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  • 特許-ラインパイプ用鋼板および鋼管 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】ラインパイプ用鋼板および鋼管
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230823BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230823BHJP
   C21D 8/02 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/58
C21D8/02 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019106969
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020200498
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】藤城 泰志
(72)【発明者】
【氏名】原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】荒井 勇次
(72)【発明者】
【氏名】篠原 康浩
(72)【発明者】
【氏名】土井 直己
(72)【発明者】
【氏名】湊 出
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/058422(WO,A1)
【文献】特開2008-101242(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151468(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/058424(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/141341(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/018108(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0062903(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.02~0.08%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.5~1.7%、
Nb:0.001~0.100%、
N:0.0010~0.0060%、
Ca:0.0001~0.0050%、
P:0.03%以下、
S:0.0025%以下、
Ti:0.005~0.030%、
Al:0.01~0.04%、
O:0.004%以下、
Mo:0~2.0%、
Cr:0~2.0%、
Cu:0~2.0%、
Ni:0~2.0%、
W:0~1.0%、
V:0~0.20%、
Zr:0~0.050%、
Ta:0~0.050%、
B:0~0.0020%、
REM:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
Hf:0~0.005%、
Re:0~0.005%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
下記(ii)式で表わされるCeqが0.30~0.50であり、
板厚中心部における金属組織が、アシキュラーフェライトおよびベイナイトから選択される1種または2種を含み、残部がフェライト、M-A相、および疑似パーライトから選択される1種以上であり、
表層における金属組織が、粒径100nm以上のセメンタイトを含む焼戻しマルテンサイトおよび再結晶フェライトを含み、残部がベイナイトであり、
表層における最高硬さが250HV0.1以下であり、
引張強さが480~650MPaである、
ラインパイプ用鋼板。
Mo+Cr+Ti+Nb+V+W+Ta≦2.0 ・・・(i)
Ceq=C+Mn/6+(Ni+Cu)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(ii)
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
W:0.01~1.0%、
V:0.01~0.20%、
Zr:0.0001~0.050%、
Ta:0.0001~0.050%、および、
B:0.0001~0.0020%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1に記載のラインパイプ用鋼板。
【請求項3】
前記化学組成が、質量%で、
REM:0.0001~0.01%、
Mg:0.0001~0.01%、
Hf:0.0001~0.005%、および
Re:0.0001~0.005%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1または請求項2に記載のラインパイプ用鋼板。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の鋼板を用いた、
ラインパイプ用鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラインパイプ用鋼板、およびそれを用いたラインパイプ用鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原油、天然ガス等の油井およびガス井(以下、油井およびガス井を総称して、単に「油井」という。)の採掘条件は過酷になってきている。油井の採掘環境は、採掘深度が増加するに伴って、その雰囲気にCO、HS、Cl等を含有するようになり、採掘される原油および天然ガスもHSを多く含むようになる。
【0003】
そのため、これらを輸送するラインパイプの性能に対する要求も厳しくなってきており、高い耐硫化物応力割れ性(以下、「耐SSC性」ともいう。)および耐水素誘起割れ性(以下、「耐HIC性」ともいう。)を有するラインパイプ用鋼の需要が増加している。
【0004】
S環境中で使用される鋼は、耐SSC性向上の観点から、鋼の最高硬さを低く抑える必要がある。そのため、耐硫化物性能が求められる鋼においては、硬さを抑制する技術の向上が重要な課題となっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、耐SSC性に優れた引張強さ60kgf/mm級の高張力鋼の製造法が開示されている。また、特許文献2には、引張強さ570~720N/mmの溶接熱影響部と母材の硬さの差が小さい厚鋼板およびその製造方法が開示されている。さらに、特許文献3には、強度の低下とDWTT特性の劣化を防止しつつ、表面硬さを低減させることが可能なX60クラスおよびそれ以上の耐サワーラインパイプ用高強度鋼板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-8322号公報
【文献】特開2001-73071号公報
【文献】特開2002-327212号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本鉄鋼協会基礎研究会ベイナイト調査研究部会編、「鋼のベイナイト写真集1」、日本鉄鋼協会、1992年6月出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3によれば、焼入れ後に焼戻しを施すことによって、鋼板表面の硬度を低下させることが可能になる。ただし、これらの文献においては、硬さの評価において、試験力を98N(10kgf)としたビッカース硬さ試験を行っている。試験力が高いと測定領域が大きくなる。すなわち、広い領域に含まれる金属組織の平均的な硬さが測定されることとなる。
【0009】
しかしながら、局所的にでも硬さの高い組織が存在すると、そこを起点にSSCが発生するおそれがある。そのため、より低い試験力でのビッカース硬さ試験を行い、その測定結果に基づく最高硬さを低く制御する必要がある。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決し、優れた耐SSC性を有する、ラインパイプ用鋼板および鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、下記のラインパイプ用鋼板および鋼管を要旨とする。
【0012】
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.02~0.08%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.5~1.7%、
Nb:0.001~0.100%、
N:0.0010~0.0060%、
Ca:0.0001~0.0050%、
P:0.03%以下、
S:0.0025%以下、
Ti:0.005~0.030%、
Al:0.01~0.04%、
O:0.004%以下、
Mo:0~2.0%、
Cr:0~2.0%、
Cu:0~2.0%、
Ni:0~2.0%、
W:0~1.0%、
V:0~0.20%、
Zr:0~0.050%、
Ta:0~0.050%、
B:0~0.0020%、
REM:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
Hf:0~0.005%、
Re:0~0.005%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
下記(ii)式で表わされるCeqが0.30~0.50であり、
板厚中心部における金属組織が、アシキュラーフェライトおよびベイナイトから選択される1種または2種を含み、残部がフェライト、M-A相、および疑似パーライトから選択される1種以上であり、
表層における金属組織が、粒径100nm以上のセメンタイトを含む焼戻しマルテンサイトおよび再結晶フェライトを含み、残部がベイナイトであり、
表層における最高硬さが250HV0.1以下であり、
引張強さが480~650MPaである、
ラインパイプ用鋼板。
Mo+Cr+Ti+Nb+V+W+Ta≦2.0 ・・・(i)
Ceq=C+Mn/6+(Ni+Cu)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(ii)
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0013】
(2)前記化学組成が、質量%で、
W:0.01~1.0%、
V:0.01~0.20%、
Zr:0.0001~0.050%、
Ta:0.0001~0.050%、および、
B:0.0001~0.0020%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)に記載のラインパイプ用鋼板。
【0014】
(3)前記化学組成が、質量%で、
REM:0.0001~0.01%、
Mg:0.0001~0.01%、
Hf:0.0001~0.005%、および
Re:0.0001~0.005%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)または(2)に記載のラインパイプ用鋼板。
【0015】
(4)上記(1)から(3)までのいずれかに記載の鋼板を用いた、
ラインパイプ用鋼管。
【0016】
なお、本発明において、「表層」とは、鋼板または鋼管の表面から1.0mmの深さまでの領域を意味する。また、「HV0.1」は、試験力を0.98N(0.1kgf)として、ビッカース硬さ試験を実施した場合の「硬さ記号」を意味する(JIS Z 2244:2009を参照)。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表層の最高硬さを250HV0.1以下に抑制することができるため、耐SSC性に優れる鋼板および鋼管を得ることが可能となる。したがって、本発明に係る鋼板および鋼管は、HSを多く含むような原油および天然ガスを輸送するためのラインパイプとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】焼戻しパラメータと表層の最高硬さとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0020】
1.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0021】
C:0.02~0.08%
Cは、鋼の強度を向上させる元素である。C含有量が0.02%未満では、強度向上効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.08%を超えると、表層の硬さが上昇し、SSCが発生しやすくなる。したがって、C含有量は0.02~0.08%とする。C含有量は0.03%以上であるのが好ましい。また、耐SSC性を確保するとともに、溶接性および靭性の低下を抑制するために、C含有量は0.06%以下であるのが好ましい。
【0022】
Si:0.01~0.50%
Siは、脱酸のために添加する元素である。Si含有量が0.01%未満では、脱酸効果が十分に得られず、また、製造コストが大幅に上昇する。一方、Si含有量が0.50%を超えると、溶接部の靭性が低下する。したがって、Si含有量は0.01~0.50%とする。Si含有量は0.05%以上であるのが好ましく、0.10%以上であるのがより好ましい。また、Si含有量は0.40%以下であるのが好ましく、0.30%以下であるのがより好ましい。
【0023】
Mn:0.5~1.7%
Mnは、強度および靭性を向上させる元素である。Mn含有量が0.5%未満では、添加効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が1.7%を超えると、耐HIC性が低下する。したがって、Mn含有量は0.5~1.7%とする。Mn含有量は1.0%以上であるのが好ましく、1.2%以上であるのがより好ましい。また、Mn含有量は1.6%以下であるのが好ましく、1.5%以下であるのがより好ましい。
【0024】
Nb:0.001~0.100%
Nbは、炭化物および窒化物を形成し、強度の向上に寄与する元素である。また、Nb添加は未再結晶温度域を高温域に拡大させるため、Nb含有量が0.001%未満では、添加効果が十分に得られない。一方、Nb含有量が0.100%を超えると、粗大な炭化物および窒化物が生成し、耐HIC性および靭性が低下する。また、Nbは焼戻し軟化抵抗のある元素であり、多量に含有させると、焼戻し時に十分硬さを下げることができない。したがって、Nb含有量は0.001~0.100%とする。Nb含有量は0.005%以上であるのが好ましく、0.010%以上であるのがより好ましい。また、Nb含有量は0.080%以下であるのが好ましく、0.060%以下であるのがより好ましい。
【0025】
N:0.0010~0.0060%
Nは、Nbと窒化物を形成し、加熱時のオーステナイト粒径の微細化に寄与する元素である。N含有量が0.0010%未満であると、添加効果が十分に得られない。一方、N含有量が0.0060%を超えると、粗大な炭窒化物が生成し、耐HIC性および靭性が低下する。したがって、N含有量は0.0010~0.0060%とする。N含有量は0.0020%以上であるのが好ましい。また、N含有量は0.0050%以下であるのが好ましい。
【0026】
Ca:0.0001~0.0050%
Caは、CaSを形成し、圧延方向に伸長するMnSの形成を抑制し、耐HIC性の向上に寄与する元素である。Ca含有量が0.0001%未満では、添加効果が十分に得られない。一方、Ca含有量が0.0050%を超えると、酸化物が集積し、耐HIC性が低下する。したがって、Ca含有量は0.0001~0.0050%とする。Ca含有量は0.0005%以上であるのが好ましく、0.0010%以上であるのがより好ましい。また、Ca含有量は0.0045%以下であるのが好ましく、0.0040%以下であるのがより好ましい。
【0027】
P:0.03%以下
Pは、不可避的不純物として残留する元素である。P含有量が0.03%を超えると、耐SSC性および耐HIC性が低下し、また、溶接部の靭性が低下する。したがって、P含有量は0.03%以下とする。P含有量は0.015%以下であるのが好ましく、0.01%以下であるのがより好ましい。なお、P含有量の過度の低減は、製造コストの大幅な上昇を招くため、0.001%が実質的な下限である。
【0028】
S:0.0025%以下
Sは、不可避的不純物として残留し、熱間圧延時に圧延方向に延伸するMnSを形成して、耐HIC性を阻害する元素である。S含有量が0.0025%を超えると、耐HIC性が著しく低下する。したがって、S含有量は0.0025%以下とする。S含有量は0.0015%以下であるのが好ましく、0.0010%以下であるのがより好ましい。なお、S含有量の過度の低減は、製造コストの大幅な上昇を招くため、0.0001%が実質的な下限である。
【0029】
Ti:0.005~0.030%
Tiは、窒化物を形成し、結晶粒の微細化に寄与する元素である。Ti含有量が0.005%未満であると、添加効果が十分に得られない。一方、Ti含有量が0.030%を超えると、靭性が低下するだけでなく、粗大な窒化物を生成し、耐HIC性が低下する。また、Tiは焼戻し軟化抵抗のある元素であり、多量に含有させると、焼戻し時に十分硬さを下げることができない。したがって、Ti含有量は0.005~0.030%とする。Ti含有量は0.008%以上であるのが好ましく、0.015%以下であるのが好ましい。
【0030】
Al:0.01~0.04%
Alは、脱酸のために添加する元素である。Al含有量が0.01%未満であると、添加効果が十分に得られない。一方、Al含有量が0.04%を超えると、Al酸化物が集積してクラスターが生成し、耐HIC性が低下する。したがって、Al含有量は0.01~0.04%とする。Al含有量は0.015%以上であるのが好ましく、0.035%以下であるのが好ましい。
【0031】
O:0.004%以下
Oは、脱酸後、不可避的に残留する元素であり、少量であるほど好ましい。O含有量が0.004%を超えると、酸化物が生成して、靭性および耐HIC性が低下する。したがって、O含有量は0.004%以下とする。O含有量は0.003%以下であるのが好ましい。なお、O含有量の過度の低減は、製造コストの大幅な上昇を招くため、0.001%が実質的な下限である。
【0032】
Mo:0~2.0%
Cr:0~2.0%
Cu:0~2.0%
Ni:0~2.0%
Mo、Cr、CuおよびNiは、焼入れ性の向上に寄与する元素である。後述する焼入れ性の指標であるCeqを調整するため、必要に応じて含有させてもよい。一方、これらの元素の含有量が2.0%を超えると、硬さが上昇して耐SSC性が低下する。また、MoおよびCrは焼戻し軟化抵抗のある元素であり、多量に含有させると、焼戻し時に十分硬さを下げることができない。
【0033】
したがって、Mo、Cr、CuおよびNiの含有量は、それぞれ2.0%以下とする。なお、上記の効果を得るためには、これらの元素の含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
【0034】
W:0~1.0%
Wは、強度の向上に有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、W含有量が1.0%を超えると、靭性の低下を招くことがある。また、Wは焼戻し軟化抵抗のある元素であり、多量に含有させると、焼戻し時に十分硬さを下げることができない。したがって、W含有量は1.0%以下とする。W含有量は0.5%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましく、0.2%以下であるのがさらに好ましい。なお、上記の効果を得るためには、W含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
【0035】
V:0~0.20%
Vは、炭化物、窒化物を形成し、強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、V含有量が0.20%を超えると、靭性が低下する。また、Vは焼戻し軟化抵抗のある元素であり、多量に含有させると、焼戻し時に十分硬さを下げることができない。したがって、V含有量は0.20%以下とする。V含有量は0.10%以下であるのが好ましく、0.08%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、V含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.03%以上であるのがより好ましい。
【0036】
Zr:0~0.050%
Zrは、Vと同様に炭化物、窒化物を形成し、強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Zr含有量が0.050%を超えると、靭性の低下を招くことがある。したがって、Zr含有量は0.050%以下とする。Zr含有量は0.020%以下であるのが好ましく、0.010%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Zr含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0037】
Ta:0~0.050%
Taは、Vと同様に炭化物、窒化物を形成し、強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Ta含有量が0.050%を超えると、靭性の低下を招くことがある。また、Taは焼戻し軟化抵抗のある元素であり、多量に含有させると、焼戻し時に十分硬さを下げることができない。したがって、Ta含有量は0.050%以下とする。Ta含有量は0.020%以下であるのが好ましく、0.010%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Ta含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0038】
B:0~0.0020%
Bは、鋼の粒界に偏析して焼入れ性の向上に著しく寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、B含有量が0.0020%を超えると、靭性の低下を招くことがある。したがって、B含有量は0.0020%以下とする。B含有量は0.0015%以下であるのが好ましく、0.0012%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0039】
REM:0~0.01%
REMは、硫化物系介在物の形態を制御し、耐SSC性、耐HIC性および靭性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、REM含有量が0.01%を超えると、酸化物が生成して、鋼の清浄度が低下するだけでなく、耐HIC性および靭性が低下する。したがって、REM含有量は0.01%以下とする。REM含有量は0.006%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得るためには、REM含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0010%以上であるのがより好ましい。
【0040】
ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
【0041】
Mg:0~0.01%
Mgは、微細な酸化物を生成して、結晶粒の粗大化を抑制し、靭性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Mg含有量が0.01%を超えると、酸化物が凝集、粗大化して、耐HIC性が低下し、また、靭性が低下する。したがって、Mg含有量は0.01%以下とする。Mg含有量は0.005%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Mg含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0010%以上であるのがより好ましい。
【0042】
Hf:0~0.005%
Hfは、Caと同様、硫化物を生成し、圧延方向に伸長したMnSの生成を抑制し、耐HIC性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Hf含有量が0.005%を超えると、酸化物が増加し、凝集、粗大化すると耐HIC性を損なう。したがって、Hf含有量は0.005%以下とする。Hf含有量は0.004%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Hf含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0043】
Re:0~0.005%
Reは、Caと同様、硫化物を生成し、圧延方向に伸長したMnSの生成を抑制し、耐HIC性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Re含有量が0.005%を超えると、酸化物が増加し、凝集、粗大化すると耐HIC性を損なう。したがって、Re含有量は0.005%以下とする。Re含有量は0.004%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Re含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0044】
本発明の鋼板および鋼管の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0045】
Mo+Cr+Ti+Nb+V+W+Ta≦2.0 ・・・(i)
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0046】
上述のように、Mo、Cr、Ti、Nb、V、WおよびTaは焼戻し軟化抵抗のある元素であり、多量に含有させると、焼戻し時に十分硬さを下げることができない。したがって、これらの元素の合計含有量を2.0%以下とする。
【0047】
Ceq:0.30~0.50
Ceqは、焼入れ性の指標となる値であり、下記(ii)式で表わされる。Ceqが0.30未満では、必要な強度が得られない。一方、Ceqが0.50を超えると、表面硬さが高くなり、耐SSC性が低下する。したがって、Ceqは0.30~0.50とする。Ceqは0.33以上であるのが好ましく、0.45以下であるのが好ましい。
Ceq=C+Mn/6+(Ni+Cu)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(ii)
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0048】
2.金属組織
本発明に係る鋼板および鋼管は、板厚中心部における金属組織が、アシキュラーフェライトおよびベイナイトから選択される1種または2種を含み、残部がフェライト、M-A相、および疑似パーライト(または擬似パーライト)から選択される1種以上であり、表層における金属組織が、粒径100nm以上のセメンタイトを含む焼戻しマルテンサイトおよび再結晶フェライトを含み、残部がベイナイトである。その理由は以下のとおりである。
【0049】
鋼内部の金属組織中にマルテンサイトが含まれると、鋼の強度が上昇し過ぎて、引張強さを480~650MPaの範囲に制御することができなくなる。そのため、鋼の化学組成を調整し、特にCeqの値を適切な範囲にするとともに、後述するように熱間圧延後に制御冷却を行うことによって、マルテンサイトの生成を防止する。
【0050】
そのため、強度と表面硬さとのバランスを考慮して、板厚中心部における金属組織を、アシキュラーフェライトおよび/またはベイナイト主体の組織とする。アシキュラーフェライトとベイナイトとの合計面積率は50%以上であることが好ましい。板厚中心部の金属組織において、残部はフェライト、M-A相、および疑似パーライト(または擬似パーライト)から選択される1種以上である。鋼内部の金属組織がフェライト主体であると必要な強度が得られにくい。したがって、フェライトの面積率は50%以下であることが好ましい。
【0051】
一方、表層の金属組織は、耐SSC性に優れる焼戻しマルテンサイト主体の組織とする。鋼内部に比べて表層の冷却速度は相対的に高くなることから、表層においては、熱間圧延後に加速冷却を行うことでマルテンサイトを生成させることが可能である。マルテンサイトは硬い組織であるため、冷却後に所定の条件で焼戻し処理を行い、マルテンサイトを焼戻しマルテンサイトおよび再結晶フェライトとすることで、硬さを低下させる。特に、焼戻しマルテンサイト内に粒径100nm以上のセメンタイトを析出させることによって、十分に硬さを低下させることが可能になる。
【0052】
ただし、焼戻しマルテンサイトのみであると硬さの低下が不十分であるため、組織中に再結晶フェライトを存在させる。ただし、再結晶フェライトの量が過剰であると硬さが低下し過ぎて必要な強度が得られなくなるため、再結晶フェライトの面積率は20%以下であるのが好ましい。表層の金属組織において、残部はベイナイトである。なお、ベイナイトは含まれなくてもよい。
【0053】
ここで、本発明において、「アシキュラーフェライト」とは、非特許文献1で定義されるように、擬ポリゴナル・フェライトを含んだベイニティック・フェライト混合組織を指すものとする。また、M-A相(Martensite-Austenite constituent)とは、マルテンサイトとオーステナイトとの複合体を意味する。
【0054】
また、本発明においては、「M-A相」とは圧延・加速冷却後に生成したM-A相が、さらに焼き戻し等の熱処理を受けて組織中に微細な炭化物を含む金属組織も含む。M-A相はその大きさ、形状、または化学成分によって、同じ熱履歴を受けても形態の変化が異なる場合があり、この微細炭化物を含むM-A相と後述する疑似パーライトに形態を変えるものがある。
【0055】
M-A相は十分に焼戻されるとフェライトとセメンタイトに分解される。この際、フェライト中にセメンタイトが点列状に分断した金属組織が生成される。本発明において、「疑似パーライト」とは、非特許文献1で定義されるパーライトの層状組織が分断された金属組織に加えて、M-A相が焼戻されて生成した金属組織も含める。
【0056】
また、再結晶フェライトは、粒内の合金元素濃度から同定することが可能である。オーステナイト域で変態したフェライトは、母相のオーステナイトとの間で合金元素の分配が生じる。一方、焼戻しマルテンサイトから再結晶フェライトが生成しても、同一相間で合金元素の分配は生じない。したがって、本発明において、鋼中のMn含有量の90%以上の濃度を有するフェライトを再結晶フェライトとする。なお、フェライト粒内のMn濃度はEPMAによって測定することができる。
【0057】
3.機械的性質
表層の最高硬さ:250HV0.1以下
上述のように、耐SSC性を向上させるためには、鋼の最高硬さを低く抑える必要がある。また、局所的にでも硬さの高い組織が存在すると、そこを起点にSSCが発生するおそれがあるため、本発明においては、試験力を0.98N(0.1kgf)としたビッカース硬さ試験により、硬さの評価を行う。そのため、表層の最高硬さを250HV0.1以下とする。表層の最高硬さは、240HV0.1以下であるのが好ましい。なお、組織全体が再結晶してしまうと必要な強度が得られないため、表層の最高硬さは、160HV0.1以上であるのが好ましく、170HV0.1以上であるのがより好ましい。
【0058】
なお、本発明においては、表面から0.1mmの深さ位置から1.0mmの深さ位置まで、0.1mm間隔で硬さ測定を行い、その最大値を表層の最高硬さとする。
【0059】
引張強さ:480~650MPa
S環境中で使用されるラインパイプとしては、一般的にX52からX70グレードの材料が用いられる場合が多い。その要求を満足するため、本発明の鋼板および鋼管の引張強さは480~650MPaとする。
【0060】
4.板厚
本発明の鋼板および鋼管の板厚(肉厚)について特に制限は設けない。しかしながら、ラインパイプ内を通過する流体の輸送効率向上の観点から、板厚(肉厚)は16.0mm以上であるのが好ましく、19.0mm以上であるのがより好ましい。
【0061】
5.製造方法
本発明に係る鋼材は、例えば、以下の方法により製造することができるが、この方法には限定されない。
【0062】
上述の化学組成を有する鋼を炉で溶製した後、鋳造によってスラブを作製する。その後、上記のスラブを加熱して熱間圧延を施す。熱延工程における条件についても特に制限は設けないが、例えば、熱間圧延前の加熱温度を1000~1300℃とし、熱間圧延の仕上げ温度を800~1000℃とするのが好ましい。
【0063】
熱間圧延終了後に、600~400℃の温度まで加速冷却する。冷却停止温度が400℃未満となると、冷却速度によっては鋼内部もマルテンサイト主体組織となり、480~650MPaの引張強さが得られない。また、この際、板厚中央部での冷却速度(平均冷却速度)を5℃/s以上VC-90℃/s未満にする。板厚中央部での冷却速度をVC-90未満にすることで、鋼内部でのマルテンサイト変態を抑制し、金属組織をアシキュラーフェライトおよび/またはベイナイトが主体の組織にすることができる。また、5℃/s以上にすることで板厚中央部での金属組織がフェライト主体組織となることを防止し、必要な強度が得られる。
【0064】
一方、表層については、VC-90以上の冷却速度でMs点以下まで加速冷却する。VC-90以上でMs以下まで加速冷却することで、表層の金属組織は後に実施する焼戻し処理とあわせて耐SSC性に優れた焼戻しマルテンサイト組織主体の組織とすることができる。
【0065】
ここで、VC-90の値は、鋼中に含まれるB含有量が5ppm以上の場合には下記(iii)式で算出され、B含有量が5ppm未満の場合には下記(iv)式で算出される。
logVC-90=2.94-0.75β ・・・(iii)
β=2.7C+0.4Si+Mn+0.45Ni+0.8Cr+2Mo
logVC-90=3.69-0.75β’ ・・・(iv)
β’=2.7C+0.4Si+Mn+0.45Ni+0.8Cr+Mo
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0066】
また、Ms点は下記(v)式により算出することが可能である。
Ms=545-330C+2Al+7Co-14Cr-13Cu-23Mn-5Mo-4Nb-13Ni-7Si+3Ti+4V ・・・(v)
但し、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0067】
その後、鋼表層に生成したマルテンサイトを100nm以上のセメンタイトを含む焼戻しマルテンサイト組織が主体であり再結晶フェライトを含む組織にするために、焼戻し処理を行う。この際、組織全体が再結晶してしまうことを防ぐため、焼戻し条件については、下記(vi)式で示される焼戻しパラメータ(LMP)が18500~19300の範囲となる条件で行うことが好ましい。
LMP=T×(20+logt) ・・・(vi)
但し、式中の各記号の意味は以下のとおりである。
T:焼戻し温度(K)
t:焼戻し時間(h)
【0068】
図1は、焼戻しパラメータと表層の最高硬さとの関係を示したグラフである。LMPの増加とともに最高硬さが低下する傾向が見て取れる。そして、LMPが18500以上となったところで、最高硬さが250HV0.1以下になる。これは、LMPを18500以上にすることによって、マルテンサイト中のセメンタイトが100nm以上まで成長し、かつ、再結晶フェライトの晶出が開始していることを示す。LMPが19500を超えると、最高硬さが急激に低下する。これは、組織全体が再結晶してしまったことを示す。組織全体が再結晶フェライトになると必要な強度を確保できなくなる。
【0069】
また、本発明に係る鋼管は、上記の鋼板に対して、例えば、UO製管を行うことで製造することができる。UO製管法では、例えば、エッジ部をスケール除去した圧延鋼板(素材)に対して、Cプレスを行ってC形に成形した後Uプレスを行ってU形に成形し、さらにOプレスを行ってO形に成形して円筒状に成形し、その後に端部である継目を突き合わせて、仮付溶接、内面溶接および外面溶接を行い、さらに必要に応じて拡管を行う。
【0070】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0071】
表1に示す化学成分を有する鋼を溶製し、連続鋳造により鋼片とした。この時の厚さは、鋼種J~NおよびSでは300mmとし、それ以外の鋼種A~IおよびO~Rでは240mmとした。得られた鋼片を表2に示すように、1000~1250℃の温度域まで加熱し、900℃を超える再結晶温度域で熱間圧延を行い、引き続き、800~900℃の未再結晶温度域での熱間圧延を行った。
【0072】
熱間圧延後は、750~850℃の加速冷却開始温度から水冷を開始し、表2に示す温度で水冷を停止した。加速冷却後、表2に示す条件で焼戻し処理を施した。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
焼戻し処理を施した鋼板から金属組織観察用試験片、引張試験片、硬さ測定用試験片およびSSC試験片を採取し、それぞれの試験に供した。
【0076】
金属組織観察用試験片について、各鋼板の断面を切り出し、湿式研磨して鏡面に仕上げた後、ナイタール腐食してミクロ組織を現出させた。そして、光学顕微鏡を用いて100~500倍の倍率で組織観察を行った。焼戻しマルテンサイトを含む組織については再研磨後、薄膜試料を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)にて3~5万倍の倍率にて100nm以上のセメンタイト有無を確認した。
【0077】
さらに、フェライトと判断された相については、さらにEPMAによる分析を行い、Mn濃度が鋼中に含まれるMn含有量の90%以上であるものを再結晶フェライトとした。
【0078】
引張試験は、丸棒状の引張試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して行った。その結果から、引張強さ(MPa)を求めた。
【0079】
次に、硬さ測定用試験片を用いて、最大硬さの測定を行った。具体的には、各鋼板の断面を切り出した後、表面から0.1mmの深さ位置から1.0mmの深さ位置まで、0.1mm間隔で硬さ測定を行った。そして、その最大値を表層の最高硬さとした。
【0080】
また、SSC試験は、NACE TM0316に準拠して行った。そして、SSCが生じなかったものを合格(○)、SSCが生じたものを不合格(×)と判定した。
【0081】
それらの結果を表3にまとめて示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3から分かるように、本発明の規定を全て満足する試験No.1、2、8、9および13~25は、表層の最高硬さが250HV0.1以下であるとともに、SSC試験による割れは認められなかった。また、引張強さも480MPa以上となった。
【0084】
それらに対して、試験No.3~7、10~12および26~29は本発明の規定のいずれかを満足しない比較例である。
【0085】
試験No.3では、冷却停止温度が低すぎたため、鋼内部にもマルテンサイトが生成し、引張強さが高すぎる結果となった。試験No.4~6、11および12では、焼戻しパラメータ(LMP)が低すぎたため、マルテンサイト中のセメンタイトが十分に粗大化せず、100nm未満の微細なセメンタイトのみが分散した焼戻しマルテンサイトとなった。その結果、表層の最高硬さを250HV0.1以下に低減することができなかった。
【0086】
試験No.7では、焼戻しパラメータ(LMP)が高すぎたため、組織全体が再結晶してしまい、十分な強度が得られなかった。また、試験No.10では、加速冷却での冷却速度が低すぎたため、十分な強度が得られなかった。
【0087】
試験No.26では、C含有量が規定範囲より高いため、表層の最高硬さが250HV0.1を超えた。また、試験No.27では、Ceqの値が規定範囲より低いため、十分な強度が得られなかった。
【0088】
さらに、試験No.28では、Ceqの値が規定範囲より高く、試験No.29は平均冷却速度がVC-90よりも高かった。そのため、試験No.28および29では、板厚中央部でもマルテンサイト変態が生じ、焼戻しマルテンサイトが観察された。これらの例では、鋼の強度が上昇し過ぎて、引張強さを480~650MPaの範囲に制御することができなかった。また、試験No.29では、焼戻し軟化抵抗のあるMo、Cr、Ti、Nb、V、WおよびTaの合計含有量が規定範囲より高かった。そのため、試験No.29ではその後の焼戻し処理でもマルテンサイト中のセメンタイトが十分に粗大化せず、100nm未満の微細なセメンタイトのみが分散した焼戻しマルテンサイトとなった。その結果、表層の最高硬さを250HV0.1以下に低減することができなかった。
【実施例2】
【0089】
本発明例のNo.1、2、9、14、19および16の鋼板を用い、UO製管法によって造管し、表4に示す鋼管のNo.1~6を得た。
【0090】
得られた鋼管から上述の方法により、金属組織観察用試験片、引張試験片、硬さ測定用試験片およびSSC試験片を採取し、それぞれの試験に供した。
【0091】
それらの結果を表4にまとめて示す。
【0092】
【表4】
【0093】
表4から分かるように、本発明の規定を全て満足する鋼管試験No.1~6は、表層の最高硬さが250HV0.1以下であるとともに、SSC試験による割れは認められなかった。また、引張強さも480~650MPaの範囲に制御することができた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、表層の最高硬さを250HV0.1以下に抑制することができるため、耐SSC性に優れる鋼板および鋼管を得ることが可能となる。したがって、本発明に係る鋼板および鋼管は、HSを多く含むような原油および天然ガスを輸送するためのラインパイプとして好適に用いることができる。
図1