(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】電子写真現像剤用キャリア芯材とその製造方法、並びに該キャリア芯材を備えた電子写真現像剤用キャリアと現像剤
(51)【国際特許分類】
G03G 9/107 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
G03G9/107 321
(21)【出願番号】P 2019011440
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2022-01-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】澤本 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】新居 篤
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄二
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 大
(72)【発明者】
【氏名】羽生 真也
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-256855(JP,A)
【文献】特開2013-137455(JP,A)
【文献】特開2012-215858(JP,A)
【文献】特開平02-064559(JP,A)
【文献】特開2012-159642(JP,A)
【文献】特開2016-090644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト組成を有し、上澄み透過率が85.0%以上である、電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、以下の工程;
前記キャリア芯材の原料を混合及び粉砕して原料混合物とする工程、
前記原料混合物を仮焼成して仮焼成物とする工程、
前記仮焼成物を粉砕及び造粒して造粒物とする工程、
前記造粒物を本焼成して焼成物とする工程、
前記焼成物を解砕し、その後、分級して粗粒子や微粒子を取り除く工程、及び
前記解砕及び分級した焼成物から超微粉を除去する工程、を含み、
前記超微粉を除去する工程で、前記焼成物とグリコール類からなる溶媒とを、高速ミキサーを用いて10~100m/秒の速度で0.1~10分の条件で混合及び分散してスラリーとし、前記スラリーを10秒~60分静置して沈殿物と上澄み液に分け、前記上澄み液を除去した後に、前記沈殿物を回収して乾燥する、あるいは精密空気分級機を用いて回転速度2000rpm以上の条件で前記焼成物に分級操作を行う、方法。
【請求項2】
前記キャリア心材の上澄み透過率が90.0%以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キャリア芯材の見掛け密度が1.5~2.5g/cm3である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記キャリア芯材の体積平均粒子径D50が20~50μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記キャリア芯材の形状係数SF-1が105~150である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記キャリア芯材のBET比表面積が0.05~0.55m2/gである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記キャリ芯材の平均円相当径が20~50μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記キャリア芯材は、一般式(1):(MO)x(Fe2O3)y(ただし、x+y=100mol%、y=30~95mol%、MはFe、Mn、Mg、Sr、Ca、Ti、Li、Al、Si、Zr及びBiからなる群から選択される1種又は2種以上)で表されるフェライト組成を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真現像剤用キャリア芯材とその製造方法、並びに該キャリア芯材を備えた電子写真現像剤用キャリアと現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真現像方法は、現像剤中のトナー粒子を感光体上に形成された静電潜像に付着させて現像する方法であり、この方法で使用される現像剤は、トナー粒子とキャリア粒子からなる二成分系現像剤と、トナー粒子のみを用いる一成分系現像剤とに分けられる。このうち、二成分系現像剤は、一成分系現像剤に比べて、現像剤を設計する際の制御性がよい。したがって、二成分系現像剤は、高画質が要求されるフルカラー現像装置や、画像維持の信頼性及び耐久性が要求される高速印刷現像装置での使用に適している。
【0003】
二成分系現像剤を用いた現像方法として、古くはカスケード法等の手法が採用されていたが、現在では、マグネットロールを用いる磁気ブラシ法が主流である。磁気ブラシ法において、キャリア粒子は、現像剤が充填されている現像ボックス内で、トナー粒子と共に撹拌されることによって、トナー粒子に所望の電荷を付与するとともに、現像ロール(マグネットロール)により電荷を帯びたトナー粒子を感光体の表面に搬送して感光体上にトナー像を形成するための担体物質として働く。マグネットを保持する現像ロール上に残ったキャリア粒子は、現像ロールから再び現像ボックス内に戻り、新たなトナー粒子と混合及び撹拌され、一定期間繰り返して使用される。
【0004】
二成分系現像剤を構成するキャリア粒子として、従来は、磁性を有する鉄粉キャリアが用いられてきた。しかしながら、高画質化、高耐久化、高信頼性といった市場の要求に応えるため、現在は、より軽量で高抵抗なフェライトキャリアが主流となっている。フェライトキャリアには、フェライト粒子からなるフェライトキャリアの他に、フェライト粒子をキャリア芯材とし、その表面に樹脂被覆層を設けた樹脂被覆フェライトキャリア、多孔質フェライト粒子をキャリア芯材とし、その細孔に樹脂を充填させた樹脂充填フェライトキャリア、あるいはフェライト粉(磁性粉)を樹脂に分散させた磁性粉分散型キャリアなどの各種キャリアが知られている。
【0005】
ところで、二成分現像剤において、キャリア成分がトナーに混入する現象、すなわちトナー色汚れが問題となっている。特にカラートナーに対して、トナー色汚れが発生すると、トナーの色味が濁り、画質が低下する。この点、従来は、キャリアに含まれる導電剤が、トナー色汚れの原因と考えられてきた。すなわち、多くの場合、キャリアに含まれる被覆樹脂等の樹脂成分には、電気抵抗調整の目的で導電剤が含まれており、導電剤としてカーボンブラック等の黒色成分が使われる。キャリアとトナーの混合及び撹拌時に、キャリアから脱離したカーボンブラック等の黒色成分がトナーに移行して、トナー色汚れを引き起こすと考えられていた。したがって、このような観点に基づき、キャリアに含まれる樹脂成分や導電剤を改良して、導電剤に起因するトナー色汚れ防止を図ることが、従来から提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、フェライト粒子からなるキャリア芯材表面が、4フッ化エチレン・フッ化プロピレン共重合体又は4フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体とポリアミドイミド樹脂とを分散媒としての水で分散した混合樹脂によって被覆されており、かつ上記混合樹脂によって形成された被覆樹脂中にカーボンブラックが含有されており、上澄み透過率が90%以上であることを特徴とする電子写真現像剤用フェライトキャリアが開示され、該キャリアによれば、樹脂被覆層中に導電剤として加えたカーボンブラックの脱離が防止され、トナー、特にイエロートナーとの混色を防止できる旨が記載されている(特許文献1の請求項1及び[0094])。
【0007】
また、特許文献2には、静電潜像用透明トナーを含む静電潜像現像剤について、酸化亜鉛等の白色導電剤を含有するキャリアをさらに含む旨が開示されており、白色導電剤を用いることで、キャリア片が被転写体に転写された際に、トナー像中でキャリア片が目につきにくくなるとされている(特許文献2の[0092]~[0095])。これらの文献は、キャリアに含まれる樹脂成分中の導電剤に着目し、それによる色汚れ解消を目的としており、キャリア芯材を構成するフェライト成分に着目したものではない。
【0008】
一方で、トナー色汚れ防止を目的とするものではないが、キャリアやキャリア芯材に含まれるフェライト成分に着目し、フェライト小径粒子の割合を制御することが提案されている。例えば、特許文献3には、電子写真現像剤用キャリアについて、20μmより小さい粒径を有する粒子を0~7重量%とする旨、7重量%より多くなるとキャリア付着が急激に悪くなる旨が記載されている(特許文献3の請求項1及び[0022])。特許文献4には、電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材について、目開き16μmのメッシュを通過可能な微細粒子を3重量%以下とする旨、キャリア飛散を助長するレベルの微細粒子の含有量を少なくする旨が記載されている(特許文献4の[0026])。
【0009】
さらに、特許文献5には、電子写真現像剤用樹脂コートフェライトキャリアについて、フェライトキャリア芯材の粒径19.3μm以下の粒子を15個数%以下とする旨、15個数%を超えるとキャリア引きが発生しやすくなる旨が記載されている(特許文献5の[0035])。特許文献6には、静電潜像現像用フェライトキャリア芯材について、円相当径15μm以下でアスペクト比1.5以上の粒子の含有率を1.0個数%以下とする旨、現像中のキャリア飛散が抑制され、キャリアに起因する感光体等への傷の発生が低減される旨が記載されている(特許文献6の[0034]及び[0035])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-224054号公報
【文献】特開2010-164909号公報
【文献】特開2005-250424号公報
【文献】国際公開第2018/181845号
【文献】特開2008-249855号公報
【文献】特開2010-210951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
カラートナーに対して、トナー色汚れの発生が問題とされ、特許文献1及び2に開示されるように、キャリアに含まれる樹脂成分や導電剤に着目し、導電剤由来のトナー色汚れ防止を図ることが提案されている。一方で、近年は、従来の4原色(ブラック、シアン、イエロー及びマゼンタ)を用いたカラートナーの他に、ホワイト、クリア、ゴールド及びシルバー等の特色を使用する現像装置が普及しており、色汚れに対する要求が厳しくなっている。中でも、ホワイトトナー(白色トナー)やクリアトナー(透明トナー)は、僅かな色汚れでも目立つため、色汚れのより一層の防止が求められている。
【0012】
これに対して、従来の手法は、イエロートナー等のカラートナーに対して一定の効果があるものの、特色トナー、特にホワイトトナーやクリアトナーに対して、改良の余地がある。例えば、特許文献2では、白色導電剤を用いることで、これがトナーに移行したとしても目立たなくなるとされているが、このように白色導電剤を用いても、ホワイトトナーやクリアトナーに対する色汚れを完全に防ぐことはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、キャリアによるトナー色汚れ発生の原因を突き止めるべく、現像後の色汚れしたトナーを詳細に調べた。その結果、トナー上には、導電剤とは別に、サブミクロン~数μmレベルのフェライト超微粉(超微粉と称する場合がある)が存在することを突き止めた。キャリアは、樹脂成分以外に、フェライト粒子からなるキャリア芯材を含んでおり、このキャリア芯材をコアにしている。そのため、トナー上のフェライト超微粉は、キャリア芯材(フェライト粒子)に由来すると考えた。そして、さらに検討を進めた結果、キャリア芯材(フェライト粒子)は、その表面に少量のフェライト超微粉が付着しており、このフェライト超微粉が、キャリアとトナーを混合及び撹拌する際に、トナーへ移行すると考えた。
【0014】
その上で、本発明者は、キャリア芯材表面に付着するフェライト超微粉を定量化する手法を検討した。その結果、キャリア芯材の上澄み透過率を指標とすることで、その表面に付着するフェライト超微粉の量を正確に評価できることが分かった。そして、キャリア芯材の上澄み透過率を所定範囲内に限定することで、フェライト超微粉のトナーへの移行を抑えることができ、その結果、フェライト超微粉に起因するトナー色汚れを顕著に防止できることを突き止めた。
【0015】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、フェライト超微粉に起因するトナー色汚れを防止することができる電子写真現像剤用キャリア芯材とその製造方法、並びに該キャリア芯材を備えた電子写真現像剤用キャリアと現像剤の提供を課題とする。
【0016】
本発明は、下記(1)~(15)の態様を包含する。なお、本明細書において、「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち、「X~Y」は、「X以上Y以下」と同義である。
【0017】
(1)フェライト組成を有し、上澄み透過率が85.0%以上である、電子写真現像剤用キャリア芯材。
【0018】
(2)上澄み透過率が90.0%以上である、上記(1)のキャリア芯材。
【0019】
(3)見掛け密度が1.5~2.5g/cm3である、上記(1)又は(2)のキャリア芯材。
【0020】
(4)体積平均粒子径D50が20~50μmである、上記(1)~(3)のいずれかのキャリア芯材。
【0021】
(5)形状係数SF-1が105~150である、上記(1)~(4)のいずれかのキャリア芯材。
【0022】
(6)BET比表面積が0.05~0.55m2/gである、上記(1)~(5)のいずれかのキャリア芯材。
【0023】
(7)平均円相当径が20~50μmである、上記(1)~(6)のいずれかのキャリア芯材。
【0024】
(8)一般式(1):(MO)x(Fe2O3)y(ただし、x+y=100mol%、y=30~95mol%、MはFe、Mn、Mg、Sr、Ca、Ti、Li、Al、Si、Zr及びBiからなる群から選択される1種又は2種以上)で表されるフェライト組成を有する、上記(1)~(7)のいずれかのキャリア芯材。
【0025】
(9)上記(1)~(8)のいずれかのキャリア芯材の製造方法であって、以下の工程;
前記キャリア芯材の原料を混合及び粉砕して原料混合物とする工程、
前記原料混合物を仮焼成して仮焼成物とする工程、
前記仮焼成物を粉砕及び造粒して造粒物とする工程、
前記造粒物を本焼成して焼成物とする工程、及び
前記焼成物から超微粉を除去する工程、を含む、方法。
【0026】
(10)前記超微粉を除去する工程で、前記焼成物と溶媒を混合及び分散してスラリーとし、前記スラリーを静置して沈殿物と上澄み液に分け、前記上澄み液を除去した後に、前記沈殿物を回収して乾燥する、上記(9)の方法。
【0027】
(11)上記(1)~(8)のいずれかのキャリア芯材を備えた、電子写真現像剤用キャリア。
【0028】
(12)前記キャリア芯材の表面に設けられた樹脂被覆層をさらに備えた、上記(11)のキャリア。
【0029】
(13)前記キャリア芯材が細孔を有する多孔質フェライト粒子からなり、前記細孔に充填してなる樹脂をさらに備えた、上記(11)又は(12)のキャリア。
【0030】
(14)上記(11)~(13)のいずれかのキャリアと、トナーとを含む、現像剤。
【0031】
(15)前記トナーがホワイトトナー又はクリアトナーである、上記(14)の現像剤。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、フェライト超微粉に起因するトナー色汚れを防止できる。特にホワイトトナーやクリアトナーなどの特色トナーに対する色汚れ防止に優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】キャリア芯材の上澄み透過率とキャリアの超微粉移行量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
電子写真現像剤用キャリア芯材
本発明の電子写真現像剤用キャリア芯材(キャリア芯材と称する場合がある)は、フェライト組成を有し、上澄み透過率が85.0%以上である。ここで、キャリア芯材は、キャリアのコアとなる材料であり、この芯材に樹脂を被覆又は充填することで、樹脂被覆キャリアや樹脂充填キャリアとすることができる。あるいは、樹脂の被覆及び充填を行わず、キャリア芯材自体をキャリアとすることも可能である。
【0035】
本発明のキャリア芯材は、上澄み透過率が85.0%以上である。上澄み透過率を85.0%以上に限定することで、フェライト超微粉のトナーへの移行が顕著に抑制され、その結果、フェライト超微粉に起因するトナー色汚れが防止される。上澄み透過率は、90.0%以上が好ましく、95.0%以上がより好ましい。上澄み透過率は高い方が好ましく、その上限は限定されるものではないが、典型的には、100%以下、より典型的には99.0%以下である。
【0036】
上澄み透過率は、キャリア芯材と溶媒の懸濁液から得た上澄み液の波長400nmにおける光学透過率であり、例えば、次のようにして測定される。まず、キャリア芯材15gとメタノール25gをガラス瓶に入れ、振とう機を用いて200回/分の振とう強度で20分間撹拌した後、1分間静置してから上澄み液を回収する。次に、回収した上澄み液の吸収スペクトルを分光光度計を用いて求め、波長400nmにおける透過率を測定して上澄み透過率とする。ここで、上澄み液を得る際に、磁石等の強制的な沈降手段は用いられていない。そのため、サブミクロン~数μmレベルのフェライト超微粉が存在すれば、このフェライト超微粉は上澄み液中に分散浮遊して光学透過率を低下させる。
【0037】
上澄み透過率を指標とすることで、フェライト超微粉の量を、たとえそれが少量であっても、正確に評価できる。これは、上澄み液中の超微粉が少量であっても、その影響は光学透過率に顕著に現われるからである。実際、上澄み透過率を用いることで、フェライト超微粉のトナーへの移行量を数10~数1000ppmレベルで制御できる。これに対して、特許文献3~6に開示されるレーザー回析・散乱法や篩などを利用した粒度分布測定法では、測定原理上、フェライト超微粉量を正確に評価することは困難である。
【0038】
本発明のキャリア芯材は、フェライト組成を有する。すなわち、キャリア芯材はフェライト粒子からなる。ここで、フェライト組成を有するとは、キャリア芯材中のフェライト成分の含有量が50重量%以上であることを意味する。フェライト成分の含有量は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましい。フェライト成分の含有量を50重量%以上とすることで、高磁化、高抵抗及び軽量といったフェライトに基づく優れたキャリア芯材特性を十分に発揮させることができる。含有量の上限は、特に限定されるものではないが、典型的には100重量%以下である。
【0039】
フェライト組成は、キャリア芯材として機能するものであれば特に限定されず、従来公知の組成とすることができる。しかしながら、フェライトは、一般式(1):(MO)x(Fe2O3)yで表される組成を有することが好ましい。ここで、x+y=100mol%、y=30~95mol%である。また、MはFe、Mn、Mg、Sr、Ca、Ti、Li、Al、Si、Zr及びBiからなる群から選択される1種又は2種以上である。このような組成とすることで、フェライトに基づくキャリア芯材の特性を十分に発揮させることが可能となる。一方で、近年の廃棄物規制を始めとする環境負荷低減の流れを考慮すると、Cu、Zn、Ni等の重金属を、不可避不純物(随伴不純物)の範囲を超えて含まないことが望ましい。
【0040】
キャリア芯材の見掛け密度(AD)は、1.5~2.5g/cm3が好ましい。見掛け密度1.5g/cm3以上とすることで、キャリアの流動性が向上する。また、2.5g/cm3以下とすることで、現像機内での撹拌ストレスによる帯電特性劣化抑制の効果が十分に発揮される。見掛け密度は、1.6~2.45g/cm3がより好ましく、1.7~2.4g/cm3がさらに好ましい。なお、キャリア芯材を構成するフェライト粒子は、表面に開気孔(細孔)を有さない粒子であってもよく、あるいは、開気孔(細孔)を有する多孔質粒子であってもよい。
【0041】
キャリア芯材の体積平均粒子径(D50)は、20~50μmが好ましい。体積平均粒子径を20μm以上とすることで、キャリア飛散が抑制される。また、50μm以下とすることで、画質が向上する。体積平均粒子径は、25~45μmがより好ましく、30~40μmがさらに好ましい。
【0042】
キャリア芯材の形状係数SF-1は、105~150が好ましい。形状係数SF-1は球形度の指標となるものであり、完全な球形では100となり、球形から離れるほど大きくなる。SF-1を105以上とすることで、キャリア芯材表面に適度な凹凸を付与することができ、その結果、キャリアとしたときに、被覆樹脂との密着性が良好になる。また、150以下とすることで、形状が過度に悪くなることが抑制され、感光体を傷つけて白斑等の画像欠陥が発生することが防止される。SF-1は、110~140がより好ましく、115~130がさらに好ましい。
【0043】
キャリア芯材のBET比表面積は、0.05~0.55m2/gが好ましい。BET比表面積を0.05m2/g以上とすることで、有効な帯電面積が大きくなり、帯電付与能力が十分となる。また、0.55m2/g以下とすることで、圧縮破壊強度が高くなる。BET比表面積は、0.05~0.45m2/gがより好ましく、0.06~0.35m2/gがさらに好ましい。
【0044】
キャリア芯材の平均円相当径は、20~50μmが好ましい。キャリア粒子の感光体への移行を抑制する手段として、キャリア粒子径を制御することが有効である。キャリア粒子径は、キャリア芯材粒子径の影響を大きく受ける。平均円相当径を20μm以上とすることで、キャリアの感光体への移行が抑制される。また、50μm以下とすることで、画質向上の効果が顕著となる。平均円相当径は、25~45μmがより好ましく、30~40μmがさらに好ましい。
【0045】
キャリア芯材は、フェライト粒子表面を被覆する酸化被膜を備えてもよい。表面酸化被膜はフェライト粒子表面に均一に形成されていてもよいし、部分的に表面酸化被膜が形成されていてもよい。このような表面酸化被膜は、フェライト粒子を表面酸化処理することにより形成される。表面酸化被膜を備えるキャリア芯材は、電気抵抗が向上するだけでなく、電気抵抗の分布が均一となる。そのため、キャリア飛散発生が抑制される。酸化被膜の厚さは、0.1nm~5μmが好ましい。厚さ0.1nm以上とすることで、酸化被膜の効果を十分に発揮させることができる。また、5μm以下とすることで、磁化低下や過度な高抵抗化が抑制される。
【0046】
本発明のキャリア芯材は、上澄み透過率を85.0%以上に限定することを特徴としており、これにより、フェライト超微粉のトナーへの移行が顕著に抑制され、その結果、トナー色汚れが防止される。この効果は、特色トナー、特にホワイトトナーやクリアトナーに対して有効である。フェライトは、酸化鉄(Fe2O3)や酸化マンガン(MnO)といった遷移金属酸化物を主成分としており、その色調は茶褐色~黒色といった濃色である。そのため、濃色であるフェライト超微粉がホワイトトナーやクリアトナーに移行すると、それが少量であっても色汚れにつながる。この点、本発明のキャリア芯材は、フェライト超微粉の移行量を抑制できるので、ホワイトトナーやクリアトナーの色汚れ防止を図ることができる。
【0047】
これに対して、従来は、キャリア芯材がトナー色汚れの原因とはみなされていなかった。そのため、トナー色汚れ防止の観点から、キャリア芯材はおろか、その表面に付着したフェライト超微粉に着目した技術は知られていない。その上、フェライト超微粉量を正確に評価し、それを制御する手段も知られていない。キャリア芯材表面のフェライト超微粉は、その粒径がサブミクロン~数μmレベルと小さく、その量も少ないからである。
【0048】
ところで、特許文献1では、フェライトキャリアの上澄み透過率を90%以上に限定している(特許文献1の請求項1)。しかしながら、特許文献1に開示される上澄み透過率は、樹脂被覆キャリアの上澄み透過率であり、キャリア芯材の上澄み透過率ではない。したがって、この上澄み透過率では、キャリア芯材のフェライト超微粉量を評価することはできない。実際、特許文献1では、上澄み透過率測定の際に、サンプル瓶の底に磁石をつけてキャリアを強制的に沈めている(特許文献1の[0046])。この手法では、たとえフェライト超微粉が存在したとしても、磁石に引き寄せられて沈降してしまう。そのため、正確なフェライト超微粉量が上澄み透過率には反映されない。
【0049】
また、特許文献3~6では、キャリア飛散防止の観点から、キャリアやキャリア芯材の小径粒子の割合を制御している。しかしながら、これらの文献はトナー色汚れの防止に着目したものでない。その上、これらの文献に開示される手法では、フェライト超微粉によるトナー色汚れの防止を十分に図ることはできない。
【0050】
例えば、特許文献3では、20μmより小さい粒子が7重量%より多くなるとキャリア付着が急激に悪くなるとされる一方、20μmより小さい粒子の含有割合は0.5重量%以上が好ましい旨、0.5重量%以上だと、コストをかけずに所望の値を得ることが可能となる旨が記載されている(特許文献3の[0022]及び[0023])。このように、特許文献3は、必ずしも小径粒子を少なくすることのみを意図したものでなく、ましてやトナー色汚れ防止の観点からフェライト超微粉量に着目したものではない。
【0051】
また、特許文献3では、キャリア芯材を超音波発振器付きの振動ふるい機を用いて分級し、その粒度分布をマイクロトラック粒度分析計を用いて測定している(特許文献3の[0027]及び[0029])。しかしながら、振動ふるい機では、フェライト超微粉を効果的に除去することは困難である。また、マイクロトラック粒度分析計では、測定原理上、トナー色汚れにつながるサブミクロン~数μmレベルのフェライト超微粉の量を正確に評価することはできない。すなわち、マイクロトラック粒度分析計は、レーザー回折・散乱法を利用して粒子の粒径を測定している。そのため、超微粉が、大径粒子の陰に隠れていると、これを認識できない。また、超微粉がキャリア芯材表面に付着していると、これを検知できない。したがって、特許文献3に開示され手法は、キャリア飛散防止の観点で一定の効果はあるものの、色汚れ防止には不十分である。
【0052】
電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法
本発明の上記キャリア芯材の製造方法は、少なくとも、以下の工程;キャリア芯材の原料を混合及び粉砕して原料混合物とする工程、原料混合物を仮焼成して仮焼成物とする工程、仮焼成物を粉砕及び造粒して造粒物とする工程、造粒物を本焼成して焼成物とする工程、及び焼成物から超微粉を除去する工程を含む。この製造方法は、特に焼成物から超微粉を除去する工程(超微粉除去工程)を特徴としており、この工程により、トナー色汚れにつながるフェライト超微粉が効果的に除去される。以下において、各工程の詳細について説明する。
【0053】
<原料の混合粉砕>
原料の混合粉砕工程では、キャリア芯材の原料を混合及び粉砕して、原料混合物とする。原料は、所望のフェライト組成が得られる限り限定されず、酸化物、炭酸塩、水酸化物及び/又は塩化物などを用いることができる。このような原料として、例えば、Fe2O3、Fe3O4、MnO2、Mn2O3、Mn3O4、MnCO3、MgO、Mg(OH)2、MgCO3、SrCO3、CaCO3、TiO2、Li2CO3、Al2O3、SiO2、ZrO2、Bi2O3などが挙げられる。
【0054】
次に、原料を秤量し、混合及び粉砕する。混合及び粉砕方法は、特に限定されず、公知の手法でよい。例えば、振動ミル、ボールミル又はビーズミルなどの粉砕機を用い、乾式及び湿式のいずれか一方又は両方で行う。混合及び粉砕時間は0.5時間以上が好ましく、1~20時間がより好ましい。
【0055】
<仮焼成>
仮焼成工程では、得られた原料混合物を仮焼成して、仮焼成物とする。仮焼成の条件は、特に限定されず、公知の条件とすればよい。例えば、大気雰囲気下、700~1300℃の温度で0.5~10時間行う。また、必要に応じて、仮焼成前に原料混合物を造粒してもよい。造粒方法は、例えば、ローラーコンパクター等の加圧成型機を用いてペレット化する手法、あるいは原料混合物に水を加えてスラリー化し、スプレードライヤーを用いて粒状化する手法が挙げられる。
【0056】
<粉砕及び造粒>
粉砕及び造粒工程では、仮焼成物を粉砕及び造粒して造粒物とする。粉砕方法は、特に限定されず、公知の手法でよい。例えば、振動ミル、ボールミル又はビーズミルなどの粉砕機を用い、乾式及び湿式のいずれか一方又は両方で行う。造粒方法も、特に限定されず、公知の手法でよい。例えば、粉砕後の仮焼成物に、水及び必要に応じて分散剤やポリビニルアルコール(PVA)等のバインダーを加えて粘度を調整し、その後、スプレードライヤー等の造粒機を用いて行う。また、造粒時にバインダー等の有機物を加えた場合には、造粒後に熱処理して有機物を除去してもよい。熱処理温度は、有機物の種類に応じて決めればよいが、例えば500~900℃である。
【0057】
<本焼成>
本焼成工程では、造粒物を焼成して焼成物とする。焼成の条件は、特に限定されず、公知の条件でよい。例えば、酸素濃度0.1~5.0容量%の雰囲気下で、800~1500℃の温度で1~24時間保持する条件で行う。焼成には、ロータリー式電気炉、バッチ式電気炉及びトンネル式電気炉などの公知の炉を用いる。また、焼成の際に、窒素等の不活性ガスや水素や一酸化炭素などの還元性ガスを導入して、炉中の酸素濃度を制御してもよい。
【0058】
必要に応じて、得られた焼成物を解砕し、その後、分級して粗粒子や微粒子を取り除いてもよい。解砕は、ハンマークラッシャーなどの公知の解砕機を用いればよい。また、分級も公知の手法で行えばよい。例えば、100~500メッシュの篩網を取り付けた振動篩機を用いて粗粒子を除去し、その後、精密空気分級機を用いて低速条件で微粒子を除去する手法が挙げられる。微粒子の分級条件は、分級機の種類や大きさ等の仕様に応じて決定すればよく、一概に限定されるものではない。例えば、精密空気分級機(日清エンジニアリング株式会社、ターボクラシファイアTC-15)を用いた場合には、分級機の回転数を700~2000rpmとすればよい。また、分級後に、さらに、磁力選鉱により低磁力品を分別除去してもよい。
【0059】
<超微粉の除去>
本発明の製造方法は、超微粉の除去工程を有する点を特徴とする。超微粉の除去工程では、得られた焼成物(本焼成後に解砕及び/又は分級した焼成物を含む)からフェライト超微粉を除去して、キャリア芯材とする。超微粉の除去は、得られたキャリア芯材の上澄み透過率が85.0%以上である限り、その手法は限定されない。超微粉の除去は、乾式及び湿式のいずれで行ってもよい。しかしながら、湿式で行うのが好ましい。湿式で行うと、電気二重層の反発力により、キャリア芯材から脱離した超微粉の再付着を効果的に妨ぐことができるからである。なお、超微粉(フェライト超微粉)は、その粒径が、サブミクロン~数μmレベルに分布しており、典型的には10nm~10μmの範囲内に分布している。
【0060】
湿式による超微粉の除去は、次のようにして行うことができる。まず、焼成物と溶媒を、ミキサーを用いて混合及び分散して、スラリーとする。混合及び分散の際に、超微粉は、焼成物(キャリア芯材)から脱離してスラリー中に分散される。溶媒は、特に限定されるものではないが、プロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類を挙げることができる。これは、グリコール類を用いることで、超微粉が十分に分散するとともに、後の沈降分級において高粘度であるために分級効率が高まるからである。また、超微粉の脱離促進の観点から、分散処理には、薄膜旋回型高速ミキサーなどの高速ミキサーを用いるのが好ましい。高速ミキサーを用いる場合には、10~100m/秒の速度で0.1~10分の条件で分散処理するのが好ましい。このような高速条件で分散処理することで、焼成物表面に付着する超微粉の脱離及びスラリー中への分散を、効果的に行うことができる。
【0061】
次に、スラリーを静置して沈殿物と上澄み液に分ける。静置の際に、焼成物(キャリア芯材)は、径が大きいが故に速やかに沈降して沈殿物を形成する。これに対して、焼成物から脱離した超微粉は、小径であるが故に沈降し難く、上澄み液中に分散及び浮遊する。したがって、上澄み液を取り除くことにより、超微粉を効果的に除去することができる。スラリーの静置時間は使用する溶媒に応じて適宜調整されるが、好ましくは10秒~60分である。静置時間を10秒以上とすることで、焼成物を十分に沈殿することができ、また、60分以下とすることで、超微粉が沈殿して焼成物中に再混入するのを防ぐことができる。上澄み液を除去後、沈殿物を回収及び乾燥して、超微粉が除去された焼成物(キャリア芯材)を得る。
【0062】
一方で、乾式による超微粉の除去は、サブミクロン分級を実現可能な精密空気分級機を用いて、高速条件で行うのが好ましい。精密空気分級機において、原料投入口より供給された粉体は、気流に乗った状態で分散羽根と分散円板とで均一に分散され、その後、分級室に送られる。分級室では、粉体には回転流により遠心力が加わり、また対向する気流の抗力を受け、この遠心力と気流抗力とのバランスにより、粉体中の粗粒子と微粒子とが分級される。本発明において、分級機の回転速度が高速であるほど、焼成物の分散が進行する。すなわち、回転速度を高速とすることで、分散時に焼成物により大きな衝撃力が加わり、回転ロータ上で粒子が受けるせん断強度が上がる。そのため、焼成物表面に付着している超微粉の脱離が促進され、超微粉が容易に分級除去される。
【0063】
分級条件は、分級機の種類や大きさ等の仕様に応じて決定すればよく、一概に限定されるものではない。例えば、精密空気分級機(日清エンジニアリング株式会社、ターボクラシファイアTC-15)を用いた場合には、分級機の回転速度は、2000rpm以上が好ましい。この場合、2000rpm未満では、焼成物から超微粉を効果的に分級除去できない。回転速度は、4000rpm以上が好ましく、6000rpm以上がより好ましい。回転速度の上限は、特に限定されるものではないが、典型的には11000rpm以下である。
【0064】
本発明の製造方法によれば、焼成物からフェライト超微粉を除去するという手法、特にスラリーの高分散及び上澄み液の除去、あるいは、精密空気分級機による高速条件での分級操作という手法で、フェライト超微粉量が十分に低いキャリア芯材を得ることができる。
【0065】
<酸化被膜形成>
必要に応じて、超微粉を除去した焼成物(キャリア芯材)を低温加熱して、表面に酸化被膜を形成してもよい。酸化被膜を形成することで、キャリア芯材の電気抵抗を調整することができる。酸化被膜の形成方法は、特に限定されず、公知の手法でよい。例えば、ロータリー式電気炉やバッチ式電気炉などの炉を用い、300~700℃の温度で焼成物を熱処理する。酸化被膜の厚さは、熱処理温度や保持時間を制御することで調整できる。
【0066】
電子写真現像剤用キャリア
本発明の電子写真現像剤用キャリア(キャリアと称する場合がある)は、上記キャリア芯材を備えたものであれば、特に限定されない。例えば、キャリア芯材(フェライト粒子)の表面に樹脂被覆層を備えたキャリア(樹脂被覆キャリア)であってもよく、あるいは、キャリア芯材が細孔(空隙)を有する多孔質フェライト粒子からなり、この細孔に充填してなる樹脂(充填樹脂)を備えたキャリア(樹脂充填キャリア)であってもよい。または、樹脂を用いず、キャリア芯材自体をキャリアとしてもよい。
【0067】
樹脂被覆キャリアは、キャリア特性を精度よく制御できるとともに、トナースペントを防止できる利点がある。キャリア特性はキャリア表面に存在する材料や性状に影響されることがある。したがって、適当な樹脂を表面被覆することによって、所望とするキャリア特性を精度良く付与することができる。また、樹脂被覆層により、キャリア芯材を構成するフェライト粒子が直接トナーと接触する機会が減る。そのため、キャリアにトナーが癒着する現象、所謂トナースペントを防止できる。
【0068】
被覆樹脂の種類は、特に制限されない。例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フッ素アクリル樹脂、アクリル-スチレン樹脂、シリコーン樹脂、あるいはアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の各樹脂で変性したシリコーン樹脂等が挙げられる。使用中の機械的ストレスによる樹脂の脱離を考慮すると、熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。具体的な熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂及びそれらを含有する樹脂等が挙げられる。樹脂の被覆量は、キャリア芯材(樹脂被覆前)100重量部に対して、0.5~10.0重量部が好ましい。
【0069】
被覆樹脂として、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体又は4フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体とポリアミドイミド樹脂とを、水に分散させて形成した混合樹脂が好ましい。この混合樹脂を用いることで、被覆樹脂層に導電剤としてカーボンブラックが含まれていても、その脱離を効果的に防止することができる。
【0070】
また、被覆樹脂中には、帯電制御剤を含有させることができる。帯電制御剤の例として、トナー用に一般的に用いられる各種の帯電制御剤や、各種シランカップリング剤が挙げられる。使用できる帯電制御剤やカップリング剤の種類は特に限定されないが、ニグロシン系染料、4級アンモニウム塩、有機金属錯体、含金属モノアゾ染料等の帯電制御剤、アミノシランカップリング剤やフッ素系シランカップリング剤等が好ましい。
【0071】
さらに、キャリア特性をコントロールすることを目的に、上記の帯電制御剤以外に、被覆樹脂中に導電剤を添加することができる。添加量としては、被覆樹脂の固形分に対し0.25~20.0重量%が好ましく、0.5~15.0重量%がより好ましく、1.0~10.0重量%がさらに好ましい。導電剤としては、カーボンブラック等の導電性カーボン、酸化スズや酸化チタン等の酸化物及び各種有機系導電剤が挙げられる。
【0072】
一方で、樹脂充填キャリアは、低比重かつ高い強度を有するため、耐久性に優れるとの利点がある。すなわち、樹脂充填キャリアは、低比重であるが故に、現像機内での撹拌時に発生するストレスが少なく、そのため、長期にわたる使用においても、キャリアの割れ及び欠けが少ないとともに、トナースペントを低減できる。
【0073】
充填樹脂の種類は、特に制限されず、組み合わせるトナー、使用される環境等によって適宜選択すればよい。例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フッ素アクリル樹脂、アクリル-スチレン樹脂、シリコーン樹脂、あるいはアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の各樹脂で変性したシリコーン樹脂等が挙げられる。使用中の機械的ストレスによる樹脂の脱離を考慮すると、熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。具体的な熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂及びそれらを含有する樹脂が挙げられる。
【0074】
樹脂の充填量は、キャリア芯材100重量部に対して、2~20重量部が好ましく、2.5~15重量部がより好ましく、3~10重量部がさらに好ましい。樹脂の充填量を2重量部以上とすることで、充填が十分なものとなり、樹脂被覆による帯電量の制御が容易になる。また、20重量部以下とすることで、帯電変動の原因となる充填時の凝集粒子発生が抑制される。また、キャリア特性のコントロールを目的に、充填樹脂中に導電剤や帯電制御剤を添加することができる。導電剤や帯電制御剤の種類や添加量は被覆樹脂の場合と同様である。樹脂を充填した後、更に樹脂を被覆してもよいし、しなくてもよい。
【0075】
現像剤
本発明の現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーを含む。現像剤を構成するトナーには、粉砕法によって製造される粉砕トナー粒子と、重合法により製造される重合トナー粒子とがある。いずれのトナー粒子を使用してもよい。トナー粒子の平均粒径は、2~15μmが好ましく、3~10μmがより好ましい。平均粒径を2μm以上とすることで、帯電能力が向上しカブリやトナー飛散がより抑制される。また、15μm以下とすることで、画質がさらに向上する。キャリアとトナーの混合比、すなわちトナー濃度は、3~15重量%に設定することが好ましい。トナー濃度を3重量%以上とすることで、所望の画像濃度が得やすくなり、15重量%以下とすることで、トナー飛散やかぶりがより抑制される。一方で、現像剤を補給用現像剤として用いる場合には、キャリアとトナーの混合比を、キャリア1重量部に対してトナー2~50重量部とすることができる。
【0076】
トナーは、いずれの色調のものであってもよく、従来の4原色トナー(ブラックトナー、シアントナー、イエロートナー及び/又はマゼンタトナー)を用いることができる。しかしながら、特色トナー(ホワイトトナー、クリアトナー、ゴールドトナー及び/又はシルバートナー等)が好ましく、その中でも、ホワイトトナーやクリアトナーが特に好ましい。本発明の現像剤は、フェライト超微粉のトナーへの移行が抑制されるため、僅かな色汚れでも目立つホワイトトナーやクリアトナーに対する色汚れ防止に顕著な効果を有する。
【0077】
本発明の現像剤は、有機光導電体層を有する潜像保持体に形成されている静電潜像を、バイアス電界を付与しながら、トナー及びキャリアを有する二成分現像剤の磁気ブラシによって反転現像する現像方式を用いたデジタル方式のコピー機、プリンター、FAX、印刷機等に使用することができる。また、磁気ブラシから静電潜像側に現像バイアスを印加する際に、DCバイアスにACバイアスを重畳する方法である交番電界を用いるフルカラー機等にも適用可能である。
【実施例】
【0078】
本発明を、以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0079】
例1
(1)キャリア芯材の作製
<原料の混合粉砕>
焼成後の組成比が、MnO:38.0mol%、MgO:11.0mol%、Fe2O3:50.3mol%及びSrO:0.7mol%となるように、原料を秤量した。その際、原料として、酸化鉄(Fe2O3):80.5kg、四酸化三マンガン(Mn3O4):29.0kg、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2):6.4kg及び炭酸ストロンチウム(SrCO3):1.0kgを用いた。次に、秤量した原料を、乾式メディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて5時間混合及び粉砕して、原料混合物とした。
【0080】
<仮焼成>
得られた原料混合物を仮焼成した。まず、原料混合物を、ローラーコンパクターを用いて約1mm角のペレットにした。得られたペレットから、目開き3mmの振動篩を用いて粗粒子を除去し、さらに、目開き0.5mmの振動篩を用いて微粒子を除去した。粗粒子及び微粒子を除去したペレットを、ロータリー式電気炉を用いて1100℃で3時間加熱して、仮焼成物とした。
【0081】
<粉砕及び造粒>
得られた仮焼成物を、乾式メディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて粉砕した後、水を加え、さらに湿式メディアミル(縦型ビーズミル、1/16インチ径のステンレスビーズ)を用いて5時間粉砕してスラリーとした。得られたスラリーに、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA、20重量%溶液)を仮焼成物に対して0.2重量%添加し、さらにポリカルボン酸系分散剤を添加して、スラリー粘度を2ポイズに調整した。
【0082】
次に、粘度調整後のスラリーを、スプレードライヤーを用いて造粒及び乾燥した。その際、本焼成後の焼成物の平均粒度が35μmになるように条件を設定した。得られた造粒物を、ロータリー式電気炉を用いて、大気雰囲気下700℃で2時間加熱して、分散剤やバインダー等の有機成分を除去した。
【0083】
<本焼成>
有機成分を除去した造粒物を、トンネル式電気炉を用いて焼成し、焼成物とした。焼成は、造粒物を焼成温度1260℃、酸素濃度2.0容量%の雰囲気下で5時間保持することにより行った。昇温速度は150℃/時、降温速度は110℃/時とした。また、窒素ガスを電気炉の出口側から導入し、電気炉の内部圧力を0~10Pa(正圧)にした。得られた焼成物をハンマークラッシャーを用いて解砕した後、350メッシュの篩網を取り付けたジャイロシフターを用いて粗粒子を除去した。粗粒子を除去した焼成物を、精密空気分級機(日清エンジニアリング株式会社、ターボクラシファイアTC-15)を用いて1200rpmの条件で微粒子を分級する粒度調整を行った。その後、磁力選鉱により、粒度調整後の焼成物から低磁力品を分別して、フェライト粒子を得た。
【0084】
<超微粉の除去>
低磁力品を分別したフェライト粒子(焼成物)から、さらに超微粉を除去した。まず、フェライト粒子とプロピレングリコールを用いて、固形分濃度30重量%のフェライト粒子スラリーを準備した。次に、得られたスラリーに分散処理を施した。分散処理は、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス株式会社、フィルミックス)を用いて、50m/秒の条件で1分間行った。分散処理後のスラリーを1分間静置して、沈殿物と上澄み液に分離させた。上澄み液を除去した後、得られた沈殿物を150℃で乾燥した。これにより、超微粉が除去されたフェライト粒子からなるキャリア芯材を得た。
【0085】
(2)キャリアの作製
<樹脂溶液の準備>
得られたキャリア芯材を用いてキャリアを作製した。まず、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体(FEP)とポリアミドイミド樹脂(PAI)を、混合重量比(FEP/PAI)が8/2となるように、水に分散させて樹脂溶液を得た。固形分換算で100gの原液を、水500mlで希釈し、ポリカルボン酸アンモニウム塩系分散剤を適量添加した。分散剤を添加した希釈原液を、超音波ホモジナイザーを用いて3分間分散し、さらに、ビーズミル(メディア径:2mm)を用いて10分間分散して、樹脂溶液を準備した。
【0086】
<樹脂被覆層の形成>
次に、キャリア芯材と樹脂溶液を用いて、キャリア芯材表面に樹脂被覆層を形成した。キャリア芯材の量は10kgとした。また、樹脂被覆層の形成には、流動床被覆装置を用いた。その後、得られた被覆物を250℃で1時間焼き付けて、キャリア芯材表面に樹脂被覆層を設けたキャリアを得た。樹脂被覆量は、キャリア芯材に対して1重量%であった。
【0087】
(3)評価
得られたキャリア芯材及びキャリアについて、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0088】
<レーザー回折・散乱法による評価>
キャリア芯材の粒度分布をレーザー回折・散乱法により求めた。まず、試料(キャリア芯材)10gを、分散媒たる水80mlとともに、100mlのビーカーに入れ、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを2~3滴添加した。次いで、超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムティー、UH-150型)を用い、出力レベルを4に設定して、20秒間の分散を行った。その後、ビーカー表面にできた泡を取り除き、試料をマイクロトラック粒度分析計(日機装株式会社、Model9320-X100)に投入して分析を行った。得られた分析結果から、体積平均粒子径(D50)、体積分布における20μm未満の粒子割合(Pv(d<20))、体積分布における16μm未満の粒子割合(Pv(d<16))、及び個数分布における16μm未満の粒子割合(Pn(d<16))を、それぞれ求めた。
【0089】
<メッシュ通過量による評価>
キャリア芯材のメッシュ通過量(Pw(d<16))を、メッシュ通過前後の重量から算出した。まず、目開き16μmのステンレスメッシュ(アサダメッシュ株式会社、SV-Sieve SV-16/16tw)を張った専用セルを準備し、試料(キャリア芯材)を2.5000±0.0005g秤量して当該専用セルに投入し(これを投入重量Aとする)、試料の入った専用セルの重量Bを測定した。続いて、試料の入った専用セルを、吸引式帯電量測定装置(Epping社、q/mメーター)にセットし、吸引圧:105±5mbarで90秒間吸引した。その後、当該専用セルを取り外し、吸引後の試料の入った専用セルの重量Cを測定した。そして、メッシュ通過量(Pw(d<16))を、式(2):メッシュ通過量(重量%)=(吸引前重量B-吸引後重量C)/投入重量A×100に基づき求めた。
【0090】
<粒度・形状分布測定器を用いた評価>
キャリア芯材の粒度・形状分布を、画像解析により求めた。まず、分散媒として粘度0.5Pa・秒のキサンタンガム水溶液を調製し、このキサンタンガム水溶液30mlに試料(キャリア芯材)0.1gを分散させたものをサンプル液とした。このように分散媒の粘度を適正に調整することで、試料が分散媒中で分散したままの状態を保つことができ、測定をスムーズに行なうことができる。
【0091】
次に、粒度・形状分布測定器(セイシン企業社、PITA-1)を用いて、サンプル液中の粒子3000個を観察し、装置付属のソフトウエア(ImageAnalysis)を用いて、個数平均粒度(平均円相当径)及び16μm未満の粒子個数頻度(Pm(d<16))を求めた。測定の際、(対物)レンズの倍率を10倍とし、フィルタとしてND4×2を用いた。また、キャリア液1及びキャリア液2として粘度0.5Pa・秒のキサンタンガム水溶液を使用し、その流量はいずれも10μl/秒、サンプル液流量0.08μl/秒とした。また、画像解析の際、取り込む粒子を決定する二値化レベルを80、取り込んだ粒子の輪郭を決定する二値化レベルを200として、二値化処理を行った。
【0092】
<SEM画像による評価>
キャリア芯材の形状係数SF-1を、走査型電子顕微鏡(SEM)画像の解析により求めた。まず、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ、SU8020)を用いて、試料(キャリア芯材)中の粒子を450倍の視野にて撮影した。得られた画像情報を、インターフェースを介して画像解析ソフト(メディアサイバネティクス社、Image-Pro PLUS)に導入して解析を行い、投影面積(S)及びフィレ径(R)を求めた。
【0093】
次に、1粒子毎の形状係数SF-1を、式(3):SF-1=(R2/S)×(π/4)×100により算出した。100粒子について同様の操作を行い、100粒子の平均値をキャリア芯材の形状係数SF-1とした。
【0094】
<見掛け密度>
キャリア芯材の見掛け密度(AD)を、JIS-Z2504(金属粉の見掛け密度試験法)に従って測定した。
【0095】
<BET比表面積>
キャリア芯材のBET比表面積を、次のようにして測定した。まず、試料(キャリア芯材)を真空乾燥機に入れ、200℃で2時間の処理を行い、80℃以下になるまで乾燥機内で保持した。乾燥機から取り出した後、密になるように試料をセルに充填し、BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製Macsorb HM model 1210)にセットした。脱気温度200℃にて60分間の前処理を行った後に、測定を行った。
【0096】
<上澄み透過率>
キャリア芯材の上澄み透過率を、次のようにして測定した。まず、試料(キャリア芯材)15gとメタノール25gを内容量50mlのガラス瓶に入れた。次に、振とう機(株式会社ヤヨイ、Model-YS-LD)を用いて、試料を入れたガラス瓶を200回/分の振とう強度で20分間撹拌した後、1分間静置してから上澄み液を回収した。回収した上澄み液の吸収スペクトルを、分光光度計(島津製作所、UV-1800)を用いて求め、400nmにおける透過率を上澄み透過率とした。
【0097】
<超微粉移行量>
キャリア芯材及びキャリアの超微粉移行量を、次のようにして測定した。まず、試料(キャリア芯材又はキャリア)とフルカラープリンターに使用されている負極性トナーたるシアントナー(富士ゼロックス株式会社、DoCuPrintC3530用)を、トナー濃度1.0重量%、総重量30gとなるように秤量した。秤量した試料とトナーとを50mlのポリ瓶に入れ、撹拌機(ターブラー社、ターブラーミキサーT2C型)を用いて、撹拌速度96rpmで1時間の撹拌を行って現像剤とした。
【0098】
試料とトナーの分離装置として、円筒形のアルミ素管(スリーブ)と、スリーブの内側に配置されたマグネットロールと、スリーブの外側を取り囲むように配置された円筒状の電極とからなる装置を用いた。スリーブは直径31mm、長さ76mmであった。マグネットロールは、合計8極の磁石(磁束密度0.1T)が、そのN極とS極が交互となるように配置した構造を有していた。円筒形のスリーブと円筒状の電極は、その間のギャップが5.0mmであった。
【0099】
上記分離装置のスリーブ上に、現像剤0.5gを均一に付着させた。次に、スリーブを固定したまま、内側のマグネットロールを100rpmの回転数で回転させ、その状態で、外側の電極とスリーブの間に、直流電圧2000Vを60秒間印加した。電圧印加により、現像剤中のトナーは外側の電極に移行した。60秒経過後に印加電圧を切った。マグネットロールの回転を止め、外側の電極を取り外し、電極に移行したトナーを回収した。
【0100】
現像剤とする前のトナー及び回収したトナーのそれぞれについて、蛍光X線元素分析によりトナー表面に存在する元素の量を測定し、試料(キャリア芯材又はキャリア)からトナーへ移行した超微粉量を評価した。まず、ポリエステルフィルム上の粘着剤を塗布したシールにトナーを均一に付着させて測定用試料とし、この測定用試料をサンプル台にセットした。次に、走査型蛍光X線分析装置(株式会社リガク、ZSX PrimusII)を用い、含有元素スキャニング機能であるEZスキャンを用いて元素分析を行った。
【0101】
分析結果から、現像剤とする前のトナーの半定量値のうち鉄(Fe)及びM成分(Mn、Mg、Sr及びZr)の重量百分率の合計値(AM)、現像剤から分離して回収したトナーの半定量値のうち鉄及びM成分の重量百分率の合計値(BM)、及び現像剤から分離して回収したトナーの半定量値のうち炭素(C)の重量百分率の値(BC)を求め、移行量を、式(4):移行量=(BM-AM)/BCにより算出した。
【0102】
例2
(1)キャリア芯材の作製
<原料の混合粉砕>
焼成後の組成比が、MnO:39.6mol%、MgO:9.6mol%、Fe2O3:50.0mol%及びSrO:0.8mol%となるように、原料を秤量した。その際、原料として、酸化鉄(Fe2O3):34.2kg、四酸化三マンガン(Mn3O4):12.9kg、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2):2.4kg及び炭酸ストロンチウム(SrCO3):0.5kgを用いた。秤量した原料を、乾式メディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて5時間混合及び粉砕して、原料混合物とした。
【0103】
<仮焼成>
得られた原料混合物を仮焼成した。まず、原料混合物を、ローラーコンパクターを用いて約1mm角のペレットにした。得られたペレットから、目開き3mmの振動篩を用いて粗粒子を除去し、さらに、目開き0.5mmの振動篩を用いて微粒子を除去した。粗粒子及び微粒子を除去したペレットを、連続式電気炉を用いて1200℃で3時間加熱して、仮焼成物とした。
【0104】
<粉砕及び造粒>
得られた仮焼成物を、乾式メディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて6時間粉砕した後、水を加え、さらに湿式メディアミル(横型ビーズミル、1mm径のジルコニアビーズ)を用いて8時間粉砕してスラリーとした。得られたスラリーに、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA、10重量%溶液)を仮焼成物に対して0.4重量%添加し、さらにポリカルボン酸系分散剤を添加して、スラリー粘度を2ポイズに調整した。
【0105】
次に、粘度調整後のスラリーを、スプレードライヤーを用いて造粒及び乾燥した。その際、本焼成後の焼成物の平均粒度が30μmとなるように条件を設定した。得られた造粒物の粒度をジャイロシフターを用いて調整した後、粒度調整した造粒物を、ロータリー式電気炉を用いて大気雰囲気下750℃で2時間加熱して、分散剤やバインダー等の有機成分を除去した。
【0106】
<本焼成>
有機成分を除去した造粒物を、トンネル式電気炉を用いて焼成し、焼成物とした。焼成は、造粒物を焼成温度1190℃、酸素濃度0.7容量%の雰囲気下で5時間保持することにより行った。昇温速度は150℃/時、降温速度は110℃/時とした。また、窒素ガスを電気炉の出口側から導入し、電気炉の内部圧力を0~10Pa(正圧)にした。得られた焼成物をハンマークラッシャーで解砕した後、400メッシュの篩網を取り付けたジャイロシフターを用いて粗粒子を除去し、さらに、精密空気分級機(日清エンジニアリング株式会社、ターボクラシファイアTC-15)を用いて1500rpmの条件で微粒子を分級する粒度調整を行った。磁力選鉱により、粒度調整後の焼成物から低磁力品を分別して、フェライト粒子を得た。
【0107】
<超微粉の除去>
低磁力品を分別したフェライト粒子から、さらに超微粉を除去した。まず、フェライト粒子とプロピレングリコールから、固形分濃度30重量%のフェライト粒子スラリーを準備した。次に、得られたスラリーに、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス株式会社、フィルミックス)を用いて30m/秒の条件で1分間の分散処理を施した。分散処理後のスラリーを1分間静置して沈殿物と上澄み液に分離させた。上澄み液を除去した後、得られた沈殿物を150℃で乾燥した。これにより、超微粉が除去されたフェライト粒子からなるキャリア芯材を得た。
【0108】
(2)キャリアの作製
<樹脂溶液の準備>
得られたキャリア芯材を用いてキャリアを作製した。まず、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体(FEP)とポリアミドイミド樹脂(PAI)を、混合重量比(FEP/PAI)が8/2となるように、水に分散させて樹脂溶液を作製した。固形分換算で200gの原液を、水500mlで希釈し、カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル株式会社、EC600JD)を20g(樹脂固形分に対して10重量%)と、適量のポリカルボン酸アンモニウム塩系分散剤を添加した。カーボンブラック及び分散剤を添加した希釈原液を、超音波ホモジナイザーを用いて3分間分散し、さらにビーズミル(メディア径:2mm)を用いて10分間分散して、樹脂溶液を準備した。
【0109】
<樹脂被覆層の形成>
次に、キャリア芯材と樹脂溶液を用いて、キャリア芯材表面に樹脂被覆層を形成した。キャリア芯材の量は10kgとした。また、樹脂被覆層の形成には、流動床被覆装置を用いた。その後、得られた被覆物を250℃で1時間焼き付けて、キャリア芯材表面に樹脂被覆層を設けたキャリアを得た。樹脂被覆量は、キャリア芯材に対して2重量%であった。
【0110】
(3)評価
得られたキャリア芯材及びキャリアについて、例1と同様にして評価を行った。
【0111】
例3
(1)キャリア芯材の作製
<原料の混合粉砕>
焼成後の組成比が、MnO:38.0mol%、MgO:11.0mol%、Fe2O3:50.3mol%及びSrO:0.7mol%となるように、原料を秤量した。その際、原料として、酸化鉄(Fe2O3):17.2kg、四酸化三マンガン(Mn3O4):6.2kg、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2):1.4kg及び炭酸ストロンチウム(SrCO3):0.2kgを用いた。次に、秤量した原料を、乾式メディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて4.5時間混合及び粉砕して、原料混合物とした。
【0112】
<仮焼成>
得られた粉砕物を仮焼成した。まず、原料混合物を、ローラーコンパクターを用いて約1mm角のペレットにした。得られたペレットから、目開き3mmの振動篩を用いて粗粒子を除去し、さらに、目開き0.5mmの振動篩を用いて微粒子を除去した。粗粒子及び微粒子を除去したペレットを、ロータリー式電気炉を用いて1080℃で3時間加熱して、仮焼成物とした。
【0113】
<粉砕及び造粒>
得られた仮焼成物を、乾式メディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて粉砕した後、水を加え、さらに湿式メディアミル(横型ビーズミル、1/16インチ径のステンレスビーズ)を用いて10時間粉砕してスラリーとした。得られたスラリーに、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA、20重量%溶液)を仮焼成物に対して0.2重量%添加し、さらにポリカルボン酸系分散剤を添加して、スラリー粘度を2ポイズに調整した。
【0114】
次に、粘度調整後のスラリーを、スプレードライヤーを用いて造粒及び乾燥した。その際、本焼成後の焼成物の平均粒度が40μmになるように条件を設定した。得られた造粒物の粒度をジャイロシフターを用いて調整した後、粒度調整した造粒物を、ロータリー式電気炉を用いて700℃で2時間加熱して、分散剤やバインダー等の有機成分を除去した。
【0115】
<本焼成>
有機成分を除去した造粒物を、トンネル式電気炉を用いて焼成し、焼成物とした。焼成は、造粒物を焼成温度1098℃、酸素濃度0.8容量%の雰囲気下で5時間保持することにより行った。昇温速度は150℃/時、降温速度は110℃/時とした。また、窒素ガスをトンネル式電気炉の出口側から導入し、電気炉の内部圧力を0~10Pa(正圧)にした。得られた焼成物をハンマークラッシャーで解砕した後、300メッシュの篩網を取り付けたジャイロシフターを用いて粗粒子を除去し、さらに、精密空気分級機(日清エンジニアリング株式会社、ターボクラシファイアTC-15)を用いて1400rpmの条件で微粒子を分級する粒度調整を行った。磁力選鉱により、粒度調整後の焼成物から低磁力品を分別して、フェライト粒子を得た。得られたフェライト粒子は多孔質であった。
【0116】
<超微粉の除去>
低磁力品を分別したフェライト粒子から、さらに超微粉を除去した。超微粉の除去は、フェライト粒子に、精密空気分級機(日清エンジニアリング株式会社、ターボクラシファイアTC-15)を用いた分級処理を施すことにより行った。分級機の回転速度は4000rpmとした。これにより、超微粉が除去された多孔質フェライト粒子からなるキャリア芯材を得た。
【0117】
(2)キャリアの作製
<充填樹脂溶液の準備>
得られたキャリア芯材(多孔質フェライト粒子)の細孔に樹脂を充填して、キャリアを作製した。まず、メチルシリコーン樹脂溶液30重量部(樹脂溶液濃度20%のため固形分として6重量部)に、触媒としてチタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)を樹脂固形分に対して25重量%(チタン原子換算で3重量%)を加えた後、アミノシランカップリング剤として3-アミノプロピルトリエトキシシランを樹脂固形分に対して5重量%添加して、充填樹脂溶液を得た。
【0118】
<樹脂溶液の充填>
次に、キャリア芯材(多孔質フェライト粒子)と充填樹脂溶液(希釈溶媒:トルエン)を充填装置に入れ、60℃、6.7kPa(約50mmHg)の減圧下で混合及び撹拌し、トルエンを揮発させながら、樹脂溶液をキャリア芯材の細孔に浸透及び充填させた。このとき、キャリア芯材100重量部に対して、メチルシリコーン樹脂溶液量30重量部(固形分換算で6重量部)とした。充填装置内の圧力を常圧に戻し、常圧下で撹拌を続けながら、トルエンをほぼ完全に除去し、キャリア芯材を充填装置から取り出した。取り出したキャリア芯材を容器に入れ、熱風式オーブンを用いて、220℃で1.5時間の加熱処理を施した。室温まで冷却した後、樹脂が充填及び硬化されたキャリア芯材を取り出した。取り出したキャリア粒子の凝集を、200メッシュ目開きの振動篩を用いて解した。その後、磁力選鉱機を用いて非磁性物を取り除いた。これにより、キャリア芯材(多孔質フェライト粒子)の細孔に樹脂が充填されたキャリアを得た。樹脂充填量は、キャリア芯材に対して6重量%であった。
【0119】
(3)評価
得られたキャリア芯材及びキャリアについて、例1と同様にして評価を行った。
【0120】
例4
(1)キャリア芯材の作製
<原料の混合粉砕>
焼成後の組成比が、MnO:40.0mol%、MgO:10.0mol%及びFe2O3:50.0mol%となるように原料を秤量し、さらにこれら金属酸化物100重量部に対して、ZrO2を1.5重量部添加した。その際、原料として、酸化鉄(Fe2O3):16.9kg、四酸化三マンガン(Mn3O4):6.5kg、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2):1.2kg及び酸化ジルコニウム(ZrO2):0.4kgをそれぞれ用いた。秤量した原料を、湿式ボールミルを用いて5時間粉砕及び混合し、さらにスプレードライヤーにて乾燥して、原料混合物とした。
【0121】
<仮焼成及び粉砕>
得られた混合物を仮焼成した。仮焼成は、混合物を950℃で1時間保持することにより行い、仮焼成物を得た。
【0122】
<粉砕及び造粒>
得られた仮焼成物に水を加え、湿式ボールミルで6時間粉砕してスラリーとした。得られたスラリーに、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA、20重量%溶液)を仮焼成物に対して0.2重量%添加し、さらにポリカルボン酸系分散剤を添加して、スラリー粘度を2ポイズに調整した。
【0123】
次に、粘度調整後のスラリーを、スプレードライヤーを用いて造粒及び乾燥した。その際、本焼成後の焼成物の平均粒度が35μmとなるように条件を設定した。得られた造粒物を大気雰囲気下650℃で加熱して、分散剤やバインダー等の有機成分を除去した。
【0124】
<本焼成>
有機成分を除去した造粒物を、トンネル式電気炉を用いて焼成し、焼成物とした。焼成は、造粒物を、焼成温度1250℃、酸素濃度0.3容量%の雰囲気下で6時間保持することにより行った。昇温速度は150℃/時、降温速度は110℃/時とした。また、窒素ガスを電気炉の出口側から導入し、電気炉の内部圧力を0~10Pa(正圧)にした。得られた焼成物をハンマークラッシャーで解砕した後、350メッシュの篩網を取り付けたジャイロシフターを用いて粗粒子を除去し、さらに、精密空気分級機(日清エンジニアリング株式会社、ターボクラシファイアTC-15)を用いて1200rpmの条件で微粒子を分級する粒度調整を行った。磁力選鉱機により、粒度調整後の焼成物から低磁力品を分別して、フェライト粒子を得た。
【0125】
<超微粉の除去>
低磁力品を分別したフェライト粒子から、さらに超微粉を除去した。超微粉の除去は、フェライト粒子に、精密空気分級機(日清エンジニアリング株式会社、ターボクラシファイアTC-15)を用いた分級処理を施すことにより行った。分級機の回転速度は8000rpmとした。これにより、超微粉が除去されたフェライト粒子を得た。
【0126】
<酸化被膜処理>
ロータリー式大気炉を用いて、超微粉が除去されたフェライト粒子に500℃で1時間保持する酸化被膜処理を施した。酸化被膜処理を施したフェライト粒子を、磁力選鉱及び混合して、キャリア芯材を得た。
【0127】
(2)キャリアの作製
<樹脂溶液の準備>
得られたキャリア芯材を用いてキャリアを作製した。まず、メチルシリコーン樹脂溶液5重量部(樹脂溶液濃度20%のため固形分として1重量部)に、触媒としてチタンジイソプロポキシビス(メチルアセトアセテート)を樹脂固形分に対して25重量%(チタン原子換算で3重量%)を加えた後、アミノシランカップリング剤として3-アミノプロピルトリエトキシシランを樹脂固形分に対して5重量%添加し、さらに、導電剤としてカーボンブラック(Cabot社、Mogul L)を樹脂に対して3重量%添加して、樹脂溶液を得た。
【0128】
<樹脂被覆層の形成>
次に、キャリア芯材と樹脂溶液(希釈溶媒:トルエン)を用いて、キャリア芯材表面に樹脂被覆層を形成した。樹脂被覆層の形成は、次のようにして行った。キャリア芯材と樹脂溶液を、万能混合機を用いて混合及び撹拌し、トルエンを揮発しながら、シリコーン樹脂をキャリア芯材の表面に被覆させた。このとき、キャリア芯材100重量部に対して、メチルシリコーン樹脂溶液5重量部(固形分換算で1重量部)とした。トルエンが充分に揮発したことを確認した後、被覆したキャリア芯材を装置から取り出した。取り出したキャリア芯材を容器に入れ、熱風式オーブンを用いて、220℃で2時間の加熱処理を施した。室温まで冷却した後、樹脂が被覆及び硬化されたキャリア芯材を取り出した。取り出したキャリア芯材を250メッシュ目開きの振動篩を用いて粒子の凝集を解した。その後、磁力選鉱機を用いて非磁性物を取り除き、再度250メッシュ目開きの振動篩を用いて粗大粒子を取り除いた。これにより、キャリア芯材表面に樹脂被覆層を設けたキャリアを得た。樹脂被覆量は、キャリア芯材に対して1重量%であった。
【0129】
(3)評価
得られたキャリア芯材及びキャリアについて、例1と同様にして評価を行った。
【0130】
例5(比較)
キャリア芯材作製の際に、超微粉の除去を行わなかった以外は、例1と同様にして、キャリア芯材とキャリアの作製及び評価を行った。
【0131】
例6(比較)
キャリア芯材作製の際に、超微粉の除去を行わなかった以外は、例2と同様にして、キャリア芯材とキャリアの作製及び評価を行った。
【0132】
例7(比較)
キャリア芯材作製の際に、超微粉の除去を行わなかった以外は、例3と同様にして、キャリア芯材とキャリアの作製及び評価を行った。
【0133】
例8(比較)
キャリア芯材作製の際に、超微粉の除去を行わなかった以外は、例4と同様にして、キャリア芯材とキャリアの作製及び評価を行った。
【0134】
結果
例1~8において、得られる評価結果は、表1に示されるとおりであった。実施例たる例1~例4は、キャリア芯材の上澄み透過率が91.6%以上と高かった。また、これらのキャリア芯材から作製したキャリアは、その超微粉移行量が412ppm以下と低かった。このことから、これらのキャリア芯材は、その表面に付着するフェライト超微粉の量が少なく、そのため、キャリアとしたときにも、トナーへの超微粉の移行が抑制されることが分かった。特に、湿式による超微粉の除去を行った例1及び例2は、キャリア芯材の上澄み透過率が96.7%以上であり、キャリアの超微粉移行量が135ppm以下と極めて低かった。したがって、湿式による超微粉の除去は、トナーへの超微粉移行防止の効果に非常に優れることが分かる。
【0135】
これに対して、比較例たる例5~例8は、キャリア芯材の上澄み透過率が84.7%以下であり、キャリアの超微粉移行量が666ppm以上と高かった。例えば、例5は、キャリア芯材作製時の超微粉の除去工程の有無のみが例1と異なり、その他の点は同一である。しかしながら、例5は、キャリアにおける超微粉移行量が666ppmであり、例1の超微粉移行量(107ppm)の6倍以上となっている。このことから、これらのキャリア芯材は、トナーへの超微粉移行防止の効果に劣ることが分かる。
【0136】
例1~8のキャリア芯材の上澄み透過率とキャリアの超微粉移行量の関係を、
図1に示す。
図1を見て分かるように、キャリア芯材の上澄み透過率とキャリアの超微粉移行量の間には、強い相関があり、上澄み透過率が高いほど、超微粉移行量が少なくなっていた。このことから、キャリア芯材の上澄み透過率は、フェライト超微粉移行量の優れた指標であることが分かった。
【0137】
これに対して、レーザー回折・散乱法、メッシュ通過量、粒度・形状分布測定器又はSEM画像では、フェライト超微粉の量を正確に評価することはできなかった。実際、表1を見て分かるように、レーザー回折・散乱法、メッシュ通過量、粒度・形状分布測定器又はSEM画像による評価結果(D50、Pv(d<20)、Pv(d<16)、Pn(d<16)、Pw(d<16)、SF-1、平均円相当径、Pm(d<16))は、超微粉移行量との間に相関が見られなかった。
【0138】