(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】無電解銅又は銅合金めっき浴及びめっきする方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/40 20060101AFI20230822BHJP
C23C 18/48 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C23C18/40
C23C18/48
(21)【出願番号】P 2020568240
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(86)【国際出願番号】 EP2019064616
(87)【国際公開番号】W WO2019234085
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-23
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511188635
【氏名又は名称】アトテック ドイチェランド ゲーエムベーハー ウント コ カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ローマン・ダーヴィト・クルコ
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン・ツァーヴェル
(72)【発明者】
【氏名】キリアーン・クレーデン
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ビルギット・ベック
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第103397316(CN,B)
【文献】国際公開第2013/146195(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/40
C23C 18/48
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)銅イオン、
b)銅イオンを金属銅に還元するのに適した少なくとも1つの還元剤、及び
c)銅イオン用の少なくとも1つの錯化剤
を含む、銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させるための無電解銅めっき浴であって、
d)式(1):
【化1】
(式中、
Z
1及びZ
2は独立して、水素、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、
及びスルホネート
基からなる群から選択され、但し、Z
1及びZ
2のうち少なくとも1つは、水素ではなく、
R
1、R
2、R
3及びR
4は、下記の通りに定義され:
i. R
1、R
2、R
3及びR
4は水素であるか、又は
ii. R
1はR
2とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R
3及びR
4は水素であるか、又は
iii. R
3はR
4とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R
1及びR
2は水素であるか、又は
iv. R
1はR
2とともに、並びにR
3はR
4とともに、それぞれ、置換又は無置換芳香環部分を形成している)
による少なくとも1つの化合物
を含
み、
12.5~14のpHを有することを特徴とする、無電解銅めっき浴。
【請求項2】
Z
1及びZ
2が独立して、水素、カルボン酸基及びカルボキシレート基からなる群から選択される、請求項
1に記載の無電解銅めっき浴。
【請求項3】
Z
1とZ
2が同じである、請求項1
または2に記載の無電解銅めっき浴。
【請求項4】
Z
1もZ
2も水素ではない、請求項1から
3のいずれか一項に記載の無電解銅めっき浴。
【請求項5】
R
1、R
2、R
3及びR
4が水素である、請求項1から
4のいずれか一項に記載の無電解銅めっき浴。
【請求項6】
式(1)による少なくとも1つの化合物の濃度が、1.0
*10
-6mol/L~5.0
*10
-3mol/Lの範囲である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の無電解銅めっき浴。
【請求項7】
式(1)による少なくとも1つの化合物の濃度が、4.0
*10
-6mol/L~4
*10
-3mol/Lの範囲である、請求項
6に記載の無電解銅めっき浴。
【請求項8】
式(1)による少なくとも1つの化合物の濃度が、2.0
*10
-5mol/L~6.5
*10
-4mol/Lの範囲である、請求項
7に記載の無電解銅めっき浴。
【請求項9】
少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる方法であって、以下の方法工程:
(i)表面を有する基板を用意する工程と、
(ii)基板の表面の少なくとも一部を、請求項1から
8のいずれか一項に記載の無電解銅めっき浴と接触させる工程と
をこの順序で含み、それにより、銅又は銅合金層を基板の表面の少なくとも一部上に析出させる、方法。
【請求項10】
方法工程(ii)の後に、下記の通りに定義される更なる方法工程(iii):
(iii)銅又は銅合金層を、電解銅めっき浴から析出させる工程
が含まれる、請求項
9に記載の少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる方法。
【請求項11】
請求項1から
8のいずれか一項に記載の無電解銅めっき浴を提供するための部品キットであって、下記部品A)~D):
A)銅イオンを含む溶液と、
B)銅イオンを金属銅に還元するのに適した少なくとも1つの還元剤を含む溶液と、
C)銅イオン用の少なくとも1つの錯化剤を含む溶液と、
D)式(1):
【化2】
(式中、
Z
1及びZ
2は独立して、水素、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、
及びスルホネート
基からなる群から選択され、但し、Z
1及びZ
2のうち少なくとも1つは、水素ではなく、
R
1、R
2、R
3及びR
4は、下記の通りに定義され:
i. R
1、R
2、R
3及びR
4は水素であるか、又は
ii. R
1はR
2とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R
3及びR
4は水素であるか、又は
iii. R
3はR
4とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R
1及びR
2は水素であるか、又は
iv. R
1はR
2とともに、並びにR
3はR
4とともに、それぞれ、置換又は無置換芳香環部分を形成している)
による少なくとも1つの化合物を含む溶液と
を含
み、
前記無電解銅めっき浴は、12.5~14のpHを有する、部品キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させるための無電解銅めっき浴、前記無電解めっき浴を利用して、少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる方法、本発明の無電解銅めっき浴から析出された銅又は銅合金層を含む層系、及び本発明の無電解銅めっき浴を提供するための部品キットに関する。
【背景技術】
【0002】
表面上への金属層の湿式化学析出は、当該技術分野において長い伝統を有する。この湿式化学析出は、金属の電解めっき又は無電解めっきを用いて達成され得る。これらの方法は、エレクトロニクス産業において重要性が高く、数ある用途の中でも特に、プリント回路基板、半導体デバイス及び類似の物品の製造で使用される。これに関連して最も重要な金属は銅であり、その理由は、前記物品において回路網を形成する導電線のビルドアップに銅が使用されるためである。
【0003】
金属の湿式化学析出は、電解めっきプロセスに及び無電解めっきプロセスに大まかに分けることができる。無電解めっきは、電子の外部供給の補助なしで金属の連続膜の制御された自己触媒的析出である。それに反して、電解めっきは、電子のかかる外部供給を必要とする。非金属表面は、表面を、析出にとって受容性又は触媒的にさせるように前処理され得る。表面の全て又は選択部分は全て、適切に前処理され得る。無電解銅めっき浴の主な成分は、銅塩、錯化剤、還元剤、及び任意選択の成分として、例えば安定化剤である。錯化剤(当該技術分野では、キレート剤とも呼ばれる)を使用して、析出される金属をキレートして、金属が、溶液から沈殿する(即ち、水酸化物等として)のを防ぐ。キレート剤は、金属を、金属イオンをその金属形態へと変換する還元剤に利用可能にさせる。金属析出の更なる形態は、浸漬めっきである。浸漬めっきは、電子の外部供給の補助なしの、また化学的還元剤を伴わない金属の別の析出である。そのメカニズムは、ベースとなる基板由来の金属を、浸漬めっき溶液中に存在する金属イオンで置換することによるものである。このメカニズムに起因して、析出されるべき金属よりも稀でない金属層上に、極めて薄い金属層が得られ得る。本発明の文脈において、無電解めっきは、化学的還元剤(本明細書中では「還元剤」と称する)を用いた自己触媒的析出と理解されるべきである。
【0004】
これらのめっき技法は、何十年にもわたって使用されてきたにもかかわらず、解決されていない技術的な課題が、依然として多く存在している。まず無電解めっきプロセスによって銅又は銅合金層を形成させること、続く電解銅めっきによる前記層の肥厚は、当該技術分野における一般的な手順である。本発明者らは、無電解銅又は銅合金層上のその次に形成される電解銅又は銅合金層の特性が、主に後者によって影響されることを見出した。無電解銅めっきの技術分野において解決されていない課題の1つは、(機械的応力の印加時に)破裂及び破損の傾向をあまり示さない高い光沢を有する析出物の形成である。更に、その次に形成される電解層(無電解的に析出された銅又は銅合金層上の)が、破裂又は破損に対して高い機械的安定性を有し、高い光沢を示すことは、非常に興味深く、いまだ満足いくにようには解決されていない。可撓性材料が基板として使用される場合、これは更に目立ち、材料が曲がっていると、機械的応力は銅線に迅速に伝達される。従来技術の溶液から形成された多くの銅又は銅合金層は、乏しい機械的可撓性を示し、機械的応力に付されると非常に速やかに破損して、かかる損傷した層を含有する完成品を機能不全にさせる可能性がある。
【0005】
上記で概説する問題とも関係がある別の態様は、めっき浴中の安定化剤(当該技術分野では、安定剤とも称される)に関する。安定化剤は、バルク溶液中の望ましくないプレートアウト(plate-out)(「アウトプレーティング」とも呼ばれる)に対して、めっき浴を安定化する化合物である。「プレートアウト」という用語は、例えば、反応容器の底又は他の表面上での、銅の望ましくない析出又は制御されていない析出を意味する。概して、安定化剤を有さない無電解銅めっき浴は、十分な安定性に欠如し、かかる安定化されていない浴から得られる銅層は非常に光沢があり得るが、それらは、非常に迅速に機能不全になるため、商業的に使用することができない。多くの安定化剤が、当該技術分野において無電解銅めっき浴に関して既知である一方で、多くの安定化剤は全て、或る特定の望ましくない副作用を有する。例えば、深刻な健康問題及び環境問題は、チオ尿素及びその誘導体並びにシアン化合物に起因すると考えられる。多くの窒素含有安定化剤は、非常に小さな作業濃度枠を考慮に入れており、それにより多くの窒素含有安定化剤を使用するのが困難となり、より一層不都合なことには、特に浴の十分な寿命を可能にするような浴中の濃度で使用される場合、多くの窒素含有安定化剤は、銅又は銅合金層(無電解的に析出された銅又は銅合金、及び最初に記載したものの上に形成される、その次に適用される電解銅又は銅合金層の両方)の光沢及び滑らかさを低減させる傾向にある。これは、多くの理由でエレクトロニクス産業では非常に問題である。幾つかを挙げると、製造プロセスで使用される自動光学検査は、非常に光沢のある銅層に合わせられている。したがって、製造プロセスで使用される自動光学検査は、銅又は銅合金層が非常に光沢がない場合にスクラップ生産をもたらす可能性があるか、又は検査システムの非常に面倒な適応が、その都度必要とされ得る。更に、光沢のない表面は、弱い表面分布、積層後の剥離欠陥、及びフォトリソグラフィーによる構造化後のショートをもたらす可能性があるため、滑らかな層が望ましい。これは、生産収率を劇的に低減させ得る。これらの理由で、無電解銅めっき浴に新たな安定化剤が必要される。
【0006】
米国特許出願公開第2004/0154929号明細書は、無電解銅の析出めっき速度を改善する方法及び組成物を開示している。この組成物は、銅イオン、Cu++イオン用の錯化剤、Cu+イオン用の錯化剤、銅イオンを金属銅及び水酸化物イオンに少なくともpH 10へと還元することが可能な還元剤を含む。
【0007】
米国特許出願公開第2005/0175780号明細書号は、電荷移動反応による銀析出用の酸性溶液、及び電荷移動反応による金属表面上での銀層析出方法、具体的には、プリント回路基板及び他の回路キャリアを製造する方法を指す。この溶液は、銀イオン及び少なくとも1つのCu(I)錯化剤を含む。
【0008】
米国特許第7,297,190号明細書は、水性銅塩成分、水性コバルト塩成分、ポリアミンベースの錯化剤、化学的光沢剤(brightener)成分、ハロゲン化物成分、及び無電解めっき溶液を酸性にさせるのに十分な量のpH調整物質を含む無電解銅めっき溶液を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2004/0154929号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0175780号明細書
【文献】米国特許第7,297,190号明細書
【文献】米国特許第7,220,296号明細書
【文献】国際公開第2014/154702号
【文献】欧州特許第3034850号明細書
【文献】米国特許第4,617,205号明細書
【文献】米国特許出願公開第2008/0223253号明細書
【文献】欧州特許第2 009 142号明細書
【文献】欧州特許第1 001 052号明細書
【文献】欧州特許許第4,629,636号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0213914号明細書
【文献】国際公開第2017/037040号
【文献】米国特許出願公開第2008/0038450号明細書
【文献】国際公開第2013/050332号
【非特許文献】
【0010】
【文献】ASM Handbook, Vol. 5: Surface Engineering、311~312頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、従来技術分野の欠点を克服することである。
【0012】
本発明の基礎となる別の目的は、改善された安定化剤を含む無電解銅めっき浴を提供することである。
【0013】
本発明の更に別の目的は、光沢のある銅又は銅合金層を可能にする無電解銅めっき浴を提供することである。一態様において、この光沢要件はまた、無電解浴からの層上の電解的に析出された銅又は銅合金層にも当てはまる。
【0014】
本発明の更なる目的は、例えば、アウトプレーティング等の望ましくない分解に対して、十分な寿命を有する無電解銅めっき浴を提供することである。十部な寿命は、好ましくは、この状況では、めっき浴が少なくとも7日間安定かつ機能的である(即ち、めっき目的に適している)ことを意味する。
【0015】
本発明の更なる目的は、ベースとなる基板への十分な接着を有する銅又は銅合金層を可能にする無電解銅めっき浴を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の基礎となる目的は、
a)銅イオン、
b)銅イオンを金属銅に還元するのに適した少なくとも1つの還元剤、及び
c)銅イオン用の少なくとも1つの錯化剤
を含む、銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させるための本発明による無電解銅めっき浴であって、
d)式(1):
【0017】
【0018】
(式中、
Z1及びZ2は独立して、水素、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基、置換又は無置換カルボキサミド基、ニトリル基、ニトロ基、置換又は無置換トリアルキルアンモニウム基、置換又は無置換2-カルボキシビニル基、置換又は無置換2-ビニルカルボキシレート基、置換又は無置換2-(トリアルキルアンモニウム)ビニル基、置換又は無置換ヒドロキサム酸基、及び置換又は無置換オキシム基からなる群から選択され、但し、Z1及びZ2のうち少なくとも1つは、水素ではなく、
R1、R2、R3及びR4は、下記の通りに定義され:
i. R1、R2、R3及びR4は水素であるか、又は
ii. R1はR2とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R3及びR4は水素であるか、又は
iii. R3はR4とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R1及びR2は水素であるか、又は
iv. R1はR2とともに、並びにR3はR4とともに、それぞれ、置換又は無置換芳香環部分を形成している)
による少なくとも1つの化合物
を含むことを特徴とする、無電解銅めっき浴
である、本発明の第1の態様によって解決される。
【0019】
本発明の基礎となる目的は、本発明による、少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる方法であって、以下の方法工程:
(i)表面を有する基板を用意する工程と、
(ii)基板の表面の少なくとも一部を、本発明の無電解銅めっき浴と接触させる工程と
をこの順序で含み、それにより、銅又は銅合金層を基板の表面の少なくとも一部上に析出させる、方法である本発明の第2の態様によって更に解決される。
【0020】
第3の態様において、本発明は、方法工程(ii)の後に、下記の通りに定義される更なる方法工程(iii):
(iii)銅又は銅合金層を、電解銅めっき浴から析出させる工程
が含まれる、本発明の好ましい方法(請求項13に記載の通り)に関する。
【0021】
第4の態様において、本発明は、請求項14に記載の層系に関する。
【0022】
第5の態様において、本発明は、請求項15に記載の本発明の無電解銅めっき浴を提供するための部品キットに関する。
【0023】
本発明の好ましい実施形態は、更なる従属請求項において、また以下で本明細書中に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
パーセントは、本明細書全体にわたって、別記しない限り、質量パーセント(wt%)である。本明細書中に付与する濃度は、別記しない限り、溶液/組成物全体の容量又は質量を指す。「析出」及び「めっき」という用語は、本明細書中で交換可能に使用される。また、「層」及び「析出物」もまた、本明細書中で同義的に使用される。「置換」及び「官能基化」という用語は、本明細書中で交換可能に使用される。
【0025】
本発明による「アルキル基」という用語は、環状及び/又は非環状構造要素を含む分岐状又は未分岐状アルキル基を含み、ここで、アルキル基の環状構造要素は、必然的に少なくとも3つの炭素原子を要する。本明細書中及び特許請求の範囲におけるC1~CXアルキル基は、1個~X個の炭素原子を有するアルキル基を指す(Xは、整数である)。例えば、C1~C8アルキル基として、特に、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、neo-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル及びオクチルが挙げられる。置換アルキル基は、理論上、少なくとも1つの水素を、官能基で置き換えることによって得られ得る。別記しない限り、アルキル基は、好ましくは、水中でのそれらの改善された溶解度により、置換又は無置換C1~C8アルキル基から、より好ましくは置換又は無置換C1~C4アルキル基から選択される。
【0026】
本発明による「アリール基」という用語は、環形状の芳香族炭化水素残基、例えば、フェニル又はナフチルを指し、ここで、個々の環炭素原子は、例えばベンゾチアゾリルで見られるように、N、O及び/又はSで置換され得る。更に、アリール基は、任意選択で、その都度水素原子を官能基で置き換えることによって置換される。C5~CXアリール基という用語は、環形状の芳香族基において5個~X個の炭素原子を有するアリール基(ここで、1個又は複数の炭素原子は、任意選択で、N、O及び/又はSで置き換えられ(5個~X個の数を変更せずに)、Xは整数である)を指す。別記しない限り、アリール基は、好ましくは、水中でのそれらの改善された溶解度により、置換又は無置換C5~C10アリール基から、より好ましくは置換又は無置換C5~C6アリール基から選択される。必然的に、C5-アリール基は、少なくとも1つの炭素原子の、窒素、硫黄又は酸素等の電子を供与することが可能なヘテロ原子による置き換えを要する。
【0027】
本発明による「アルキル基とアリール基の組合せ」という用語は、少なくとも1つのアルキル基及び少なくとも1つのアリール基を含む部分、例えば、トリル(-C6H4-CH3)及びベンジル(-CH2-C6H5)を指す。
【0028】
別記しない限り、上記で定義される基は、置換又は無置換である。置換基としての官能基は、好ましくは、水等の極性溶媒中での関連化合物の溶解度を改善させるように、オキソ(=O)、ヒドロキシル(-OH)、アミノ(-NH2)、カルボニル(-CHO)及びカルボキシル(-CO2H)からなる群から選択され、置換基は、より好ましくはヒドロキシルである。本発明の一実施形態において、基は、以下で別記しない限り、無置換であることが好ましい。オキソは、通常エーテル部分の酸素原子である(したがって、2つの炭素原子間に配置される)オキシ(-O-)に対する誤りではない。
【0029】
1つよりも多い置換基が、或る特定の基から選択されるべきである場合、置換基はそれぞれ、本明細書中で別記しない限り、互いに独立して選択される。以下で記載する実施形態は、これが技術的に実現不可能でない限り、又は具体的に排除されない限り、制限なく組み合わせることができる。本発明の一態様に関して記載される好ましい実施形態は、本明細書中で別記しない限り、本発明の他の態様全てに準用可能である。
【0030】
本発明の無電解銅めっき浴は、銅イオンを含む。銅イオンは、水溶液等の液体媒質中に銅イオンを遊離するのに適した任意の(水溶性)銅塩又は(水溶性)銅化合物によって、本発明の無電解銅めっき浴中に含まれ得る。好ましくは、銅イオンは、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酢酸銅、メタンスルホン酸銅((CH3O3S)2Cu)、上述のいずれかの1つ又は複数の水和物又は上述の混合物として添加される。本発明の無電解銅めっき浴中の銅イオンの濃度は、好ましくは、0.1g/L~20g/L、より好ましくは1g/L~10g/L、更に好ましくは2g/L~5g/Lの範囲である。
【0031】
本発明の無電解銅めっき浴は、銅イオンを金属銅に還元するのに適した少なくとも1つの還元剤を含む。したがって、前記少なくとも1つの還元剤は、本発明の無電解銅めっき浴中に存在する銅(I)イオン及び/又は銅(II)イオンを、元素銅に変換することが可能である。還元剤は、好ましくは、ホルムアルデヒド;パラホルムアルデヒド;グリオキシル酸;グリオキシル酸の供給源;ジメチルアミノボラン等のアミノボラン類;NaBH4、KBH4等のアルカリ水素化ホウ素類;ヒドラジン;多糖類;グルコース等の糖類;次亜リン酸;グリコール酸;ギ酸、アスコルビン酸、上述のいずれかの塩及び混合物からなる群から選択される。本発明の無電解銅めっき浴が、1つよりも多い還元剤を含有する場合、更なる還元剤が、還元剤として作用するが、単独の還元剤として使用することができないことが好適である(米国特許第7,220,296号明細書の欄4の20行目~43行目及び54行目~62行目)。かかる更なる還元剤は、この意味では「エンハンサー」とも呼ばれる。
【0032】
「グリオキシル酸の供給源」という用語は、グルオキシル酸及び水溶液等の液体媒質中でグリオキシル酸に変換され得る化合物全てを包含する。水溶液中では、酸を含有するアルデヒドは、その水和物と平衡状態にある。グリオキシル酸の適切な供給源は、ジクロロ酢酸等のジハロ酢酸であり、それは、水性媒質等の液体媒質中で、グリオキシル酸の水和物へと加水分解する。グリオキシル酸の代替的な供給源は、亜硫酸水素塩付加物である。亜硫酸水素塩付加物は、組成物に添加され得るか、又はインサイツで形成され得る。亜硫酸水素塩付加物は、グリオキシレート及び亜硫酸水素塩、亜硫酸塩又はメタ重亜硫酸塩のいずれかから作製され得る。
【0033】
本発明の無電解銅めっき浴における少なくとも1つの還元剤の濃度は、好ましくは、0.02mol/L~0.3mol/L、より好ましくは0.054mol/L~0.2mol/L、更に好ましくは0.1mol/L~0.2mol/Lの範囲である。1つよりも多い還元剤が、本発明の無電解銅めっき浴中に含まれる場合、還元剤全ての濃度の合計は、上記範囲内である。
【0034】
本発明の無電解銅めっき浴は、銅イオン用の少なくとも1つの錯化剤を含む。かかる錯化剤は、場合によっては、当該技術分野においてキレート剤と称される。少なくとも1つの錯化剤は、本発明の無電解銅めっき浴中に存在する銅(I)イオン及び/又は銅(II)イオンと配位化合物を形成することが可能である。好適な錯化剤は、キシリトール、マンニトール及びソルビトール等の糖アルコール類;トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;乳酸、クエン酸及び酒石酸等のヒドロキシカルボン酸類;アミノトリス(メチルホスホン酸)等のアミノホスホン酸類及びアミノポリホスホン酸類;オリゴアミノモノコハク酸、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸のようなオリゴアミノジコハク酸を含むポリアミノモノコハク酸、ポリアミノジコハク酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、N’-(2-ヒドロキシエチル)-エチレンジアミン-N,N,N’-三酢酸(HEDTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のアミノポリカルボン酸類、及びテトラキス-(2-ヒドロキシプロピル)-エチレンジアミン及びN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、上述のいずれかの塩及び混合物である。
【0035】
少なくとも1つの錯化剤は、より好ましくは、キシリトール;酒石酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA);N’-(2-ヒドロキシエチル)-エチレンジアミン-N,N,N’-三酢酸(HEDTA);テトラキス-(2-ヒドロキシプロピル)-エチレンジアミン;上述のいずれかの塩及び混合物からなる群から選択される。
【0036】
本発明の無電解銅めっき中の少なくとも1つの錯化剤の濃度は、好ましくは、0.004mol/L~1.5mol/L、より好ましくは0.02mol/L~0.6mol/L、更に好ましくは0.04mol/L~0.4mol/Lの範囲である。1つよりも多い錯化剤が使用される場合、錯化剤全ての濃度は、好ましくは、上記で規定される範囲内に収まる。
【0037】
本発明の一実施形態において、少なくとも1つの錯化剤(これは、これに関して、錯化剤全ての総量を意味する)の銅イオンに対するモル比は、1.3:1~5:1、より好ましくは2:1~5:1の範囲である。本発明の無電解銅めっき浴が、析出中に攪拌される、好ましくは空気等の気体で攪拌される場合に、及び/又は更なる還元剤(「エンハンサー」とも呼ばれる)が、グリオキシル酸又はホルムアルデヒド等の第1の還元剤に加えて使用される場合に、この実施形態は特に好適であり、ここで、更なる還元剤は、好ましくは、グリコール酸、次亜リン酸、又はギ酸、最も好ましくは、グリコール酸から選択される。
【0038】
本発明の無電解銅めっき浴は、式(1):
【0039】
【0040】
による少なくとも1つの化合物を含む。
【0041】
式(1)による化合物は、環中の窒素原子に対して、それぞれ、2位及び2’位で互いに結合された2つのピリジン環を含む。式(1)による少なくとも1つの化合物は、本発明の無電解銅めっき浴中で、とりわけ安定化剤として作用する。したがって、式(1)による少なくとも1つの化合物は、浴の分解及び/又はプレートアウトの危険性を低減させることによって、浴の寿命を改善する。式(1)による少なくとも1つの化合物は更に、光沢改善剤として作用し、とりわけ無電解銅めっき浴から形成される銅又は銅合金層の光沢を改善し(例えば、他の既知の安定化剤と比較して)、また第1の上述の層上に形成される、その次に適用される電解銅又は銅合金層の光沢にも有益に影響を及ぼす。
【0042】
本発明の更なる利点は、式(1)による化合物が低毒性を示す、又は毒性を全く示さないことである。したがって、当該技術分野における多くの既知の浴と比較して、毒性の低い無電解銅めっき浴を配合することが可能である。
【0043】
式(1)による化合物において、Z
1及びZ
2は、独立して、
・水素(-H)、
・カルボン酸基(-CO
2H)、
・カルボキシレート基(-CO
2M
1、式中、M
1は、水素以外の適切な対イオン、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンを含む金属イオン、及びアンモニウム等の遊離基形成陽イオンであり、好ましくは、M
1は、アルカリ金属イオン、例えば、リチウム、ナトリウム又はカリウムである)、
・スルホン酸基(-SO
3H)、
・スルホネート基(-SO
3M
2、式中、M
2は、水素以外の適切な対イオン、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンを含む金属イオン、及びアンモニウム等の遊離基形成陽イオンであり、好ましくは、M
2は、アルカリ金属イオン、例えば、リチウム、ナトリウム又はカリウムである)、
・置換又は無置換のカルボキサミド基(
【化3】
、式中、R
1はそれぞれ、独立して、置換又は無置換のアルキル基又は水素、好ましくは水素である)、
・ニトリル基(-C≡N)、
・ニトロ基(-NO
2)、
・置換又は無置換のトリアルキルアンモニウム基(
【化4】
、式中、R
2はそれぞれ、独立して、置換又は無置換のアルキル基であり、好ましくは、R
2はそれぞれ、C1~C4アルキル基であり、より好ましくは、R
2はそれぞれ、C1~C2アルキル基である)、
・置換又は無置換の2-カルボキシビニル基(-C(R
3)=C(R
4)-CO
2H、式中、R
3及びR4は、独立して、置換又は無置換のアルキル基又は水素、好ましくは水素である)、
・置換又は無置換の2-ビニルカルボキシレート基(-C(R
5)=C(R
6)-CO
2M
3、式中、M
3は、水素以外の適切な対イオン、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンを含む金属イオン、及びアンモニウム等の遊離基形成陽イオンであり、好ましくは、M
3は、アルカリ金属イオン、例えば、リチウム、ナトリウム又はカリウムであり、R
5及びR
6は、独立して、置換又は無置換のアルキル基又は水素、好ましくは水素である)、
・置換又は無置換の2-(トリアルキルアンモニウム)ビニル基(
【化5】
、式中、R
7及びR
8は、独立して、置換又は無置換のアルキル基又は水素、好ましくは水素であり、R
9はそれぞれ、独立して、アルキル基であり、好ましくは、R
9はそれぞれ、C1~C4アルキル基であり、より好ましくは、R
9はそれぞれ、C1~C2アルキル基である)、
・置換又は無置換のヒドロキサム酸基(-C(O)-N(R
10)-OH、式中、R
10は、アルキル基、アリール基及びそれらの組合せからなる群から選択される)、及び
・置換又は無置換のオキシム基(-C(R
11)=N-OH、式中、R
11は、水素、アルキル基、アリール基及びアルキルとアリールの組合せからなる群から選択される)
からなる群から選択され、但し、Z
1及びZ
2のうち少なくとも1つは、水素ではない。本発明者らは、Z
1及びZ
2の両方が水素である場合、銅層の光沢が損なわれて、銅でめっきされるべき基板の被覆及び浴のめっき速度が減少することを見出した(Table 2(表2)~Table 4(表4)を参照)。
【0044】
上記基の好適な置換は、とりわけ上述されている。本発明の一実施形態において、指定されている基は無置換である。
【0045】
Z1及びZ2に関する他の理論上適用可能な残基、例えば、ハロゲン化物、アルキル基及びアルコキシ基は、無電解めっき浴のめっき速度を著しく低減させて、また形成される析出物の光沢を損なうと、本発明者らによって見出された。
【0046】
好ましくは、Z1及びZ2は、独立して、水素、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基、ニトリル基、ニトロ基、置換又は無置換のトリアルキルアンモニウム基、置換又は無置換の2-カルボキシビニル基、及び置換又は無置換の2-(トリアルキルアンモニウム)ビニル基からなる群から選択される。
【0047】
より好ましくは、Z1及びZ2は、独立して、水素、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基、置換又は無置換のトリアルキルアンモニウム基、置換又は無置換の2-カルボキシビニル基、及び置換又は無置換の2-(トリアルキルアンモニウム)ビニル基からなる群から選択される。
【0048】
更に好ましくは、Z1及びZ2は、独立して、水素、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、及びスルホネート基からなる群から選択される。
【0049】
より一層好ましくは、Z1及びZ2は、独立して、水素、カルボン酸基及びカルボキシレート基からなる群から選択される。
【0050】
本発明の一実施形態において、Z1とZ2は同じである。
【0051】
本発明の一実施形態において、Z1もZ2も水素ではない。
【0052】
Z1及びZ2を選択するための概説する優先度は、本発明の無電解銅めっき浴から直接形成される析出物及び形成される、その次に適用される電解銅又は銅合金層の両方の光沢のある析出物等の上記で概説する好ましい選択を用いる場合に、本発明の基礎となる目的が特に良好に解決されるという本発明者らの見解に基づく。更に、十分高いめっき速度を得ることができる。
【0053】
R1、R2、R3及びR4は、下記の通りに定義される:
i. R1、R2、R3及びR4は水素であるか、又は
ii. R1はR2とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R3及びR4は水素であるか、又は
iii. R3はR4とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R1及びR2は水素であるか、又は
iv. R1はR2とともに、並びにR3はR4とともに、それぞれ、置換又は無置換芳香環部分を形成している。
【0054】
かかる芳香環部分は、例えば、o-フェニレン(ベンゼン-1,2-ジイル)である。また、芳香環を形成する炭素原子の1つ又は複数が、酸素、窒素又は硫黄等のヘテロ原子で置換され得ることが可能である。R1、R2、R3及びR4に関して、ii、iii、又はivの場合、芳香環部分は、ピリジン環の窒素原子に対して、それぞれ、5位及び6位、及び/又は5’位及び6’位において式(1)による化合物の各々のピリジン環に環化される(annulated)。更に、ピリジン環はともに、窒素原子に対して、それぞれ4位及び4’位にZ1及びZ2を含む。
【0055】
本発明の一実施形態において、式(1)による化合物は、式(2):
【0056】
【0057】
(式中、Z1及びZ2は、先で概説した基から選択される)
によって表される。この実施形態において、式(1)による化合物は、置換又は無置換の芳香環部分を含まない(描写されるピリジン環は別とする。残基R1、R2、R3及びR4は全て、水素である(事例1)。
【0058】
R1、R2、R3及びR4に関して、事例ii、iii、又はivの1つにおいて、式(1)による化合物は、好ましくは、式(3a)~式(3c):
【0059】
【0060】
(式中、Z1及びZ2は、先で概説した基から選択される)
の1つによって表され得る。
【0061】
本発明の無電解銅めっき浴中の式(1)による少なくとも1つの化合物の濃度は、好ましくは、1.0*10-6mol/L(1μmol/L)~5.0*10-3mol/L(5mmol/L)、より好ましくは4.0*10-6mol/L(4μmol/L)~4*10-3mol/L(4mmol/L)、更に好ましくは2.0*10-5mol/L(20μmol/L)~6.5*10-4mol/L(650μmol/L)の範囲である。本発明の無電解銅めっき浴が、1つよりも多い式(1)による化合物を含む場合、式(1)による化合物全ての濃度は、上記で規定される範囲内に収まる。
【0062】
本発明の無電解銅めっき浴のpH値は、特に限定されない。本発明の無電解銅めっき浴は、好ましくは、7又はそれよりも高い、より好ましくは11~14、又は12.5~14、更に好ましくは12.5~13.5、又は12.8~13.3のpH値を用いる。
【0063】
本発明の無電解銅めっき浴は、任意選択で、更なる安定化剤(そのようなものとして作用する式(1)による化合物の他に)を含む。任意選択の更なる安定化剤は、本発明の無電解銅めっき浴の寿命を更に延ばす可能性があり、その望ましくない分解を防止するのを助長し得る。安定化剤はまた、当該技術分野において安定剤とも呼ばれる。両方の用語は、本明細書中で交換可能に使用される。銅(II)の還元は、基板の所望の表面上のみで起こり、めっき浴中で不特定には起こらないはずである。安定化機能は、例えば、触媒毒(例えば、硫黄又は他のカルコゲン化物含有化合物)として作用する物質によって、又は銅(I)錯体を形成し、したがって、酸化銅(I)の形成を阻害する化合物によって達成され得る。好適な更なる安定化剤は、ジピリジル類(2,2’-ジピリジル、4,4’-ジピリジル);フェナントロリン;ベンゾトリアゾール;メルカプトベンゾチアゾール;チオール類、例えばジチオスレイトール;チオエーテル類、例えば2,2-チオジエタノール;チオ尿素又はジエチルチオ尿素のようなその誘導体;NaCN、KCNのようなシアン化物類;フェロシアン化物類、例えばK4[Fe(CN)6];チオシアネート類;セレノシアネート類;ヨウ化物類;エタノールアミン類;メルカプトベンゾトリアゾール;亜硫酸塩類、例えばNa2S2O3;ポリアクリルアミド類、ポリアクリレート類、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール類及びそれらのコポリマーのようなポリマー;及び上述の混合物からなる群から選択される。更に、分子酸素は多くの場合、空気の一定の流れを銅電解質に通すことによって安定化剤添加物として使用される(ASM Handbook, Vol. 5: Surface Engineering、311~312頁)。一実施形態において、安定化剤は、主に環境上の理由及び労働衛生上の理由で、シアン化物を含まない更なる安定化剤から選択される。したがって、本発明の無電解銅めっき浴は、シアン化合物を含まないことが好ましい。適切な任意選択の安定化剤は、当該技術分野で既知であり、例えば、参照により本明細書に援用される国際公開第2014/154702号(8項30行目~9頁14行)及び欧州特許第3034850号明細書(段落39及び段落40)に見出すことができる。
【0064】
本発明の一実施形態において、本発明の無電解銅めっき浴は、上述の成分に加えて、銅イオン以外の更なる還元性金属イオンを含む。銅イオン以外の更なる還元性金属イオンは、例えば、ニッケルイオン及びコバルトイオンである。銅イオン以外の更なる還元性金属イオンは、液体媒質中にイオンを遊離させるのに適したかかる金属の(水溶性)塩又は他の(水溶性)化合物として提供され得る。好ましいニッケル塩は、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル、メタンスルホン酸ニッケル及び炭酸ニッケルからなる群から選択される。好ましいコバルト塩は、塩化コバルト、硫酸コバルト及びそれらの各々の水和物からなる群から選択される。銅イオン以外の更なる還元性金属イオンが、本発明の無電解銅めっき浴中に含まれる場合、銅及び更なる金属の二次的な合金(又はより高次の)が、めっきプロセスで得られる。かかる二次的な合金は、例えば、銅-ニッケル合金又は銅-コバルト合金である。銅イオンを金属銅に還元するのに適した還元剤は通常、銅イオン以外の更なる還元性金属イオンを、それらの各々の金属状態に還元することも可能である。必要であれば、当業者は、日常的な実験によって適切な剤を選択することができる。
【0065】
本発明の無電解銅めっき浴中の銅イオン以外の更なる還元性金属イオンの濃度は、好ましくは、1mg/L~5g/L、より好ましくは10mg/L~2g/L、更に好ましくは50mg/L~1g/Lの範囲である。本発明の一実施形態において、銅イオン以外の更なる還元性金属イオンの濃度は、析出される銅合金中で0.1wt%~2wt%の濃度の銅以外の更なる金属に達するのに十分である。1つよりも多いタイプの銅イオン以外の更なる還元性金属イオンが、本発明の無電解銅めっき浴中に含まれる場合、全てのタイプの銅イオン以外の更なる還元性金属イオンの濃度全体が、上記で規定される範囲内であることが好ましい。
【0066】
本発明の無電解銅めっき浴は、任意選択で、例えば、界面活性剤、湿潤剤、細粒化(grain refining)添加物及びpH緩衝液として、更なる成分を含む。かかる更なる成分は、例えば、それらの全体が参照により援用される下記の文書に記載されている:米国特許第4,617,205号明細書(特に、欄6の17行目~欄7の25行目を参照)、米国特許第7,220,296号明細書(特に、欄4の63行目~欄6の26行目を参照)、米国特許出願公開第2008/0223253号明細書(特に、段落0033及び段落0038を参照)。
【0067】
本発明の好ましい実施形態において、無電解銅めっき浴は、
a)銅イオン、
b)少なくとも1つの還元剤としてのホルムアルデヒド又はグリオキシル酸、
c)ポリアミノジコハク酸;ポリアミノモノコハク酸;少なくとも1つのポリアミノジコハク酸及び少なくとも1つのポリアミノモノコハク酸の混合物;酒石酸塩;キシリトール;N,N,N’,N’-テトラキス-(2-ヒドロキシプロピル)-エチレンジアミン及びN’-(2-ヒドロキシエチル)-エチレンジアミン-N,N,N’,N’-三酢酸の混合物;N,N,N’,N’-テトラキス-(2-ヒドロキシプロピル)-エチレンジアミン及びエチレンジアミン-四酢酸(EDTA)の混合物;又は少なくとも1つの錯化剤としての上述の任意の塩、
d)式(1)による少なくとも1つの化合物、
及び、任意選択で、コバルトイオン、ニッケルイオン及びそれらの混合物から選択される銅イオン以外の更なる金属イオンを含む。
【0068】
本発明の無電解銅めっき浴は、好ましくは水溶液である。「水溶液」という用語は、溶液中の溶媒である優勢な液体媒質が水であることを意味する。例えばC1~C4アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、ブタノール及びその位置異性体)等のアルコール類及び水と混和性である他の極性有機液体として水と混和性である更なる液体が添加され得る。好ましくは、少なくとも90.0wt%、より好ましくは99.0wt%又はそれ以上の液体媒質は、その生態学的良性のために水である。
【0069】
本発明の無電解銅めっき浴は、好適には、多くの工業目的で十分に高いめっき速度を提示する。より高いめっき速度が、或る特定の層厚を形成するのに要する時間を低減させて、とりわけコストの優位性をもたらすため、より高いめっき速度が望ましい。必要とされるめっき速度は、中でも特に、めっき浴の所望の使用及びそれが適用される産業に依存する。例えば、エレクトロニクス産業における好適な最小めっき速度は、プリント回路基板の(連続)生産に関しては(およそ)3μm/hである。
【0070】
本発明の無電解銅めっき浴は、液体媒質中で成分全てを溶解させることによって、又は好ましくは、以下で記載する部品キットの個々の部品を混合することと、任意選択でそれを液体媒質で希釈することとによって調製され得る。
【0071】
本発明の一態様において、本発明の無電解銅めっき浴は、銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させるのに使用される。
【0072】
少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる本発明の方法は、方法工程(i)及び方法工程(ii)を含む。工程は、所与の順序で実行されるが、必ずしもすぐ次へと連続して実行されるわけではない。指定した工程の前、間又は後に、更なる工程が含まれてもよい。
【0073】
少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる本発明の方法の工程(i)において、表面を有する基板を用意する。
【0074】
本発明の文脈で使用される基板は、好ましくは、非導電性基板、導電性基板及び上述の混合物からなる群から選択される。非導電性基板は、例えば、以下で記載されるもの等のプラスチック、ガラス、半導体ウェハー等のシリコン基板並びにエポキシ樹脂及びエポキシガラス複合材で構成されるもののような誘電基板である。プリント回路基板、チップキャリア、IC基板又は回路キャリア並びにインターコネクトデバイス及びディスプレーデバイス等のエレクトロニクス産業において使用される基板が使用されることが、より好ましい。導電性基板は、金属基板、特に銅基板である。銅基板は、例えば、圧延アニール(rolled annealed)銅及び銅箔をもたらす様々な銅製造プロセスから得ることができる。基板は、上述の材料で作製される1つ又は複数の表面を含んでもよく、又は基板は、指定された材料からなってもよい。
【0075】
少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる本発明の方法は、プリント回路基板、チップキャリア、IC基板及び半導体ウェハー(半導体基板とも称される)又は回路キャリア及びインターコネクトデバイス(の表面)上での析出に使用されることが好ましい。特に、銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる本発明の方法は、プレート表面、トレンチ、ブラインドマイクロビア、スルーホールビア(スルーホール)及び類似した構造体を、先で概説した基板上で銅及びその合金でめっきするのに使用される。「スルーホールビア」又は「スルーホール」という用語は、本明細書中で使用する場合、全ての種類のスルーホールビアを包含し、シリコンウェハーにおける、いわゆる「スルーシリコンビア」を含む。トレンチ、ブラインドマイクロビア、スルーホールビア等の構造体は、本明細書中でリセス構造体と略式で命名される。
【0076】
少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる方法は、任意選択で、1つ又は複数の更なる工程(i.a):
(i.a)基板を前処理する工程
を含む。
【0077】
好ましくは、1つ又は複数の工程(i.a)は、工程(i)と工程(ii)との間で実行される。適切な前処理工程は、当該技術分野で既知であり、以下で記載されるが、例示的であり、限定的ではない。基板は場合によっては、例えばグリース、酸化生成物又はワックス残渣等の、加工処理、ヒトの接触又は環境由来の残渣で汚染されることがあることは、当業者に既知である。これらの残渣は、めっきにとって有害である場合がある。したがって、一般に、最適なめっきの結果を得るためには、そのような場合に1つ又は複数の前処理工程は好適である。適切な前処理工程は、デスミア処理、スウェラー、エッチング、還元又はクリーニング工程を包含する。これらの工程は、中でも特に、有機溶媒、界面活性剤を含む酸性又はアルカリ性水溶液、還元剤及び/又は酸化剤を用いた、或いは高反応性ガス(プラズマ加工処理)による上述の残渣の除去を含む。また、前処理された基板を得るために、上述の工程を組み合わせることも、本発明の範囲内で可能である。また、これらの前処理工程前、間又は後に、更なるすすぎ工程を含むことも可能である。場合によっては、基板の表面積を増加するために、基板の前処理において、エッチング工程が含まれる。これは一般に、基板を、硫酸のような強酸を含む水溶液及び/又は過酸化水素のような酸化剤で処理することによって、或いは水酸化カリウムのような強アルカリ性媒質及び/又は過マンガン酸カリウムのような酸化剤を使用することによって達成される。
【0078】
本発明の無電解めっき浴と接触されるべき非導電性基板、特に、非金属表面は、当該技術分野の技能内の手段(例えば、米国特許第4,617,205号明細書、欄8に記載されるような)によって、更に前処理されて、それらを金属又は金属合金の析出にとって(より)受容性又は自己触媒的にし得る。この前処理工程は、活性化と称される。表面の全て又は選択部分が活性化され得る。銅、銀、金、パラジウム、白金、ロジウム、コバルト、ルテニウム、イリジウム、導電性ポリマー又は導電性カーボンブラック等の触媒用金属による、好ましくは触媒用金属による、より好ましくはパラジウム、ルテニウム及びコバルトの1つによる、ガラス基板、シリコン基板及びプラスチック基板等の非電導性基板のこの活性化は、工程(i)と工程(ii)との間で実行される。触媒用金属によるこの活性化は一般に、分散した金属層を生じず、基板の表面上に金属スポットの島様構造を生じる。活性化内では、基板上の金属又は金属合金の析出に先立って、基板を感作させることが可能である。これは、基板の表面上への触媒用金属の吸着によって達成され得る。
【0079】
プラスチック基板は多くの場合、活性化に先立って、酸化的処理で処理される必要があるが、必ずしも必要ではない。これらの方法もまた、当該技術分野で周知である。かかる処理の例として、基板の表面を、クロム酸、硫酸、過酸化水素、過マンガン酸塩、過ヨウ素酸塩、ビスマス酸塩、亜塩素酸塩、塩素(chlorous)、塩素酸塩、過塩素酸塩等のハロゲンオキソ化合物、それらの各々の塩又は各々の臭素及びヨウ素誘導体等の更なる酸化剤を含む酸性又はアルカリ性溶液で粗面化することが挙げられる。かかるエッチング溶液の例は、例えば、欧州特許第2 009 142号明細書、同第1 001 052号明細書及び米国特許第4,629,636号において開示される。後者はまた、活性化工程を含む、プラスチック表面を前処理する方法も開示している(その明細書中の実施例I及び実施例II)。プラスチック基板は、本発明の文脈において、好ましくは、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABSコポリマー)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、液晶ポリマー(LCP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、又は光画像形成可能な誘電体用に作製されたプラスチック及び上述の混合物からなる群から選択される。
【0080】
特にプリント回路基板ラミネート及び他の適切な基板に関する例示的で非限定的な前処理プロセスは、下記の工程の1つ又は複数を含み得る:
【0081】
α)任意選択で、クリーニングする工程、及び任意選択で、基板をコンディショニングして、それらの吸着を増加させる工程(クリーナーを用いて、有機物及び他の残渣が除去される。それはまた、下記の活性化工程のために表面をコンディショニングして、即ち、触媒の吸着を高めて、より一様な活性化表面をもたらす更なる物質(コンディショナー)を含有してもよい);
【0082】
β)基板の表面をエッチングして、基板から、特にビアにおける内側層から酸化物を除去する工程(これは、過硫酸塩又は過酸化物ベースのエッチング溶液によって行われ得る);
【0083】
χ)プレディップ溶液と、任意選択でアルカリ金属塩、例えば塩化ナトリウムを有するか、又は任意選択で更なる界面活性剤を有する酸性溶液(例えば、塩酸溶液又は硫酸溶液)によって接触させる工程;
【0084】
δ)基板の表面を、銅又は銅合金析出にとっての触媒にさせるコロイド状又はイオン性触媒用金属を含有する活性化物質溶液と接触させる工程(工程χにおけるプレディップは、活性化物質をドラッグイン及び汚染から保護する働きをする)。そして、好ましいが任意選択で、活性化物質が、イオン性触媒用金属を含有する場合:
ε)任意選択で、基板の表面を、還元物質と接触させる工程(ここで、イオン性活性化物質の触媒用金属イオンは、元素金属に還元される);或いは、活性化物質が、コロイド状触媒用金属を含有する場合;
φ)任意選択で、基板の表面を促進剤と接触させる工程(ここで、コロイド、例えば保護用コロイドの成分が、触媒用金属から除去される);
γ)任意選択で、基板の表面を、無電解銅めっき浴中で還元剤として使用される成分で構成されるエンハンサーと接触させる工程。
【0085】
少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる本発明の方法の工程(ii)において、基板の表面上の少なくとも一部が、本発明の無電解銅めっき浴と接触され、それにより、銅又は銅合金層が、基板の表面の少なくとも一部上に析出される。
【0086】
本発明の無電解銅めっき浴は、工程(ii)中で20℃~80℃、より好ましくは25℃~60℃、更に好ましくは28℃~45℃の範囲の温度で維持されることが好ましい。
【0087】
基板は、工程(ii)中で0.5~30分、より好ましくは1~25分、更に好ましくは2~20分のめっき時間、本発明の無電解銅めっき浴と接触されることが好ましい。
【0088】
基板又はその表面の少なくとも一部は、本発明による無電解めっき浴と接触され得る。この接触は、噴霧、ワイピング、液浸、浸漬を用いて、又は他の適切な手段によって達成され得る。銅又は銅合金が、プリント回路基板、IC基板又は半導体基板等の基板のリセス構造体に析出される場合、銅又は銅合金で作製される1つ又は複数の回路が得られる。基板の表面が、導電性材料を含むか、又は導電性材料で構成される場合、めっきプロセスの開始の改善のために工程(ii)の初めに、負の電位を印加することは優先的である。
【0089】
めっきプロセス、即ち、銅又は銅合金層の析出中に、本発明の無電解銅めっき浴を攪拌することは優先的である。攪拌は、例えば、液体の振盪、攪拌若しくは連続ポンピングのような本発明の無電解めっき浴の機械的な動作によって、又は超音波処理、温度の上昇若しくは気体の供給(例えば、無電解めっき浴を空気又はアルゴン若しくは窒素等の不活性気体でパージすること)によって達成され得る。
【0090】
少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる本発明の方法は、任意選択で、更なるクリーニング、エッチング、還元、すすぎ及び/又は乾燥工程を含み、それらは全て、当該技術分野で既知である。クリーニング、還元及びエッチングに適した方法は、使用される基板に依存し、任意選択の前処理工程(i.a)に関して上述している。基板の乾燥は、基板を、温度の上昇及び/又は減圧及び/又は気体流に付すことによって達成される。
【0091】
少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる本発明の方法における工程(ii)は、とりわけ、水平式、オープンリール式、垂直式及び垂直コンベヤー式めっき機器を使用して実施され得る。本発明によるプロセスを実行するのに使用することができる特に適切なめっきツールは、米国特許出願公開第2012/0213914号明細書に開示されている。
【0092】
方法工程(ii)の後に、下記の通りに定義される更なる方法工程(iii):
(iii)銅又は銅合金層を、電解銅めっき浴から析出させる工程
を含むことが好ましい。
【0093】
この目的での電解銅めっき浴は、当該技術分野で周知である。電解銅めっき浴は通常、銅イオン、電解質(典型的には、硫酸、フルオロホウ酸又はメタンスルホン酸等の強酸)、塩化物イオン、任意選択で1つ又は複数のレベリング剤、任意選択で1つ又は複数の光沢剤及び任意選択で、1つ又は複数のキャリアを含む。これらの化合物は、当該技術分野で既知であり、例えば、国際公開第2017/037040号(21頁1行目~22頁27行目)に開示されている。続いて、電解銅めっきは、工程(ii)において形成される銅又は銅合金層の最上部上で(直接)実行される。したがって、銅又は銅合金層は、無電解的に析出された銅又は銅合金層(工程(ii)において)上に電解的に(直接)形成される。本発明の一実施形態において、電解銅又は銅合金層は、無電解的に析出された銅又は銅合金層上に直接形成される。
【0094】
より厚い析出物が望ましい場合に、任意選択の工程(iii)が、単なる無電解析出プロセスと比較してより短期間でより厚い銅又は銅合金層を得ることを可能にするため、少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる方法において工程(iii)を含むことは、特に好適である。したがって、この工程は、結果として本明細書中で、及び当該技術分野において、「電解的肥厚」と称される。
【0095】
本発明の一実施形態において、少なくとも1つの銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる方法は、以下の方法工程:
(i)表面を有する基板を用意する工程と、
(ia)任意選択で、基板を前処理する工程と、
(ii)基板の表面の少なくとも一部を、本発明の無電解銅めっき浴と接触させて、無電解銅又は銅合金層を、基板の表面上に析出させる工程と、
(iii)更なる銅又は銅合金層を、電解銅めっき浴から析出させて、電解銅又は銅合金銅を(直接)、無電解銅又は銅合金層上に析出させる工程と
をこの順序で含む。
【0096】
本発明は、更なる態様において、本発明の無電解銅めっき浴から得られる銅又は銅合金層に関する。このようにして得られる銅又は銅合金層は、好ましくは、10nm~5μm、より好ましくは100nm~3μm、更に好ましくは150nm~2.5μmの範囲の厚さを有する。
【0097】
少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる本発明の方法を用いて、また本発明の無電解銅めっき浴から形成される銅又は銅合金層は、従来技術由来の既知の解決法を上回る様々な利点を有する:
- 銅又は銅合金層は、特に電解的肥厚後に、非常に光沢があり、高い光反射率を示す;
- 銅又は銅合金層は、特に電解的肥厚後に、非常に滑らかである;
- 本発明の発明者らは、電解めっきプロセス由来の、その次に析出される銅又は銅合金層の滑らかさ及び光沢が、ベースとなる基板の特性に、即ち、この場合は、本発明の無電解銅めっき浴から形成される銅又は銅合金層の特性に非常に依存する。したがって、本発明は、電解めっきプロセス由来の、その次に析出される銅又は銅合金層の滑らかさ及び光沢の改善も可能にする。
【0098】
本発明者らは、上述の利点は、本発明の無電解銅めっき浴から得られる銅又は銅合金層が典型的には、式(1)による少なくとも1つの化合物を含むという事実に起因すると考えた。典型的には、前記化合物の量は、上記で概説する利点に達するのに十分である。
【0099】
本発明の一実施形態において、本発明は、
- 表面を有する基板と、
- 基板の表面上の、本発明の無電解銅めっき浴から析出された銅又は銅合金層と
を含む層系に関する。
【0100】
好ましい実施形態において、本発明は、
- 表面を有する基板と、
- 基板の表面上の、本発明の無電解銅めっき浴から析出された銅又は銅合金層と、
- 無電解銅めっき浴から析出された前記銅又は銅合金層の上の、電解銅めっき浴から析出された銅又は銅合金層と
を含む層系に関する。
【0101】
本発明の無電解銅めっき浴(少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる方法の工程(ii))及び電解銅めっき浴(少なくとも銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる方法の工程(iii))から形成される層の複合層の厚さは、好ましくは、2μm~80μm、より好ましくは5μm~40μm、更に好ましくは5μm~25μmの範囲である。
【0102】
更なる態様において、本発明は、銅イオン、銅イオンを金属銅に還元するのに適した少なくとも1つの還元剤、及び銅イオン用の少なくとも1つの錯化剤を含む(従来の)無電解銅めっき浴を安定化する方法であって、以下の方法工程:
I)無電解銅めっき浴を用意する工程と、
II)式(1):
【0103】
【0104】
(式中、
Z1及びZ2は独立して、水素、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基、置換又は無置換カルボキサミド基、ニトリル基、ニトロ基、置換又は無置換トリアルキルアンモニウム基、置換又は無置換2-カルボキシビニル基、置換又は無置換2-ビニルカルボキシレート基、置換又は無置換2-(トリアルキルアンモニウム)ビニル基、置換又は無置換ヒドロキサム酸基、及び置換又は無置換オキシム基からなる群から選択され、但し、Z1及びZ2のうち少なくとも1つは、水素ではなく、
R1、R2、R3及びR4は、下記の通りに定義され:
i. R1、R2、R3及びR4は水素であるか、又は
ii. R1はR2とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R3及びR4は水素であるか、又は
iii. R3はR4とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R1及びR2は水素であるか、又は
iv. R1はR2とともに、並びにR3はR4とともに、それぞれ、置換又は無置換芳香環部分を形成している)
による少なくとも1つの化合物を添加する工程と
をこの順序で含む方法に関する。
【0105】
工程は、所与の順序で実行されるが、必ずしもすぐ次へと連続して実行されるわけではない。指定した工程の前、間又は後に、更なる工程が含まれてもよい。
【0106】
(従来の)無電解銅めっき浴を安定化する方法の工程I)において、銅イオン、銅イオンを金属銅に還元するのに適した少なくとも1つの還元剤、及び銅イオン用の少なくとも1つの錯化剤を含む無電解銅めっき浴が提供される。この浴は、任意の既知の従来のめっき浴であり得る。従来の無電解銅めっき浴は、前記成分を含むが、式(1)による少なくとも1つの化合物を含まない浴である。
【0107】
(従来の)無電解銅めっき浴を安定化する方法の工程II)において、式(1)による少なくとも1つの化合物は、前記浴に添加される。式(1)による化合物を、(従来の)無電解銅めっき浴に添加することによって、前記浴は安定化される。したがって、有益性の中でも特に、その寿命が改善され、プレートアウトの危険性が低減される。無電解銅めっき浴を安定化する方法によって改善される従来の無電解銅めっき浴は、本明細書中で概説される本発明の銅めっき浴の利点及び有益性に恵まれる。このようにして得られる安定化された無電解銅めっき浴は、銅又は銅合金層を基板の表面上に析出させる本発明の方法において使用され得る。
【0108】
先で記載する好ましい実施形態及び詳細は、(従来の)無電解銅めっき浴を安定化する方法に準用する。したがって、本発明の一態様において、式(1)による少なくとも1つの化合物は、(従来の)無電解銅めっき浴における安定化剤として使用され得る。
【0109】
更なる態様において、本発明は、本発明の無電解銅めっき浴を提供するための部品キットであって、下記部品A)~D):
A)銅イオンを含む溶液、好ましくは水溶液と、
B)銅イオンを金属銅に還元するのに適した少なくとも1つの還元剤を含む溶液、好ましくは水溶液と、
C)銅イオン用の少なくとも1つの錯化剤を含む溶液、好ましくは水溶液と、
D)式(1):
【0110】
【0111】
(式中、
Z1及びZ2は独立して、水素、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基、置換又は無置換カルボキサミド基、ニトリル基、ニトロ基、置換又は無置換トリアルキルアンモニウム基、置換又は無置換2-カルボキシビニル基、置換又は無置換2-ビニルカルボキシレート基、置換又は無置換2-(トリアルキルアンモニウム)ビニル基、置換又は無置換ヒドロキサム酸基、及び置換又は無置換オキシム基からなる群から選択され、但し、Z1及びZ2のうち少なくとも1つは、水素ではなく、
R1、R2、R3及びR4は、下記の通りに定義され:
i. R1、R2、R3及びR4は水素であるか、又は
ii. R1はR2とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R3及びR4は水素であるか、又は
iii. R3はR4とともに、置換又は無置換芳香環部分を形成しており、R1及びR2は水素であるか、又は
iv. R1はR2とともに、並びにR3はR4とともに、それぞれ、置換又は無置換芳香環部分を形成している)
による少なくとも1つの化合物を含む溶液、好ましくは水溶液と
を含む、部品キットに関する。
【0112】
本発明の部品キットは、例えば部品A)~部品D)を混合することによって、本発明の無電解銅めっき浴を配合するのに使用することができる。この目的で、部品A)~部品D)は、任意の適切な比で混合される。したがって、希釈効果のため、本発明の部品キットの個々の部品における濃度は、本発明の無電解銅めっき浴の好ましい実施形態に関して記載される濃度から逸脱し得ることが可能である。部品A)~部品D)の溶液は、上記で説明する理由で水溶液であることが好ましい。本発明の部品キットに関する「水溶液」という用語は、本発明の無電解銅めっき浴に関するものと同義を意味する。
【0113】
本発明の一実施形態において、本発明の部品キットの個々の部品の1つ又は複数は、先で記載する成分等の成分を更に含み、及び/又は本発明の部品キットは、任意選択で、かかる成分を含む水溶液等の更なる部品を含む。
【0114】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の無電解銅めっき浴を提供するための本発明の部品キットは、下記の部品A)~部品D):
A)1g/L~470g/L、好ましくは10g/L~250g/L、より好ましくは20g/L~80g/Lの範囲の濃度で銅イオンを含む水溶液と、
B)50g/L~600g/L、好ましくは100g/L~450g/L、より好ましくは100g/L~400g/Lの範囲の濃度で銅イオンを金属銅に還元するのに適した少なくとも1つの還元剤を含む水溶液と、
C)0.18mol/L~2.9mol/L、好ましくは0.3mol/L~2.0mol/L、より好ましくは0.7mol/L~1.5mol/Lの範囲の濃度で銅イオン用の少なくとも1つの錯化剤を含む水溶液と、
D)0.01g/L~150g/L、好ましくは0.05g/L~50g/L、より好ましくは0.1g/L~25g/Lの範囲の濃度で式(1)による少なくとも1つの化合物を含む水溶液と
を含む。
【0115】
先で記載する好ましい実施形態及び詳細は、上記で説明する理由で好ましい濃度を除いて、本発明の部品キットに準用する。
【0116】
本発明の部品キットの利点の1つは、本発明の無電解銅めっき浴の調製が容易となることである。(水)溶液の取り扱いは、純粋な化学物質と比較してより容易でかつ安全である(より低濃度、粉末を取り扱う際の粉塵がないこと、等)。更に、還元剤と銅イオン等の、互いと反応し得る成分が、依然として互いに接触されていないため、本発明の部品キットの個々の部品の寿命は、本発明の無電解銅めっき浴の寿命よりもはるかに長い。
【0117】
また、本発明の部品キットの個々の部品を混合する前又は後に、液体媒質で、好ましくは水で更に希釈して、本発明の無電解銅めっき浴を調製することが可能である。
【0118】
本発明の別の利点は、当該技術分野で既知の無電解銅めっき浴と比較して、銅による基板の表面の被覆の改善である。これは、いわゆるバックライトテストによって測定可能である。
【0119】
銅又は銅合金層は、グラスファイバー及びポリイミド箔等の可撓性材料上に析出させることができ、いかなる実質的な剥離の危険性も伴わずに、それらの材料に良好に接着することは、本発明の別の注目すべき利点である。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、エレクトロニクス産業において特に有用であり、プリント回路基板及び集積回路(IC)基板の製造において使用することができる。
【実施例】
【0121】
ここで本発明を、下記の非限定的な実施例を参照して説明する。
【0122】
市販の製品は、以下で別記しない限り、本明細書の出願日に入手可能なテクニカルデータシートに記載されるように使用した。Securiganth(登録商標)902 Cleaner ULS、pH Correction Solution、Neoganth(登録商標) B PreDip、Neoganth(登録商標) U Activator、Neoganth(登録商標) Reducer P-WA、Cuparacid(登録商標) AC Leveller及びCuparacid(登録商標) AC Brightenerは、Atotech Deutschland GmbH社によって生産及び流通される製品である。これらの製品は、本明細書中で別記しない限り、出願日に入手可能なテクニカルデータシートの規格に従って使用した。
【0123】
基板
析出テストに関して、ベアラミネートFR-4基板(Panasonic社のMC10EX)を使用した。スルーホール被覆の評価に関して、材料IS410(Isola社の)、158TC(ITEQ社の)、R-1755C(Matsushita/Panasonic社の)、NP140(Nan Ya社の)、S1141(Shengy社の)に基づくクーポンを利用した。クーポン中の孔径は、1mmであった。必要に応じて、基板を、当該技術分野で既知のデスミア処理に付した。光沢測定に関して、エポキシ樹脂コア材料及び圧延アニール(RA-Cu)銅又はホットアニール(HA-Cu、BH-HA-Cu)銅を有するラミネートを使用した。表面の光沢(輝きとも称される)は、Canon C5535iを用いたフルカラー300×300dpiスキャンによって評価して、画像を適切な画像解析ツール(例えば、Olympus Stream Enterprise)へインポートとして、チャネルを赤0~150、緑0~128、青0~128に調整しながら目的の領域(ROI)を使用することによってスキャンを解析した。
【0124】
バックライト法:リセス構造体における表面の銅又は銅合金被覆の検討
本方法における銅又は銅合金によるリセス構造体の表面の被覆は、業界標準のバックライトテストを使用して評価することができる。バックライトテストでは、不完全な被覆の領域を、強力な光源で観察すると明るいスポットとして検出することが可能になるように、めっきされたクーポンを切片化する[米国特許出願公開第2008/0038450号明細書を授与、その全体が参照により本明細書に援用される]。銅又は銅合金析出物の品質は、従来の光学顕微鏡下で観察される光量によって決定される。
【0125】
バックライトテスト測定の結果は、D1~D10スケールで付与され、ここで、D1は、最も悪い結果を意味し、D10は、最も良い結果を意味する。D1~D10の結果を示す参照試料は、国際公開第2013/050332号(参照により本明細書に援用される)の
図3に示される。
【0126】
銅又は銅合金層厚の測定
析出物の厚さは、テストパネルの各側にある10個の銅パッドで測定した。選択した銅パッドは、種々のサイズを有しており、XRF機器Fischerscope X-RAY XDV-μ(Helmut Fischer GmbH社、ドイツ)を使用して、XRFによって層厚を決定する。析出物の層状構造を推測することによって、層厚は、かかるXRFデータから算出され得る。めっき速度は、得られた層厚を、前記層厚を得るのに必要な時間で除算することによって算出された。
【0127】
基板上での銅の析出
基板の表面上に銅を析出させる前に、Table 1(表1)に記載するように、基板を前処理した(工程(i.a))。
【0128】
【0129】
続いて、無電解銅めっき浴は、下記の成分を水中に溶解させることによって調製され、それぞれ調製後に最終容量0.450dm3を有した:
銅イオン供給源としての硫酸銅(銅イオン1.91g)、銅イオン用の錯化剤としての酒石酸塩(20.3g)、pHを13に調整するためのpH調整物質としてのNaOH及び硫酸、銅イオンを金属銅に還元するのに適した還元剤(2.12g)及び以下で付与される量の式(1)(Z1及びZ2はそれぞれ、CO2Hのカリウム塩であり、R1、R2、R3及びR4は水素である)による化合物の0.115wt%溶液(1mL~20mL)。後者の化合物を、以下で「化合物A」と称する。
【0130】
基板を、無電解銅めっき浴に360秒間浸漬させた。無電解銅めっき浴は、めっきしている間、温度34℃を有した(工程(ii))。
【0131】
そして最終的に、基板を、CuSO4×5H2O(86g/L)、98wt%のH2SO4(水溶液、245g/L)、NaCl(100mg/L)、Cuparacid AC Leveller(15mL/L)及びCuparacid AC Brightener(4.5mL/L)を含む銅めっき浴を使用する電解銅析出(電解的肥厚)の工程に付した。析出は、空気噴射下で0.5Aを用いて900秒間、20℃で行った。
【0132】
比較例として、以下で付与する濃度の、式(1)による化合物を含まない無電解銅めっき浴、それぞれ2,2-ビピリジン及び4,4-ジメチル-2,2-ビピリジンを有する無電解銅めっき浴を使用した。結果を下記の表にまとめる。
【0133】
【0134】
電解銅強化後の本発明の無電解銅めっき浴から得られる銅又は銅合金層は、比較用めっき浴から得られる銅又は銅合金層と比較して、非常に光沢があり、優れた光沢を示した(Table 3(表3)を参照)。また、これらの場合、本発明の銅層系は、比較用層系と比較して、優れた光沢値を得ることが可能であった。いかなる安定化剤も有さない比較用銅めっき浴は、かかる浴を商業目的で無用にさせる相当量のプレートアウトを迅速に示した。本発明の実施例のめっき速度はまた、安定化剤を有する比較例と比較して、非常に高かった。
【0135】
【0136】
化合物(1)による化合物を含む本発明の無電解銅めっき浴は、安定化剤を有する比較用めっき浴よりもはるかに高い光沢を可能にした。また、これは、工程(iii)におけるはるかに広範囲の印加される電流密度で達成可能であった。
【0137】
【0138】
無電解析出後、バックライトテストを実行した。本発明の電解質銅めっき浴が、式(1)による化合物に代わって、2,2-ビピリジン及び4,4-ジメチル-2,2-ビピリジンを含むめっき浴と比較して、被覆の改善を可能にしたことは明らかである。
【0139】
要約すると、本発明の実施例は、浴の十分高いめっき速度及び安定性並びに析出物の高い光沢及び被覆を示した。本発明の他の実施形態は、本明細書の考察又は本明細書中に開示する本発明の実施から、当業者には明白である。明細書及び実施例は、単なる例示として考慮され、本発明の真の範囲は、下記の特許請求の範囲によってのみ規定されると意図される。