(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】イソシアネート基含有有機ケイ素化合物及びイソシアネート基含有有機ケイ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/10 20060101AFI20230822BHJP
C07F 7/18 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C07F7/10 W CSP
C07F7/18 X
(21)【出願番号】P 2020039997
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】作田 晃司
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0058488(US,A1)
【文献】特開平08-104755(JP,A)
【文献】特開平08-157728(JP,A)
【文献】特開2007-326841(JP,A)
【文献】特開2000-178284(JP,A)
【文献】特開2001-026593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式
(2)~(4)のいずれかで表されるイソシアネート基含有有機ケイ素化合物であって、
R
1
2
R
3
SiO(SiR
1
2
O)
c
(SiR
1
R
2
O)
d
SiR
1
2
R
3
(2)
(式(2)中、R
1
は同種又は異種の、炭素数が1~10である1価のアルキル基、フッ素置換アルキル基、炭素数が6~10である1価のアリール基、又は炭素数が7~10である1価のアラルキル基、R
2
は式-CH
2
CH
2
Si(CH
3
)
2
OSi(CH
3
)
2
CH
2
CH
2
CH
2
NCOで表される有機基であり、R
3
はR
1
又はR
2
の何れかであり、cは0~20の整数、dは1~10の整数、c+dは1~30の整数である。)
R
1
e
Si(OSiR
1
2
R
2
)
f
(3)
(式(3)中、R
1
は同種又は異種の、炭素数が1~10である1価のアルキル基、フッ素置換アルキル基、炭素数が6~10である1価のアリール基、又は炭素数が7~10である1価のアラルキル基、R
2
は式-CH
2
CH
2
Si(CH
3
)
2
OSi(CH
3
)
2
CH
2
CH
2
CH
2
NCOで表される有機基であり、eは0又は1、fは3又は4、e+fは4である。)
【化1】
(式(4)中、R
1
は同種又は異種の、炭素数が1~10である1価のアルキル基、フッ素置換アルキル基、炭素数が6~10である1価のアリール基、又は炭素数が7~10である1価のアラルキル基、R
2
は式-CH
2
CH
2
Si(CH
3
)
2
OSi(CH
3
)
2
CH
2
CH
2
CH
2
NCOで表される有機基であり、gは0~2の整数、hは3~5の整数、g+hは3~7の整数である。)
R
2基を1分子中に3個以上有し、かつ25℃における粘度が100mm
2/s以下のものであることを特徴とするイソシアネート基含有有機ケイ素化合物。
【請求項2】
下記一般式(6)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
R
1
2R
4SiO(SiR
1
2O)
c(SiR
1HO)
dSiR
1
2R
4 (6)
(式(6)中、R
1、c、及びdは前記の通りであり、R
4はR
1又はHの何れかである。)
CH
2=CHSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2CH
2CH
2CH
2NCOを付加反応することを特徴とする請求項
1に記載のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(7)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
R
1
eSi(OSiR
1
2H)
f (7)
(式(7)中、R
1、e、及びfは前記の通りである。)
CH
2=CHSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2CH
2CH
2CH
2NCOを付加反応することを特徴とする請求項
1に記載のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(8)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
【化2】
(式(8)中、R
1、g及びhは前記の通りである。)
CH
2=CHSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2CH
2CH
2CH
2NCOを付加反応することを特徴とする請求項
1に記載のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1分子中に3個以上のイソシアネート基を有し、かつ低粘度な有機ケイ素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアネート基は、水酸基、アミノ基などの活性水素を有する有機官能基と反応してウレタン結合や尿素結合を形成することができ、同官能基を有する化合物は各種ポリマーの合成原料やポリマーの改質剤として有用である。
【0003】
イソシアネート基を有する化合物は、工業的に古くからアミン化合物とホスゲンとの反応によって製造されている。また現在では有毒なホスゲンを使用しない合成方法として、カルバミン酸エステルを熱分解する方法、パラジウム触媒の存在下ニトロ化合物と一酸化炭素との反応による合成方法などが実用化されている。
【0004】
ウレタン結合を有するポリマーを合成する際、1分子中に2個の水酸基を有するジオール化合物と、1分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物から、直鎖状のウレタンポリマーを得ることができる。この反応によって生成したウレタン結合は、さらにイソシアネート基と反応して架橋ポリマーも形成しうる。
【0005】
一方、1分子中に3個以上の官能基を有する化合物を用いることによっても架橋ポリマーを得ることが出来る。例えば、ポリマージオール成分とジイソシアネート成分を、イソシアネート基が過剰となる比率で反応させてポリマー末端にイソシアネート基が存在するプレポリマーを合成し、これに架橋剤として1分子中に3個以上の水酸基を有する化合物を反応させて得ることが出来る。あるいは、ポリマージオール成分と1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する化合物を架橋剤として反応させることによっても架橋ポリマーを得ることが出来る。
【0006】
これらの方法による架橋ポリマーの合成における問題点として、硬化前の組成物が高粘度であることが挙げられる。例えば前者のプレポリマー法の場合、三洋化成工業株式会社の製品カタログには、ポリオキシテトラメチレングリコールと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートから得られたプレポリマー(商品名サンプレンP-6090)は80℃における粘度が690mPa・sであり、ポリエステルポリオールと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートから得られたプレポリマー(商品名サンプレンP-7315)は80℃における粘度が1630mPa・sと記載されている。プレポリマーが高粘度であると、架橋剤成分を混合した後の脱泡が困難となる。
【0007】
ポリマー末端にイソシアネート基が存在するプレポリマーと、1分子中に3個以上の水酸基を有する化合物との反応により架橋ポリマーを得る方法におけるもう1つの問題点は、イソシアネート基は活性水素との反応性が高い官能基であり、例えば空気中の水分とも反応してしまうことから、保存中にプレポリマーがゲル化することも起こり得る。
【0008】
後者の1分子中に3個のイソシアネート基を有する架橋剤の例としては、旭化成株式会社の製品カタログにヘキサメチレンジイソシアネート誘導体として、ビウレット型の商品名デュラネート24A-100は25℃における粘度が1800mPa・s、イソシアヌレート型の商品名デュラネートTPA-100は25℃における粘度が1400mPa・s、同商品名デュラネートTKA-100は25℃における粘度が2600mPa・sと記載されており、高粘度であるほど架橋剤を混合した後の脱泡が同様に困難となる。
【0009】
イソシアネート基を含有する化合物を低粘度化する手段として、有機ケイ素化合物誘導体とする方法が有効であると考えられる。そのようなイソシアネート基とポリシロキサン基の両方を有する化合物が有機化合物の変性剤、あるいはポリマーの改質剤として有用であることが開示されている(特許文献1、2)。
【0010】
特許文献1には、1分子中に1個のイソシアネート基と1個のビニル基を有する有機ケイ素化合物が記載されており、このビニル基に片末端ハイドロジェンポリシロキサンを付加反応することで分子内にただ一つのイソシアネート基を有するポリシロキサンを得ることができる。
【0011】
特許文献2には、γ-トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルイソシアネート、及びその合成方法が開示されている。
【0012】
有機化合物の変性剤、あるいはポリマーの改質剤として用いる場合、特許文献1と2に記載の有機ケイ素化合物は、反応基質同士の架橋を避けるために、分子内にただ一つだけのイソシアネート基を持つことが必要であるとされている。
【0013】
1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物を得る方法として、1分子中に3個以上のSi-H基を有するオルガノポリシロキサンと、末端に脂肪族不飽和基を有するイソシアネート化合物、例えばアリルイソシアネートを付加反応して得ることができる。しかしながら、アリルイソシアネートは沸点が低いこと、毒性が強いこと、
強い刺激臭があることから取り扱いに注意を要し、かつ高価であるため経済的にも好ましくない。
【0014】
また、同様に1分子中に3個以上のSi-H基を有するオルガノポリシロキサンと、末端に脂肪族不飽和基を有するアミン化合物、例えばアリルアミンを付加反応し、アミノポリシロキサンを得る。またはアリルアミンに代え、アミノ基をトリアルキルシリル基で保護した化合物、例えばN,N-ビストリメチルシリルアリルアミンを付加した後、保護基を外すことによってもアミノポリシロキサンを得ることができる。
【0015】
次に、こうして得たアミノポリシロキサンをハロゲン化ギ酸エステル、例えばクロロギ酸フェニルと反応させてカルバミン酸フェニル誘導体とした後、熱分解反応によってカルバミン酸フェニル基をイソシアネート基に変換して得ることができる。しかしながら、カルバミン酸フェニル基の熱分解反応は通常150~250℃の高温を要するため、反応中にゲル化して目的物が得られないこともある。またゲル化しなかった場合でも、生成物が高粘度状物となり、しかも黄色から褐色に着色して不透明化してしまうため樹脂の架橋剤として使用することに適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開平08-104755号公報
【文献】特開2001-026593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、架橋剤として好適な1分子中に3個以上のイソシアネート基を有し、かつ低粘度で取り扱い性に優れる有機ケイ素化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明では、下記一般式(1)で表されるイソシアネート基含有有機ケイ素化合物であって、
R1
aR2
bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式(1)中、R1は脂肪族不飽和基を有しない同種又は異種の、炭素数が1~10である1価のアルキル基、フッ素置換アルキル基、炭素数が6~10である1価のアリール基、又は炭素数が7~10である1価のアラルキル基、R2は式-CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2NCOで表される有機基であり、a、bはそれぞれ0.9≦a≦1.9、0.25≦b≦1.1、1.9≦a+b≦2.8を満足する正数である。)
R2基を1分子中に3個以上有し、かつ25℃における粘度が100mm2/s以下のものであることを特徴とするイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を提供する。
【0019】
このような化合物であれば、架橋剤として好適な1分子中に3個以上のイソシアネート基を有し、かつ低粘度で取り扱い性に優れる有機ケイ素化合物を得ることができる。
【0020】
また、本発明では、前記イソシアネート基含有有機ケイ素化合物が下記一般式(2)で表されるものであることを特徴とするイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を提供する。
R1
2R3SiO(SiR1
2O)c(SiR1R2O)dSiR1
2R3 (2)
(式(2)中、R1、R2は前記の通りである。R3はR1又はR2の何れかであり、cは0~20の整数、dは1~10の整数、c+dは1~30の整数である。)
【0021】
このような化合物であれば、本発明の効果をより向上させることができる。
【0022】
また、本発明では、前記イソシアネート基含有有機ケイ素化合物が下記一般式(3)で表されるものであることを特徴とするイソシアネート基含有有機ケイ素化合物も提供する。
R1
eSi(OSiR1
2R2)f (3)
(式(3)中、R1、R2は前記の通りであり、eは0又は1、fは3又は4、e+fは4である。)
【0023】
このような化合物によっても、本発明の効果をより向上させることができる。
【0024】
また、本発明では、前記イソシアネート基含有有機ケイ素化合物が下記一般式(4)で表されるものであることを特徴とするイソシアネート基含有有機ケイ素化合物も提供する。
【化1】
(式(4)中、R
1、R
2は前記の通りであり、gは0~2の整数、hは3~5の整数、g+hは3~7の整数である。)
【0025】
このような化合物によっても、本発明の効果をより向上させることができる。
【0026】
また、本発明では、下記一般式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
R1
aHbSiO(4-a-b)/2 (5)
(式(5)中、R1、a、及びbは前記の通りである。)
CH2=CHSi(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2NCOを付加反応することを特徴とするイソシアネート基含有有機ケイ素化合物の製造方法を提供する。
【0027】
このような化合物の製造方法であれば、架橋剤として好適な1分子中に3個以上のイソシアネート基を有し、かつ低粘度で取り扱い性に優れる有機ケイ素化合物を得ることができる。
【0028】
また、本発明では、下記一般式(6)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
R1
2R4SiO(SiR1
2O)c(SiR1HO)dSiR1
2R4 (6)
(式(6)中、R1、c、及びdは前記の通りであり、R4はR1又はHの何れかである。)
CH2=CHSi(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2NCOを付加反応することを特徴とするイソシアネート基含有有機ケイ素化合物の製造方法を提供する。
【0029】
このような化合物の製造方法であれば、一般式(2)に記載のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を効率よく製造することができる。
【0030】
また、本発明では、下記一般式(7)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
R1
eSi(OSiR1
2H)f (7)
(式(7)中、R1、e、及びfは前記の通りである。)
CH2=CHSi(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2NCOを付加反応することを特徴とするイソシアネート基含有有機ケイ素化合物の製造方法を提供する。
【0031】
このような化合物の製造方法によって、一般式(3)に記載のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を効率よく製造することができる。
【0032】
また、本発明では、下記一般式(8)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
【化2】
(式(8)中、R
1、g及びhは前記の通りである。)
CH
2=CHSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2CH
2CH
2CH
2NCOを付加反応することを特徴とするイソシアネート基含有有機ケイ素化合物の製造方法を提供する。
【0033】
このような化合物の製造方法によって、一般式(4)に記載のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の有機ケイ素化合物は、水酸基やアミノ基との反応性が高いイソシアネート基を1分子中に3個以上有しているにもかかわらず、25℃における粘度が100mm2/s以下と低粘度である。低粘度であるためポリマー型ポリオール化合物、あるいはポリマー型ポリアミン化合物との均一混合が容易であり、混合後の脱泡もしやすくなるため硬化成型物を得るための硬化剤として有用である。また、透明であることから硬化成型物が不透明化することもない。
【発明を実施するための形態】
【0035】
上述のように、架橋剤として好適な1分子中に3個以上のイソシアネート基を有し、かつ低粘度で取り扱い性に優れる有機ケイ素化合物の開発が求められていた。
【0036】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、下記特定構造のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を見出し、本発明をなすに至った。
【0037】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表されるイソシアネート基含有有機ケイ素化合物であって、
R1
aR2
bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式(1)中、R1は脂肪族不飽和基を有しない同種又は異種の、炭素数が1~10である1価のアルキル基、フッ素置換アルキル基、炭素数が6~10である1価のアリール基、又は炭素数が7~10である1価のアラルキル基、R2は式-CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2NCOで表される有機基であり、a、bはそれぞれ0.9≦a≦1.9、0.25≦b≦1.1、1.9≦a+b≦2.8を満足する正数である。)
R2基を1分子中に3個以上有し、かつ25℃における粘度が100mm2/s以下のものであることを特徴とするイソシアネート基含有有機ケイ素化合物である。
【0038】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
本発明のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物は下記一般式(1)で表され、
R1
aR2
bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式(1)中、R1は脂肪族不飽和基を有しない同種又は異種の、炭素数が1~10で1価のアルキル基、フッ素置換アルキル基、炭素数が6~10である1価のアリール基、又は炭素数が7~10である1価のアラルキル基、R2は式-CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2NCOで表される有機基であり、a、bはそれぞれ0.9≦a≦1.9、0.25≦b≦1.1、1.9≦a+b≦2.8を満足する正数である。)
R2基を1分子中に3個以上有し、かつ25℃における粘度が100mm2/s以下であるイソシアネート基含有有機ケイ素化合物である。
なお、上記粘度は改良オストワルド型毛細管粘度計を用い、25℃で測定したものである。
【0040】
R1は直鎖、分岐鎖、環状の何れでも良く、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の飽和脂環式炭化水素基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;トリフロロプロピル基、ノナフロロヘキシル基等のフッ素置換アルキル基などを挙げることができるが、好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0041】
aは0.9~1.9であるが、好ましくは1.0~1.8であり、bは0.25~1.1であるが、好ましくは0.4~1.0であり、a+bは1.9~2.8であるが、好ましくは2.0~2.6である。これはaが0.9より小さいと本化合物を形成するケイ素単位が経済的に好ましくなく高価となり、1.9より大きいとR2基を1分子中に3個以上で、かつ25℃における粘度を100mm2/s以下とすることが難しくなる。bが0.25より小さいとR2基を1分子中に3個以上で、かつ25℃における粘度を100mm2/s以下とすることが難しくなり、1.1より大きいと本化合物を形成するケイ素単位が経済的に好ましくなくなる。a+bが1.9より小さいと本化合物を形成するケイ素単位が経済的に好ましくなくなり、2.8より大きいとR2基を1分子中に3個以上で、かつ25℃における粘度を100mm2/s以下とすることが難しくなる。
【0042】
本発明のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物は、下記一般式(2)~(4)で表されるいずれかのものであることが好ましい。
【0043】
本発明のイソシアネート基含有有機ケイ素化合は、好ましくは、下記一般式(2)で表される直鎖構造のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物であって、
R1
2R3SiO(SiR1
2O)c(SiR1R2O)dSiR1
2R3 (2)
(式(2)中、R1、R2は前記の通りである。R3はR1またはR2の何れかであり、かつR2基を1分子中に3個以上有し、cは0~20の整数、dは1~10の整数、c+dは1~30の整数である。)
かつ25℃における粘度が100mm2/s以下のものである。
【0044】
cは0~20であるが、好ましくは0~10であり、dは1~10であるが、好ましくは1~5であり、c+dは1~30であるが、好ましくは1~10である。cが20以下だとR2基を1分子中に3個以上で、かつ25℃における粘度を100mm2/s以下とすることが容易となり、dが10以下、c+dが30以下だと、同様に25℃における粘度を100mm2/s以下とすることが容易となる。また、必要に応じて、シロキサンを構成する単位としてR1SiO1.5単位、あるいはSiO2単位を含んでいても良い。
【0045】
また、本発明のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物は、好ましくは、下記一般式(3)で表される分岐構造のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物であって、
R1
eSi(OSiR1
2R2)f (3)
(式(3)中、R1、R2は前記の通りであり、eは0または1、fは3または4、e+fは4である。)
R2基を1分子中に3~4個有し、かつ25℃における粘度が100mm2/s以下のものである。
【0046】
さらにまた、本発明のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物は好ましくは、下記一般式(4)で表される環状構造のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物であって、
【化3】
(式(4)中、R
1、R
2は前記の通りであり、gは0~2の整数、hは3~5の整数、g+hは3~7の整数である。)
R
2基を1分子中に3個以上有し、かつ25℃における粘度が100mm
2/s以下のものである。
【0047】
本発明であれば、所望の直鎖、分岐、環状といった構造を有する上記一般式(2)~(4)で表されるイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を提供できる。
【0048】
以下、上記一般式(1)~(4)で示される化合物の製造方法を説明する。
【0049】
本発明のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物は、下記一般式(5)~(8)で示される化合物に対応するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、アルケニル基含有イソシアネート化合物CH2=CHSi(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2NCOとをヒドロシリル化反応させることで得ることができる。
【0050】
本発明の一般式(1)で表されるイソシアネート基含有有機ケイ素化合物は、下記一般式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、前記アルケニル基含有イソシアネート化合物とを白金系触媒などの存在下にハイドロシリレーションすることによって得ることができる。
R1
aHbSiO(4-a-b)/2 (5)
(式(5)中、R1、a、及びbは前記の通りである。)
【0051】
同様に、目的物が一般式(2)で表される直鎖構造の化合物である場合は、下記一般式(6)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、前記アルケニル基含有イソシアネート化合物とを付加反応することによって得ることができる。
R1
2R4SiO(SiR1
2O)c{SiR1(H)O}dSiR1
2R4 (6)
(式(6)中、R1、c、及びdは前記の通りであり、R4はR1またはHの何れかである。)
【0052】
目的物が一般式(3)で表される分岐構造の化合物である場合は、下記一般式(7)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、前記アルケニル基含有イソシアネート化合物とを付加反応することによって得ることができる。
R1
eSi(OSiR1
2H)f (7)
(式(7)中、R1、e、及びfは前記の通りである。)
【0053】
さらに目的物が一般式(4)で表される環状構造の化合物である場合は、下記一般式(8)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、前記アルケニル基含有イソシアネート化合物とを付加反応することによって得ることができる。
【化4】
(式(8)中、R
1、R
2、g及びhは前記の通りである。)
【0054】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとアルケニル基含有イソシアネート化合物との付加反応は従来公知の方法に従い行えばよい。例えば、一般式(5)~(8)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子に直接結合した水素原子1モルに対し、アルケニル基含有イソシアネート化合物1モル当量以上を添加して反応させればよい。反応温度は特に制限されるものでないが、使用する溶媒の沸点を超えない程度の温度が好ましい。例えば、約0℃から約120℃の温度で行われるのがよい。該反応は溶媒、ヒドロシリル化触媒、又は安定剤の存在下で行ってもよい。溶媒及びヒドロシリル化触媒及び安定剤は従来公知のものであればよく、特に制限されるものでない。
【0055】
該反応においてアルケニル基含有イソシアネート化合物は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子に直接結合した水素原子1モルに対して1モル当量以上を添加することが好ましい。より好ましくは1.0~3.0モル当量であり、更に好ましくは1.1~2.0モル当量であり、特に好ましくは1.2~1.5モル当量である。
【0056】
ヒドロシリル化触媒は、例えば、貴金属触媒、特には塩化白金酸から誘導される白金触媒が好ましい。特に、塩化白金酸の塩素イオンを重曹で完全中和して白金触媒の安定性を向上させるのがよい。例えば、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサンと塩化白金酸の重曹中和物との錯体(Karstedt触媒)がより好ましい。
【0057】
ヒドロシリル化触媒の添加量は上記反応を進行させるための触媒量であればよい。例えば、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサンと塩化白金酸の重層中和物との錯体を、式(5)~(8)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物の質量に対し、白金換算量で1ppm~80ppmとなる量で使用すればよい。
【0058】
白金系触媒の存在下に行う付加反応は無溶媒でも良いし、イソオクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、モノグライム、ジグライム等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン等の非プロトン性溶媒を使用しても良い。
【0059】
付加反応に使用するイソシアネート化合物CH2=CHSi(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2NCOは、下記(A)~(C)の公知の方法により合成できる。
(A)CH2=CHSi(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2NH2とホスゲンとの反応によるイソシアネート化
(B)CH2=CHSi(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2Iとシアン酸カリウムとの反応によるイソシアネート化
(C)CH2=CHSi(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2NH2とクロルギ酸フェニル、あるいは炭酸ジフェニルとの反応からCH2=CHSi(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2NHCOOPhで示されるカルバミン酸フェニルエステルを得、次いで熱分解反応によるイソシアネート化
以上のうち好ましくは(C)の合成方法であって、前記特許文献1に開示されているトリアルキルクロロシランと酸捕捉剤の存在下、カルバミン酸フェニルエステルを熱分解する方法である。
【0060】
以上のように、所望の構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを原料とすることにより、本発明のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を製造することができ、直鎖、分岐、環状といった構造を容易に作り分けることもできる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、粘度は改良オストワルド型毛細管粘度計を用いて温度25℃で測定した。
【0062】
[合成例]
フラスコに炭酸カリウム331.2g、水300.0gを仕込み、均一溶解した。次いで酢酸エチル180.0g、トルエン150.0gを加え、フラスコを氷冷してから下記のアミノビニルジシロキサン217.0gを加えた。
【化5】
続いてクロロギ酸フェニル156.5gを内温が10℃を超えない速度で滴下した。内温を10℃以下に維持し、さらに2時間反応後、水800gを加えて生成した塩を溶解した。水層を分離後、有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、得られた溶液を減圧下で濃縮し、下記のカルバミン酸フェニル誘導体336.1gを得た。
【0063】
【化6】
次に、フラスコへ上記で合成したカルバミン酸フェニル誘導体336.1g、キシレン300.0gを仕込んだ。トリエチルアミン131.0gを加え、内温が80℃になるよう加熱してからトリメチルクロルシラン129.9gを滴下した。滴下終了後、100℃で1時間、次いで120℃で6時間加熱撹拌した。室温まで冷却後、生成した塩を濾過し、濾液を水300gで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、減圧蒸留することにより目的物である下記の1-(3-イソシアネートプロピル)-1,1,3,3-テトラメチル-3-ビニルジシロキサン[A]155.3gを得た。
【0064】
【化7】
沸点は64.0~65.0℃/300Paであり、ガスクロマトグラフィーによる純度は99.9%であった。
【0065】
[実施例1]
フラスコに合成例で得たイソシアネートビニルジシロキサン[A]121.5gを仕込み、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した後、内温を70℃に加熱した。Karstedt触媒(白金濃度3%)0.04gを添加した後、下記式[H-1]で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン27.3gを滴下した。滴下終了後110℃で5時間反応を行った。
【化8】
反応後未反応物を減圧下に加熱溜去し、下記式[I-1]のイソシアネートシロキサン126.1gを得た。
【0066】
【化9】
一般式(1)においてa=1、b=1。一般式(4)においてg=0、h=4、R
1=メチル基。外観は無色透明な液状で、25℃における粘度は41.6mm
2/s、イソシアネート当量は318g/モルであった。
【0067】
[実施例2]
フラスコに合成例で得たイソシアネートビニルジシロキサン[A]126.0gを仕込み、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した後、内温を70℃に加熱した。Karstedt触媒(白金濃度3%)0.06gを添加した後、下記式[H-2]で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン40.3gを滴下した。滴下終了後110℃で5時間反応を行った。
【化10】
反応後未反応物を減圧下に加熱溜去し、下記式[I-2]のイソシアネートシロキサン140.4gを得た。
【0068】
【化11】
一般式(1)においてa=1.75、b=0.75。一般式(3)においてe=1、f=3、R
1=メチル基。外観は無色透明な液状で、25℃における粘度は20.7mm
2/s、イソシアネート当量は359g/モルであった。
【0069】
[実施例3]
フラスコに合成例で得たイソシアネートビニルジシロキサン[A]91.9gを仕込み、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した後、内温を70℃に加熱した。Karstedt触媒(白金濃度3%)0.04gを添加した後、下記式[H-3]で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン38.2gを滴下した。滴下終了後110℃で5時間反応を行った。
【化12】
反応後未反応物を減圧下に加熱溜去し、下記式[I-3]のイソシアネートシロキサン103.4gを得た。
【0070】
【化13】
一般式(1)においてa=1.75、b=0.75。一般式(3)においてe=1、f=3、R
1=メチル基、デシル基。外観は無色透明な液状で、25℃における粘度は29.6mm
2/s、イソシアネート当量は382g/モルであった。
【0071】
[実施例4]
フラスコに合成例で得たイソシアネートビニルジシロキサン[A]78.4gを仕込み、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した後、内温を70℃に加熱した。Karstedt触媒(白金濃度3%)0.04gを添加した後、下記式[H-4]で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン27.3gを滴下した。滴下終了後110℃で5時間反応を行った。
【化14】
反応後未反応物を減圧下に加熱溜去し、下記式[I-4]のイソシアネートシロキサン83.0gを得た。
【0072】
【化15】
一般式(1)においてa=1.75、b=0.75。一般式(3)においてe=1、f=3、R
1=メチル基、フェニル基。外観は無色透明な液状で、25℃における粘度は28.6mm
2/s、イソシアネート当量は374g/モルであった。
【0073】
[実施例5]
フラスコに合成例で得たイソシアネートビニルジシロキサン[A]79.7gを仕込み、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した後、トルエンを20ml加え、内温を70℃に加熱した。Karstedt触媒(白金濃度3%)0.06gを添加した後、下記式〔H-5〕で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン16.4gを滴下した。滴下終了後110℃で5時間反応を行った。
【化16】
反応後、溶媒と未反応物を減圧下に加熱溜去し、下記式[I-5]のイソシアネートシロキサン77.8gを得た。
【0074】
【化17】
一般式(1)においてa=1、b=1。一般式(4)においてg=0、h=5、R
1=メチル基。外観は淡黄色透明な液状で、25℃における粘度は70.6mm
2/s、イソシアネート当量は369g/モルであった。
【0075】
[実施例6]
フラスコに合成例で得たイソシアネートビニルジシロキサン[A]90.4gを仕込み、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した後、トルエンを15ml加え、内温を70℃に加熱した。Karstedt触媒(白金濃度3%)0.04gを添加した後、下記式[H-6]で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン25.4gを滴下した。滴下終了後110℃で5時間反応を行った。
【化18】
反応後、溶媒と未反応物を減圧下に加熱溜去し、下記式[I-6]のイソシアネートシロキサン94.7gを得た。
【0076】
【化19】
一般式(1)においてa=1.6、b=0.8。一般式(3)においてe=0、f=4、R
1=メチル基。外観は無色透明な液状で、25℃における粘度は29.2mm
2/s、イソシアネート当量は375g/モルであった。
【0077】
[実施例7]
フラスコに下記式[H-7]で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン25.0gを仕込み、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した後、トルエンを15ml加え、内温を70℃に加熱した。Karstedt触媒(白金濃度3%)0.06gを添加した後、合成例で得たイソシアネートビニルジシロキサン[A]34.8gを滴下した。滴下終了後110℃で5時間反応を行った。
【化20】
反応後、溶媒と未反応物を減圧下に加熱溜去し、下記式[I-7]のイソシアネートシロキサン47.9gを得た。
【0078】
【化21】
一般式(1)においてa=1.82、b=0.29。一般式(2)においてc=10、d=5、R
1=R
3=メチル基。外観は黄色透明な液状で、25℃における粘度は84.1mm
2/s、イソシアネート当量は553g/モルであった。
【0079】
[実施例8]
フラスコに合成例で得たイソシアネートビニルジシロキサン[A]51.2gを仕込み、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した後、内温を70℃に加熱した。Karstedt触媒(白金濃度3%)0.06gを添加した後、下記式[H-8]で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン15.0gを滴下した。滴下終了後、110℃で5時間反応を行った。
【化22】
反応後、未反応物を減圧下に加熱溜去し、下記式[I-8]のイソシアネートシロキサン51.1gを得た。
【0080】
【化23】
一般式(1)においてa=1.25、b=0.75。一般式(4)においてg=1、h=3、R
1=メチル基、プロピル基。外観は淡黄色透明な液状で、25℃における粘度は34.0mm
2/s、イソシアネート当量は383g/モルであった。
【0081】
このように本発明であれば、架橋剤として好適な1分子中に3個以上のイソシアネート基を有し、かつ低粘度で取り扱い性に優れる有機ケイ素化合物を得ることができる。架橋剤の例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート誘導体として、イソシアヌレート型の商品名デュラネートTKA-100が挙げられ、その密度を1g/cm3と仮定すると、その粘度は2600mm2/sとなるが、これに対して本発明の粘度は100mm2/s以下であるため低粘度である。また、本発明の有機ケイ素化合物は低粘度であるためポリマー型ポリオール化合物、あるいはポリマー型ポリアミン化合物との均一混合が容易であり、混合後の脱泡もしやすくなるため硬化成型物を得るための硬化剤として有用である。
【0082】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。