(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】抵抗溶接部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
B23K11/11 540
(21)【出願番号】P 2020073130
(22)【出願日】2020-04-15
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭兵
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
(72)【発明者】
【氏名】伊原 涼平
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123350(WO,A1)
【文献】特開2015-093282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材強度が980MPa以上のめっき高張力鋼板を少なくとも1枚含む3枚以上の鋼板からなる抵抗溶接部材の製造方法であって、
前記鋼板を第一加圧力P1で加圧しながら第一電流値I1で通電することによりナゲットを形成する本通電工程と、
前記本通電工程後に、前記第一加圧力P1よりも高い第二加圧力P2で加圧しながら電流値が前記第一電流値I1から漸減するように通電する後通電工程と、
前記後通電後に、前記第二加圧力P2を維持したまま電極を保持する電極保持工程を有し、
下記式(1)~(3)を満足する条件で、前記鋼板を接合することを特徴とする抵抗溶接部材の製造方法。
A≧1.9 ・・・式(1)
ただし、A=P2/tであり、P2:前記第二加圧力[kN]、t:前記鋼板の総板厚[mm]をそれぞれ示す。
0≦Tdl≦200 ・・・式(2)
ただし、Tdl:前記第一電流値I1での通電終了時と、前記第二加圧力P2での加圧開始時との時間差である加圧上昇遅延時間[ms]を示す。
B≦Tds≦C ・・・式(3)
ただし、B=0.0011Tht
2-2.64Tht+1284.8であり、C=0.0015Tht
2-2.52Tht+1268.6であり、Tds:前記後通電工程におけるダウンスロープ時間[ms],Tht:前記電極保持工程における電極保持時間[ms]をそれぞれ示す。
【請求項2】
前記Thtが、下記式(4)を満足することを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接部材の製造方法。
Tht<700 ・・・式(4)
【請求項3】
前記電極の先端径が4mm~10mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の抵抗溶接部材の製造方法。
【請求項4】
溶接機としてサーボ加圧式溶接機を使用し、
前記電極による前記鋼板の圧痕深さが0.15mm以上となったとき、前記通電のみ又は前記通電及び前記加圧を強制的に終了させる制御を行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の抵抗溶接部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接部材の製造方法に関し、特に、少なくとも1枚のめっき鋼板を含む3枚以上の板組の両面を一対の電極で挟み込んで通電することによりスポット溶接する抵抗溶接部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき高張力鋼板では、鋼中成分に起因して、溶接部で溶融金属脆性割れ(以下、LME割れとも言う。)が発生する。特に、3枚以上の板組になると、ナゲット内割れやコロナボンド内部を起点とした割れ(以下、コロナボンド内割れとも言う。)が発生しやすくなる。特許文献1には、亜鉛系めっき鋼板を含む板組のスポット溶接において、電極間の溶接通電終了時から、電極と被溶接部材とを非接触とするまでの溶接後保持時間を、鋼板の総板厚に応じて設定することにより、外乱因子が存在する場合であっても、コロナボンド直外及びコロナボンドのナゲット際の割れを抑制することができ、高品質のスポット溶接継手が得られるとしたスポット溶接方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、3枚以上の板組のスポット溶接では、特許文献1に記載された溶接後保持時間を制御するだけではLME割れを防止することが困難であった。また、特許文献1には、加圧制御の有無や後通電と保持時間の関係に関しても何ら規定されておらず、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、少なくとも1枚のめっき鋼板を含む3枚以上の板組のスポット溶接において、ナゲット内割れ及びコロナボンド内割れを抑制できる抵抗溶接部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明の上記目的は、抵抗溶接部材の製造方法に係る下記(1)の構成により達成される。
【0007】
(1) 母材強度が980MPa以上のめっき高張力鋼板を少なくとも1枚含む3枚以上の鋼板からなる抵抗溶接部材の製造方法であって、
前記鋼板を第一加圧力P1で加圧しながら第一電流値I1で通電することによりナゲットを形成する本通電工程と、
前記本通電工程後に、前記第一加圧力P1よりも高い第二加圧力P2で加圧しながら電流値が前記第一電流値I1から漸減するように通電する後通電工程と、
前記後通電後に、前記第二加圧力P2を維持したまま電極を保持する電極保持工程を有し、
下記式(1)~(3)を満足する条件で、前記鋼板を接合することを特徴とする抵抗溶接部材の製造方法。
A≧1.9 ・・・式(1)
ただし、A=P2/tであり、P2:前記第二加圧力[kN]、t:前記鋼板の総板厚[mm]をそれぞれ示す。
0≦Tdl≦200 ・・・式(2)
ただし、Tdl:前記第一電流値I1での通電終了時と、前記第二加圧力P2での加圧開始時との時間差である加圧上昇遅延時間[ms]を示す。
B≦Tds≦C ・・・式(3)
ただし、B=0.0011Tht2-2.64Tht+1284.8であり、C=0.0015Tht2-2.52Tht+1268.6であり、Tds:前記後通電工程におけるダウンスロープ時間[ms],Tht:前記電極保持工程における電極保持時間[ms]をそれぞれ示す。
【0008】
また、抵抗溶接部材の製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)~(4)に関する。
【0009】
(2) 前記Thtが、下記式(4)を満足することを特徴とする(1)に記載の抵抗溶接部材の製造方法。
Tht<700 ・・・式(4)
【0010】
(3) 前記電極の先端径が4mm~10mmであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の抵抗溶接部材の製造方法。
【0011】
(4) 溶接機としてサーボ加圧式溶接機を使用し、
前記電極による前記鋼板の圧痕深さが0.15mm以上となったとき、前記通電のみ又は前記通電及び前記加圧を強制的に終了させる制御を行うことを特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載の抵抗溶接部材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抵抗溶接部材の製造方法によれば、鋼板を第一加圧力P1で加圧しながら第一電流値I1で通電する本通電工程と、本通電工程後に、第一加圧力P1よりも高い第二加圧力P2で加圧しながら電流値が第一電流値I1から漸減するように通電する後通電工程と、後通電後に、前記第二加圧力P2を維持したまま電極を保持する電極保持工程を設けており、本通電後にダウンスロープによる後通電を行うとともに、ダウンスロープ中に加圧力を上昇させるので、母材強度が980MPa以上のめっき高張力鋼板を3枚以上スポット溶接しても、ナゲットの収縮を抑制して溶接部に作用する引張応力を低減できる。
また、第二加圧力P2と鋼板の総板厚t、第一電流値I1と第二電流値I2、及び、後通電のダウンスロープ時間Tw2と後通電終了後の電極保持時間Thtのそれぞれが、所定の関係を満足するように制御することで、電極開放時の溶接部温度と引張応力を適正化してナゲット内割れ及びコロナボンド内割れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本通電工程、後通電工程及び電極保持工程における、電流値と加圧力との関係を示す通電パターンのグラフである。
【
図2】
図2は、電極保持時間Tht及びダウンスロープ時間Tdsと、LME割れの有無との関係を示す実験結果のグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1の溶接部を示す断面写真(図面代用写真)である。
【
図4】
図4は、実施例5の溶接部を示す断面写真(図面代用写真)である。
【
図5】
図5は、実施例7の溶接部を示す断面写真(図面代用写真)である。
【
図6】
図6は、比較例1の溶接部を示す断面写真(図面代用写真)である。
【
図7】
図7は、比較例6の溶接部を示す断面写真(図面代用写真)である。
【
図8】
図8は、比較例7の溶接部を示す断面写真(図面代用写真)である。
【
図9】
図9は、比較例11の溶接部を示す断面写真(図面代用写真)である。
【
図10】
図10は、比較例18の溶接部を示す断面写真(図面代用写真)である。
【
図11】
図11は、比較例20の溶接部を示す断面写真(図面代用写真)である。
【
図12】
図12は、比較例22の溶接部を示す断面写真(図面代用写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る抵抗溶接部材の製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の抵抗溶接部材の製造方法における本通電工程、後通電工程及び電極保持工程における、電流値と加圧力との関係を示すグラフである。
【0015】
本発明に係る抵抗溶接部材の製造方法は、母材強度が980MPa以上のめっき高張力鋼板を少なくとも1枚含む、3枚以上のめっき高張力鋼板からなる抵抗溶接部材(被溶接部材)に対し、本通電工程、後通電工程及び電極保持工程を経て、上記抵抗溶接部材を溶接する製造方法である。
【0016】
具体的には、3枚以上のめっき高張力鋼板を重ね合わせて一対の溶接電極で挟持し、第一加圧力P1で加圧しながら、第一電流値I1で通電時間Tw1の間通電して、本通電を行う。次いで、第一加圧力P1よりも高い第二加圧力P2で加圧しながら、ダウンスロープ時間Tdsの間に電流値が第一電流値I1から漸減するダウンスロープによる後通電を行う。そして、第二加圧力P2を維持したまま、後通電終了時から電極保持時間Tht経過後に、溶接電極とめっき高張力鋼板とを非接触状態(すなわち、電極開放状態)として、めっき高張力鋼板を抵抗溶接する。
【0017】
本発明に係る抵抗溶接部材の製造方法では、上記の抵抗溶接の際、下記式(1)~(3)を満足するように各パラメータが制御される。
【0018】
A≧1.9 ・・・式(1)
ただし、A=P2/tであり、P2:前記第二加圧力[kN]、t:前記鋼板の総板厚[mm]をそれぞれ示す。
【0019】
0≦Tdl≦200 ・・・式(2)
ただし、Tdl:前記第一電流値I1での通電終了時と、前記第二加圧力P2での加圧開始時との時間差である加圧上昇遅延時間[ms]を示す。
【0020】
B≦Tds≦C ・・・式(3)
ただし、B=0.0011Tht2-2.64Tht+1284.8であり、C=0.0015Tht2-2.52Tht+1268.6であり、Tds:前記後通電工程における通電時間[ms],Tht:前記電極保持工程における電極保持時間[ms]をそれぞれ示す。
【0021】
また、本発明に係る抵抗溶接部材の製造方法では、上記の抵抗溶接の際、好ましい条件として、下記式(4)を満足するように各パラメータが制御される。
【0022】
Tht<700 ・・・式(4)
【0023】
<式(1)について>
上記の抵抗溶接の際、式(1)を満足する条件で溶接を行うことで、3枚以上のめっき高張力鋼板の抵抗溶接においても、ナゲットの収縮を十分に抑制することができ、結果としてナゲットやコロナボンド内部に生じる引張応力が低減する。なお、第二加圧力P2の上限は特に定めないが、第二加圧力P2が15kN以上になると溶接電極が過度に変形する可能性があるため、P2<15kNとするのが好ましい。
【0024】
<式(2)について>
第一電流値I1での通電終了時と、第二加圧力P2での加圧開始時との時間差である加圧上昇遅延時間Tdlは、式(2)を満足する条件範囲に制御される必要がある。なお、加圧上昇遅延時間Tdlについて、第一電流値I1での通電終了よりも前に第二加圧力P2が上昇する場合(すなわち、ダウンスロープ開始前に加圧上昇する場合)は負の値、第一電流値I1での通電終了よりも後に第二加圧力P2が上昇する場合(すなわち、ダウンスロープ開始後に加圧上昇する場合)は正の値とする。
【0025】
上記Tdlが0ms未満であると、ナゲットの収縮が始まる前に加圧力上昇が起こるため、熱影響部に生じる引張応力を低減する効果が得られないおそれがある。また、上記Tdlが200msを超えると、ナゲットの凝固部分が多くなり、剛性が高まるため、収縮を抑えきれなくなり、狙いの効果が得られないおそれがある。
【0026】
<式(3)及び式(4)について>
後通電工程におけるダウンスロープには溶接部を徐冷する効果があり、継手内の温度勾配が低くなるため、電極開放時のナゲットやコロナボンド内部に生じる引張応力を低減できる。ダウンスロープ時間Tdsが短すぎると、徐冷の効果が得られない。一方、ダウンスロープ時間Tdsが長すぎると、電極開放時の温度が高くなり、溶接部の破壊応力が低くなる。
【0027】
また、電極保持時間Thtが長時間化すると、電極開放時の溶接部温度が低下する。その結果、割れの原因となる溶融亜鉛量が低減するとともに、溶接部の破壊応力が高まる。その一方、継手内の温度勾配は大きくなるため、電極開放時のナゲットやコロナボンド内部に生じる引張応力が高くなる。
【0028】
上記した理由から、後述する実施例の結果(
図2を参照)で示すように、ダウンスロープ時間Tdsと電極保持時間Thtには適正な条件範囲が存在する。この適正条件は、式(3)を満足する条件である。また、同様の理由により電極保持時間Thtは、式(4)を満足することが好ましい。
【0029】
<電極の先端径について>
本発明に係る抵抗溶接部材の製造方法で用いる電極の先端径は4mm~10mmであることが好ましく、6mm~8mmであることがさらに好ましい。電極の先端径は4mm~10mmであることにより、板と接する面積が小さく、電極接触部での面圧が高まることで、加圧によるナゲット収縮の抑制がしやすくなることから、LME割れを効果的に防止できる。電極径がこの範囲より小さくなると、ナゲットが大きくなる前にチリが発生し、十分な継手強度が得られない。逆に、電極径がこの範囲より大きくなると、ナゲット生成に必要な電流値が大きくなり、通常の抵抗溶接機での製造が困難になる。
【0030】
<電極の変位量の制御について>
通電中に加圧すると、溶融しているナゲットの剛性が低いため、必要以上にナゲットが押しつぶされ、溶融金属が外部へ排出される、いわゆるチリが発生するおそれがある。同時に、電極による鋼板の圧痕深さ(すなわち電極による鋼板への押し込み量)が大きくなり、電極圧痕部及びその周囲にLME割れが発生しやすくなる。これを効果的に防止するためには、電極の最大変位量を所定の数値にあらかじめ設定しておき、具体的には、電極による鋼板の圧痕深さが0.15mm以上となったとき、通電のみ又は通電及び加圧を強制的に終了させるための、例えば溶接機としてサーボ加圧式溶接機を使用した電気的による変位制御を行い、必要以上のナゲットの変形、ひいてはそれに伴う圧痕部の変形を抑制して、チリの発生を抑制することが好ましい。これにより、上記第二加圧力で加圧した際においても効果的にチリ発生を防止できる。
【実施例】
【0031】
本発明の効果を確認するため、本発明の抵抗溶接部材の製造方法に係る実施例と、該実施例と比較する比較例について説明する。
【0032】
[供試材]
溶接に用いられる供試材として、下記で示す2種のめっき鋼板を用いた。
略号S1:980MPa級GAめっき鋼板(Ceq=0.38)、板厚1.0mm
略号S2:980MPa級GAめっき鋼板(Ceq=0.38)、板厚1.4mm
ただし、炭素等量Ceq=C+Si/30+Mn/20+2P+4Sとする。なお、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
【0033】
[溶接条件]
以下条件は、すべての実施例及び比較例で共通とした。
板組 :同種材3枚重ね
溶接機:サーボ加圧式単相交流溶接機
打角 :5°
板隙 :各板間に1mm
電極 :上下電極ともクロム銅製のDR(ドームラジアス形)電極
(先端径:6mm又は8mmであり、各実施例及び比較例ごとに表1及び表2に記載、先端曲率半径40mm)
【0034】
また、供試材としての鋼板の種類、重ね合わせられた鋼板の総板厚t、第一加圧力P1[kN]、第二加圧力P2[kN]、第一電流値I1[kA]、本通電時間Tw1[ms]、ダウンスロープ時間Tds[ms]、加圧上昇遅延時間Tdl[ms]及び電極保持時間Tht[ms]については、各実施例及び比較例において表1及び表2に記載の通りとした。
なお、電極保持時間Thtについては実測値であり、溶接機に内蔵されたロードセルにて測定した加圧力およびウェルドチェッカーにより測定した電流値を、データロガーに読み込み、得られた電圧値を変換し計測した。また、電流値の絶対値が0.1kA以下となる時点を電極保持時間の開始時刻とし、加圧力が1kN以下となった時点を電極保持時間の終了時刻とした。
【0035】
得られた抵抗溶接継手に対して、ピクリン酸飽和水溶液を用いたエッチングにより断面マクロ観察を行い、ナゲット内割れ及びコロナボンド内割れの有無を調べた。なお、観察倍率は10倍とした。また、ナゲット内割れ及びコロナボンド内割れの評価について、割れが発生しなかったものを「○」(良好)、発生したものを「×」(不良)とした。
【0036】
各実施例及び比較例におけるナゲット内割れ及びコロナボンド内割れの評価結果を、上記溶接条件とともに表1及び表2に示す。また、各実施例及び比較例の一部における、電極保持時間Tht及びダウンスロープ時間Tdsと割れの有無との関係を
図2に示す。なお、
図2における「〇」はナゲット内割れ及びコロナボンド内割れのいずれも発生しなかったものを示し、「×」はナゲット内割れ及びコロナボンド内割れの少なくとも一方が発生したものを示している。さらに、表1における「A」~「C」は、上述の式(1)及び式(3)で説明したように、それぞれ下記のものを示している。
A=P2/t
B=0.0011Tht
2-2.64Tht+1284.8
C=0.0015Tht
2-2.52Tht+1268.6
【0037】
【0038】
【0039】
表1に示すように、実施例1~実施例13では、第二加圧力P2が上記式(1)の条件を満足し、加圧上昇遅延時間Tdlが上記式(2)の条件を満足し、かつ、ダウンスロープ時間Tdsと電極保持時間Thtの関係が上記式(3)の条件を満足しているため、ナゲット内割れ及びコロナボンド内の割れもいずれも発生しなかった。
【0040】
代表例として、
図3には、略号S1の鋼材(供試材)を用いた抵抗溶接継手の一例として実施例1の溶接部の断面写真を示す。また、
図4及び
図5は、いずれも略号S2の鋼材(供試材)を用いた実施例であって、
図4は電極の先端径が6mmの場合(実施例5)、
図5は、電極の先端径が8mmの場合(実施例7)の電極を用いた溶接部の断面写真である。
ここで、鋼種及び電極の先端径が異なったとしても、いずれの場合も式(1)、式(2)及び式(3)のすべての条件を満足することで、ナゲット内割れ及びコロナボンド内の割れもいずれも発生しないことが分かる。
【0041】
一方、本通電工程後において後通電工程として、第一加圧力P1よりも高い第二加圧力P2で加圧しなかった比較例1~6においては、ナゲット内割れ及びコロナボンド内割れの少なくとも一方が発生した。なお、比較例1においては、ダウンスロープによる後通電も行わなかった。
【0042】
代表例として、電極保持時間Thtが300msである比較例1の溶接部の断面写真を
図6に示し、電極保持時間Thtが600msである比較例6の溶接部の断面写真を
図7に示す。
図6及び
図7において矢印で示すように、いずれの溶接部においても、ナゲット内割れやコロナボンド内割れが発生していることが確認できる。
【0043】
また、比較例7~比較例18では、ダウンスロープ時間Tdsと電極保持時間Thtの関係が、式(3)の条件を満足しないため、ナゲット内割れ及びコロナボンド内割れの少なくとも一方が発生した。
【0044】
代表例として、Tds<Bである比較例7の溶接部の断面写真を
図8に示し、Tds=0である比較例11の溶接部の断面写真を
図9に示し、Tds>Cである比較例18の溶接部の断面写真を
図10にそれぞれ示す。
図8~
図10において矢印で示すように、いずれの溶接部でも、ナゲット内割れやコロナボンド内割れが発生していることが確認できる。
【0045】
さらに、比較例19及び比較例20では、加圧上昇遅延時間Tdlが式(2)の条件を満足せず、比較例21~比較例24では、第二加圧力P2が式(1)の条件を満足していないため、ナゲット内割れ及びコロナボンド内割れの少なくとも一方が発生した。
【0046】
代表例として、加圧上昇遅延時間Tdlが式(2)の条件を満足しない比較例20の溶接部の断面写真を
図11に示し、第二加圧力P2が式(1)の条件を満足しない比較例22の溶接部の断面写真を
図12にそれぞれ示す。
図11及び
図12において矢印で示すように、いずれの溶接部でも、ナゲット内割れやコロナボンド内割れが発生していることが確認できる。
【0047】
なお、
図2における曲線Bは「Tds=0.0011Tht
2-2.64Tht+1284.8」を示しており、曲線Cは「Tds=0.0015Tht
2-2.52Tht+1268.6」を示している。
図2の結果を参照すれば、上述した式(3)の条件を満足することの技術的意義が理解される。
【0048】
本発明は、前述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0049】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
【0050】
(1) 母材強度が980MPa以上のめっき高張力鋼板を少なくとも1枚含む3枚以上の鋼板からなる抵抗溶接部材の製造方法であって、
前記鋼板を第一加圧力P1で加圧しながら第一電流値I1で通電することによりナゲットを形成する本通電工程と、
前記本通電工程後に、前記第一加圧力P1よりも高い第二加圧力P2で加圧しながら電流値が前記第一電流値I1から漸減するように通電する後通電工程と、
前記後通電後に、前記第二加圧力P2を維持したまま電極を保持する電極保持工程を有し、
下記式(1)~(3)を満足する条件で、前記鋼板を接合することを特徴とする抵抗溶接部材の製造方法。
A≧1.9 ・・・式(1)
ただし、A=P2/tであり、P2:前記第二加圧力[kN]、t:前記鋼板の総板厚[mm]をそれぞれ示す。
0≦Tdl≦200 ・・・式(2)
ただし、Tdl:前記第一電流値I1での通電終了時と、前記第二加圧力P2での加圧開始時との時間差である加圧上昇遅延時間[ms]を示す。
B≦Tds≦C ・・・式(3)
ただし、B=0.0011Tht2-2.64Tht+1284.8であり、C=0.0015Tht2-2.52Tht+1268.6であり、Tds:前記後通電工程におけるダウンスロープ時間[ms],Tht:前記電極保持工程における電極保持時間[ms]をそれぞれ示す。
この構成によれば、めっき鋼板を含む3枚以上の板組のスポット溶接において、ナゲット内割れ及びコロナボンド内割れを抑制できる。
【0051】
(2) 前記Thtが、下記式(4)を満足することを特徴とする(1)に記載の抵抗溶接部材の製造方法。
Tht<700 ・・・式(4)
この構成によれば、電極保持時間Thtを適正な範囲に制御することで、LME割れが防止できる。
【0052】
(3) 前記電極の先端径が4mm~10mmであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の抵抗溶接部材の製造方法。
この構成によれば、LME割れを効果的に防止できる。
【0053】
(4) 前記電極による前記鋼板の加圧開始時から前記鋼板の板厚方向の変位量が0.2mmを超えたとき、前記通電を強制的に終了することを特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載の抵抗溶接部材の製造方法。
この構成によれば、必要以上のナゲットの変形、ひいてはそれに伴う圧痕部の変形を抑制し、チリの発生を抑制できる。
【符号の説明】
【0054】
P1 第一加圧力
P2 第二加圧力
I1 第一電流値
Tds ダウンスロープ時間
Tht 電極保持時間
Tdl 加圧上昇遅延時間
t 鋼板の総板厚