(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】シクロヘキサンジカルボン酸類、ジシアノシクロヘキサン類、及びビス(アミノメチル)シクロヘキサン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/36 20060101AFI20230823BHJP
C07C 61/09 20060101ALI20230823BHJP
C07C 253/22 20060101ALI20230823BHJP
C07C 255/46 20060101ALI20230823BHJP
C07C 209/48 20060101ALI20230823BHJP
C07C 211/18 20060101ALI20230823BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20230823BHJP
B01J 23/06 20060101ALI20230823BHJP
B01J 25/00 20060101ALI20230823BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
C07C51/36
C07C61/09
C07C253/22
C07C255/46
C07C209/48
C07C211/18
B01J23/46 301Z
B01J23/06 Z
B01J25/00 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020513442
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2019015724
(87)【国際公開番号】W WO2019198778
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2018076283
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山添 葵
(72)【発明者】
【氏名】大森 雄太
(72)【発明者】
【氏名】飯田 昭文
(72)【発明者】
【氏名】神原 豊
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105016944(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101591237(CN,A)
【文献】国際公開第2012/046781(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/046782(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア水溶液中のフタル酸類を、反応器中で固定床触媒の存在下、水素と接触させることによってシクロヘキサンジカルボン酸類、又は、シクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液を得る工程を有する、シクロヘキサンジカルボン酸類の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のシクロヘキサンジカルボン酸類の製造方法により
、前記シクロヘキサンジカルボン酸類、又は、シクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液を得て、前記シクロヘキサンジカルボン酸類、又は、
前記シクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液の加熱濃縮物をシアノ化反応させることにより、ジシアノシクロヘキサン類を得る工程を有する、ジシアノシクロヘキサン類の製造方法。
【請求項3】
前記シクロヘキサンジカルボン酸類を得る工程において得られた前記シクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液の少なくとも一部を、前記ジシアノシクロヘキサン類を得る工程のアンモニア源として用いる、請求項2記載のジシアノシクロヘキサン類の製造方法。
【請求項4】
前記シクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液を、100~200℃に加熱して、水の少なくとも一部を除去することにより、前記加熱濃縮物を得る工程を更に有する、請求項2又は3に記載のジシアノシクロヘキサン類の製造方法。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載の製造方法により
、前記ジシアノシクロヘキサン類を得て、前記ジシアノシクロヘキサン類を水素添加反応させることにより、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類を得る工程を有する、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロヘキサンジカルボン酸類、ジシアノシクロヘキサン類、及びビス(アミノメチル)シクロヘキサン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類は、エポキシ硬化剤、ポリアミド、ポリウレタン等の原料として使用される工業的に重要な化合物である。
【0003】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類の製造方法としてはいくつか挙げられる。具体的な製造方法としては、フタル酸類に対して水素添加反応を行いシクロヘキサンジカルボン酸類とし、シクロヘキサンジカルボン酸類に対してアミド化及び脱水反応を行いジシアノシクロヘキサン類とし、ジシアノシクロヘキサン類に対して水素添加反応を行うことでビス(アミノメチル)シクロヘキサン類を製造する方法が知られている。ここで、シクロヘキサンジカルボン酸類を製造するためには、特許文献1~3に記載のような方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-006382号公報
【文献】特表平07-507041号公報
【文献】特開2002-020346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、水等の汎用溶媒に対するテレフタル酸又はその誘導体の溶解度が高くないため、反応方式は液相懸濁反応方式が好ましいことが記載されている。しかしながら、このような方式では、反応後の反応液に触媒が大量に混在しているため、触媒を濾過して除去するのに手間を要する。また、生成物の反応液への溶解性の低さに起因して、熱濾過、又はアルカリ塩へ誘導してからの濾過を行う必要があり製造効率が十分ではない。
【0006】
一方、特許文献2及び3では、フタル酸又はその誘導体の溶解性を改善するためにアルカリ塩とすることが記載されている。しかしながら、この場合、反応後に中和する工程が必要であり、この方法によっても製造効率は十分ではない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、新規なシクロヘキサンジカルボン酸類の製造方法であって、製造効率に優れた製造方法を提供することを目的とする。更に本発明は、その製造方法によって得られるジシアノシクロヘキサン類及びビス(アミノメチル)シクロヘキサン類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アンモニア水溶液中のフタル酸類を反応器中で水素及び固定床触媒と接触させることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
(1)
アンモニア水溶液中のフタル酸類を反応器中で固定床触媒の存在下、水素と接触させることによってシクロヘキサンジカルボン酸類、又は、シクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液を得る工程を有する、シクロヘキサンジカルボン酸類の製造方法。
(2)
(1)のシクロヘキサンジカルボン酸類の製造方法により得られた前記シクロヘキサンジカルボン酸類又は、シクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液の加熱濃縮物をシアノ化反応させることにより、ジシアノシクロヘキサン類を得る工程を有する、ジシアノシクロヘキサン類の製造方法。
(3)
前記シクロヘキサンジカルボン酸類を得る工程において得られた前記シクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液の少なくとも一部を、前記ジシアノシクロヘキサン類を得る工程のアンモニア源として用いる、(2)のジシアノシクロヘキサン類の製造方法。
(4)
前記シクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液を、100~200℃に加熱して、水の少なくとも一部を除去することにより、前記加熱濃縮物を得る工程を更に有する、(2)又は(3)のジシアノシクロヘキサン類の製造方法。
(5)
(2)~(4)のいずれかの製造方法により得られたジシアノシクロヘキサン類を水素添加反応させることにより、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類を得る工程を有する、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規なシクロヘキサンジカルボン酸類の製造方法であって、製造効率に優れた製造方法を提供することができる。更に、本発明によれば、その製造方法によって得られるジシアノシクロヘキサン類及びビス(アミノメチル)シクロヘキサン類の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
[シクロヘキサンジカルボン酸類の製造方法]
本実施形態のシクロヘキサンジカルボン酸類の製造方法(以下、「CHDA製造方法」ともいう。)は、アンモニア水溶液中のフタル酸類を、反応器中で固定床触媒の存在下、水素と接触させることによって、シクロヘキサンジカルボン酸類、又は、シクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液を得る工程(以下、「核水添工程」ともいう。)を有する。本実施形態の製造方法では、フタル酸類をアンモニア水溶液中でアンモニウム塩とすることにより、水に対する溶解度が向上し、その結果、固定床式での反応が可能となる。このため、触媒を濾過するための工程が不要となり、製造効率に優れる。また、フタル酸類をアンモニウム塩のまま取出し、次工程であるシアノ化工程に用いることで、中和の工程を必要とせず、アンモニアの有効活用も可能になるため、製造効率に一層優れる。
【0013】
本実施形態において、「シクロヘキサンジカルボン酸類」とは、シクロヘキサンジカルボン酸及びその誘導体を包含する概念をいい、シクロヘキサンジカルボン酸誘導体は、塩の形態も包含する。シクロヘキサンジカルボン酸としては、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。シクロヘキサンジカルボン酸の誘導体としては、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩等のシクロヘキンサジカルボン酸アンモニウム塩、2-カルボキサミドシクロヘキサン-1-カルボン酸、3-カルボキサミドシクロヘキサン-1-カルボン酸、4-カルボキサミドシクロヘキサン-1-カルボン酸等のカルボキサミドシクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。
【0014】
一方、シクロヘキサンジカルボン酸の誘導体としては、1,2-シクロヘキサンジカルボキサミド、1,3-シクロヘキサンジカルボキサミド、1,4-シクロヘキサンジカルボキサミド等の分子中にカルボキサミド基を2つ有する誘導体が挙げられるが、上記カルボキサミド基を2つ有する誘導体は、融点が高くシアノ化反応時に溶解し難いため、反応性の低下につながる。その結果、高沸を形成し易く、収率が悪化する傾向にある。このため、シクロヘキサンジカルボン酸類中の上記カルボキサミド基を2つ有する誘導体の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。一方、シクロヘキサンジカルボン酸類中のシクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩、及びカルボキサミドシクロヘキサンカルボン酸の合計の含有量は、収率及び反応性の観点から、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更に好ましい。
【0015】
本実施形態において、「フタル酸類」とは、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸及びこれらの誘導体をいい、更には塩の形態(例えば、アンモニウム塩)も包含する概念をいう。
【0016】
核水添工程では、例えば、まず、反応器に触媒を充填する。反応器としては、液体反応液が触媒の上を通過して気体、液体、固体物質移動状態を与えるような固定床として塔が機能する限り、特に限定されない。また、ここでいう触媒としては、例えば、通常の核水添反応に用いられる触媒を、公知の方法により還元させたものであってもよく、還元前のものであってもよい。触媒としては、例えば、通常の核水添反応に用いられる触媒を採用することができ、具体的には、Ru、Pd、Pt及びRhのような1種又は2種以上の金属触媒、若しくは貴金属触媒が用いられる。また、触媒は、上記の金属触媒が、カーボン、Al2O3、SiO2、SiO2-Al2O3、TiO2、及びZrO2のような通常用いられる1種又は2種以上の担体上に担持された形態を有してもよい。担体を用いた場合の触媒の担持量は、担体100質量%に対して、0.1~10質量%であると好ましい。
【0017】
核水添工程では、次いで、水素ガスを所定の圧力になるまで導入し、所定温度まで昇温する。水素ガスは、その後、所定流量で反応器内に導入する。反応管内の圧力は常圧であっても、加圧であってもよい。加圧する場合の系内の圧力は0.5~15MPaであると好ましく、反応温度は、40~150℃であると好ましい。水素の流量は単位時間に触媒と接触するフタル酸類100モル%に対して、水素が300~1000モル%となるような量であると好ましく、300~600モル%であるとより好ましい。
【0018】
核水添工程では、次いで、フタル酸類のアンモニア水溶液(以下、「反応液」ともいう。)を調合し、ポンプを用いて反応器内に反応液を流通させる。フタル酸類の仕込み量は、反応液全体に対して2~20質量%であると好ましい。また、アンモニア水溶液中のアンモニアの仕込み量は、フタル酸類100モル%に対して、200~400モル%であると好ましい。ここで、フタル酸類がアンモニウム塩である場合には、アンモニアの仕込み量(モル%)はフタル酸類中に含まれるアンモニアの量も包含する。触媒の使用量に制限はなく、担持されている金属触媒の含有量と反応に用いるフタル酸類の量とを勘案し、目的の転化率になるよう適宜決めればよい。また、反応時間は、核水添反応が十分に進行する時間であればよい。各反応条件を上記の範囲内に調整することで、得られるシクロヘキサンジカルボン酸類の収率及び選択率を高めることができる傾向にある。
【0019】
上述のようにしてシクロヘキサンジカルボン酸類を製造した場合、反応液は、アンモニア水溶液と、生成したシクロヘキサンジカルボン酸類とを含む。
【0020】
本実施形態のジシアノシクロヘキサン類の製造方法(以下、「CHDN製造方法」ともいう。)は、上述の本実施形態のシクロヘキサンジカルボン酸類の製造方法により得られたシクロヘキサンジカルボン酸類、又はシクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液の加熱濃縮物(以下、単に「加熱濃縮物」ともいう。)をシアノ化反応させることにより、ジシアノシクロヘキサン類を得る工程(以下、「シアノ化工程」ともいう。)を有する。ここで、加熱濃縮物は、シクロヘキサンジカルボン酸類のアンモニア水溶液、又は濾過して得た結晶、及びこれらの混合物(スラリー)を包含する概念をいう。
【0021】
加熱濃縮物をシアノ化工程に用いることにより、例えばアンモニアガスを系内に導入することのみによってシアノ化させる場合と対比して、ジシアノシクロヘキサン類の収率を高めることができる。その要因は、これに限定されないが、後述する加熱濃縮工程において加熱することにより加熱濃縮物中に中間体が生成し、その中間体がシアノ化反応に寄与するためと考えられる。
【0022】
本実施形態において、「ジシアノシクロヘキサン類」とは、ジシアノシクロヘキサン及びその誘導体を包含する概念をいう。ジシアノシクロヘキサン類としては、1,2-ジシアノシクロヘキサン、1,3-ジシアノシクロヘキサン、及び1,4-ジシアノシクロヘキサンが挙げられる。
【0023】
本実施形態のCHDN製造方法は、シクロヘキサンジカルボン酸類を得る工程において得られたシクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液の一部を、ジシアノシクロヘキサン類を得る工程のアンモニア源として用いることが好ましい。これによって、アンモニアの有効活用が可能になる。特に、アンモニアの有効活用の観点から、得られたシクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液の5~25質量%をアンモニア源として用いることが望ましい。
【0024】
本実施形態のCHDN製造方法は、シクロヘキサンジカルボン酸類アンモニア水溶液を加熱して、水の少なくとも一部を除去することにより、加熱濃縮物を得る工程(以下、「加熱濃縮工程」ともいう。)を更に有することが好ましい。これにより、シアノ化工程でのジシアノシクロヘキサン類の収率がより高くなる傾向にある。加熱濃縮時の温度(加熱温度)は、30~200℃であることが好ましい。加熱温度が上記範囲内であることにより、アンモニア水溶液から水を揮発により有効に除去でき、その結果、後述するシアノ化工程でのジシアノシクロヘキサンの収率が一層高くなる傾向にある。同様の観点から、加熱温度は、50~200℃であることがより好ましく、100~200℃であることが更に好ましい。一方、シクロヘキサンジカルボン酸誘導体が1,4-シクロヘキサンジカルボン酸誘導体である場合には、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸誘導体のトランス体の含有量を高める観点から、120~200℃であることが好ましく、140~200℃であることがより好ましい。圧力は常圧であっても加圧であってもよい。加熱濃縮時の圧力は、アンモニア水溶液から水を揮発により有効に除去する観点から、0.003~2MPaであることが好ましい。
また、本実施形態において、上記加熱濃縮物をシアノ化工程に用いることは、その加熱濃縮物中に存在するアンモニアを有効にシアノ化反応の原料として用いることができる点で有用である。
【0025】
本実施形態のCHDN製造方法において、加熱濃縮工程は、シアノ化工程に先立って行ってもよい。加熱濃縮工程において、加熱濃縮後のアンモニア水溶液中のシクロヘキサンジカルボン酸類の濃度は、アンモニア100モル%に対して、25~100モル%であると好ましい。
【0026】
加熱濃縮工程において、加熱濃縮する方法はシクロヘキサンジカルボン酸類のアンモニア水溶液から水を揮発により除去できる方法であれば、特に限定されない。加熱濃縮する方法は、シクロヘキサンジカルボン酸類のアンモニア水溶液から水を揮発により、積極的に系外へ除去する観点から開放系を利用する方法が好ましい。
【0027】
加熱濃縮工程は、その後のシアノ化工程と連続的に行ってもよい。すなわち、まず反応器内に、シクロヘキサンジカルボン酸類のアンモニア水溶液と、必要に応じて水と、触媒とを仕込み、系内の圧力が所定の圧力になるまで不活性ガス、及び必要に応じてアンモニアガスを導入する。その後、反応器内を好ましくは100℃~200℃の範囲内に保持すると共に、反応器内の圧力が一定の範囲内を維持するよう、適宜不活性ガスを反応器内に導入したり、反応器内のガスを排出したりしながら、加熱濃縮物を得る。
【0028】
その後、必要に応じてアンモニアガスを反応器内に導入し、その反応器内の温度及び圧力を、シアノ化工程に必要な温度及び圧力に調整して、シアノ化反応を進行させてもよい。この場合、アンモニアガスを導入する機会を、加熱濃縮物を得た後にすると、アンモニアをより効率的に利用することができるので好ましい。上記の不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、並びにアルゴン及びヘリウムのような希ガスが挙げられる。ただし、系内に不活性ガスを導入しなくてもよい。
【0029】
また、加熱濃縮工程において、加熱濃縮物から結晶を取出し、その後のシアノ化工程の原料として用いてもよい。回収する方法としては、例えば、加熱濃縮物をろ過することにより結晶を回収する方法が挙げられる。ろ過後の1,4-シクロヘキサンジカルボン酸誘導体中の母液の含液率は、操作性の観点から5~35質量%が好ましく、10~25質量%であることがより好ましい。ろ過後の1,4-シクロヘキサンジカルボン酸誘導体は母液を含液した状態で次工程に供することもできるし、一旦結晶を取り出し、乾燥した後に次工程に供することもできる。また、加熱濃縮工程の回数は、1回であってもよく、複数回であってもよい。本実施形態の製造方法では、1回目の加熱濃縮工程により結晶を回収した後のアンモニア水溶液を、更に結晶を回収するために2回目以降の加熱濃縮工程に繰り返し用いることができる。本実施形態の製造方法は、加熱濃縮工程の回数が複数回であることにより、シクロヘキサンジカルボン酸類を漏れなく回収できるため、シクロヘキサンジカルボン酸類の収率に一層優れる傾向にある。
【0030】
シアノ化工程においては、まず、反応器内に加熱濃縮物と、必要に応じて水と、触媒とを仕込み、系内の圧力が所定の圧力になるまで不活性ガスを導入する。その後、反応器内を所定の温度になるまで加熱して、反応器内の圧力が一定の範囲内を維持するよう、適宜不活性ガスを反応器内に導入しつつ、かつ反応器内を撹拌しながら、シアノ化反応を進行させる。
【0031】
触媒は、均一系触媒でも不均一系触媒でも使用することができる。触媒としては、通常のシアノ化反応に用いられる触媒を採用することもでき、具体的には、シリカゲル、アルミナ、シリカアルミナ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化マンガン、酸化タングステン、五酸化バナジウム、五酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化スカンジウム等の金属酸化物であり、これらは単体でも複合酸化物でも担持したものでもよい。担持成分としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、スズ、レニウム、マンガン、モリブデン、タングステン、バナジウム、鉄、ニッケル、クロム、ホウ酸、塩酸、リン酸等が挙げられる。また、触媒としては、過レニウム酸や酸化レニウム等のレニウム化合物、酸化ジブチルスズ等の有機スズ化合物、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)等のルテニウム化合物、及び酸化コバルト等も挙げられる。これらの中でも、シアノ化反応をより有効かつ確実に進行させる観点から、酸化亜鉛及び酸化スズが好ましい。触媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。さらに、触媒の使用量は、シクロヘキサンジカルボン酸類100質量%に対して、0.5~20質量%であると好ましい。触媒を上記の範囲内の量となるように用いることで、得られるジシアノシクロヘキサン類の収率及び選択率を高めることができる傾向にある。
【0032】
シアノ化工程においては無溶媒、もしくは溶媒を用いてもよく、好ましくは沸点が600℃以下の溶媒、より好ましくは沸点が500℃以下の溶媒、さらに好ましくは沸点が420℃以下の溶媒を用いる。また、シアノ化反応の反応温度以上である溶媒の沸点は、好ましくは250℃以上であり、より好ましくは270℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上である。沸点が300℃以上であることにより、シアノ化反応が円滑に進行し、且つ、ジシアノシクロヘキサンの三量体といったような不純物の生成を抑えることができる傾向にある。シアノ化工程において用いられる溶媒として、ヘプタデカン、ノナデカン、ドコサン等の脂肪族アルカン;ヘプタデセン、ノナデセン、ドコセン等の脂肪族アルケン;ヘプタデシン、ノナデシン、ドコシン等の脂肪族アルキン;ウンデシルベンゼン、トリデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン等のアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン及びアルキルナフタレン等のアルキル置換芳香族;2,5-ジクロロ安息香酸、テトラクロロフタル酸無水物等の酸または酸無水物;ウンデカンアミド、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド等のアミド化合物;テトラデカンニトリル、ヘキサデカンニトリル、2-ナフチルアセトニトリル、ステアロニトリル、1,4-ジシアノシクロヘキサン等のニトリル化合物;p-クロロジフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等のリン化合物;1,2-ジフェニルエチルアミン、トリオクチルアミン等のアミン;2,2’-ビフェノール、トリフェニルメタノール等の水酸化物;安息香酸ベンジル、フタル酸ジオクチル等のエステル;4-ジブロモフェニルエーテル等のエーテル;1,2,4,5-テトラクロロ-3-ニトロベンゼン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン等のハロゲン化ベンゼン;2-フェニルアセトフェノン、アントラキノン等のケトン並びにトリフェニルメタン;等が挙げられる。これらのうち、アルキルナフタレン、トリフェニルメタン、又はジシアノシクロヘキサンがシアノ化反応の進行を妨げ難いという観点から好ましい。
【0033】
また、反応器内にアンモニアガスを適宜導入してもよい。その流量は反応のスケール等により適宜調整すればよく、通常シクロヘキサンジカルボン酸類1モルに対して1時間あたり0.1~5倍モルであり、好ましくは1時間あたり0.3~4倍モルであり、より好ましくは1時間あたり0.5~3倍モルである。アンモニアガスの使用量は、シクロヘキサンジカルボン酸類100モル%に対して、200~1000モル%であると好ましい。これにより、得られるジシアノシクロヘキサン類の収率及び選択率を高めることができる傾向にある。
【0034】
本実施形態の製造方法における反応温度は、シアノ化反応が進行する温度であれば特に制限されず、好ましくは270~400℃であり、より好ましくは280℃~380℃であり、さらに好ましくは290℃~350℃である。本実施形態の製造方法における反応圧力は、陰圧であっても常圧であっても陽圧であってもよい。反応時間は、シアノ化反応が十分に進行する時間であればよい。各原料の濃度や反応条件を上述の範囲内に調整することで、ジシアノシクロヘキサン類の収率を高めることができる傾向にある。
【0035】
このようにして得られたジシアノシクロヘキサン類を含む反応液を、必要に応じて蒸留することにより、ジシアノシクロヘキサン類を回収してもよい(以下、この工程を「蒸留工程」という。)。蒸留は、例えば、蒸留器の系内の圧力が3.0kPA~4.0kPA、温度が180~230℃になるよう蒸留器を底部から加熱すると共に頂部で冷却をすることで、器内において気液接触させることで行われる。これにより、蒸留器の頂部からジシアノシクロヘキサン類を選択的に抜き出して回収することができる。
【0036】
本実施形態のビス(アミノメチル)シクロヘキサン類の製造方法は、上述のようにして得られたジシアノシクロヘキサン類を水素添加反応(以下、「ニトリル水添反応」ともいう。)させることにより、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類を得る工程(以下、単に「ニトリル水添工程」ともいう。)を有する。
【0037】
本実施形態において、「ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類」とは、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及びその誘導体を包含する概念をいう。ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとしては、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
【0038】
ニトリル水添工程においては、まず、反応器内にジシアノシクロヘキサン類と、溶媒と、触媒とを仕込み、系内の圧力が所定の圧力になるまで水素ガスを導入する。その後、反応器内を所定の温度になるまで加熱して、反応器内の圧力が一定の範囲内を維持するよう、適宜水素ガスを反応器内に導入しつつ、ニトリル水添反応を進行させる。
【0039】
溶媒としては、通常のニトリル水添反応に用いられる溶媒を採用することもでき、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、及びtert-ブタノール等のアルコール、メタキシレン、メシチレン、及びプソイドキュメンのような芳香族炭化水素、液体アンモニア、及びアンモニア水が挙げられる。溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、触媒としては、通常のニトリル水添反応に用いられる触媒を採用することもでき、具体的には、Ni及び/又はCoを含有する触媒を用いることができる。一般には、Ni及び/又はCoを、Al2O3、SiO2、けい藻土、SiO2-Al2O3、及びZrO2に沈殿法で担持した触媒、ラネーニッケル、あるいはラネーコバルトが触媒として好適に用いられる。これらの中では、ニトリル水添反応をより有効かつ確実に進行させる観点から、ラネーコバルト触媒及びラネーニッケル触媒が好ましい。触媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。さらに、触媒の使用量は、CHDN100質量%に対して、0.1~150質量%であると好ましく、0.1~20質量%であるとより好ましく、0.5~15質量%であるとさらに好ましい。触媒を上記の範囲内の量となるように用いることで、得られるビス(アミノメチル)シクロヘキサン類の収率及び選択率を高めることができる傾向にある。
【0040】
ニトリル水添工程における、ジシアノシクロヘキサン類の濃度は、反応効率の観点から、反応液の全体量に対して、1~50質量%であると好ましく、2~40質量%であるとより好ましい。また、ニトリル水添工程における反応温度は、40~150℃であると好ましく、反応圧力は、水素分圧で0.5~15MPaであると好ましい。なお、反応時間は、ニトリル水添反応が十分に進行する時間であればよい。反応条件を上述の範囲内に調整することで、得られるビス(アミノメチル)シクロヘキサン類の収率及び選択率を高めることができる傾向にある。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
(核水添工程の第1段階)
17mmの内径を有する管型反応器に、固定床触媒として2%Ru/C触媒(平均粒子径(体積基準):0.84~2.00mm)12.63gを充填した。なお、上記触媒は、所定の還元装置で250℃、2時間還元させた後のものを用いた。充填塔内の圧力が7MPaGとなるように水素ガスを導入し、反応中は水素流量が15NmL/minとなるように導入した。反応温度は90℃とし、8質量%の濃度を有するテレフタル酸の28%アンモニア水溶液を、15.44g/時間の速度で充填塔内に連続的に60時間送液した。なお、テレフタル酸の固定床触媒への供給速度は、1.235g(0.0074mol)/時間であった。60時間後の反応液をHPLC(島津製作所株式会社製品の「Prominence」、カラム:ショウデックス製型式名「VG-50 4E」、条件:溶離液:アンモニア0.25質量%水溶液、流速0.6mL/min、カラム温度50℃、フォトダイオードアレイ検出器)により分析した。その結果、テレフタル酸の転化率は、100%であり、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の選択率は99.9%であり、収率は、99.9%であり、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のトランス体の割合(トランス比)は、24%であった。
【0043】
(核水添工程の第2段階)
続いて、温度を60℃とし、圧力を8MPaGとし、水素流量は15NmL/min、原料供給速度を15.22g/時間とした以外は、上記第1段階から継続して100時間送液した。なお、送液中のPTAの割合は、1.345g(0.0081mol)/時間であった。第1段階の流通開始から160時間後の反応液を分析したところ、テレフタル酸の転化率は、100%であり、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の選択率は、99.8%であり、収率は99.9%であり、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のトランス体の割合(トランス比)は、20%であった。
【0044】
(核水添工程の第3段階)
続いて、温度を70℃とし、圧力を3MPaGとし、水素流量は15NmL/min、原料供給速度を15.30g/時間とした以外は、上記第2段階から継続して76時間送液した。なお、送液中のPTAの割合は、1.510g(0.0091mol)/時間であった。第1段階の流通開始から236時間後の反応液を分析したところ、テレフタル酸の転化率は、100%であり、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の選択率は、99.9%であり、収率は97.3%であり、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のトランス体の割合(トランス比)は、22%であった。
【0045】
(核水添工程の第4段階)
続いて、温度を75℃とし、圧力を5MPaGとし、水素流量は18NmL/min、原料供給速度を26.60g/時間とした以外は、上記第3段階から継続して1115時間送液した。なお、送液中のPTAの割合は、1.609g(0.0097mol)/時間であった。第1段階の流通開始から1351時間後の反応液を分析したところ、テレフタル酸の転化率は、100%であり、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の選択率は、99.9%であり、収率は99.9%であり、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のトランス体の割合(トランス比)は、22%であった。
【0046】
(加熱濃縮工程)
攪拌羽、熱電対、圧力計、冷却器、及び受器を有する300mlのSUS316製の耐圧容器内に実施例1で製造した反応液155.58gを仕込んだ。600rpmで攪拌しながら、内温が180℃に到達するまで昇温した。180℃到達後、パージバルブを微開とし、ガス成分を冷却器で凝縮させ留分を取得した。180℃到達後の内圧は0.91MPaGであり、留出中の内圧は0.71MPaGであった。留出量が105.23gになった段階で加熱を停止し、反応液を45℃まで冷却した。内温が45℃到達した後、反応液を濾過し、結晶と母液を回収した。得られた結晶の真空乾燥後の重量は3.04g、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩中のアンモニアの含有量は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩中の1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の含有量に対して、モル比で0.06であった。1,4-シクロヘキサンジカルボン酸誘導体中のtrans体の含有量は96%となった。得られた母液の重量は40.92gであった。
【0047】
(シアノ化工程)
[実施例2]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を有する500mLの5口フラスコ内に、実施例1記載の方法で製造した1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のアンモニウム塩103.2g(1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩中のアンモニアの含有量が、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩中の1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の含有量に対して、モル比で0.34)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.40g及びバーレルプロセス油B-28AN(松村石油製)200gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:34NmL/min)と、アンモニアガス(流量:174NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら8時間、シアノ化反応を行った。反応終了後、反応生成物をテトラヒドロフランに溶解させ、さらに液中の触媒を濾過にて除去した後、ガスクロマトグラフィー(以下、GCとも記載する。)(島津製作所社製型式名「GC2010 PLUS」、カラム:製品名「HP-5ms」、アジレント・テクノロジー株式会社製、長さ30m×内径0.25mm、膜厚0.25μm)により分析した。その結果、1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は92.1%であった。
【0048】
[実施例3]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を有する300mLの5口フラスコ内に、実施例1記載の方法で製造した1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のアンモニウム塩51.6g(1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩中のアンモニアの含有量が、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩中の1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の含有量に対して、モル比で0.34)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.20g及び1,4-ジシアノシクロヘキサン50gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:34NmL/min)と、アンモニアガス(流量:174NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら7時間、シアノ化反応を行った。反応終了後、実施例2と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は90.8%であった。
【0049】
[実施例4]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を有する100mLの5口フラスコ内に、実施例1記載の方法で製造した1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のアンモニウム塩51.6g(1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩中のアンモニアの含有量が、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩中の1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の含有量に対して、モル比で0.34)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.20gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:34NmL/min)と、アンモニアガス(流量:174NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら7時間、シアノ化反応を行った。反応終了後、実施例2と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は92.8%であった。
【0050】
[実施例5]
実施例1と同様にして核水添反応を進行させ、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を30.11g(0.174mol;8質量%)含むアンモニア水溶液を得た。次いで、撹拌羽、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を有する100mLの4口フラスコ内に、上記アンモニア水溶液を適宜添加し、300rpmで撹拌しながらフラスコ内を常圧にて加熱し、110℃にて3.5時間かけて、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の濃度が50質量%になるまで濃縮した。その後、その4口フラスコ内に、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.24gを仕込み、110℃から170℃まで49分かけて昇温しながら濃縮し、加熱濃縮物を得た。得られた加熱濃縮物をフラスコ内に残したまま、そのフラスコ内に窒素ガスを20mL/min、アンモニアガスを52mL/minで導入し、撹拌を続けながら、フラスコ内を常圧にて引き続き加熱し、280℃まで15分かけて昇温し、更にその温度で6.4時間保持して、シアノ化反応を進行させた。反応終了後、合成例2と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は89.1%であった。
【0051】
なお、GCの分析条件は以下のとおりであった。
キャリアーガス:He(constant pressure:73.9kPa)
注入口温度:300℃
検出器:FID
検出器温度:300℃
カラムオーブン温度:100℃で開始し、10℃/minで300℃まで昇温し300℃で30分間保持)
【0052】
(ニトリル水添工程)
(実施例6)
300mLのSUS316製耐圧容器内に、実施例2と同様にしてシアノ化反応を進行させて得た1,4-ジシアノシクロヘキサン24.4g、溶媒としてのメタノール37.3gと28%アンモニア水(和光純薬工業株式会社製)28.4g、及び、触媒としてラネーコバルト触媒(和光純薬工業株式会社製)0.56gを仕込み、水素ガスを4.5MPaの反応圧力になるまで導入した。次いで、容器内を80℃の反応温度まで加熱し、温度を一定に保持し、容器内を電磁式攪拌羽根にて750rpmで撹拌しながら、水素添加によるアミノ化反応(ニトリル水添反応)を240分間、進行させた。その結果、1,4-ジシアノシクロヘキサンの転化率は100%、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの選択率は97.0%、収率は97.0%であった。
【0053】
(実施例7)
300mLのSUS316製耐圧容器内に、実施例2と同様にしてシアノ化反応を進行させて得た1,4-ジシアノシクロヘキサン38.2g、溶媒としての液体アンモニア111.6g、及び、触媒としてラネーコバルト触媒(和光純薬工業株式会社製)3.31gを仕込み、水素ガスを8.0MPaの反応圧力になるまで導入した。次いで、容器内を90℃の反応温度まで加熱し、温度を一定に保持し、容器内を電磁式攪拌羽根にて750rpmで撹拌しながら、水素添加によるアミノ化反応(ニトリル水添反応)を60分間、進行させた。その結果、1,4-ジシアノシクロヘキサンの転化率は100%、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの選択率は99.4%、収率は99.4%であった。
【0054】
反応終了後、反応液をMeOHで希釈し、GC(島津サイエンス社製型式名「GC-2010」、カラム:製品名「HP-5MS」、アジレント・テクノロジー株式会社製、長さ30m×内径0.25mm、膜厚0.25μm、条件…キャリアーガス:He(constant pressure:73.9kPa)、注入口温度:300℃、検出器:FID、検出器温度:330℃、カラムオーブン温度:120℃で開始し10分間保持し、10℃/minで300℃まで昇温し300℃で30分間保持)により分析した。
【0055】
本出願は、2018年4月11日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2018-076283号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のシクロヘキサンジカルボン酸類は、ポリアミド、ポリウレタン等に用いるプラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基板、フィルター等の光学材料として有効なビス(アミノメチル)シクロヘキサンの原料となるため、そのような分野において、産業上の利用可能性がある。