(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】電気化学デバイス、電池、集光して電気エネルギーを貯蔵するための方法、および検出方法
(51)【国際特許分類】
H01G 11/30 20130101AFI20230822BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230822BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20230822BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20230822BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20230822BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20230822BHJP
H01G 11/68 20130101ALI20230822BHJP
H01G 11/48 20130101ALI20230822BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
H01G11/30
H01M4/58
H01M4/60
H01M4/02 Z
H01M8/18
H01M8/02
H01G11/68
H01G11/48
G01N27/416 381
(21)【出願番号】P 2021540080
(86)(22)【出願日】2019-01-09
(86)【国際出願番号】 EP2019050448
(87)【国際公開番号】W WO2020143912
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390040420
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ
【氏名又は名称原語表記】Max-Planck-Gesellschaft zur Foerderung der Wissenschaften e.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バレスカ ロッチ, ベッティナ
(72)【発明者】
【氏名】ポジャスキー, フィリプ エム.
(72)【発明者】
【氏名】クレーガー, ユリア
(72)【発明者】
【氏名】シュロンベルク, ヘンドリク
(72)【発明者】
【氏名】グーデル, アンドレアス
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-130464(JP,A)
【文献】特開2012-053985(JP,A)
【文献】特開平04-098772(JP,A)
【文献】Filip Podjaski et al,Toward an Aqueous Solar Battery: Direct Electrochemical Storage of Solar Energy in Carbon Nitrides,Advanced Materials,2018年,30,17505477
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/00-11/86
H01M 4/00-4/62
H01M 8/00-8/0297
H01M 8/08-8/2495
H01M 12/00-16/00
G01N 27/26-27/404
G01N 27/414-27/416
G01N 27/42-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素含有電子貯蔵材料を含む負極と、
正極と、
電解質と、
を含む電気化学デバイスであって、
窒素含有電子貯蔵材料は、二次元
又は三次元の共有性結合構造を有し、ヘプタジン部分
及び/
又はトリアジン部分を含み、カチオンを挿入
及び脱挿入することがで
き、
正極は、
表面を有する基板と、
基板の表面に設けられている正孔貯蔵材料の層と、
を含み、
正孔貯蔵材料は、導電性ポリマー、金属、半導体、又はそれらの混合物を含むか、又はそれらである、
電気化学デバイス。
【請求項2】
窒素含有電子貯蔵材料が、炭素原子と窒素原子が交互になっている材料である、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
窒素含有電子貯蔵材料が、式C
xN
yH
z(式中、xは、2~4であり、yは、3~5であり、zは、0~1.5である。)の材料である、請求項1
又は2に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
窒素含有電子貯蔵材料が、二次元ポリヘプタジンイミド
又は二次元ポリトリアジンイミドであり、ポリヘプタジンイミド
又はポリトリアジンイミドは、任意選択的に、官能基で置換される、請求項1から3のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
窒素含有電子貯蔵材料が、シアナミドで置換された二次元ポリトリアジンイミド、
又はシアナミドで置換された二次元ポリヘプタジンイミドである、請求項4に記載の電気化学デバイス。
【請求項6】
窒素含有電子貯蔵材料が、共有結合性有機フレームワーク(COF)
又は金属有機フレームワーク(MOF)である、請求項1から5のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項7】
窒素含有電子貯蔵材料が、ミクロポーラス材料
又はメソポーラス材料である、請求項1から6のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項8】
窒素含有電子貯蔵材料が、S、B、P、O、I、F、Cl、Se、Te、Si、Ge、As、Sb、アルカリカチオン、アルカリ土類カチオン、
及び遷移金属カチオンからなるリストから選択される少なくとも1つのメンバーを、最大40重量
%含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項9】
窒素含有電子貯蔵材料が、0.5~3.5eVの範
囲のバンドギャップを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項10】
窒素含有電子貯蔵材料が、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、トリエルイオン、ランタニド金属イオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン
及び有機イオンの群から選択される1つ
又は複数のカチオンを挿入
及び脱挿入することができる、請求項1から9のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項11】
電解質が、窒素含有電子貯蔵材料が挿入
及び脱挿入できるカチオンを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項12】
窒素含有電子貯蔵材料が、シュードキャパシタとして動作することができる、請求項1から11のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項13】
負極が基板を含み、基板が、導電性材料で
ある、請求項1から12のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項14】
電解質が水性媒体である、請求項1から13のいずれか一項
に記載の電気化学デバイス。
【請求項15】
電解質が、レドックスシャトル
又は固体電荷輸送媒体を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項16】
正孔貯蔵材料が、ポリナフタレン;ポリフェニレン;ポリフェニレンビニレン;ポリパラフェニレン;ポリパラフェニレンスルフィド;ポリパラフェニレンビニレン;ポリアニリン;ポリピロール;ポリカルバゾール;ポリインドール;ポリアゼピン;ポリチオフェン;ポリイソチアナフテン;ポリアセチレン;ポリアズレン;ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン);窒化炭素;キノン;チオフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾール、ポリジベンゾシロール、ベンゾチアジアゾール
若しく
はジケトピロロピロールとの共重合体;セレノフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾール
若しくはポリジベンゾシロールとの共重合体;ベンゾチジアゾール;ジケトピロロピロール;ラジカル中心としてN-O結合酸素を含む化合物;キノンベースのアセン;炭素中心のラジカルカチオンを含む化合物;第三級アミン中心ラジカルを含む化合物;
並びに、それらすべてのドープされたバリアントからなる群から選択される、請求項
1から15のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項17】
負極が、
表面を有する基板と、
基板の表面に設けられている窒素含有電子貯蔵材料の層と、
を含む、請求項1から
16のいずれか一項に記載の電気化学デバイス。
【請求項18】
負極が、
更に、
窒素含有電子貯蔵材料の層の表面に設けられている層を含み、該層は、窒素含有電子貯蔵材料
及び電荷輸送材料を含む、請求項
17に記載の電気化学デバイス。
【請求項19】
表面を有する基板
及び基板の表面に設けられている窒素含有電子貯蔵材料を含む層を含む負極と、
表面を有する基板
及び基板の表面に設けられている正孔貯蔵材料を含む層を含む正極と、
窒素含有電子貯蔵材料の層と正孔貯蔵材料の層との間に挟まれた光起電力素子と、
を含む、光蓄電池であって、
光起電力素子は、照明時に電極を充電することができ、窒素含有電子貯蔵材料は、二次元
又は三次元の共有性結合構造を有し、ヘプタジン部分
及び/
又はトリアジン部分を含み、カチオンを挿入
及び脱挿入することがで
き、
正孔貯蔵材料が、ポリナフタレン;ポリフェニレン;ポリフェニレンビニレン;ポリパラフェニレン;ポリパラフェニレンスルフィド;ポリパラフェニレンビニレン;ポリアニリン;ポリピロール;ポリカルバゾール;ポリインドール;ポリアゼピン;ポリチオフェン;ポリイソチアナフテン;ポリアセチレン;ポリアズレン;ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン);窒化炭素;キノン;チオフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾール、ポリジベンゾシロール、ベンゾチアジアゾール若しくはジケトピロロピロールとの共重合体;セレノフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾール若しくはポリジベンゾシロールとの共重合体;ベンゾチジアゾール;ジケトピロロピロール;ラジカル中心としてN-O結合酸素を含む化合物;キノンベースのアセン;炭素中心のラジカルカチオンを含む化合物;第三級アミン中心ラジカルを含む化合物;並びに、それらすべてのドープされたバリアントからなる群から選択される、
光蓄電池。
【請求項20】
窒素含有電子貯蔵材料が、請求項2から12のいずれか一項に定義されている通りである、請求項
19に記載の光蓄電池。
【請求項21】
光起電力素子が、p-n接合を含む半導体
又は半導体複合材料である、請求項
19又は
20に記載の光蓄電池。
【請求項22】
表面を有する基板
及び基板の表面に設けられている窒素含有電子貯蔵材料を含む層を含む負極と、
表面を有する基板
及び基板の表面に設けられている正孔貯蔵材料を含む層を含む正極と、
電解質と、
を含む自動光蓄電池であって、
電子輸送材料は、窒素含有電子貯蔵材料と負極の基板との間に設けられ、
窒素含有電子貯蔵材料は、二次元
又は三次元の共有性結合構造を有し、カチオンを挿入
及び脱挿入することができ、0.5~3.5eVの範囲のバンドギャップを有
し、
窒素含有電子貯蔵材料は、ヘプタジン部分及び/又はトリアジン部分を含む、
自動光蓄電池。
【請求項23】
正孔輸送材料の層が、電子貯蔵材料と正孔貯蔵材料との間に挟まれている、請求項
22に記載の自動光蓄電池。
【請求項24】
正孔輸送材料が、導電性材
料である、請求項
23に記載の自動光蓄電池。
【請求項25】
正孔輸送材料が、ポリナフタレン、ポリフェニレン;ポリフェニレンビニレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアセチレン、ポリアズレン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、窒化炭素、キノン、チオフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾール、ポリジベンゾシロール、ベンゾチアジアゾール
若しく
はジケトピロロピロールとの共重合体;セレノフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾール
若しくはポリジベンゾシロールとの共重合体;ベンゾチジアゾール、ジケトピロロピロール、ラジカル中心としてN-O結合酸素を含む化合物、キノンベースのアセン、炭素中心のラジカルカチオンを含む化合物、第三級アミン中心ラジカルを含む化合物、
並びに、それらすべてのドープされたバリアントからなる群から選択される、請求項
22から
24のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【請求項26】
電解質が、レドックスシャトルを含む液体電解質であり、電子貯蔵材料
及び正孔貯蔵材料の両方が液体電解質と接触している、請求項
22に記載の自動光蓄電池。
【請求項27】
窒素含有電子貯蔵材料が、炭素原子と窒素原子が交互になっている材料である、請求項
22から
26のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【請求項28】
窒素含有電子貯蔵材料が、共有結合性有機フレームワーク(COF)
又は金属有機フレームワーク(MOF)である、請求項
22から
27のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【請求項29】
窒素含有電子貯蔵材料が、1.0~2.0eV、
又は2.0~3.0eVの範囲のバンドギャップを有する、請求項
22から
28のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【請求項30】
電解質が水性媒体である、請求項
22から
29のいずれか一項
に記載の自動光蓄電池。
【請求項31】
表面を有する基板
及び基板の表面に設けられている電子貯蔵材料を含む層を有する負極と、
表面を有する基板
及び基板の表面に設けられている窒素含有正孔貯蔵材料を含む層を含む正極と、
電解質と、
を含む自動光蓄電池であって、
窒素含有正孔貯蔵材料は、二次元
又は三次元の共有性結合構造を有し、カチオン
及び/
又はアニオンを挿入
及び脱挿入することができ、0.5~3.5eVの範囲のバンドギャップを有
し、
窒素含有正孔貯蔵材料が、ヘプタジン部分及び/又はトリアジン部分を含む、
自動光蓄電池。
【請求項32】
電子輸送材料の層が、電子貯蔵材料と正孔貯蔵材料との間に挟まれている、請求項
31に記載の自動光蓄電池。
【請求項33】
電子輸送材料が、導電性材
料である、請求項
32に記載の自動光蓄電池。
【請求項34】
電子輸送材料が、フラーレン、テレフタレート中心の材料、導電性炭素ベースの材料、
及び酸化物からなる群から選択される、請求項
32又は
33に記載の自動光蓄電池。
【請求項35】
電解質が、レドックスシャトルを含む液体電解質であり、電子貯蔵材料
及び正孔貯蔵材料の両方が液体電解質と接触している、請求項
31に記載の自動光蓄電池。
【請求項36】
正孔輸送材料が、窒素含有正孔貯蔵材料と正極の基板との間に設けられている、請求項
31から
35のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【請求項37】
窒素含有正孔貯蔵材料が、炭素原子と窒素原子が交互になっている材料である、請求項
31から
36のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【請求項38】
窒素含有正孔貯蔵材料が、共有結合性有機フレームワークである、請求項
31から
37のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【請求項39】
窒素含有正孔貯蔵材料が、1.0~2.0eV、
又は2.0~3.0eVの範囲のバンドギャップを有する、請求項
31から
38のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【請求項40】
電解質が水性媒体である、請求項
31から
39のいずれか一項
に記載の自動光蓄電池。
【請求項41】
請求項1から
18のいずれか一項に記載の電気化学デバイス、
又は請求項
19から
21のいずれか一項に記載の光蓄電池、
又は請求項
22から
30若しくは請求項
31から
40のいずれか一項に記載の自動光蓄電池を含む電気化学セルと、
電解質溶液を含む1つ
又は複数のタンクと、
タンクのそれぞれを電気化学セルに接続するパイプと、
電気化学セルとそれぞれの貯蔵タンクとの間で電解質溶液のそれぞれを循環させるためのポンプと、
を含む、レドックスフロー電池。
【請求項42】
1つの貯蔵タンクを含み、電解液が正孔貯蔵媒体として機能する、請求項
41に記載のレドックスフロー電池。
【請求項43】
電解質溶液が、多環芳香族炭化水素、ベンゾフェノン、窒化炭素、キノン、
及びビオロゲン、ベンゼン、カルボニル、ニトロキシドラジカル、
及びメタロセンからなる群から選択される少なくとも1つの電解質を含む、請求項
42に記載のレドックスフロー電池。
【請求項44】
1つの貯蔵タンクを含み、電解液が電子貯蔵媒体として機能する、請求項
41に記載のレドックスフロー電池。
【請求項45】
集光して電気エネルギーを蓄積するための方法であって、
表面を有する基板
及び基板の表面に設けられている窒素含有正孔貯蔵材料を含む層を含む正極を含む電気化学デバイスを提供するステップと、
窒素含有正孔貯蔵材料を太陽光で照明するステップと、
を含み、
窒素含有正孔貯蔵材料は、二次元
又は三次元の共有性結合構造を有し、カチオン
及び/
又はアニオンを挿入
及び脱挿入することができ、
集光
及び正孔貯蔵は、窒素含有正孔貯蔵材料を照明するステップの間に、窒素含有正孔貯蔵材料内で起
き、
窒素含有正孔貯蔵材料が、ヘプタジン部分及び/又はトリアジン部分を含む、
方法。
【請求項46】
窒素含有正孔貯蔵材料が、0.5~3.5eVのバンドギャップを有する、請求項
45に記載の、集光して電気エネルギーを蓄積するための方法。
【請求項47】
窒素含有正孔貯蔵材料が、炭素原子と窒素原子が交互になっている材料である、請求項
45又は46に記載の、集光して電気エネルギーを蓄積するための方法。
【請求項48】
酸素を検出
又は除去するための方法であって、
窒素含有電子貯蔵材料を含む負極と、
正極と、
電解質と、
を含む電気化学デバイスであって、
窒素含有電子貯蔵材料は、二次元又は三次元の共有性結合構造を有し、ヘプタジン部分及び/又はトリアジン部分を含み、カチオンを挿入及び脱挿入することができる、電気化学デバイスを提供するステップと、
窒素含有電子貯蔵材料に電子を帯電させるステップと、
帯電された状態の窒素含有電子貯蔵材料を試験流体
又はガスと接触させるステップと、
試験流体
又はガスと接触させる前、最中、
及び/
又は後にデバイスの電位の変化を、視覚的検出によって、
又は測定することによって、窒素含有電子貯蔵材料の層の状態を分析するステップと、
を含む、酸素を検出
又は除去するための方法。
【請求項49】
窒素含有電子貯蔵材料を帯電させるステップが、電極間に電圧を印加することによって、
又は照明によって実行される、請求項
48に記載の酸素を検出
又は除去するための方法。
【請求項50】
光を検出するための方法であって、
請求項1から
18のいずれか一項に記載の電気化学デバイスを提供するステップと、
窒素含有電子貯蔵材料の層を照明するステップと、
光学的手段により、
又は電極間の電位を測定することにより、窒素含有電子貯蔵材料の状態を検出するステップと、
を含む、光を検出するための方法。
【請求項51】
自動光蓄電池における
又は自動光蓄電池としての、請求項1から
18のいずれか一項に記載の電気化学デバイスの使用。
【請求項52】
レドックスフロー電池における
又はレドックスフロー電池としての、請求項1から
18のいずれか一項に記載の電気化学デバイスの使用。
【請求項53】
酸素検出器における
又は酸素検出器としての、
窒素含有電子貯蔵材料を含む負極と、
正極と、
電解質と、
を含む電気化学デバイスであって、
窒素含有電子貯蔵材料は、二次元又は三次元の共有性結合構造を有し、ヘプタジン部分及び/又はトリアジン部分を含み、カチオンを挿入及び脱挿入することができる、電気化学デバイスの使用。
【請求項54】
光検出器における
又は光検出器としての、請求項1から
18のいずれか一項に記載の電気化学デバイスの使用。
【請求項55】
窒素含有電子貯蔵材料の層が、層の重量に関して少なくとも80重量
%の量の窒素含有電子貯蔵材料を含む、請求項
17又は
18に記載の電気化学デバイス。
【請求項56】
窒素含有電子貯蔵材料の層が、層の重量に関して少なくとも80重量
%の量の窒素含有電子貯蔵材料を含む、請求項
19から
21のいずれか一項に記載の光蓄電池。
【請求項57】
窒素含有電子貯蔵材料の層が、層の重量に関して少なくとも80重量
%の量の窒素含有電子貯蔵材料を含む、請求項
22から
30のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【請求項58】
窒素含有正孔貯蔵材料の層が、層の重量に関して少なくとも80重量
%の量の窒素含有
正孔貯蔵材料を含む、請求項
31から
40のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【請求項59】
窒素含有電子貯蔵材料が、光を吸収して電子を励起し、励起された電子をその中に貯蔵することができる、請求項
22から
30のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【請求項60】
窒素含有正孔貯蔵材料が、光を吸収して電子と正孔を励起し、光生成された正孔を貯蔵することができる、請求項
31から
40のいずれか一項に記載の自動光蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素含有電子貯蔵材料を含む負極を備えた電気化学デバイス、その使用、光蓄電池、自動光蓄電池、レドックスフロー電池、集光して電気エネルギーを蓄える方法、酸素を検出して除去する方法、および光を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
増大するエネルギー需要を考慮して、より効率的で環境にやさしい、地球に豊富なエネルギー貯蔵システムの必要性が高まっている。電池は低電力密度に悩まされており、その汎用性、特にモバイル用途における使用に関して問題がある。したがって、電力密度が改善された電池を開発することが、電池技術の分野における研究の主要な目標である。モバイル用途の使用に関する低電力密度の問題は、太陽光で充電可能な光蓄電池の開発によっても克服でき、それにより、再生可能エネルギーを使用して、従来の電気インフラからの独立性を確立する。同時に、地球に豊富な元素からなる新しいエネルギー貯蔵材料を見つけることが目標であり、これにより、低コストの電池の大規模生産が可能となる。
【0003】
H. Tributsch, Applied Physics 1980, 23, 61-71は、フォトインターカレーションの概念と太陽エネルギーデバイスでのその可能な応用について説明している。より詳細には、これらの文献は、層型半導体材料のインターカレーション化合物を生成する光駆動電気化学反応によって太陽エネルギーを変換し、同時に貯蔵するためのZrSe2および他の金属塩の潜在的な使用について説明している。G. Betz and H. Tributsch, Progress in Solid State Chemistry 1985, 16, 195-290は、そのような使用のための潜在的な材料としてさらなる金属塩を列挙している。
【0004】
US 2018/0175463 A1は、アルカリ電池の分野、特にリチウム電池に関連している。太陽電池とキャパシタの2つの技術を組み合わせたものである、透明な電気化学デバイスについて説明されている。このデバイスでは、アルカリ金属イオンを挿入および脱挿入することができるn型半導体が正極活物質として使用されている。負極は、アルカリ金属、前記アルカリ金属の合金、および前記アルカリ金属の金属間化合物から選択される元素を含む。デバイスはさらに、前記アルカリ金属の塩および有機溶媒を含む非水性液体電解質を含む。
【0005】
US 8,865,998 B1は、太陽電池とエレクトロクロミックデバイスを組み合わせた光起電性エレクトロクロミックデバイス、およびその製造方法に関するものである。この方法によれば、薄膜太陽電池は、透明な基板上に形成され、ここで、薄膜太陽電池は、アノード、光電変換層およびカソードを含み、アノードの表面の一部は、薄膜太陽電池から露出されている。次に、エレクトロクロミック薄膜がカソードとアノードの露出面に堆積される。その後、電解質層が薄膜太陽電池の表面に形成されて、エレクトロクロミック薄膜を覆う。薄膜太陽電池のアノードとカソードは、光起電力エレクトロクロミックデバイスのアノードとカソードとしても機能する。
【0006】
Y. Arora等のScientific Reports 2018, 8, Article No. 12752は、太陽電池について説明している。この研究では、太陽エネルギーの回収と貯蔵は、単一の二機能性材料を使用して結合される。電気活性半導体BiVO4(n型)とCo3O4(p型)は、可視光線の存在下と非存在下でのエネルギー貯蔵能力について別々に評価されている。これらの各材料は、ライトハーベスターとして機能し、ファラデー機能すると説明されている。著者らは、光の存在下でのBiVO4の放電容量の約30%の向上について説明している。
【0007】
S. N. Lou等のAdvanced Energy Materials 2017, 7, 1700545は、電極内で太陽エネルギーを収集および貯蔵することができる太陽インターカレーション電池に関連する。より詳細には、その著者等は、太陽エネルギー収穫とエネルギー貯蔵の二重の機能を備えたスタンドアロンのMoO3光アノードから派生した太陽充電式ナトリウムイオンインターカレーション電池について説明している。MoO3は、2相反応メカニズムを介して、最初はナトリウムブロンズ相Na0.33MoO3に変換され、その後、さらに光インターカレーションすると固溶体NaxMoO3(0.33<x<1.1)が形成される。
【0008】
上記の先行技術文書は、遷移金属などの有毒元素、またはそれゆえに高価で希少な元素を含む材料に関連している。低コストの電池の大量生産を可能にし、そのような電池のリサイクルを容易にするために、炭素、水素、および窒素などの無毒で地球に豊富な元素から主に構成される電子貯蔵材料が特に望ましい。エネルギー貯蔵における窒化炭素材料の使用は議論を引き起こしている。
【0009】
一方で、Y. Gong等のChemSusChem. 2015, 8, 931-946は、機能化されたg-C3N4の潜在的な使用について説明している。この研究では、g-C3N4の導電率が低いことが、リチウムイオン電池の電極材料として使用するための主な障害であると説明されている。g-C3N4酸化グラファイトハイブリッド材料の使用は、より有望であると説明されている。T.S. Miller等のPhys.Chem.Chem.Phys. 2017, 19, 15613は、窒化炭素の重大な不可逆容量損失について議論し、窒化炭素の大きな半導体バンドギャップと結合構造から、これらの材料はエネルギー貯蔵材料としての使用には不適切である可能性が高いと結論付けている。
【0010】
他方で、A. Belen Jorge等のInternational Journal of Nanotechnology 2014, 11, 737-746は、リチウムイオン電池の代替アノード材料としての層状/グラファイト状窒化炭素の使用を対象としている。この研究では、サイクリックボルタンメトリーが0.5~1.5 Vの範囲で酸化/還元サイクルを示すことが報告されており、Li +インターカレーションが発生したことを示している。
【0011】
G. M. Veith等のChemistry of Materials 2013, 25, 503-508電気化学反応および固相反応によって製造されたリチウム化黒鉛状窒化炭素(C3N4)を対象としている。しかしながら、C3N4にLiを追加すると、Liと、C3N4中のグラファイト状のC3N種との間に不可逆的な反応が生ずる。この不可逆反応は種の形成につながり、アノードの特性に悪影響を及ぼす。
【0012】
J. Lv等のAngewandte Chemie 2018, 130, 12898-12902は、ナフタレンジイミド単位とトリフェニルアミン単位とを統合した共有結合性有機フレームワーク(NT-COF)と、光アシスト充電および放電を経ることができるリチウムイオン電池のカソード材料としての使用について説明している。NT-COFは、2次元の多孔質ナノシートで構成されている。著者等は、可逆的電気化学反応と分子内電荷移動との間の相乗効果と、太陽エネルギー効率の向上および電気化学反応の加速について説明している。電圧を印加せずに太陽エネルギーのみで電池を充電することは報告されていない、つまり、相乗効果(自動光再充電可能)は観察されない。Y. Lui等のEnergy & Environmental Science, 2015, 8, 2664-2667は、窒化炭素によるリチウム-空気電池の補助光充電について説明している。効果はJ. Lv等における場合と同じである。照明により、充電電圧が低下する。材料は、インターカレーションを駆動するには不十分な光起電力(0.5V)を提供するため、外部電圧を印加する必要がある。
【0013】
V.W.-h. Lau等のAngewandte Chemie International Edition 2017, 56, 510-514は、電子供与体の存在下で非常に安定したラジカルを太陽照射下で形成し、寿命が日周期を超える、シアナミド官能化ヘプタジンベースのポリマーについて説明している。したがって、このシステムは太陽光を長寿命のラジカルとして保存する。この研究では、電子供与体の存在下での照明により、長寿命ラジカルが形成されることも示された。電位を印加すると、安定ラジカルイオンで観察されたのと同じ色変化効果が得られる。
【0014】
上記を考慮して、本発明者の知る限りにおいて、集光と電気エネルギー貯蔵とを組み合わせたものであり、可逆的に充電でき、地球に豊富な元素で構成されている電子貯蔵材料は、一般的な科学文献や特許文献からは知られていない。特に、地球に豊富な元素で作られた、電位を印加せずに照射により帯電でき、カチオンの可逆的な光インターカレーションにより、電子貯蔵容量が向上したアノード材料は、一般的な先行技術には記載されていない。
【0015】
したがって、本発明の目的は、地球に豊富な元素からなる、電子貯蔵容量が改善されており、太陽エネルギーによって可逆的に充電可能な電子貯蔵材料を提供することである。
【0016】
発明者の一部は、Podjaski等のAdvanced Materials 2018, 1705477において、単一の材料で、集光と電子貯蔵/電気エネルギー貯蔵との相乗的結合を可能とする二次元シアナミド官能化ポリヘプタジンイミドを説明している。より詳細には、Podjaski等は、導電性フッ素ドープ酸化スズ上に堆積された二次元シアナミド官能化ポリヘプタジンイミドのナノ粒子を含む太陽電池ハーフセルについて説明している。このハーフセルは、光の吸収、光誘起電子の貯蔵、および電気エネルギーの形でのそれらの放出を可能にする。
【0017】
この文献では、光充電可能なハーフセルについて説明しているが、フル電池(full battery)については説明していない。より詳細には、正極部分は調査されていない。したがって、正電荷、すなわち正孔の貯蔵および輸送は扱われていない。したがって、この文献は、そこに記載されている負極ハーフセルを使用する古電池のソリューションを提供しない。
【0018】
この文献を考慮して、本発明は、二次元または三次元の共有性結合構造を有する窒素含有電子貯蔵材料含み、改善された容量、増加された寿命、増加されたサイクル寿命を有するフル電池の提供を目的としている。この目的のために、効率的なフル電池を提供するために、この電子貯蔵材料に関連する正孔輸送および/または正孔貯蔵に適した材料を特定し、配置する必要がある。本発明はさらに、そのような電池を含む方法および使用に関する。
【発明の概要】
【0019】
本発明は、以下の態様によって定義される。
【0020】
第1の態様では、本発明は、電気化学デバイスを提供することを目的としており、該デバイスは、
窒素含有電子貯蔵材料を含む負極と、
正極と、
電解質と、を含み、
窒素含有電子貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、ヘプタジンおよび/またはトリアジン部分を含み、カチオンを挿入および脱挿入することができる。
【0021】
電気化学デバイスの好ましい実施形態は、従属請求項2から20および65に記載されている。本発明の第1の態様は、
図1~
図3にも示されている。
【0022】
この材料は、電子または正孔、好ましくは電子を貯蔵することができる。本発明の意味における「電気エネルギー貯蔵」という用語は、電子または正孔、好ましくは電子の貯蔵を指す。
【0023】
第2の態様において、本発明は、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられている窒素含有電子貯蔵材料とを含む層とを含む負極と、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられている正孔貯蔵材料を含む層とを含む正極と、
窒素含有電子貯蔵材料の層と正孔貯蔵材料の層との間に挟まれた光起電力素子と、を含む、光再充電式電池であって、
光起電力要素は、照明時に電極を充電することができ、窒素含有電子貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、ヘプタジンおよび/またはトリアジン部分を含み、カチオンを挿入および脱挿入することができる光再充電式電池に関する。
【0024】
光蓄電池の好ましい実施形態は、従属請求項22、23、および66に記載されている。本発明のこの態様は、
図4および
図5によっても示されている。
【0025】
本発明の第3の態様は、自動光蓄電池に関し、該自動光蓄電池は、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられている窒素含有電子貯蔵材料を含む層とを含む負極と、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられている正孔貯蔵材料を含む層とを含む正極と、
電解質と、を含み、
窒素含有電子貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、カチオンを挿入および脱挿入することができ、0.5~3.5eVの範囲のバンドギャップを有する。
【0026】
第3の態様による自動光蓄電池の好ましい実施形態は、従属請求項25から34、67および69に記載されている。本発明のこの態様は、
図6および
図7によっても示されている。
【0027】
第4の態様によれば、本発明は、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられている電子貯蔵材料を含む層とを有する負極と、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられている窒素含有正孔貯蔵材料を含む層とを含む正極と、
電解質と、を含む自動光蓄電池であって、
窒素含有正孔貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、カチオンおよび/またはアニオンを挿入および脱挿入することができ、0.5~3.5eVの範囲のバンドギャップを有する、自動光蓄電池に関する。
【0028】
第4の態様による自動光蓄電池の好ましい実施形態は、従属請求項36から45、68、および70に記載されている。
【0029】
第5の態様において、本発明は、
本発明の第1の態様による電気化学デバイス、および本発明の第2の態様による光蓄電池、または本発明の第3または第4の態様による自動光蓄電池を含む電気化学セルと、
電解質溶液を含む1つまたは複数のタンクと、
各タンクを電気化学セルに接続するパイプと、
電気化学セルとそれぞれのタンクの間で各電解質溶液を循環させるためのポンプとを含む、レドックスフロー電池に関する。
【0030】
レドックスフロー電池の好ましい実施形態は、従属請求項47から49に記載されている。本発明のこの態様は、
図8にも示されている。
【0031】
第6の態様によれば、本発明は、集光し、電気エネルギーを貯蔵するための方法に関し、方法は次のステップ、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられる窒素含有電子貯蔵材料を含む層とを含む負極を含む電気化学デバイスを提供するステップと、
窒素含有電子貯蔵材料を太陽光で照明するステップとを含み、
窒素含有電子貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、カチオンを挿入および脱挿入することができ、
集光は、窒素含有電子貯蔵材料を照明するステップの間に、窒素含有電子貯蔵材料内で起こり、電子貯蔵は、電子貯蔵材料を照明するステップの間および後に、窒素含有電子貯蔵材料内で起こる、方法。
【0032】
この方法の好ましい実施形態は、従属請求項51から53に記載されている。本発明のこの態様は、
図9にも示されている。
【0033】
本発明の第7の態様は、集光し、電気エネルギーを貯蔵するための方法に関し、方法は、次の、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられる窒素含有電子貯蔵材料を含む層とを含む負極を含む電気化学デバイスを提供するステップと、
窒素含有正孔貯蔵材料を太陽光で照明するステップとを含み、
窒素含有正孔貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、カチオンおよび/またはアニオンを挿入および脱挿入することができ、
集光および正孔貯蔵は、窒素含有正孔貯蔵材料を照明するステップの間に、窒素含有正孔貯蔵材料内で起こる。
【0034】
この方法の好ましい実施形態は、従属請求項55から57に記載されている。
【0035】
第8の態様では、本発明は、酸素を検出または除去するための方法に関し、方法は、次の、
本発明の第1の態様による電気化学デバイスを提供するステップと、
窒素含有電子貯蔵材料に電子を充電するステップと、
帯電状態の窒素含有電子貯蔵材料を試験流体またはガスと接触させるステップと、
窒素含有電子貯蔵材料の層の状態を、視覚的検出、例えば、色の変化を簡単に観察することによるか、または、デバイスを試験液またはガスと接触させる前、接触中、および/または接触させた後のデバイスの電位の変化を測定することによって分析するステップと、を含む。
【0036】
この方法の好ましい実施形態は、従属請求項59に記載されており、
図10に示されている。
【0037】
第9の態様では、本発明は、光を検出するための方法に関し、方法は次の、
本発明の第1の態様に電気化学デバイスを提供するステップと、
窒素含有電子貯蔵材料の層を照明するステップと、
光学的手段によって、または照明前、照明中、および/または照明後の電極間の電位を測定することによって窒素含有電子貯蔵材料の状態の検出するステップと、を含む。この側面を
図11に示されている。
【0038】
最後の態様では、本発明はまた、請求項61~64に定義されるように、電池内または電池として、および検出器内または検出器としての本発明の電気化学デバイスの様々な使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の第1の態様による電気化学デバイスの概略図である。電気化学デバイス(10)は、窒素含有電子貯蔵材料を含む負極(100)、正極(102)、および電解質(104)を含む。
【
図2】本発明の第1の態様による電気化学デバイスの実施形態の概略図である。この実施形態による電気化学デバイス(10)は、基板(106)と基板(106)上に設けられた窒素含有電子貯蔵材料(108)の層とを含む負極(100)、基板(110)と基板(110)上に設けられた正孔貯蔵材料(112)の層とを含む正極(102)と、電解質(104)とを含む。
【
図3】本発明の第1の態様による電気化学デバイスのさらなる実施形態の概略図である。この実施形態では、固体電解質(114)の層が、窒素含有電子貯蔵材料(108)の層と正孔貯蔵材料(112)の層との間に挟まれている。
【
図4】本発明の第2の態様による光蓄電池の概略図である。光蓄電池(30)は、基板(306)および基板(306)上に設けられた窒素含有電子貯蔵材料(308)の層を含む負極(300)と、基板(310)および基板(310)上に設けられた正孔貯蔵材料(312)の層を含む正極(302)と、 窒素含有電子貯蔵材料(308)の層と正孔貯蔵材料(312)の層との間に挟まれた光起電力素子(316)とを含む。
【
図5】本発明の第2の態様による光蓄電池のさらなる実施形態の概略図である。この実施形態では、光起電力素子(316)は、n型半導体層(320)およびp型半導体層(322)を含む。
【
図6】本発明の第3の態様による自動光蓄電池の概略図である。自動光蓄電池(20)は、基板(206)および基板(206)上に設けられた窒素含有電子貯蔵材料(208)の層を含む負極(200)と、基板(210)および基板上に設けられた正孔貯蔵材料(212)の層を含む正極(202)と、電解質(204)とを含む。
【
図7】本発明の第3の態様による自動光蓄電池の一実施形態の概略図であり、正孔輸送または電子遮断材料(214)の層が、電子貯蔵材料(208)と正孔貯蔵材料(212)との間に挟まれている。
【
図8】本発明の第5の態様によるレドックスフロー電池の概略図である。レドックスフロー電池(50)は、本発明の第1、第3、または第4の態様による電気化学デバイス(10)を含む電気化学セル(40)と、電解質溶液を含むタンク(140)と、タンクを電気化学セル(40)に接続するパイプ(150)と、電気化学セルとタンクとの間で電解質溶液を循環させるためのポンプ(160)とを含む。電解液は電荷蓄積媒体であるため、デバイスの放電用の正極接点は、理想的には貯蔵タンク(140)に配置する必要がある。したがって、正極は、好ましくは、タンクを含むか、またはタンクである。すなわち、正の接触は、好ましくは、タンク内の電解質と接触している。
【
図9】本発明の第6の態様による、集光し、電気エネルギーを貯蔵するための方法のステップを示すフローチャートであり、(1)基板および基板の表面に設けられている窒素含有電子貯蔵材料の層を備えた基板を含む負極を含む電気化学デバイスを提供するステップと、(2)窒素含有電子貯蔵材料を太陽光で照明するステップとを示しており、(3)集光は、電子貯蔵材料を照明するステップの間に、窒素含有電子貯蔵材料内で起こり、電子貯蔵は、電子貯蔵材料を照明するステップの間および後に、窒素含有電子貯蔵材料内で起こることを示している。
【
図10】本発明の第8の態様による酸素を検出または除去するための方法のステップを示すフローチャートであり、(1)本発明の第1の態様による電気化学デバイスを提供するステップと、(4)電子貯蔵材料に電子を充電するステップと、(5)帯電状態の電子貯蔵材料を試験流体またはガスと接触させるステップと、(6)視覚的検出により、または試験流体またはガスとの接触中および/または接触後の電位の変化を測定することにより、電子貯蔵材料の層の状態を分析するステップとを示している。
【
図11】本発明の第9の態様による光を検出するための方法のステップを示すフローチャートであり、(1)本発明の第1の態様による電気化学デバイスを提供するステップと、(7)窒素含有電子貯蔵材料を照明するステップと、(8)光学的手段または電極間の電位を測定することによって電子貯蔵材料の状態を検出するステップとを示している。
【
図12】
図12のa)は、従来の太陽電池または太陽光キャパシタの概念を示している。光吸収体で生成された光生成された電子と正孔は、外部回路とレドックスシャトルを介して電気化学貯蔵装置に輸送される。
図12のb)は、NCN-PHIに基づく自動光蓄電池を示している。光吸収と電子貯蔵は同じ材料内で起こる。正孔は、レドックスシャトル(または電荷選択接触)によって電解質を介して対電極に抽出される。
【
図13a-b】NCN-PHI太陽電池ハーフセル(窒素含有電子貯蔵材料を含む負極)の特性が示されており、電解質と電子供与体としてそれぞれ10μgのNCN-PHI、リン酸緩衝液、5mM4-MBAを使用した電極の放電特性をまとめている。
図13のa)は、1mA/g~1A/gまで変化する放電電流密度の関数としての1分間の照明後の総抽出電荷の評価。
図13のb)は、100mA/gでの放電プロファイルは、照明時間を増加した後の電荷蓄積の増加を示している。
【
図13c-d】NCN-PHI太陽電池ハーフセル(窒素含有電子貯蔵材料を含む負極)の特性が示されており、電解質と電子供与体としてそれぞれ10μgのNCN-PHI、リン酸緩衝液、5mM4-MBAを使用した電極の放電特性をまとめている。c)10分の照明後と直後(0分)または10分の遅延放電(左)後、ならびに30分の照明後と直後および30分の遅延放電(右)後に抽出された電荷の比較。
図13のd)は、放電前の対応する電極電位の関数としてb)から抽出された電荷、およびそれぞれの到達電圧値(OCP)間の電荷差から生じる電荷密度(微分キャパシタンス)の評価。
【
図14】リン酸緩衝液中の-200と-800mVとの間対Ag/AgClで100mA/gの場合の周期的な充電および放電プロファイル(50サイクル)を示している。a)は、1回目、2回目、5回目、10回目、30回目、50回目の充電と放電のサイクルの選択されたプロファイル。-700mV対Ag/AgClを超える比較的遅い電圧増加は、その領域での静電容量の増加を強調している。b)は、50サイクルの間に保存および抽出された電荷の変化。蓄積および抽出される全体的な電荷はサイクル数の増加とともに減少するが、クーロン効率(挿入図)は約80%の一定値に近づき、良好な電子安定性を示す。
【
図15a-b】NCN-PHI電極での(写真)電気化学的測定を示している。a)は、1回の日光の照明の10分前、最中、後のOCP測定であり、電解質とドナーに応じて、保存された光電子の電位と安定性を示している。b)は、ドナーの存在下および非存在下での照明下での異なる電位での(放電)充電電流であり、照明下での電子生成および自己放電電流の測定値を提供している。
【
図15c-d】NCN-PHI電極での(写真)電気化学的測定を示している。c)は、1MのKClの、暗所でのさまざまな電位ウィンドウを、50mV/秒でCVスキャンし、NCN-PHI電極の電位依存性電荷蓄積能力を強調している。d)は、c)のそれぞれのスキャン中に電極に蓄積され、電極から引き出された電荷。
【
図16】FTO上のNCN-PHIナノシートの導電率を示している。a)は、黄色の基底状態と光誘起の青色状態での無酸素における1MのKCl+5mMの4-MBAでのインピーダンス測定値であり、電荷移動抵抗が大幅に低いことを示している。挿入図:データの適合に使用される等価回路図。b)は、空気中で測定されたFTO-NCN-PHI-FTO電極サンドイッチの定電流2点抵抗率測定。暗所でのNCN-PHIの抵抗による電圧降下は、照明された場合の45倍である。
【
図17】層状のNCN-PHI光電極の概略図であり、細孔にアクセスし、NCN-PHIの電荷を安定させることができる溶液からのアルカリ金属カチオンの役割を示しており、 これは、シュードキャパシタプロセスとして説明できる。したがって、電荷安定化の有効性は、窒化炭素の構造(細孔サイズと配列)と形態(表面積)に大きく影響される拡散制限プロセスである。放電は、基板に密着しているNCN-PHIフィルムの内部から始まるため、電荷キャリアの形態が制限されたパーコレーションは、高電流密度での材料の導電率に影響を与える。帯電状態から放電状態への変化が下部に示されており、FTO表面で測定された電位、FTO、NCN-PHI、および電解質間の可能な電荷移動経路、ならびにトラップされた電子のシュードキャパシタスクリーニングを可能にする電解質からのアルカリ金属イオンの役割を示している。
【
図18】メロンおよびNCN-PHIなど、ヘプタジンおよび/またはトリアジン部分を含むいくつかの異なるポリマーの構造を示している。破線は結合を表しており、それぞれの構造がさらに拡張されている。NCN-PHIは、これらの破線でCNグループを使用して機能化することもでき、これにより、NCNグループが形成され、これもjまた、破線の円で示されている。
【
図19】導電性ポリマーと、通常の水素電極(NHE)に対するそれらのバンド位置を、NCN-PHIと比較して示している。
【
図20】2つのFTO基板の間に挟まれ、同じ実験条件下で測定された3つの異なるNCN-PHI-PEDOT:PSSサンプルのOCP測定値を示している。灰色のボックスは、2分間の照明サイクル(1太陽)と、それに続く暗闇での45分間を表している。挿入図には、電池の形状が示されている。
【
図21】2つのFTO基板間に挟まれたNCN-PHI PEDOT:PSSサンプルの電荷を示している。充電サイクルは灰色のボックスで表され、20分間にわたって28mAg
-1の電流が使用されている。続いて、OCPを測定して電荷の減衰を観察した。挿入図には、電池の形状が示されている。(b):このシステムの充電動作を説明するために提案された等価回路図。
【
図22】a)は、10mVs
-1の走査速度を使用して、2つの別々のFTO基板上にコーティングされ、続いて一緒に挟まれたNCN-PHIとメロンのCV測定を示している。
図21の(b)はNCN-PHIとメロンのバンド位置を示している。
【
図23】2つの別々のFTO基板にコーティングされ、一緒に挟まれたNCN-PHIとメロンのOCP測定を示している。 灰色のボックスで示されているように、1回の照明サイクルは2分間実行された。測定値は、メロンの代わりにPEDOT:PSSを使用する等しいセルで観察されたOCPと比較される。照明後の電圧安定性は、自動光再充電可能なバッテリーとしての可能な用途を強調している。
【
図24(a)】
図24の(a)は、NCN-PHI、正孔輸送材料PCBMおよびメロンのCV測定を示しており、これらは、2つの別々のFTO基板にコーティングされ、無酸素の水性電解質に挟まれている。 測定値は、電気エネルギーの抽出の動的な蓄積を示している。
【
図24(b)】
図24の(b)は、走査速度とデバイス電流の間の線形相関を示しており、シュードキャパシタ性電荷蓄積プロセスを強調している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
電気化学デバイス
上記のように、本発明の第1の態様は、電気化学デバイスに関し、該電気化学デバイスは、
窒素含有電子貯蔵材料を含む負極と、
正極と、
電解質と、を含み、
窒素含有電子貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、ヘプタジンおよび/またはトリアジン部分を含み、カチオンを挿入および脱挿入することができる。
【0041】
本発明の意味の範囲内の電気化学デバイスは、化学反応から電気エネルギーを生成するか、または電気エネルギーを使用して化学反応を引き起こすことができるデバイスである。自発的な反応により電流を発生するこのような装置は、ガルバニ電池と呼ばれる。電気エネルギーの印加によって非自発的な酸化還元反応を駆動するこのようなデバイスは、電解セルと呼ばれている。
【0042】
負極と正極
本発明の電気化学デバイスの負極は、電気化学デバイスが帯電状態にあり、ガルバニ電池として動作するときに、電子がセルを離れて酸化が起こる電極として定義される。本発明の電気化学デバイスの正極は、電気化学デバイスが帯電状態にあり、ガルバニ電池として動作するときに、電子が入り、還元が起こる電極として定義される。各電極は、セルを流れる電流の方向に応じて、アノードまたはカソードのいずれかになる。ガルバニ電池の負極は、アノードとも呼ばれる。ガルバニ電池の正極は、カソードとも呼ばれる。
【0043】
負極は、窒素含有電子貯蔵材料を含む。負極は、表面を有する基板を含み、窒素含有電子貯蔵材料の層を基板の表面に設けることができる。
【0044】
窒素含有電子貯蔵材料の層は、層の重量に関して、少なくとも80重量%、好ましくは、少なくとも90重量-%の量の窒素含有電子貯蔵材料を含み得る。窒素含有電子貯蔵材料の層はまた、窒素含有電子貯蔵材料を含むブレンドを含み得る。この場合、ブレンドは、少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも95重量%の窒素含有電子貯蔵材料を含む。
【0045】
正極は、正孔貯蔵材料を含み得る。正極は、表面を備えた基板を含み、基板の表面上に正孔貯蔵材料の層を設けることができる。
【0046】
基板
負極および正極には、同じまたは異なる基板を使用することができる。電極の基板は導電性材料であり、好ましくは、透明な導電性酸化物、金属、導電性有機材料、およびドープされた半導体からなる群から選択される。基板は、薄膜の形態であり得る。基板は、より好ましくは、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)またはドープ酸化亜鉛などの透明導電性酸化物である。
【0047】
正極と負極の準備
それぞれの材料の均一な薄膜は、以下の技術によって負極および正極の基板上に堆積することができる。特に多層系の場合、堆積技術の最適化は、起こりうるピンホールとその後の短絡を最小限に抑えるために特別な注意を払う必要がある。小さな基板は、より均一な圧力をかけることができるため、サンプルのサンドイッチ構成に役立つ。
【0048】
堆積の前に、基板を酸素プラズマで処理して、表面を活性化し、それをより親水性にすることができる。このステップにより、それぞれの堆積懸濁液で基板を均一に表面に濡らすことができる。プラズマ処理後、それぞれの堆積懸濁液が基板上に堆積され、続いて乾燥される。堆積の複数のサイクルを実行することができ、同じまたは異なる材料の複数の層を基板上に堆積することができる。プラズマ洗浄は、最初の堆積前に基板に対してのみ実行される。堆積は、ドロップキャスティング、スピンコーティング、ラングミュアブロジェット、またはドクターブレード技術によって実行できる。電子貯蔵材料と基板の相互作用が非常に弱いため、いくつかの後続のステップが必要になる場合がある。堆積後、基板と電解質との接触を回避するために、基板のコーティングされていない部分を例えばエポキシで密封することができる。
【0049】
電気接続を作成するために、ワイヤを基板に取り付けることができる。サンプルによっては、薄膜堆積の前または後に接触が行われる場合がありる。銅線は、銀接着剤などの導電性接着剤によって基板に接着することができ、接合部はエポキシ接着剤で密封することができる。
【0050】
窒素含有電子貯蔵材料
窒素含有電子貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、ヘプタジンおよび/またはトリアジン部分を含む。したがって、窒素含有電子貯蔵材料は、ヘプタジンおよび/またはトリアジン部分を有するビルディングブロックを含む二次元または三次元ポリマーである。
【0051】
窒素含有電子貯蔵材料は、好ましくは、炭素と窒素が厳密に交互になる材料である。ヘプタジンおよびトリアジン部分は、それらのアミノ基を介して連結され得る。アミノ基は、シアナミド官能化ポリヘプタジンイミド(NCN-PHI)について
図18に示すように、プロトン化された電荷中性型(-NH-)または脱プロトン化されたアニオン型である可能性がある。中性またはアニオン性のNCN側基が付着している可能性がある。窒素含有電子貯蔵材料は、好ましくは式C
xN
yH
zの材料であり、ここで、xは2~4の範囲、好ましくは3、yは3~5の範囲、好ましくは4であり、zは0~1.5、好ましくは0.5である。窒素含有電子貯蔵材料は、より好ましくは、二次元ポリヘプタジンイミドまたは二次元ポリトリアジンイミドであり、これらは、場合により官能基で置換され得る。官能基は好ましくはシアナミドである(
図18を参照)。官能化ポリヘプタジンイミドは、最も好ましくは、2Dシアナミド官能化ポリヘプタジンイミド(NCN-PHI)である。
【0052】
二次元または三次元の共有性結合構造を有する電子貯蔵材料はまた、共有結合性有機フレームワーク(COF)またはヘプタジンおよび/またはトリアジン部分ならびに追加の有機部分を含む金属有機フレームワーク(MOF)であり得る。COFは、拡張構造を持つ2次元または3次元の有機固体であり、ビルディングブロックは強力な共有結合によってリンクされている。COFは多孔質で結晶性であり、H、B、C、N、Oなどの軽元素から完全に作られている。本発明において、COFは、好ましくは、ヘプタジンおよび/またはトリアジン部分に加えて芳香族部分を含む。例えば、COFは、交互の芳香族部分およびトリアジン部分からなるトリアジンベースのCOFであり得る。芳香族部分は、好ましくは、炭化水素部分または複素環部分である。MOFは、有機配位子に配位して1次元、2次元、または3次元の構造を形成する金属イオンまたはクラスターからなる化合物である。それらは配位高分子のサブクラスである。
【0053】
窒素含有電子貯蔵材料は、好ましくは多孔質材料であり、より好ましくはミクロポーラスまたはメソポーラス材料である。ミクロポーラス材料は、IUPACの命名法に従って、直径2nm以下の細孔を含む材料である。メソポーラス材料は、IUPACの命名法に従って、直径が2~50nmの範囲の細孔を含む材料である。
【0054】
窒素含有電子貯蔵材料は、カチオンを挿入および脱挿入することができる。より詳細には、カチオンは、電子貯蔵材料の細孔に可逆的に挿入することができる。電子貯蔵材料は、好ましくは、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、アルミニウムイオンなどのトリエルイオン、ランタニド金属イオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、および有機イオンからなる群から選択される1つまたは複数のカチオンを挿入および脱挿入することができる。カチオンは、好ましくは、Li、Na、K、Mg、アンモニウム、およびAlからなる群から選択される1つまたは複数である。
【0055】
一般に、キャパシタには2つの異なる蓄積メカニズム、つまり電気二重層静電容量と疑似静電容量がある。最初のメカニズムはわずか数オングストロームの厚さの薄い二重層に電荷を蓄積しますが、シュードキャパシタはレドックス反応を伴う体積プロセスである。シュードキャパシタの利点は、ファラデー反応の結果として、電荷密度が10倍もはるかに高くなることである。シュードキャパシタ動作の結果は、システムに貯蔵された電荷が、熱力学的反応電位の結果として電位に強く依存することである。サイクリックボルタンメトリー(CV)測定では、両方の保存メカニズムの影響が明らかである。
【0056】
従来の電気二重層キャパシタは長方形のCV形状をしており、電位掃引が変化すると急激に増減する。表面プロセスは非常に高速であり、静電効果によってのみ説明できる。この場合、電流は平方根または潜在的な掃引速度(走査速度)に依存する。疑似キャパシタの場合、充電電流と放電電流は、活動電位領域の電位スキャンレートに直線的に依存する。ポテンシオスタット実験では、二重層キャパシタの電流は電位に依存しない。疑似キャパシタの場合、電位の遅延により、非長方形のCV形状を通して強い電位依存性が見られ、これは、対応するレドックス反応の遅い反応速度に関連している。
【0057】
電子貯蔵材料における電荷貯蔵の容量と安定性は、多孔質ネットワークへの金属イオンのシュードキャパシタの取り込みに依存する(
図17も参照)。電子貯蔵材料は、電極と電解質の間の電子電荷移動によって電気エネルギーをファラデーに貯蔵することにより、シュードキャパシタとして機能する。より詳細には、充電中に電子貯蔵材料が還元されると、電子がヘプタジンおよび/またはトリアジン骨格に蓄積し、電解質からの金属イオンが細孔に挿入される。ヘプタジンおよび/またはトリアジン骨格に貯蔵されたこれらの電子と、電極貯蔵材料の負電荷を安定化させる電子貯蔵材料の細孔内の陽イオンとの間に相互作用がある。したがって、多孔質ネットワークへの金属イオンの疑似容量の取り込みは、高容量および長期の電子貯蔵にとって重要であるが、同時に、電荷の貯蔵および放出の動力学を制限する。
【0058】
電子貯蔵材料の用途は、水素発生のための電子貯蔵材料の高い固有の過電圧による減水反応によって制限されず、したがって、水系電池に対してより負のアノード電位を有する新しい用途を可能にする。シアナミド官能化ポリヘプタジンイミド(NCN-PHI)の場合、電子蓄積の電位は、リン酸緩衝液中の-700mV対Ag/AgClよりも負であり、KClでは-800mV未満である(pH7で-100mVおよび-200mV対RHEに相当)。したがって、NCN-PHIの電荷蓄積の長期安定性は注目に値する。
【0059】
窒素含有電子貯蔵材料は、好ましくは、0.5~3.5eVの範囲のバンドギャップを有し、好ましくは、1.0~2.0eVまたは2.0~3.0eVの範囲のバンドギャップを有する。バンドギャップとは、価電子帯の上部と伝導帯の下部との間のエネルギー差を指す。3.5eVを超える大きなほぼ乗り越えられないバンドギャップを有する材料は絶縁体である。バンドギャップが0.5~3.5eVの材料は半導体である。一方では、可視光吸収を増加させるために、電子貯蔵材料のバンドギャップは好ましくは低い。本発明の意味の範囲内の可視光は、380~700nmの範囲の波長を有する光である。一方、バンドギャップが大きいほど、セル電圧が高くなる。1.0~2.0または2.0~3.0eVのバンドギャップにより、可視光吸収と高いセル電圧の間の妥当なトレードオフが可能になる。バンドギャップが1.0~2.0eVの範囲にある場合、光吸収、したがってエネルギー変換効率が向上する。バンドギャップが2.0~3.0eVの範囲にある場合、より高いセル電圧、したがってエネルギー密度を得ることができる。
【0060】
したがって、窒素含有電子貯蔵材料は、光を吸収して電子を励起し、そこに放出された電子を貯蔵することができる。
【0061】
窒素含有電子貯蔵材料のバンドギャップは、カチオン(層間および洞窟ドーピング)、アニオン(洞窟および置換ドーピング)、および共重合(分子ドーピング)によって調整することができる。非金属アニオンドーピングに関しては、炭素の自己ドーピングが架橋窒素原子に取って代わる可能性がある。一方、酸素、硫黄、およびヨウ素のドーピングは、芳香環からの窒素原子を置き換える可能性がある。
【0062】
窒素含有電子貯蔵材料は、SB、P、O、C、I、F、Cl、Se、Te、Si、Ge、As、Sb、アルカリカチオン、アルカリ土類カチオン、および遷移金属イオンからなるリストの少なくとも1つのメンバーの最大40モル%、好ましくは最大25モル%、より好ましくは最大10mol%、最も好ましくは最大5mol%を含み得る。。これらの元素およびカチオンは、その特性を変更するために、窒素含有電子貯蔵材料のドーパント、置換基、または挿入物として使用することができる。
【0063】
アルカリカチオンは、好ましくは、Li、Na、Kから選択される。アルカリ土類カチオンは、好ましくは、MgおよびCaから選択される。遷移金属イオンは、好ましくは、Zn、Fe、Al、Cu、およびNiからなる群から選択される。
【0064】
正孔貯蔵材料
半導体では、バンドギャップは絶縁体ほど大きくないため、電子を伝導帯に移動させることができる。電子の促進により、原子価に正に帯電した空孔が残り、正孔と呼ばれる。これらの正孔は、空孔への電子の移動によって材料内を移動できる。したがって、正孔は可動性があると見なされる。本発明の意味の範囲内の正孔貯蔵材料は、正孔受容体または正孔によって酸化され得る分子種である。
【0065】
一般的に、貯蔵は酸化または還元された材料の総量によって支配される。大容量のストレージは、高速のレドックス速度と、システムのボリュームを介して充電が行われるという事実に起因する。
【0066】
正極の正孔貯蔵材料(HTM)は、導電性ポリマー、金属、半導体、またはそれらの混合物を含むか、またはそれらであり得る。
【0067】
導電性ポリマーは、好ましくは、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリナフタレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、窒化炭素、およびそれらのドープされた変種からなる群から好ましく選択される。導電性ポリマーは、より好ましくは、ポリチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、およびメロン、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアセチレン、ポリアズレン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、窒化炭素、キノン、チオフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾール、ポリジベンゾシロール、ベンゾチアジアゾールおよびジケトピロロピロールとの共重合体、セレノフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾールまたはポリジベンゾシロール、ベンゾチジアゾールおよびジケトピロロピロールとの共重合体、ラジカル中心としてN-O結合酸素を含む化合物、キノンベースのアセン、炭素中心のラジカルカチオンを含む化合物、第三級アミン中心のラジカルを含む化合物ならびにそれらすべてのドープされたバリアントからなる群から選択される。
【0068】
導電性ポリマーは、より好ましくは、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリナフタレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、窒化炭素、およびそれらのドープされた変種からなる群から選択される。導電性ポリマーは、より好ましくは、ポリチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、およびメロンからなる群から選択されpドープ導電性ポリマーPEDOT:PSSが最も好ましい。高い導電率とフィッティングバンドの位置を考慮に入れると、PEDOT:PSSは太陽電池のHTMおよびHSMアプリケーションに理想的な材料である。正孔輸送導電性ポリマーは、それぞれのメカニズムがリンクされているため、正孔貯蔵材料(HSM)としても機能し得る。分離は、正孔に対して十分な大きさの駆動力でHSMをHTMに追加する場合にのみ実現できる。
【0069】
正孔貯蔵材料は、好ましくは、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリナフタレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、窒化炭素、およびそれらのドープされた変種からなる群から選択される。導電性ポリマーは、より好ましくは、ポリチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、およびメロン、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアセチレン、ポリアズレン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、窒化炭素、キノン、チオフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾール、ポリジベンゾシロール、ベンゾチアジアゾールまたはジケトピロロピロールとの共重合体、セレノフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾールまたはポリジベンゾシロール、ベンゾチジアゾールおよびジケトピロロピロールとの共重合体、ラジカル中心としてN-O結合酸素を含む化合物、キノンベースのアセン、炭素中心のラジカルカチオンを含む化合物、第三級アミン中心ラジカルを含む化合物、およびそれらすべてのドープされたバリアントからなる群から選択される。
【0070】
正孔貯蔵材料は、より好ましくは、ポリナフタレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアズレン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、窒化炭素、キノン、第三級アミン、チオフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾール、ポリジベンゾシロール、ベンゾチアジアゾールまたはジケトピロロピロールとの共重合体、セレノフェンと、ポリフルオレン、ポリカルバゾールまたはポリジベンゾシロール、ベンゾチジアゾールおよびジケトピロロピロールとの共重合体、ラジカル中心としてN-O結合酸素を含む化合物、キノンベースのアセン、およびそれらすべてのドープされたバリアントからなる群から選択される。正孔貯蔵材料および正孔輸送材料の適切なクラスを表2に示す。これらの材料はまた、本発明の正孔貯蔵材料として使用することができる。
【0071】
正極の正孔貯蔵材料(HTM)は、酸化グラフェン(GO)などの半導体であってもよい。GOは、ヒドラジンなどの酸化剤を使用したり、熱アニーリング還元を使用したり、光触媒を使用したりすることによるグラフェンの部分酸化によって合成された、非化学量論的な材料クラスを表す。
【0072】
【0073】
電解質
本発明の意味における電解質は、カチオンおよびアニオンへの解離の結果として電流を伝導する物質であり、これらはそれぞれ、負極および正極に向かって移動する。電解質は、液体電解質または固体電解質であり得る。電解質は、好ましくは、有機液体電解質、無機液体電解質、固体ポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、固体無機電解質、および溶融無機電解質からなる群から選択される1つまたは複数である。電解質は、より好ましくは、1つまたは複数の金属塩の水溶液である。電解質はまた、非水性有機溶媒および金属塩であり得る。金属塩は、好ましくは、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの1つまたは複数であり、最も好ましくは、アルカリ金属塩である。電解質がアルカリ金属カチオンまたはアルカリ土類金属カチオンを含む場合、多孔質ネットワークへの金属イオンの疑似容量的取り込みが改善される。金属塩の陰イオンの例には、F-、Cl-、I-、I3-、NO3-、(CF3)2PF4-、(CF3)3PF3-、(CF3)4PF2-、BF4-、PF6-、H2PO4-、HPO42-、PO43-、CF3CF2SO3-、(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-、CF3CF2(CF3)2CO-、(CF3SO2)2CH3-、(SF5)3C3-、CF3SO2-、CF3-、CF3CO2-、CH3CO2-、SCN-、および(CF3CF2SO2)2N-が包含される。
【0074】
電解質は、好ましくは、窒素含有電子貯蔵材料が挿入および脱挿入することができるカチオンを含む。
【0075】
電解質は、レドックスシャトルまたは固体電荷輸送媒体を含み得る。固体電荷輸送媒体は、固体ポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、または固体無機電解質などの固体電解質である。本発明の意味の範囲内のレドックスシャトルは、電気化学的に可逆的な部分を指し、これは、電気化学デバイスの充電中に、正または負の電荷を輸送するための正孔輸送媒体または電子輸送媒体として機能する。電気化学デバイスの充電中、電気化学的に可逆な部分は、正孔を正孔貯蔵材料に輸送するために、負極と正極との間を移動する。レドックスシャトルは、液体レドックスシャトル、すなわち液相の電気化学的可逆部分であり得る。
【0076】
電気化学的可逆性部分は、好ましくは、ヨウ素/ヨウ化物などの地球に豊富なレドックス対である。
【0077】
本発明の第1の態様による電気化学デバイスの負極は、窒素含有電子貯蔵材料の層の表面に提供される層をさらに含み得、該層は、窒素含有電子貯蔵材料と電荷輸送材料とを含む。この場合、層は、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%の窒素含有電子貯蔵材料を含む。この層は、窒素含有電子貯蔵材料と電荷輸送材料とのブレンド、またはこれらの材料の層状構造からなり得る。窒素含有電子貯蔵材料を電荷輸送材料とブレンドすることにより、バルクヘテロ接合の作成が可能になり、これにより電極の動力学が向上する可能性がある。
【0078】
光蓄電池
第2の態様では、本発明は、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられている窒素含有電子貯蔵材料とを含む層とを含む負極と、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられている正孔貯蔵材料を含む層とを含む正極と、
窒素含有電子貯蔵材料の層と正孔貯蔵材料の層との間に挟まれた光起電力素子と、を含む、光再充電式電池であって、
光起電力要素は、照明時に電極を充電することができ、窒素含有電子貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、ヘプタジンおよび/またはトリアジン部分を含み、カチオンを挿入および脱挿入することができる光再充電式電池に関する。
【0079】
本発明の意味の範囲内の光蓄電池は、外部電圧を印加する必要なしに、光への曝露によって充電することができる電池である。
【0080】
光起電性要素は、照明時に電極を充電することができる。したがって、本発明の意味の範囲内の光起電力要素は、光起電力効果によって光のエネルギーを直接電気に変換する電気装置である。光起電力効果は、光に曝されたときの材料における電圧生成として定義される。
【0081】
本発明の第1の態様で定義された正極および負極は、本発明の第2の態様による光蓄電池で使用することができる。したがって、基板、正孔貯蔵材料、および窒素含有電子貯蔵材料の好ましい実施形態、ならびに本発明の第1の態様で定義された電解質およびさらなる実施形態もまた、光蓄電池に適用することができる。特に、窒素含有電子貯蔵材料は、好ましくは、本発明の第1の態様で定義された通りである。窒素含有電子貯蔵材料の層は、層の重量に関して、少なくとも80重量%、好ましくは、少なくとも90重量-%の量の窒素含有電子貯蔵材料を含み得る。
【0082】
窒素含有電子貯蔵材料の層は、層の重量に関して、少なくとも80重量%、好ましくは、少なくとも90重量-%の量の窒素含有電子貯蔵材料を含み得る。
【0083】
光起電力素子は、好ましくは、p-n接合を含む半導体または半導体複合体である。p-n接合は、半導体の単結晶内にある2種類の半導体材料(p型とn型)間の境界または界面である。光起電力素子は、より好ましくは、p型およびn型半導体の層構造であり、最も好ましくは、p型半導体の層およびn型半導体の層の層構造である。この構成では、n型半導体の層は、負極の基板の反対側の電子貯蔵材料の層の表面と接触しており、p型半導体の層は、正極の基板の反対側の正孔貯蔵材料の層の表面と接触している。この構成では、p型半導体層とn型半導体層が接触している。
【0084】
光起電素子の逆の構成では、p型半導体が電子貯蔵材料と接触し、n型半導体が正孔蓄積材料と接触しており、n型半導体とp型半導体の間にオーミック接触がある場合も可能である(いわゆる「Zスキーム」)。
【0085】
p型およびn型半導体は、電子貯蔵材料に比べてバンドギャップが小さくなっている。バンドギャップの小さいp型およびn型半導体が太陽光を吸収することにより、可視光吸収効率、ひいては電荷蓄積性を向上させることができる。p型およびn型半導体と比較して電子と正孔の蓄積材料間のエネルギーギャップが大きいため(特に、Zスキームアプローチでは)、高いセル電圧を維持できる。
【0086】
自動光蓄電池
第3の態様では、本発明は、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられている窒素含有電子貯蔵材料を含む層とを含む負極と、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられている正孔貯蔵材料を含む層とを含む正極と、
電解質と、を含み、
窒素含有電子貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、カチオンを挿入および脱挿入することができ、0.5~3.5eVの範囲のバンドギャップを有する、自動光蓄電池に関する。
【0087】
窒素含有電子貯蔵材料の層は、層の重量に関して、少なくとも80重量%、好ましくは、少なくとも90重量-%の量の窒素含有電子貯蔵材料を含み得る。
【0088】
上記のように、本発明の意味の範囲内の光蓄電池は、電圧を印加することなく、可視光の照射によって再充電できる電池である。本発明の意味の範囲内の自動光蓄電池は、集光および電気エネルギー貯蔵の両方のステップが同じ材料内、すなわち窒素含有電子貯蔵材料内で行われる光蓄電池である。したがって、集光と電荷蓄積は同じ材料で組み合わされる。より詳細には、窒素含有電子貯蔵材料において、電子は、照明時に励起され、光励起状態で貯蔵される。したがって、自動光蓄電池は、光電位を生成し、照明中、特に照明後に電流を供給することができる。したがって、窒素含有電子貯蔵材料は、光を吸収して電子を励起し、そこに放出された電子を貯蔵することができる。
【0089】
本発明の自動光蓄電池は、光アシスト充電および放電のみを受けることができ、電圧を印加せずに照明によって充電することができない電池とは異なる。本発明の自動光蓄電池はまた、本発明の第2の態様による光蓄電池とは異なり、集光および電子貯蔵は同じ材料内で行われない。
【0090】
自動光蓄電池の電極は、好ましくは、本発明の第1の態様で定義された電極である。より詳細には、自動光蓄電池で使用される窒素含有電子貯蔵材料は、好ましくは、本発明の第1の態様で定義されるような電子貯蔵材料である。より詳細には、電子貯蔵材料は、好ましくはヘプタジンおよび/またはトリアジン部分を含み、より好ましくは炭素原子と窒素原子が交互になる材料であり、最も好ましくはシアナミド官能化ポリヘプタジンイミドである。電子貯蔵材料はまた、本発明の第1の態様で定義されるように、共有結合性有機フレームワーク(COF)または金属有機フレームワーク(MOF)であり得る。
【0091】
自動光蓄電池で使用される窒素含有電子貯蔵材料はまた、5員または6員環部分、好ましくは芳香族を含む2次元または3次元の窒素含有電子貯蔵材料、および/または窒素含有5員または6員環部分、および、最も好ましくは、環または環に位置する官能基に窒素を含む芳香族5員環または6員環であり得る。自動光蓄電池で使用される窒素含有電子貯蔵材料はまた、ラジカル中心として、N-O結合酸素、N-N結合窒素およびC-O結合酸素からなる群から選択される1つまたは複数の部分を含む、二次元または三次元の窒素含有電子貯蔵材料であり得る。
【0092】
窒素含有電子貯蔵材料の構成単位の好ましい部分を表1に示す。
【0093】
【0094】
自動光蓄電池で使用される窒素含有電子貯蔵材料はまた、5員または6員の環部分を含む2次元または3次元の窒素含有電子貯蔵材料であり得、5員または6員の環部分は、S、B、P、O、Se、Te、Si、Ge、As、およびSbの群から選択される1つまたは複数の元素を含む。
【0095】
自動光蓄電池に使用される電子貯蔵材料は、0.5~3.5eVの範囲のバンドギャップ、好ましくは1.0~2.0または2.0~3.0eVの範囲のバンドギャップを有する。上で説明したように、バンドギャップが1.0~2.0または2.0~3.0eVの材料は、可視光吸収と高いセル電圧との間の妥当なトレードオフを可能にする。バンドギャップが1.0~2.0eVの範囲にある場合、光吸収、したがってエネルギー変換効率が最大になる。
【0096】
正極は、本発明の第1の態様で定義されるような正極であり得る。特に、正孔貯蔵材料は、本発明の第1の態様で定義された材料であり得る。適切な正孔貯蔵および正孔輸送材料を表2に示す。これらの材料はまた、本発明において使用され得る。
【0097】
自動光蓄電池において、正極および負極用の基板と、第1の態様で定義された電解質とを使用することができる。自動光蓄電池で使用される電解質は、水性媒体である可能性があり、これは、従来の電池のほとんどの電解質と比較して、低コストで、より環境に優しく、危険性が少ない大規模生産に適している。
【0098】
本発明の第3の態様による自動光蓄電池は、好ましくは、正孔輸送材料(HTM)を含み得る。正孔輸送材料の層は、電子貯蔵材料と正孔貯蔵材料との間に挟まれ得る。正孔輸送材料は、好ましくは導電性材料であり、より好ましくは導電性ポリマーである。正孔輸送材料は、好ましくは、ポリナフタレン;ポリフェニレン;ポリフェニレンビニレン;ポリパラフェニレン;ポリパラフェニレンスルフィド;ポリパラフェニレンビニレン;ポリアニリン;ポリピロール;ポリカルバゾール;ポリインドール;ポリアゼピン;、ポリチオフェン;ポリイソチアナフテン;ポリアセチレン;ポリアズレン;ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン);窒化炭素;キノン;チオフェンとポリフルオレン、ポリカルバゾール、ポリジベンゾシロール、ベンゾチアジアゾールまたはジケトピロロピロールとの共重合体;セレノフェンとポリフルオレン、ポリカルバゾールまたはポリジベンゾシロールとの共重合体;ベンゾチジアゾール;ジケトピロロピロール;ラジカル中心としてN-O結合酸素を含む化合物;キノンベースのアセン;炭素中心のラジカルカチオンを含む化合物;第三級アミン中心ラジカルを含む化合物;ならびにそれらすべてのドープされたバリアントからなる群から選択される材料である。
【0099】
上記のように、自動光蓄電池のアプローチは、同じ電極、好ましくは負極、材料内で電荷蓄積と光吸収を組み合わせるものであり、したがって、電荷蓄積のための外部電圧供給を必要とせずに、2電極セットアップ、つまり、電池の電極で発生する電子貯蔵または正孔貯蔵が作成される。電子と正孔の高速空間分離は、電荷の再結合、したがってシステムの自己放電を防ぐために必要である。正孔貯蔵材料と電子貯蔵材料の価電子帯との間に位置する正孔輸送材料は、これらの再結合経路を妨げる可能性がある。
【0100】
上で説明したように、HTMはHSMとしても機能し得る。これは、本発明の第1の態様で定義された導電性ポリマーがHSMとして使用される場合に当てはまる可能性がある。HSMとHTMにそれぞれ異なる材料を使用することも可能である。この場合、HTMの層が電子貯蔵材料とHSMの間に挟まれている。
【0101】
HTMとHSMの両方の一般的な要件には、適切なバンドアライメントが含まれる。つまり、HTMとHSMの価電子帯は、窒化炭素の価電子帯の上に配置する必要がある(
図19を参照)。さらに、これらの材料は、HTMの場合は活物質とHSMへの両方の接合部、またはHSMの場合はHTMと対極として機能する基板との間で良好な電荷移動速度を有することが要求される。電荷移動を最適化することは、セル電圧を改善するために重要である。一方で、大きな駆動力は、熱力学的観点から、電荷移動確率を増加させ、したがって量子効率を増加させる。一方で、それはまた全体的なセル電圧を低下させる。これは、高いセル電圧と量子効率の間にトレードオフがあることを意味する。光子吸収中、励起子は表面材料とバルク材料の両方で生成される。しかしながら、バルクからの励起子は、太陽電池の充電プロセスに参加するためにHTMの接合部に拡散しなければならない。この方法での電子と正孔の再結合は、活物質の効率を大幅に低下させ得る。
【0102】
電子が伝導帯に光励起された後、正孔が残る。どちらもいわゆる励起子(電子正孔対)を形成している。これらの自由電荷は、
励起子結合エネルギーとして説明されるクーロン相互作用によって一緒に保持される。電荷キャリアの空間的分離は、それらの再結合を防ぐことができる。正孔輸送材料(HTM)は、電荷分離のタスクに使用され、以下で説明する。適切な正孔輸送および貯蔵材料を選択するための最も重要な基準は、それらの電子構造である。本質的に、電子はエネルギー的に最も低い占有エネルギーレベルに向かって移動する傾向があり、正孔はまったく逆の方法で動作する。このようなHTMで正孔伝導が発生するエネルギーレベルは次のようになる。
正孔供与体、すなわち電子貯蔵材料と正孔受容体、すなわち正孔貯蔵材料の価電子帯の間に位置する。
【0103】
自動光蓄電池の電解質は、好ましくは水性媒体である。自動光蓄電池の電解質は、レドックスシャトルを含む液体電解質であり得、電子貯蔵材料および正孔貯蔵材料は両方とも液体電解質と接触している。本発明の意味の範囲内のレドックスシャトルは、電気化学的に可逆的な部分を指し、これは、電気化学的デバイスの充電中に、正孔輸送媒体として機能する。電気化学的可逆性部分は、好ましくは、ヨウ素/三ヨウ化物(I-、I3-)などの地球に豊富なレドックス対である。
【0104】
電子輸送材料は、窒素含有電子貯蔵材料と負極の基板との間に提供され得る。電子輸送材料は、貯蔵材料から基板への電荷抽出を強化する。電子輸送材料は、電子貯蔵材料内の電子の光励起中に作成された正孔が、負極の基板上の電子と再結合するのを防ぐことができる。したがって、電子輸送材料は、電荷の再結合を防ぐことができ、したがって、光蓄電池の電荷貯蔵能力を高めることができる。電子輸送材料は二酸化チタンであり得る。さらに、表3a)および表3b)に列挙された電子輸送材料を本発明で使用することができる。
【0105】
【0106】
【0107】
第4の態様では、本発明は、表面を有する基板と、基板の表面に設けられている電子貯蔵材料を含む層とを含む負極と、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられている窒素含有正孔貯蔵材料を含む層を含む正極と、
電解質と、を含む自動光蓄電池であって、
窒素含有正孔貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、カチオンおよび/またはアニオンを挿入および脱挿入することができ、0.5~3.5eVの範囲のバンドギャップを有する、自動光蓄電池に関する。
【0108】
窒素含有正孔貯蔵材料は、光を吸収して電子と正孔を励起し、光生成された正孔を貯蔵することができる。
【0109】
電子輸送材料の層は、電子貯蔵材料と正孔貯蔵材料との間に挟まれてもよい。電子輸送材料は、好ましくは導電性材料であり、より好ましくは導電性ポリマーである。電子輸送材料は、フラーレン、テレフタレート中心の材料、グラファイトなどの導電性炭素ベースの材料、および二酸化チタンや還元型酸化グラフェンなどの酸化物からなる群から最も好ましくは選択される(表3を参照)。
【0110】
窒素含有電子貯蔵材料の層は、層の重量に関して、少なくとも80重量%、好ましくは、少なくとも90重量-%の量の窒素含有電子貯蔵材料を含み得る。
【0111】
電解質は、好ましくは、レドックスシャトルを含む液体電解質であり、電子貯蔵材料および正孔貯蔵材料の両方が液体電解質と接触している。電解質は、最も好ましくは水性媒体である。
【0112】
正孔輸送材料は、窒素含有正孔貯蔵材料と正極の基板との間に提供され得る。
【0113】
窒素含有正孔貯蔵材料は、好ましくはヘプタジンおよび/またはトリアジン部分から構成され、より好ましくは炭素原子と窒素原子とが交互になっている材料である。窒素含有正孔貯蔵材料はまた、共有結合性有機フレームワークであり得る。窒素含有正孔貯蔵材料のバンドギャップは、好ましくは、1.0~2.0eV、または2.0~3.0eVの範囲である。
【0114】
レドックスフロー電池
第5の態様では、本発明は、
本発明の第1の態様による電気化学デバイス、および本発明の第2の態様による光蓄電池、または本発明の第3または第4の態様による自動光蓄電池を含む電気化学セルと、
電解質溶液を含む1つまたは複数のタンクと、
各タンクを電気化学セルに接続するパイプと、
電気化学セルとそれぞれのタンクの間で各電解質溶液を循環させるためのポンプとを含む、レドックスフロー電池に関する。
【0115】
レドックスフロー電池では、電解質溶液は、正孔貯蔵媒体または電子貯蔵媒体として、好ましくは正孔貯蔵媒体として機能する。電解質溶液は、無機塩または有機化合物を含み得る。電解質溶液は、好ましくは、多環芳香族炭化水素、ベンゾフェノン、窒化炭素、キノン、ビオロゲン、ベンゼン、カルボニル、ニトロキシドラジカル、およびメタロセンからなる群から選択される少なくとも1つの電解質を含む。これらの化合物の特性と例を表4a)と表4b)に示す。
【0116】
ポンプは、電気化学セルの(光)電極とそれぞれの貯蔵タンクの間で各電解質溶液を循環させ、これは、電気化学セルの対電極として機能し得る。
【0117】
したがって、電荷は固体電極に蓄積されるのではなく、電荷蓄積媒体として機能する帯電電解質内に蓄積され、該電解質は、タンクに蓄積され、さまざまなパイプを介してセルに接続される。電解液の流れを良くするために、ポンプがそれぞれのタンクに接続されている。電解液はタンクと電気化学セルの間を循環し、それによって電気化学セルの電極と接触する。好ましくは、貯蔵電解質からの電荷抽出は、タンク内で実現される。
【0118】
レドックスフローは、好ましくは1つのタンクを含む。
【0119】
【0120】
【0121】
集光して電気エネルギーを貯蔵するための方法
第6の態様によれば、本発明は、集光し、電気エネルギーを貯蔵するための方法に関し、該方法は、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられる窒素含有電子貯蔵材料を含む層とを含む負極を含む電気化学デバイスを提供するステップと、
窒素含有電子貯蔵材料を太陽光で照明するステップとを含み、
窒素含有電子貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、カチオンを挿入および脱挿入することができ、
集光は、窒素含有電子貯蔵材料を照明するステップの間に、窒素含有電子貯蔵材料内で起こり、電子貯蔵は、電子貯蔵材料を照明するステップの間および後に、窒素含有電子貯蔵材料内で起こる。
【0122】
窒素含有電子貯蔵材料を太陽光で照明するステップでは、電気エネルギー貯蔵は照明のみによって起こり、電極に電圧を印加する必要はない。
【0123】
電子貯蔵は、窒素含有電子貯蔵材料を照明するステップの間に窒素含有電子貯蔵材料内で起こり、電子は、照明が停止された後も貯蔵されたままである。
【0124】
本発明の第6の態様による方法で使用される電気化学デバイスは、好ましくは、本発明の第1の態様による電気化学デバイス、本発明の第2の態様による光蓄電池、本発明の第3の態様による自動光蓄電池である。本方法で使用される窒素含有電子貯蔵材料は、好ましくは、0.5~3.5eVのバンドギャップを有する。より好ましくは、本方法で使用される窒素含有電子貯蔵材料は、ヘプタジンおよび/またはトリアジン部分を含み、最も好ましくは、炭素原子と窒素原子が交互になる材料である。
【0125】
第7の態様によれば、本発明は、集光し、電気エネルギーを貯蔵するための方法に関し、該方法は、
表面を有する基板と、基板の表面に設けられる窒素含有電子貯蔵材料を含む層とを含む負極を含む電気化学デバイスを提供するステップと、
窒素含有正孔貯蔵材料を太陽光で照明するステップと、を含み、
窒素含有正孔貯蔵材料は、二次元または三次元の共有性結合構造を有し、カチオンおよび/またはアニオンを挿入および脱挿入することができ、
集光および正孔貯蔵は、窒素含有正孔貯蔵材料を照明するステップの間に、窒素含有正孔貯蔵材料内で起こる。
【0126】
正孔貯蔵は、窒素含有正孔貯蔵材料を照明するステップの間に窒素含有正孔貯蔵材料内で起こり、照明が停止された後も、正孔は貯蔵されたままである。
【0127】
本発明の第7の態様による方法で使用される電気化学デバイスは、好ましくは、本発明の第4の態様による自動光蓄電池である。
【0128】
窒素含有正孔貯蔵材料は、好ましくは、ヘプタジンおよび/またはトリアジン部分を含む。窒素含有正孔貯蔵材料はまた、炭素原子と窒素原子が交互になる材料であり得る。第7の態様による方法で使用される窒素含有正孔貯蔵材料のバンドギャップは、好ましくは、0.5~3.5eVのバンドギャップを有する。
【0129】
酸素を検出するための方法
第8の態様では、本発明は、酸素を検出または除去するための方法に関し、方法は、次の、
本発明の第1の態様による電気化学デバイスを提供するステップと、
窒素含有電子貯蔵材料に電子を充電するステップと、
帯電状態の窒素含有電子貯蔵材料を試験流体またはガスと接触させるステップと、
試験流体またはガスと接触させる前、最中、および/または後に、視覚的に検出することによって、またはデバイスの電位の変化を測定することによって、窒素含有電子貯蔵材料の層の状態を分析するステップと
を含む。
【0130】
この方法では、窒素含有電子貯蔵材料を充電するステップは、電極間に電圧を印加することによって、または任意選択で窒素含有電子貯蔵材料に関して無酸素媒体中で照明によって実行される。試験流体またはガス中の酸素の完全な除去を確実にするために、窒素含有電子貯蔵材料を試験流体またはガスと接触させた後に充電を行うこともできる。
【0131】
光を検出するための方法
第9の態様では、本発明は、光を検出するための方法に関し、方法は次の、
本発明の第1の態様による電気化学デバイスを提供するステップと、
窒素含有電子貯蔵材料の層を照明するステップと、
光学的手段または電極間の電位を測定することにより、窒素含有電子貯蔵材料の状態を検出するステップと
を含む。
【0132】
照明は、好ましくは可視光、すなわち380~700nmの範囲の波長を有する光で起こり、より好ましくは、窒素含有電子貯蔵材料のバンドギャップ(NCN-PHIの場合は450nm)を超えるエネルギーを有するスペクトル部分を含む波長を有する光で起こる。
【0133】
電気化学デバイスの使用
最後の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による電気化学デバイスの様々な使用を対象とする。
【0134】
より詳細には、本発明の第1の態様による電気化学デバイスは、光蓄電池中で、または光蓄電池として、自動光蓄電池中で、または自動光蓄電池として、レドックスフロー電池中、またはレドックスフロー電池として、酸素検出器中、または酸素検出器として、または光検出器中、または光検出器として使用され得る。
【実施例】
【0135】
NCN-PHI電極の調製
NCN-PHIの合成
使用されるすべての化学薬品は試薬グレードの純度である。NCN-PHIを含むカリウムは、V. W. H. Lau等のNature Communications, 2016, 7, 12165およびV. W. Lau等のAngewandte Chemie International Edition, 2017, 56, 510-514に記載されている公開されている手順に従って、特に、V. W. H. Lau等のNature Communications, 2016, 7, 12165の方法セクションで説明されている合成手順に従って、メロンとKSCNから調製した。
【0136】
CV制御実験のためのNCN-PHIイオン交換
Li+イオンとのイオン交換のために、NCN-PHI(200mg)を含むカリウムをLiCl溶液(1M、20ml)に分散させた。プロトン化を回避するために、pH9~10になるまでLiOH溶液(1M)を添加した。数時間撹拌した後、中性の洗浄溶液が得られるまで、遠心分離および水での複数回の洗浄によって生成物を溶液から分離した。この手順(すなわち、pH9~10のLiCl溶液中で撹拌し、生成物を洗浄する)をさらに2回繰り返した。最終的な黄色の固体を真空中60℃で一晩乾燥させた。
【0137】
電極の調製
NCN-PHIのナノシートは、初期状態の粉末を脱イオン水中で2時間超音波処理することによって得られた。シートは、Sigma 3-30k遠心分離機で2つの遠心分離ステップ(353 RCF、25分および795 RCF、40分)によってバルク材料から分離された。続いて、ナノシートの上清を90分間の遠心分離(35329 RCF)によって分離し、1-5mg/mlの範囲の高密度分散液を得た。
【0138】
電極基板は、5×7mmにカットされたSigmaAldrich FTOスライド(表面抵抗率:7オーム/平方)を銀ペーストで分離された銅線に接触させることによって調製した。接点はエポキシ(3M Scotch-Weld DP410)でシールされ、露出電極領域は約5×5mm2となった。プラズマ洗浄後、ナノシート懸濁液に相当するもの、通常は10μgのNCN-PHIを電極にドロップキャストし、ホットプレート上で60℃で少なくとも2時間乾燥させた。スピンコーティングされた電極について、すべてのスピンコーティングステップに25μgの材料が使用された(ランプ:1200rpm/秒;60秒のスピンコーティング;ステップ間で60℃で10分間の乾燥;回転数とステップ数はサンプルによって異なり、それぞれの図に記載されている)。スピンコート電極の質量負荷は、電極に対するNCN-PHIの比重が低く(<20μg)、基板の粗さのために決定できず、これは接着には有益である、厚さや体積の決定には不利である。したがって、質量は、使用されたサンプル濃度の計算および水晶振動子微量天秤(ザルトリウスME36S)を使用することにより、ドロップキャストされたサンプルから決定された。
【0139】
セルの調製
薄膜の調製
主な課題の1つは、それぞれの材料の均一な薄膜を作成することである。特に多層系の場合、堆積技術の最適化は、起こりうるピンホールとその後の短絡を最小限に抑えるために特別な注意を払う必要がある。薄膜は、フッ素をドープした酸化スズ基板(FTO、Sigma Aldrich)上に堆積された。FTOは7×5mmのピースにカットされた。サンプルが電気化学測定セルに収まるように、小さいサイズが選択された。さらに、小さな基板は、粗いフィルム表面にもかかわらず、より均一な圧力印加を可能にするため、一部のサンプルのサンドイッチ構成に有益である。堆積前に、基板のFTOを酸素プラズマ(Femto, Diener Electronic GmbH & Co. KG Plasma-Surface-Technology)で2分間処理して、表面を活性化し、親水性を高めた。このステップは、それぞれの堆積懸濁液で基板を均一に表面に濡らすために必要であった。
【0140】
ドロップキャスティング
発生する廃棄物の量が少なく、タイムスケールが速いため、ドロップキャスティングが選択された。各FTO基板を酸素プラズマで2分間処理し、ホットプレート(C-MAG HS7, IKA-Werke GmbH & Co. Kg)または所望の乾燥温度の冷蔵庫に入れた。次に、10μLのそれぞれの懸濁液をサンプルにドロップキャストした。均一な表面の濡れを確実にするために、溶液は最初に端部に適用されて、ゆっくりとした速度で中心に流れ込むことを可能にした。続いて、サンプルをホットプレート上で異なる温度で少なくとも2時間乾燥させた。懸濁液とエポキシの間の引力により均質な膜の形成が妨害されたため、堆積後にシートに接触させた。3つ以上の材料(たとえば、HCN-PHIとHTMおよびHSM材料)を使用して実行されたフル電池実験では、HTMをNCN-PHIでコーティングされたFTO基板にドロップキャストすることが必要であった。プラズマ洗浄は、膜の破壊を防ぐために、NCN-PHIの最初の堆積に対してのみ実行された。ハーフセル実験で使用されるサンプルに関しては、FTOが電解質と接触していないことが重要であった。したがって、コーティングされていない部品は、ドロップキャスティング後にエポキシでシールされた。
【0141】
スピンコーティング
ドロップキャスティングと同様に、FTOシートの表面は酸素プラズマに2分間さらすことによって活性化された。次に、基板をスピンコーターに入れ、その上にそれぞれの懸濁液10Lを加え、スピンコーター(WS-650MZ-23NPP、ローレルテクノロジーコーポレーション)を始動させた。回転時間と速度は、各物質に対して最適化された。NCN-PHIサンプルの場合、FTOと材料自体への相互作用力が非常に弱いため、いくつかの後続のスピンコーティングステップが必要であった。各スピンコーティングステップの後、サンプルを60℃のホットプレート上で少なくとも2時間乾燥させた。
【0142】
FTO基板への接触
それぞれの膜が堆積されたポテンシオスタットとFTOシートの間に電気的接続を作成するには、ワイヤをFTO基板に接触させて密封しなえればならなかった。サンプルに応じて、薄膜堆積の前または後に接触が実行された(それぞれ、接触前および接触後)。堆積後に接触したサンプルの場合、裸の基板に接触できるように、濡れたつまようじでフィルムの約2mmを削り取ることが必要であることに注意されたい。続いて、銀の導電性接着剤(RS PRO、RS 186-3600)を基板と剥がした銅ケーブルの両方に塗布し、2つの部品を接合した。銀は電気化学的活性があるため、接合部はエポキシ接着剤(3M Scotch-Weld、DP410)でシールした。次に、サンプルを周囲温度で一晩、または60℃のオーブンで少なくとも2時間乾燥させた。
【0143】
サンドイッチ構成
フル電池サンプルには、2つの異なるアプローチが選択された。第一のアプローチでは、FTOシート上に薄膜を堆積させ
基板を上記の手順に従って接触させた。続いて、Auをサンプル上にスパッタリングしてカソードとして作用させた。Auフィルムは、2番目の銅を介して接触し、導電性の銀接着剤で接着した。このアプローチは、FTOシートの不完全なコーティングが回避されない場合には、短絡に対して非常に敏感である。
【0144】
第二のアプローチが適用された:2つは、それぞれの材料でコーティングされたFTOシートを互いに重ね合わせ、おもりで押し下げた。サンプルを安定させるためにエポキシ接着剤を両側に塗布し、一晩乾燥させた。
【0145】
測定方法
光電気化学測定
光電気化学測定は、側面照明用の石英窓を備えた自作の密閉ガラス反応器で行った。1MのNaベースのリン酸緩衝液(NaH2PO4(57.2g、0.48mol)とNa2HPO4(74.2g、0.52mol)を含む水(1l))、pH=7またはKCl水溶液(1M)を電解質として使用した。飽和KCl(+0.197V対NHE)を用いたAg/AgCl参照電極を参照電極として使用し、ガラス状炭素棒を対電極として使用した。電解質は、溶存酸素を除去するために多孔質ガラスフリットを通してすべての測定の前に>99%純粋なN2またはArでパージした。Presens Fibox 3 Trace光学式酸素計とPSt6センサースポットを反応器の内側に配置して、溶存酸素含有量が<10ppbになるように監視した。電気化学的測定値は、IviumCompactStatポテンシオスタットとIviumSoftソフトウェアを使用して記録および分析した。シミュレートされた太陽光は、ASTM標準G138(AM 1.5G)に適合するSciencetech LightLine A4ソーラーシミュレーター(クラスAAA)によって提供された。照明の強度は、較正されたThorlabs S310Cサーマルパワーメータで測定し、さらに較正された、Ocean Optics USB4000分光計で確認した。
【0146】
ハーフセル電極の電気化学的パラメータを分析するために、それらはまた、上記の自作の密閉ガラス反応器において、Au対極に対して独立して測定された。Au電極は、Au箔を導電性銀接着剤で絶縁された銅線と接触させ、その線をガラス管に挿入し、接続部と管出口をエポキシ接着剤で密封することによって製造した。電気化学的スケールでシステムの印加電位を参照するために、飽和KClを含むAg/AgCl参照電極(+0.197対NHE)を介してポテンシオスタットによって制御した。各測定中に、電解液に酸素が残っていないことを確認するために、システムをアルゴンガスでパージした。反応器を暗いチャンバーに入れ、アルミホイルで包んで単純なファラデーケージを作成した。
【0147】
フルセルを測定するために、2電極セットアップが使用された。
【0148】
このシステムの特定の形状により、参照電極は不要であり、両方の電極間の電位のみが測定される。ハーフセル実験に使用されたのと同じガラス反応器が使用された。実験は暗室で行った。フルセル実験は、サンプルの乾燥を防ぐために、アルゴンストリーム内の乾燥状態またはアルゴンでパージされた水中のいずれかで実行された。どちらの場合も、酸素を除去するためにアルゴンをパージした。
【0149】
リン酸緩衝液と4-MBAでの水素発生
光触媒実験は、上部に石英窓を備えたガラス光反応器で実施された。反応器全体を25℃で温度調節した。実験に使用したすべてのガラス器具は、洗浄のために王水に一晩浸した。水素発生の標準的な実験では、AM1.5G条件下で反応器を照射した。光源として、水フィルターとフルスペクトルミラー(2000nm>λ>200nm)を備えたキセノンランプ(Newport、300W)を使用した。酸素のない環境を提供するために、実験の前に、光反応器のヘッドスペースを排気し、アルゴンで数回埋め戻した。照明中、反応器のヘッドスペースを定期的にサンプリングし、アルゴンをキャリアガスとして使用するガスクロマトグラフィー(TCD検出器を備えたThermo Scientific TRACE GC Ultra)によって成分を定量した。
【0150】
IR
ATR-IRスペクトルは、ダイヤモンド結晶を備えたPerkinElmer UATRTWO分光計で収集された。IRによるNCN-PHIナノシートの特性評価では、新鮮なナノシート懸濁液と3週間後のナノシート懸濁液をそれぞれ乾燥させた直後でも、測定されたサンプルの構造に変化は見られなかった。
【0151】
ICP-OES
ICP測定は、超音波処理前の粉末と乾燥したシート分散液で実行され、構造内に存在するカリウムの量を決定した。バルクNCN-PHI粉末には9.55重量%のKが含まれていたが、シートのK含有量は10.22重量%とわずかに高く、ヘプタジン単位あたりのカリウム原子の相対量は0.55(0.60)に相当し(ヘプタジン単位の分子量を約208.7g/mol)、その結果、カリウム含有ヘプタジン単位あたりの全体的な平均分子量は231(2)g/molになる。カリウムイオンの電荷は、ヘプタジン単位とNCN官能基の間の脱プロトン化イミドブリッジによってバランスが取れている可能性が非常に高い。
【0152】
TEMの特徴付け
透過型電子顕微鏡法(TEM)は、Philips CM30 ST(300kV、LaB6カソード)を使用して実行した。サンプルを水に懸濁し、レース状のカーボンフィルム(Plano)にドロップキャストした。TEM画像は、横方向のサイズが30~60nmで、XRDスタッキングピークに対応する約3.0Å面内の細孔間距離に対応する11Åの特徴的な間隔を有する高度に結晶性のフレークを示している。細孔のわずかな収縮が、電子ビームの露光によって誘引されることに注意されたい。
【0153】
光学バンドギャップ
乾燥したNCN-PHIナノシートの光学バンドギャップは、Agilent Cary 5000UV-Vis分光光度計を使用して決定した。吸光度は、V. W. H. Lau等のNature Communications, 2016, 7, 12165およびV. W. Lau等のAngewandte Chemie International Edition, 2017, 56, 510-514で報告されている測定値と同様に決定した。
【0154】
ゼータ電位
ゼータ電位は、Malvern Zetasizer NanoZSで測定した。NCN-PHIサンプルは1.0mg/mlの濃度で懸濁した。測定は、表面電荷、したがって分散したナノシートの流体力学的半径を推定することを企図されていた。照明後の4-MBAの存在下での黄色の基底状態と青色の励起状態を調べた。
【0155】
NCN-PHI電極の重要な特性の分析
したがって、正孔を迅速に取り込むカソード(負極)を模倣するために、犠牲電子供与体によってそれらを化学的に抽出する。水性4-メチルベンジルアルコール(4-MBA)は、非常に効率的で選択的な正孔捕捉剤(hole quencher)として機能する還元剤として使用される。第一のパートでは、NCN-PHI太陽電池のアノード(負極)の開回路電位、電荷蓄積容量、および貯蔵された電荷の安定性、つまり蓄積時間の主要な特性を評価する。次に、我々は、観察された光電気化学性能の根底にある微視的プロセスと制限を分析する。
【0156】
開回路電位と最大電圧
NCN-PHI-光電極を、4-MBAの存在下でO
2-フリーの1MのNaベースリン酸緩衝液(pH7)中のAM1.5G太陽放射で照明すると、光電荷または開回路電位(OCP)は、-800mV対Ag/AgCl(-600mV対 NHE、+2.45V対Li)まで上昇する(
図15aを参照されたい。)。したがって、この帯電した青い状態と、約-200mV対Ag/AgClのOCPを有する接地状態または減衰状態を区別できる。充電状態でのこの光起電力は、電子が占める最高エネルギー準位の平均電位を表し、したがって、この太陽電池アノードのハーフセル電圧を定義する。
【0157】
電荷の貯蔵と抽出の特性
次に、その電荷蓄積特性を決定することにより、光アノードの容量を分析する。NCN-PHI光電極の結果として得られる(太陽)電池の特性を
図13に要約する。太陽電池のアノードから抽出できる最大電荷を推定するために、最適化された電荷抽出電流を見つけるために、1Mのリン酸緩衝液と5mMの 4-MBAで1分間の1回の日光の照明(AM 1.5G)後の放電電流を変化させた(
図13aを参照されたい。)。10~100mA/gの電流密度は、低電流(1mA/g)での遅い自己放電による損失と、高放電電流(1A/g)での導電率の制限による高い固有抵抗損失のバランスを取る。最適値は100mA/gで検出され、以降のすべての測定に使用された。
【0158】
貯蔵された電荷の変化とその安定性を調査するために、照明時間を段階的に増やし、
図13bに示すそれぞれの放電曲線を測定した。照明を増やして充電時間を増やすと、100分の照明後に最大43.7C/g(12.1mAh/g)の電荷蓄積が増加する。12時間以上の長い照明時間は、電極の安定性に影響を与える。NCNで官能化されたヘプタジン単位あたりの平均質量が231(2)g/molであると仮定すると、43.7C/gは、9~10番目のヘプタジン部分毎に1つの電子が貯蔵されることに相当する。平均質量は、1秒おきのヘプタジンでのシアナミド官能基化、および官能化ヘプタジン単位および脱プロトン化NHブリッジあたり0.58カリウムイオンを想定して得られ、結果として全体的に中性分子になる。合成条件によって変化するイミド架橋ポリマーの共役長は、ヘプタジン環に補足され得る負電荷の量、ならびにポリマー骨格全体にわたるその非局在化、つまりその容量プロファイルに影響を与えることに注意されたい。抽出可能な電荷が照明時間とともに非線形に増加するという事実(部分的には、以下でさらに説明するように、基板を介した損失に起因する(
図13cを参照))は、太陽電池を継続的に充電するのに有益である。この状況は、数分以内に容量制限に達し、光素子によって充電される他の太陽電池に匹敵するソーラースーパーキャパシタとは対照的である。
【0159】
図13cに示すように、照明が停止した後、この貯蔵された電荷をどれだけ長く効率的に使用できるかを調べるために、照明の10分後と30分後の放電をそれぞれ10分と30分遅らせた。放電を10分遅らせると、容量がわずかに16%減少するが、30分の場合は37%失われる。この電荷減衰は、部分的に覆われていないFTO基板から電解質へのファラデー電荷移動に関連する。
【0160】
図13dに示すように、NCN-PHIでの電荷蓄積の増加は電極電位と相関し、電極電位は照射時間とともにより負になる。可変電極電位およびそれぞれの電位に貯蔵された電荷の量は、光誘起電子にアクセス可能なエネルギー準位の分布を反映し、したがって、電子状態密度(DOS)の間接的な尺度であり、形式的に差動容量に変換される。したがって、それぞれの電位に達した後に抽出された微分電荷の分析により、それぞれの電位ウィンドウでの微分容量(C=Q/VまたはdQ/dV)を推定することができる。ファラデー損失のため、抽出した差動容量値は過小評価されている可能性が高いことに注意されたい。照明時間を10分~30分に増やすと、8mVの電圧差(-785~-793mV対Ag/AgCl)と7.4C/gの抽出電荷の差が生ずる。このことから、平均中間電位789mVで925F/gの比差動容量を抽出でき、これは、例えば、250mA/gの同様の電流密度でg-C3N4@酸化グラフェンから得られた379.9F/gよりも高くなる。
図13dに示す傾向に従って、光起電力がさらに増加すると、比容量はさらに高くなると予想され、それゆえ、大容量の太陽電池光アノードとしてのNCN-PHIの可能性が再び強調される。しかしながら、より長い照明時間後の微分キャパシタンスの評価は、キャパシタンスの過大評価につながる可能性のある電極の安定性の問題によって妨げられたことに注意されたい。
【0161】
-700mV対Ag/AgClを超えるNCN-PHI放電電位の長い安定性は、この電圧領域での高いDOSによるものである。アブソーバーに内蔵ストレージオプションがなく、分離されたキャパシタ[8, 14]を使用する、一般的なフォトキャパシタで観察される高速の電圧減衰とは反対に、我々の材料のこの高いDOSとキャパシタンスは、太陽電池の安定した動作の可能性のための重要な特性である。わずか1分の照明時間で、NCN-PHIフォトアノードの13.2C/gの容量は、17.5C/gのキャパシタンス有するカーボンナノチューブ(CNT)をベースとするフォトキャパシタに匹敵する。しかしながら、このようなCNTデバイスは、自己放電が速いため、照明後2分以内に放電されなければならず、我々の材料の長期貯蔵容量によって回避されることが欠点である。電子貯蔵の電位は、リン酸緩衝液中の-700mV対Ag/AgClよりもほぼ負であり、KClでは-800mV未満(pH7で-100mVおよび-200mV対RHEに相当)であるため、NCN-PHIの電荷蓄積の長期安定性は注目に値する。NCN-PHIは助触媒がないと水素を発生させられないため、水素発生反応(HER)のこの高い過電圧は、それゆえに水中で動作する太陽電池アノードの電位窓を増加させるための有益な要因であることに注意されたい。
【0162】
電荷蓄積特性に関する興味深い見地とは、NCN-PHIが純粋に電気的にも充電できるかどうか、つまり、暗所で犠牲ドナーが存在しない場合に負のバイアスをかけることによって充電できるかどうかという問題である。そのため、
図14に示すように、NCN-PHI電極を1Mのリン酸緩衝液中で暗所で電気的に循環させ、100mA/gでの電池の充電および放電特性を調査した。我々は、可逆的な充電と放電が実際に可能であることを見出す。-800mV対Ag/AgClの電位に到達するために必要な電荷は、後で抽出できる電荷よりもわずかに高くなり、これは、被覆されていない基板部品から電解質への部分電荷移動に起因する。放電時に抽出された比電荷(45~60C/g)は、ほぼ-800mV対Ag/AgClまでの光充電後の測定値と良好に一致している(
図13dを参照)が、電気的測定は全容量を過小評価している。電極材料の完全な充電は、ドナーの存在下で太陽光によって可能である一方で、純粋な帯電は、NCN-PHI薄膜の遅い反応速度論と低い導電率によって制限され、材料全体にわたる電位降下を招く。したがって、電極を短時間で均一に充電することができず、したがって、材料全体の容量は過小評価される。
【0163】
図14aおよび
図14bは、サイクル数の増加に伴う容量の減少をさらに示しており、これは、サンプルの機械的安定性の欠如に起因する。機械的安定性を充放電安定性から切り離すために、我々は、放電時に抽出された電荷は、機械的安定性(つまり、残った材料)と相関する一方で、 貯蔵された電荷と抽出された電荷の比率(クーロン効率)の変化は、電子の充放電安定性の良好な尺度を提供するものと推測する。
図14bの挿入図に示されているように、このクーロン効率の変化は、サイクル数の増加に伴い、75~80%の一定値に迅速に近づいており、材料を活性化するいくつかの初期充電サイクル後の、NCN-PHIナノシートの継続的に良好な電子的安定性を示している。これは、寿命の制限がおそらく純粋に機械的である、つまり接着によって制限されることを強調している。観察されたクーロン効率は、メロン型窒化炭素(暗色)電池アノードで観察された45%の値をさらに上回っている。
【0164】
FTO/NCN-PHI/電解質界面:微視的洞察
NCN-PHIでの太陽エネルギーと電気エネルギーの貯蔵を可能にし、制限する微視的プロセスをよりよく理解するために、さらに光電気化学実験を行った。まず、さまざまな条件下でアクセス可能なOCPに対処する。NCN-PHI電極が、純水またはリン酸緩衝液中の専用ドナーなしで照明された場合、それぞれ-170mVおよび-570mV対Ag/AgClのOCPが観察され、これは、伝導帯にいくつかの光電子が存在することによって引き起こされる(
図15aを参照)。したがって、これらのOCP値は、1回の日光の照明下での電子の擬フェルミ準位に起因する可能性があり、電荷生成と再結合のバランスによるものである。リン酸緩衝液の場合のOCPが高いのは、光電子の容量安定化が小さいためであり、これについては、以下で詳しく説明する。ドナーの4-MBAを添加すると、OCP値は再び-800mV対Ag/AgClになるため、リン酸緩衝液のみの場合よりも200mVは負になる。今や、正孔はクエンチされ、電子が蓄積する可能性があるため、より負の状態に達する。さらに、ドナーとリン酸緩衝液の両方が存在する場合、充電プロセスは継続し、これにより、OCPが徐々に増加し、照明後の、つまり、つまり、ライトがオフになった後の電位における遅延した低下後の電極電位がより安定する。この現象は、以下でさらに説明するように、電位ウィンドウ内の電子の容量貯蔵が、-600mV対Ag/AgClよりも負であることを示している。
【0165】
照明時に効果的に生成され、NCN-PHIに保存される1秒あたりの電荷量、つまり、電子生成電流を調査するために、ドナーの存在下および非存在下で、NCN-PHI@FTO電極に適用されたさまざまな電位対Ag/AgClでの光電流を測定した。
図15bを参照されたい。負の電流は、FTO基板を介したNCN-PHIまたは電解質への電子注入に対応する一方で、正の電流は、材料から引き出された光電子の尺度である(つまり、所望のプロセス)。照明がない場合、-200mV対Ag/AgClの印加電圧は、暗いOCP条件に対応し、すべての場合で、電流の流れは観察されない。照明下およびドナーの存在下で、+600mVのバイアス(つまり、-200mV対Ag/AgClでの動作電位)を適用すると、伝導帯に存在する電子に対して抽出駆動力が発生し、すぐに正電荷の抽出電流が発生する。これは、4-MBAがない場合よりも1桁高くなる(
図15b)。これは、電極を効率的に充電し、低電圧状態で電荷を安定させるための効率的な正孔抽出の重要性を強調する。
図15bに示すように、印加される負の電圧が増加すると、正孔抽出の駆動力が減少し、印加電圧が-800mV対Ag/AgClになるまで電流も減少する。専用のドナーがなくても小さな正の電流(赤い曲線)は、リン酸緩衝液または水の酸化が速度論的に妨げられる可能性があることを強調しており、これは、これらの反応に必要な電位をはるかに下回る価電子帯と一致している。換言すると、水はNCN-PHIのドナーとしても機能するが、4-MBAよりも効率が低くなる。
【0166】
ドナーがない場合、-600mV対Ag/AgClで負の電流がすでに観測されており、印加電位が照明下のOCPよりも負であるため、材料の伝導帯への電子注入から発生する。同じ電圧領域(<-600mV)では、FTO基板は、電解質との酸化還元反応(水の還元またはリン酸塩の還元[17])により、小さな負の電流を示す。このことから、この電位範囲のNCN-PHI電極の充電電流は、基板を介して電解質に電子が注入される自己放電によって制限されていると推測できる。このプロセスは、ドナーが存在する充電電流と比較して桁違いに小さいが、それにもかかわらず、
図13cに示す直接放電プロセスと遅延放電プロセスとの間の不一致を説明する損失チャネルを示している。したがって、NCN-PHIで基板を完全に覆うことは、照明後に安定したOCPを達成するために重要であり、これはまだ最適化されていない。
【0167】
疑似容量と電荷キャリアの動力学
エネルギー貯蔵プロセスとその動力学に対するイオンの役割をさらに調査するために、暗所で電気化学的に電極を循環させた。
図15cは、さまざまな電位ウィンドウでの1MのKClでのNCN-PHI@FTO電極の電流-電圧(CV)測定値を示している。電解質の電気化学的安定性が向上し(リン酸との反応が不可能)、電極のサイクル安定性が向上したため、リン酸緩衝液の代わりにKClを選択した。青色の曲線(-300mV~-1000mV対Ag/AgCl)は、-600mV対Ag/AgClから始まり、最初はより平坦な勾配で、次に-800mVから増加し続ける勾配で電極に大きな電流が流れることを示している。曲線の形状は、(i)電荷移動が本質的に容量性であり、(ii)NCN-PHI電極による電荷取り込み、したがってNCN-PHIから抽出された電荷が絶対電位ウィンドウに依存することも示唆している。これはさらに、
図13dと一致して、負の電位とともに増加する伝導帯の電位依存DOSに対応する、電子取り込みのさまざまな容量性レジームを証明している。この電荷の蓄積と放出のプロセスの速度論的制限の存在は、
図15cとdの青色のスキャンで最も良好に見える。より負の電位でのNCN-PHIの補充が再開される前に、-600mV未満対Ag/AgClの伝導帯に貯蔵されたすべての電荷を解放するには、スキャン全体を-300mVに戻し、-600mVに転送する必要がある(
図15cおよび
図15d)。この動作は放電速度に制限を課し、
図13aおよび
図14の定電流充放電実験で以前に観察されたように、高速放電ではCB内のすべての電子を抽出できないことを示している。この影響の考えられる原因は、TiO
2と同様に、CBが徐々に充填された場合の電子伝導率の増加であり、これは、電荷移動特性のセクションで説明されているか、あるいはアルカリ金属イオンの拡散および吸着、すなわち拡散制限物質移動プロセス、またはその両方によって、電荷輸送が強化され、材料上の負電荷を安定化する、速度論的に制限された疑似容量である。実際、-700~-900mV対Ag/AgCl間の領域でのスキャン速度依存の測定では、平方根依存性に従うはずの二重層静電容量ではなく、疑似容量動作に従う正のピーク電流が直線的に増加することが示されている。これは、アルカリ金属イオンの吸着による負電荷(つまり、「トラップされた電子」)の安定化の間接的な証拠である。負電荷のこのスクリーニングは、リン酸緩衝液対純水(
図15a)、ピンク色対赤色の曲線の場合における、ドナーなしで観察された増加したOCPの理由でもある。溶液中にアルカリ金属イオンが存在しない対照CV実験は、1Mの塩化テトラブチルアンモニウム(TBA-Cl)を使用して実行され、正の電流は示されず、TBAカチオンがこの材料の電荷蓄積をサポートできないことを示している。これは、NCN-PHI(3.8(4)Å)の構造細孔に浸透し、それゆえに疑似容量によって電子貯蔵を安定させるために、適切なカチオンサイズ(またはより具体的には、その流体力学的または同等のストークス半径)の重要性を明確に強調している。溶媒和されたTBAイオン(4.95Å)は大きすぎて細孔に浸透できないようであるが、Na
+(1.84Å)とK
+(1.25Å)は両方とも細孔内に収まるため、疑似容量電荷の安定化が可能となる。
【0168】
電荷移動特性
対イオンの役割およびNCN-PHI電極内の電荷キャリアの移動度に対する照明の影響をさらに調査するために、我々は、再び、より顕著な容量性応答に起因した、基底状態の電圧領域(-24mV対Ag/AgCl)および充電または「活性化」領域(-850mV対Ag/AgCl)、KCl、において、インピーダンス測定を行った。
図16aおよび
図16bを参照されたい。データは、一般化された等価回路から推定できる等価回路図によって適合される。挿入
図16aを参照されたい。これは、接点と電解質の直列抵抗損失を考慮し、電荷移動抵抗と並列の二重層静電容量Q
DLを説明する定位相要素を含み、さらには、抵抗要素RCと並列の疑似容量Q
Pを説明する定位相要素は、材料の導電率を含む。照明下での測定(青色の曲線)は、暗所で測定されたもの(黒色の曲線)と比較して、大幅に低い電荷移動抵抗(つまり、より良い導電率)を示している。より高い周波数での追加の半円の出現は、それぞれの容量性および伝導性パラメータの変化によるものである。静電容量への主な寄与は、二重層静電容量(5.9F/g、暗色の測定値)から疑似静電容量(青色の曲線、照明された)にシフトし、191F/gまで高くなる。事前のCV測定値に対する値の増加は、上記および次のグラフで説明したように、より均一な充電によるものであり、
図13dの照明下での測定値から抽出された差動静電容量値に近づいている。
【0169】
青色の状態で観察される導電率の明らかな増加は、水性環境での(軽い)帯電状態での電子伝導性またはイオン伝導性の増加に起因する可能性がある。両方の効果を区別するために、純粋に光に依存する導電率は、NCN-PHIを2つのFTO電極の間に挟み、空気中で定電流的にDC導電率を測定することによって決定した。FTOは電子に対してのみ導電性であり、イオンをブロックするため、測定された平衡電位はNCN-PHIのみの電子伝導性に対応する。測定結果を
図16bに示す。0nAで30秒間の平衡化期間の後、100nAの電流がサンドイッチに120秒間強制的に流した。その後、電流は0nAに戻された。プロセス全体を通して、サンプルの電圧降下が記録された。完全な暗闇での測定と、120秒間の電流の間にサンプルが照明された測定(約7日)を比較すると、NCN-PHIの45分の1の抵抗低下が観察される(照明下の600kΩと比較して、暗所では27MΩ)。これは、伝導帯の光誘起電子が、正孔消光剤が存在しなくても、材料の伝導性を大幅に向上させることを示している。さらに、抵抗損失の減少による、NCN-PHI光電極を純粋に電子的にではなく光で帯電させた場合に、より効率的に使用できる理由が合理化される。メロン型窒化炭素の局所的に増加した光伝導性は、インピーダンス測定と光電流によって数回観察されているが、これは、我々の知る限り、照明下での窒化炭素の長距離DC伝導率の向上に関する最初の直接的な証拠である。
【0170】
正孔の導体&正孔貯蔵材料を目的として
このセクションでは、正孔輸送および正孔貯蔵材料のエンジニアリングに焦点を当てる。さまざまな材料が最初に薄膜調製用に最適化され、続いて化学的性質の調査を行った。最後に、NCN-PHIでコーティングされたFTO電極への堆積により、ハーフセル多層系またはフルセルサンドイッチ構成が最適化され、(光)電気化学的に分析された。
【0171】
PEDOT:PSS
すでに上で述べたように、PEDOT:PSSはHTMまたはHSMのいずれかとして適切な導電性ポリマーである。次のセクションでは、この資料の実装について説明する。
【0172】
薄膜の調製
2つの異なる表面上での薄膜の調製を調査した:1)PEDOT:PSSがHTMまたはHSM(フルセル)として機能する電気化学的特性(ハーフセル)およびサンドイッチ構成を評価するための純粋なFTO;2)分離されたフルセル測定用のNCN-PHI。
【0173】
純粋なFTOへの堆積
その粗さが堆積を容易にし、FTOに堆積されたNCN-PHIサンプルとの比較が容易であり、厚さがサンドイッチを容易にするため、FTO(7×5mm)が基板として選択された。ドロップキャスティングとスピンコーティングのルーチンの詳細は上記のとおりである。ドロップキャスティングでは、2つの異なるパラメータが変更された:堆積量と乾燥温度。液体の量を一定に保ちながら、懸濁液の濃度を上げることにより、堆積物の量を制御した。すべてのサンプルを均一に濡らす必要があり、これは10μLで達成された。60℃および140℃の2つの乾燥温度が選択された。コーティング後、すべてのドロップキャスト基板に接触させた。エポキシとの魅力的な相互作用により、PEDOT:PSSが境界に蓄積し、不均一な膜を引き起こすことが判明した。スピンコーティングにより、回転速度と持続時間を制御できる。10μLの固定懸濁液量を各シートに適用し、続いて、1,200rpms-1の加速で60秒間3,000rpmで回転させた。上記のドロップキャスティングについて説明したのと同様の理由により、懸濁液の濃度を変えることによって堆積量を制御した。スピンコーティングははるかに滑らかな表面をもたらされるが、特に高濃度のサンプルでは境界効果が見られる。ドロップキャスティングでは、均質な表面を生成するために特定の堆積量が必要である。0.5~0.7重量%の溶液を堆積すると、おそらくメニスカスの収縮が非常に速く、均質な膜の形成が妨げられるため、ほとんどの材料が中央に蓄積する。フィルムトポグラフィーを分析するために、AFM測定をPEDOT:PSSコーティングされたFTO基板で実行した。10μLの3~4重量%の懸濁液を使用したスピンコーティングサンプルの粗さは、10μLの1~1.3重量%の濃縮懸濁液(それぞれ約4nmおよび1nm)を使用したドロップキャストサンプルの粗さよりも大きい。この観察は、膜厚によって説明可能である:基板のFTOは非常に粗いため、非常に薄いフィルムで完全にコーティングすることはできないが、ヒル間の隙間を埋めるだけである。スピンコーティング中に多くの材料が失われる:3~4重量%の溶液を使用したときに沈着した物質の量は、23.4μgもの高さの水晶振動子微量天秤で測定された。ドロップキャスティングと比較して、0.5~0.7重量%の濃縮溶液を使用すると、38.4μgと計算された。この問題を回避するためのさらなる調査の可能性は、複数のスピンコーティングサイクルを使用することである。今後、スピンコーティングは可能な限り高い濃度(3~4重量%)の溶液で実行され、ドロップキャスティングは最小の濃度で実行され、FTOに直接堆積するための均質な膜(1~1.3重量%)が得られた。
【0174】
NCN-PHI電極への堆積
次に、NCN-PHI薄膜へのPEDOT:PSSの堆積手順を簡単に調査しました。NCN-PHI薄膜の表面ははるかに不均一であるため、ドロップキャスティングだけが使用可能である。
【0175】
初期のサンプルでは、事前に接触させたNCN-PHI薄膜でドロップキャスティングを実行した。しかしながら、すでに上で説明したように、PEDOT:PSSはエポキシの境界に蓄積する。これは非常に不均一な表面を引き起こす。まだ接触していないFTO基板を使用する場合、PEDOT:PSSコーティングされたFTO電極をHTM/HSMとして使用したフルセル実験との比較を可能にするために、10μgの1~1.3重量%の濃縮懸濁液を使用してドロップキャスティングを実行した。
【0176】
電気化学分析:ハーフセル実験
PEDOT:PSSが適切なHTMおよびHSMであるかどうかを評価するために、その電気化学的特性を調査した。酸化還元挙動は、PEDOT:PSSでコーティングされたFTOハーフセルでサイクリックボルタンメトリーを使用して分析された。これは、10μLの1~1.3重量%の濃縮懸濁液のドロップキャスティングによって生成された。材料の酸化還元ピーク位置を調査するために、-200~+1000mVの比較的大きな電位ウィンドウが選択された。+410.0mV対Ag/AgClにある還元ピークと+675.0mVにある酸化ピークが表示され、+542.5mV対Ag/AgCl(+739.5V対SHE)の酸化還元電位を計算できる。同様の範囲の酸化還元電位が文献で報告されている。PEDOTとPSSの比率は電位に大きく影響するため、1つの特性値を選択することはできない。この酸化還元電位を真空エネルギーレベルに対して変換すると、5.2eVの値が得られ、これは、定義上、フェルミレベルであり、PEDOT:PSSの価電子帯(5.2eV)に非常に近い値である。これは、PEDOT:PSSが実際にpドープされている、つまり酸化されていることを示している。非常に導電性のPEDOT:PSSが得られたため、これは予想できる。導電率のpドーピングの量に対する依存性は、PEDOT:PSSが一般にNCN-PHIの正孔輸送および貯蔵材料である理由を説明している。電子吸収は導電率を低下させる。NCN-PHIの電子注入が、導電率を低下させることになるため、長期的な影響でポリマーに悪影響を与える可能性があるかどうかは依然として調査されていない。正をスキャンする場合、1,000mVの電位で大きな電流の増加が観察された。これは水の酸化に起因する。KCl電解質中のAg/AgCl対電極に対してFTOサンプルのみを測定する盲検実験中に、電流の増加が約1.1V対Ag/AgClで測定されたため、この仮定は合理的である。しかしながら、増加はPEDOT:PSSの場合よりもはるかに小さく、PEDOT:PSSがより優れた水の酸化触媒であることを示唆している。
【0177】
さらなる観察は、酸化と還元の両方のピーク電流の劣化であり、このような大きな電位ウィンドウで循環すると膜が安定しないことを示している。この観察は文献によって確認された:M. Marzocchira等は、PEDOT:PSS膜は、SCEに対して-200~+600mV(-155~645mV対Ag/AgClに対して)を循環する場合にのみ非常に安定していると報告している。PEDOT:PSSが電解液に溶解している場合、FTOが明らかになった。FTOはPEDOT:PSSよりも効率的に水を酸化しないため、ピーク電流の減少を説明できる。
【0178】
還元状態および酸化状態でのPEDOT:PSSのインピーダンス分析を実行した。ポリマーをそれぞれの状態に移行させるために、各測定の前に前処理として対応する電位を30秒間印加した。還元には-0.4V、酸化には+0.7Vの電位を選択した。-0.4および+0.7Vでそれぞれ19.2オームおよび11.7オームの材料抵抗が測定された。層の厚さを1μmと仮定すると、導電率はそれぞれ52および85Scm-1と計算でき、これは、還元状態でのより高い抵抗の仮定と一致する。しかしながら、抵抗がまだ非常に小さいため、前処理中にPEDOT:PSSが完全に減少することはなかったことも示している。したがって、サイクリックボルタンメトリー実験では、部分的な還元しか起こらなかったことが予想される。
【0179】
次に、充電電位に応じて電荷を保存するPEDOT:PSSの能力を評価した。ポジティブスイープ中、材料は酸化または正孔で帯電し、より導電性になる。特定のカチオン濃度では、相互のクーロン反発により、充電が飽和する。この作業で使用される注文されたPEDOT:PSS材料は、前述のように高度にpドープされている。PEDOT:PSSの還元ピークとNCN-PHIの還元の間の領域でのPEDOT:PSSの充電能力を評価するために、0~+500mVおよび0~-500mVの2つの別々のCV測定を実行した。10μLの1~1.3重量%のPEDOT:PSS懸濁液をFTOにドロップキャストし、Ag/AgCl参照電極に対してハーフセルの3つの電極セットアップでCVを測定した。低電位ウィンドウでのはるかに長方形の形状は、主に容量性電荷蓄積メカニズムを示唆している。より高い電位では、+500mVでの電流の増加が見られ、これは、非容量性のファラデー電荷移動または蓄積メカニズムを示唆している。この実験で到達した最大電位+500mVは、材料の還元電位である410mVよりも高いため、この観察結果は驚くべきことではない。したがって、この電位でのPEDOT:PSSの低減が可能であるべきである。
【0180】
-500~0mVの低電位ウィンドウの場合、90.7%のクーロン効率が計算されたが、0~+500mVの高電位ウィンドウの場合、それははるかに小さく、45.1%にすぎない。この観察は、PEDOT:PSSの減少により多くの電子が失われるという仮定を裏付けている。
【0181】
このセクションの上部ですでに報告されているように、乾燥温度は電気化学的性能に大きな影響を与える可能性がある。
60℃と140℃の2つの温度を選択し、両方のサンプルに対してCV測定を実行した。乾燥温度が高いほど、より大きなレドックスピークが見られる。これにより、PEDOT:PSSのパフォーマンスが向上する。
【0182】
フルセル実験
サンドイッチアプローチを使用して、フルセル構成でHTMおよびHSMとして機能するPEDOT:PSSの機能を調査した。接触圧力を制御することにより、ピンホールを介した基板と上部フィルムの接続を防ぐことができる。PEDOT:PSSは、1~1.3重量%の懸濁液からFTOにスピンコーティングされた。より均一な表面が得られ、サンドイッチアプローチは不均一なフィルムの高さに非常に適しているため、低濃度の懸濁液を使用したスピンコーティングが選択された。サンプルは、NCN-PHIでコーティングされたFTO基板(35μg)で挟まれ、ドロップキャスティングによって堆積された。両方のハーフセルを一緒にプレスした。電気化学的特性を評価するために、-500~+500mVの電位ウィンドウでCV測定を実行した。このウィンドウは、NCN-PHIの充電と酸化、およびPEDOT:PSSの還元の両方を可能にし、それでもフィルムの安定性を確保する必要がある。測定は、サンプルがそれ自体を充電または放電するのに十分な時間を与えるために、わずか10mVs-1のはるかに小さい走査速度で実行された。このようなフルセル2電極セットアップの電位は、上記で報告されたハーフセル実験のようにAg/AgClに対して参照されるのではなく、
他のハーフセルに対して参照される。0mVの電位は0mVの等しい総セル電圧に対応し、ゼロを超える電位は、PEDOT:PSSのフェルミレベルがNCN-PHIのフェルミレベルを超えて上昇することを意味し、その逆も同様である。アノードとカソードの電位スイープを比較すると、異なる形状が表示される。+500~-500mVまでスキャンすると、ほぼ線形の電流減少が見られるが、反対方向では、より低い電位にレドックスピークが存在する。これは、電子と正孔のPEDOT:PSSと比較したNCN-PHIの異なる充電効率で説明できる:
-500mVに達すると、負の電流はNCN-PHIが電子で充電され、PEDOT:PSSが正孔で充電されていることを示す。反対方向の電位掃引中の正の電流は、NCN-PHIの放電と電子によるPEDOT:PSSの充電に関連しており、同時にNCNPHIを放電または酸化する。-500mVでのアノード掃引の初期勾配が+500mVでのカソード掃引の初期勾配よりも大きいという事実は、PEDOT:PSSよりもNCN-PHIでのより効率的な電子蓄積を示唆しています。NCN-PHIが電子貯蔵として機能し、PEDOT:PSSが正孔貯蔵材料として機能することを示しているため、この動作が望まれる。しかしながら、負電流(NCN-PHI充電)と正電流(NCN-PHI放電)の曲線領域を比較すると、正電流の領域が大きくなる。67%という小さなクーロン効率がこの観察を裏付けている。これは、寄生反応が発生する必要があることを意味し、おそらく、PEDOT:PSSがさらに酸化されるか、材料がまだ平衡状態になっていないことを意味する。
【0183】
結論として、この実験は、フルセルNCN-PHI PEDOT:PSSタンデムが電荷を貯蔵および放出できることを示している。このセルには正孔輸送材料は必要ありませんが、電荷蓄積の安定性が向上する可能性があることに注意されたい。充電および放電電流につながる電位は、非常に短い時間枠でのみ適用されました(それぞれ50秒の負および正の電位掃引、それぞれ79秒および121秒のNCN-PHI充電および放電電流時間を引き起こす)、自己-放電は、それゆえ、この実験には関係がない可能性がある。
【0184】
NCN-PHIの光化学的充電-PEDOT:PSS太陽電池
次のセクションでは、NCN-PHI PEDOT:PSSフルセルタンデムの光化学的特性を分析する。NCN-PHI PEDOT:PSSフルセルのサンドイッチバージョンは、10μgのNCN-PHIを第1のFTOシートにドロップキャストし、約37μgのPEDOT:PSSを第2のFTO基板にスピンコーティングすることによって合成された。次に、両方の基板を一緒にサンドイッチした。続いて、開回路電位(OCP)を、暗条件および1回の太陽の照明下で分析した。OCPは、セルに電流が流れていないときに到達する電位を表す。クロノポテンシオスタットOCP測定が実行され、ポテンシオスタットは測定全体を通して0mAの電流に保持される。サンプルは、明暗の2分間のサイクルで1回の日光で照明される。
【0185】
照明開始直後に750mVの大きなOCPが観測される。これは、前述の伝導帯での電子の蓄積と、カソード側での正孔の蓄積によって説明できる。バンド位置から計算された可能な最大セル電圧は1,300mVであることに注意された(
図19を参照)。測定値はこの理論値の58%に達する。損失は、NCN-PHIとPEDOT:PSSの間、およびFTOへの両方の接合部での正孔輸送のサンプルの電荷移動抵抗で説明され得る。さらに、照明をオフにした場合、光電位はすぐには低下しないが、0mVの電位に達するには約20分要する。この現象は、NCN-PHIでの電子蓄積とPEDOT:PSSでの正孔蓄積によって説明でき、これは望ましい結果である。
【0186】
NCN-PHI PEDOT:PSS太陽電池の充電
以下では、NCN-PHI PEDOT:PSSフルセルシステムを充電に関して調査した。クロノポテンシオメトリー測定を実施し、28mAg-1に対応する100nAの充電サイクルを20分間実施した。続いて、ポテンシオスタットを0nAの電流に設定して、システムの電荷蓄積能力を評価した。充電サイクルの終わりに、約1,700mVの最大電位に達し、これは、伝導帯のみが電子で満たされていると仮定した場合に、バンド位置から計算された理論上の可能電位である1,300mVよりも大きくなっている。充電電流をオンにすると、約1,000mVまでの急速に増加、および、その後のゆっくりとした1,700mVまでの増加が観察される。電流をオンにした後、1,000mVの急激な減少と、それに続く0mVへのゆっくりとした減少が観察される。
【0187】
この動作は、2つの異なる容量メカニズムを考慮に入れると説明できる:容量が非常に小さい非常に高速な静電容量プロセスと、容量が大きい低速のプロセス。高速プロセスは、FTO基板へのインターフェイスに貯蔵された電荷に関連している可能性があり、双極子を作成し、平行平板キャパシタと同様に機能する。このシステムでは、NCN-PHIとPEDOT:PSSが誘電体として機能し、これは、NCN-PHIの導電率が低いため合理的である。低速プロセスは、NCN-PHIおよびPEDOT:PSS自体の電荷蓄積に関連している可能性がある。700mVの電位上昇は、材料の帯電に起因する可能性があり、
これは、観測された750mVの光電位と良好に比較される。
【0188】
結論として、NCN-PHI-PEDOT:PSSサンプルは、光吸収だけでなく、純粋な帯電によっても電位を生成することができる。さらに、システムはこれらの電荷をOCP条件で50分以上貯蔵できる。
【0189】
メロン
メロンは、ヘプタジン単位をベースにした窒化炭素である。価電子帯と伝導帯の両方のバンドは、NCN-PHIよりもエネルギーがわずかに高い位置にある。フルセルシステムは次のように作成された:メロン膜は、10μLのメロン懸濁液をFTOシートにドロップキャストして調製し、60℃で乾燥させた。このプロセスを1回繰り返して、基板を完全にコーティングした。35μgのNCN-PHIを2番目のFTOシートにドロップキャストし、60℃で乾燥させた。両方のサンプルを一緒にサンドイッチした(
図22~
図24を参照)。このシステムの電気化学的特性を理解し、メロンの正孔貯蔵効率をPEDOT:PSSと比較するために、CV測定を実行した。測定は、システムが充電するのに十分な時間を与えるために、10mVs
-1の遅い走査速度で実行された。上記のNCN-PHIPEDOT:PSSフルセルシステムにも同じ走査速度が選択された。CV曲線の形状を見ると、+600~-600mVのカソード電位掃引のほぼ線形の動作が観察される。しかしながら、反対のアノード方向の掃引はより容量性がある。これにより、さまざまな貯蔵メカニズムに関するヒントが得られる場合がある:負電流の領域を見ると、NCN-PHIに電子が、メロンに正孔が充電されている。その後の放電は、約0mVまでの急速な電流増加と、それに続く曲線のレベリングにより、疑似容量動作と非常に大まかな類似性がある。これは、電子がメロンよりもNCN-PHIにより良好に貯蔵されることを示しているため、望ましい結果である。この結果は、NCN-PHI-PEDOT:PSSフルセルで行われた観察と同様であり、電子はPEDOT:PSSよりもNCN-PHIでより効率的に貯蔵される。充電曲線と放電曲線の下の領域は類似しており、不要な副反応によって電荷が失われることはない。84%の高いクーロン効率は、この観察結果を強調している。結論として、+500~-500mVの分析された電位ウィンドウでの電荷蓄積は、望ましい方法で可能である、つまり、電子はNCN-PHIに蓄積され、正孔はメロンに貯蔵される。この実験は、純粋な窒化炭素に基づく完全な太陽電池が実際に可能であることを示している。メロンは正孔を定性的に貯蔵することができる。
【0190】
NCN-PHIの光化学的充電-メロン太陽電池
NCN-PHIメロンフルセルシステムの光化学充電を評価するために、明所と暗所での開回路電位を測定した(
図23を参照)。サンプルを暗条件に置き、2分間の事前定義された照明サイクルを、ある強度の1回の日光で実行し、その後、暗所で長時間実行した。メロンサンプルでは、-850mVの光電位に達する。結論として、NCN-PHI-メロンフルセルシステムは、照明時に光電位を生成することができる。
【0191】
完全な太陽電池に関して:HTMとしてのPCBM
電荷貯蔵の安定性を高めるには、電子貯蔵材料と正孔貯蔵材料との間にHTMを堆積させて、その後の再結合を防ぐために光充電中の電荷をより効率的に分離するべきである。HTMとHSMの両方を使用して完全な太陽電池を作成する試みが行われた。電子および正孔それぞれの貯蔵用のNCN-PHIメロンフルセルが選択された。両方の価電子帯間のエネルギー差が小さいため、PEDOT:PSSは正孔輸送材料として使用できなかった。したがって、伝導帯が両方のバンドの間に正確にある別の材料が選択された:[6,6]-フェニル-C61-酪酸メチルエステル(PCBM)(
図24を参照)。以下に、ドロップキャスティングによって適用され、60℃で乾燥された35μgのNCN-PHIでコーティングされたFTOシートを使用した完全な太陽電池を示す。10μgのPCBMの次の層は、ドロップキャスティングによって適用され、この2層系はメロンでコーティングされた第2のFTOシートで挟まれる。このサンプルのCV測定は、様々な走査速度を使用して実行された(
図24を参照)。CV曲線の菱形は、抵抗性静電容量メカニズムを示している。したがって、材料の疑似容量の寄与が観察され、結論として、光化学的帯電が可能である。PCBMの正孔輸送の寄与を考慮に入れると、この動作の説明ができる。さらに、50分を超える期間中の電荷蓄積の安定性が観察される。この貯蔵時間は、NCN-PHI-メロンセルの20分と比較してはるかに優れていることに注意されたい。これは、PCBMによる電荷分離の強化を示している。結論として、電子貯蔵としてNCN-PHIを、正孔貯蔵材料としてメロンをベースにした窒化炭素のみのフル太陽電池は、光電位を生成し、これらの電荷を蓄積することができる。したがって、純粋にヘプタジンベースの電荷貯蔵材料からなる、自動光蓄電式のフル太陽電池の製造が可能である。