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特許7335685熱溶融性フッ素樹脂組成物及びこれから成る射出成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】熱溶融性フッ素樹脂組成物及びこれから成る射出成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20230823BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C08L27/18
B29C45/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018109634
(22)【出願日】2018-06-07
(65)【公開番号】P2019210420
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-03-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 卓浩
(72)【発明者】
【氏名】北川 敏生
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-153766(JP,A)
【文献】特表2015-507061(JP,A)
【文献】特開平07-292200(JP,A)
【文献】特表2006-517475(JP,A)
【文献】特開2004-331938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
B29C 45/00- 45/84
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D-1238に準拠し、荷重5kg、温度372(±1)℃で測定されるメルトフローレートが異なる2種以上の熱溶融性フッ素樹脂から成るフッ素樹脂組成物であって、
前記2種以上の熱溶融性フッ素樹脂の一方が、メルトフローレートが60g/10min以上の高MFR熱溶融性フッ素樹脂であり、他方が、メルトフローレートが12~32g/10minの低MFR熱溶融性フッ素樹脂であり、
前記高MFR熱溶融性フッ素樹脂のメルトフローレート(MFRa)と、前記低MFR熱溶融性フッ素樹脂のメルトフローレート(MFRb)の比(MFRa/MFRb)が、2~8であり、
前記高MFR熱溶融性フッ素樹脂が、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の含有量が、1.5~5.0モル%のテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)であり、前記低MFR熱溶融性フッ素樹脂が、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の含有量が、1.0~4.0モル%であるテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)であることを特徴とする射出成形用熱溶融性フッ素樹脂組成物。
【請求項2】
メルトフローレートが10~100g/10minの範囲にある請求項1記載の射出成形用熱溶融性フッ素樹脂組成物。
【請求項3】
前記高MFR熱溶融性フッ素樹脂の含有量が、熱溶融性フッ素樹脂の全量の5~95重量%である請求項1又は2記載の射出成形用熱溶融性フッ素樹脂組成物。
【請求項4】
更に、高分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、0.01~1重量%の量で含有する請求項1~3の何れかに記載の射出成形用熱溶融性フッ素樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱溶融性フッ素樹脂組成物を用い、ウェルドラインを有する厚み1.9±0.5mmの成形品を射出圧・保圧50MPaで射出成形し、該射出成形品のウェルドライン形成部分から切り出したマイクロダンベル型の試験片(ASTM D-2116に準拠)を用いて、支点間距離22mm、引張速度200mm/min、23℃、正弦波、応力比0.1の条件で行った引張疲労試験により得られたS-N線図(1~1,000,000回のサイクル数(回)における破断時応力(MPa)をY軸及びその破断サイクル数をX軸とする)から最小二乗法により導出した下記対数近似式
Y=a*Ln(X)+b
において、X=1000回のときのYの値が14.5MPaより大きく、且つ傾きaの値が-0.15よりも大きいことを満足する請求項1~の何れかに記載の射出成形用熱溶融性フッ素樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~の何れかに記載の射出成形用熱溶融性フッ素樹脂組成物を射出成形して成ることを特徴とする射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶融性フッ素樹脂組成物に関するものであり、より詳細には、射出成形によるウェルドライン部の強度を向上可能な熱溶融性フッ素樹脂組成物、及びこれから成るウェルドライン部の強度が向上された射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、電気的性質及び機械的性質を有し、また極めて低い摩擦係数、非粘着性、撥水撥油性も有しているため、化学、機械、電機などあらゆる工業分野において広く利用されている。
特に、熱溶融性フッ素樹脂は、融点以上の温度で流動性を示すため、フッ素樹脂コーティングのための塗料の材料として利用される以外にも、既存の溶融成形方法(例えば、溶融押出成形、溶融射出成形、ブロー成形、トランスファー成形、溶融圧縮成形等)により、チューブ、シート、継手等の各種部品に成形加工されている。熱溶融性フッ素樹脂から成るこれらの部品は、半導体製造工程や化学プラント等において薬液移送用の配管、継手や薬液貯蔵容器等として、あるいは配管やタンク等のライニング等、様々な用途に用いられている。
【0003】
上記溶融成形方法の中でも、熱溶融性フッ素樹脂を用いて継手等の複雑な形状の成形品を歩留まり良く製造する成形法として、溶融射出成形が好ましく利用されている。
例えば、下記特許文献1には、共重合体(A)からなり、メルトフローレートが14.8~50g/10分である成形材料であって、前記共重合体(A)は、テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルとからなる共重合体であり、パーフルオロビニルエーテル単位を4質量%以上含み、融点が295℃以上であり、不安定末端基が前記共重合体(A)中の炭素数1×10個あたり50個以下であることを特徴とする成形材料が記載されており、この成形材料によれば、耐オゾン性に優れた射出成形品が得られることが記載されている。
【0004】
また下記特許文献2には、テトラフルオロエチレンに基づく重合単位(A)とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく重合単位(B)からなるテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体において、(A)/(B)の含有モル比が98.1/1.9~95.0/5.0の範囲にあり、かつ、372℃におけるメルトフローレートが35~60g/10minの範囲にあり、かつ、M/M(ここで、Mは重量平均分子量を、Mは数平均分子量を表す。)が1~1.7の範囲にあるテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体が記載されており、このテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体は、機械的特性及び射出成形性に優れていることが記載されている。
【0005】
熱溶融性フッ素樹脂を用いた射出成形品のうち、継手のような複雑な形状を有する成形品には、金型中で溶融した樹脂の流れが合流する部分に形成されるウェルドラインと呼ばれる境界線が形成される。このウェルドラインが形成された部分の強度は他と比べて弱いことが知られている。金型の形状等を工夫してウェルドラインが形成されないようにしている事例もあるが、製造する射出成形品の形状によっては、ウェルドラインの形成が避けられないことも多い。
【0006】
近年、半導体の製造における歩留まり向上のため、薬液移送の流速や温度が増加する傾向にあり、それらに伴い、配管や継手の内面にかかる圧力が増大することから、かかる圧力に耐える強度が配管等に求められる。このため、射出成形により製造される継手部品などでは、ウェルドライン部の強度及び耐久性の向上が求められている。更に、長期間通液する溶剤によって劣化しない、耐溶剤性も求められている。
【0007】
このような熱溶融性フッ素樹脂の射出成形品のウェルドライン部分の強度を向上することも提案されている。
例えば、下記特許文献3には、以下に表示される量のモノマー:A) (a)8.6~9.8重量%のパーフルオロメチルビニルエーテル(FMVE)、(b)0.3~1.2重量%のパーフルオロジオキソール[ただし、(a)+(b)の重量パーセントの合計が8.9~11重量%である]、またはB)(a)4.5~8.5重量%のパーフルオロメチルビニルエーテル(FMVE)、(b)1.7~7.5重量%のA)で定義されたパーフルオロジオキソール[ただし、(a)+(b)の重量パーセントの合計が6.2~11重量%である]、から本質的になり、組成物A)およびB)における100重量%に対する差補はTFEであるTFEの熱処理可能なコポリマーを射出成形することにより得ることができ、以下の機械的特性:射出成形品のウェルドラインに沿って23℃で測定される、≧130%の破断点伸び、圧縮成形プラック上250℃で測定される、≧2.5MPaの破断点応力及び≧250%の破断点伸びを示すTFEの熱処理可能なコポリマーを射出成形することにより得ることができる製品が記載されており、この製品では、ウェルドライン上に適切な機械的耐性が保証できることが記載されている。
【0008】
また下記特許文献4には、含フッ素共重合体成形品の製造方法において、主鎖および主鎖末端の少なくとも一方にカルボニル基含有基を有し、融点が255℃以上である溶融成形可能な含フッ素共重合体(A)を成形して予備成形品を得る工程(I)と、前記予備成形品を熱処理して成形品を得る工程(II)とを有する含フッ素共重合体成形品の製造方法であって、前記工程(II)において、250℃以上、かつ、前記含フッ素共重合体(A)の融点よりも5℃以上低い温度で、前記予備成形品の溶融流れ速度をMFR(I)とし、前記含フッ素共重合体成形品の溶融流れ速度をMFR(II)としたときの、MFR(I)とMFR(II)との比[MFR(II)/MFR(I)]が0.05~0.5となるように熱処理を行うことが記載されており、これによりウェルドラインのない予備成形品を製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4228917号公報
【文献】特許第4792622号公報
【文献】特許第4289877号公報
【文献】特開2015-96572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献3では、FMVEの射出成形品のウェルドライン部分の機械的耐性を改良するために添加されるパーフルオロジオキソールが高価であることから、経済性の点で未だ十分満足するものではなく、汎用の射出成形品のウェルドライン部においても強度及び耐溶剤性が改良されることが望まれている。
また上記特許文献4は、押出成形による電線等のように比較的簡単な形状の製品におけるウェルドラインの発生を回避するものであり、継手等のようにウェルドラインの発生を回避できない製品に対応することは困難である。また予備成形品を熱処理することで、分子内に架橋構造を形成し、含フッ素共重合体成形品の貯蔵弾性率を高めて耐摩耗性を向上させていることから、成形工程が多く、生産性の点でも未だ充分満足するものではなかった。
【0011】
従って本発明の目的は、射出成形における樹脂の溶融流動性に優れ、ウェルドライン部の強度の改善が可能であり、薬液や溶剤に対する耐久性も問題なく、更に金型からの引き抜き性にも優れた射出成形用熱溶融性フッ素樹脂組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、ウェルドライン部の強度が向上された射出成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ASTM D-1238に準拠し、荷重5kg、温度372(±1)℃で測定されるメルトフローレートが異なる2種以上の熱溶融性フッ素樹脂から成るフッ素樹脂組成物であって、前記2種以上の熱溶融性フッ素樹脂の一方が、メルトフローレートが60g/10min以上の高MFR熱溶融性フッ素樹脂であり、他方が、メルトフローレートが12~32g/10minの低MFR熱溶融性フッ素樹脂であり、前記高MFR熱溶融性フッ素樹脂のメルトフローレート(MFRa)と、前記低MFR熱溶融性フッ素樹脂のメルトフローレート(MFRb)の比(MFRa/MFRb)が、2~8であり、前記高MFR熱溶融性フッ素樹脂が、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の含有量が、1.5~5.0モル%のテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)であり、前記低MFR熱溶融性フッ素樹脂が、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の含有量が、1.0~4.0モル%であるテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)であることを特徴とする射出成形用熱溶融性フッ素樹脂組成物が提供される。
【0013】
本発明の射出成形用熱溶融性フッ素樹脂組成物においては、
1.メルトフローレートが10~100g/10minの範囲にあること、
2.前記高MFR熱溶融性フッ素樹脂の含有量が、熱溶融性フッ素樹脂の全量の5~95重量%であること、
3.更に、高分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、0.01~1重量%の量で含有すること、
.前記熱溶融性フッ素樹脂組成物を用い、ウェルドラインを有する厚み1.9±0.5mmの成形品を射出圧・保圧50MPaで射出成形し、該射出成形品のウェルドライン形成部分から切り出したマイクロダンベル型の試験片(ASTM D-2116に準拠)を用いて、支点間距離22mm、引張速度200mm/min、23℃、正弦波、応力比0.1の条件で行った引張疲労試験により得られたS-N線図(1~1,000,000回のサイクル数(回)における破断時応力(MPa)をY軸及びその破断サイクル数をX軸とする)から最小二乗法により導出した下記対数近似式
Y=a*Ln(X)+b
において、X=1000回のときのYの値が14.5MPaより大きく、且つ傾きaの値が-0.15よりも大きいことを満足すること、
が好適である。
【0014】
上記熱溶融性フッ素樹脂組成物を射出成形して成ることを特徴とする射出成形品が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物においては、ウェルドラインの発生を回避できない継手等の複雑な形状の製品を射出成形により成形した場合に、形成されるウェルドライン部の強度を顕著に向上することができる。
また熱溶融性フッ素樹脂組成物のメルトフローレート(以下、「MFR」ということがある)が10~100g/10minの範囲にあり、溶融流動性に優れていることから、射出成形性に優れている。更に高分子量PTFEを配合することにより、金型からの引き抜き性にも優れている。
更に、本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物を射出成形して成る射出成形品は、ウェルドライン部の強度が顕著に向上されており、耐久性や耐溶剤性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】疲労引張試験に用いた試験片を説明するための図である。
図2】引張疲労試験の結果を示すS-N線図である。
図3】実施例2及び実施例3により得られた射出成形品の表面状態を示す写真である。
図4】実施例2及び比較例6により得られた熱溶融性フッ素樹脂組成物ペレットを用い、せん断速度228sec-1にて溶融押出したストランドの外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(熱溶融性フッ素樹脂組成物)
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物に用いる、高MFR熱溶融性フッ素樹脂は、MFRが35g/10min以上であることが好ましく、40g/10min以上であることがより好ましく、50g/10minであることがより好ましく、60g/10min以上であることが特に好ましい。高MFR熱溶融性フッ素樹脂は、分子量が低く、溶融時の流動性が大きいことから、高MFR熱溶融性フッ素樹脂を含有することにより、ウェルドライン部で分子鎖の絡み合いを形成しやすく、ウェルドライン部の強度や耐久性を向上することができる。
高MFR熱溶融性フッ素樹脂のMFRは、ウェルドライン部の強度の向上の観点からは35g/10min以上であればよく、特に上限はない。しかしながら、MFRが高すぎると、全体の分子鎖の絡み合いが低下して、ウェルドライン部以外の成形品全体の強度が不十分になると共に、耐溶剤性が低下し、溶剤が浸透しやすくなってクラックが発生するおそれがあるため、高MFR熱溶融性フッ素樹脂のMFRは150g/10min以下であることが好ましく、100g/10min以下であることがより好ましい。
【0018】
また本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物に用いる、低MFR熱溶融性フッ素樹脂は、MFRが10g/10min以上且つ35g/10min未満の範囲内にあることが好ましく、12~32g/10minの範囲内にあることが特に好ましい。低MFR熱溶融性フッ素樹脂を含有することにより、成形体全体の強度や耐溶剤性を向上することができる。上記範囲よりも低MFR熱溶融性フッ素樹脂のMFRが小さい場合には、樹脂組成物の流動性が低下し、射出成形性が損なわれ、成形時に層分離を生じることに起因して射出成形品表面に層間剥離や表面荒れが生じるおそれがある。一方上記範囲よりもMFRが大きい場合には、成形体全体の強度低下及び耐溶剤性を改善できないおそれがある。
【0019】
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物においては、上述した高MFR熱溶融性フッ素樹脂のMFR(MFRa)と、低MFR熱溶融性フッ素樹脂のMFR(MFRb)の比(MFRa/MFRb)が1より大きく且つ10以下、特に2~8の範囲にあることが重要である。上記範囲よりもMFRa/MFRbが大きい場合には、射出成形性が損なわれ、成形時に層分離を生じることに起因して射出成形品表面に層剥離や表面荒れが生じるおそれがある。
【0020】
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物は、全体としてMFRが10~100g/10minの範囲内にあることが好ましく、15~80g/10minの範囲内にあることがより好ましく、20~60g/10minの範囲にあることが特に好ましい。熱溶融性フッ素樹脂組成物のMFRが上記範囲よりも小さい場合には、流動性が不足し、複雑な形状の成形品を成形することができないおそれがある。一方上記範囲よりも大きい場合には、成形品全体の機械的強度が上記範囲にある場合に比して低下するおそれがある。また、射出成形時にドローダウン(糸引き)が発生し、射出成形条件の調整が困難になるおそれもある。
【0021】
本明細書において、熱溶融性フッ素樹脂のメルトフローレート(MFR)は、ASTM D-1238に準拠して測定されるものであり、溶融温度や測定時の押出荷重は、ASTM D-1238のものに準ずる。熱溶融性フッ素樹脂がPFAやFEPのときは、温度は372(±1)℃であり、荷重は5kgである。具体的な測定方法は後述する。
また、高MFR熱溶融性フッ素樹脂及び/又は低MFR熱溶融性フッ素樹脂が、MFRの異なる複数の熱溶融性フッ素樹脂から成る場合には、MFRが35g/10min以上の複数の熱溶融性フッ素樹脂のそれぞれのMFR及び配合割合から、高MFR熱溶融性フッ素樹脂のMFRの平均値を算出して、これを高MFR熱溶融性フッ素樹脂のMFRとする。同様に、MFRが1g/10min以上且つ35g/10min未満の複数の熱溶融性フッ素樹脂のそれぞれのMFR及び配合割合から、低MFR熱溶融性フッ素樹脂のMFRの平均値を算出して、これを低MFR熱溶融性フッ素樹脂のMFRとする。
【0022】
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物においては、上述した高MFR熱溶融性フッ素樹脂と低MFR熱溶融性フッ素樹脂とを重量比で、5:95~95:5の範囲内で含有することが好ましく、特に10:90~90:10の範囲、更に15:85~85:15の範囲内で含有することが好ましい。上記範囲よりも高MFR熱溶融性フッ素樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して射出成形品のウェルドライン部における絡み合いの効果が減少し、ウェルドライン部の強度の向上を図ることができないおそれがある。一方上記範囲よりも高MFR熱溶融性フッ素樹脂の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して、低分子量成分の増加により、得られる成形品全体の強度が低下すると共に、耐溶剤性が低下するおそれがある。
【0023】
[熱溶融性フッ素樹脂]
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物を構成する、高MFR熱溶融性フッ素樹脂及び低MFR熱溶融性フッ素樹脂は、融点以上になると溶融流動性を示すフッ素樹脂である。
例えば、低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体等を用いることができる。
特に薬液配管や継手等の射出成形品の成形に用いる場合には、上記熱溶融性フッ素樹脂の中でも、特に低分子量PTFEやPFA、FEP、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等の熱溶融性パーフルオロ樹脂が、耐薬品性に優れることから好ましく使用でき、中でもPFAは耐熱性と成形性に優れることから最も好ましい。
【0024】
熱溶融性フッ素樹脂は、優れた射出成形性を実現するために、樹脂の溶融流動性を向上することが望ましいことから、コモノマーを多く含むことが好ましい。すなわち、樹脂の溶融流動性を向上するために樹脂の分子量が小さくなりすぎると、射出成形品の強度低下を招くおそれがあるが、コモノマーを多く含むことで、樹脂の分子量を下げずに、融点を低下させることができ、溶融流動性を改善することができる。またコモノマーを多く含むことでウェルドライン部分での溶融状態での分子鎖の絡み合いが促進され、ウェルドライン部の強度が改善される。
例えば、PFAを使用する場合、高MFR熱溶融性フッ素樹脂は、コモノマーであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)の含有量が、1.5モル%以上が好ましく、1.7モル%以上がより好ましく、1.9~5.0モル%の範囲内にあることが特に好ましい。一方、低MFR熱溶融性フッ素樹脂は、コモノマーであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)の含有量が、1.0モル%以上が好ましく、1.2モル%以上がより好ましく、1.4モル%~4.0モル%の範囲内にあることが特に好ましい。
またPFAに含まれるコモノマーであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)としては、アルキル基の炭素数が1~5であるものが好ましく、炭素数が2であるパーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、3であるパーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)が好ましく用いられる。アルキル基の炭素数が多いと、十分な量のPAVEをPFAに含ませることが困難となる。
【0025】
[熱溶融性フッ素樹脂の合成]
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物を構成する高MFR熱溶融性フッ素樹脂及び低MFR熱溶融性フッ素樹脂は、それぞれ前述したMFRを有する限り、市販のものや公知の方法によって製造されたものを使用することができる。
例えば、PFA(TFE/PAVE共重合体)の場合は、これに限定されないが、特開2017-119741号公報、特許第3550891号公報、特許第43292706号公報等に記載された方法等により合成することができるが、特に液中での分散重合により重合されることが好ましく、水を液媒体として用いた水系乳化重合が環境面から好ましい。均一な組成を有する共重合体を与えるために、フッ素含有溶媒を共用することもできる。
【0026】
水系乳化重合は広い範囲の温度で行うことができるが、伝熱の問題および熱的に活性化される開始剤の使用のために、約50~110℃の範囲の高い温度が有利であり、70~90℃の範囲の温度が好ましい。乳化重合において用いられる界面活性剤は、加熱が過剰になると分散安定性を失う傾向がある。
PFAの水系乳化重合には、適当な界面活性剤を用いることができる。具体的には、パーフルオロオクタン酸アンモニウム(C-8)、パーフルオロノナン酸アンモニウム(C-9)、および米国特許第4,380,618号に記載されたパーフルオロアルキルエタンスルホン酸およびその塩類、特表2010-509441号公報に記載されたフルオロポリエーテル酸や塩界面活性剤が好ましく用いられる。
【0027】
水系乳化重合の開始剤としては、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)またはジコハク酸ペルオキシド(disuccinic acid peroxide)のような水溶性のフリーラジカルの開始剤、あるいは過マンガン酸カリウムを基盤とするもののようなレドックス系開始剤を用いることができる。
PFAの水系乳化重合において、連鎖移動剤(CTA)を用いることができる。広い範囲の化合物を、CTAとして用いることができる。たとえば、分子状水素、低級アルカン、およびハロゲン原子で置換された低級アルカンのような水素含有化合物が用いられる。CTAは、そのCTAの構造により、比較的安定な末端基を生成できる。好ましいCTAとしては、メタン、エタン、および塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、および四塩化炭素のような置換炭化水素が挙げられる。特定の重合条件下で所望の分子量を達成するために用いられるCTAの量は、用いた開始剤の量および選択したCTAの連鎖移動効率に依存する。連鎖移動効率は、化合物から化合物へと相当に変化し、および温度によっても変化する。
【0028】
米国特許第3,635,926号において開示されたように、炭酸アンモニウムまたはアンモニア(水酸化アンモニウム)のような塩基性緩衝剤を添加することで、より安定なアミド末端基を提供することができる。
【0029】
反応容器に水、界面活性剤、必要によりCTA、およびコモノマーを装填し、選択された温度に加熱し、そして攪拌を開始した後に、開始剤の溶液を規定された速度で添加して重合を開始する。圧力降下が、重合が開始したことを示す指標となる。次に、TFEの添加を開始し、そして重合を調節するために、TFEの添加(注入)や圧力が制御される。最初の開始剤溶液と同一または異なっていてもよい開始剤溶液が、通常は反応を通して添加される。PAVEコモノマーの添加は、あらかじめ反応容器に入れておいても良いし、重合開始後にTFEと同様に注入添加しても良い。PAVE添加の速度は均一であっても良いし、不均一(可変)であっても良い。
【0030】
加えて、反応容器内の攪拌速度、圧力によっても重合は制御され得る。高い圧力は反応速度を上昇させるが、TFEの重合は発熱的であるため、高い反応速度は発熱を増加させ、熱除去を考慮する必要が生じる。用いられる圧力は、装置設計およびTFEの取り扱いにおける安全性の問題によって決定され、一般的には、約0.3~7MPaの範囲内の圧力が、TFE共重合体の水系乳化重合に関して知られており、0.7~3.5MPaの範囲内の圧力がより一般的である。反応器内を一定圧力に維持することが一般的であるが、圧力を変化させることもできる。
【0031】
[フッ素化]
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物を構成する高MFR熱溶融性フッ素樹脂及び低MFR熱溶融性フッ素樹脂が、熱溶融性パーフルオロ樹脂の組成物である場合は、フッ素ガスによって処理することによりポリマー鎖の末端を-CF基とすることで、ポリマー及びその成形品の耐熱性、耐油性、耐薬品性、表面非粘着性を更に向上させることができる。この処理はフッ素化と呼ばれ、特開昭62-104822号公報などに記載の方法によって行うことができる。
【0032】
(その他成分)
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物は、高分子量PTFEを0.01~1重量%、特に0.05~0.5重量%の量で含有することが好ましい。高分子量PTFEを上記範囲で含有することにより、射出成形品の表面分子鎖の絡み合いが強固になり、射出成形金型からの引き抜き性が向上されるため、表面層の層分離を生じることがなく、表面荒れが有効に防止できる。また、射出成形品全体の分子鎖の絡み合いを改善することにより、成形品全体の強度が改善され、耐溶剤性の向上も期待できる。
本発明において高分子量PTFEとは、融点以上でも溶融流動性を示さないものである。更に、結晶化融解熱量が50J/g未満、特に40J/g未満である非溶融流動性のPTFEであることが好ましい。
また、本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物は、求める特性に応じて、各種の有機・無機充填材を加えることもできる。有機充填材としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリイミドなどのエンジニアリングプラスチックが挙げられる。無機充填材としては、金属粉、金属酸化物(酸化アルミ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン等)、ガラス、セラミックス、炭化珪素、酸化珪素、弗化カルシウム、カーボンブラック、グラフアイト、マイカ、硫酸バリウムなどが挙げられる。
充填材の形状としては、粒子状、繊維状、フレーク状など、各種の形状の充填材が使用可能である。
このほか、導電性、発泡防止、耐摩耗改善など求める特性に応じて通常のフッ素樹脂組成物、及び成形品に使用される顔料や各種の添加剤も加えることができる。
【0033】
(熱溶融性フッ素樹脂組成物の調製)
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物は、上述した高MFR熱溶融性フッ素樹脂及び低MFR熱溶融性フッ素樹脂を、公知の混合方法によって混合して調製することができる。
このような混合方法としては、高MFR熱溶融性フッ素樹脂及び低MFR熱溶融性フッ素樹脂を、乾燥状態のペレットの状態で混合するドライブレンド、水や有機溶剤を混合媒体として混合する湿式混合、コロイド状態のフッ素樹脂分散液を混合して高分散状態のまま凝集させる方法(共凝集法)、溶融混合方法を利用することができる。
【0034】
溶融混合方法としては、高MFR熱溶融性フッ素樹脂及び低MFR熱溶融性フッ素樹脂の融点以上の温度にて機械的に混練することが好ましい。溶融混合は、たとえば、高温ニーダー、スクリュー式押出機、二軸押し出し機などを用いて行うことができる。このとき、溶融混合の前に、ドライブレンド・湿式混合などの方法であらかじめ高MFR熱溶融性フッ素樹脂及び低MFR熱溶融性フッ素樹脂を混合しておくことが好ましい。
また上記以外にも、前述した乳化重合において段階的に重合を行うことで、高MFR熱溶融性フッ素樹脂又は低MFR熱溶融性フッ素樹脂の一方が一次粒子の芯部(コア)となり、他方が殻部(シェル)となるように、コアシェル構造の熱溶融性フッ素樹脂の分散質を形成することもできる。
【0035】
混合に用いられる熱溶融性フッ素樹脂の形態に制限は無いが、作業性を考慮して平均粒径0.05μm~1μmの微粒子の分散液や、数μm~数10μmの粉末状物、あるいは数100μmの粉末状物の造粒物を挙げることができる。
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物の形態は、粉末状物、粉末状物の造粒品、粒状物、フレーク、ペレット等の形態を挙げることができる。得られる組成物の平均粒径は、0.1μm以上であって、ハンドリング性が損なわれない範囲であることが好ましい。
【0036】
(射出成形品)
本発明においては、上述した熱溶融性フッ素樹脂組成物を射出成形することにより、ウェルドライン部の強度が顕著に改善された射出成形品を提供することができる。
すなわち本発明においては、複雑な形状を有する射出成形品において不可避的に形成されるウェルドライン部の強度に着目し、この部分における強度を向上させるために、分子量が低く、溶融時の流動性が大きく、ウェルドライン部で分子鎖の絡み合いを形成しやすいことから、射出成形品のウェルドライン部における強度を向上させることが可能な、所定のMFRを有する高MFR熱溶融性フッ素樹脂を含有すると共に、射出成形品全体の強度を確保するために所定のMFRを有する低MFR熱溶融性フッ素樹脂を含有する熱溶融性フッ素樹脂組成物を用いている。
すなわち、実施例にその詳しい試験条件を後述するが、本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物においては、射出成形品のウェルドライン部から切り出した所定の試験片を用い、引張疲労試験により得られたS-N線図(図2参照、1~1,000,000回のサイクル数(回)における破断時応力(MPa)をY軸及びその破断サイクル数をX軸とする)から最小二乗法により導出した下記対数近似式(1)
Y=a*Ln(X)+b・・・(1)
において、X=1000回のときのYの値が14.5MPaより大きく、且つ傾きaの値が-0.15よりも大きく、ウェルドライン部の強度が顕著に向上されていることが理解される。
【0037】
従って、本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物から得られる本発明の射出成形品は、ウェルドライン部の強度が高く、耐久性や耐溶剤性にも優れていることが理解される。また前述したとおり、射出成形品全体の強度にも優れている。
本発明の射出成形品は、これに限定されるものではないが、継手や中空容器等の複雑な形状でウェルドライン部の形成が避けられないものであることが好適であるが、耐久性や耐溶剤性に優れていることから、ウェルドライン部が必ずしも形成されないチューブや配管等であってもよい。
【実施例
【0038】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
【0039】
(1)メルトフローレート(MFR):
ASTM D1238に準拠した耐食性のシリンダー、ダイ、ピストンを備えたメルトインデクサー(東洋精機製)を使用し、5gの試料を372±1℃に保持されたシリンダーに充填して5分間保持した後、5kgの荷重(ピストン及び重り)下でダイオリフィスを通して押し出し、この時の溶融物の押し出し速度(g/10分)をMFRとして求めた。
【0040】
(2)コモノマー含有量
試料を350℃で圧縮した後水冷して得られた厚さ約50ミクロンのフィルムの赤外吸収スペクトル(窒素雰囲気)から、米国特許第5760151号記載の方法に従い求めた。
【0041】
(3)融点(Tm)
示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料粉末10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、150℃から360℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0042】
(4)原料
PFA(1):PFAペレット[テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体、コモノマー含有量2.1mol%、MFR 65.1g/10分、融点302℃、不安定末端基(-CHOH末端基、-CONH末端基、-COF末端基)が炭素数10個あたり6個未満]
PFA(2):PFAペレット[テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体、コモノマー含有量1.9mol%、MFR 30.4g/10分、融点306℃、不安定末端基(-CHOH末端基、-CONH末端基、-COF末端基)が炭素数10個あたり6個未満]
PFA(3):PFAペレット[テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体、コモノマー含有量2.1mol%、MFR15g/10分、融点310℃、不安定末端基(-CHOH末端基、-CONH末端基、-COF末端基)が炭素数10個あたり6個未満]
PFA(4):PFAペレット[テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体、コモノマー含有量1.4mol%、MFR 15g/10分、融点308℃、不安定末端基(-CHOH末端基、-CONH末端基、-COF末端基)が炭素数10個あたり6個未満]
PFA(5):PFAペレット[テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体、コモノマー含有量1.3mol%、MFR 2g/10分、融点310℃、不安定末端基(-CHOH末端基、-CONH末端基、-COF末端基)が炭素数10個あたり6個未満]
PFA(6):
従来公知の方法(例えば、特開2003-231722号公報、特開2003-213196号公報、特表2004-507571号公報などに記載)に準じて、段階的な乳化重合により、PFA一次粒子の芯部(コア)がPFA(3)と同様の構造(コモノマー含有量及びMFR)として、PFA一次粒子の殻部(シェル)がPFA(1)と同様の構造(コモノマー含有量及びMFR)となり、芯部(コア):殻部(シェル)が50:50重量%となるコアシェル構造のPFA水性分散液を得た。
得られたPFA分散液に乳化重合により得られた高分子量PTFE水性分散液(融点338℃、MFR 0g/10min、結晶融解熱量32.1J/g)を0.05重量%加えて攪拌・凝集して凝集物を得た後に、292℃において12時間乾燥した。このPFA粉末を2軸押出し機を用いて、樹脂温度を360℃に保持して押し出し、ペレット化を行った。(MFR28.5g/10分)
PFA(7):
PFA(6)のペレットを、特開昭62-104822号公報に記載の方法に準じてフッ素ガスで処理して末端基を安定化(フッ素化)した。
(MFR30.3g/10分、不安定末端基(-CHOH末端基、-CONH末端基、-COF末端基)が炭素数10個あたり6個未満)
【0043】
(5)高分子量PTFEマスターバッチ作製
乳化重合により得られたPFA水性分散液(テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体、MFR 75.0g/10分、融点310℃)と、乳化重合により得られた高分子量PTFE水性分散液(融点338℃、MFR 0g/10min、結晶融解熱量32.1J/g)をPFAが98重量%、PTFEが2重量%となるように混合し、凝析・乾燥させてPFA/PTFE混合粉末を得た(共凝集法)。得られた粉末をΦ20mm1軸押出成形機を用いて押出成形を行い、ストランドカッターによりペレット化した。
得られたペレットを特開昭62-104822号公報に記載の方法に準じてフッ素ガスで処理して末端基を安定化(フッ素化)した。
【0044】
(実施例1)
高MFR熱溶融性フッ素樹脂として、PFA(1)を用い、低MFR熱溶融性フッ素樹脂としてPFA(2)を用い、PFA(1):PFA(2):高分子量PTFEマスターバッチ=77.5:20:2.5(重量%)となるようにペレットを混合して、二軸押出機を用いて、シリンダー温度を360℃として、スクリュー中にニーディングブロックを設置して、溶融混練押出を行いペレット化した。得られたペレットは150℃で5時間乾燥した。この熱溶融性フッ素樹脂組成物のMFRは28.4g/10minであった。得られたペレットは、直径約3mm、長さ約3mmの略円筒形状である。
【0045】
得られた熱溶融性フッ素樹脂組成物のペレットを、日精樹脂工業製NEX180-36E射出成形機(L/D=24、スクリュー径Φ45mm)を用い、樹脂温度380℃、射出圧・保圧50MPa、射出速度10mm/sec、金型温度180℃にて、中心にウェルドライン部を有する幅28mm、長さ48mm、厚さ1.9±0.5mmの射出成形品を作成した。この射出成形品のウェルドラインが形成された部分から図1に示すマイクロダンベル型を打ち抜き加工で作成し、引張疲労試験用試験片とした。
【0046】
次いで、得られた試験片を、(株)マイズ試験機製引張疲労試験機つかみ具に支点間距離22mmにて固定し、引張速度200mm/min、温度23℃、正弦波、応力制御、応力比0.1の試験条件にて繰返引張疲労を加えた。
任意の応力にて測定を実施し、破断に至ったサイクル数を記録する。応力は破断サイクル数が1, 10, 100, 1,000, 10,000, 100,000,1,000,000回程度となる応力を任意に設定した。
各測定応力をY軸に、その破断サイクル数X軸にプロットし、Y=a* Ln(X)+bにより表される対数近似式を最小二乗法により導出した。得られたS-N線図を図2に示す。
破断サイクル数X=1000回での破断応力Yと、傾きaの値を比較し、耐久性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:破断サイクル数X=1000回でのY14.5MPaより大きく、且つ傾きaの値が-0.15よりも大きい
×:破断サイクル数X=1000回でのY14.5MPa以下、及び/又は、傾きaの値が-0.15以下
評価結果を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
低MFR熱溶融性フッ素樹脂としてPFA(3)を用い、PFA(1):PFA(3):高分子量PTFEマスターバッチ=47.5:50:2.5(重量%)となるようにペレットを混合して、実施例1と同様に溶融混練押出して組成物ペレットを得た。この熱溶融性フッ素樹脂組成物のMFRは32.6g/10minであった。実施例1と同様にして試験片を作製して、引張疲労試験によりウェルド強度評価を行った。得られたS-N線図を図2に示し、評価結果を表1に示す。
【0048】
(実施例3)
高MFR熱溶融性フッ素樹脂として、PFA(1)を用い、低MFR熱溶融性フッ素樹脂としてPFA(3)を用い、PFA(1):PFA(3)=50:50(重量%)となるようにペレットを混合して、実施例1と同様に溶融混練押出を行い熱溶融性フッ素樹脂組成物のペレットを得た。この熱溶融性フッ素樹脂組成物のMFRは28.0g/10minであった。
組成物のペレットから実施例1と同様に試験片を作製して、引張疲労試験によりウェルド強度評価を行った。得られたS-N線図を図2に示し、評価結果を表1に示す。
【0049】
(実施例4)
高MFR熱溶融性フッ素樹脂として、PFA(1)を用い、低MFR熱溶融性フッ素樹脂としてPFA(3)を用い、PFA(1):PFA(3)=20:80(重量%)となるようにペレットを混合して、実施例1と同様に溶融混練押出を行い熱溶融性フッ素樹脂組成物のペレットを得た。この熱溶融性フッ素樹脂組成物のMFRは19.8g/10minであった。
組成物のペレットから実施例1と同様に試験片を作製して、引張疲労試験によりウェルド強度評価を行った。得られたS-N線図を図2に示し、評価結果を表1に示す。
【0050】
(実施例5)
高MFR熱溶融性フッ素樹脂として、PFA(1)を用い、低MFR熱溶融性フッ素樹脂としてPFA(3)を用い、PFA(1):PFA(3)=80:20(重量%)となるようにペレットを混合して、実施例1と同様に溶融混練押出を行い熱溶融性フッ素樹脂組成物のペレットを得た。この熱溶融性フッ素樹脂組成物のMFRは46.6g/10minであった。
組成物のペレットから実施例1と同様に試験片を作製して、引張疲労試験によりウェルド強度評価を行った。得られたS-N線図を図2に示し、評価結果を表1に示す。
【0051】
(実施例6)
熱溶融性フッ素樹脂組成物として、PFA(6)のペレットを用い、実施例1と同様にして試験片を作製して、引張疲労試験によりウェルド強度評価を行った。得られたS-N線図を図2に示し、評価結果を表1に示す。
【0052】
(実施例7)
熱溶融性フッ素樹脂組成物としてPFA(7)のペレットを用い、実施例1と同様にして試験片を作製して、引張疲労試験によりウェルド強度評価を行った。得られたS-N線図を図2に示し、評価結果を表1に示す。
【0053】
(比較例1)
PFA(1)のペレットのみを用いて、実施例1と同様に試験片を作製して、引張疲労試験によりウェルド強度評価を行った。得られたS-N線図を図2に示し、評価結果を表1に示す。
【0054】
(比較例2)
PFA(2)のペレットのみを用いて、実施例1と同様に試験片を作製して、引張疲労試験によりウェルド強度評価を行った。得られたS-N線図を図2に示し、評価結果を表1に示す。
【0055】
(比較例3)
PFA(3)のペレットのみを用いて、実施例1と同様に試験片を作製して、引張疲労試験によりウェルド強度評価を行った。得られたS-N線図を図2に示し、評価結果を表1に示す。
【0056】
(比較例4)
PFA(4)のペレットのみを用いて、実施例1と同様に試験片を作製して、引張疲労試験によりウェルド強度評価を行った。得られたS-N線図を図2に示し、評価結果を表1に示す。
【0057】
(比較例5)
高MFR熱溶融性フッ素樹脂として、PFA(1)を用い、低MFR熱溶融性フッ素樹脂としてPFA(5)を用い、PFA(1):PFA(5)=50:50(重量%)となるようにペレットを混合して、実施例1と同様に溶融混練押出を行い熱溶融性フッ素樹脂組成物のペレットを得た。この熱溶融性フッ素樹脂組成物のMFRは7.6g/10minであった。
組成物のペレットから実施例1と同様に試験片を作製しようとしたが、成形金型に樹脂が充填できず(ショートショット)、テストピースの作製は不可であった。
【0058】
(比較例6)
高MFR熱溶融性フッ素樹脂として、PFA(1)を用い、低MFR熱溶融性フッ素樹脂としてPFA(5)を用い、PFA(1):PFA(5)=80:20(重量%)となるようにペレットを混合して、実施例1と同様に溶融混練押出を行い熱溶融性フッ素樹脂組成物のペレットを得た。この熱溶融性フッ素樹脂組成物のMFRは24.0g/10minであった。
組成物のペレットから実施例1と同様に試験片を作製して、引張疲労試験によりウェルド強度評価を行った。得られたS-N線図を図2に示し、評価結果を表1に示す。
【0059】
(引き抜き性評価(表面荒れの有無))
実施例2及び実施例3の熱溶融性フッ素樹脂組成物のペレットを、日精樹脂工業製NEX180-36E射出成形機を用い、樹脂温度360℃、射出圧・保圧50MPa、射出速度6mm/sec、金型温度160℃にて、T字継手型成形体を射出成形をした際の、コアピン抜き部の内表面をレーザー顕微鏡(レーザーテック社製コンフォーカル顕微鏡OPTELICS C130)で観察した。結果を図3に示す(図3(A)が実施例3、(B)が実施例2である)。
【0060】
(高速射出成形性試験)
実施例2と比較例6の熱溶融フッ素樹脂組成物ペレットについて、キャピラリーレオメーター(東洋精機製キャピログラフ1D)を用いて、シリンダー温度380℃、オリフィス径2mm、L/D=10、ピストンスピード100mm/min(このとき、せん断速度152sec-1となる)及び150mm/min(このとき、せん断速度228sec-1となる)にて溶融押出したストランドを得た。
得られたストランドの外観は、実施例2のペレットから得られたものは平滑であったが(図4左側)、比較例6のペレットから得られたものには表面荒れによる凹凸が見られた(図4右側)。レーザー顕微鏡(レーザーテック社製コンフォーカル顕微鏡OPTELICS C130、実表面の断面曲線から断面曲線を作成する時のカットオフ値が0.008)にてストランド表面の荒れ部高さを倍率200倍にて測定した。結果を表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物は、射出成形性に優れ、ウェルドラインの発生を回避できない複雑な形状の製品を射出成形により成形した場合にも、形成されるウェルドライン部の強度が顕著に向上されていると共に、耐薬剤性や耐久性にも優れていることから、継手、薬液用容器、バルブボディ、ウェハーキャリア等の複雑な形状の射出成形品の他、薬液や超純水の移送用配管又はチューブ等に好適に使用できる。
図1
図2
図3
図4