(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】配管支持具
(51)【国際特許分類】
F16L 3/14 20060101AFI20230822BHJP
F16L 3/00 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
F16L3/14 Z
F16L3/00 E
(21)【出願番号】P 2020019970
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】508333228
【氏名又は名称】AWJ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 聡
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-063302(JP,A)
【文献】中国実用新案第206943582(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0219301(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107091372(CN,A)
【文献】実公昭53-033229(JP,Y1)
【文献】実開昭47-025261(JP,U)
【文献】特開2011-007256(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01887268(EP,A1)
【文献】英国特許出願公告第01179187(GB,A)
【文献】特開平08-296769(JP,A)
【文献】特開2000-009263(JP,A)
【文献】中国実用新案第205136829(CN,U)
【文献】実開昭51-019319(JP,U)
【文献】特開2007-309510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 3/14
F16L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面外方向にかつ環状に湾曲形成された配管挿通部及び該配管挿通部の対向端部から放射方向にそれぞれ延設された互いに対向する一対の連結部からなる金属本体を備え、該一対の連結部を所定の連結具を介して天井面若しくは上階床スラブ下面又は壁面に連結することにより、前記配管挿通部の内側空間に挿通された配管を支持できるようになっている配管支持具において、
前記配管挿通部と前記配管との間で荷重伝達が行われるようにそれらの間に樹脂材料からなる荷重伝達手段を前記配管の材軸を中心とした円筒状をなす形で配置してなり、
前記荷重伝達手段は、前記配管の材軸に直交する横断面ではC字状をなすように前記一対の連結部の近傍に2つの対向端面を前記材軸に沿って延設して
あって、該2つの対向端面が、前記配管挿通部が開いた状態では互いに離間し、閉じた状態では互いに当接するようになって
おり、
前記荷重伝達手段は、前記配管の材軸方向に沿って
該荷重伝達手段の両端まで延び該両端で開いた空隙が前記配管の周方向に沿って離散配置して
あって、該空隙を取り囲む隔壁を介して前記配管挿通部と前記配管との間で荷重伝達が行われるようになっている
とともに、該荷重伝達手段の曲げ変形が前記空隙のせん断変形及び前記樹脂材料の弾性変形能によって吸収されるようになっていることを特徴とする配管支持具。
【請求項2】
前記各空隙をそれらの横断面形状が六角形となるように形成するとともに、該各空隙を取り囲む六角形状隔壁を前記隔壁として該六角形状隔壁を介して前記各空隙を互いに近接配置した
請求項1記載の配管支持具。
【請求項3】
前記荷重伝達手段の内周側であって前記一対の連結部の反対側に、前記配管挿通部が開いた状態では対向溝内面が互いに離間してV字状に開き、前記配管挿通部が閉じた状態では前記対向溝内面が互いに当接する切込みを設けた
請求項1又は請求項2記載の配管支持具。
【請求項4】
前記荷重伝達手段を、該荷重伝達手段に前記配管挿通部が埋設された形となるように荷重伝達部として構成した
請求項1乃至請求項3のいずれか一記載の配管支持具。
【請求項5】
前記荷重伝達手段を、前記配管挿通部に着脱自在な荷重伝達部材として構成した
請求項1乃至請求項3のいずれか一記載の配管支持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種配管を吊りバンドあるいは立てバンドといった形で支持する際に用いられる配管支持具に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和設備工事や衛生設備工事においては、用途や目的に応じてさまざまな配管が用いられており、材質で分類すると概ね金属管と樹脂管に大別される。
【0003】
例えば、給水管には、ポリエチレンや硬質ポリ塩化ビニルで内面を被覆したライニング鋼管や、硬質ポリ塩化ビニル管、ポリエチレン管などの樹脂管が用いられており、給湯管には、ステンレス鋼管や耐熱性硬質ポリ塩化ビニルライニング鋼管が用いられている。
【0004】
これらの配管は、横走り管であれば、吊りバンドで天井や上階スラブから吊持し、立ち上がり管であれば、立てバンドで壁に固定することで建物内に設置されるが、これら吊りバンドあるいは立てバンドといった配管支持具は、帯状の鋼材を面外方向に環状に湾曲加工することでその内側に配管が挿通できるように構成された配管挿通部と、該配管挿通部の各端部から互いに対向するように放射方向にそれぞれ延設された一対の連結部とで構成してあり、該一対の連結部の間に天井面や上階床スラブ下面に固定された連結具の下端あるいは壁面に固定された連結具の先端を挟み込むとともに、上述した配管を配管挿通部に挿通した上、一対の連結部にボルトを挿通して締め付けることで、該配管を天井や上階床スラブから吊持し、あるいは壁に固定できるようになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】株式会社昭和コーポレーション、[online]、[令和元年12月8日検索]、インターネット<URL :https://www.showa-cp.jp/products-own/sleeperl/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
配管内を温冷水が流れる場合、特に冷却水が流れる場合には、結露水が金属製品を腐食させたり、下方に滴り落ちて様々な不具合を生じさせたりするおそれがあるため、配管周囲には、熱損失を防止する観点でも保温材の巻付けが必要になるほか、配管支持具が設けられた箇所では、ブラケット等の取付け側部材に結露が生じないよう、該配管支持具との間に断熱材を介在させる必要があり、例えば硬質ウレタンフォームで形成されたドーナツ状の断熱材の周囲をUバンドで取り囲み、該Uバンドをブラケット、門型架台、振れ止め等の取付け側部材に固定する配管支持具が知られている(非特許文献1)。
【0007】
しかしながら、かかる断熱材には、配管支持のための荷重を伝達させる機能を併せ持つことが求められるため、断熱性能には限度がある。
【0008】
すなわち、配管支持に適した硬質ウレタンフォーム製の断熱材としては、熱伝導率を0.057、圧縮強さを50kgf/cm2としたもの(日栄インテック株式会社HPの「断熱配管支持」から抜粋)、あるいは熱伝導率を0.053、圧縮強さを46kgf/cm2(450N/cm2)としたもの(株式会社昭和コーポレーションHPの「スリーパーL」から抜粋)が知られているが、熱伝導率はいずれも0.05程度であるため、断熱構造の厚みを抑えるにも限度があり、狭隘な箇所での施工が困難になるという問題や、配管周囲に巻く保温材を配管支持具の上から重ねることは当然ながら難しくなるため、配管周囲の保温材と配管支持具の断熱材との間に隙間が生じると、該隙間に結露が生じる懸念があるという問題を生じていた。
【0009】
ちなみに、熱伝導率を空気と同程度にまで小さくした断熱材も知られているが、例えば硬質ウレタンフォーム保温板2種1号が、熱伝導率が0.023以下である反面、圧縮強さは10N/cm2以上(ウレタンフォーム工業会HPの「硬質ウレタンフォーム断熱材 標準施工マニュアル 材料編」から抜粋)となっていることからもわかる通り、断熱性が優れている分、強度は概ね1/50と格段に小さくなるため、配管支持を兼ねた断熱材として使用することは難しい。
【0010】
また非特許文献1記載の配管支持具においては、上述した問題のほか、断熱材とUバンドとが別体であるため、配管固定作業が煩雑になるという問題も生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、荷重伝達機能を維持しつつ、断熱性能を向上させることが可能でなおかつ配管固定の際の作業性を改善可能な配管支持具を提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る配管支持具は請求項1に記載したように、面外方向にかつ環状に湾曲形成された配管挿通部及び該配管挿通部の対向端部から放射方向にそれぞれ延設された互いに対向する一対の連結部からなる金属本体を備え、該一対の連結部を所定の連結具を介して天井面若しくは上階床スラブ下面又は壁面に連結することにより、前記配管挿通部の内側空間に挿通された配管を支持できるようになっている配管支持具において、
前記配管挿通部と前記配管との間で荷重伝達が行われるようにそれらの間に樹脂材料からなる荷重伝達手段を前記配管の材軸を中心とした円筒状をなす形で配置してなり、
前記荷重伝達手段は、前記配管の材軸に直交する横断面ではC字状をなすように前記一対の連結部の近傍に2つの対向端面を前記材軸に沿って延設してあって、該2つの対向端面が、前記配管挿通部が開いた状態では互いに離間し、閉じた状態では互いに当接するようになっており、
前記荷重伝達手段は、前記配管の材軸方向に沿って該荷重伝達手段の両端まで延び該両端で開いた空隙が前記配管の周方向に沿って離散配置してあって、該空隙を取り囲む隔壁を介して前記配管挿通部と前記配管との間で荷重伝達が行われるようになっているとともに、該荷重伝達手段の曲げ変形が前記空隙のせん断変形及び前記樹脂材料の弾性変形能によって吸収されるようになっているものである。
【0014】
また、本発明に係る配管支持具は、前記各空隙をそれらの横断面形状が六角形となるように形成するとともに、該各空隙を取り囲む六角形状隔壁を前記隔壁として該六角形状隔壁を介して前記各空隙を互いに近接配置したものである。
【0015】
また、本発明に係る配管支持具は、前記荷重伝達手段の内周側であって前記一対の連結部の反対側に、前記配管挿通部が開いた状態では対向溝内面が互いに離間してV字状に開き、前記配管挿通部が閉じた状態では前記対向溝内面が互いに当接する切込みを設けたものである。
【0016】
また、本発明に係る配管支持具は、前記荷重伝達手段を、該荷重伝達手段に前記配管挿通部が埋設された形となるように荷重伝達部として構成したものである。
【0017】
また、本発明に係る配管支持具は、前記荷重伝達手段を、該荷重伝達手段に前記配管挿通部が埋設された形となるように荷重伝達部として構成したものである。
【0018】
本発明に係る配管支持具においては、面外方向にかつ環状に湾曲形成された配管挿通部及び該配管挿通部の対向端部から放射方向にそれぞれ延設された互いに対向する一対の連結部からなる金属本体を備えるが、本発明においては、配管挿通部と配管との間で荷重伝達が行われるようにそれらの間に樹脂材料からなる荷重伝達手段を配置してあるとともに、該荷重伝達手段には、配管の材軸方向に沿って延びる空隙が該配管の周方向に沿って離散配置してある。
【0019】
このようにすると、樹脂材料を適宜選定するとともに空隙の離散配置形態を適宜設定しておくことで、荷重伝達機能を確保しつつ、荷重伝達手段内に十分な体積の断熱空間を形成することが可能となり、従来の硬質ウレタンフォームを用いた断熱材と同等、あるいはそれ以上の断熱性能を、より経済性に優れた形で持たせることができる。
【0020】
ここで、荷重伝達手段は、全体としては配管の材軸を中心とした円筒状をなすものであるが、配管の材軸に直交する横断面では、C字状をなすように一対の連結部の近傍に2つの対向端面を材軸に沿って延設してあるとともに、該2つの対向端面は、配管挿通部が開いた状態では互いに離間し、閉じた状態では互いに当接するように構成してあるので、配管挿通部の内側空間に配管を挿通する作業には何ら支障はないし、配管支持の作業が終了した後は、荷重伝達手段の2つの対向端面も互いに当接するので、配管と金属本体との間で断熱性が低下するおそれもない。
【0021】
また、本発明に係る配管支持具においては、荷重伝達手段を、配管の材軸を中心とした円筒状となるように構成してあるので、荷重伝達手段の内周面に配管の外周面が当接した状態では、配管からの荷重は、分散状態で荷重伝達手段に載荷されて配管挿通部へと伝達される一方、配管挿通部からの荷重は、荷重伝達手段の内周面を介して分散状態で配管の外周面に載荷されることとなり、かくして配管や荷重伝達手段に応力集中が生じるのを未然に回避することが可能となる。
【0022】
金属本体は、Uバンドで構成される場合が典型例となるが、吊りボルト等の連結具を介して天井面や上階床スラブ下面から吊持できる限り、あるいは同様の連結具を介して壁に固定できる限り、その構成は任意である。
【0023】
また、金属本体は、配管挿通部の開閉操作を容易にすべく、該金属本体のうち、一対の連結部の反対側となる部位に開口、切り欠き等の断面欠損部を設けるか、又はヒンジ部を設けることで、該部位での曲げ剛性を小さくした構成が典型例となる。
【0024】
荷重伝達手段に生じるであろう荷重には、金属本体による締付け荷重、配管に生じる地震時荷重、配管内を流れる流体の振動荷重あるいは温度荷重などが含まれる。
【0025】
荷重伝達手段は、配管挿通部と配管との間で荷重伝達が可能となる剛性及び強度を有する樹脂材料で形成するものとし、例えば熱可塑性エラストマーを樹脂材料とした射出成形で形成するのが望ましい。
【0026】
上述した荷重伝達手段の荷重分散機能をより確実に発揮させるためには、その内周面が全面で平滑になるように構成するのが望ましい。
【0027】
ここで、内周面が全面で平滑になるようにするとは、内周面のみかけの面積(周縁で囲まれた領域の面積)を荷重伝達に寄与し得る面積としても、設計上、差し支えない状態を意味するものとする。
【0028】
荷重伝達手段に形成される空隙は、それらの両端が開放されるように該荷重伝達手段を構成した場合、射出成形の際に金型を用いた製作が容易となる。
【0031】
荷重伝達手段に形成される空隙は、例えば蓮根に形成されているような横断面が円形の孔(円孔)で構成することが可能であって、所要の断熱性能が得られる限り、その横断面形状は任意であるが、各空隙をそれらの横断面形状が六角形となるように形成するとともに、該各空隙を取り囲む六角形状隔壁を前記隔壁として該六角形状隔壁を介して前記各空隙を互いに近接配置したならば、荷重伝達手段がハニカム構造で構成されることになるため、十分な荷重伝達機能を確保しつつ、ほぼ最大限に近い断面積で空隙を形成することが可能となり、断熱性能を格段に向上させることができる。
【0032】
そのため、従来よりも断熱構造の厚みを抑えることが可能となり、狭隘な箇所での施工性が改善されるとともに、配管周囲に巻く保温材を配管固定具の上から重ねることもできるので、配管周囲の保温材と配管支持具の荷重伝達手段との間に配管材軸方向に沿った隙間が生じたとしても、その隙間で結露が生じるおそれもない。
【0033】
荷重伝達手段は、配管挿通部の開閉操作に応じて、2つの対向端面が互いに離間しあるいは当接する形に弾性変形し得る限り、具体的な構成は任意であって、荷重伝達手段に空隙が離散配置されていることで全体がより変形しやすくなっていることと相俟って、荷重伝達手段を構成する樹脂材料の弾性変形能のみで、配管挿通部の開閉操作に追従させることは可能であるが、金属本体が、一対の連結部の反対側となる部位で曲げ剛性を小さくした構成になっている場合、配管挿通部の曲げ変形量は上述の部位で最大となる。
【0034】
かかる場合には、前記荷重伝達手段の内周側であって前記一対の連結部の反対側に、前記配管挿通部が開いた状態では対向溝内面が互いに離間してV字状に開き、前記配管挿通部が閉じた状態では前記対向溝内面が互いに当接する切込みを設けた構成を採用することができる。
【0035】
かかる構成によれば、配管支持作業の際に荷重伝達手段に生じる曲げ応力を、断熱性能を低下させることなく、緩和することが可能となり、荷重伝達手段に不測のひび割れが生じるのを未然に防止することが可能となる。
【0036】
荷重伝達手段は、配管との間で荷重伝達が行われるように配置されていればよいのであって、少なくとも内周側に配置されていれば足りるが、配管挿通部が埋設された形となるように荷重伝達部として構成したならば、金属本体と配管挿通部との接着強度が高くなり、両者の間での荷重伝達がより確実になるほか、断熱材が別体であった従来よりも配管への装着作業性が格段に向上する。
【0037】
配管挿通部が埋設された構成は、配管挿通部を埋設物とし、熱可塑性エラストマーを樹脂材料とした射出成形によって実現可能である。
【0038】
一方、荷重伝達手段を配管挿通部に着脱自在な荷重伝達部材として構成することも可能であり、かかる構成によれば、荷重伝達部材の製作が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本実施形態に係る配管支持具1の図であり、(a)は全体斜視図、(b)は荷重伝達部を省略して該荷重伝達部に埋設されている金属本体のみを示した全体斜視図。
【
図2】同じく本実施形態に係る配管支持具1の図であり、(a)は側面図、(b)はA-A線方向から見た正面図、(c)はB-B線に沿う断面図。
【
図3】同じく本実施形態に係る配管支持具1の図であり、(a)はC-C線に沿う断面図、(b)はD-D線に沿う断面図。
【
図4】配管支持具1を配管6に装着する様子を示した説明図。
【
図6】変形例に係る配管支持具を示した図であり、(a)は組立斜視図、(b)は
図3(a)と同じ断面位置での断面図。
【
図7】別の変形例に係る配管支持具を示した正面図。
【
図8】さらに別の変形例に係る配管支持具を示した図であり、(a)は正面図、(b)はE-E線に沿う取付け前の断面図、(c)はE-E線に沿う取付け後の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係る配管支持具の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0041】
図1は、本実施形態に係る配管支持具を示した全体斜視図、
図2(a)~(c)はそれぞれ、本実施形態に係る配管支持具の側面図、A-A線矢視図(正面図)及びB-B線断面図、
図3(a)、(b)はそれぞれ、本実施形態に係る配管支持具のC-C線断面図及びD-D線断面図である。
【0042】
これらの図でわかるように、本実施形態に係る配管支持具1は、いわゆる吊りバンドと称されるものであって、天井又は上階床スラブの下方に横走り管として配置されるべき配管6を吊持するようになっており、金属本体2と、樹脂材料からなる荷重伝達手段としての荷重伝達部3とを備える。
【0043】
配管6は、その内部に断熱が必要となる冷温水、特に冷却水が流れているものを対象とする。
【0044】
金属本体2は、帯板状の鋼材を用いて構成されたものであって、面外方向にかつ環状に湾曲形成された配管挿通部4及び該配管挿通部の対向端部から放射方向にそれぞれ延設された互いに対向する一対の連結部5,5からなり、該一対の連結部を、該連結部に形成されたボルト挿通孔7,7を利用しつつ、吊りボルト等の連結具(図示せず)を介して天井面又は上階床スラブ下面に連結することにより、配管挿通部4の内側空間に挿通された配管6を吊持できるようになっている。
【0045】
金属本体2の配管挿通部4には、いわゆるスプリングバックを防止するための補剛リブ8が周方向に設けられており、その凹凸は、外周側では突条9として、内周側では溝10として顕れる。
【0046】
また、配管挿通部4のうち、一対の連結部5,5の反対側に位置する部位、すなわち配管挿通部4の最下端部位には、開口からなる断面欠損部14を設けてあり、
図2(b)に示す矢印方向に沿った配管挿通部4の開閉操作を容易に行うことができるようになっている。
【0047】
荷重伝達部3は、配管挿通部4と配管6との間で荷重伝達が行われるように、配管6の材軸を中心とした円筒状をなす形でそれらの間に配置してあるとともに、配管6の材軸に直交する横断面ではC字状をなすように一対の連結部5,5の近傍に2つの対向端面15,15を上記材軸に沿って延設し、該2つの対向端面が、配管挿通部4が開いた状態では互いに離間し、閉じた状態では互いに当接するように構成してある。
【0048】
荷重伝達部3は、
図3でよくわかるように配管挿通部4がインサート成形によって埋設される形で、その周囲を取り囲むように設けてある。なお、荷重伝達部3の外周側には、断面欠損部14が設けられた位置に相当する部位を除き、補剛リブ8の突条9を覆うべく、周方向に沿った凸部32を設けてある。
【0049】
荷重伝達部3は、配管挿通部4と配管6との間で荷重伝達を行うことが可能な剛性及び強度を有するように、例えば熱可塑性エラストマーを射出材料とした射出成形で形成するのが望ましい。
【0050】
荷重伝達部3は、
図1(a),
図2(b),
図2(c)、
図3(a),(b)に示す通り、その内周面11が全面で平滑になるように、換言すれば、内周面11のみかけの面積(周縁で囲まれた領域の面積)を荷重伝達に寄与し得る面積としても、設計上、差し支えない状態となるように形成してある。
【0051】
ここで、荷重伝達部3は、上述したように配管挿通部4と配管6との間で荷重伝達を行う部位として機能するが、かかる荷重伝達機能に加えて、断熱機能を担う部位として機能するように、配管6の材軸方向に沿って両端まで延び該両端で開いた空隙12が該配管の周方向及び径方向に沿って離散配置されるように構成してある。
【0052】
空隙12は、それらの横断面形状が六角形となるように形成してあり、六角形状隔壁13を介して互いに近接配置してある。
【0053】
本実施形態に係る配管支持具1においては、配管挿通部4が埋設される形でその配管配置側に荷重伝達部3を配置してあるが、該荷重伝達部には、配管6の材軸方向に沿って両端まで延び該両端で開いた空隙12が離散配置してある。
【0054】
このようにすると、荷重伝達部3に荷重伝達機能が確保されつつ、該荷重伝達部に十分な体積の断熱空間が形成される。
【0055】
また、荷重伝達部3は、配管6の材軸を中心とした円筒状となるようにかつその内周面11が全面で平滑になるように構成してある。
【0056】
このようにすると、荷重伝達部3の内周面11に配管6の外周面が当接した状態では、配管6からの荷重は、分散状態で荷重伝達部3に載荷されて配管挿通部4へと伝達される一方、配管挿通部4からの荷重は、荷重伝達部3の内周面11を介して分散状態で配管6の外周面に載荷される。
【0057】
図4は、本実施形態に係る配管支持具1を配管6に装着する様子を示した図である。同図に示すように、配管支持具1を配管6に取り付けるには、配管挿通部4を同図矢印方向に沿って開くことで、荷重伝達部3の2つの対向端面15,15を互いに離間させ、次いで、該対向端面の間に拡がるスペースを利用して配管6が荷重伝達部3の内側空間に挿通されるように配管支持具1を配置し、次いで、配管挿通部4を閉じることで、荷重伝達部3の2つの対向端面15,15を互いに当接させる。
【0058】
配管6への配管支持具1の装着が完了したならば、連結部5,5に形成されたボルト挿通孔7,7を利用しつつ、吊りボルト等の連結具(図示せず)を介して天井面又は上階床スラブ下面に連結することにより、配管挿通部4の内側空間に挿通された配管6を吊持すればよい。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る配管支持具1によれば、配管挿通部4が埋設される形でその配管配置側に荷重伝達部3を配置するとともに、該荷重伝達部に、配管6の材軸方向に沿って両端まで延び該両端で開いた空隙12を離散配置したので、荷重伝達部3に荷重伝達機能を確保しつつ、該荷重伝達部に十分な体積の断熱空間を形成することができる。
【0060】
そのため、従来の硬質ウレタンフォームを用いた断熱材と同等、あるいはそれ以上の断熱性能を、より経済性に優れた形で持たせることができる。
【0061】
また、本実施形態に係る配管支持具1によれば、荷重伝達部3を、配管挿通部4がインサート成形によって該荷重伝達部に埋設される形で設けた構成としたので、荷重伝達部3と配管挿通部4との接着強度が高くなって両者の一体性が高まり、両者間の荷重伝達はより確実となるとともに、断熱材が別体であった従来よりも配管に装着する際の作業性が格段に向上する。
【0062】
また、本実施形態に係る配管支持具1によれば、各空隙12をそれらの横断面形状が六角形となるように形成するとともに、それらを六角形状隔壁13を介して互いに近接配置したので、荷重伝達部3がハニカム構造で構成されることとなり、かくして十分な荷重伝達機能を確保しつつ、ほぼ最大限に近い断面積で空隙を形成することが可能となり、断熱性能を格段に向上させることができる。
【0063】
そのため、従来よりも断熱構造の厚みを抑えることが可能となり、狭隘な箇所での施工性が改善されるとともに、配管周囲に巻く保温材を配管支持具1の上から重ねることもできるので、配管周囲の保温材(図示せず)と配管支持具1の荷重伝達部3との間に配管材軸方向に沿った隙間が生じたとしても、その隙間に結露が生じるおそれもない。
【0064】
また、本実施形態に係る配管支持具1によれば、配管6の材軸を中心とした円筒状となるように荷重伝達部3を構成するとともに、該荷重伝達部の内周面11が全面で平滑になるように構成したので、荷重伝達部3の内周面11に配管6の外周面が当接した状態では、配管6からの荷重は、分散状態で荷重伝達部3に載荷されて配管挿通部4へと伝達される一方、配管挿通部4からの荷重は、荷重伝達部3の内周面11を介して分散状態で配管6の外周面に載荷されることとなり、かくして配管6や荷重伝達部3に応力集中が生じるのを未然に回避することが可能となる。
【0065】
ここで、荷重伝達部3は、全体としては配管6の材軸を中心とした円筒状をなすものであるが、配管6の材軸に直交する横断面では、C字状をなすように一対の連結部5,5の近傍に2つの対向端面15,15を材軸に沿って延設してあるとともに、該2つの対向端面は、配管挿通部4が開いた状態では互いに離間し、閉じた状態では互いに当接するように構成してあるので、配管挿通部4の内側空間に配管6を挿通する作業には何ら支障はないし、配管支持の作業が終了した後は、荷重伝達部4の2つの対向端面15,15も互いに当接するので、配管6と金属本体2との間で断熱性が低下するおそれもない。
【0066】
本実施形態では、荷重伝達部3を荷重伝達手段としたが、本発明の荷重伝達手段は、配管との間で荷重伝達が行われるように配置されていればよいのであって、少なくとも内周側に配置されていれば足りるものであり、外周側については、配管挿通部4が露出した構成でもかまわない。
【0067】
また、本実施形態では、金属本体として、一対の連結部5,5の反対側となる部位(配管挿通部4の最下端部位)に断面欠損部14を設けてなる金属本体2としたが、これに代えて、同様の部位にヒンジ部を設けてなる金属本体で構成してもかまわない。
【0068】
また、本実施形態では、補剛リブ8が設けられてなる配管挿通部4で本発明の配管挿通部を構成したが、金属本体のスプリングバックを例えば荷重伝達手段の剛性で防止することができるのであれば、これに代えて、補剛リブのないフラットな配管挿通部で本発明の配管挿通部を構成してもかまわない。
【0069】
また、本実施形態では、荷重伝達部に設ける空隙を、横断面形状が六角形となるように形成された空隙12としたが、本発明の空隙はかかる形状に限定されるものではなく、例えば
図5に示したように円形の空隙51としてもよい。
【0070】
また、本実施形態では、荷重伝達部に設ける空隙を、配管2の材軸方向に沿って両端まで延び該両端で開いた空隙12としたが、
図6に示すように、本発明の荷重伝達部を、荷重伝達部3と同様に構成された荷重伝達本体3′の両端に環状をなす閉塞板61,61をそれぞれ貼着して構成することにより、該荷重伝達部に形成される空隙を、配管6の材軸方向に沿って両端近傍まで延び、該両端でそれぞれ閉じた形となるように形成された空隙62としてもよい。
【0071】
かかる変形例によれば、空隙62に出入りする空気移動が防止されるため、断熱性能をさらに向上させることができる。
【0072】
また、本実施形態では、金属本体を、配管挿通部4の最下端部位に断面欠損部14を設けることで該最下端部位での曲げ剛性を小さくしてなる金属本体2としてあるため、配管挿通部4の開き操作に伴い、荷重伝達部3の曲げ応力が最下端で大きくなって該荷重伝達部にひび割れが生じるおそれがある。
【0073】
かかる場合には、
図7に示すように、荷重伝達部3の内周側であって一対の連結部5,5の反対側、すなわち配管挿通部4の最下端部位の相当位置に、配管挿通部4が開いた状態では対向溝内面71,71が互いに離間してV字状に開き、該配管挿通部が閉じた状態では対向溝内面71,71が互いに当接する切込み72を設けた構成を採用すればよい。
【0074】
かかる構成によれば、配管支持作業の際に荷重伝達部3に生じる曲げ応力を緩和することが可能となり、荷重伝達部3に不測のひび割れが生じ、さらにはひび割れによる断熱性能の低下を未然に防止することができる。
【0075】
なお、配管挿通部4を開こうとしたとき、その開き操作に対しては、
図4にも示したように、六角形状の空隙12がせん断変形し、荷重伝達部3を構成する樹脂材料の弾性変形能とも相俟って、荷重伝達部3の曲げ変形が吸収され、荷重伝達部3のひび割れ発生が防止されるのであれば、切込み72を設ける必要はない。
【0076】
また、本実施形態では、配管挿通部4が埋設された形の荷重伝達部3で本発明の荷重伝達手段を構成したが、これに代えて、
図8に示すように、配管挿通部4に着脱自在な荷重伝達部材91で本発明の荷重伝達手段を構成することが可能であり、かかる構成においては、荷重伝達部材91の幅方向各縁部に設けられた爪92,92を配管挿通部4の幅方向各縁部に係止する形で該荷重伝達部材を配管挿通部4に装着すればよい。
【0077】
荷重伝達部材91には、配管挿通部4との間で荷重伝達が確実に行われるよう、補剛リブ8の溝10に嵌り込む凸部102を設けておくのが望ましい。
【0078】
なお、荷重伝達部材91には、荷重伝達部3と同様、配管6の材軸方向に沿って両端まで延び該両端で開いた空隙12が該配管の周方向及び径方向に沿って離散配置してあるとともに、空隙12の横断面形状を六角形となるように形成した上、六角形状隔壁13を介して互いに近接配置してあるが、その作用効果については、ここではその説明を省略する。
【0079】
また、本実施形態では、本発明に係る配管支持具を吊りバンドに適用したものとして説明したが、これに代えて、立てバンドにも適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0080】
1 配管支持具
2 金属本体
3 荷重伝達部(荷重伝達手段)
4 配管挿通部
5,5 一対の連結部
6 配管
8 補剛リブ
10 溝
11 内周面
12 空隙
13 六角形状隔壁
14 断面欠損部
72 切込み
91 荷重伝達部材(荷重伝達手段)