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  • 特許-タイヤ用ゴム組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20230823BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20230823BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20230823BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230823BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20230823BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230823BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20230823BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20230823BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08L9/06
C08K3/04
C08L91/00
B60C1/00 A
B60C1/00 Z
B60C11/03 100B
B60C11/13 C
B60C11/12 B
B60C11/12 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019158498
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021038276
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】須藤 友規
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-152651(JP,A)
【文献】特開2013-043609(JP,A)
【文献】特開昭55-135149(JP,A)
【文献】特開平01-165635(JP,A)
【文献】特開2009-001176(JP,A)
【文献】特開2007-030558(JP,A)
【文献】特開2015-085722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/02
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムまたは溶液重合イソプレンゴム30質量%~40質量%、ブタジエンゴム25質量%~35質量%、乳化重合スチレンブタジエンゴム25質量%~45質量%を含むジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラック71質量部~100質量部が配合され、前記カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が88m2 /g~108m2 /g、窒素吸着比表面積N2 SAが84m2 /g~95m2 /g、DBP吸油量が115mL/100g~126mL/100gであることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ブタジエンゴムの1,2‐結合含有量が20%以下であることを特徴とする請求項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム100質量部に対してプロセスオイルが15質量部~25質量部配合されたことを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記トレッド部の外表面に、タイヤ周方向に沿って延在する2本以上の主溝と、タイヤ幅方向に隣り合う前記主溝どうしの間に区画された少なくとも1列の陸部とを有し、
前記陸部のいずれかは、タイヤ周方向に間隔をおいて設けられた複数本の複合溝によって複数のブロックに区画され、前記複合溝は、一端が前記陸部の一方側に隣接する主溝に開口し、タイヤ周方向に対して傾斜して延在し、他端が前記陸部内で終端する溝部と、前記溝部の他端から前記溝部の延長方向に沿って延在し、前記陸部の他方側に隣接する主溝に連通するサイプ部とで構成されており、
前記複数のブロックのそれぞれは、前記複合溝と逆方向に傾斜して延在するサイプによって更に三角形状または台形状の小ブロックに区画されており、
前記サイプ部および前記サイプの深さが前記溝部の深さよりも浅いことを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として商用車に用いられる空気入りタイヤのトレッド部を構成するタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
商用車(タクシー、宅配車両、各種営業車など)に装着される空気入りタイヤは、一般の乗用車用の空気入りタイヤに比べて走行距離が長くなり、更に、中低速走行での制駆動が多く繰り返される傾向があるため優れた耐摩耗性能や耐偏摩耗性能が要求される。また、環境への配慮の観点から低転がり性能が要求される。一方で、雨天時にも頻繁に走行するため優れたウェット性能が要求されている(例えば、特許文献1を参照)。特に、近年では、夏季に集中豪雨(局地的かつ短時間の突発的な大雨)が頻発していることから、水深の深いウェット路面においても優れた操縦安定性能を発揮することが求められている。
【0003】
これら性能を両立するために、様々なトレッドパターンが提案されている。しかしながら、トレッドパターンの観点からは、ウェット性能と耐摩耗性能や耐偏摩耗性能とは背反性能であり、トレッド部に形成される溝面積を増加すればウェット性能を向上することができるものの、溝面積が増加する結果、接地面積を充分に確保できなくなるため耐摩耗性能や耐偏摩耗性能を維持することが困難になる傾向があり、十分な効果が得られないという問題がある。そのため、トレッド部を構成するタイヤ用ゴム組成物の物性によって、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、低転がり性能、ウェット性能(水深の深いウェット路面における操縦安定性)を高度に両立する方策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016‐033008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、低転がり性能、ウェット性能(水深の深いウェット路面における操縦安定性)を高度に両立することを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、天然ゴムまたは溶液重合イソプレンゴム30質量%~40質量%、ブタジエンゴム25質量%~35質量%、乳化重合スチレンブタジエンゴム25質量%~45質量%を含むジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラック71質量部~100質量部が配合され、前記カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が88m2 /g~108m2 /g、窒素吸着比表面積N2 SAが84m2 /g~95m2 /g、DBP吸油量が115mL/100g~126mL/100gであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記の配合で構成されているため、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、低転がり性能、ウェット性能(水深の深いウェット路面における操縦安定性)を両立することができる。特に、ゴム成分が天然ゴムまたは溶液重合イソプレンゴムとブタジエンゴムとを含むことで、優れた耐摩耗性能および耐偏摩耗性能を得ながら、乳化重合スチレンブタジエンゴムを含むことで優れたウェット性を確保し、これら性能を両立することができる。更に、上述の物性を有するカーボンブラックが配合されているため、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、および低転がり性能を発揮することができ、これら性能を高度に両立することができる。
【0009】
本発明においては、ブタジエンゴムの1,2‐結合含有量が20%以下であることが好ましい。このようなブタジエンゴムを用いることで、耐摩耗性能および耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。
【0010】
本発明においては、ジエン系ゴム100質量部に対してプロセスオイルが15質量部~25質量部配合されることが好ましい。このようにプロセスオイルの配合量を設定することで、ゴム組成物の硬度を確保することができ、耐摩耗性能および耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。
【0012】
上述のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤは、ゴム組成物の物性によって、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、低転がり性能、およびウェット性能を高度に両立することができる。
【0013】
このとき、トレッド部の外表面に、タイヤ周方向に沿って延在する2本以上の主溝と、タイヤ幅方向に隣り合う主溝どうしの間に区画された少なくとも1列の陸部とを有し、陸部のいずれかは、タイヤ周方向に間隔をおいて設けられた複数本の複合溝によって複数のブロックに区画され、複合溝は、一端が陸部の一方側に隣接する主溝に開口し、タイヤ周方向に対して傾斜して延在し、他端が陸部内で終端する溝部と、溝部の他端から溝部の延長方向に沿って延在し、陸部の他方側に隣接する主溝に連通するサイプ部とで構成されており、複数のブロックのそれぞれは、複合溝と逆方向に傾斜して延在するサイプによって更に三角形状または台形状の小ブロックに区画されており、サイプ部およびサイプの深さが溝部の深さよりも浅い仕様にすることもできる。このようなトレッドパターンを採用することで、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、低転がり性能、およびウェット性能を高度に両立するには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のタイヤ用ゴム組成物が適用される空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
図2】本発明の空気入りタイヤのトレッド面を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、天然ゴムまたは溶液重合イソプレンゴム、ブタジエンゴム、乳化重合スチレンブタジエンゴムを必ず含む。天然ゴムまたは溶液重合イソプレンゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量部中に30質量%~40質量%、好ましくは35質量%~40質量%である。ブタジエンゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量部中に25質量%~35質量%、好ましくは25質量%~30質量%である。乳化重合スチレンブタジエンゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量部中に25質量%~45質量%、好ましくは35質量%~45質量%である。これらゴムを上述の配合で併用することで、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、およびウェット性能を向上することができる。特に、天然ゴムまたは溶液重合イソプレンゴムとブタジエンゴムとを配合することで、耐摩耗性能および耐偏摩耗性能を向上することができ、乳化重合スチレンブタジエンゴムを配合することで優れたウェット性を確保することができる。
【0016】
天然ゴム、溶液重合イソプレンゴム、ブタジエンゴム、乳化重合スチレンブタジエンゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるゴムを使用することができる。
【0017】
但し、ブタジエンゴムとしては、ブタジエンゴム中における1,2‐結合含有量が好ましくは20%以下、より好ましくは10%~20%のものを用いるとよい。ブタジエンゴム中における1,2‐結合含有量を上記の範囲とすることで、優れた耐摩耗性能および耐偏摩耗性能を得ることができる。ブタジエンゴム中における1,2‐結合含有量が20%を超えると耐摩耗性能が低下する。
【0018】
また、乳化重合スチレンブタジエンゴムとしては、ゴム中にプロセスオイルを含有し、プロセスオイルを含んだ状態におけるガラス転移温度が好ましくは-50℃以下、より好ましくは-55℃~-52℃であるものを用いるとよい。更に、乳化重合スチレンブタジエンゴム中の結合スチレン量が好ましくは15質量%~25質量%、より好ましくは20質量%~25質量%、ブタジエン部の1,2‐結合含有量が好ましくは20%以下、より好ましくは15質量%~20質量%、ブタジエン部のトランス1,4‐結合含有量が好ましくは65%以上、より好ましくは80質量%~85質量%であるものを用いるとよい。このような乳化重合スチレンブタジエンゴムを用いることで、ウェット性能を向上するだけでなく耐摩耗性能および耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。乳化重合スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度が-50℃を超えると耐摩耗性能が低下する。乳化重合スチレンブタジエンゴムの結合スチレン量が15質量%未満であるとウェット性能が低下する。乳化重合スチレンブタジエンゴムの結合スチレン量が25質量%を超えると低転がり性能が低下する。乳化重合スチレンブタジエンゴムのブタジエン部の1,2‐結合含有量が20%を超えると耐摩耗性能が低下する。乳化重合スチレンブタジエンゴムのブタジエン部のトランス1,4‐結合含有量が65%未満であると耐摩耗性能、低転がり性能が低下する。
【0019】
尚、「1,2‐結合含有量」と「トランス1,4‐結合含有量」はそれぞれ、ブタジエンの結合様式であるシス‐1,4‐結合、トランス‐1,4‐結合、および1,2‐ビニル結合のうちの、1,2‐ビニル結合の割合とトランス‐1,4‐結合の割合である。ブタジエンゴム中における1,2‐結合含有量、乳化重合スチレンブタジエンゴム中の結合スチレン量、ブタジエン部の1,2‐結合含有量、ブタジエン部のトランス1,4‐結合含有量はいずれも赤外分光分析(ハンプトン法)により測定するものとする。
【0020】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを71質量部~100質量部、好ましくは70質量部~80質量部配合する。このようにカーボンブラックを配合することで、ゴム組成物の強度を向上することができる。カーボンブラックの配合量が71質量部よりも少ないと、加硫後のゴム組成物の硬度が充分に得られない。カーボンブラックの配合量が100質量部を超えると、低転がり性能が低下する虞がある。
【0021】
本発明に使用されるカーボンブラックのCTAB吸着比表面積は88m2 /g~108m2 /g、好ましくは90m2 /g~100m2 /gである。このような特性を有するカーボンブラックを用いることで、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、および低転がり性能を向上するには有利になる。カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が88m2 /g未満であるとゴム強度が低下し、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能が低下する。カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が108m2 /gを超えると転がり抵抗が悪化する。尚、本発明において、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積は、ISO 5794に準拠して測定するものとする。
【0022】
また、本発明に使用されるカーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAは84m2 /g~95m2 /g、好ましくは88m2 /g~95m2 /gである。このような特性を有するカーボンブラックを用いることで、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、および低転がり性能を向上するには有利になる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAが84m2 /g未満であるとゴム強度が低下し、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能が低下する。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAが95m2 /gを超えると転がり抵抗が悪化する。尚、本発明において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAは、JIS K6217‐2に準拠して測定するものとする。
【0023】
更に、本発明に使用されるカーボンブラックのDBP吸油量は115mL/100g~126mL/100g、好ましくは116mL/100g~126mL/100gである。このような特性を有するカーボンブラックを用いることで、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、および低転がり性能を向上するには有利になる。カーボンブラックのDBP吸油量が115mL/100g未満であるとゴム強度が低下し、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能が低下する。カーボンブラックのDBP吸油量が126mL/100gを超えると転がり抵抗が悪化する。尚、本発明において、カーボンブラックのDBP給油量は、JIS K6217‐4に準拠して測定するものとする。
【0024】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラック以外の他の無機充填剤を配合することができる。他の無機充填剤としては、例えばシリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等を例示することができる。
【0025】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、プロセスオイルを好ましくは15質量部~25質量部、より好ましくは20質量部~25質量部配合するとよい。プロセスオイルとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるもの、例えば、アロマ系、パラフィン系およびナフテン系などのプロセスオイルを用いることができる。このようにプロセスオイルを配合することで、ゴム組成物の硬度を維持して、良好な耐摩耗性能や耐偏摩耗性能を得ることができる。プロセスオイルの配合量が15質量部未満であると加工性が悪化する。プロセスオイルの配合量が25質量部を超えると耐偏摩耗性が低下する。尚、プロセスオイルの配合量は、ゴム成分に対して添加された配合剤としての量だけではなく、乳化重合スチレンブタジエンゴム中に含まれるオイル成分も合わせた合計量である。
【0026】
本発明のゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、加硫または架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂など、一般的にタイヤ用ゴム組成物に使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。更に、混練機としは、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用することができる。
【0027】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記の配合で構成されているため、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、低転がり性能、ウェット性能(水深の深いウェット路面における操縦安定性)を両立することができる。そのため、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、図1に示されるような空気入りタイヤのトレッド部1を構成するゴム(後述のトレッドゴム層11)として好適に用いることができる。
【0028】
図1は、本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いることができる一般的な空気入りタイヤの子午線断面図である。この空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0029】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはトレッドゴム層11が配され、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層12が配され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層13が配されている。トレッドゴム層11は、トレッド部1の外表面に露出するキャップトレッドと、その内周側に位置するアンダートレッドとからなる積層構造を有していてもよい(この場合、本発明のタイヤ用ゴム組成物はキャップトレッドに用いるとよい)。
【0030】
トレッド部1の外表面に形成されるトレッドパターンは特に限定されないが、本発明のタイヤ用ゴム組成物と同様に、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、低転がり性能、およびウェット性能の両立に適した構造(例えば、図2の構造)を採用するとよい。
【0031】
図2の例では、トレッド部1の外表面に、タイヤ周方向に沿って延在する2本以上(図示の例では3本)の主溝20が形成され、タイヤ幅方向に隣り合う前記主溝20どうしの間に少なくとも1列(図示の例では2列)の陸部30が区画されている。
【0032】
図示の例の陸部30は、タイヤ周方向に間隔をおいて設けられた複数本の複合溝41によって複数のブロック50に区画されている。複合溝41とは、溝幅が例えば1mm~4mmである溝部41aと、溝幅が0.5mm~1.5mmであるサイプ部41bとで構成されてた溝である。図示の例の溝部41aは、一端が陸部30の一方側に隣接する主溝20に開口し、タイヤ幅方向に対して例えば15°~45°、好ましくは25°~35°の角度で傾斜して延在し、他端が陸部30内で終端する。また、図示の例のサイプ部41bは、溝部41aの他端から溝部41aの延長方向に沿って延在し、陸部30の他方側に隣接する主溝20に連通する。
【0033】
複数のブロック50はそれぞれ、複合溝41と逆方向に傾斜して延在するサイプ42によって更に三角形状または台形状の小ブロック51に区画されている。特に、図示の例では各ブロック50が略平行四辺形状を有するので、サイプ42は、ブロック50の鈍角となる頂点どうしを結ぶ方向に延在している。タイヤ幅方向に対するサイプ42の傾斜角度は、例えば15°~45°、好ましくは25°~35°である。
【0034】
このように陸部30に複合溝41とサイプ42とが設けられて、三角形状または台形状の小ブロック51がタイヤ周方向に並んで配置された構造は、上述のように耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、低転がり性能、およびウェット性能の両立に有利である。即ち、複合溝41においては、溝部41aによって排水性を確保しながら、サイプ部41bによって陸部剛性を確保することができ、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、低転がり性能、およびウェット性能を両立するのに有利である。また、サイプ42は、ブロック50の剛性を適度に低減させて低転がり抵抗性能やウェット性能を高めるのに有利である。更に、三角形状または台形状の小ブロック51がタイヤ周方向に並んで配列されることで、平行四辺形状のブロック50がタイヤ周方向に並んでいるだけの構造と比べ、車両走行時に路面から受ける、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向のいずれの方向の外力に対しても、ブロック50(小ブロック51)の倒れ込みを抑制することができる。これらの協働により、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、低転がり性能、およびウェット性能を高度に両立することができる。
【0035】
図2の構造においては、複合溝41のサイプ部41bおよびサイプ42の溝深さが複合溝41の溝部41aの溝深さよりも小さいことが好ましい。これにより、排水性を向上する効果と陸部剛性を維持する効果のバランスが良好になり、耐摩耗性能および耐偏摩耗性能とウェット性能とを両立するには有利になる。複合溝41のサイプ部41bおよびサイプ42の溝深さは例えば3.0mm~10.0mm、好ましくは5.0mm~8.0mm、複合溝41の溝部41aの溝深さは例えば3.0mm~10.0mm、好ましくは5.0mm~8.0mmに設定することができる。
【0036】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0037】
タイヤサイズが155/80R14 88/86Nであり、図1に例示する基本構造を有し、図2のトレッドパターンを基調とし、複合溝の形態、ブロック形態、複合溝のサイプ部の深さをそれぞれ表1~2のように設定した従来例1、比較例1~6、実施例1~9の16種類の空気入りタイヤを作製した。
【0038】
尚、これら空気入りタイヤのトレッド部を構成するタイヤ用ゴム組成物は、表1~3に示す配合からなる(表3はすべての例に共通する配合である)。これらタイヤ用ゴム組成物は、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、温度150℃でマスターバッチを放出し室温冷却し、その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合してタイヤ用ゴム組成物を調製した。
【0039】
表1~2の「複合溝の形態」の欄について、複合溝が図2の例のように溝部およびサイプ部で構成される場合を「溝+サイプ」、溝部のみで形成される場合(複合溝の代わりにラグ溝が形成された場合)を「溝のみ」と表示した。表1~2の「ブロック形態」の欄について、図2の例のように複合溝およびサイプによって略三角形状の小ブロックまで区画されている場合を「略三角」、複合溝のみが設けられて略平行四辺形状のブロックに区画されている場合を「平行四辺」と表示した。表1~2の「サイプ部の深さ」の欄について、サイプ部の溝深さが溝部の溝深さよりも小さい場合を「浅」、サイプ部の溝深さと溝部の溝深さとが同じである場合を「同等」と表示した。
【0040】
得られたタイヤ用ゴム組成物について、下記に示す方法により、耐摩耗性能、耐偏摩耗性能、転がり抵抗、ウェット性能の評価を行った。
【0041】
耐摩耗性能
各試験タイヤをリムサイズ14×5.0Jのホイールに組み付けて、フロントタイヤの空気圧を300kPa、リアタイヤの空気圧を270kPaとして試験車両に装着し、平均速度約89km/hで乾燥路面からなるテストコースを8000km走行し、走行後の摩耗量を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、標準例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、摩耗量が小さく、耐摩耗性能が優れていることを意味する。
【0042】
耐偏摩耗性能
各試験タイヤをリムサイズ14×5.0Jのホイールに組み付けて、フロントタイヤの空気圧を300kPa、リアタイヤの空気圧を270kPaとして試験車両に装着し、平均速度約89km/hで乾燥路面からなるテストコースを8000km走行し、走行後のトレッドセンター部とトレッドショルダー部の最大摩耗量の差を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、標準例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、部位による摩耗量の差が小さく、耐偏摩耗性能が優れていることを意味する。
【0043】
低転がり性能
各試験タイヤをリムサイズ15×4.5Jのホイールに組み付けて、空気圧を350kPaとして、室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)を用いて、JATMA イヤーブック2009年版記載の当該空気圧における最大負荷荷重の85%に相当する荷重を負荷してドラムに押し付けた状態で、速度80km/hで走行させたときの転動抵抗を測定した。評価結果は、標準例1の測定値を100とする指数で示した。この指数値が小さいほど転動抵抗が小さく、低転がり性能に優れることを意味する。尚、指数値が「110」以下であれば、標準例1と同等の充分な低転がり性能が得られたことを意味する。
【0044】
ウェット性能
各試験タイヤをリムサイズ14×5.0Jのホイールに組み付けて、フロントタイヤの空気圧を240kPa、リアタイヤの空気圧を290kPaとして試験車両に装着し、水深1.0mmのウェット路面においてテストドライバーによる操縦安定性能の官能評価を行った。評価結果は、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほどウェット性能(ウェット路面での操縦安定性)が優れていることを意味する。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
表1~3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、SIR‐20
・SBR1:スチレンブタジエンゴム、ZEON社製SBR1502(結合スチレン量:23%、ブタジエン部の1,2‐結合含有量:16%、トランス1,4‐結合含有量:74%、シス1,4‐結合含有量:11%、ガラス転移温度:-54℃、非油展品)
・SBR2:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1723(結合スチレン量:23%、ブタジエン部の1,2‐結合含有量:17%、トランス1,4‐結合含有量:73%、シス1,4‐結合含有量:10%、ガラス転移温度:-55℃、ゴム成分100質量部に対し37.5質量部のオイル成分を含む油展品)
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220(シス1,4‐結合含有量:98%)
・CB1:カーボンブラック、CABOT社製N339(CTAB吸着比表面積:90m2 /g、窒素吸着比表面積N2 SA:89m2 /g、DBP吸油量:121mL/100g)
・CB2:カーボンブラック、CABOT社製N234(CTAB吸着比表面積:118m2 /g、窒素吸着比表面積N2 SA:117m2 /g、DBP吸油量:127mL/100g)
・CB3:カーボンブラック、NSC社製N550(CTAB吸着比表面積:45m2 /g、窒素吸着比表面積N2 SA:41m2 /g、DBP吸油量:118mL/100g)
・アロマオイル:H&Rケミカル社製VIVATEC 500
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・老化防止剤1:Solutia Europe社製SANTOFLEX 6PPD
・老化防止剤2:NOCIL LIMITED社製PILNOX TDQ
・WAX1:大内新興化学社製サンノック
・WAX2:日本精蝋社製OZOACE‐0038
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄(硫黄含有量:95.24質量%)
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ‐G
【0049】
表1から明らかなように、実施例1~9の空気入りタイヤは、耐摩耗性、耐偏摩耗性、低転がり性能、ウェット性能をバランスよく高度に両立した。一方、比較例1は、カーボンブラックの配合量が多いため、低転がり性能が悪化した。比較例2は、カーボンブラックの配合量が少ないため、耐偏摩耗性能およびウェット性能が悪化した。比較例3は、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積、窒素吸着比表面積N2 SA、DBP吸油量がいずれも大きい(カーボンブラックの粒径が小さい)ため、低転がり性能が悪化した。比較例3は、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積、窒素吸着比表面積N2 SAが小さい(カーボンブラックの粒径が大きい)ため、耐摩耗性能および耐偏摩耗性能が悪化した。比較例5は、ブタジエンゴムの配合量が少ないため、耐摩耗性能および耐偏摩耗性能が悪化した。比較例6は、ブタジエンゴムの配合量が多いため、ウェット性能が悪化した。
【符号の説明】
【0050】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
11 トレッドゴム層
12 サイドゴム層
13 リムクッションゴム層
20 主溝
30 陸部
41 複合溝
41a 溝部
41b サイプ部
42 サイプ
50 ブロック
51 小ブロック
CL タイヤ赤道
図1
図2