IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日機装株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-透析液調製装置 図1
  • 特許-透析液調製装置 図2
  • 特許-透析液調製装置 図3
  • 特許-透析液調製装置 図4
  • 特許-透析液調製装置 図5
  • 特許-透析液調製装置 図6
  • 特許-透析液調製装置 図7
  • 特許-透析液調製装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】透析液調製装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20230823BHJP
   B01F 23/40 20220101ALI20230823BHJP
   B01F 35/83 20220101ALI20230823BHJP
【FI】
A61M1/16 161
B01F23/40
B01F35/83 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019040227
(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公開番号】P2020141840
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁田 大揮
(72)【発明者】
【氏名】松尾 純明
(72)【発明者】
【氏名】毛受 佑哉
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-197697(JP,A)
【文献】特開2005-103006(JP,A)
【文献】特開昭56-119255(JP,A)
【文献】特開2000-271468(JP,A)
【文献】特開平4-200559(JP,A)
【文献】米国特許第4698160(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
B01F 23/40
B01F 35/83
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析液原液と透析用水とから透析液を調製する装置であって、
前記透析液原液を供給する原液供給流路と、
前記透析用水を供給する水供給流路と、
調製した透析液を吐出する吐出流路と、
シリンダ内で進退可能に設けられたプランジャ又はピストン、及び前記プランジャ又は前記ピストンを進退駆動させる駆動部を有し、前記駆動部により前記プランジャ又は前記ピストンを前記シリンダ内で進退させることで、前記プランジャ又は前記ピストンの移動量に応じた量の液の吸入及び吐出が可能な往復動ポンプと、
前記原液供給流路、前記水供給流路、及び前記吐出流路のいずれかを前記往復動ポンプに接続するよう切り替え可能な流路切替機構と、
前記透析液原液及び前記透析用水の供給量、及び前記透析液原液と前記透析用水との希釈比率によって定まる前記プランジャ又は前記ピストンの前記透析液原液及び前記透析用水に対する吸入移動量を決定し、前記吸入移動量に応じた量の前記透析液原液と前記透析用水とを複数回に分割して前記シリンダ内に順次吸入して透析液を調製し、この複数回の分割吸入によって調製した前記透析液を前記吐出流路に吐出する制御を行う制御部と、を備えた、
透析液調製装置。
【請求項2】
前記透析液原液が、A原液とB原液の2つの液からなり、
前記原液供給流路は、前記A原液を供給するA原液供給流路と、前記B原液を供給するB原液供給流路と、からなり、
前記流路切替機構は、前記A原液供給流路、前記B原液供給流路、前記水供給流路、及び前記吐出流路のいずれかを前記往復動ポンプに接続するよう切り替え可能に構成され、
前記制御部は、前記シリンダ内に規定量の前記A原液と前記B原液と前記透析用水とを前記分割吸入によって順次吸入して前記透析液を調製し、前記分割吸入によって調製した前記透析液を前記吐出流路に吐出する制御を行う、
請求項1に記載の透析液調製装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記A原液と前記B原液の一方を吸入した後、前記透析用水を吸入し、その後前記A原液と前記B原液の他方を吸入することで、透析液を調製する、
請求項2に記載の透析液調製装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記A原液と前記B原液の一方を吸入した後、前記透析用水を吸入し、その後前記A原液と前記B原液の他方を吸入し、その後前記透析用水を吸入することで、透析液を調製する、
請求項2または3項に記載の透析液調製装置。
【請求項5】
前記往復動ポンプは、前記シリンダ内に吸入した前記透析液原液と前記透析用水との混合を促進する混合促進機構をさらに有する、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の透析液調製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析液原液と透析用水とから透析液を調製する透析液調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液浄化システムに備えられる透析液調製装置として、透析液原液と透析用水とから透析液を調製するものがある。透析液原液としては、一般に2種類の原液が用いられており、これら両原液を透析液調製装置にて所定の比率で希釈混合することにより、透析液が調製される。
【0003】
従来の透析液調製装置として、A原液、B原液用の個別の定量ポンプと、それら各原液とあわせて透析用水を送液する定量ポンプとを備えたものが知られている。しかし、この従来の透析液調製装置では、3つの定量ポンプが必要となるため、装置が大型化してしまい、コストも高くなってしまうという課題があった。
【0004】
特許文献1では、1つの定量ポンプを用いて、2種類の原液を順次定容量器に送り込み、定容量器が充満するまで透析用水を送りこむことで、透析液を調製する装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭56-119255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、定量ポンプの精度と定容量器の精度とが透析液の希釈精度に関わるため、透析液の希釈精度が十分に得られない場合があった。また、透析用水を圧送する機構が必要となるため、装置が大型化してしまうおそれもあった。
【0007】
そこで、本発明は、透析液の希釈精度の向上を図ったコンパクトな透析液調製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、透析液原液と透析用水とから透析液を調製する装置であって、前記透析液原液を供給する原液供給流路と、前記透析用水を供給する水供給流路と、調製した透析液を吐出する吐出流路と、シリンダ内で進退可能に設けられたプランジャ又はピストン、及び前記プランジャ又は前記ピストンを進退駆動させる駆動部を有し、前記駆動部により前記プランジャ又は前記ピストンを前記シリンダ内で進退させることで、前記プランジャ又は前記ピストンの移動量に応じた量の液の吸入及び吐出が可能な往復動ポンプと、前記原液供給流路、前記水供給流路、及び前記吐出流路のいずれかを前記往復動ポンプに接続するよう切り替え可能な流路切替機構と、前記駆動部及び前記流路切替機構を制御することで、前記シリンダ内に規定量の前記透析液原液と前記透析用水とを順次吸入して透析液を調製し、調製した透析液を前記吐出流路に吐出する制御を行う制御部と、を備えた、透析液調製装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透析液の希釈精度の向上を図ったコンパクトな透析液調製装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の透析液調製装置を用いた血液浄化システムの概略構成を示す説明図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る透析液調製装置の概略構成図である。
図3】(a),(b)は、透析液調製装置の一変形例を示す概略構成図である。
図4】制御部の制御フローの一例を示すフロー図である。
図5】(a)は実験に用いた装置を説明する説明図、(b)は電導度が既知である塩水と透析用水の吸入比率を変化させた場合の電導度の測定結果を示すグラフ図、(c)は塩水吸入時のパルス数と電導度との関係を示すグラフ図である。
図6】(a)~(d)は、吸入回数を変化させた場合の電導度の測定結果を示すグラフ図である。
図7】透析液調製装置の一変形例を示す図であり、(a)はプランジャポンプの概略構成図、(b)はそのA-A線断面図である。
図8】透析液調製装置の一変形例を示す図であり、(a)はプランジャポンプの概略構成図、(b)はそのB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
(血液浄化システム)
図1は、本発明の透析液調製装置を用いた血液浄化システムの概略構成を示す説明図である。図1に示すように、血液浄化システム10は、RO装置11と、本実施の形態に係る透析液調製装置1と、除水バランス制御機構12と、血液浄化器13と、を備えている。
【0013】
RO装置11は、逆浸透膜(RO(Reverse Osmosis)膜)により、水道水に含まれる塩素やバクテリア等の不純物を除去して、透析液原液の希釈に用いる透析用水を生成するものである。RO装置11で生成された透析用水は、透析液調製装置1に供給される。
【0014】
透析液調製装置1は、透析液原液と透析用水とから透析液を調製するものである。透析液調製装置1の詳細については後述する。透析液調製装置1で調製された透析液は、除水バランス制御機構12を介して血液浄化器13に供給される。
【0015】
血液浄化器13は、ダイアライザーとも呼称されるものであり、側面に多数の細かな穴の空いたストロー状の中空糸が大量に束ねられケースに収容された構造となっている。中空糸の内側に血液、中空糸の外側に透析液が流通され、中空糸の側面の細かな穴を介して血液中の不純物の除去と、血液中の余剰水分の除去が行われる。患者と血液浄化器13とは血液回路14を介して接続され、血液は血液ポンプ15によって体外循環されている。血液は血液ポンプ15によって一定の速度で脱血され、血液浄化器13を介して毒素や余剰水分が除去され、再び患者へ返血される。血液浄化器13からの排液は、除水バランス制御機構12を介して排出される。
【0016】
除水バランス制御機構12は、血液浄化器13に供給される透析液の量と、血液浄化器13から排出される排液の量とを制御することで、除水バランスの制御を行う機構である。除水バランス制御機構12は、定容量ポンプや定容量チャンバを用いて、血液浄化器13に供給される透析液の量と、血液浄化器13から排出される排液の量とが機械的に同等となるように構成されたポンプ機構(不図示)と、ポンプ機構をバイパスして排液を送液する除水ポンプ(不図示)と、を有している。除水ポンプを駆動することで、血液浄化器13に供給される透析液の量よりも、血液浄化器13から排出される排液の量が多くなり、血液浄化器13の排液側に陰圧が生じて血液から余剰水分が除去される。
【0017】
(透析液調製装置1)
図2は、本実施の形態に係る透析液調製装置1の概略構成図である。図2に示すように、透析液調製装置1は、透析液原液を供給する原液供給流路2と、透析用水を供給する水供給流路3と、調製した透析液を吐出する吐出流路4と、プランジャポンプ5と、流路切替機構6と、制御部7と、を備えている。
【0018】
本実施の形態では、透析液原液は、A原液とB原液の2つの液からなる。ここでは、A原液はカルシウムを含み、B原液は炭酸水素ナトリウムからなる。両者を高濃度で混合すると炭酸カルシウムが析出するために、透析液原液として2つの液を用いている。これに対応し、原液供給流路2は、A原液を供給するA原液供給流路2aと、B原液を供給するB原液供給流路2bと、から構成されている。
【0019】
A原液供給流路2aは、A原液を貯留するタンク16(図1参照)から延び、プランジャポンプ5の吸入口5aに接続されている。同様に、B原液供給流路2bは、B原液を貯留するタンク17(図1参照)から延び、プランジャポンプ5の吸入口5aに接続されている。水供給流路3は、上述のRO装置11から延び、プランジャポンプ5の吸入口5aに接続されている。吐出流路4は、上述の除水バランス制御機構12へと透析液を供給する流路であり、プランジャポンプ5の吐出口5bに接続されている。
【0020】
なお、図3(a)に示すように、プランジャポンプ5の接続口5cを1箇所とし、各流路2a,2b,3,4をその接続口5cに接続するように構成してもよい。この場合、流路2a,2b,3,4をプランジャポンプ5に接続するための継ぎ手(不図示)を省略することができ、プランジャポンプ5の部品点数の削減が可能になる。
【0021】
図2に戻り、プランジャポンプ5は、中空円筒状のシリンダ51と、シリンダ51内で進退可能に設けられたプランジャ52と、プランジャ52を進退駆動させる駆動部53と、を有している。駆動部53としては、プランジャ52の移動量を精密に制御可能なものを用いるとよい。本実施の形態では駆動部53としてステッピングモータを用いた。
【0022】
プランジャポンプ5は、本発明の往復動ポンプの一態様であり、駆動部53によりプランジャ52をシリンダ51内で進退させることで、プランジャ52の移動量に応じた量の液の吸入及び吐出が可能となっている。なお、プランジャポンプ5に代えて、シリンダ51内で進退可能にピストンを設けたピストンポンプを用いることもできる。
【0023】
流路切替機構6は、A原液供給流路2a、B原液供給流路2b、水供給流路3、及び吐出流路4のいずれかをプランジャポンプ5に接続するよう切り替え可能に構成されている。本実施の形態では、流路切替機構6は、各流路2a,2b,3,4に設けられた電磁弁(開閉弁)61からなる。以下、A原液供給流路2aに設けられた電磁弁61をA原液用電磁弁61a、B原液供給流路2bに設けられた電磁弁61をB原液用電磁弁61b、水供給流路3に設けられた電磁弁61を水用電磁弁61c、吐出流路4に設けられた電磁弁61を吐出用電磁弁61dと呼称する。
【0024】
なお、本実施の形態では、各流路2a,2b,3,4のそれぞれに電磁弁61を設けて流路切替機構6を構成したが、これに限らず、例えば図3(b)に示すように、多方向の流路切替バルブ(ここでは5方弁)62を用いて流路切替機構6を構成してもよい。これにより、部品点数を削減しコストの削減、及び装置の小型化を図ることが可能になる。
【0025】
図2に戻り、制御部7は、プランジャポンプ5の駆動部53の駆動制御、及び、流路切替機構6としての電磁弁61a~61dの開閉制御を行うものである。制御部7は、CPU等の演算素子、メモリ等の記憶装置、ソフトウェア、インターフェイス等を適宜組み合わせて実現される。
【0026】
制御部7は、駆動部53及び流路切替機構6を制御することで、シリンダ51内に規定量のA原液とB原液と透析用水とを順次吸入して透析液を調製し、調製した透析液を吐出流路4に吐出する制御を行う。
【0027】
図4は、制御部7の制御フローを示すフロー図である。図4に示すように、まず、ステップS1にて、希釈比率と供給量を決定する。つまり、ステップS1では、A原液とB原液と透析用水の比率と、プランジャポンプ5の1回あたりの吐出量を決定する。ここでは、A原液の供給時のプランジャ52の移動量をXmm、B原液の供給時のプランジャ52の移動量をYmm、透析用水の供給時のプランジャ52の移動量をZmmとする。この場合、希釈比率は(A原液:B原液:透析用水)=X:Y:Zとなり、供給量は、シリンダ51の断面積×(X+Y+Z)となる。なお、ステップS1に先立ち、吐出電磁弁61dを開き、プランジャ52を最も吐出側(先端側)の位置に移動させた後、吐出電磁弁61dを閉じた状態としておく。このとき、各電磁弁61は閉じた状態とする。
【0028】
その後、ステップS2にて、A原液用電磁弁61aを開き、ステップS3にて、プランジャ52を吸入側にXmm移動させた後、ステップS4にて、A原液用電磁弁61aを閉じる。これにより、規定量のA原液がシリンダ51内に吸入される。
【0029】
その後、ステップS5にて、B原液用電磁弁61bを開き、ステップS6にて、プランジャ52を吸入側にYmm移動させた後、ステップS7にて、B原液用電磁弁61bを閉じる。これにより、規定量のB原液がシリンダ51内に吸入される。
【0030】
その後、ステップS8にて、水用電磁弁61cを開き、ステップS9にて、プランジャ52を吸入側にZmm移動させた後、ステップS10にて、水用電磁弁61cを閉じる。これにより、規定量の透析用水がシリンダ51内に吸入される。
【0031】
その後、ステップS11にて、吐出用電磁弁61dを開き、ステップ12にて、プランジャ52を吐出側に(X+Y+Z)mm移動させて吐出動作を行い、ステップS13にて、吐出用電磁弁61dを閉じる。その後、ステップS2に戻り、ステップS2~S13を繰り返し行う。
【0032】
図4では、A原液、B原液、透析用水の順で吸入を行ったが、この場合、高濃度のA原液とB原液がプランジャポンプ5内や原液供給流路2内(A原液供給流路2aとB原液供給流路2bの合流位置よりもプランジャポンプ5側の原液供給流路2内)で直接混合されるために炭酸カルシウムの析出が発生しやすくなる。よって、制御部7は、A原液とB原液の一方を吸入した後、透析用水を吸入し、その後A原液とB原液の他方を吸入することで、透析液を調製することがより望ましい。具体的には、例えば、A原液、透析用水、B原液の順で吸入動作を行うことができる。
【0033】
ただし、A原液、透析用水、B原液の順で吸入動作を行った場合にも、次の周期でA原液を吸入した際に、原液供給流路2に残ったB原液とA原液とが直接混合され、炭酸カルシウムが析出するおそれがある。そこで、制御部7は、A原液、B原液、または透析用水の吸入を複数回に分割して行うように構成されていてもよい。具体的には、例えば、A原液、透析用水(半分の量)、B原液、透析用水(半分の量)の順で吸入動作を行うことができる。これにより、B原液吸入後に原液供給流路2が透析用水で洗い流されるため、高濃度のA原液とB原液とが直接混合されることがより抑えられ、炭酸カルシウムの析出をより抑制することができる。
【0034】
さらにまた、制御部7は、「A原液とB原液の一方を吸入した後、透析用水を吸入し、その後A原液とB原液の他方を吸入し、透析用水を吸入する」ことを複数回繰り返すことで、透析液を調製してもよい。
【0035】
血液浄化システム10においては、透析液調製装置1で完全な混合は要求されず、血液浄化器13を介して透析液が血液と接触するまでに生理的に支障のない程度まで混合されていれば許容される。しかし、装置の小型化(血液浄化システム10全体の小型化、あるいは透析液調製装置1、及び除水バランス制御機構12をまとめたモジュールの小型化)を図る場合、プランジャポンプ5から血液浄化器13までの距離は短いことが望ましく、プランジャポンプ5での希釈性能の向上が求められる場合がある。
【0036】
このような場合、例えば、各液の1吸入あたりの吸入量を半分にして、A原液(1/2の量)、透析用水(1/4の量)、B原液(1/2の量)、透析用水(1/4の量)の順で2回繰り返すことで、透析液を調製してもよい。これにより、プランジャ52の移動と停止が繰り返されることになり、シリンダ51内での液の混合が促進される。また、各液が小分けにされ吸引されるため、拡散効果によりシリンダ51内での液の混合がさらに促進される。
【0037】
(実験結果の説明)
本発明の効果を確認するため、図5(a)に示す装置を用いて実験を行った。この装置では、透析用水を貯留する水タンク81内に水供給流路3の端部を差し込み、また透析液原液に模した電導度が既知である塩水(以下、単に塩水という)を貯留した塩水タンク82に原液供給流路2の端部を差し込んだ。また、吐出流路4に、吐出流路を流れる液(透析用水と塩水とが混合された液)の電導度を測定する測定セル83を設け、データロガー84に測定データを記憶するようにした。駆動部53であるステッピングモータに出力するパルス数は、1ショット(1回の吸入)で20000パルスとし、1ショット中に透析用水を吸入した後に塩水を吸入することを8回繰り返すようにした。原液供給流路2以外の流路はあらかじめ透析用水で満たした。
【0038】
塩水の吸入比率を30%、40%、50%、60%、及び70%とした場合の電導度の測定結果を図5(b)に示す。図5(b)に示すように、電導度は塩水吸入比率とほぼ比例の関係となっている。電導度は塩化ナトリウムの濃度と比例関係にあるため、本発明により透析用水と塩水との混合割合、すなわちプランジャポンプ5から吐出される液の濃度(透析液調製装置1における透析液の濃度)の調製が可能であることが確認できた。
【0039】
また、塩水吸入時に駆動部53に出力するパルス数(塩水吸入パルス)と電導度との関係を図5(c)に示す。図5(c)に示すように、塩水吸入時のパルス数と電導度とはほぼ比例の関係となっており、塩水吸入時のパルス数を制御することで、電導度、すなわちプランジャポンプ5から吐出される液の濃度を精密に制御可能であることが確認できた。
【0040】
次に、プランジャポンプ5での液の混合について検討する。1ショット中に透析用水を吸入した後に塩水を吸入した「吸入回数2回」、1ショット中に透析用水を吸入した後に塩水を吸入することを2回繰り返した「吸入回数4回」、1ショット中に透析用水を吸入した後に塩水を吸入することを4回繰り返した「吸入回数8回」、1ショット中に透析用水を吸入した後に塩水を吸入することを8回繰り返した「吸入回数16回」のそれぞれの場合について、電導度を測定した。結果を図6(a)~(d)に示す。
【0041】
図6(a)~(d)に示すように、吸入回数を増やすほど電導度のスパイク(あるいは変動)が小さくなっており、吸入回数を増やすほどプランジャポンプ5内での液の混合が促進されることが確認できた。
【0042】
なお、図7(a),(b)に示すように、プランジャポンプ5は、シリンダ51内に吸入した透析液原液と透析用水との混合を促進する混合促進機構54をさらに有していてもよい。図7(a)に示すように、混合促進機構54は、プランジャ52に取り付けられたバッフル板541であってもよい。バッフル板541は、シリンダ51の内周面とプランジャ52の外周面との間に介在する円環状かつ板状の基材541aと、基材541aに形成された複数の貫通孔541bと、を有する。バッフル板541は、プランジャ52を駆動させた際にシリンダ51内の液の流れを乱して混合を促進する。ここでは、プランジャ52の駆動方向に離間して3つのバッフル板541を設ける場合を示しているが、バッフル板541の数はこれに限定されない。なお、図7(a)における符号55は、シリンダ51とプランジャ52間をシールするシール部材を表している。
【0043】
また、図8(a),(b)に示すように、往復動ポンプとして、プランジャ52に代えてピストン56を設けたピストンポンプ57を用いてもよい。ピストンポンプ57においては、ピストン56の外周面にシール部材55が固定されている。この場合、混合促進機構54は、ピストン56の先端面に設けられたプロペラ542であってもよい。プロペラ542は、4つの羽根542aと、4つの羽根542aを回転可能に支持し、ピストン56の先端面に固定された回転軸542bと、を有する。なお、プロペラ542に代えて、円板状のバッフル板をピストン56の先端面に設けてもよい。図7(b),図8(b)では、混合促進機構54がバッフル板541やプロペラ542である場合を説明したが、これに限らず、混合促進機構54は、例えばシリンダ51を振動させる機構等であってもよい。
【0044】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る透析液調製装置1では、駆動部53によりプランジャ52をシリンダ51内で進退させることで、プランジャ52の移動量に応じた量の液の吸入及び吐出が可能なプランジャポンプ5と、原液供給流路2、水供給流路3、及び吐出流路4のいずれかをプランジャポンプ5に接続するよう切り替え可能な流路切替機構6と、駆動部53及び流路切替機構6を制御することで、シリンダ51内に規定量の透析液原液と透析用水とを順次吸入して透析液を調製し、調製した透析液を吐出流路に吐出する制御を行う制御部7と、を備えている。
【0045】
本実施の形態では、従来装置のように透析液原液や透析用水を送り込むポンプ等が必要なく、1つのプランジャポンプ5で各液の吸引、混合、吐出が可能であるため、装置のコンパクト化が可能である。複数のポンプを用いる場合には定期交換部品が多くなり、維持費が高くなるが、本実施の形態では1つのプランジャポンプ5のみを用いればよいため、維持費の低減に寄与する。また、従来装置のように定容量器等が不要であり、透析液の希釈精度はプランジャポンプ5の精度によってのみ決まるので、従来と比較して透析液の希釈精度が高く、また定容量器等を省略できるため装置がコンパクトである。
【0046】
また、従来装置のように定容量器を用いた場合、治療中の透析液濃度変更は定容量器の透析液を使用しきってからでないと対応できず、また、定容量器内での滞留による炭酸カルシウムの析出が問題となる場合がある。これに対して、本実施の形態では、1ショットのプランジャ52の移動量を適宜調整することで、治療中の透析液濃度変更に素早く追従可能であり、また、シリンダ51内での滞留を抑制し炭酸カルシウムの析出を抑制することが可能になる。
【0047】
さらに、本実施の形態では、プランジャポンプ5内で透析液原液と透析用水とを混合することができるので、プランジャポンプ5の後段に混合のための装置(ミキシングチャンバ等)を設ける必要がなく、装置のコンパクト化が可能である。また、ミキシングチャンバ等を省略することにより配管容量が減るので、装置の消毒時に使用する消毒液の使用量を低減できる。また、配管容量が減ることにより液の滞留が起こりにくくなり、清浄性が向上する。
【0048】
このように、本実施の形態によれば、透析液の希釈精度の向上を図ったコンパクトな透析液調製装置1を実現できる。また、本実施の形態によれば、1ショットのプランジャ52の移動量を適宜調整することで、治療中の透析液濃度変更時の応答性を改善し、液の滞留による炭酸カルシウムの析出も抑制可能になる。さらに、本実施の形態によれば、ミキシングチャンバ等を省略して配管容量を減らし、消毒液の使用量の低減や液の滞留抑制による清浄性の向上を実現できる。
【0049】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0050】
[1]透析液原液と透析用水とから透析液を調製する装置であって、前記透析液原液を供給する原液供給流路(2)と、前記透析用水を供給する水供給流路(3)と、調製した透析液を吐出する吐出流路(4)と、シリンダ(51)内で進退可能に設けられたプランジャ(52)又はピストン(56)、及びプランジャ(52)又は前記ピストン(56)を進退駆動させる駆動部(53)を有し、前記駆動部(53)により前記プランジャ(52)又は前記ピストン(56)を前記シリンダ(51)内で進退させることで、前記プランジャ(52)又は前記ピストン(56)の移動量に応じた量の液の吸入及び吐出が可能な往復動ポンプ(5)と、前記原液供給流路(2)、前記水供給流路(3)、及び前記吐出流路(4)のいずれかを前記往復動ポンプ(5)に接続するよう切り替え可能な流路切替機構(6)と、前記駆動部(53)及び前記流路切替機構(6)を制御することで、前記シリンダ(51)内に規定量の前記透析液原液と前記透析用水とを順次吸入して透析液を調製し、調製した透析液を前記吐出流路(4)に吐出する制御を行う制御部(7)と、を備えた、透析液調製装置(1)。
【0051】
[2]前記透析液原液が、A原液とB原液の2つの液からなり、前記原液供給流路(2)は、前記A原液を供給するA原液供給流路(2a)と、前記B原液を供給するB原液供給流路(2b)と、からなり、前記流路切替機構(6)は、前記A原液供給流路(2a)、前記B原液供給流路(2b)、前記水供給流路(3)、及び前記吐出流路(4)のいずれかを前記往復動ポンプ(5)に接続するよう切り替え可能に構成され、前記制御部(7)は、前記シリンダ(51)内に規定量の前記A原液と前記B原液と前記透析用水とを順次吸入して透析液を調製し、調製した透析液を前記吐出流路(4)に吐出する制御を行う、[1]に記載の透析液調製装置(1)。
【0052】
[3]前記制御部(7)は、前記A原液と前記B原液の一方を吸入した後、前記透析用水を吸入し、その後前記A原液と前記B原液の他方を吸入することで、透析液を調製する、[2]に記載の透析液調製装置(1)。
【0053】
[4]前記制御部(7)は、前記A原液、前記B原液、または前記透析用水の吸入を複数回に分割して行うように構成されている、[2]または[3]に記載の透析液調製装置(1)。
【0054】
[5]前記制御部(7)は、前記A原液と前記B原液の一方を吸入した後、前記透析用水を吸入し、その後前記A原液と前記B原液の他方を吸入し、前記透析用水を吸入することを複数回繰り返すことで、透析液を調製する、[2]乃至[4]の何れか1項に記載の透析液調製装置(1)。
【0055】
[6]前記往復動ポンプ(5)は、前記シリンダ(51)内に吸入した前記透析液原液と前記透析用水との混合を促進する混合促進機構(54)をさらに有する、[1]乃至[5]の何れか1項に記載の透析液調製装置(1)。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…透析液調製装置
2…原液供給流路
2a…A原液供給流路
2b…B原液供給流路
3…水供給流路
4…吐出流路
5…プランジャポンプ(往復動ポンプ)
51…シリンダ
52…プランジャ
53…駆動部
54…混合促進機構
6…流路切替機構
61…電磁弁
7…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8