(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】免疫調節機能を有するFasL操作を受けた生体材料
(51)【国際特許分類】
A61K 38/19 20060101AFI20230823BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230823BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230823BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230823BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20230823BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230823BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20230823BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20230823BHJP
A61K 35/39 20150101ALI20230823BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
A61K38/19
A61K9/06
A61P37/06
A61P3/10
A61K47/60
A61K45/00
A61K35/28
A61K35/15
A61K35/39
A61K31/436
(21)【出願番号】P 2019570350
(86)(22)【出願日】2018-03-09
(86)【国際出願番号】 US2018021742
(87)【国際公開番号】W WO2018165547
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-03-08
(32)【優先日】2017-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519327168
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ルイビル リサーチ ファンデーション インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】519326839
【氏名又は名称】ジョージア テック リサーチ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】シルワン ハヴァル
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア アンドレス ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ヨルキュ エスマ エス
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ ホン
(72)【発明者】
【氏名】ヘデン デヴォン
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-524806(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0213766(US,A1)
【文献】国際公開第2016/205714(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0071997(US,A1)
【文献】特表2016-501919(JP,A)
【文献】特表2013-500950(JP,A)
【文献】Devon M. Headen,Microfluidics-based microgel synthesis for immunoisolation and immunomodulation in pancreatic islet transplantation,Georgia Institute of Technology, Publication date 2017.02.23, [retrieved on 2021.10.12], retrieved from the internet: <URL: https://smartech.gatech.edu/handle/1853/59763>
【文献】Devon M. Headen,Microfluidics-based microgel synthesis for immunoisolation and immunomodulation in pancreatic islet transplantation,Georgia Institute of TechnologyBioE Graduate Program, 2017.01.26, [retrieved on 2021.11.16], retrieved from the internet: <URL: https://bioengineering.gatech.edu/phd-defense-devon-m-headen>
【文献】Devon M. Headen,Microfluidics-based microgel synthesis for immunoisolation and immunomodulation in pancreatic islet transplantation,Georgia Institute of Technology, [retrieved on 2021.12.08], retrieved from the internet: <URL: https://scholar.google.com/citations?view_op=view_citation&hl=en&user=ONHwhDUAAAAJ&citation_for_view=ONHwhDUAAAAJ:_FxGoFyzp5QC>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 45/00
A61K 47/00-47/69
A61K 35/00-35/768
A61K 31/33-33/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FasLタンパク質を提示するように操作を受けた生体材料であって、前記生体材料はヒドロゲルであり、前記ヒドロゲルは、FasL部分とストレプトアビジンまたはアビジン部分とを含むキメラFasLタンパク質にビオチンを介して結合している、生体材料。
【請求項2】
前記ヒドロゲルがミクロゲルである、請求項1に記載の生体材料。
【請求項3】
前記
ミクロゲルが、ビオチン部分を提示するように操作を受けたポリエチレングリコール(PEG)ミクロゲルである、請求
項2に記載の生体材料。
【請求項4】
前記ミクロゲルが、ビオチン部分を提示するように操作を受けたマレイミド末端4アームPEG(PEG-4MAL)ミクロゲルである、請求項2に記載の生体材料。
【請求項5】
前記ヒドロゲルが、ビオチン-PEG-チオールを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の生体材料。
【請求項6】
前記キメラFasLタンパク質が、FasL部分およびストレプトアビジンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の生体材料。
【請求項7】
前記FasL部分が、マトリックスメタロプロテイナーゼ耐性FasLタンパク質である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の生体材料。
【請求項8】
前記生体材料が、免疫抑制薬をさらに含む、請求項1
~7のいずれか一項に記載の生体材料。
【請求項9】
前記免疫抑制薬が、ラパマイシンである、請求項
8に記載の生体材料。
【請求項10】
前記生体材料が、移植細胞をさらに含む、請求項1
~9のいずれか一項に記載の生体材料。
【請求項11】
前記移植細胞が、PBMC、骨髄細胞、造血幹細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、樹状細胞、自己抗原でパルスされた樹状細胞、ヒトベータ細胞産物、および脾細胞から選択される、請求項10に記載の生体材料。
【請求項12】
前記移植細胞が、膵島細胞である、請求項10に記載の生体材料。
【請求項13】
前記移植細胞が、前記生体材料によって封入されている、請求項
10~12のいずれか一項に記載の生体材料。
【請求項14】
前記移植細胞が、前記生体材料によって封入されていない、請求項
10~12のいずれか一項に記載の生体材料。
【請求項15】
前記ヒドロゲルが、PEG-4MALおよびビオチン-PEG-チオールを含むミクロゲルであり、前記キメラFasLタンパク質が、マトリックスメタロプロテイナーゼ耐性FasL部分およびストレプトアビジンを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の生体材料。
【請求項16】
免疫寛容を、それを必要とする対象において誘導するための、請求項1~
15のいずれか一項に記載の生体材料を含む組成物。
【請求項17】
ヒドロゲルが前記対象へ移植
するためのものである、請求項
16に記載の組成物。
【請求項18】
免疫抑制薬と組み合わせて使用される、請求項
16または17に記載の組成物。
【請求項19】
前記免疫抑制薬がラパマイシンである、請求項
18に記載の組成物。
【請求項20】
前記対象が、ヒ
トである、請求項
16~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記対象が、非ヒト霊長類、ブタ、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ウサギ、マウス、またはラットである、請求項16~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記対象が、1型糖尿病の治療を必要と
する、請求項
16~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
膵島細胞をさらに含む、請求項16~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
前記対象が、同種移植片拒絶の治療または予防を必要と
する、請求項
16~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
前記対象が、異種移植片拒絶の治療または予防を必要と
する、請求項
16~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記異種移植片のドナーが、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ウサギ、マウス、またはラットである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記対象が、自己移植片拒絶の治療または予防を必要と
する、請求項
16~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
前記対象が、自己免疫の治療または予防を必要と
する、請求項
16~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
請求項15に記載の生体材料および膵島細胞を含む、ヒト対象における1型糖尿病を治療するための組成物。
【請求項30】
ラパマイシンと組み合わせて使用するための、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
ビオチン化生体材料を、FasL部分とストレプトアビジンまたはアビジン部分とを含むキメラFasLタンパク質と接触させることを含む、請求項1~
15のいずれか一項に記載の生体材料を作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府資金による研究または開発の記載
本発明は、国立衛生研究所助成金R21EB020107、R21AI113348、R56AI121281、およびF30AR069472、ならびに英国小児糖尿病財団(Juvenile Diabetes Research Foundation)助成金2-SRA-2014-287-Q-Rの下で政府の支援を受けて行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
2017年3月10日に出願された米国仮出願62/469,802からの優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本明細書において、1型糖尿病を含む自己免疫疾患の治療および移植片拒絶のリスクの予防または低減などの免疫調節などのためのFasL操作を受けた生体材料およびそれらを使用する方法が記載される。
【背景技術】
【0004】
外来細胞(骨髄および幹細胞など)、組織(膵島など)、および臓器(腎臓、心臓、肝臓など)の移植は、特定の疾患を有する患者にとって重要かつ効果的な治療の選択肢となっている。しかしながら、遺伝的に異なる患者間の異種移植片(同じ種のメンバー間の同種移植片または異なる種のメンバー間の異種移植片)の移植は、レシピエントによる移植片の免疫認識および拒絶を制御する能力によって制限される。自家移植片(移植細胞が、例えば人工多能性により患者自身の組織に由来する場合)でさえ、移植の有効性は、移植片に対する自己免疫応答の制御に依存する。
【0005】
例えば、骨髄(BM)移植は、造血および自己免疫疾患、ならびに特定の癌の非常に有望な治療法とみなされている。骨髄移植の障害の1つは、宿主のT細胞とNK細胞を介した移植組織の拒絶の可能性である。移植片対宿主病(GvHD)は、骨髄移植の別の考えられる悪影響である。移植された組織内のドナーT細胞は、宿主の重要な臓器に対する免疫応答を開始し、しばしば宿主の死をもたらす。したがって、宿主対移植片反応およびGvHDは、骨髄移植の臨床的使用を制限するが、そうでなければ様々な疾患の治療および外来移植片拒絶の予防に広く使用される可能性がある。
【0006】
1型糖尿病(T1D)は、CD4+T細胞を必要とするβ細胞特異的抗原に対する協調免疫応答により、インスリン産生β細胞量の損失、およびそれによる血糖コントロールを特徴とする自己免疫疾患である。同種膵島移植によるβ細胞塊の修復は、現在、重度の血糖不安定性を有する患者の血糖コントロールを改善するための好ましい臨床的介入である。自己由来のベータ細胞産物であっても、自己細胞に対する免疫応答の制御は、治療効果にとって重要なままである。同種移植片の寿命は、宿主の免疫応答だけでなく、拒絶反応を制御するために必要な慢性免疫抑制の毒性効果による二次移植片の障害によっても制限される。
【0007】
免疫抑制薬は、同種移植片拒絶の制御のためのレジメンの主力である。このような薬物は、拒絶エピソードの重症度を減少させるのに有効であるが、それらは非特異的であり、永久的な移植片特異的耐性の状態を作り出すことができない。したがって、これらの免疫抑制剤へのレシピエントの継続的な曝露は、日和見感染および悪性腫瘍のリスクの有意な増加と関連している。さらに、これらの非特異的免疫抑制剤は、宿主に深刻かつ望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。これらの有害作用は、身体がそれ自体特定の部位を「外来」と特定し、1型糖尿病、関節炎、ループス、および多発性硬化症で見られるような自己免疫をもたらす適応免疫攻撃を開始する疾患を有する患者にとっての利点を上回ることが多い。
【0008】
現在の臨床診療は、T細胞活性を妨げる免疫抑制剤を投与することである。このような免疫抑制剤は、自己免疫疾患の治療において長期間投与され、多くの場合、外来移植を受けた患者の生涯にわたって投与される。免疫抑制剤の長期使用の要件により、治療の成功は頻繁な医学的監視に依存し、患者は薬物による深刻な副作用にさらされる。
【0009】
したがって、細胞移植片もしくは組織移植片の拒絶および/または1型糖尿病の治療のリスクを予防もしくは低減するなど、免疫調節をもたらすのに有用な組成物および方法が必要である。免疫寛容を誘導するのに有用な組成物および方法も必要である。
【発明の概要】
【0010】
本明細書では、ストレプトアビジン結合FasL(SA-FasL)が、ヒドロゲル、例えばポリエチレングリコール(PEG)ヒドロゲルなどの生体適合性材料上に提示されるFasL操作を受けた生体材料、ならびにこのようなFasL操作を受けた生体材料の作製方法、および免疫調節に、例えば細胞移植片もしくは組織移植片の拒絶および/または1型糖尿病の治療のリスクを予防もしくは低減するための使用方法が記載される。
【0011】
いくつかの実施形態によれば、FasL部分を提示するように操作された生体材料が提供される。いくつかの実施形態によれば、FasL部分を提示するように操作されたヒドロゲルが提供される。いくつかの実施形態によれば、ヒドロゲルは、ビオチンを介してヒドロゲルに結合したFasL部分およびストレプトアビジンまたはアビジン部分を含むキメラFasLタンパク質を含む。いくつかの実施形態によれば、ヒドロゲルは、ビオチン部分を提示するように操作を受けたポリエチレングリコール(PEG)ミクロゲルである。いくつかの実施形態によれば、FasL部分を提示するポリエチレングリコール(PEG)ヒドロゲルが提供される。具体的な実施形態では、ヒドロゲルは、SA-FasL部分に結合したビオチン部分を含む。
【0012】
任意の実施形態によれば、FasL部分は、マトリックスメタロプロテイナーゼ耐性FasLタンパク質であり得る。
【0013】
任意の実施形態によれば、生体材料は、ラパマイシンなどの免疫抑制薬を含んでもよい。いくつかの実施形態では、FasL操作を受けたヒドロゲルは、ラパマイシンなどの免疫抑制薬をさらに含む。いくつかの実施形態では、免疫抑制薬をさらに含むFasL操作を受けた生体材料またはヒドロゲルは、薬物の制御放出を提供する。
【0014】
任意の実施形態によれば、生体材料は、PBMC、骨髄細胞、造血幹細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、樹状細胞、自己抗原でパルスされた樹状細胞、ヒトベータ細胞産物、および脾細胞などの移植細胞を含んでもよい。いくつかの実施形態では、移植細胞は、生体材料に封入されている。
【0015】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のFasL操作を受けた生体材料またはヒドロゲルをそれを必要とする対象に投与することを含む、免疫調節をもたらすか、または免疫寛容を誘導する方法が提供される。いくつかの実施形態では、この方法は、免疫寛容を誘導するのに有効な量の生体材料を投与することを含む。いくつかの実施形態によれば、投与は移植によるものである。
【0016】
任意の実施形態によれば、対象は、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ウサギ、マウス、またはラットであり得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、対象は、PBMC、骨髄細胞、造血幹細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、樹状細胞、自己抗原でパルスされた樹状細胞、ヒトベータ細胞産物、および脾細胞などの移植細胞に対する免疫寛容を必要としている。いくつかの実施形態によれば、この方法は、細胞移植片または組織移植片の拒絶および/または1型糖尿病の治療のリスクを予防または低減するためのものである。
【0018】
任意の実施形態によれば、本方法は、PBMC、骨髄細胞、造血幹細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、樹状細胞、自己抗原でパルスされた樹状細胞、ヒトベータ細胞産物、および脾細胞などの移植細胞を投与することをさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、生体材料は移植細胞を含む。いくつかの実施形態では、移植細胞は、生体材料に封入されている。
【0019】
いくつかの実施形態では、対象は1型糖尿病の治療を必要とし、本方法は、任意に、膵島細胞を対象に投与することをさらに含む。いくつかの実施形態では、対象は同種移植片拒絶の治療または予防を必要とし、本方法は、任意に、同種移植片ドナーからの細胞を対象に投与することをさらに含む。いくつかの実施形態では、対象は、異種移植片拒絶の治療または予防を必要とし、本方法は、任意に、異種移植片ドナーから細胞を対象に投与することをさらに含む。いくつかの実施形態では、異種移植片ドナーは、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ウサギ、マウス、またはラットである。いくつかの実施形態では、対象は自己移植片拒絶の治療または予防を必要とし、本方法は、任意に、自己移植細胞を対象に投与することをさらに含む。いくつかの実施形態では、自己移植細胞は人工多能性により得られる。いくつかの実施形態では、対象は自己免疫の治療または予防を必要とし、本方法は、任意に、(i)自己抗原を発現する細胞、(ii)自己抗原で装飾された細胞、および(iii)自己抗原でパルスされた樹状細胞から選択される細胞に提示される自己抗原を対象に投与することをさらに含む。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、ビオチン化生体材料またはヒドロゲルをSA-FasL部分と接触させることを含む、FasLを提示するように操作を受けた生体材料またはヒドロゲルを作製する方法が提供される。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、免疫寛容を、それを必要とする対象において誘導するために、本明細書に記載のFasLタンパク質を提示するように操作を受けた生体材料が提供される。
【0022】
いくつかの実施形態によれば、免疫寛容を、それを必要とする対象において誘導するための薬剤の調製における、本明細書に記載のFasLタンパク質を提示するように操作を受けた生体材料の使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】免疫調節タンパク質の制御された提示を提供する、本明細書に記載のミクロゲルの生産のグラフ表示を示している。
図1Aは、ビオチン機能化PEG-4MALマクロマーからビオチン化ミクロゲルを生成するためにフローフォーカシングマイクロフルイディクスがどのように使用されたかをグラフで示している。SA-FasLをビオチン化ミクロゲルに固定し、得られた免疫調節性SA-FasLミクロゲルを、糖尿病マウスの腎被膜下の膵島に同時移植し、移植片の受容を誘導した。
図1Bは、ビオチンが繋がれたミクロゲル(左上のパネル、灰色)がストレプトアビジンを捕捉できること(明るい灰色、左下のパネル)、およびビオチンを含まないミクロゲルがストレプトアビジンを捕捉しなかったこと(右のパネル)を示している。(スケールバー200μm)。
図1Cは、ビオチン化ミクロゲルが150μg/mLで飽和に達するまで用量依存的にストレプトアビジン(SA)を捕捉および提示することを示している。
図1Dは、ミクロゲル上に提示されたSA-FasLが生物活性を維持し、FasL感受性細胞の用量依存性アポトーシスを誘導することを示している。
【
図2】FasL操作を受けたミクロゲルが、インビボでSA-FasLの保持を延長することを表す画像を示している。SA-FasLは近赤外染料で標識され、マウスの腎被膜下に埋め込まれ、インビボで撮像された。
図2Aは、遊離SA-FasLを投与された動物で測定された拡散シグナルとは対照的に、ミクロゲル上に提示されたときの移植部位へのSA-FasLの局在化の代表的な画像を示している。ヒートマップは、同じ処置群の動物間で一貫している。シグナルが無視できるため、18日目と21日目の画像は表示されていない。
図2Bは、インビボでの蛍光の定量化と指数関数的減衰曲線適合を表すグラフを示し、SA-FasLを提示するミクロゲルが遊離SA-FasLと比較してタンパク質保持を延長することを実証している(p<0.0001;n=8)。
【
図3】SA-FasL提示ミクロゲルと共移植された同種膵島移植片の生着を示している。
図3Aは、膵島移植片の生着を表すグラフを示している。ビオチン化ミクロゲルは、SA-FasL(1μgのタンパク質/1000個のミクロゲル)で操作を受け、化学的糖尿病C57BL/6レシピエントの腎臓被膜下に未改変BALB/c膵島(500個/移植)で同時移植した。ラパマイシンは、指示された群の移植の当日から開始して、毎日0.2mg/kgで15回分の腹腔内投与で使用した。動物の血糖値をモニターし、250mg/dL以上の連続した2回の毎日の読み取り値を、糖尿病(拒絶)とみなした(p<0.0001、**p<0.01、***p<0.001)。
図3Bは、長期間機能する移植片(>200日)の免疫染色およびSA-FasL提示ミクロゲルを受け取ったレシピエントからの拒絶された移植片を示している。機能している移植片(上のパネル)のみがインスリン陽性構造(明るい灰色の領域)およびDNA(暗い灰色)を示した。拒絶された移植片(下のパネル)は、インスリン染色を示さなかった。白い矢印は、ミクロゲルを示している。組織をDNAで対比染色した(濃い灰色)。(スケールバー100μm)。
図3Cは、SA-FasLミクロゲルおよびラパマイシンと同時移植された移植膵島移植片を有するマウスが、移植後200日目に未処理膵島を有するマウスと同じグルコース応答を呈することを表すグラフを示している。
【
図4】免疫モニタリングおよび膵島移植片受容におけるCD4
+CD25
+FoxP3
+Treg細胞の役割を表すグラフを示している。
図4Aは、ドナー抗原に対する長期移植片生着者の全身応答を表すグラフを示している。指示された群からの脾細胞は、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識され、エクスビボ混合リンパ球反応アッセイにおいて照射されたBALB/cドナーおよびC3Hサードパーティ刺激物質に対するレスポンダーとして使用された。フローサイトメトリーでCD4およびCD8分子に対する抗体を使用して、CD4
+およびCD8
+T細胞でのCFSE染料の希釈を評価し、各細胞集団の分割率としてプロットした。
図4Bは、免疫細胞型の時間経過分析を示している。膵島移植後3日目および7日目に指示された群の脾臓、腎臓、および腎臓流出リンパ節から調製された単一細胞を、CD4
+Teff(CD4
+CD44
hiCD62L
lo)、CD8
+Teff(CD8
+CD44
hiCD62L
lo)、およびTreg(CD4
+CD25
+FoxP3
+)集団を定義する細胞表面分子に対する蛍光標識抗体を用いて染色し、フローサイトメトリーを使用して分析した。TregのCD4
+TeffおよびCD8
+Teffに対する比率をプロットする(平均値±SEM、*p<0.05、**p<0.005)。
図4Cは、Treg細胞の枯渇が、確立された膵島移植片の急性拒絶をもたらすことを表すグラフを示している。C57BL/6.FoxP3
EGFP/DTRマウス(n=5)に、BALB/c膵島移植片およびSA-FasL提示ミクロゲルをラパマイシンの一時的な覆い下で移植した(毎日0.2mg/kgを15回分腹腔内投与)。次いで、これらのマウスに、移植後50日目に50μg/kgのジフテリア毒素を腹腔内注射し(矢印)、Treg細胞を枯渇させた。
【
図5】膵島移植片の受容にはTreg細胞が必要であることを表すグラフを示している。Treg細胞の枯渇は、確立された膵島移植片の急性拒絶をもたらす。C57BL/6.FoxP3EGFP/DTRマウスに、BALB/c膵島移植片およびSA-FasL提示ミクロゲルをラパマイシンの一時的な覆い下で移植した(毎日0.2mg/kgを15回分腹腔内投与)。マウスのコホートに、移植後50日目に50μg/kgのジフテリア毒素を腹腔内注射し(矢印)、Treg細胞を枯渇させ、一方、別の群は、未処置のまま放置した。
【
図6】精巣上体脂肪体にSA-FasLミクロゲルと同時移植された同種膵島移植片の免疫受容性を示している。
図6Aは、膵島移植片の生着を表すグラフを示している。ビオチン化ミクロゲルは、SA-FasL(1μgのタンパク質/1000ミクロゲル)で操作を受け、化学的糖尿病C57BL/6レシピエントの精巣上体脂肪体に非改変BALB/c膵島(600個/体脂肪体、合計1200個/レシピエント)で同時移植した。ラパマイシンは、移植の当日から開始して、毎日0.2mg/kgで、15回分の腹腔内投与で使用した。動物の血糖値をモニターし、250mg/dL以上の連続した2回の毎日の読み取り値を、糖尿病(拒絶)とみなした(p<0.0008)。
図6Bは、グルカゴンおよびインスリン陽性構造を示すSA-FasLミクロゲル+ラパマイシンを投与されたマウスからの長期機能する移植片(>60日)の免疫染色の画像を示している。DNA染色DAPIは、グルカゴンまたはインスリンに対して陽性および陰性の両方の細胞を標識する。(スケールバー50μm)。
図6Cは、SA-FasLミクロゲルと対照群の間で血清肝臓酵素レベルに差異がないことを表すグラフを示し(破線は正常な上位酵素レベルを示す)、グラフの下のパネルは、SA-FasLミクロゲルと対照群の間で肝臓酵素に差異がないことを明らかにする組織切片の画像を示している。
【
図7】SA-FasLが用量依存的にビオチン化ミクロゲルに繋がれていることを表すグラフを示している。SA-FasLをAlexaFluor488NHSエステル(Thermo Fisher)を用いて標識し、Zebaカラム(7k MWCO、Thermo Fisher)で3回脱塩して遊離染料を除去した。ビオチン化ミクロゲル(104)を、500μLのSA-FasLまたはSAのみの溶液に、指定の濃度で1時間懸濁させた。次いで、ミクロゲルを、PBS中の1%ウシ血清アルブミンで10回遠心分離することにより洗浄し、未結合タンパク質を除去した。機能化ミクロゲルを96ウェルプレートに配置し、Biotek HT340プレートリーダーで読み取り、全ての値からバックグラウンドシグナル(空のウェル)を差し引いた(n=2(SA)または3(SA-FasL)、平均値±SEM)。標準曲線を使用して、蛍光値を絶対濃度に変換した。
【
図8】SA-FasLをPEG-4MALマクロマーに直接つなぐと生物活性が低下することを表すグラフを示している。様々な用量のSA-FasLを、溶液中の10μLの10%PEG-4MALマクロマーと1時間反応させた。未処置の可溶性SA-FasLまたはPEG化SA-FasLのいずれかをA20細胞と一晩インキュベートし、アネキシンV-APCおよびヨウ化プロピジウムで染色した後、フローサイトメトリーによりアポトーシス細胞の数を決定した(n=2、平均値±SEM)。
【
図9】SA-FasLを提示するミクロゲル(1μgのタンパク質/1000個のミクロゲル)を移植した化学的糖尿病C57BL/6マウスの持続的な耐糖能を表すグラフを示し、一方、未処理BALB/cの膵島移植片(500個)は、ラパマイシンの短時間被覆下でのみ耐糖能を示す(毎日0.2mg/kgで、15回分の腹腔内投与)。対照には、SA-FasLを含まないミクロゲルを受け取ることを除いて、同じレジメンを受けたマウスが含まれていた。
【
図10】は、SA-FasLミクロゲルが膵島の健康または機能に影響を与えないことを示している。ラット膵島をSA-FasLミクロゲル(膵島:ミクロゲル比1:2)で24時間培養した。
図10Aは、遊離膵島またはSA-FasLミクロゲルと同時移植された膵島における代謝活性を表すグラフを示している。
図10Bは、遊離膵島またはSA-FasLミクロゲルと同時移植された膵島間でグルコースに刺激されたインスリン分泌に差がないことを表すグラフを示している。
図10Cは、SA-FasLミクロゲル(SA-FasL-M)と同時移植された膵島が、遊離膵島と比較して、炎症性サイトカインMIP-1およびIL6の分泌での減少を示すが、MCP-1では示さないことを明らかにするグラフ表示を示している(*p<0.05、**p<0.01)。
図10Dは、生死染色の画像を示しており、遊離膵島またはSA-FasLミクロゲルと同時移植された膵島の間で生細胞と死細胞の比率に差がないことを明らかにしている。
図10Eは、インスリンおよびグルカゴンの免疫染色画像およびDNAとDAPIの共染色を示しており、遊離膵島またはインスリンおよびグルカゴン発現に関して、SA-FasLミクロゲルと同時移植された膵島の間に差がないことを明らかにしている(スケールバー50μm)。
【
図11】FasLミクロゲルが移植部位にまだ存在していることを確認するための、ヘモトキシリンおよびエオシンで染色した移植後21日目の腎被膜の切片の画像を示している。白い矢印はミクロゲルの位置を指示している。
【
図12】腎摘出術により、膵島およびSA-FasLミクロゲル+ラパマイシンを移植した対象が高血糖状態に戻ることを表すグラフを示している。腎臓は、移植後200日目に切除された(矢印)。
【
図13】膵島と同時移植されたSA-FasLミクロゲルの移植時の膵島移植片の生着を表すグラフを示している。ビオチン化ミクロゲルは、SA-FasL(特に明記しない限り、1μgのタンパク質/1000個のミクロゲル)で操作を受け、化学的糖尿病C57BL/6レシピエントの腎臓被膜下に非改変の、またはSA-FasL操作を受けたBALB/c膵島(500個/移植)で同時移植した。ラパマイシンは、指示された群の移植の当日から開始して、毎日0.2mg/kgで15回分の腹腔内投与で使用した。動物の血糖値をモニターし、250mg/dL以上の連続した2回の毎日の読み取り値を、糖尿病(拒絶)とみなした(*p<0.05、**p<0.01)。
【
図14】CFSEアッセイに基づく免疫細胞増殖を表すフローサイトメトリーチャートを示している。移植レシピエントの選択群から採取した脾細胞をCFSEで標識し、標準的なインビトロ増殖アッセイにおいて、ドナーまたはサードパーティのC3Hマウスからの照射(2000cGy)脾細胞のレスポンダーとして使用した。培養4日後、細胞を7AADおよびCD4ならびにCD8に対する蛍光結合Abで染色し、BD LSR IIを使用して生細胞をゲーティングすることによりCFSE希釈物について分析した。Divaソフトウェアを使用してデータを分析した。
【
図15】拒絶マウスおよび長期マウス(>200日)からの脾臓、腎臓、および腎臓流出リンパ節を免疫プロファイルするフローサイトメトリーチャートを示している。単一細胞を、穏やかな機械的分散により脾臓およびリンパ節から、およびコラゲナーゼ消化により腎臓を含む島から調製した。細胞は、細胞表面マーカーまたは細胞内FoxP3に対する抗体を使用して染色された。データを、BD LSR IIを使用して収集し、Divaソフトウェアを使用して解析した。
【
図16】移植後早期の膵島移植レシピエントの様々な組織におけるTeffおよびTreg細胞のフローサイトメトリー分析を示している。膵島移植後3日目および7日目に指示された群の脾臓、腎臓、および腎臓流出リンパ節から調製された単一細胞を、CD4+Teff(CD4+CD44hi CD62Llo)、CD8+Teff(CD8+CD44hiCD62Llo)、およびTreg(CD4+CD25+FoxP3+)細胞の細胞表面分子に対する蛍光標識抗体を用いて染色し、フローサイトメトリーを使用して分析した。指示された組織内の細胞の絶対数が示されている(平均値±SEM、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
【
図17】FoxP3/DTRマウスへのDT投与がTreg細胞を枯渇させることを表すグラフを示している。マウスにジフテリア毒素(50μg/kg体重)を腹腔内注射した。
図17Aは、フローサイトメトリーにより決定されるように、Treg細胞の枯渇が一過性であることを表すグラフを示している。
図17Bは、FoxP3/DTRマウスへのDT投与後の血中グルコースレベルを表すグラフを示している。
【
図18】精巣上体脂肪体移植についての血糖濃度を表すグラフを示している。SA-FasLを提示するミクロゲル(1μgのタンパク質/1000個のミクロゲル)を移植した化学的糖尿病C57BL/6マウス、およびラパマイシンの短時間被覆下での未処理BALB/cの膵島移植片(500個)(毎日0.2mg/kgで、15回分の腹腔内投与)で読み取りを行った。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の様々な実施形態の特定の詳細は、ある特定の態様を例示するために以下に記載されるが、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された本発明の範囲から逸脱することなく修正および変形が可能であることは、当業者には明らかであろう。以下の議論では、本発明の異なる態様の具体的な実施形態が説明される。具体的な実施形態のあらゆる可能な順列および組み合わせが明示的に示されていなくても、一態様の任意の具体的な実施形態を別の態様の任意の具体的な実施形態と共に使用できることを理解されたい。
【0025】
本明細書において、例えば、自己免疫疾患の治療または移植片拒絶の治療もしくは予防という面において望ましい場合があるような、免疫寛容または免疫抑制の誘導に有用なFasL操作を受けた生体材料が記載される。
【0026】
抗原の認識と活性化に続いて、Tエフェクター細胞は表面のFas受容体を上方制御し、FasL媒介アポトーシスに感受性になる。重要なのは、FasまたはFasLの欠乏が、ヒトおよびげっ歯類の両方で大規模な自己免疫に関連しているため、FasL媒介アポトーシスは自己寛容および維持の誘導に重要である。これは、この経路に代償機構がないことを示唆しており、免疫調節の標的としての重要性をさらに強調している。
【0027】
本明細書に記載のFasL操作を受けた生体材料は、インビボで標的部位にFasLタンパク質の制御された負荷、提示、および保持を提供し、免疫調節に有効である。いくつかの実施形態では、FasL操作を受けた生体材料は、移植片(例えば、移植細胞または移植組織)と同時投与され、移植片に対する免疫寛容を誘導する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、移植部位で長期の特異的免疫抑制を達成し、非特異的全身薬理学的免疫抑制剤に関連する毒性を回避する。これは、標的組織によって差次的に調節される可能性のある多面発現性機能および様々な発現モード(膜結合型または可溶性)を有するFasLの制御されない連続的な発現が、意図しない結果をもたらす可能性があるため、遺伝子治療に対して独特な利点である。実際、移植環境での免疫調節に遺伝子治療を使用したFasLの異所性発現は、移植片の生着に対するFasL発現の有害な影響を示すいくつかの研究で、入り交じった反対の結果をもたらした。本明細書に記載のFasLの局所的かつ持続的な提示は、遺伝子治療を使用しての標的組織における野生型FasLの異所性発現に関連する合併症を克服する。この局所的な免疫調節の概念は、免疫調節のためのFasに対するアゴニスト抗体に関連する潜在的な毒性も制限する。
【0028】
本明細書に記載されるFasL操作を受けた生体材料は、これらの免疫調節材料を移植時に調製し、移植細胞を封入したり、または移植細胞をタンパク質を提示するために操作したりする必要なく、送達のために移植細胞(膵島など)と単純に混合できるため、より幅広い臨床用途に市販の製品の柔軟性を提供する。
【0029】
CD8+およびCD4+Tエフェクター細胞、特にCD4+T細胞は、1型糖尿病、関節リウマチ、ループス、多発性硬化症を含む様々な自己免疫疾患の開始ならびに持続において、および同種ならびに異種移植片拒絶反応を含む外来移植片拒絶において、重要な役割を果たす。したがって、Tエフェクター細胞は、これらの疾患を予防および治療するための免疫調節の重要な標的となる。通常の生理学的条件下では、Tエフェクター(Teff)細胞は、T制御性(Treg)細胞と呼ばれる別のクラスのT細胞によって抑制されている。Teff細胞と同様に、Treg細胞は炎症性の手がかりをたどり、拒絶移植片中に浸潤する。Tエフェクター細胞を支持するTエフェクターとT制御性細胞との間の生理学的平衡の乱れが、多くの自己免疫疾患および外来移植片拒絶の根底にある原因であることを、多くの科学的証拠が実証している。Tエフェクター細胞とT制御性細胞との両方を標的とするアプローチは、自己免疫の生理学的平衡を再確立し、移植片拒絶の場合に、T制御性細胞に遊離に平衡を傾けるための重要な治療的可能性を有している。
【0030】
定義
別に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、現在開示されている主題が属する当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。
【0031】
本出願の目的のために、以下の用語にはこれらの定義を有する。
【0032】
本明細書で使用される場合、「a」または「an」は、1つのみを意味することが具体的に示されていない限り、1つ以上を意味する。
【0033】
本明細書で使用される「投与する」という用語は、本明細書に開示される薬剤の別の直接投与、自己投与、および薬剤の投与の処方または指示を含む。本明細書で使用される「投与する」という用語は、物質を患者に提供する全ての適切な手段を包含する。一般的な経路には、経口、舌下、経粘膜、経皮、直腸、膣、皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、くも膜下腔、カテーテルを介するもの、インプラントを介するものなどが挙げられる。
【0034】
本明細書で使用される「患者」または「対象」には、あらゆる哺乳動物が含まれる。いくつかの実施形態では、患者はヒトである。
【0035】
本明細書で使用される場合、「有効量」および「治療有効量」という語句は、それぞれ、活性薬剤がこのような治療を必要とする対象に投与される特定の薬理学的効果を提供する、対象におけるその投薬量または血漿濃度を意味する。このような投薬量が当業者によって有効量であるとみなされるとしても、活性薬剤の有効量は、本明細書に記載される状態/疾患の治療において常に有効であるとは限らないことが強調される。
【0036】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤と共に製剤化された1つ以上の活性薬剤を指す。
【0037】
「薬学的に許容される」という語句は、本明細書では、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、またはその他の問題もしくは合併症を伴わず、合理的な利益/リスク比に見合った、インビボでの使用に好適である、それらの化合物、材料、組成物、および/または投薬形を指すように使用される。
【0038】
FasL操作を受けた生体材料
本明細書に記載のFasL操作を受けた生体材料は、FasL部分を提示するように操作を受けた生体材料である。本明細書で使用される場合、「FasL」はFasリガンドを指す。本明細書で使用される場合、「FasL部分」とは、少なくともFasLのアポトーシス誘導部分を意味する。いくつかの実施形態では、FasL部分は、FasLの細胞外ドメインを含むか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、FasL部分は、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)耐性FasLタンパク質を含むか、またはそれからなる。本明細書で使用される場合、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)耐性FasLタンパク質は、FasLの細胞外ドメインがMMP感受性部位を欠くFasLの形態である。Yolcu et al.,Immunity17:795-808(2002)を参照されたい。
【0039】
生体材料は、抱合、分子の結合、架橋などの任意の適切な手段によってFasLを提示するように操作することができる。例えば、直接化学テザリング、別の分子(ビオチン、アプタマー、抗体など)を介した捕捉、生体材料内への閉じ込め、および制御放出技術を使用することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、FasL部分は、ビオチン/アビジンまたはビオチン/ストレプトアビジン(SA)結合を介して生体材料上に提示される。例えば、ヒドロゲルをビオチン化して、ストレプトアビジン-ビオチン結合を介して、FasL-ストレプトアビジン複合体(またはFasL部分とストレプトアビジンまたはアビジン部分とを含むキメラタンパク質)に結合させることができる。ビオチン化ヒドロゲルに繋がれたSA-FasLは、強力なアポトーシス活性を保持する。対象に送達される生物活性SA-FasLの量は、本明細書に記載のFasL生体材料を使用して容易に制御することができる。
【0041】
我々は、以前に、効果的な免疫調節剤として有用である、MMP感受性部位を欠くFasLの細胞外ドメインが、C末端からSAまでにクローニングされた、ストレプトアビジン(SA)を含むキメラ型のFasL、SA-FasLの構築を報告している。Yolcu et al.,Immunity17:795-808(2002)を参照されたい。このタンパク質は、Fas発現細胞に対する強力なアポトーシス活性を有する四量体およびオリゴマーとして存在する。重要なことに、細胞表面に付着したビオチンで修飾され、続いてSA-FasLで操作された膵島は、免疫特権状態を獲得し、同種移植マウスモデルでの慢性免疫抑制の非存在下において無期限に生着した。Yolcu et al.,J Immunol187,5901-5909(2011)を参照されたい。
【0042】
ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジン(「SA」)との間の相互作用は、本文脈においていくつかの利点を提供する。例えば、ビオチンは、SA(1013M-1)とアビジン(1015M-1)の両方に対して非常に高い親和性を有している。さらに、SAおよびアビジンは、どちらもビオチンの4つの分子に結合する四量体ポリペプチドである。したがって、SAまたはアビジンを含む複合体は、四量体およびより高次の構造を形成する傾向があり、複数のビオチン含有部分と複合体を形成することができる。
【0043】
本明細書で使用される「ビオチン」には、NHS-ビオチンおよびEZ-Link(商標)Sulfo-NHS-LC-Biotin(Pierce)などの細胞表面のような表面に結合できるビオチン含有部分が含まれる。ビオチンおよびビオチンのタンパク質反応型は、市販されている。
【0044】
ビオチンに対する実質的な結合活性、例えばそれぞれ天然のSAまたはアビジンの結合親和性の少なくとも50%以上を保持するSAまたはアビジン断片も使用されてよい。このような断片には、「コアストレプトアビジン」(「CSA」)、ストレプトアビジン残基13~138、14~138、13~139または14~139を含み得る、完全長ストレプトアビジンポリペプチドの短縮型が挙げられる。例えば、Pahler et al.,J.Biol.Chem.,262:13933-37(1987)を参照されたい。ビオチンへの強力な結合を保持するストレプトアビジンおよびアビジンの他の短縮型も使用されてよい。例えば、Sano et al.,J Biol Chem.270(47):28204-09(1995)(コアストレプトアビジン変異形16~133および14~138について記載)(米国特許第6,022,951号)を参照されたい。実質的なビオチン結合活性または増加したビオチン結合活性を保持するストレプトアビジンの突然変異体およびストレプトアビジンのコア型も使用されてよい。例えば、Chilcoti et al.,Proc Natl Acad Sci,92(5):1754-58(1995)、Reznik et al.,Nat Biotechnol,14(8):1007-11(1996)を参照されたい。例えば、潜在的なT細胞エピトープまたはリンパ球エピトープを除去するための部位特異的突然変異誘発により変異した変異体など、免疫原性が低下した突然変異体を使用することができる。Meyer et al.,Protein Sci.,10:491-503(2001)を参照されたい。同様に、実質的なビオチン結合活性または増加したビオチン結合活性を保持するアビジンの突然変異体およびアビジンのコア型も使用されてよい。Hiller et al.,J Biochem,278:573-85(1991);およびLivnah et al.,Proc Natl Acad Sci USA90:5076-80(1993)を参照されたい。便宜上、本明細書の議論において、用語「アビジン」および「ストレプトアビジン」(または「SA」)は、これらの分子の断片、突然変異体、およびコア型を包含する。
【0045】
アビジンおよびストレプトアビジンは、商業的供給業者から入手可能である。さらに、ストレプトアビジンおよびアビジンをコードする核酸配列ならびにストレプトアビジンおよびアビジンのアミノ酸配列は既知である。例えば、GenBank Accession No.X65082;X03591;NM_205320;X05343;Z21611;およびZ21554を参照されたい。
【0046】
生体材料は、目標の対象への投与に好適であり、FasLを提示するための操作に適している任意の薬学的に許容される生体材料であり得る。いくつかの実施形態では、生体材料はヒドロゲルである。本明細書で使用される場合、「ヒドロゲル」とは、細胞よりもはるかに大きい寸法(>500μmなど)を有する水膨潤ポリマー材料、例えば、水膨潤ポリマーネットワークを指す。本明細書で使用される場合、「ミクロゲル」とは、より小さい寸法(例えば、数十または数百μmほど)を有するヒドロゲルを指す。ヒドロゲルは、目標の対象への投与に好適である任意の薬学的に許容されるヒドロゲルであり得る。ヒドロゲルは通常、有機ポリマー(天然または合成)が共有結合、イオン結合、または水素結合を介して架橋し、水分子を閉じ込めてゲルを形成する三次元の開放格子構造を形成するときに形成される。ヒドロゲルの形成に使用できる材料の例には、異なる架橋方法(例えば、マイケル型付加、チオール-エン、クリック反応など)を使用して組み立てられたマクロマーベースの材料(PEGマクロマーを含む)、多糖類(アルギン酸塩など)、ポリホスファジン、およびポリアクリレート、またはそれぞれ、温度、フリーラジカル重合、クリック反応、またはpHによって架橋する、Pluronics(商標)もしくはTetronics(商標)、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレングリコールブロックコポリマーなどのブロックコポリマーが挙げられる。
【0047】
具体的な実施形態では、生体材料は、ポリエチレングリコール(PEG)ヒドロゲルまたはミクロゲルである。さらなる具体的な実施形態では、ヒドロゲルは、マイクロ流体重合などにより、マレイミド末端4-アームポリ(エチレン)グリコール(PEG-4MAL)マクロマーから合成される。Headen et al.,Advanced Materials,26:3003-3008(2014)を参照されたい。PEG-4MALプラットフォームは、チオール含有分子の化学量論的共有結合を可能にし、構造的に定義されたヒドロゲルの形成のための改善された架橋効率を提供する。Phelps et al.,Advanced Materials,24:64-70,62(2012)を参照されたい。PEG-4MALはインビボで最小限の毒性を呈し、尿中に急速に排泄されるため、臨床応用の重要な考慮事項である。
【0048】
ビオチン化ヒドロゲルまたはミクロゲルは、ビオチン-PEG-チオールをPEG-4MALマクロマーと反応させ、マイクロフルイディクス重合を介してジチオトレイトール(DTT)と架橋した直径150μmのミクロゲルを生成することにより製造することができる。例えば、
図1Aを参照されたい。得られたミクロゲルは、SAを高親和性で捕捉することができる共有結合で繋がれたビオチンを提示する。例えば、
図1Bを参照されたい。
【0049】
いくつかの実施形態では、生体材料は、免疫抑制剤などの追加の治療薬を含むか、またはこれらと製剤化される(例えば、混合または配合される)。好適な免疫抑制薬の例には、ラパマイシン、シクロホスファミド、ブスルファン、フルダラビン、メトトレキサート、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、アザチオプリン、トシリズマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、アナキンラ、アバタセプト、リツキシマブ、セルトリズマブ、ゴリムマブ、シクロスポリン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレジニゾン、タクロリムヌス、およびトリアムシノロンが挙げられる。いくつかの実施形態では、免疫抑制薬はラパマイシンである。
【0050】
免疫寛容を誘導する方法
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のFasL操作を受けた生体材料をそれを必要とする対象に投与することを含む、免疫調節をもたらす方法が提供される。いくつかの実施形態によれば、この方法は、細胞移植片もしくは組織移植片の拒絶および/または1型糖尿病の治療のリスクを予防もしくは低減するためのものである。
【0051】
上記のように、本明細書に記載のFasL生体材料は、免疫抑制の誘導に有用である。したがって、いくつかの実施形態によれば、免疫寛容を誘導するのに有効な量のFasL生体材料を対象に投与することを含む、免疫抑制をそれを必要とする対象において誘導する方法が提供される。
【0052】
上記のように、本明細書に記載のFasL生体材料はまた、特異的な免疫寛容の誘導に有用である。例えば、FasL生体材料を移植片(例えば、移植細胞)と共に投与すると、移植細胞に対する特異的な免疫寛容を誘導することができる。したがって、いくつかの実施形態によれば、免疫寛容を移植細胞に対して誘導するのに有効な量のFasL生体材料を対象に投与することを含む、特異的な免疫寛容をそれを必要とする対象において誘導する方法が提供される。
【0053】
本明細書で使用される場合、「移植細胞」は、ドナー細胞(または細胞を含む組織もしくは器官)を指し、移植細胞は、それを必要とする対象に投与される。移植細胞の種類としては、処置される状態に応じて、島細胞(例えば、膵島細胞)、脾細胞、PBMC、骨髄細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、幹細胞、人工多能性幹細胞、ヒトベータ細胞産物、肝細胞、樹状細胞、マクロファージ、内皮細胞、心筋細胞、血管細胞、およびT細胞を含む免疫細胞などが挙げられる。これらの方法によれば、FasLヒドロゲルは、移植細胞に対する特異的な免疫寛容を誘導する。
【0054】
例えば、糖尿病を治療するために、対象に膵島細胞を投与してもよい。本明細書に記載の方法によれば、膵島細胞に対する特異的な免疫寛容を誘導するために、膵島細胞およびFasLを提示するように操作を受けたヒドロゲル(「FasLヒドロゲル」)を対象に投与することができる。別の例では、対象に肝細胞を投与して、急性肝不全または肝臓ベースの代謝障害を治療してもよい。本明細書に記載の方法によれば、肝細胞に対する免疫寛容を誘導するために、対象に肝細胞およびFasLヒドロゲルを投与することができる。
【0055】
任意の実施形態では、移植細胞は、単離された細胞の調製物として、または組織もしくは器官の一部として投与されてもよい。
【0056】
いくつかの実施形態では、移植細胞は同種である。いくつかの実施形態では、移植細胞は異種である。いくつかの実施形態では、移植細胞は、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ウサギ、マウス、またはラットに由来する。
【0057】
いくつかの実施形態では、移植細胞は、自己または自家(治療される対象に由来)である。例えば、自己移植細胞は、人工的多能性により、および人工多能性細胞の所望の自己移植細胞への分化により、自己組織に由来し得る。いくつかの実施形態では、対象由来の細胞を使用して、自己免疫疾患で中断された自己に対する免疫寛容を誘導する。これらの実施形態での使用に適した例示的な細胞としては、動員された造血幹細胞、PBMC、樹状細胞などが挙げられる。いくつかの実施形態では、細胞は、自己免疫疾患で標的とされる自己抗原を自然に発現する細胞から選択される。例えば、1型糖尿病は、身体が反応して膵島(β)細胞を拒絶する自己免疫疾患である。糖尿病の初期段階では、全ての膵島細胞が拒絶される前に、膵島細胞に対する寛容を誘導し、それにより糖尿病の進行を予防することが可能である。
【0058】
したがって、いくつかの実施形態において、対象は、移植細胞に対する免疫寛容を必要としており、免疫寛容を誘導する方法は、本明細書に記載のFasLヒドロゲルおよび移植細胞を投与することを含む。これらの実施形態では、移植細胞は、治療される状態に基づいて選択される。例えば、対象が1型糖尿病の治療または予防を必要とする場合、移植細胞は膵島細胞であり得る。対象が同種移植片拒絶の治療または予防を必要とする場合、移植細胞は、同種移植片骨髄細胞、同種移植片心筋細胞および同種移植片血管細胞などの同種移植片ドナーからの細胞、または上述のように、同種移植片ドナーからの他の細胞であり得る。対象が同種移植片拒絶の治療または予防を必要とする場合、移植細胞は、異種移植片骨髄細胞、異種移植片心筋細胞および異種移植片血管細胞などの異種移植片ドナーからの細胞、または上述のように、異種移植片ドナーからの他の細胞であり得る。対象が自己拒絶の治療または予防を必要とする場合、移植細胞は、人工多能性および人工多能性細胞の分化による自己組織に由来する細胞などの自己細胞であり得る。
【0059】
したがって、いくつかの実施形態では、対象は、移植細胞に対する免疫寛容を必要としている。いくつかの実施形態では、移植細胞は、PBMC、骨髄細胞、造血幹細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、樹状細胞、自己抗原でパルスされた樹状細胞、ヒトベータ細胞産物、および脾細胞から選択される。例えば、対象が1型糖尿病の治療または予防を必要とする場合、移植細胞は膵島細胞、またはこれに加え、あるいはこれに代えて、上述のような他の細胞であり得る。対象が同種移植片拒絶の治療または予防を必要とする場合、移植細胞は、同種移植片骨髄細胞、同種移植片心筋細胞および同種移植片血管細胞からなる群から選択される細胞などの同種移植片ドナー由来の細胞、または上述のような同種移植片ドナー由来の他の細胞であってもよい。対象が異種移植片拒絶の治療または予防を必要とする場合、移植細胞は、異種移植片骨髄細胞、異種移植片心筋細胞および異種移植片血管細胞からなる群から選択される細胞などの異種移植片ドナー由来の細胞、または上述のような異同種移植片ドナー由来の他の細胞であってもよい。対象が自己免疫の治療または予防を必要とする場合、移植細胞は、(i)自己抗原を発現する細胞、(ii)自己抗原で装飾された細胞、および(iii)自己抗原でパルスされた樹状細胞であってもよい。
【0060】
これらの方法によれば、FasL生体材料(FasLヒドロゲルなど)および移植細胞は、同じ組成物で投与されてもよく、または別々に投与されてもよい。いくつかの実施形態では、移植細胞は、FasL生体材料で封入されている。例えば、移植細胞は、ヒドロゲルまたはミクロゲル生体材料内に閉じ込められてもよい。いくつかの実施形態では、FasL生体材料(FasLヒドロゲルなど)および移植細胞は、ほぼ同じ部位への局所注射などにより、対象の同じ部位に投与される。いくつかの実施形態では、FasL生体材料(FasLヒドロゲルなど)および移植細胞は、対象の同じ部位に移植される(例えば、同時移植)。これらの実施形態のいずれかに従って、本方法は、移植片の部位で長期の特異的免疫抑制を達成し得る。
【0061】
したがって、いくつかの実施形態によれば、投与は移植によるものである。いくつかの実施形態では、同種の膵島移植片の受容は、長期間の免疫抑制なしに、非改変膵島とFasL提示生体材料との単純な同時移植によって達成される。
【0062】
いくつかの実施形態では、FasL生体材料(FasLヒドロゲルなど)は、ラパマイシンまたは上記の他のいずれかなどの免疫抑制薬などの追加の治療薬と共に投与される。このような実施形態では、FasL生体材料(FasLヒドロゲルなど)および免疫抑制薬を一緒に製剤化することができ(例えば、ヒドロゲルは免疫抑制薬を含むことができる)、またはそれらは別々の組成物で、同時または任意の順序で連続して投与することができる。いくつかの実施形態では、FasL生体材料が投与されない場合よりも短期コースの免疫抑制薬が必要とされる場合がある。
【0063】
いくつかの実施形態では、免疫抑制薬を含むFasL生体材料(FasLヒドロゲルなど)は、薬物の制御放出を提供する。いくつかの実施形態では、免疫抑制薬を含むFasL生体材料(FasLヒドロゲルなど)は、移植片微小環境内で薬物の制御放出を提供するか、またはこれらの免疫調節分子(FasL)で操作されたカプセルの形態で移植片を含有する。
【0064】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のFasL生体材料(FasLヒドロゲルなど)を免疫抑制薬と共に投与すると、相乗的な免疫抑制効果が達成される。例えば、いくつかの実施形態では、免疫抑制薬(ラパマイシンなど)はFasLと相乗作用して、病原性Tエフェクター細胞を特異的に排除すると同時に、T制御性細胞を増殖させ、それによって免疫応答のバランスを防御に向ける。理論に束縛されるものではないが、この相乗効果は、Tエフェクター細胞において細胞死受容体媒介外因性アポトーシスを活性化するFasL部分によって達成され、一方、免疫抑制薬(ラパマイシンなど)は、ミトコンドリア媒介性内因性アポトーシスを活性化する。例えば、Ju et al.,Nature373(6513):444-448(1995);およびYellen et al.,Cell Cycle,10(22):3948-3956(2011)を参照されたい。
【0065】
いくつかの実施形態では、免疫抑制薬と共に本明細書に記載のFasL生体材料(FasLヒドロゲルなど)を投与は、全身性免疫応答を損なうことはなく、Tヘルパー細胞に対するT制御性細胞の比率を増加させる可能性がある。T制御性細胞は免疫応答の調節に重要な役割を果たし、それらは炎症の合図であり、拒絶移植片中に浸潤する。
【0066】
上記のように、FasL生体材料(FasLヒドロゲルなど)は、免疫抑制を誘導するか、または特異的な免疫寛容を誘導するのに有効な量で投与することができる。FasLの有効量は、治療される対象、投与経路、治療される状態の性質および重症度に応じて変化するであろう。以下の実施例で使用されるFasLの量は例示であり、次の表に基づいて他の対象の用量に変換することができる。
【表1】
【0067】
単なる例示として、FasLの有効量は、FasL部分に基づいて、約0.2μg/kg/日未満~少なくとも約10μg/kg/日、またはそれ以上であり得る。例えば、本明細書に記載の方法は、約0.2μg/kg/日未満、約0.2μg/kg/日、約0.5μg/kg/日、約1μg/kg/日、約1.5μg/kg/日、約2μg/kg/日、約2.5μg/kg/日、約3μg/kg/日、約3.5μg/kg/日、約4μg/kg/日、約4.5μg/kg/日、約5μg/kg/日未満、またはそれ以上の量のFasLの1日の用量を使用して実施され得る。
【0068】
1型糖尿病
1型糖尿病(T1D)は、CD4+T細胞を必要とするβ細胞特異的抗原に対する協調免疫応答により、インスリン産生β細胞量の損失、およびそれによる血糖コントロールを特徴とする自己免疫疾患である。同種膵島移植によるβ細胞塊の修復は、現在、重度の血糖不安定性を有する患者の血糖コントロールを改善するための好ましい臨床的介入である。しかしながら、同種移植片の寿命は、宿主の免疫応答だけでなく、拒絶反応を制御するために必要な慢性免疫抑制の毒性効果による二次移植片の障害によっても制限される。病原性Tエフェクター(Teff)細胞は、膵島同種移植片破壊の主な原因である。したがって、長期の免疫抑制を必要とせずに膵島同種移植片の機能的寿命を延ばす有望な戦略は、Teff細胞を排除のために標的とし、それらの病原性機能を軽減する新規治療法を含む。
【0069】
活性化すると、T細胞はFasを上方調節し、FasL媒介アポトーシス、活性化誘導細胞死(AICD)および自己抗原に対する耐性において重要な役割を果たすプロセスに感受性になる。FasまたはFasLの欠乏は、げっ歯類およびヒトの大規模なリンパ球増殖および自己免疫病変を引き起こし、代償機構の欠如および免疫調節のためのこの経路の重要性を裏付けている。この経路の免疫調節能を認識して、いくつかのグループは、FasL遺伝子治療を実験動物モデルでの移植片受容のための同種免疫応答を緩和するために使用することに成功している。これらの介入は有効性を示しているが、標的組織におけるFasLの持続的な異所性発現の未知の安全性プロファイル、ならびに遺伝子治療の技術的および規制上の課題により、それらの臨床的可能性が制限されている。さらに、FasLは、その膜に結合したオリゴマーの形態でのみAICDに寄与する。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、FasLを細胞外可溶性型に切断することができ、この細胞外可溶性型は、アポトーシスを阻害し、同種移植片の破壊を促進する好中球の化学誘引物質として作用する。
【0070】
膵島移植は、1型糖尿病の有望な治療法である。しかしながら、同種膵島の拒絶を制御する慢性免疫抑制は、罹患を引き起こし、膵島機能を損なわせる。
【0071】
Tエフェクター細胞は膵島同種移植片拒絶の原因であり、活性化後にFas細胞死受容体を発現し、Fas媒介アポトーシスに感受性になる。しかしながら、本明細書に記載のFasリガンドのアポトーシス型(SA-FasL)を提示するミクロゲルを使用した局所免疫調節は、糖尿病マウスで示されるように、同種膵島移植片の長期生着をもたらす。さらに、短期コースのラパマイシン治療は、SA-FasL-ミクロゲルの免疫調節効力を高める可能性があり、以下に報告する実験での200日間などの、長期間にわたって全ての同種移植片の受容および機能をもたらす。さらに、処置された対象は、ドナー抗原に対する正常な全身反応を示し、移植片の免疫特権、および移植片および流出リンパ節におけるCD4+CD25+FoxP3+T制御性細胞の増加を示唆する。以下に報告する実験では、T制御性細胞の欠失は、確立された膵島同種移植片の急性拒絶をもたらした。
【0072】
これらの結果は、前眼房および精巣などの選択された組織の生理学的免疫特権におけるFasLの確立された役割と一致する。Zeiser et al.,Blood111(1):453-462(2008);Battaglia et al.,Blood,105(12):4743-4748(2005);Basu et al.,J Immunol180(9):5794-5798(2008)を参照されたい。拒絶に対する観察された防御は、長期レシピエントが、免疫特権を示唆するドナー抗原に対する正常な全身応答を生成していたため、Treg細胞を必要とし、かつ移植片に局在化していた。これは、FasLを発現するようにトランスフェクトされた初代筋芽細胞が、同時移植された同種膵島に免疫特権を付与したことを示す研究と一致している。Ju et al.Nature373(6513):444-448(1995)を参照されたい。さらに、我々は、ラパマイシンの短時間被覆下で表面にSA-FasLタンパク質を提示するように操作を受けた同種膵島は、Treg細胞によって維持される移植片局在性耐性と免疫特権とを誘導することにより拒絶を克服することを以前に実証した。Rao et al.,Immunity,32(1):67-78(2010)を参照されたい。したがって、本明細書に記載の局在的免疫調節生体材料対応アプローチは、臨床膵島移植のための慢性免疫抑制の代替手段を提供し得る。
【0073】
したがって、具体的な実施形態によれば、ヒドロゲル、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)ヒドロゲルなどの生体適合性材料上にストレプトアビジン結合FasL(SA-FasL)が提示されるFasL操作を受けた生体材料が本明細書に記載される。SA-FasL操作を受けた生体材料は、例えば、外来移植片拒絶のリスクを防止もしくは低減するなど、細胞移植片または組織移植片の拒絶のリスクを防止もしくは低減するような免疫調節に、膵島移植の拒絶のリスクを予防もしくは低減するために、および/または幹細胞、ヒト膵ベータ細胞産物(1型糖尿病の治療に使用される可能性がある)の拒絶のリスクを予防もしくは低減するため、ならびに他の治療と併せておよび/または細胞移植片または組織移植片の恩恵を受ける可能性のある他の障害の治療に有用である。したがって、例えば、本明細書に記載のSA-FasL操作を受けた生体材料は、1型糖尿病などの自己免疫疾患の治療に、幹細胞、膵島、造血幹細胞、肝細胞、間葉系幹細胞、人工多能性幹細胞、胚性幹細胞、幹細胞由来のヒトベータ細胞産物などの細胞移植片および組織移植片の拒絶の予防に、および幹細胞の使用による様々な造血障害および免疫不全障害の治療との併用え有用である。
【0074】
本明細書に記載の具体的な実施形態で使用されるストレプトアビジン結合FasL構築物(SA-FasL)はそれ自体が記載されており、短期コースのラパマイシン治療下で同種膵島の拒絶を防ぐことが示されている。本発明の具体的な実施形態の文脈において、SA-FasLタンパク質をそれらの表面上に提示するように操作を受けたPEGヒドロゲルは、化学的糖尿病マウスにおいて、短期コースの免疫抑制薬ラパマイシンと組み合わせて使用される場合、同時移植膵島の拒絶を防止するのに有効であることが示されている。総合すれば、これらの研究は、SA-FasL操作を受けた生体材料を使用して、外来移植片拒絶および自己免疫を治療することの有用性を実証している。
【0075】
本発明の文脈において、SA-FasLは、送達媒体としてヒドロゲルを使用して最大限に活用することができる独特の作用機構を有する。自己寛容におけるFasLの重要な役割と、不足した場合の代償メカニズムがないことを考えると、この分子は、自己免疫および移植片拒絶の治療に使用される他の生物製剤および免疫抑制薬よりも優れている。例えば、自己反応性およびアロ反応性T細胞は、活性化されると、Fas受容体を上方調節し、それ自体がSA-FasLの直接の標的になる。したがって、SA-FasLは、抗原特異性に関するT細胞のレパートリーを知らなくても、自己反応性およびアロ反応性T細胞を特異的に排除する洗剤能力を有する。この経路は、治療目的を対象としていないため、それ自体、独自のものである。さらに、この概念は、自己免疫および移植片拒絶の治療に使用するために業界で使用される現在の技術(無効であるばかりでなく、様々な副作用、例えば、自己免疫および移植片拒絶に使用される標準的な免疫抑制に関連するものなども有する)を超える、有効性および特異性を有している。
【0076】
外来移植片拒絶反応およびI型糖尿病(TID)などの様々な自己免疫疾患は、病原性Tエフェクター(Teff)と防御性のT制御性(Treg)細胞間の不均衡の最終結果である。したがって、Treg細胞の病原性Teft:Tregの好ましい平衡を効果的にシフトさせるアプローチは、自己免疫を予防および逆転させ、ならびに外来移植片拒絶を予防する可能性を有する。自己抗原または移植抗原を認識する病原性T細胞は活性化され、それらの表面上のFas受容体を上方調節する。これらの細胞は、様々なアポトーシス耐性遺伝子の発現のために、Fasリガある。
【実施例】
【0077】
実施例1:ストレプトアビジン-FasLを捕捉できるビオチン化ミクロゲルの製造
ビオチン化マイクロゲルは、ビオチン-(ポリエチレン-グリコール(PEG))-チオールをマレイミド末端4アームポリエチレングリコール(PEG-4MAL)マクロマーと反応させ、マイクロフルイディクス重合を介してジチオトレイトール(DTT)と架橋された直径150μmのミクロゲルを生成することによって製造することができる(
図1A)。得られたミクロゲルは、ストレプトアビジン(SA)を高親和性で捕捉することができる共有結合で繋がれたビオチンを提示する(
図1B)。ミクロゲル上のSAのビオチン特異的捕捉は、テザリング溶液中のSAの濃度が150μg/mLの飽和濃度まで直線的に変化し(
図1C)、ミクロゲル表面のSA提示の用量依存的制御を実証した。予想どおり、ビオチン化ミクロゲル上でのSA-FasLの捕捉は、同様の用量依存的関係に従った(
図7)。重要なことに、ミクロゲル上でのSA-FasLの提示は、FasL媒介アポトーシスに感受性である、A20細胞における用量依存性アポトーシスを誘導した(
図1D)。対照的に、PEG-4MALマクロマーへのSA-FasLの直接共有結合は、SA-FasLアポトーシス活性を除去し(
図8)、生物活性SA-FasLの提示のためのビオチン固定化の重要性を実証した。これらの結果は、ビオチン化ミクロゲルに繋がれたSA-FasLが強力なアポトーシス活性を保持し、このアプローチを使用して、送達される生物活性SA-FasLの量を容易に制御できることを示している。
【0078】
機能化された材料が正常な膵島の健康および機能に影響を与えるかどうかを検討するために、ラット膵島をSA-FasL提示ミクロゲル(1:2の膵島:ミクロゲル比)と共に24時間培養した。代謝活性(
図10A)、グルコース刺激インスリン分泌(
図10B)、生細胞-死細胞染色(
図10D)、またはインスリンおよびグルカゴン発現パターン(
図10E)において、SA-FasL提示ミクロゲルと遊離膵島(コントロール)とで共培養された膵島の間に差はなかった。興味深いことに、SA-FasL提示ミクロゲルと共培養された膵島は、対照としての遊離膵島と比較して、炎症性サイトカインMIP1aおよびIL-6の分泌を減少させたが、MCP-1は減少させなかった(
図10C)。総合すれば、これらのデータは、SA-FasL提示ミクロゲルが膵島の健康または機能に悪影響を与えないことを実証している。
【0079】
実施例2:ミクロゲル上のSA-FasLの提示が、移植部位での局所的なSA-FasL送達を延長させる。
我々は、インビボでミクロゲル上に提示されたSA-FasLの保持も検討した。近赤外蛍光染料で標識されたSA-FasLを、ビオチン化ミクロゲルに固定化し、これをマウスの腎被膜下に埋め込んだ。標識SA-FasLの縦方向追跡を、インビボ撮像システムで21日間実施した。蛍光シグナルの画像は、標識SA-FasL提示ミクロゲルを投与されたマウスの腎臓周辺に局在した集中シグナルを示しているが、一方、蛍光シグナルは、ミクロゲル担体のない標識遊離SA-FasLを投与されたマウスでは拡散している(
図2A)。ミクロゲル送達媒体なしで標識SA-FasLのみを投与されたマウスでは、タンパク質は移植部位から急速に除去され、移植後1日目までにシグナルが60%減少し、移植後7日目までに無視できるほどのシグナルとなった(
図2B)。対照的に、SA-FasL提示ミクロゲルを投与されたマウスは、移植後7日を過ぎると、移植部位での0日目のシグナルに匹敵するレベルの上昇で、時間と共に著しく高いレベルのSA-FasLを示した。単一の指数関数的減衰曲線近似を使用した保持プロファイルの分析では、遊離SA-FasLと比較して、SA-FasL提示ミクロゲルの保持時間が著しく長いことが示した(半減期3.0±0.8日対0.70±0.40日、p<0.0001)。さらに、曲線下面積の計算では、遊離タンパク質に対するミクロゲルに繋がれたSA-FasLの保持の増加を実証した(5.25±0.87対1.98±0.14、p<0.007)。
図11は、組織学的検査により決定されるように、移植部位のミクロゲルが21日目に明白に観察できることを示している。この結果は、SA-FasL-ミクロゲルの蛍光シグナルの損失は、ビオチン化ミクロゲルからのSA-FasLの非結合から生じ、ミクロゲルの分解ではないという結論を裏付けている。したがって、この強力な免疫調節タンパク質の全身効果のリスクを最小限に抑えながら、移植部位における長期の局所SA-FasL送達のためのこの生体材料戦略は、局所効果を大幅に強化する。我々は、この強力な免疫調節タンパク質の全身効果のリスクを最小限に抑えながら、移植部位における長期の局所SA-FasL送達のためのこの生体材料戦略は、局所効果を大幅に強化すると予想する。
【0080】
実施例3:同種膵島とSA-FasL操作を受けたミクロゲルとの同時移植は、慢性免疫抑制または膵島の改変を使用することなく長期血糖コントロールを回復させる。
SA-FasLを提示するミクロゲルの免疫調節効果を、同種膵島移植の設定で試験した。非改変同種(Balb/c)膵島をミクロゲルと混合し、得られた混合物をストレプトゾトシン糖尿病C57BL/6マウスの腎臓被膜下に移植した。非改変膵島と対照のビオチン化ミクロゲルを投与されたマウスは、全ての移植片を急性拒絶したが(生着期間中央値(MST)=15日;
図3A)、一方SA-FasL操作を受けたミクロゲルと同時移植された膵島は、対照のおよそ25%が殺処分前に200日間を超えて生存して、生存期間が有意に延長した(MST=31日)(
図3A)。注目すべきことに、対象がラパマイシンの短期コースで治療されたとき(移植後0日目から開始して毎日0.2mg/kgで15回分;
図3A)、非改変膵島とSA-FasL提示ミクロゲルを同時移植したマウスでは、移植片の>90%(12/13)が機能し、200日間の観察期間全体で生存した。移植片が機能しているレシピエントのインプラント部位の200日目での免疫染色により、ミクロゲルと密接に関連する膵島を連想させるインスリン陽性構造が明らかになったが、一方移植片が拒絶されたレシピエントではインスリン陽性構造は観察されなかった(
図3B)。腹腔内グルコース負荷試験では、これらの長期移植片の未処理マウスと比較して同等の機能が実証された(
図3C):曲線下面積分析では、未処理と長期移植との間には差は認められなかった(p=0.20)。著しく対照的に、ラパマイシンを注射したが、SA-FasLで操作されたミクロゲルを含まない同じプロトコルは、SA-FasLを提示するミクロゲル群と同様の性能で急性拒絶反応(MST=36日)をもたらした(
図3A)。
【0081】
膵島とSA-FasLの同時移植が糖尿病の回復をもたらすことをさらに立証するために、移植レシピエントの血糖値を経時的に測定した。SA-FasLを提示するミクロゲル+ラパマイシンまたは対照ミクロゲル+ラパマイシンを含む移植片レシピエントの経時的な代表的な血中グルコースレベルを、
図9に示している。移植後200日目に膵島とSA-FasL提示ミクロゲル+ラパマイシンとを投与された糖尿病マウスの腎摘出術は急速に高血糖に悪化させ(
図12)、これらの対象の糖尿病への逆転は移植によるものであることを実証している。ミクロゲル上のSA-FasLの表面密度を10倍まで増加させても、移植片の生着に有意な改善は見られなかった(
図13)。我々は、SA-FasL提示ミクロゲルの機能的性能をSA-FasL提示膵島とも比較し、これは、この戦略が移植片受容の促進に効果的であることを以前に示したためである。Yolcu et al.,J Immunol187(11):5901-5909(2011)を参照されたい。膵島またはミクロゲルの表面に提示されたSA-FasLの間で、ラパマイシン投与の有無にかかわらずSA-FasLの効果に違いを、我々は観察しなかった(
図14)。しかしながら、ミクロゲルベースのSA-FasL提示の主要かつ重要な利点は、膵島の化学的改変を回避することであり、これにより、膵島の生着性および機能に対する潜在的な悪影響を克服し、市販製品としてより優れた移行可能な戦略もまた提供し得る。まとめると、これらの結果は、同種膵島とSA-FasL操作を受けたミクロゲルとの単純な同時移植が、慢性免疫抑制または膵島の改変を使用することなく長期血糖コントロールを回復することを示している。
【0082】
実施例4:SA-FasL操作を受けたミクロゲルのレシピエントは、全身性免疫能力を維持する。
免疫調節の局在的な性質のために、我々は、インビトロ増殖アッセイにおいて移植片レシピエントのドナー抗原に対する全身応答を評価した。SA-FasL操作を受けたミクロゲルで処理された長期(>200日)膵島移植片レシピエントからのCD4+およびCD8+T細胞は両方とも、ドナーおよびサードパーティの抗原に対する増殖反応を示した(
図4Aおよび
図14)。観察された応答は、非改変ミクロゲルに加えてラパマイシンを投与された拒絶マウスに由来のT細胞を使用して得られた応答と同様の大きさであった。この結果は、SA-FasL操作を受けたミクロゲルを投与されたマウスが全身の免疫能力を維持し、SA-FasL操作を受けたミクロゲルによってもたらされる防御が移植片に局在していることを示している。
【0083】
移植片受容の機構をさらに解明するために、
図15に示すように、TeffおよびT制御性(Treg)細胞をFasL媒介免疫調節の標的として特に焦点を当てて、脾臓から採取した免疫細胞集団、移植片流出リンパ節(LN)、および移植片を、経時的試験でフローサイトメトリーを使用して分析した。
図16に示すように、非改変ミクロゲル単独またはラパマイシンと組み合わせて投与された対照群と比較して、SA-FasL操作を受けたミクロゲル+ラパマイシン投与マウスの組織におけるCD4+およびCD8+Teff細胞数の減少の一般的な傾向を我々は観察した。非改変ミクロゲルにラパマイシンを加えた群は、移植後7日目に移植片浸潤リンパ球で有意に達するTreg細胞数の増加の傾向を示した。SA-FasL操作を受けたミクロゲルとラパマイシンとを投与されたマウスは、非改変マイクロゲル単独またはラパマイシンとの組み合わせを投与された対照マウスと比べて、移植片(p<0.05、CD8
+Teffについて)および移植片流出LN(p<0.05、両方のTreg:Teff集団について)においてTregのCD4
+およびCD8
+Teff細胞に対する増加した比率を有した(
図4B)。
【0084】
また、Treg細胞のTeff細胞に対する比率の増加傾向を考慮して、我々は、枯渇試験を実施し、我々のモデルで観察された移植片受容におけるTreg細胞の役割を直接評価した。これらの試験のために、BALB/c同種膵島を、Foxp3の制御下でヒトジフテリア毒素(DT)受容体を発現するトランスジェニックC57BL/6マウスに移植した。これらのFoxP3/DTRマウスでは、DT投与により、正常レベルに戻る前の数日間、Treg細胞が一時的に枯渇した(
図17A)。重要なことは、DT投与はFoxP3/DTRマウスの血糖値レベルに影響を及ぼさないことである(
図17B)。C57BL/6レシピエントで以前に見られたように、ラパマイシンの一次的被覆下で同種膵島およびSA-FasL操作を受けたミクロゲルを移植された化学的糖尿病トランスジェニックマウスは、移植後50日目で移植片機能を維持しながら移植片受容を確立した(
図4C)。50日目のDTの投与によるTreg細胞の枯渇は、82日目までに全ての移植片の拒絶をもたらした(
図4C、MST=72日)。著しく対照的に、DT処置されない対照マウスは、200日間の実験終点で移植片機能を維持した。これらの結果は、SA-FasL提示ミクロゲルを投与されたマウスでの移植片受容におけるTreg細胞の主要な役割を実証している。
【0085】
実施例5:SA-FasL-ミクロゲル戦略は、臨床的に関連する移植部位での慢性免疫抑制なく、移植された膵島機能を改善する。
腎臓被膜は、細胞送達を研究するための実験的に便利な移植部位であるが、臨床採用には限界がある。したがって、我々は、マウスの精巣上体脂肪体への同種膵島移植を検討した。マウスの精巣上体脂肪体は、ヒトの大網に類似している。重要なことに、大網は臨床的に関連する膵島移植部位を表している。Baidal et al.,N Engl J Med376(19):1887-1889(2017);およびBerman et al.,Diabetes,65(5):1350-1361(2016)を参照されたい。この部位に膵島を保持するために、膵島生着を改善する制御されたVEGF放出を伴うプロテアーゼ分解性PEGヒドロゲル内に移植片を送達させた。Weaver et al.,Sci Adv,3(6):e1700184(2017)を参照されたい。腎臓被膜部位に関する我々の結果と一致して、ラパマイシン治療の簡単な被覆下でSA-FasL-ミクロゲルと共移植された同種膵島は、対照と比較して糖尿病マウスの生着の有意な改善を示した(p<0.0008、
図6A)。このモデルの膵島移植片も血糖値を正規化し、機能を実証した(
図18)。SA-FasL提示ミクロゲル+ラパマイシン群において機能する膵島移植片を有するマウスの移植部位の免疫染色は、インスリンおよびグルカゴンに陽性に染色される多くの構造が明らかにし(
図6B)、一方対照ミクロゲルで膵島を投与されたマウスでは、このようなインスリン陽性およびグルカゴン陽性構造は見られなかった。最後に、SA-FasL-ミクロゲル治療の潜在的な毒性の初期評価として、肝臓酵素の血清レベルを測定し、長期レシピエント(>60日)の肝臓および腎臓の組織学的検査を実施した(
図6C)。肝臓酵素レベルは正常範囲内であり、SA-FasL提示ミクロゲルと対照との間に差はなかった。同様に、肝臓または腎臓の肉眼的組織構造に差はなかった。まとめると、これらの結果は、SA-FasL-ミクロゲル戦略が、許容できる安全性プロファイルを用いて、臨床的に関連する移植部位での慢性免疫抑制なく、移植膵島機能を改善することを示している。
【0086】
材料および方法
ミクロゲルの合成および特性評価。5%w/vのPEG-4MAL(20kDa、Laysan Bio)および1.0mMのビオチン-PEG-チオール(1kDa、Nanocs)を含有するミクロゲル前駆体溶液を、PBS中でで15分間反応させた。この前駆体を液滴に分散させ、続いて、前述のように、マイクロ流体チップ上で、2%のSPAN80(Sigma)および30mg/mLジチオトレイトール(Sigma)の1:15エマルジョンを含む鉱油(Sigma)内で架橋させた。Headen et al.,Advanced Materials,26:3003-3008(2014)を参照されたい。ビオチン-PEG-チオールを含有しない対照ミクロゲルも、このプロトコルを使用して合成した。PBS中1%のウシ血清アルブミン(Sigma)での遠心分離によりミクロゲルを5回洗浄した後、104個のミクロゲルを500μLのPBSで様々な濃度のストレプトアビジン-AlexaFluor488複合体と30分間インキュベートし、遠心分離により5回洗浄して、未結合のSAを除去した。各試料からのミクロゲルを96ウェルプレートに入れ、プレートリーダー(Perkin Elmer HTS7000)で蛍光を測定した。ビオチンおよび対照ミクロゲルもまた、封入体の可視化のために共有結合ペプチド(GRGDSPC)-AlexaFluor594複合体を使用して合成し、SA固定化を確認するために蛍光撮像した。
【0087】
インビトロSA-FasL生物活性。ビオチンを含むか、または含まない104個のミクロゲルを、様々な濃度のSA-FasLを含有する1%のウシ血清アルブミンを含む500μLのPBSで30分間共インキュベートした。ミクロゲルを遠心分離により8回洗浄して未結合のSA-FasLを除去し、1.0mLの培地中の106個のA20細胞と共にインキュベートした。18時間後、細胞を、初期および後期アポトーシスのマーカー(アネキシンV-APCおよびヨウ化プロピジウム、BD Biosciences)で染色した。試料をフローサイトメトリー(Accuri C6フローサイトメーター)で分析し、いずれかのマーカーに陽性染色された細胞をアポトーシスとみなした。この実験の3回の個々の反復を行った。
【0088】
SA-Fas-L結合ミクロゲルのインビトロ細胞適合性。ラットの膵島を、ルイスの雄ドナーから単離し、実験を行う前に一晩培養した。24時間後、300μLの完全なCMRL中の500個のIEQを1000個のSA-FasL結合ミクロゲルとさらに24時間共培養た。その後、MTT(Promega)を介して膵島の代謝活性を分析し;生/死細胞試料を、Viability/Cytotoxicity Kit(Invitrogen)およびZeiss LSM710倒立共焦点顕微鏡を使用して視覚化した。静的グルコース刺激インスリン放出(GSIR)アッセイを使用して、共培養後の膵島のインスリン分泌を評価し、低濃度(3mM)および高濃度クレブスバッファー(11mM)でそれぞれ1時間刺激した。基礎条件への2回目の暴露をさらに1時間行った。ラットインスリンELISAを使用して、GSIR試料を定量化した(Mercodia、Inc.、Winston Salem、NC)。共培養上清からの炎症性サイトカインは、磁気ビーズベースの多重化抗体検出キット(IFNg、IL-1b、IL-6、IL-17A、MCP-1、MIP-1aを用いたMilliplex Rat Cytokine Panel)を介して、製造元の指示に従って分析した。Magpix with Analyst分析ソフトウェア(Milliplex@5.1、Merck、USA)を使用して、3つの独立したウェルからの50マイクロリットルの上清を分析した。各分析物の標準曲線は、製造元が提供する標準を使用して作成された。インスリンおよびグルカゴンの免疫染色分析は、共培養後、膵島試料を10%ホルマリンで1時間固定して実施した。試料全体を、インスリン(Dako A0564、1:100)、グルカゴン(Abcam ab10988、1:50)およびDAPI(Invitrogen、1:500)の懸濁液で染色した。インスリン(黄色)、グルカゴン(マゼンタ)、およびDAPI(青色)のホールマウント試料を撮像した。
【0089】
インビボでのSA-FasL追跡。SA-FasLをAlexaFluor750NHSエステル(Thermo Fisher)を用いて標識し、Zebaカラム(7k MWCO、Thermo Fisher)で3回脱塩して遊離染料を除去した。3.0μgの標識SA-FasLを、30分間インキュベートした後、5回の洗浄工程を行うことによって、2000個のビオチンミクロゲルに固定化した。SA-FasLまたは遊離SA-FasLを提示するミクロゲルをC57Bl/6レシピエントの腎臓被膜下に移植し(n=8マウス/群)、IVIS SpectrumCT撮像システムを使用して、シグナルの強度および分布を縦方向にモニタリングした。強度測定値は、0日目の値に正規化された。GraphPad Prismで非線形曲線近似を実行し、t検定を使用して保持時間を比較した。さらに、各群について曲線下面積を計算し、ウェルチのt検定を使用して群を比較した。
【0090】
膵島移植。BALB/c膵島を、Liberase TL(Roche Life Science)を消化酵素として使用して分離し、以前に公開されたフィコール密度勾配によって精製した。Yolcu et al.,Immunity17:795-808(2002)を参照されたい。膵島をビオチン化するために、一晩培養した膵島を5μMのEZ-Link Sulfo-NHS-LC-Biotin(Thermo Scientific)中で室温にて30分間インキュベートし、PBSを用いて十分に洗浄して未結合のビオチン溶液を除去した。ビオチン化膵島およびミクロゲルを、SA-FasL(約150ng/500個の膵島および1~10μg/1000個のミクロゲル)で操作した。約500個の膵島を、1000個のミクロゲルと共に、ストレプトゾトシン糖尿病(2日連続で200mg/kg、腹腔内、2日間連続で確認された糖尿病(>250mg/dL))C57BL/6、またはB6.129(Cg)-Foxp3tm3(DTR/GFP)Ayr/J(C57BL/6.FoxP3EGFP/DTR)レシピエントに、指示された箇所に同時移植した。Treg枯渇のために、膵島移植片レシピエントにジフテリア毒素(50μg/kg体重)を腹腔内注射し、3日後にフローサイトメトリーを使用して末梢血リンパ球で枯渇を確認した。選択された群はまた、毎日0.2mg/kgのラパマイシンで、移植当日から15回、腹腔内処置した。非改変PEGゲルと同時移植された非改変BALB/c膵島を対照として使用した。動物の血糖値を監視し、≧250mg/dLの血糖値が2回の連続した毎日の測定値を、拒絶されたとみなした。IPGTTを、2g/kgグルコース溶液(25%)を用いた6時間の絶食後に、移植後200日目に実施した。血糖値は、注射前および注射後10、20、30、60、90、120分に尾部穿刺によって評価した。GraphPad Prismを使用してデータをグラフ化し、ログランク検定を使用して群の間の有意性を判定し、p<0.05は有意とみなした。
【0091】
免疫モニタリング。脾臓、腎臓、および腎臓流出リンパ節を、拒絶マウスおよび長期マウス(>200日)から採取した。単一細胞を、穏やかな機械的分散により脾臓およびリンパ節から、およびコラゲナーゼ消化により腎臓を含む島から調製した。細胞を、細胞表面マーカー(Pharmingen、BDからのAlexa700-CD4Ab、APC-Cy7-CD8Ab、のPE-Cy7-CD25Ab、およびeBioscienceからのeFlour450-CD44AbおよびPerCP-Cy5.5-CD62L Ab)に対する抗体を使用して染色した。FoxP3転写因子染色バッファーセット(eBioscience)を使用して、細胞内FoxP3染色を固定/透過細胞で実施した。データを、BD LSR IIを使用して収集し、Divaソフトウェアを使用して解析した。GraphPad Prismを使用してデータをグラフ化し、ウェルチのt検定を使用して群の間の有意性を判定し、p<0.05は有意とみなした。
【0092】
増殖アッセイ。移植レシピエントの選択群から採取した脾細胞をCFSEで標識し、標準的なインビトロ増殖アッセイにおいて、ドナーまたはサードパーティのC3Hマウスからの照射(2000cGy)脾細胞のレスポンダーとして使用した。E.S.Yolcu et al.,J Immunol187:5901-5909(2011)を参照されたい。培養4日後、細胞を7AADおよびCD4ならびにCD8に対する蛍光結合Abで染色しBD LSR IIを使用して生細胞をゲーティングすることによりCFSE希釈物について分析した。Divaソフトウェアを使用してデータを分析した。GraphPad Prismを使用してデータをグラフ化し、ウェルチのt検定を使用して群の間の有意性を判定し、p<0.05は有意とみなした。
【0093】
共焦点顕微鏡。200日間の観察期間後、ドライアイス上のメチルブタン(Sigma)に浸漬することにより、長期の膵島を有する腎臓をOCT化合物(Sakura Tissue-Tek)で急速凍結した。組織を、Bright OTF5000クライオマイクロトーム(Rose Scientific)を使用して、10μmの厚さのスライスにカットし、染色のためにつや消しスライドに置いた。スライドを4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.5%Triton X-100でインキュベートし、0.1%ウシ血清アルブミン、5%ヤギ血清、およびラット抗マウスCD16/CD32(BD Pharmingen)でブロックした。ウサギ抗グルカゴンmAb(Cell Signaling)およびモルモット抗インスリンポリクローナル抗体(Dako)を一次抗体として使用して染色を行い、その後、AlexaFluor-647結合ヤギ抗ウサギ抗体(Life Technologies)およびAlexaFluor-555結合抗モルモット抗体(Invitrogen)で洗浄し染色した。Hoechst33342(Molecular Probes)を使用してDNAを染色した。蛍光画像は、Leica TCS SP5共焦点顕微鏡を10倍の倍率で使用して取得した。