(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】水膨張性耐火組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20230822BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20230822BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/00
(21)【出願番号】P 2022141778
(22)【出願日】2022-09-06
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高津 知道
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-243106(JP,A)
【文献】特開平8-319473(JP,A)
【文献】特開2017-008163(JP,A)
【文献】特開2020-023870(JP,A)
【文献】特開2018-053253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00-13/08
F16L 1/00-59/22
E21D 11/38
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーで構成されるエラストマー100質量部に対し、吸水性樹脂を2~200質量部、熱膨張性黒鉛を5~300質量部、前記熱膨張性黒鉛を除くその他無機化合物を10~300質量部を含み、
前記その他無機化合物が、シリカ及び無機リン系化合物を含み、
JIS K-6258に準じて測定した、水に14日間浸漬後の体積変化率をA、水に28日間浸漬後の体積変化率をBとしたとき、Bが70%以上であって、下記式で表される溶出率が55%未満である、水膨張性耐火組成物。
溶出率(%)={1-(B÷A)}×100
【請求項2】
前記エラストマー100質量部に対して、前記シリカを5質量部以上、前記無機リン系化合物を5質量部以上含む、請求項1に記載の水膨張性耐火組成物。
【請求項3】
前記吸水性樹脂がポリアクリル酸部分中和物の架橋体である、請求項1に記載の水膨張性耐火組成物。
【請求項4】
前記無機リン系化合物が、亜リン酸水素アルミニウム及び/又はポリリン酸アンモニウムを含む、請求項1に記載の水膨張性耐火組成物。
【請求項5】
排水配管の継ぎ手部分に用いられる、請求項1乃至請求項4のうち何れか1項に記載の水膨張性耐火組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水材および耐火材として使用可能な水膨張性耐火組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
土木・建築分野では、トンネル内セグメントや地下ヒューム管あるいは上下水道用U字溝など様々な管の接続部に、漏水防止や止水の目的でテープ状やフィルム状等に成形された水膨張性止水材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、火災発生等の際に、加熱により膨張し延焼を防止することのできる耐火材が知られている。従来、このような熱膨張性を有する耐火材として、マトリクス樹脂に熱膨張性黒鉛を含有したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
一方で排水配管分野では、止水性能と耐火性能の両方を求められる場合がある(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-063450号公報
【文献】特開2018-100410号公報
【文献】特開2011-85012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、止水性と耐火性能の両方の性能を備えつつ、可撓性と難燃性を備え持つ水膨張性耐火組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、特定の配合の組成物を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーで構成されるエラストマー100質量部に対し、吸水性樹脂を2~200質量部、熱膨張性黒鉛を5~300質量部、前記熱膨張性黒鉛を除くその他無機化合物を10~300質量部を含み、前記その他無機化合物が、シリカ及び無機リン系化合物を含み、JISK-6258に準じて測定した、水に14日間浸漬後の体積変化率をA、水に28日間浸漬後の体積変化率をBとしたとき、Bが70%以上であって、下記式で表される溶出率が55%未満である、水膨張性耐火組成物。溶出率(%)={1-(B÷A)}×100
[2]前記エラストマー100質量部に対して、前記シリカを5質量部以上、前記無機リン系化合物を5質量部以上含む、[1]に記載の水膨張性耐火組成物。
[3]前記吸水性樹脂がポリアクリル酸部分中和物の架橋体である、[1]又は[2]に記載の水膨張性耐火組成物。
[4]前記無機リン系化合物が、亜リン酸水素アルミニウム及び/又はポリリン酸アンモニウムを含む、[1]乃至[3]のうち何れか1項に記載の水膨張性耐火組成物。
[5]排水配管の継ぎ手部分に用いられる、[1]乃至[4]のうち何れか1項に記載の水膨張性耐火組成物。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】止水性能評価に用いた鋼製止水試験機の概要図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
1.水膨張性耐火組成物
<エラストマー>
エラストマーは、ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーで構成される。ゴムは、熱硬化性エラストマーである。熱可塑性エラストマーは、加熱によって軟化し流動性を示す性質を有するエラストマーであり、このような性質を有さないゴムと区別可能である。
【0012】
ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、エチレン・酢ビゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、再生ゴムなどの架橋可能なゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
【0013】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0014】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロック及び共役ジエンを主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体が好ましい。ビニル芳香族炭化水素としては、例えば、スチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロルスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン等があり、これらは単体だけでなく2種以上を組み合わせて使用しても良い。共役ジエンとしては1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等があり、これらは単体だけでなく2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0015】
スチレン系熱可塑性エラストマーの具体的な例としては、スチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン(SIS)共重合体、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)共重合体、スチレン・イソプレン・水添スチレン・イソプレン・スチレン(SEPS)共重合体、スチレン・エチレンプロピレン(SEP)共重合体、スチレン・エチレンプロピレン・スチレン(SEPS)共重合体、スチレン・エチレン‐エチレンプロピレン・スチレン(SEEPS)共重合体、等が挙げられる。スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量は、例えば15質量%以上70質量%以下であり 、20質量%以上60質量%以下が好ましい。この含有量は、例えば、5、10、15、18、20、23、25、30、31、35、40、45、50、55、60、65、70質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0016】
これらのゴム及び/又は熱可塑性エラストマーは、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0017】
<吸水性樹脂>
吸水性樹脂とは、SAP(Super Absorbent Polymer)とも呼ばれ、自重の300倍から2000倍の水を吸収する吸水性能と、その水を非常に安定した状態で保持する保水性能とを持った高分子重合体である。吸水性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸部分中和物(例:アクリル酸重合体部分ナトリウム塩、アクリル酸グラフト重合体部分ナトリウム塩)やその架橋体、澱粉-アクリル酸グラフト重合体塩やその架橋体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体のケン化物やその架橋体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸-アクリル酸共重合体塩やその架橋体などのアクリル系重合体;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウムなどのセルロース系化合物;ポリアルキレンオキサイドや、変性ポリアルキレンオキサイド等のアルキレンオキサイド系重合体;澱粉-アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、アクリロニトリル共重合体若しくはアクリルアミド共重合体の加水分解物またはこれらの架橋体、カチオン性モノマーの架橋体、架橋イソブチレンーマレイン酸共重合体等が挙げられる。吸水性樹脂は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
このなかでも、アクリル系重合体、アルキレンオキサイド系重合体、及びセルロース系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましく、アクリル系重合体が特に好ましい。アクリル系重合体は、ポリアクリル酸部分中和物の架橋体が特に好ましい。このような吸水性樹脂を用いることにより、水膨張性がより向上する傾向にある。
【0019】
吸水性樹脂の含有量は、エラストマー100質量部に対して、2~200質量部であり、好ましくは25~150質量部であり、より好ましくは40~105質量部である。吸水性樹脂の含有量が2質量部未満であると、水膨張性が悪い。また、吸水性樹脂の含有量が200質量部を超えると、吸水後の形状安定性と難燃性が悪い。吸水性樹脂の含有量は、エラストマー100質量部に対して、例えば、2、5、10、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、105、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0020】
<熱膨張性黒鉛>
熱膨張性黒鉛は、天然グラファイト、熱分解グラファイト等の粉末を、硫酸、硝酸等の無機酸と濃硝酸、過マンガン酸塩等の強酸化剤とで処理されたものであり、グラファイト層状構造を維持した結晶化合物である。これらは200℃程度以上の温度に曝されると、例えば、100倍以上に熱膨張するものである。なお、これら天然グラファイト、熱分解グラファイト等の粉末は、脱酸処理に加え、更に中和処理したタイプ他、各種品種があるがいずれも使用できる。
【0021】
熱膨張性黒鉛の含有量は、エラストマー100重量部に対して5~300重量部であり、25~220重量部が好ましく、40~140重量部がさらに好ましい。熱膨張性黒鉛の含有量が5重量部未満であると、火災時における耐火材の熱膨張性が悪くなるのと、熱膨張性黒鉛による吸水性樹脂の水への溶出が抑えられない。つまり、熱膨張性黒鉛を配合することによって、吸水性樹脂の溶出を抑制することができる。一方で、熱膨張性黒鉛の含有量が300重量部を超えると、熱膨張後の耐火材の形状安定性と水膨張性が悪くなる。熱膨張性黒鉛の含有量は、エラストマー100質量部に対して、例えば、5、10、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、250、300質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0022】
<熱膨張性化合物を除くその他無機化合物無機>
その他無機化合物は、シリカと、無機リン系化合物と、を含む。
【0023】
シリカは、二酸化ケイ素、もしくは二酸化ケイ素によって構成される物質の総称であり、シリカという呼び名のほかに無水ケイ酸、ケイ酸、酸化シリコンと呼ばれることもある。シリカは圧力や温度などの条件により、様々な形(結晶多形)をとり、結晶性シリカと、非結晶性シリカの2つに大別される。
【0024】
無機リン系化合物は、リン酸系化合物、亜リン酸系化合物、次亜リン酸系化合物、メタリン酸系化合物、ピロリン酸系化合物及びポリリン酸系化合物のうちの少なくとも1種を含む化合物である。
【0025】
リン酸系化合物としては、例えば、第1リン酸アルミニウム、第1リン酸ナトリウム、第1リン酸カリウム、第1リン酸カルシウム、第1リン酸亜鉛、第2リン酸アルミニウム、第2リン酸ナトリウム、第2リン酸カリウム、第2リン酸カルシウム、第2リン酸亜鉛、第3リン酸アルミニウム、第3リン酸ナトリウム、第3リン酸カリウム、第3リン酸カルシウム、第3リン酸亜鉛、第3リン酸マグネシウム、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三カルシウム、リン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0026】
亜リン酸系化合物としては、例えば、亜リン酸アルミニウム、亜リン酸水素アルミニウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛などが挙げられる。
【0027】
次亜リン酸系化合物としては、例えば、次亜リン酸アルミニウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸亜鉛などが挙げられる。
【0028】
メタリン酸系化合物としては、例えば、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸亜鉛、ヘキサメタリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0029】
ピロリン酸系化合物としては、例えば、ピロリン酸ナトリウムが挙げられる。
【0030】
ポリリン酸系化合物としては、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0031】
その他無機化合物は、シリカ、無機リン系化合物以外の無機化合物を含んでもよい。そのような無機化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、アルミナ、アルミノシリケート、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩(炭酸カルシウムを除く);硫酸カルシウム、けい酸カルシウム等のカルシウム塩;珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、マイカ、活性白土、イモゴライト、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化けい素、カーボンブラック、グラファイト、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化けい素、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、フライアッシュ、無機中空フィラー、パーライト、黒曜岩、真珠岩、松脂岩、珪藻土、脱水汚泥、ホウ素、ガラス繊維、四ホウ酸ナトリウム水和物(ホウ砂)、粘土鉱物などが挙げられる。
【0032】
粘土鉱物としては、例えば、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト等のスメクタイト系粘土、セピオライト、パリゴルスカイト等の繊維状粘土、絹雲母(セリサイト)、イライト、海緑石(グローコナイト)、緑泥石(クロライト)、滑石(タルク)、沸石(ゼオライト)、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト、クリストパライト、スメクタイト、カオリンなどが挙げられる。
【0033】
その他無機化合物の含有量は、エラストマー100重量部に対して10~300重量部であり、25~220重量部が好ましく、40~140重量部がさらに好ましい。無機化合物の含有量が10重量部未満であると、難燃性が悪くなる。一方で、無機化合物の含有量が300重量を超えると、可撓性が悪くなる。その他無機化合物の含有量は、エラストマー100質量部に対して、例えば、10、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、250、300質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0034】
シリカ及び無機リン系化合物の含有量は、それぞれ、エラストマー100質量部に対して、5質量部以上が好ましい。この場合、水膨張性と加熱後形状安定性の両立化が出来る。シリカと無機リン系化合物の含有量は、それぞれ、エラストマー100質量部に対して、5~295質量部であり、5~150質量部が好ましく、10~110質量部がさらに好ましく、20~70質量部がさらに好ましく、例えば、5、10、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、250、295質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。[シリカの含有量/無機リン系化合物の含有量]の値は、例えば、0.5~2.0であり、0.8~1.2が好ましい。この値は、例えば、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0035】
<その他成分>
本実施形態の水膨張性耐火組成物は、上記成分の他に必要に応じて、通常のゴム又は熱可塑性エラストマーに使用される架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、エラストマー以外の樹脂(例:粘着付与剤樹脂)、軟化剤、滑剤、分散剤、有機繊維などのその他成分を含有することができる。その他成分の総量は、エラストマー100質量部に対して、例えば0~50質量部であり、例えば、0、10、20、30、40、50質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0036】
2.水膨張性耐火組成物の物性
本実施形態の水膨張性耐火組成物は、水に14日間浸漬後の体積変化率をA、水に28日間浸漬後の体積変化率をBとしたとき、Bが70%以上であって、下記式で表される溶出率が55%未満である。この場合、止水性が特に良好になりやすい。体積変化率A及びBは、後述する実施例で示す方法で測定することができる。溶出率は、以下の式に基づいて算出することができる。
溶出率(%)={1-(B÷A)}×100
【0037】
体積変化率A及びBは、例えば、70~500%であり、例えば、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300、400、500%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。溶出率は、例えば0~54.9%であり、例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、54、54.5、54.9%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0038】
3.水膨張性耐火組成物の製造方法及び用途
本実施形態の水膨張性耐火組成物は、必要な成分を混練することにより製造することができる。また、水膨張性耐火組成物を用いた成形体は、水膨張性耐火組成物をプレス等によって成形することによって製造することができる。この成形体は、シール材として利用することができる。
【0039】
配合物を混練する装置としては、従来公知のミキサー、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、二本ロール等の混練装置がある。混練した配合物を成形する装置としては、従来公知のプレス成形、押出成形、カレンダー成形等の成形装置がある。また、成形体の形状は、シート状やテープ状など適宜用途に合わせて設計すればよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。なお、以下、各物質の使用量の単位は質量部である。
【0041】
1.水膨張性耐火組成物の調整
表1~表4に記載の各成分を、3L加圧ニーダー(モリヤマ社製、型式:DS3-10MWB-S)を用いて、100℃で10分間混練することによって、実施例及び比較例の水膨張性耐火組成物を得た。なお、表中に記載する各物質の使用量の単位は特に断りがない限り質量部である。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
表中の各成分の詳細は、以下のとおりである。
<エラストマー>
・ブチルゴム:JSR株式会社製、「ブチル268」
・EPDM:住友化学株式会社製、「エスプレン505」
<吸水性樹脂>
・アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物:株式会社日本触媒製、「アクアリックCS-6S」
・カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na):林純薬工業株式会社製
<熱膨張性化合物>
・熱膨張性黒鉛:ADT社製、「ADT501」
・バーミキュライト:巴化学工業株式会社製、「バーミキュライト0.3-1.7mm」
<熱膨張性化合物を除く無機化合物>
・シリカ:東ソー・シリカ株式会社製、「Nipsil VN3」
・亜リン酸水素アルミニウム:太平化学産業株式会社製、「NSF」
・ポリリン酸アンモニウム:SCM Industrial Chemical Co.,Ltd.,製、「HP-APP II」
・炭酸カルシウム:秩父石灰工業株式会社製、「TA-044」
【0047】
2.評価
実施例及び比較例により得られた水膨張性耐火組成物をプレス機(温度:80℃、時間:1分)で厚さ2mm、若しくは3mmのシート状の成形体に加工し、得られた成形体を用いて、以下に示す各種評価を行った。その結果を表1~表4に示す。
【0048】
表1~表4に示すように、全ての実施例は、止水性と耐火性能の両方の性能を備えつつ、可撓性と難燃性を備えていた。一方、全ての比較例は、止水性、耐火性能、可撓性、及び難燃性の少なくとも1つが良好でなかった。
【0049】
<体積変化率及び溶出率>
JIS K-6258に準じ、厚さ2mm、幅20mm、長さ20mmの成形体を23℃にて水に14日間又は28日間浸漬後、以下の式にて浸漬前後における体積変化率を算出した。
体積変化率(%)=((c-d)-(a-b))/(a-b)×100
a:水浸漬前の空中重量、b:水浸漬前の水中重量
c:水浸漬後の空中重量、d:水浸漬後の水中重量
【0050】
また、水に14日間浸漬後の体積変化率をA、水に28日間浸漬後の体積変化率をBとし、下記式に基づいて溶出率を算出した。
溶出率(%)={1-(B÷A)}×100
【0051】
<水膨張後形状安定性>
厚さ2mm、幅20mm、長さ20mmの成形体を23℃にて水に7日間浸漬後、成形体の形状安定性を目視にて観察し、以下の基準で水膨張後形状安定性を判定した。
◎:水膨張後の成形体に亀裂の発生は認められない
○:水膨張後の成形体に亀裂の発生は認められるが水中から取り出しても崩れない
×:水膨張後の成形体を水中から取り出すと崩れる
【0052】
<止水性>
厚さ3mmの試験片を、
図1に示す外径50cmの鋼製止水試験機に設置し、発泡成形体の高さの1/2まで圧縮(50%圧縮)し、水圧0.1MPa、0.2MPa、および0.3MPaでそれぞれ28日間加圧し、漏水の有無を目視で観察して、以下の基準で止水性を判定した。
◎:水圧0.3MPaで漏水なし
○:水圧0.2MPaで漏水なしだが、0.3MPaで漏水有
△:水圧0.1MPaで漏水なしだが、0.2MPaで漏水有
×:水圧0.1MPaで漏水有
【0053】
<熱膨張性>
厚さ2mm、幅20mm、長さ20mmの試験片を300℃で0.5時間熱処理し、その膨張倍率を測定した。具体的には、熱処理後の体積を、熱処理前の体積で除することにより、体積膨張倍率を算出し、以下の基準で熱膨張性を判定した。なお、体積は、圧さ、幅、長さを実測して算出した。
◎:体積膨張倍率が10倍以上
○:体積膨張倍率が8倍以上10倍未満
△:体積膨張倍率が6倍以上8倍未満
×:体積膨張倍率が6倍未満
【0054】
<加熱後形状安定性>
上記の熱膨張性を評価した後、3点曲げ試験治具(上部押し側先端R1mmおよび幅80mm、下部2点支点側R1mm、幅80mm、支点間距離20mm)を用い、熱膨張後の試験片を圧縮速度50mm/minの条件にて破壊した際の強度(3点曲げ破壊強度)を測定した。そして、以下の基準で形状安定性を判定した。
◎:3点曲げ破壊強度が1.0N以上
○:3点曲げ破壊強度が0.7N以上1.0N未満
△:3点曲げ破壊強度が0.5N以上0.7N未満
×:3点曲げ破壊強度が0.5N未満
【0055】
<可撓性>
厚さ1mm、幅25mm、長さ100mmのSUS304板に両面テープを貼ったものを2枚用意し、長さ方向に3mmの間隔をあけて横並びにする。そこに厚さ2mm、幅10mm、長さ100mmの試験片を貼り、試料片を貼った面とは逆方向に折り曲げ、試験片に亀裂が入った時点での角度を測定し、以下の基準で可撓性を判定した。なお、亀裂が入ったときの角度が大きいほど、可撓性が良好であることを示す。
◎:180度の角度でも亀裂なし
○:150度以上180度未満の角度で亀裂が発生
△:135度以上150度未満の角度で亀裂が発生
×:135度未満の角度で亀裂が発生
【0056】
<難燃性>
JIS K6269に準じて燃焼試験装置(スガ試験機(株)製,ON-1型)を用いて酸素指数を測定し、以下の基準で難燃性を判定した。なお、酸素指数が大きいほど、難燃性が高いことを示す。
◎:酸素指数が40以上
○:酸素指数が35以上40未満
△:酸素指数が30以上35未満
×:酸素指数が30未満
【符号の説明】
【0057】
1 試験片
2 止水圧試験機
3 ボルト
4 入水口
5 排水口
6 水圧計
7 50%圧縮時使用のスペーサー
【要約】
【課題】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、止水性と耐火性能の両方の性能を備えつつ、可撓性と難燃性を備え持つ水膨張性耐火組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーで構成されるエラストマー100質量部に対し、吸水性樹脂を2~200質量部、熱膨張性黒鉛を5~300質量部、前記熱膨張性黒鉛を除くその他無機化合物を10~300質量部を含み、前記その他無機化合物が、シリカ及び無機リン系化合物を含み、JISK-6258に準じて測定した、水に14日間浸漬後の体積変化率をA、水に28日間浸漬後の体積変化率をBとしたとき、Bが70%以上であって、下記式で表される溶出率が55%未満である、水膨張性耐火組成物。溶出率(%)={1-(B÷A)}×10が提供される。
【選択図】
図1