(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】架橋されたフッ素化ポリマーフィルムを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230823BHJP
C08F 214/18 20060101ALI20230823BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20230823BHJP
C08F 290/00 20060101ALI20230823BHJP
C09D 11/101 20140101ALI20230823BHJP
H01L 21/312 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C08J5/18 CEW
C08F214/18
C08F8/00
C08F290/00
C09D11/101
H01L21/312 A
(21)【出願番号】P 2019568326
(86)(22)【出願日】2018-07-17
(86)【国際出願番号】 FR2018051818
(87)【国際公開番号】W WO2019020906
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-07-01
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】311016455
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(73)【特許権者】
【識別番号】511087176
【氏名又は名称】エコール・ナショナル・スーぺリウール・ドゥ・シミ・ドゥ・モンペリエ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラニュゼル,ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ドミンゲス・ドス・サントス,ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】スレスタン,ティボー
(72)【発明者】
【氏名】ラドミラル,バンサン
(72)【発明者】
【氏名】アメディール,ブルーノ
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102585266(CN,A)
【文献】特表2017-522613(JP,A)
【文献】特表2002-529548(JP,A)
【文献】SHAOBO Tan etal,Significantly improving dielectric and energy storage properties via uniaxially stretching crosslinked P(VDF-co-TrFE) films,J. Mater. Chem. A,米国,2013年,vol.1, no.35,10353-10361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02、5/12-5/22,
C08C19/00-19/44、C08F6/00-246/00、301/00、
C08F283/01、290/00-290/14、299/00-299/08、
H01L21/312-21/32、21/47-21/475、
C08J3/00-3/28、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたフッ素ポリマーフィルムを調製するための方法であって、
(1)(a)(i)フッ化ビニリデン(VDF)と、(ii)トリフルオロエチレン(TrFE)と、(iii)式CXCl=CX
1X
2の少なくとも1つの塩素化モノマー(X、X
1及びX
2は、独立に、H、F又はCF
3を表し、X,X
1及びX
2の最大1つがCF
3を表すことが理解される)と、を含むモノマーの、ラジカル共重合によって得られる少なくとも1つのフッ素化コポリマーとのトリエチルアミンの脱塩化水素反応の生成物と;(b)少なくとも1つの架橋剤と;(c)少なくとも1つの光重合開始剤と;(d)少なくとも1つの有機溶媒と、を含むインクを調合すること;
(2)前記インクをフィルム形態で基材に塗布すること;及び
(3)前記フィルムをUV照射すること、
の連続的工程を含
み、
前記架橋剤が、ラジカル重合において反応性である少なくとも2つの(メタ)アクリル官能基を有し、ヒドロキシル、エステル、エーテル、ウレタン、エポキシ、シアヌレート又はイソシアヌレート官能基から選択される少なくとも1つの他の官能基を任意にさらに含んでもよいモノマー又はオリゴマーから選択されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記塩素化モノマーがクロロトリフルオロエチレン(CTFE)又はクロロフルオロエチレン(CFE)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
TrFEに由来する構成単位の割合が、VDF及びTrFEに由来する構成単位の合計に対して、5~95mol%の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
TrFEに由来する構成単位の割合が、VDF及びTrFEに由来する構成単位の合計に対して、5~55mol%の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記塩素化モノマーに由来する構成単位の割合が、構成単位の全部に対して、1~20mol%で変動することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
任意に存在してもよい追加のモノマーに由来する構成単位が、構成単位の全部に対して、0~20mol%に相当することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記極性有機溶媒が
、エステル
、リン酸アルキル
、炭酸アルキル
、ケトン
、アミド
、含硫黄溶媒
、ハロゲン化溶媒、
及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法に従って得られる架橋されたフッ素ポリマーフィルム。
【請求項9】
薄膜トランジスタ、光トランジスタ、電界効果トランジスタ及びコンデンサを含む電子デバイス若しくは光電子デバイス、触力覚装置、アクチュエータ、微小電気機械システム(MEMS)、センサー、操作可能カテーテル、点字キーボード、拡声器及びツイーターを含む音響デバイス、電気熱量デバイス、又はエネルギー回収装置の製造のための、請求項
8に記載のフィルムの使用。
【請求項10】
電界効果トランジスタ中のゲート誘電体層としての、請求項
8に記載のフィルムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋されたフッ素ポリマーフィルムを調製するための方法に関する。本発明は、この方法に従って得られるフィルムにも関し、及び特に(光)電子デバイスの製造における、より具体的には電界効果トランジスタ中のゲート誘電体層としての該フィルムの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン(VDF)をベースとするフッ素ポリマーは、多数の用途に対して卓越した特性を有する化合物のクラスを構成する。PVDF及びVDFとトリフルオロエチレン(TrFE)を含むコポリマーは、これらの強誘電体特性、圧電特性及び焦電特性のために、特に興味深い。これらの材料、電場応答性フッ素ポリマー、すなわちEAFPは、低い温度で自発的な分極を有し、これは、外部電場を加えることによって反転させることができる。電場の関数としてのEAFPの分極の変化は線形ではなく、電場が交流である場合、分極は残留分極と保磁力場(分極を打ち消すために必要な印加電場)を特徴とするヒステリシスサイクルを描く。転移温度を超えると、強誘電体材料は、線形誘電体材料に似た挙動を示し、常誘電状態から強誘電状態を分離する。
【0003】
強誘電体材料の中では、それらの転移の特性の他、それらの周波数挙動に応じて、従来型の強誘電体材料とリラクサー強誘電体材料に区別することが可能である。具体的には、従来型の強誘電体材料は、強誘電-常誘電転移が起こるキュリー温度TCにおいて、誘電率の狭い最高値を示す。さらに、TCの値は、周波数とは無関係である。これに対して、リラクサー強誘電体材料は、リラクサー強誘電-常誘電転移が起こる相対的に広い温度範囲TC’にわたって広がる拡散した転移ピークを有する温度の関数として、誘電率(dielectric permittivity)(dielectric constantとも称される。)の曲線を有する。さらに、周波数が増加すると、誘電率の最高値は、より高温にシフトする。
【0004】
クロロフルオロエチレン(CFE)又はクロロトリフルオロエチレン(CTFE)などの、嵩が大きな置換基を有する第三のモノマーの使用によって、VDFとTrFEをベースとする強誘電体ポリマーの結晶化を緩和して、著しい電歪効果とより優れた誘電率を有するリラクサー材料の特性をそれらに与えることが可能になることが知られている。
【0005】
しかしながら、これらの強誘電体ポリマー及びリラクサー強誘電体ポリマーは、トランジスタなどのある種のデバイスにこれらを組み込むためには、それらの電気的及び力学的特性、特に誘電率を改善するために架橋しなければならない。架橋は、これらのポリマーに耐溶剤性も与え、これらのポリマーをフォトリソグラフィー工程において使用することが可能となる。特にポリマーの層又はフィルムからパターンの作製(「パターンニング」)を可能にするために、及び熱架橋によって得られるフィルムに固有の問題を回避するために、これらのポリマーは光架橋が可能であることが特に望ましい。
【0006】
WO2015/200872中には、多環式又は芳香族複素環構造の第三級アミンなどの非求核性塩基と、架橋剤とを含有するインクの調合を含む、ターポリマー(VDF-ter-TrFE-ter-CFE)などのフッ素ポリマーを光架橋する方法が既に示唆されている。このインクは、フィルムを形成するために基材上に堆積され、次いで、塩基がコポリマーの脱ハロゲン化水素を生じさせるように、フィルムをUV照射に曝露する。この結果、コポリマーの構造中に二重結合が形成され、塩化水素が放出される。次いで、この二重結合は架橋剤によって架橋され得る。この工程では、アミンによって生成された立体障害によって、コポリマー中に存在するフッ素原子とのアミンの反応を抑制することが可能となり、このため、付随してフッ化水素の形成をもたらすことが可能になる。
【0007】
得られる架橋されたフィルムの電気的、熱的及び/若しくは化学的特性に実質的に影響を及ぼさずに、又はこれらの特性の少なくともいくつかを改善させながら、WO2015/200872の第三級アミンを、低い立体障害を有する特定の塩基、すなわち、トリエチルアミンに置き換えることができることが本出願人に明らかとなった。
【0008】
ポリ(VDF-ter-TrFE-ter-CTFE)型(J.Mater.Chem.,2013,1,10353-10361)及びポリ(VDF-co-CTFE)型(J.Mater.Chem.,2012,22,18496-18504)のコポリマー又はターポリマーの脱塩化水素のための反応において、トリエチルアミンは既に使用されている。しかしながら、2つ目の刊行物に記載されているコポリマーは、トリフルオロエチレンモノマーが存在しないために、リラクサー強誘電体特性を有しない。さらに、これら2つの刊行物では、得られる材料は、熱的過酸化物を用いて架橋される。これらの過酸化物は、しばしば高温(100℃超)で使用され、室温でのパターンの製造を許容しない。したがって、これらの方法は、電子デバイスの製造に適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】J.Mater.Chem.,2013,1,10353-10361
【文献】J.Mater.Chem.,2012,22,18496-18504
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の1つの主題は、架橋されたフッ素ポリマーフィルムを調製するための方法であって、
(1)(i)フッ化ビニリデン(VDF)と、(ii)トリフルオロエチレン(TrFE)と、(iii)式‐CXCl=CX1X2の少なくとも1つの塩素化モノマー(式中、X、X1及びX2が、独立に、H、F又はCF3を表し、X,X1及びX2の最大1つがCF3を表すことが理解される)と、を含む、好ましくは、からなるモノマーの、ラジカル共重合によって得られる少なくとも1つのフッ素化コポリマーとのトリエチルアミンの反応の生成物と;(b)少なくとも1つの架橋剤と;(c)少なくとも1つの光重合開始剤と;(d)少なくとも1つの有機溶媒と、を含む、好ましくは、からなるインクを調合すること;
(2)前記インクをフィルム形態で基材に塗布すること;及び
(3)前記フィルムをUV照射すること、
の連続的工程を含む、方法である。
【0012】
本発明の別の主題は、この方法に従って得られる架橋されたフッ素ポリマーフィルムであり、並びに薄膜トランジスタ、光トランジスタ、電界効果トランジスタ及びコンデンサを含む(光)電子デバイス;触力覚装置;アクチュエータ;微小電気機械システム(MEMS);センサー;操作可能カテーテル;点字キーボード;音響デバイス(拡声器又は「ツイーター」);電気熱量デバイス;エネルギー回収装置の製造のための、好ましくはトランジスタの製造における、このフィルムの使用でもある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の方法によって、高い耐溶剤性、低い保磁力場、高い誘電率及び/又は高い飽和分極を有する、電場応答性の半結晶性材料を得ることが可能となることが観察された。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例1に従って調製された生成物P1(実線)、P3(破線)及びP2(破点線)のFTIRスペクトルを表しており、横軸はcm
-1で表した波数に対応し、縦軸は相対吸光度に対応する。
【
図2】
図2は、実施例1に従って調製された生成物P2の-50~200℃における第二の温度上昇の際の示差走査熱量測定分析のサーモグラムを表しており、横軸は℃で表した温度に対応し、融点は120℃の第二の吸熱ピークの最上部で測定される。
【
図3】
図3は、実施例1に従って調製された生成物P1の分極曲線を示しており、横軸はMV.m
-1で表した電場に対応し、縦軸はmC.m
-2で表した変位に対応する。
【
図4】
図4は、実施例1に従って調製された生成物P2の分極曲線を表しており、横軸はMV.m
-1で表した電場に対応し、縦軸はmC.m
-2で表した変位に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述したように、本発明は、電場応答性フッ素化コポリマーを含有するインクからフィルムを調製するための方法に関する。
【0016】
本発明において使用されるフッ素化コポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)に由来する構成単位とトリフルオロエチレン(TrFE)に由来する構成単位を含む。本発明において使用されるフッ素化コポリマーは、式-CXCl=CX1X2の少なくとも1つの塩素化モノマーをさらに含有し、式中、X、X1及びX2は、独立に、H、F又はCF3を表し、X、X1及びX2の最大1つはCF3を表すことが理解される。このような塩素化モノマーの例は、特に、クロロフルオロエチレン(CFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、好ましくは、CTFE及びCFEである。このコポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、2-(トリフルオロメチル)アクリル酸、トリフルオルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブチレン、(ペルフルオロブチル)エチレン、ペンタフルオロプロペン、PMVE、PEVE及びPPVEなどのペルフルオロアルキルエーテル、並びにこれらの混合物から特に選択され得るフッ素化モノマーに由来する少なくとも1つの他の構成単位をさらに含有し得る。3,3,3-トリフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(又は1234yf)、3-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(又は1233yf)などの先述のフッ素化された化合物の幾何異性体の全てが、上記用語に含まれることが明確に理解される。さらに、本発明のコポリマーは、フッ素化されていないモノマーに由来する構成単位を一切含有しないことが好ましい。本発明の一実施形態によると、フッ素化コポリマーは、VDF、TrFE及び塩素化モノマーに由来する構成単位のみを含有するターポリマーである。
【0017】
一実施形態によると、TrFEに由来する構成単位の割合は、VDFとTrFEに由来する構成単位の合計に対して、好ましくは5~95mol%、特に5~10mol%、又は10~15mol%、又は15~20mol%、又は20~25mol%、又は25~30mol%、又は30~35mol%、又は35~40mol%、又は40~45mol%、又は45~50mol%、又は50~55mol%、又は55~60mol%、又は60~65mol%、又は65~70mol%、又は70~75mol%、又は75~80mol%、又は80~85mol%、又は85~90mol%、又は90~95mol%である。15~55mol%の範囲が、特に好ましい。
【0018】
(構成単位の全部に対する)塩素化モノマーに由来する構成単位の割合は、例えば、1~20mol%、特に5~15mol%を変動し得る。
【0019】
存在してもよい追加のモノマーに関しては、これに由来する構成単位は、構成単位の全部に対して、0~20mol%、好ましくは5~15mol%に相当し得る。
【0020】
本発明に従って使用されるコポリマーは、有利には、ランダム及び線状である。
【0021】
本発明に従って使用されるコポリマーは、溶液、懸濁液、エマルジョン又はマイクロエマルジョン重合法によるラジカル重合によって調製される。
【0022】
共重合反応は、一般に、ラジカル開始剤の存在下で実施される。この開始剤は、例えば、ペルオキシピバル酸tert-ブチル(又はTBPPI)、ペルオキシピバル酸tert-アミルなどのt-アルキルペルオキシエステル;ペルオキシ二炭酸ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)などのペルオキシジカルボネート;過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム又は過硫酸カリウム;過酸化ベンゾイル及びその誘導体;tert-ブチルヒドロキシペルオキシドなどのtert-アルキルヒドロペルオキシド;tert-ブチルペルオキシドなどのt-アルキルペルオキシド;又は2,5-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサンなどのt-アルキルペルオキシアルカンであり得る。これに代えて又はこれに加えて、アゾ開始剤又は酸化還元系がラジカル開始剤として使用され得る。
【0023】
第一の実施形態によると、本発明に従って使用されるコポリマーは、特にWO2014/162080に記載されているものなど、溶媒中のラジカル開始剤の存在下でフッ素化モノマーと塩素化モノマーの反応混合物を共重合する工程を含む、ラジカル溶液重合法によって調製される。
【0024】
特定の実施形態によると、
反応混合物中のTrFEの割合は、VDFとTrFEモノマーの合計に対して、好ましくは5~95mol%、特に5~10mol%、又は10~15mol%、又は15~20mol%、又は20~25mol%、又は25~30mol%、又は30~35mol%、又は35~40mol%、又は40~45mol%、又は45~50mol%、又は50~55mol%、又は55~60mol%、又は60~65mol%、又は65~70mol%、又は70~75mol%、又は75~80mol%、又は80~85mol%、又は85~90mol%、又は90~95mol%であり、15~55mol%の範囲が特に好ましく、
反応混合物中の塩素化モノマーの割合は、例えば、1~20mol%、特に5~15mol%を変動し得、
反応混合物中に存在してもよい追加のモノマーの割合は、0~20mol%、好ましくは5~15mol%に相当し得、
上記百分率は、反応混合物中に存在するモノマー全部に対して表されており、それらの合計は100%に等しい。
【0025】
一実施形態によると、反応混合物は、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、塩素化モノマー、ラジカル開始剤及び溶媒の混合物から本質的になり、好ましくはこれらからなる。「から本質的になる」という用語は、少なくとも70mol%、より好ましくは少なくとも80mol%、例えば、少なくとも90mol%又は少なくとも95mol%のこれらの構成成分を含有することを意味するものと理解される。
【0026】
反応は、例えば、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン;2,2,2-トリフルオロエタノール;ヘキサフルオロイソプロパノール;1,1,2-トリフルオロトリクロロエタン;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;ジメチルスルホキシド;ケトン、特に、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロペンタノン;フラン類、特にテトラヒドロフラン;エステル、特に酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート;カルボネート、特に炭酸ジメチル;ホスフェート、特にリン酸トリエチルなどの有機溶媒、水及びこれらの混合物から選択される溶媒中で実施される。
【0027】
一実施形態によると、反応混合物は、20℃~100℃、好ましくは25℃~80℃の反応開始温度まで加熱される。オートクレーブ内部の初期圧力は、溶媒、反応温度及びモノマーの量に応じて変動する。オートクレーブ内部の初期圧力は、一般に、0~80バール、例えば、20~40バールである。最適な温度の選択は、使用されている開始剤に依存する。一般に、反応は、使用される開始剤の半減期の2~4倍の期間、例えば、6時間~25時間、開始剤の半減期が1~10時間である温度で実施される。
【0028】
溶液重合によって得られるコポリマーのモル質量は、好ましくは5000~200000g/mol、より好ましくは10000~150000g/molである。
【0029】
別の実施形態によると、本発明に従って使用されるコポリマーは、特にWO2010/116105に記載されているものなど、ラジカル懸濁重合法によって調製され、該方法は、水、ラジカル開始剤、任意選択的に存在してもよい分散剤、及び任意選択的に存在してもよい連鎖移動剤の存在下で、モノマーの反応混合物を共重合する工程を含む。
【0030】
懸濁法によって、コポリマーの合成及び精製の間に、毒性溶媒及び(生体蓄積性、毒性及び難分解性のPFOA又はPFOSタイプの)フッ素系界面活性剤の使用を避けることが可能になる。
【0031】
懸濁法では、脱イオン水を含有し、任意選択的に、分散剤及び連鎖移動剤を含有してもよい、撹拌反応器にモノマーが充填される。
【0032】
次いで、反応器は所望の開始温度にされ、この温度は、重合の間、40℃~60℃の値に維持される。次いで、重合を開始するために、開始剤が反応器に注入される。モノマーの消費は圧力の減少をもたらすが、圧力は、脱イオン水又はモノマーの混合物の注入によって、80~110バールの範囲に一般に維持される。次いで、反応器は冷却され、脱気される。生成物が排出され、懸濁液の形態で回収される。この懸濁液が濾過され、水分を含んだ粉末を洗浄し、次いで乾燥させる。
【0033】
さらに別の実施形態によると、本発明に従って使用されるコポリマーは、ラジカル乳化重合法に従って調製される。
【0034】
ラジカル乳化重合法を行うために、重合を実施するために使用される開始剤が界面活性剤によって安定化された、開始剤の水分散液が有利に調製される。全フッ素化された界面活性剤を使用しないことが好ましい。この分散を実施するために、水、開始剤及び僅かな割合の全ての界面活性剤を分散機中で混合する。最初に添加され、その後、重合の間に添加してもよいのはこの分散液である。重合反応器に水、界面活性剤及び任意選択的にパラフィンを充填した後、酸素を除去し、フッ化ビニリデンのみを又はコモノマーとの混合物として、反応器に添加することにより、反応器を加圧し、生じた混合物を選択した温度にする。有利には、水性エマルジョンは、50℃~130℃の温度で重合される。好ましくは、重合は、40~120バールの絶対圧力で実施される。反応の開始は、開始剤分散液を加えることによって得られる。重合の間に、圧力を維持するために、又は調節された圧力変動を得るために、VDFを、単独で又はコモノマーとの混合物として、任意選択的に添加してもよい。開始剤は、徐々に又は連続的に加えてもよい。重合の最初に又は重合の間に、連鎖移動剤(CTA)を任意選択的に加えてもよい。後者の場合には、連鎖移動剤(CTA)は徐々に又は連続的に導入することができる。モノマーの混合物を計画された量導入した後、反応器を脱気し、冷却し、ラテックスを空にする。
【0035】
ラテックスからのポリマーの回収は、仕上げ作業を構成する。これは、基本的に、ラテックスを凝固し、次いで、凝固物を乾燥し乾燥粉末を得ることである。仕上げは、洗浄工程も含み得る。この洗浄は、例えば、任意選択的に希釈されてもよいラテックスを、空気の存在下で凝固装置中に導入し、ラテックスを剪断に供することによって実施することができる。これら2つの作用の累積的効果の下で、ラテックスは、水より低い密度を有する通気されたクリームへ転化される。このクリームは、例えば、US4,128,517及びEP0,460,284号明細書に記載されている方法に従って、脱イオン水を用いた逆流洗浄に供してもよい。乾燥は、当業者に既知のあらゆる産業的手段に従って実施することができる。特に、凝固されたラテックス又はクリームは、噴霧乾燥機中で有利に乾燥され得る。このため、洗浄カラムを出るとすぐ、又は凝固直後に、通気されたクリームは、乾燥粉末へ転化させるべくポンプ作用によって噴霧乾燥機に向かう前に、保存容器に送られる。噴霧乾燥機中でのこの乾燥工程は、最初の、任意選択的に希釈されてもよいラテックスに対して、(例えば、事前の希釈あり又はなしで、機械的剪断によって凝固された)凝固されたラテックスに対して、又は通気されたクリームに対して適用することも可能である。
【0036】
本発明に従って使用されるコポリマーを調製するために使用可能な別の乳化重合法は、US7,122,608に記載されているものである。
【0037】
本発明のコポリマーはトリエチルアミンと反応し、少なくとも1つの架橋剤、少なくとも1つの光重合開始剤及び少なくとも1つの有機溶媒を含む、光架橋可能なインクの形態で調合される。
【0038】
上述されているように、トリエチルアミンは、コポリマーを脱塩化水素化することを可能にする。すなわち、トリエチルアミンが反応することができる各CFCl-CH2構成単位からHClの一分子を取り除くことを可能にする。これらの構成単位は、例えば、CFEモノマー又はVDF-CTFEダイマーに由来し得る。このようにしてコポリマー中に二重結合が作られ、次いで、二重結合は、コポリマーを架橋するために架橋剤と反応し得る。有利には、本発明の方法は、実質的にフッ化水素酸(HF)を生成しない。
【0039】
方法の最後に、コポリマー内に-CFCl-CH2構成単位を維持するために、トリエチルアミンの割合は、好ましくは調整される。
【0040】
このため、トリエチルアミンは、塩素化モノマーのモル数に対して、0.1~2モル当量、好ましくは0.2~1.5モル当量に相当し得る。
【0041】
本発明の第一の実施形態において、上記コポリマーとトリエチルアミン間の反応は、これら2つの化合物が調合されるインクの中において、インサイチュで実施される。このため、本発明のインクは、架橋剤、光重合開始剤及び有機溶媒に加えて、このコポリマーとトリエチルアミンを含有する。本発明の第二の実施形態において、コポリマーを、インクの他の成分と混合される前に、トリエチルアミンと反応させる。このため、本発明のインクは、架橋剤、光重合開始剤及び有機溶媒とこの反応の生成物を混合することによって得られる。換言すれば、本発明の方法は、一般的には、インクの成分として以下に列記されているものから特に選択され得る有機溶媒中で、上記コポリマーをトリエチルアミンと反応させることに存する予備的工程を含む。例えば、この反応は、例えば20℃~80℃、好ましくは30℃~60℃の範囲の温度で、1~10時間、特に2~6時間、実施され得る。この反応の生成物は、本発明の方法で使用される前に、一般に、精製及び乾燥される。
【0042】
上述されているように、本発明に従って使用されるインクは、少なくとも1つの架橋剤と少なくとも1つの光重合開始剤も含む。
【0043】
架橋剤は、二重結合と反応することができるいずれの化合物でもあり得、特に、チオール-エンクリックケミストリーによって二重結合と反応することができる1つ若しくは複数のチオール基、又はヒドロアミノ化によって二重結合と反応することができる1つ若しくは複数のアミン基、又は共役によって二重結合と反応することができる1つ若しくは複数のマレイミド基のいずれかを有する、小分子又はポリマー又はプレポリマーであり得る。変形として、架橋剤は、1つ又は複数のビニル基を有する、小分子又はポリマー又はプレポリマーであり得る。上記の例は限定ではないこと、及び上記反応基の数個を有する1つの架橋剤又は異なる反応基を有する数個の架橋剤を使用することがさらに可能であることが明確に理解される。このような架橋剤の例には、特に、ポリ(3-メルカプトプロピル)メチルシロキサン、マレイミドシロキサン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチルエチレンジアミン、1,2-ジアミノ-4,5-ジフルオロベンゼン及びブタン-1,4-トランス-シンナメートが含まれるが、この列記は網羅的なものではない。
【0044】
本発明において使用するための好ましい架橋剤は、ラジカル重合において反応性を有する少なくとも2つの(メタ)アクリル官能基を有するモノマー又はオリゴマーであり、これはヒドロキシル、エステル、エーテル、ウレタン、エポキシ、シアヌレート又はイソシアヌレート官能基から選択される少なくとも1つの他の官能基を任意にさらに含んでもよい。したがって、例えば、以下の化合物:1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、アルコキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、アルコキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ドデシルジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、直鎖アルカンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アルコキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ドデカンジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0045】
架橋剤は、コポリマーのモル数に対して、1~20mol%、好ましくは3~10mol%に相当し得る。
【0046】
本発明に従って使用されるインク中で使用され得る光重合開始剤の例には、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニル-ホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネート、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2,4-ジエチルチオキサントン、これらの誘導体及びこれらの混合物が含まれる。
【0047】
上記成分は、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル及びγ-ブチロラクトンなどのエステル;リン酸トリエチルなどのリン酸アルキル;炭酸ジメチルなどの炭酸アルキル;アセトン、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノンなどのケトン;ジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド;ジメチルスルホキシド(DMSO)などの硫黄含有溶媒、クロロホルム及びハロゲン化アルカンなどのハロゲン化溶媒、並びにこれらの混合物から、非限定的な様式で選択され得る極性有機溶媒中に保持される。本発明においては、2-ブタノン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、リン酸トリエチル、ジメチルアセトアミド及びこれらの混合物を使用することが好ましい。
【0048】
上記成分からインクが得られたら、いかなる性質のものでもあり得る、特に、1又は複数のガラス又は金属又は有機(特に、ポリマー)層からなり得る基材上に、フィルムの形態でインクが塗布される。本発明に従って使用されるコポリマーは、具体的には、フィルムへと成形され得るのに十分な力学的特性を有する。このフィルム成形は、例えば、インクの注入によって、インクのスピンコーティングによって、インク中での浸漬によって、又はインクを印刷することによって、特にインクジェット若しくはスクリーン印刷によって実施することができる。このようにして得られたフィルムは、乾燥工程及び次いで任意選択的に実施してもよい、(特に70℃~140℃の温度での)焼鈍工程の後に、良好な力学的特性を有し、必要に応じて、伸ばすことが可能である。フィルムの厚さは、例えば、10nm~100μm、好ましくは50nm~50μm、より好ましくは100nm~10μmであり得る。
【0049】
このフィルム形成工程の前に、補強充填剤、カーボンナノチューブなどの導電性充填剤、導電性塩、PZT又はBaTiO3セラミクスなどの圧電性、強誘電性又は焦電性ナノ粒子などの圧電粒子、可塑剤、接着促進剤及びこれらの混合物など、様々な添加剤を架橋可能なインクに添加することが可能である。
【0050】
本発明のコポリマーとのトリエチルアミンの反応後に、トリエチルアミンと反応したものと同一の又は異なる、本発明の1又は複数の他のコポリマーをインクに添加することも可能である。この場合には、一般に、インク中に存在する本発明の(修飾された及び修飾されていない)コポリマーの総重量に対して、この追加のコポリマーが最大60重量%に相当することが確保されるであろう。
【0051】
次いで、得られたフィルムは、コポリマーの架橋を完結するために、一般に15℃~40℃、例えば20℃~30℃の温度で、UV照射に供される。この目的のために、当業者に既知のあらゆる技術、特に、水銀灯を用いた照射を使用することが可能である。このUV照射工程後に、フィルムは、任意選択的に、例えば70℃~140℃の範囲の温度で、熱的後処理工程に供してもよい。
【0052】
本発明に従って得られた架橋されたコポリマーは、半結晶特性を有している。
【0053】
その融点は、一般に、100℃~160℃、より具体的には105℃~155℃、例えば110℃~130℃である。融点は、ポリマーの5~20mgの試料に対する示差走査熱量測定(DSC)によって測定される。この技術は、分析するべき試料と参照物質間での熱交換の差を測定することに存する。これにより、特に融点などの相転移、及びこれらの現象に対応するエンタルピーを測定することが可能となる。本発明のコポリマーに関しては、走査される温度範囲は、10℃/分の速度で、-20℃~200℃である。少なくとも2サイクル(加熱操作2回及び冷却操作2回)が行われる。融点は、慣例により、融解ピークの最高箇所の値である。
【0054】
これらのコポリマーは、電場応答性ポリマーとして適していると判断するための、少なくとも1つの基準をさらに満たし、特に、これらのポリマーは、その融点を下回る、例えば、20℃~145℃のキュリー温度、及び最大で30超の誘電率を有する。
【0055】
これらのコポリマーは、有利には、60MV/m未満の保磁力場、25℃及び1kHzで、10より大きい若しくは20より大きい、又は30以上の誘電率並びに/又は、30mC/m2より大きい、例えば、40mC/m2より大きい、若しくは50mC/m2より大きい、若しくは60mC/m2より大きい飽和分極を有する。
【0056】
さらに、それらの架橋のために、これらのコポリマーは、上に列記されているような溶媒に対して耐性をさらに有するので、5分間室温でこれらの溶媒中に浸漬した後の、本発明に従って得られたフィルムの質量の損失は20%未満である。したがって、フィルムのある部分のみを架橋するために、マスクの存在下で上記UV照射工程が行われ、その後、現像工程において溶媒を用いて非架橋領域を選択的に除去することができるフォトリソグラフィー法においてこのフィルムを使用することが可能である。
【0057】
本発明に従って得られたフィルムは、例えば、薄膜トランジスタ、光トランジスタ、電界効果トランジスタ及びコンデンサを含む(光)電子デバイス;触力覚装置;アクチュエータ;微小電気機械システム(MEMS);センサー;操作可能カテーテル;点字キーボード;音響デバイス(拡声器又は「ツイーター」);電気熱量デバイス;エネルギー回収装置などの(光)電子デバイスの製造のために有用である。これらのフィルムをトランジスタ中で使用することが好ましい。印刷有機エレクトロニクスの分野において、本発明のフィルムは、特に、電界効果トランジスタのゲート誘電体層の製造のために使用することができる。
【0058】
本発明のフィルムを形成する架橋されたコポリマーの先述した特性のために、これらのフィルムは、上記用途において有利な特徴、特に、低い漏れ電流密度、高いブレークダウン電圧、高い電気容量値、低い動作電圧(典型的には、40V未満又は30V未満又は20V未満)及び/又は低いヒステリシスを有し得る。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は、純粋に例示を目的とするものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0060】
<A)フッ素化コポリマーの調製>
【0061】
<調製例1:P(VDF-TrFE-CTFE)ターポリマー(P1)の合成>
【0062】
P(VDF-TrFE-CTFE)ターポリマーは、水中での懸濁重合によって調製される。脱気され、室温で真空下にある3lの反応器の中に、脱塩水2.28kg、TrFE208g、VDF302g、次いで、ヒドロキシプロピルメチルセルロース型の安定剤を導入する。反応器を48℃まで加熱し、次いで、移動剤中の溶液中のペルオキシジカーボネート型のラジカル開始剤を加える。反応器内の圧力は、80~100バールである。57/31/12のモル組成を有するVDF/TrFE/CTFEの混合物の注入によって、重合の間、この圧力を一定に保つ。二次混合物612gの注入後、注入を停止し、反応器を室温まで冷却する。次いで、50℃で24時間、懸濁液を脱塩水で洗浄し、次いで、窒素フラッシング下において、60℃で24時間乾燥させる。
【0063】
この液体の1H及び19F NMR分光測定法によって測定されたターポリマーの最終モル組成は62/30/8であり、203℃10kg下でのMFIが1.90、二回目の加熱操作中にDSCによって測定された融点は122.6℃である。
【0064】
<調製例2:TEA修飾されたターポリマー(P2)の調製>
【0065】
水冷された冷却器を上に取り付けた250mlの単一口丸底フラスコの中で、8mol%のCTFEを含有する5.02gのターポリマーP1及びトリエチルアミン(TEA)2.18gを、ジメチルスルホキシド(DMSO)100g中において混合する。磁石で撹拌しながら、50℃で4時間、反応媒体を加熱する。
【0066】
水からの沈殿、次いで、メタノール/水の重量で50/50混合物からの再沈殿によって生成物を精製する。次いで、修飾されたP(VDF-TrFE-CTFE)ターポリマー粉末をメタノールで洗浄し、次いで、50℃で8時間、真空下において乾燥する。
【0067】
反応の収率は90%であり、赤外線分光測定法及び示差走査熱量測定によって、最終生成物を性質決定する。
【0068】
<調製例3:NN-DMBAによって修飾された比較ターポリマー(P3)の調製>
【0069】
水冷された冷却器を上に取り付けた250mlの単一口丸底フラスコの中で、8mol%のCTFEを含有する5.03gのターポリマーP1及びN,N-ジメチルベンジルアミン(NN-DMBA)2.94gを、ジメチルスルホキシド(DMSO)100g中において混合する。磁石で撹拌しながら、50℃で4時間、反応媒体を加熱する。
【0070】
水からの沈殿、次いで、メタノール/水の重量で50/50混合物からの再沈殿によって生成物を精製する。次いで、修飾されたP(VDF-TrFE-CTFE)ターポリマー粉末をメタノールで洗浄し、次いで、50℃で8時間、真空下において乾燥する。
【0071】
反応の収率は89%であり、赤外線分光測定法によって、最終生成物を性質決定する。
【0072】
<B)ターポリマーの性質決定>
【0073】
生成物P1~P3のFTIRスペクトルを表す
図1に示されているように、-CH=CF-二重結合のC-H結合に特徴的な原子価振動バンドが3120cm
-1に観察される。このシグナルは、TEAで修飾されたターポリマー(P2)でより強烈である。同一の反応条件を用いると、それ故、TEAは、NN-DMBA(P3)より優れた化学的修飾を可能にする。
【0074】
さらに、
図2に示されているように、TEA(P2)によるターポリマーP1の修飾は、この材料の半結晶構造を有意に改変しない。25℃での第一の吸熱ピークの存在は、TEA修飾されたターポリマーのリラクサー強誘電的挙動に特徴的である。
【0075】
<C)ターポリマーを含有するインクの調製>
【0076】
<[実施例1]:ターポリマー及びTEAを含有するインク(E1)の調合>
【0077】
水冷された冷却器を上に取り付けた250mlの単一口丸底フラスコの中で、8mol%のCTFEを含有する5.0gのターポリマーP1、6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネート(TPO-L)50mg、2,4-ジエチルチオキサントン(DETX)25mg及びトリエチルアミン(TEA)2.0gを、ブタン-2-オン(MEK)100.0g中で混合する。磁石で撹拌しながら、80℃で4時間、溶液を加熱する。
【0078】
少なくとも4時間、室温まで冷却するために、撹拌せずに溶液を静置し、次いで、1μmの間隙を有するポリプロピレンフィルター上で濾過する。
【0079】
<[実施例2]:TEAによって予め修飾されたターポリマーを含有するインク(S1~S4)の調合>
【0080】
50mlの褐色フラスコ中で、1.50gの修飾されたターポリマーP2を、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)20.0g中に溶解する。室温で4時間、溶液を磁石の棒で撹拌する。
【0081】
第二の褐色フラスコ中で、6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネート(TPO-L)0.504g及び2,4-ジエチルチオキサントン(DETX)0.252gをPGMEA)10.0g中に溶解する。室温で4時間、溶液を磁石の棒で撹拌する。
【0082】
4mlの溶血管中で、共架橋剤(ポリアクリレート又はポリチオール化合物)42mg、光重合開始剤溶液100mg及び修飾されたターポリマー溶液3.0gを、手動撹拌によって混合する。
【0083】
使用した架橋剤:
S1 なし
S2 SR499(エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート)。
S3 SR351(トリメチロールプロパントリアクリレート)。
S4 ポリチオール(トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート))。
【0084】
<[実施例3]:単一工程で共因子を加えた溶液(S5)の調合>
【0085】
50mlの褐色フラスコ中で、1.50gのターポリマーP1、0.65gのTEA及び光重合開始剤溶液100mgを、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)20.0g中において混合する。磁石の棒を用いて、50℃で4時間、溶液を撹拌し、次いで、共架橋剤SR499(エトキシ化エトキシ化トリメチルプロパントリアクリレート)0.30gを添加する。
【0086】
<D)フッ素ポリマー及びインクの特性の評価>
【0087】
<1)電場応答性>
【0088】
保磁力場(EC)、残留分極(Pr)及び飽和分極(Psat)の値を知ることができるようにして、20μmフィルムの分極によって、実施例Aで調製されたターポリマーP1及びP2の電場応答性を評価する。フィルムの1mm2表面に電極を介して、50mHzの周波数を有する、増大する振幅の交流電場を印加する。試料を通過する電流は、精密な電流計を介して、印加された電場の関数として測定される。
【0089】
【0090】
これらの図から見られるように、化学的修飾後の保磁力場の低下(17から8MV/mまで)が観察され、P1に対して、ターポリマーP2のリラクサー強誘電的挙動が優れていることを示している。飽和分極は、なお30mC.m-2よりずっと高く、P2及びP1について、それぞれ、Psat=62.4及び55.3mC.m-2である
【0091】
<2)誘電率>
【0092】
コポリマーP1~P3の誘電率をさらに測定し、下表1に報告されている。
【0093】
【0094】
この表に示されているように、ターポリマーP1の誘電率は30であり、したがって、CTFEの存在故に、一般に10付近であるP(VDF-TrFE)コポリマーの誘電率よりずっと高い。CTFEから塩素を除去する化学反応は最終生成物の誘電率を低下させる可能性があると考えられる。ここでは、逆に、TEAによって修飾されたターポリマー(P2)は、脱塩化水素反応にも関わらず、初発のターポリマー(P1)より若干高い誘電率を有する。これは、NN-DMBAによって修飾されたターポリマー(P3)には当てはまらない。
【0095】
<3)耐溶剤性>
【0096】
修飾されていないターポリマーP1の耐溶剤性を、以下と比較して評価した。
【0097】
TEAの存在下で(E1)、架橋剤の不存在下又は存在下で(E1及びS5)で調合されたターポリマー、及び
TEAによって修飾され、様々な架橋剤の不存在下又は存在下で調合された同じターポリマー(S1、S2、S3及びS4)。
【0098】
これを行うために、スピンコーティング(Acc=500rpmとして、500rpmで10秒、次いで、Acc=500rpmとして、1000rpmで30秒)によって、実施例C1~C3において調製された調合物E1、S1、S2、S3、S4、S5から、ガラスプレート上にフィルムを作製する。
【0099】
100℃で1分間、熱板上で堆積物を乾燥させ、次いで、405nmで15秒間、LED UVランプを用いて照射する。照射後、100℃で5分間、フィルムは熱的後処理工程を経る。
【0100】
フィルムの架橋は、PGMEAに対する耐性の試験によって評価する。
【0101】
この試験の結果は、下表2に示されており、0は耐溶剤性なし(質量の100%低下)に対応し、5は質量の20%未満の低下に対応する。
【0102】
【0103】
これらの結果が示すように、修飾されていないターポリマーP1の耐溶剤性はゼロであり、2つの異なる方法を用いたTEA修飾後には、僅かに改善される(E1及びS1)。共架橋剤の添加によって、PGMEAに対してより優れた耐性を与えることが可能になる(S2~S5)。