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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】核沸騰装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/427 20060101AFI20230822BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
H01L23/46 A
H05K7/20 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022088837
(22)【出願日】2022-05-31
(65)【公開番号】P2023035821
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】63/260,826
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/505,109
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508018934
【氏名又は名称】廣達電腦股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Quanta Computer Inc.
【住所又は居所原語表記】No.188,Wenhua 2nd Rd.,Guishan Dist.,Taoyuan City 333,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】陳 朝榮
(72)【発明者】
【氏名】黄 玉年
(72)【発明者】
【氏名】林 永慶
(72)【発明者】
【氏名】荘 天睿
【審査官】高橋 優斗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0315343(US,A1)
【文献】国際公開第2019/058469(WO,A1)
【文献】特開2018-044747(JP,A)
【文献】米国特許第04709754(US,A)
【文献】米国特許第08643173(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0370840(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/34-23/473
H05K7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核沸騰装置であって、
液冷コンピュータ環境において浸漬冷却を発熱オブジェクトに提供するために前記発熱オブジェクトに取り付けられたベースであって、前記ベースは、上面と、下面と、複数の側面と、によって画定されており、前記複数の側面は、第一側面と、第二側面と、を有する、ベースと、
前記第一側面から延在する第一の複数のパイプであって、前記第一の複数のパイプは、第一遷移領域と、第一平坦領域と、を有しており、前記第一遷移領域において、前記ベースに対して第一傾斜方向に沿って延在して前記ベースから離れ、前記第一平坦領域において、扇状に外向けに広がる配列で前記ベースから離れる、第一の複数のパイプと、
前記第二側面から延在する第二の複数のパイプであって、前記第二の複数のパイプは、第二遷移領域と、第二平坦領域と、を有しており、前記第二遷移領域において、前記ベースに対して第二傾斜方向に沿って延在して前記ベースから離れ、前記第二平坦領域において、扇状に外向けに広がる配列で前記ベースから離れる、第二の複数のパイプと、を有し、
前記第二平坦領域と前記ベースの前記上面との距離は、前記第一平坦領域と前記ベースの前記上面との距離よりも大きいことを特徴とする核沸騰装置。
【請求項2】
前記第一の複数のパイプは、前記ベースを介して前記第二の複数のパイプに接続されており、前記第一の複数のパイプの各パイプは、前記第二の複数のパイプの対応するパイプと接続して、単一のパイプを構成することを特徴とする請求項1に記載の核沸騰装置。
【請求項3】
前記第一傾斜方向及び前記第二傾斜方向は、傾斜角度が異なることを特徴とする請求項1に記載の核沸騰装置。
【請求項4】
前記第一平坦領域における前記第一の複数のパイプの各パイプの断面積は、前記第一遷移領域における断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の核沸騰装置。
【請求項5】
前記第一平坦領域における前記第一の複数のパイプの各パイプの断面積は、前記ベースから離れるほど大きくなることを特徴とする請求項4に記載の核沸騰装置。
【請求項6】
前記第二平坦領域における前記第二の複数のパイプの各パイプの断面積は、前記第二遷移領域における断面積よりも大きいことを特徴とする請求項4に記載の核沸騰装置。
【請求項7】
前記第二平坦領域における前記第二の複数のパイプの各パイプの断面積は、前記ベースから離れるほど大きくなることを特徴とする請求項6に記載の核沸騰装置。
【請求項8】
前記第一平坦領域において、前記第一の複数のパイプのうち外側のパイプの間隔は、前記第一の複数のパイプのうち内側のパイプの間隔よりも広いことを特徴とする請求項1に記載の核沸騰装置。
【請求項9】
前記第二平坦領域において、前記第二の複数のパイプのうち外側のパイプの間隔は、前記第二の複数のパイプのうち内側のパイプの間隔よりも広いことを特徴とする請求項8に記載の核沸騰装置。
【請求項10】
コンピュータシステムであって、
プロセッサと、
核沸騰装置と、を有し、
前記核沸騰装置は、
上面と、下面と、複数の側面と、によって画定されたベースであって、前記複数の側面は、第一側面と、第二側面と、を有しており、前記下面は、前記プロセッサと接触又は近接する、ベースと、
前記第一側面から延在する第一の複数のパイプであって、前記第一の複数のパイプは、第一遷移領域と、第一平坦領域と、を有しており、前記第一遷移領域において、前記ベースに対して第一傾斜方向に沿って延在して前記ベースから離れ、前記第一平坦領域において、前記第一側面に対して垂直な第一扇形に広がる配列で延在する、第一の複数のパイプと、
前記第二側面から延在する第二の複数のパイプであって、前記第二の複数のパイプは、第二遷移領域と、第二平坦領域と、を有しており、前記第二遷移領域において、前記ベースに対して第二傾斜方向に沿って延在して前記ベースから離れ、前記第二平坦領域において、前記第二側面に対して垂直な第二扇形に広がる配列で延在する、第二の複数のパイプと、を有し、
前記第二平坦領域と前記ベースの前記上面との距離は、前記第一平坦領域と前記ベースの前記上面との距離よりも大きいことを特徴とするコンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核沸騰(nucleate boiling)を促進して、コンピュータシステム内で熱を生成する素子を冷却する装置に関し、特に、二個の単独の核沸騰点層(nucleate boiling sites)を提供する核沸騰装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二相沸騰熱伝達は、コンピュータシステム内の密集した電力素子に対する最新の熱ソリューションである。相変化の潜熱は、容易に大量の熱を消散させると同時に、内部素子の温度を飽和温度に維持する。図1は、核沸騰板100が、コンピュータシステム(図示省略)内の熱を生成する素子(図示省略)と接触する状況を示す図である。この驚異的な熱散逸パフォーマンスにより、沸騰熱伝達は、未来の熱ソリューションの考え方を根本的から変えると考えられている。しかし、不均一な分布で大量の放熱を行うと、局所的なホットスポットが発生し、下流域で気泡が合体して泡層になり、これが、沸騰熱伝達を低下させるとともに、最悪の場合、素子を焼いてしまう可能性がある。図1には、核沸騰板100に関連して泡層101が示されている。
【0003】
この問題を防止するために、図2を参照すると、一般的に、強化された核沸騰板200を用いて、気泡を、表面上でさらに均一に発生させる。このような強化された核沸騰板200は、通常、高熱伝導性材料(例えば、銅)で形成されるとともに、表面処理(例えば、核沸騰を強化するために小粒子又はパンチ窪み202をコーティングする等)を有する。図2に示すように、図1の核沸騰板100と比較して、強化された核沸騰板200は、その表面積のほぼ全域で、さらに均一に、蒸気泡を形成するのに成功する。それでもなお、中央部の大きく歪んだ蒸気泡201を完全に防止することができず、強化された核沸騰板200の全体の放熱に影響する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題及び他のニーズを解決する核沸騰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の用語及び同様の用語は、本開示及び以下の請求項の発明の全てに広く言及することを意図している。これらの用語を含む複数の提示は、ここで記述される発明を限定するものではなく、以下の請求項の意義や範囲を限定しないことを理解されたい。ここでカバーされる本発明の実施形態は、この概要ではなく、以下の請求項により定義される。この概要は、本開示の各種態様の高レベルの概説であり、且つ、以下の詳細な説明の段落でさらに記述されるいくつかの概念を導入する。この概要は、請求される発明の重要な必須の特徴を特定することを意図していない。この概要は、請求される発明の範囲を決定するために単独で用いられることを意図していない。発明は、本開示の明細書全体、任意の又は全ての図面、及び、各請求項の適切な部分を参照することによって理解されるべきである。
【0006】
本発明の一態様によると、核沸騰装置は、ベースを有し、ベースは、発熱オブジェクト上に取り付けられて、液冷コンピュータ環境においてオブジェクトに浸漬冷却(immersion cooling)を提供するように構成されている。ベースは、上面と、下面と、複数の側面と、により画定されている。複数の側面は、第一側面と、第二側面と、を有する。さらに、核沸騰装置は、第一側面から延在する第一の複数のパイプを有する。第一の複数のパイプは、第一遷移領域と、第一平坦領域と、を有する。第一遷移領域において、第一の複数のパイプは、ベースに対して第一傾斜方向に沿って延在して、ベースから離れる。第一平坦領域において、第一の複数のパイプは、扇状に外に広がる配列で延在して、ベースから離れる。さらに、核沸騰装置は、第二側面から延在する第二の複数のパイプを有する。第二の複数のパイプは、第二遷移領域と、第二平坦領域と、を有する。第二遷移領域において、第二の複数のパイプは、ベースに対して第二傾斜方向に沿って延在して、ベースから離れる。第二平坦領域において、第二の複数のパイプは、扇状に外に広がる配列で延在して、ベースから離れる。第二平坦領域とベースの上面の距離は、第一平坦領域とベースの上面の距離よりも大きい。
【0007】
上記態様の一実施形態によると、第一平坦領域において、第一の複数のパイプの表面は、核沸騰を高める一つ以上の特徴を有する。上記態様の別の実施形態によると、第二平坦領域において、第二の複数のパイプの表面は、核沸騰を高める一つ以上の特徴を有する。上記態様の別の実施形態によると、第一の複数のパイプは、ベースを介して第二の複数のパイプに接続されており、第一の複数のパイプの各パイプが、第二の複数のパイプの対応するパイプと接続して、単一のパイプを構成する。上記態様の別の実施形態によると、第一の複数のパイプは、単一層内に配置されている。上記態様の別の実施形態によると、第二の複数のパイプは、単一層内に配置されている。上記態様の別の実施形態によると、第一の複数のパイプは、8本のパイプを有する。上記態様の別の実施形態によると、第二の複数のパイプは、8本のパイプを有する。上記態様の別の実施形態によると、第一遷移領域において、第一の複数のパイプは、ベースに対して第一角度で傾斜しており、第二遷移領域において、第二の複数のパイプは、ベースに対して第二角度で傾斜しており、第二角度は第一角度と異なる。上記態様の別の実施形態によると、第一平坦領域における第一の複数のパイプの各パイプの断面積は、第一遷移領域における断面積よりも大きい。上記態様の別の実施形態によると、第一平坦領域における第一の複数のパイプの各パイプの断面積は、ベースから離れるほど大きくなる。上記態様の別の実施形態によると、第二平坦領域における第二の複数のパイプの各パイプの断面積は、第二遷移領域における断面積よりも大きい。上記態様の別の実施形態によると、第二平坦領域における第二の複数のパイプの各パイプの断面積は、ベースから離れるほど大きくなる。上記態様の別の実施形態によると、第一遷移領域において、第一の複数のパイプの全パイプは、互いに平行である。上記態様の別の実施形態によると、第二遷移領域において、第二の複数のパイプの全パイプは、互いに平行である。上記態様の別の実施形態によると、第一平坦領域において、第一の複数のパイプのうち外側のパイプの間隔は、第一の複数のパイプのうち内側のパイプの間隔よりもさらに広い。上記態様の別の実施形態によると、第二平坦領域において、第二の複数のパイプのうち外側のパイプの間隔は、第一の複数のパイプのうち内側のパイプの間隔よりもさらに広い。上記態様の別の実施形態によると、第一の複数のパイプ及び第二の複数のパイプの各パイプは、作動流体を含む密封された中空の金属パイプである。上記態様の別の実施形態によると、第一の複数のパイプ及び第二の複数のパイプは、ベースの幅よりも小さい幅に跨っている。
【0008】
本発明の別の態様によると、コンピュータシステムが開示され、コンピュータシステムは、プロセッサと、核沸騰装置と、を有する。核沸騰装置は、上面と、下面と、複数の側面と、によって画定されたベースを有する。複数の側面は、第一側面と、第二側面と、を有する。下面は、プロセッサと接触しているか、プロセッサに近接している。さらに、核沸騰装置は、第一側面から延在する第一の複数のパイプを有する。第一の複数のパイプは、第一遷移領域と、第一平坦領域と、を有する。第一遷移領域において、第一の複数のパイプは、ベースに対して第一傾斜方向に沿って延在して、ベースから離れる。第一平坦領域において、第一の複数のパイプは、第一側面に対して垂直な第一扇形配列で延在する。さらに、核沸騰装置は、第二側面から延在する第二の複数のパイプを有する。第二の複数のパイプは、第二遷移領域と、第二平坦領域と、を有する。第二遷移領域において、第二の複数のパイプは、ベースに対して第二傾斜方向で延在して、ベースから離れる。第二平坦領域において、第二の複数のパイプは、第二側面に対して垂直な第二扇形配列で延在する。第二平坦領域とベースの上面の距離は、第一平坦領域とベースの上面の距離よりも大きい。
【0009】
上記の概要は、本開示の各実施形態又は各態様を表すことを意図するものではない。むしろ、上述した概要は、本明細書に記載されるいくつかの新規な態様及び特徴の例を単に提供するに過ぎない。上記の特徴及び利点と他の特徴及び利点とは、添付の図面及び特許請求の範囲に関連して考慮される場合、本発明を実施するための代表的な実施形態及びモードの以下の詳細の説明から容易に明らかになるであろう。図面、及び、以下に提供される簡単な説明を参照することにより、本開示の追加の態様が当業者に明らかになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の核沸騰装置は、熱抵抗を56%も低下させ、さらに、従来の核沸騰板と比較して、熱伝達能力を80%改善する。
【0011】
本開示は、添付の図面を参照して、例示的な実施形態の以下の説明からより良く理解されるであろう。これらの図面は、単に、例示的実施形態を示すものであり、且つ、よって、各種実施形態、あるいは、請求項の範囲に対する限定と見なされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】コンピュータシステム内で冷却に用いる核沸騰板を示す図である。
図2】コンピュータシステム内で冷却に用いる強化された核沸騰板を示す図である。
図3A】本発明の一態様による核沸騰装置の側面図である。
図3B】本発明の一態様による核沸騰装置の底面図である。
図3C】本発明の一態様による核沸騰装置の上面図である。
図4】本発明の一態様による核沸騰装置に用いるコンピュータによる流体動力学シミュレーションからのボイド率分布を示す図である。
図5】本発明の一態様によるコンピュータによる流体動力学シミュレーションからの温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、様々な変更及び代替形態を受け入れることができる。いくつかの代表的な実施形態は、例として図面に示されており、本明細書で詳細に説明される。しかし、本発明は、開示された特定の形態に限定されることを意図していないことを理解されたい。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨及び範囲に含まれる全ての変更、均等物及び代替物を包含する。
【0014】
添付の図面を参照して本発明を説明する。図面において、類似又は同様の要素を示すために同様の符号が用いられている。図面は縮尺通りに示されておらず、これらは、本発明を単に例示するために提供されている。本発明のいくつかの態様を、例示的なアプリケーションを参照して以下に説明する。本発明の完全な理解を提供するために、多くの特定の詳細、関係及び方法が示されていることを理解されたい。しかし、当業者であれば、1つ以上の特定の詳細無しに又は他の方法を用いて本発明を実施することができることを容易に認識するであろう。他の例では、本発明が曖昧になるのを防ぐために、周知の構造又は動作を詳細に示していない。いくつかの動作が異なる順序で、及び/又は、他の動作や事象と同時に発生し得るので、本発明は、示された動作や事象の順序によって限定されない。さらに、本発明による方法を実施するために、示された全ての動作や事象が必要とされているわけではない。
【0015】
本発明は、多くの異なる形式で具体化される。図面に示され、且つ、ここで詳細に記述され、本発明を解釈する代表的な実施形態は、本発明の原理の例示又は説明としてみなされ、且つ、説明される実施形態の開示される広い態様を限定することを目的としていない。その程度を達成するため、例えば、要約、発明内容及び実施形態で開示されているが、請求項に明確に記載されていない要素及び限定は、単独で又は集合的に、暗示、推論又は他の方法で請求項に組み込まれるべきではない。本発明を詳細に説明する目的のため、特に断りのない限り、単数形は複数形を含み、その逆も同様である。また、「有する」という用語は「制限なしに有する」ことを意味する。さらに、近似の用語、たとえば、「約(about)」、「ほとんど(almost)」、「実質的に(substantially)」、「おおよそ(approximately)」、「概ね(generally)」等の近似の用語は、ここでは、「…で(at)」、「…近くで(near)」、「…に近接して(nearly at)」、「…の3~5%内で」、「製造誤差の許容範囲内で」、又は、これらの任意の論理的組み合わせの意味を含むことができる。
【0016】
図3Aは、本発明の一態様による核沸騰装置300の側面図である。核沸騰装置300は、第一の複数のパイプ302と、第二の複数のパイプ304と、ベース306と、を有する。
【0017】
ベース306は、コンピュータシステム内の発熱素子10(例えば、プロセッサ等)に取り付けられており、液冷コンピュータ環境において浸漬冷却を素子10に提供する。ベース306は、上面306a(図3C)と、下面306b(図3B)と、複数の側面306c~306fと、により画定されている。複数の側面306c~306fは、第一側面306fと、第一側面306fと反対の第二側面306dと、を有する。ベース306は、金属又は金属合金(例えば、銅やアルミニウム合金)で形成されている。ベース306の主な目的は、第一の複数のパイプ302及び第二の複数のパイプ304を、概ね、素子10に接近又はもたれるように保持することである。ベース306の斜線領域(diamond-hashed region)は、第一の複数のパイプ302及び第二の複数のパイプ304がベース306を通過して延在し、素子10と接触している領域を表す。一つ以上の実施形態において、この接触は、ベース306及び/又は複数のパイプ302,304が素子10と直接接触するのを構築することができる。あるいは、この接触は、ベース306及び/又は複数のパイプ302,304を、部分的又は完全に、熱伝導材料318と接触するのを構築することができ、熱伝導材料318は、ベース306と素子10との間にある。熱伝導材料318は、ベース306及び/又は複数のパイプ302,304と素子10との間の熱の伝導を改善することができる。
【0018】
第一の複数のパイプ302は、ベース306の第一側面306fから延在している。第一の複数のパイプ302は、第一平坦領域308と、第一遷移領域310と、を有する。第一遷移領域310において、第一の複数のパイプ302は、図3Aに示す方向に対して、ベース306に対して第一傾斜方向に沿って延在して、ベースから離れる。第一平坦領域308において、第一の複数のパイプ302は、図3B及び図3Cに示し、さらに後述するように、扇状に外向けに延在して、ベース306から離れる。第一遷移領域310において、第一の複数のパイプ302の全てのパイプは、互いにほぼ平行である。
【0019】
第一の複数のパイプ302と同様に、第二の複数のパイプ304は、ベース306の第二側面306dから、第一の複数のパイプ302及び第一側面306fの反対に延在している。第二の複数のパイプ304は、第二平坦領域312と、第二遷移領域314と、を有する。第二遷移領域314において、第二の複数のパイプ304は、図3Aに示す方向に対して、ベース306に対して第二傾斜方向に沿って延在し、ベース306から離れる。第二平坦領域312において、第二の複数のパイプ304は、図3B及び図3Cに示し、さらに後述するように、扇状に外向けに延在して、ベース306から離れる。第二遷移領域314において、第二の複数のパイプ304の全てのパイプは、互いにほぼ平行である。
【0020】
浸漬冷却の改善を達成するために、第二の複数のパイプ304の第二平坦領域312とベース306の上面との距離は、第一の複数のパイプ302の第一平坦領域308とベース306の上面との距離よりも大きい。第二平坦領域312は、第一平坦領域308よりも、ベース306のさらに上方に位置し、一方の領域に形成される気泡が他方の領域に与える影響を最小化する。一方の領域に形成される気泡は、他方の領域の上方又は下方を通過して、反対側の領域に対する気泡の影響を減少させることができる。より具体的には、核沸騰装置300は、コンピュータシステム内の矢印20で示される冷却液体の流動内に位置する素子10に配置され得る。第一の複数のパイプ302は、流体20の流動内の核沸騰装置300の上流領域を構成することができる。第二の複数のパイプ304は、流体20の流動内の核沸騰装置300の下流領域を構成することができる。よって、第一の複数のパイプ302及び第二の複数のパイプ304は、千鳥状(staggered manner)に配列されており、下流領域(例えば、第二の複数のパイプ304)は、ベース306に対して、上流領域(例えば、第一の複数のパイプ302)よりも高い。その結果、上流領域での気泡の形成が下流領域での気泡発生に影響し、これにより、冷却に影響する状況は、両領域が同一の水平面に位置する場合よりも、下流領域での冷却が少なくなる。このような設計により、大部分の沸騰が発生する両平坦領域は、さらに効果的になる。このほか、総沸騰面積も増加する。これにより、従来の核沸騰板100,200(それぞれ、図1図2の)と比較して、核沸騰装置300は、熱伝導を大幅に改善することができる。
【0021】
一つ以上の実施形態において、第一平坦領域308において、第一の複数のパイプ302の表面は、核沸騰を高める上述した一つ以上の特徴(例えば、小粒子又はパンチ窪み320等)を有する。同様に、一つ以上の実施形態において、第二平坦領域312において、第二の複数のパイプ304の表面は、核沸騰を高める上述した一つ以上の特徴(例えば、小粒子又はパンチ窪み320等)を有する。
【0022】
一つ以上の実施形態において、第一の複数のパイプ302は、ベース306を介して第二の複数のパイプ304に接続されており、第一の複数のパイプ302の各パイプが、第二の複数のパイプ304の対応するパイプと接続して、単一のパイプを構成する。一つ以上の実施形態において、熱伝導材料(例えば、材料318)は、ベース306と素子10との間に位置する。
【0023】
一つ以上の実施形態において、図3Aに示すように、第一の複数のパイプ302は、単一層内に配置されている。一つ以上の実施形態において、図3Aに示すように、第二の複数のパイプ304は、単一層内に配置されている。理想的には、第一の複数のパイプ302及び第二の複数のパイプ304の両方は、上下に別のパイプを有しないことによって核生成を改善するために、単一層内に配置される。しかし、一つ以上の実施形態において、第一の複数のパイプ302及び第二の複数のパイプ304は、二個以上の層内に配置することができる。
【0024】
第一の複数のパイプ302及び第二の複数のパイプ304は、消散させたい熱量やベース306のサイズ等によって決まる任意の数のパイプを有する。一つ以上の実施形態において、図3B及び図3Cに示すように、第一の複数のパイプ302及び第二の複数のパイプ304の何れも、8本のパイプを有することができる。
【0025】
一つ以上の実施形態において、第一遷移領域310において、第一の複数のパイプ302は、第一傾斜方向に、ベース306に対して第一角度θ1で傾斜する。第二遷移領域314において、第二の複数のパイプ304は、第二傾斜方向に、ベース306に対して第二角度θ2で傾斜する。一つ以上の実施形態において、第二角度θ2は、第二の複数のパイプ304が、より短い距離にわたって、ベース306に対して、第一の複数のパイプ302よりも上方のさらに高い水平面又は平面に延在するように、第一角度θ1よりも大きくすることができる。
【0026】
本発明の態様によると、図3Bは、核沸騰装置300の底面図であり、図3Cは、核沸騰装置300の上面図である。便宜上、図3B及び図3Cに関して説明する実施形態は、第一の複数のパイプ302の各パイプが、第二の複数のパイプ304の対応するパイプに接続されており、核沸騰装置300を跨ぐ単一のパイプを形成する実施形態である。よって、核沸騰装置300は、8個のパイプ316a~316hを有する。さらに、上述した第一平坦領域308及び第二平坦領域312内のパイプ316a~316hの部分は、扇状に広がる又は分散して示されている。パイプ316a~316hの扇状に広がる配列は、パイプ316a~316h間にさらに大きい空間を提供することによって、パイプ316a~316hが扇状に広がっていない場合と比較して、或るパイプ(例えば、316a)での核生成が、隣接するパイプ(例えば、316b)での核生成に与える影響をより小さくすることができる。
【0027】
一つ以上の実施形態において、パイプ316a~316h間の間隔は、ベース306からの距離に対して一定とすることができる。あるいは、一つ以上の実施形態において、第一平坦領域308における第一の複数のパイプ302、第二平坦領域312における第二の複数のパイプ304、又は、その両方は、さらに遠く隔たれている。パイプ間の間隔は、ベース306からの距離に対して、中央パイプからの距離(図3Bに示す例では、パイプ316d,316e)に対して、又は、両方の距離に対して、さらに遠くなる。よって、パイプ316g,316hは、パイプ316a~316hの中心又は中間線をほぼ定義するパイプ316d,316eよりもさらに離れているので、図3Bにおける距離D1は、図3Bにおける距離D2よりも短い。さらに、これは、核生成を支援するとともに、外側のパイプ(例えば、316a,316b,316g,316h)上の気泡の結合を減少させる。
【0028】
さらに、図3B及び図3Cに示すように、一つ以上の実施形態において、第一平坦領域308、第二平坦領域312、又は、その両方におけるパイプ316a~316hの断面積は、各々の第一遷移領域310、各々の第二遷移領域314、又は、その両方におけるパイプ316a~316hの断面積よりも大きい。第一平坦領域308、第二平坦領域312、又は、その両方におけるパイプ316a~316hの大きい断面積は、核生成のための追加の面積を提供する。
【0029】
さらに、一つ以上の実施形態において、図3B及び図3Cに示すように、第一平坦領域308、第二平坦領域312、又は、その両方におけるパイプ316a~316hの断面積は、ベース306からの距離に対してサイズが増加する。ベース306からの距離に対するパイプ316a~316hの断面積の増加は、核生成のための追加の面積をさらに提供する。
【0030】
一つ以上の実施形態において、図3B及び図3Cに示すように、パイプ316a~316hは、密封された中空の金属パイプである。一つ以上の実施形態において、密封された中空の金属パイプは、その中に、作動流体等の流体を含む。パイプ316a~316hが使用中の場合、作動流体は、パイプ内で液相状態及び気相状態となるように選択される。一つ以上の実施形態において、パイプ316a~316hは固体(solid)である。
【0031】
一つ以上の実施形態において、第一の複数のパイプ302、第二の複数のパイプ304、又は、その両方の組み合わせられた幅は、ベース306の幅よりも小さい。あるいは、第一の複数のパイプ302、第二の複数のパイプ304、又は、その両方の組み合わせられた幅は、ベース306とほぼ同じ幅である。
【0032】
図4及び図5は、コンピュータによる流体動力学シミュレーション結果を示す図であり、核沸騰装置300のベース306上に第二の複数のパイプ304に対して千鳥状に配置された第一の複数のパイプ302の効果を示している。図4に示すように、ボイド率は、第一の複数のパイプ302で生成されるとともに、その後、ベース306の上方で流動及び集中するが、ボイド率は、液体の流れ方向に対し、ベース306及び第一の複数のパイプ302よりも下流の第二の複数のパイプ304の下である。よって、第一の複数のパイプ302により生じる核沸騰の、第二の複数のパイプ304により生じる核沸騰に対する干渉は、複数のパイプ302,304の両方がベース306上方の同一平面又は同じ水平面にある場合よりも小さい。
【0033】
図5を参照すると、千鳥状の複数のパイプ302,304は、よい熱伝達能力を提供し、熱を素子10から周辺の流体に伝達する。表1は、従来の核沸騰板(例えば、図2の板200)と比較して、核沸騰装置300が、より優れた放熱を提供することを示している。核沸騰装置300は、熱抵抗を56%も低下させる。さらに、核沸騰装置300は、従来の核沸騰板(例えば、図2の板200)と比較して、熱伝達能力を80%改善する。
【表1】
【0034】
図示した実施形態を含む実施形態の上記の説明は、例示及び説明の目的のためだけに示されており、開示された正確な形態に対して網羅的又は限定的であることを意図しない。当業者であれば、多種の修正、適応及び使用を理解することができる。
【0035】
開示された実施形態は、一つ以上の実施形態に関して説明及び記述されているが、当業者であれば、本明細書及び図面を読み、理解した後に、同等の変更及び修正を思いつくであろう。このほか、本発明の特定の特徴は、いくつかの実施形態のうち一つだけに関して開示されているが、このような特徴は、任意の又は特定の用途に対して所望され有利である場合に、別の実施形態の一つ以上の別の特徴と組み合わせることができる。
【0036】
本発明の各種実施形態を説明したが、これらは、例示として表現されており、これに限定されないことを理解されたい。開示された実施形態に対する各種変更は、本発明の範囲及び趣旨を逸脱しない状況下で行うことができる。よって、本発明の広さや範囲は、上述した任意の実施形態により限定されるべきではない。むしろ、本発明の範囲は、以下の請求項及びそれらの均等物に従って定義されるべきである。
【0037】
ここで用いられる専門用語は、特定の実施形態を説明するためだけの目的であり、本発明を限定するものではない。文脈が明らかにそうでないことを示していない限り、ここで使用される単数形「一」、「一つの」、「この」は、複数形も同様に含む。さらに、用語「有する」、「含む」やその変化形は、詳細な説明及び/又は請求項に用いられている限り、このような用語は、「備える」と同様に包含することを意図している。
【0038】
特に定義されない限り、ここで用いられる全ての用語(技術及び科学用語を含む)は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。さらに、一般的に使用される辞書に定義されている用語は、関連する技術の文脈における意味と同じ意味を有すると解釈されるべきであり、特に定義されない限り、理想化又は過度に形式的な意味として解釈されない。
【符号の説明】
【0039】
10…素子
20…流体の流動(矢印)
100…核沸騰板
101…泡層
200…強化された核沸騰板
201…中央で大きく歪んだ蒸気泡
202…パンチ窪み
300…核沸騰装置
302…第一の複数のパイプ
304…第二の複数のパイプ
306…ベース
306a…上面
306b…下面
306c,306e…側面
306f…第一側面
306d…第二側面
308…第一平坦領域
310…第一遷移領域
312…第二平坦領域
314…第二遷移領域
316a~316h…パイプ
318…熱伝導材料
320…パンチ窪み
θ1…第一角度
θ2…第二角度
D1,D2…距離
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5