(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】ハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物及びハードディスクドライブ
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20230822BHJP
C08G 75/045 20160101ALI20230822BHJP
【FI】
C09K3/10 E
C09K3/10 Z
C09K3/10 Q
C08G75/045
(21)【出願番号】P 2020033783
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹内 拓
(72)【発明者】
【氏名】柏 尚子
(72)【発明者】
【氏名】以西 新
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/119340(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/018546(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/029978(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/018547(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/190421(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/047479(WO,A1)
【文献】特開2014-152191(JP,A)
【文献】特開2021-21012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/10-3/12
C08F2/00-301/00
C08G75/00-75/32
C08G79/00-79/14
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
C09J1/00-5/10
C09J9/00-201/10
F16J15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロイル末端ポリイソブチレン(A)と、
単官能アルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)と、
ポリエチレンパウダー(C)と、
リン酸エステル(D)と、
多官能2級チオール(E)と、
チクソ性付与剤(F)と、
光重合開始剤(G)と、を含み、
前記(B)は、C8~18の鎖式骨格アルキル(メタ)アクリレート(b1)と、ジシクロペンテニルアクリレート(b2)と、を含み、
前記(F)は、ヒマシ油由来の化合物(f1)を含む、
ハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物であって、
前記(F)は、疎水性ヒュームドシリカ(f2)をさらに含む、
ハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物であって、
前記(b1)は、オクチルアクリレートである、
ハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物であって、
前記ハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物の全固形分に対し、前記(C)の質量比は、5質量%以上35質量%以下である、
ハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物を有するハードディスクドライブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物及びハードディスクドライブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、精密電子機器のハウジング部材は、内部に格納された部品を外部の埃や水分等から保護するために、封止用シール部材によりシールされている。封止用シール部材に要求される特性は、機器の用途により様々である。例えば、ハードディスクドライブ(以下ではHDDとする)に使用される封止用シール部材の場合は、外気に対するシール性、封止用シール部材がアウトガスを発生し難いこと等の特性が要求される。アウトガスとして、例えば、塩素、シロキサン成分等が挙げられる。塩素、シロキサン成分等は、HDDの長期信頼性を低下させる。
【0003】
封止用シール部材として、例えば、「現場形成型ガスケット」がある。「現場形成型ガスケット」の使用方法は、未硬化の液状物をシールすべき箇所に塗布し、硬化させる使用方法である。
【0004】
「現場形成型ガスケット」として、CIPG(Cured In Place Gasket)が知られている。CIPGの使用方法は、貼り合わせる部材の片方のみに硬化性樹脂を塗布して硬化させ、その後、他方の部材を貼り合わせる方法である。
【0005】
HDDに使用されるCIPGが特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されているCIPGは、2官能(メタ)アクリル、単官能アルキル(メタ)アクリレート、スチレン-イソブチレンブロック共重合体、光重合開始剤、及びシリカ粉を含む組成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
HDDの構造の進歩は著しい。例えば、単位面積当たりの記録容量を大きくするため、HDDの内部に、空気に代えてヘリウムガスを封入する技術が実用化されている。HDDの内部にヘリウムガスを封入した場合、封止用シール部材からヘリウムガスが漏れ易い。そのため、封止用シール部材には、一層高いシール性が求められる。
【0008】
本開示の1つの局面では、シール性が高いハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物及びハードディスクドライブを提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の1つの局面は、アクリロイル末端ポリイソブチレン(A)と、単官能アルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)と、ポリエチレンパウダー(C)と、リン酸エステル(D)と、多官能2級チオール(E)と、チクソ性付与剤(F)と、光重合開始剤(G)と、を含むハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物である。
【0010】
前記(B)は、C8~18の鎖式骨格アルキル(メタ)アクリレート(b1)と、ジシクロペンテニルアクリレート(b2)と、を含む。前記(F)は、ヒマシ油由来の化合物(f1)を含む。
【0011】
本開示の1つの局面であるハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物は、シール性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の例示的な実施形態について説明する。
1.ハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物の構成
(1-1)アクリロイル末端ポリイソブチレン(A)
本開示のハードディスクドライブ用光硬化型ガスケット樹脂組成物(以下ではHDD用樹脂組成物と略すこともある)は、アクリロイル末端ポリイソブチレン(A)(以下では(A)成分とする)を含む。
【0013】
(A)成分は、HDD用樹脂組成物のベースオリゴマーである。(A)成分は、-[CH2C(CH3)2]-単位を含むポリイソブチレン骨格を有するポリマーであれば特に限定されるものではない。
【0014】
(A)成分は、光照射による硬化性が高く、耐熱性や耐候性に優れる。また、(A)成分は、ブタジエン系骨格のオリゴマーと比較して引張破断歪が大きい。また、(A)成分は、ガスバリア性が高く、水蒸気透過性が低い。
【0015】
(A)成分の粘度は、100Pa・s以上10000Pa・s以下が好ましく、500Pa・s以上5000Pa・s以下がさらに好ましく、1000Pa・s以上4000Pa・s以下が特に好ましい。粘度の測定方法は、23℃において、E型粘度計を用いる測定方法である。
【0016】
(A)成分の粘度が100Pa・s以上である場合、HDD用樹脂組成物の凝集力が高い。(A)成分の粘度が10000Pa・s以下である場合、HDD用樹脂組成物の粘度を、作業に適した粘度に調整し易い。作業とは、塗布機を用いてHDD用樹脂組成物を吐出することである。作業に適した粘度とは、指定された量のHDD用樹脂組成物を吐出することができ、塗布後にHDD用樹脂組成物がダレ難い粘度である。市販されている(A)成分として、例えば、EP400V(商品名:カネカ社製)等が挙げられる。EP400Vは、両末端アクリロイルオキシ基ポリイソブチレンである。EP400Vの粘度は、23℃において3500Pa・sである。
【0017】
HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(A)成分の質量比は、8質量%以上80質量%以下が好ましく、10質量%以上75質量%以下がさらに好ましい。
HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(A)成分の質量比が8質量%以上である場合、HDD用樹脂組成物のガスバリア性が一層高く、透湿性が一層低い。HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(A)成分の質量比が80質量%以下である場合、HDD用樹脂組成物の粘度を、作業に適した粘度に調整し易い。
【0018】
(1-2)単官能アルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)
本開示のHDD用樹脂組成物は、単官能アルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)(以下では(B)成分とする)を含む。
【0019】
(B)成分は(A)成分を希釈する。また、(B)成分は、HDD用樹脂組成物の光硬化反応性を向上させる。
HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(B)成分の質量比は、5質量%以上60質量%以下が好ましく、6質量%以上55質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(B)成分の質量比が5質量%以上である場合、HDD用樹脂組成物の硬化性が一層高い。HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(B)成分の質量比が60質量%以下である場合、HDD用樹脂組成物のガスバリア性が一層高く、HDD用樹脂組成物の透湿度が一層低い。
(B)成分として、例えば、C8~18の鎖式骨格のアルキル(メタ)アクリレート(b1)(以下では(b1)成分とする)、ジシクロペンテニルアクリレート(b2)(以下では(b2)成分とする)等が挙げられる。
【0021】
(b1)成分は、硬化性と柔軟性とのバランスが取れた成分である。HDD用樹脂組成物が(b1)成分を含む場合、HDD用樹脂組成物のシール性が一層高い。
C8~18とは、主鎖を構成する炭素の数が8以上18以下であることを意味する。主鎖を構成する炭素の数が8以上である場合、HDD用樹脂組成物の硬化物の柔軟性が高い。主鎖を構成する炭素の数が18以下である場合、HDD用樹脂組成物の硬化性が高い。
【0022】
(b1)成分として、例えば、2エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
(b1)成分は1種類のみで構成されていてもよいし、2種類以上の混合物であってもよい。(b1)成分として、n‐オクチルアクリレートが好ましい。n‐オクチルアクリレートのTgは低い。n‐オクチルアクリレートは、(A)成分との相溶性が良好である。
【0024】
(B)成分の全質量に対し、(b1)成分の質量比は、20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上60質量%以下がさらに好ましく、35質量%以上50質量%以下が特に好ましい。
【0025】
(B)成分の全質量に対し、(b1)成分の質量比が20質量%以上である場合、HDD用樹脂組成物のガスバリア性が一層高く、HDD用樹脂組成物の透湿度が一層低い。(B)成分の全質量に対し、(b1)成分の質量比が80質量%以下である場合、HDD用樹脂組成物の剛性が一層高い。
【0026】
(b2)成分は剛性が高い成分である。(b2)成分は脂環式の化合物である。(b2)成分は、HDD用樹脂組成物の硬化皮膜の弾性率を高める。HDD用樹脂組成物が(b2)成分を含む場合は、(b2)成分に代えて他の脂環式単官能(メタ)アクリレートを含む場合に比べて、HDD用樹脂組成物は、アウトガスを発生し難い。他の脂環式単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、イソボルニルアクリレート等が挙げられる。アウトガスとして、例えば、カンフェン等が挙げられる。
【0027】
(B)成分の全質量に対し、(b2)成分の質量比は、20質量%以上80質量%以下が好ましく、40質量%以上70質量%以下がさらに好ましく、50質量%以上65質量%以下が特に好ましい。
【0028】
(B)成分の全質量に対し、(b2)成分の質量比が20質量%以上である場合、HDD用樹脂組成物の剛性が一層高い。(B)成分の全質量に対し、(b2)成分の質量比が80質量%以下である場合、HDD用樹脂組成物のガスバリア性が一層高く、HDD用樹脂組成物の透湿度が一層低い。
【0029】
(1-3)ポリエチレンパウダー(C)
本開示のHDD用樹脂組成物は、ポリエチレンパウダー(C)(以下では(C)成分とする)を含む。(C)成分は、HDD用樹脂組成物の硬化皮膜表面におけるべとつきを抑制し、硬化皮膜表面の動摩擦係数を小さくする。
【0030】
(C)成分として、分子量が100万以上700万以下である超高分子量ポリエチレンが好ましい。(C)成分が超高分子量ポリエチレンである場合、HDD用樹脂組成物の耐摩耗性と自己潤滑性とが一層高い。
【0031】
(C)成分の平均粒径は、10μm以上60μm以下であることが好ましく、15μm以上40μm以下であることがさらに好ましい。(C)成分の平均粒径の測定方法は、コールターカウンター法である。(C)成分の平均粒径が10μm以上60μm以下である場合、HDD用樹脂組成物の硬化物の表面における凹凸を微細化できる。
【0032】
HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(C)成分の質量比は、5質量%以上35質量%以下が好ましく、7質量%以上30質量%以下がさらに好ましく、10質量%以上25質量%以下が特に好ましい。
【0033】
HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(C)成分の質量比が5質量%以上である場合、HDD用樹脂組成物の硬化物の表面における滑り性が一層高くなり、動摩擦係数が一層低くなる。HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(C)成分の質量比が35質量%以下である場合、HDD用樹脂組成物の硬化物の硬度及び歪特性が適切な範囲内となる。(C)成分の市販品として、例えば、ミペロン(商品名:三井化学社製)等が挙げられる。ミペロンは、超高分子量ポリエチレンである。
【0034】
(1-4)リン酸エステル(D)
本開示のHDD用樹脂組成物は、リン酸エステル(D)(以下では(D)成分とする)を含む。(D)成分は、HDD用樹脂組成物と金属素材との密着性を高くする。(D)成分は、HDD用樹脂組成物の保存安定性を向上させる。
(D)成分は、分子内に光反応性の官能基を有することが好ましい。(D)成分が分子内に光反応性の官能基を有する場合、HDD用樹脂組成物の硬化後の皮膜から(D)成分が経時的に揮発することを抑制できる。
【0035】
HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(D)成分の質量比は、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.3質量%以上2.0質量%以下がさらに好ましい。HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(D)成分の質量比が0.1質量%以上3.0質量%以下である場合、HDD用樹脂組成物の保存安定性が向上する。(D)成分の市販品として、例えば、KAYAMER PM-2及びPM-21(商品名:いずれも日本化薬社製)等が挙げられる。
【0036】
(1―5)多官能2級チオール(E)
本開示のHDD用樹脂組成物は、多官能2級チオール(E)(以下では(E)成分とする)を含む。(E)成分は、HDD用樹脂組成物の光反応性を向上させる。(E)成分は、HDD用樹脂組成物の硬化皮膜における破断歪を大きくする。
【0037】
(E)成分は、エンチオール反応を生じさせることが可能である。(E)成分は、エンチオール反応を生じさせることにより、酸素によるHDD用樹脂組成物の硬化阻害を抑制できる。(E)成分は、2級チオールであるので、反応性と保存安定性とのバランスが取れている。なお、HDD用樹脂組成物が(E)成分に代えて1級チオールを含む場合、HDD用樹脂組成物の反応性が高くなり過ぎ、高温環境下でのHDD用樹脂組成物の保存性が低下する。
【0038】
(E)成分として、例えば、2官能の(E)成分と、3官能の(E)成分と、4官能の(E)成分とがある。2官能の(E)成分として、例えば、1,4ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン等が挙げられる。3官能の(E)成分として、例えば、1,3,5トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン等が挙げられる。4官能の(E)成分として、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)等が挙げられる。(E)成分は1種類のみで構成されていてもよいし、2種類以上の混合物であってもよい。
【0039】
HDD用樹脂組成物の光硬化成分に対し、(E)成分の質量比は、0.5質量%以上5.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上4.0質量%以下がさらに好ましい。光硬化成分とは、光反応性官能基を有する成分を意味する。HDD用樹脂組成物の光硬化成分に対し、(E)成分の質量比が0.5質量%以上5.0質量%以下である場合、HDD用樹脂組成物の光反応性が一層向上する。また、HDD用樹脂組成物の硬化皮膜の伸び率が一層高くなる。
(E)成分の市販品として、例えば、カレンズMT‐BD1、NR1及びPE1(商品名:いずれも昭和電工社製)等が挙げられる。
【0040】
(1-6)チクソ性付与剤(F)
本開示のHDD用樹脂組成物は、チクソ性付与剤(F)(以下では(F)成分とする)を含む。(F)成分は、液状の状態である硬化前のHDD用樹脂組成物にチクソ性を与える。
【0041】
HDD用樹脂組成物を用いて部材上にシール層を形成する場合、例えば、液状の状態である硬化前のHDD用樹脂組成物を部材上に塗布し、十分な高さのシール層を形成する。シール層は、硬化するまで、塗布時の形状を維持することが好ましい。
【0042】
(F)成分は、液状の状態である硬化前のHDD用樹脂組成物にチクソ性を付与することで、十分な高さのシール層を形成し易くする。また、(F)成分は、シール層の形状を維持し易くする。
【0043】
(F)成分として、例えば、無機系の(F)成分と、有機系の(F)成分とが挙げられる。無機系の(F)成分として、例えば、シリカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。有機系の(F)成分として、例えば、アマイド系、ヒマシ油系等が挙げられる。(F)成分は1種類のみで構成されていてもよいし、2種類以上の混合物であってもよい。
【0044】
(F)成分として、例えば、ヒマシ油由来の化合物(f1)(以下では(f1)成分とする)がある。HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(F)成分の質量比は、2質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がさらに好ましい。HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(F)成分の質量比が2質量%以上10質量%以下である場合、必要な高さのシール層を形成するに足るチクソ性をHDD用樹脂組成物に付与することができる。
【0045】
(f1)成分は、(A)成分及び(B)成分との相溶性が良好な液体状のチクソ性付与剤である。(f1)成分と無機系の(F)成分とを併用した場合、HDD用樹脂組成物のチクソ性を一層高くすることができる。
【0046】
(F)成分の全質量に対し、(f1)成分の質量比は、20質量%以上100質量%以下が好ましく、30質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。(F)成分の全質量に対し、(f1)成分の質量比が20質量%以上100質量%以下である場合、HDD用樹脂組成物のチクソ性を一層高くすることができる。(f1)成分の市販品として、例えば、Rheocin(商品名:BYK社製)等が挙げられる。
【0047】
無機系の(F)成分として、疎水性ヒュームドシリカ(f2)(以下では(f2)成分とする)が好ましい。(f2)成分は、例えば、表面処理された疎水性のシリカである。(f2)成分は、(A)成分及び(B)成分との相溶性が良好である。
【0048】
(f2)成分の平均一次粒子径は、1nm以上80nm以下が好ましく、5nm以上50nm以下がさらに好ましく、10nm以上30nm以下が特に好ましい。
(f2)成分の市販品として、例えば、VP-NKC130(商品名:日本アエロジル社製)等が挙げられる。VP-NKC130の一次平均粒子径は16nmである。なお、一次平均粒子径の測定方法は、電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを測定する方法である。VP-NKC130は、n-ヘキサデカン表面処理を施されている。
【0049】
HDD用樹脂組成物のチクソ値(以下ではTI値とする)は2以上が好ましく、2.5以上がさらに好ましい。HDD用樹脂組成物のTI値が2以上である場合、塗布直後から硬化までにおけるHDD用樹脂組成物の液だれを抑制し、シール層の厚みを十分確保することができる。
【0050】
(1-7)光重合開始剤(G)
本開示のHDD用樹脂組成物は、光重合開始剤(G)(以下では(G)成分とする)を含む。(G)成分は、紫外線や電子線等の照射によりラジカルを生じさせる。生じたラジカルは、重合反応のきっかけとなる。
【0051】
(G)成分として、例えば、汎用の光重合開始剤が挙げられる。汎用の光重合開始剤として、例えば、ベンジルケタール系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系等が挙げられる。
【0052】
(G)成分の光吸収波長を任意に選択することによって、HDD用樹脂組成物を硬化させる光の波長を選択できる。HDD用樹脂組成物を硬化させる光の波長は、例えば、紫外線領域から可視光領域にいたる広い波長範囲の中から選択できる。
【0053】
ベンジルケタール系の(G)成分として、例えば、2.2-ジメトキシ-1.2-ジフェニルエタン-1-オン等が挙げられる。α-ヒドロキシアセトフェノン系の(G)成分として、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、及び1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等が挙げられる。
【0054】
α-アミノアセトフェノン系の(G)成分として、例えば、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン等が挙げられる。アシルフォスフィンオキサイド系の(G)成分として、例えば、2.4.6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、及びビス(2.4.6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。(G)成分は、1種類のみで構成されていてもよいし、2種類以上の混合物であってもよい。
【0055】
HDD用樹脂組成物は、α-ヒドロキシアセトフェノン系の(G)成分を含むことが好ましい。HDD用樹脂組成物がα-ヒドロキシアセトフェノン系の(G)成分を含む場合、HDD用樹脂組成物は黄変しにくい。
【0056】
α-ヒドロキシアセトフェノン系の(G)成分の市販品として、例えば、Omnirad127、184、2959(商品名:IGM Resins社製)等が挙げられる。
HDD用樹脂組成物の光硬化成分100質量部に対し、(G)成分の配合量は、0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、0.5質量部以上8質量部以下がさらに好ましい。
【0057】
(1-8)他の成分
本開示のHDD用樹脂組成物は、重合禁止剤(H)(以下では(H)成分とする)を含むことが好ましい。HDD用樹脂組成物が(H)成分を含む場合、HDD用樹脂組成物の保存性が向上する。
【0058】
(H)成分として、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、t-ブチルヒドロキノン、4-t-ブチルピロカテコール、1,4-ベンゾキノン等が挙げられる。(H)成分は、1種類のみで構成されていてもよいし、2種類以上の混合物であってもよい。
【0059】
HDD用樹脂組成物は、ジブチルヒドロキシトルエンを含むことが好ましい。HDD用樹脂組成物がジブチルヒドロキシトルエンを含む場合、HDD用樹脂組成物は黄変しにくい。
【0060】
100質量部の光硬化成分に対し、(H)成分の配合量は、0.03質量部以上0.5質量部以下が好ましく、0.05質量部以上0.3質量部以下がさらに好ましい。
【0061】
本開示のHDD用樹脂組成物は、酸化防止剤(I)(以下では(I)成分とする)を含むことが好ましい。(I)成分は、ラジカルを効率よくトラップする化合物である。HDD用樹脂組成物が(I)成分を含む場合、HDD用樹脂組成物の保存性が向上する。
【0062】
酸化防止剤(I)として、ヒンダードフェノール系(i1)(以下では(i1)成分とする)、ヒンダードアミン系(i2)(以下では(i2)成分とする)等が挙げられる。HDD用樹脂組成物は、(i1)成分及び(i2)成分のうちのいずれか一方、又は両方を含むことが好ましい。
【0063】
HDD用樹脂組成物の全固形分に対し、(I)成分の質量比は、0質量%以上3質量%以下が好ましい。HDD用樹脂組成物が(I)成分を含み、(I)成分の質量比が3質量%以下である場合、HDD用樹脂組成物の保存性がさらに向上する。
【0064】
HDD用樹脂組成物の保存性を表す指標として、増粘率がある。増粘率とは、HDD用樹脂組成物の初期粘度に対する放置後粘度の比率である。放置後粘度とは、60℃で3日間放置した後の粘度である。HDD用樹脂組成物の保存性が高いほど、増粘率は低くなる。HDD用樹脂組成物の増粘率は、2.5倍以下が好ましく、2倍以下がさらに好ましい。
【0065】
本開示のHDD用樹脂組成物は、必要に応じて、他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤として、例えば、反応性希釈剤、シランカップリング剤、着色剤、熱重合開始剤、消泡剤、難燃剤、レベリング剤、分散剤、有機微粒子等が挙げられる。
【0066】
2.HDD用樹脂組成物の使用方法
本開示のHDD用樹脂組成物は、例えば、以下のように使用できる。HDD用樹脂組成物を部材上に塗布する。部材は、例えば、HDDのハウジング部材である。塗布されたHDD用樹脂組成物に対し、光源を用いて光を照射し、HDD用樹脂組成物を硬化させる。硬化したHDD用樹脂組成物はシール層となる。
【0067】
光源として、例えば、公知の光源を使用できる。公知の光源として、例えば、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、LEDランプ、無電極紫外線ランプ等が挙げられる。光源が照射する光として、例えば、紫外線等が挙げられる。
【0068】
紫外線を照射する場合の紫外線照射強度は、50mW/cm2以上3000mW/cm2以下であることが好ましい。紫外線を照射する場合の積算光量は、500mJ/cm2以上10000mJ/cm2以下であることが好ましい。
【0069】
3.シール層の特性
本開示のHDD用樹脂組成物を用いてシール層を形成することができる。シール層の形成方法は、例えば、前記「2.HDD用樹脂組成物の使用方法」の項で述べた方法である。
【0070】
シール層の透湿度は、40g/m2・24h以下が好ましく、30g/m2・24h以下がさらに好ましい。透湿度とは、JIS Z0208に準じた60℃90%RHでの透湿度である。
【0071】
シール層の透湿度が40g/m2・24h以下である場合、水分や異物がシール層を透過することを抑制できる。シール層の透湿度が40g/m2・24h以下である場合、HDD用樹脂組成物はCIPGとして好適である。
【0072】
シール層のタイプA硬度は、6以上50以下が好ましく、10以上35以下がさらに好ましい。シール層の破断歪は、60%以上が好ましく、100%以上がさらに好ましい。シール層の弾性率は、0.3MPa以上10MPa以下が好ましい。
【0073】
シール層のタイプA硬度、破断歪、及び弾性率が上記の範囲内である場合、貼り合わせ面に対するシール層の追従性が良好となる。その結果、シール層による、防塵と内部ガス漏洩防止の効果が一層顕著になる。そのため、シール層のタイプA硬度、破断歪、及び弾性率が上記の範囲内である場合、HDD用樹脂組成物はCIPGとして好適である。
【0074】
4.HDD用樹脂組成物が奏する効果
本開示のHDD用樹脂組成物は、保存性に優れ、透湿性が低い。本開示のHDD用樹脂組成物を用いれば、安定したシール性を確保することができる。本開示のHDD用樹脂組成物から成る硬化層は、アウトガスを発生させ難い。そのため、本開示のHDD用樹脂組成物を用いれば、HDDの信頼性を高めることができる。
【0075】
5.実施例
(5-1)実施例及び比較例のHDD用樹脂組成物の製造
表1に記載の各成分を、表1に記載の配合量となるように混合し、均一に溶解するまで撹拌することで、実施例1~11のHDD用樹脂組成物を製造した。
【0076】
また、表2に記載の各成分を、表2に記載の配合量となるように混合し、均一に溶解するまで撹拌することで、比較例1~9のHDD用樹脂組成物を製造した。表1及び表2に記載の配合量の単位は質量部である。
【0077】
【0078】
【0079】
表1及び表2におけるEP400Vは、EPION EP400V(商品名:カネカ社製)を表す。EPION EP400Vは、アクリロイル末端ポリイソブチレンである。EPION EP400Vは(A)成分に対応する。
【0080】
表1及び表2におけるUC-203(商品名:クラレ社製)は、メタクリル変性ポリイソプレンである。UC-203のMnは35000である。
表1及び表2におけるTE-2000(商品名:日本曹達社製)は、末端アクリル基ポリブタジエンである。TE-2000のMnは2500である。
【0081】
表1及び表2におけるNOAA(商品名:大阪有機化学工業社製)は、n-オクチルアクリレートである。NOAAは、(B)成分及び(b1)成分に対応する。NOAAは、C8の鎖式骨格アルキル(メタ)アクリレートである。
【0082】
表1及び表2におけるFA-511AS(商品名:日立化成社製)は、ジシクロペンテニルアクリレートである。FA-511ASは、(B)成分及び(b2)成分に対応する。
【0083】
表1及び表2におけるIB-XA(商品名:大阪有機化学工業社製)は、イソボルニルアクリレートである。IB-XAは単官能モノマーに対応する。
表1及び表2における4HBA(商品名:大阪有機化学工業社製)は、4-ヒドロキシブチルアクリレートである。4HBAは単官能モノマーに対応する。
【0084】
表1及び表2におけるミペロンXM-200(商品名:三井化学社製)は、ポリエチレンパウダーである。ミペロンXM-200は(C)成分に対応する。ミペロンXM-200の平均分子量は200万である。ミペロンXM-200の平均粒径は30μmである。平均粒径の測定方法はコールターカウンター法である。
【0085】
表1及び表2におけるPM-21(商品名:日本化薬社製)は、リン酸エステルである。PM-21は(D)成分に対応する。
表1及び表2におけるBD1は、カレンズMT-BD1(商品名:昭和電工社製)を表す。カレンズMT-BD1は、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタンである。カレンズMT-BD1は、(E)成分に対応する。
【0086】
表1及び表2におけるDPMP(商品名:SC有機化学社製)は、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)である。DPMPは多官能1級チオールに対応する。
【0087】
表1及び表2におけるRheocin(商品名:BKY社製)は、(f1)成分に対応する。
表1及び表2におけるNKC130(商品名:日本アエロジル社製)は、n-ヘキサデカン表面処理が施されている疎水性ヒュームドシリカである。NKC130は(f2)成分に対応する。NKC130の一次平均粒子径は16nmである。
【0088】
表1及び表2におけるOmnirad184(商品名:IGM社製)は、α-ヒドロキシアセトフェノン系の(G)成分に対応する。
表1及び表2におけるBHTは、ジブチルヒドロキシトルエンを表す。BHTは(H)成分に対応する。
【0089】
表1及び表2におけるIrganox1010(商品名:BASFジャパン社製)は、(i1)成分に対応する。
表1及び表2におけるTINUVIN249(商品名:BASFジャパン社製)は、(i2)成分に対応する。
【0090】
各実施例は、本開示のHDD用樹脂組成物を例示するものである。本開示のHDD用樹脂組成物は実施例に限定されない。表1及び表2に記載の成分のうち、光硬化成分に該当するものは、(A)成分、(b1)成分、又は(b2)成分に対応する成分である。
(5-2)実施例及び比較例のHDD用樹脂組成物の評価方法
各実施例及び各比較例のHDD用樹脂組成物について、以下の評価を行った。なお、特に表記が無い場合は、25℃、相対湿度65%の条件下で評価を行った。
【0091】
表面硬化性の評価:専用の型の凹部に、すりきりいっぱいとなるようにHDD用樹脂組成物を充填した。専用の型の材質はPPであった。凹部の形状は、深さ6mm、直径26mmの円筒形状であった。
【0092】
次に、FUSION UV System社製のUV照射装置UV LIGHT HAMMER 6Dbulbを用い、照射度300mw/cm2、積算光量6000mJ/cm2の条件で光を照射し、HDD用樹脂組成物を硬化させた。硬化物の表面のタックを指触で評価した。タックがなかった場合、表面硬化性の評価結果を○とした。タックが残っていた場合、表面硬化性の評価結果を×とした。
【0093】
タイプA硬度の評価:HDD用樹脂組成物から試験片を作成した。試験片のタイプA硬度を、テクロック社製のタイプA硬度計を用いて測定した。測定方法は、JIS K 6253に準じた。タイプA硬度の測定値が6~10、又は35を超えた場合、タイプA硬度の評価結果を○とした。タイプA硬度の測定値が10を超え、35以下であった場合、タイプA硬度の評価結果を◎とした。タイプA硬度の測定値がそれ以外の値であった場合、タイプA硬度の評価結果を×とした。
【0094】
粘度の評価:東機産業製のコーンプレート型粘度計RC-550を用いた。コーン角は3°であった。Rは7.7であった。測定時の温度は25±1℃であった。
まず、回転数が10rpmの条件(以下では10rpm条件とする)と、回転数が1rpmの条件(以下では1rpm条件とする)とで、それぞれ、HDD用樹脂組成物の粘度を測定した。
【0095】
次に、10rpm条件と、1rpm条件とのうち、粘度計指示値が100%以下であり、且つ100%に近い方の条件を選択した。選択した条件を、第1選択条件とした。
【0096】
10rpm条件が第1選択条件である場合、1rpm条件を第2選択条件とした。第2選択条件での粘度値を、第1選択条件での粘度値で割った値を、TI値とした。TI値はチクソ値を意味する。
【0097】
1rpm条件が第1選択条件である場合、回転数が0.1rpmの条件(以下では0.1rpm条件とする)で、HDD用樹脂組成物の粘度を測定した。0.1rpm条件を第2選択条件とした。第2選択条件での粘度値を、第1選択条件での粘度値で割った値を、TI値とした。
【0098】
10rpm条件と、1rpm条件との両方で、粘度計指示値が100%を超えた場合、0.1rpm条件と、回転数が0.01rpmの条件(以下では0.01rpm条件とする)とで、それぞれ、HDD用樹脂組成物の粘度を測定した。
【0099】
次に、0.1rpm条件と、0.01rpm条件とのうち、粘度計指示値が100%以下であり、且つ100%に近い方の条件を選択した。選択した条件を、第1選択条件とした。
【0100】
0.1rpm条件が第1選択条件である場合、0.01rpm条件を第2選択条件とした。第2選択条件での粘度値を、第1選択条件での粘度値で割った値を、TI値とした。
【0101】
弾性率の評価:HDD用樹脂組成物を用いて試験片を作成した。試験片の形状はダンベル状8号形であった。試験片の厚さは1mmであった。試験片に紫外線を照射して硬化させた。紫外線の照射は、表面硬化性の評価で用いた照射装置を用いて行った。紫外線の照射度は300mw/cm2であった。紫外線の積算光量は6000mJ/cm2であった。
【0102】
ミネベア製のテクノグラフTGI-1KgNを用い、JIS K 6251に準拠して、硬化後の試験片の弾性率を測定した。クロスヘッドスピードは10mm/minであった。弾性率の測定値が0.3~10MPaの場合、弾性率の評価結果を○とした。弾性率の測定値がそれ以外の値の場合、弾性率の評価結果を×とした。
【0103】
強度の評価:弾性率の評価において測定された弾性率の最大強度を、HDD用樹脂組成物の強度とした。
【0104】
破断歪の評価:弾性率の評価において測定された破断歪を、HDD用樹脂組成物の破断歪とした。破断歪の測定値が100%以上の場合、破断歪の評価結果を○とした。破断歪の測定値が150~1000%の場合、破断歪の評価結果を◎とした。破断歪の測定値が100%未満の場合、破断歪の評価結果を×とした。
【0105】
透湿度の評価:HDD用樹脂組成物を用いて、厚さ0.5mmの試料を作成した。試料に紫外線を照射して硬化させた。紫外線の照射は、表面硬化性の評価で用いた照射装置を用いて行った。紫外線の照射度は300mw/cm2であった。紫外線の積算光量は6000mJ/cm2であった。
【0106】
硬化した試料について、JIS Z0208に準じて透湿度を測定した。60℃/90%RH環境下で試料を24時間放置した。放置の前後における試料の質量変化からから透湿度を算出した。透湿度が40以下の場合、透湿度の評価結果を○とした。透湿度が30以下の場合、透湿度の評価結果を◎とした。透湿度が40を超えた場合、透湿度の評価結果を×とした。
【0107】
アウトガス発生の評価:硬化させたHDD用樹脂組成物50mgを、容量300mlのチャンバーに入れ、温度80℃で1時間加熱した。HDD用樹脂組成物から出たガスを、チャンバーに取り付けたカラムに吸着させた。その後、カラムに吸着したガスを、ガスクロマトグラフィーにて分析した。分析の結果、カンフェンを検出した場合、アウトガス発生の評価結果を×とした。カンフェンを検出しなかった場合、アウトガス発生の評価結果を○とした。
【0108】
保存性の評価:HDD用樹脂組成物の初期粘度を測定した。初期粘度の測定条件は、上述した粘度の評価における第1選択条件であった。次に、HDD用樹脂組成物を、60℃の環境下で3日間放置した。次に、HDD用樹脂組成物の温度を25±1℃に戻してから、初期粘度を測定したときと同じ条件で、HDD用樹脂組成物の粘度を再度測定した。再度測定したときの粘度は放置後粘度である。初期粘度に対する、放置後粘度の比率を増粘率とした。増粘率が2.5倍以下である場合、保存性の評価結果を○とした。増粘率が2.5倍を超えた場合、保存性の評価結果を×とした。
【0109】
また、上述した粘度の評価におけるTI値の測定方法と同様の方法でTI値を測定した。
(5-3)実施例及び比較例のHDD用樹脂組成物の評価結果
実施例及び比較例のHDD用樹脂組成物の評価結果を表3及び表4に示す。
【0110】
【0111】
【0112】
各実施例は、タイプA硬度、表面硬化性、粘度、弾性率、強度、破断歪、透湿度、アウトガス発生、及び保存性において良好であった。
なお、表3及び表4における「1rpm(mPa・s)or 0.1 or 0.01rpm」は、粘度評価における第2選択条件を表す。表3及び表4における「10rpm(mPa・s)or 1 or 0.1rpm」は、粘度評価における第1選択条件を表す。
【0113】
よって、本開示のHDD用樹脂組成物は、保存性に優れ、透湿性が低い。また、本開示のHDD用樹脂組成物を用いれば、安定したシール性を確保できる。また、本開示のHDD用樹脂組成物の硬化層は、アウトガスを発生し難いため、HDDの信頼性を高めることができる。
【0114】
オリゴマーがメタクリル変性ポリイソプレン系である比較例1は、破断歪、及び透湿度の評価結果が不良であった。オリゴマーが末端アクリル基ポリブタジエンである比較例2は、硬度、弾性率、及び破断歪の評価結果が不良であった。
【0115】
(b2)成分を含まない比較例3は、硬度、及び保存性の評価結果が不良であった。(b2)成分の代わりにIBXAを含む比較例4は、硬度、アウトガス、及び保存性の評価結果が不良であった。
【0116】
(b2)成分の代わりに4HBAを含む比較例5は、相溶性が不良であった。(C)成分を含まない比較例6は、表面硬化性の評価結果が不良であった。
【0117】
(D)成分を含まない比較例7は、保存性の評価結果が不良であった。(E)成分を含まない比較例8は、破断歪の評価結果が不良であった。(E)成分を含まず、1級チオールを含む比較例9は、保存性の評価結果が不良であった。
【0118】
6.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0119】
(6-1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0120】
(6-2)上述したHDD用樹脂組成物の他、当該HDD用樹脂組成物を構成要素とする製品、HDD用樹脂組成物の製造方法、HDDの製造方法等、ハードディスクドライブ種々の形態で本開示を実現することもできる。
ハードディスクドライブは、ハウジング部材を備える。ハウジング部材は複数の部品から構成される。部品同士の間に封止用シール部材が形成されている。封止用シール部材は、例えば、本開示のHDD用樹脂組成物を塗布して形成された硬化物である。