(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】樹脂成型部材
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20230823BHJP
【FI】
B60N2/90
(21)【出願番号】P 2019186294
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】追川 亮太
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0282809(US,A1)
【文献】実開平04-024826(JP,U)
【文献】特開2000-309240(JP,A)
【文献】実開平04-037024(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0360596(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/90
B60N 2/68
B60N 3/00
A47C 7/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用シートの被固定体にネジ固定される樹脂成型部材であって、
天井壁と、
前記天井壁の裏面側に中空部を形成する側壁と、
前記天井壁から前記中空部に突出して設けられた凹部と、
を備え、
前記凹部は、
ネジ孔が形成された底壁と、
前記底壁と前記天井壁とを接続している周壁と、
を有し、
前記周壁には、開口部が形成
され、
前記凹部は、前記開口部に対向している前記側壁の縁を前記ネジ孔の軸方向に越えて延びており、
前記開口部は、当該開口部に対向している前記側壁の縁よりも、前記ネジ孔の中心軸に沿って前記底壁側に配置されている樹脂成型部材。
【請求項2】
請求項
1記載の樹脂成型部材であって、
前記開口部は、前記周壁の下端部に形成されており、前記底壁に隣設されている樹脂成型部材。
【請求項3】
請求項
1または2記載の樹脂成型部材であって、
前記天井壁における前記凹部の開口を広げる
ように、前記凹部と一体的に形成された拡張凹部をさらに備える樹脂成型部材。
【請求項4】
請求項
3記載の樹脂成型部材であって、
前記拡張凹部は、当該拡張凹部の延在方向に前記凹部から最も離れた開口縁から前記凹部の前記底壁に向けて延びる傾斜壁を有し、
前記ネジ孔の中心を通って前記傾斜壁に接する接線と前記ネジ孔の中心軸との角度が10°以上である樹脂成型部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートの被固定体にネジ固定される樹脂成型部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された車両用シートは、
図10に示すように、傾倒可能なシートバックを備え、シートバックの骨格をなす金属製のフレームは、一対のサイドフレーム101と、一対のサイドフレーム101それぞれの上端部同士を連結するパイプフレーム102とを含む。そして、一方のサイドフレーム101の側方には、ラッチユニット103が設置されている。
【0003】
ラッチユニット103は、車両ボディに設置されるストライカ104を係止することによってシートバックを起立状態に保持し、ストライカ104を解放することによってシートバックを傾倒可能とする。ラッチユニット103が設置されるサイドフレーム101には、ラッチユニット103を覆う樹脂製のカバー部材105が取り付けられており、クッションパッド及びトリムカバーが、カバー部材105のストライカ挿入口106を露出させた状態で、フレーム及びカバー部材105に被せられている。
【0004】
カバー部材105は、サイドフレーム101との間に間隔をおいて配置される側面壁107と、サイドフレーム101に向く側面壁107の裏面側に中空部を形成する前面壁108及び背面壁とを有し、この中空部にラッチユニット103を収容する。側面壁107には、側面壁107から中空部に向けて突出する凹部109が設けられており、凹部109の底壁が、サイドフレーム101に突き当てられ、サイドフレーム101にネジ止めされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された車両用シートにおいて、カバー部材105がサイドフレーム101にネジ固定される際に、サイドフレーム101に突き当てられている凹部109の底壁にネジが挿通されるが、その際に、凹部109の周壁及びネジの頭によって作業者の視界が遮られる。そのため、ネジ先端と底壁に形成されているネジ孔との位置合わせが容易ではなく、作業効率の低下が懸念される。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、乗物用シートの被固定体に対してネジ固定される樹脂成型部材の固定作業効率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の樹脂成型部材は、乗物用シートの被固定体にネジ固定される樹脂成型部材であって、天井壁と、前記天井壁の裏面側に中空部を形成する側壁と、前記天井壁から前記中空部に突出して設けられた凹部と、備え、前記凹部は、ネジ孔が形成された底壁と、前記側壁と前記天井壁とを接続している周壁と、を有し、前記周壁には、開口部が形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乗物用シートの被固定体に対してネジ固定される樹脂成型部材の固定作業効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態を説明するための、乗物用シートの一例の斜視図である。
【
図2】
図1のシートバックの内部構造を示す斜視図である。
【
図6】
図3のラッチカバーの凹部及び拡張凹部の斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態を説明するための、乗物用シートの被固定体にネジ固定される樹脂成型部材の他の例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1及び
図2は、本発明の実施形態を説明するための、乗物用シートの一例を示す。
【0012】
図1及び
図2に示す乗物用シート1は、自動車などの車両に設置されるシートである。シート1は、シート1に着座する乗員(以下「着座者」という。)の臀部及び大腿部を支持するシートクッション(不図示)と、着座者の腰部及び背部を支持するシートバック2とを備える。シートバック2は、シートクッションに対して前方に傾倒可能であり、起立状態におけるシートバック2の上端部には、着座者の頭部及び頸部を支持するヘッドレスト3が取り付けられる。
【0013】
シートバック2は、骨格をなす金属製のバックフレーム10を備え、バックフレーム10は、一対のサイドフレーム11と、アッパフレーム12とを有する。なお、
図2には、一方のサイドフレーム11のみ示されている。一対のサイドフレーム11は、シートバック2の幅方向に間隔をおいて配置されており、上下方向に延びている。アッパフレーム12は、一対のサイドフレーム11それぞれの上端部を連結している。一対のサイドフレーム11と、アッパフレーム12とは、パイプ材からなり、一本のパイプ材が曲げられることによって一体に形成されている。
【0014】
サイドフレーム11の側方には、ラッチユニット13が設置されている。ラッチユニット13は、車両ボディに設置されるストライカを係止することによってシートバック2を起立状態に保持し、また、ストライカを解放することによってシートバック2を傾倒可能とする。サイドフレーム11には、板材からなるブラケット14が溶接等によって接合されており、ラッチユニット13は、ブラケット14に固定され、ブラケット14を介してサイドフレーム11に取り付けられている。
【0015】
ラッチユニット13が設置されているサイドフレーム11には、ラッチユニット13を覆うラッチカバー15がさらに取り付けられている。ラッチカバー15は、ブラケット14に固定され、ブラケット14を介してサイドフレーム11に取り付けられている。
【0016】
サイドフレーム11及びアッパフレーム12を含むバックフレーム10、サイドフレーム11に取り付けられたラッチユニット13及びラッチカバー15には、ウレタンフォーム等の比較的軟質な樹脂発泡材からなるクッションパッドが被せられ、クッションパッド16は、皮革、織布、不織布等の表皮材からなるトリムカバーによって覆われる。
【0017】
【0018】
ラッチカバー15は樹脂成型部材であり、サイドフレーム11に接合されたブラケット14を被固定体として、ブラケット14にネジ固定されている。ラッチカバー15は、サイドフレーム11及びブラケット14との間に間隔をおいて配置される天井壁20と、サイドフレーム11及びブラケット14に向く天井壁20の裏面側に中空部を形成する側壁21とを有する。ラッチユニット13は、天井壁20と側壁21とによって囲われる中空部に収容される。天井壁20及び側壁21には、中空部に通じる切り欠き部22が設けられており、ストライカは、切り欠き部22を通じてラッチユニット13に達し、ラッチユニット13によって係止される。
【0019】
ラッチカバー15は、天井壁20から中空部に突出して設けられている凹部23を有する。図示の例では、2つの凹部23が設けられているが、凹部23の数は2つに限定されず、1つでもよいし、3以上の複数でもよい。凹部23は、底壁30と、天井壁20と底壁30とを接続している周壁31とを有する。底壁30には、ネジ孔32が形成されている。ラッチカバー15は、底壁30をブラケット14に当接させ、底壁30のネジ孔32に挿通されるネジによってブラケット14にネジ固定される。
【0020】
【0021】
図5は、ラッチカバー15の側壁21側から見た凹部23を示している。凹部23の周壁31には、周壁31を内外に貫通する貫通孔によって形成された開口部33が設けられている。底壁30がブラケット14に当接している状態で、側壁21の縁21Eとブラケット14との間には隙間Gがあいており、開口部33は隙間Gを通して視認可能である。
【0022】
ラッチカバー15がブラケット14に固定される際に、ドライバDの先端部に保持されているネジ34が凹部23に挿入される。作業者は、隙間G及び開口部33を通してネジ34の軸部の一部を視認できる。これにより、ネジ34の先端とネジ孔32との位置合わせが容易となり、作業効率が向上する。
【0023】
好ましくは、凹部23は、開口部33に対向している側壁21の縁21E(図中、二点鎖線で示される)をネジ孔32の軸方向に越えて延びており、側壁21の縁21Eよりも、ネジ孔32の中心軸に沿って底壁30側に配置されている。これにより、隙間Gを通して開口部33を正面に見ることができ、ネジ34の視認性が高まる。
【0024】
より好ましくは、開口部33は、周壁31の下端部に設けられ、ネジ孔32が形成されている底壁30に隣設される。これにより、ネジ孔32に達する直前のネジ34の先端部を視認できる。したがって、ネジ34の先端とネジ孔32との位置合わせが一層容易となり、作業効率がさらに向上する。
【0025】
また、好ましくは、開口部33は、ネジ34が挿通不能な大きさに形成される。これにより、ネジ34が凹部23の内部でドライバDから脱落した場合にも、ネジ34が凹部23にとどまり、ネジ34の回収が容易となる。なお、少なくもネジ34の頭部が挿通不能であればよい。
【0026】
図6は、ラッチカバー15の天井壁20側から見た凹部23を示しており、
図7は、凹部23の断面を示している。ラッチカバー15は、ネジ孔32の軸方向と直交する方向に凹部23から延びる拡張凹部24を有する。凹部23の天井壁20における開口は、拡張凹部24によって広げられている。拡張凹部24の開口は、天井壁20に収まってもよいし、天井壁20から側壁21に及んでもよい。
【0027】
拡張凹部24は、傾斜壁40と、傾斜壁40と天井壁20とを接続する一対の側壁41とを有する。傾斜壁40は、拡張凹部24の延在方向に凹部23から最も離れた拡張凹部24の開口縁24Eから凹部23の底壁30に向かって延びている。
【0028】
凹部23の天井壁20における開口が拡張凹部24によって広げられていることにより、作業者は、ネジ孔32の中心軸に対して拡張凹部24の延在方向に倒れた斜め視線によってネジ孔32を視認でき、ネジ34が凹部23に挿入された際にも、ネジ34の頭部によって遮られることなくネジ孔32を視認できる。これにより、ネジ34の先端とネジ孔32との位置合わせが容易となり、作業効率が向上する。
【0029】
好ましくは、
図7に示す断面、すなわちネジ孔32の軸方向と拡張凹部24の延在方向とによって規定される平面に沿った断面において、ネジ孔32の中心を通って傾斜壁40に接する接線Tとネジ孔32の中心軸との角度θは10°以上である。角度θは、ネジ孔32を斜めに見る際の視線の最大の傾き角度に等しい。ラッチカバー15の固定に通常用いられるネジ34の寸法(軸部の径及び長さ、頭部の径)にもよるが、角度θが10°以上であれば、ネジ34の先端がネジ孔32に達する直前まで、ネジ34の頭部によって遮られることなくネジ孔32を視認できる。
【0030】
なお、
図6及び
図7に示す拡張凹部24の傾斜壁40は、接線Tと略平行な直線状に形成されているが、曲線状に形成されてもよいし、階段状に形成されてもよい。また、1つの凹部23に対して、互いに異なる方向に延びる複数の拡張凹部24が設けられてもよい。
【0031】
上述したラッチカバー15の構成は、乗物用シートの被固定体にネジ固定される他の樹脂成型部材にも適用可能であり、乗物用シートは、自動車等の車両に設置されるシートに限られず、船舶や航空機といった車両以外の乗物に設置されるシートでもよい。
【0032】
図8及び
図9に示す樹脂成型部材は、シートクッションのフレーム及びパネル(以下「フレーム等」という。)をシートクッションの底面側から覆うボトムカバー50である。ボトムカバー50は、天井壁51と、フレーム等に向く天井壁51の裏面側に中空部を形成する側壁52と、天井壁51から中空部に突出して設けられた複数の凹部53とを備える。凹部53の底壁には、ネジ孔54が形成されており、ボトムカバー50は、凹部53の底壁をフレーム等に当接させ、ネジ孔54に挿通されるネジによってフレーム等にネジ固定される。
【0033】
凹部53の周壁には開口部55が設けられており、作業者は、フレーム等と側壁52との間の隙間及び開口部55を通して、凹部53に挿入されたネジの軸部の一部を視認できる。これにより、ネジの先端とネジ孔54との位置合わせが容易となり、作業効率が向上する。なお、ボトムカバー50においても拡張凹部が設けられ、凹部53の天井壁51における開口が広げられてもよい。
【0034】
以上説明したとおり、本明細書に開示された樹脂成型部材は、乗物用シートの被固定体にネジ固定される樹脂成型部材であって、天井壁と、前記天井壁の裏面側に中空部を形成する側壁と、前記天井壁から前記中空部に突出して設けられた凹部と、備え、前記凹部は、ネジ孔が形成された底壁と、前記底壁と前記天井壁とを接続している周壁と、を有し、前記周壁には、開口部が形成されている。
【0035】
また、本明細書に開示された樹脂成型部材は、前記凹部が、前記開口部に対向している前記側壁の縁を前記ネジ孔の軸方向に越えて延びており、前記開口部は、当該開口部に対向している前記側壁の縁よりも、前記ネジ孔の中心軸に沿って前記底壁側に配置されている。
【0036】
また、本明細書に開示された樹脂成型部材は、前記開口部が、前記周壁の下端部に形成されており、前記底壁に隣設されている。
【0037】
また、本明細書に開示された樹脂成型部材は、前記ネジ孔の軸方向と直交する方向に前記凹部から延び、前記天井壁における前記凹部の開口を広げる拡張凹部をさらに備える。
【0038】
また、本明細書に開示された樹脂成型部材は、前記拡張凹部が、当該拡張凹部の延在方向に前記凹部から最も離れた開口縁から前記凹部の前記底壁に向けて延びる傾斜壁を有し、前記ネジ孔の中心を通って前記傾斜壁に接する接線と前記ネジ孔の中心軸との角度が10°以上である。
【符号の説明】
【0039】
1 乗物用シート
2 シートバック
3 ヘッドレスト
10 バックフレーム
11 サイドフレーム
12 アッパフレーム
13 ラッチユニット
14 被固定体
14 ブラケット
15 樹脂成型部材
15 ラッチカバー
16 クッションパッド
20 天井壁
21 側壁
22 欠き部
23 凹部
24 拡張凹部
30 底壁
31 周壁
32 ネジ孔
33 開口部
34 ネジ
40 傾斜壁
41 側壁
50 ボトムカバー
51 天井壁
52 側壁
53 凹部
54 ネジ孔
55 開口部