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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】起立補助型スマート手すり装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/14 20060101AFI20230823BHJP
   G06Q 50/22 20180101ALI20230823BHJP
【FI】
A61G5/14
G06Q50/22
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019189604
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021062123
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】522502842
【氏名又は名称】株式会社ジザイエ
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(72)【発明者】
【氏名】石黒 周
(72)【発明者】
【氏名】滝田 謙介
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-086586(JP,A)
【文献】特開2018-015270(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0200911(US,A1)
【文献】特開2019-010435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/14
G06Q 50/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起立動作検知センサとデータ発信機を装着した起立補助型スマート手すり装置であって、
起立動作検知センサは、手すり部を把持した時に加わる荷重を検知する荷重センサと、荷重(把持力)の方向を検知する荷重方向センサであり、
荷重センサは、手すり部の水平バーに取り付けられた感圧導電性ゴムとマトリックス電極で構成された把持位置を感知する荷重センサであり、
荷重方向センサは、手すりに加わる上下、前後、左右の3方向のそれぞれの力を計測するロードセル型センサであることを特徴とする起立補助型スマート手すり装置。
【請求項2】
起立動作検知センサを備えた手すり部と、起立動作分析・評価装置と、を備え、 起立動作検知センサは、手すり部を把持した時に加わる荷重を検知する荷重センサと、荷重(把持力)の方向を検知する荷重方向センサであり、
荷重センサは、手すり部の水平バーに取り付けられた感圧導電性ゴムとマトリックス電極で構成された把持位置を感知する荷重センサであり、
荷重方向センサは、手すりに加わる上下、前後、左右の3方向のそれぞれの力を計測するロードセル型センサであり、
起立動作分析・評価装置は、各検知センサで検知されたデータに基づいて、利用者の起立動作を分析し、評価することを特徴とする起立補助型スマート手すり装置。
【請求項3】
起立補助型スマート手すり装置は、底板と、該底板に立設された支柱と、該支柱に取り付けられた手すり部とを有し、
底板には、体重センサが一体に設けられており、体重センサはメッシュ状に配置された底板にひずみゲージが設けられており、
底板ひずみゲージの検知データに基づいて、重心位置と回転中心を求めて、起立動作を分析し、評価する要素の一つとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の起立補助型スマート手すり装置。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載された起立補助型スマート手すり装置から得られる把持検知データをデータベースに保管し、時系列に利用者の起立動作を分析して、利用者の生活自立度を評価することを特徴とする起立動作観察・分析システム。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載された起立補助型スマート手すり装置を手すり装置端末とし、手すりの利用者端末、支援施設端末、後見者端末、サーバを通信ネットワークにつないだ起立動作分析・支援システムであって、
手すり装置端末は、荷重センサにより検知された手すり部を把持した時に加わる荷重と、荷重方向センサにより検知される荷重(把持力)の方向を、起立補助型スマート手すり装置から得られる把持検知データとしてサーバに送り、
サーバは、把持検知データを蓄積し、把持検知データに基づいて利用者の生活自立度を評価し、その評価を後見者端末、支援施設端末、利用者端末へ送付することを特徴とする、起立動作分析・支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベッドから立ち上がる動作に補助が必要な高齢者などがベッドサイドで使用する立ちあがり用の補助具であり、特に、立ち上がり動作を分析・評価して介護等の支援に役立てる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者が増加し、在宅介護の期間を長くして施設介護の負担を減らそうという流れがある。また、高齢者も自宅で生活したいという希望もある。
高齢者が自立した生活ができるかどうかは、寝たきりにならないことであり、それには起立と着座の動作が一人でできることが必須である。これができなくなると他人の介助がないと自立生活ができなくなる。
【0003】
また、生活の基礎動作としてベッドから立ち上がる必要がある。この起立動作は日常動作の起点となる重要な動作である。ヒトの起立動作にはいろんな筋が関係する。起床動作は、前屈、離床、全身の伸展、立ち姿勢の制御の運動を伴う。これらの動作は、加齢に伴い、筋力や感覚機能が衰えると、筋の活動が適切に調整できず、活動タイミングが長くなったり、ピークタイミングが変化し、運動機能が低下してしまう。このように筋の活動の変化はヒトの身体機能を評価する上で重要な指標である。従来手法では、筋動作の抽出にはヒトの身体に筋電位センサを貼って筋活動を計測する必要があり、1名の計測に1時間以上かかり、多大な手間を要していた。日常的に計測することは困難である。
特許文献1(特開2019-10435号公報)には、利用者が把持するための手すり部を有する手すりセンサが、利用者が把持した際の手すり部の複数回のひずみを検出し、歩行状態評価装置は、検出された複数回のひずみを表すひずみデータに基づく、当該利用者が手すり部を把持した際の把持位置および把持時刻から、当該利用者の歩行速度を算出し、算出された歩行速度から当該利用者の歩行状態を評価する。そして、当該評価に関する情報を外部の装置に出力するヘルスケアシステムが提案されている。
起床動作に着目した介護装置として、特許文献2(特開2007-330336号公報
)には、ベッドから被介護者が離床する前に感知する装置として、ベッドの手すりに手すりセンサを取り付け、手すりセンサから得られるセンサ値をもとに、被介護者により手すりが手前に引かれているか否かを検知し、他方、ベッドに重心センサを取り付け、重心センサから得られるセンサ値から被介護者のベッド上の重心位置を算出し、「手すりが手前に引かれている」かつ「重心位置が離床開始時に位置すると予測される離床予測領域内に含まれる」と判定された場合に、起き上がりが開始されたと判定し、報知する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-010435号公報
【文献】特開2007-330336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、在宅高齢者、特に独居高齢者が要介護状態に陥ることを未然に防ぎ、元気で自立した生活を送り続けられるような見守りと支援のサービスを提供する機器とシステムを開発することを目的とする。
立ち上がることができることは生活の基本として重要であり、特に、在宅生活者の健康状態を日々感知する手段を開発することは、ケアの基本情報となることに注目した。
本発明は、筋電位計を用いず、運動機能の評価を可能にする新しい計測手法を確立し、それを実現するセンサを製作する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高齢者等が利用するベッドから立ち上がるときに使用する補助具に着目し、起立補助具に立ち上がり動作を観察する手段を装着することにより、日常の立ち上がり動作を観察できると考えて、本発明を実現した。
具体的には、例えばヒトが前屈や離床の動作が弱った時に、ヒトはそれを補償するように手すりを使って身体を前方に移動したり、上方に押し上げる動作をすることに注目し、「手すりにかかる力から筋シナジーの変化を推定できる」ということに着目し、これをもとに、本発明では、1. 運動中の力を計測する手すりを製作し、2. 力情報から筋シナジーを同定する方法を提案し、3. 高齢者における身体機能の評価実験を行い、4. 安価で簡便に計測するセンサを製作した。
【0007】
本発明の主な構成は次のとおりである。
1.起立動作検知センサとデータ発信機を装着した起立補助型スマート手すり装置であって、
起立動作検知センサは、手すり部を把持した時に加わる荷重を検知する荷重センサと、荷重(把持力)の方向を検知する荷重方向センサであり、
荷重センサは、手すり部の水平バーに取り付けられた感圧導電性ゴムとマトリックス電極で構成された把持位置を感知する荷重センサであり、
荷重方向センサは、手すりに加わる上下、前後、左右の3方向のそれぞれの力を計測するロードセル型センサであることを特徴とする起立補助型スマート手すり装置。
2.起立動作検知センサを備えた手すり部と、起立動作分析・評価装置と、を備え、 起立動作検知センサは、手すり部を把持した時に加わる荷重を検知する荷重センサと、荷重(把持力)の方向を検知する荷重方向センサであり、
荷重センサは、手すり部の水平バーに取り付けられた感圧導電性ゴムとマトリックス電極で構成された把持位置を感知する荷重センサであり、
荷重方向センサは、手すりに加わる上下、前後、左右の3方向のそれぞれの力を計測するロードセル型センサであり、
起立動作分析・評価装置は、各検知センサで検知されたデータに基づいて、利用者の起立動作を分析し、評価することを特徴とする起立補助型スマート手すり装置。
3.起立補助型スマート手すり装置は、底板と、該底板に立設された支柱と、該支柱に取り付けられた手すり部とを有し、
底板には、体重センサが一体に設けられており、体重センサはメッシュ状に配置された底板にひずみゲージが設けられており、
底板ひずみゲージの検知データに基づいて、重心位置と回転中心を求めて、起立動作を分析し、評価する要素の一つとすることを特徴とする1.又は2.に記載の起立補助型スマート手すり装置。
4. 1.~3.のいずれかに記載された起立補助型スマート手すり装置から得られる把持検知データをデータベースに保管し、時系列に利用者の起立動作を分析して、利用者の生活自立度を評価することを特徴とする起立動作観察・分析システム。
5. 1.~3.のいずれかに記載された起立補助型スマート手すり装置を手すり装置端末とし、手すりの利用者端末、支援施設端末、後見者端末、サーバを通信ネットワークにつないだ起立動作分析・支援システムであって、
手すり装置端末は、荷重センサにより検知された手すり部を把持した時に加わる荷重と、荷重方向センサにより検知される荷重(把持力)の方向を、起立補助型スマート手すり装置から得られる把持検知データとしてサーバに送り、
サーバは、把持検知データを蓄積し、把持検知データに基づいて利用者の生活自立度を評価し、その評価を後見者端末、支援施設端末、利用者端末へ送付することを特徴とする、起立動作分析・支援システム。
【発明の効果】
【0008】
1.ベッドサイドにおいて、起き上がって立つときに使用する補助手すりに検知センサを設けたので、日常的に継続してデータを収集し、分析することができ、利用者の起立動作能力の経過観察をすることができ、利用者や医者などに負担をかけずにケアに必要な情報を継続して収集できる。即ち、自立生活状態と先々の変化を検知し、自立生活維持をサポートすることが可能となる。
また、見慣れた手すりを使用するので自然なデータが得られ、かつ利用者専用の補助具からデータを取得するので利用者のプライバシー管理が容易で、心理的負荷が低い。
2.起立補助手すりに荷重を検知するセンサを取り付け、そのセンサで検知するデータをクラウド上にDBとして保管するとともに収集したタイムスタンプ付きのデータから利用者の起立動作時の運動の軌跡を推定することにより立ち上がり方の問題点や筋力の低下部位を推定し、利用者の起立動作能力を可視化できる。
これらのセンサから得られるデータ量が小さく通信負荷が小さく、データのセキュリティ対策も軽くてすむので運用が容易である。
3.底板の荷重センサと手すりのセンサを組み合わせて、経時で起立動作中に検知される荷重データを収集し、そのデータから重心、手で引く力、体の回転中心位置を計算し、人の運動学モデルを組み合わせて姿勢を推定するし、この姿勢の変移から筋力が低下している部位を推定することができる。
荷重センサにかかる荷重分布から転倒を検知することができる。また、転倒姿勢を推定することができる。
4.ネット接続を介して、日常の健康状態を含む安否確認を家族や施設ができるケアシステムを構築することができる。
本ケアシステムは、ひずみセンサや処理ソフトなど使いこまれた技術ベースのハードウェアを利用しているので、信頼性の高いシステムが低コストで構築でき、得られたデータをソフトウェアによって解析結果を導き出すという方式を取ることで カスタマイズ性、メンテナンス性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】起立補助型スマート手すり装置の例を示す図
図2】把持方向センサの例を示す図
図3】各センサの検知データの送信系を示す図
図4】荷重センサの例を示す図
図5】荷重センサの例を示す図
図6】起立動作取得手段を従来例と比較して説明する図
図7】本発明による起立動作取得の例を示す図
図8】起立動作と運動能力を説明する図
図9】転倒を推定する説明図
図10】起立動作観察・分析手法システムの例を示す図
図11】起立動作観察・分析手法フロー図
図12】起立動作・分析・支援システムを形成するネットワークシステムの例を示す図。
図13】システムを活用した実用化・事業化イメージ
図14】ユーザー端末の表示イメージを示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、ベッドからの起き上がりや歩行に不安を覚えた高齢者等に、起立や歩行の障害の程度を日常的に把握できるように、各種のセンサを設けた起立補助型スマート手すり装置であり、この起立補助型スマート手すり装置から得られたデータをもとに、生活自立度(筋力バランス)を評価する起立動作観察・分析システム、その評価を家族や施設などの関係者に送付する起立動作・分析・支援システムである。
本発明は、ベッドサイドに置いた起立補助型スマート手すり装置を利用して、高齢者等が起き上がる動作を行ったときに手すりに生ずる力の方向と大きさ、および、床面にかかる荷重の大きさ、分布などを日々継続して取得することにより、立ち上がり動作の変化を観察して、見守りと必要な対処方法の提示に役立てるものである。
【0011】
<起立補助型スマート手すり装置の例>
本発明の例について、図を参照して説明する。
図1に起立補助型スマート手すり装置の例を示す。
起立補助型スマート手すり装置10の基本構造は、底板51の左右に支柱52、52を取り付け、支柱52の上部に手すり部1を設けている。支柱52の基部は高さが調整できるように調整手段を設けることができる。支柱52の上部に水平バー11を有する手すり部1を装着している。支柱52の中間部には水平の中間バー53を設けている。本発明では手すり部1に手すりを把持したときにかかる負荷を計測するセンサを設けているので、手すり部1を支柱に対して装着するタイプとしている。
【0012】
図2に手すり部1に設けた把持方向センサの例を示す。
利用者が手すり部1を掴んで立ち上がり動作を行ったときに、手すり部1にかかる力を3方向に分割して計測するセンサが設けられている。
図2(a)は、起立補助型スマート手すり装置10の全体図を示し、図2(b)は、手すり部1のセンサ配置例を示している。
手すり部1には、利用者が立ち上がろうとして手すりを掴んで入れた力の大きさとその方向を上下(F1)、前後(F2)、左右(F3)に分割して計測する方向センサ3を設置している。方向センサ3は、それぞれの単方向の力を計測する上下方向センサ31、前後方向センサ32、左右方向センサ33を配置する。前後方向センサ32は、立ち上がる際の体を手すりに引き付ける力の方向のロードセルを左右(前後方向センサ32a、32b)に配置して、測定精度上げている。
方向センサ3は、ひずみセンサであるロードセル型センサが適している。ロードセル型センサは、多くの実績をもつ安定したセンサであり、信頼性の高いセンサである。利用者が、手すりを掴んで、引き寄せて、押し下げて、体を立ち上げようとする一連の動作における力の分布を3方向に分割して、それぞれの方向ごとに計測する。
手すり部1の上部の水平バー11には把持力と把持位置を計測できるように荷重センサ2を設けてある。
各センサの検知データの送信系について、図3に示す。
起立補助型スマート手すり装置10の上部の荷重センサ2は、手すり装置端末に電源供給を兼ねて通信 ポートに有線接続されている。4つのセンサの計測データを中継するゲージアンプは、2個を一組として、手すり装置の左右の支柱に取り付けられている。荷重センサおよびゲージアンプの電源は、手すり装置端末に入力される電力から供給される。これらの装置は、手すりを上下させてもケーブルに影響が出ないように起立補助型スマート手すり装置10の手すり部分に取り付けられている。
【0013】
図4に荷重センサ2の例を示す。(a)は荷重センサの2の配置図を示し、(b)はくし形電極の模式図を示し、(c)は感圧導電性電極の模式図を示し、(d)は、層構成の例を示す。
荷重センサ2は、感圧性導電ゴム21に多数の静電容量センサ21aを取り付けて、利用者が掴んだことを検知する。さらに、荷重センサ2には、くし形に分割されたくし形電極22が配置されていて、把持箇所24の位置が検知されるようにしてある。図示では把持位置24はくし形電極22c、22dの位置となりタッチセンサコントローラ25で位置が特定される。くし形電極に変えてマトリックス電極を使用して、把持箇所24を感知することもできる。
把持箇所24が水平バー11の中央からずれることによって、左右に配置された前後方向センサ32a、32bで検知される力の大きさ異なるが、把持位置を検出することによって、前後方向に働いた力を補正して計測することができる。
感圧性導電性電極21はゴム弾性を有し、抵抗値を測定する。ゴムにかかった圧力に応じて抵抗値が変わるので、手すりにつけて握力(荷重)が測定できる。
次のマトリックス電極23(図3(b)参照)は、感圧導電性ゴムの抵抗値を測定する。ゴムにかかった圧力に応じて抵抗値が変わるので、手すりを握った握力(荷重)が測定可能である。
これらの電極を上下に積層して荷重センサ2を構成した例を(d)に示す。
上層からくし形電極22、感圧性導電性ゴム電極21、マトリックス電極23の順に積層している。くし形電極22は接触を測定するセンサの役割を果たす。マトリックス電極23では、感圧性導電性ゴム電極21の抵抗値を測定するモノで、感圧導電性ゴム21にかかった圧力に応じて抵抗値が変わる、手すりを握った握力(荷重)が測定可能となる。
【0014】
これらのセンサはいずれも使用実績が多く、信頼性が高く安定したセンサである。
荷重センサには、手すりなどに取り付け手すりにかかる荷重を計測するためのデバイスである「スマートグリップ」を使用する。例えば、図3(b)に示すように、アンプ・A/D コンバータなどを備え、感圧導電性ゴムとマトリックス電極で構成されたセンサで発生した電圧を計測し、WiFi搭載マイコン を用いてその計測データを外部に送信するIoTデバイスとなっている。
【0015】
計測された電圧値は、荷重センサ内に搭載されたWiFi搭載マイコン を介して、Raspberry Pi Zero Wに送信される。起立補助型スマート手すり装置に搭載されたロードセルは、ゲージアンプ35に接続されている。ゲージアンプからはロードセルのひずみゲージの抵抗に印加された電圧がA/D変換されたデジタルデータとして出力される。
Raspberry Pi Zero WのGPIOピンを使用して、ゲージアンプの出力値を取得する。ロードセル端子には、Sensorcon and Control Co.,LtdのSC601-120kg(図3(c)参照)を使用することができる。
【0016】
図5に、起き上がるときの起立補助型スマート手すり装置10の底板51にかかる体重と荷重位置を計測する足荷重センサの例を示す。
底板51の表面には、例えば72mmメッシュにひずみセンサ61を配置する。ひずみセンサ61の表面には可撓性のあるタイル62がかぶせてある。
本例では、一つのメッシュには、ハーフブリッジのひずみケージを4つ設けて、一つのメッシュにかかった荷重を計測している。
このメッシュ状に配置されたひずみセンサ61によって、足をついた位置と、荷重分布を計測することができる。
【0017】
<起立動作観察・分析システム>
図1図5に本例に示す起立補助型スマート手すり装置10の基本構成が示された。本例では、この起立補助型スマート手すり装置10を用いて、利用者がベッドから起き上がる一連の動作を計測する。次に、この計測した起立動作の観察・分析について説明する。
【0018】
最初に、起立動作取得手段を従来例と比較して図6を利用して説明する。
従来手法を(a)に示す。
従来手法では、被験者の体の各所に多数の電極を取り付け、周囲にモーションキャプチャや表面筋電計、床反力計などを配置して、被験者にベッドから起き上がる動作をしてもらい、その様子を各センサや計測機器で計測してデータを取得する。筋シナジーの抽出にはヒトの身体に筋電位センサを貼って筋活動を計測する必要があり、1名の計測に1時間以上かかる。
このような、計測機器などを配置して計測を行うので、病院などの施設で準備して計測を行う必要があり、日常的にデータを取得することはできない。
これに対して起立補助型スマート手すり装置10を使用した本例の手法(b)では、被験者にはセンサが取り付けられておらず、日ごろ使用する手すりをもって立ち上がる動作をするだけで、その動作に伴うデータを取得することができ、そのデータに基づいて被験者の身体機能を推定することができる。
本例の手法では、起き上がり動作を、例えば、前屈、離床、伸展、安定化の4つの事象に分けて、被験者の筋シナジーを分析して評価する。これは、起き上がり動作が、手足の筋力のほかに、腹筋、背筋等各種の筋が分解された動作に伴って、それぞれ分担して総合力となって発揮されると考えていることによる。
本発明では、起立動作をいくつかの事象に分割して、被験者のデータを分析し、被験者の固有の表示を求め、経時データを分析して、経時変化を取得することにより、その変化から、弱化した筋力等を把握する。
【0019】
<基本動作分析の例>
図6に、本例で計測する起立動作に伴う4動作について模式的に説明する。
起立動作は日常動作の起点となる重要な動作であり、ヒトの起立動作は複数の筋の協働動作であり、バランスも必要となる。本発明では、起立動作を4つの筋協調(筋シナジー)に注目した。4つの筋シナジーは前屈、離床、全身の伸展、姿勢の制御の運動を担い、その筋シナジーを起立補助型スマート手すり装置に装着したセンサで検知しようとするものである。
加齢に伴い、筋力や感覚機能が衰えると、筋シナジーの活動が適切に調整出来ず、活動タイミングが長くなったり、ピークタイミングが変化し、運動機能が低下してしまう。このように、筋シナジーの変化をとらえて、ヒトの身体機能を分析し評価することができる。
具体的には本発明では、例えばヒトが前屈や離床の動作を担う筋シナジーが弱った時に、ヒトはそれを補償するように手すりを使って身体を前方に移動したり、上方に押し上げる動作など変化することに注目し、手すりにかかる力から筋シナジーの変化を推定できる。これをもとに、本発明では、1. 運動中の力を計測する手すりを製作し、2. 力情報から筋シナジーを同定する方法を提案し、3. 高齢者における身体機能の評価実験を行い、4. 安価で簡便に計測するセンサを提供する。
【0020】
図7に、本発明による起立動作取得について模式的に説明する。
ベッドからの起立動作を上述したように、1.上体の屈伸動作、2.離床動作、3.全身の伸展動作、4.姿勢の安定化動作の4つの動作に分解して検討している。
最初の動作である、1.上体の屈伸動作では、手すりを掴んで、手すりを引っ張ってベッドサイドに座る動作になる。この時は、前後方向に大きな力(図2のF2)が働くことになる。
2.の離床動作では、足に体重をのせながら、腰を浮かせる動作になり、手すりに寄りかかりながら身体を押し上げる動作になるので、図2のF1が大きくなる。この状態では、しっかり足に体重が乗り切らず、状態も屈伸の途中なので姿勢としては不安定で、各種の筋力のバランスが必要である。
3.の全身の伸展では、体重が足に乗り、体を垂直に起き上がらせる動作である。この動作では身体を押し上げる動作になるので、図2のF1が大きくなる。
4.の姿勢の安定化では、直立状態になるが、前後にふらつくことがあると、前後方向の検出力が大きくなる。直立した状態を保つので、各種の筋を使用する必要がある。
【0021】
この4動作において、手すりに働く力は、上体の前屈1と姿勢の安定化4で水平の力(主に前後方向)が大きくなり、離床動作2と全身の伸展3では垂直の力(上下の力)が大きくなる。
筋シナジーでは、それぞれの動作で各種の筋を使いこなして動作する必要がある。筋肉の付き具合や筋肉の活用度合いなどの違いから個々人の個性が現れるので、その個性を把握して、経時変化を取得することにより、変化を検知し、分析して評価することができる。
本発明では、これらの動作分析と経過観察によって、高齢者等の被験者の筋力や筋バランスの変化を分析して評価して情報を提供する。さらには、トレーニングのアドバイスや介護業務のアドバイスを行う。
【0022】
<起立動作と運動能力>
図8に起立動作と運動能力を説明する。被験者Mが起立補助型スマート手すり装置10の手すり部1を掴んで立ち上がろうとしている状態を模示 している。起立補助型スマート手すり装置10に装着してある各センサの検知データから次の被験者の姿勢や運動能力を推定する。
(a)手すり・底板に取り付けられたひずみゲージから重心位置・回転中心を推定。
(b)手すり・底板に取り付けられたひずみゲージの計測データと人の運動学モデルから姿勢を推定する。
(c)手すりを引く力、重心の変移等から運動能力の変化を推定。
(d)運動能力の低下の兆候を感知したら運動するように警告を発する。
(e)姿勢の変化から,筋力が低下している部位を特定し,適切な運動をアドバイスする。
【0023】
<転倒を推定>
起立補助型スマート手すり装置10では、転倒などの異常事態を検知することができる。図9を用いて転倒を推定する説明を行う。
(a)荷重の時間変化から、後ろ転倒を推定することが可能である。後ろ側に転倒した被験者M1の場合、底板51に乗っていた体重が、転倒によって急減するので、ひずみゲージ61の計測値の変化で判定することが可能となる。また、側倒も同様である。
(b)前のめりに転倒した被験者M2は、底板51にも体重が残るが、手すり部1にも体重が乗ることになるので、荷重センサ2で検知される値が大きくなり、底板のひずみゲージ61と荷重センサ2に荷重が分布することになるので前側に転倒したことが推定できる。
(c)転倒を検知したら家族などにメール・Twitterなどでメッセージを発信して転倒を知らせたり,Skypeを起動し遠隔地にいる家族との音声通話を起動したりすることも可能となる。
【0024】
以上、本発明の起立動作観察・分析手法について説明した。この手法を用いた起立動作観察・分析システム20を図10に示す。
起立動作観察・分析システム20は、例えば、起立補助型スマート手すり装置10、送信端末81、サーバ(クラウド)8、分析等アプリ82、端末83、ディスプレイ84などで構成される。
起立補助型スマート手すり装置10で取得されたデータは送信端末81を経由して、サーバ8に送られる。サーバ機能はクラウドに置くこともできる。サーバ8では、受信したデータを保存用に加工して、データベースに保存する。蓄積されたデータに分析ソフト等のアプリ82を適用して、家族や施設などに設置されている端末83に送信し、ディスプレイ84等に表示する。
端末83の利用者は、ディスプレイの表示をみて、高齢者の変化を読み取って、必要な対応をとることとなる。
【0025】
起立補助型スマート手すり装置10で計測されたデータの送信フローを図11に示す。
起立補助型スマート手すり装置10には、ロードセル4台と荷重センサが搭載されている。
ステップ101:初期化
初期化では、主に以下の処理が実行される。
(ア) シリアルポートのオープン:シリアルポートは、荷重センサ内のマイコンとの通信を行うため、通信速度、データ形式(ビット数、パリティの有無、ストップビット数)などの設定を行う。
(イ) I/O ポート機能設定:ひずみゲージアンプに使用するGPIO 機能の入出力を設定する。具体的には、データ線(HX_DATx)は入力、クロック線(HX_CLKx)は出力に設定される。
(ウ) 荷重センサの初期化:あらかじめ設定した回数A/D変換を行い、オフセット値を決定する。
(エ) ひずみゲージの初期化:最初に、データ線の状態を監視せずに、25クロックを送り、アンプ内のゲインを128倍に設定する。あらかじめ設定した回数A/D変換を行い、オフセット値を決定する。

ステップ102: センサ読み込み
以下の処理を実行する。
(ア) 現在値として格納しているデータを過去値として別変数に格納する。
(イ) 現在時刻を取得し時刻データ変数に格納する。
(ウ) 荷重センサ・ゲージアンプからデジタルデータを読み込み現在値の変数に格納する。

ステップ103: センサ値比較
過去値と現在値の比較を実施し、変化の有無を確認する。値の変化がない場合は、センサ読み込みが再度実行される。変化がある場合は、次の処理を実行する。

ステップ104: データ成形
サーバに送るために、時刻データ変数、荷重センサ・ゲージアンプのA/D変換値から送信データ列を生成する。

ステップ105: データ送信
データをサーバに送信する。送信プロトコルには、MQTT をベースとしたものが採用されている。

ステップ106: 送信正常終了
データの送信が正常に終了したことを確認したら、センサ読み込みに処理を戻す。異常終了が感知された場合は、例外処理を実施する。

ステップ107: 通信異常対応
データ送信が失敗した場合、再送処理を実行する。一定回数送信に失敗した場合、ログの異常終了をログに出力し、プログラムを終了する。
【0026】
<起立動作分析・支援システム>
本発明は、起立補助型スマート手すり装置10とその計測データを蓄積し、分析するCPUとディスプレイをセットにして、利用者が居住する住宅で利用することもできる他、本発明では、さらに通信ネットワークを利用した各種施設等と連携した起立動作・分析・支援システム30を構成する。図12に起立動作分析・支援システム30を形成するネットワークシステム30Aを示す。
ネットワークシステム30Aは、インターネットなどの通信ネットワーク75に、起立補助型スマート手すり装置端末71(「発信器)(以下「手すり端末」)、起立補助型スマート手すりの利用者端末72(在宅、サ高住などの高齢者等)、支援施設端末73(病院、介護施設等)、後見者端末74(家族等)、サーバ8(クラウド)、提携施設端末76などがつながっている。
この起立動作・分析・支援システム30を形成するネットワークシステム30Aは、図10に示す起立動作観察・分析システム20の端末83を各種の関係者の端末をネットワークでつないで、有機的なサービスができるようにしたシステムである。多数の手すり端末71と病院や介護施設、家族などの後見者などとつながって、緊急連絡や必要な介護サービスを提供しようとするものである。さらに、リハビリやフィットネス、レストランなど生活の維持、向上となる各種の施設ともつながり、高齢者等の社会性の維持、向上をはかることができるシステムである。
【0027】
この起立動作・分析・支援システム30を活用した支援事業例を図13に示す。
この図では、起立補助型スマート手すり装置10を利用する高齢者は自宅のほか介護施設などにもいる設定となっている。
手すり端末71で計測された情報はクラウド(サーバ)8に送られ、起立動作を分析し評価するアプリ82を用いて分析して評価した情報を家族等端末74や病院や介護施設等端末73が入手することとなる。さらに、保険、レストラン、トレーニングジム、ドラッグストア、福祉機器レンタルなどの各種の施設や設備と家族などが提携サービス契約を結ぶことにより、各種のサービスが提供できるようになる。
【0028】
分析・評価及び各種サービスに関する表示の例を図14に示す。
高齢者等の利用者端末72は日常的に家族等端末74と連絡がとれ、高齢者団体や介護施設のサービス案内、提携しているストアなどのサービス案内を受けることができる。
一方、起立補助型スマート手すり装置10から得られたデータは、当日データ85、短期分析結果86、長期分析結果87のような形で出力される。
当日データ85によれば、その日の立ち上がり回数などが把握でき、多ければ、不自由なく起立でき、その回数が減ってくれば、体力が弱っているなどと推測できるようになる。短期分析結果86では、短期間の体調の変化が観察され、長期分析結果87では、体調変化のトレンドが把握でき、対策の計画に役立てることができる。
【符号の説明】
【0029】
10:起立補助型スマート手すり装置
20:起立動作観察・分析システム
30:起立動作・分析・支援システム

1:手すり部
11:水平バー
2、3:起立動作検知センサ
2:荷重センサ
21:感圧性導電性ゴム電極
22:くし形電極
23:マトリックス電極
24:把持箇所
25:タッチセンサコントローラ
29:データ発信機

3:荷重方向センサ
31:上下方向センサ
32:前後方向センサ
33:左右方向センサ
34:ロードセル型センサ
35:ゲージアンプ
4:起立動作分析・評価装置

51:底板
52:支柱
53:中間バー

6:体重センサ
61:ひずみゲージ

71:起立補助型スマート手すり装置端末(手すり端末)
72:手すりの利用者端末
73:支援施設端末(病院、介護施設等)
74:後見者端末(家族等)
75:通信ネットワーク
76:提携施設

8:サーバ(クラウド)
81:送信端末
82:分析等アプリ
83:端末
84:ディスプレイ
85:当日データ
86:短期分析結果
87:長期分析結果
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14