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  • 特許-超音波接合用鋼板及び超音波接合方法 図1
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  • 特許-超音波接合用鋼板及び超音波接合方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】超音波接合用鋼板及び超音波接合方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230823BHJP
   B23K 20/10 20060101ALI20230823BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20230823BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
B23K20/10
C22C38/14
C21D9/46 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019090951
(22)【出願日】2019-05-13
(65)【公開番号】P2020186430
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 進
(72)【発明者】
【氏名】今中 智博
(72)【発明者】
【氏名】宮本 理沙
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-094604(JP,A)
【文献】国際公開第2017/029815(WO,A1)
【文献】特開2007-009235(JP,A)
【文献】国際公開第2013/088692(WO,A1)
【文献】特開2008-080383(JP,A)
【文献】特開2003-266180(JP,A)
【文献】特開2001-205452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
B23K 20/10
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.65質量%以下、Si:0.50質量%以下、Mn:1.00質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、Ti:0.10質量%以下、B:0.01質量%以下、Al:0.0005~0.1質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
金属組織中のフェライト面積率が10%以上であるとともに、0.2%耐力が500N/mm2以下である超音波接合用鋼板。
【請求項2】
前記フェライト面積率が60%以上、前記0.2%耐力が320N/mm2以下である、請求項1に記載の超音波接合用鋼板。
【請求項3】
C:0.10質量%以下、Si:0.10質量%以下、Mn:0.50質量%以下、P:0.02質量%以下、S:0.01質量%以下、Ti:0.10質量%以下、B:0.01質量%以下、Al:0.0005~0.1質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する、請求項1又は2に記載の超音波接合用鋼板。
【請求項4】
Nb:0.10質量%以下及びV:0.10質量%以下から選択される1種以上をさらに含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の超音波接合用鋼板。
【請求項5】
2つ以上の鋼板を超音波接合する方法であって、
前記鋼板が、請求項1~のいずれか一項に記載の超音波接合用鋼板であり、
前記超音波接合が、周波数:20~40kHz、出力:800W以上、加圧時間:0.2秒以上、加圧力:500~2000Nの条件で行われる超音波接合方法。
【請求項6】
前記超音波接合は、ホーンと、前記ホーンに対向して配置されたアンビルとを備える超音波接合装置を用い、前記ホーンと前記アンビルとの間に前記鋼板の積層体を配置して行われ、前記鋼板と接する前記ホーンの先端部が高速度工具鋼から形成されている、請求項に記載の超音波接合方法。
【請求項7】
前記ホーンの先端部の表面に、TiN、CrN又はDLCコーティングが施されている、請求項に記載の超音波接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波接合用鋼板、超音波接合用高強度鋼板及び超音波接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板同士の接合方法として、溶接及びかしめ接合が主に用いられている。
しかしながら、これらの接合方法は、溶接時の熱影響によって接合部の靭性や強度が低下する上、接合部の変形も大きいため意匠性の面でも不利である。
他方、接合部に対する影響が少ない接合方法として、超音波接合が注目されており、AlやCuなどの非鉄金属材同士の接合、非鉄金属材と鋼材との接合などのような異種金属間の接合に広く活用されつつある。
【0003】
例えば、特許文献1には、第1の金属材料(鋼など)と、第1の金属材料とは種類の異なる第2の金属材料(アルミニウム合金など)との間に、これら二種類の金属材料とは異なる第3の金属材料(亜鉛など)を介在させ、超音波振動により、第1の金属材料及び第2の金属材料のうちの少なくとも一方の金属材料と第3の金属材料との間の界面に共晶溶融を生じさせて接合を行う方法が提案されている。
また、特許文献2には、超微細粒組織を有する2枚以上の鋼板の超音波接合において、鋼板の接合される面の少なくとも片側に亜鉛メッキを施し、所定の条件下で超音波接合することにより、亜鉛メッキを溶融させて鋼板に拡散接合する方法が提案されている。
さらに、特許文献3には、複数の被接合材が積層された被接合体の超音波接合において、超音波振動を発生する工具側に、複数の被接合材のうち相対的に低い降伏強度又は0.2%耐力を有する材料からなる被接合材を配置して超音波接合する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-118059号公報
【文献】特開2008-80383号公報
【文献】特開2018-94604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼板同士を接合した部品や製品などは、様々な分野において広く用いられているが、近年、接合部の特性低下や変形を抑制する必要性が高くなってきている。
しかしながら、特許文献1の技術は、異種金属間の接合を対象としており、鋼材同士の接合に適用することができない。
また、特許文献2に記載の技術は、鋼板同士の接合に関するものであるものの、鋼板に亜鉛メッキを施すことが必須である。
さらに、特許文献3に記載の技術は、接合する鋼板の降伏強度又は0.2%耐力が異なることを前提としており、接合する鋼板の降伏強度又は0.2%耐力が同一である場合には鋼板同士の接合が難しいと考えられる。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、超音波接合によって同種の鋼板同士を接合しても十分な接合強度を得ることが可能な超音波接合用鋼板、超音波接合用高強度鋼板及び超音波接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、鋼板の金属組織中のフェライト面積率及び0.2%耐力が、超音波接合による接合強度と密接に関係しているという知見に基づき、金属組織中のフェライト面積率及び0.2%耐力を特定の範囲に制御することにより、超音波接合による鋼板同士の接合強度を向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、C:0.65質量%以下、Si:0.50質量%以下、Mn:1.00質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、Ti:0.10質量%以下、B:0.01質量%以下、Al:0.0005~0.1質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、金属組織中のフェライト面積率が10%以上であるとともに、0.2%耐力が500N/mm2以下である超音波接合用鋼板である
らに、本発明は、2つ以上の鋼板を超音波接合する方法であって、前記鋼板が、前記超音波接合用鋼板であり、前記超音波接合が、周波数:20~40kHz、出力:800W以上、加圧時間:0.2秒以上、加圧力:500~2000Nの条件で行われる超音波接合方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超音波接合によって同種の鋼板同士を接合しても十分な接合強度を得ることが可能な超音波接合用鋼板、超音波接合用高強度鋼板及び超音波接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例における超音波接合に用いた2つの試験片の積層状態を説明するための図である。
図2】実施例1における冷延鋼板の0.2%耐力と最大応力との関係を示すグラフである。
図3】実施例2における冷延鋼板及び高強度冷延鋼板の0.2%耐力と最大応力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0012】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る超音波接合用鋼板(以下、「鋼板」と略すことがある)は、金属組織中のフェライト面積率が10%以上であるとともに、0.2%耐力が500N/mm2以下である。
以下、本発明の実施形態1に係る超音波接合用鋼板の特徴について詳細に説明する。
【0013】
<金属組織>
鋼板の金属組織におけるフェライト組織は、超音波接合による接合強度に影響を与える因子の1つであり、金属組織中のフェライト面積率が高いほど、超音波接合による接合強度が向上する。超音波接合によって良好な接合強度を得る観点からは、金属組織中のフェライト面積率を10%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは90%以上に制御する。なお、金属組織中のフェライト面積率の上限は、特に限定されず、100%であってもよい。
ここで、本明細書において「金属組織中のフェライト面積率」とは、鋼板の圧延方向に平行な断面を光学顕微鏡で観察し、画像解析して算出されたフェライト面積率のことを意味する。
【0014】
<0.2%耐力>
鋼板の0.2%耐力も、超音波接合による接合強度に影響を与える因子の1つであり、0.2%耐力が低いほど、超音波接合による接合強度が向上する。超音波接合によって良好な接合強度を得る観点からは、0.2%耐力を500N/mm2以下、好ましくは320N/mm2以下に制御する。なお、0.2%耐力の下限は、特に限定されないが、一般に100N/mm2である。
ここで、本明細書において「0.2%耐力」とは、JIS Z2241:2011に準拠して測定される0.2%耐力を意味する。
【0015】
<組成>
鋼板の組成は、特に限定されないが、C:0.65質量%以下、Si:0.50質量%以下、Mn:1.00質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、Ti:0.10質量%以下、B:0.01質量%以下、Al:0.0005~0.1質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることが好ましい。また、鋼板は、必要に応じて、Nb:0.10質量%以下及びV:0.10質量%以下から選択される1種以上をさらに含有することができる。
ここで、本明細書において「不可避的不純物」とは、O、Nなどの除去することが難しい成分のことを意味する。不可避的不純物は、原料を溶製する段階で不可避的に混入する。
以下、鋼板の組成について詳細に説明する。
【0016】
(C:0.65質量%以下)
Cは、セメンタイトなどの炭化物を形成してフェライト組織中に析出し、フェライト面積率を低下させるとともに0.2%耐力を上昇させる。そのため、Cは、超音波接合による接合強度を低下させる原因になる元素といえる。特に、Cの含有量が0.65質量%を超えると、金属組織中のフェライト面積率が10%未満となり易い。したがって、Cの含有量は、好ましくは0.65質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下に制御する。このような範囲にCの含有量を制御することにより、金属組織中のフェライト面積率及び0.2%耐力を上記の範囲に制御し易くなる。
なお、Cの含有量は低いほど好ましいため、その下限は特に限定されない。
【0017】
(Si:0.50質量%以下)
Siは、フェライト変態を促進させるのに有効な元素であるが、固溶強化によって0.2%耐力を上昇させる。そのため、Siも、超音波接合による接合強度を低下させる原因になる元素といえる。したがって、Siの含有量は、好ましくは0.50質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下に制御する。このような範囲にSiの含有量を制御することにより、0.2%耐力の上昇を許容可能な範囲に抑えつつ、金属組織中のフェライト面積率を高めることができる。
なお、Siの含有量は低いほど好ましいため、その下限は特に限定されない。
【0018】
(Mn:1.00質量%以下)
Mnは、Siと同様に、フェライト変態を促進させるのに有効な元素であるが、固溶強化によって0.2%耐力を上昇させる。そのため、Mnも、超音波接合による接合強度を低下させる原因になる元素といえる。したがって、Mnの含有量は、好ましくは1.00質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下に制御する。このような範囲にMnの含有量を制御することにより、0.2%耐力の上昇を許容可能な範囲に抑えつつ、金属組織中のフェライト面積率を高めることができる。
なお、Mnの含有量は低いほど好ましいため、その下限は特に限定されない。
【0019】
(P:0.05質量%以下)
Pは、固溶強化によって0.2%耐力を上昇させる。そのため、Pも、超音波接合による接合強度を低下させる原因になる元素といえる。したがって、Pの含有量は、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.02質量%以下に制御する。このような範囲にPの含有量を制御することにより、0.2%耐力の上昇を許容可能な範囲に抑えることができる。
なお、Pの含有量は低いほど好ましいため、その下限は特に限定されない。
【0020】
(S:0.02質量%以下)
Sは、Mnと硫化物を形成し、曲げ加工性を始めとする局部延性を劣化させる。そのため、Sは、局部延性の観点から、極力低減すべき元素である。したがって、Sの含有量は、好ましくは0.02質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下に制御する。このような範囲にSの含有量を制御することにより、局部延性の劣化を許容可能な範囲に抑えることができる。
なお、Sの含有量は低いほど好ましいため、その下限は特に限定されない。
【0021】
(Ti:0.10質量%以下)
Tiは、Cと結合して微細なTiの炭化物として析出するため、セメンタイトの析出抑制に有効な元素である。しかし、微細な炭化物は0.2%耐力を上昇させるため、超音波接合による接合強度を低下させる原因になる。したがって、Tiの含有量は、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下に制御する。このような範囲にTiの含有量を制御することにより、0.2%耐力の上昇を許容可能な範囲に抑えつつ、金属組織中のフェライト面積率を高めることができる。
なお、Tiの含有量は低いほど好ましいため、その下限は特に限定されない。
【0022】
(B:0.01質量%以下)
Bは、結晶粒界に偏析して原子間結合力を高めるため、低温靭性の改善に有効な元素である。しかし、Bは、フェライト結晶粒径を微細化し、0.2%耐力を上昇させるため、超音波接合による接合強度を低下させる原因になる。したがって、Bの含有量は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.005質量%以下に制御する。このような範囲にBの含有量を制御することにより、0.2%耐力の上昇を許容可能な範囲に抑えつつ、低温靭性を向上させることができる。
なお、Bの含有量は低いほど好ましいため、その下限は特に限定されない。
【0023】
(Al:0.0005~0.1質量%)
Alは、製鋼時に脱酸材として添加される元素である。その効果を十分に得るためには、Alの含有量を好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.0010質量%以上に制御する。一方、Alの含有量が多くなると、その効果は飽和するとともにかえって製造コストの上昇を招くため、Alの含有量を好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下に制御する。
【0024】
(Nb:0.10質量%以下、V:0.10質量%以下の1種以上)
NbやVも、Tiと同様に、Cと結合して微細なTiの炭化物として析出するため、セメンタイトの析出抑制に有効な元素である。しかし、微細な炭化物は0.2%耐力を上昇させるため、超音波接合による接合強度を低下させる原因になる。したがって、Nb及びVの含有量はそれぞれ、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下に制御する。
なお、Nb及びVの含有量は低いほど好ましいため、その下限は特に限定されない。
【0025】
<厚さ>
鋼板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは3.0mm未満、より好ましくは0.1~2.0mm、さらに好ましくは0.5~1.5mmである。
【0026】
<製造方法>
本発明の実施形態1に係る鋼板は、当該技術分野において公知の方法(薄鋼板の製造方法)に準じて製造することができる。具体的には、上記の組成を有する鋼を溶製した後、連続鋳造、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍及び調質圧延を順次行うことにより、本発明の実施形態1に係る鋼板を製造することができる。また、必要に応じて、酸洗などの公知の処理を適切な段階で行ってもよい。
【0027】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係る超音波接合用高強度鋼板(以下、「高強度鋼板」と略すことがある)は、本発明の実施形態1に係る超音波接合用鋼板に冷延率:10%以上の冷間圧延が施されたものである。このような冷延率で冷間圧延を施すことにより、本発明の実施形態1に係る超音波接合用鋼板の効果(超音波接合による接合強度の向上効果)に加えて、それ自体の強度を高めることができる。冷延率が10%未満であると、鋼板の強度を十分に高めることができない。冷延率は、高くなるほど、超音波接合による接合強度が低下する傾向にあるものの、固溶強化や変態強化などの他の強化手段によって高強度化した場合に比べて、超音波接合による接合強度は低下し難い。これは、金属組織中のフェライト面積率が高いことなどに起因すると思われるが、詳細は明らかでない。
なお、冷延率の上限は、特に限定されないが、冷延率が高すぎると、板厚が小さくなり過ぎて用途が限定される。そのため、冷延率の上限は80%とすることが好ましい。
【0028】
高強度鋼板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは2.7mm未満、より好ましくは0.02~1.8mm、さらに好ましくは0.1~1.35mmである。
【0029】
(実施形態3)
本発明の実施形態3に係る超音波接合方法は、2つ以上の鋼板を超音波接合するものである。
本発明の実施形態3に係る超音波接合方法では、2つ以上の鋼板のうちの少なくとも1つが、本発明の実施形態1に係る鋼板、又は本発明の実施形態2に係る高強度鋼板である。例えば、2つの鋼板のうちの1つが本発明の実施形態1に係る鋼板又は本発明の実施形態2に係る高強度鋼板であってよく、2つが本発明の実施形態1に係る鋼板又は本発明の実施形態2に係る高強度鋼板であってもよい。また、2つの鋼板のうちの1つが本発明の実施形態1に係る鋼板、もう1つが本発明の実施形態2に係る高強度鋼板であってもよい。
【0030】
超音波接合は、ホーンと、ホーンに対向して配置されたアンビルとを備える超音波接合装置を用い、ホーンとアンビルとの間に2つ以上の鋼板の積層体を配置して行うことができる。ホーンには超音波発振器が接続されており、超音波発振器からの信号をコンバーター及びブースターで増幅することにより、ホーンが超音波振動される。ホーンの先端を鋼板に押し当てて加圧しながら超音波振動させることにより、接合界面に摩擦が生じ、表面の吸着汚れや酸化皮膜などを除去することができる。このようにして生じた鋼板の新生面同士を圧着することで鋼板同士を接合することができる。さらに一定時間加圧を続けると、接合界面近傍に大きな塑性流動が生じて接合面積が増大するため、鋼板間の接合強度を高めることができる。
【0031】
ホーンは、一般に、被接合材と接触する先端部に超硬合金製のチップを有するが、特に鋼板を被接合材として用いる場合、超硬合金製のチップでは靭性が十分でなく早期に破損してしまうことがある。したがって、鋼板と接するホーンの先端部(チップ)が高速度工具鋼から形成されていることが好ましく、先端部(チップ)がホーンと高速度工具鋼で一体形成されていることがより好ましい。このような構成とすることにより、チップが早期に破損することを抑制することができる。
ここで、本明細書において「高速度工具鋼」とは、JIS Z4403:2015に規定される高速度工具鋼を意味する。
【0032】
また、ホーンの先端部の表面には、硬質膜が設けられていることが好ましい。硬質膜の種類は、特に限定されないが、TiN、CrN又はDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングが施されていることが好ましい。このような硬質膜を設けることにより、ホーンの先端部の磨耗を抑制することができるため、ホーンの寿命を延ばすことが可能となる。
【0033】
超音波接合は、以下の条件で行われる。
<周波数:20~40kHz>
周波数は、20kHz以上でないと十分な接合強度が得られない。一方、40kHzを超える周波数では、十分な出力(振幅)で振動させることが困難となり、かえって十分な接合強度が得られなくなる。したがって、周波数は20~40kHzの範囲に制御する。
【0034】
<出力:800W以上>
出力は、800W以上でないと十分な接合強度が得られない。一方、出力の上限は、特に限定されないが、出力が大きすぎるとホーン及び鋼板表面の損傷を招く恐れがあるため、4000W以下とすることが好ましい。
【0035】
<加圧時間:0.2秒以上>
加圧時間は、0.2秒以上でないと、接合面積が小さくなるため十分な接合強度が得られない。そのため、加圧時間は0.2秒以上に制御する。加圧時間の上限は、特に限定されないが、時間が長すぎると鋼板やホーン先端で大きな温度上昇を招き、ホーンや鋼板表面の損傷を招くため、5秒以下とすることが好ましい。
【0036】
<加圧力:500~2000N>
加圧力は、500N以上でないと、接合面積が小さくなるため十分な接合強度が得られない。一方、加圧力が高すぎると、鋼板表面やホーン先端部が損傷する。したがって、加圧力は500~2000Nの範囲に制御する。
【実施例
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0038】
(実施例1)
表1に示す組成(残部はFe及び不可避的不純物である)を有する各鋼を通常の薄鋼板の製造工程に準じて連続鋳造、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍及び調質圧延を順次行うことによって、厚さ1.0mmの冷延鋼板(超音波接合用鋼板)を得た。
【0039】
【表1】
【0040】
得られた冷延鋼板について、以下の評価を行った。
まず、上記の方法に従って金属組織中のフェライト面積率及び0.2%耐力を評価した。0.2%耐力はJIS Z2241:2011に準拠して測定を行い、試験片には、引張方向が圧延方向と平行な方向となるように採取した5号試験片を用いた。
次に、各冷延鋼板から幅25mm、長さ100mmの短冊状の試験片を切り出した後、超音波接合装置を用いて超音波接合を行って接合強度を評価した。試験片は、長さ方向が圧延方向と一致するようにした。また、超音波接合は、同じ組成の冷延鋼板の試験片2つを用い、図1に示すように、2つの試験片10の先端部が30mm重なるように積層させた。そして、この積層部の上側の接触部20にホーンの先端を接触させるとともに下側をアンビルによって支持した後、周波数:20kHz、出力:3000W(振幅:約40μm)、加圧時間:1.0秒、加圧力:1500Nの条件下で超音波接合を行った。ホーンは高速度工具鋼のSKH51にて作製し、先端形状は3.5mm×15mmの範囲に2列×7個のローレットパターンを有する形状とした。
【0041】
上記のようにして超音波接合された試験片についてJIS Z2241:2011に準拠して、せん断引張試験を行った。せん断引張試験は、引張試験機を用い、引張速度5mm/分の条件で行い、最大強度(N)を測定した。また、下記の式に基づいて、最大応力も算出した。
最大応力(N/mm2)=最大強度(N)/接合面積(mm2
上記の式中、接合面積は、3.5mm×15mmとした。
上記の各結果を表2に示す。また、冷延鋼板の0.2%耐力と最大応力との関係を示すグラフを図2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示されるように、0.2%耐力及びフェライト面積率が所定の範囲内の試験No.1-2及び1-5~1-11(本発明例)の冷延鋼板は、0.2%耐力及びフェライト面積率が所定の範囲外の試験No.1-1、1-3及び1-4(比較例)の冷延鋼板に比べて、最大強度及び最大応力が高く、良好な接合強度を示した。また、図2に示されるように、0.2%耐力が小さくなるほど最大応力が大きくなる傾向にあり、特に0.2%耐力を320N/mm2以下とすることにより、最大応力が80N/mm2以上の良好な接合強度を示した。
【0044】
(実施例2)
表1に示す鋼種No.6及び8の組成(残部はFe及び不可避的不純物である)を有する鋼を用い、実施例1と同様の工程を行うことにより、厚さ2.0mm、1.6mm、1.12mm及び1.05mmの冷延鋼板(超音波接合用鋼板)を得た。厚さは、圧延率を変えることによって調整した。
次に、上記で得られた厚さ1.05mm、1.12mm及び1.6mmの冷延鋼板は、厚さ1.0mm(冷延率はそれぞれ4.8%、10.7%、37.5%である)まで、厚さ2.0mmの冷延鋼板は、厚さ1.0mm(冷延率50%)及び0.4mm(冷延率80%)まで冷間圧延をさらに施して高強度冷延鋼板(超音波接合用高強度鋼板)を得た。
【0045】
上記で得られた冷延鋼板及び高強度冷延鋼板について、実施例1と同様の方法で、0.2%耐力を測定するとともに、冷延鋼板又は高強度冷延鋼板の同じ試験片2つを用いて超音波接合を行い、せん断引張試験を行った。その結果を表3に示す。
なお、鋼種No.6及び8を用いた実施例2の冷延鋼板及び高強度冷延鋼板のフェライト面積率は、鋼種No.6及び8を用いた実施例1の冷延鋼板のもの(表2の試験No.1-6及び1-8)とそれぞれ同じである。また、表3において、試験No.2-1、2-3、2-5、2-7、2-10、2-12、2-14及び2-16は冷延鋼板であり、それ以外は高強度冷延鋼板である。
また、実施例2における冷延鋼板及び高強度冷延鋼板の0.2%耐力と最大応力との関係を示すグラフを図3に示す。なお、図3では、比較のために、実施例1における冷延鋼板の0.2%耐力と最大応力との関係を示すグラフも合わせて示す。
【0046】
【表3】
【0047】
図3に示されるように、鋼種No.6及び8を用いて作製された冷延鋼板及び高強度冷延鋼板(本発明例)は、実施例1の試験No.1-1、1-3及び1-4(比較例)の冷延鋼板に比べて、最大強度及び最大応力が高く、良好な接合強度を示した。また、図3及び表3に示されるように、高強度冷延鋼板は、冷延鋼板に比べて、最大強度及び最大応力が若干低くなる傾向があるものの、その接合強度は十分なものであった。
【0048】
(実施例3)
表1に示す鋼種No.2及び8の組成(残部はFe及び不可避的不純物である)を有する鋼を用い、実施例1と同様の工程を行うことにより、厚さ1.0mmの冷延鋼板(超音波接合用鋼板)を得た。
なお、鋼種No.2及び8を用いた実施例3の冷延鋼板の0.2%耐力及びフェライト面積率は、実施例1の冷延鋼板のもの(表2の試験No.1-2及び1-8の結果)とそれぞれ同じである。
上記で得られた冷延鋼板について、実施例1と同様にして冷延鋼板の同じ試験片2つを作製し、2つの試験片の先端部が30mm重なるように積層させた後、周波数以外の条件を変えて超音波接合を行った。その後、実施例1と同様にしてせん断引張試験を行った。その結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4に示されるように、超音波接合において出力を800W以上、加圧時間を0.2秒以上、加圧力を500~2000Nの範囲に制御したものは、当該範囲外のものに比べて最大強度及び最大応力が高く、良好な接合強度を示した。
【0051】
(実施例4)
表1に示す鋼種No.8の組成(残部はFe及び不可避的不純物である)を有する鋼を用い、実施例1と同様の工程を行うことにより、厚さ1.0mmの冷延鋼板(超音波接合用鋼板)を得た。
なお、この冷延鋼板の0.2%耐力及びフェライト面積率は、実施例1の冷延鋼板のもの(表2の試験No.1-8の結果)と同じである。
【0052】
次に、超音波接合装置に用いるホーンとして、超硬合金製のチップを先端部にろう接したホーン(試験No.4-1)、先端部(チップ)が高速度工具鋼(SKH51)で一体形成されたホーン(試験No.4-2)、試験No.4-2のホーンの先端部にDLCコーティング(厚さ1.5μm)を施したホーン(試験No.4-3)をそれぞれ準備した。なお、ホーンの先端形状は、3.5mm×15mmの範囲に2列×7個のローレットパターンを有する形状とした。
これらのホーンを超音波接合装置に組み込んだ後、実施例1と同様の条件で冷延鋼板の同じ試験片2つの超音波接合をホーン先端部に異常が発生するまで繰り返し行い、ホーン寿命を評価した。その結果を表5に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
表5に示されるように、超硬合金製のチップを先端部にろう接したホーン(試験No.4-1)を用いた場合に比べて、先端部(チップ)が高速度工具鋼(SKH51)で一体形成されたホーン(試験No.4-2)を用いることで、ホーン寿命が著しく向上した。さらに、その先端部にDLCコーティングを施したホーン(試験No.4-3)を用いることで、ホーン寿命が更に向上した。
【0055】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、超音波接合によって同種の鋼板同士を接合しても十分な接合強度を得ることが可能な超音波接合用鋼板、超音波接合用高強度鋼板及び超音波接合方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 試験片
20 接触部
図1
図2
図3