(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)複合材料
(51)【国際特許分類】
C08G 65/46 20060101AFI20230822BHJP
C08G 65/40 20060101ALI20230822BHJP
C08L 71/10 20060101ALI20230822BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20230822BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C08G65/46
C08G65/40
C08L71/10
C08K7/02
C08J5/04
(21)【出願番号】P 2020571422
(86)(22)【出願日】2019-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2019065909
(87)【国際公開番号】W WO2019243270
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-17
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ルイス, シャンタル
(72)【発明者】
【氏名】プラット, ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】スワンソン, クレイグ
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-159431(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031005(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00-65/48
C08L 71/10
C08K 7/02
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中和されていないポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)ポリマー粉末の溶融安定性を高める方法であって、
中和されていないポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)ポリマー粉末を酸又は塩基を含む溶液で洗浄して
、中和されたPEKKポリマーを形成する工程を含
み、
中和されていないPEKKポリマーは、10μeq/g超の残留酸性度又は-24μeq/g超の残留塩基性度を有し、
ここで、
残留酸性度が10μeq/g超の場合、溶液は塩基を含み、洗浄により、中和されていないPEKKポリマーの残留酸性度が10μeq/g以下に減少し、
残留塩基性度が-24μeq/g超の場合、溶液は酸を含み、洗浄により、中和されていないPEKKポリマーの残留塩基性度が-24μeq/g以下に減少
し、
前記酸は、酢酸、一アルカリ金属クエン酸、アルカリ金属又はアルカリ土類金属二水素リン酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記塩基は、有機アミン、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、テトラアルキルアンモニウムアセテート、テトラアルキルホスホニウムヒドロキシド、テトラアルキルホスホニウムアセテート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属一水素リン酸、アルカリ金属又はアルカリ土類金属リン酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項2】
前記中和された
PEKKポリマーは、少なくとも1つの繰り返し単位(R
M
PEKK)と少なくとも1つの繰り返し単位(R
P
PEKK)とを含み、
それぞれの繰り返し単位(R
M
PEKK)は、式:
-[-M
m-O-]-、(1)で表され、
それぞれの繰り返し単位(R
P
PEKK)は、式:
-[-M
p-O-]-、(2)で表され、
式中、
M
mとM
pは、それぞれ以下の式:
(式中、それぞれのR
1及びR
2は、場合ごとに、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
それぞれのi及びjは、場合ごとに、0~4の範囲の独立して選択される整数である)で表される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸又は塩基の量は、中和される残留塩基性度又は残留酸性度にそれぞれ比例し、前記残留酸性度は、残留酸性度試験によって決定され、前記残留塩基性度は、残留塩基性試験によって決定される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
洗浄中の前記中和されていないPEKKポリマーの平均粒子サイズが、50μm~2mmの範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記中和されていな
いPEKK
ポリマーは、55/45~75/2
5の範囲のT/I比を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
中和されたポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)ポリマーを製造する方法であって、
中和されていないポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)ポリマー粉末を酸又は塩基を含む溶液で洗浄して、中和されたPEKKポリマーを形成する工程を含み、
中和されていないPEKKポリマーは、10μeq/g超の残留酸性度又は-24μeq/g超の残留塩基性度を有し、
ここで、
残留酸性度が10μeq/g超の場合、溶液は塩基を含み、洗浄により、中和されていないPEKKポリマーの残留酸性度が10μeq/g以下に減少し、
残留塩基性度が-24μeq/g超の場合、溶液は酸を含み、洗浄により、中和されていないPEKKポリマーの残留塩基性度が-24μeq/g以下に減少し、
前記酸は、酢酸、一アルカリ金属クエン酸、アルカリ金属又はアルカリ土類金属二水素リン酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記塩基は、有機アミン、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、テトラアルキルアンモニウムアセテート、テトラアルキルホスホニウムヒドロキシド、テトラアルキルホスホニウムアセテート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属一水素リン酸、アルカリ金属又はアルカリ土類金属リン酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項7】
前記中和されたPEKKポリマーが、少なくとも1つの繰り返し単位(R
M
PEKK)及び少なくとも1つの繰り返し単位(R
P
PEKK)を含み、
それぞれの繰り返し単位(R
M
PEKK)は、式:
-[-M
m-O-]-、(1)で表され、
それぞれの繰り返し単位(R
P
PEKK)は、式:
-[-M
p-O-]-、(2)で表され、
式中、
M
m及びM
pは、それぞれ以下の式:
(式中、それぞれのR
1及びR
2は、場合ごとに、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
それぞれのi及びjは、場合ごとに、0~4の範囲の独立して選択される整数である)で表され、
更に、
前記中和されたPEKK
ポリマーは、ICP-OESによって決定される、30重量ppm超のアルミニウム及び200重量ppm超のリンを含み、
前記中和されたPEKK
ポリマーは、10℃/分で窒素(60mL/分)下30℃から800℃までASTM D3850に従って熱重量分析で測定される、少なくとも495℃の熱安定性(Td2%)を有する、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
中和されたポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)ポリマーを含むポリマーマトリックス中に強化繊維を含む複合材料を製造する方法であって、
請求項6又は7に記載の、中和されたポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)ポリマーを製造する方法を含む、方法。
【請求項9】
前記強化繊維は、連続しており、炭素繊維、グラファイト繊維、Eガラス繊維などのガラス繊維、炭化ケイ素繊維などのセラミック繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、及びポリベンゾオキサゾール繊維などの合成ポリマー繊維、又はこれらの組み合わせを含む、請求項
8に記載の
方法。
【請求項10】
前記強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、又はこれらの組み合わせを含む、請求項
9に記載の
方法。
【請求項11】
前記強化繊維は、ASTM D638によって測定される、3.5ギガパスカル(「GPa」)以上の引張り強度、及び200GPa以上の引張り弾性率を示す炭素繊維である、請求項
10に記載の
方法。
【請求項12】
複合物品を製造する方法であって、
請求項
8~11のいずれか一項に記載の、複合材料を
製造する方法を含む、方法。
【請求項13】
前記複合物品は、少なくとも4mmの厚さを有する少なくとも1つの部分を含む、請求項
12に記載の
方法。
【請求項14】
前記複合
物品は、5mm超の厚さを有する少なくとも1つの部分を含み、5mm超の厚さを有する前記複合物品の全ての部分
がまた、2%未満の空孔容量を含み、空孔容量は、X線顕微鏡断層撮影法によって決定される、請求項
12又は
13に記載の
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年6月21日に出願された米国仮特許出願第62/688065号及び2018年7月17日に出願された欧州特許出願第18184039.8号の優先権を主張し、これらの出願それぞれの全内容は、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、PEKKポリマー、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)複合材料、及びPEKK複合材料を含む複合物品の溶融安定性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)ポリマーは、比較的極限の状況での使用に非常に適している。一部には、PEKKポリマーの高い結晶化度と高い溶融温度により、優れた熱的、物理的、及び機械的特性を有し、連続繊維強化複合材料のポリマーマトリックスとしての使用に非常に適している。このようなPEKK複合材料は、航空宇宙用途を含むがこれに限定されない、幅広い要求の厳しい用途設定で使用される。
【0004】
それにもかかわらず、現在のところ、靭性を損なうことなく、複合材料の複数の層を同時に一緒に融合し、これにより溶融樹脂が高温で長時間滞留するのを制限する、工業用サイズのオートクレーブなどの大型で高価な機器を使用せずに、厚いPEKK複合材料(例えば60プライ以上)を作製することはできない。複合材料は、例えば、より単純で費用効果の高いVBO(真空バッグのみ)技術を使用して製造でき、この場合、複合材料の層を順次適用して、最終的な複合物品を形成するが、この技術では、高温での長い滞留時間を必要とする。ポリマーマトリックスに十分な溶融安定性がない場合、この方法で厚いPEKK複合材料を作製すると、固結、劣化、又は多孔性が不十分な領域が生じる場合がある。
【0005】
PEKKポリマーを含むポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマーを安定化するための解決策が提案されているが、これらの解決策は完全に満足のいくものではない。
【0006】
米国特許第5,208,278号明細書は、安定化添加剤としての有機塩基の使用を記載しているが、有機塩基は、処理温度でPAEKポリマーから揮発性有機化合物を蒸発又は生成する可能性がある。
【0007】
国際公開第2017/013369A1号パンフレットは、PAEKポリマーをリン酸塩又はリン酸塩の混合物と乾式ブレンド、含浸、又は配合することによる、PEKK複合材料などのPAEK複合材料の安定化を開示している。これらの方法には、例えば複合材料を作製するために処理される場合、ポリマー中のリン酸塩の均一な分布の欠如などの欠点がある。
【0008】
最後に、米国特許第4,874,839号明細書は、オートクレーブにて高温で前処理され、次いで300℃に3時間加熱されてリン酸を含浸させた、リン酸二水素ナトリウム溶液をPAEKポリマーに添加することによるPAEKポリマーの溶融安定化を例示している。この方法に必要な高温及び高圧は、工業的に困難であり、操作に費用がかかる。更に、ポリマーの高温前処理は、ポリマーの多孔性を低下させ、リン酸塩での安定化をより困難にする傾向がある。
【0009】
従って、溶融安定性が改善され、費用効果の高い技術を使用した厚い複合材料の製造に適したPEKKポリマーが必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】比較例1のPEKKポリマー及び実施例3のPEKKポリマーの経時的な平行板による粘度プロファイルを示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
例示的な実施形態は、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)ポリマーの溶融安定性を改善する方法、並びにPEKKポリマーを含むポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)複合材料、並びにPEKK複合材料を含む複合物品に関する。PEKK複合材料は、PEKKポリマーを含むポリマーマトリックスに強化繊維を含む。
【0012】
驚くべきことに、中和されていないPEKKポリマー粉末を酸又は塩基で洗浄することにより、従来の方法によって調製されたPEKKポリマーと比較して、PEKKポリマーの溶融安定性を改善できることが発見された。実際、本明細書に記載の中和されたPEKKポリマーを含むPEKK複合材料は、厚い複合物品(即ち、少なくともその一部が厚さ4mm以上である物品)の製造に特に非常に適している。更に、本発明のPEKK複合材料のポリマーマトリックスの溶融安定性が高まるため、PEKK複合材料は、より費用効果の高いVBO技術によって厚い複合物品に製造することができる。
【0013】
PEKKポリマーの溶融安定性を高める方法
従って、例示的な実施形態は、中和されていないPEKKポリマーの溶融安定性を高める方法に関し、この方法は、中和されていないPEKKポリマー粉末を、PEKKポリマーを中和するのに十分な量の酸又は塩基を含む溶液で洗浄することを含む。
【0014】
本明細書で使用される場合、「中和されたPEKKポリマー」は、残留酸性度が10μeq/g以下であり、残留塩基性度が-24μeq/g以下であるPEKKポリマーを意味し、残留酸性度は、残留酸性度試験によって決定され、残留塩基性度は、残留塩基性度試験によって決定される。本明細書で使用される場合、「残留酸性度試験」及び「残留塩基性試験」は、以下の実施例に記載されるm-クレゾールでの滴定分析を指す。逆に、「中和されていないPEKKポリマー」は、残留酸性度が10μeq/g超又は残留塩基性度が-24μeq/g超のPEKKポリマーを意味し、残留酸性度は、残留酸性度試験によって決定され、残留塩基性度は、残留塩基性度試験によって決定される。本明細書で使用される場合、「PEKKポリマーを中和する」という作用は、中和されていないPEKKポリマーを中和されたPEKKポリマーに変換することを意味する。
【0015】
本明細書で使用される場合、酸又は塩基を含む溶液でPEKKポリマーを「洗浄」することは、PEKKポリマーを溶液中で酸又は塩基と接触させ、次いで酸又は塩基溶液をPEKKポリマーとの接触から実質的に除去することを意味する。「実質的に除去する」は、酸又は塩基とPEKKポリマーの全重量に基づいて、30重量%未満の酸又は塩基が、洗浄後にPEKKポリマーと接触したままであることを意味する。いくつかの実施形態では、PEKKポリマーは、5分~5時間、好ましくは10分~3時間の範囲の時間、酸又は塩基と接触させられる。ポリマーを洗浄する方法は、当業者に周知であり、例えば、酸又は塩基を含む溶液でポリマーをスラリー化し、次いで溶液を濾別することを含む。
【0016】
「洗浄」は、ポリマーを溶液と接触させ、次いで溶媒を除去して溶質をポリマーと接触させることができる「含浸」などとは区別されることに留意されたい。同様に、「洗浄」は、安定剤がポリマーと無期限に接触したままであるPEKKポリマーに安定剤を添加することとは異なる。洗浄の利点には、容易さ、コストの削減、及び酸又は塩基をPEKKポリマーと接触させておく(又は中に分散させる)ことによる可能性のある望ましくない影響の回避が含まれる。最後にまた、「洗浄」は、高温(例えば100℃超)又は高圧(例えば80psig超)を伴う熱水処理とも区別される。これに関して、洗浄は、好ましくは大気圧又は最大80psigの圧力で実施される。洗浄は、好ましくは0~100℃の範囲の温度で実施される。
【0017】
洗浄が実施される時間は特に限定されないが、好ましくは、洗浄は、ポリマー合成全体の一部として、好ましくはPEKKポリマーの合成の最終工程として実施される。
【0018】
また、溶液中の酸又は塩基の濃度は特に制限されていないが、PEKKポリマーの残留酸性度又は残留塩基性度を中和するのに十分でなければならない。溶液中の酸又は塩基の量は、好ましくは中和される酸性度又は塩基性度の量に一致する。従って、いくつかの実施形態では、PEKKポリマーの残留酸性度又は残留塩基性度は、酸又は塩基を含む溶液でPEKKポリマーを洗浄する前に、残留酸性度試験又は残留塩基性度試験で測定され、測定された残留酸性度又は残留塩基性度は、中和される残留酸性度又は塩基性度に比例する酸又は塩基の量を決定するために使用される。
【0019】
いくつかの実施形態では、洗浄は、単一の洗浄工程からなるが、洗浄工程の組み合わせがPEKKポリマーの中和の成果を達成するという条件で、洗浄はまた、例えば、それぞれの工程において異なる酸、塩基、又は溶媒との複数の洗浄工程の組み合わせを含み得ることを理解されたい。
【0020】
適切な酸及び塩基には、アルコール、ケトン、アミド、芳香族炭化水素などの有機溶媒中、又は溶媒の沸点より低い温度の水中で少なくとも0.1重量%の溶解度を示す任意の有機又は無機の酸又は塩基が含まれる。好ましくは、溶媒は、多くとも250℃、より好ましくは多くとも150℃、最も好ましくは多くとも100℃の沸点を有する。好ましくは、酸は、3.0~7.5の範囲のpKaを有し、好ましくは、塩基は、-1.0~8.0の範囲のpKbを有する。
【0021】
いくつかの実施形態では、酸は、酢酸、一アルカリ金属クエン酸、アルカリ金属又はアルカリ土類金属二水素リン酸、及びこれらの組み合わせから選択される。好ましくは、酸は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属二水素リン酸、好ましくはアルカリ金属二水素リン酸、より好ましくはナトリウム又はカリウム二水素リン酸である。これらの酸は、溶液として、又はリン酸二水素ナトリウム脱水物NaH2PO4・2H2Oなどの水和物として無水の形態で使用できる。
【0022】
いくつかの実施形態では、塩基は、有機アミン、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、テトラアルキルアンモニウムアセテート、テトラアルキルホスホニウムヒドロキシド、テトラアルキルホスホニウムアセテート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ヒドロキシド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属一水素リン酸、アルカリ金属又はアルカリ土類金属リン酸、及びこれらの組み合わせから選択される。
【0023】
好ましい溶媒は、水、アルコール、エーテル、又はケトンであり、沸点が多くとも150℃であるが、少なくとも0.1重量%の酸又は塩基を溶解することができ、PEKKポリマーと不利に反応しない任意の溶媒を使用することができる。好ましくは、溶媒は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、又はイソプロパノールである。より好ましくは、溶媒は、水、メタノール、又はエタノールである。いくつかの実施形態では、2つ以上の溶媒を使用することができる。
【0024】
PEKKポリマーは粉末の形態で洗浄される。洗浄液との最適な接触を確実にするために、洗浄中のPEKKポリマーの平均粒子サイズは、好ましくは50μm~2mmの範囲であり、より好ましくは200μm~1mmの範囲である。PEKKポリマー粉末は、25度の浸漬温度でISO9277によって測定される、0.5m2/g超、好ましくは1.0m2/g超、最も好ましくは2.5m2/g超のBET表面積を有し得る。
【0025】
ポリマーマトリックス
ポリマーマトリックスは、本明細書に記載の方法によって中和されたPEKKポリマー、及び任意選択で以下に記載される1つ以上の添加剤を含む。ポリマーマトリックスは、当技術分野で周知の方法によって調製することができる。このような方法には、粉末を形成するためのPEKKポリマーと任意の更なる成分の乾式混合が含まれるが、これらに限定されない。
【0026】
ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEKK)ポリマー
本明細書で対象のPEKKポリマーは、少なくとも1つの繰り返し単位(R
M
PEKK)及び少なくとも1つの繰り返し単位(R
P
PEKK)を含む。それぞれの繰り返し単位(R
M
PEKK)は、一般式:
-[-M
m-O-]-、及び(1)による式で表され、
それぞれの繰り返し単位(R
P
PEKK)は、以下の一般式:
-[-M
p-O-]-、(2)による式で表され、
式中、M
m及びM
pは、それぞれ、以下の一般式で表される。
【0027】
式(3)及び(4)では、R1及びR2は、場合ごとに、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、i及びjは、場合ごとに、0~4の範囲の独立して選択される整数である。本明細書で使用される場合、破線の結合は、描画構造の外側の原子への結合を示す。化学種「M」上の添字「p」及び「m」は、中心のベンゼン環上のそれぞれのパラ(式(4))及びメタ(式(3))ベンゾイル置換を反映している。いくつかの実施形態では、それぞれのi及びjはゼロである。明確にするために、いくつかの実施形態では、PEKKポリマーは、それぞれの繰り返し単位が別個であるという状態で、複数の繰り返し単位(RM
PEKK)、複数の繰り返し単位(RP
PEKK)、又は両方を有する。従って、繰り返し単位(RM
PEKK)への言及は、一般式(1)に従ったPEKK中の全てのタイプの繰り返し単位に言及し、繰り返し単位(RP
PEKK)への言及は、一般式(2)に従ったPEKK中の全てのタイプの繰り返し単位に言及する。
【0028】
本明細書で使用される場合、PEKKポリマーは、繰り返し単位(RM
PEKK)及び繰り返し単位(RP
PEKK)の全濃度が、PEKKポリマー中の繰り返し単位の全モル数に対して、少なくとも50モル%である任意のポリマーを意味する。いくつかの実施形態では、繰り返し単位(RM
PEKK)及び繰り返し単位(RP
PEKK)の全濃度は、PEKKポリマー中の繰り返し単位の全モル数に対して、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%又は少なくとも99モル%である。いくつかの実施形態では、繰り返し単位(RM
PEKK)の全モル数に対する繰り返し単位(RP
PEKK)の全モル数の比(「(RP
PEKK)/(RM
PEKK)比」又は「T/I比」)は、55/45~75/25、好ましくは60/40~80/20、より好ましくは62/38~75/25の範囲である。
【0029】
いくつかの実施形態では、繰り返し単位(R
M
PEKK)は、繰り返し単位(R
M1
PEKK)を含み、繰り返し単位(R
P
PEKK)は、繰り返し単位(R
P1
PEKK)、(R
P2
PEKK)、及び(R
P3
PEKK)を含む。繰り返し単位(R
M1
PEKK)、(R
P1
PEKK)、(R
P2
PEKK)及び(R
P3
PEKK)は、それぞれ、以下の式:
-[-M
1*
m-O-]-、(5)
-[-M
1*
P-O-]-、(6)
-[-M
2*
P-O-]-、(7)
-[-M
3*
P-O-]-、及び(8)
で表され、
式中、M
1*
m、M
1*
P、M
2*
P、及びM
3*
Pは、それぞれ、以下の式:
(式中、R
1*、R
2*、R
3*及びR
4*は、場合ごとに、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、i*、j*、k*及びL*は、場合ごとに、0~4の範囲の独立して選択される整数である)
で表される。いくつかの実施形態では、それぞれのi*、j*、k*及びL*はゼロである。いくつかの実施形態では、繰り返し単位(R
M1
PEKK)、並びに繰り返し単位(R
P1
PEKK)、(R
P2
PEKK)及び(R
P3
PEKK)の全濃度は、繰り返し単位(R
M
PEKK)及び繰り返し単位(R
P
PEKK)の全モル数に対して、少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%又は少なくとも99モル%、又は100モル%である。いくつかの実施形態では、繰り返し単位(R
P1
PEKK)、(R
P2
PEKK)、及び(R
P3
PEKK)の全モル数の繰り返し単位(R
M1
PEKK)のモル数に対する比は、繰り返し単位(R
M
PEKK)及び(R
P
PEKK)に関して上に記載された範囲内である。
【0030】
上記のように、対象のPEKKポリマーは、従来の方法によって作製されたPEKKポリマーと比較して、予想外に改善された溶融安定性を示す。従って、いくつかの実施形態では、PEKKポリマーは、410℃、窒素下、10ラジアン/秒、10分及び120分で1%歪みにて、ASTM D4440に従って測定される、1.0~3.5、好ましくは1.0~3.2の範囲の複素粘度比120/10(平行板)を示す。
【0031】
PEKKポリマーは、典型的には、360℃/8.4kg重量(実施例に詳述される)でASTM D1238によって測定される、10から150g/10分、好ましくは50から120g/10分のメルトフローを示す。
【0032】
いくつかの実施形態では、PEKKポリマーは、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも85重量%、90重量%、95重量%、98重量%、99重量%のポリマーマトリックスを表す。
【0033】
いくつかの実施形態では、PEKKポリマーは、求電子性(フリーデルクラフツ)重縮合を介して合成される。親電子置換によるPEKKポリマーの合成は、当技術分野で周知であり、例えば、Aromatic Polyethers,Polyetherketones,Polysulfides and Polysulfones”R.Guo,J.McGrath in Polymer Science:A Comprehensive Reference,2012,vol,5,pp.388-399に記載されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0034】
ポリマーマトリックスの任意の更なる成分
いくつかの実施形態では、ポリマーマトリックスは、(i)着色剤(例えば、染料)、(ii)顔料(例えば、二酸化チタン、硫化亜鉛、及び酸化亜鉛)、(iii)光安定剤(例えば、UV安定剤)、(iv)熱安定剤、(v)酸化防止剤(例えば、有機ホスファイト及びホスホナイト)、(vi)酸捕捉剤、(vii)処理助剤、(viii)核剤、(ix)可塑剤、内部潤滑剤、及び外部潤滑剤、(x)難燃剤、(xi)煙抑制剤、(x)帯電防止剤、(xi)ブロッキング防止剤、(xii)導電性添加剤(例えば、カーボンブラック及びカーボンナノフィブリル)、(xiii)可塑剤、(xiv)流動調整剤、(xv)増量剤、(xvi)金属不活性化剤、及びこれらの1つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の更なる成分を含むことができる。好ましくは、更なる成分の全濃度は、ポリマーマトリックスの全重量に基づいて、20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、更により好ましくは2%未満である。
【0035】
強化繊維
強化繊維は、有機又は無機であり得る。強化繊維成分として使用するのに適した繊維としては、例えば、炭素繊維、グラファイト繊維、Eガラス繊維などのガラス繊維、炭化ケイ素繊維などのセラミック繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、及びポリベンゾオキサゾール繊維などの合成ポリマー繊維が挙げられる。このような繊維の単層又は断面の面積重量は、例えば、50~600g/m2まで変動し得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、又は炭素繊維とガラス繊維の両方を含む。いくつかの実施形態では、繊維は、例えば、ASTM D638によって測定される、3.5ギガパスカル(「GPa」)以上の引張り強度及び200GPa以上の引張り弾性率を示す炭素繊維を含む炭素繊維を含む。
【0037】
繊維は、ウィスカー、短繊維、連続繊維、シート、プライ(ply)、及びこれらの組み合わせの形態であり得る。更に、連続繊維は、一方向、多次元、不織、織り、編み、ステッチ、巻き、及び編組の構成、並びにスワールマット、フェルトマット、及びチョップドマットの構造のいずれかを採用することができる。繊維のトウは、サイジング(sizing)など、クロストウステッチ、緯糸挿入編みステッチ、又は少量の樹脂によってこのような構成で所定の位置に保持することができる。本明細書で使用される場合、「連続繊維」は、10mm超の長さを有する繊維である。
【0038】
PEKK複合材料の作成方法
例示的な実施形態は、上記の強化繊維に本明細書に記載のポリマーマトリックスを含浸させることを含む、PEKK複合材料を作製する方法に関する。
【0039】
例えば、粉末塗装、フィルム積層、押出し、引抜成形、水性スラリー、及び溶融含浸を含む、繊維にポリマーマトリックスを含浸させることができる様々な方法を採用することができ、この場合、マトリックスは、溶融又は粒子形態であり、例えば、マトリックス材料が少なくとも部分的に含浸された繊維のシート又はテープの形態で、プライを形成する。本明細書で使用される場合、「テープ」は、ストライプ材料の単一の軸に沿って整列された、長手方向に延びる強化繊維を有する材料のストライプを意味する。
【0040】
マトリックスが含浸された繊維のプライを互いに隣接して配置して、プリプレグなどの未固結の複合ラミネートを形成することができる。ラミネートの繊維強化層は、それぞれの繊維強化を互いに対して選択された方向に配置することができる。
【0041】
プライは、手動又は自動で、例えば、「ピックアンドプレース」ロボティクス(robotics)を使用した自動テープ敷設(layup)によって、或いは事前に含浸された繊維のトウを加熱して、型に又はマンドレル上で圧縮する高度な繊維配置によって積み重ねられて、所望の物理的寸法及び繊維配向を有する複合ラミネートを形成することができる。
【0042】
未固結のラミネートの層は、典型的には、完全に一緒に融合されておらず、未固結の複合ラミネートは、例えば、X線顕微鏡断層撮影法によって測定される、20体積%超の大きい空孔含有量を示し得る。例えば、複合ラミネートの固結前の複合ラミネートの取り扱いを可能にする中間工程として、複合材料の「ブランク」を形成するために、熱及び/又は圧力を加えて、或いは音波振動溶接を使用して、ラミネートを安定させ、層が互いに対して移動するのを防ぐことができる。
【0043】
このように形成された複合ラミネートは、その後、典型的には、複合ラミネートを、例えば、型内で熱及び圧力にさらすことによって固結されて、成形された繊維強化熱可塑性マトリックス複合物品を形成する。本明細書で使用される場合、「固結」は、マトリックス材料が軟化され、複合ラミネートの層が一緒にプレスされ、空気、水分、溶媒、及び他の揮発性物質がラミネートから押し出され、複合ラミネートの隣接するプライが一緒に融合して、固くてまとまりのある物品を形成するプロセスである。理想的には、固結された複合物品は、X線顕微鏡断層撮影法によって測定される、最小の、例えば、5体積%未満、より典型的には2体積%未満の空孔含有量を示す。
【0044】
PEKK複合材料は、好ましくは、PEKK複合材料の重量で20~80重量%の強化繊維と、80~20重量%のポリマーマトリックスとを含む。
【0045】
複合物品
本明細書に記載のPEKK複合材料は、航空宇宙用途のための構成要素を含むがこれらに限定されない複合物品に組み込むことができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、複合物品は、実質的に二次元の物品の形態である。二次元の物品には、例えば、フィルムやシートなど、1つの寸法(厚さ又は高さ)が他の2つの特徴的な寸法(長さと幅)よりも大幅に小さい部品が含まれる。いくつかの実施形態では、複合物品は三次元部品である。三次元部品は、複雑な形状を有する部品の形態を含む、同様の方法で空間の三次元に実質的に延びる部品を含む(例えば、凹面又は凸面のセクション、おそらくアンダーカット、インサートなどを含む)。
【0047】
いくつかの実施形態では、複合物品は、少なくとも4mmの厚さを有する少なくとも1つの部分を含む。
【0048】
少なくとも部分的にポリマーマトリックスの予想外に改善された溶融安定性のため、ポリマーマトリックスを含む複合物品は、5mm超の厚さを有する部分において2体積%未満の空孔を示し得、この場合、空孔のパーセントは、X線顕微鏡断層撮影法によって決定される。
【0049】
いくつかの実施形態では、PEKK複合材料の靭性は、290℃~370℃の範囲の温度で20分間加熱された後、その初期靭性の75%を超え、靭性は、ASTM試験方法D7137/7136に従って1500in-lbs/in衝撃エネルギーを使用して衝撃後の圧縮強度として測定される。
【0050】
いくつかの実施形態では、PEKK複合材料の靭性は、290℃~370℃の範囲の温度で20分間加熱された後、その初期靭性の75%を超え、靭性は、ASTM 5228に従ってモード1(mode 1)破壊靭性として測定される。
【0051】
また、例示的な実施形態は、本明細書に記載のポリマーマトリックスと強化繊維とを含むPEKK複合材料に関し、この場合、複合材料のPEKKポリマーは、ICP-OESによって決定される、30重量ppm超のアルミニウム及び200重量ppm超のリンを含み、10℃/分で窒素(60mL/分)下30℃から800℃までASTM D3850に従って熱重量分析で測定される、少なくとも495℃の熱安定性(T2%)を有する。
【実施例】
【0052】
以下の例は、PEKKの合成、並びにその熱的、レオロジー的、及び化学的特性を示している。
【0053】
原材料
1,4-ビス(4-フェノキシベンゾイル)ベンゼンは、露国特許公開出願第SU445643A1号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)に従って調製された。
【0054】
1,2-ジクロロベンゼン、塩化テレフタロイル、塩化イソフタロイル、3,5-ジクロロベンゾイルクロリド、塩化アルミニウム(AlCl3)、メタノールは、Sigma Aldrichから購入した。
【0055】
塩化リチウム(無水粉末)はAcrosから調達した。
酸化マグネシウム、Kyowamag(登録商標)MF-150は、Kyowa Chemical Industry Co.,Ltd.、日本から調達した。
【0056】
テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、NaH2PO4・2H2O、及びNa2HPO4は、Sigma-Aldrichから購入した。
【0057】
テトラメチルアンモニウムアセテートは、Ark Pharmaから購入した。
メタノール、m-クレゾール、99%、クロロホルム、及びホルムアルデヒド溶液は、Sigma-Aldrichから入手した。
【0058】
メルトフローインデックスの決定
メルトフローインデックスは、360℃で重量3.8kgにてASTM D1238に従って決定した。重量8.4kgの最終的なMFIは、得られた値に2.35を掛けることによって得られた。
【0059】
熱安定性の決定(2%の重量損失の温度)
2%の重量損失(Td2%)の温度は、ASTM D3850に従って熱重量分析(「TGA」)によって測定した。TGAは、TA Instruments TGA Q500で、窒素(60mL/分)にて10℃/分で30℃~800℃で実施した。
【0060】
ガラス転移温度(Tg)、溶融温度(Tm)及び結晶化温度(Tc)の決定
ガラス転移温度(Tg)(中間点)、溶融温度(Tm)、及び結晶化温度(Tc)は、ASTM D3418-03、E1356-03、及びE794-06に従って示差走査熱量計(DSC)での第2の熱走査にて決定した。キャリアガスとしての窒素(純度99.998%、50mL/分)を用いてTA Instruments DSC Q20を使用した。温度及び熱流量較正は、インジウムを使用して行った。試料サイズは5~7mgであった。重量は、±0.01mgで記録された。熱サイクルは:
・第1の熱サイクル:10.00℃/分で30.00℃~400.00℃、400.00℃で1分間等温、
・第1の冷却サイクル:10.00℃/分で400.00℃~30.00℃、1分間等温、
・第2の熱サイクル:10.00℃/分で30.00℃~400.00℃、400.00℃で1分間等温であった。
【0061】
溶融温度、Tmは、第2の加熱走査における溶融吸熱のピーク温度として決定した。結晶化温度(Tc)は、第1の冷却走査での結晶化発熱のピーク温度として決定した。
【0062】
平行板による溶融安定性の決定(VR120)
以下の条件下で圧縮成形により、直径7.62cm×3mmのプラークを調製した:
1.368℃で予熱する、
2.368℃/15分、2000kg-f、
3.368℃/2分、2700kg-f、
4.40分かけて30℃まで冷却する、2000kg-f。
【0063】
プラークから直径25mmのディスクをドリルで穴を開け、TA ARES RDA3レオメーターにてASTM D4440に従って平行板レオロジーによって分析した。複素粘度は、410℃、窒素下、10ラジアン/秒、1%歪みで120分間測定した。
【0064】
ICP-OES法によるモノマー及びポリマー中の元素不純物の決定
きれいで乾燥した白金るつぼを分析天びんに置き、分析天びんをゼロにした。モノマー/ポリマー試料の半分から3グラムをボートに量り取り、その重量を0.0001gと記録した。試料の入ったるつぼをマッフル炉(Thermo Scientific Thermolyne F6000 Programmable Furnace)に入れた。炉を525℃に徐々に加熱し、その温度で10時間保持して試料を乾式灰化した。灰化後、炉温を室温に冷却し、炉からるつぼを取り出し、フュームフード内に配置した。灰を希塩酸中に溶解させた。ポリエチレン製ピペットを使用して、この溶液を25mLの体積フラスコに移した。るつぼは、約5mLの超純水(R<18MΩcm)を用いて2回すすぎ洗い、定量的移動を実行するために洗浄液を体積フラスコに添加した。超純水をフラスコ内に計25mLとなるまで添加した。フラスコの上部に栓をして、内容物が確実に混ざるまで振とうした。
【0065】
ICP-OES分析は、誘導結合プラズマ発光分光器Perkin-Elmer Optima 8300デュアルビューを使用して実施した。発光分光器は、0.0~10.0mg/Lの検体濃度を備えるNISTトレーサブル多要素混合標準物質の組を使用して較正した。48検体それぞれについて0.9999より優れた相関係数を備える濃度範囲で線形較正曲線を得た。標準物質は、機器安定性を保証するために10の試料毎の前後に実施した。結果は、3回の実験の平均値として報告した。試料中の元素不純物の濃度は、下記の方程式を用いて計算した:
A=(B*C)/(D)
(式中、
A=試料中の元素の濃度、mg/kg(=重量ppm)、
B=ICP-OESによって分析された溶液中の元素、mg/L、
C=ICP-OESによって分析された溶液中の体積、mL、
D=この手順で使用されたグラムでの試料重量)。
【0066】
残留酸性度の決定(「残留酸性度試験」)
0.15~0.20gのPEKK試料を滴定容器に量り入れ、8mLのm-クレゾールに溶解した。溶解後、試料を8mLのクロロホルム、50μLの37重量/体積%ホルムアルデヒド水溶液で希釈した。次いで、試料を、2mLのビュレット、及びエタノール中の3M LiClで満たされた柔軟なすり合わせダイアフラムを備えたMetrohm複合pH電極(Solvotrode)を有するMetrohm自動滴定装置Titrando809を使用して、メタノール中の標準0.1NKOHで電位差滴定した。滴定溶液の体積に対する滴定装置の読み取り値をプロットし、滴定曲線の変化点で終点を取得した。ブランク溶液は、試料が実行されるたびに、同じ条件下で実行した。ブランク値は、試料滴定終点電位と同じmV電極電位を達成するために必要な滴定剤の量から決定した。
【0067】
変数:
V_ブランク-ブランクから等量点に到達するための滴定液の平均量、mL
V_試料-試料から等量点に到達するための滴定液の量、mL、
W-試料質量、グラム
N-滴定の規定度
残留酸性度方程式:
【0068】
残留塩基性度の決定(「残留塩基性度試験」)
0.10~0.15gのPEKK試料を滴定容器に量り入れ、24mLの滴定溶媒(m-クレゾール)に溶解した。次いで、試料を、10mLのビュレット、及びエタノール中の3M LiClで満たされた柔軟なすり合わせダイアフラムを備えたMetrohm複合pH電極(Solvotrode)を有するMetrohm自動滴定装置Titrando809を使用して、氷酢酸中の標準0.1N過塩素酸で電位差滴定した。滴定溶液の体積に対する滴定装置の読み取り値をプロットし、滴定曲線の変化点で終点を取得した。それぞれの試料(ブランク溶液を含む)を2回実行し、2つの結果の平均を報告した。
【0069】
変数:
V_ブランク-ブランクから等量点に到達するための滴定液の平均量、mL
V_試料-試料から等量点に到達するための滴定液の量、mL
W-試料質量、グラム
N-滴定の規定度
残留塩基性度方程式:
【0070】
比較例1:NaH2PO4・2H2O / Na2HPO4を含浸させた残留酸性度の高いPEKKポリマー
重縮合
スターラー、乾燥したN2注入管、反応媒体に入れられた熱電対、及び凝縮器を備えた2000mLの4口反応フラスコに、1000gの1,2-ジクロロベンゼン及び40.63gの1,4-ビス(4-フェノキシベンゾイル)ベンゼンを導入した。次いで、乾燥窒素の掃引下で、7.539gのテレフタロイルクロリド、9.716gのイソフタロイルクロリド及び0.238gのベンゾイルクロリドを反応混合物に加えた。次いで、反応器を-5℃に冷却し、温度を5℃未満に保ちながら、71.88gの塩化アルミニウム(AlCl3)をゆっくりと加えた。反応を5℃で10分間保持し、次いで混合物の温度を5℃/分で90℃に上昇させた。反応混合物を90℃で30分間保持し、次いで30℃まで冷却した。30℃で、250gのメタノールをゆっくりと添加して、温度を60℃未満に維持した。添加終了後、反応混合物を2時間攪拌し続け、次いで30℃まで冷却した。
【0071】
濾過及び洗浄
次いで、ブフナーでの濾過により固体を除去した。湿潤したケーキをフィルターにおいて更なる188gのメタノールで濯いだ。次いで、湿潤したケーキをビーカーにおいて440gのメタノールで2時間再スラリー化した。ポリマー固体をブフナー漏斗で再度濾過し、湿潤したケーキをフィルターにおいて188gのメタノール濯いだ。この固体を、470gの塩酸水溶液(3.5重量%)で2時間スラリー化した。次いで、ブフナーでの濾過により固体を除去した。湿潤したケーキを更なる280gの水でフィルターにおいて濯いだ。次いで、湿潤したケーキをビーカーにおいて0.5N水酸化ナトリウム水溶液250gで2時間再スラリー化した。次いで、湿潤したケーキを、475gの水でビーカーにおいて再スラリー化し、ブフナー漏斗で濾過した。最後の水洗工程を更に3回繰り返した。次いで、ポリマーを、溶液の全重量による、6.6重量%のNaH2PO4 2H2O及び3.3重量%のNa2HPO4を含む0.60gの水溶液でスラリー化し、次いで真空オーブン内で180℃で12時間乾燥させた。
【0072】
得られたポリマー粉末を、以下の表1に記載するように、金属、酸性度、及び塩基性度について分析した。
【0073】
比較例2:高塩基度のPEKKポリマーとMgOの乾式ブレンド
比較例1の49.75gのポリマー粉末を、高剪断ミキサーにて0.25gの酸化マグネシウムと混合した。
【0074】
実施例3:酢酸テトラメチルアンモニウムとNaH2PO4・2H2O/Na2HPO4で洗浄されたPEKKポリマー
攪拌機、乾燥したN2注入管、反応媒体に入れられた熱電対、及び凝縮器を備えた3000mLの3口反応フラスコに、実施例1に従って調製した50gのポリマー粉末、0.665gのテトラメチルアンモニウムアセテート及び500gのメタノールを導入した。混合物を撹拌下55℃で2時間保持し、次いで固体をブフナー漏斗で濾過した。固体を800gのメタノールとともに反応フラスコに再導入し、55℃で2時間保持した。固体をブフナー漏斗で濾過し、次いで500gの脱イオン水及び0.45gのNaH2PO4 2H2O及び0.12gのNa2HPO4とともに反応フラスコに再導入した。55℃で2時間後。固体をブフナー漏斗で濾過し、真空オーブン(100トール)にて120℃で一晩乾燥させた。
【0075】
実施例4:テトラブチルアンモニウムヒドロキシドとNaH2PO4・2H2O/Na2HPO4で洗浄されたPEKKポリマー
エタノール中のテトラブチルアンモニウムヒドロキシドの0.1N溶液45mLの代わりにテトラメチルアンモニウムアセテートを使用したことを除いて、実施例3と同じ手順に従った。
【0076】
実施例5:メタノールとNaH2PO4・2H2O/Na2HPO4で洗浄されたPEKKポリマー
最初の洗浄でメタノールのみを使用し、テトラメチルアンモニウムアセテート又はテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを使用しなかったことを除いて、実施例3と同じ手順に従った。
【0077】
比較例6:リン酸で洗浄されたPEKKポリマー
Wilharmらへの1992年3月10日に提出された独国特許第4207555B4号明細書の実施例1に類似した手順に本比較例では従った。攪拌機、N2注入管、反応媒体に入れられた熱電対、及び凝縮器を備えた5000mLの3口反応フラスコに、実施例1に従って調製した50gのポリマー粉末、1000mLのメタノールを導入した。混合物を撹拌下室温で1時間保持し、次いで固体をブフナー漏斗で濾過した。固体を、0.1重量%のリン酸(H3PO4)を含む1000mLの脱塩水とともに反応フラスコに再導入し、60℃で1時間保持した。固体をブフナー漏斗で濾過し、次いで50℃で0.5時間3500mLの脱塩水とともに反応フラスコに再導入した。固体をブフナー漏斗で濾過し、50℃で3500mLのDM水での洗浄を更に5回繰り返した。最終的な固体を真空オーブン(100トール)にて120℃で一晩乾燥させた。
【0078】
結果を以下の表1に示す。
【0079】
【0080】
上記のように:
比較例1は、26μeq/gの高い残留酸性度を示す、NaH2PO4 2H2OとNa2HPO4を含浸させた中和されていないPEKKを示している。
【0081】
比較例2は、(-21)の高い残留塩基性度を有する、酸化マグネシウムと乾式混合された中和されていないPEKKを示しいる。
【0082】
実施例3は、テトラメチルアンモニウムアセテート及びNaH2PO4 2H2OとNa2HPO4の緩衝液で洗浄された中和されたPEKKを示している。
【0083】
実施例4は、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド及びNaH2PO4 2H2OとNa2HPO4の緩衝液で洗浄された中和されたPEKKを示している。
【0084】
実施例5は、メタノール(酸性度/塩基性度に影響を与えない)及びNaH2PO4 2H2OとNa2HPO4の緩衝液で洗浄された中和されたPEKKを示している。
【0085】
比較例6は、リン酸で洗浄すると、残留酸性度の高いポリマーが生成され、用途に必要な溶融安定性が不足していることを示している。
【0086】
加えて、実施例の中和されたPEKKは、それらの低い120/10の複素粘度比によって示されるように、比較例の中和されていないPEKKよりも著しく高い溶融安定性を予想外に示した。これに関して、平行板による経時的な粘度プロファイル(
図1)は、実施例3のPEKK(塩基で洗浄して中和)及び比較例1のPEKK(中和されていないがリン酸塩を含浸)の予想外に向上した溶融安定性を示している。
【0087】
最後にまた、G’及びG’’の弾性率が交差する時間(クロスオーバー時間)、即ち、この温度でポリマーが液体よりも固体のように振る舞い始めるのにかかる時間が、上記の表1にも示され、本発明によるPEKKは、驚くべきことに、比較例のPEKKとは対照的に、試験条件下(クロスオーバー時間>120)では架橋しないことを示している。
【0088】
参照により本明細書中に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が、それがある用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。