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特許7335813イオンに基づく放射線治療計画作成のためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】イオンに基づく放射線治療計画作成のためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019559840
(86)(22)【出願日】2017-05-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 EP2017060475
(87)【国際公開番号】W WO2018202285
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】トラネウス,エリック
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0196781(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1のビーム角(34)及び第2のビーム角(33)から患者の一部にイオンによるエネルギー送達を行うように構成された放射線治療計画を最適化するシステムであって、前記システムはプロセッサ(73)及びプログラムを格納したメモリ(76)を備え、前記プロセッサ(73)は前記プログラムに基づき以下の処理を実行するように構成される:
(a)ペナルティ関数は目的関数または制約であり、リスク臓器(32)への線量を最小にしながら、前記患者の患部へ治療有効量の線量を到達させるように、前記ペナルティ関数を含む最適化関数を最適化する処理a;
(b)前記処理aにおいて、パラメータτを計算する処理bであって、前記パラメータτは、以下(c)のように定義される、処理b;
(c)前記第1のビーム角(34)および前記第2のビーム角(33)から照射される1つまたは複数のビームのイオンの総数をτaと定義し、かつ前記τaのうち前記リスク臓器(32)へ到達するイオンの総数をτOARと定義する場合に、前記パラメータτを前記τaに対するτOARの比(τ=τOAR/τa)として定義し、前記ペナルティ関数は、前記τaに対するτOARの比(τ=τOAR/τa)として定義された、前記パラメータτを制限することに関係する、
ことを特徴とする、システム。
【請求項2】
前記目的関数は、前記比が特定の閾値未満に維持されるように最適化されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1のビーム角(34)からエネルギー送達される前記イオンは前記リスク臓器(32)の方向へ向かうものであることを特徴とし、前記パラメータτはビーム角(34,33)毎にそれぞれ計算することができる、請求項1または請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記(c)において、前記比は、以下(c1)および(c2)によってさらに特徴付けられる、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム:
(c1)前記リスク臓器(32)の内部に飛跡の終端を有するイオンの総数をτOARと定義する;
(c2)前記第1のビーム角(34)および前記第2のビーム角(33)から照射される1つまたは複数のビームのイオンの飛跡の終端の総数をτaと定義する。
【請求項5】
前記第1のビーム角(34)から照射される前記イオンは前記リスク臓器(32)の方向へ向かうエネルギーであることを特徴とし、
前記パラメータτはビーム角(34,33)毎にそれぞれ計算することができ、かつ
前記第1のビーム角(34)からの照射されるイオンに関する前記パラメータτの計算は、含まれる1つ又は複数のビームに関するエネルギー層のサブセットに基づいて計算するように構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記ペナルティ関数が、二次ペナルティなどの線形ペナルティ又は非線形ペナルティに関係する、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記放射線治療計画の作成では、前記τを計算するときに前記患者の一部の実際の密度よりも低い計画作成密度値を入力するように構成される、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記放射線治療計画の作成では、前記τを計算するときに前記患者の一部の実際の密度よりも高い計画作成密度値を入力するように構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンに基づく放射線治療計画作成のためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
どの放射線治療計画作成においても、主目標は、患者の他の部分、特にリスク臓器(OAR)への線量を最小にしながら、腫瘍などの標的体積への規定された線量(例えば、均一線量)を保証することである。普通は、治療計画は、異なるビーム角からの放射線の送達に関係する。本明細書では、リスク臓器、リスクのある臓器、及びOARという用語は、同義語として取り扱う。
【0003】
陽子線治療では、患者の組織を通って移動する際にエネルギーを付与する陽子により、患者に線量が送達される。各陽子が移動する距離は、そのエネルギーに依存する。エネルギーのほとんどは各陽子の軌道の終端付近に付与され、結果的にブラッグピークとして知られる付与されたエネルギーのピークが生じ、そこに最高線量が送達されることになる。したがって、線量計画作成は、一般に、標的のすべての部分にブラッグピークが存在することになるように、入射する陽子の方向及び運動エネルギーを分布させることを試みる。ブラッグピークは、陽子が止まる飛跡の終端の直前に生じる。エネルギー損失プロセスの確率的性質に起因して、同じ入射方向及び運動エネルギーを有する陽子は、それらが止まるまでに同一のエネルギー損失及び偏向は経験しない。したがって、ブラッグピークは、その最大値付近で小さい3D体積へブロード化する。一部の陽子は、それらの飛跡の終端をブラッグピークの上流に、また一部は、ブラッグピークの下流に有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遠位OAR、すなわち、陽子の軌道の方向に標的の後ろに位置するリスク臓器が存在する場合に問題が生じる。遠位OARへ向かう方向に移動し且つそのブラッグピークがOARの近くに位置する一部の陽子は、OARへ到達してそれらのエネルギーの一部をOARに付与するリスクがある。加えて、セットアップ誤差及び密度変動が、ブラッグピークが標的ではなくOARへ移動されるほどに治療に影響を及ぼす場合がある。ペンシルビーム走査治療計画の正規の計画作成では、通常、最高の重みを付けられるエネルギー層は、ビームにつき最遠位のものである。したがって、標的の近くに遠位リスク臓器が存在する状況では、標的全体をカバーする要望とリスク臓器を保護する必要性との間に大きな競合が存在する。
【0005】
また、RBE係数は飛跡の終端で増大し、これは、飛跡の終端に向けて付与されるエネルギーが、より浅い深さで付与される同量のエネルギーよりも大きい生物学的影響を有することを意味する。これは、陽子線量フィールドの有効範囲の増大につながる。RBE係数の大きさは不確定であり、しばしば未知であり、したがって、計算に含めるのが難しい。
【0006】
これらの問題に対処する試みがなされている。例えば、頑健な最適化方法が用いられる場合がある。頑健性は、臨床標的体積CTVの周りにマージンを定義することによっても増大され得る。拡張された体積はPTVと呼ばれ、普通は、計画作成中にそれへの線量が規定される体積である。別の手法は、遠位リスク臓器を避けるような様態でビーム角を選択することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、標的臓器への所望の線量を維持しながらリスク臓器への線量の送達を回避することになる、イオンに基づく放射線治療計画作成方法及びシステムを提供することである。
【0008】
本発明は、患者データの組に最適化関数を適用するステップを含む、少なくとも第1及び第2のビーム角から患者の一部にイオンによりエネルギーを送達することに関係する、放射線治療計画を最適化する方法を提案する。最適化関数は、1つ又は複数のビームでのイオンの総数τに対するリスク臓器に到達する前記1つ又は複数のビームでのイオンの総数のフラクションτOARを定義するパラメータτを制限することに関係した、目的関数又は制約などのペナルティ関数を含む。
【0009】
パラメータτは多くの様態で計算することができ、オプティマイザが1つ又はいくつかの特異的な目標を達成するのを支援するようにパラメータτの定義に含まれるスポットを選択できることを理解されたい。例えば、パラメータτは、ビームごとの値τOAR及びτを用いて、ビームごとに又はビームの組み合わせに関して計算することができる。パラメータτはまた、スポットの方向にOARを有するスポットのみを含むように制約することができ、且つ、含まれるビームに関するエネルギー層のサブセットを含むように制約することができる。例えば、OARに最も近い飛跡の終端を生じることになるエネルギー層、通常は最高エネルギー層のみが考慮されてよい。
【0010】
この方法は、特定のリスクのある臓器へ至る送達される粒子の総数のフラクションとしてパラメータτを導入する。このパラメータを制限する目的関数にペナルティ関数を加えることは、その飛跡の終端でOARに到達するスポットの重みを減少させることになる。これは、より少ない粒子が遠位リスク臓器へ向かう方向に移動してリスク臓器の付近又はリスク臓器の内部の体積にそれらの飛跡の終端を有することになることを意味する。これを補償するために、同じ又は別のビームからの他のスポットにより送達される粒子の数及び該体積でのエネルギー付与が、規定線量を達成するべく増加されることになる。これは、これらの粒子がリスク臓器の縁で止まることなく通過する場合に達成することができる。これらのイオンの一部が例えばセットアップ誤差に起因してリスク臓器にエネルギーを付与することになる場合であっても、RBEが増大するそれらの飛跡の終端はリスク臓器にはないであろう。
【0011】
したがって、この方法は、OARでの飛跡の終端の数が最小になるような様態で異なるビーム間の線量寄与を自動的に再配分することにより、リスクのある臓器への線量が確実に低レベルでありながら、体積に送達される線量が確実に要望どおりであるようにする。
【0012】
ペナルティ関数は、例えば、τが特定の閾値、例えば0.05よりも低く保たれるべきであると指定してよい。代替的に、ペナルティ関数は、τができる限り小さく保たれるべきであると指定してよい。ペナルティ関数は、治療計画の最適化に用いられる任意の適切なペナルティ関数であってよく、二次ペナルティなどの線形又は非線形のペナルティに関係し得る。パラメータτは、制約としても用いることができる。
【0013】
方法は、τを計算するステップをさらに含んでよい。パラメータτは、リスク臓器での飛跡の終端と患者又は患者の一部での飛跡の終端の総数との比として計算されてよい。代替的に、τは、ビーム又はビームの組み合わせごとに、ビームからの又はすべてのビームからの又はビームの組み合わせに関する飛跡の終端の数に対して計算されてよい。代替的に、パラメータτは、スポットの方向にOARを有するスポットに関してのみ計算されてよい。一実施形態では、リスク臓器に到達する第1のビーム角からのイオンの総数τOAR1と、第1のビーム角からのイオンの総数τa1が、τ=τOAR1/τa1を計算するのに用いられる。
【0014】
飛跡の終端の位置を決定するための計算が、イオンが横切る組織での実際の密度とは異なる密度に基づいて行われる場合に、さらなる利点が達成され得る。1つの好ましい実施形態では、飛跡の終端の位置を決定するための計算は、イオンが横切る組織での実際の密度よりも若干低い密度に基づいて行われる。この結果として、最適化は、τの過大に見積もられた値に基づくことになる。これは、OARに到達するリスクがあるスポットの重みの抑制の強化につながることになる。これは、飛跡の終端でリスク臓器にエネルギーを付与するイオンを制限することになる。上記のように、飛跡の終端付近で付与されるエネルギーは相対的により高い生物学的影響を有し、ゆえに、リスク臓器でのこのようなイオンを回避することが特に望ましい。他のビームからの線量は、これを部分的に又は完全に補償することができる場合があり、変化した組織密度に影響されないであろう。
【0015】
代替的に、飛跡の終端の位置の決定は、イオンが横切る実際の密度よりも若干高い密度に基づいていてよい。これは、飛跡の終端が標的体積の上流にあることが望ましくない場合に有利であり得る。例えば、一部の状況では標的の上流にOARがある状態でビームを用いる必要があり得る。標的の下流にOARがあるという、より一般的な場合と同様に、OARでの飛跡の終端の数を最小に保つことが望ましい。このケースでは、OARに最も近いエネルギー層は最低エネルギー層であろう。
【0016】
本発明はまた、コンピュータにおいて実行されるときにコンピュータに前記請求項のいずれか一項に記載の方法を行わせることになるコンピュータ可読コード手段を備えるコンピュータプログラム製品に関する。コンピュータプログラム製品は、一時的でない記憶媒体などのキャリア上に格納されてよい。本発明はまた、プロセッサとプログラムメモリとを備えるコンピュータシステムに関し、プログラムメモリは、このようなコンピュータプログラム製品をプロセッサにより実行することができるような様態で保持する。本発明はさらに、このようなコンピュータシステムを備える治療計画作成システムに関する。
【0017】
本発明を、単なる例として添付図を参照して以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1a~図1cは、ビーム軌道、ブラッグピーク、RBE係数、及び飛跡の終端の分布を例示する図である。
図2】標的に隣接するリスクのある臓器を有する患者を概略的に例示する図である。
図3】治療計画作成から得られる飛跡の終端を例示する図である。
図4】放射線治療及び/又は計画作成のためのシステムの概要である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1aは、患者の一部を横切る陽子などのイオンの軌道に沿って付与されるエネルギーを距離xの関数として例示する。標的12及びリスクのある臓器13の位置が、それぞれ第1及び第2のボックスで示される。図で分かるように、エネルギーの主要部分が付与されるブラッグピークは、放射線源から見て標的12の遠位端の近くに位置する。同じく図で分かるように、イオンは、標的12を通過した後もエネルギーを付与し続け、そのエネルギーの残りをリスク臓器13に付与することになる。
【0020】
ブラッグピークの後に付与されるエネルギーの相対的な生物学的影響RBEは、前に付与されるエネルギーのRBEよりも大きいことが知られている。この影響が図1bに例示され、この図は、図1aと同じ付与されるエネルギーに関する曲線を実線で示し、RBEを破線で示す。RBEは、粒子の軌道のほとんどに沿っておよそ1.1であり、終端へ向けて、予測が難しいが1.6ほどの高さであり得る値へ増加する。これは、飛跡の終端付近で付与される比較的低い線量が、前に付与される対応する線量よりも大きい生物学的影響を有することを意味する。
【0021】
図1cは、移動距離の関数としての飛跡の終端の分布、すなわち、イオンが患者において止まる位置を示す。図で分かるように、飛跡の終端の位置は、100%の精度で予測することはできない。代わりに、飛跡の終端の位置は、ガウス状分布を有することになる。
【0022】
図2は、腫瘍などの標的21がリスクのある臓器22の二辺を取り囲む状況を概略的に例示する。このような状況は、例えば、脳幹付近で増殖する脳腫瘍の場合に生じ得る。通常、このようなケースでは、放射線は、リスク臓器22への線量を最小にしながら標的への線量を最大にするべく、少なくとも2つのビーム角から送達されることになる。この例では、典型的なビーム角は、垂直矢印23で示されるように図面の上からと、水平矢印24で示されるように図面の右からであろう。
【0023】
ペンシルビーム走査では、治療計画は、いくつかのエネルギー層により指定され、各層は、所与の重みのいくつかのペンシルビームスポットを含む。各スポットは、エネルギー層により決まる深さで標的でのどこかにそのブラッグピークを有する。ブラッグピークは、図2にドットで示され、治療されるべき体積にわたって分布する。ブラッグピークは、異なるエネルギー層において定義されることになり、最低エネルギーを有する層は、図面にE1で表される放射線源に最も近いブラッグピークに対応し、最高エネルギーを有する層は、図面にE8で表される放射線源から最も遠いブラッグピークに対応する。エネルギー層E8における、リスク臓器の手前の位置にある粒子は、リスク臓器にもエネルギーを付与する最高リスクを有する粒子である。前述のように、これは、患者が放射線源に対して僅かに動く場合に、又は粒子が横切る組織の密度が計画作成に用いられる密度値とは異なる場合に起こり得る。ストラグリングとして知られる影響も存在し、これは、患者の同じ部分を横切り且つ同じエネルギーを有する2つの粒子により付与されるエネルギーが、軌道に沿って変化することになることを意味する。したがって、それらは異なる位置で止まることになる。
【0024】
図3は、それぞれ、標的31、リスク臓器32、並びに第1及び第2のビーム角33、34により、図2と同じ概略的な状況を例示する。以下の説明では、水平ビーム角34からの寄与が考慮されることになる。リスク臓器32に隣接する標的31の部分の遠位側に領域35が示される。この領域は、特定のエネルギー層に属するスポットが到達する領域にほぼ適切に対応する。この層は、スポットがリスク臓器に到達することなく標的31の遠位部に到達するように決定されるエネルギーを有する。ビーム34は、標的体積の上部のより深層部に到達するべく付加的なエネルギー層を有する。これらのより高いエネルギー層に関して、リスク臓器32でのブラッグピークを有するスポットは存在しない。
【0025】
モデルに用いられる場合のパラメータτは、
τ:フラクションτOAR/τ
として定義され、τは、2つのビームでのイオンの総数(=飛跡の終端の総数)であり、τOARは、OAR体積の内部に飛跡の終端を有するイオンの数である。従来の治療計画作成でのτの通常の値は0.2であり、これはイオンのおよそ20%がリスク臓器に到達することを意味する。
【0026】
特定の実施形態において、モデルに用いられる場合のパラメータτは、
τ:フラクションτOAR1/τa1
として定義され、τOAR1は、リスク臓器に到達する第1のビーム角からのイオンの総数であり、τa1は、第1のビーム角からのイオンの総数である。
【0027】
含まれる1つ又は複数のビームに関するエネルギー層のサブセットに基づいてτを計算することが好ましい場合がある。例えば、図2に示された状況では、リスク臓器に最も近いエネルギー層E8のみ、又はリスク臓器に最も近いn個の層を考慮することもでき、nは整数1~7である。リスク臓器が標的の上流に位置する、逆の状況では、エネルギー層E1、又はE1で始まるいくつかの連続的な層を考慮することもできる。
【0028】
飛跡の終端のペナルティ関数は、放射線治療計画の最適化のために用いられるペナルティ関数と類似した様々な種類のものであり得る。したがって、最適化問題は、「τをできる限り小さく保つ」又は「τを閾値よりも低く保つ」として公式化され得る。閾値は、固定値とすることができ、又は現実的とみなされる値に応じて、例えば5%又は7%に設定されてよい。ペナルティは、線形又は非線形、例えば、二次又は指数関数であってよい。飛跡の終端のペナルティ関数は、通常は全目的関数の一部であり、最適化の目標は、全目的関数値を最小にすることである。代替的に、飛跡の終端のペナルティ関数は、達成されなければならない制約として適用されてよい。
【0029】
リスク臓器32に到達できるイオンのフラクションを目的関数により制限することの影響は、リスク臓器に到達するスポットに割り当てられる重みが減少することである。図2及び図3の右手側から来るイオンを見ると、エネルギー層E8により少ないイオンが存在することになり、ゆえに、このビーム角は、リスク臓器32に隣接する標的31の領域35での線量により小さく寄与することになる。このビームからのこの体積での線量の結果的な減少を補償するために、図3での上から来る垂直ビーム角33からのこの領域でのイオンの数が増加されることになる。これは、最適化関数により自動的に処理されることになる。垂直ビーム角33からの領域35を移動する一部のイオンが、例えばセットアップ誤差のためにリスク臓器32にエネルギーを付与するリスクがある。このエネルギー付与は、それぞれの粒子の飛跡の終端では起こらず、したがって、高いRBE値を有することはないであろう。したがって、同じエネルギー付与であっても、もたらす損傷はより少ない。飛跡の終端が存在しないためにRBE係数に存在する不確定度がより小さいことから、この線量がより正確に計算され得るのでこれは有利である。
【0030】
τを計算するときに、横切った組織の実際の密度値よりも若干より低い密度値を仮定して計画作成が行われる場合に、さらなる利点が達成される。これにより、最適化は、体積35を通ってOAR体積へ到達するリスクがあるイオンをさらに減少させることになる。したがって、計画は、密度摂動に対してより頑健である。
【0031】
図4は、放射線治療及び/又は計画作成のためのシステムの概要である。理解されるように、このようなシステムは、任意の適切な様態で設計されてよく、図4に示された設計は単なる例である。患者61は、治療カウチ63上に位置決めされる。システムは、カウチ63上に位置決めされた患者に向けて放射線を放出するために、ガントリ67にマウントされた放射線源65を備える。通常、カウチ63及びガントリ67は、放射線をできる限りフレキシブルに且つ適正に患者に送達することができるように、互いに対していくつかの次元に移動可能である。これらの部分は当業者によく知られている。システムはまた、放射線治療計画作成のため及び/又は放射線治療を制御するために用いられ得るコンピュータ71を備える。理解されるように、コンピュータ71は、治療ユニットに接続されない別個のユニットであってよい。
【0032】
コンピュータ71は、プロセッサ73、データメモリ74、及びプログラムメモリ76を備える。好ましくは、キーボード、マウス、ジョイスティック、音声認識手段、又は任意の他の利用可能なユーザ入力手段の形態の、1つ又は複数のユーザ入力手段78、79も存在する。ユーザ入力手段はまた、外部メモリユニットからデータを受信するように構成されてよい。
【0033】
データメモリ74は、計画作成のために用いられるべき臨床目標の組を含む、臨床データ及び/又は治療計画を得るのに用いられる他の情報を備える。データメモリ74はまた、本発明の実施形態に係る治療計画作成に用いられるべき1人又は複数の患者に関する1つ又は複数の線量マップを備える。プログラムメモリ76は、治療計画の最適化のために構成される、最適化関数を含む、それ自体公知のコンピュータプログラムを保持する。
【0034】
目的関数を最小にすることに基づく最適化が当該技術分野ではよく知られている。このケースでは、目的関数は、前述のようにτを制限することに基づく目的関数を含む。
【0035】
理解されるように、データメモリ74とプログラムメモリ76は、概略的にのみ示され説明される。1つ又は複数の異なるタイプのデータをそれぞれ保持するいくつかのデータメモリユニット、又はすべてのデータを適切に構造化された様態で保持する1つのデータメモリが存在してよく、同じことがプログラムメモリにも当てはまる。1つ又は複数のメモリはまた、他のコンピュータ上に格納されてよい。例えば、コンピュータは、方法のうちの1つを行うようにのみ構成され、最適化を行うための別のコンピュータが存在してよい。
図1a
図1b
図1c
図2
図3
図4