(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】めっき金属接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/10 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
B23K20/10
(21)【出願番号】P 2020012556
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-07-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594114019
【氏名又は名称】株式会社アルテクス
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 茂
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-080383(JP,A)
【文献】特開2007-118059(JP,A)
【文献】特開2012-187597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属の接合処理を行うめっき金属接合方法であって、
接合処理部が、音波振動及び/又は超音波振動を利用して複数の金属の接合処理を行う接合ステップを含み、
前記複数の金属は、第1金属と第2金属を含み、
前記第1金属の接合箇所は、めっきがなされており、
前記第2金属の接合箇所は、めっきがなされており、
前記接合ステップにおいて、前記接合処理部は
、前記第1金属の接合箇所のめっきと前記第2金属の接合箇所のめっきを利用して接合するとともに音波振動及び/又は超音波振動を利用して接合に使用しないめっきを接合箇所外に排出し、
前記第1金属の前記接合箇所は、第1接合箇所と、前記第1接合箇所に続いて接合処理が行われる第2接合箇所を含み、
前記接合ステップにおいて、
前記接合処理部と
加圧部が、前記第1接合箇所の接合処理が行われてから前記第2接合箇所の接合処理が行われるまでの間に前記第1金属及び前記第2金属を挟んだ状態で加圧し、
前記接合処理部は、音波振動及び/又は超音波振動を利用してホーンを振動させて前記第1接合箇所の接合処理を行い、ホーンを振動させていない状態で前記第1金属及び前記第2金属を移動させ、前記ホーンを振動させて前記第2接合箇所の接合を行い、
前記ホーンを振動させていない状態の時間は、前記第1金属及び第2金属を移動させる時間よりも長い、めっき金属接合方法。
【請求項2】
複数の金属の接合処理を行うめっき金属接合方法であって、
接合処理部が、音波振動及び/又は超音波振動を利用して複数の金属の接合処理を行う接合ステップを含み、
前記複数の金属は、第1金属と第2金属を含み、
前記第1金属の接合箇所は、めっきがなされており、
前記第2金属の接合箇所は、めっきがなされておらず、
前記接合ステップにおいて、前記接合処理部は、音波振動及び/又は超音波振動を利用して前記第1金属の接合箇所のめっきを排出して前記第1金属と前記第2金属とを接合し、
前記第1金属の前記接合箇所は、第1接合箇所と、前記第1接合箇所に続いて接合処理が行われる第2接合箇所を含み、
前記接合ステップにおいて、
前記接合処理部と加圧部が、前記第1接合箇所の接合処理が行われてから前記第2接合箇所の接合処理が行われるまでの間に前記第1金属及び前記第2金属を挟んだ状態で加圧し、
前記接合処理部は、音波振動及び/又は超音波振動を利用してホーンを振動させて前記第1接合箇所の接合処理を行い、ホーンを振動させていない状態で前記第1金属及び前記第2金属を移動させ、前記ホーンを振動させて前記第2接合箇所の接合を行い、
前記ホーンを振動させていない状態の時間は、前記第1金属及び第2金属を移動させる時間よりも長い、めっき金属接合方法。
【請求項3】
前記接合ステップにおいて、前記接合処理部は
、前記第1金属の接合箇所において、前記第1金属の溶解温度を超えない温度でめっきを溶かして接合箇所から排出し、前記第1金属の接合箇所と前記第2金属の接合箇所を直接接合する、請求項
2記載のめっき金属接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき金属接合方法及びめっき金属接合装置に関し、特に、めっきされた金属の接合を行うめっき金属接合方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば非特許文献1に記載されているように、亜鉛めっき鋼板などに対して接合処理を行うことは知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】林、外6名,「自動車用亜鉛めっき鋼板とアルミニウム合金の抵抗スポット溶接」、北海道科学大学研究紀要,第45号,2018年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電気抵抗スポット溶接などを用いて接合処理を行っても、現時点では安定した接合が得られていない。
【0005】
よって、本発明は、少なくとも一部がめっきされた金属に対して安定した接合処理を実現することに適しためっき金属接合方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の第1の観点は、複数の金属の接合処理を行うめっき金属接合方法であって、接合処理部が、音波振動及び/又は超音波振動を利用して複数の金属の接合処理を行う接合ステップを含み、前記複数の金属の一部又は全部は、接合処理が行われる接合箇所においてめっきがなされており、前記接合ステップにおいて、前記接合処理部は、前記めっきの少なくとも一部を利用して接合処理を行い、及び/又は、前記めっきの少なくとも一部が除かれた状態の金属を利用して接合処理を行う。
【0007】
本願発明の第2の観点は、第1の観点のめっき金属接合方法であって、前記接合ステップにおいて、前記接合処理部は、接合箇所において、めっきがなされた金属の溶解温度を超えない温度で接合処理を行う。
【0008】
本願発明の第3の観点は、第1又は第2の観点のめっき金属接合方法であって、前記接合ステップにおいて、前記接合処理部は、接合箇所において、めっきの溶解温度を超えない温度で接合処理を行う。
【0009】
本願発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点のめっき金属接合方法であって、前記接合箇所は、第1接合箇所と、前記第1接合箇所に続いて接合処理が行われる第2接合箇所を含み、前記接合ステップにおいて、前記接合処理部は、前記第1接合箇所に対して接合処理を行い、前記第1接合箇所及び前記第2接合箇所を冷却して、前記第2接合箇所に対して接合処理を行う。
【0010】
本願発明の第5の観点は、第1から第4のいずれかの観点のめっき金属接合方法であって、前記接合ステップにおいて、前記接合箇所は、前記接合処理部及び/又は加圧部によって圧力を加えられており、前記接合箇所におけるめっきの少なくとも一部は、音波振動及び/又は超音波振動並びに圧力によって移動する。
【0011】
本願発明の第6の観点は、第5の観点のめっき金属接合方法であって、前記接合ステップにおいて、前記接合箇所におけるめっきの少なくとも一部は、音波振動及び/又は超音波振動並びに圧力によって前記接合箇所から排出され、前記接合処理部は、めっきの少なくとも一部が排出された状態で、複数の金属の接合処理を行う。
【0012】
本願発明の第7の観点は、第1から第6のいずれかの観点のめっき金属接合方法であって、前記複数の金属は、第1金属と、第2金属を含み、前記第1金属及び前記第2金属の少なくとも一方は、めっきがなされており、前記接合ステップにおいて、前記接合処理部は、前記第1金属が曲げられて前記第2金属を挟んだ状態で前記接合処理を行う。
【0013】
本願発明の第8の観点は、複数の金属の接合処理を行うめっき金属接合装置であって、音波振動及び/又は超音波振動を利用して複数の金属の接合処理を行う接合処理部を備え、前記複数の金属の一部又は全部は、接合処理が行われる接合箇所においてめっきがなされており、前記接合処理部は、前記めっきの少なくとも一部を利用して接合処理を行い、及び/又は、前記めっきの少なくとも一部が除かれた状態の金属を利用して接合処理を行う。
【0014】
なお、本願発明を、音波振動及び/又は超音波振動を利用して接合処理を行う金属接合装置を制御するためのコンピュータを制御して本願発明の各観点を実現するためのプログラム、及び、そのプログラムを記録するためのコンピュータ読み取り可能な記録媒体として捉えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の各観点によれば、めっきされた金属であっても、音波振動及び/又は超音波振動を利用して、めっきを利用したりめっきを排除して金属間の接合を行ったりすることにより、安定した接合処理を実現することができる。特に、音波振動及び/又は超音波振動により低いエネルギーで低温での接合ができるため、例えば水素脆性を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本願発明の実施の形態に係るめっき金属加工装置1の(a)構成の一例を示すブロック図、(b)制御信号の一例を示すタイムチャート、及び、(c)動作の一例を示すフロー図である。
【
図2】
図1(a)のめっき金属接合装置1の実際の機械の一例を説明するための図である。
【
図3】
図1の第1金属19及び第2金属21が亜鉛めっきされた鉄である場合の第1の接合例を示す図である。
【
図4】
図1の第1金属19及び第2金属21が亜鉛めっきされた鉄である場合の第2の接合例を示す図である。
【
図5】本願発明の他の実施の形態に係るめっき金属加工装置31の(a)構成の一例を示すブロック図、(b)動作の一例を示すフロー図、及び、(c)動作を具体的に説明するための図である。
【
図6】
図5の第3金属59が亜鉛めっき鋼板であり、第4金属61がハイテンである場合の接合例を示す図である。
【
図7】一般金属と亜鉛めっき鋼板の場合について、荷重が一定のときの振幅と負荷の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本願発明の実施例について述べる。なお、本願発明の実施の形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
図1は、本願発明の実施の形態に係るめっき金属接合装置1の(a)構成の一例を示すブロック図、(b)制御信号の一例を示すタイムチャート、及び、(c)動作の一例を示すフロー図である。
【0019】
図1(a)を参照して、めっき金属接合装置1は、制御部3と、接合処理部5(本願請求項の「接合処理部」の一例)と、加圧部7を備える。接合処理部5は、電気信号発振部9と、振動子部11と、右側駆動部13と、左側駆動部15と、ホーン17を備える。
【0020】
制御部3は、制御信号を利用して、めっき金属接合装置1の動作を制御することができる。
【0021】
接合処理部5は、音波振動(20kHz未満の振動)及び/又は超音波振動(20kHz以上の振動)を利用して、第1金属19と第2金属21の接合処理を行う。接合処理部5が接合処理を行う箇所を、接合箇所という。第1金属19と第2金属21の少なくとも一方は、接合箇所がめっき処理されている。第1金属19及び第2金属21は、例えば銅、アルミ、鉄(スチール)などであり、めっき処理は、例えばはんだ、スズ、亜鉛、ニッケルなどである。
【0022】
接合処理部5において、電気信号発振部9は、音波振動及び/又は超音波振動に対応する電気信号を発振する。振動子部11は、電気信号を、機械振動に変換する。右側駆動部13及び左側駆動部15は、ホーン17を両側から支持して回転させる。右側駆動部13は、振動子部11による機械振動をホーン17に伝える。ホーン17は、共振する。これにより、接合処理部5は、音波振動及び/又は超音波振動を利用して接合処理を実現することができる。
【0023】
加圧部7(本願請求項の「加圧部」の一例)は、第1金属19及び第2金属21の下側に存在し、上下動することができる。また、加圧部7は、必要に応じて、ホーン17の回転に合わせて、第1金属19及び第2金属21を送ることができる。加圧部7が上昇すると、ホーン17と加圧部7が、第1金属19及び第2金属21を挟んだ状態となる。加圧部7は、ホーン17と加圧部7が第1金属19及び第2金属21を挟んだ状態で、加圧することができる。加圧部7は、下降すると、第1金属19及び第2金属21から離れる。
【0024】
図1(b)は、制御信号の一例を示す。上から、第1制御信号、第2制御信号、第3制御信号及び第4制御信号という。第1制御信号は、加圧部7の上下動を制御するためのものであり、加圧部7は、第1制御信号が0のときは最も下に位置し、第1制御信号が1のときは最も上に位置する。第2制御信号は、加圧部7が接合箇所を加圧するためのものであり、第2制御信号が0のときは加圧せず、第2制御信号が1のときに最も加圧する。第3制御信号は、ホーン17を振動させるためのものであり、第3制御信号が0のときは振動させず、第3制御信号が1のときは振動させる。第4制御信号は、右側駆動部13及び左側駆動部15によるホーン17の回転並びに/又は加圧部7により、第1金属19及び第2金属21を送るためのものであり、第4制御信号が0のときは移動させず、第4制御信号が1のときに移動させる。
【0025】
図1(c)は、めっき金属接合装置1の動作の一例を示すフロー図である。制御部3は、第1制御信号を1として加圧部7を上昇させる(ステップSTA1、
図1(b)の時刻t
1)。制御部3は、第2制御信号を1としてホーン17と加圧部7との間での加圧を開始させる(ステップSTA2、時刻t
2~t
3)。
【0026】
制御部3は、第3制御信号を、加工時間(時刻t3~t4)に1として音波振動及び/又は超音波振動を利用した接合処理を行う(ステップSTA3)。制御部3は、接合処理を終了するか否かを判断する(ステップSTA4)。接合処理を終了するのであれば、ステップSTA7に進む。接合処理を継続するならば、冷却時間(時刻t4~t5)にホーン17と加圧部7との間で加圧保持させたままとし(ステップSTA5)、ホーン17及び/又は加圧部7によって第1金属19及び第2金属21を送り(ステップSTA6、時刻t5~t6)、ステップSTA3に戻る。ステップSTA3~ステップSTA6は、予め定められた回数繰り返される(時刻t6~t10参照)。
【0027】
ステップSTA7において、制御部3は、第2制御信号を0としてホーン17と加圧部7との間での加圧を停止させる(時刻t
10~t
11)。制御部3は、第1制御信号を0として加圧部7を下降させる(ステップSTA8、
図1(b)の時刻t
12)。
【0028】
図2は、
図1(a)のめっき金属接合装置1の実際の機械の一例を説明するための図である。
図2(a)は、実際の機械の全体を示す。
図2(b)は、
図2(a)においてアクチュエータの部分を示す。
【0029】
図2(c)は、音波ロータリーシステムの概要を示す図である。横振動(水平方向)又は縦振動(ラジアル方向)のモードで振動するホーンが、回転しながらパーツに音波エネルギーを伝えることで、連続して金属同士を接合したり、樹脂同士を溶着したりする。
【0030】
図2(d)及び(e)は、それぞれ、横振動及び縦振動を説明するための図である。ホーンの振動モードは、ホーンの形状により変化する。振動モードは、例えば、横振動モードと縦振動モードがある。横振動モードは、一波長を基本としたホーンのセンターの振動振幅最大点を中心として、振動が平行する水平方向の横振動として伝達される。主として音波金属接合に使用される。縦振動モードは、半波長を基本としたホーンのセンターの応力最大点を中心として、振幅がラジアル方向の縦振動へ分岐される。主として音波樹脂溶着に使用される。
【0031】
図3は、第1金属19及び第2金属21が亜鉛めっきされた鉄である場合の第1の接合例を示す図である。
図3(a)に示すように、第1金属19の縁を折り返して、第2金属を挟んでいる。具体的には、亜鉛めっき鋼板の縁を折り返して、同じ材質の亜鉛めっき鋼板を挟んで固定し、先に説明したロータリー間欠発振式装置(ホーンを間欠的に発振させつつ、ホーンを発振させていない間にモータ回転を行うもの)でシーム接合した。亜鉛めっき鋼板の厚みは0.6mm、外寸は200mmである。接合条件は、周波数15kHz、振動振幅20μm、加圧力1000N、発信時間1.0sec、冷却時間1.0sec、移動時間0.3sec、シーム幅は5mmである。
図3(b)は、接合箇所を示す図である。
図3(c)は、接合箇所の断面図を示す。各層は密着していることを示す。
図3(d)は、接合後に折り曲げて剥がれていないことを確認したものである。
図3(e)は、
図3(d)の拡大図である。
【0032】
図4は、第1金属19及び第2金属21が亜鉛めっきされた鉄である場合の第2の接合例を示す図である。亜鉛めっき鋼板のケースを、同じ材質の蓋で四方向を折り返し固定した部分をロータリー間欠発振式装置でシーム結合してタンクを作製した。接合条件等は、
図3と同じである。
図4(a)は、接合前の蓋を折り返してケースを固定した状態を示す。
図4(b)は、シールド結合された状態を示す。
図4(c)は、ケースを示す。
図4(d)は、蓋を示す。
図4(e)は、実際に作成したタンクを示す。
図4(e)のタンクを60℃の温水中に浸漬してもエアーが漏れず、シール接合が可能であることを確認した。
図4(f)は、同じ条件で、折り返さずに固定した場合のシール結合の部分の拡大図である。矢印の部分に、余った亜鉛のはみだし部分が認められる。この場合でも、温水75℃中の100mm水面下でも、シール結合に問題は認められなかった。
【0033】
このように、本願発明によれば、接合箇所を1回又は複数回折り返して重ねた構造の上から音波振動及び/又は超音波振動でホーンを発振させながら潰す「フォーミング加工」と同時に、音の効果で余っためっきやボイド(エアーなど)を接合箇所外へ排出させながら「接合」する。密着接合及び排出が行われることで「シール」も確保される。なお、かしめ接合では、リベットを使用してもよい。
【0034】
さらに、本願発明によれば、冷却時間(
図1の冷却時間t
4~t
5、t
7~t
8参照)において、加振を停止してパーツへの加圧を保持できることで、接合箇所を冷却して凝固させて「ハーメチックシール」状態を固定することができる。
【0035】
さらに、本願発明によれば、音エネルギーの励起による原子の自由運動と自由移動が接合後に残留応力をなくし、ウィスカや電食(電蝕)の発生を防ぐことができる。
【0036】
図3及び
図4の実験について、説明を追加する。亜鉛の溶解温度は約420℃であり、鉄の溶解温度は1000℃以上である。
図3及び
図4のように亜鉛めっき鋼板では、鉄の溶解温度まで亜鉛の温度を上げずに亜鉛だけを溶解させるか、或いは、溶かさずに拡散接合で接合する。これは、接合条件の供給エネルギーの調整により実現することができる。これにより、例えば「水素脆性」を回避することが期待される。すなわち、本願発明によれば、低いエネルギーで低温で接合ができることから、水素脆性の発生を抑えることができる。さらに、本願発明は、常温大気中で実現できる。さらに、本願発明によれば、「フォーミング加工」、「接合」及び「シール」を同時に実現することができる。なお、抵抗溶接やアーク溶接では、水素脆性の問題で安定した接合が得られていないことから、本願発明は極めて有利な効果を有することが認められる。
【0037】
このように、外側部の折り返しは、あってもよく、なくてもよい。外側部の折り返しがある場合には、外側部の折り返しはあるときに、その部分の接合はされないが、その内側が別途シールされる。例えば、折り返しの部分は接合されないが、その内側が別途シールされる。また、外側部の折り返しは、全周でもよく、一部でもよい。また、必要な部分がシールできていればよく、全ての接合にシールされている必要はない。
【0038】
図5は、本願発明の他の実施の形態に係るめっき金属接合装置31の(a)構成の一例を示すブロック図、(b)動作の一例を示すフロー図、及び、(c)動作を具体的に説明するための図である。
【0039】
図5(a)を参照して、めっき金属接合装置31は、制御部33と、接合処理部35(本願請求項の「接合処理部」の一例)と、移動部37と、圧力調整部39を備える。接合処理部35は、ホーン部41と、接触部43と、第1支持部45と、第2支持部47と、第1振動子部49と、第2振動子部51と、第1発振部53と、第2発振部55と、連結信号配線部57を備える。
【0040】
制御部33は、制御信号を利用して、めっき金属接合装置31の動作を制御することができる。移動部37は、ホーン部41及び接触部43の上下動を制御する。接触部43は、下降して、第3金属59及び第4金属61のうち上に位置する第3金属59に接触する。圧力調整部39は、接触部43による圧力を調整する。
【0041】
接合処理部35は、音波振動及び/又は超音波振動を利用して、第3金属59と第4金属61の接合処理を行う。接合処理部35が接合処理を行う箇所を、接合箇所という。第3金属59及び第4金属61の少なくとも一方は、接合箇所がめっき処理されている。第3金属59及び第4金属61は、例えば銅、アルミ、鉄(スチール)などであり、めっき処理は、例えばはんだ、スズ、亜鉛、ニッケルなどである。
【0042】
接合処理部35において、第1発振部53及び第2発振部55は、連結信号配線部57を利用して、音波振動及び/又は超音波振動に対応する電気信号を発振する。第1振動子部49及び第2振動子部51は、それぞれ、第1発振部53及び第2発振部55の電気信号を、機械振動に変換してホーン部41に伝える。ホーン17は、第1支持部45及び第2支持部47により支持されており、共振する。これにより、接合処理部35は、音波振動及び/又は超音波振動を利用して接合処理を実現することができる。
【0043】
図5(b)は、めっき金属接合装置31の動作の一例を示すフロー図である。移動部37は、ホーン部41を下降させて接触部43を第3金属59に接触させる(ステップSTB1)。圧力調整部39は、接触部43により第3金属59及び第4金属61に対する加圧を開始する(ステップSTB2)。接合処理部35は、ホーン部41を発振する(ステップSTB3)。接合処理部35は、発振を終了するか否かを判断する(ステップSTB4)。発振を終了しないならば、ステップSTB3の処理を続ける。発振を終了するならば、接合処理部35は、ホーン部41の発振を終了して、圧力調整部39は接触部43による加圧を停止し(ステップSTB5)、移動部37はホーンを上昇する(ステップSTB6)。
【0044】
図5(c)は、ホーン部41の発振の一例を説明する図である。ホーン部41は、複数のノーダル・ポイント(振動が極小となる部分)と、ノーダル・ポイントの間に振動が極大となる部分が存在する。第1支持部45及び第2支持部47は、ノーダル・ポイントに設けられる。接触部43は、振動が極大となる部分に設けられる。
図5(c)では、ノーダル・ポイントが偶数(4個)である場合の一例を示す。第1発振部53及び第2発振部55は、連結信号配線部を利用して、逆位相の電気信号を発振する。すると、各ノーダル・ポイントでは、伸縮が交互に出現する。このようにして、接合処理部35は、音波振動及び/又は超音波振動を利用して、第3金属59と第4金属61の接合処理を行うことができる。
【0045】
図6は、第3金属59が亜鉛めっき鋼板であり、第4金属61がハイテンである場合の接合例を示す図である。
図6(a)は、使用した機器の外観を示す。
図6(b)は、接合の概要を示す図である。第4金属61の上に第3金属が位置して、上から接合処理を行う。
図6(c)は、接合後に折り曲げて剥がれていないことを確認したものである。第6(d)は、
図6(c)の拡大図である。
図6(e)は、接合箇所の断面図を示す。接触箇所では、亜鉛めっきが排除されて接合処理がなされている。
【0046】
特にはんだやすずでめっき処理がなされている場合に、
図6のような接合処理が有効であると考えられる。すなわち、はんだやすずのめっきの溶解温度は200℃前後と低く、鉄の溶解温度は1000℃以上である。そのため、音エネルギーでめっきを溶かして接合箇所から排出し、中の金属どうしの例えば銅や真鍮を直接接合することで強度を出すことができる。なお、はんだやすずのめっきの溶解温度は低いが、両支持構造(剛性)が、音の特性である排出効果を引き出し、接合することができる。
【0047】
なお、本願発明では、すべての金属がめっき処理されていてもよく、一部のみがめっき処理されていてもよい。
【0048】
また、
図5及び
図6の場合に、発振器は、1台でもよく、2台でもよい。
【0049】
図7は、一般金属と亜鉛めっき鋼板の場合について、荷重が一定のときの振幅と負荷の関係を示す図である。一般的に音波及び/又は超音波を利用した接合では、接合ホーンの振動振幅を大きくすると発振器への負荷は大きくなる(
図7の一般金属の傾向を参照)。しかし、亜鉛めっき鋼板の接合では、亜鉛と鋼板の融点の差が大きく〈亜鉛めっき鋼板どうしの接合〉と〈亜鉛めっきを含む金属の接合〉の場合を区別することが必要で、それぞれに負荷が異なる。
【0050】
亜鉛めっき鋼板どうしの接合の場合は、
図7の亜鉛めっき鋼板の傾向となる。すなわち、振幅が大きくなると負荷が小さくなり、振幅が小さくなると負荷が大きくなる。亜鉛の融点は約420℃であり、低
温でかつ振動振幅を大きくすることで比較的簡単に原子が変位する。つまり振動振幅が大きいほど、融点に近づきやすくなりホーンの運動が軽やかで負荷は小さくなる。鋼板の温度上昇は不必要である。
【0051】
亜鉛めっき鋼板と他の金属との接合の場合は、
図7の一般金属の傾向となる。すなわち、振幅が大きくなると負荷が大きくなり、振幅が小さくなると負荷が小さくなる。接合強度の確保のためには、亜鉛めっき層を排除し、中の金属どうしを直接接合する必要がある。接合条件としては大きな振動振幅が必要でかつ荷重も大きくなり、それに比例して負荷も大きくなる。サウンドパワーの音波及び/又は超音波による接合のプロセスを理解して上手に利用することで”水素脆化”が発生しない、大気中常温の環境で残留応力のない綺麗な仕上がりの接合が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1,31 めっき金属接合装置、3,33 制御部、5,35 接合処理部、7 加圧部、9 電気信号発振部、11 振動子部、13 右側駆動部、15 左側駆動部、17 ホーン、19 第1金属、21 第2金属、37 移動部、39 圧力調整部、41 ホーン部、43 接触部、45 第1支持部、47 第2支持部、49 第1振動子部、51 第2振動子部、53 第1発振部、55 第2発振部、57 連結信号配線部、59 第3金属、61 第4金属