(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】コークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 57/04 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
C10B57/04
(21)【出願番号】P 2020065720
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】野村 誠治
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-37091(JP,A)
【文献】特開平4-88085(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0057083(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発分が30質量%以上、かつ全膨張率が15%以下の性状を有する劣質炭を乾留して、チャーを製造するチャー製造工程と、
前記性状を有する劣質炭を前記チャー製造工程で発生した乾留ガスと接触させて、改質炭を製造する改質工程と、
少なくとも、前記チャー製造工程で得られたチャーと、前記改質工程で得られた改質炭と、揮発分を15質量%以上30%未満含むとともに全膨張率が20%以上の強粘結炭とを混合して混合炭を製造する混合工程と、
前記混合炭を室炉式コークス炉で乾留する乾留工程と、
前記改質工程で得られた改質炭を前記混合工程で混合する前に冷却する改質炭冷却工程と、
を有することを特徴とするコークスの製造方法。
【請求項2】
さらに、前記チャー製造工程で発生した乾留ガスを冷却する乾留ガス冷却工程を有し、
前記乾留ガス冷却工程において冷却された乾留ガスを前記改質工程における乾留ガスとして用いることを特徴とする請求項1に記載のコークスの製造方法。
【請求項3】
前記混合工程において混合される石炭には、さらに、前記性状を有する劣質炭が含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコークスの製造方法。
【請求項4】
前記混合炭を100質量%としたときに、前記チャーの配合率は10質量%以上30質量%以下であり、前記改質炭の配合率は10質量%以上40質量%以下であり、前記強粘結炭の配合率が10質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載のコークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質炭を利用したコークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室炉式コークス炉では、主原料として粘結性の高い強粘結炭が用いられており、この強粘結炭は高価であるとともに今後枯渇していことが予想されている。安価な劣質炭(例えば、高揮発分劣質炭)を多量に配合した配合炭は、揮発分が高くなるほどコークス化過程における収縮率が大きくなるため、コークスに多くの亀裂が形成されやすくなる。その結果、コークス強度の低下により、コークス粒径が小さくなるという課題がある。なお、本明細書におけるコークス強度は、特に断らない限り、コークス強度DI150
15を意味するものとする。
【0003】
ここで、劣質炭を炭化室に装入する前に加熱処理して、揮発分を取り除くことによりチャー化し、コークス原料として使用する方法が知られている。
【0004】
特許文献1には、高揮発分非微粘結炭から成型コークス製造に適するチャーを得るための予備処理方法であって、高揮発分非微粘結炭に混合機内でタールを添加して混合した後、外熱式のロータリーキルンにおいて450~600℃で加熱してチャーを製造し、ロータリーキルンから排出された乾留ガスから分離したタールを前述の混合機内に添加するタールとして用いる方法が開示されている。また、特許文献1の
図3には、この方法で製造したチャーを原料炭に20~40%配合することにより、コークス強度の高いコークスが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のチャーを含む配合炭を室炉式コークス炉で乾留しても、粘結性が不足するため、コークス強度の高いコークスを製造することができない。すなわち、室炉式のコークス製造法は、成型コークス法と比較して石炭充填嵩密度が低いため、粘結性の乏しいチャーを多量に配合すると、配合炭の粘結性が不足して、コークス強度が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、劣質炭の乾留時に発生する乾留ガスを、直接、劣質炭と接触させた後、冷却することで、劣質炭を粘結性に優れた原料炭に改質できる技術を知見した。
【0008】
すなわち、本発明に係るコークスの製造方法は、(1)揮発分が30質量%以上、かつ全膨張率が15%以下の性状を有する劣質炭を乾留して、チャーを製造するチャー製造工程と、前記性状を有する劣質炭を前記チャー製造工程で発生した乾留ガスと接触させて、改質炭を製造する改質工程と、少なくとも、前記チャー製造工程で得られたチャーと、前記改質工程で得られた改質炭と、揮発分を15質量%以上30%未満含むとともに全膨張率が20%以上の強粘結炭とを混合して混合炭を製造する混合工程と、前記混合炭を室炉式コークス炉で乾留する乾留工程と、前記改質工程で得られた改質炭を前記混合工程で混合する前に冷却する改質炭冷却工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
(2)さらに、前記チャー製造工程で発生した乾留ガスを冷却する乾留ガス冷却工程を有し、前記乾留ガス冷却工程において冷却された乾留ガスを前記改質工程における乾留ガスとして用いることを特徴とする上記(1)に記載のコークスの製造方法。
【0010】
(3)前記混合工程において混合される石炭には、さらに、前記性状を有する劣質炭が含まれていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のコークスの製造方法。
【0011】
(4)前記混合炭を100質量%としたときに、前記チャーの配合率は10質量%以上30質量%以下であり、前記改質炭の配合率は10質量%以上40質量%以下であり、前記強粘結炭の配合率が10質量%以上30質量%以下であることを特徴とする上記(1)乃至(3)のうちいずれか一つに記載のコークスの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、劣質炭に乾留ガスを接触させた後、冷却することにより、粘結性に優れた改質炭を得ることができる。また、この改質炭をチャー及び強粘結炭と混合して室炉式コークス炉で乾留することにより、コークス強度の高いコークスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
(用語の定義)
本明細書において、劣質炭とは「揮発分(VM)の含有量が30質量%以上であって、かつ全膨張率(TD)が15%以下の石炭」と定義する。劣質炭は、単味炭であってもよいし、複数銘柄の劣質炭を混合した混合炭であってもよい。強粘結炭とは「揮発分(VM)の含有量が15質量%以上30質量%未満であって、かつ全膨張率(TD)が20%以上の石炭」と定義する。強粘結炭は、単味炭であってもよいし、複数銘柄の強粘結炭を混合した混合炭であってもよい。なお、全膨張率(TD)は、JIS M 8801に規定される膨張性試験方法(ジラトメータ法)によって測定される収縮率及び膨張率の和のことである(以下、同様である)。
【0015】
本発明者は、劣質炭をチャー製造時に発生する乾留ガスと接触させてから、冷却することにより、粘結性に優れた石炭に改質できることを発見した。以下、本実施形態のコークスの製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態のコークスの製造方法を示す工程図である。
【0016】
本実施形態のコークスの製造方法は、
(1)劣質炭を乾留して、チャーを製造するチャー製造工程と、
(2)劣質炭をチャー製造工程で発生した乾留ガスと接触させて、改質炭を製造する改質工程と、
(3)チャー製造工程で得られたチャーと、改質工程で得られた改質炭と、劣質炭と、強粘結炭と、を混合する混合工程と、
(4)改質炭を混合工程で混合する前に冷却する改質炭冷却工程と、
(5)前記混合工程で得られた混合炭を室炉式コークス炉で乾留する乾留工程と、を有する。
なお、チャー製造工程で用いられる劣質炭をチャー製造用劣質炭、改質工程で改質される劣質炭を改質用劣質炭、混合工程で混合される劣質炭を混合用劣質炭と称する場合がある。
【0017】
(チャー製造工程について)
チャー製造用劣質炭を乾留装置1で乾留して、チャーを製造する。乾留温度は、600℃以上900℃以下が例示される。チャーとは、石炭を加熱した際に、軟化・溶融状態を得ずに生成する炭素質物質のことである(JIS0104 石炭利用技術用語参照)。
【0018】
乾留装置1は特に限定しないが、例えば外熱式の二重ロータリーキルンを用いることができる。チャー製造用劣質炭を乾留すると、タールを含む乾留ガスが発生する。この乾留ガスは、一次ガスクーラー11(乾留ガス冷却工程に相当する)で所定温度に冷却された後、改質機2に送られる。所定温度は、好ましくは200℃以上400℃以下である。乾留ガスの温度が200℃未満に低下すると、液状のタールが凝縮して発生するおそれがあり、後述するように改質用劣質炭の内部までタールが浸透しにくくなる。乾留ガスの温度が400℃超のままだと、乾留ガスに接触した改質用劣質炭が熱分解反応を起こし、改質効果が低下し易くなる。なお、本明細書における改質効果とは、劣質炭の粘結性を高めることである。
【0019】
乾留装置1で生成されたチャーは、チャークーラー12で冷却された後、混合装置4に送られる。
【0020】
(改質工程について)
図2は、改質機の概略図である。改質機2は、ガスと固体が逆向きに流れるカウンター式の改質機であり、筒状に形成されるとともに長手方向軸L周りに回転する。改質用劣質炭は、回転動作する改質機2の一端側から装入され、他端側から排出される。一次ガスクーラー11で冷却された乾留ガスは、回転動作する改質機2の他端側から吹き込まれ、一端側から排気される。つまり、改質用劣質炭は、改質機2内を転動しながら、乾留ガスの流れる向きとは逆向きに移動する。これにより、改質用劣質炭を乾留ガスに対して効率的に接触させることができる。
【0021】
改質用劣質炭は多数の細孔を有しており、前記所定温度の乾留ガス(主として、気相状態のタール)がこれらの細孔内に流入して石炭の構造を緩和して、改質用劣質炭を好適に改質することができる。すなわち、前記所定温度に温度調整された気相状態のタールが、改質用劣質炭の内部まで浸透するため、効率的に石炭の構造を緩和することができる。
【0022】
改質機2における改質用劣質炭の滞留時間は、好ましくは5分以上30分以下である。滞留時間を5分以上とすることで、改質用劣質炭の内部にタールを十分に浸透させ易くなるため、5分以上とすることが好ましい。滞留時間を30分以下とすることで、改質用劣質炭の改質をより適切に進行させることができるため、30分以下とすることが好ましい。
【0023】
(改質炭冷却工程について)
改質炭クーラー3は、改質機2の他端側から排出された改質炭を冷却する。ここで、改質炭を冷却せずに室炉式コークス炉で乾留すると、改質炭の粘結性を十分に発現させることができない。その理由は、改質炭が構造緩和された反応性の高い状態となっており、この状態で熱分解反応が進むため、熱分解反応が過度に進行して、粘結性が低下するからだと推察される。一方、改質機2で改質された改質炭を一旦冷却してから、室炉式コークス炉で乾留すると、改質炭の粘結性を十分に発現させることができる。これは、構造緩和された改質炭を一度安定化させてから熱分解が始まるため、過度に熱分解が進むことを抑制できるからだと推察される。
【0024】
改質炭クーラー3における冷却温度は好ましくは200℃未満であり、冷却時間は好ましくは3時間以上である。なお、改質機2に導入された乾留ガスは、その後の搬送・処理に支障がないように、二次ガスクーラー21で冷却される。
【0025】
(混合工程)
混合工程では、チャー製造工程で得られたチャーと、改質工程で得られた改質炭と、混合用劣質炭と、強粘結炭とを混合した混合炭を製造する。混合炭の全体を100質量%としたとき、強粘結炭の配合比率は、好ましくは10質量%以上である。強粘結炭の配合比率が10%未満に低下すると、混合炭の粘結性が低くなり、コークス強度が低下するおそれがある。また、強粘結炭の配合比率の上限は、特に限定しない。ただし、本発明は、安価な劣質炭を改質後に多量配合して、高価な強粘結炭の配合比率を低減することを前提としているから、強粘結炭の配合比率は30質量%以下に抑えることが好ましい。
【0026】
混合炭の全体を100質量%としたとき、チャーの配合比率は、好ましくは10質量%以上30質量%以下である。チャーは揮発分が少ない原料であるため、チャーの配合比率が10質量%未満に低下すると、混合炭に含まれる揮発分が過度に高くなり、その結果、乾留時に亀裂が発生して、コークス強度が低下するおそれがある。チャーは全膨張率が非常に小さい原料であるため、チャーの配合比率が30質量%を超過すると、混合炭の粘結性が低くなり、コークス強度が低下するおそれがある。
【0027】
混合炭の全体を100質量%としたとき、改質炭の配合比率は、好ましくは10質量%以上である。改質炭は劣質炭、チャーよりも粘結性に優れるため、改質炭の配合比率が10質量%未満に低下すると、混合炭の粘結性が低くなり、コークス強度が低下するおそれがある。また、改質炭の配合比率の上限は、特に限定しない。ただし、改質炭の配合比率を上げると、改質機2、改質炭クーラー3の設備費及び運転費が増大するため、40質量%以下に抑えることが好ましい。また、改質炭を40質量%以下に抑えることによって、過剰な揮発分による亀裂生成を抑制できる。
【0028】
混合工程で混合される混合用劣質炭には、チャー製造用劣質炭及び改質用劣質炭として処理しきれない残部の劣質炭が振り向けられる。すなわち、処理能力の問題等で、乾留装置1及び改質機2で処理しきれない劣質炭が、混合工程で混合される。したがって、乾留装置1及び改質機2において全ての劣質炭を処理できる場合には、混合工程で混合される石炭から劣質炭を除外してもよい。
【0029】
(乾留工程について)
混合工程で得られた混合炭は、室炉式コークス炉5の炭化室に装入されて、乾留される。乾留されたコークスは、炭化室から押し出された後、コークス乾式消火設備で冷却され、高炉装入用の還元材として利用される。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を示して、本発明について具体的に説明する。表1に、本実施例で使用した強粘結炭、劣質炭、チャー、改質炭の性状を示す。なお、チャーおよび改質炭の製造方法については、後述する。
【表1】
粘結力指数CIは、石炭と不活性物質との混合物を乾留した後のコークスボタンの強さから求めた石炭の粘着性の強さを示す指数であり、本実施例では、0.25mm以下の石炭1gに0.25~0.3mmの粉コークス9gを混ぜ、磁性るつぼで900℃、7分間乾留した後、その生成物を0.42mmの篩目で篩分けし、篩上質量の百分率を粘結力指数CIとした(1983 コロナ社 (社)燃料協会編 P.255参照)。粘結力指数CIが大きくなるほど、粘結性が高くなる。
【0031】
表2に示す配合条件に従って配合した混合炭を試験コークス炉で乾留して、コークス強度を測定した。ここで、乾留温度は1250℃、乾留時間は18.5時間とした。
【表2】
比較例3は、強粘結炭の配合比率を20質量%として、残部を劣質炭とした。また、劣質炭を均等に分割して、それぞれをチャー製造用劣質炭及び混合用劣質炭とした。チャーは、特許文献1に記載のチャー製造方法を適用して製造した。具体的には、ロータリーキルンにチャー製造用劣質炭を装入し、昇温速度5℃/minで550℃まで加熱し、550℃で20分間保持した後冷却することにより製造した。タールの添加量は、劣質炭に対して外数で1質量%とした。比較例2は、タールを無添加とした点を除いて、比較例3と同じにした。比較例1は、劣質炭を全て混合用劣質炭とした(つまり、チャー製造用劣質炭及び改質用劣質炭を0質量%とした)。
【0032】
発明例1では、混合用劣質炭、チャー及び改質炭の配合比率をそれぞれ40質量%、20質量%及び20質量%とした。チャーは、チャー製造用劣質炭(タール無添加)を、上記記載と同様の条件でロータリーキルンによって加熱することにより製造した。また、改質用劣質炭を改質機に装入して、一次ガスクーラーで350℃に冷却した乾留ガスを改質機内に吹き込んだ。乾留ガスの改質機における出口温度は300℃であった。改質用劣質炭の改質機内における滞留時間は10分とした。改質機で改質された改質炭を改質炭クーラーで30℃に冷却した後、混合装置で強粘結炭、混合用劣質炭及びチャーとともに混合した。冷却後に改質炭がコークス炉に装入されるまでの時間は8時間とした。発明例2では、混合用劣質炭、チャー及び改質炭の配合比率をそれぞれ30質量%、20質量%及び30質量%とした。なお、改質炭の製造方法は、発明例1と同じにした。
【0033】
比較例2,3を比較参照して、タールを添加してもコークス強度は82までしか向上しなかった。発明例1,2に示すように、チャー及び改質炭を混合炭に含めることにより、コークス強度が大幅に向上した。
【符号の説明】
【0034】
1 乾留装置 2 改質機 3 改質炭クーラー 4 混合装置
5 室炉式コークス炉 11 一次ガスクーラー 12 チャークーラー
21 二次ガスクーラー