(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】電源装置、制御プログラム、及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230822BHJP
【FI】
H02M7/48 A
(21)【出願番号】P 2021503964
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006921
(87)【国際公開番号】W WO2020179484
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2019040708
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和也
(72)【発明者】
【氏名】山本 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】山元 恭平
(72)【発明者】
【氏名】米谷 芳隆
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-213996(JP,A)
【文献】国際公開第2008/074767(WO,A2)
【文献】特開2019-22378(JP,A)
【文献】特開2018-121436(JP,A)
【文献】特開2014-189455(JP,A)
【文献】国際公開第2015/049781(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2148421(EP,A1)
【文献】特開平1-218356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
C01B 13/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量性負荷に対して電力を供給する電源装置であって、
交流電源からの交流を直流に変換するコンバータと、
前記コンバータからの直流を交流に変換するインバータと、
前記インバータからの交流を昇圧して前記容量性負荷に出力する共振変圧器と、
前記容量性負荷に出力される交流の出力周波数又は出力電流と出力電圧とを検出する検出部と、
前記インバータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記容量性負荷に出力される交流の出力電力を算出し、
前記出力周波数を所定の周波数探索範囲内で調整し、且つ前記出力電圧を所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が、目標出力電力以上である所定出力電力に到達する前記出力周波数の最小値を周波数目標値として特定する周波数特定処理を実施し、
前記出力周波数が前記周波数目標値になるように前記インバータを制御し、
且つ前記出力電圧を前記所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が前記目標出力電力となる前記出力電圧の値を電圧目標値として特定する電圧特定処理を実施 する、電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電源装置であって、
前記周波数特定処理は、
前記出力周波数を維持した状態で前記出力電圧を変化させながら前記出力電力が前記所定出力電力に到達したか否かを判定する第1処理と、
前記出力電力が前記所定出力電力に到達したと判定した場合、前記出力周波数の値を前記周波数目標値として特定する第2処理と、
前記出力電力が前記所定出力電力に到達しないと判定した場合、前記出力周波数を増加させて前記第1処理に戻る第3処理と、
を含む、電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電源装置であって、
前記制御部は、前記インバータのPDM制御により、パルス密度を100%とした状態で前記周波数特定処理を実施し、パルス密度が100%よりも低い所定密度を超えないように制御しながら前記電圧特定処理を実施する、電源装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電源装置であって、
前記所定の周波数探索範囲は、前記共振変圧器のインダクタンス成分と前記容量性負荷の静電容量成分とを共振させる周波数が、前記共振変圧器のインダクタンスの製造誤差と前記容量性負荷の静電容量の製造誤差とに起因して変化し得る範囲である、電源装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の電源装置であって、
前記所定の電圧探索範囲は、前記容量性負荷の仕様と静電容量の製造誤差とを考慮して決定される、前記容量性負荷に印加可能な電圧の範囲である、電源装置。
【請求項6】
容量性負荷に対して電力を供給する電源装置の制御プログラムであって、
前記電源装置は、
交流電源からの交流を直流に変換するコンバータと、
前記コンバータからの直流を交流に変換するインバータと、
前記インバータからの交流を昇圧して前記容量性負荷に出力する共振変圧器と、
前記容量性負荷に出力される交流の出力周波数又は出力電流と出力電圧とを検出する検出部と、
前記インバータを制御する制御部と、を備え、
前記電源装置に、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記容量性負荷に出力される交流の出力電力を算出するステップと、
前記出力周波数を所定の周波数探索範囲内で調整し、且つ前記出力電圧を所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が、目標出力電力以上である所定出力電力に到達する前記出力周波数の最小値を周波数目標値として特定するステップと、
前記出力周波数が前記周波数目標値になるように前記インバータを制御し、且つ前記出力電圧を前記所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が前記目標出力電力となる前記出力電圧の値を電圧目標値として特定するステップと、
を実行させる、制御プログラム。
【請求項7】
容量性負荷に対して電力を供給する電源装置の制御方法であって、
前記電源装置は、
交流電源からの交流を直流に変換するコンバータと、
前記コンバータからの直流を交流に変換するインバータと、
前記インバータからの交流を昇圧して前記容量性負荷に出力する共振変圧器と、
前記容量性負荷に出力される交流の出力周波数又は出力電流と出力電圧とを検出する検出部と、
前記インバータを制御する制御部と、を備え、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記容量性負荷に出力される交流の出力電力を算出するステップと、
前記出力周波数を所定の周波数探索範囲内で調整し、且つ前記出力電圧を所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が、目標出力電力以上である所定出力電力に到達する前記出力周波数の最小値を周波数目標値として特定するステップと、
前記出力周波数が前記周波数目標値になるように前記インバータを制御し、且つ前記出力電圧を前記所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が前記目標出力電力となる前記出力電圧の値を電圧目標値として特定するステップと、
を含む、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置、制御プログラム、及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、容量性負荷に対して電力を供給する電源装置が知られている。例えば、特許文献1には、入力された交流電源を高周波交流に変換して、容量性負荷である放電管に出力する放電管用電源装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
容量性負荷として、例えば無声放電を行う放電管を備えるオゾン発生装置が知られている。オゾンの発生量は放電管の放電量に比例し、その放電量はオゾン発生装置を駆動する電源装置の出力電圧及び出力周波数に依存する。また放電管は、印加電圧(すなわち、電源装置の出力電圧)が所定値以上にならないと放電せず、一方で印加電圧が高過ぎると絶縁破壊する。また、オゾンの適用発生量に応じて放電管本数を選定するので、静電容量もオゾンの適用発生量に依存して変化する。
【0005】
このようなオゾン発生装置を駆動するために、高周波高電圧共振型の電源装置が一般的に採用される。高周波高電圧共振型電源装置は、典型的には、コンバータと、インバータと、共振変圧器(リーケージトランス)と、を備える。コンバータは、商用交流電源からの交流を直流に変換する。インバータは、コンバータからの直流を商用交流電源よりも高周波数の交流に変換する。共振変圧器は、一次側がインバータに接続され、二次側がオゾン発生装置に接続され、インバータからの交流を昇圧して出力する。
【0006】
ここで、オゾン発生装置を周波数fで駆動する場合の出力電力P
fは、以下の式(1)で示される。
【数1】
式(1)において、C
a及びC
gは、それぞれオゾン発生装置の電極間における空隙部分及び誘電体部分にそれぞれ対応する静電容量であり、V
zはオゾン発生装置の放電維持電圧であり、V
pは電源装置の出力電圧である。オゾン発生装置の仕様が決定すれば、C
a、C
g、及びV
zは定数である。したがって、電源装置の出力電力P
fは、出力周波数fと出力電圧V
pの積に比例する(P
f∝f×V
p)。
【0007】
力率改善のために電源装置は、典型的には、共振変圧器の巻線から生じる漏れインダクタンスLと、放電管の数に応じて定まるオゾン発生装置の、駆動中の平均的な静電容量C=C
g(1-V
z/V
p)とを共振させる周波数(共振周波数)で駆動する。共振周波数f
0は、以下の式(2)で示される。
【数2】
【0008】
ここで、共振変圧器のインダクタンスLを固定した1つの電源装置でオゾン発生装置の静電容量Cの変化に対応することを考える。なお、オゾンの適用発生量は静電容量Cに比例する。かかる場合、共振変圧器のインダクタンスLは定数であるのでオゾンの適用発生量の変化に応じてオゾン発生装置の静電容量Cが変化すると、電源装置の出力電力Pfも変化させる必要がある。しかしながら、出力電力Pfが変化すると、インバータの導通損失及び共振変圧器の銅損のそれぞれが電流の2乗に比例して変化するとともに、式(2)から明らかなように共振周波数f0も変化してしまう。そして共振周波数f0に合わせて出力周波数を変化させると、電源装置のインバータのスイッチング損失及び共振変圧器の鉄損のそれぞれが出力周波数に比例して変化してしまう。オゾン発生装置の静電容量Cの変化に対してインバータ及び共振変圧器それぞれの損失の変化が大きい場合、1つの電源装置でオゾン適用発生量に応じたオゾン発生装置の静電容量Cの変化に対応することはできない。
【0009】
このように、共振変圧器のインダクタンスLを一定としつつ容量性負荷の静電容量Cの変化に可能な電源装置、すなわち適用する容量性負荷の仕様の変化に対応可能な汎用性の高い電源装置は、従来は実現困難であった。また、従来は容量性負荷の仕様毎に電源装置を設計・製造して出力周波数を固定とする手法を採用せざるを得ず、電源装置のコスト増加の要因となっていた。
【0010】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、容量性負荷に電力を供給する電源装置の汎用性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係る電源装置は、
容量性負荷に対して電力を供給する電源装置であって、
交流電源からの交流を直流に変換するコンバータと、
前記コンバータからの直流を交流に変換するインバータと、
前記インバータからの交流を昇圧して前記容量性負荷に出力する共振変圧器と、
前記容量性負荷に出力される交流の出力周波数又は出力電流と出力電圧とを検出する検出部と、
前記インバータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記容量性負荷に出力される交流の出力電力を算出し、
前記出力周波数を所定の周波数探索範囲内で調整し、且つ前記出力電圧を所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が、目標出力電力以上である所定出力電力に到達する前記出力周波数の最小値を周波数目標値として特定する周波数特定処理を実施し、
前記出力周波数が前記周波数目標値になるように前記インバータを制御し、且つ前記出力電圧を前記所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が前記目標出力電力となる前記出力電圧の値を電圧目標値として特定する電圧特定処理を実施する。
【0012】
本発明の一実施形態に係る制御プログラムは、
容量性負荷に対して電力を供給する電源装置の制御プログラムであって、
前記電源装置は、
交流電源からの交流を直流に変換するコンバータと、
前記コンバータからの直流を交流に変換するインバータと、
前記インバータからの交流を昇圧して前記容量性負荷に出力する共振変圧器と、
前記容量性負荷に出力される交流の出力周波数又は出力電流と出力電圧とを検出する検出部と、
前記インバータを制御する制御部と、を備え、
前記電源装置に、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記容量性負荷に出力される交流の出力電力を算出するステップと、
前記出力周波数を所定の周波数探索範囲内で調整し、且つ前記出力電圧を所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が、目標出力電力以上である所定出力電力に到達する前記出力周波数の最小値を周波数目標値として特定するステップと、
前記出力周波数が前記周波数目標値になるように前記インバータを制御し、且つ前記出力電圧を前記所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が前記目標出力電力となる前記出力電圧の値を電圧目標値として特定するステップと、を実行させる。
【0013】
本発明の一実施形態に係る制御方法は、
容量性負荷に対して電力を供給する電源装置の制御方法であって、
前記電源装置は、
交流電源からの交流を直流に変換するコンバータと、
前記コンバータからの直流を交流に変換するインバータと、
前記インバータからの交流を昇圧して前記容量性負荷に出力する共振変圧器と、
前記容量性負荷に出力される交流の出力周波数又は出力電流と出力電圧とを検出する検出部と、
前記インバータを制御する制御部と、を備え、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記容量性負荷に出力される交流の出力電力を算出するステップと、
前記出力周波数を所定の周波数探索範囲内で調整し、且つ前記出力電圧を所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が、目標出力電力以上である所定出力電力に到達する前記出力周波数の最小値を周波数目標値として特定するステップと、
前記出力周波数が前記周波数目標値になるように前記インバータを制御し、且つ前記出力電圧を前記所定の電圧探索範囲内で調整し、前記出力電力が前記目標出力電力となる前記出力電圧の値を電圧目標値として特定するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態に係る電源装置、制御プログラム、及び制御方法によれば、容量性負荷に電力を供給する電源装置の汎用性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電源装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】電源装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】
図2の周波数特定処理を実施する電源装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】周波数特定処理において周波数と出力電力との関係を示すグラフである。
【
図5】
図2の電圧特定処理を実施する電源装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】電圧特定処理において出力電圧と出力電力との関係を示すグラフである。
【
図7】オゾン発生装置におけるオゾンの適用発生量と電圧装置における損失及び基準化損失との関係を示すグラフである。
【
図8】電源装置の出力周波数と効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る電源装置10について説明する。電源装置10は、容量性負荷に対する電力の供給に用いられる。本実施形態では、容量性負荷が、無声放電を行う放電管を備えるオゾン発生装置であるものとして説明するが、容量性負荷はオゾン発生装置に限られない。
図1に示すように、電源装置10は、コンバータ11と、コンデンサ12と、インバータ13と、共振変圧器14と、検出部15と、記憶部16と、制御部17と、を備える。また、電源装置10の入力端子18及び出力端子19は、商用電源及びオゾン発生装置にそれぞれ接続される。
図1に示す例では、電源装置10は三相交流商用電源に対応するが、これに限られず単相交流商用電源に対応してもよい。また、電源装置10の入力端子18は、商用電源に限らず、任意の交流電源に接続されてよい。
【0018】
コンバータ11は、入力端子18に接続された商用電源からの交流を直流に変換する。コンデンサ12は、コンバータ11の出力電圧を平滑化する。インバータ13は、コンバータ11からの直流を、商用電源よりも周波数の高い高周波の交流に変換する。インバータ13のスイッチング素子として、例えばIGBTが採用されるが、これに限られない。共振変圧器14は、1次側がインバータ13に接続され、2次側が出力端子19を介してオゾン発生装置に接続される。共振変圧器14は、インバータ13からの交流を昇圧して、出力端子19を介してオゾン発生装置に出力する。共振変圧器14として、例えばリーケージトランスが採用されるが、これに限られない。
【0019】
検出部15は、例えば周波数検出回路又は電流検出回路と電圧検出回路とを有する。検出部15は、インバータ13から出力端子19を介してオゾン発生装置に出力される交流の出力周波数f又は出力電流Iと出力電圧Vpとをそれぞれ検出可能となるように、電源装置10に備えられる。本実施形態では、電源装置10の出力周波数fは、インバータ13よりも出力端子19側の周波数である。また、電源装置10の出力電流Iは、出力端子19からオゾン発生装置へ出力される電流である。また、電源装置10の出力電圧Vpは、共振変圧器14よりも出力端子19側(共振変圧器14の2次側)の電圧である。
【0020】
記憶部16は、1つ以上のメモリを有する。メモリは、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリ等であるが、これらに限られず任意のメモリとすることができる。記憶部16は、電源装置10の動作に用いられる任意の情報を記憶する。
【0021】
本実施形態において、記憶部16は、所定の周波数探索範囲及び所定の電圧探索範囲を記憶する。
【0022】
所定の周波数探索範囲は、共振変圧器14のインダクタンスLの製造誤差とオゾン発生装置の静電容量Cの製造誤差とを考慮して決定される、周波数の範囲である。より詳細には、所定の周波数探索範囲は、共振変圧器14のインダクタンス成分と、オゾン発生装置の静電容量成分とを共振させる共振周波数f0が、共振変圧器14のインダクタンスLの製造誤差とオゾン発生装置の静電容量Cの製造誤差とに起因して変化し得る範囲である。所定の周波数探索範囲は、例えばインダクタンスLの製造誤差範囲±ΔL及び静電容量Cの製造誤差範囲±ΔCを用いて算出されてもよく、或いは製造誤差をゼロと仮定したときの共振周波数f0を中心とした所定の周波数範囲(例えば、±10%)として算出されてもよい。
【0023】
所定の電圧探索範囲は、オゾン発生装置の仕様と静電容量Cの製造誤差とを考慮して決定される、オゾン発生装置に印加可能な電圧の範囲である。
【0024】
所定の周波数探索範囲及び所定の電圧探索範囲は、例えば予め記憶部16に記憶されていてもよく、或いは制御部17によって自動的に算出され記憶部16に記憶されてもよい。
【0025】
制御部17は、1つ以上のプロセッサを有する。プロセッサは、例えば汎用のプロセッサ又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。制御部17は、電源装置10全体の動作(例えば、インバータ13の動作)を制御する。制御部17の動作の詳細については後述する。
【0026】
ここで、本実施形態に係る電源装置10の動作を説明する前に、発明者が本発明に至った経緯について説明する。上述したように、共振変圧器のインダクタンスLを一定としつつ容量性負荷の静電容量Cの変化に可能な電源装置は、従来は実現困難であった。しかしながら、発明者による近年の実験により、後述する2つの新たな知見が得られた。
【0027】
第1の知見として、電源装置の共振変圧器のインダクタンスLを一定とした場合に、適用するオゾン発生装置の静電容量C(或いは、適用発生量)の変化に対して、電源装置における損失の変化が十分に小さいことが明らかになった。詳細には、電源装置における損失には、周波数に比例する損失成分(すなわち、インバータのスイッチング損失及び共振変圧器の鉄損+漂遊負荷損)と、電流の2乗に比例する損失成分(すなわち、インバータの導通損失及び共振変圧器の銅損)とが含まれる。例えば、静電容量C(或いは、適用発生量)を大きくすると、共振周波数は低くなる一方で電流は大きくなる。
図7は、オゾン発生装置の適用発生量を80%~120%の範囲で変化させたときの、電源装置の各損失成分の変化を示す。
図7において、A1及びA2は、それぞれインバータのスイッチング損失及び導通損失を示す。また、B1及びB2は、それぞれ共振変圧器の鉄損+漂遊負荷損及び銅損を示す。
図7の「A1+A2+B1+B2[%]」に示されるように、適用発生量(或いは、静電容量C)の変化に対して、インバータ及び共振変圧器それぞれにおける損失の変化が十分に小さい。このことは、共振変圧器のインダクタンスLを一定としつつ容量性負荷の静電容量Cの変化に対応可能であることを示唆している。しかしながら、静電容量Cの異なる多用なオゾン発生装置に対応するためには、電源装置の出力周波数fを比較的広い周波数範囲で調整可能とし、オゾン発生装置に応じた適切な周波数を選択する必要がある。このような比較的広い周波数範囲から適切な周波数を特定することは、作業者による作業負担が大きく、場合によっては不可能である。これに対して、後述するように本発明の実施形態に係る電源装置10は、いわゆるオートチューニングにより適切な周波数を自動的に決定する。
【0028】
第2の知見として、電源装置の電力出力の効率は、出力周波数fに反比例することが明らかになった。詳細には、
図8に示すように、出力周波数fと効率との間に強い負の相関が見られた。したがって、電源装置を共振周波数f
0で駆動し最大出力させる場合、電源装置の出力効率は必ずしも最大ではないことが明らかになった。これに対して、後述するように本発明の実施形態に係る電源装置10は、オゾン発生装置に応じた目標出力電力に到達可能な最小周波数をオートチューニングにより決定する。
【0029】
図2を参照して、制御部17によって制御される電源装置10の動作について説明する。
【0030】
ステップS100:制御部17は、所定の周波数探索範囲及び所定の電圧探索範囲を記憶部16に記憶する。所定の周波数探索範囲及び所定の電圧探索範囲は、例えば作業者によって直接入力されてもよく、或いは作業者によって入力されたオゾン発生装置及び電源装置10それぞれの仕様情報に基づいて制御部17が自動的に算出してもよい。
【0031】
ステップS101:制御部17は、検出部15の検出結果(すなわち、検出部15によって検出された出力周波数f又は出力電流Iと出力電圧Vp)に基づいて出力電力Pfを算出する。ステップS101以降において制御部17は、出力電力Pfを略リアルタイムに認識可能である。
【0032】
ステップS102:制御部17は、周波数特定処理を実施する。詳細については後述するが、概要として周波数特定処理は、出力周波数fを所定の周波数探索範囲内で調整し、且つ出力電圧Vpを所定の電圧探索範囲内で調整し、出力電力Pfが、電源装置10の目標出力電力以上である所定出力電力に到達する出力周波数fの最小値を周波数目標値として特定する処理である。所定出力電力は、例えば目標出力電力と等しくてもよい。或いは、オゾン発生装置の放電管における放電電力が電源装置10の出力電力Pfよりも小さくなることに鑑み、所定出力電力を目標出力電力よりも大きくしてもよい。
【0033】
ステップS103:制御部17は、電圧特定処理を実施する。詳細については後述するが、概要として電圧特定処理は、出力周波数fが周波数目標値になるようにインバータ13を制御し、且つ出力電圧Vpを所定の電圧探索範囲内で調整し、出力電力Pfが目標出力電力となる出力電圧Vpの値を電圧目標値として特定する処理である。
【0034】
ステップS104:制御部17は、出力周波数f及び出力電圧Vpを周波数目標値及び電圧目標値にそれぞれ維持してオゾン発生装置に電力を供給する。その後、プロセスは終了する。
【0035】
図3を参照して、上述したステップS102の周波数特定処理の詳細について説明する。本実施形態では、出力周波数fを所定値ずつ増加させながら周波数目標値を特定する手法(ステップアップチューニング)が採用されるが、これに限られず任意の手法が採用可能であってもよい。なお、パルスの断続が外乱要素となるため、制御部17は、インバータ13のPDM制御により、パルス密度を100%(フルパルス)とした状態で周波数特定処理を実施する。また制御部17は、インバータ13のPWM制御により、出力電圧V
pがオゾン発生装置の破壊電圧を超えないように制御しながら周波数特定処理を実施する。
【0036】
ステップS200:制御部17は、出力周波数f及び出力電圧Vpをそれぞれ初期値に維持する。本実施形態では、出力周波数fの初期値は所定の周波数探索範囲の下限値であり、出力電圧Vpの初期値は所定の電圧探索範囲の下限値である。
【0037】
ステップS201:制御部17は、出力電力Pfが、電源装置10の目標出力電力以上の所定出力電力(例えば、目標出力電力の110%)に到達したか否かを判定する。出力電力Pfが所定出力電力に到達しないと判定した場合(ステップS201-No)、プロセスはステップS203に進む。一方、出力電力Pfが所定出力電力に到達したと判定した場合(ステップS201-Yes)、プロセスはステップS202に進む。
【0038】
ステップS202:制御部17は、出力周波数fの値を周波数目標値として特定する。そして周波数特定処理が終了し、プロセスは上述したステップS103に進む。
【0039】
ステップS203:制御部17は、所定の電圧探索範囲内での探索が終了したか否か(本実施形態では、出力電圧Vpが所定の電圧探索範囲の上限値に達したか否か)を判定する。所定の電圧探索範囲内での探索が終了したと判定した場合(S203-Yes)、プロセスはステップS205に進む。一方、所定の電圧探索範囲内での探索が終了していないと判定した場合(S203-No)、プロセスはステップS204に進む。
【0040】
ステップS204:制御部17は、出力電圧Vpを変化(本実施形態では、所定値だけ増加)させるように、インバータ13を制御する。その後、プロセスはステップS201に戻る。
【0041】
ステップS205:制御部17は、所定の周波数探索範囲内での探索が終了したか否か(本実施形態では、出力周波数fが所定の周波数探索範囲の上限値に達したか否か)を判定する。所定の周波数探索範囲内での探索が終了したと判定した場合(S205-Yes)、例えば周波数目標値を決定できない旨のエラーが発生したものとして、プロセスは終了する。一方、所定の周波数探索範囲内での探索が終了していないと判定した場合(S205-No)、プロセスはステップS206に進む。
【0042】
ステップS206:制御部17は、出力周波数fを変化(本実施形態では、所定値だけ増加)させるように、インバータ13を制御する。その後、プロセスはステップS201に戻る。
【0043】
このように、周波数特定処理は、出力周波数fを維持(固定)した状態で出力電圧V
pを変化させながら出力電力P
fが所定出力電力に到達したか否かを判定する第1処理(ステップS200、S201、S203、S204に対応)と、出力電力P
fが所定出力電力に到達したと判定した場合、そのときの出力周波数fの値を周波数目標値として特定する第2処理(ステップS202に対応)と、出力電力P
fが所定出力電力に到達しないと判定した場合、出力周波数fを増加させて第1処理に戻る第3処理(ステップS206に対応)と、を含む。周波数特定処理によれば、例えば
図4に示すように、所定の周波数探索範囲において出力電力P
fが所定出力電力に到達する出力周波数fの最小値が、周波数目標値として特定される。本実施形態では、ステップアップチューニングが採用されるので、出力周波数fを所定の周波数探索範囲の下限値から増加させていき、出力電力P
fが所定出力電力に最初に到達したときの出力周波数fの値が、周波数目標値として特定される。
【0044】
図5を参照して、上述したステップS103の電圧特定処理の詳細について説明する。なお制御部17は、インバータ13のPDM制御により、パルス密度が100%よりも低い制御上限値(例えば、95%)を超えないように制御しながら電圧特定処理を実施する。
【0045】
ステップS300:制御部17は、出力周波数fを周波数目標値に維持する。
【0046】
ステップS301:制御部17は、出力電圧Vpを初期値(本実施形態では、所定の電圧探索範囲の下限値)に維持する。
【0047】
ステップS302:制御部17は、出力電力Pfが目標出力電力に到達したか否かを判定する。出力電力Pfが目標出力電力に到達しないと判定した場合(ステップS302-No)、プロセスはステップS304に進む。一方、出力電力Pfが目標出力電力に到達したと判定した場合(ステップS302-Yes)、プロセスはステップS303に進む。
【0048】
ステップS303:制御部17は、出力電圧Vpの値を電圧目標値として特定する。そして電圧特定処理が終了し、プロセスは上述したステップS104に進む。
【0049】
ステップS304:制御部17は、所定の電圧探索範囲内での探索が終了したか否か(本実施形態では、出力電圧Vpが所定の電圧探索範囲の上限値に達したか否か)を判定する。所定の電圧探索範囲内での探索が終了したと判定した場合(S304-Yes)、プロセスはステップS306に進む。一方、所定の電圧探索範囲内での探索が終了していないと判定した場合(S304-No)、プロセスはステップS305に進む。
【0050】
ステップS305:制御部17は、出力電圧Vpを変化(本実施形態では、所定値だけ増加)させるように、インバータ13を制御する。その後、プロセスはステップS302に戻る。
【0051】
ステップS306:制御部17は、パルス密度の制御上限値を、例えば所定量だけ増加させる。その後、プロセスはステップS301に戻る。したがって、パルス密度の制御上限値を増加させた状態で、所定の電圧探索範囲内での探索が再度実行される。
【0052】
上述した電圧特定処理によれば、例えば
図6に示すように、所定の電圧探索範囲において出力電力P
fが目標出力電力となる出力電圧の値が、電圧目標値として特定される。なお、電圧特定処理においては出力周波数fが周波数目標値に維持されている(すなわち、出力周波数fが一定である)ので、上述した式(1)から明らかなように、出力電力P
fと出力電圧V
pは比例関係となる。
【0053】
以上述べたように、本発明の一実施形態に係る電源装置10は、出力周波数fを所定の周波数探索範囲内で調整し、且つ出力電圧を所定の電圧探索範囲内で調整し、出力電力Pfが所定出力電力に到達する出力周波数fの最小値を周波数目標値として特定する周波数特定処理を実施し、出力周波数fが周波数目標値になるようにインバータ13を制御し、且つ出力電圧を所定の電圧探索範囲内で調整し、出力電力Pfが目標出力電力となる出力電圧の値を電圧目標値として特定する電圧特定処理を実施する。
【0054】
かかる構成によれば、比較的広い周波数範囲の中から、適用する容量性負荷に応じた適切な周波数を自動的に特定するため、電源装置10は、適用する容量性負荷の仕様の変化に対応可能である。したがって、容量性負荷に電力を供給する電源装置の汎用性が向上する。また、出力電力Pfが所定出力電力に到達する出力周波数fの最小値が周波数目標値として特定されるので、電源装置10の出力効率が向上する。
【0055】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0056】
例えば、上述した実施形態では、電源装置10の制御部17が実行する電圧特定処理において、ステップS304で所定の電圧探索範囲内での探索が終了したと判定した場合(すなわち、所定の電圧探索範囲の上限値まで出力電圧Vpを増加させても電圧目標値が決定できない場合)には、ステップS306でパルス密度の制御上限値を増加させて探索を再度実行する構成について説明した。他の実施形態として、例えば、所定の電圧探索範囲内での探索が終了したと判定した場合、所定の電圧探索範囲の上限値を、例えば所定量だけ増加させて探索を継続する構成も可能である。
【0057】
また、上述した実施形態に係る電源装置10として機能させるために、プログラムを実行可能な電源装置を用いることができる。当該装置は、実施形態に係る電源装置10の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを、当該装置のメモリに格納し、当該装置のプロセッサによって当該プログラムを読み出して実行させることによって実現可能である。したがって、本発明の一実施形態は、プロセッサが実行可能なプログラムとしても実現可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 電源装置
11 コンバータ
12 コンデンサ
13 インバータ
14 共振変圧器
15 検出部
16 記憶部
17 制御部
18 入力端子
19 出力端子