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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】質量分析システムの較正
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/00 20060101AFI20230822BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230822BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20230822BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
H01J49/00 090
G01N27/62 B
G01N30/72 G
H01J49/42 150
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022541705
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2021050237
(87)【国際公開番号】W WO2021140178
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】20151159.9
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100138759
【弁理士】
【氏名又は名称】大房 直樹
(72)【発明者】
【氏名】アレンス,ナジャ
(72)【発明者】
【氏名】インテルマン,ダニエル
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】Fabio Garofolo,LC-MS INSTRUMENT CALIBRATION,Analytical Method Validation and Instrument Performance Verification,John Wiley & Sons, Inc.,2004年01月,pp.197-220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00
G01N 27/62
G01N 30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料を分析するためのシステムであって、
前記生物学的試料から成分を分離するように構成された分離ユニットと、
前記成分から複数のイオンを生成するように構成されたイオン化ユニットと、
調整可能な質量選択性フィルタリング要素と、
前記質量選択性フィルタリング要素を通過するイオンを検出するように構成された検出器と、
前記質量選択性フィルタリング要素および前記検出器に接続されたコントローラであって、前記システムの動作中に、前記コントローラが、
前記質量選択性フィルタリング要素を調整し、前記検出器を作動させて、前記複数のイオンに対応する少なくとも3つの異なるイオン信号を測定し、前記少なくとも3つの異なるイオン信号のそれぞれが、前記複数のイオンのうちの共通イオンタイプに対応し、
前記少なくとも3つの異なるイオン信号に基づいて前記システムの質量軸シフトを決定する、ように構成されるコントローラと、を備える、システム。
【請求項2】
前記3つの異なるイオン信号のそれぞれが、前記質量選択性フィルタリング要素の異なる質量電荷比に対応する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記質量選択性フィルタリング要素が、四重極電極アセンブリを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記共通イオンタイプが、関連する質量電荷値qを有し、前記コントローラが、前記検出器を作動させて、(q-a)<qの質量電荷比を有するイオンを通過させるように調整された前記質量選択性フィルタリング要素を有する前記少なくとも3つの異なるイオン信号のうちの第1のイオン信号を測定するように構成される、請求項に記載のシステム。
【請求項5】
aが0.4原子質量単位(amu)以下である、請求項に記載のシステム。
【請求項6】
前記コントローラが、前記システムの動作中に、前記コントローラが前記検出器を作動させて、(q+b)>qの質量電荷比を有するイオンを通過させるように調整された前記質量選択性フィルタリング要素を用いて前記少なくとも3つの異なるイオン信号のうちの第2のイオン信号を測定するように構成される、請求項に記載のシステム。
【請求項7】
bが0.4amu以下である、請求項に記載のシステム。
【請求項8】
前記コントローラが、前記システムの動作中に、前記コントローラが前記検出器を作動させて、qの質量電荷比を有するイオンを通過させるように調整された前記質量選択性フィルタリング要素を有する前記少なくとも3つの異なるイオン信号のうちの第3のイオン信号を測定するように構成される、請求項に記載のシステム。
【請求項9】
前記コントローラが、前記システムの動作中に、前記コントローラが前記少なくとも3つの異なるイオン信号の属性値に基づいて前記質量軸シフトを決定するように構成される、請求項に記載のシステム。
【請求項10】
前記コントローラが、前記システムの動作中に、前記コントローラが関数形を前記属性値に適合させ、前記関数形の極大値を決定し、前記関数形の前記極大値に基づいて前記質量軸シフトを決定するように構成される、請求項に記載のシステム。
【請求項11】
前記関数形が、ガウス関数または多項式関数からなる群から選択される少なくとも1つのメンバに対応する、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記共通イオンタイプが、関連する質量電荷値qを有し、前記コントローラが、前記システムの動作中に、前記コントローラが前記質量電荷値qに対する前記関数形の前記極大値に関連付けられる質量シフトを決定することによって前記質量軸シフトを決定するように構成される、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記コントローラが、前記システムの動作中に、前記コントローラが前記質量軸シフトに基づいて前記質量選択性フィルタリング要素の質量軸較正を調整するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記コントローラが、前記システムの動作中に、前記コントローラが、
前記検出器によって測定され且つ前記生物学的試料に対応する少なくとも1つのイオン信号の属性の値を決定し、
前記属性値が前記属性について選択された値の範囲外である場合、前記システムの新たな質量軸シフト値を決定し、前記新たな質量軸シフト値に基づいて前記質量選択性フィルタリング要素の前記質量軸較正を調整するように構成される、請求項13に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、質量分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析(MS)システムは、その高い分解能および特定の他の分析方法と比較して比較的小さい試料体積を分析する能力のために、生物学的試料の分析に広く使用されている。分析ワークフローの一部として、質量分析システムは、液体クロマトグラフィ(LC)分離システムに結合されることができる。体液などの複雑な試料がLC分離システムに注入され、連続的に溶出した成分に分離され、次いでMSシステムにおいて分析されることができる。LC分離と選択的MSベースの分析との組み合わせは、多種多様な異なる試料を定量的に分析することを可能にする。
【発明の概要】
【0003】
質量分析システムは、様々な方法を使用して較正されることができる。試料を分析する前に、そのようなシステムは、典型的には、測定された質量電荷比(m/z)が既知の値と一致することを確実にするために初期較正を受ける。そのようなシステムが比較的長期間にわたって使用され続ける場合、初期較正は、温度変動などの要因のためにドリフトする可能性がある。再較正なしでシステムを使用し続けると、不正確なイオンm/z測定値を生み出す可能性がある。そのような測定は、典型的には分析物を識別するために使用されるため、誤ったまたは異常な識別が生じる可能性がある。
【0004】
質量分析システムの較正は、「標準」(または基準)試料を導入し、標準試料によって生成されたイオン分裂パターンを測定することによって行われることができる。しかしながら、液体クロマトグラフィカラムに結合された質量分析システムの場合、標準試料を導入することは、質量分析システムからカラムを切り離して標準試料を導入し、質量分析システムを「オフライン」モードにすることを含むことができる。標準試料の性質に応じて、イオン化パラメータおよび他のプロセスパラメータも調整される必要があり得る。試料を分析するために連続的またはほぼ連続的に使用される質量分析システムの場合、装置構成の変更およびシステムの再較正に関連付けられるダウンタイムは、利用率の低下をもたらし、全体的な試料測定スループットに悪影響を及ぼす。
【0005】
本開示は、LC-MSシステムのためにオンラインで実行されることができる較正手順を実施するシステムおよび方法を特徴とする。質量分析計は、クロマトグラフィシステムから切り離されたり、そうでなければ較正のためにオフラインにされたりすることがなく、その結果、較正は、迅速且つ正確に実行されることができ、較正されたシステムは、短い間隔のみの後に使用に戻されることができる。較正は、LCおよびMSシステムの連結解除を伴わないことから、較正は、技術者によって、または完全に自動化された方法でさえも、著しい機械的介入および機器の再構成なしに容易に実行されることができる。臨床環境で動作する機器の場合、特に、そのような介入なしで較正を実行することが非常に望ましい場合がある。
【0006】
一態様では、本開示は、生物学的試料を分析するためのシステムであって、生物学的試料から成分を分離するように構成された分離ユニットと、成分から複数のイオンを生成するように構成されたイオン化ユニットと、調整可能な質量選択性フィルタリング要素と、質量選択性フィルタリング要素を通過するイオンを検出するように構成された検出器と、質量選択性フィルタリング要素および検出器に接続されたコントローラと、を含み、コントローラが、システムの動作中に、コントローラが質量選択性フィルタリング要素を調整し、検出器を作動させて複数のイオンに対応する少なくとも3つの異なるイオン信号を測定し、少なくとも3つの異なるイオン信号に基づいてシステムの質量軸シフトを決定するように構成される、システムを特徴とする。
【0007】
別の態様では、本開示は、生物学的試料を分析するためのシステムであって、生物学的試料から成分を分離する分離ユニットと、成分から複数のイオンを生成するイオン化ユニットと、調整可能な質量選択性フィルタリング要素と、質量選択性フィルタリング要素を通過するイオンを検出するように構成された検出器と、質量選択性フィルタリング要素および検出器に接続されたコントローラと、を含む、システムを特徴とする。コントローラは、システムの動作中に、コントローラが、第1の質量電荷比qを有するイオンが質量選択性フィルタリング要素を通過するように質量選択性フィルタリング要素を調整し、検出器を作動させて、複数のイオンのうちの共通イオンタイプに対応する第1のイオン信号を測定し、第2の質量電荷比q<qが質量選択性フィルタリング要素を通過し、検出器を作動させて、共通イオンタイプに対応する第2のイオン信号を測定し、第3の質量電荷比q>qを有するイオンが質量選択性フィルタリング要素を通過するように質量選択性フィルタリング要素を調整し、検出器を作動させて、共通イオンタイプに対応する第3のイオン信号を測定し、第1、第2、および第3のイオン信号のそれぞれの強度最大値を決定し、強度最大値を、qからqの質量電荷比範囲内の極大値を含む関数形に適合させ、第1のイオン信号の強度最大値に対する極大値のシフトに基づいてシステムの質量軸シフトを決定する、ように構成され、(q-q)が0.4原子質量単位(amu)以下であり、(q-q)が0.4原子質量単位(amu)以下である。
【0008】
システムのいずれかの実施形態は、以下の特徴のいずれか1つ以上を含むことができる。
【0009】
3つの異なるイオン信号のそれぞれは、質量選択性フィルタリング要素の異なる質量電荷比に対応することができる。質量選択性フィルタリング要素は、質量電荷比に対応するイオンが質量選択性フィルタリング要素を通過するように構成されることができる。コントローラは、システムの動作中に、コントローラが質量選択性フィルタリング要素の電極に印加される1つ以上の電位を調整することによって質量選択性フィルタリング要素を調整するように構成されることができる。質量選択性フィルタリング要素は、四重極電極アセンブリを含むことができる。
【0010】
少なくとも3つの異なるイオン信号のそれぞれは、複数のイオンのうちの共通イオンタイプに対応することができる。共通イオンタイプは、関連する質量電荷比値qを有することができ、コントローラは、質量選択性フィルタリング要素が(q-a)<qの質量電荷比を有するイオンを通過させるように調整された状態で、少なくとも3つの異なるイオン信号のうちの第1のイオン信号を測定するために検出器を作動させるように構成されることができる。値aは、0.4原子質量単位(amu)以下(例えば、0.2amu以下)とすることができる。コントローラは、システムの動作中に、コントローラが検出器を作動させて、(q+b)>qの質量電荷比を有するイオンを通過させるように調整された質量選択性フィルタリング要素を有する少なくとも3つの異なるイオン信号のうちの第2のイオン信号を測定するように構成されることができる。値bは、0.4amu以下(例えば、0.2amu以下)とすることができる。コントローラは、システムの動作中に、コントローラが検出器を作動させて、qの質量電荷比を有するイオンを通過させるように調整された質量選択性フィルタリング要素を有する少なくとも3つの異なるイオン信号のうちの第3のイオン信号を測定するように構成されることができる。
【0011】
コントローラは、システムの動作中に、コントローラが少なくとも3つの異なるイオン信号の属性値に基づいて質量軸シフトを決定するように構成されることができる。属性は、少なくとも3つの異なるイオン信号のそれぞれのピーク強度および/または少なくとも3つの異なるイオン信号のそれぞれの下の面積および/または少なくとも3つの異なるイオン信号のそれぞれのピーク幅および/または少なくとも3つの異なるイオン信号のそれぞれの微分信号の大きさを含むことができる。
【0012】
コントローラは、システムの動作中に、コントローラが属性値に関数形を適合させ、関数形の極大値を決定し、関数形の極大値に基づいて質量軸シフトを決定するように構成されることができる。関数形は、ガウス関数または多項式関数に対応することができる。
【0013】
コントローラは、システムの動作中に、コントローラが、関数形の極大値に関連付けられる質量シフトを決定することによって質量軸シフトを決定するように構成されることができる。共通イオンタイプは、関連する質量電荷値qを有することができ、コントローラは、システムの動作中に、コントローラが質量電荷値qに対する関数形の極大値に関連付けられる質量シフトを決定するように構成されることができる。関数形の極大値に関連する質量シフトは、質量軸シフトに対応することができる。
【0014】
コントローラは、システムの動作中に、コントローラが質量軸シフトに基づいて質量選択性フィルタリング要素の質量軸較正を調整するように構成されることができる。少なくとも3つの異なるイオン信号は、5つ以上(例えば、7つ以上)の異なるイオン信号を含むことができる。
【0015】
共通イオンタイプは、関連する質量電荷比値qを有することができ、コントローラは、少なくとも3つの異なるイオン信号のうちのn個の異なるイオン信号を測定するように検出器を作動させるように構成されることができ、n個の異なるイオン信号のそれぞれは、(q-a)<qの異なる質量電荷比を有するイオンを通過させるようにコントローラによって調整された質量選択性フィルタリング要素を用いて測定され、nは2以上(例えば、nは3以上)である。
【0016】
コントローラは、少なくとも3つの異なるイオン信号のうちのm個の異なるイオン信号を測定するように検出器を作動させるように構成されることができ、m個の異なるイオン信号のそれぞれは、(q+b)>qの異なる質量電荷比を有するイオンを通過させるようにコントローラによって調整された質量選択性フィルタリング要素を用いて測定され、mは2以上(例えば、mは3以上)である。nおよびmの値は異なっていてもよい。
【0017】
コントローラは、システムの動作中に、コントローラがシステムの新たな質量軸シフト値を周期的に決定し、新たな質量軸シフト値に基づいて質量選択性フィルタリング要素の質量軸較正を調整するように構成されることができる。
【0018】
システムは、システムの構成要素の温度またはシステムの環境の温度を測定するように構成された温度センサを含むことができ、コントローラは、システムの動作中に、コントローラがシステムの新たな質量軸シフト値を決定し、測定された温度が選択された温度範囲外である場合、新たな質量軸シフト値に基づいて質量選択性フィルタリング要素の質量軸較正を調整するように構成される。
【0019】
コントローラは、システムの動作中に、コントローラが、検出器によって測定され且つ生物学的試料に対応する少なくとも1つのイオン信号の属性の値を決定し、属性値が属性について選択された値の範囲外である場合、システムの新たな質量軸シフト値を決定し、新たな質量軸シフト値に基づいて質量選択性フィルタリング要素の質量軸較正を調整するように構成されることができる。属性は、イオン信号のピーク強度、イオン信号の幅、イオン信号の下の面積、およびイオン信号の微分信号から得られる値からなる群から選択されるメンバに対応することができる。
【0020】
質量選択性フィルタリング要素は、第1の質量選択性フィルタリング要素とすることができ、少なくとも3つの異なるイオン信号は、少なくとも3つの異なるイオン信号の第1のセットとすることができ、システムの質量軸シフトは、第1の質量選択性フィルタリング要素に関連付けられることができ、システムは、第1の質量選択性フィルタリング要素の下流に配置された第2の質量選択性フィルタリング要素を含むことができる。コントローラは、第2の質量選択性フィルタリング要素に接続されることができ、システムの動作中に、コントローラが第2の質量選択性フィルタリング要素を調整し、検出器を作動させて、複数のイオンに対応する少なくとも2つの異なるイオン信号の第2のセットを測定し、少なくとも2つの異なるイオン信号の第2のセットに基づいて第2の質量選択性フィルタリング要素に関連付けられるシステムの質量軸シフトを決定するように構成されることができる。コントローラは、システムの動作中に、コントローラが、第2の質量選択性フィルタリング要素に関連付けられる質量軸シフトに基づいて第2の質量選択性フィルタリング要素の質量軸較正を調整するように構成されることができる。
【0021】
試料の成分は、生物学的試料の第1の成分とすることができ、複数のイオンは、第1の複数のイオンとすることができ、質量軸シフトは、第1の成分に関連付けられた第1の質量軸シフトとすることができ、分離ユニットは、生物学的試料から第2の成分を分離するように構成されることができ、イオン化ユニットは、第2の成分から第2の複数のイオンを生成するように構成されることができ、コントローラは、システムの動作中に、コントローラが、質量選択性フィルタリング要素を調整し、検出器を作動させて、第2の複数のイオンに対応する少なくとも3つの異なるイオン信号を測定し、第2の複数のイオンに対応する少なくとも3つの異なるイオン信号に基づいて、第2の成分に関連付けられるシステムの第2の質量軸シフトを決定するように構成されることができる。第1および第2の成分は異なっていてもよい。コントローラは、システムの動作中に、コントローラが第1および第2の質量軸シフトに基づいてシステムの全体的な質量軸シフトを決定するように構成されることができる。コントローラは、システムの動作中に、コントローラが第1および第2の質量軸シフトを平均化することによってシステムの全体的な質量軸シフトを決定するように構成されることができる。
【0022】
分離ユニットは、少なくとも1つのクロマトグラフィカラムを含むことができる。分離ユニットは、液体クロマトグラフィによって生物学的試料から成分を分離することができる。
【0023】
システムの実施形態はまた、本明細書に記載の他の特徴のいずれかを含むことができ、特に明記しない限り、同じまたは異なる実施形態に関連して記載された特徴の任意の組み合わせを含むことができる。
【0024】
別の態様では、本開示は、生物学的試料を分析するためのシステムの質量軸シフトを決定するための方法であって、成分を生物学的試料から分離することと、成分から複数のイオンを生成することと、システムの質量選択性フィルタリング要素を調整することと、少なくとも3つの異なるイオン信号を測定することであって、各イオン信号が、複数のイオンのうちの共通イオンタイプおよび質量選択性フィルタリング要素を通過するイオンの異なる質量電荷比に対応する、測定することと、少なくとも3つの異なるイオン信号に基づいてシステムの質量軸シフトを決定することであって、イオン信号に対応する質量電荷比のうちの任意の2つの差が0.5原子質量単位(amu)未満である、決定することと、を含む、方法を特徴とする。
【0025】
本方法の実施形態は、以下の特徴のいずれか1つ以上を含むことができる。
【0026】
3つの異なるイオン信号のそれぞれは、質量選択性フィルタリング要素の異なる質量電荷比に対応することができる。質量選択性フィルタリング要素は、質量電荷比に対応するイオンが質量選択性フィルタリング要素を通過するように構成されることができる。本方法は、質量選択性フィルタリング要素の電極に印加される1つ以上の電位を調整することによって質量選択性フィルタリング要素を調整することを含むことができる。
【0027】
少なくとも3つの異なるイオン信号のそれぞれは、複数のイオンのうちの共通イオンタイプに対応することができる。共通イオンタイプは、関連する質量電荷比値qを有することができ、本方法は、(q-a)<qの質量電荷比を有するイオンを通過させるように調整された質量選択性フィルタリング要素を用いて、少なくとも3つの異なるイオン信号のうちの第1のイオン信号を測定することを含むことができる。aの値は、0.4原子質量単位(amu)以下(例えば、0.2amu以下)とすることができる。
【0028】
本方法は、(q+b)>qの質量電荷比を有するイオンを通過させるように調整された質量選択性フィルタリング要素を用いて、少なくとも3つの異なるイオン信号のうちの第2のイオン信号を測定することを含むことができる。bの値は、0.4amu以下(例えば、0.2amu以下)とすることができる。
【0029】
本方法は、qの質量電荷比を有するイオンを通過させるように調整された質量選択性フィルタリング要素を用いて、少なくとも3つの異なるイオン信号のうちの第3のイオン信号を測定することを含むことができる。
【0030】
本方法は、少なくとも3つの異なるイオン信号の属性値に基づいて質量軸シフトを決定することを含むことができる。属性は、少なくとも3つの異なるイオン信号のそれぞれのピーク強度、少なくとも3つの異なるイオン信号のそれぞれの下の面積、少なくとも3つの異なるイオン信号のそれぞれのピーク幅、および少なくとも3つの異なるイオン信号のそれぞれの微分信号の大きさのうちの1つ以上を含むことができる。
【0031】
本方法は、関数形を属性値に適合させることと、関数形の極大値を決定することと、関数形の極大値に基づいて質量軸シフトを決定することと、を含むことができる。関数形は、ガウス関数に対応することができる。関数形は、多項式関数に対応することができる。
【0032】
本方法は、関数形の極大値に関連付けられる質量シフトを決定することによって質量軸シフトを決定することを含むことができる。共通イオンタイプは、関連する質量電荷値qを有することができ、本方法は、質量電荷値qに対する関数形の極大値に関連付けられる質量シフトを決定することを含むことができる。
【0033】
関数形の極大値に関連付けられる質量シフトは、質量軸シフトに対応することができる。本方法は、質量軸シフトに基づいて質量選択性フィルタリング要素の質量軸較正を調整することを含むことができる。
【0034】
少なくとも3つの異なるイオン信号は、5つ以上(例えば、7つ以上)の異なるイオン信号を含むことができる。
【0035】
共通イオンタイプは、関連する質量電荷比値qを有することができ、本方法は、少なくとも3つの異なるイオン信号のうちのn個の異なるイオン信号を測定することを含むことができ、n個の異なるイオン信号のそれぞれは、(q-a)<qの異なる質量電荷比を有するイオンを通過させるように調整された質量選択性フィルタリング要素を用いて測定され、nは2以上(例えば、3以上)である。本方法は、少なくとも3つの異なるイオン信号のm個の異なるイオン信号を測定することを含むことができ、m個の異なるイオン信号のそれぞれは、(q+b)>qの異なる質量電荷比を有するイオンを通過させるようにコントローラによって調整された質量選択性フィルタリング要素を用いて測定され、mは2以上(例えば、3以上)である。nおよびmの値は異なっていてもよい。
【0036】
本方法は、新たな質量軸シフト値を周期的に決定することと、新たな質量軸シフト値に基づいて質量選択性フィルタリング要素の質量軸較正を調整することと、を含むことができる。
【0037】
本方法は、システムの構成要素の温度またはシステムの環境の温度を測定することと、新たな質量軸シフト値を決定することと、測定された温度が選択された温度範囲外である場合、新たな質量軸シフト値に基づいて質量選択性フィルタリング要素の質量軸較正を調整することと、を含むことができる。
【0038】
本方法は、生物学的試料に対応する少なくとも1つのイオン信号の属性の値を決定することと、新たな質量軸シフト値を決定することと、属性値が属性について選択された値の範囲外である場合、新たな質量軸シフト値に基づいて質量選択性フィルタリング要素の質量軸較正を調整することと、を含むことができる。属性は、イオン信号のピーク強度、イオン信号の幅、イオン信号の下の面積、およびイオン信号の微分信号から得られる値からなる群から選択されるメンバに対応することができる。
【0039】
質量選択性フィルタリング要素は、第1の質量選択性フィルタリング要素とすることができ、少なくとも3つの異なるイオン信号は、少なくとも3つの異なるイオン信号の第1のセットとすることができ、質量軸シフトは、第1の質量選択性フィルタリング要素に関連付けられることができ、本方法は、第1の質量選択性フィルタリング要素の下流に配置されたシステムの第2の質量選択性フィルタリング要素を調整することと、複数のイオンに対応する少なくとも2つの異なるイオン信号の第2のセットを測定することと、少なくとも2つの異なるイオン信号の第2のセットに基づいて第2の質量選択性フィルタリング要素に関連付けられた質量軸シフトを決定することと、を含むことができる。本方法は、第2の質量選択性フィルタリング要素に関連付けられた質量軸シフトに基づいて第2の質量選択性フィルタリング要素の質量軸較正を調整することを含むことができる。
【0040】
試料の成分は、生物学的試料の第1の成分とすることができ、複数のイオンは、第1の複数のイオンとすることができ、質量軸シフトは、第1の成分に関連受けられた第1の質量軸シフトとすることができ、本方法は、生物学的試料から第2の成分を分離することと、第2の成分から第2の複数のイオンを生成することと、質量選択性フィルタリング要素を調整し、第2の複数のイオンに対応する少なくとも3つの異なるイオン信号を測定することと、第2の複数のイオンに対応する少なくとも3つの異なるイオン信号に基づいて第2の成分に関連付けられる第2の質量軸シフトを決定することと、を含むことができる。第1および第2の成分は異なっていてもよい。
【0041】
本方法は、第1および第2の質量軸シフトに基づいて全体的な質量軸シフトを決定することを含むことができる。本方法は、第1および第2の質量軸シフトを平均化することによって全体的な質量軸シフトを決定することを含むことができる。
【0042】
本方法は、液体クロマトグラフィによって生物学的試料から成分を分離することを含むことができる。
【0043】
本方法の実施形態はまた、本明細書に記載の他の特徴のいずれかを含むことができ、特に明記しない限り、同じまたは異なる実施形態に関連して記載された特徴の任意の組み合わせを含むことができる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、「およそ」(例えば、示された値のプラスまたはマイナス10%)を意味する。
【0045】
本明細書における「一実施形態」、「実施形態」などへの言及は、記載された実施形態が特定の態様、特徴、構造、または特性を含むことができることを示すが、全ての実施形態がその態様、特徴、構造、または特性を必ずしも含むとは限らない。さらに、そのような語句は、必ずしもそうとは限らないが、本明細書の他の部分で参照される同じ実施形態を参照することができる。さらに、特定の態様、特徴、構造、または特性が実施形態に関連して記載されている場合、明示的に記載されているか否かにかかわらず、そのような態様、特徴、構造、または特性を他の実施形態に影響を及ぼすか、または接続することは、当業者の知識の範囲内である。
【0046】
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「質量シフト」への言及は、複数のそのような質量シフトを含む。
【0047】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書に記載の方法および材料と類似または同等の方法および材料は、本方法およびシステムの実施に使用されることができるが、適切な方法およびシステムを以下に記載する。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によりその全体が援用される。矛盾する場合は、定義をも含む本明細書が優先する。さらに、本方法および実施例は例示にすぎず、限定的であることは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】液体クロマトグラフィ質量分析システムの例を示す概略図である。
図2図1のシステムを用いた試料分析ワークフローの例を示す概略図である。
図3】測定されたイオンピークおよび検出窓を示す概略図である。
図4】3つの異なる質量シフト値に対応するイオンピークを示す概略図である。
図5】関数形に適合したイオンピーク強度測定値、および公称ゼロの質量シフトに対する質量軸シフトを示す概略グラフである。 同様の参照符号は、同様の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
序文
様々な生物学的試料を分析するために、結合液体クロマトグラフィ質量分析(LC-MS)システムが使用される。そのようなシステムは、試料(例えば、血液、尿などの体液)が液体クロマトグラフィカラムの入口に注入され、試料がカラム上の成分に分離され、個々の成分がカラムから溶出されるエンドツーエンドのワークフローを実施する。溶出した成分は、質量分析計に導かれ、そこでイオン化されて分析される。質量分析装置は、各成分に関連付けられるイオン分裂パターンを測定する。各イオン分裂パターンは、特定のm/z比を有するイオンフラグメントに対応する1つ以上のピークからなる。特定の分析物(例えば、ピークのm/z比および強度)のピークのパターンは、分析物の「フィンガープリント」として効果的に機能する。
【0050】
分裂パターンの複雑な性質のために、そのような測定に基づいて多種多様な成分が識別および定量化されることができる。典型的には、識別は、測定されたイオン分裂パターンを参照情報(例えば、既知の成分について以前に測定またはシミュレートされたイオン分裂パターン)と比較することによって行われる。特定の成分の識別は、試料の初期導入(例えば、LC-MSシステムの入口への注入)からLCカラムからの成分の溶出までの時間間隔、または試料の初期導入から質量分析装置における成分イオンの分裂パターンの測定までの時間間隔に基づいて行うこともできる。特定の成分は、特定の速度でLCカラムを通って移動することができ、経過時間間隔は、成分の同一性の指標として使用されることができる。上述したイオン分裂パターンと同様に、経過時間間隔が参照情報(例えば、既知の成分について以前に測定された移動および/または測定時間)と比較されて、成分の同一性を決定することができる。
【0051】
成分識別が正確であり、成分集団を定量的に測定することができることを確実にするために、LC-MSシステムは、一般に、使用前に較正される。さらに、そのようなシステムが臨床または実験室環境などで連続的またはほぼ連続的に使用されている場合、システムは、定期的に再較正されることができ、および/またはシステム較正のドリフトが検出または疑われる場合に再較正されることができる。従来の再較正手順は、システムをオフラインにして、もはや生物学的試料を分析しないようにすることを含む。さらに、多くのLC-MSシステムでは、従来の較正手順は、参照試料を導入するために質量分析計からクロマトグラフィカラムをデカップリングし、いくつかの状況では、参照試料を分析するために質量分析計の構成を変更することを含むことができる(例えば、LC-MSから直接注入への構成の変更)。換言すれば、そのような手順は、ユーザによって実行されるか、または適切に訓練された技術者が作業を実行するために利用可能になるまで延期されるかのいずれかである、かなりの量の介入機器の再構成を含むことができる。較正後、液体クロマトグラフィカラムが質量分析計に再接続され、生物学的試料が分析されることができるように、必要に応じて、LC-MSシステムの分析構成が調整される。
【0052】
前述の従来の較正手順におけるユーザの介入の程度は、臨床環境および実験環境に配備されるLC-MSシステムにとって非常に不利であることがあり、システムのユーザは、クロマトグラフィおよび/または質量分析ハードウェアおよびシステム構成に関する訓練または経験がほとんどないことがある。さらに、較正のためにLC-MSシステムがオフラインである期間はダウンタイムを表し、この時間中に試料は分析されず、これは、システムの有効デューティサイクルおよび利用率を低下させる。1日に数百または数千の試料が分析される高スループット環境では、そのようなダウンタイムは、重大な欠点となり得る。
【0053】
本開示は、LC-MSシステムがオフラインにされないオンライン較正手順を実施するシステムおよび方法を特徴とする。すなわち、クロマトグラフィカラムは、質量分析計から切り離されていない。結果として、較正手順は、特定の従来の較正手順よりも著しく迅速に、且つ著しく少ないユーザ介入で実行されることができる。特定の実施態様は、実際には、ユーザの介入をほとんどまたは全く伴わなくてもよく、LC-MSシステムによって完全に自動化された方法で実行されることができる。
【0054】
本明細書に記載のシステムおよび方法は、複数の較正パラメータが単一の較正手順で調整される(例えば、最適化される)較正手順を実施することができる。したがって、例えば、LC-MSシステムが複数のイオンフィルタリングステージを含む場合、各ステージは、独立して較正され、単一の較正手順で調整されることができ、その結果、システムは、手順の最後に完全に較正される。較正後、システムは、直ちに生物学的試料の分析に戻されることができる。
【0055】
従来の較正手順は、典型的には、ポリプロピレングリコールポリマーを含有する材料などの専用の較正試料に依存する。そのような材料は、目的の特定の試料成分からの予想されるイオンピークに比較的近いm/z値でイオンピークを生成することができる。しかしながら、状況によっては、専用の較正試料から生成されたイオンピークは、目的の試料成分に対応する予想されるイオンピークから比較的遠くなることがある。そのような状況では、専用の較正試料に基づいてシステムを較正することは、関心のあるm/z窓内の較正が依然として不確かなシステムをもたらすことがある。
【0056】
対照的に、本明細書に記載のシステムおよび方法は、システム較正のための多種多様な参照試料とともに使用されることができ、較正が測定される試料成分に見合ったm/z領域内で常に実行されることができることを保証する。いくつかの実施形態では、較正に使用される参照試料は、特定の試料成分の同位体濃縮版または同位体標識版である。そのような参照試料の例は、テストステロン、ガバペンチン、およびシクロスポリンを含むが、これらに限定されない。より一般的には、任意の参照試料が使用されることができ、参照試料の選択は、目的の試料成分の性質に依存することができる。
【0057】
同位体標識された参照試料は、一般に、試料の分子構造内の1つ以上の部位における同位体置換を含む。(それらのより一般的に豊富な対応物の代わりに)標識として使用されることができる同位体は、炭素-13、重水素、トリチウム、酸素-18、ならびにリン、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、硫黄、および窒素の同位体を含むが、これらに限定されない。同位体標識された参照試料は、一般に、参照試料の分子構造内の1つ以上(例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、8つ以上、10以上、またはさらにそれ以上)の部位において置換されることができる。いくつかの実施形態では、特定の種類の原子に対応する参照試料の分子構造内の全ての部位が同位体置換されることができる(例えば、全てのC原子が13Cによって置換されることができ、または全てのH原子がHもしくはH原子によって置換されることができる)。
【0058】
本明細書に記載のシステムおよび方法は、多種多様な生物学的試料を測定するシステムとともに使用されることができる。そのような試料の例は、血液、血漿、尿、唾液、リンパ液、間質液、および脳脊髄液を含むが、これらに限定されない。
【0059】
液体クロマトグラフィ-質量分析システム
図1は、液体クロマトグラフィ-質量分析(LC-MS)システム100の例を示す概略図である。システム100は、液体クロマトグラフィカラム104に接続された入口102を含む。カラム104は、任意の廃棄物リザーバ124に接続された任意の弁122を介して質量分析計106に結合されている。質量分析計106は、イオン化装置108と、スキマー110と、四重極ステージ112、114および116と、検出器118とを含む。構成要素のそれぞれは、任意に、典型的には少なくとも1つの電子プロセッサと、少なくとも1つの記憶ユニットと、少なくとも1つの表示装置と、システム100のユーザから命令およびデータを受信するための少なくとも1つのインターフェースとを含むコントローラ120に接続されることができる。
【0060】
システム100の動作中、試料は、例えば直接注入によって入口102に導入される。導入後、試料は、カラム104に入り、カラム材料(例えば、樹脂材料)上に堆積される。試料は、1つ以上の溶媒がカラム材料を横切って流れる際に、カラム材料を横切って移動する。試料が集合的に移動するにつれて、試料の異なる成分は、異なる速度で移動し、したがって異なる時間にカラムの端部に到達する。上述したように、特定の試料成分の溶出時間は、その成分に固有のものとすることができ、(例えば、成分の溶出時間を、既知の試料成分の溶出時間を含む参照情報と比較することによって)成分を識別するために使用されることができる。
【0061】
カラム104は、任意に、上述したように弁122に接続されることができ、ひいては任意に廃棄物リザーバ124に接続されることができる。システム100の動作中、弁122は、カラム104から廃棄物リザーバ124または質量分析計106に溶離剤を導くためにコントローラ120によって任意に作動されることができる。溶離剤の一部のみを質量分析計106に選択的に導くことは、試料中の目的の成分のみが測定されることを確実にすることができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、カラム104から廃棄物レシーバ124または質量分析計106への溶離剤の部分の選択的な方向付けを容易にするために、弁122は、試料の成分がカラム104から溶出して検出器に到達したときに電気信号を生成するコントローラ120に接続された検出器を含むことができる。コントローラ120は、電気信号を受信し、溶離剤を廃棄物リザーバ124または質量分析計106のどちらに導くかを決定することができる。特定の実施形態では、コントローラ120は、入口102における試料の導入と、カラム104の下流端から出現する成分の検出との間の経過時間に基づいて、溶離剤を導く方向を決定する。いくつかの実施形態では、経過時間は、既知の試料成分からの溶出時間を含む参照情報と比較して、成分の少なくとも予備的識別をもたらすことができる。その予備的識別に基づいて、コントローラ120は、成分が目的のものである(したがって、質量分析計106に向けられている)かどうか、または成分が目的のものではない(したがって、廃棄物リザーバ124に向けられている)かどうかを決定することができる。(例えば、溶出溶媒のみがカラム104から出現する時間間隔で)試料成分がカラム104から溶出していない場合、溶離剤は、質量分析計106ではなく廃棄物リザーバ124に導かれてもよい。
【0063】
試料成分がカラム104から溶出されるときに成分検出を容易にするために、様々な検出器が弁122に統合されることができ、またはより一般的には、カラム104と質量分析計106との間に配置されることができる。適切な検出器の例は、フォトダイオード、フォトセル、スペクトル検出器、およびCCDなどの光検出器、ならびに導電率センサおよび抵抗率センサなどの電気検出器を含むが、これらに限定されない。
【0064】
質量分析計106に入る試料成分は、イオン化装置108に受け入れられ、そこでイオン化されてイオンの集団を形成する。イオン化装置108は、多種多様な異なる種類のイオン化装置のいずれかとして実装されることができる。適切なイオン化装置の例は、エレクトロスプレーイオン化装置、電子衝撃イオン化装置、大気圧化学イオン化装置、サーモスプレーイオン化装置、誘導結合プラズマイオン化装置、グロー放電イオン化装置、および光イオン化装置を含むが、これらに限定されない。
【0065】
イオン化装置108において生成されたイオンの集団は、通常(イオン化装置108の出口開口部に対して)寸法の小さい開口部を含み、且つ質量分析計106の四重極ステージに導かれるイオンの集団を減少させるスキマー110を通過する。スキマー110を通過したイオンは、質量分析計106の残りの部分で分離されて検出される。
【0066】
多種多様な異なる質量分析計構成が使用されて、試料成分から生成されたイオンを分離、検出、および分析することができる。質量分析計106は、そのような構成の一例であり、例示目的のために以下で詳細に説明する。しかしながら、本明細書に記載の較正方法は、質量分析計106の多くの異なる構成によって使用されることができ、決して図1に示す構成に限定されないことを理解されたい。
【0067】
図1において、質量分析計106は、3つの四重極ステージ112、114および116を有するタンデム質量分析計(例えば、タンデムMS/MS)として実装される。第1の四重極ステージ112(本明細書では「Q1」とも呼ばれる)では、スキマー110を通過するイオンは、さらなる分析のためにm/z値の特定の範囲内に入るイオンを選択するためにフィルタリングされる。このm/z値の範囲外にあるイオンは、遮断され、四重極ステージ112を通過しない。逆に、m/z値の所望の範囲内に入るイオンは、四重極ステージ112を通過し、第2の四重極ステージ114に入る。
【0068】
一般に、四重極ステージ112は、中心対称軸の周りに配置された4つの電極を含む。所望の範囲内にあるm/z値を有するイオンのみを第2の四重極ステージ114に選択的に導くために、コントローラ120は、4つの電極に印加される電位を調整する。適切な電位が印加されると、4つの四重極電極は、振動高周波(RF)場を発生させ、これはイオンを四重極ステージ112に沿って一端から他端に導くように機能する。特定のRF場について、m/z値の特定の範囲内のイオンは、四重極ステージ112の出口開口部から導かれ、範囲外にあるm/zのイオンは、四重極ステージ112内で除かれる(例えば、遮断される)。
【0069】
第1の四重極ステージ112に入るイオンのサブセットは、ステージ112を通過し、第2の四重極ステージ114(本明細書では「Q2」とも呼ばれる)に入る。第2の四重極ステージ114は、ステージ114に入るイオンが分裂されて比較的小さな分子質量のイオンの分布を形成する衝突セルとして実装される。典型的にはステージ112からステージ114に入るより大きな質量イオンに由来するより小さな質量イオンのこの分布は、ステージ114を通過して第3の四重極ステージ116に入る。
【0070】
第2の四重極ステージ114内で、コントローラ120は、ステージ114の入口開口部と出口開口部との間に電界勾配を確立するように、1つ以上の電極に電位を印加して1つ以上の電界を発生させる。ステージ112から入るイオンは、典型的には、磁場勾配によって加速される。中性ガスの原子または分子がステージ114に導入され、ステージ112から入る加速されたイオンと衝突し、(衝突を介して)ステージ116を通過するイオンフラグメントを生成する。水素、窒素、およびアルゴンなどの希ガスを含むがこれらに限定されない様々なガスが分裂プロセスに使用されることができる。
【0071】
より小さな質量イオン(本明細書では「フラグメントイオン」と呼ばれる)の分布が第3の四重極ステージ116(本明細書では「Q3」とも呼ばれる)に入った後、フラグメントイオンは、ステージ112において行われるフィルタリングと同様の方法でフィルタリングされる。具体的には、ステージ116は、中心対称軸の周りに配置された4つの電極を含み、コントローラ120は、ステージ116内に振動RF場を発生させるために、4つの電極に印加される1つ以上の電位を調整する。発生された場は、それぞれが特定の範囲内に入るm/zを有するイオンフラグメントのサブセットを、ステージ116の一端から他端まで、および検出器118に導く。この範囲外のm/z値を有するイオンフラグメントは、四重極ステージ116内で除かれる(例えば、遮断される)。
【0072】
第3の四重極ステージ116から導かれたイオンフラグメントのサブセットが検出器118に入った後、フラグメントのm/z値が検出器によって測定される。具体的には、フラグメントに対応する測定信号が検出器118によって生成され、コントローラ120に送信され、コントローラは、測定信号からフラグメントのm/zの値を決定する。
【0073】
検出器118は、様々な異なる検出技術を組み込むことができる。特定の実施形態では、検出器118は、電子増倍器、ファラデーカップ、またはマイクロチャンネルプレート検出器に対応する。いくつかの実施形態では、検出器118は、オービトラップベースの検出器である。より一般的には、検出器118は、任意の1つ以上の既知のイオン検出技術を実装することができる。
【0074】
システム100によって実施される全体的なワークフローが図2に概略的に示されている。試料の二成分、テストステロンおよび13C標識テストステロン(内部参照成分)は、共通の時間にカラム104から溶出される。成分は、イオン化装置108内でイオン化され、各成分の分子イオンを生成する。分子イオンは、ステージQ1において選択的にフィルタリングされ、ステージQ2に送られ、そこで分裂を受けて対応する分子イオンよりも分子量の小さいイオンフラグメントを形成する。フラグメントイオンは、ステージQ3においてフィルタリングされ、検出器118に送られ、そこで特定のm/z値の検出信号を生成する。
【0075】
質量軸較正
システム100は、検出器118において生成されたイオン信号が特定のm/z値を有するイオンに起因することができるように較正される。これは、システム100の「質量軸較正」と呼ばれる。一般に、システムの質量軸較正は、システム100内の質量選択性フィルタリング要素の物理的構成と、異なる構成設定に対応する実際のm/z値との間の関係に対応する。したがって、例えば、(例えば、コントローラ120によって)特定のm/z値(またはm/z値の範囲)のイオンを選択的にフィルタリングするために1つ以上の電位が要素の電極に印加される質量選択性フィルタリング要素の場合、印加電位と、印加電位に対応するフィルタリングされたm/z値との間の関係は、質量軸較正である。
【0076】
本明細書で使用される場合、「質量選択性フィルタリング要素」という用語は、特定の範囲の質量値または質量電荷比値のみの荷電粒子が要素を通過することを可能にする質量分析システムの構成要素を指す。そのような要素は、常にではないが、通常、通過可能な質量値または質量電荷値の範囲が調整可能であるように構成可能である。「通過」とは、質量選択性フィルタリング要素が荷電粒子の流れに対する「ゲート」または「バリア」として効果的に機能するという事実を指すことに留意されたい。質量選択性フィルタリング要素は、一般に、荷電粒子が入力ポートを通って入り、出力(すなわち、要素を通過する)を通って出る構成、および荷電粒子が共通ポートを通って出入りする構成を含む、多種多様な形態で実装されることができる。質量選択性フィルタリング要素はまた、要素が、選択された値の範囲内または範囲外の質量値または質量電荷比値を有する荷電粒子を偏向させる、またはより一般的には、荷電粒子がシステム内の特定の位置に到達するのを、特定の値の範囲内に入る質量値または質量電荷比値を有する粒子のみに制限する任意の機構を使用する構成で実装されることもできる。
【0077】
図1に示すシステム100では、四重極ステージQ1およびQ3の双方が質量選択性フィルタリング要素である。Q1およびQ3は、それぞれイオンのm/zフィルタとして機能するため、各ステージは、検出器118において生成される測定信号に影響を与える。すなわち、システム100における質量軸較正は、単一の質量選択性フィルタリング要素に対する電位のセットまたは他の構成設定と、電位または設定が対応するm/z値のセットとの間の関係よりも複雑である。代わりに、システム100の質量軸較正は、ステージQ1およびQ3の双方の電位または構成設定、ならびにそれらが対応するm/z値に対応する。
【0078】
一般に、システム100によって測定を実行する前に、システムは、ステージQ1およびQ3の電極に印加される電位と各ステージによってフィルタリングされるイオンのm/z値との間の関係が確立されるように較正される。較正後、各ステージは、コントローラ120によって独立して、各ステージの較正関係にしたがって、各ステージの電極に適切な電位を印加することによって特定のm/z値のみのイオンをフィルタリング(すなわち、通過させる)するように構成されることができる。しかしながら、システム100の長期使用および/または環境条件の変化後、システム100の質量軸較正はドリフトする可能性があり、検出器118によって測定されたイオンについて決定されたm/z値は、イオンの実際のm/z値にもはや対応しないことが観察されている。
【0079】
システム100の質量軸較正のドリフトは、いくつかの重要な結果を有する可能性がある。いくつかの実施形態では、ドリフトが十分に大きい場合、イオンは、システム100によって測定された質量スペクトル情報から誤って識別される可能性がある。特定の実施形態では、質量軸較正のドリフトは、システム100によって測定される幅が増加したイオンピークを引き起こす。ピーク幅の増加は、分解能の損失をもたらし、構造が類似しているが1つ以上の同位体標識位置のみが異なる成分を有する試料における同位体干渉を増加させることがある。ピーク幅の増加はまた、測定されたイオンピーク強度値の減少をもたらし、システム100の感度を低下させる可能性があり、誤ったピーク面積測定値をもたらし、これは、目的の試料成分を内部参照成分と比較するときに不適切なピーク面積比計算をもたらすことがある。
【0080】
質量軸較正におけるドリフトの影響が図3のグラフに概略的に示されている。図3では、試料成分に対応するイオンピーク300の測定強度は、質量軸に沿った公称値0からの質量シフトの関数として示されている。質量軸0の値は、イオンピーク300の有効測定「窓」302の中心を表す。換言すれば、イオンピーク300は、窓302(m/z値の非常に狭い範囲に対応する)内のシステムによって測定される。システムの質量軸較正は、イオンピーク300の強度最大値と位置合わせされていないため、イオンピーク300は、代わりに、測定窓302がイオンピーク300と位置合わせされた場合に測定されるよりも積分されたピーク信号が大幅に小さくなるように、イオンピーク300からオフセットされた(すなわち、イオンピークとは異なるm/z値を中心とする)測定窓302によって検出される。したがって、正確なピーク強度測定に依存する定量的測定は損なわれる可能性がある。
【0081】
同位体置換された成分を十分に分離するためには、0.7の単位分解能が適切であり、システム100の動作中に±0.1amuの質量軸精度が維持されるべきであることが決定されている。これらの動作条件を維持するために、特に、システム100が長期間の連続的またはほぼ連続的な使用にわたって動作し、および/または(システム100の動作中であろうとなかろうと)変動する可能性がある環境条件に曝される場合、質量軸較正は、システムの較正のドリフトを考慮して補正されるべきである。
【0082】
本明細書に記載のシステムは、質量軸較正を監視し、必要に応じて質量軸較正を補正して、システムが試料成分の正確で再現可能な質量スペクトル情報をもたらすことを確実にするように構成される。いくつかの実施形態では、システム100は、一定の時間間隔で、および/またはシステム100のユーザからの指示を受信すると、質量軸較正を検証する。特定の実施形態では、システム100は、環境条件を測定する1つ以上のセンサを含むことができ、コントローラ120は、センサ測定値に基づいて質量軸較正の検証を開始する。例えば、図1を参照すると、システム100は、任意に、コントローラ120に接続された温度センサ126を含むことができる。温度センサ126は、システム100を取り囲む環境の周囲温度を測定するように配置されることができる。あるいは、温度センサ126は、システム100の1つ以上の構成要素の温度を測定するように配置されることができる。センサ126によって測定された温度が確立された温度範囲外である場合、コントローラ120は、システム100の質量軸較正の検証を開始することができる。
【0083】
いくつかの実施形態では、システム100は、測定された質量スペクトル情報に関連付けられるパラメータ間の比較に基づいて質量軸較正を検証する。例えば、コントローラ120は、1つ以上の試料成分に関連付けられるピーク幅を決定し、決定されたピーク幅を、異なる時間の類似の試料成分から決定されたピーク幅と比較することができる。一例として、(例えば、ピーク幅比を計算することによって決定されるように)決定されたピーク幅が後の測定において十分に増加または減少した場合、コントローラ120は、システム100の質量軸較正の検証を開始することができる。
【0084】
システム100の質量軸較正を検証するために、システム100の各質量選択性フィルタリング要素について、コントローラ120は、既知のm/zのイオンピークに対応する信号を、以下の質量選択性フィルタリング要素の3つの異なる質量シフトによって測定する:負の質量シフト、ゼロの質量シフト、および正の質量シフト。質量シフトは、それぞれ、測定されたイオンピークの既知のm/z値に対するものである。したがって、例えば、既知のm/z値qを有するイオンピークを測定するために、質量選択性フィルタリング要素の構成を調整してm/z値(q-a)のイオンを通過させることによって負の質量シフトにおいてイオンピークが測定され、aは負の質量シフトである。ゼロ質量シフトにおけるイオンピークの測定のために、質量選択性フィルタリング要素の構成は、m/z値qのイオンを通過させるように調整される。正の質量シフトにおけるイオンピークの測定のために、質量選択性フィルタリング要素の構成は、m/z値(q+b)のイオンを通過させるように調整され、bは正の質量シフトである。
【0085】
図4は、負の質量シフト-a(ピーク402)、ゼロ質量シフト(ピーク404)、および正の質量シフト+b(ピーク406)に対応する測定されたイオンピークを示す概略図である。ピークは、それぞれ、強度最大値402a、404a、および406aを有する。強度最大値が決定された後、強度最大値は、質量シフト間隔(-a、+b)内の極大値を有する関数形に適合される。極大値は、質量軸シフトを表し、これは、測定されるイオンの実際のm/z値からの質量軸較正の偏差である。
【0086】
図5は、質量シフトの関数としてプロットされた、測定された強度最大値402a、404a、および406aを示す概略グラフである。強度最大値は、最大値402a、404a、および406bによって定義される質量シフト間隔内の極大値504を有する関数形502に適合されている。強度最大値404aは、ゼロ質量シフト値におけるイオンピークの測定に対応する。システム100が完全に較正された場合、関数形502の極大値504は、極大値404aと同じである。しかしながら、システム100の較正におけるドリフトのために、極大値504は、もはや極大値404aと位置合わせされず、システム100の質量軸較正がイオンピークの既知のm/z値と一致するように調整されるべきであることを示している。
【0087】
質量軸シフト-ドリフトを補償するために質量軸較正が調整されるべき量-は、極大値504と極大値404aとの質量軸シフト間の差によって表される。コントローラ120は、システム100においてこの値を決定し、次いで、システム100の質量選択性フィルタリング要素の較正に補正を適用する。例えば、システム100の較正情報が、1つ以上の印加電位(または他の構成設定)と質量選択性フィルタリング要素の対応するフィルタリングされたm/z値との間の関数関係(例えば、較正曲線)に対応する場合、コントローラ120は、ドリフトを考慮するために関数関係に適切なオフセットを適用する。いくつかの実施形態では、コントローラ120は、関数関係を決定するために最初に使用されたm/z値に補正を適用し、1つ以上の適用された電位(または他の構成設定)と対応するフィルタリングされたm/z値との間の関数関係を再計算する。
【0088】
いくつかの実施形態では、負の質量シフトaおよび正の質量シフトbの大きさは同じである。特定の実施形態では、aおよびbの大きさは異なる。例えば、質量軸シフトが偏って発生した可能性がある場合、異なるシフトの大きさが使用されることができる。異なる大きさの負および正の質量シフトを選択することにより、関数形502の極大値504をより正確に分解することが可能であり、それにより、質量軸シフト506のより正確な測定値をもたらす。
【0089】
質量シフトaおよびbの大きさは、一般に、負および正の双方の質量シフトが適切にサンプリングされることを確実にするように選択されることができる。したがって、aの大きさおよび/またはbの大きさは、0.01原子質量単位(amu)以上(例えば、0.03amu以上、0.05amu以上、0.07amu以上、0.1amu以上、0.12amu以上、0.15amu以上、0.2amu以上、0.25amu以上、0.3amu以上、0.35amu以上、0.4amu以上)とすることができる。
【0090】
図4および図5に示すピーク強度を測定するために使用される検出されたイオンピークは、特定の試料成分に対応し、上述したように、一般に、任意の試料成分に関連付けられるイオンピークが使用されてピーク強度を測定することができる。しかしながら、試料成分の同位体置換された対応物に対応するイオンピークの検出を回避するために、aおよび/またはbの大きさが0.2amu以下(例えば、0.2amuと0.01amuとの間、0.15amuと0.01amuとの間、0.1amuと0.01amuとの間、0.05amuと0.01amuとの間)であると有利であり得ることも見出された。
【0091】
いくつかの実施形態では、図4および図5に示し、上述したように、イオンピーク強度測定は、3つの異なる質量シフトにおいて実行される:-a、0、および+b。しかしながら、より一般的には、質量軸シフト506が計算される精度を向上させるために、イオンピーク強度測定は、3つ超の異なる質量シフトにおいて実行されることができる。例えば、いくつかの実施形態では、イオンピーク強度測定は、値(-a)...(-a)によって表される複数の負の質量シフトにおいて実行されることができ、nは負の質量シフト値の数である。一般に、nは1以上(例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、7以上、10以上、またはさらにそれ以上)とすることができる。
【0092】
同様に、質量軸シフト506を計算する精度を向上させるために、値(+b)...(+b)によって表される複数の正の質量シフトにおいてイオンピーク強度測定が実行されることができ、mは正の質量シフト値の数である。一般に、mは1以上(例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、7以上、10以上、またはさらにそれ以上)とすることができる。
【0093】
いくつかの実施形態では、負の質量シフト値nの数および正の質量シフト値mの数は同じである。特定の実施形態では、nおよびmは異なる。例えば、質量軸シフトがバイアスされる場合、バイアス方向に応じて、nまたはmのいずれかがより大きくなることが有利であり得る。換言すれば、正の質量軸シフトの場合、mがnよりも大きいことが有利であり得る。逆に、負の質量軸シフトの場合、nがmよりも大きいことが有利であり得る。
【0094】
特定の実施形態では、ピーク強度測定が行われ、関数形502に適合される質量シフト値の総数は、3以上(例えば、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、10以上、12以上、15以上、またはさらにそれ以上)である。質量シフト値の総数は、一般に偶数または奇数とすることができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、ゼロの質量シフトに対応するピーク強度値は、関数形502に適合されない。換言すれば、図4のピーク404aは、関数形502に適合されない。しかしながら、関数形502の極大値504は、依然として同じ方法で決定され、質量軸シフト506は、上述したように、極大値506の質量シフトとピーク強度404aとの差から依然として計算されることができる。
【0096】
いくつかの実施形態では、関数形502はガウス関数形である。測定されたピーク強度と質量シフトとの間の相関を表すためにガウス関数形を使用することによって、ガウス関数形の極大値504に基づいて特に正確な質量軸シフトが計算されることができることが発見された。特定の実施形態では、質量シフト間隔(-a、+b)内に極大値を有する他の関数形が使用されることができる。例えば、放物線関数形、多項式関数形、指数関数形が使用されることができる。前述の関数形の任意の組み合わせおよび/または他の関数形を含む、より複雑な関数形も使用されることができる。
【0097】
上記の説明では、ピーク強度402a、404a、および406aは、極大値504を決定するために関数形502に適合される。しかしながら、ピーク強度以外の量が関数形502に適合され、質量軸シフトを決定するために使用されることができる。例えば、いくつかの実施形態では、図4のピーク402、404および406のそれぞれの下の積分面積が計算され、関数形502に適合されて、質量軸シフトを決定することができる。特定の実施形態では、図4のピーク402、404、および406の幅(例えば、半値全幅)が計算され、関数形502に適合されて、質量軸シフトを決定することができる。特定の実施形態では、各ピーク上の1点以上の点における一次微分値、または各ピーク上の1点以上の点における二次微分値などの、ピーク402、404、および406に関連付けられる別のパラメータが計算され、関数形502に適合されて、質量軸シフトを決定することができる。前述の量(および他の量)のいずれかの組み合わせは、特にそのような組み合わせが質量軸シフト506のより正確な測定値をもたらすと決定される場合、関数形502に適合されることもできる。
【0098】
いくつかの実施形態では、異なる基準に基づいてシステム100に対して複数の質量軸シフトが決定されることができ、次いで、質量軸シフトのセットに基づいてコントローラ120によって最終質量軸シフト506が決定される。例えば、第1の質量軸シフトは、図4のピーク402、404、および406の第1の属性に関連付けられる測定値を第1の関数形に適合させることによって決定されることができ、それによって上述したように第1の質量軸シフトを決定する。次いで、ピーク402、404、および406の第2の属性(第1の属性とは異なる)に関連付けられる測定値が第2の関数形に適合されることができ、それによって上述したように第2の質量軸シフトを決定する。
【0099】
一般に、第1および第2の質量軸シフトを決定するために使用されるピークのセットは、同じであっても異なっていてもよい(すなわち、ピークは、同じ質量シフトのセット、または異なる質量シフトのセットに対応することができる)。さらに、ピークのセットは、共通の試料成分に関連付けられるイオンに対応することができ、または第1の質量軸シフトを決定するために使用されるピークのセットは、第1の試料成分に関連付けられることができ、第2の質量軸シフトを決定するために使用されるピークのセットは、第2の試料成分に関連付けられることができる。さらにまた、第1の質量軸シフトを決定するために使用されるピークのセットは、試料成分に由来する第1のイオンと関連付けられることができ、第2の質量軸シフトを決定するために使用されるピークのセットは、第1のイオンとは異なるが同様に試料成分に由来する第2のイオンと関連付けられることができる。
【0100】
第1の質量軸シフトを決定するために使用されるピークの数は、第2の質量軸シフトを決定するために使用されるピークの数と同じであっても異なっていてもよい。さらに、第1および第2の関数形は、適合されたピーク属性の性質、および適合されたピーク属性に基づいて質量軸シフトを決定する際の異なる関数形の精度などの基準に応じて、同じであっても異なっていてもよい。
【0101】
前述の例は、2つの異なる質量軸シフトについて言及しているが、より一般的には、本明細書に記載のシステムおよび方法は、最終質量軸シフト値を決定する前に任意の数の異なる質量軸シフト値を測定することができることを理解されたい。最終的な質量軸シフト値は、様々な方法で決定されることができる。いくつかの実施形態では、例えば、質量軸シフト値のセットのメンバは、最終質量軸シフト値を決定するために平均化される。特定の実施形態では、最終質量軸シフト値は、値のセットの中で最も一般的な質量軸シフト値として決定される。いくつかの実施形態では、最終質量軸シフト値は、質量軸シフト値のセットの中の中央値として決定される。質量軸シフト値のセットの中から最終的な質量軸シフト値を決定するための他の方法も使用されることができる。
【0102】
前述の説明は、システム100内の単一の質量選択性フィルタリング要素に関連付けられた質量軸較正を補正するために質量軸シフト値を決定することに焦点を合わせている。しかしながら、図1を参照すると、システム100は、2つの質量選択性フィルタリング要素、すなわち四重極ステージQ1およびQ3を含む。前述の方法は、システム100内の質量選択性フィルタリング要素ごとの質量軸シフト値の決定および質量軸較正の補正に適用可能である。より一般的には、M個の質量選択性フィルタリング要素を含むシステム100の場合、前述の方法が使用されて、M個の独立した質量シフト値、したがってM個の質量選択性フィルタリング要素のそれぞれに対して1つの、質量軸較正に対するM個の独立した補正を決定することができる。
【0103】
システム100におけるステージQ1およびQ3の質量軸シフトおよび関連付けられる質量軸較正調整を決定するための前述の方法の有効性を評価するために、テストステロン、ガバペンチン、シクロスポリン、および13C標識内部参照化合物テストステロン-13C3、ガバペンチン-13C3、およびシクロスポリン-d10を添加した血清を含む試料がシステム100に導入された。これらの各成分について、表1に示すQ1およびQ3ステージの質量シフトに対応して、5つの異なるイオンピークが測定された。
【0104】
【表1】
【0105】
測定を10回繰り返し、測定したイオンピークを積分した。質量軸シフトは、積分ピーク面積値に基づいて、試料の非標識スパイク成分のそれぞれについてQ1およびQ3ステージのそれぞれについて決定された。Q1ステージおよびQ3ステージのそれぞれについて、最終質量軸シフトを、試料の非標識スパイク成分のそれぞれからそのステージについて決定された質量軸シフトのセットの中央値として計算した。次いで、システム100のQ1およびQ3ステージは、それらの質量軸較正が各ステージについて決定された対応する最終質量軸シフトを反映するように補正された。
【0106】
上記の調査では、分析された試料中に分析物およびその同位体標識された対応物の双方が存在したことに留意されたい。一般に、目的の分析物の同位体標識された対応物は、試料調製中の不規則性を補償するなどの目的のために導入されることができる。それらは、一般に既知の濃度で導入されるため、それらは、目的の各分析物の内部参照標準を提供する。
【0107】
非標識分析物、同位体標識参照化合物、またはその双方に関連付けられた測定値が使用されて、本明細書に記載の方法における質量軸シフトを決定することができる。いくつかの実施形態では、試料中のそれらの既知の濃度のために、特に目的の分析物の濃度が未知であり、質量軸シフトを決定するための適切な測定信号を確実に提供するには低すぎる可能性がある場合、目的の分析物の同位体標識対応物が使用されて質量軸シフトを決定する。特定の実施形態では、非標識分析物および標識対応物の双方が、質量軸シフトを決定するために使用される。
【0108】
試料に添加され、質量軸シフトを決定するために使用される参照化合物は、同位体標識される必要がないことにも留意されたい。一般に、任意の参照化合物は、試料に添加され、本明細書に記載の方法において使用されて、質量軸シフトを決定し、質量軸較正を補正することができる。
【0109】
質量軸較正の補正後、試料の非標識スパイク成分のそれぞれについて上記の測定を繰り返し、Q1およびQ3のそれぞれについての質量軸シフトを成分ごとに計算した。表2は、システム100のQ1およびQ3四重極ステージの質量軸較正の補正前後の試料の成分について計算された質量軸ドリフトを示している。
【0110】
【表2】
【0111】
表2に示すデータから明らかなように、本明細書に記載の方法にかかるステージQ1およびQ3の質量軸較正の補正後に測定された質量軸シフトは、状況によっては、初期質量軸シフトよりも1桁以上小さい。質量軸シフトのこの大幅な減少は、本明細書に記載の方法が、較正ドリフトから生じる質量軸シフトを補償するために質量分析ベースの分析システムを再較正するのに非常に効果的であるという強力な指標を提供する。
【0112】
ハードウェアおよびソフトウェア構成要素
コントローラ120は、様々な異なるハードウェアおよびソフトウェア構成要素、ならびにそれらの組み合わせによって実装されることができる。いくつかの実施形態では、コントローラ120は、本明細書に記載の機能のいずれかを実行するためのソフトウェアベースの命令を実行することができる少なくとも1つの電子プロセッサを含む。特定の実施形態では、コントローラ120は、本明細書に記載の機能のいずれかを実行することができる特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用電子回路を含む。
【0113】
コントローラ120は、任意に少なくとも1つのメモリユニットを含むことができる。メモリユニットは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、および/またはソフトウェア命令のための任意の他のタイプの揮発性または不揮発性記憶媒体を含むことができる。
【0114】
コントローラ120は、任意に少なくとも1つの記憶ユニットを含むことができる。記憶ユニットは、ソフトウェア命令、較正設定および情報(1つ以上の較正曲線/関係および較正曲線/関係を決定するために使用される対応する質量スペクトル情報などの質量軸較正設定および情報を含む)、測定情報(例えば、検出器118によって測定され、コントローラ120に送信される質量スペクトル情報)、ならびに測定情報からコントローラ120によって決定されたデータ値および他の情報を含む、コントローラ(例えば、コントローラの1つ以上の電子プロセッサ)によって読み取り可能な情報を記憶するための任意のタイプの媒体を含むことができる。少なくとも1つの記憶ユニットは、ハードドライブなどの磁気記憶装置、永続的ソリッドステート記憶装置、CDおよびDVDなどの書き換え可能および書き換え不可能な光記憶媒体、FPGAなどのプログラマブル回路素子、ならびに他のタイプの書き込み可能および書き込み不可能な記憶媒体を含む、様々なタイプの有形記憶媒体を含むことができる。
【0115】
コントローラ120は、任意に、システム100が情報を送信および/または情報を受信することを可能にする少なくとも1つのインターフェースを含むことができる。インターフェースは、例えば、システム100のユーザに情報を表示するための表示ユニットを含むことができる。インターフェースは、システム100が、専用のピアツーピアネットワーク、無線ネットワーク、およびインターネットなどの分散型ネットワークを含む1つ以上のネットワークを介して遠隔装置に情報を送信することを可能にする送信機を含むことができる。インターフェースは、キーボード、マウス、タッチスクリーン、キーパッド、リモコン、およびユーザがシステム100に命令を出すことを可能にする任意の他の同様の構成要素などの1つ以上の構成要素を含むヒューマンインターフェース装置を含むことができる。インターフェースはまた、上述したネットワークのいずれかを介して遠隔装置から情報を受信するための受信機を含むことができる。
【0116】
システム100は、コントローラ120によって実行されると、コントローラ120に本明細書に記載の機能のいずれかを実行させるソフトウェア命令を含むことができる。ソフトウェア命令は、上述した記憶媒体のいずれかに符号化されることができ、上述したメモリユニットのいずれかに具現化されることができ、コントローラ120のプロセッサまたはASICのいずれかの回路に符号化されることができ、あるいは遠隔装置から受信機を介してコントローラ120によって受信されることができ、コントローラ120のメモリユニットまたは記憶ユニットにインストールされることができ、1つ以上のプロセッサによって実行されることができる。
【0117】
ソフトウェア命令は、標準的なプログラミング技術を使用してコンピュータプログラムに実装されることができる。そのような各コンピュータプログラムは、高レベルの手続き型もしくはオブジェクト指向プログラミング言語、またはアセンブリもしくは機械語で実装されることができる。言語は、コンパイルまたは解釈された言語とすることができ、コントローラ120の1つ以上のプロセッサおよび/または電子回路によって実行可能な特定の動作またはステップは、任意に、コンピュータプログラムの実行によって動的に生成されることができる。
【0118】
他の実施形態
前述の説明は、本開示の範囲を例示することを意図しており、限定するものではなく、明示的に説明されたもの以外の実施形態は、本開示の範囲内であることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5