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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】弁機構
(51)【国際特許分類】
   F16K 1/44 20060101AFI20230823BHJP
   F16K 47/04 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
F16K1/44 C
F16K1/44 A
F16K47/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019095665
(22)【出願日】2019-05-22
(65)【公開番号】P2020190284
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】福田 剛士
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-195970(JP,A)
【文献】特開昭60-192172(JP,A)
【文献】特開2007-198463(JP,A)
【文献】特開2019-15341(JP,A)
【文献】特開2018-135907(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217123(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 1/00-1/54
F16K 47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側開口及び二次側開口を連通させる弁座流路を有する弁座部であって、一次側開口から流入した流体を、弁座流路を通じて二次側開口に流出させる弁座部、
弁座部の弁座流路に挿入されており、調整操作に従って移動可能な調整部、
調整部に設けられており、弁座部の一次側開口に向けて位置する一次側弁体であって、調整部の移動に伴って進退し、一次側開口の開度を調整する一次側弁体、
調整部に設けられており、弁座部の二次側開口に向けて位置する二次側弁体であって、調整部の移動に伴って進退し、二次側開口の開度を調整する二次側弁体、
を備えており、
前記一次側弁体は、前記二次側弁体による二次側開口の開度の調整に干渉しない位置に配置されており、
前記二次側弁体は、前記一次側弁体による一次側開口の開度の調整に干渉しない位置に配置されており
前記調整部は、弁座流路に位置する連結部であって、一次側弁体と二次側弁体とに連続し、一次側弁体と二次側弁体よりも小さな径を有する連結部を備えており、
弁座部の一次側開口の周縁には、一次側端面、及び当該一次側端面から弁座流路の内側に向けて位置する一次側屈曲部が形成されており、
一次側弁体には、一次側端面と当接して一次側開口を閉塞する一次側閉塞部、及び当該一次側閉塞部から突出して弁座流路の内側に進入可能な一次側進入部が形成されており、
前記一次側進入部が、前記一次側屈曲部が画する空間よりも小さく形成されていることによって、一次側開口を所定の微小開口状態としたとき、一次側屈曲部と一次側進入部との間に流体の狭小流路が形成される、
ことを特徴とする弁機構。
【請求項2】
請求項1に係る弁機構において、
弁座部の二次側開口の周縁には、二次側端面、及び当該二次側端面から弁座流路の内側に向けて位置する二次側屈曲部が形成されており、
二次側弁体には、二次側端面と当接して二次側開口を閉塞する二次側閉塞部、及び当該二次側閉塞部から突出して弁座流路の内側に進入可能な二次側進入部が形成されており、
前記二次側進入部が、前記二次側屈曲部が画する空間よりも小さく形成されていることによって、二次側開口を所定の微小開口状態としたとき、二次側屈曲部と二次側進入部との間に流体の狭小流路が形成される、
とを特徴とする弁機構。
【請求項3】
請求項1に係る弁機構において、
弁座部の一次側開口に対応して設けられた一次側支持部であって、調整部の移動を支持する一次側支持部、
弁座部の二次側開口に対応して設けられた二次側支持部であって、調整部の移動を支持する二次支持部、
を備えたことを特徴とする弁機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係る弁機構は、流体の流れを制御する弁の構造の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の流れを制御する弁機構としては、後記特許文献1に開示されているノズル式スチームトラップがある。このノズル式スチームトラップは蒸気の配管系統に設置されており、蒸気の熱交換によって生じるドレン(凝縮水)を適宜配管外に排出する。
【0003】
特許文献1に係るノズル式スチームトラップには、ドレンの入口11とドレンの出口12との間にノズル5が配置されており、このノズル5と出口12との間には第1ドレン室15及び第2ドレン室17が設けられている。そして、第2ドレン室17には、ニードル62を有する調整バルブ6が取り付けられている。
【0004】
調整バルブ6はスチームトラップの外部から操作可能であり、この調整バルブ6を操作することによってニードル62が図において上下方向に進退する。ニードル62の進退に伴って、第2ドレン室17に連通しているポート18の入口の面積が変化し、これによってドレンの流量を調整することができる(特許文献1、段落番号0022・0023)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-15341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
弁機構には、高速に流れる流体との摩擦によって、弁体や弁座にエロ―ジョン(機械的摩耗)が生じることがある。このエロ―ジョンによって弁体や弁座が変形した場合、変形による隙間によって閉弁や流体の流量調整が不十分になり、適正な弁作用が阻害される。前述の特許文献1に開示された技術においては、エロ―ジョンが生じた場合、これに対処することができないため、部品の交換等が必要になるという問題がある。
【0007】
そこで本願に係る弁機構は、これらの問題を解決するため、流体との摩擦等によって生じるエロ―ジョンに適切に対処することができ、部品交換の手間を削減することができる弁機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に係る弁機構は、
一次側開口及び二次側開口を連通させる弁座流路を有する弁座部であって、一次側開口から流入した流体を、弁座流路を通じて二次側開口に流出させる弁座部、
弁座部の弁座流路に挿入されており、調整操作に従って移動可能な調整部、
調整部に設けられており、弁座部の一次側開口に向けて位置する一次側弁体であって、調整部の移動に伴って進退し、一次側開口の開度を調整する一次側弁体、
調整部に設けられており、弁座部の二次側開口に向けて位置する二次側弁体であって、調整部の移動に伴って進退し、二次側開口の開度を調整する二次側弁体、
を備えており、
前記一次側弁体は、前記二次側弁体による二次側開口の開度の調整に干渉しない位置に配置されており、
前記二次側弁体は、前記一次側弁体による一次側開口の開度の調整に干渉しない位置に配置されている、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願に係る弁機構においては、調整部に一次側弁体及び二次側弁体が設けられている。そして、一次側弁体は、二次側弁体による二次側開口の開度の調整に干渉しない位置に配置されており、二次側弁体は、一次側弁体による一次側開口の開度の調整に干渉しない位置に配置されている。
【0010】
したがって、一次側弁体又は二次側弁体の一方にエロージョンが生じたとき、一次側弁体又は二次側弁体の他方を用いて弁座部の開度を調整することができる。このため、簡易な構成で容易に流体との摩擦等によって生じるエロ―ジョンに適切に対処することができ、部品交換の手間を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本願に係る弁機構の第1の実施形態を示すバイパスバルブ1の一部断面図である。
図2図1に示すバイパスバルブ1の弁口部材20近傍の拡大一部断面図である。
図3図1に示すバイパスバルブ1の弁口部材20近傍の拡大一部断面図であり、弁口部材20の下流開口22を閉塞した状態を示す図である。
図4図3に示す状態から弁口部材20の下流開口22を微小開口した状態を示す拡大一部断面図である。
図5図1に示すバイパスバルブ1の弁口部材20近傍の拡大一部断面図であり、弁口部材20の上流開口21を閉塞した状態を示す図である。
図6図5に示す状態から弁口部材20の上流開口21を微小開口した状態を示す拡大一部断面図である。
図7】バイパスバルブ1の機能を説明するための配管系統の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態における用語説明]
実施形態において示す主な用語は、それぞれ本願に係る弁機構の下記の要素に対応している。
弁口部材20・・・弁座部
上流開口21・・・一次側開口
上流絞り部21b・・・一次側屈曲部
上流端面21f・・・一次側端面
下流開口22・・・二次側開口
下流絞り部22b・・・二次側屈曲部
下流端面22f・・・二次側端面
弁口空間29・・・弁座流路
ケーシング蓋孔31a・・・二次側支持部
操作部材40・・・調整部
上流弁41・・・一次側弁体
上流弁鍔部41a・・・一次側閉塞部
上流円柱部41c・・・一次側進入部
下流弁42・・・二次側弁体
下流弁鍔部42a・・・二次側閉塞部
下流円柱部42c・・・二次側進入部
連結バー45・・・連結部
支持空間51・・・一次側支持部
【0013】
[第1の実施形態]
本願に係る弁機構の第1の実施形態を、バイパスバルブを例に掲げて説明する。
(バイパスバルブの機能の説明)
図7は、産業プラント等に設置されている蒸気移送のための配管系統の構成図である。主管70は、高温高圧の蒸気を所定の供給先の設備に向けて移送している。移送された蒸気の熱交換によって主管70内にはドレンが発生し、このドレンを排出するために主管70には随所に支管71が接続され、各支管71にスチームトラップ79が設けられている。スチームトラップ79は、ドレンを適宜、配管外に排出し、かつ蒸気を極力漏らさないように動作する自働弁である。
【0014】
スチームトラップには種々の構造のものがあるが、フロート式トラップは弁室に中空のフロートを内蔵している。そして、通常においては、このフロートは弁室の底部付近に形成されたドレン排出口を塞いでいるが、弁室にドレンが流入した場合、ドレンの滞留に従ってこのフロートが浮上し、ドレン排出口を開放する。
【0015】
ドレン排出口が開放されたことにより、弁室内に滞留したドレンは、配管内の高圧の勢いを受けて自動的にドレン排出口からドレン回収管72に向けて排出される。ドレンの排出後はフロートが下降して復位し、再びドレン排出口を閉塞する。
【0016】
ここで、支管71には、スチームトラップ79の前後を接続するバイパス管73が設けられており、このバイパス管73にバイパスバルブ1が取り付けられている。バイパスバルブ1は、支管71上に設けられたスチームトラップ79のバックアップや補助を行う。
【0017】
すなわち、機器の故障によりスチームトラップ79を交換する必要が生じた場合、スチームトラップ79前後に配置されている開閉弁74、75を閉弁した上、交換作業を行うが、この間、ドレンを排出することができなくなる。このため、バイパスバルブ1を開弁し、スチームトラップ79の交換作業を行っている間、バイパス管73を通じてドレンを排出する。
【0018】
また、配管系統の起動時には配管内に初期エアーが充満しており、この初期エアーによるエアーバイディング(空気障害)を解消するために、初期エアーを配管外に排気する必要がある。このような場合、バイパスバルブ1を全開にすることによって、バイパス管73を通じて速やかに排気を行う。さらに、スチームトラップ79のドレン排出機能を補うため、バイパスバルブ1の開弁の程度を調整し、常時、微量のドレンを、バイパス管73を通じて排出することがある。このため、このようなバイパスバルブ1は、一般に流体の流量を微調整することができるような機能を備えている。
【0019】
(バイパスバルブ1の構成の説明)
次に、バイパスバルブ1の全体の構成を説明する。図1は、バイパスバルブ1の一部断面図である。図1に示すように、バイパスバルブ1はケーシング11とケーシング蓋31を備えており、ガスケット30を挟んでケーシング11とケーシング蓋31とはボルトによって固定されている。ケーシング11内には、上部に向けて開口する円筒形状の下流内室10が形成されており、ケーシング蓋31はこの上部開口を覆って取り付けられる。
【0020】
また、ケーシング11には、流入口12と流出口13とが同軸上に形成されており、各々にバイパス管73(図7)が接続される。流入口12は、ケーシング11内の上流通路15及び上流内室16に連通している。そして、この上流内室16は、上述の下流内室10の下側に配置されて下流内室10に連通している。なお、上流内室16は、ケーシング11の底部に向けて開口しており、この底部の開口には底蓋50が螺入されて取り付けられている。
【0021】
下流内室10と上流内室16との連通部分には、円筒状の弁口部材20が位置している。弁口部材20は、ケーシング11に対してネジ機構を介して螺入されて取り付けられている。弁口部材20の内部には、上下方向に貫通した弁口流路29が形成されており、弁口流路29の中心軸は基準軸99上に位置している。なお、下流内室10は、下流通路17を介して流出口13に連通している。
【0022】
流入口12から流入したドレンやエアー等の流体は、矢印91方向に沿って、順次、上流通路15、上流内室16を流れ、弁口部材20の弁口流路29に進入する。そして、この流体は弁口流路29を通過してさらに矢印92方向に沿って順次、下流内室10、下流通路17を流れ、流出口13を通じて排出される。なお、流体の流れに従い、図において弁口部材20の下方が上流、上方が下流である。
【0023】
図1に示すように、ケーシング蓋31には、中心軸が基準軸99上に位置するようケーシング蓋孔31aが形成されており、このケーシング蓋孔31aを円柱形状の操作部材40が貫通した状態で配置されている。操作部材40の中心軸も基準軸99上に位置している。
【0024】
操作部材40は、ネジ部40bが形成された操作バー48を備えており、ケーシング蓋孔31aの内面に形成されたネジ溝に、ネジ部40bが螺入されて取り付けられている。また、操作バー48の後端には操作用溝40aが形成されている。なお、図において操作部材40は断面図ではなく、外観を表す側面図として図示されている。
【0025】
操作バー48の後端に形成された操作用溝40aに工具を嵌め入れ回転操作すれば、ネジ部40bのネジ機構に従って操作部材40は矢印95、96方向に上下移動する。なお、ケーシング蓋31の上部にはキャップ38が螺入して取り付けられており、キャップ38は操作バー48の後端を覆って位置する。キャップ38によって、操作バー48の誤操作による回転が防止される。
【0026】
ケーシング蓋31のケーシング蓋孔31aの上方は口径がやや大きくなっており、ここにパッキン36が嵌め込まれ、パッキン36は押え部材37の螺入によって加圧され、ケーシング11内部の気密性が保持されている。なお、パッキン36及び押え部材37の中心孔を操作部材40の操作バー48が貫通して位置している。
【0027】
操作バー48の先端側には、一体的に構成された下流弁42、連結バー45、上流弁41及び支持バー46が設けられている。図1に示すように、連結バー45は弁口部材20の弁口流路29内に位置しており、弁口流路29よりも軸方向にやや長い。なお、支持バー46は、底蓋50に形成された支持空間51に挿入され、矢印95、96方向に上下移動が可能に保持されている。支持空間51の中心軸は基準軸99上に位置しているため、この支持空間51に支持バー46が支持されることによって、操作部材40の連結バー45は弁口流路29内において中心軸が基準軸99からずれることなく保持される。
【0028】
図2は、弁口部材20近傍の拡大一部断面図である。図2に示すように、弁口部材20の上流側の開口部分は上流開口21として形成され、下流側の開口部分は下流開口22として形成される。弁口部材20の弁口流路29の内面である円筒面23は径が一定の筒形状を有している。
【0029】
弁口部材20において、下流開口22の周縁は平坦な下流端面22fであり、この下流端面22fには弁口流路29に向けて漸次、口径が小さくなる下流第一テーパー面22aが連続して形成されている。そして、さらに下流第一テーパー面22aには、弁口流路29に向けて漸次、口径が大きくなる下流第二テーパー面22cが連続して形成されており、下流第二テーパー面22cは円筒面23に連続する。
【0030】
下流第一テーパー面22aと下流第二テーパー面22cとの境界部分は下流絞り部22bであり、基準軸99を鉛直方向とした場合、下流絞り部22bは水平な周方向に位置して形成されている。そして、下流絞り部22bは弁口流路29内において最も口径が小さい部分である。
【0031】
他方、下流弁42は、外周方向に向けて突出する下流弁鍔部42aを有している。下流弁鍔部42aの弁口部材20側の平坦面は下流弁接触面42eとして形成されており、この下流弁接触面42eは弁口部材20の下流端面22fと平行に位置する。また、下流弁接触面42eは、弁口部材20の下流開口22を覆って閉塞することが可能な大きさに構成されている。すなわち、操作部材40が矢印95方向に移動したとき、下流弁鍔部42aの下流弁接触面42eは、弁口部材20の下流端面22fに当接し、弁口部材20の下流開口22を閉塞する。
【0032】
さらに、下流弁鍔部42aには、弁口部材20に向けて漸次、口径が小さくなる下流弁第一テーパー部42bが形成されている。この下流弁第一テーパー部42bは、弁口部材20の下流第一テーパー面22aと平行であり、操作部材40が矢印95方向に移動して、下流弁鍔部42aの下流弁接触面42eが弁口部材20の下流端面22fに当接し限界位置に達したとき、下流弁第一テーパー部42bは、弁口部材20の下流第一テーパー面22aに当接する。
【0033】
下流弁第一テーパー部42bには、弁口部材20に向けて突出する下流弁円柱部42cが連続して形成されている。この下流弁円柱部42cは径が一定の円柱形状を有しており、操作部材40が矢印95方向に移動したとき、弁口流路29内に進入する。この下流弁円柱部42cの円筒径は、弁口部材20に形成されている前述の下流絞り部22bが画する円の径よりも僅かに小さく構成されている。この結果、下流弁42の下流弁第一テーパー部42bは、弁口部材20の下流第一テーパー面22aよりも僅かに弁口流路29内に向けて長く形成されている。
【0034】
下流弁円柱部42cには、さらに弁口部材20に向けて漸次、口径が小さくなる下流弁第二テーパー部42dが連続して形成されている。この下流弁第二テーパー部42dは連結バー45に連続している。
【0035】
弁口部材20の下流開口22近傍及び下流弁42は以上のような構成を備えている。そして、弁口部材20の上流開口21近傍及び上流弁41の構成も、連結バー45を挟んで下流開口22及び下流弁42と対称の構成を備えている。
【0036】
すなわち、弁口部材20において、上流開口21の周縁は平坦な上流端面21fであり、この上流端面21fには弁口流路29に向けて漸次、口径が小さくなる上流第一テーパー面21aが連続して形成されている。そして、さらに上流第一テーパー面21aには、弁口流路29に向けて漸次、口径が大きくなる上流第二テーパー面21cが連続して形成されており、上流第二テーパー面21cは円筒面23に連続する。
【0037】
上流第一テーパー面21aと上流第二テーパー面21cとの境界部分は上流絞り部21bであり、基準軸99を鉛直方向とした場合、上流絞り部21bは水平な周方向に位置して形成されている。そして、上流絞り部21bは弁口流路29内において最も口径が小さい部分である。
【0038】
他方、上流弁41は、支持バー46の上方において、外周方向に向けて突出する上流弁鍔部41aを有している。上流弁鍔部41aの弁口部材20側の平坦面は上流弁接触面41eとして形成されており、この上流弁接触面41eは弁口部材20の上流端面21fと平行に位置する。また、上流弁接触面41eは、弁口部材20の上流開口21を覆って閉塞することが可能な大きさに構成されている。すなわち、操作部材40が矢印96方向に移動したとき、上流弁鍔部41aの上流弁接触面41eは、弁口部材20の上流端面21fに当接し、弁口部材20の上流開口21を閉塞する。
【0039】
さらに、上流弁鍔部41aには、弁口部材20に向けて漸次、口径が小さくなる上流弁第一テーパー部41bが形成されている。この上流弁第一テーパー部41bは、弁口部材20の上流第一テーパー面21aと平行であり、操作部材40が矢印96方向に移動して、上流弁鍔部41aの上流弁接触面41eが弁口部材20の上流端面21fに当接し限界位置に達したとき、上流弁第一テーパー部41bは、弁口部材20の上流第一テーパー面21aに当接する。
【0040】
上流弁第一テーパー部41bには、弁口部材20に向けて突出する上流弁円柱部41cが連続して形成されている。この上流弁円柱部41cは径が一定の円柱形状を有しており、操作部材40が矢印96方向に移動したとき、弁口流路29内に進入する。この上流弁円柱部41cの円筒径は、弁口部材20に形成されている前述の上流絞り部21bが画する円の径よりも僅かに小さく構成されている。この結果、上流弁41の上流弁第一テーパー部41bは、弁口部材20の上流第一テーパー面21aよりも僅かに弁口流路29内に向けて長く形成されている。
【0041】
上流弁円柱部41cには、さらに弁口部材20に向けて漸次、口径が小さくなる上流弁第二テーパー部41dが連続して形成されている。この上流弁第二テーパー部41dは連結バー45に連続している。
【0042】
(弁口部材20等にエロージョンが生じた場合の対処の説明)
本実施形態におけるバイパスバルブ1は、通常時、下流弁42を用いて弁の開閉調整を行い、上流弁41は使用しない。図3は下流弁42を用いて弁口部材20の下流開口22を完全に閉弁した状態を示している。
【0043】
下流弁42を用いて弁口部材20の下流開口22を閉弁する場合、図1に示すキャップ38を取り外し、操作部材40の操作用溝40aに工具を嵌め入れて締め込み、操作部材40を矢印95方向に限界位置まで移動させる。
【0044】
これによって、下流弁42の下流弁接触面42eが弁口部材20の下流端面22fに当接するとともに、下流弁42の下流弁第一テーパー部42bが弁口部材20の下流第一テーパー面22aに当接して下流開口22を閉塞し、弁口部材20は完全に閉弁状態となる。
【0045】
バイパスバルブ1において、ドレンやエアー等の流体の流量を調整する場合、図3に示す状態から、操作部材40の操作用溝40aに工具を嵌め入れて緩め、操作部材40を矢印96方向に移動させる。そして、弁口部材20の下流絞り部22b(図2参照)のレベルに下流弁第二テーパー部42dが位置したとき、この下流弁第二テーパー部42dの傾斜に従って弁口部材20の下流開口22の開口の程度が変化し、流体の流量が調整される。
【0046】
このように、通常時においては下流弁42を用いて弁の開閉や流量の調整を行うが、高速に流れる流体との摩擦によって、下流弁42や弁口部材20の下流開口22にエロ―ジョンが生じることがある。このエロ―ジョンによって下流弁42や弁口部材20の下流開口22が変形した場合、変形による隙間によって閉弁や流体の流量の調整が不十分になり適正な弁作用が阻害される。なお、エロ―ジョンが生じると、弁口部材20の下流開口22を完全に閉弁させた状態で流体の漏洩音が発生するため、バイパスバルブ1の外部からエロ―ジョンが生じたことを認識することができる。
【0047】
本実施形態におけるバイパスバルブ1では、下流弁42や弁口部材20の下流開口22にエロ―ジョンが生じた場合、下流弁42等の交換等を行うことなく、上流弁41を用いて弁の開閉を行う。すなわち、下流弁42や弁口部材20の下流開口22にエロ―ジョンが生じたと判断される場合、操作部材40の操作用溝40aに工具を嵌め入れて緩め、操作部材40を矢印96方向に移動させる。
【0048】
これによって、上流弁41の上流弁接触面41eが弁口部材20の上流端面21fに当接するとともに、上流弁41の上流弁第一テーパー部41bが弁口部材20の上流第一テーパー面21aに当接して上流開口21を閉塞し、弁口部材20を完全な閉弁状態とすることができる。図5は上流弁41を用いて弁口部材20の上流開口21を完全に閉弁した状態を示している。
【0049】
そして、ドレンやエアー等の流体の流量を調整する場合、図5に示す状態から、操作部材40の操作用溝40aに工具を嵌め入れて締め込み、操作部材40を矢印95方向に移動させる。そして、弁口部材20の上流絞り部21bのレベルに上流弁第二テーパー部41dが位置したとき、この上流弁第二テーパー部41dの傾斜に従って弁口部材20の上流開口21の開口の程度が変化し、流体の流量が調整される。
【0050】
なお、本実施形態では、操作部材40の連結バー45の軸方向における長さが、弁口部材20の弁口流路29の軸方向における長さよりも長く構成されていることによって、下流弁42を用いた弁口部材20の下流開口22の閉弁や開度の調整に上流弁41は干渉せず、また逆に上流弁41を用いた弁口部材20の上流開口21の閉弁や開度の調整に下流弁42は干渉しない。ここで、上流弁41又は下流弁42の一方による閉弁や開度調整の際、他方の上流弁41又は下流弁42が干渉しないとは、一方による閉弁や開度調整に際して他方が影響を与えず、一方が単独で完全な閉弁や開度調整を行い得ることを意味する。
【0051】
なお、通常時において、逆に上流弁41を用いて弁の開閉を行い、上流弁41や弁口部材20の上流開口21にエロ―ジョンが生じた場合、下流弁42を用いて弁の開閉を行うようにしてもよい。
【0052】
以上のように本実施形態に係るバイパスバルブ1は、下流弁42や弁口部材20の下流開口22、又は上流弁41や弁口部材20の上流開口21の一方にエロージョンが生じたとき、下流弁42又は上流弁41の他方を用いて弁口部材20の開閉を行うことができるため、簡易な構成で容易にエロ―ジョンに適切に対処することができ、部品交換の手間を削減することができる。
【0053】
(弁口部材20等のクリーニング動作の説明)
バイパスバルブ1等の弁機構には、ドレンや蒸気等の流体と共に錆やスケール(水垢)等の異物が流入することがある。そして、バイパスバルブ1等の弁機構は、弁体(上流弁41又は下流弁42)と弁座(弁口部材20)との間を狭く絞ることによって流体の流量を調整することがあるため、弁体や弁座周辺に異物が付着して堆積することが多い。このような異物の付着・堆積が進んだ場合、流量調整や閉弁が不十分になり適正な弁作用が阻害される。
【0054】
このため、本実施形態におけるバイパスバルブ1は、メンテナンスの一環として弁口部材20等のクリーニング動作を行うことが可能であり、弁口部材20の上流開口21又は下流開口を微小開口状態にすることによってクリーニング動作を行う。
【0055】
すなわち、下流弁42や弁口部材20の下流開口22周辺のクリーニングを行う場合、図3に示す完全閉弁の状態から操作バー48の操作用溝40a(図1)に工具を嵌め入れ、僅かに緩めて操作部材40を矢印96方向に微小に移動させ、下流開口22を微小開口させる。図4は下流開口22が微小開口した状態を示す拡大図である。
【0056】
操作部材40を矢印96方向に微小に移動させたことによって、下流端面22fと下流弁接触面42eとの間、及び下流第一テーパー面22aと下流弁第一テーパー面42bとの間に、隙間が生じる。ここで、前述のように、下流弁円柱部42cの円筒径は、弁口部材20に形成されている下流絞り部22bが画する円の径よりも僅かに小さく構成されて、下流弁42の下流弁第一テーパー部42bは、弁口部材20の下流第一テーパー面22aよりも僅かに弁口流路29内に向けて長く形成されている。
【0057】
このため、下流開口22を微小開口状態としたとき、図4に示すように、弁口部材20の下流絞り部22bと、下流弁42の下流弁円柱部42cとの間には、下流弁円柱部42cの全周にわたって狭小な隙間が生じ、ここが狭小流路として形成される。この狭小流路は、弁口部材20の弁口流路29内に形成される流体の流路(図2)よりも極端に狭いため、狭小流路を通過するドレン等の流体の流体圧は増大する。
【0058】
そして、ドレン等の流体は、増大した流体圧をもって下流絞り部22bと下流弁円柱部42cとの間に形成された狭小流路を通過し、下流開口22の全周から強力な勢いで噴出する。これによって、下流端面22fや下流弁接触面42eに付着した異物82は剥ぎ落され吹き飛ばされる。吹き飛ばされた異物82はドレン等の流体とともに、矢印92方向に沿って流出口13(図1)から排出される。
【0059】
なお、下流弁42の下流弁円柱部42cは、軸方向にわたって径が一定の円柱形状を有しているため、この円柱形状の軸方向の範囲内であれば下流絞り部22bとの間の狭小流路を確保することができる。したがって、操作部材40を矢印96方向に微小に移動させる際、容易かつ確実に狭小流路を生じさせるよう調整することができる。
【0060】
また、上流弁41や弁口部材20の上流開口21周辺のクリーニングを行う場合は、図5に示す完全閉弁の状態から操作バー48の操作用溝40a(図1)に工具を嵌め入れ、僅かに締め込んで操作部材40を矢印95方向に微小に移動させ、上流開口21を微小開口させる。図6は上流開口21が微小開口した状態を示す拡大図である。
【0061】
操作部材40を矢印95方向に微小に移動させたことによって、上流端面21fと上流弁接触面41eとの間、及び上流第一テーパー面21aと上流弁第一テーパー面41bとの間に、隙間が生じる。ここで、前述のように、上流弁円柱部41cの円筒径は、弁口部材20に形成されている下流絞り部21bが画する円の径よりも僅かに小さく構成されて、上流弁41の上流弁第一テーパー部41bは、弁口部材20の上流第一テーパー面21aよりも僅かに弁口流路29内に向けて長く形成されている。
【0062】
このため、上流開口21を微小開口状態としたとき、図6に示すように、弁口部材20の上流絞り部21bと、上流弁41の上流弁円柱部41cとの間には、上流弁円柱部41cの全周にわたって狭小な隙間が生じ、ここが狭小流路として形成される。この狭小流路は、流体が直前に通過する上流内室16(図1)よりも極端に狭いため、狭小流路を通過するドレン等の流体の流体圧は増大する。
【0063】
そして、ドレン等の流体は、増大した流体圧をもって上流絞り部21bと上流弁円柱部41cとの間に形成された狭小流路を通過し、弁口流路29内に向けて強力な勢いで噴出する。このとき、上流端面21fや上流弁接触面41eに付着した異物82は、弁口流路29内に向け強力な勢いで引き込まれる流体によって、吸引されて引き剥がされる。引き剥がされた異物82はドレン等の流体とともに、弁口流路29を通過し矢印92方向に沿って流出口13(図1)から排出される。
【0064】
なお、上流弁41の上流弁円柱部41cは、軸方向にわたって径が一定の円柱形状を有しているため、この円柱形状の軸方向の範囲内であれば上流絞り部21bとの間の狭小流路を確保することができる。したがって、操作部材40を矢印95方向に微小に移動させる際、容易かつ確実に狭小流路を生じさせるよう調整することができる。
【0065】
ところで、前述のように、操作部材40の中央部はケーシング蓋孔31aによって支持され、操作部材40の先端部である支持バー46は底蓋50に形成された支持空間51によって支持され、これによって操作部材40の連結バー45は弁口流路29内において中心軸が基準軸99からずれることなく保持される(図1参照)。このため、上流開口21又は下流開口22を微小開口状態とした際、上流弁円柱部41c又は下流弁円柱部42cの全周に形成される狭小流路の幅が、全周にわたって偏りなく均一に形成するよう組み立てることが可能になり、かつバイパスバルブ1の作動の影響を受けて狭小流路の幅に偏りが生じることを回避することができる。
【0066】
[その他の実施形態]
本願に係る弁機構は前述の実施形態において示したバイパスバルブ1に限定されるものではなく、一次側弁体が、二次側弁体による二次側開口の開度の調整に干渉しない位置に配置されており、二次側弁体が、一次側弁体による一次側開口の開度の調整に干渉しない位置に配置されている限り、弁座部、調整部、一次側弁体又は二次側弁体として他の形状、構造を適用することができる。
【0067】
たとえば、前述の実施形態においては、下流弁42及び上流弁41が弁口部材20の外側に位置し、下流弁42を用いた弁口部材20の下流開口22の閉弁や開度の調整に上流弁41は干渉せず、また逆に上流弁41を用いた弁口部材20の上流開口21の閉弁や開度の調整に下流弁42は干渉しない例を掲げた。しかし、下流弁42(二次側弁体)及び上流弁41(一次側弁体)を弁口部材20(弁座部)内に配置し、内側から弁口部材20の上流開口21又は下流開口22を閉弁又は開度調整するよう構成し、下流弁42又は上流弁41の一方による閉弁や開度調整の際、他方の下流弁42又は上流弁41が干渉しないよう連結バー45を弁口部材20の弁口流路29(弁座流路)よりも短く形成することもできる。
また、前述の実施形態において示した連結バー45に代えて、より細い径の連結部を適用し、弁口流路29(弁座流路)の空間を広く確保することもできる。
【符号の説明】
【0068】
20:弁口部材 21:上流開口 21b:上流絞り部 21f:上流端面
22:下流開口 22b:下流絞り部 22f:下流端面 29:弁口空間
31a:ケーシング蓋孔 40:操作部材 41:上流弁 41a:上流鍔部
41c:上流円柱部 42:下流弁 42a:下流鍔部 42c:下流円柱部
45:連結バー 51:支持空間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7