(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】化粧料の使用触感を評価する方法、及び化粧料の使用触感を評価する装置
(51)【国際特許分類】
G01N 11/00 20060101AFI20230822BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
G01N11/00 A
G01N11/00 C
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2022093467
(22)【出願日】2022-06-09
(62)【分割の表示】P 2019537633の分割
【原出願日】2018-08-21
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2017162104
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 直輝
(72)【発明者】
【氏名】松森 孝平
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敦
(72)【発明者】
【氏名】大澤 みのり
(72)【発明者】
【氏名】風間 泰規
(72)【発明者】
【氏名】坂口 歳斗
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 智穂
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-071652(JP,A)
【文献】特開2009-047503(JP,A)
【文献】特開2012-130580(JP,A)
【文献】特開2017-009489(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0025615(US,A1)
【文献】Shuyang Ding,Tactile perception of skin and skin cream by friction induced vibrations,Journal of Colloid and Interface Science,481,2016年,131頁~143頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00-13/04
G01N 33/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗布面に塗布された化粧料に動作体を接触させながら当該動作体を動かすことによって発生する振動を経時的に検出する振動検出ステップと、
前記検出された振動から、前記振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを生成するデータ生成ステップと、
前記生成されたデータを用いて、予め求めておいた、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータと化粧料の使用触感の官能評価との関係に基づき、前記化粧料の使用触感を評価する評価ステップと
を含み、
前記関係を求めることが、
複数の化粧料のそれぞれについて、前記使用触感の官能評価値を求め且つ振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを生成し、
振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータから、縦軸及び横軸の一方を時間とし且つ他方を周波数としたパワースペクトル密度の分布図を作成し、
前記分布図を縦横に分割して、複数の領域を形成し、
前記複数の領域のそれぞれにおけるパワースペクトル密度の統計量を算出し、
少なくとも前記各統計量を独立変数とし且つ前記官能評価値を従属変数として、回帰分析を行うことを含む、化粧料の使用触感を評価する方法。
【請求項2】
前記統計量が、前記領域における前記パワースペクトル密度の算術平均値、幾何平均値、中央値、最大値、及び合計値の少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記独立変数が、前記化粧料の粘度、第一法線応力差、前記動作体の変形量、及び前記化粧料の摩擦に関する値の少なくとも1つをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記振動検出ステップにおいて、前記被塗布面及び/又は前記動作体に伝達する振動を検出する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記化粧料の使用触感の官能評価は、時系列官能評価を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記化粧料の使用触感の官能評価は、前記時系列官能評価の所定期間における評価の代表値である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記振動検出ステップにおいて、前記被塗布面及び/又は前記動作体に伝達する振動を検出する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記化粧料の使用触感の官能評価は、時系列官能評価を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記化粧料の使用触感の官能評価は、前記時系列官能評価の所定期間における評価の代表値である、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
被塗布面に塗布された化粧料に動作体を接触させながら当該動作体を動かすことによって発生する振動を経時的に検出する振動検出手段と、
前記検出された振動から、前記振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを生成するデータ生成手段と、
前記生成されたデータを用いて、予め求めておいた、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータと化粧料の使用触感の官能評価との関係に基づき、前記化粧料の使用触感を評価する評価手段と
を含み、
前記評価手段が、
複数の化粧料のそれぞれについて、前記使用触感の官能評価値を求め且つ振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを生成し、
振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータから、縦軸及び横軸の一方を時間とし且つ他方を周波数としたパワースペクトル密度の分布図を作成し、
前記分布図を縦横に分割して、複数の領域を形成し、
前記複数の領域のそれぞれにおけるパワースペクトル密度の統計量を算出し、
少なくとも前記各統計量を独立変数とし且つ前記官能評価値を従属変数として、回帰分析を行う手段を含む、化粧料の使用触感を評価する装置。
【請求項11】
請求項1
又は2に記載の化粧料の使用触感を評価する方法を用いて化粧料の使用触感を評価する第1評価ステップと、
前記第1評価ステップで用いられた化粧料の使用触感を評価する方法を用いて、前記化粧料とは別の、複数の選択対象化粧料の使用触感をそれぞれ評価する第2評価ステップと、
前記化粧料の使用触感と、前記複数の選択対象化粧料のそれぞれの使用触感とを比較する比較ステップと、
前記化粧料の使用触感に最も近い使用触感を有する化粧料を、前記複数の選択対象化粧料の中から選択する選択ステップと
を含む、化粧料を選択する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料の使用触感を評価する方法、及び化粧料の使用触感を評価する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、べたつき、しっとりさ、さっぱりさといった化粧料の使用触感を、客観的に評価することは難しい。そのため、化粧料の使用触感を、化粧料固有の物理的な特性に基づいて定量化することが検討されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、レオロジー特性に基づいて評価を行う方法が開示されている。また、特許文献2には、せん断力測定から得られる物性を指標として評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5749554号公報
【文献】特開2016-180685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示されている従来の方法における化粧料の評価指標は、化粧料のバルクの物性である。つまり、化粧料の実際の使用状態とは異なる状態で測定された特性である。そのため、従来の方法では、使用触感を正確に評価できない場合がある。
【0006】
上記の点に鑑みて、本発明の一形態は、化粧料の使用触感をより正確に定量的に評価する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一形態は、被塗布面に塗布された化粧料に動作体を接触させながら当該動作体を動かすことによって発生する振動を経時的に検出する振動検出ステップと、前記検出された振動から、前記振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを生成するデータ生成ステップと、前記生成されたデータを用いて、前記化粧料の使用触感を評価する評価ステップとを含む、化粧料の使用触感を評価する方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一形態によれば、化粧料の使用触感をより正確に定量的に評価する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一形態による方法を示すフロー図である。
【
図3】振動発生手段及び振動検出手段の概略的な拡大図である。
【
図4】データ生成ステップの具体例を示すフロー図である。
【
図5】周波数スペクトルの経時的な変化を示すスペクトル分布図の一例を模式的に示す図である。
【
図6】周波数スペクトルの経時的な変化を示すスペクトル分布図に基づくデータ生成について説明する図である。
【
図7】実施例1における、回帰式により推定された評価値Sと官能評価による評価値S
0との相関を示す図である。
【
図8】実施例2における、回帰式により推定された評価値Sと官能評価による評価値S
0との相関を示す図である。
【
図9】実施例3における、回帰式により推定された評価値Sと官能評価による評価値S
0との相関を示す図である。
【
図10】実施例4における時系列官能評価の結果を示す図である。
【
図11】
図10から抽出した、実施例4で評価された使用触感についてのグラフである。
【
図12】実施例4における、所定の統計量値と、後期の「とろみ」の官能評価の代表値との相関を示す図である。
【
図13】
図10のグラフから抽出した、実施例5で評価された使用触感についてのグラフである。
【
図14】実施例5における、所定の統計量値と、前期の「粘着感」の官能評価の代表値との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に限定されることはない。
【0011】
<化粧料の使用触感を評価する方法>
本発明者らは、化粧料を被塗布面に塗布し、塗布された化粧料に動作体を接触させながら動作体を動かすことによって発生する振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータと、化粧料の使用触感の官能評価との間に相関関係があることを知見した。
【0012】
この知見に基づきなされた発明の一形態は、
図1に示すように、被塗布面に塗布された化粧料に動作体を接触させながら動作体を動かすことによって発生する振動を経時的に検出する振動検出ステップ(S1)と、検出された振動から、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを生成するデータ生成ステップ(S2)と、生成されたデータを用いて、化粧料の使用触感を評価する評価ステップ(S3)とを含む、化粧料の使用触感を評価する方法である。
【0013】
本形態は、使用触感を評価するための指標として、被塗布面に塗布された化粧料を擦る又は撫でることによって発生する振動に関連するデータを利用している。つまり、評価指標として、化粧料のバルクの特性ではなく、触感に大きく関係すると考えられる振動に着目している。さらに、本形態は、化粧料が実際に使用される状態に近い状態で測定されるデータを用いる。そのため、化粧料の使用触感の、より正確な評価が可能となる。
【0014】
また、化粧料の使用触感の評価方法は、パネルによる官能評価による場合も多いが、評価にばらつきが生じる場合がある。このような官能評価に代えて、本形態による評価方法を用いることで、より正確に使用触感の評価を行うことができる。
【0015】
本形態において、評価指標として用いられるデータは、具体的には、振動の周波数スペクトルの経時的な変化(時系列的な変化)に関するものである。化粧料は肌に塗布されると、通常、肌内に浸透したり、成分の一部が空気中に揮発したりして、化粧料の物性は時間の経過とともに変化する。このような経時変化のタイミング及び度合いは化粧料によって異なり、この経時変化の化粧料による差異は、化粧料の使用触感の差異として現れる。さらに、そのような使用触感の差異は、被塗布面に塗布された化粧料を擦った際に検出される振動中の周波数成分の含有割合の時間的な変化の差異に反映される。そのため、本形態では、周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを指標として利用することで、化粧料によって異なる微妙な使用触感の差異もより的確に捉えることが可能となる。
【0016】
本明細書において、化粧料の使用触感(使用感又はテクスチャーとも言う)とは、化粧料を顔や身体等の肌に塗布する際、又は化粧料を塗布してから所定時間経過した後に人が感じる感覚である。よって、本形態による方法により評価されるべき使用触感には、化粧料を初めて肌に接触させ塗り広げる際に感じられる触感を含めることができ、また、化粧料を一旦肌上に塗り広げた後に、肌で感じられる感覚、又は指や掌等で肌を撫でたり擦ったりした時に指や掌等に感じられる感覚も含めることができる。
【0017】
評価される使用触感の具体的な例としては、べたつき、さっぱりさ、しっとりさ、浸透感、うるおい、つっぱり、もっちり感、さらさら感、まろやかさ、とろみ、のびが軽い(又は重い)、みずみずしい、油っぽい、粘着感等が挙げられる。
【0018】
化粧料には、最終製品として提供される化粧料(化粧品)の他、化粧料基剤や、化粧料基剤を構成するために配合される化合物及びその混合物が含まれ得る。
【0019】
上述のように、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータと官能評価との間には相関があるが、この官能評価には、時間軸を考慮しない古典的な官能評価、及び使用触感の時間的な推移(経時的な変化)を評価する時系列官能評価のいずれもが含まれる。時間軸を考慮しない評価では、被験者は、化粧料の塗布開始時から所定時間経過後に評価を行う。そして、最終的には、場合によってはデータ処理等を経て、所定の化粧料について、1つの評価項目につき何等かの1つの評価値(スコア等)を得ることができる。この時間軸を考慮しない官能評価は、化粧料を肌に塗布した場合に感じられる使用触感の総合的な評価といえる。なお、上記の塗布終了とは、化粧料の一般的な量を塗布し終えた時点を指す場合もあるし、化粧料がある程度肌になじんだと感じられる時点を指す場合もある。時間軸を考慮しない評価の具体的手法は特に限定されず、VAS(Visual Analogue Scale)、SD法(Semantic Differential Method)、QDA(Quantitative Description Analysis)と呼ばれるもの等であってよい。
【0020】
一方、時系列官能評価においては、被験者は、化粧料の塗布開始時から所定時間経過後までの期間における2以上のタイミングで評価を行う。そして、場合により、得られた評価のデータを処理し、所定の化粧料について、1つの評価項目についての評価値の時間的な推移を得ることができる。評価値の時間的な推移は、例えば、横軸に時間、縦軸に評価値の大きさをとったグラフ等で表すことができる。この場合、被験者は、1回の試験において、1つの評価項目に着目して評価を行う場合もあるし、複数の評価項目を評価する場合もある。時系列官能評価は、使用触感が時間とともに変化しやすい化粧料の特徴をより的確に捉えることができる評価法である。時系列官能評価は、例えば、TDS(Temporal Dominance of Sensations)、TCATA(Temporal Check All That Apply)、TI(Time Intensity)等である。なお、時系列官能評価の評価値は、TDSによる官能評価の場合等には、単位を百分率等とした優位度(Dominance rate)等で表されることがある。
【0021】
上記のような官能評価、特に時系列官能評価においては、評価の精度を上げようとした場合、優れた専門パネルを選抜したり、或いはデータを多数収集したりする必要が生じ、手間やコストがかかることがある。これに対し、本形態による評価方法によれば、そのような手間やコストも抑えることができる。
【0022】
<振動検出ステップ(S1)>
振動検出ステップ(S1)では、被塗布面に塗布された化粧料に動作体を接触させながら動作体を動かすことによって発生する振動を経時的に検出する。
【0023】
(振動の発生)
振動検出ステップ(S1)は、検出されるべき振動を発生させることを含んでいてよい。振動の発生は、例えば、
図2、3に示すような振動発生手段10を用いて行うことができる。図示の振動発生手段10においては、人の前腕の内側の皮膚に所定量の化粧料を塗布し、その塗布された化粧料を人の指先、例えば人差し指の先の内側で擦ることによって振動を発生させる。つまり、被塗布面11を人の前腕の内側の皮膚とし、動作体12を人差し指として、被塗布面11に塗布された化粧料に動作体12を接触させながら動作体を往復運動させることによって、振動を発生させる。なお、本明細書において、化粧料の塗布とは、所定量の化粧料を所定の面に滴下する等して付着させて広げることを指す。面上に化粧料の膜を形成することができるのであれば、塗布の手段は、特に限定されず、指等の人体の一部であってよいし、また刷毛、ヘラ、噴霧器等の器具であってよい。
【0024】
被塗布面11は、
図2に示すように人の皮膚の表面であってよく、その場所は、腕の内側に限られず、掌、顔、首、胴体等のその他の人体の部分の皮膚の表面であってもよい。被塗布面11は、平面であっても凹凸があってもよい。被塗布面11としては、生きている人の皮膚に限られず、生きている人の皮膚と同等又は類似の特性を有しているのであれば、加工された又はされていない動物の皮、人工的に製造された皮革又は疑似皮膚等を利用してもよい。但し、被塗布面11を人の皮膚の表面とした場合には、実際の使用状態により近い状態で振動の発生を行うことができるので、好ましい。
【0025】
動作体は、被塗布面に塗布された化粧料と接触させながら被塗布面に対して相対的な動作を行う主体である。
図2の例では、動作体12として人差し指を用いているが、動作体12は、中指等の別の指であってもよいし、また掌、腕、その他の人体の部分であってもよい。また、被塗布面11と同様、動作体12は、生きている人の皮膚と同等又は類似の特性を有する材料であってよく、或いはそのような材料で被覆された部材であってよい。
【0026】
但し、図示の形態のように、被塗布面11及び動作体12をそれぞれ人体の一部とした場合には、振動を、化粧料が実際に使用される状態に近い状態で発生させることができるので、使用触感のより正確な評価を行うことができる。人体の中でも手の表面(掌側)は触覚知覚機能が発達しており、指先の内面(爪のない側)で使用感触を識別することが多いため、図示の形態のように動作体12を指先とし、指先の内面で化粧料を擦る場合、さらに的確なデータを取得することができる。
【0027】
振動は、被塗布面11に塗布された化粧料に接触させながら動作体12を動かすことによって発生させることができるが、その際の動作体12の動作は、検出可能な振動を発生させることができる動作であれば、特に限定されない。被塗布面11に対して動作体12を往復運動させてもよいし、一方の方向に複数回動かしてもよい。また、被塗布面11上で、円や楕円等の任意の図形を描くように動かしてもよい。
【0028】
(振動の検出)
振動検出ステップ(S1)においては、被塗布面に塗布された化粧料を擦ることによって振動を発生させるが、この振動は、被塗布面及び/又は動作体に伝達してきた振動であってよいし、被塗布面及び/又は動作体の表面から周囲の媒質(空気)を介して伝播してきた振動(音)であってもよい。但し、被塗布面及び/又は動作体に伝達してきた振動を検出する場合、振動の発生箇所に近い場所での信号の検出が可能となり、また化粧料を擦ること以外に起因して発生する振動が混ざることを低減できる。そのため、被塗布面及び/又は動作体に伝達してきた振動を検出することは、検出精度を向上させる観点から好ましい。
【0029】
振動検出ステップ(S1)において用いられる検出手段20は、
図2及び
図3(a)に示すように、動作体12(図示の例では指)に装着することができるし、
図3(b)に示すように、被塗布面11に装着することもできる。また、検出手段20を、被塗布面11及び動作体12の両方に装着することもできる。
【0030】
振動検出手段20は、周波数スペクトル(振動に含まれる周波数成分の分布を示すスペクトル)の経時的な変化を把握できるデータを生成可能な信号を検出できるものであれば特に限定されず、変位、速度、又は加速度を電気信号として検出するものであってもよい。検出手段20としては、例えば、3軸加速度センサを用いることができる。
【0031】
なお、被塗布面に塗布される化粧料は、1種類であっても2種類以上であってもよい。被塗布面に第1の化粧料を塗布して、上述のように振動を発生させて、その振動を検出した後、その直後又は所定の時間経過後、第2の化粧料を塗布して、上述のように振動を発生させて、その振動を検出することができる。また、第1の化粧料を塗布した後、振動の発生及び検出を行わず、その直後又は所定時間経過後、第2の化粧料を塗布して、上述のように振動を発生させて、その振動を検出してもよい。
【0032】
この場合、第1の化粧料と第2の化粧料は同じであっても異なっていてもよい。第1の化粧料と第2の化粧料とが同じである場合には、同じ化粧料を塗り重ねた場合の触感を評価することができる。また、第1の化粧料と第2の化粧料とが異なっている場合、例えば、第1の化粧料を化粧水、第2の化粧料を乳液等とした場合には、異なる化粧料を塗り重ねた場合の触感を評価することができ、複数の種類の化粧料を併用した時の効果を評価することができる。
【0033】
<データ生成ステップ(S2)>
データ生成ステップ(S2)においては、振動検出ステップ(S1)で検出された振動の信号を解析し、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを生成する。ここで、データとは、スペクトル図のような図やグラフのデータであってもよいし、値又は値の群のデータであってよい。また、振動の信号の解析は、例えば短時間フーリエ変換によって行うことができる。このような解析によって、複数の周波数成分を含む振動の経時的な変化を把握することが可能となる。
【0034】
(スペクトル図)
上記の解析によって、1つの化粧料に対して、周波数(単位はHz)を横軸とし、周波数成分の振動の大きさ、例えばパワースペクトル密度(1Hz幅当たりのパワー値であり、単位はdB/Hz等)を縦軸としたスペクトル図を、化粧料を塗布した後の複数の所定経過時間毎に複数生成することができる。また、
図5に模式的に示すように、1つの化粧料に対して、時間を横軸とし、周波数を縦軸とし、パワースペクトル密度が等しい位置を表示したスペクトル図を生成することができる。データとして後者のスペクトル図を生成した場合、1つの化粧料に対して、振動中の周波数成分の含有割合の経時的な変化を1枚のスペクトル図で表示することができるため、好ましい。
【0035】
後者のスペクトル図は、振動の大きさに関する値、例えばパワースペクトル密度の大きさによって色分けし、色のグラデーションよってパワースペクトル密度の分布を表示したものであってよい。また、
図5に模式的に示したような、パワースペクトル密度が等しい点を連ねて線としたスペクトル図であってもよい。
【0036】
解析される振動の周波数の大きさには特に制限はないが、本発明の一形態によれば、振動の周波数の範囲は、0~数MHz、0~数十kHz、0~数kHz、0~1000Hz、0~500Hzとすることができる。解析される振動の周波数範囲を上記のものとすることで、化粧料の使用触感をより的確に評価することができる。
【0037】
化粧料の被塗布面への塗布直後から振動が検出される時間は、特に限定されない。例えば、振動は、化粧料の被塗布面への塗布直後から150秒以内、120秒以内、90秒以内、60秒以内、或いは30秒以内にわたって検出することができる。検出時間を上記範囲とすることで、成分の一部が揮発したり被塗布面内へ浸透したりすることによる化粧料の組成の変化に伴う振動の変動を検出することができる。
【0038】
人の肌を被塗布面とし、人の指を動作体とした場合には、60秒程度にわたって信号の検出を行うと好ましい。振動の検出は、上記時間にわたり継続して行ってもよいし、断続的に行ってもよい。また、振動の検出は、化粧料の被塗布面への塗布直後からではなく、塗布後、一定時間経過した後に検出を始めてもよい。例えば、化粧料を被塗布面に塗布して後60秒放置し、60秒が経過した時点から、さらに60秒にわたり検出を開始してもよい。
【0039】
(振動の大きさに関する値)
本形態では、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータは、上記のスペクトル図そのものであってよく、このスペクトル図に基づいて化粧料の使用触感の評価を行うことができる。しかし、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータは、スペクトル図等の図ではなく、化粧料の塗布後の所定の経過時間及び所定の周波数に対応する振動の大きさ又は振幅の大きさに関するデータを含んでいてよい。このようなデータは、振動の周波数スペクトル図を生成し、その図に基づいて取得することもできるし、スペクトル図を生成することなしに、検出された振動から直接的に取得することもできる。
【0040】
化粧料の塗布後の所定の経過時間及び所定の周波数に対応する振動の大きさに関するデータは、化粧料の塗布後の所定の経過時間及び所定の周波数に対応する振動の大きさに関する値であってよく、化粧料の塗布後の所定の経過時間及び所定の周波数に対応する振動の大きさに関する値は、1つであってもよいし、複数であってもよい。このような振動の大きさに関する値は、例えば、
図4のフロー図に示すような方法で求めることができる。
【0041】
図4のフローは、
図3におけるデータ生成ステップ(S2)に含まれるものである。
図4の例では、振動の大きさに関する値は、振動から周波数スペクトルの経時的な変化を示す分布図を生成し(S2a)、その分布図を複数の領域に分割し(S2b)、各領域におけるパワースペクトル密度についての統計量を算出する(S2c)ことによって求めることができる。
【0042】
より具体的には、
図5に示すような分布図、すなわち、時間を横軸とし、周波数を縦軸とし、振動の大きさ(例えば、パワースペクトル密度)が等しい位置を表示したスペクトル図を生成し、そのスペクトル図を複数の領域に格子状に分割し、その複数の領域のうち少なくとも1つにおけるパワースペクトル密度についての統計量を求め、その統計量を、上記の振動の大きさに関する値とすることができる。つまり、上述のデータ生成ステップ(S2)において得られる周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータとして、化粧料の塗布後の所定の経過時間帯域及び所定の周波数帯域におけるパワースペクトル密度についての統計量を含めることができる。
【0043】
図6に、
図5に示したようなスペクトル図の分割の一例を示す。
図6の例では、縦軸に表示された周波数及び横軸に表示された経過時間がそれぞれ4つに分割され、全体として、領域Z1~Z16までの計16個の領域が形成されている。そして、分割された領域Z1~Z16のそれぞれにつき、パワースペクトル密度についての統計量v
1~v
16を算出することができる。
【0044】
上記統計量は、例えば、化粧料の塗布後の所定の経過時間帯域及び所定の周波数帯域におけるパワースペクトル密度の算術平均値、幾何平均値(相乗平均値)、中央値、最大値、及び合計値の少なくとも1つであってよく、中でも、算術平均値、幾何平均値、及び中央値の少なくとも1つであると好ましい。また、これらの統計量の累乗や、異なる統計量の積を、化粧料の塗布後の所定の経過時間帯域及び所定の周波数帯域におけるパワースペクトル密度についての統計量として用いることもできる。
【0045】
なお、統計量は、例えば、検出された振動の周波数解析において、周波数成分及び経過時間に対応する2次元の数値行列を得て、その数値行列を利用して所定の周波数帯域及び所定の時間帯域に相当する量を算出することにより得ることができる。
【0046】
また、統計量は、化粧料の塗布後の所定の経過時間帯域及び所定の周波数帯域におけるパワースペクトル密度の積分値(面積分値)や重心値としてもよい。
【0047】
図示の例では、スペクトル図は、計16の領域が形成されるように分割されているが、スペクトル図を分割して得られる領域の数及び場所は、測定対象となる化粧料の性質や、評価したい使用触感等に応じて決定される。具体的には、後述の評価基準の構築において、複数の化粧料についてスペクトル図を生成して互いを比較した際に、どの領域に差異が生じているかに応じて決定することができる。
【0048】
また、スペクトル図は、1つの領域の周波数範囲(周波数の幅)が10~500Hz、好ましくは50~250Hzとなるように分割することができ、1つの領域の時間範囲(時間の幅)が5~60秒、好ましくは10~20秒となるように分割することができるが、周波数及び時間の分割の幅は上記のものに限られない。スペクトル図における周波数の分割は、必ずしも同じ幅になるように分割する必要はなく、評価すべき使用触感や化粧料の特性等に応じて適宜設定することができる。時間の分割についても同様である。
【0049】
なお、上述の形態では、スペクトル図中の所定の経過時間帯域及び所定の周波数帯域におけるパワースペクトル密度についての統計量の少なくとも1つを、振動の大きさに関する値としている。しかし、スペクトル図中の所定の経過時間及び所定の周波数、すなわち、所定の経過時間帯域及び所定の周波数帯域における1点に対応する振動の大きさを複数求め、それを上述の振動の大きさに関する値とすることもできる。
【0050】
また、上述の形態では、スペクトル図を生成し、そのスペクトル図に基づいてパワースペクトル密度の統計量を算出しているが、統計量の算出には必ずしもスペクトル図の生成は必要ではない。検出された振動解析に基づき、図を生成することなく統計量を求めることもできる。
【0051】
<評価ステップ(S3)>
評価ステップ(S3)においては、データ生成ステップ(S2)で生成されたデータ(スペクトル図、値等)を用いて、化粧料の使用触感を評価する。評価に際しては、予め評価基準を構築しておいて、その基準に基づき評価を行うことが好ましい。
【0052】
(評価基準(データと官能評価との関係)の構築)
評価基準としては、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータと、化粧料の塗布感触の官能評価との関係を予め構築し、保存しておいたものを用いる。具体的には、複数の化粧料についてそれぞれ、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを取得し、その一方で、各化粧料の使用触感について官能評価を行い、そのデータと官能評価との関係をデータベース化することができる。そして、未知の化粧料の使用触感を評価する際には、未知の化粧料について同じ方法で検出された振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータと、予め構築しておいた上記関係(データベース)とを比較することによって、上記未知の化粧料の使用触感の官能評価値がどの程度であるかを推定することができる。
【0053】
評価基準の構築のために行う官能評価は、時間軸を考慮しない評価であってもよいし、時系列的官能評価であってもよい。つまり、時間軸を考慮しない評価及び時系列的官能評価のいずれであっても、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータとの関係についてのデータベースを所定の化粧料について構築しておけば、その化粧料の官能評価又は官能評価の時間的推移を推定することができる。
【0054】
複数の化粧料について振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを取得する方法は、振動検出ステップ(S1)及びデータ生成ステップ(S2)において上述した通りである。
【0055】
評価基準を得るには、複数の化粧料について、時間を横軸とし且つ周波数を縦軸とし、パワースペクトル密度が等しい位置を表示したスペクトル図(分布図)を作成し、そのスペクトル図と官能評価(官能評価値)とを関連付けることができる。また、検出された振動のデータから直接的に、又は得られたスペクトル図から振動の大きさに関する値を求め、その値と官能評価値との関係を求めてもよい。評価基準として、振動の大きさに関する値と官能評価との関係を利用した場合、その関係を式として表し、当該式をモデルとすることができるため、評価がより容易になる。
【0056】
振動の大きさに関する値と官能評価との関係(評価基準)は、例えば、次のようにして構築することができる。
【0057】
複数の既知の化粧料について、横軸を時間、縦軸を周波数として、パワースペクトル密度が等しい位置を表示したスペクトル図(分布図)を作成し、そのスペクトル図を複数の領域に分割して、各領域に対応する振動の大きさに関する値を算出する。領域の分割及び値の算出は、上述のデータ生成ステップ(S2)における振動の大きさに関する値の算出について求めた方法と同様にして行う。つまり、化粧料の塗布後の所定の経過時間及び所定の周波数に対応する振動の大きさに関する値は、上述のように、化粧料の塗布後の所定の経過時間帯域及び所定の周波数帯域におけるパワースペクトル密度についての統計量とすると好ましい。例えば、複数の既知の各化粧料について、
図6に示す各領域Z1~Z16について、パワースペクトル密度についての統計量v
1~v
16を算出することができる。この統計量は、算術平均値、幾何平均値等の平均値、中央値、最大値、合計、及び面積分値の少なくとも1つであってよい。また、これらの統計量のうち複数を、1つの使用触感に対して採用することもできる。
【0058】
また、評価基準構築のために用いられる複数の化粧料の数は、10~50程度とすることができ、20~40程度であると好ましい。
【0059】
一方で、上記の複数の既知化粧料についてそれぞれ、1以上の使用触感(評価項目)について官能評価を行う。官能評価は、上述のように時間軸を考慮しない官能評価であってもよいし、時系列官能評価であってもよい。
【0060】
時間軸を考慮しない官能評価は、例えば、訓練を受けた専門パネルによる7段階のスコアでの評価とすることができる。官能評価では、所定量の化粧料を指先に載せ、それを顔の肌に塗布して感じられる触感が評価される。使用触感は、例えば、べたつき、さっぱりさ、しっとりさ、浸透感、うるおい、つっぱり、もっちり感、さらさら感、まろやかさ、とろみ、のびが軽い(又は重い)、みずみずしい、油っぽい、粘着感等である。
【0061】
上記の専門パネルによる官能評価は、化粧料を最初に肌に接触させて指で塗布する際に感じられる使用触感の評価とすることもできるし、また化粧料を塗布してから所定時間経過後に再度指で肌に触れた際に感じられる使用触感の評価とすることもできる。このパネルによる官能評価値は、2~10人の評価の算術平均値とすることが好ましく、5~10人の評価の算術平均値とすることがより好ましい。なお、官能評価におけるスコアの付け方(評価段階の数等)は特に限定されない。
【0062】
モデル式の構築のためには、例えば、所定の1つの使用触感について求められた上記統計量v1~v16及び専門パネルによる官能評価スコア利用して、回帰分析を行い、統計量の値と官能評価スコアとの関係を求める。モデル式においては、従属変数(目的変数)が、所定の使用触感の官能評価スコアを含み、独立変数(説明変数)が、統計量v1~v16のうち少なくとも1つを含んでいてよい。また、従属変数が所定の使用触感の官能評価スコアであり、独立変数が統計量v1~v16のうち少なくとも1つを含んでいてよい。
【0063】
なお、回帰分析の際には、独立変数として、上述のように化粧料の塗布後の所定の経過時間及び所定の周波数帯域における振動の大きさに関する値を用いるが、それ以外のパラメータも追加的に用いることができる。例えば、独立変数には、化粧料の摩擦に関する値(摩擦に関する特性を表す値)や、化粧料のバルクの物性値を追加的に含めることができる。
【0064】
化粧料の摩擦に関する値は、例えば、被塗布面に塗布された化粧料に動作体を接触させながらその動作体を動かすことによって発生する摩擦力(単位はN)に基づく値とすることができる。例えば、摩擦力を経時的に測定し、所定の時間帯域における摩擦力の大きさの平均値、分散、標準偏差等とすることができる。また、摩擦係数の平均値、分散、標準偏差、動摩擦係数と静摩擦係数の差も、独立変数として用いることができる。
【0065】
なお、摩擦力は、例えば、振動の発生と同様の方法で発生させることができ、その際の条件は、振動の発生と同じ条件であっても異なる条件であってもよい。また、摩擦力は、振動を発生させる際に振動の検出と同時に測定することもできるし、振動の発生、検出とは別のタイミングで測定することもできる。
【0066】
また、化粧料のバルクの物性値としては、例えば、化粧料の粘度、第一法線応力差、濡れ性、硬度、動的粘弾性等が挙げられる。化粧料の物性値としては、レオロジー的特性を表す物性値を用いることが好ましい。
【0067】
なお、被塗布面に塗布された化粧料に動作体を接触させながら動かした場合に動作体が変形し得る場合、例えば動作体が指等の場合には、動作体の変形量も独立変数として用いることができる。変形量は、被塗布面に対する垂直方向の動作体の変形量、平行方向の動作体の変形量、又はそれらの比率の経時変化、例えば、所定の時間帯域における平均値、分散、標準偏差等とすることができる。変形量は、具体的には、動作体の厚み、被塗布面との接触面積、上面視又は側面視での面積等の経時的変化とすることができる。動作体の変形量は、振動を発生させる際に振動の検出と同時に測定することもできるし、振動の発生、検出とは別のタイミングで測定することもできる。
【0068】
回帰分析は、線形回帰分析又は非線形回帰分析であってよい。線形回帰分析としては、単回帰分析、重回帰分析、多項式回帰分析等が挙げられる。また、非線形回帰分析としては、ニューラルネットワークを利用した分析等が挙げられる。
【0069】
独立変数の選択は、ステップワイズ法を用いて行うことができる。ステップワイズ法を用いた場合には、より有意な独立変数を選択することができるので、好ましい。なお、回帰分析は、MathWorks社製のMatlab(登録商標)やMicrosoft社製のExcel(登録商標)等のソフトを用いて行うことができる。
【0070】
回帰式(モデル式)に含める独立変数の数は、対象となる使用触感や化粧料の性質、化粧料を評価する目的等に応じて適宜設定でき、特に限定はない。しかし、過学習のリスクを下げるためには、独立変数の数は1~5個程度とすることができ、1~3個であると好ましい。独立変数が複数である場合には、重回帰式が構築される。なお、回帰式は、線形回帰式にあることもあれば、累乗回帰式になることもある。化粧料の種類等に応じて、適した回帰式を利用すればよい。
【0071】
線形回帰分析によって回帰分析を行った場合、得られる線形回帰式は、例えば、使用触感の官能評価スコア推定値yを従属変数とし、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータ(上述の統計量z1~z16、化粧料の摩擦に関する値、化粧料の物性値等)x1、x2、…、xnを独立変数とした場合、
y=a+b1x1+b2x2+…+bnxn
(式中、aは定数であり、b1、b2、…bnは標準化係数である)
で表される。
【0072】
なお、上記係数は、各変数を標準化して求めた標準化係数であるが、係数を偏回帰係数とした回帰式を作成してもよい。
【0073】
回帰式において、独立変数は1つであっても複数であってもよい。その場合、上述の振動の大きさに関する値が、化粧料の塗布後の第1の所定の経過時間及び第1の所定の周波数に対応する振動の大きさに関する第1の値と、化粧料の塗布後の第2の所定の経過時間及び第2の所定の周波数に対応する振動の大きさに関する第2の値とを含み、独立変数が、第1の値及び第2の値を含んでいてよい。
【0074】
振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを用いた回帰分析を行うことによって評価される使用触感は限定されないが、特に、べたつき、さっぱりさ、しっとりさ、浸透感、うるおい、つっぱり、もっちり、さらさら、まろやかという使用触感について、有意な推定モデルを構築することができる。
【0075】
本形態では、評価基準の構築のために、専門パネルによる使用触感の官能評価を行っているが、専門パネルではなく、一般のユーザによる官能評価を利用して評価基準を構築することもできる。一般のユーザによる官能評価を利用して評価基準を構築した場合、未知の化粧料の評価を、ユーザが実際に感じる触感により近い基準で行うことができる。但し、専門パネルに比べて、一般のユーザの触感にはばらつきがあるため、専門パネルによる官能評価を利用する場合よりも多くの人数のユーザからのデータを収集するする必要がある。
【0076】
本形態によって推定される官能評価が時系列官能評価である場合にも、上記時間軸を考慮しない官能評価の推定の場合と同様に、データベースを構築することができる。その場合、時系列官能評価の評価期間全体、化粧料の塗布開始から所定時間経過後までの期間(塗布開始から塗布終了までの期間、及び塗布終了から所定時間経過後までの期間を含んでいてよい)のうちの所定期間における評価を推定することができる。このような所定期間における評価の推定とは、その所定期間における評価の代表値を推定することであってよい。例えば、時系列官能評価の評価期間のうち前期、中期、又は後期の使用触感の評価値を代表する値、すなわち代表評価値の推定であってよい。
【0077】
代表評価値は、例えば、通常の方法で時系列官能評価を行って、その結果をグラフで表し、そのうちの1つの評価項目についてのグラフを抽出する。そして、評価期間を複数に、例えば、前期、中期、及び後期の3つに分割する。そして、各期間における代表評価値を、その期間における評価値の積分値(面積分値)、最大値、平均値(算術平均又は幾何平均)、中央値等として求めることができる。
【0078】
さらに、時間軸を考慮しない官能評価値の推定と同様にして、振動検出及びデータ生成ステップにより求められた統計量v1~v16と、上記の代表評価値とを利用して、回帰分析を行い、統計量と代表評価値との関係を求める。関係をモデル式で表す場合には、従属変数(目的変数)が、所定の使用触感の代表評価値を含み、独立変数(説明変数)が、統計量v1~v16のうち少なくとも1つを含んでいてよい。
【0079】
(化粧料の評価)
上述のように求められた回帰式は、化粧料の使用触感を評価する上での評価基準となる。つまり、複数の既知の化粧料それぞれについて振動を検出して解析すると共に専門パネルによる官能評価を行うことによって、評価基準を構築しておけば、未知の化粧料について検出された振動に基づくデータを取得し、構築された評価基準に当てはめることで、未知の化粧料の使用触感の官能評価スコアを推定することができる。その際、未知の化粧料の振動の検出及びデータ生成は、評価基準を求める際に行った振動の検出及びデータ生成と同じ条件で行う。
【0080】
本形態において評価される化粧料は、肌上に指等で容易に塗り広げることができ、肌上に薄い被膜を形成することができる状態のものであれば、特に限定されない。化粧料のバルクでの形態は、液状、ジェル状、クリーム状、半固体状等であってよい。また、評価される化粧料としては、具体的に、化粧水、乳液、美容液等の基礎化粧品、化粧下地、ファンデーション、ハンドクリーム、ボディクリーム等が挙げられる。
【0081】
<化粧料の使用触感を評価する装置>
本形態による化粧料の使用触感を評価する装置1は、
図2及び
図3(a)に示すように、被塗布面11に塗布された化粧料に動作体12を接触させながら動作体12を動かすことによって発生する振動を経時的に検出する振動検出手段20と、検出された振動から、振動の周波数スペクトルの経時的な変化に関するデータを生成するデータ生成手段30と、生成されたデータを用いて、化粧料の使用触感を評価する評価手段40とを含む。
【0082】
<化粧料を選択する方法>
なお、上述の化粧料の使用触感を評価する方法及び化粧料の使用触感を評価する装置は、化粧料の選択等のために用いることができる。例えば、使用触感が分からない複数の化粧料を含む群から、所望の使用触感を備えた1つ以上の化粧料を選択したい場合や、顧客の所望する使用触感と同じ又はそれに近い使用触感を備えた化粧料を顧客に勧めたい場合等に利用することができる。
【0083】
具体的には、本発明の一形態は、上述の化粧料の使用触感を評価する方法を用いて、化粧料C0の使用触感を評価する第1評価ステップと、上述の化粧料の使用触感を評価する方法を用いて、前記化粧料C0とは別の複数の選択対象化粧料C1~Cn(nは整数)の使用触感をそれぞれ評価する第2評価ステップと、前記化粧料C0の使用触感と、前記複数の選択対象化粧料C1~Cnの使用触感とを比較する比較ステップと、前記化粧料C0の使用触感に最も近い使用触感を有する化粧料を、前記複数の選択対象化粧料C1~Cnの中から選択する選択ステップとを有する、化粧料を選択する方法であってよい。ここで、第1評価ステップ及び第2評価ステップで用いられる化粧料の使用触感を評価する方法は同じであることが好ましい。
【0084】
上記の化粧料を選択する方法において、化粧料C0は、例えば、顧客又はユーザが好む化粧料又は普段使用している化粧料であってよい。また、上記の複数の化粧料C1~Cnの数は、例えば、ユーザが使用を試みたいと考える化粧料の群、又は販売員等がユーザ(顧客)に勧めたいと考える化粧料の群とすることができる。複数の化粧料C1~Cnの数は、例えば2~20、好ましくは3~10とすることができる。
【0085】
上記の化粧料を選択する方法における第1評価ステップ及び第2評価ステップにおいて評価される使用触感は、同じものである。また、上記の化粧料を選択する方法を、異なる使用触感毎に複数回繰り返すこともできる。そして、その後、最終選択ステップとして、選択された回数が最も多かった化粧料を最終的に選択することができる。
【実施例】
【0086】
[実施例1]
図2に示すような評価装置1を用いて、化粧料の評価を行った。
【0087】
一方の前腕の内側の肌に、既知の化粧料を数滴滴下して広げた。腕に化粧料が滴下されなかった方の手の人差し指の爪がある側に、3軸加速度センサ(株式会社テック技販製、型式:A3AX)を装着し、塗布された化粧料の表面に指を接触させながら、2N以下の力を加えたまま動かした。この際、人差し指の指先を約30cm/秒未満の速さで移動させた。上記の動作を、化粧料を滴下して広げた直後から開始し、60秒にわたって続け、その間の振動を、上記の3軸加速度センサ(検出手段)により検出した。
【0088】
上記化粧料について検出された振動を短時間フーリエ変換し、
図5に例示したものと同様の形式で作成された、パワースペクトル密度が等しい位置を表示した分布図を得た。この際、スペクトル図の生成はMathWorks社のMATLAB(登録商標)を用いて行った。分布図には、0~500Hzの周波数の範囲でのパワースペクトル密度が表示された。
【0089】
続いて、得られた分布図を複数に分割した。本例では、
図6に示すように、縦軸を4分割(周波数を0Hz超50Hz以下、50Hz超100Hz以下,100Hz超250Hz以下、250Hz超500Hz以下の4つに分割)し、横軸を分割(時間を0秒超10秒以下、10秒超20秒以下,20秒超40秒以下、40秒超60秒以下の4つに分割)し、スペクトル図内にZ1~Z16までの領域を形成した。さらに、各領域において、パワースペクトル密度の算術平均値を求め、各値をv
1~v
16とした。
【0090】
上記の振動の検出及び解析を、計20種の既知化粧料について行い、各化粧料について算術平均値v1~v16を求めた。その一方で、上記の複数の化粧料についてそれぞれ、化粧料を最初に肌に接触させて塗る際の「さっぱりさ」という使用触感について官能評価を行った。官能評価は専門パネルによる対照サンプルとの相対比較のスコアでの評価とした。
【0091】
続いて、上記値v1~v16、及び専門パネルによる「さっぱりさ」の官能評価スコアを利用して、MathWorks社製のMatlab(登録商標)を用いて線形回帰分析を行い、回帰式を求めた。値v1~v16からの独立変数の選択は、ステップワイズ法により行った。その結果、「さっぱりさ」という使用触感の推定スコアSを従属変数とし、値v1~v16のうちv14を独立変数とする、S=-0.949*v14 なる式が得られた(各変数を標準化して分析)。このことは、「さっぱりさ」という使用触感の官能評価スコアが、v14という、所定の時間帯域及び所定の周波数帯域における周波数成分の大きさに基づいて有意に説明できることを意味する。
【0092】
図7に、上記回帰式から推定される評価値(推定値)Sと、専門パネルによる官能評価値S
0との関係を示す。推定値Sは、複数の既知化粧料についてそれぞれ、上記回帰式にv
14を代入して求めた値である。
図7によると、各プロットが、傾きがほぼ1である比例直線上に並んでいる。これにより、「さっぱりさ」に関し、上記の線形回帰分析によって求めた回帰式から算出された推定値Sが、専門パネルの官能評価のスコアに近い値S
0となることが確認できた。
【0093】
上述のように構築した評価基準を用いることで、未知の化粧料の使用触感の評価をすることができる。その際、未知の化粧料の使用触感は、評価基準の構築において行った条件と同じ条件で、振動の検出及びデータの生成を行う。これにより、未知の化粧料の解析から求められる値v14を、上式 S=-0.949*v14 に代入することで、未知の化粧料の使用触感の官能評価スコアの推定値を求めることができる。
【0094】
[実施例2]
実施例1と同様にして、振動を検出し、解析して、スペクトル図の各領域Z1~Z16においてパワースペクトル密度の算術平均値を求め、各値をv1~v16とした。上記の振動の検出及び解析を、計21種の既知化粧料について行い、各化粧料について値v1~v16を求めた。その一方で、実施例1と同様にして、上記の複数の既知化粧料についてそれぞれ、「べたつき」という使用触感について専門パネルによる官能評価を行った。
【0095】
続いて、使用触感を「べたつき」としたこと以外は実施例1と同様にして、線形回帰分析を行い、線形回帰式を求めた。その結果、「べたつき」という使用触感の推定スコアSを従属変数とし、値v1~v16のうちv10を独立変数とする、S=-0.929*v10 なる式が得られた。このことは、「べたつき」という使用触感の官能評価スコアが、v10という、所定の時間帯域及び所定の周波数帯域における周波数成分の大きさに基づいて有意に説明できることを意味する。
【0096】
図8に、上記回帰式から推定される評価値(推定値)Sと、専門パネルによる官能評価値S
0との関係を示す。推定値Sは、複数の既知化粧料についてそれぞれ、上記回帰式にv
10を代入して求めた値である。
図8によると、各プロットが、傾きがほぼ1である比例直線上に並んでいる。これにより、「べたつき」に関し、上記の線形回帰分析によって求めた回帰式から算出された推定値Sが、専門パネルの官能評価のスコアS
0に近い値となることが確認できた。
【0097】
上述のように構築した評価基準を用いることで、未知の化粧料の使用触感の評価をすることができる。その際、未知の化粧料の使用触感は、評価基準の構築において行った条件と同じ条件で、振動の検出及びデータの生成を行う。これにより、未知の化粧料から得られる振動の解析により求められる値のうちv10を、上式 S=-0.929*v10 に代入することで、未知の化粧料の使用触感の官能評価スコアの推定値を求めることができる。
【0098】
[実施例3]
実施例1、2においては、前腕の内側の肌を被塗布面とし、人差し指の指先を動作体とした。すなわち、実施例1、2においては振動発生手段10として人体を利用した。これに対し、実施例3においては、振動発生手段10において、被塗布面として、合成皮革(小松精練株式会社製、商品名:サプラーレ(登録商標))を用いた。具体的には、表面が平坦な台に上記合成皮革を貼り付け、実施例1と同様に、化粧料を滴下して広げ、実施例1、2と同様に振動の検出を行った。なお、実施例3においては、指を動かす動作を行った時間は、化粧料を滴下して広げた直後から90秒とした。
【0099】
実施例1と同様にして、パワースペクトル密度が等しい位置を表示したスペクトル図(分布図)を得て、さらに、実施例1と同様にして、スペクトル図における分割された領域それぞれにおいてパワースペクトル密度の平均値を求め、各値をv1~v16としたが、スペクトル図の横軸については、時間間隔を0秒超15秒以下、15秒超30秒以下,30秒超45秒以下、45秒超90秒以下の4つに分割した。
【0100】
実施例2と同様に「べたつき」という使用触感について専門パネルによる官能評価を行い、上記の値v1~v16及び専門パネルによる官能評価値を用いて、線形回帰分析を行い、線形回帰式を求めた。その結果、「べたつき」という使用触感の推定スコアSを従属変数とし、値v1~v16のうちv14及びv4を独立変数とする、S=-0.675*v14-0.309*v4 なる式が得られた。このことは、「べたつき」という使用触感の官能評価スコアが、v14及びv4という所定の時間帯域及び所定の周波数帯域における周波数成分の大きさに基づいて有意に説明できることを意味する。
【0101】
図9に、上記回帰式から推定される評価値(推定値)Sと、専門パネルによる官能評価値S
0との関係を示す。推定値Sは、複数の既知化粧料についてそれぞれ、上記回帰式にv
14、v
4を代入して求めた値である。
図9によると、各プロットが、傾きがほぼ1である比例直線上に並んでいる。これにより、「べたつき」に関し、上記の線形回帰分析によって求めた回帰式から算出された推定値Sが、専門パネルの官能評価のスコアS
0に近い値となることが確認できた。
【0102】
上述のように構築した評価基準を用いることで、未知の化粧料の使用触感の評価をすることができる。その際、未知の化粧料の使用触感は、評価基準の構築において行った条件と同じ条件で、振動の検出及びデータの生成を行う。これにより、未知の化粧料から得られる振動の解析により求められる値のうちz14、v4を、上式 S=-0.675*v14-0.309*v4 に代入することで、未知の化粧料の使用触感の官能評価スコアの推定値を求めることができる。
【0103】
[実施例4]
実施例4は、官能評価が時系列官能評価である場合の例であり、時系列官能評価の推定に用いるためのモデル式を作成した。
【0104】
振動の発生、検出は、実施例1と同様に行った。そして、実施例1と同様に振動を解析して、スペクトル図の各領域Z1~Z16におけるパワースペクトル密度の算術平均値を求め、各値をv1~v16とした。上記の振動の検出及び解析を、計6種の既知化粧料について行い、各化粧料について値v1~v16を求めた。
【0105】
その一方で、上記の複数の既知化粧料についてそれぞれ、TCATA法によって、一般パネル40名による時系列官能評価を行った。より具体的には、被験者に、化粧料及び塗布を開始させ、被験者は、塗布を続けながら、複数の使用触感(官能評価項目)の中で感じた1以上の使用触感を都度選択し、感じなくなった使用触感を都度解除した。項目の選択及び解除の入力は、パソコンの入力装置を通じて行い、入力の結果は、パソコンの表示装置に表示できるようにした。本実施例では、評価項目は、「とろみがある」、「のびが軽い」、「みずみずしい」、「粘着感」、の4項目であった。
【0106】
続いて、パソコンに入力されたデータを、ソフトウェア(官能評価ソフトFIZZ、BIOSYSTEMS社製)を用いて、パソコンの処理装置によって処理した。データ処理においては、単位時間ごとに各使用触感を選択した被験者の割合を優位度として算出し、経時的にプロットし、結果をグラフとして表示した。なお、所定の使用触感について、ある時点で、全ての被験者がその使用触感を選択しているのであれば、優位度は100%となり、その使用触感を選択している被験者がいないのであれば、優位度は0%となる。
【0107】
図10に、上記の結果のグラフを示す。
図10のグラフにおいては、横軸は時間(sec)であり、縦軸は優位度(%)である。各使用触感についての時系列の官能評価の推移が示されている。図示の複数の使用触感についてのグラフのうち、本例では、「とろみがある」という使用触感のグラフを抽出した。
図11に、抽出後のグラフを示す。
【0108】
さらに、
図11のグラフを時間軸方向に3分割し、前期、中期、及び後期とした。評価期間全体は100秒であったので、前期、中期、及び後期の各期間はそれぞれ約33秒であった。そして、各期間における「とろみがある」という使用触感の代表評価値を求めた。本例では、代表評価値として各期間の優位度の平均値P
a4、P
b4、及びP
c4をそれぞれ求め、各期間における代表評価値とした。
【0109】
実施例4では、上記の代表評価値のうち後期の平均値Pc4と、上述のようにして取得した値v1~v16とを用いて、モデル式を求めた。モデル式は、実施例1と同様にMathWorks社製のMatlab(登録商標)を用いて回帰分析を行うことにより求めた。値v1~v16からの独立変数の選択も、実施例1と同様にステップワイズ法によって行った。
【0110】
その結果、評価期間後期の代表評価値である平均値P
c4を従属変数とし、値v
1~v
16のうちv
6を独立変数とする、P
c4=-41.733*(logv
6)-228.93 なる式(R
2=0.7109)が得られた。この結果より、「とろみがある」という使用触感の、TCATA法における評価期間の後期の評価が、所定の時間帯域及び所定の周波数帯域における周波数成分の大きさに基づいて有意に説明できることが分かった。
図12に、グラフにて、P
c4とlogv
6との関係を示す。
【0111】
このようにして評価基準を構築し、保存しておけば、未知の化粧料の使用触感の時系列官能評価の所定の評価期間における評価を推定することができる。その際、未知の化粧料の使用触感は、評価基準の構築において行った条件と同じ条件で、振動の検出及びデータの生成を行う。これにより、未知の化粧料の解析から求められる値v6を、上記モデル式に代入することで、未知の化粧料について時系列官能評価を行った場合の、「とろみがある」という使用触感の、評価期間の後期における代表値(優位度の平均値)を推定することができる。
【0112】
[実施例5]
実施例4と同様に、振動の周波数スペクトルに関するデータの取得、解析、及び時系列官能評価等を行った。但し、実施例5では、「とろみがある」という使用触感に代えて、「粘着感」という使用触感についてのモデル式を作成した。
【0113】
実施例4と同様にして得られた時系列官能評価(
図10)のグラフから、「粘着感」という使用触感のグラフを抽出し、このグラフを、実施例4と同様に、各約33秒ずつ3分割し、前期、中期、及び後期とした。そして、各期間における「粘着感」という使用触感の代表評価値を求めた。本例では、各期間の優位度の平均値P
a5、P
b5、及びP
c5をそれぞれ求め、各期間における代表評価値とした。
図13に、抽出後のグラフを示す。
【0114】
上記の代表評価値のうち、前期の平均値P
a5と、上述のようにして取得した値v
1~v
16とを用いて、モデル式を求めた。式の求め方は、実施例4と同様である。その結果、P
a5=-16.248*(logv
6)-89.607 なる式(R
2=0.839)が得られた。この結果より、「粘着感」という使用触感の、TCATA法における評価期間の後記の評価が、所定の時間帯域及び所定の周波数帯域における周波数成分の大きさに基づいて有意に説明できることが分かった。
図14に、P
a5とlogv
6との関係を表すグラフを示す。
【0115】
このようにして構築されたモデル式を評価基準として保存しておくことができる。よって、未知の化粧料の使用触感について、評価基準の構築において行った条件と同じ条件で振動の検出及びデータの生成を行い、未知の化粧料の解析から求められる値v6を、上記モデル式に代入することで、未知の化粧料について時系列官能評価を行った場合の、「粘着感」という使用触感の、評価期間の前期における代表値(優位度の平均値)を推定することができる。
【符号の説明】
【0116】
1 評価装置
10 振動発生手段
11 被塗布面
12 動作体
15 化粧料
20 振動検出手段
30 データ生成手段
40 評価手段