている。ドラム式洗濯機100は、運転時に外槽10(ドラム20)の振動を加速度センサ10eで計測し、振動が所定値を超えた場合に、ドラム20の回転を止めるように制御する。
【0022】
ドラム20の内側には、布類を掻き揚げる複数個のリフター20eが取り付けられている。ドラム20の背面に設けられた底板20bは、ドラム20の補強部材になっている。ドラム20の前面の開口部には、本実施形態1に係る流体バランサ40が取り付けられている。流体バランサ40は、ドラム20が回転すると、ドラム20と一緒に回転する。流体バランサ40の内部には、液体51(図4参照)が封入されている。
【0023】
ドラム20は、シャフト31を介して駆動モータ32に接続されている。シャフト31は、ドラム20の回転軸であり、ドラム20の底板20bと駆動モータ32とに接続されている。駆動モータ32は、ドラム20を回転駆動する駆動源であり、外槽10の背面に固定されている。駆動モータ32には、回転検知センサ36が設けられている。回転検知センサ36は、例えばホールセンサを用いることができ、運転時にドラム20の回転速度を検知する。
【0024】
ドラム20は、ドラム20の胴板20aに脱水及び通風用の脱水孔20cが設けられている。ベース1の下部の側面には、排水ホース9が取り付けられている。洗濯槽30の下部には、排水口7と排水弁8とが設けられている。洗濯槽30は、排水口7と排水弁8とを経由して排水ホース9に繋がっている。筐体2の上部には、給水ユニット15が設けられている。給水ユニット15は、配管17を介して洗剤ケース16と接続されている。洗剤ケース16は、配管18を介して外槽10の後方と接続されている。給水ユニット15は、給水ホース(図示せず)が接続されることで、外部から水が供給される。給水ユニット15に供給された水は、配管17と洗剤ケース16と配管18とを経由して、外槽10に流入する。
【0025】
図3に示すように、ドラム式洗濯機100は、制御装置5と、駆動回路6と、を備えている。制御装置5は、例えばマイコンで構成されており、ドラム式洗濯機100の運転を制御する。駆動回路6は、駆動モータ32の回転を制御する。
【0026】
制御装置5には、操作パネル4からの操作指示信号と、駆動モータ32に設けられた回転検知センサ36からの回転検知信号と、外槽10に設けられた加速度センサ10eからの外槽10(ドラム20)の振動検知信号とが入力される。制御装置5は、ドラム20の回転速度、外槽10(ドラム20)の振動変位の位相、振動変位量等を演算により取得する機能を有している。制御装置5は、ドラム20の回転速度、外槽10(ドラム20)の振動変位の位相、振動変位量等の情報と、図示せぬ記憶部に予め記憶された制御プログラムとに基づいて、駆動モータ32の駆動回路6を制御する。
【0027】
<ドラム式洗濯機の動作>
以下、ドラム式洗濯機100の動作について説明する。ここでは、ドラム式洗濯機100が乾燥機能を有しているものとして説明する。ただし、ドラム式洗濯機100は乾燥機能を有しない構成であってもよい。
【0028】
ユーザは、ドア3を開いてドラム20の内部に洗濯物としての布類を投入し、洗剤ケース16の内部に所定量の洗剤を投入する。その後、ユーザは、操作パネル4(図2参照)を操作して、ドラム式洗濯機100に洗濯させる。操作パネル4が操作されると、制御装置5が駆動回路6に制御信号を伝達し、洗い工程、脱水工程、すすぎ工程、脱水工程、乾燥工程の順に運転を実行する。
【0029】
(洗い工程)
洗い工程では、ドラム式洗濯機100は、給水ユニット15の内部に設けられた給水弁を開く。これにより、ドラム式洗濯機100に水が供給される。供給された水は、配管17を経由して洗剤ケース16に流入し、洗剤と共に配管18を経由して外槽10に流入する。ドラム式洗濯機100は、所定量の水が外槽10に流入すると、水の流入を停止して、ドラム20の正転、停止、逆転、停止を所定時間繰り返し行う。その際に、ドラム式洗濯機100は、ドラム20の内部に設けられた複数のリフター20eで布類を回転方向に持ち上げ、持ち上げた高さから布類を落下させる。これにより、ドラム式洗濯機100は、布類を攪拌させながら、布類をたたき洗いする。ドラム式洗濯機100は、布類の攪拌及びたたき洗い動作を所定時間行った後、洗い工程を終了して、脱水工程を実行する。
【0030】
(脱水工程)
脱水工程では、ドラム式洗濯機100は、排水弁8を開く。これにより、外槽10の内部の水が排水ホース9を経由してドラム式洗濯機100の外部に排出される。その際に、ドラム式洗濯機100は、所定時間、ドラム20を高速に回転させる。これにより、ドラム式洗濯機100は、布類の水分を脱水させる。ドラム式洗濯機100は、脱水動作を所定時間行った後、脱水工程を終了して、すすぎ工程を実行する。
【0031】
(すすぎ工程)
すすぎ工程では、ドラム式洗濯機100は、給水ユニット15の内部に設けられた給水弁を開く。これにより、ドラム式洗濯機100に水が供給される。供給された水は、洗剤ケース16を通らずに、給水ユニット15と外槽10を接続する配管19を経由して外槽10に流入する。ドラム式洗濯機100は、水を外槽10に流入させながら(すすぎながら)、ドラム20の正転、停止、逆転、停止を所定時間繰り返し行う。その際に、ドラム式洗濯機100は、洗い工程と同様に、ドラム20の内部に設けられた複数のリフター20eで布類を回転方向に持ち上げ、持ち上げた高さ位置から落下させる。このとき、ドラム式洗濯機100は、外槽10に流入した(すすいだ)水によって布類に含まれている洗剤を希釈する。これにより、ドラム式洗濯機100は、布類を攪拌させながら、布類をすすぎ洗いする。ドラム式洗濯機100は、すすぎ動作を所定時間行った後、すすぎ工程を終了して、再び脱水工程を実行する。
【0032】
(脱水工程)
すすぎ工程後の脱水工程の動作は、洗い工程後の脱水工程の動作と同じであるので、ここでは、説明を省略する。ドラム式洗濯機100は、脱水動作を所定時間行った後、脱水工程を終了して、乾燥工程を実行する。
【0033】
(乾燥工程)
乾燥工程では、ドラム式洗濯機100は、ヒータ(図示せず)で空気を加熱しながら乾燥させる。そして、ドラム式洗濯機100は、加熱・乾燥された空気を外槽10に送りながら、ドラム20の正転、停止、逆転、停止を所定時間繰り返し行う。これにより、ドラム式洗濯機100は、外槽10に送り込んだ加熱・乾燥された空気によって布類を乾燥させる。ドラム式洗濯機100は、布類の乾燥動作を所定時間行った後、運転を終了する。
【0034】
ドラム式洗濯機100は、各工程の初期段階において、回転検知センサ36でドラム20に収納された布量を検知する。布量の検知動作は、例えば以下のようにして行われる。例えば、ドラム式洗濯機100は、ドラム20の回転速度を所定の速度(以下、「第1速度」と称する)まで上昇させ、その後に、ドラム20の回転を停止して、ドラム20を惰性回転させる。これにより、ドラム式洗濯機100は、ドラム20の回転速度を所定の速度(以下、「第2速度」と称する)まで下降させる。そして、ドラム式洗濯機100は、ドラム20の回転速度を第1速度に上昇させてから第2速度に下降するまでに要した時間と、図示せぬ記憶部に予め記憶された制御プログラムによって規定された布量の参照値とに基づいて、ドラム20に収納された布量を検知する。この後、ドラム式洗濯機100は、検知された布量に基づいて、ドラム20の回転速度を制御する。
【0035】
また、ドラム式洗濯機100は、各工程の初期段階において、回転検知センサ36でドラム20に収納された布類の片寄りも検知する。布類の片寄りの検知の動作は、例えば以下のようにして行われる。例えば、ドラム式洗濯機100は、所定の速度(以下、「片寄り検知時速度」と称する)でドラム20を一定時間回転させる。「片寄り検知時速度」は、ドラム20の内面に布類が遠心力で張り付く程度に速い回転速度と前記した「共振回転速度」よりも十分遅い回転速度との間に設定されている。しかしながら、「片寄り検知時速度」は、リフター20eが布類を持ち上げる際のトルクの変動の影響を受けて変動する。ドラム式洗濯機100は、「片寄り検知時速度」の変動を回転検知センサ36で計測し、計測値と図示せぬ記憶部に予め記憶された制御プログラムによって規定された布類の片寄りの参照値とに基づいて、布類の片寄りの度合いを検知する。この後、ドラム式洗濯機100は、検知された布類の片寄りの度合いに基づいて、ドラム20の回転速度を制御する。
【0036】
なお、脱水工程では、ドラム式洗濯機100は、加速度センサ10eで外槽10(ドラム20)の振動を計測し、振動が所定値を超えた場合に、ドラム20の回転を止めるように制御する。
【0037】
<流体バランサの構成>
以下、図4図5図6A、及び図6Bを参照して、流体バランサ40の構成について説明する。図4は、正面側から見た流体バランサ40の回転停止中の状態を示す内視図である。図5は、流体バランサ40の部分断面図であり、図4に示す線X1-X1に沿って切断した形状を示している。図6Aは、流体バランサ40に封入された液体51の組み合わせ例を示す説明図である。図6Bは、流体バランサ40に封入された液体51の別の組み合わせ例を示す説明図である。
【0038】
図4に示すように、流体バランサ40は、中空円管41を備えている。図5に示すように、本実施形態1では、流体バランサ40は、複数の中空円管41が重なった構造になっている。流体バランサ40は、中空円管41の層数が多くなるほど、布類の片寄りに起因してドラム20に発生する加振力を打ち消す効果を大きくすることができる。以下の説明では、流体バランサ40の円周方向を「周方向」と称し、流体バランサ40の半径方向「径方向」と称する場合がある。
【0039】
図4に示すように、中空円管41の内部には、バランサ室42が形成されている。バランサ室42は、回転軸であるシャフト31を中心とする密閉円環状の空間となっている。なお、図4に示す点Oは、シャフト31の軸位置である。また、点Sは、流体バランサ40の中心位置である。
【0040】
バランサ室42は、内周側に設けられた内壁(内周側内壁43a)と、外周側に設けられた内壁(外周側内壁43b)と、前側に設けられた内壁(前側内壁43c)と、後側に設けられた内壁(後側内壁43d)とに囲まれている。バランサ室42には、液体51と、空気59とが封入されている。
【0041】
各中空円管41において、液体51の量は、各中空円管41の容積の半分程度になっている。なお、液体51の量は、各中空円管41の中で液体51が満杯にならなければよい。液体51は、空気59よりも比重が大きい。そのため、図4に示すように、ドラム20が停止している状態では、液体51がバランサ室42の下方に溜まり、空気59がバランサ室42の上方に溜まる。
【0042】
中空円管41の内部には、液体51を掻き揚げるための複数のバッフル板44が周方向に等間隔に設けられている。バッフル板44は、前後方向に延在するように平板状に形成されている。バッフル板44の前端部と後端部とは、それぞれ中空円管41の前側内壁43cと後側内壁43dとに繋がるように形成されている。
【0043】
ドラム20が回転し始めると、バッフル板44が液体51を掻き揚げる。液体51は、バッフル板44の内周側端部を超えて、隣接するバッフル板44とバッフル板44との間の空間で遷移する。
【0044】
流体バランサ40の内部に封入された液体51は、少なくとも二種類の成分によって構成されている。ここでは、液体51が第1液体51aと第2液体51bとの二種類で構成されているものとして説明する。
【0045】
第1液体51aと第2液体51bとは、互いに分離して溶け合わない組み合わせになっている。そして、第1液体51aと第2液体51bとは、図6Aに示す特性を有している。すなわち、図6Aに示すように、第2液体51bは、第1液体51aよりも比重が小さくかつ粘性が高い構成になっている。なお、液体51は、第2液体51bを、第1液体51aよりも比重が大きくかつ粘性が高い構成にした場合に、後記する「うなり振動」を低減する効果を得ることができない。
【0046】
第1液体51aとしては、例えば塩水を用いることができる。また、第2液体51bとしては、例えば、サラダ油、菜種油、ごま油等の食用オイルを用いることができる。ただし、第2液体51bは、食用オイル以外に、機械油や、練乳、その他を用いることもできる。本実施形態1では、第1液体51aが塩水で構成され、第2液体51bが食用オイルで構成されているものとして説明する。
【0047】
図4に示すように、ドラム20が停止している状態では、第1液体51a(塩水)の比重が第2液体51b(食用オイル)の比重よりも大きいため、各中空円管41の内部において、第1液体51aが下側に溜まり、第2液体51bが上側に溜まる。
【0048】
ただし、液体51は、第1液体51aと第2液体51bとに加え、1乃至複数種類の別の液体を含むように構成することもできる。例えば、図6Bに示す例では、液体51は、第1液体51aと第2液体51bと第3液体とで構成されている。第1液体51aと第2液体51bと第3液体とは、互いに分離して溶け合わない組み合わせになっている。そして、第1液体51aと第2液体51bと第3液体とは、図6Bに示す特性を有している。すなわち、図6Bに示すように、第1液体51aと第2液体51bと第3液体とは、比重が小さい液体ほど、粘性が高い構成になっている。図6Bに示す例では、第1液体51aが塩水で構成され、第2液体51bがオイルAで構成され、第3液体がオイルBで構成されている。
【0049】
<流体バランサの動作>
以下、図7図8図9A図9B、及び図9Cを参照して、流体バランサ40の動作について説明する。図7は、正面側から見た流体バランサ40の回転中の状態を示す内視図である。図8は、流体バランサ40の回転中の液体51の状態を示す説明図である。図9A図9B、及び図9Cは、それぞれ、流体バランサ40を搭載したドラム式洗濯機100の左右方向、上下方向、及び前後方向のうなり振動の時刻歴を示す波形図である。
【0050】
脱水運転のようにドラム20が高速に回転する場合において、ドラム20に収納された布類に片寄り50があると、布類の片寄り50に起因してドラム20が振動する。図7に示すように、このときの布類の片寄り50の度合いは、質点として見なすことができる。
【0051】
ドラム20が回転しているとき、流体バランサ40の内部の液体51は、布類の片寄り50とは反対側、つまりドラム20の振動変位の方向に片寄るように移動する。その液体51の片寄りは、前記した「加振力」を打ち消すように作用する。液体51の片寄る位置は、ドラム20の回転速度が前記した「共振回転速度」を超過する前後で変化する。
【0052】
例えば、ドラム20の回転速度が前記した「共振回転速度」よりも遅い場合に、液体51は、布類の片寄り50と同じ側、つまり、ドラム20の振動変位の反対方向に片寄る性質がある。この場合において、液体51の片寄りは、第1液体51aと第2液体51bとが分離した状態で、前記した「加振力」を打ち消す効果を発揮する位置に遷移(移動)する過程にある。この場合において、液体51の片寄りが前記した「加振力」を打ち消さないため、洗濯槽30(ドラム20)の振動が低減しない。
【0053】
なお、液体51の片寄りは、中空円管41の内部をなるべく早く遷移する方がよい。その理由は、液体51の片寄りが遷移する速度が早いほど、前記した「加振力」を打ち消す効果を得るためのドラム20の最低回転速度を下げることができるからである。ドラム式洗濯機100は、ドラム20の前記した「最低回転速度」を下げることで、ドラム20の回転に伴って発生する振動を低減することができる。
【0054】
一方、ドラム20の回転速度が前記した「共振回転速度」よりも十分に速い場合に、図7に示すように、液体51は、布類の片寄り50とは反対側、つまり、ドラム20の振動変位の方向に片寄る性質がある。図7は、前記した「加振力」を打ち消す効果を発揮する位置(つまり、布類の片寄り50とは反対側の位置)に液体51が溜まっている状態を示している。図7に示すように、液体51は、中空円管41の内部の外周側内壁43bにおいて、布類の片寄り50とは反対側の位置に三日月状に張り付いている。液体51は、比重が大きい成分ほど、外周側に集まる。そのため、第2液体51b(食用オイル)よりも比重が大きい第1液体51a(塩水)の層が中空円管41の内部の外周側に形成され、第1液体51a(塩水)よりも比重が小さい第2液体51b(食用オイル)の層が第1液体51a(塩水)の内周側に形成される。また、第2液体51b(食用オイル)よりも比重が小さい空気59の層が第2液体51b(食用オイル)の内周側に形成される。第1液体51a(塩水)の層と第2液体51b(食用オイル)の層と空気59の層とは、混ざることなく、三日月状の形状で重なっている。この状態において、第1液体51a(塩水)よりも粘度が高い第2液体51b(食用オイル)の層が内周側に形成されている。また、この状態において、液体51の片寄りは、第1液体51a(塩水)と第2液体51b(食用オイル)とが分離した状態で、中空円管41とほぼ一体になって中空円管41と一緒に回転移動する。そして、この状態において、液体51の片寄りが前記した「加振力」を打ち消すため、洗濯槽30(ドラム20)の振動が低減する。
【0055】
ただし、布類の片寄り50が比較的小さい場合(すなわち、布類の片寄り50に起因してドラム20に発生する加振力が微小である場合)に、液体51は、中空円管41の内部の外周側内壁43bにおいて、円環状に張り付く。
【0056】
係る構成において、ドラム20の回転速度が前記した「共振回転速度」を超過する場合に、液体51の片寄る位置が変化する。そのため、ドラム20の回転速度が前記した「共振回転速度」を超過した直後に、流体バランサ40は、液体51の挙動に起因して洗濯槽30にうなり振動が発生する可能性がある。うなり振動は、洗濯槽30が振幅変調型のうなりを伴って大きく振動する現象である。うなり振動は、ドラム20の回転周期に対して非常に長い周期の振幅変調型の振動になっている。
【0057】
ただし、本実施形態1に係る流体バランサ40は、第2液体51b(食用オイル)の粘性が第1液体51a(塩水)の粘性よりも高いため、第2液体51bがうなり振動を低減するように作用する。そのため、本実施形態1に係る流体バランサ40は、うなり振動を十分に低減することができる。
【0058】
この点について、図13及び図14に示す比較例の流体バランサ140と比較して説明する。比較例の流体バランサ140は、従来の流体バランサに相当する。図13は、正面側から見た比較例の流体バランサ140の回転停止中の状態を示す内視図である。図14は、正面側から見た比較例の流体バランサ140の回転中の状態を示す内視図である。
【0059】
図13に示すように、比較例の流体バランサ140は、本実施形態1に係る流体バランサ40(図4参照)と比較すると、中空円管41の内部に液体51の代わりに液体151が封入されている点で相違している。比較例の流体バランサ140は、この点以外は本実施形態1に係る流体バランサ40(図4参照)と同じ構成になっている。
【0060】
比較例の流体バランサ140の内部に封入された液体151は、単一成分によって構成されている。ここでは、液体151が塩水で構成されているものとして説明する。液体151の量は、各中空円管41の容積の半分程度になっている。
【0061】
ドラム20の回転速度が前記した「共振回転速度」よりも十分に速い場合に、図14に示すように、液体151は、布類の片寄り50とは反対側、つまり、ドラム20の振動変位の方向に片寄る性質がある。図14は、前記した「加振力」を打ち消す効果を発揮する位置(つまり、布類の片寄り50とは反対側の位置)に液体151が溜まっている状態を示している。図14に示すように、液体151は、中空円管41の内部の外周側内壁43bに三日月状に張り付いている。この状態において、液体151の片寄りは、中空円管41とほぼ一体になって中空円管41と一緒に回転移動する。そして、この状態において、液体151の片寄りが前記した「加振力」を打ち消すため、洗濯槽30(ドラム20)の振動が低減する。
【0062】
係る構成において、ドラム20の回転速度が前記した「共振回転速度」を超過する場合に、液体151の片寄る位置が変化する。そのため、ドラム20の回転速度が前記した「共振回転速度」を超過した直後に、比較例の流体バランサ140は、液体151の挙動に起因して洗濯槽30にうなり振動が発生する。
【0063】
うなり振動は以下のようにして発生する。すなわち、例えば、ドラム20の回転速度が前記した「共振回転速度」を超過した直後の状態において、液体151の片寄りは、ドラム20の振動変位の位相の変化に応じた位置に遷移(移動)する過程にある。この状態において、中空円管41の内周側に形成された液体151の液面は、自由表面になっている。そして、中空円管41の回転方向に対して進む方向に揺動する波と遅れる方向に揺動する波とが、液体151の液面に形成される。この液面の揺動は「スロッシング」と称される場合がある。液体151の液面に発生した揺動する波は、洗濯槽30を加振する。これにより、洗濯槽30にうなり振動が発生する。
【0064】
うなり振動を低減するためには、液体151の液面の揺動を抑えることが有効である。液体151の液面の揺動を抑える手段としては、例えば、以下の手段1と手段2とがある。
(手段1)液体151に粘性の高い液体を用いることで、液体151の液面の揺動抵抗を高くして、液体151の液面の搖動を減衰させる手段。
(手段2)バッフル板44の枚数を増やして、液体151の流路を狭めることで、液体151が外部から受ける遷移抵抗を高くして、液体151の液面の搖動を減衰させる手段。
【0065】
ところで、液体151の液面の搖動抵抗と液体151の遷移抵抗は、相関関係になっている。つまり、液体151の液面の搖動抵抗を増加させれば、液体151の遷移抵抗も増加する。
【0066】
また、うなり振動を低減ことと、ドラム20の前記した「最低回転速度」を下げることとは、トレードオフの関係になっている。
【0067】
例えば、比較例の流体バランサ140は、うなり振動の低減を実現するために、仮に、内部に封入する液体151として粘性の高い液体を選んだ構成にしたとする。この場合に、液体151の液面の搖動抵抗が増加する。そのため、比較例の流体バランサ140は、うなり振動を幾分か低減することができる。しかしながら、この場合に、液体151の遷移抵抗が増加する。ドラム式洗濯機100は、前記した「加振力」を打ち消す効果を得るためには、液体51の片寄りをなるべく早く遷移する方がよい。そのため、ドラム20の前記した「最低回転速度」は、一定速度以上に設定される。したがって、この場合に、ドラム式洗濯機100は、ドラム20の前記した「最低回転速度」を下げることができなくなる。そのため、ドラム式洗濯機100は、ドラム20の回転に伴って比較的大きな振動を発生させてしまう。したがって、この場合に、比較例の流体バランサ140は、ドラム20の回転に伴って比較的大きな振動を発生させてしまう、という課題がある。
【0068】
また、例えば、比較例の流体バランサ140は、うなり振動の低減を実現するために、仮に、内部に配置されたバッフル板44の枚数を増やして、液体151の流路を狭めた構成にしたとする。この場合に、液体151の遷移抵抗が増加するとともに、液体151の液面の搖動抵抗も増加する。そのため、比較例の流体バランサ140は、うなり振動を幾分か低減することができる。なお、前記した「加振力」を打ち消す効果は、バッフル板44の形状及び配置によらずに得ることができる。しかしながら、この場合にも、液体151の遷移抵抗が増加するため、ドラム式洗濯機100は、ドラム20の前記した「最低回転速度」を下げることができなくなる。したがって、この場合にも、比較例の流体バランサ140は、ドラム20の回転に伴って比較的大きな振動を発生させてしまう、という課題がある。
【0069】
また、例えば、比較例の流体バランサ140は、うなり振動の低減を実現するために、液体151の液面に沿って複数のバッフル板を配置して、液体151の液面の搖動を直接抑える構成にしたとする。この場合に、比較例の流体バランサ140は、うなり振動を有効に低減することができる。しかしながら、中空円管41の内部の外周側内壁から液面までの液体151の高さは、布類の片寄りに起因して発生するドラム20の振動の大きさに応じて変化する。比較的少量から多量までの様々な布量の洗濯を行った場合に、布類の片寄りの度合いに応じてドラム20の振動の大きさが変化するため、液体151の高さも変化する。液体151の高さが変化すると、液体151の液面の搖動を抑えることができなくなるため、うなり振動を低減することができなくなる。したがって、比較例の流体バランサ140は、比較的少量から多量までの様々な布量の洗濯を行った場合に、うなり振動を低減することができなくなる。このような比較例の流体バランサ140は、運転中にバッフル板の位置を変更にしない限り、比較的少量から多量までの様々な布量の洗濯に対応して、うなり振動を低減することが困難である。そして、比較例の流体バランサ140は、運転中にバッフル板の位置を変更することが困難である。比較例の流体バランサ140は、うなり振動の低減を実現するために、仮に、運転中にバッフル板の位置を変更する構成にしたとする。この場合に、その構成は、物理的な機構の大規模な変更を要するため、製造コストを高騰させてしまう、という課題がある。
【0070】
前記した比較例の流体バランサ140は、液体151(塩水)を用いる構成になっている。これに対し、本実施形態1に係る流体バランサ40は、第1液体51a(塩水)と第1液体51aよりも比重が小さい第2液体51b(食用オイル)とを含む液体51を用いる構成になっている。前記した「加振力」を打ち消す効果は、液体の比重が大きいほど、大きい。この点について、本実施形態1に係る流体バランサ40の液体51の比重は、第2液体51b(食用オイル)を用いた分だけ、前記した比較例の流体バランサ140の液体151の比重よりも小さくなっている。しかしながら、液体151の比重に対する液体51の比重の減少量は、比較的小さい。そのため、本実施形態1に係る流体バランサ40は、比較例の流体バランサ140とほぼ同等の前記した「加振力」を打ち消す効果えることができる。
【0071】
そして、本実施形態1に係る流体バランサ40は、中空円管41の内部において、内周側の第2液体51bの液面の搖動抵抗を増加させる一方で、外周側の第1液体51aの液体の遷移抵抗の増加を抑える構成になっている。このような本実施形態1に係る流体バランサ40は、ドラム20の前記した「最低回転速度」を下げつつ、洗濯槽30のうなり振動の低減を実現することができる。これにより、本実施形態1に係る流体バランサ40は、ドラム20の回転に伴って発生する振動を低減することもできる。その結果、本実施形態1に係る流体バランサ40は、比較例の流体バランサ140よりも洗濯槽30(ドラム20)全体の振動を低減させることができる。
【0072】
また、本実施形態1に係る流体バランサ40は、物理的な機構の大規模な変更を行うことなく、比較的少量から多量までの様々な布量の洗濯に対応して、うなり振動を低減することができる。さらに、本実施形態1に係る流体バランサ40は、液体51の高さの変化に関係なくうなり振動を低減することができる。そのため、比較的少量から多量までの様々な布量の洗濯が行われる場合であっても、うなり振動を低減することができる。
【0073】
図8は、図7に示す領域Rの液体51の状態を周方向に展開して示している。図8に示す例では、比重の違いにより、中空円管41の内部の外周側に第1液体51a(塩水)の層が形成され、内周側に第2液体51b(食用オイル)の層が形成されている。外周側の第1液体51a(塩水)の層と内周側の第2液体51b(食用オイル)の層が接する界面において、第2液体51bが第1液体51aの液面の搖動を抑えている。また、第2液体51bは、第1液体51aよりも粘性が高いため、液面の揺動が抑えられている。このような本実施形態1に係る流体バランサ40は、第2液体51b(食用オイル)の高い粘性の減衰効果によって、うなり振動を効率よく低減することができる。
【0074】
図9A図9B、及び図9Cに、本実施形態1に係る流体バランサ40における外槽10の振動変位の波形(実線参照)と、比較例の流体バランサ140における外槽10の振動変位の波形(破線参照)と、を示す。図9A図9B、及び図9Cにおいて、横軸は時刻[秒]を示しており、縦軸は外槽10(ドラム20)の振動変位量(Displacement)[mmp-p]を示している。なお、単位の「p-p」は、全振幅(Peak-to-Peak)を意味している。各波形は、振幅変調型のうなり振動の包絡線の上端を示している。
【0075】
図9A図9B図9Cに示す各波形は、以下のようにして得られたものである。すなわち、ドラム20の内側に布類の片寄り50の度合いを模擬した重さのウェイトを一つ固定して、うなり振動が発生する回転速度でドラム20を定速回転させた。そして、加速度センサ10eで外槽10(ドラム20)の振動変位量を計測して、計測された加速度データを数値積分処理して変位データに変換した。このようにして各波形は、得られている。
【0076】
図9A図9B図9Cに破線で示したように、比較例の流体バランサ140では、いずれの波形においても、1秒未満の回転周期に対して、約20秒の長周期なうなり振動が発生している。
【0077】
一方、図9A図9B図9Cに実線で示したように、本実施形態1に係る流体バランサ40では、いずれの波形においても、第2液体51b(食用オイル)による液面の搖動の低減効果により、1秒未満の回転周期に対して、うなり振動の周期が半分程度に短くなり、振動変位量と振幅変調とが低減している。
【0078】
本実施形態1に係る流体バランサ40は、比較例の流体バランサ140で用いられている液体151(塩水)の代わりに、第1液体51a(塩水)と第2液体51b(食用オイル)とを含む液体51を用いることで、液体自体の搖動抵抗を増加させている。これにより、図9A図9B図9Cに示すように、本実施形態1に係る流体バランサ40は、洗濯槽30のうなり振動を低減している。
【0079】
本実施形態1に係る流体バランサ40は、比重の違いにより、中空円管41の内部の外周側に粘性が低い第1液体51a(塩水)の層が形成される。ドラム20の回転速度が前記した「共振回転速度」を超過した直後の状態において、中空円管41の内部の外周側内壁43bに沿って第1液体51a(塩水)が遷移する過程で、第2液体51b(食用オイル)が第1液体51a(塩水)の内周側の液面の上に乗って遷移する。このとき、本実施形態1に係る流体バランサ40は、第1液体51a(塩水)単独の成分で液体51を構成した場合よりも液体51の遷移抵抗の増加を抑えることができる。そのため、ドラム20の前記した「最低回転速度」を下げることができる。また、本実施形態1に係る流体バランサ40は、中空円管41の内部において、第1液体51a(塩水)と第2液体51b(食用オイル)の遷移抵抗と第2液体51b(食用オイル)の液面の搖動抵抗とを利用して、前記した「加振力」を打ち消す効果とうなり振動の低減効果とを得ることができる。
【0080】
なお、うなり振動の低減効果は、第1液体51aと第2液体51bとが図6Aに示す特性の関係(すなわち、第2液体51bは、第1液体51aよりも比重が小さくかつ粘性が高い構成になっているという関係)になっていれば得ることができる。したがって、第1液体51aと第2液体51bとが図6Aに示す特性の関係から外れた場合に、うなり振動の低減効果は得ることができない。
【0081】
以上の通り、本実施形態1に係る流体バランサ40とその流体バランサ40を搭載するドラム式洗濯機100によれば、比較的安価な構成で振動を効率よく低減することができる。
【0082】
[実施形態2]
以下、図10乃至図12を参照して、本実施形態2に係る流体バランサ40Aの構成と動作について説明する。図10は、正面側から見た本実施形態2に係る流体バランサ40Aの回転停止中の状態を示す内視図である。図11は、正面側から見た流体バランサ40Aの回転中の状態を示す内視図である。図12は、流体バランサ40Aの回転中の液体51の状態を示す説明図である。
【0083】
図11に示すように、本実施形態2に係る流体バランサ40Aは、実施形態1に係る流体バランサ40(図4参照)と比較すると、液体51の中にプラスチック粒子52が混入されている点で相違している。したがって、本実施形態2に係る流体バランサ40Aでは、中空円管41の内部に、第1液体51a(塩水)と第2液体51b(食用オイル)とに加え、さらにプラスチック粒子52が封入されている。
【0084】
プラスチック粒子52の比重は、第1液体51a(塩水)よりも小さく、第2液体51b(食用オイル)の比重に近似した値(より好ましくは、第2液体51bと同等かそれ以下の値)になっている。各中空円管41において、液体51の量は、各中空円管41の容積の半分程度になっている。なお、液体51の量は、各中空円管41の中で液体51が満杯にならなければよい。
【0085】
図10に示すように、ドラム20が停止している状態では、第1液体51a(塩水)の比重が第2液体51b(食用オイル)の比重よりも大きいため、各中空円管41の内部において、第1液体51aが下側に溜まり、第2液体51bが上側に溜まる。そして、プラスチック粒子52の比重が第2液体51b(食用オイル)の比重に近似した値になっているため、プラスチック粒子52が第2液体51b(食用オイル)の層の中かその界面で浮遊している。
【0086】
図11に示すように、ドラム20が回転している状態では、第2液体51b(食用オイル)よりも比重が大きい第1液体51a(塩水)の層が中空円管41の内部の外周側に形成され、第1液体51a(塩水)よりも比重が小さい第2液体51b(食用オイル)の層が第1液体51aの内周側に形成される。また、第2液体51b(食用オイル)よりも比重が小さい空気59の層が第2液体51bの内周側に形成される。そして、第1液体51a(塩水)よりも比重が小さいプラスチック粒子52が第1液体51a(塩水)の層と第2液体51b(食用オイル)の層との界面付近(又は、第1液体51a(塩水)の層よりも内周側)で浮遊している。
【0087】
流体バランサ40Aは、比重の違いにより、各中空円管41の自由表面の液面付近に、粘性の高い第2液体51b(食用オイル)の層が形成される。そして、外周側の第1液体51a(塩水)の層と内周側の第2液体51b(食用オイル)の層とが接する界面において、第2液体51b(食用オイル)の高い粘性の減衰効果により、第2液体51b(食用オイル)の層が第1液体51a(塩水)の層の液面の搖動を抑える。これにより、流体バランサ40Aは、洗濯槽30のうなり振動を低減することができる。また、第2液体51b(食用オイル)の層の内部(又は、第1液体51a(塩水)の層と第2液体51b(食用オイル)の層との界面付近)で、プラスチック粒子52同士の摩擦の減衰効果により、第1液体51a(塩水)の層の液面の搖動を抑える。これによっても、流体バランサ40Aは、洗濯槽30のうなり振動を低減することができる。このような本実施形態2に係る流体バランサ40Aは、実施形態1に係る流体バランサ40と同等以上に洗濯槽30のうなり振動を低減することができる。
【0088】
本実施形態2に係る流体バランサ40Aは、実施形態1に係る流体バランサ40と同様に、ドラム20の回転速度が前記した「共振回転速度」を超過した直後の状態において、中空円管41の内部の外周側内壁43bに沿って第1液体51a(塩水)が遷移する過程で、第2液体51b(食用オイル)が第1液体51a(塩水)の内周側の液面の上に乗って遷移する。このとき、本実施形態2に係る流体バランサ40Aは、実施形態1に係る流体バランサ40と同様に、第1液体51a(塩水)単独の成分で液体51を構成した場合よりも液体51の遷移抵抗の増加を抑えることができる。そのため、ドラム20の前記した「最低回転速度」を下げることができる。また、本実施形態2に係る流体バランサ40Aは、実施形態1に係る流体バランサ40と同様に、中空円管41の内部において、第1液体51a(塩水)と第2液体51b(食用オイル)の遷移抵抗と第2液体51b(食用オイル)の液面の搖動抵抗とを利用して、前記した「加振力」を打ち消す効果とうなり振動の低減効果とを得ることができる。
【0089】
また、本実施形態2に係る流体バランサ40Aは、実施形態1に係る流体バランサ40と同様に、物理的な機構の大規模な変更を行うことなく、比較的少量から多量までの様々な布量の洗濯に対応して、うなり振動を低減することができる。さらに、本実施形態2に係る流体バランサ40Aは、実施形態1に係る流体バランサ40と同様に、液体51の高さの変化に関係なくうなり振動を低減することができる。そのため、比較的少量から多量までの様々な布量の洗濯が行われる場合であっても、うなり振動を低減することができる。
【0090】
以上の通り、本実施形態2に係る流体バランサ40Aとその流体バランサ40Aを搭載するドラム式洗濯機100によれば、実施形態1に係る流体バランサ40と同様に、比較的安価な構成で振動を効率よく低減することができる。
しかも、本実施形態2に係る流体バランサ40Aとその流体バランサ40Aを搭載するドラム式洗濯機100によれば、プラスチック粒子52同士の摩擦の減衰効果により第1液体51a(塩水)の層の液面の搖動を抑えることができる。そのため、実施形態1に係る流体バランサ40と同等以上に洗濯槽30のうなり振動を低減することができる。
【0091】
本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に他の構成を加えることも可能である。また、各構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0092】
例えば、前記した実施形態1,2に係る流体バランサ40,40Aの中空円管41は、複数層に形成され、各層の内部にバッフル板44が配置されているものとして説明した。しかしながら、前記した「加振力」を打ち消す効果は、中空円管41の層数、並びに、バッフル板44の形状や配置によらずに得ることができる。そのため、流体バランサ40,40Aは、中空円管41の構成を単層することができる。また、流体バランサ40,40Aは、中空円管41の複数層の中に、バッフル板44が設けられていない層を設けることもできる。
【符号の説明】
【0093】
1 ベース
2 筐体
3 ドア
4 操作パネル
5 制御装置
6 駆動回路
7 排水口
8 排水弁
9 排水ホース
10 外槽
10a 開口部
10b 槽カバー
10c 水槽
10d 分割面
10e 加速度センサ
11 ゴムベローズ
13 前吊りばね
14 後吊りばね
15 給水ユニット
16 洗剤ケース
17 配管
18 配管
19 配管
20 ドラム
20a 胴板
20b 底板
20c 脱水孔
20d リフター
30 洗濯槽
31 シャフト
32 駆動モータ(モータ)
33 ダンパー(支持機構)
33a 前面ダンパー
33b 背面ダンパー
34 コイルばね(支持機構)
35 ゴムブッシュ
36 回転検知センサ
40,40A 流体バランサ
41 中空円管
42 バランサ室
43 内壁
43a 内周側内壁
43b 外周側内壁
43c 前側内壁
43d 後側内壁
44 バッフル板
50 片寄り
51 液体
51a 第1液体(塩水)
51b 第2液体(食用オイル)
52 プラスチック粒子(粒子)
59 空気
100 ドラム式洗濯機
図1
図2
図3
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図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
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図14