IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パウダーテック株式会社の特許一覧

特許7335670フェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材、電子材料又は電子部品
<>
  • 特許-フェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材、電子材料又は電子部品 図1
  • 特許-フェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材、電子材料又は電子部品 図2
  • 特許-フェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材、電子材料又は電子部品 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】フェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材、電子材料又は電子部品
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
C01G49/00 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023510760
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2022010101
(87)【国際公開番号】W WO2022209640
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2021062310
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】金子 達登
(72)【発明者】
【氏名】安賀 康二
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-101509(JP,A)
【文献】特開2015-151287(JP,A)
【文献】特開2017-097252(JP,A)
【文献】特開2015-157727(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065923(WO,A1)
【文献】特開2011-170727(JP,A)
【文献】特開平4-154869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00-49/08
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44
G03G 9/00- 9/113
G03G 9/16
CAPlus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル相を主相とする球状又は多面体状のフェライト粒子を少なくとも含むMn-Zn系フェライト粉末であって、
前記フェライト粒子は、凸多角形状の輪郭を有するステップ構造を表面に備え、
前記フェライト粉末は、そのBET比表面積が0.35m/g以上10.00m/g以下であり、
酸化亜鉛(ZnO)相の含有量が0質量%以上0.8質量%以下である、フェライト粉末。
【請求項2】
前記フェライト粉末は、マンガン(Mn)含有量が3.5質量%以上20.0質量%以下、亜鉛(Zn)含有量が1.0質量%以上18.0質量%以下、及び鉄(Fe)含有量が43.0質量%以上65.0質量%以下のマンガン(Mn)-亜鉛(Zn)系フェライトの組成を有する、請求項1に記載のフェライト粉末。
【請求項3】
前記ステップ構造が2段以上のステップを有する、請求項1又は2に記載のフェライト粉末。
【請求項4】
前記フェライト粉末は、その形状係数SF-1が100以上110以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフェライト粉末。
【請求項5】
前記フェライト粉末中の球状様ステップ粒子の含有割合(Ps)が50%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のフェライト粉末。
【請求項6】
前記スピネル相の結晶子径が1nm以上100nm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のフェライト粉末。
【請求項7】
前記スピネル相の格子定数が8.350Å以上8.475Å以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のフェライト粉末。
【請求項8】
前記フェライト粉末は、その体積粒度分布における50%径(D50)が0.10μm以上20.00μm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のフェライト粉末。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のフェライト粉末と、樹脂と、を含む、フェライト樹脂複合材料。
【請求項10】
請求項9に記載のフェライト樹脂複合材料を含む、電磁波シールド材、電子材料又は電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材、電子材料又は電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト粉末と樹脂とからなる複合材料は、電磁波シールド材を始め、様々の用途で多用されている。このような複合材料は、フェライト粉末と樹脂とを混練することで作製される。複合材料はシートなどの形状に成形されて複合体(成形体)となる。このときフェライト粉末を構成する粒子の形状が球形に近いと、成形時の流動性が高くなり、複合体中のフェライト粉末の充填率が高くなる。そのため成形性が良好になるとともに、電磁波遮蔽性能等の特性が良好になる。このような観点から球状又は多面体状の粒子で構成されるフェライト粉末(粒子)が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1(国際公開第2017/212997号)には、平均粒径が1~2000nmの単結晶であり且つ真球状の粒子形状を備えるフェライト粒子であって、当該フェライト粒子は、Znを実質的に含有せず、Mnを3~25重量%、Feを43~65重量%を含有し、当該フェライト粒子とバインダー樹脂とからなる成形体によって測定した複素透磁率の実部μ’が100MHz~1GHzの周波数帯域において極大値を有することを特徴とするフェライト粒子が開示され、該フェライト粒子を電子機器の電磁波シールド材料に用いると、幅広い周波数帯域の電磁波を周波数に関係なく安定して遮蔽できる旨が記載されている(特許文献1の請求項1及び[0078])。
【0004】
特許文献2(特開2016-60682号公報)には、粒径11μm未満のフェライト粒子を15~30重量%含有し、かつ体積平均粒径が10~50μmであることを特徴とする真球状フェライト粉が開示され、フィラーとして用いられたときの充填性及び成型性が良好で、優れたハンドリング性を有し、かつ高抵抗であることから、この球状フェライト粉を樹脂と共に樹脂組成物とし、さらに成型した成型体は、電磁波吸収用のIC封止剤を始めとする種々の用途に使用可能である旨が記載されている(特許文献2の請求項1及び[0093])。
【0005】
特許文献3(国際公開第2018/061327号)には、平均粒径が1~2000nmの単結晶体であり、且つ、多面体状の粒子形状を備え、Niを5~10重量%含有し、Znを15~30重量%含有し、Cuを1~5重量%含有し、Feを25~50重量%含有することを特徴とするNi-Zn-Cu系フェライト粒子が開示され、該フェライト粒子は、高い飽和磁化と高い電気抵抗を両立して備えることから、磁気フィラーや成形体原料として好適である旨が記載されている(特許文献3の請求項1及び[0089])。
【0006】
特許文献4(特開2006-160560号公報)には、(a)可溶性イオンの含有量が5ppm以下、(b)平均粒子径が10~50μmの範囲であり、(c)X線回折による結晶構造がスピネル構造を示す球状焼結フェライト粒子が開示され、該球状焼結フェライト粒子とシリカ粒子からなる充填材を含有する半導体封止用樹脂組成物は、低粘度で良好な流動特性を有し、しかも電磁波遮蔽機能を有するようになり、この樹脂組成物を封止材料として用いることにより、得られる半導体装置はEMCに優れたものとなる旨が記載されている(特許文献4の請求項1及び[0023])。
【0007】
特許文献5(特開平04-304700号公報)には、平均粒径が50~150μmの球状粒子であることを特徴とするMn-Zn系フェライト粒子粉末からなる電波吸収体材料用粉末が開示され、平均粒径を150μm以下の球状とすることにより、従来、材料の大粒径化の支障となっていた射出成形時のゲートの詰まりを流動性の向上により改善できる旨が記載されている(特許文献5の請求項1及び[0008])。
【0008】
また電磁波シールド材等の複合材とは異なる用途に用いられるものではあるが、特許文献6(特許第5921801号公報)には、原料としてのFe粉末と、このFe粉末10kg当たり10~50gの副原料としての炭酸塩と、還元剤としての混合物を顆粒化した後、1000℃以下の温度で焼成して、粒子の表面に同心円状に広がった隆起部分の集合であるステップ状の凹凸を有するキャリア芯材を製造することを特徴とする、電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法が開示され、該キャリア芯材は球形度が0.8以上である旨が記載されている(特許文献6の請求項1及び[0024])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/212997号
【文献】特開2016-60682号公報
【文献】国際公開第2018/061327号
【文献】特開2006-160560号公報
【文献】特開平04-304700号公報
【文献】特許第5921801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、球状又は多面体状のフェライト粉末を用いることで、複合材料や複合体としたときの成形性及び充填性の改善を図ることが提案されている。しかしながら、本発明者らが調べたところ、このようなフェライト粉末と樹脂とを用いて複合体を作製すると、複合体からフェライト粒子が脱落し易いとの問題のあることが分かった。特に複合体を加工する際にフェライト粒子の脱落(脱離粒子)が数多く見つかった。このようなフェライト粒子の脱落は、複合体表面の平滑性劣化をもたらすため、好ましくない。
【0011】
粒子脱落の原因を究明するにあたり、球状や多面体状のフェライト粒子は、その表面が滑らか過ぎるため、樹脂との密着力に劣ると本発明者らは考えた。さらに検討を進めた結果、球状や多面体状のフェライト粒子あっても、その表面に多角形状のステップ構造を設けることで樹脂との密着力が改善すること、及びこのような粒子を備えたフェライト粉末は、これを複合材料や複合体に適用したときに、成形性及び充填性を損なうことなく、粒子脱落を抑制できるとの知見を得て、本発明を完成させた。
【0012】
したがって本発明は、100MHzよりも低い周波数において磁気損失を抑制し、Mnを同程度含むMn系フェライトよりも透磁率μ‘が高く、かつ複合材料や複合体に適用したときに成形性及び充填性を損なうことなく粒子脱落を抑制できるフェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材料、電子材料又は電子部品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記(1)~(10)の態様を包含する。なお、本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0014】
(1)スピネル相を主相とする球状又は多面体状のフェライト粒子を少なくとも含むMn-Zn系フェライト粉末であって、
前記フェライト粒子は、凸多角形状の輪郭を有するステップ構造を表面に備え、
前記フェライト粉末は、そのBET比表面積が0.35m/g以上10.00m/g以下であり、
酸化亜鉛(ZnO)相の含有量が0質量%以上0.8質量%以下である、フェライト粉末。
【0015】
(2)前記フェライト粉末は、マンガン(Mn)含有量が3.5質量%以上20.0質量%以下、亜鉛(Zn)含有量が1.0質量%以上18.0質量%以下、及び鉄(Fe)含有量が43.0質量%以上65.0質量%以下のマンガン(Mn)-亜鉛(Zn)系フェライトの組成を有する、上記(1)のフェライト粉末。
【0016】
(3)前記ステップ構造が2段以上のステップを有する、上記(1)又は(2)のフェライト粉末。
【0017】
(4)前記フェライト粉末は、その形状係数SF-1が100以上110以下である、上記(1)~(3)のフェライト粉末。
【0018】
(5)前記フェライト粉末中の球状様ステップ粒子の含有割合(Ps)が50%以上である、上記(1)~(4)のいずれかのフェライト粉末。
【0019】
(6)前記スピネル相の結晶子径が1nm以上100nm以下である、上記(1)~(5)のいずれかのフェライト粉末。
【0020】
(7)前記スピネル相の格子定数が8.350Å以上8.475Å以下である、上記(1)~(6)のいずれかのフェライト粉末。
【0021】
(8)前記フェライト粉末は、その体積粒度分布における50%径(D50)が0.10μm以上20.00μm以下である、上記(1)~(7)のいずれかのフェライト粉末。
【0022】
(9)上記(1)~(8)のいずれかのフェライト粉末と、樹脂と、を含む、フェライト樹脂複合材料。
【0023】
(10)上記(9)のフェライト樹脂複合材料を含む、電磁波シールド材、電子材料又は電子部品。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高周波において磁気損失を抑制し、かつ複合材料や複合体に適用したときに成形性及び充填性を損なうことなく粒子脱落を抑制できるフェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材料、電子材料又は電子部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例サンプル(例3)の表面SEM像を示す。
図2】ステップ構造の断面模式図を示す。
図3】比較例サンプル(例15)の表面SEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0027】
<<1.フェライト粉末>>
本実施形態のフェライト粉末は、スピネル相を主相とする球状又は多面体状のフェライト粒子を少なくとも含むMn-Zn系フェライト粉末である。このフェライト粒子は、凸多角形状の輪郭を有するステップ構造を表面に備える。またフェライト粉末は、そのBET比表面積が0.35m/g以上10.00m/g以下であり、酸化亜鉛(ZnO)相の含有量が0質量%以上0.8質量%以下である。
【0028】
本実施形態のフェライト粉末は、複数のフェライト粒子から構成される。すなわちフェライト粉末は複数のフェライト粒子の集合体である。フェライト粒子はスピネル相を主相とする。スピネル相は、MO・Fe(Mは遷移金属元素)の化学量論組成を有する化合物であり、立方晶のスピネル型結晶構造を有する。しかしながら本実施形態のフェライト粉末は、化学量論組成のスピネル相を含むものに限定されない。スピネル型結晶構造を保つ限り、組成のずれは許容される。
【0029】
本実施形態のフェライト粉末は、球状又は多面体状のフェライト粒子(球状様ステップ粒子)を少なくとも含む。すなわちフェライト粉末を構成するフェライト粒子は、その一部が球状様ステップ粒子であってもよく、あるいは全部が球状様ステップ粒子であってもよい。
【0030】
フェライト粉末に含まれる粒子の形状を球状又は多面体状とすることで、この粉末の成形性及び充填性をより優れたものとすることができる。これは、球状又は多面体状の粒子は、成形時に他の粒子と接触したときに滑らかに回避できるからである。そのため成形時の流動性を良好にするとともに密に充填する。これに対して板状又は針状といった異方形状あるいは不定形状を有する粒子は、成形性及び充填性に劣る。
【0031】
フェライト粉末が飽和蒸気圧の高い成分を含まないとき、例えばマンガン(Mn)フェライトの組成を有するときには、粒子が球状になりやすい。これに対して、亜鉛(Zn)やストロンチウム(Sr)等の飽和蒸気圧の高い成分をフェライト粉末が含むときには、粒子は多面体状になり易い。これは、フェライト粉末製造時の高温加熱(溶射)工程で、飽和蒸気圧の高い成分が粒子内部から外部に移動してフラックスとして機能し、それにより粒子が結晶構造を反映した多面体状に成長しやすくなるためと考えられている。しかしながら、飽和蒸気圧の高い成分をフェライト粉末が含む場合であっても、製造時に加えるバインダー樹脂の量を調整することで、球状粒子を得ることができる。
【0032】
多面体状の粒子は、基本的に複数の多角形が立体的に組み合わさった形状を有している。多面体を構成する多角形は、典型的には、三角形、四角形、六角形、八角形、十角形又はこれらの組み合わせからなる。このような多面体として、例えば四角形と六角形と八角形との組み合わせからなる斜方切頂立方八面体が挙げられる。また多面体は面の数が多いほど球に近くなる。したがって多面体状粒子は、好ましくは10面体以上、より好ましくは12面体以上、さらに好ましくは14面体以上の形状を有する。また多面体状粒子は、典型的には100面体以下、より典型的には72面体以下、さらに典型的には24面体以下の形状を有する。
【0033】
なお多角形を構成する直線の一か所または複数箇所が切れている粒子や、直線の一部が曲線となっている粒子も、粒子全体を見たときに多面体状と認識できる程度であれば、多面体状粒子に含まれるものとする。また多角形を構成する直線に細かくギザギザが入っている粒子も、多面体状粒子に含まれるものとする。さらに球状様ステップ粒子はその表面にステップ構造を有しており、厳密に言うと、完全な球状又は多面体状とはならないことがある。しかしながら、このステップ構造は粒子の寸法に比べて格段に小さい。したがって、このような微視的なステップ構造を有していても、巨視的に見て球又は多面体の形状を有する粒子を、球状又は多面体状の粒子とする。
【0034】
本実施形態のフェライト粉末は、これに含まれるフェライト粒子(球状様ステップ粒子)がステップ構造を備える。このステップ構造を、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の一態様における球状様ステップ粒子の表面SEM像である。これらを見て分かるように、粒子表面は平滑ではなく、ステップ構造が形成されている。このようなステップ構造を有する粒子が含まれることで、フェライト粉末を複合材料や複合体に適用したときに、樹脂との密着力が向上して粒子脱落が抑制される。その詳細なメカニズムは不明であるが、粒子表面にステップ構造が存在することで、粒子の表面積、すなわち樹脂との接触面積が増大し、その結果、粒子と樹脂との間の化学的結合力が高くなると推測している。またステップ構造の段差で粒子と樹脂とが嵌合することで、樹脂のアンカー効果が働き、粒子と樹脂との間の物理的結合力が高くなるとも推測している。
【0035】
ステップ構造はフェライト粒子表面において凸多角形状の輪郭を有する。すなわち粒子を表面視したときに、ステップ構造はその外形(輪郭)が凸多角形状である。換言するに、直線の組み合わせでもって粒子表面の一領域を取り囲むようにステップ構造が設けられているということもできる。このようなステップ構造を設けることで、粒子の脱落をより効果的に防ぐことが可能となる。ここで凸多角形とは、任意の内角が180℃以下の多角形である。また内部または境界にある任意の二点間を結ぶ線分が外に出ることがない多角形と言うこともできる。すなわち星形などの凹多角形(非凸多角形)ではない。ステップ構造の輪郭は、凸多角形状である限り限定されない。しかしながらフェライトの結晶構造を反映して、輪郭は、典型的には三角形、四角形、六角形、八角形、十角形である。またフェライト粒子は、その表面に複数のステップ構造を備えていてもよい。これにより、粒子の脱落をより効果的に防ぐことができる。各フェライト粒子が備えるステップ構造は、好ましくは4個以上50個以下、より好ましくは4個以上30個以下である。
【0036】
ステップ構造を構成するステップは1段であってもよく、あるいは多段であってもよい。しかしながらステップ段数が多いほど、粒子の脱落をより効果的に防ぐことができる。したがってステップ段数は、2段以上が好ましく、4段以上がより好ましい。一方で、ステップ段数が過度に多いと、フェライト粉末の流動性が劣化する恐れがある。したがってステップの段数は、100段以下が好ましく、80段以下がより好ましい。なおステップ構造が多段ステップで構成される場合、上段にあるステップが取り囲む領域は、その下段にあるステップが取り囲む領域より一回り小さい。すなわちステップ構造は上段ほど面積が小さい凸多角形板の積層体からなるということもできる。
【0037】
ステップ構造が多段ステップから構成される場合、ステップの平均間隔(Hs)は、0.001μm以上0.2μm以下(1nm以上200nm以下)が好ましい。ここで平均間隔(Hs)は、ステップ構造の隣接する断差(ステップ)間の距離の平均値である。これを、図4を用いて説明する。図4は多段ステップ構造の断面模式図を示す。図4に示されるように多段ステップ構造では複数の段差が存在し、隣接する段差はある距離を隔てて離れている。この隣接する断差間の距離の平均値をステップの平均間隔(Hs)とする。平均間隔(Hs)は、走査電子顕微鏡(SEM)などを用いてフェライト粒子表面を観察することで求めることができる。Hsは、3nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。またHsは、100nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましく、25nm以下が特に好ましく、20nm以下が最も好ましい。
【0038】
体積平均粒径(D50)が2.0μm以上の場合、フェライト粉末中の球状様ステップ粒子の含有割合(Ps)は、個数基準で、3%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。Psが高ければ高いほど、樹脂との密着力が向上して粒子脱落が抑制される。そのためPsは高いほど好ましい。しかしながら、典型的には90%以下、より典型的には80%以下、さらに典型的には70%以下である。なおPsはフェライト粉末を走査電子顕微鏡(SEM)などで観察することで求めることができる。またPsはフェライト粉末製造時の条件を制御することで調整が可能である。
【0039】
一方で体積平均粒径(D50)が0.1μm以上2.0μm未満の場合、フェライト粉末中の球状様ステップ粒子の含有割合(Ps)は、個数基準で、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。Psが高ければ高いほど、樹脂との密着力が向上して粒子脱落が抑制される。しかしながら樹脂からの脱離で問題となるのは0.3μm以上の粒子である。体積平均粒径が0.1μm以上2μm未満の範囲内であれば粒径が比較的小さくBET比表面積が大きい。そのためPsが0.5%以上の範囲を満たしていればよい。Psは、典型的には95%%以下である。なおPsはフェライト粉末を走査電子顕微鏡(SEM)などで観察することで求めることができる。またPsはフェライト粉末製造時の条件を制御することで調整が可能である。
【0040】
体積平均粒径(D50)によらず、フェライト粉末中の球状様ステップ粒子の含有割合(Ps)は、50%以上、60%以上、70%以上、または80%以上であってよい。
【0041】
本実施形態のフェライト粉末は、そのBET比表面積が0.35m/g以上10.00m/g以下である。BET比表面積を10.00m/g以下とすることで、フェライト粉末の凝集を抑制することができ、成形性及び充填性がより優れたものとなる。またBET比表面積が10.00m/g超であると、フェライト粉末を構成する粒子の径が小さすぎるため、その表面ステップ構造を観察することが困難になる恐れがある。したがって本実施形態ではBET比表面積を10.00m/g以下に限定している。一方でBET比表面積を0.35m/g以上とすることで、粒子間空隙の発生を抑制することができ、充填性がより優れたものとなる。またBET比表面積を上記範囲内とすることで、フェライト粉末を複合材料や複合体に適用したときに樹脂との密着性がより良好なものとなる。BET比表面積は、0.50m/g以上がより好ましい。またBET比表面積は、7.50m/g以下がより好ましく、5.00m/g以下がさらに好ましく、2.50m/g以下が特に好ましい。
【0042】
フェライト粉末は、これに含まれるフェライト粒子のスピネル相の格子定数が8.350Å以上8.475Å以下であるのが好ましい。格子定数をこの範囲内に限定することで、フェライト粉末の磁気特性、特に飽和磁化(σs)を高めることが可能になる。例えば、粒径の小さい粒子は、比表面積が大きいが故に反応速度が速い。そのためフェライト粉末合成時の粒子成長過程でイオン半径の大きい元素(例えばZn)を取り込みやすく、その結果、格子定数が大きくなる傾向にある。一方で粒径の大きい粒子は格子定数が小さくなる傾向にある。従来は粒子の成長速度と反応速度を適切に制御することが容易ではなく、特に粒径の大きい粒子の格子定数を高めることが困難であった。本実施形態のフェライト粉末は、格子定数を適切な範囲内に制御することで、優れた磁気特性を得ることが可能である。
【0043】
フェライト粉末は、その形状係数SF-1が100以上110以下であるのが好ましい。SF-1は、粉末を構成する粒子の球形度の指標となるものであり、完全な球形では100となり、球形から離れるほど大きくなる。SF-1を110以下とすることで、粒子が球状又は多面体状のいずれであっても、粉末の流動性が高まり、成形性及び充填性がより優れたものとなる。SF-1は、105以下がより好ましく、103以下がさらに好ましいである。
【0044】
フェライト粉末は、その形状係数SF-2が100以上110以下であるのが好ましい。SF-2は、粉末を構成する粒子表面の凹凸度合いを示す指標となるものである。SF-2は、表面凹凸が無ければ100となり、凹凸が深くなるほど大きくなる。本実施形態のフェライト粉末は、粒子表面に微視的なステップ構造を有し、これにより複合材料や複合体にしたときに、樹脂との密着性が向上して粒子の脱落が抑制される。そのため適度に高いSF-2が好ましい。SF-2は101以上がより好ましく、102以上がさらに好ましい。一方で、SF-2が過度に高いと、粉末の流動度が劣るものとなり、成形性及び充填性が劣化する恐れがある。SF-2は、105以下がより好ましい。
【0045】
フェライト粉末は、その体積粒度分布における50%径(体積平均粒径;D50)が0.10μm以上20.00μm以下であるのが好ましい。D50を0.10μm以上とすることで、フェライト粉末の凝集を抑制することができ、成形性及び充填性がより優れたものとなる。一方で、D50を20.00μm以下とすることで、粒子間空隙の発生を抑制することができ、充填性がより優れたものとなる。D50は、0.50μm以上がより好ましく、0.60μm以上がさらに好ましく、0.80μm以上が特に好ましく、1.00μm以上が最も好ましい。またD50は、10.00μm以下がより好ましく、8.00μm以下がさらに好ましく、6.00μm以下が特に好ましく、4.00μm以下が最も好ましい。
【0046】
フェライト粉末は、後述する粒度分布測定において粒径0.3μm以上の粒子の含有割合(P0.3≦)が、好ましくは0.1個数%以上、より好ましくは5.0個数%以上、さらに好ましくは10.0個数%以上、最も好ましくは20.0個数%以上である。なお含有割合(P0.3≦)は、体積粒度分布測定結果を個数分布に換算したデータを用いて求めることができる。
【0047】
フェライト粉末の真比重は5.00g/cm以上が好ましく、5.05g/cm以上がより好ましく、5.10g/cm以上がさらに好ましい。真比重を高めることで、フェライト粉末の磁気特性、特に飽和磁化(σs)や透磁率(μ)を高めることが可能となる。
【0048】
フェライト粉末のタップ密度は0.50g/cm以上3.50g/cm以下が好ましく、1.00g/cm以上3.00g/cm以下がより好ましい。小粒径の粒子と大粒径の粒子とを混在させることでタップ密度を高めることができ、その結果、フェライト粉末の充填性が全体としてより優れたものとなる。
【0049】
本実施形態のフェライト粉末はMn-Zn系フェライト粉末である。すなわちマンガン(Mn)-亜鉛(Zn)系フェライトの組成を有する。マンガン(Mn)-亜鉛(Zn)系フェライトは、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、酸素(O)を主に含むフェライトであり、マグネシウム(Mg)及び/又はストロンチウム(Sr)などの他の成分を含み得る。フェライトが、他の成分を含まず、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、酸素(O)を含み、残部不可避不純物からなる組成を有するものであってもよい。フェライト粉末は、好ましくはマンガン(Mn)含有量が3.5質量%以上20.0質量%以下、亜鉛(Zn)含有量が1.0質量%以上18.0質量%以下、及び鉄(Fe)含有量が43.0質量%以上65.0質量%以下である。このような組成とすることで、フェライト粉末及びそれを用いて作製された複合材料や複合体の磁気特性を良好なものとすることができる。マンガン(Mn)含有量は、より好ましくは5.0質量%以上20.0質量%以下、さらに好ましくは7.0質量%以上20.0質量%以下である。亜鉛(Zn)含有量は、より好ましくは1.0質量%以上16.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以上16.0質量%以下である。鉄(Fe)含有量は、より好ましくは43.0質量%以上62.5質量%以下、さらに好ましくは45.0質量%以上62.5質量%以下である。
【0050】
フェライト粉末の組成をMn-Zn系フェライトにすることで、Mn系フェライトにした場合に比べて100MHzよりも低い周波数において磁気特性を向上させることが可能となる。例えば、Mn含有量を同程度に維持したままZnを含有させることで、磁気損失を低いレベルに保ちながら透磁率(μ’)を向上させることができる。
【0051】
フェライト粉末の飽和磁化(σs)は70.0Am/kg以上が好ましく、75.0Am/kg以上がより好ましく、80.0Am/kg以上がより好ましい。またフェライト粉末の保磁力(Hc)は100Oe以下が好ましく、75Oe以下がより好ましく、50Oe以下がさらに好ましい。飽和磁化(σs)を高めることで、フェライト粉末の透磁率(μ)を高めることができる。そのためフェライト粉末を含む複合材料や複合体に優れた磁気特性、例えば電磁波遮蔽性能を付与することが可能となる。
【0052】
フェライト粉末中のスピネル相の含有割合は80.0質量%以上が好ましく、85.0質量%以上がより好ましく、90.0質量%以上がさらに好ましく、95.0質量%以上が特に好ましく、99.0質量%以上が最も好ましい。スピネル相の含有割合を高めることで、フェライト粉末の飽和磁化(σs)及び透磁率(μ)を高めることが可能になる。
【0053】
フェライト粉末を構成する粒子は単結晶及び多結晶のいずれから構成されてもよい。しかしながら多結晶から構成されるのが好ましい。またフェライト粉末を構成する粒子の平均結晶子径は1nm以上100nm以下が好ましく、3nm以上50nm以下がより好ましく、5nm以上20nm以下がさらに好ましい。さらに体積平均粒径(D50)に対する平均結晶子径の比(平均結晶子径/D50)は0.0010以上0.2000以下が好ましく、0.0020以上0.1000以下がより好ましく、0.0025以上0.0700以下がさらに好ましい。
【0054】
本実施形態のフェライト粉末は、酸化亜鉛(ZnO)相の含有量が0.0質量%以上0.8質量%以下である。フェライト粉末が亜鉛(Zn)を構成元素とするとき、遊離した酸化亜鉛(ZnO)相を含むことがある。この遊離ZnO相は、フェライトを構成するZnとは異なり、フェライトとは別個に存在する異相である。遊離ZnO相を過度に多量に含むフェライト粉末は、これを樹脂組成物に適用したときに、その粘度を高めることがある。したがって遊離ZnO相の量は少ないほど好ましい。フェライト粉末中の酸化亜鉛(ZnO)相の含有量は0.0質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。
【0055】
このように、本実施形態のフェライト粉末は、特定の形状を有し且つ特定のステップ構造をその表面に備えるフェライト粒子を含むことを特徴としている。このフェライト粉末は、電磁波シールド材料、電子材料及び/又は電子部品の用途に好適である。また本実施形態のフェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材料、電子材料又は電子部品は、成形性及び充填性を損なうことなく、フェライト粒子の脱落を抑制することが可能となる。これに対して、特許文献1~5にはフェライト粒子の表面構造に関する記載はなく、粒子脱落を課題とするものではない。また特許文献6に開示されるキャリア芯材は、その表面ステップ状凹凸が同心円状であり、本実施形態が対象とするステップ構造とは形状が異なる。またその課題はキャリア芯材の帯電付与能力の向上であり(特許文献6の[0026])、粒子脱落とは無関係である。
【0056】
<<2.フェライト粉末の製造方法>>
本実施形態のフェライト粉末は、上述する要件を満足する限り、その製造方法は限定されない。しかしながら以下に示すように、フェライト原料の混合物を所定の条件で溶射し、次いで急冷することにより製造することができる。
【0057】
<原料混合>
まずフェライト原料を混合して原料混合物とする。フェライト原料として、酸化物、炭酸塩、水酸化物及び/又は塩化物などの公知のフェライト原料を使用できる。また原料の混合は、ヘンシェルミキサー等の公知の混合機を用い、乾式及び湿式のいずれか一方又は両方で行えばよい。
【0058】
<仮焼成及び粉砕>
次に得られた原料混合物を仮焼成して仮焼成物とする。仮焼成は公知の手法で行えばよい。例えば、ロータリーキルン、連続炉又はバッチ炉などの炉を用いて行えばよい。仮焼成の条件も公知の条件でよい。例えば、大気等の雰囲気下で、700℃以上1300℃以下の温度で2時間以上12時間以下の時間で保持する条件が挙げられる。
【0059】
<造粒>
その後、得られた仮焼成物を粉砕及び造粒して造粒物とする。粉砕方法は特に限定されない。例えば、振動ミル、ボールミル又はビーズミルなどの公知の粉砕機を用い、乾式及び湿式のいずれか一方又は両方で行えばよい。造粒方法も公知の手法でよい。例えば粉砕後の仮焼成物に、水と、必要に応じて、ポリビニルアルコール(PVA)等のバインダー、分散剤及び/又は消泡剤などの添加剤と、を加えて粘度を調整し、その後、スプレードライヤー等の造粒機を用いて造粒する。
【0060】
通常のフェライト粒子の製造において、一般的にはバインダー成分を本焼成前に除去する。これに対して、本実施形態の製造方法では脱バインダー処理を行わないことが好ましい。バインダー成分を含有した状態で溶射を行うことで、ステップ形状を安定的に生成させることが可能になる。
【0061】
また先述したように、飽和蒸気圧の高い成分をフェライト粉末が含む場合であっても、製造時に加えるバインダー樹脂の量を調整することで、球状粒子を得ることができる。すなわち、飽和水蒸気圧の高い元素であっても、高温加熱工程(溶射時)で温度を制御し、それによりフェライトの主成分であるFeの析出速度と飽和蒸気圧の高い元素の析出速度を合わせれば、真球状の粒子形状を維持しながら粒子表面に多面体状の微細なステップ構造を生成させることができる。
【0062】
<溶射>
次に得られた造粒物を溶射して溶射物とする。溶射では、ガスにより搬送された造粒物が溶射火炎を通過することで溶融されフェライト化する。その後、フェライト化した粒子を冷却用ガスで急冷及び凝固し、これをサイクロン又はフィルターで回収する。冷却用ガスは室温の大気でもよく、あるいは急冷と酸化を防止するため、室温よりも低温の空気や不活性ガス(窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)も用いてもよい。必要に応じて、回収したフェライト粒子を分級してもよい。分級では、既存の風力分級(気流分級)、メッシュ濾過、ふるい(篩)分級、沈降などの手法を用いて、所望の粒径に粒度調整する。サイクロン等の気流分級を用いて大粒径粒子を1つの工程で分離回収することも可能である。
【0063】
ステップ構造を備えるフェライト粒子(球状様ステップ粒子)を得るためには、造粒物を所定の条件で溶射することが重要である。溶射時に造粒物の全体が溶融した後に急冷される。その詳細なメカニズムは不明であるが、高温溶融時にフェライトの結晶構造を反映した多角形状のステップ構造が粒子表面に形成され、急冷することでこの構造が保持されたまま冷却されるのではないかと推察している。これに対して、造粒物を溶融温度以下の温度で焼成してフェライト粒子とした場合には、多角形状のステップ構造が形成されにくく、仮に形成されたとしても、徐冷することでステップ構造が消失してしまうと考えている。例えば、特許文献6では原料混合物を顆粒化した後に1000℃以下の温度で焼成して粒子表面にステップ状の凹凸を有するキャリア芯材を製造している(特許文献6の請求項1)。しかしながら、このステップ状の凹凸は同心円状であり、本実施形態が対象とするステップ構造とは形状が異なる。
【0064】
溶射では、燃焼ガスと酸素との混合気体を可燃性ガス燃焼炎源として用いることができる。燃焼ガスと酸素との容量比は、1:3.5~1:6.0が好ましく、1:4.9~1:6.0がより好ましく、1:4.9~1:5.3がさらに好ましい。これにより揮発した原料が凝縮し、小粒径粒子の形成を好適に進行させることができる。例えば燃焼ガス流量7Nm/時に対して酸素流量35Nm/時(燃焼ガスと酸素との容量比が1:5)とする条件が挙げられる。
【0065】
燃焼時に燃焼ガスや酸素が過剰に多い場合には、燃焼に使われなかったガスが燃焼時の熱を奪い火炎の温度が下がる恐れがある。燃焼に使われなかった余剰燃焼ガス量は供給された燃焼ガス量の20%以下が好ましい。また、燃焼に使われなかった余剰酸素量は供給された酸素量の20%以下が好ましい。
【0066】
原料供給量に対する燃焼ガス量も重要である。具体的には、正味燃料ガス量比は1.1Nm/kg以上2.00Nm/kg以下が好ましい。ここで正味ガス量比は、原料供給量に対する正味燃焼ガス量の比であり、下記(1)式にしたがって求められる。また正味燃焼ガス量は、正味の燃焼に使われる燃焼ガスの量であり、下記(2)又は(3)式にしたがって求められる。
【0067】
【数1】
【数2】
【数3】
【0068】
溶射に用いる燃焼ガスとして、プロパンガス、プロピレンガス、アセチレンガス等の可燃性ガスが挙げられ、中でもプロパンガスが好適である。造粒物を可燃性ガス中に搬送するために、窒素、酸素、空気等の搬送ガスを用いることができる。搬送される造粒物の流速は20m/秒以上60m/秒以下が好ましい。溶射温度は1000℃以上3500℃以下が好ましく、2000℃以上3500℃以下がより好ましい。
【0069】
溶射時の原料供給量も重要である。すなわち溶射火炎中を通過する際の温度(原料粒子に対する与える熱量)から室温まで冷却される間の時間によって、ステップ構造発現のメカニズムが変化する。特に高温火炎を通過した原料一次粒子が急冷されることでステップ構造が発現する。同じ温度の火炎であっても原料一次粒子の単位時間当たりの通過数(時間当たりの処理量)が多くなるとステップ構造は発現しにくくなる。ステップ構造を発現させる観点から、溶射原料の供給量は少ない方が好ましい。例えば、供給量は、20kg/時間以下が好ましく、10kg/時間以下がより好ましく、7kg/時間以下が最も好ましい。
【0070】
溶射時の原料流速も、得られるフェライト粉末の形状に影響を与える。例えば、溶射による粒子の成長には、亜鉛(Zn)等の蒸気圧の高い元素の影響がある。すなわち溶射火炎を通過したフェライト粒子の冷却速度が高すぎる場合には、亜鉛(Zn)等の蒸気圧の高い元素を核にした微粒子が生じやすい。そのためBET比表面積の大きいフェライト粉末が生成する傾向にある。一方、冷却速度が低すぎる場合には、溶射火炎中で粒子同士が接触することで凝集粒子になりやすい。また、火炎中に長時間滞留することでステップ構造が消失しやすくなる。このような観点から原料流速は20m/秒以上35m/秒以下が好ましい。
【0071】
フェライト粉末中の球状様ステップ粒子の含有割合(Ps)も溶射条件を制御することで調整が可能である。具体的には、溶射時の燃焼ガス(プロパンガス)流量を下げるとともに全酸素流量を下げることで溶射フレームの温度が下がり、これによりPsが制御される。溶射フレームの温度が下がることでフェライト粒子が溶射フレームを通過後に急冷される時間は短くなる。ステップ構造が十分形成される前に冷却されるため、球状様ステップ粒子が生成しにくくなると推察している。また原料粒子(造粒物)に部分的に熱が加えられることで、真球状ではない粒子が複数個つながった凝集粒子が生成するとも考えている。このような凝集粒子はステップ構造をもたず、その上、割れやすい。そのためこのような凝集粒子が樹脂成型体中に存在すると、樹脂成型体を加工する工程で凝集が解れて脱離してしまうことがある。
【0072】
本実施形態のフェライト粉末は、上述したように、亜鉛(Zn)等の蒸気圧の高い元素を含有することでステップ構造が効果的に発現する。しかしながら、含有元素のみならず溶射時の条件も重要である。すなわち溶射火炎を通過した溶射物が高温から適度な速度で冷却することで、ステップ構造が発現し易くなる。溶射とは異なる焼成では冷却速度が比較的遅い。そのため粒子の粒界成長に伴い、ステップ構造の外周は直線的ではなくなる。
【0073】
冷却速度は磁気特性、特に透磁率の周波数特性にも大きな影響を与える。すなわち溶射時に急冷された粒子は、そのグレインサイズが比較的小さい。そのため10MHzよりも高い周波数で損失係数(tanδ)が小さくなる。一方で焼成時に徐冷された粒子はグレインサイズ及びグレインを形成する結晶子径が大きいため、高周波数での損失係数が大きい。
【0074】
このように、溶射条件を制御することで、フェライト粉末の特性を調整することが可能である。好ましい条件で溶射を行うことで、揮発した原料が凝縮し、粒径の比較的小さい粒子の形成を進行させることができる。また得られるフェライト粒子の形状を好適に調整することができる。
【0075】
<<3.フェライト樹脂複合材料>>
本実施形態のフェライト樹脂複合材料は、上記フェライト粉末と樹脂とを含む。この複合材料によれば、成形性及び充填性を損なうことなく、フェライト粒子の脱落が抑制される。
【0076】
複合材料を構成する樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂又はこれらの組み合わせなどが挙げられる。ここでシリコーン樹脂は、アクリル、ウレタン、エポキシ及び/又はフッ素等で変性した変性シリコーン樹脂であってもよい。
【0077】
複合材料は、フェライト粉末と樹脂以外の他の成分を含んでもよい。このような成分として、例えば、溶媒、充填剤(有機充填剤、無機充填剤)、可塑剤、酸化防止剤、分散剤、顔料等の着色剤及び/又は熱伝導性粒子などが挙げられる。
【0078】
複合材料中の全固形分に対するフェライト粉末の割合は、50質量%以上95質量%以下が好ましく、80質量%以上95質量%以下がより好ましい。また複合材料中の全固形分に対する樹脂の割合は、5質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。フェライト粉末や樹脂の割合を上記範囲内とすることで、複合材料中のフェライト粉末の分散安定性、並びに複合材料の保存安定性及び成形性が優れたものになるとともに、複合材料を成形して得られる複合体(成形体)の機械的強度や電磁波遮蔽性能等の特性がより優れたものになる。
【0079】
<<4.電磁波シールド材、電子材料、電子部品>>
本実施形態の電磁波シールド材、電子材料又は電子部品は、上記フェライト樹脂複合材料を含む。電磁波シールド材、電子材料又は電子部品は、複合材料を公知の手法で成形して作製すればよい。成形手法は、特に限定されるものではなく、例えば圧縮成形、押出成形、射出成形、ブロー成形又はカレンダー成形が挙げられる。また複合材料の塗膜を基体上に形成する手法であってもよい。
【実施例
【0080】
本実施形態を、以下の実施例及び比較例を用いてさらに詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(1)フェライト粉末の作製
[例1]
<原料混合>
原料として、酸化鉄(Fe)と四酸化三マンガン(Mn)と酸化亜鉛(ZnO)を用い、モル比で、Fe:MnO:ZnO=53.1:36.7:10.2となるように原料を秤量し、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。
【0082】
<仮焼成及び粉砕>
得られた混合物を、ロータリーキルンを用いて仮焼成した。仮焼成は、混合物を大気中900℃で4時間保持することにより行った。乾式ビーズミル(3/16インチの鋼球ビーズ)を用いて、得られた仮焼成物を粗粉砕し、その後、水を加えて、湿式ビーズミル(0.65mmのジルコニアビーズ)を用いて微粉砕した。粉砕粉の粒径は2.53μmであった。
【0083】
<造粒>
得られたスラリーに、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA、10%水溶液)を加えた。PVA添加量は、粉砕粉に対して固形分換算で0.024質量%にした。その後、バインダーを加えたスラリーを、スプレードライヤーを用いて造粒した。
【0084】
<溶射>
得られた造粒物を可燃性ガス燃焼炎中で溶射及び急冷した。溶射は、プロパンガス流量7.3m/時間、全酸素流量38m/時間(原料供給酸素量4m/時間、燃焼酸素量34m/時間)、原料供給速度5.5kg/時間、風量1100m/時間、及び原料流速22.2m/秒の条件で行った。また溶射直後の燃焼ガスに冷却用の大気を導入して生成物を急冷した。さらに下流側に設けたサイクロンを用いて、生成物を回収して、溶射物を得た。得られた溶射物から篩を用いて粗粉を取り除き、さらに分級装置で微粉を除去して、複数個のマンガン(Mn)―亜鉛(Zn)系フェライト粒子からなるフェライト粉末を得た。
【0085】
[例2]
溶射時の原料供給速度を6.0kg/時間、及び風量を900m/時間に変更した。また気流の下流側に設けたバグフィルターを用いて、急冷した生成物(溶射物)を回収した。得られた溶射物から気流分級により粗粉を取り除くものの、微粉除去は行わなかった。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0086】
[例3]
原料混合時に、モル比で、Fe:MnO:ZnO=66.4:26.7:6.9となるように原料を秤量した。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。例3では粉砕粉の粒径は2.42μmであった。
【0087】
[例4]
溶射時の原料供給速度を6.0kg/時間、及び風量を900m/時間に変更した。また気流の下流側に設けたバグフィルターを用いて、急冷した生成物(溶射物)を回収した。得られた溶射物から気流分級により粗粉を取り除くものの、微粉除去は行わなかった。それ以外は例3と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0088】
[例5]
原料混合時に、モル比で、Fe:MnO:ZnO=73.9:20.7:5.4となるように原料を秤量した。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。例5では粉砕粉の粒径は2.65μmであった。
【0089】
[例6]
溶射時の原料供給速度を6.0kg/時間、及び風量を900m/時間に変更した。また気流の下流側に設けたバグフィルターを用いて、急冷した生成物(溶射物)を回収した。得られた溶射物から気流分級により粗粉を取り除くものの、微粉除去は行わなかった。それ以外は例5と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0090】
[例7]
原料混合時に、モル比で、Fe:MnO:ZnO=51.7:28.0:20.3となるように原料を秤量した。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。例7では粉砕粉の粒径は2.61μmであった。
【0091】
[例8]
溶射時の原料供給速度を6.0kg/時間、及び風量を900m/時間に変更した。また気流の下流側に設けたバグフィルターを用いて、生成物(溶射物)を回収した。得られた溶射物から気流分級により粗粉を取り除くものの、微粉除去は行わなかった。それ以外は例7と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0092】
[例9]
原料混合時に、モル比で、Fe:MnO:ZnO=51.9:24.1:24.0となるように原料を秤量した。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。例9では粉砕粉の粒径は2.33μmであった。
【0093】
[例10]
溶射時の原料供給速度を6.0kg/時間、及び風量を900m/時間に変更した。また気流の下流側に設けたバグフィルターを用いて、生成物(溶射物)を回収した。得られた溶射物から気流分級により粗粉を取り除くものの、微粉除去は行わなかった。それ以外は例9と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0094】
[例11(比較)]
溶射を、プロパンガス流量5.5m/時間、全酸素流量30.5m/時間(原料供給酸素量3m/時間、燃焼酸素量27.5m/時間)、原料供給速度5.5kg/時間、風量900m/時間、及び原料流速17.7m/秒の条件で行った。それ以外は例3と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0095】
[例12(比較)]
<原料混合、造粒、焼成>
原料混合時に、モル比で、Fe:MnO:ZnO=59.0:30.0:11.0となるように原料を秤量及び混合した。得られた原料混合物に水を加えて粉砕し、固形分50質量%のスラリーを作製した。作製したスラリーをスプレードライヤーで造粒し、一次焼成を行い、気流分級機により分級して平均粒径25μmの造粒物を作製した。続いて、得られた造粒物を大気中1100℃で4時間保持した後に、ハンマーミルにより粉砕して、平均粒径20μmの焼成粉を得た。
【0096】
<溶射>
得られた焼成粉を可燃性ガス燃焼炎中で溶射及び急冷した。溶射は、プロパンガス流量10m/時間、全酸素流量38m/時間(原料供給酸素量3m/時間、燃焼酸素量35m/時間)、原料供給速度6.0kg/時間、風量900m/時間、及び原料流速40.0m/秒の条件で行った。溶射温度(焼成温度)は2000℃であった。
【0097】
次いで、空気給気による気流に生成物を乗せて搬送し、それによって大気中で急冷した。造粒物を連続的に流動させながら溶射し急冷したため、得られた粒子は互いに結着することなく独立していた。その後、冷却した生成物を気流の下流側に設けたバグフィルターを用いて捕集した。このとき、粒径の大きい粒子は、気流搬送中に落下したため、バグフィルターでは捕集されなかった。捕集(回収)された生成物(造粒物)を分級して、粒径2000nm超の粗粉を除去し、フェライト粉末を作製した。得られたフェライト粉末では、粒子の粒径は2000nm以下であった。
【0098】
[例13(比較)]
<原料混合>
原料として、酸化鉄(Fe)と四酸化三マンガン(Mn)とを用い、モル比で、Fe:MnO=79.6:20.4(Fe:Mn=7.8:1)となるように原料を秤量し、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。
【0099】
<仮焼成及び粉砕>
得られた混合物を、ロータリーキルンを用いて仮焼成した。仮焼成は、混合物を大気中900℃で4時間保持することにより行った。乾式ビーズミル(3/16インチの鋼球ビーズ)を用いて、得られた仮焼成物を粗粉砕し、その後、水を加えて、湿式ビーズミル(0.65mmのジルコニアビーズ)を用いて微粉砕した。粉砕粉の粒径は2.26μmであった。
【0100】
<造粒>
得られたスラリーに、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA、10%水溶液)を加えた。PVA添加量は、粉砕粉に対して固形分換算で0.017質量%にした。その後、バインダーを加えたスラリーを、スプレードライヤーを用いて造粒した。
【0101】
<溶射>
得られた造粒物を可燃性ガス燃焼炎中で溶射及び急冷した。溶射は、プロパンガス流量7m/時間、全酸素流量38m/時間(原料供給酸素量3.5m/時間、燃焼酸素量34.5m/時間)、原料供給速度6.5kg/時間、風量850m/時間、及び原料流速22.5m/秒の条件で行った。次いで、冷却した生成物(粒子)を気流の下流側に設けたサイクロンを用いて回収して、溶射物を得た。得られた溶射物から篩を用いて粗粉を取り除き、さらに気流分級により微粉を除去して、複数個のマンガン(Mn)系フェライト粒子からなるフェライト粉末を得た。
【0102】
[例14(比較)]
溶射時に、原料供給酸素量を3.0m/時間、燃焼酸素量35.0m/時間に変更した。また冷却した生成物(粒子)を気流の下流側に設けたバグフィルターを用いて回収して溶射物を作製し、得られた溶射物から気流分級により粗粉を取り除くものの、微粉除去は行わなかった。それ以外は例13と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0103】
[例15(比較)]
溶射の代わりに、造粒物の脱バインダー、本焼成を行い、その後、得られた焼成物を解砕して、解砕物から気流分級により粗粉及び微粉を除去した。脱バインダー及び本焼成は、造粒物を大気中650℃で4時間保持し、その後、酸素0体積%の雰囲気下1250℃で4時間保持することにより行った。また解砕はハンマークラッシャーを用いて行った。さらに得られた溶射物から気流分級により粗粉及び微粉を取り除いた。それ以外は例13と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0104】
例1~例15について、フェライト粉末の製造条件を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
(2)複合材料の作製
例1~例15で得られたフェライト粉末を用いて、フェライト樹脂複合材料を作製した。複合材料の作製は、次のようにして行った。得られたフェライト粉末と市販のエポキシ樹脂とを、フェライト粉末の体積が60体積%となるように秤量し、自転公転式ミキサーにてペースト化した。また粘度計を用いてペースト粘度を測定した。得られたペーストをシリコーン樹脂の型に流し込んだ後に熱硬化し、脱離粒子評価用サンプル(複合材料)を作製した。
【0107】
(3)評価
例1~例15で得られたフェライト粉末及び複合材料について、各種特性の評価を以下の通り行った。
【0108】
<元素分析‐金属成分含有量>
フェライト粉末の金属成分含有量を、次のようにして測定した。まず試料(フェライト粉末)0.2gを秤量し、これに純水60mlと1Nの塩酸20ml及び1Nの硝酸20mlを加えた後に加熱して、試料を完全溶解させた水溶液を調整した。得られた水溶液をICP分析装置(株式会社島津製作所、ICPS-10001V)にセットし、金属成分含有量を測定した。
【0109】
<XRD(フェライト粉末)>
フェライト粉末について、X線回折(XRD)法による分析を行った。分析条件は以下に示すとおりにした。
【0110】
‐X線回折装置:パナリティカル社製X’pertMPD(高速検出器含む)
‐線源:Co-Kα
‐管電圧:45kV
‐管電流:40mA
‐スキャン速度:0.002°/秒(連続スキャン)
‐スキャン範囲(2θ):15~90°
【0111】
得られたX線回折プロファイルにおいて、スピネル相の(311)面回折ピークの積分強度(I311)を求めた。またX線回折プロファイルに基づき、スピネル相と非スピネル相のそれぞれの含有割合を求めた。
【0112】
さらにX線回折プロファイルをリートベルト解析して、スピネル相の格子定数を見積もり、さらにシェラーの公式に従い、スピネル相の結晶子径を求めた。
【0113】
<粒子の表面構造‐Ps>
フェライト粉末中の粒子の表面構造を、次のようにして評価した。まず走査電子顕微鏡(SEM;日立ハイテクノロジーズ社、SU-8020)を用いてフェライト粉末を観察した。観察の際に、平均粒径2μm以上の粒子は倍率を50000倍に設定し、平均粒径2μm未満の粒子は200000倍に設定した。そしていずれの場合も水平フェレ径0.3μm以上の粒子が、視野中に1~30個、好ましくは1~10個入る状態で撮影した。
【0114】
撮影はランダムに10視野分を撮影し、水平フェレ径0.3μm以上の粒子について多角形状ステップの有無を確認した。そして球状様ステップ粒子の割合(Ps)を、下記(4)式にしたがって算出した。なお水平フェレ径0.3μm未満の粒子は、撮影時に電子線が粒子を透過してしまいステップの有無を判定できない恐れがある。そのため評価対象から外した。
【0115】
【数4】
【0116】
ここでNはi番目の視野で撮影された水平フェレ径0.3μm以上の粒子の数であり、nはi番目の視野に撮影された粒子のうち、球状様ステップを有する粒子の数である。また部分的に撮影視野の外側に出ている粒子も1粒子としてカウントした。
【0117】
<粒子の表面構造‐Hs>
走査電子顕微鏡(SEM)での観察の際に、倍率を200000倍に設定し、1~30個、好ましくは1~10個の球状様ステップ粒子が視野中央に入るようにして撮影した。そしてSEM写真のスケールからステップの平均間隔(Hs)を下記(5)式にしたがって求めた。
【0118】
【数5】
【0119】
<形状係数‐平均粒径2μm以上の場合>
平均粒径2μm以上の粒子については、フェライト粉末の形状係数(SF-1及びSF-2)を、粒子画像分析装置(Malvern Panalytical社、モフォロギG3)を用いて求めた。まず粒子画像分析装置を用いてフェライト粉末を解析した。解析の際には粉末中30000粒子について1粒子ごとに画像解析を行い、円形度(Circularity)、周囲長(Perimeter)、円相当径(CE Diameter)を自動測定した。この際、倍率10倍の対物レンズを使用し、サンプル量は3mm、分散圧は5barの条件で粒子をスライドガラス上に本装置付属の分散用治具を用いて分散させた。
【0120】
得られたデータのうち、体積平均粒径±5%以内の粒子のデータの平均を平均円形度、平均周囲長(Perimeter)、平均円相当径(CE Diameter)とし、下記(6)及び(7)式にしたがって、SF-1及びSF-2を算出した。
【0121】
【数6】
【数7】
【0122】
<形状係数‐平均粒径2μm未満の場合>
平均粒径2μm未満の粒子については、フェライト粉末の形状係数(SF-1及びSF-2)を、FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)を用いて求めた。まずFE-SEMを用いてフェライト粉末の撮影を複数視野で行った。撮影は倍率100000倍の条件で行った。その後、画像解析ソフト(Image-Pro Plus)を用いて画像解析を行った。解析の際には体積平均粒径±5%の円相当径の100粒子を選択し、粒子ごとに解析した。そして最大長(水平フェレ径)R(単位:μm)、投影周囲長L(単位:μm)及び投影面積S(単位:μm)、円相当径r(単位:μm)を測定した。
【0123】
次いで下記(8)及び(9)式にしたがってSF-1及びSF-2を算出し、それぞれの平均値をフェライト粉末のSF-1及びSF-2とした。
【0124】
【数8】
【数9】
【0125】
<異形粒子割合>
フェライト粉末中の異形粒子割合を次のようにして求めた。粒子画像分析装置を用いた解析の際に、円形度0.965以上1.000以下の粒子の個数Nと円形度0.950以上0.965未満の粒子の個数nをカウントし、異形粒子割合を、下記(10)式にしたがって算出した。なお円形度0.950未満の粒子は凝集した粒子であるため、これを評価対象から外した。
【0126】
【数10】
【0127】
<凝集粒子割合>
フェライト粉末中の凝集粒子割合を次のようにして求めた。粒子画像分析装置を用いた解析の際に、体積平均粒径±10%の粒径で、かつ、円形度0.900以上1.000以下の粒子の個数Nと体積平均粒径±10%の粒径で、かつ、円形度0.900以上0.950未満の粒子の個数nをカウントし、異形粒子割合を、下記(11)式にしたがって算出した。
【0128】
【数11】
【0129】
<タップ密度>
フェライト粉末のタップ密度を、USPタップ密度測定装置(ホソカワミクロン株式会社、パウダテスタPT-X)を用いて、JIS Z 2512-2012に準拠して測定した。
【0130】
<真比重>
フェライト粉末の真比重を、ガス置換法を用いて、JIS Z8807:2012に準拠して測定した。具体的には全自動真密度測定装置(株式会社マウンテック、Macpycno)を用いて測定を行った。
【0131】
<粒度分布>
フェライト粉末の粒度分布を、次のようにして測定した。まず試料(フェライト粉末)10g及び水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを2滴添加した。次いで超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー、UH-150型)を用いて分散した。このとき超音波ホモジナイザーの出力レベルを4に設定して20秒間の分散を行った。その後、ピーカー表面にできた泡を取り除き、得られた分散液をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所株式会社、SALD-7500nano)に導入して測定した。測定条件は、ポンプスピード7、内蔵超音波照射時間30、屈折率1.70-050iとした。この測定により体積粒度分布における10%径(D10)、50%径(体積平均粒径、D50)及び90%径(D90)を求めた。
【0132】
また、得られた体積粒度分布を個数粒度分布に変換し、この個数粒度分布において粒径0.3μm以上の粒子の含有割合(P0.3≦)を求めた。
【0133】
<BET比表面積>
フェライト粉末のBET比表面積を、比表面積測定装置(株式会社マウンテック、Macsorb HM model-1208)を用いて測定した。まずフェライト粉末約10gを薬包紙に載せ、真空乾燥機で脱気した。真空度が-0.1MPa以下であることを確認した後に、200℃で2時間加熱して、粒子表面に付着している水分を除去した。その後、水分が除去されたフェライト粉末(約0.5~4g)を測定装置専用の標準サンプルセルに入れ、精密天秤で正確に秤量した。続いて秤量したフェライト粒子を測定装置の測定ポートにセットして測定した。測定は1点法で行った。測定雰囲気は、温度10~30℃、相対湿度20~80%(結露なし)とした。
【0134】
<磁気特性‐飽和磁化、残留磁化及び保磁力>
フェライト粉末の磁気特性(飽和磁化、残留磁化及び保磁力)を、次のようにして測定した。まず内径5mm、高さ2mmのセルに試料(フェライト粉末)を詰めて、振動試料型磁気測定装置(東英工業株式会社、VSM-C7-10A)にセットした。印加磁場を加えて5kOeまで掃引し、次いで印加磁場を減少させて、ヒステリシスカーブを描かせた。このカーブのデータより、試料の飽和磁化σs、残留磁化σr及び保磁力Hcを求めた。
【0135】
<透磁率>
フェライト粉末の透磁率を、RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ(アジレントテクノロジー株式会社、E4991A)と磁性材料測定電極(16454A)を用いて測定した。まず試料(フェライト粉末)9gとバインダー樹脂(Kynar301F:ポリフッ化ビニルデン)1gをポリエチレン製容器(内容量100ml)に入れ、ボールミルを用いて、回転数100rpmの条件で撹拌及び混合を行った。次に、得られた混合物(0.6g程度)をダイス(内径4.5mm、外径13mm)に充填し、プレス機を用いて40MPaの圧力で1分間の加圧を行って成形体とした。得られた成形体を、熱風乾燥機を用いて140℃で2時間の加熱硬化を行って測定用サンプルとした。得られた測定用サンプルをRFインピーダンス/マテリアル・アナライザにセットし、事前に測定しておいた測定用サンプルの外径、内径及び高さを入力した。測定の際、振幅を100mVとし、測定周波数1MHz~3GHzの範囲を対数スケールで掃引した。周波数10MHz、50MHz、及び100MHzでの複素透磁率の実部(μ’)及び虚部(μ’’)を求め、損失係数(tanδ)を、下記(12)式にしたがって算出した。
【0136】
【数12】
【0137】
<ペースト粘度>
複合材料作製に用いたフェライト粉末とエポキシ樹脂を含むペーストについて、ペースト作製直後の粘度を、B型粘度計を用いて測定した。
【0138】
<脱離粒子の割合>
複合材料(複合体)の脱離粒子の割合を次のようにして求めた。まず研磨機を用いて複合材料を研磨して粒子断面を露出させた。電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて複数の視野で研磨断面の観察を行い、最表面に露出しているフェライト粒子及び脱離粒子の個数をカウントした。ここで粒子脱離部は研磨断面でくぼみとなるため、くぼみの個数を脱離粒子の個数とした。そして脱離粒子の割合を下記(13)式にしたがって算出した。
【0139】
【数13】
【0140】
(4)結果
例1~例15について、得られた評価結果を表2~4に示す。また例3及び例15について、フェライト粒子の表面SEM像を、それぞれ図1及び図3に示す。
【0141】
表3に示されるように、溶射により作製した例1~例14のフェライト粉末は、これに含まれる粒子が真球状又は多面体状であった。このうち粗粉及び微粉のそれぞれを篩分級及び気流分級により除去した例1、例3、例5、例7、例9、例11、及び例13は、体積平均粒径D50が比較的に大きく(3.24~4.22μm)、真球状の粒子形状を有していた。これに対して、粗粉を気流分級により除去したものの微粉除去を行わなかった例2、例4、例6、例8、例10、例12、及び例14はD50が比較的に小さく(0.19~0.83μm)、多面体状であった。また例1~例11及び例13~例14のいずれも形状係数(SF-1及びSF-2)が小さく(101~104)、球形度に優れることが分かった。これに対して例12及び例15は形状係数が大きく(106~110)、球形度に劣ることが分かった。
【0142】
例1~例10、及び例12~例14は、粒子表面に多角形状のステップ構造を備えていた。そのため複合材料としたときの脱離粒子割合が6個数%以下と小さかった。これに対して溶射条件を変更しステップ構造を有さない例11の脱離粒子割合は12個数%、電気炉焼成し行った例15の脱離粒子割合は15個数%と大きかった。また比表面積の大きい例12は脱離粒子の割合が少ないものの、ペースト粘度が高く(300000mPa・s)、複合材料の作製が困難であった。
【0143】
磁気特性について、Mn系フェライトである例13はZnを含有した例5と同程度のMnを含有し、BET比表面積も同程度であったが10MHz,50MHz,100MHzにおいてμ’が劣る結果となった。同様に例14は例6と同程度のMn含有量であったが10MHz、50MHz、及び100MHzにおいてμ’が劣る結果となった。また、例5と例14はBET比表面積が異なるものの、100MHzにおけるμ’は同程度であった。一方で10MHz、及び50MHzにおいて例14のμ’は劣っていた。これは磁壁の共鳴による影響で100MHz付近におけるμ’が高くなったためと推測された。さらに例1~例14は結晶子径が小さく100MHzにおける磁気損失tanδも小さくなった。これに対して、電気炉で焼成した例15は結晶子径が大きくなり、tanδも大きくなった。
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】
図1
図2
図3