IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】ラインパイプ用鋼板および鋼管
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230823BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230823BHJP
   C21D 8/02 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/58
C21D8/02 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019106968
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020200497
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】藤城 泰志
(72)【発明者】
【氏名】原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】荒井 勇次
(72)【発明者】
【氏名】篠原 康浩
(72)【発明者】
【氏名】土井 直己
(72)【発明者】
【氏名】湊 出
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6460297(JP,B1)
【文献】国際公開第2019/058422(WO,A1)
【文献】特開2013-227671(JP,A)
【文献】特開2012-241273(JP,A)
【文献】特開2015-189984(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0062903(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.02~0.08%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.5~1.7%、
Nb:0.001~0.100%、
N:0.0010~0.0060%、
Ca:0.0001~0.0050%、
P:0.03%以下、
S:0.0025%以下、
Ti:0.005~0.030%、
Al:0.01~0.04%、
O:0.004%以下、
Mo:0~2.0%、
Cr:0~2.0%、
Cu:0~2.0%、
Ni:0~2.0%、
W:0~1.0%、
V:0~0.20%、
Zr:0~0.050%、
Ta:0~0.050%、
B:0~0.0020%、
REM:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
Hf:0~0.005%、
Re:0~0.005%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
下記(ii)式で表わされるCeqが0.33~0.50であり、
板厚中心部における金属組織が、アシキュラーフェライトおよびベイナイトから選択される1種または2種を含み、残部がフェライト、M-A相、および疑似パーライトから選択される1種以上であり、
表層における金属組織が、アシキュラーフェライトおよびベイナイトから選択される1種または2種と、疑似パーライトとを含み、残部が粒径100nm以上のセメンタイトを含む焼戻しマルテンサイト、および、M-A相から選択される1種以上であり、表層における最高硬さが250HV0.1以下であり、
引張強さが460~560MPaである、ラインパイプ用鋼板。
0.05≦Mo+Cr+Cu+Ni≦2.0 ・・・(i)
Ceq=C+Mn/6+(Ni+Cu)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(ii)
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
W:0.01~1.0%、
V:0.01~0.20%、
Zr:0.0001~0.050%、
Ta:0.0001~0.050%、および、
B:0.0001~0.0020%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1に記載のラインパイプ用鋼板。
【請求項3】
前記化学組成が、質量%で、
REM:0.0001~0.01%、
Mg:0.0001~0.01%、
Hf:0.0001~0.005%、および
Re:0.0001~0.005%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1または請求項2に記載のラインパイプ用鋼板。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の鋼板を用いた、
ラインパイプ用鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラインパイプ用鋼板、およびそれを用いたラインパイプ用鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原油、天然ガス等の油井およびガス井(以下、油井およびガス井を総称して、単に「油井」という。)の採掘条件は過酷になってきている。油井の採掘環境は、採掘深度が増加するに伴って、その雰囲気にCO、HS、Cl等を含有するようになり、採掘される原油および天然ガスもHSを多く含むようになる。
【0003】
そのため、これらを輸送するラインパイプの性能に対する要求も厳しくなってきており、高い耐硫化物応力割れ性(以下、「耐SSC性」ともいう。)および耐水素誘起割れ性(以下、「耐HIC性」ともいう。)を有するラインパイプ用鋼の需要が増加している。
【0004】
S環境中で使用される鋼は、耐SSC性向上の観点から、鋼の最高硬さを低く抑える必要がある。そのため、耐硫化物性能が求められる鋼においては、硬さを抑制する技術の向上が重要な課題となっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、耐SSC性に優れた引張強さ60kgf/mm級の高張力鋼の製造法が開示されている。また、特許文献2には、引張強さ570~720N/mmの溶接熱影響部と母材の硬さ差が小さい厚鋼板およびその製造方法が開示されている。さらに、特許文献3には、強度の低下とDWTT特性の劣化を防止しつつ、表面硬さを低減させることが可能なX60クラスおよびそれ以上の耐サワーラインパイプ用高強度鋼板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-8322号公報
【文献】特開2001-73071号公報
【文献】特開2002-327212号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本鉄鋼協会基礎研究会ベイナイト調査研究部会編、「鋼のベイナイト写真集1」、日本鉄鋼協会、1992年6月出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3によれば、焼入れ後に焼戻しを施すことによって、鋼板表面の硬度を低下させることが可能になる。ただし、これらの文献においては、硬さの評価において、試験力を98N(10kgf)としたビッカース硬さ試験を行っている。試験力が高いと測定領域が大きくなる。すなわち、広い領域に含まれる金属組織の平均的な硬さが測定されることとなる。
【0009】
しかしながら、局所的にでも硬さの高い組織が存在すると、そこを起点にSSCが発生するおそれがある。そのため、より低い試験力でのビッカース硬さ試験を行い、その測定結果に基づく最高硬さを低く制御する必要がある。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決し、優れた耐SSC性を有する、ラインパイプ用鋼板および鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、下記のラインパイプ用鋼板および鋼管を要旨とする。
【0012】
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.02~0.08%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.5~1.7%、
Nb:0.001~0.100%、
N:0.0010~0.0060%、
Ca:0.0001~0.0050%、
P:0.03%以下、
S:0.0025%以下、
Ti:0.005~0.030%、
Al:0.01~0.04%、
O:0.004%以下、
Mo:0~2.0%、
Cr:0~2.0%、
Cu:0~2.0%、
Ni:0~2.0%、
W:0~1.0%、
V:0~0.20%、
Zr:0~0.050%、
Ta:0~0.050%、
B:0~0.0020%、
REM:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
Hf:0~0.005%、
Re:0~0.005%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
下記(ii)式で表わされるCeqが0.30~0.50であり、
板厚中心部における金属組織が、アシキュラーフェライトおよびベイナイトから選択される1種または2種を含み、残部がフェライト、M-A相、および疑似パーライトから選択される1種以上であり、
表層における金属組織が、アシキュラーフェライトおよびベイナイトから選択される1種または2種を含み、残部が粒径100nm以上のセメンタイトを含む焼戻しマルテンサイト、M-A相、および疑似パーライトから選択される1種以上であり、表層における最高硬さが250HV0.1以下である、ラインパイプ用鋼板。
0.05≦Mo+Cr+Cu+Ni≦2.0 ・・・(i)
Ceq=C+Mn/6+(Ni+Cu)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(ii)
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0013】
(2)前記化学組成が、質量%で、
W:0.01~1.0%、
V:0.01~0.20%、
Zr:0.0001~0.050%、
Ta:0.0001~0.050%、および、
B:0.0001~0.0020%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)に記載のラインパイプ用鋼板。
【0014】
(3)前記化学組成が、質量%で、
REM:0.0001~0.01%、
Mg:0.0001~0.01%、
Hf:0.0001~0.005%、および
Re:0.0001~0.005%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)または(2)に記載のラインパイプ用鋼板。
【0015】
(4)上記(1)から(3)までのいずれかに記載の鋼板を用いた、
ラインパイプ用鋼管。
【0016】
なお、本発明において、「表層」とは、鋼板または鋼管の表面から1.0mmの深さまでの領域を意味する。また、「HV0.1」は、試験力を0.98N(0.1kgf)として、ビッカース硬さ試験を実施した場合の「硬さ記号」を意味する(JIS Z 2244:2009を参照)。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表層の最高硬さを250HV0.1以下に抑制することができるため、耐SSC性に優れる鋼板および鋼管を得ることが可能となる。したがって、本発明に係る鋼板および鋼管は、HSを多く含むような原油および天然ガスを輸送するためのラインパイプとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0019】
1.化学組成
本発明に係る鋼板および鋼管に係る各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0020】
C:0.02~0.08%
Cは、鋼の強度を向上させる元素である。C含有量が0.02%未満では、強度向上効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.08%を超えると、表層の硬さが上昇し、SSCが発生しやすくなる。したがって、C含有量は0.02~0.08%とする。C含有量は0.03%以上であるのが好ましい。また、耐SSC性を確保するとともに、溶接性および靭性の低下を抑制するためには、C含有量は0.06%以下であるのが好ましい。
【0021】
Si:0.01~0.50%
Siは、脱酸のために添加する元素である。Si含有量が0.01%未満では、脱酸効果が十分に得られず、また、製造コストが大幅に上昇する。一方、Si含有量が0.50%を超えると、溶接部の靭性が低下する。したがって、Si含有量は0.01~0.50%とする。Si含有量は0.05%以上であるのが好ましく、0.10%以上であるのがより好ましい。また、Si含有量は0.40%以下であるのが好ましく、0.30%以下であるのがより好ましい。
【0022】
Mn:0.5~1.7%
Mnは、強度および靭性を向上させる元素である。Mn含有量が0.5%未満では、添加効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が1.7%を超えると、耐HIC性が低下する。したがって、Mn含有量は0.5~1.7%とする。Mn含有量は1.0%以上であるのが好ましく、1.2%以上であるのがより好ましい。また、Mn含有量は1.6%以下であるのが好ましく、1.5%以下であるのがより好ましい。
【0023】
Nb:0.001~0.100%
Nbは、炭化物および窒化物を形成し、強度の向上に寄与する元素である。また、Nb添加は未再結晶温度域を高温域に拡大させるため、Nb含有量が0.001%未満では、添加効果が十分に得られない。一方、Nb含有量が0.100%を超えると、粗大な炭化物および窒化物が生成し、耐HIC性および靭性が低下する。したがって、Nb含有量は0.001~0.100%とする。Nb含有量は0.005%以上であるのが好ましく、0.010%以上であるのがより好ましい。また、Nb含有量は0.080%以下であるのが好ましく、0.060%以下であるのがより好ましい。
【0024】
N:0.0010~0.0060%
Nは、Nbと窒化物を形成し、加熱時のオーステナイト粒径の微細化に寄与する元素である。N含有量が0.0010%未満であると、添加効果が十分に得られない。一方、N含有量が0.0060%を超えると、粗大な炭窒化物が生成し、耐HIC性および靭性が低下する。したがって、N含有量は0.0010~0.0060%とする。N含有量は0.0020%以上であるのが好ましい。また、N含有量は0.0050%以下であるのが好ましい。
【0025】
Ca:0.0001~0.0050%
Caは、CaSを形成し、圧延方向に伸長するMnSの形成を抑制し、耐HIC性の向上に寄与する元素である。Ca含有量が0.0001%未満では、添加効果が十分に得られない。一方、Ca含有量が0.0050%を超えると、酸化物が集積し、耐HIC性が低下する。したがって、Ca含有量は0.0001~0.0050%とする。Ca含有量は0.0005%以上であるのが好ましく、0.0010%以上であるのがより好ましい。また、Ca含有量は0.0045%以下であるのが好ましく、0.0040%以下であるのがより好ましい。
【0026】
P:0.03%以下
Pは、不可避的不純物として残留する元素である。P含有量が0.03%を超えると、耐SSC性および耐HIC性が低下し、また、溶接部の靭性が低下する。したがって、P含有量は0.03%以下とする。P含有量は0.015%以下であるのが好ましく、0.01%以下であるのがより好ましい。なお、P含有量の過度の低減は、製造コストの大幅な上昇を招くため、0.001%が実質的な下限である。
【0027】
S:0.0025%以下
Sは、不可避的不純物として残留し、熱間圧延時に圧延方向に延伸するMnSを形成して、耐HIC性を阻害する元素である。S含有量が0.0025%を超えると、耐HIC性が著しく低下する。したがって、S含有量は0.0025%以下とする。S含有量は0.0015%以下であるのが好ましく、0.0010%以下であるのがより好ましい。なお、S含有量の過度の低減は、製造コストの大幅な上昇を招くため、0.0001%が実質的な下限である。
【0028】
Ti:0.005~0.030%
Tiは、窒化物を形成し、結晶粒の微細化に寄与する元素である。Ti含有量が0.005%未満であると、添加効果が十分に得られない。一方、Ti含有量が0.030%を超えると、靭性が低下するだけでなく、粗大な窒化物を生成し、耐HIC性が低下する。したがって、Ti含有量は0.005~0.030%とする。Ti含有量は0.008%以上であるのが好ましく、0.015%以下であるのが好ましい。
【0029】
Al:0.01~0.04%
Alは、脱酸のために添加する元素である。Al含有量が0.01%未満であると、添加効果が十分に得られない。一方、Al含有量が0.04%を超えると、Al酸化物が集積してクラスターが生成し、耐HIC性が低下する。したがって、Al含有量は0.01~0.04%とする。Al含有量は0.015%以上であるのが好ましく、0.035%以下であるのが好ましい。
【0030】
O:0.004%以下
Oは、脱酸後、不可避的に残留する元素であり、少量であるほど好ましい。O含有量が0.004%を超えると、酸化物が生成して、靭性および耐HIC性が低下する。したがって、O含有量は0.004%以下とする。O含有量は0.003%以下であるのが好ましい。なお、O含有量の過度の低減は、製造コストの大幅な上昇を招くため、0.001%が実質的な下限である。
【0031】
Mo:0~2.0%
Cr:0~2.0%
Cu:0~2.0%
Ni:0~2.0%
0.05≦Mo+Cr+Cu+Ni≦2.0 ・・・(i)
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0032】
Mo、Cr、CuおよびNiは、焼入れ性の向上に寄与する元素である。後述する焼入れ性の指標であるCeqを調整するため、これらの元素の合計含有量を0.05%以上とする。一方、合計含有量が2.0%を超えると、硬さが上昇して耐SSC性が低下する。したがって、Mo、Cr、CuおよびNiの合計含有量は、0.05~2.0%とする。これらの元素の合計含有量は0.07%以上であるのが好ましく、0.1%以上であるのがより好ましい。また、合計含有量は1.0%以下であるのが好ましく、0.9%以下であるのがより好ましい。
【0033】
W:0~1.0%
Wは、強度の向上に有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、W含有量が1.0%を超えると、靭性の低下を招くことがある。したがって、W含有量は1.0%以下とする。W含有量0.5%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがとり好ましく、0.2%以下であるのがさらに好ましい。なお、上記の効果を得るためには、W含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
【0034】
V:0~0.20%
Vは、炭化物、窒化物を形成し、強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、V含有量が0.20%を超えると、靭性が低下する。したがって、V含有量は0.20%以下とする。V含有量は0.10%以下であるのが好ましく、0.08%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、V含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.03%以上であるのがより好ましい。
【0035】
Zr:0~0.050%
Zrは、Vと同様に炭化物、窒化物を形成し、強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Zr含有量が0.050%を超えると、靭性の低下を招くことがある。したがって、Zr含有量は0.050%以下とする。Zr含有量は0.020%以下であるのが好ましく、0.010%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Zr含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0036】
Ta:0~0.050%
Taは、Vと同様に炭化物、窒化物を形成し、強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Ta含有量が0.050%を超えると、靭性の低下を招くことがある。したがって、Ta含有量は0.050%以下とする。Ta含有量は0.020%以下であるのが好ましく、0.010%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Ta含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0037】
B:0~0.0020%
Bは、鋼の粒界に偏析して焼入れ性の向上に著しく寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、B含有量が0.0020%を超えると、靭性の低下を招くことがある。したがって、B含有量は0.0020%以下とする。B含有量は0.0015%以下であるのが好ましく、0.0012%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0038】
REM:0~0.01%
REMは、硫化物系介在物の形態を制御し、耐SSC性、耐HIC性および靭性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、REM含有量が0.01%を超えると、酸化物が生成して、鋼の清浄性が低下するだけでなく、耐HIC性および靭性が低下する。したがって、REM含有量は0.01%以下とする。REM含有量は0.006%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得るためには、REM含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0010%以上であるのがより好ましい。
【0039】
ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
【0040】
Mg:0~0.01%
Mgは、微細な酸化物を生成して、結晶粒の粗大化を抑制し、靭性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Mg含有量が0.01%を超えると、酸化物が凝集、粗大化して、耐HIC性が低下し、また、靭性が低下する。したがって、Mg含有量は0.01%以下とする。Mg含有量は0.005%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Mg含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0010%以上であるのがより好ましい。
【0041】
Hf:0~0.005%
Hfは、Caと同様、硫化物を生成し、圧延方向に伸長したMnSの生成を抑制し、耐HIC性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Hf含有量が0.005%を超えると、酸化物が増加し、凝集、粗大化すると耐HIC性を損なう。したがって、Hf含有量は0.005%以下とする。Hf含有量は0.004%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Hf含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0042】
Re:0~0.005%
Reは、Caと同様、硫化物を生成し、圧延方向に伸長したMnSの生成を抑制し、耐HIC性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Re含有量が0.005%を超えると、酸化物が増加し、凝集、粗大化すると耐HIC性を損なう。したがって、Re含有量は0.005%以下とする。Re含有量は0.004%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Re含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0043】
本発明の鋼板および鋼管の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0044】
Ceq:0.30~0.50
Ceqは、焼入れ性の指標となる値であり、下記(ii)式で表わされる。Ceqが0.30未満では、必要な強度が得られない。一方、Ceqが0.50を超えると、表面硬さが高くなり、耐SSC性が低下する。したがって、Ceqは0.30~0.50とする。Ceqは0.33以上であるのが好ましく、0.45以下であるのが好ましい。
Ceq=C+Mn/6+(Ni+Cu)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(ii)
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0045】
2.金属組織
本発明に係る鋼板および鋼管は、板厚中心部における金属組織が、アシキュラーフェライトおよびベイナイトから選択される1種または2種を含み、残部がフェライト、M-A相、および疑似パーライト(または「擬似パーライト」とも記載する。)から選択される1種以上であり、表層における金属組織が、アシキュラーフェライトおよびベイナイトから選択される1種または2種を含み、残部が粒径100nm以上のセメンタイトを含む焼戻しマルテンサイト、M-A相、および疑似パーライト(または擬似パーライト)から選択される1種以上である。その理由は以下のとおりである。
【0046】
鋼内部の金属組織中にマルテンサイトが含まれると、鋼の強度が上昇し過ぎて、表面硬さを低く抑えることが困難になる。そのため、鋼の化学組成を調整し、特にCeqの値を適切な範囲にするとともに、後述するように熱間圧延後に制御冷却を行うことによって、マルテンサイトの生成を防止する。
【0047】
そのため、強度と表面硬さとのバランスを考慮して、板厚中心部における金属組織を、アシキュラーフェライトおよび/またはベイナイト主体の組織とする。アシキュラーフェライトとベイナイトとの合計面積率は50%以上であることが好ましい。板厚中心部における金属組織において、残部はフェライト、M-A相、および疑似パーライトから選択される1種以上である。鋼内部の金属組織がフェライト主体であると必要な強度が得られにくい。したがって、フェライトの面積率は50%以下であることが好ましい。
【0048】
鋼内部に比べて表層の冷却速度は相対的に高くなることから、表層においては、熱間圧延後の冷却過程でマルテンサイトが一部生成する場合がある。マルテンサイトは硬い組織であるため、耐SSC性を低下させる。そのため、表層における金属組織も、板厚中心部と同様に、アシキュラーフェライトおよびベイナイトから選択される1種または2種を含む。アシキュラーフェライトとベイナイトとの合計面積率は50%以上であることが好ましい。
【0049】
なお、表層の最高硬さを低下させるためには、表層の硬さを極力均一にすることが望ましい。表層にアシキュラーフェライトが含まれると、硬さを均一にする効果が得られるため、好ましい。
【0050】
表層において冷却過程でマルテンサイトが生成した場合であっても、冷却後に所定の条件で焼戻し処理を行い、マルテンサイトを焼戻しマルテンサイトとすることで、硬さを低下させることが可能である。特に、焼戻しマルテンサイト内に粒径100nm以上のセメンタイトを析出させることによって、十分に硬さを低下させることが可能になる。そのため、表層における金属組織において、残部を粒径100nm以上のセメンタイトを含む焼戻しマルテンサイト、M-A相、疑似パーライトから選択される1種以上とする。
【0051】
ここで、本発明において、「アシキュラーフェライト」とは、非特許文献1で定義されるように、疑ポリゴナル・フェライトを含んだベイニティック・フェライト混合組織を指すものとする。また、M-A相(Martensite-Austenite constituent)は、マルテンサイトとオーステナイトとの複合体を意味する。そして、本発明においては、「M-A相」とは圧延・加速冷却後に生成したM-A相が、さらに焼き戻し等の熱処理を受けて組織中に微細な炭化物を含む金属組織も含む。M-A相はその大きさ、形状、または化学成分によって、同じ熱履歴を受けても形態の変化が異なる場合があり、この微細炭化物を含むM-A相と後述する疑似パーライトに形態を変えるものがある。
【0052】
M-A相は十分に焼戻されるとフェライトとセメンタイトに分解される。この際、フェライト中にセメンタイトが点列状に分断した金属組織が生成される。本発明において、「疑似パーライト」とは、非特許文献1で定義されるパーライトの層状組織が分断された金属組織に加えて、M-A相が焼戻されて生成した金属組織も含める。
【0053】
3.機械的性質
表層の最高硬さ:250HV0.1以下
上述のように、耐SSC性を向上させるためには、鋼の最高硬さを低く抑える必要がある。また、局所的にでも硬さの高い組織が存在すると、そこを起点にSSCが発生するおそれがあるため、本発明においては、試験力を0.98N(0.1kgf)としたビッカース硬さ試験により、硬さの評価を行う。そのため、表層の最高硬さを250HV0.1以下とする。表層の最高硬さは、240HV0.1以下であるのが好ましく、低ければ低いほど好ましい。
【0054】
なお、本発明においては、表面から0.1mmの深さ位置から1.0mmの深さ位置まで、0.1mm間隔で硬さ測定を行い、その最大値を表層の最高硬さとする。
【0055】
引張強さ:460MPa以上
本発明の鋼板および鋼管において、引張強さには特に制限は設けないが、HS環境中で使用されるラインパイプとしては、一般的にX52からX70グレードの材料が用いられる場合が多い。その要求を満足するため、引張強さは460MPa以上であることが好ましく、500MPa以上であることがより好ましい。
【0056】
4.板厚
本発明の鋼板および鋼管の板厚(肉厚)について特に制限は設けない。しかしながら、ラインパイプ内を通過する流体の輸送効率向上の観点から、板厚(肉厚)は16.0mm以上であるのが好ましく、19.0mm以上であるのがより好ましい。一方、表層の硬さは鋼管成形時に加工硬化によって増加し、通常厚肉化する程、表層硬さは上昇する。したがって、板厚(肉厚)は30.0mm以下であるのが好ましく、25.0mm以下であるのがより好ましい。
【0057】
5.製造方法
本発明に係る鋼材は、例えば、以下の方法により製造することができるが、この方法には限定されない。
【0058】
上述の化学組成を有する鋼を炉で溶製した後、鋳造によってスラブを作製する。その後、上記のスラブを加熱して熱間圧延を施す。熱延工程における条件についても特に制限は設けないが、例えば、熱間圧延前の加熱温度を1000~1300℃とし、熱間圧延の仕上げ温度を800~1000℃とするのが好ましい。
【0059】
熱間圧延終了後に、鋼内部の平均冷却速度が5℃/s以上VC-90℃/s未満となる範囲において、Bs点以下の温度まで冷却する。ここで、VC-90の値は、鋼中に含まれるB含有量が5ppm以上の場合には下記(iii)式で算出され、B含有量が5ppm未満の場合には下記(iv)式で算出される。
logVC-90=2.94-0.75β ・・・(iii)
β=2.7C+0.4Si+Mn+0.45Ni+0.8Cr+2Mo
logVC-90=3.69-0.75β’ ・・・(iv)
β’=2.7C+0.4Si+Mn+0.45Ni+0.8Cr+Mo
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0060】
また、Bs点(℃)は下記(v)式で表わされ、アシキュラーフェライトおよびベイナイトの生成温度を意味する。
Bs=830-270C-90Mn-37Ni-70Cr-83Mo・・・(v)
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0061】
平均冷却速度が5℃/s未満では、フェライト主体組織となり必要な強度が得られない。アシキュラーフェライトおよび/またはベイナイトが主体の組織とするためには、フェライトの生成を極力抑えるために5℃/s以上の冷却速度でBs点以下の温度まで冷却しなければならない。一方、平均冷却速度がVC-90℃/s以上となると、鋼内部にマルテンサイトが生成し、表層の最高硬さを低く抑えるのが困難になる。
【0062】
さらに、加速冷却開始からMs点までの間における、表層冷却速度をVC-90℃/s未満に制限する。従来の焼入れ焼戻し材では、表層冷却速度は平均冷却速度よりも著しく高速になるが、表層冷却速度がVC-90℃/s以上となると、鋼板表面に90%以上のマルテンサイトが生成し、後に焼戻し処理を施しても焼戻しマルテンサイト中のセメンタイトの成長が不十分となり、表層の最高硬さを低減することが困難になる。
【0063】
なお、Ms点は下記(vi)式により算出することが可能である。
Ms=545-330C+2Al+7Co-14Cr-13Cu-23Mn-5Mo-4Nb-13Ni-7Si+3Ti+4V ・・・(vi)
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0064】
また、冷却するに際しては、加速冷却を断続的に行い、冷却と復熱とを繰り返すことが望ましい。鋼板を加速冷却すると、表面温度は内部温度と比較して低温まで冷却される。ここで、表面温度は、加速冷却を一次停止した際に内部温度との熱伝導によって複熱させることができる。例えば、加速冷却によって表面温度が400℃以下に低下しても、冷却停止時の内部温度が700℃以上あれば、適切な復熱時間を与えることで550℃以上といった温度まで復熱させることができる。
【0065】
したがって、復熱させると通常の加速冷却を行った場合と比較して高い自己焼戻し効果が得られ、表面硬さの低下に大きく寄与する。復熱は例えば2回以上行うのが好ましい。また、復熱後の最高温度を、加速冷却停止温度(最終加速冷却を停止して復熱した後の表面温度)以上の温度にすると、より大きな自己焼戻し効果を得ることが可能になる。
【0066】
そして、加速冷却停止温度がMs点以下まで低下した後、450℃を超えてAc点以下の温度で焼戻し処理を行う。焼戻し温度を450℃以上にすることによって、表層の金属組織中の焼戻しマルテンサイトに含まれるセメンタイトが成長する。それによって、表層の最高硬さを低下することが可能になる。なお、焼戻しは加速冷却直後に行ってもよく、加速冷却後、室温まで空冷された後に行ってもよい。
【0067】
焼戻し時間について特に制限はないが、加速冷却停止温度を400℃以上とすることで加速冷却後の空冷時に自己焼戻し効果が得られ、さらに復熱による自己焼戻しにより、表層の最高硬さをある程度低下させることができるため、通常の焼戻し処理より短時間でよい。したがって焼戻し時間は、例えば、10~30minとすることができる。
【0068】
また、本発明に係る鋼管は、上記の鋼板に対して、例えば、UO製管を行うことで製造することができる。UO製管法では、例えば、エッジ部をスケール除去した圧延鋼板(素材)に対して、Cプレスを行ってC形に成形した後Uプレスを行ってU形に成形し、さらにOプレスを行ってO形に成形して円筒状に成形し、その後に端部である継目を突き合わせて、仮付溶接、内面溶接および外面溶接を行い、さらに必要に応じて拡管を行う。
【0069】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0070】
表1に示す化学成分を有する鋼を溶製し、連続鋳造により鋼片とした。この時の厚さは、鋼種J~Nでは300mmとし、それ以外の鋼種A~IおよびO~Sでは240mmとした。得られた鋼片を表2に示すように、1000~1250℃の温度域まで加熱し、900℃を超える再結晶温度域で熱間圧延を行い、引き続き、800~900℃の未再結晶温度域での熱間圧延を行った。
【0071】
熱間圧延後は、750~850℃の加速冷却開始温度から水冷を開始し、400~550℃の温度で水冷を停止した。加速冷却は表2に示すように、多段間欠冷却および通常の加速冷却にて行った。また、従来の熱間圧延後に急冷する加速冷却も実施した。加速冷却後、表2に示す条件で焼戻し処理を施した。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
焼戻し処理を施した鋼板から金属組織観察用試験片、引張試験片、硬さ測定用試験片およびSSC試験片を採取し、それぞれの試験に供した。
【0075】
金属組織観察用試験片について、各鋼板の断面を切り出し、湿式研磨して鏡面に仕上げた後、ナイタール腐食してミクロ組織を現出させた。そして、光学顕微鏡を用いて100~500倍の倍率で組織観察を行った。焼戻しマルテンサイトを含む組織については再研磨後、薄膜試料を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)にて3~5万倍の倍率にて100nm以上のセメンタイト有無を確認した。
【0076】
引張試験は、丸棒状の引張試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して行った。その結果から、引張強さ(MPa)を求めた。
【0077】
次に、硬さ測定用試験片を用いて、最大硬さの測定を行った。具体的には、各鋼板の断面を切り出した後、表面から0.1mmの深さ位置から1.0mmの深さ位置まで、0.1mm間隔で硬さ測定を行った。そして、その最大値を表層の最高硬さとした。
【0078】
また、SSC試験は、NACE TM0316に準拠して行った。そして、SSCが生じなかったものを合格(○)、SSCが生じたものを不合格(×)と判定した。
【0079】
それらの結果を表3にまとめて示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3から分かるように、本発明の規定を全て満足する試験No.1、2、8、9および13~25は、表層の最高硬さが250HV0.1以下であるとともに、SSC試験による割れは認められなかった。また、引張強さも500MPa以上となった。
【0082】
それらに対して、試験No.3~7、10~12および26~29は本発明の規定のいずれかを満足しない比較例である。
【0083】
試験No.3~5では、表層冷却速度がVC-90℃/s以上であった。そのため、その後の短時間の焼戻し処理ではマルテンサイト中のセメンタイトが十分に粗大化せず、100nm未満の微細なセメンタイトのみが分散した焼戻しマルテンサイトとなった。その結果、表層の最高硬さを250HV0.1以下に低減することができなかった。
【0084】
試験No.6、7、11および12では、焼戻し温度が低いため、マルテンサイト中のセメンタイトが十分に粗大化せず、100nm未満の微細なセメンタイトのみが分散した焼戻しマルテンサイトとなった。その結果、表層の最高硬さを250HV0.1以下に低減することができなかった。
【0085】
試験No.10では、熱間圧延終了後、室温まで急冷させ復熱させなかった。その結果、自己焼戻し効果が得られず、その後の短時間の焼戻し処理ではマルテンサイト中のセメンタイトが十分に粗大化せず、100nm未満の微細なセメンタイトのみが分散した焼戻しマルテンサイトとなった。その結果、表層の最高硬さを250HV0.1以下に低減することができなかった。
【0086】
試験No.26では、C含有量が規定範囲より高いため、表層の最高硬さが250HV0.1を超えた。また、試験No.27では、Ceqの値が規定範囲より低いため、十分な強度が得られなかった。
【0087】
さらに、試験No.28では、Ceqの値が規定範囲より高く、また、試験No.29では、Mo、Cr、CuおよびNiの合計含有量が規定範囲より高いため、表層の冷却速度をVC-90℃/s未満にすることができなくなった。試験No.29では、板厚中心部でもマルテンサイト変態が生じたため、焼戻しマルテンサイトが観察された。そのため、これらの例では、その後の短時間の焼戻し処理ではマルテンサイト中のセメンタイトが十分に粗大化せず、100nm未満の微細なセメンタイトのみが分散した焼戻しマルテンサイトとなった。その結果、表層の最高硬さを250HV0.1以下に低減することができなかった。
【0088】
本発明例2、9、14、18、22および23の鋼板を用い、UO製管法によって造管し、表4に示す鋼管1~6を得た。
【0089】
得られた鋼管から上述の方法により、金属組織観察用試験片、引張試験片、硬さ測定用試験片およびSSC試験片を採取し、それぞれの試験に供した。
【0090】
それらの結果を表4にまとめて示す。
【0091】
【表4】
【0092】
表4から分かるように、本発明の規定を全て満足する鋼管1および2は、表層の最高硬さが250HV0.1以下であるとともに、SSC試験による割れは認められなかった。また、引張強さも500MPa以上となった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、表層の最高硬さを250HV0.1以下に抑制することができるため、耐SSC性に優れる鋼板および鋼管を得ることが可能となる。したがって、本発明に係る鋼板および鋼管は、HSを多く含むような原油および天然ガスを輸送するためのラインパイプとして好適に用いることができる。